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特開2023-167598熱伝導性弾性体及びその製造方法並びにそれを用いた放熱部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167598
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】熱伝導性弾性体及びその製造方法並びにそれを用いた放熱部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/00 20060101AFI20231116BHJP
   C08L 101/08 20060101ALI20231116BHJP
   C08K 5/51 20060101ALI20231116BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20231116BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20231116BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20231116BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20231116BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08L15/00
C08L101/08
C08K5/51
C08K3/01
C08K3/20
C08K3/34
C09K5/14 E
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078894
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木津 賢一
(72)【発明者】
【氏名】川村 賢治
(72)【発明者】
【氏名】本城 宏昌
(72)【発明者】
【氏名】伊東 隆男
【テーマコード(参考)】
4J002
5E322
【Fターム(参考)】
4J002AA05X
4J002AC03W
4J002AC10X
4J002AC11W
4J002DA019
4J002DA029
4J002DA079
4J002DA089
4J002DA099
4J002DA119
4J002DE069
4J002DE079
4J002DE109
4J002DE139
4J002DE147
4J002DE149
4J002DF019
4J002DJ009
4J002DJ018
4J002DJ019
4J002DJ038
4J002DK009
4J002EG048
4J002EN039
4J002EW046
4J002EW056
4J002FA049
4J002FD026
4J002FD149
4J002FD207
4J002FD209
4J002FD338
4J002GQ00
5E322AB04
5E322EA11
5E322FA04
(57)【要約】
【課題】高い可撓性とともに優れた難燃性を有する熱伝導性弾性体を提供する。
【解決手段】熱伝導性弾性体は、末端に水酸基を有する液状ポリブタジエンの第1ポリマー成分(A1)と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が付加した液状ポリマーの第2ポリマー成分(A2)とを含むベースポリマー(A)と、リン酸系可塑剤(B)と、吸熱剤(C)と、チクソ剤(D)と、熱伝導フィラー(E)と、硬化剤(F)とを含有する組成物(X)が硬化して形成されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端に水酸基を有する液状ポリブタジエンの第1ポリマー成分(A1)と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が付加した液状ポリマーの第2ポリマー成分(A2)とを含むベースポリマー(A)と、リン酸系可塑剤(B)と、吸熱剤(C)と、チクソ剤(D)と、熱伝導フィラー(E)と、硬化剤(F)とを含有する組成物(X)が硬化して形成された熱伝導性弾性体。
【請求項2】
請求項1に記載された熱伝導性弾性体において、
前記第2ポリマー成分(A2)が、不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が付加した液状ポリブタジエンを含む熱伝導性弾性体。
【請求項3】
請求項1に記載された熱伝導性弾性体において、
前記リン酸系可塑剤(B)が非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)を含む熱伝導性弾性体。
【請求項4】
請求項3に記載された熱伝導性弾性体において、
前記リン酸系可塑剤(B)が縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)を更に含む熱伝導性弾性体。
【請求項5】
請求項1に記載された熱伝導性弾性体において、
前記吸熱剤(C)が金属水酸化物を含む熱伝導性弾性体。
【請求項6】
請求項1に記載された熱伝導性弾性体において、
前記チクソ剤(D)がベントナイトを含む熱伝導性弾性体。
【請求項7】
請求項1に記載された熱伝導性弾性体において、
前記熱伝導フィラー(E)が金属酸化物を含む熱伝導性弾性体。
【請求項8】
請求項1に記載された熱伝導性弾性体において、
前記硬化剤(F)がアミンを含む熱伝導性弾性体。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載された熱伝導性弾性体の製造方法において、
前記第1ポリマー成分(A1)と前記硬化剤(F)とを含有する第1材料と、前記第2ポリマー成分(A2)と前記リン酸系可塑剤(B)とを含有する第2材料とを混合するステップを含む熱伝導性弾性体の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載された熱伝導性弾性体で構成された放熱部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性弾性体及びその製造方法並びにそれを用いた放熱部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電池パックや電子部品の発熱を効率的に伝熱して筐体やヒートシンクに放熱するために熱伝導性弾性体が用いられている(例えば特許文献1乃至4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020―050701号公報
【特許文献2】特開2020-158556号公報
【特許文献3】特開2017-141443号公報
【特許文献4】特開2017-069341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、高い可撓性とともに優れた難燃性を有する熱伝導性弾性体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、末端に水酸基を有する液状ポリブタジエンの第1ポリマー成分(A1)と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が付加した液状ポリマーの第2ポリマー成分(A2)とを含むベースポリマー(A)と、リン酸系可塑剤(B)と、吸熱剤(C)と、チクソ剤(D)と、熱伝導フィラー(E)と、硬化剤(F)とを含有する組成物(X)が硬化して形成された熱伝導性弾性体である。
【0006】
本発明は、本発明の熱伝導性弾性体の製造方法において、前記第1ポリマー成分(A1)と前記硬化剤(F)とを含有する第1材料と、前記第2ポリマー成分(A2)と前記リン酸系可塑剤(B)とを含有する第2材料とを混合するステップを含むものである。
【0007】
本発明は、本発明の熱伝導性弾性体で構成された放熱部品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬化前の組成物(X)が、末端に水酸基を有する液状ポリブタジエンの第1ポリマー成分(A1)と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体が付加した液状ポリマーの第2ポリマー成分(A2)とを含むベースポリマー(A)を含有するとともに、リン酸系可塑剤(B)、吸熱剤(C)、及びチクソ剤(D)を含有することにより、高い可撓性とともに優れた難燃性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0010】
実施形態に係る熱伝導性弾性体は、ベースポリマー(A)と、リン酸系可塑剤(B)と、吸熱剤(C)と、チクソ剤(D)と、熱伝導フィラー(E)と、硬化剤(F)とを含有する組成物(X)が硬化して形成されたものである。そして、ベースポリマー(A)は、末端に水酸基を有する液状ポリブタジエンの第1ポリマー成分(A1)と不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体(以下「不飽和カルボン酸等」という。)が付加した液状ポリマーの第2ポリマー成分(A2)とを含む。ここで、本出願における「液状」とは、常温・常圧(25℃、1気圧)において流動性を有することをいう。この熱伝導性弾性体は、例えば電池パックや電子部品等の発熱物の発熱を伝熱して放熱するために用いられる放熱部品を構成する。
【0011】
実施形態に係る熱伝導性弾性体によれば、硬化前の組成物(X)が、末端に水酸基を有する液状ポリブタジエンの第1ポリマー成分(A1)と不飽和カルボン酸等が付加した液状ポリマーの第2ポリマー成分(A2)とを含むベースポリマー(A)を含有するとともに、リン酸系可塑剤(B)、吸熱剤(C)、及びチクソ剤(D)を含有することにより、高い可撓性とともに優れた難燃性を得ることができる。このため、表面に凹凸のある発熱物や発熱物が密集して設けられた部分でも、熱伝導性弾性体が発熱体と高い密着性で接触するので、発熱体から発せられる熱を効率的に放熱することができる。
【0012】
第1ポリマー成分(A1)は、末端に水酸基を有する液状ポリブタジエンである。第1ポリマー成分(A1)のISO3219:1993に基づいて測定される30℃での粘度は、加工性の観点から、好ましくは3000mPa・s以上7000mPa・s以下、より好ましくは4000mPa・s以上5500mPa・s以下である。粘度が低すぎる場合には粉体の材料が沈降しやすいだけでなく、混練時にせん断力がかかりにくいため分散不良となりやすく、粘度が高すぎる場合には流動性が低いために混練が困難となる。
【0013】
第2ポリマー成分(A2)は、不飽和カルボン酸等が付加した液状ポリマーである。不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メタクリル酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸誘導体としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和カルボン酸無水物;不飽和カルボン酸エステル;不飽和カルボン酸アミド;不飽和カルボン酸イミド等が挙げられる。液状ポリマーとしては、例えば、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン等が挙げられる。
【0014】
第2ポリマー成分(A2)は、これらのうちの1種又は2種以上の不飽和カルボン酸等と液状ポリマーとの組み合わせを含むことが好ましく、高い可撓性とともに優れた難燃性を得る観点から、不飽和カルボン酸等が付加した液状ポリブタジエンを含むことが好ましく、不飽和カルボン酸無水物が付加した液状ポリブタジエンを含むことがより好ましく、無水マレイン酸が付加した液状ポリブタジエンを含むことが更に好ましい。
【0015】
第2ポリマー成分(A2)のISO3219:1993に基づいて測定される20℃での粘度は、第1ポリマー成分同様に加工性の観点から、好ましくは5000mPa・s以上10000mPa・s以下、より好ましくは6000mPa・s以上9000mPa・s以下である。
【0016】
ベースポリマー(A)における第1ポリマー成分(A1)の水酸基のモル数の第2ポリマー成分(A2)の不飽和カルボン酸等のモル数に対するモル比は、ポリマーネットワークを形成する反応点の数を調整し、高い可撓性を得る観点から、好ましくは0.8以上1.8以下、より好ましくは0.9以上1.3以下である。
【0017】
ベースポリマー(A)における第1ポリマー成分(A1)の含有量の第2ポリマー成分(A2)の含有量に対する比(第1ポリマー成分(A1)の含有量/第2ポリマー成分(A2)の含有量)は、前記の水酸基と不飽和カルボン酸のモル比から導かれ、好ましくは35/65以上70/30以下、より好ましくは40/60以上65/35以下である。ベースポリマー(A)における第1ポリマー成分(A1)の含有量は、高い可撓性を得る観点から、第2ポリマー成分(A2)の含有量よりも多いことが好ましい。
【0018】
ベースポリマー(A)は、第1ポリマー成分(A1)及び第2ポリマー成分(A2)以外のポリマーを含んでいてもよいが、高い可撓性を得る観点から、第1ポリマー成分(A1)及び第2ポリマー成分(A2)のみを含むことが好ましい。
【0019】
リン酸系可塑剤(B)としては、例えば、非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)、縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)等が挙げられる。
【0020】
非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)としては、例えば、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート等が挙げられる。
【0021】
縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)としては、例えば、トリアルキルポリホスフェート、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ビスフェノールAポリフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0022】
リン酸系可塑剤(B)は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、高い可撓性とともに優れた難燃性を得る観点から、非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)を含むことが好ましく、トリクレジルホスフェートを含むことがより好ましい。また、リン酸系可塑剤(B)は、同様の観点から、非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)に加えて、縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)を更に含むことが好ましく、縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)としてレゾルシノールポリフェニルホスフェートを含むことがより好ましい。リン酸系可塑剤(B)の可塑剤としての効果は、分子量の低い非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)の方が高く、難燃剤としての効果は、リン濃度の高い縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)の方が高いことから、両者を組み合わせることにより、可撓性と難燃性との両立がより容易になる。
【0023】
リン酸系可塑剤(B)におけるリン元素の含有量は、優れた難燃性を得る観点から、好ましくは2.5質量%以上4.5%以下、より好ましくは3.0質量%以上3.7質量%以下、更に好ましくは3.2質量%以上3.5質量%以下である。
【0024】
組成物(X)におけるリン酸系可塑剤(B)の含有量は、ブリードすなわち組成物からの可塑剤の染み出しが発生せず、かつ高い可撓性とともに優れた難燃性を得る観点から、ベースポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは20質量部以上100質量部以下、より好ましくは50質量部以上70質量部以下である。リン酸系可塑剤の含有量が上限以上ではブリードが発生しやすくなり、下限以下では可塑性と難燃性が不十分となる。
【0025】
リン酸系可塑剤(B)が非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)及び縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)の両方を含む場合、組成物(X)における非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)の含有量は、ブリードが発生せず、高い可撓性とともに優れた難燃性を得る観点から、ベースポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは30質量部以上50質量部以下、より好ましくは35質量部以上45質量部以下である。組成物(X)における縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)の含有量は、同様の観点から、ベースポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは10質量部以上30質量部以下、より好ましくは15質量部以上25質量部以下である。
【0026】
吸熱剤(C)としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物等が挙げられる。吸熱剤(C)は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、優れた難燃性を得る観点から、分解温度の低い水酸化アルミニウムを含むことが好ましい。粒状物である吸熱剤(C)の平均粒径は、熱伝導性弾性体表面の平滑性にし、発熱体との密着性を確保する観点から、好ましくは65μm以下、より好ましくは60μm以下である。
【0027】
組成物(X)における吸熱剤(C)の含有量は、高い可撓性とともに優れた難燃性を得る観点から、ベースポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは50質量部以上250質量部以下、より好ましくは80質量部以上180質量部以下である。吸熱剤(C)が多い場合には可撓性が低下し、少ない場合には難燃性が低下する。
【0028】
チクソ剤(D)としては、例えば、ベントナイト、シリカ、ステアリン酸アルミニウム等が挙げられる。チクソ剤(D)は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、優れた難燃性を得る観点から、ベントナイトを含むことが好ましく、ポリマー中への分散の観点からシランカップリング剤で処理されたベントナイトを含むことがより好ましい。ここで、優れた難燃性が得られる理由は、熱伝導性弾性体が炎に曝されて溶融した場合でも、溶融物の垂れ落ちを防止し、延焼を防ぐ効果があるためである。粉状物乃至粒状物であるチクソ剤(D)の平均粒径は、同様の観点から、好ましくは0.01μm以上1μm以下である。
【0029】
組成物(X)におけるチクソ剤(D)の含有量は、成形性と優れた難燃性を得る観点から、ベースポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上15質量部以下、より好ましくは3質量部以上7質量部以下である。チクソ剤(D)の含有量が多い場合には組成物(X)の粘度が上昇して成形が困難となり、少ない場合には溶融物の垂れ落ちを防止できずに十分な難燃性が得られない。
【0030】
熱伝導フィラー(E)としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化チタンなどの金属酸化物;窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素などの金属窒化物;金、銀、銅、アルミニウム、タングステン、チタン、ニッケル、鉄などの金属及びこれらの2種以上の合金;黒鉛(グラファイト)、カーボンファイバー、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素化合物等が挙げられる。熱伝導フィラー(E)は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、電子機器用途など絶縁性を求められる場合には、金属酸化物及び/または金属窒化物を含むことが好ましく、さらに材料コストの観点から酸化アルミニウム(アルミナ)を含むことがより好ましい。粒状物である熱伝導フィラー(E)の充填率を高め、熱伝導率を高くする観点から、その平均粒径は、好ましくは5μm以上100μm以下、より好ましくは10μm以上15μm以下である。さらに同様の観点から、熱伝導フィラー(E)の形状は球状であることが好ましく、また、複数の粒径の熱伝導フィラーを混合して使用することができる。
【0031】
組成物(X)における熱伝導フィラー(E)の含有量は、所望の熱伝導性特性を得て、高い可撓性とともに優れた難燃性を得る観点から、ベースポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは500質量部以上1000質量部以下、より好ましくは700質量部以上950質量部以下である。
【0032】
硬化剤(F)としては、例えば、アミン、金属触媒等が挙げられる。アミンとしては、例えば、モノアミン、ジアミン、トリアミン、環状アミン、アルコールアミン、エーテルアミン等が挙げられる。硬化剤(F)は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、環境負荷が大きい重金属を用いないという観点から、アミンを含むことが好ましく、ジアミンを含むことがより好ましく、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)を含むことが更に好ましい。
【0033】
組成物(X)における硬化剤(F)の含有量は、適度な硬化速度を得る、すなわち組成物の混合中には硬化せず、成形作業が完了するまでに硬化が完了するように調整すればよく、例えば手作業で混合とプレスを行う場合には、ベースポリマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.8質量部以上1.2質量部以下である。
【0034】
組成物(X)は、その他に酸化防止剤等を含有していてもよい。
【0035】
実施形態に係る熱伝導性弾性体は、第1ポリマー成分(A1)の末端の水酸基との反応により第2ポリマー成分(A2)の不飽和カルボン酸等がエステル化して組成物(X)が硬化することにより形成されたものである。実施形態に係る熱伝導性弾性体では、第1ポリマー成分(A1)と第2ポリマー成分(A2)とがエステル結合して網目状に連結された分子構造のマトリクスが形成される。
【0036】
実施形態に係る熱伝導性弾性体の熱伝導率は、好ましくは2.0W/m・K以上である。この熱伝導率は、樹脂材料熱抵抗測定装置を用いた測定から、後述の実施例に示した方法により求められる。
【0037】
実施形態に係る熱伝導性弾性体のタイプCのゴム硬度計を用いて測定される硬さは、好ましくは84HsC以下である。この硬さは、JIS K7312:1996に基づいて測定される。
【0038】
実施形態に係る熱伝導性弾性体の燃焼性は、UL94V燃焼試験(20mm垂直燃焼試験:ASTM D3801準拠)において、V-0の燃焼性分類に属することが好ましい。
【0039】
次に、実施形態に係る熱伝導性弾性体の製造方法について説明する。
【0040】
まず、硬化前の組成物(X)を作製する。この組成物(X)の作製は、この段階で硬化剤(F)が第2ポリマー成分(A2)やリン酸系可塑剤(B)と反応するのを抑制する観点から、第1ポリマー成分(A1)と硬化剤(F)とを含有する第1材料を混練して作製するとともに、第2ポリマー成分(A2)とリン酸系可塑剤(B)とを含有する第2材料を混練して作製した後、それらの第1材料と第2材料とを混合するステップを含むことが好ましい。この場合、その他の吸熱剤(C)、チクソ剤(D)、及び熱伝導フィラー(E)については、それぞれ第1材料と第2材料との混合前の第1材料及び/又は第2材料に添加して混練してもよく、また、第1材料と第2材料との混合後の混合物に添加して混練してもよい。吸熱剤(C)、チクソ剤(D)、及び熱伝導フィラー(E)の分散性の観点からは、前者が好ましく、特に、添加量が多い熱伝導フィラー(E)については、第1材料及び第2材料の両方に分けて添加することが好ましい。
【0041】
また、組成物(X)の作製時に、第1材料と第2材料の混合比の計量を容易にするためには、体積比が整数比となるように、第1材料、第2材料それぞれに含まれる熱伝導フィラーの量を調整することが望ましい。
【0042】
なお、組成物(X)の作製は、第1ポリマー成分(A1)及び第2ポリマー成分(A2)、並びにリン酸系可塑剤(B)、吸熱剤(C)、チクソ剤(D)、熱伝導フィラー(E)、及び硬化剤(F)の全ての成分を同時に混練してもよく、また、第1ポリマー成分(A1)及び第2ポリマー成分(A2)、並びにリン酸系可塑剤(B)、吸熱剤(C)、チクソ剤(D)、及び熱伝導フィラー(E)の硬化剤(F)以外の成分を混練した後、最後に硬化剤(F)を添加して混練してもよい。
【0043】
そして、作製した組成物(X)をプレス成形や押出成形等により所定形状に成形し、第1ポリマー成分(A1)の末端の水酸基との反応により第2ポリマー成分(A2)の不飽和カルボン酸等をエステル化させて硬化させることにより熱伝導性弾性体を得る。このとき、第1ポリマー成分(A1)と第2ポリマー成分(A2)との反応を促進する観点からは、組成物(X)を加熱することが好ましい。その温度は、例えば40℃以上100℃以下である。
【実施例0044】
(熱伝導性弾性体)
以下の実施例1乃至6及び比較例1乃至3の熱伝導性弾性体を作製した。それぞれの構成は表1にも示す。また、各成分には、次の市販材料を使用した。
【0045】
第1ポリマー成分(A1):末端に水酸基を有する液状ポリブタジエン、POLYVEST HT、エボニック社製
第2ポリマー成分(A2):無水マレイン酸が付加した液状ポリブタジエン、POLYVEST MA75、エボニック社製
非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1):トリクレジルホスフェート、TCP、第八化学工業社製
縮合リン酸エステル系可塑剤(B2):レゾルシノールポリフェニルホスフェート、アデカスタブ PFR、ADEKA社製
吸熱剤(C)-1:水酸化アルミニウム、ハイジライト H-42M、昭和電工社製、平均粒径:1μm
吸熱剤(C)-2:水酸化アルミニウム、BW53、日本軽金属社製、平均粒径:54μm
チクソ剤(D):シラン処理されたベントナイト、ベンゲルSH、ホージュン社製
熱伝導フィラー(E)-1:アルミナ V325F、日本軽金属社製、平均粒径:12μm
熱伝導フィラー(E)-2:球状アルミナ DAM-10、デンカ社製、平均粒径:10μm
硬化剤(F):テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、和光純薬社製
フェノール系酸化防止剤:アデカスタブ AO-60、ADEKA社製
【0046】
【表1】
【0047】
<実施例1>
第1ポリマー成分(A1)/第2ポリマー成分(A2)の質量比を45/55としてベースポリマー(A)を構成し、このベースポリマー(A)100質量部に対し、非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)を40質量部、縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)を20質量部、吸熱剤(C)-1を100質量部、チクソ剤(D)を10質量部、熱伝導フィラー(E)-1を900質量部、及び硬化剤(F)を1質量部それぞれ添加した組成物(X)を作製した。このとき、第1ポリマー成分(A1)と、熱伝導フィラー(E)-1の半量と、硬化剤(F)とを含有する第1材料を作製するとともに、第2ポリマー成分(A2)と、非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)及び縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)のリン酸系可塑剤(B)と、吸熱剤(C)-1と、チクソ剤(D)と、熱伝導フィラー(E)-1の残りの半量とを含有する第2材料を作製し、これらの第1材料と第2材料とを混合して組成物(X)を得た。そして、この組成物(X)を用いてプレス成形によりシート状の熱伝導性弾性体を作製し、これを実施例1とした。
【0048】
<実施例2>
ベースポリマー(A)の第1ポリマー成分(A1)/第2ポリマー成分(A2)の質量比を55/45とし、組成物(X)では、ベースポリマー(A)100質量部に対し、吸熱剤(C)-1に代えて吸熱剤(C)-2を150質量部、チクソ剤(D)を5質量部、熱伝導フィラー(E)-1を720質量部、及びフェノール系酸化防止剤を3質量部それぞれ添加したことを除いて実施例1と同様のシート状の熱伝導性弾性体を作製し、これを実施例2とした。なお、フェノール系酸化防止剤については、第1材料に半量及び第2材料に残りの半量をそれぞれ添加した。
【0049】
<実施例3>
組成物(X)では、縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)を添加せず、ベースポリマー(A)100質量部に対し、非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)を60質量部、吸熱剤(C)-1に代えて吸熱剤(C)-2を100質量部、チクソ剤(D)を5質量部、熱伝導フィラー(E)-1を850質量部、及びフェノール系酸化防止剤を3質量部それぞれ添加したことを除いて実施例1と同様のシート状の熱伝導性弾性体を作製し、これを実施例3とした。
【0050】
<実施例4>
ベースポリマー(A)の第1ポリマー成分(A1)/第2ポリマー成分(A2)の質量比を50/50としたことを除いて実施例3と同様のシート状の熱伝導性弾性体を作製し、これを実施例4とした。
【0051】
<実施例5>
ベースポリマー(A)の第1ポリマー成分(A1)/第2ポリマー成分(A2)の質量比を60/40としたことを除いて実施例2と同様のシート状の熱伝導性弾性体を作製し、これを実施例5とした。
【0052】
<実施例6>
組成物(X)では、ベースポリマー(A)100質量部に対し、非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)を30質量部、縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)を30質量部、及び熱伝導フィラー(E)-1に代えて熱伝導フィラー(E)-2を730質量部それぞれ添加したことを除いて実施例2と同様のシート状の熱伝導性弾性体を作製し、これを実施例6とした。
【0053】
<比較例1>
組成物(X)では、縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)、吸熱剤(C)-1、及びチクソ剤(D)を添加せず、ベースポリマー(A)100質量部に対し、非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)を85質量部、及び熱伝導フィラー(E)-1を1050質量部それぞれ添加したことを除いて実施例1と同様のシート状の熱伝導性弾性体を作製し、これを比較例1とした。
【0054】
<比較例2>
組成物(X)では、ベースポリマー(A)100質量部に対し、チクソ剤(D)を10質量部、及び熱伝導フィラー(E)-1を1000質量部それぞれ添加したことを除いて比較例1と同様のシート状の熱伝導性弾性体を作製し、これを比較例2とした。
【0055】
<比較例3>
組成物(X)では、ベースポリマー(A)100質量部に対し、非縮合リン酸エステル系可塑剤(B1)に代えて縮合リン酸エステル系可塑剤(B2)を85質量部、及び熱伝導フィラー(E)-1を1000質量部それぞれ添加したことを除いて比較例1と同様のシート状の熱伝導性弾性体を作製し、これを比較例3とした。
【0056】
(試験方法及び試験結果)
実施例1乃至6及び比較例1乃至3のそれぞれについて、以下の熱伝導率、硬さ、及び難燃性の試験を行った。試験結果は表2に示す。
【0057】
<熱伝導率>
熱伝導率の測定には、樹脂材料熱抵抗測定装置(日立テクノロジーアンドサービス社製)を用いた。具体的には、厚さ2mmの10mm角の試験片を銅柱に挟み、一方の銅柱の端をヒーターで加熱するとともに他方の銅柱を冷却し、試料温度が50℃となるように調整し、このとき、銅柱に取り付けた複数の熱電対で銅柱の温度勾配を読み取った。そして、試料の厚さ方向に発生した温度勾配を計算し、それに基づいて熱伝導率を求めた。
【0058】
<硬さ>
硬さは、JIS K7312:1996に基づいて、タイプCのゴム硬度計(アスカー社製)を用いて測定した。そして、硬さが84HsC以下のものを評価A及び84HsCを超えるものを評価Bとした。
【0059】
<難燃性>
UL94V燃焼試験(20mm垂直燃焼試験:ASTM D3801準拠)を実施した。そして、炎を離してから10秒以内に自己消火したものを評価A及び自己消火しなかったものを評価Bとした。また、滴下物による綿着火のなかったものを評価A及び綿着火のあったものを評価Bとした。
【0060】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、熱伝導性弾性体及びその製造方法並びにそれを用いた放熱部品の技術分野について有用である。