(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167583
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】洗浄装置及び洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B08B 3/12 20060101AFI20231116BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20231116BHJP
B22F 10/68 20210101ALI20231116BHJP
【FI】
B08B3/12 A
B22F10/28
B22F10/68
B08B3/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078873
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】橘 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】森 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 章裕
(72)【発明者】
【氏名】丸田 彩佳
【テーマコード(参考)】
3B201
4K018
【Fターム(参考)】
3B201AA46
3B201AB03
3B201AB40
3B201BB02
3B201BB83
3B201BB92
3B201BB95
3B201BC05
3B201CC21
3B201CD11
3B201CD42
3B201CD43
4K018AA03
4K018AA08
4K018BA02
4K018BA20
4K018FA50
(57)【要約】
【課題】金属積層造形体から不要な粉末を好適に除去することを目的とする。
【解決手段】洗浄装置10は、金属製の粉末材料を敷きつめた層であって一部にレーザ光を照射して溶融結合又は焼結させた層を積層することにより造形された金属積層造形体20を洗浄する。洗浄装置10は、複数の有機溶媒を混合した液体である混合溶媒Mが内部に充填されていて、混合溶媒Mに浸された状態の金属積層造形体20を収容する内側容器12と、内側容器12に収容された金属積層造形体20に対して、超音波Uを送信する超音波発生装置13と、を備えている。複数の有機溶媒は、他の有機溶媒よりも蒸気圧が高い第1有機溶媒と、他の有機溶媒よりも音響インピーダンスが高い第2有機溶媒と、を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の粉末材料を敷きつめた層であって一部にレーザ光を照射して溶融結合又は焼結させた層を積層することにより造形された金属積層造形体を洗浄する洗浄装置であって、
複数の有機溶媒を混合した液体である混合溶媒が内部に充填されていて、前記混合溶媒に浸された状態の前記金属積層造形体を収容する収容部と、
前記収容部に収容された前記金属積層造形体に対して、超音波を送信する超音波送信部と、を備え、
複数の前記有機溶媒は、他の前記有機溶媒よりも蒸気圧が高い第1有機溶媒と、他の前記有機溶媒よりも音響インピーダンスが高い第2有機溶媒と、を有している洗浄装置。
【請求項2】
複数の前記有機溶媒は、他の前記有機溶媒よりも粘度が低い第3有機溶媒を有する請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記超音波送信部は、複数の異なる周波数の超音波を送信する請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記超音波送信部は、送信する超音波の周波数を所定の周期で変動させる請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記収容部に収容された前記金属積層造形体を上下方向に振動させる振動部を備える請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項6】
前記収容部の内部の減圧と大気開放とを交互に繰り返す減圧部を備える請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項7】
金属製の粉末材料を敷きつめた層であって一部にレーザ光を照射して溶融結合又は焼結させた層を積層することにより造形された金属積層造形体を洗浄する洗浄方法であって、
複数の有機溶媒を混合した液体である混合溶媒が内部に充填されている収容部に、前記混合溶媒に浸された状態で前記金属積層造形体を収容する収容工程と、
前記収容部に収容された前記金属積層造形体に対して、超音波送信部から超音波を送信する超音波送信工程と、を備え、
複数の前記有機溶媒は、他の前記有機溶媒よりも蒸気圧が高い第1有機溶媒と、他の前記有機溶媒よりも音響インピーダンスが高い第2有機溶媒と、を有している洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、洗浄装置及び洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複雑な形状の金属製の立体造形物を製造する様々な方法が開発されている。一例として、粉末床溶融結合方法が知られている(例えば、特許文献1)。粉末床溶融結合方法は、金属製の粉末材料を平らに敷き詰めて薄層を形成し、当該薄層のうち、硬化させたい領域にレーザ光を照射することで粉末材料を焼結または溶融結合させて金属積層造形体を作製し、作製した金属積層造形体を洗浄して、金属積層造形体から不要な粉末材料(硬化していない粉末材料等)を除去することで立体造形物を作製する方法である。特許文献1には、クリーニング液につけられた部品に超音波を放出することで、部品に固着している粉末を引き剥がす旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法以外にも、金属積層造形体から金属材料を除去する方法として、さじやエアブロー等の工具を用いた人力による除去や、粉末除去用の溶剤や砥粒による除去が考えられる。粉末床溶融結合方法で複雑な形状の立体造形物を作製する場合には、狭小部から金属粉末を除去する必要がある。しかしながら、狭小部に工具を挿入することが難しい。よって、粉末床溶融結合方法で複雑な形状の立体造形物を作製する場合等には、工具を用いた方法では十分に不要な金属粉末を十分に除去することができない可能性があった。また、一端が閉鎖された有底の流路状の部分から金属粉末を除去する場合には、圧力を負荷して当該部分に溶剤や砥粒を流し込むことが難しい。よって、このような場合には、溶剤や砥粒を用いた方法では、十分に不要な金属粉末を十分に除去することができない可能性があった。
【0005】
また、銅や銅合金等の低融点でレーザ吸収効率が低い金属で立体造形物を作製する場合、レーザ光が照射領域以外の領域にも散乱してしまう。このような場合には、散乱光で全体が温められて温度が上がり、結果として焼結してしまい粉末同士が結合してしまう可能性がある。粉末同士が結合してしまった場合には、金属積層造形体から不要な粉末を除去し難くなる。特許文献1では、金属積層造形体が漬かるクリーニング液について検討されていないことから、特許文献1の方法では、焼結した不要な金属粉末を十分に除去することができない可能性があった。
【0006】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、金属積層造形体から不要な粉末を好適に除去することができる洗浄装置及び洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の洗浄装置及び洗浄方法は以下の手段を採用する。
本開示の一態様に係る洗浄装置は、金属製の粉末材料を敷きつめた層であって一部にレーザ光を照射して溶融結合又は焼結させた層を積層することにより造形された金属積層造形体を洗浄する洗浄装置であって、複数の有機溶媒を混合した液体である混合溶媒が内部に充填されていて、前記混合溶媒に浸された状態の前記金属積層造形体を収容する収容部と、前記収容部に収容された前記金属積層造形体に対して、超音波を送信する超音波送信部と、を備え、複数の前記有機溶媒は、他の前記有機溶媒よりも蒸気圧が高い第1有機溶媒と、他の前記有機溶媒よりも音響インピーダンスが高い第2有機溶媒と、を有している。
【0008】
また、本開示の一態様に係る洗浄方法は、金属製の粉末材料を敷きつめた層であって一部にレーザ光を照射して溶融結合又は焼結させた層を積層することにより造形された金属積層造形体を洗浄する洗浄方法であって、複数の有機溶媒を混合した液体である混合溶媒が内部に充填されている収容部に、前記混合溶媒に浸された状態で前記金属積層造形体を収容する収容工程と、前記収容部に収容された前記金属積層造形体に対して、超音波送信部から超音波を送信する超音波送信工程と、を備え、複数の前記有機溶媒は、他の前記有機溶媒よりも蒸気圧が高い第1有機溶媒と、他の前記有機溶媒よりも音響インピーダンスが高い第2有機溶媒と、を有している。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、金属積層造形体から不要な粉末を好適に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る洗浄装置の模式的な縦断面図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る洗浄方法を示すフローチャートである。
【
図3】キャビテーションによる粉末除去の原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本開示に係る洗浄装置及び洗浄方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る洗浄装置10は、金属製の立体造形物を製造する際に用いられる。材料とする金属は特に限定されない。例えば、融点が低く、かつ、レーザ吸収率の低い金属(例えば、銅や銅合金)であってもよく、また、融点が高く、かつ、レーザ吸収率が高い金属(例えば、ニッケル合金)であってもよい。
立体造形物を製造する際には、まず、金属製の粉末材料を敷きつめた層であって一部にレーザ光を照射して溶融結合又は焼結させた層を積層することにより金属積層造形体20を造形する。そして、この金属積層造形体20から不必要な粉末材料を除去することで立体造形物が製造される。本実施形態に係る洗浄装置10は、金属積層造形体20から不必要な粉末材料を除去する際に用いられる。
本実施形態の金属積層造形体20は、有底状の穴21が複数形成されている。穴21は、金属積層造形体20の表面から凹むように形成されている。
【0012】
図1に示すように、洗浄装置10は、外殻を為す外側容器11と、外側容器11内に設けられる内側容器(収容部)12と、外側容器11の内部であって内側容器12の下方に設けられる超音波発生装置(超音波送信部)13と、を備えている。
【0013】
外側容器11は、円筒状の外側容器本体部11aと外側容器本体部11aの下端を閉鎖する外側容器底面部11bとを有している。外側容器本体部11aの上端は開放されている。外側容器11の内部に液体(本実施形態では、一例として、水W)が充填されている。なお、外側容器11の内部に充填される物質は、超音波を減衰させ難い物質であればよく、水に限定されない。
外側容器11の内部に充填されている水Wの水面は、後述する内側容器本体部12aの上端よりも高い。
【0014】
外側容器11の内部空間は、水平方向に延在する多孔板14によって上下方向に分割されている。多孔板14は、外周部が外側容器11の内周面に固定されている。多孔板14には上下方向に貫通する複数の孔が形成されている。多孔板14の材質は特に限定されないが、超音波発生装置13からの超音波Uを大きく減衰させないような材料(例えば、ステンレス)で形成されることが好ましい。
【0015】
内側容器12は、円筒状の内側容器本体部12aと内側容器本体部12aの下端を閉鎖する内側容器底面部12bと、を一体的に有している。内側容器本体部12aの上端は、蓋部12cによって上方から閉鎖されている。内側容器12は、多孔板14の上面に載置されている。内側容器12は、略全体が外側容器11内に充填された水Wに浸されている。具体的には、内側容器12は、蓋部12cの上側一部を除いて、全て外側容器11内に充填された水Wに浸されている。
【0016】
内側容器12の内部には、複数(本実施形態では、一例として3種類)の有機溶媒を混合した液体状の混合溶媒Mが充填されている。また、内側容器12の内部には、金属積層造形体20が収容されている。よって、内側容器12の内部には、混合溶媒Mに浸された状態の金属積層造形体20が収容されている。混合溶液の詳細については後述する。
【0017】
内側容器12には、内部に混合溶媒Mを供給する供給配管(図示省略)が接続されている。供給配管は、例えば、蓋部12cを貫通するように設けられてもよい。
内側容器12の材質は特に限定されないが、超音波発生装置13からの超音波Uを大きく減衰させないような材料(例えば、ステンレス)で形成されることが好ましい。
【0018】
次に、混合溶媒Mについて説明する。
混合溶媒Mには、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒の3種類の有機溶媒が混合されている。ここで3種類の有機溶媒を混合するのは、後述するように、キャビテーションの発生頻度と発生強度を向上させるためである。混合溶媒Mに含まれる各有機溶媒の蒸気圧と音響インピーダンスの両方の特性が、必要な条件を満たすことでキャビテーションの発生頻度と発生強度が向上する。
【0019】
第1有機溶媒は、混合溶媒Mに含まれている他の有機溶媒(本実施形態では、第2有機溶媒及び第3有機溶媒)よりも蒸気圧が高い。第1有機溶媒は、例えば、蒸気圧が室温で2.5kPa以上となる有機溶媒であると好適である。第1有機溶媒は、例えば、アセトンであってもよい。溶媒の蒸発のし易さ(蒸気圧の高さ)は、キャビテーションの発生頻度に大きな影響を与える。
【0020】
第2有機溶媒は、混合溶媒Mに含まれている他の有機溶媒(本実施形態では、第1有機溶媒及び第3有機溶媒)よりも音響インピーダンス(音速×密度)が高い。第2有機溶媒は、例えば、音響インピーダンスが室温で700kPa・s/m3以上となる有機溶媒であると好適である。第2有機溶媒は、例えば、メチルエチルケトン(Methyl ethyl ketone)や、イソプロピルアルコールやエタノールであってもよい。音響インピーダンスは、キャビテーションの発生強度に大きな影響を与える。
【0021】
第3有機溶媒は、混合溶媒Mに含まれている他の有機溶媒(本実施形態では、第1有機溶媒及び第2有機溶媒)よりも粘度が低い。第3有機溶媒は、例えば、粘度が室温で1.0mPas以下となる有機溶媒であると好適である。第3有機溶媒は、例えば、n-ヘキサンやn-ペンタンやエーテルであってもよい。粘度は、キャビテーションの発生強度に大きな影響を与える。
【0022】
各有機溶媒の混合比率は、除去する粉末材料に応じて、キャビテーション強度と発生頻度の両方を考慮して決定してもよい。
【0023】
超音波発生装置13は、多孔板14よりも下方に配置されている。超音波発生装置13は、外側容器底面部11bの上面に設けられている。超音波発生装置13は、上方に超音波Uを送信する。超音波発生装置13は、外側容器11の内部の水Wや、内側容器12の内部の混合溶媒Mを介して、金属積層造形体20に対して、超音波Uを送信する。
【0024】
超音波発生装置13が送信する超音波Uの周波数は,キャビテーションが発生する数十~数百kHzの周波数帯に設定されている。この範囲の中では、超音波Uの周波数が小さいほど振幅が減少し難く、全体としてキャビテーションが発生し易くなる。したがって、この範囲に超音波Uの周波数を設定することで、好適にキャビテーションを発生させ、粉末を除去することができる。
【0025】
また、洗浄装置10は、各種装置(例えば、超音波発生装置等)を制御する制御装置を備えている。
制御装置(Controller)は、例えば、CPU(Central Processing Unit:プロセッサ)、主記憶装置(Main Memory)、二次記憶装置(Secondary storage:メモリ)等を備えている。更に、制御装置は、他の装置と情報の送受信を行うための通信部を備えていてもよい。
主記憶装置は、例えば、キャッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等の書き込み可能なメモリで構成され、CPUの実行プログラムの読み出し、実行プログラムによる処理データの書き込み等を行う作業領域として利用される。
二次記憶装置は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体(non-transitory computer readable storage medium)である。二次記憶装置は、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどである。
各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で二次記憶装置に記憶されており、このプログラムをCPUが主記憶装置に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、二次記憶装置に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0026】
次に、金属積層造形体20の洗浄方法について
図2のフローチャートを用いて説明する。
本実施形態に係る洗浄方法は、
図1に示すように、最初に乾式振動装置(図示省略)により金属積層造形体20を振動させ金属積層造形体20から不要な粉末材料を除去する(ステップS1)。乾式振動装置では、金属積層造形体20を液体等に浸すことなく振動させる。このステップでは、上述したような、焼結した状態の不要な粉末材料については除去することが難しい。しかしながら、後述する超音波洗浄の前に乾式振動ステップを設けることで、超音波洗浄する際に、混合溶媒Mを浸透させ易くすることができる。
【0027】
次に、金属積層造形体20を内側容器12の所定位置に収容し、混合溶媒Mに浸す(収容工程。ステップS2)。次に、超音波発生装置13から超音波Uを送信し(超音波送信工程)、金属積層造形体20を超音波洗浄する(ステップS3)。超音波発生装置13から超音波Uを送信することで、混合溶媒Mにキャビテーションが発生する。キャビテーションが発生することで、焼結した粉末材料が破砕されるので、金属積層造形体20から不要な粉末材料を除去することができる。キャビテーションによる粉末除去の原理の詳細については後述する。
超音波洗浄を終えると、次に、金属積層造形体20から不要な粉末材料を十分に除去することができたかを判断する(ステップS4)。不要な粉末材料の除去が完了していると判断した場合には、金属積層造形体20の洗浄を終了する。
【0028】
ステップS4で、不要な粉末材料の除去が完了していないと判断した場合には、次に、内側容器12内の混合溶媒Mの量が十分か否かを判断する(ステップS5)。混合溶媒Mの量が十分か否かは、例えば、金属積層造形体20の一部が混合溶媒Mから露出してしまっているか否かによって判断してもよい。この場合には、金属積層造形体20の一部でも混合溶媒Mから露出している場合には、混合溶媒Mの量が十分ではないと判断する。
【0029】
ステップS5で内側容器12内の混合溶媒Mの量が十分であると判断した場合には、ステップS3に戻って、再度超音波洗浄を行う。一方、ステップS5で内側容器12内の混合溶媒Mの量が十分でないと判断した場合には、供給配管(図示省略)を介して混合溶媒Mを内側容器12内に追加する(ステップS6)。そして、ステップS3に戻って、再度超音波洗浄を行う。
【0030】
本実施形態では、このようにして、金属積層造形体20の洗浄を行う。本実施形態の洗浄方法を行った金属積層造形体20には、表面に超音波特有の細かいクラック(深さ10μ程度であって、幅5μ程度のクラック)が発生している。当該クラックは非常に微小なため、製作された立体造形物の品質には影響がない。
なお、ステップS4で、金属積層造形体20から不要な粉末材料を十分に除去することができたと判断した場合に、金属積層造形体20を洗浄装置10から取り出し、再度乾式振動装置(図示省略)で金属積層造形体20を振動させてもよい。ステップS4で焼結した粉末材料が破砕されるので、ステップS4の後に乾式振動装置で金属積層造形体20を振動させることで、破砕された粉末材料を金属積層造形体20から除去することができる。
【0031】
次に、キャビテーションによる粉末除去の原理について
図3を用いて説明する。
図3において符号Pは、粉末材料同士が焼結した状態で、金属積層造形体20の穴21に残存した粉末材料を示している。また、符号Bは、超音波Uによって混合溶媒Mで発生した気泡を示している。また、(a)では、二点鎖線で囲った領域を拡大して図示している。
【0032】
図3(a)に示すように、混合溶媒Mの気体分子に超音波U(
図1参照)が照射されると、正負の圧力サイクルにより気体圧力が蒸気圧以下となり蒸発し気泡Bが発生し、この気泡Bが発泡する。すなわち、
図3(a)に示すように、気泡Bの内圧P1と外圧P2との間で圧力の不均一が発生する。
【0033】
気泡Bが発砲すると、
図3(b)に示すように、高圧・高速の混合溶媒Mの流れが発生し、この流れが焼結状態の粉末材料Pに衝突する(矢印A参照)。これにより、焼結状態の粉末材料Pが破砕し、除去可能な状態となる。
図3(c)は、焼結状態の粉末材料Pの一部が除去された状態を示している。
【0034】
このように、気泡Bの発生と発泡とが繰り返し行われることで、焼結状態の粉末材料Pを除去することができる。
【0035】
本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
本実施形態では、混合溶媒Mに浸された状態の金属積層造形体20に対して超音波Uを送信している。これにより、例えば、金属積層造形体20に狭小部があったと場合であっても、狭小部内に混合溶媒Mが流入する。したがって、流入した混合溶媒Mによって狭小部内に残存している粉末材料Pを除去することできる。
また、本実施形態では、超音波Uによって混合溶媒Mにキャビテーションが発生する。混合溶媒M中に発生した泡が発泡する際に生じる高圧・高速の混合溶媒Mの流れが焼結状態の粉末材料Pに衝突することで、焼結状態の粉末材料Pを破砕することができる。これにより、焼結状態の粉末材料Pを除去することができる。
このように、本実施形態では、金属積層造形体20から不要な粉末を好適に除去することができる。
【0036】
また、キャビテーションの発生頻度は、溶媒の蒸発のし易さ(蒸気圧の高さ)が支配的であり大きな影響を与える。本実施形態では、複数の有機溶媒に、蒸気圧の高い第1有機溶媒が含まれている。これにより、キャビテーションの発生頻度を向上させることができる。したがって、混合溶媒M中でキャビテーションを発生し易くすることができ、焼結状態の粉末材料Pをより好適に除去することができる。
【0037】
また、キャビテーションの強度は、溶媒の音響インピーダンス(音速×密度)が支配的であり大きな影響を与える。本実施形態では、複数の有機溶媒に、音響インピーダンスが高い第2有機溶媒が含まれている。これにより、キャビテーションの強度を向上させることができる。したがって、混合溶媒M中でキャビテーションを発生し易くすることができ、焼結状態の粉末材料Pをより好適に除去することができる。
【0038】
また、キャビテーションの強度は、溶媒の粘度が小さい場合に大きくなる。本実施形態では、複数の有機溶媒に、粘度が低い第3有機溶媒が含まれている。これにより、キャビテーションの強度を向上させることができる。したがって、混合溶媒M中でキャビテーションを発生し易くすることができ、焼結状態の粉末材料Pをより好適に除去することができる。
【0039】
このように、本実施形態では、複数の有機溶媒を混合することで、キャビテーションの発生頻度及び強度を、蒸気圧と音響インピーダンスという物理特性の面から向上させることができる。したがって、焼結状態の粉末材料Pをより好適に除去することができる。
特に、本実施形態では、狭小な有底状の内部流路(例えば、本実施形態の穴21)に残存している焼結状態の粉末材料Pを好適に除去することができる。
また、焼結状態の粉末材料Pが発生し易い、融点が低く、かつ、レーザ吸収率の低い金属(例えば、銅や銅合金)から立体造形物を作製する際に特に有効である。
【0040】
また、金属積層造形体20を水に浸している場合には、洗浄中に金属積層造形体20が腐食する可能性がある。一方で、本実施形態では、有機溶媒に金属積層造形体20を浸している。これにより、金属を腐食させることのない有機溶媒を用いた場合には、洗浄中の金属積層造形体20の腐食を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態では、超音波U洗浄を行う前に、金属積層造形体20を乾式振動させている。これにより、乾式振動で混合溶媒Mの浸入経路を確保したあとに、蒸気圧と音響インピーダンスの高い混合溶媒M中でキャビテーションを効率的に発生させることができる。したがって、焼結状態の粉末材料Pを好適に除去することができる。
【0042】
なお、本開示は、上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。
【0043】
例えば、超音波発生装置13が、複数の異なる周波数の超音波を送信してもよい。例えば大きい側の周波数が小さい側の周波数の整数倍の場合、より大きな振幅を発生させることができる。したがって、より焼結状態の粉末材料Pをより好適に除去することができる。
また、大きい側の周波数が小さい側の周波数の整数倍でない場合、混合溶媒M中での振幅のムラを抑制することができる。
したがって、金属積層造形体20から不要な粉末を好適に除去することができる。
【0044】
また、例えば、超音波発生装置13が、送信する超音波の周波数を所定の周期で変動させてもよい。照射する超音波の周波数を一定周期で変動させるスイープ(掃引)機能を持つ超音波発生装置を用いることで、振幅の腹と節の位置が一定である定在波の発生を抑制することができる。したがって、キャビテーションの発生位置を変動させることができる。よって、洗浄ムラを抑制することができる。
【0045】
また、洗浄装置10は、内側容器12に収容された金属積層造形体20を上下方向に振動させる振動部(図示省略)を備えていてもよい。これにより、金属積層造形体20が上下方向に移動することで、超音波の振幅が高い位置に当たる部分と、振幅が低い位置に当たる部分とを変化させることができる。したがって、金属積層造形体20の洗浄ムラを抑制することができる。
【0046】
また、洗浄装置10は、内側容器12の内部の減圧と大気開放とを交互に繰り返す減圧部(図示省略)を備えていてもよい。
内側容器12の内部の減圧と大気開放とを交互に繰り返すことで、内側容器12内の混合溶媒Mが移動する。これにより、例えば、金属積層造形体20の狭小部に混合溶媒Mが流入し易くなる。流入した混合溶媒Mは、粉末材料を狭小部から押し出す。よって、好適に粉末材料を除去することができる。
また、狭小部に混合溶媒Mが流入することで、狭小部内でキャビテーションを発生し易くすることができる。したがって、焼結状態の粉末材料Pをより好適に除去することができる。
なお、内側容器12内を減圧しすぎるとキャビテーションが発砲する頻度が著しく低下してしまう。これは、減圧の影響で、発生した気体が発砲する前に液体の外へ抜けてしまうためと考えられる。したがって、減圧値は、粉末除去対象に応じて、キャビテーション強度と混合溶媒Mの侵入度合いの双方の観点を考慮して決定してもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒の3種類の有機溶媒を混合した混合溶媒を用いる例について説明したが、混合溶媒には第1有機溶媒及び第2有機溶媒が含まれていればよく、混合する有機溶媒の数は3種類に限定されない。混合する有機溶媒の数は例えば、第1有機溶媒及び第2有機溶媒の2種類のみであってもよい。第1有機溶媒、第2有機溶媒及び第3有機溶媒以外の有機溶媒が混合されていてもよい。
【0048】
以上説明した実施形態に記載の洗浄装置及び洗浄方法は、例えば以下のように把握される。
【0049】
本開示の第1態様に係る洗浄装置は、金属製の粉末材料を敷きつめた層であって一部にレーザ光を照射して溶融結合又は焼結させた層を積層することにより造形された金属積層造形体(20)を洗浄する洗浄装置(10)であって、複数の有機溶媒を混合した液体である混合溶媒(M)が内部に充填されていて、前記混合溶媒に浸された状態の前記金属積層造形体を収容する収容部(12)と、前記収容部に収容された前記金属積層造形体に対して、超音波(U)を送信する超音波送信部(13)と、を備え、複数の前記有機溶媒は、他の前記有機溶媒よりも蒸気圧が高い第1有機溶媒と、他の前記有機溶媒よりも音響インピーダンスが高い第2有機溶媒と、を有している。
【0050】
上記構成では、混合溶媒に浸された状態の金属積層造形体に対して超音波を送信している。これにより、例えば、金属積層造形体に狭小部があったと場合であっても、狭小部内に混合溶媒が流入する。したがって、流入した混合溶媒によって狭小部内に残存している粉末材料を除去することできる。
また、上記構成では、超音波によって混合溶媒にキャビテーションが発生する。混合溶媒中に発生した泡が発泡する際に生じる高圧・高速の混合溶媒の流れが焼結状態の粉末材料に衝突することで、焼結状態の粉末材料を破砕することができる。これにより、焼結状態の粉末材料を除去することができる。
このように、上記構成では、金属積層造形体から不要な粉末を好適に除去することができる。
【0051】
また、キャビテーションの発生頻度は、溶媒の蒸発のし易さ(蒸気圧の高さ)が支配的であり大きな影響を与える。上記構成では、複数の有機溶媒に、蒸気圧の高い第1有機溶媒が含まれている。これにより、キャビテーションの発生頻度を向上させることができる。したがって、混合溶媒中でキャビテーションを発生し易くすることができ、焼結状態の粉末材料をより好適に除去することができる。
なお、第1有機溶媒は、例えば、蒸気圧が室温で2.5kPa以上となる有機溶媒であると好適である。例えば、第1有機溶媒は、アセトンであってもよい。
【0052】
また、キャビテーションの強度は、溶媒の音響インピーダンス(音速×密度)が支配的であり大きな影響を与える。上記構成では、複数の有機溶媒に、音響インピーダンスが高い第2有機溶媒が含まれている。これにより、キャビテーションの強度を向上させることができる。したがって、混合溶媒中でキャビテーションを発生し易くすることができ、焼結状態の粉末材料をより好適に除去することができる。
なお、第2有機溶媒は、例えば、音響インピーダンスが室温で700kPa・s/m3以上となる有機溶媒であると好適である。例えば、第2有機溶媒は、メチルエチルケトン(Methyl ethyl ketone)や、イソプロピルアルコールやエタノールであってもよい。
【0053】
このように、上記構成では、複数の有機溶媒を混合することで、キャビテーションの発生頻度及び強度を、蒸気圧と音響インピーダンスという物理特性の面から向上させることができる。したがって、焼結状態の粉末材料をより好適に除去することができる。
【0054】
また、金属積層造形体を水に浸している場合には、洗浄中に金属積層造形体が腐食する可能性がある。一方で、上記構成では、有機溶媒に金属積層造形体を浸している。これにより、金属を腐食させることのない有機溶媒を用いた場合には、洗浄中の金属積層造形体の腐食を抑制することができる。
【0055】
また、本開示に第2態様に係る洗浄装置は、上記第1態様において、複数の前記有機溶媒は、他の前記有機溶媒よりも粘度が低い第3有機溶媒を有する。
【0056】
キャビテーションの強度は、溶媒の粘度が小さい場合に大きくなる。上記構成では、複数の有機溶媒に、粘度が低い第3有機溶媒が含まれている。これにより、キャビテーションの強度を向上させることができる。したがって、混合溶媒中でキャビテーションを発生し易くすることができ、焼結状態の粉末材料をより好適に除去することができる。
なお、第3有機溶媒は、例えば、粘度が室温で1.0mPas以下となる有機溶媒であると好適である。例えば、第3有機溶媒は、n-ヘキサンやn-ペンタンやエーテルであってもよい。
【0057】
また、本開示に第3態様に係る洗浄装置は、上記第1態様又は第2態様において、前記超音波送信部は、複数の異なる周波数の超音波を送信する。
【0058】
上記構成では、超音波送信部が、複数の異なる周波数の超音波を送信する。これにより、例えば、大きい側の周波数が小さい側の周波数の整数倍の場合には、より大きな振幅を発生させることができる。また、大きい側の周波数が小さい側の周波数の整数倍でない場合には、混合溶媒中での振幅のムラを抑制することができる。したがって、金属積層造形体から不要な粉末を好適に除去することができる。
【0059】
また、本開示に第4態様に係る洗浄装置は、上記第1態様から第3態様のいずれかにおいて、前記超音波送信部は、送信する超音波の周波数を所定の周期で変動させる。
【0060】
上記構成では、超音波送信部が、送信する超音波の周波数を所定の周期で変動させる。これにより、定在波の発生を抑制することができる。したがって、キャビテーションの発生位置を変動させることができる。よって、金属積層造形体の洗浄ムラを抑制することができる。
【0061】
また、本開示に第5態様に係る洗浄装置は、上記第1態様から第4態様のいずれかにおいて、前記収容部に収容された前記金属積層造形体を上下方向に振動させる振動部を備える。
【0062】
上記構成では、収容部に収容された金属積層造形体を上下方向に振動させる振動部を備えている。これにより、金属積層造形体が上下方向に移動することで、超音波の振幅が高い位置に当たる部分と、振幅が低い位置に当たる部分とを変化させることができる。したがって、金属積層造形体の洗浄ムラを抑制することができる。
【0063】
また、本開示に第6態様に係る洗浄装置は、上記第1態様から第5態様のいずれかにおいて、前記収容部の内部の減圧と大気開放とを交互に繰り返す減圧部を備える。
【0064】
上記構成では、収容部の内部の減圧と大気開放とを行う減圧部を備えている。収容部の内部の減圧と大気開放とを交互に繰り返すことで、収容部内の混合溶媒が移動する。これにより、例えば、狭小部に混合溶媒が流入し易くなる。流入した混合溶媒は、粉末材料を狭小部から押し出す。よって、好適に粉末材料を除去することができる。
また、狭小部に混合溶媒が流入することで、狭小部内でキャビテーションを発生し易くすることができる。したがって、焼結状態の粉末材料をより好適に除去することができる。
【0065】
本開示の第1態様に係る洗浄方法は、金属製の粉末材料を敷きつめた層であって一部にレーザ光を照射して溶融結合又は焼結させた層を積層することにより造形された金属積層造形体(20)を洗浄する洗浄方法であって、複数の有機溶媒を混合した液体である混合溶媒(M)が内部に充填されている収容部(12)に、前記混合溶媒に浸された状態で前記金属積層造形体を収容する収容工程と、前記収容部に収容された前記金属積層造形体に対して、超音波送信部(13)から超音波を送信する超音波送信工程と、を備え、複数の前記有機溶媒は、他の前記有機溶媒よりも蒸気圧が高い第1有機溶媒と、他の前記有機溶媒よりも音響インピーダンスが高い第2有機溶媒と、を有している。
【符号の説明】
【0066】
10 :洗浄装置
11 :外側容器
11a :外側容器本体部
11b :外側容器底面部
12 :内側容器
12a :内側容器本体部
12b :内側容器底面部
12c :蓋部
13 :超音波発生装置
14 :多孔板
20 :金属積層造形体
21 :穴
A :矢印
B :気泡
M :混合溶媒
P :粉末材料
U :超音波
W :水