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特開2023-167610木本植物の苗の製造方法、天然ゴムの製造方法、空気入りタイヤの製造方法、ゴム製品の製造方法、及び、パラゴムノキの苗
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167610
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】木本植物の苗の製造方法、天然ゴムの製造方法、空気入りタイヤの製造方法、ゴム製品の製造方法、及び、パラゴムノキの苗
(51)【国際特許分類】
   A01G 2/10 20180101AFI20231116BHJP
   A01G 24/42 20180101ALI20231116BHJP
【FI】
A01G2/10
A01G24/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078921
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岡田 明里
(72)【発明者】
【氏名】東野 薫
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022BA02
2B022BA15
2B022BB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗を生産性良く製造可能な木本植物の苗の製造方法、該製造方法を用いた天然ゴムの製造方法、空気入りタイヤの製造方法、ゴム製品の製造方法を提供する。
【解決手段】木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培する栽培工程を含む木本植物の苗の製造方法。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培する栽培工程を含む木本植物の苗の製造方法。
【請求項2】
前記培地成分が、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、これら以外の微量元素、ビタミン類、炭素源、アミノ酸、及び植物ホルモンからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1記載の木本植物の苗の製造方法。
【請求項3】
前記固形培地の湿潤密度が0.4~1.0g/cmである請求項1又は2記載の木本植物の苗の製造方法。
【請求項4】
前記固形培地の平均粒径が0.25~8.0mmである請求項1~3のいずれかに記載の木本植物の苗の製造方法。
【請求項5】
前記固形培地が培養土である請求項1~4のいずれかに記載の木本植物の苗の製造方法。
【請求項6】
前記栽培工程において、深さが15cm以上となるように前記固形培地が充填された培養器で前記幼植物を栽培する請求項1~5のいずれかに記載の木本植物の苗の製造方法。
【請求項7】
前記木本植物がHevea属に属する植物である請求項1~6のいずれかに記載の木本植物の苗の製造方法。
【請求項8】
前記木本植物がパラゴムノキである請求項1~6のいずれかに記載の木本植物の苗の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の苗の製造方法により苗を製造する植物体製造工程と、
植物体製造工程により得られた苗を用いて天然ゴムを製造する天然ゴム製造工程とを含む天然ゴムの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程、該工程により得られる天然ゴムと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び前記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
請求項9記載の天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程、該工程により得られる天然ゴムと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び前記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法。
【請求項12】
根の基部付近に接合部を有さず、かつ根の基部付近で直根性が見られ、
地上部の高さと、根の長さの比率が1:1以上であるパラゴムノキの苗。
【請求項13】
主根を有する請求項12記載のパラゴムノキの苗。
【請求項14】
前記地上部と前記根が遺伝子的に同一である請求項12又は13記載のパラゴムノキの苗。
【請求項15】
クローン植物である請求項12~14のいずれかに記載のパラゴムノキの苗。
【請求項16】
親株の遺伝子の保有率が99%以上である請求項12~15のいずれかに記載のパラゴムノキの苗。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木本植物の苗の製造方法、天然ゴムの製造方法、空気入りタイヤの製造方法、ゴム製品の製造方法、及び、パラゴムノキの苗に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工業用ゴム製品に用いられている天然ゴム(ポリイソプレノイドの1種)は、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)や桑科植物のインドゴムノキ(Ficus elastica)などのゴム産生植物を栽培し、その植物体が有する乳管細胞で天然ゴムを生合成させ、該天然ゴムを植物から手作業により採取することにより得られる。
【0003】
現状、工業用天然ゴムは、パラゴムノキをほぼ唯一の採取源としている。またゴム製品の主原料として、様々な用途において幅広くかつ大量に用いられている。しかしながら、パラゴムノキは東南アジアや南米などの限られた地域でのみ生育可能な植物である。更に、パラゴムノキは、植樹からゴムの採取が可能な成木になるまでに7年程度を要し、また、採取出来る季節が限られる場合がある。また、成木から天然ゴムを採取できる期間は20~30年に限られる。
【0004】
今後、開発途上国を中心に天然ゴムの需要の増大が見込まれており、天然ゴム資源の枯渇が懸念されていることから、安定的な天然ゴムの供給源が望まれている。
【0005】
このような状況下において、パラゴムノキによる天然ゴムの増産を図る動きが見られる。パラゴムノキは、播種により実生苗を育成させ成長させた後台木とし、クローン苗から得た芽を台木に接ぎ木することで苗を増殖させる。しかしながら、接ぎ穂は、台木の影響を受ける場合があるため、真のクローン苗とはならない。
【0006】
一方、組織培養を利用したクローン苗を増殖させる方法としてマイクロプロパゲーションがある。マイクロプロパゲーション技術では無菌での組織培養で苗を増殖させる。具体的には、増殖させようとする植物の個体から採取した芽、茎端等の組織を培養してシュートを誘導し、最終的にシュートを発根させ、幼植物が得られる。この手法では、真のクローン苗が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、木本植物のシュート由来の幼植物は、根の成長が十分ではない場合があり、植物の生育が遅くなりやすいことが判明した。そのため、木本植物のシュート由来の幼植物を商業的に利用しようとした場合、根の成長、生育の遅延が大きな問題となり、木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗を生産性良く製造するという点では改善の余地がある。
本発明は、本発明者らが見出した新たな課題を解決し、木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗を生産性良く製造可能な木本植物の苗の製造方法、該製造方法を用いた天然ゴムの製造方法、空気入りタイヤの製造方法、ゴム製品の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明はまた、新規なパラゴムノキの苗を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、本発明者らが見出した新たな課題を解決するために鋭意検討した結果、木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培することにより、地上部の生育よりも遅れがちな発根や根の発達が促進され、地上部の生育と根の生育のバランスが良好となり、木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗を生産性良く製造可能であることを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培する栽培工程を含む木本植物の苗の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の木本植物の苗の製造方法は、木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培する栽培工程を含むため、木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗を生産性良く製造できる。
【0012】
本発明の天然ゴムの製造方法は、前記苗の製造方法により苗を製造する植物体製造工程を含むため、天然ゴムを生産性良く製造できる。
【0013】
本発明の空気入りタイヤの製造方法は、前記天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程を含むため、空気入りタイヤを生産性良く製造できる。
【0014】
本発明のゴム製品の製造方法は、前記天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程を含むため、ゴム製品を生産性良く製造できる。
【0015】
本発明のパラゴムノキの苗は、土壌への活着率に優れ、また幼苗期の成長に優れた苗である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】根の基部付近の一例を示す写真である。
図2】接合部を有する場合の一例を示す写真である。
図3】接合部を有さない場合の一例を示す写真である。
図4】根の基部付近で直根性が見られる場合の一例を示す写真である。
図5】根の基部付近で直根性が見られない場合の一例を示す写真である。
図6】固形培地(液体培地添加後のバーミキュライト)で幼植物を栽培している様子の一例を示す写真である。
図7】実施例の苗の様子を示す写真である。
図8】比較例1の苗の様子を示す写真である。
図9】比較例2の苗の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<木本植物の苗の製造方法>
本発明の木本植物の苗の製造方法(木本植物の根の成長促進方法)は、木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培する栽培工程を含む。これにより、地上部の生育よりも遅れがちな発根や根の発達が促進され、地上部の生育と根の生育のバランスが良好となり、木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗を生産性良く製造できる。
なお、本発明の木本植物の苗の製造方法は、前記栽培工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。
【0018】
本発明において、前記効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。
木本植物のシュート由来の幼植物を、固形培地で栽培することで、有形物である固形培地と根が接触することとなり、根(特に根冠)に対して、固形培地との接触、摩擦等による物理的な刺激が与えられ、その結果、発根や根の成長、発達が促進され、根の生育が促進される。このように、有形物である固形培地と根が接触することにより、根の生育が促進される。
更に、木本植物のシュート由来の幼植物は、特に栽培初期の段階では、根の成長が十分ではない場合があり、幼植物が必要な栄養素を十分に根から吸収することができないおそれがあるが、固形培地に含まれる培地成分により、根の成長が十分ではない場合であっても、必要な栄養素を根から吸収することが可能となり、根の生育が促進されると共に、地上部の生育も行うことができる。このように、固形培地に含まれる培地成分により、根の生育が促進されると共に、地上部の生育も行うことができる。
以上の通り、固形培地で栽培すること、固形培地に含まれる培地成分の相乗作用により、地上部の生育よりも遅れがちな発根や根の発達が促進され、地上部の生育と根の生育のバランスが良好となり、木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗を生産性良く製造できる。
【0019】
マイクロプロパゲーション技術を用いる場合、増殖させようとする植物の個体から採取した芽等の組織を試験管で培養してシュートを誘導し、最終的にシュートを発根させ、幼植物が得られる。そして、この幼植物を更に生育させて苗を製造することとなる。ここで、この幼植物を土耕栽培する場合、幼植物の根の生育が不十分な状態で土耕栽培を行うと、幼植物の生育が著しく遅くなったり、枯死したりしてしまうため、従来技術では、幼植物の根がある程度伸長するまで、発根後1~数ヶ月に渡って幼植物を試験管で培養した後、土耕栽培を行っていた。
一方、前記製造方法では、例えば、試験管内で発根が見られた直後の非常に幼い木本植物のシュート由来の幼植物であっても、固形培地に含まれる培地成分によって、根の生育を促進できるため、従来行われていた手法に比べて、試験管培養から土壌などでの栽培へ移行する時期を大幅に(1~数ヶ月も)早めることができると共に、木本植物のシュート由来の幼植物をより短時間で生育でき、木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗を生産性良く製造できる。前記製造方法では、従来技術のように、発根後1~数ヶ月に渡って幼植物を試験管で培養する必要が無くなったため、少なくとも1~数ヶ月間も製造期間を短縮できる。
【0020】
また、前記製造方法により製造される木本植物の苗は、地上部の生育と根の生育のバランスが良好であり、更には、主根、側根の発達も良好であるため、土壌への活着率に優れ、また幼苗期の成長に優れる。
【0021】
本明細書においてシュートとは、頂芽、腋芽、不定芽の他、多芽体又は苗条原基より分化してきた芽、及びこれらの芽が伸長した状態のものを意味する。
本明細書において、幼植物とは、発根したシュートを意味する。なお、本明細書における幼植物には、発根したシュートに加えて、発根したシュートに対して土耕栽培を行って、生育不良傾向となったものも含まれる。
本明細書において、地上部とは、茎及び茎についている葉を意味する。
【0022】
本発明の製造方法が適用できる植物(シュートの由来植物)は、特に限定されないが、木本植物であることが好ましい。
前記木本植物としては、特に制限されず、落葉樹、常緑樹の広い範囲の種類及び品種の木本植物を挙げることができるが、特に、ゴムを資源として採取できるゴムノキであることが好ましく、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)等のHevea属;イチジク(Ficus carica)、インドゴムノキ(Ficus elastica)、オオイタビ(Ficus pumila L.)、イヌビワ(Ficus erecta Thumb.)、ホソバムクイヌビワ(Ficus ampelas Burm.f.)、コウトウイヌビワ(Ficus benguetensis Merr.)、ムクイヌビワ(Ficus irisana Elm.)、ガジュマル(Ficus microcarpa L.f.)、オオバイヌビワ(Ficus septica Burm.f.)、ベンガルボダイジュ(Ficus benghalensis)等のFicus属;グアユール(Parhenium argentatum)がより好ましい。更に好ましくは、Hevea属に属する植物等のトウダイグサ科(Euphorbiaceae)に属する植物であり、特に好ましくは、Hevea属に属する植物である。なかでも、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)が最も好ましい。
【0023】
前記シュートを誘導するための材料としては、植物の葉柄、葉片、体細胞胚の胚軸、節、腋芽、頂芽等の植物の組織が挙げられる。なかでも、シュートを安定的に誘導することが可能であることから、節、腋芽、又は頂芽を含む組織が好ましい。具体的には、成木や幼木、苗木、クローン苗、又は試験管内で実生苗から生育させた無菌苗(無菌実生苗)由来の前記組織などが挙げられる。
【0024】
成木や幼木、苗木、又はクローン苗由来の前記組織を使用する場合には、適宜必要な大きさに切断した後、表面を殺菌又は滅菌することで使用することができるが、試験管内で実生苗から生育させた無菌苗(無菌実生苗)由来の前記組織を使用する場合には、適宜必要な大きさに切断した後に使用することが可能である。
【0025】
成木や幼木、苗木、又はクローン苗由来の前記組織を用いる場合、後述する誘導培地で培養する前にまず、組織の表面を洗浄する。例えば、磨き粉で洗浄したり、柔らかいスポンジで洗浄したりしても良いが、流水で洗浄するのが好ましい。当該洗浄用の水は、界面活性剤を約0.1質量%含むものであってもよい。
【0026】
次に、組織を殺菌又は滅菌する。殺菌又は滅菌は、周知の殺菌剤、滅菌剤を用いて行うことができるが、エタノール、塩化ベンザルコニウム、次亜塩素酸ナトリウム水溶液が好ましい。なお、殺菌又は滅菌処理の後、更に滅菌水で洗浄してもよい。
【0027】
前記洗浄、殺菌又は滅菌処理を行う具体例として例えば以下の手順が挙げられる。流水で組織の表面を洗浄した後、エタノールで洗浄。次いで次亜塩素酸ナトリウム水溶液で必要に応じて撹拌しながら滅菌。その後、滅菌水を用いて洗浄。
【0028】
シュートの誘導方法は特に限定されないが、前記組織などからシュートを誘導する誘導工程の一例について説明する。
【0029】
(誘導工程)
誘導工程では、前記組織を、植物ホルモン及び炭素源を含む誘導培地で培養することにより、シュートを誘導、形成させる。なお、誘導培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地に前記組織を差し込んで培養することでシュートを誘導しやすくなるため、固体培養が好ましい。また、誘導培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
また、殺菌又は滅菌処理を行った組織を用いる場合には、殺菌剤、滅菌剤の影響を除くため切り口を切除して培養に用いるのが好ましい。
【0030】
植物ホルモン(植物生長ホルモン)としては、例えば、オーキシン系植物ホルモン及び/又はサイトカイニン系植物ホルモンが挙げられる。中でも、サイトカイニン系植物ホルモンを用いることが好ましい。
【0031】
オーキシン系植物ホルモンとしては、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸、インドール-3-酢酸、インドールプロピオン酸、クロロフェノキシ酢酸、ナフトキシ酢酸、フェニル酢酸、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、パラクロロフェノキシ酢酸、2-メチル-4-クロロフェノキシ酢酸、4-フルオロフェノキシ酢酸、2-メトキシ-3,6-ジクロロ安息香酸、2-フェニル酸、ピクロラム、ピコリン酸等が挙げられる。なかでも、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸が好ましく、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸がより好ましい。
【0032】
サイトカイニン系植物ホルモンとしては、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチン、ベンジルアミノプリン、イソペンテニルアミノプリン、チジアズロン、イソペンテニルアデニン、ゼアチンリボシド、ジヒドロゼアチン等が挙げられる。なかでも、ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチンが好ましく、ベンジルアデニン、カイネチンがより好ましく、ベンジルアデニンが更に好ましい。
【0033】
炭素源としては、特に限定されず、スクロース、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、マルトース等の糖類が挙げられる。なかでも、スクロースが好ましい。
【0034】
誘導培地は、前記組織への成長阻害物質の蓄積を防止するために、更に活性炭を含むことが好ましい。また、シュートの形成を促進するために、更に硝酸銀を含むことが好ましい。更には、シュートの形成を促進するために、ココナッツウォーター(ココナッツミルク)を含んでもよい。
【0035】
誘導培地としては、Whiteの培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Hellerの培地(Heller R, Bot.Biol.Veg.Paris 14 1-223(1953))、SH培地(SchenkとHildebrandtの培地)、MS培地(MurashigeとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、LS培地(LinsmaierとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Gamborg培地、B5培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、MB培地(Biotechnology in Agriculture and Forestry volum5(TreesII)p222-245に記載)、WP培地(Woody Plant:木本類用)等の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に植物ホルモンを加えたものを使用すればよい。なかでも、MS培地、B5培地、WP培地、MB培地に植物ホルモンを加えたものが好ましく、MS培地、その組成に変更を加えたMS改変培地、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に植物ホルモンを加えたものがより好ましい。
【0036】
誘導培地を固体培地とする場合、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、アガー、フィタゲル等が挙げられる。
【0037】
好適な誘導培地の組成及び培養条件は、植物種により異なり、また培地が液体培地であるか固体培地であるかによっても異なるが、通常は(特に、ゴムノキの場合は)以下の組成である。
【0038】
誘導培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下である。なお、本明細書において、炭素源の濃度とは、糖類の濃度を意味する。
【0039】
誘導培地にオーキシン系植物ホルモンを実質的に加えないことが好ましく、誘導培地中のオーキシン系植物ホルモンの濃度としては、具体的には、好ましくは1.0mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以下、更に好ましくは0.05mg/L以下、特に好ましくは0.01mg/L以下である。
【0040】
誘導培地にサイトカイニン系植物ホルモンを加える場合の、誘導培地中のサイトカイニン系植物ホルモンの濃度としては、好ましくは0.01mg/L以上、より好ましくは0.1mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上、特に好ましくは0.8mg/L以上、最も好ましくは3.0mg/L以上である。該サイトカイニン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは8.0mg/L以下、より好ましくは7.0mg/L以下、更に好ましくは6.0mg/L以下である。
特に、前記サイトカイニン系植物ホルモンとしてベンジルアデニンを使用する場合の、該ベンジルアデニンの濃度は、4.0~6.0mg/Lであることが好ましく、最も好ましくは、5.0mg/Lである。他方、前記サイトカイニン系植物ホルモンとしてカイネチンを使用する場合の、該カイネチンの濃度は、0.8~1.2mg/Lであることが好ましく、最も好ましくは、1.0mg/Lである。
【0041】
誘導培地中の活性炭の濃度は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上である。該活性炭の濃度は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0042】
誘導培地中の硝酸銀の濃度は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.3mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該硝酸銀の濃度は、好ましくは5.0mg/L以下、より好ましくは3.0mg/L以下である。
【0043】
誘導培地のpHは、4.0~10.0が好ましく、5.0~6.5がより好ましく、5.5~6.0が更に好ましい。
なお、本明細書において、固体培地のpHは、固形化剤を除く全成分を添加した培地のpHを意味する。
【0044】
誘導工程は、通常、温度、照明時間等の培養条件の管理された制御環境下で行われる。培養条件は適宜設定することができるが、例えば、培養温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、12.5μmol/m/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。培養時間は、特に限定されないが、1~10週間培養することが好ましく、3~5週間がより好ましい。
【0045】
固体培地の場合、誘導培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.8質量%以下である。
【0046】
上述の条件のなかでも、植物ホルモンがサイトカイニン系植物ホルモン(特に、ベンジルアデニン、又はカイネチン)で、その濃度が3.0~8.0mg/Lであり、培養温度が25~35℃であることが特に好ましい。
【0047】
以上のように、前記組織を前記誘導培地で培養することにより、シュートを誘導、形成することが可能である。
【0048】
シュートから幼植物を得る方法は特に限定されないが、以下において、シュートから幼植物を得る方法の一例について説明する。
形成されたシュートはこのまま後述する培養工程に供してもよいが、培養工程の前に以下の浸漬処理工程に供することが好ましい。これにより、より好適に幼植物が得られる傾向がある。
【0049】
(浸漬処理工程)
浸漬処理工程では、オーキシン系植物ホルモンを含有するオーキシン溶液にシュートを浸漬する。
具体的には、誘導工程等により得られたシュート(例えば、2cm程度のシュートの切片)をオーキシン溶液に浸漬すればよい。
シュートをオーキシン溶液に浸漬する際、シュートの切片の端部、すなわち、シュートの切り口がオーキシン溶液に浸かる状態で浸漬することが好ましい。
また、シュートをオーキシン溶液に浸漬する際、シュートを静置して行ってもよく、シュートを振とうして行ってもよい。
【0050】
前記浸漬処理工程を行う時間は、好ましくは24時間以上、より好ましくは40時間以上、更に好ましくは60時間以上、特に好ましくは70時間以上であり、好ましくは168時間以下、より好ましくは150時間以下、更に好ましくは130時間以下、特に好ましくは100時間以下、最も好ましくは90時間以下、より最も好ましくは80時間以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0051】
浸漬処理工程は、温度、照明時間等が管理された制御環境下で行われることが好ましい。例えば、浸漬処理工程を行う温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。浸漬処理工程は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、5~20μmol/m/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。
【0052】
浸漬処理工程に供されるシュートとしては、特に限定されず、どのような方法により形成されたシュートであっても用いることができ、例えば、前記誘導工程等により得られたシュートが挙げられる。
また、浸漬処理工程に供されるシュートとしては、シュートの切片であることが好ましい。例えば、シュートを誘導するための材料として用いられた腋芽等の組織から切断されたシュートの切片が好ましい。
また、誘導培地で培養した期間が6ヶ月以内のシュートを用いることも好ましい。
【0053】
浸漬処理工程に供されるシュート(シュートの切片)の長さは、好ましくは10mm以上、より好ましくは15mm以上、更に好ましくは20mm以上であり、好ましくは100mm以下、より好ましくは80mm以下、更に好ましくは50mm以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0054】
オーキシン溶液が含有するオーキシン系植物ホルモンとしては、前記誘導培地に用いられるオーキシン系植物ホルモンと同様のものを用いることができる。なかでも、インドール-3-酪酸、1-ナフタレン酢酸が好ましく、インドール-3-酪酸及び1-ナフタレン酢酸を併用することが好ましい。
【0055】
オーキシン溶液中のオーキシン系植物ホルモンの濃度は、好ましくは15mg/L以下、より好ましくは12mg/L以下であり、好ましくは1.0mg/L以上、より好ましくは3.0mg/L以上、更に好ましくは5.0mg/L以上、特に好ましくは8.0mg/L以上である。これにより、より良好な発根率が得られる。
ここで、複数のオーキシン系植物ホルモンを使用する場合、オーキシン系植物ホルモンの濃度とは、オーキシン系植物ホルモンの合計濃度を意味する。
【0056】
オーキシン系植物ホルモンとして、インドール-3-酪酸及び1-ナフタレン酢酸を併用する場合、
オーキシン溶液中のインドール-3-酪酸の濃度は、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは7.5mg/L以下、更に好ましくは6.0mg/L以下であり、好ましくは1.0mg/L以上、より好ましくは2.5mg/L以上、更に好ましくは3.0mg/L以上、特に好ましくは4.0mg/L以上であり、
オーキシン溶液中の1-ナフタレン酢酸の濃度は、好ましくは10mg/L以下、より好ましくは7.5mg/L以下、更に好ましくは6.0mg/L以下であり、好ましくは1.0mg/L以上、より好ましくは2.5mg/L以上、更に好ましくは3.0mg/L以上、特に好ましくは4.0mg/L以上である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0057】
オーキシン溶液は、オーキシン系植物ホルモンを含有していればよく、オーキシン系植物ホルモンを溶解させる分散媒としては、特に限定されないが、水、等張液、緩衝液、組織培養用培地などが挙げられる。等張液としては、例えばKCl、NaCl、CaCl2、MgCl2などの無機塩を添加して0.01~7M、好ましくは、0.5~2Mにした液体が挙げられる。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、MES緩衝液などが挙げられる。組織培養用培地としては、上述の培地などが挙げられる。なかでも、効果がより好適に得られるという理由から、水が好ましい。すなわち、オーキシン溶液が、オーキシン系植物ホルモンを水に溶解させた水溶液であることが好ましい。
【0058】
オーキシン系植物ホルモン以外にオーキシン溶液に配合できる成分は特に限定されないが、グルタチオンが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン及びグリシンを構成アミノ酸とするトリペプチドで、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン(グルタチオンジスルフィド)、及びこれらの混合物のいずれでもよいが、還元型グルタチオンが好ましい。
【0059】
オーキシン溶液中のグルタチオンの濃度は、好ましくは10μmol/L以上、より好ましくは30μmol/L以上、更に好ましくは40μmol/L以上、特に好ましくは60μmol/L以上、最も好ましくは80μmol/L以上であり、好ましくは500μmol/L以下、より好ましくは400μmol/L以下、更に好ましくは300μmol/L以下、特に好ましくは200μmol/L以下、最も好ましくは150μmol/L以下である。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0060】
オーキシン溶液にはオーキシン系植物ホルモン以外の植物ホルモンを使用することも可能である。オーキシン溶液に使用できるサイトカイニン系植物ホルモンとしては、前記誘導培地に用いられるサイトカイニン系植物ホルモンと同様のものを用いることができるが、オーキシン溶液にはオーキシン系植物ホルモン以外の植物ホルモンを使用しないことが好ましい。
【0061】
オーキシン溶液中のオーキシン系植物ホルモン以外の植物ホルモンの濃度は、好ましくは2.0mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下、更に好ましくは0.1mg/L以下、特に好ましくは0.08mg/L以下、最も好ましくは0mg/Lである。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0062】
(培養工程)
培養工程では、前記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを発根誘導培地で培養することにより発根させる。
なお、発根誘導培地は、液体であっても固体であってもよいが、培地にシュートを差し込んで培養することで発根させやすくなるため、固体培養が好ましい。また、発根誘導培地が液体培地である場合には、静置培養を行ってもよく、振とう培養を行ってもよい。
【0063】
培養工程に供されるシュートは、前記浸漬処理工程により浸漬されたシュートであれば特に限定されない。なかでも、前記浸漬処理工程においてシュートを浸漬することにより、シュートの基部に組織塊が形成されたシュートが好ましい。更には、シュートの基部に既に組織塊が形成されているシュートを前記浸漬処理工程に用いることもより好ましい。
【0064】
発根誘導培地は、炭素源を含むものである。
【0065】
発根誘導培地に用いられる植物ホルモンとしては、特に限定されず、前記誘導培地に用いられる植物ホルモン(オーキシン系植物ホルモン、サイトカイニン系植物ホルモン)と同様のものを用いることができる。
【0066】
発根誘導培地に用いられる炭素源としては、特に限定されず、前記誘導培地に用いられる炭素源と同様のものを用いることができるが、なかでもスクロースが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0067】
発根誘導培地は、前記誘導培地同様、更に、活性炭、硝酸銀を含むことが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0068】
発根誘導培地は、前記オーキシン溶液同様、更に、グルタチオンを含むことが好ましい。これにより、より良好な発根率が得られる。
グルタチオンとしては、還元型グルタチオン、酸化型グルタチオン、及びこれらの混合物のいずれでもよいが、還元型グルタチオンが好ましい。
【0069】
発根誘導培地としては、前記誘導培地として用いられる基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等のベースとなる培地に炭素源を加えた同様のものを用いることができるが、なかでも、MS培地、B5培地、WP培地、MB培地に炭素源を加えたものが好ましく、MS培地、その組成に変更を加えたMS改変培地、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に炭素源を加えたものがより好ましく、MB培地又はその組成に変更を加えたMB改変培地に炭素源を加えたものが更に好ましい。
【0070】
発根誘導培地を固体培地とする場合、固形化剤を使用して培地を固体にすればよい。固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、アガー、フィタゲル等が挙げられる。
【0071】
好適な発根誘導培地の組成及び培養条件は、植物種により異なり、また培地が液体培地であるか固体培地であるかによっても異なるが、通常は(特に、ゴムノキの場合は)以下の組成である。
【0072】
発根誘導培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下である。
【0073】
発根誘導培地中の植物ホルモンの濃度は、好ましくは2.0mg/L以下、より好ましくは1.0mg/L以下、更に好ましくは0.1mg/L以下、特に好ましくは0.08mg/L以下、最も好ましくは0mg/Lである。これにより、より良好な発根率が得られる。
【0074】
発根誘導培地中の活性炭の濃度は、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.008質量%以上である。該活性炭の濃度は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0075】
発根誘導培地中の硝酸銀の濃度は、好ましくは0.1mg/L以上、より好ましくは0.3mg/L以上、更に好ましくは0.5mg/L以上である。該硝酸銀の濃度は、好ましくは5.0mg/L以下、より好ましくは3.0mg/L以下である。
【0076】
発根誘導培地中のグルタチオンの濃度は、好ましくは10μmol/L以上、より好ましくは30μmol/L以上、更に好ましくは40μmol/L以上、特に好ましくは60μmol/L以上、最も好ましくは80μmol/L以上であり、好ましくは500μmol/L以下、より好ましくは400μmol/L以下、更に好ましくは300μmol/L以下、特に好ましくは200μmol/L以下、最も好ましくは150μmol/L以下である。
【0077】
発根誘導培地のpHは、4.0~10.0が好ましく、5.0~6.5がより好ましく、5.5~6.0が更に好ましい。
【0078】
培養工程は、通常、温度、照明時間等の培養条件の管理された制御環境下で行われる。培養条件は適宜設定することができるが、例えば、培養温度は、0~40℃が好ましく、20~40℃がより好ましく、25~35℃が更に好ましい。培養は、暗所で行っても明所で行ってもよいが、光条件としては、例えば、5~20μmol/m/sの照明の下、14~16時間の明時間という条件などが挙げられる。培養時間は、特に限定されないが、1~10週間培養することが好ましく、4~8週間がより好ましい。
【0079】
なお、本明細書において、培養工程の培養時間については、発根誘導培地に前記浸漬処理工程により浸漬されたシュート(シュートの切片)を移植したときを培養開始(0時間)とし、培養期間3週間目は、培養開始後504時間、培養期間9週間目は、培養開始後1512時間を意味し、新たな発根誘導培地に移植した(植え替えた)際は培養期間をリセットせずに、培養期間を累積加算することとする。
【0080】
固体培地の場合、発根誘導培地中の固形化剤の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。該固形化剤の濃度は、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.1質量%以下、更に好ましくは0.75質量%以下である。
【0081】
上述の条件のなかでも、植物ホルモンの濃度が低いこと(実質的に含有しないこと)、グルタチオンを含有することが好ましく、植物ホルモンの濃度が低く(実質的に含有せず)、かつ、グルタチオンを含有することがより好ましい。
【0082】
以上のように、前記浸漬処理工程により浸漬されたシュートを前記発根誘導培地で培養することにより、発根させることが可能であり、発根させたシュート(幼植物)が得られ、完全なクローン苗が形成される。
【0083】
得られた幼植物(木本植物のシュート由来の幼植物)は、従来であれば、直接土壌に移植されるが、本発明では、以下の栽培工程に供する。
【0084】
(栽培工程)
栽培工程では、木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培する。
【0085】
栽培工程に供される幼植物は、木本植物のシュート由来の幼植物であれば特に限定されない。栽培工程に供される幼植物には、発根したシュートだけではなく、発根したシュートに対して通常の土耕栽培を行って、生育不良傾向となった植物も含まれる。
【0086】
栽培工程に供される幼植物は、葉の展開が完了していることが好ましい。ここで、本明細書において、葉の展開が完了しているとは、芽が伸長し、出葉してから葉の展開が完了していることを意味する。
【0087】
栽培工程に供される幼植物の根の長さは、好ましくは5.0cm以下、より好ましくは3.0cm以下、更に好ましくは2.0cm以下、特に好ましくは1.5cm以下であり、根原基であってもよいため、下限は特に限定されないが、好ましくは0.1cm以上、より好ましくは0.3cm以上、更に好ましくは0.5cm以上である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。また、前記製造方法では、例えば、試験管内で発根が見られた初期段階の非常に幼い木本植物のシュート由来の幼植物であっても、根の生育を促進できるため、前記特定値以下の長さの根しか有さないような発根したての幼植物であっても、根の生育を促進できる。
ここで、栽培工程に供される幼植物の根の長さは、栽培工程開始時の幼植物の根の長さを意味する。
【0088】
栽培工程に供される幼植物の地上部の高さは、好ましくは1m以下、より好ましくは50cm以下、更に好ましくは20cm以下であり、好ましくは1.5cm以上、より好ましくは3.0cm以上である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
ここで、栽培工程に供される幼植物の地上部の高さは、栽培工程開始時の幼植物の地上部の高さを意味する。
【0089】
固形培地としては、水に不溶な培地であれば特に限定されず、例えば、公知の培養土、具体的には、砂、ピートモス、活性炭、ドロマイト、イソライト、ベントナイト、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、セラミック、ココヤシ繊維、樹皮培地、もみ殻、ロックウール又はその他の各種土壌改良資材等から選ばれた少なくとも1種以上を適宜混合した培養土等を用いることができる。
【0090】
固形培地としては、前記培養土の他、粒状、フォーム状若しくはスポンジ状の樹脂などの樹脂培地;固形化剤を使用して液体培地(例えば、後述する基本培地)を固体にした培地等も使用できる。
固形培地は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、固形培地は、無圧縮で用いてもよく適当な圧縮倍率に圧縮して用いてもよい。
【0091】
前記樹脂としては、特に限定されず、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
前記固形化剤としては、特に限定されず、寒天、ゲランガム、アガロース、ゲルライト、ゼラチン、シリカゲル等が挙げられる。
【0092】
固形培地としては、培養土が好ましく、バーミキュライト、ピートモス、ロックウールがより好ましく、バーミキュライトが更に好ましい。
【0093】
培地成分を含有する固形培地の湿潤密度は、好ましくは0.4g/cm以上、より好ましくは0.5g/cm以上、更に好ましくは0.6g/cm以上であり、好ましくは1.0g/cm以下、より好ましくは0.9g/cm以下、更に好ましくは0.8g/cm以下である。これにより、適度に根への刺激を与えることができると共に、固形培地中に酸素も存在するため、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、培地成分を含有する固形培地の湿潤密度は、固形培地全体の単位体積当たりの質量を意味し、具体的には、JIS A 1225(2020) に準拠し、ノギス法により測定される。
【0094】
培地成分を含有する固形培地の平均粒径は、好ましくは0.25mm以上、より好ましくは0.5mm以上、更に好ましくは1.0mm以上であり、好ましくは8.0mm以下、より好ましくは6.0mm以下、更に好ましくは4.0mm以下である。これにより、適度に根への刺激を与えることができ、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、培地成分を含有する固形培地の平均粒径は、JIS Z 8815(1994)に準拠して測定される粒度分布から算出された質量基準の平均粒径である。
【0095】
培地成分を含有する固形培地が含有する培地成分としては、特に限定されず、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、これら以外の微量元素、ビタミン類、炭素源、アミノ酸、植物ホルモン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、培地成分が、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、これら以外の微量元素、ビタミン類、炭素源、アミノ酸、及び植物ホルモンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、炭素源、リン、カリウム、カルシウム、アミノ酸からなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、炭素源、リン、カリウム、カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種が更に好ましく、炭素源が特に好ましい。ここで、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム以外の微量元素としては、特に限定されず、例えば、銅、マンガン、コバルト、亜鉛、ホウ素、鉄等が挙げられる。
【0096】
炭素源としては、特に限定されず、スクロース(ショ糖)、グルコース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、マンノース、イドース、アラビノース、アピオース、マルトース等の糖類が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スクロースが好ましい。
【0097】
ビタミン類としては、特に限定されず、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、及びリボフラビン(ビタミンB2)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0098】
植物ホルモンとしては、特に限定されず、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレン酢酸、インドール-3-酪酸、インドール-3-酢酸、インドールプロピオン酸、クロロフェノキシ酢酸、ナフトキシ酢酸、フェニル酢酸、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、パラクロロフェノキシ酢酸、2-メチル-4-クロロフェノキシ酢酸、4-フルオロフェノキシ酢酸、2-メトキシ-3,6-ジクロロ安息香酸、2-フェニル酸、ピクロラム、ピコリン酸等のオーキシン系植物ホルモン;ベンジルアデニン、カイネチン、ゼアチン、ベンジルアミノプリン、イソペンテニルアミノプリン、チジアズロン、イソペンテニルアデニン、ゼアチンリボシド、ジヒドロゼアチン等のサイトカイニン系植物ホルモン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
培地成分を含有する固形培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、更に好ましくは6.0質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。なお、本明細書において、炭素源の濃度とは、糖類の濃度を意味する。
【0100】
培地成分を含有する固形培地としては、前記固形培地に液体培地を添加した培地を使用することが好ましい。
液体培地としては、特に限定されないが、例えば、Whiteの培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Hellerの培地(Heller R, Bot.Biol.Veg.Paris 14 1-223(1953))、SH培地(SchenkとHildebrandtの培地)、MS培地(MurashigeとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、LS培地(LinsmaierとSkoogの培地)(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、Gamborg培地、B5培地(植物細胞工学入門(学会出版センター)p20~p36に記載)、MB培地(Biotechnology in Agriculture and Forestry volum5(TreesII)p222-245に記載)、WP培地(Woody Plant:木本類用)等の基本培地や、該基本培地の組成に変更を加えた改変基本培地等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なかでも、植物の生育に必要な栄養素が含まれており、効果がより好適に得られるという理由から、液体培地としては、基本培地、改変基本培地が好ましく、改変基本培地がより好ましく、基本培地の成分を半減した1/2基本培地が更に好ましく、1/2MS培地が特に好ましい。
また、改変基本培地としては、基本培地又は1/2基本培地に炭素源が添加された培地も好ましく、1/2基本培地に炭素源が添加された培地もより好ましい。
【0101】
液体培地には、炭素源が添加されていることが好ましい。
液体培地中の炭素源の濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上である。該炭素源の濃度は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。なお、本明細書において、炭素源の濃度とは、糖類の濃度を意味する。
【0102】
固形培地への液体培地の添加量は、特に限定されないが、固形培地100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは30質量部以上であり、好ましくは95質量部以下、より好ましくは90質量部以下、更に好ましくは85質量部以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0103】
栽培工程では、発根や根の成長、発達が促進され、根の生育が促進されるため、この効果がより好適に得られ、更には、良好な直根性が得られるという理由から、培地成分を含有する固形培地の深さは深いことが好ましい。具体的には、栽培工程において、培地成分を含有する固形培地の深さが10cm以上となるように培地成分を含有する固形培地が充填された培養器で幼植物を栽培することが好ましく、培地成分を含有する固形培地の深さが15cm以上となるように培地成分を含有する固形培地が充填された培養器で幼植物を栽培することがより好ましく、上限は限定されない。
【0104】
栽培工程において、明条件時の葉の位置での照度が5000lx以上の照度環境下で栽培を行うことが好ましい。照度は、好ましくは6000lx以上、より好ましくは7000lx以上であり、好ましくは15000lx以下、より好ましくは10000lx以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
なお、本明細書において、葉の位置での照度は、JIS C 7612に準拠して測定される値である。
【0105】
前記照度を得るための光源としては、特に限定されず、自然光を利用しても、人工光を利用しても、これらを組み合わせて利用してもよい。人工光を用いる場合、発光ダイオード(LED)、ハロゲンランプ、白熱電球、蛍光灯、アーク灯、無電極放電灯、低圧放電灯、冷陰極型蛍光管、外部電極型蛍光管、エレクトロルミネセンスライト、及びHIDランプ等を使用することができる。HIDランプとしては、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、及び高圧ナトリウムランプ等が挙げられる。これらの光源は、1種類のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0106】
栽培工程における日長時間(明条件)は、特に限定されないが、好ましくは12時間以上、より好ましくは14時間以上であり、22時間以下が好ましく、20時間以下がより好ましい。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0107】
栽培工程における栽培温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは22℃以上、更に好ましくは24℃以上、特に好ましくは26℃以上であり、好ましくは36℃以下、より好ましくは34℃以下、更に好ましくは32℃以下、特に好ましくは30℃以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0108】
栽培工程における栽培期間は、特に限定されないが、1週間以上が好ましく、2週間以上がより好ましく、3週間以上が更に好ましく、上限については特に限定されない。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0109】
その他の栽培条件としては、特に限定されず、植物の生育に適した通常採用される条件により栽培することができる。また、栽培を行う装置等についても特に限定されず、通常土耕栽培に用いられる装置等を用いることができる。
【0110】
以上のように、木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培する栽培工程を行うことにより、地上部の生育よりも遅れがちな発根や根の発達が促進され、地上部の生育と根の生育のバランスが良好となり、木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗(完全な植物体であるクローン苗)を生産性良く製造できる。
得られた苗(植物体)は、必要に応じて、土壌に移植してもよい。
なお、前記栽培工程を行うことにより、馴化も完了する。よって、前記栽培工程を行うことにより、馴化と初期生育を共に効率的に促進できるため、別途、馴化工程を行う必要がなく、木本植物のシュート由来の幼植物から植物体(完全な植物体であるクローン苗)を生産性良く製造できる。
【0111】
<天然ゴムの製造方法>
本発明の天然ゴムの製造方法は、
前記木本植物の苗の製造方法により苗(植物体)を製造する植物体製造工程と、
植物体製造工程により得られた苗(植物体)を用いて天然ゴムを製造する天然ゴム製造工程とを含む。本発明の天然ゴムの製造方法は、前記木本植物の苗の製造方法により苗(植物体)を製造する植物体製造工程を含むため、天然ゴムを生産性良く製造できる。
【0112】
植物体製造工程は、前記木本植物の苗の製造方法により苗(植物体)を製造する工程であり、前記木本植物の苗の製造方法を実施すればよい。また、必要に応じて、前記木本植物の苗の製造方法により得られた苗(植物体)を更に栽培することにより、より大きな植物体としてもよい。
【0113】
天然ゴム製造工程では、植物体製造工程により得られた苗(植物体)を用いて天然ゴムを製造する。具体的には、植物体製造工程により得られた苗(植物体)を栽培することにより、該植物体が有する乳管細胞で天然ゴムを生合成させ、天然ゴムを製造すればよい。
【0114】
植物体からの天然ゴムの回収方法は従来公知の方法に従って行えばよい。
例えば、植物体をナイフ等で物理的に傷つけ、乳液(ラテックス)を回収し、必要に応じて、酸を添加する方法等によりラテックスを固化することにより、植物体からゴム(天然ゴム)を固形分として回収できる。得られたゴム(天然ゴム)は、必要に応じて、洗浄、脱水、乾燥を行ってから使用すればよい。
【0115】
<ゴム製品の製造方法>
本発明のゴム製品の製造方法は、
前記天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程、該工程により得られる天然ゴムと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び前記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含む。本発明のゴム製品の製造方法は、前記天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程を含むため、ゴム製品を生産性良く製造できる。
【0116】
ゴム製品としては、ゴム(好ましくは天然ゴム)を使用して製造できるゴム製品であれば特に限定されず、例えば、空気入りタイヤ、ゴムクローラ、ゴム防舷材等が挙げられる。
【0117】
ゴム製品が空気入りタイヤの場合、すなわち、本発明のゴム製品の製造方法が本発明の空気入りタイヤの製造方法の場合、前記生ゴム製品成形工程は、前記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程に、前記加硫工程は、前記生タイヤを加硫する加硫工程に相当する。すなわち、本発明の空気入りタイヤの製造方法は、前記天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程、該工程により得られる天然ゴムと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び前記生タイヤを加硫する加硫工程を含む。本発明の空気入りタイヤの製造方法は、前記天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程を含むため、空気入りタイヤを生産性良く製造できる。
【0118】
前記天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程は、前記天然ゴムの製造方法を実施し、天然ゴムを製造すればよい。
【0119】
<混練工程>
混練工程では、前記天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程により得られる天然ゴムと、添加剤とを混練して混練物を得る。
【0120】
添加剤としては特に限定されず、ゴム製品の製造に用いられる添加剤を使用できる。例えば、ゴム製品が空気入りタイヤの場合、例えば、前記ラテックスから得られたゴム以外のゴム成分、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルクなどの補強用充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、各種老化防止剤、オイルなどの軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤等が挙げられる。
【0121】
混練工程における混練は、オープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて行えばよい。
【0122】
<生ゴム製品成形工程(タイヤの場合は生タイヤ成形工程)>
生ゴム製品成形工程では、混練工程により得られた混練物から生ゴム製品(タイヤの場合は生タイヤ)を成形する。
生ゴム製品の成形方法としては特に限定されず、生ゴム製品の成形に用いられる方法を適宜適用すればよい。例えば、ゴム製品が空気入りタイヤの場合、混練工程により得られた混練物を、各タイヤ部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、各タイヤ部材を貼り合わせ、生タイヤ(未加硫タイヤ)を成形すればよい。
【0123】
<加硫工程>
加硫工程では、生ゴム製品成形工程により得られた生ゴム製品を加硫することにより、ゴム製品が得られる。
生ゴム製品を加硫する方法としては特に限定されず、生ゴム製品の加硫に用いられる方法を適宜適用すればよい。例えば、ゴム製品が空気入りタイヤの場合、生ゴム製品成形工程により得られた生タイヤ(未加硫タイヤ)を加硫機中で加熱加圧して加硫することにより空気入りタイヤが得られる。
【0124】
<パラゴムノキの苗>
前記製造方法により製造される木本植物の苗は、地上部の生育と根の生育のバランスが良好であり、更には、主根、側根の発達も良好であるため、土壌への活着率に優れ、また幼苗期の成長に優れる。
特に、木本植物のなかでも、パラゴムノキは、難発根植物であるが、前記製造方法により製造されるパラゴムノキの苗は、従来のパラゴムノキの苗とは異なり、土壌への活着率に優れ、また幼苗期の成長に優れた苗である。
【0125】
具体的には、本発明のパラゴムノキの苗は、根の基部付近に接合部を有さず、かつ根の基部付近で直根性が見られ、地上部の高さと、根の長さの比率が1:1以上である。このようなパラゴムノキの苗は、前記製造方法により製造される。具体的には、前記製造方法では、パラゴムノキのシュートから苗を製造するため、根の基部付近に接合部を有さない。また、前記製造方法では、発根や根の発達が促進されるため、根の基部付近で直根性が見られる。更に、前記製造方法では、地上部の生育よりも遅れがちな発根や根の発達が促進され、地上部の生育と根の生育のバランスが良好となり、地上部の高さと、根の長さの比率が1:1以上となる。なお、本発明のパラゴムノキの苗は、前記製造方法により得られた苗を更に通常の土耕栽培等による栽培を行うことによって製造してもよい。
【0126】
ここで、本明細書において、根の基部付近とは、発根が見られた部位付近、すなわち、茎と根の境界部を意味する。根の基部付近の一例を示す写真を図1に示す。図1中の四角で囲った箇所が根の基部付近である。
また、本明細書において、接合部を有さずとは、接ぎ木など、2つ以上の植物体の植物組織同士の接合を行っていないことを意味する。接合部を有する場合の一例を示す写真を図2図2中の〇で囲った箇所が接合部である)に、接合部を有さない場合の一例を示す写真を図3に示す。なお、接合部を有する場合、接合部付近に、グラフティングの跡などの傷があったり、膨らみがあったりする。ここで、膨らみとは、象の足、Elephant foot、Grafting nodeとも呼ばれ、台木への接ぎ木を行うことにより生じるこぶ状などの膨らみを意味する。
また、本明細書において、根の基部付近で直根性が見られるとは、根にねじれが生じていたり、渦を巻いていることがないことを意味する。一方、本明細書において、根の基部付近において、ねじれが生じていたり、渦を巻いている場合は、根の基部付近で直根性が見られないことを意味する。根の基部付近で直根性が見られる場合の一例を示す写真を図4に、根の基部付近で直根性が見られない場合の一例を示す写真を図5に示す。図5では、根が渦を巻いている。
【0127】
根の基部付近で直根性が見られるとは、具体的には、根の基部付近の根の角度が、好ましくは120°以上、より好ましくは135°以上、更に好ましくは150°以上、特に好ましくは160°以上、最も好ましくは165°以上、より最も好ましくは180°(根の基部付近の根の延びる方向が、根の基部付近の茎が延びる方向を延長した方向と同一の方向)である。
ここで、本明細書において、根の基部付近の根の角度とは、根の基部付近の根が、根の基部付近の茎が延びる方向を延長した方向と同一の方向に延びている場合を180°とした場合の角度であり、例えば、根の基部付近の根が、根の基部付近の茎が延びる方向を延長した方向と直角方向に延びている場合は90°である。
【0128】
前記パラゴムノキの苗は、地上部の高さと、根の長さの比率(地上部の高さ:根の長さ)が1:1以上であるが、好ましくは1:1.2以上、より好ましくは1:1.5以上であり、好ましくは1:5以下、より好ましくは1:3以下、更に好ましくは1:2以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0129】
また、前記パラゴムノキの苗は、根の長さが、好ましくは3cm以上、より好ましくは10cm以上、更に好ましくは15cm以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは100cm以下、より好ましくは85cm以下、更に好ましくは70cm以下である。前記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0130】
本明細書において、根の長さは、根に力を加えて伸ばした場合の長さではなく、植物を板などの平面に寝かして置いた際の自然な状態における、茎と根の境界部から根の先端までの長さを意味する。
同様に、本明細書において、地上部の高さは、地上部に力を加えて伸ばした場合の長さではなく、植物を板などの平面に寝かして置いた際の自然な状態における、茎と根の境界部から地上部の先端までの長さを意味する。
ここで、植物を板などの平面に寝かして置いた際の自然な状態とは、植物を板などの平面に寝かして置いた状態、かつ、植物に力(引っ張るなどの力)を印加していない状態(例えば、図3のような状態)を意味し、茎と根の境界部から根の先端までの長さ、茎と根の境界部から地上部の先端までの長さは、図3中の矢印方向(根の基部付近の茎が延びる方向を延長した方向)の図3の状態のままでの長さを意味する。
【0131】
前記パラゴムノキの苗は、主根を有することが好ましい。
前記の通り、パラゴムノキは、難発根植物であるため、挿し木苗を作成することは非常に難しく、仮に、挿し木苗を作成できたとしても、主根を有さず、土壌への活着率が大きく劣り、苗としての実用性に乏しい。
一方、前記製造方法により製造されるパラゴムノキの苗は、地上部の生育と根の生育のバランスが良好であり、更には、主根、側根の発達も良好である。すなわち、前記パラゴムノキの苗は、主根を有するため、土壌への活着率に優れ、また幼苗期の成長に優れる。
ここで、本明細書において、主根とは、根系の主となる太い根のことを意味する。
【0132】
前記パラゴムノキの苗は、地上部と根が遺伝子的に同一であることが好ましい。
パラゴムノキの苗は、一般的に接ぎ木により作成される。接ぎ木苗の場合、台木となる植物に接ぎ木するため、地上部と根が遺伝子的に同一とはならないが、前記パラゴムノキの苗は、地上部と根が遺伝子的に同一とすることができ、これにより、台木による影響を受けず、また接合部がないことで通導性のよい苗木となる。
ここで、本明細書において、地上部と根が遺伝子的に同一とは、接ぎ木を行っていないことを意味する。
【0133】
前記パラゴムノキの苗は、クローン植物であることが好ましい。これにより、台木による影響を受けず、また接合部がないことで通導性のよい苗木となる。
【0134】
前記パラゴムノキの苗は、親株の遺伝子の保有率が99%以上であることが好ましく、親株の遺伝子の保有率が99.5%以上であることがより好ましい。これにより、台木による影響を受けず、また接合部がないことで通導性のよい苗木となる。
本明細書において、親株の遺伝子の保有率は、遺伝子の配列同一性により測定される。
【実施例0135】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0136】
以下、実施例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
BA:ベンジルアデニン
KI:カイネチン
硝酸銀:メルク社製の硝酸銀
ゲル化剤(固形化剤):シグマアルドリッチ社製のPhytagel
【0137】
<誘導工程>
パラゴムノキの苗木から腋芽を含む組織を採取した。
次に、苗木から採取した腋芽を含む組織を流水で洗浄し、更に70質量%エタノールで洗浄した後、約5~10体積%に希釈した次亜塩素酸ナトリウム水溶液で滅菌し、滅菌水で洗浄した。
【0138】
次に、滅菌した組織を誘導培地(固体培地)に差し込み、培養を行った(誘導工程)。誘導培地は、MB培地に、ベンジルアデニン5.0mg/L、硝酸銀1.0mg/L、スクロース6.0質量%、活性炭0.05質量%を添加し、培地のpHを5.7に調整した後、ゲル化剤を0.275質量%となるように添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0139】
パラゴムノキの前記組織を誘導培地(固体培地)に差し込み、培養温度28℃、12.5μmol/m/sの照明の下、16時間の明時間という条件で培養し、シュートを誘導した。なお、4週間ごとに同じ組成の誘導培地に移植する植え継ぎを行った。
誘導工程により誘導されたシュートを以下において使用した。
【0140】
オーキシン溶液(5.0mg/L 1-ナフタレン酢酸、5.0mg/L インドール-3-酪酸、100μmol/L 還元型グルタチオン)にシュートの切り口を72時間浸漬した(浸漬処理工程、温度:28℃、12.5μmol/m/sの照明の下、16時間日長)。次に、MB基本培地に3.0質量%スクロース、0.01質量%活性炭、1.0mg/L硝酸銀、100μmol/L 還元型グルタチオン、0.275質量%固形化剤を含むホルモンフリー(植物ホルモンの濃度0mg/L)の固形培地(pH5.7)に、浸漬処理工程により浸漬処理されたシュートの切り口面を挿し込み培養した(培養工程)。培養は、12.5μmol/m/sの照明の下、16時間日長、温度25~28℃で8週間培養した。ホルモンフリーの培地で所定期間培養し、発根した幼植物(シュート由来の幼植物)を得た。
なお、オーキシン溶液は、前記成分を蒸留水に溶解することにより調製した。
また、培地は、基本培地に、固形化剤を除く前記各成分を添加し、培地のpHを5.7に調整した後、固形化剤を0.275質量%となるように添加して、オートクレーブ(121℃、20分)で滅菌し、クリーンベンチ内で冷却することにより調製した。
【0141】
(実施例1)
透明ガラス製の培養試験管内にバーミキュライトを満たし、オートクレーブを用いて121℃で20分間滅菌した。滅菌処理後、MS培地の成分を半減した1/2MS培地に3質量%となるようにスクロースを加えた液体培地をバーミキュライト100質量部に対して、80質量部添加した。添加後、培地成分を含有する固形培地(液体培地添加後のバーミキュライト)の表面において、幼植物(地上部の高さ:4.0cm、根の長さ:1.0cm)を差し込み、幼植物を植え付けた(培地成分を含有する固形培地の湿潤密度:0.74g/cm、培地成分を含有する固形培地中の炭素源の濃度:1.3質量%、培地成分を含有する固形培地の深さ:15cm)。そして、栽培温度28℃で、明条件16時間、暗条件8時間の条件下で栽培を行った。図6に、培地成分を含有する固形培地(液体培地添加後のバーミキュライト)で幼植物を栽培している様子の一例を示す写真を示す。
なお、明条件時の葉の位置での照度は5,000~10,000lxを維持し、暗条件時の葉の位置での照度は1lx以下を維持した。
【0142】
栽培の結果、3週間経過時に、根の長さが約12cm程度まで伸長し、1ヶ月間経過時に、根の長さが約15cm程度まで伸長し、パラゴムノキの苗が得られた。そして、この苗をバーミキュライト(培地成分なし)を入れたポットに移植し、3ヶ月栽培した。得られた実施例1のパラゴムノキの苗は、根の基部付近に接合部を有さず、かつ根の基部付近で直根性が見られ、主根を有し、地上部の高さと、根の長さの比率が1:1以上(根の長さ:40cm、地上部の高さ:根の長さ=1:1.8、根の基部付近の根の角度:165°)であった(図7参照)。
【0143】
(比較例1)
実施例1で用いた幼植物(根の長さ:1.0cm)をバーミキュライト(培地成分なし)に植えても枯死してしまったため、実施例1で用いた幼植物の代わりに、実施例1で用いた幼植物よりも、前記ホルモンフリーの培地で1ヶ月長く培養して得られた幼植物(根の長さ:5.0cm)を用いることとした。この幼植物(根の長さ:5.0cm)をバーミキュライト(培地成分なし、固形培地の湿潤密度:1g/cm、水による潅水のみ)を入れたポットに移植し、実施例1と同一の条件下で3ヶ月栽培を行い、パラゴムノキの苗(根の長さ:8cm、地上部の高さ:根の長さ=1:0.8、根の基部付近の根の角度:90°)が得られた(図8参照)。比較例1の苗は、根の基部付近でねじれが生じており、根の基部付近で直根性が見られなかった。
【0144】
(比較例2)
MS培地の成分を半減した1/2MS培地に3質量%となるようにスクロースを加えた液体培地(バーミキュライトなし)に、幼植物(根の長さ:1.0cm)を差し込み、実施例1と同一の条件下で栽培を行った。その結果、栽培期間15日程度で根の長さが約5cmになったが、その後根の伸長が停止状態となり、栽培期間3週間経過後の根の長さも約5cm(根の基部付近の根の角度:150°)であった(図9参照)。
【0145】
実施例、比較例1、2の発根から根が15cm程度になるまでの期間、発根から4ヶ月経過後の状態を表1にまとめた。なお、表1において、発根とは、根の長さが1.0cmに達した時点を意味する。
【0146】
【表1】
【0147】
以上の通り、木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培することにより、地上部の生育よりも遅れがちな発根や根の発達が促進され、地上部の生育と根の生育のバランスが良好となり、木本植物のシュート由来の幼植物から木本植物の苗を生産性良く製造できることが分かった。
【0148】
本発明(1)は、木本植物のシュート由来の幼植物を、培地成分を含有する固形培地で栽培する栽培工程を含む木本植物の苗の製造方法である。
【0149】
本発明(2)は、前記培地成分が、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、これら以外の微量元素、ビタミン類、炭素源、アミノ酸、及び植物ホルモンからなる群より選択される少なくとも1種を含む本発明(1)記載の木本植物の苗の製造方法である。
【0150】
本発明(3)は、前記固形培地の湿潤密度が0.4~1.0g/cmである本発明(1)又は(2)記載の木本植物の苗の製造方法である。
【0151】
本発明(4)は、前記固形培地の平均粒径が0.25~8.0mmである本発明(1)~(3)のいずれかとの任意の組合せの木本植物の苗の製造方法である。
【0152】
本発明(5)は、前記固形培地が培養土である本発明(1)~(4)のいずれかとの任意の組合せの木本植物の苗の製造方法である。
【0153】
本発明(6)は、前記栽培工程において、深さが15cm以上となるように前記固形培地が充填された培養器で前記幼植物を栽培する本発明(1)~(5)のいずれかとの任意の組合せの木本植物の苗の製造方法である。
【0154】
本発明(7)は、前記木本植物がHevea属に属する植物である本発明(1)~(6)のいずれかとの任意の組合せの木本植物の苗の製造方法である。
【0155】
本発明(8)は、前記木本植物がパラゴムノキである本発明(1)~(6)のいずれかとの任意の組合せの木本植物の苗の製造方法である。
【0156】
本発明(9)、は本発明(1)~(8)のいずれかとの任意の組合せの苗の製造方法により苗を製造する植物体製造工程と、
植物体製造工程により得られた苗を用いて天然ゴムを製造する天然ゴム製造工程とを含む天然ゴムの製造方法である。
【0157】
本発明(10)は、本発明(9)記載の天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程、該工程により得られる天然ゴムと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生タイヤを成形する生タイヤ成形工程、及び前記生タイヤを加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法である。
【0158】
本発明(11)は、本発明(9)記載の天然ゴムの製造方法により天然ゴムを製造する工程、該工程により得られる天然ゴムと、添加剤とを混練して混練物を得る混練工程、前記混練物から生ゴム製品を成形する生ゴム製品成形工程、及び前記生ゴム製品を加硫する加硫工程を含むゴム製品の製造方法である。
【0159】
本発明(12)は、根の基部付近に接合部を有さず、かつ根の基部付近で直根性が見られ、
地上部の高さと、根の長さの比率が1:1以上であるパラゴムノキの苗である。
【0160】
本発明(13)は、主根を有する本発明(12)記載のパラゴムノキの苗である。
【0161】
本発明(14)は、前記地上部と前記根が遺伝子的に同一である本発明(12)又は(13)記載のパラゴムノキの苗である。
【0162】
本発明(15)は、クローン植物である本発明(12)~(14)のいずれかとの任意の組合せのパラゴムノキの苗である。
【0163】
本発明(16)は、親株の遺伝子の保有率が99%以上である本発明(12)~(15)のいずれかとの任意の組合せのパラゴムノキの苗である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9