(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167628
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】鋼材接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/00 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
B23K20/00 310G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078948
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】塚原 真宏
(72)【発明者】
【氏名】井戸原 修
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 節雄
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AB09
4E167AD03
4E167AD04
4E167BA07
(57)【要約】
【課題】鋼材同士の接合強度を簡便にかつ有効に向上させることができる鋼材接合体の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の鋼材同士が接合された鋼材接合体の製造方法であって、接合する鋼材同士の少なくともどちらか一方の接合面に炭素質物質を配置する配置工程と、前記炭素質物質を介して前記接合する鋼材の接合面同士を押し当てるのみで自重により又は押し当て荷重をかけながら重ね合わせる重ね合わせ工程と、前記接合面同士を重ね合わせた鋼材を押し当てるのみで自重により又は押し当て荷重をかけながら前記炭素質物質の液相が生成する最高到達温度で加熱する加熱工程と、前記加熱した鋼材を冷却する冷却工程と、を備える、鋼材接合体の製造方法を採用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼材同士が接合された鋼材接合体の製造方法であって、
接合する鋼材同士の少なくともどちらか一方の接合面に炭素質物質を配置する配置工程と、
前記炭素質物質を介して前記接合する鋼材の接合面同士を押し当てるのみで自重により又は押し当て荷重をかけながら重ね合わせる重ね合わせ工程と、
前記接合面同士を重ね合わせた鋼材を押し当てるのみで自重により又は押し当て荷重をかけながら前記炭素質物質の液相が生成する最高到達温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱した鋼材を冷却する冷却工程と、を備える、
鋼材接合体の製造方法。
【請求項2】
前記重ね合わせ工程は、前記押し当てる時の前記接合する鋼材の接合面の傾きを調整する請求項1に記載の鋼材接合体の製造方法。
【請求項3】
前記炭素質物質は、前記最高到達温度で前記接合面に液相が生成するように配置する請求項1に記載の鋼材接合体の製造方法。
【請求項4】
前記最高到達温度は、1150℃以上1500℃以下である請求項1乃至3いずれかに記載の鋼材接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱間鋼材の接合を実際の工場で簡単にかつ能率的に行うことができ、しかも後続の圧延工程に支障のない程度に高い接合強度を得られる技術の開発を課題として、接合面に炭素質物質を塗布または散布して熱間鋼材を重ね合わせ又は突き合わせて、還元雰囲気下で加熱し圧接する鋼材の熱間接合方法が開示されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術で得られる鋼材接合体は、鋼材同士の接合強度が有効に向上したものとはいえなかった。そこで、本発明は、鋼材同士の接合強度を簡便にかつ有効に向上させることができる鋼材接合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る鋼材接合体の製造方法は、複数の鋼材同士が接合された鋼材接合体の製造方法であって、接合する鋼材同士の少なくともどちらか一方の接合面に炭素質物質を配置する配置工程と、前記炭素質物質を介して前記接合する鋼材の接合面同士を押し当てるのみで自重により又は押し当て荷重をかけながら重ね合わせる重ね合わせ工程と、前記接合面同士を重ね合わせた鋼材を押し当てるのみで自重により又は押し当て荷重をかけながら前記炭素質物質の液相が生成する最高到達温度で加熱する加熱工程と、前記加熱した鋼材を冷却する冷却工程と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、鋼材同士の接合強度を簡便にかつ有効に向上させることができる鋼材接合体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係る鋼材接合体の製造方法を説明するための工程フロー図である。
【
図2】本発明の具体的な第1の実施形態に係る鋼材接合体の製造方法を説明するための概念図である。
【
図3】本発明の具体的な第2の実施形態に係る鋼材接合体の製造方法を説明するための概念図である。
【
図4】本発明の効果を説明するための鉄-セメンタイト系の状態図である。
【
図5】本発明の効果を説明するための概念図である。
【
図6】実施例1で得られた鋼材接合体の外観写真である。
【
図7】接合率の確認を行う際の観察位置及び接合率の算出方法を説明する図である。
【
図8】実施例1及び実施例2で得られた鋼材接合体について金属組織の確認を行う箇所を説明する図及びこの箇所の金属組織写真である。
【
図9】実施例3から実施例5で得られた鋼材接合体について金属組織の確認を行う箇所を説明する図及びこの箇所の金属組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る鋼材接合体の製造方法を説明するための工程フロー図である。
本実施形態に係る鋼材接合体の製造方法は、
図1に示すように、複数の鋼材同士が接合された鋼材接合体の製造方法であって、接合する鋼材同士の少なくともどちらか一方の接合面に炭素質物質を配置する配置工程(
図1に示すステップS100)と、この炭素質物質を介して上述した接合する鋼材の接合面同士を押し当てるのみで自重により又は押し当て荷重をかけながら重ね合わせる重ね合わせ工程(
図1に示すステップS110)と、この接合面同士を重ね合わせた鋼材を押し当てるのみで自重により又は押し当て荷重をかけながら前記炭素質物質の液相が生成する最高到達温度で加熱する加熱工程(
図1に示すステップS120)と、前記加熱した鋼材を冷却する冷却工程(
図1に示すステップS130)と、を備える。
本発明に係る鋼材接合体の製造方法は、前記工程フローを備えることで、鋼材同士の接合強度を簡便にかつ有効に向上させることができる。
以下に、これら各工程について詳細に説明する。
【0009】
図2は、本発明の具体的な第1の実施形態に係る鋼材接合体の製造方法を説明するための概念図である。
図3は、本発明の具体的な第2の実施形態に係る鋼材接合体の製造方法を説明するための概念図である。
図2に示す第1の実施形態と
図3に示す第2の実施形態とでは、鋼材の接合面に配置する炭素質物質の形態のみが相違する。
【0010】
<配置工程(ステップS100)について>
第1及び第2の実施形態に係る鋼材接合体1の製造方法は、配置工程(ステップS100)において、
図2(a)及び
図3(a)に示すように、接合する鋼材(10,20)同士の少なくともどちらか一方の接合面(10a及び/又は20a:
図2(a)及び
図3(a)では一方の接合面)に炭素質物質(30又は40)を配置する。
この際、前記炭素質物質は、後述する加熱工程(ステップS120)での加熱時の最高到達温度で前記接合面(10a及び20a)に液相L(
図4参照:後述)が生成するように配置することが好ましい。このように配置することで鋼材同士の接合強度をより有効に向上させることができる。
【0011】
ここで、接合する鋼材(10,20)の材質は、任意の鋼材であって、互いに、一体化することが可能な金属であれば特に限定されない。例えば、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼等を用いることができる。
なお、本発明でいう中炭素鋼とは、炭素濃度が0.30mass%以上0.50mass%以下の鋼材を言う。ちなみに、低炭素鋼とは、炭素濃度が0.30mass%未満の鋼材を言い、高炭素鋼とは、炭素濃度が0.50mass%を超える鋼材を言う。また、低炭素鋼、中炭素鋼及び高炭素鋼を用いる場合、前記炭素以外の合金元素は、特に限定されないが、例えば、JIS G 4051に規定されているような、概ね、Si:1.5mass%以下、Mn:1.0mass%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成とすることができる。
【0012】
前記鋼材(10,20)の形状は、接合面(10a,20a)をそれぞれ有し、この接合面同士(10aと20a)を重ね合わせて、互いに、一体化することが可能であれば、特に限定されない。例えば、円柱形状、角柱形状、ねじ形状、凹凸形状等を用いることができる。
【0013】
また、炭素質物質(30、40)は、接合する鋼材(10,20)同士の少なくともどちらか一方の接合面(10a及び/又は20a)に配置でき、この接合面同士(10aと20a)が一体化することができれば、材質、形状は、特に限定されない。例えば、
図2に示す粉末状の炭素質物質(30)や
図3に示すシート状の炭素質物質(40)を用いることができる。ここで、粉末状の炭素質物質(30)を用いる場合は、接合面(10a及び/又は20a)に塗布することで配置することができる。シート状の炭素質物質(40)を用いる場合には、接合面(10a及び/又は20a)に直接的に配置することができる。
【0014】
<重ね合わせ工程(ステップS110)について>
第1及び第2の実施形態に係る鋼材接合体1の製造方法は、重ね合わせ工程(ステップS110)において、
図2(b)及び
図3(b)に示すように、「配置工程(ステップS100)」で配置した炭素質物質(30又は40)を介して上述した接合する鋼材(10,20)の接合面同士(10aと20a)を押し当てるのみで重ね合わせる。
この重ね合わせ工程(ステップS110)では、鋼材(10,20)の接合面同士(10aと20a)を押し当てるのみで重ね合わせる際に、自重により接合面同士を固定することが好ましい。本実施形態の重ね合わせ工程では、このように、鋼材(10,20)の接合面同士(10aと20a)を自重により固定することで、鋼材同士(10と20)の接合力を高めることが可能である。
【0015】
また、この重ね合わせ工程(ステップS110)では、鋼材(10,20)の接合面同士(10aと20a)を押し当てるのみで重ね合わせる際に、接合面同士を固定するために荷重(押し当て荷重)をかけることが好ましい。本実施形態の重ね合わせ工程では、このように、鋼材(10,20)の接合面同士(10aと20a)を固定するために荷重をかけることで、鋼材同士(10と20)の接合力を高めることが可能である。また、このような押し当て荷重をかける場合は、鋼材(10,20)の接合面同士(10aと20a)の重ね合わせを
図2や
図3に示すような上下方向によるものではなく、水平方向(不図示)によるものでも可能になるため好ましい。
【0016】
更に、本実施形態の重ね合わせ工程では、前記押し当てるときの前記接合する鋼材の接合面の傾きを調整することが好ましい。このように接合面の傾きを調整することで鋼材同士の接合強度をより有効に向上させることができる。
【0017】
<加熱工程(ステップS120)について>
第1及び第2の実施形態に係る鋼材接合体1の製造方法は、加熱工程(ステップS120)において、
図2(c)及び
図3(c)に示すように、「重ね合わせ工程(ステップS110)」で接合面同士(10aと20a)を重ね合わせた鋼材(10,20)を押し当てるのみで自重により接合面同士を固定しながら加熱する。ここで、鋼材(10,20)を加熱する最高到達温度は、接合面50において液相Lが生成される範囲でおこなう(
図4参照、後述)。
また、前記加熱は、接合面同士(10aと20a)を重ね合わせた鋼材(10,20)を押し当てるのみで接合面同士を固定するために荷重(押し当て荷重)をかけながら加熱することが好ましい。
このように、接合面同士(10aと20a)を重ね合わせた鋼材(10,20)を固定するために荷重をかけながら加熱することで、鋼材同士(10と20)の接合力を高めることが可能である。また、このような押し当て荷重をかける場合は、鋼材(10,20)の接合面同士(10aと20a)の加熱を
図2や
図3に示すような上下方向によるものではなく、水平方向(不図示)によるものでも可能になるため好ましい。
【0018】
なお、上述したように、配置工程(ステップS100)において、前記炭素質物質は、加熱工程(ステップS120)での加熱時の最高到達温度で接合面50に液相Lが生成するように当該炭素質物質の質量が調整されて配置されている。
従って、このような炭素質物質が前記接合面に配置されているため、接合面50の炭素濃度が高くなる。よって、接合面50の引張強度及び曲げ強度が高くなるため、接合面50、すなわち鋼材同士の接合強度を有効に高めることができる。
【0019】
なお、前記炭素質物質の加熱時の最高到達温度で前記接合面50に液相L(
図4参照)が生成するように当該炭素質物質の質量を調整して配置するためには、例えば、製品になる鋼材接合体と形状及び炭素濃度が同じ素材である鋼材(10,20)を用いて接合面50に配置する炭素質物質の質量を変化させて、それぞれを同じ最高到達温度で加熱接合試験を行い、後述する接合率を評価することで、液相Lが生成する適切な炭素質物質の質量を決定することができる。
【0020】
前記炭素質物質は、前記最高到達温度で前記接合面全面に液相が生成するように配置することが好ましい。
炭素質物質を、前記接合面全面に液相が生成するように配置することで、接合面全面で接合することができる。従って、鋼材同士の接合強度を更に有効に向上させることができる。
【0021】
加熱工程(ステップS120)における加熱手段は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の加熱コイル60を用いた高周波誘導加熱(100)や、高周波誘導加熱以外の加熱炉、レーザー加熱等を用いた様々な加熱方法を採用することができる。
また、加熱工程(ステップS120)における加熱中の雰囲気は特に限定されない。
前記雰囲気は、例えば、酸化性雰囲気(酸素、大気等)や非酸化雰囲気(窒素、アルゴン等)が含まれる。
【0022】
本発明の加熱工程(ステップS120)は、高周波誘導加熱(100)により行うことが好ましい。高周波誘導加熱(100)は、所望の温度まで正確に急速加熱することができるため、上述した鋼材接合体(1)を製造することができる。
【0023】
そして、本発明の加熱工程(ステップS120)において、鋼材(10,20)の接合面50で生成された液相Lが消滅した段階で、鋼材同士(10と20)が接合することになる(
図2(d)及び
図3(d))。
【0024】
<冷却工程(ステップS130)について>
本発明の加熱工程(ステップS120)における当該加熱後の冷却工程(ステップS130)は、特に限定されず、従来公知の放冷、ガス冷却及びポリマー等の焼入冷却剤等による噴射冷却等を採用することができる。
【0025】
以上に本発明が備える各工程について説明したが、次に、これら各工程を行い鋼材の接合力が高められるメカニズムの具体例を図面を用いて説明する。
図4は、本発明の効果を説明するための鉄-セメンタイト系の状態図である。
図5は、本発明の効果を説明するための概念図であり、詳しくは、接合界面で起こる反応を示す概念図である。本実施形態に係る鋼材接合体1の製造方法としては、接合する鋼材同士の少なくともどちらか一方の接合面に、加熱時の最高到達温度で液相Lが生成するように質量を調整した当該炭素粉(炭素質物質)を配置し、この炭素質物質を介して接合する鋼材の接合面同士を重ね合わせた鋼材を所定の雰囲気下(例えば、大気雰囲気下)、所定の最高到達温度で加熱する(
図3(a)を参照)。
【0026】
図4より、鋼材と炭素質物質との接合界面において液相Lが生成する温度は1150℃以上1500℃以下である。
具体的には、鋼材同士の接合面付近の最高到達温度が、例えば1250℃に達すると、鋼材と炭素質物質との界面において炭素濃度が3.5mass%の液相Lが生成する(
図4中□で示す部分を参照)。この液相Lは、炭素質物質が無くなるまで増加する(
図5(b)を参照)。
【0027】
1250℃における「オーステナイト相γ」領域と「オーステナイト相γ+液相L」領域との界面(
図4中〇で示す部分を参照)の炭素濃度は1.6mass%である。そのため、1250℃では、鋼材の殆どがオーステナイト相γ単相となる。ちなみに、炭素含有量が1.6mass%を超える場合に関しては、オーステナイト相γと液相Lの二相が共存したものとなる。1250℃での炭素の拡散は極めて速く、この温度に保持すると、炭素は、鋼材の接合面から内部のオーステナイト相γ内に速い速度で拡散していく。その結果、この液相Lとオーステナイト相γ界面において、オーステナイト相γ側は炭素濃度を1.6mass%に保とうとして液相L側から炭素を奪い取り、また、液相Lは炭素濃度を3.5mass%に保とうとするため液相Lが減少する(
図5(c)を参照)。液相Lは、最終的に消滅して鋼材同士の接合が完了する(
図5(d)を参照)。
【0028】
本発明の加熱工程(ステップS120)における本発明の効果を最高到達温度1250℃で説明したが、上述した本発明の効果は、
図4における鉄-セメンタイト系の状態図や後述する実施例から、「オーステナイト相γ」領域と「オーステナイト相γ+液相L」領域が形成される温度範囲(最高到達温度が1150℃以上1500℃以下)で得られると考えられる。
以上のように、前記接合面に液相Lが生成するように炭素質物質の質量を調整して当該炭素質物質を配置し、前記接合面同士を重ね合わせた鋼材を1150℃以上1500℃以下の最高到達温度で加熱することで上記接合を行うことができる。
従って、前記最高到達温度は、1150℃以上1500℃以下であることが好ましい。
これにより鋼材同士の接合強度をより有効に向上させることができる。
【0029】
前記最高到達温度は、1150℃以上1300℃以下であることがより好ましい。最高到達温度を1300℃以下とすることで、鋼材を加熱するための加熱部材(コイル等)の冷却を効率的に行うことができると共に、鋼材接合体自体の熱による変形等も抑制することができる。なお、加熱工程(S120)における前記最高到達温度は、接合する鋼材の接合面50から2mm以内の鋼材(素材)側の外周面に溶接した白金ロジウム熱電対により測定することができる。
【0030】
次に、実施例及び比較例を通じて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【実施例0031】
[実施例1]
実施例1では、接合面の直径φ14.7×軸方向の長さL47mmの大きさの丸棒で、S45C鋼材(中炭素鋼)を2つ用意した。そして、縦20mm×横20mm×厚さ16μmの大きさの炭素質物質(パナソニック株式会社製PGSグラファイトシート)を介してこれらS45C鋼材の接合面同士を重ね合わせて加熱接合を行った。このグラファイトシートの質量(グラム)は、下記最高到達温度(1250℃)で鋼材の接合面に液相Lが生成する炭素濃度になるように調整されている。
また、下記最高到達温度は、S45C鋼材の接合面となる位置から2mm以内の当該鋼材側の外周面に白金ロジウム熱電対を溶接して測定した。
【0032】
ようするに、
図1の工程フローに示す如く、配置工程(ステップS100)、重ね合わせ工程(ステップS110)、加熱工程(ステップS120)、冷却工程(ステップS130)を順に行った。この重ね合わせ工程では、炭素質物質を介して前記接合する鋼材の接合面同士を押し当てるのみで7.0MPaの圧力で、すなわち、押し当て荷重をかけながら重ね合わせた。
この加熱工程では、大気雰囲気中で、周波数10kHzの高周波誘導加熱によりこれらS45C鋼材同士を20秒で最高到達温度1250℃まで加熱し、この温度を20秒間保持した後、室温まで空冷した。この大気雰囲気での加熱は、炭素質物質を介したS45C鋼材の接合面同士を押し当てるのみで7.2MPaの圧力(接合界面を固定するための荷重)で、すなわち、押し当て荷重をかけながら加熱接合を行った。冷却工程では加熱した鋼材の少なくとも接合面に放冷により冷却した。
実施例1では、これら工程を経て得られた鋼材接合体を試験体とした。
【0033】
実施例1で得られた鋼材接合体の外観をカメラで観察した。
図6には、実施例1で得られた鋼材接合体の外観写真を示す。また、実施例1では、得られた鋼材接合体について、接合率を確認した。ここで、接合率の確認は、得られた鋼材接合体の接合界面を、ノーエッチングの状態で光学顕微鏡で観察して行った。
図7には、接合率の確認を行う際の観察位置及び接合率の算出方法を説明する図を示す。
図7(a)に示すように、接合率の確認を行うための観察位置は、
図7(a)に示す如く鋼材接合体を中心軸αに平行なL断面で切断した状態のものであり、接合率は、
図7(b)に示すように、dを鋼材接合体の直径とし、Lvをボイドの長さとした場合に、これらの値を用いて「(d-ΣLv)/d×100」で算出される値として求めた。以下に示す表1には、接合率を確認した結果を他の結果と併せて示す。
【0034】
さらに、本実施例1では、得られた鋼材接合体について、接合界面部分における金属組織を確認した。ここで、金属組織の確認は、加熱接合された鋼材接合体を
図7(a)に示すようなL断面で切断した表面の接合界面における所定箇所を、ノーエッチングの状態でカメラで観察した。
図8には、金属組織の確認を行う箇所を説明する図及びこの箇所の金属組織写真を示す。なお、
図8(a)に示す鋼材接合体は、
図7(a)に示す如く鋼材接合体を接合界面で切断した状態のものであり、この接合界面の断面上のA、B、Cそれぞれの箇所において金属組織の確認を行った。
図8(b)には、これらA、B、Cそれぞれの箇所の金属組織写真を他の金属組織写真と併せて示す。
【0035】
[実施例2]
実施例2では、得られた鋼材接合体について、実施例1と同様に「接合率」及び「接合界面部分における金属組織」の確認を行った。ここで、これらの確認を行うに際して、実施例1と同じ方法を採用した。そのため、これら方法に関する説明は省略する。
【0036】
実施例2では、実施例1と同様に、
図1の工程フローに示す如く、配置工程(ステップS100)、重ね合わせ工程(ステップS110)、加熱工程(ステップS120)を順に行った。実施例2において、実施例1と異なる条件は、この加熱工程での加熱を窒素ガス雰囲気中で行った点である。この窒素ガス雰囲気での加熱は、窒素ガスの流量を100L/minとし、炭素質物質を介したS45C鋼材の接合面同士を7.2MPaの圧力(接合界面を固定するための荷重)で加圧しながら加熱接合を行った。
【0037】
以下に示す表1には、接合率を確認した結果を実施例1の結果と併せて示す。
図8には、金属組織の確認を行う箇所を説明する図及びこの箇所の金属組織写真を実施例1の金属組織写真と併せて示す。
【0038】
【0039】
(結果及び評価)
図6より、実施例1で得られた鋼材接合体は、丸棒同士が接合されている様子が確認できる。また、表1より、鋼材接合体の接合率は、実施例1と実施例2とで有意な差は認められなかった。また、
図8より、鋼材接合体の接合界面部分の金属組織についても、実施例1と実施例2とで有意な差がなく、共にパーライト相が形成されていることが確認された。
【0040】
[実施例3から実施例5]
最高到達温度を1150℃(実施例3)、1200℃(実施例4)、1300℃(実施例5)と変化させて、その他は実施例2と同様な工程及び条件で、加熱接合を行った。これらの加熱接合で得られた鋼材接合体を各々の最高到達温度における試験体とした。得られた各々の鋼材接合体について、実施例1と同様である「接合率」及び「接合界面部分における金属組織」の確認を行った。ここで、これらの確認を行うに際して、実施例1と同じ方法を採用した。そのため、これら方法に関する説明は省略する。
【0041】
以下に示す表2には、接合率を確認した実施例3から実施例5の結果を併せて示す。
図9には、金属組織の確認を行う箇所を説明する図及びこの箇所の実施例3から実施例5の各々の金属組織写真と併せて示す。
【0042】
【0043】
(結果及び評価)
表2より、鋼材接合体の接合率に関しては、実施例3から実施例5で有意な差は認められなかった。更には、これら実施例3から実施例5と実施例1及び実施例2とで有意な差は認められなかった。また、
図9より、鋼材接合体の接合界面部分の金属組織についても、実施例3から実施例5、更には、これら実施例3から実施例5と実施例1及び実施例2とで有意な差がなく、共にパーライト相が形成されていることが確認された。
【0044】
[比較例1]
比較例1では、最高到達温度を1100℃として、その他は実施例2と同様な工程フロー及び条件で、加熱接合を行った。その結果、実施例1から実施例5に示すような接合は確認されず、接合率は0%であった。
【0045】
[比較例2]
実施例1のグラファイトシートを使用せず、その他は実施例2と同様な工程フロー及び条件で、加熱接合を行った。
その結果、実施例1から5に示すような接合は確認されず、接合率は0%であった。
以上の結果より、本発明に係る鋼材接合体の製造方法は、好ましくは、最高到達温度を1150℃以上1300℃以下とすることで、鋼材同士の接合強度を有効に向上させることが分かる。
本発明に係る鋼材接合体の製造方法によれば、鋼材同士の接合強度を簡便にかつ有効に向上させることができる。従って、本発明に係る鋼材接合体の製造方法は、鋼材接合体を備える様々な構造物の製造に好適に採用することができる。