(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167652
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電子レンジ加熱対応パウチへの食品の包装方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/00 20060101AFI20231116BHJP
B65D 81/34 20060101ALI20231116BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20231116BHJP
【FI】
A23L3/00 101A
B65D81/34 U
A23L5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078987
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】田邉 利裕
(72)【発明者】
【氏名】厚木 将志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 崇
(72)【発明者】
【氏名】萩原 杜子
(72)【発明者】
【氏名】東海林 礼奈
【テーマコード(参考)】
3E013
4B021
4B035
【Fターム(参考)】
3E013BA24
3E013BB11
3E013BD11
3E013BE01
3E013BG12
4B021LA07
4B021LA13
4B021LA23
4B021LA32
4B021MQ04
4B035LC12
4B035LC16
4B035LE11
4B035LP01
4B035LP45
4B035LT16
(57)【要約】
【課題】電子レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、該食品を電子レンジ加熱するときに該パウチに生じる穴開き等の損傷が有効に防止される方法を提供する。
【解決手段】電子レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、前記食品の油分濃度が高くなるように調整した後、該食品を、前記パウチに包装することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、
前記食品の油分濃度が高くなるように調整した後、該食品を、前記パウチに包装することを特徴とする包装方法。
【請求項2】
油分濃度の調整を、食用油の添加により行う請求項1に記載の包装方法。
【請求項3】
油分濃度の調整を、該食品に含まれる脂質以外の成分量が少なくなるようなレシピの変更により行う請求項1に記載の包装方法。
【請求項4】
前記食品について、電子レンジ加熱試験を行い、電子レンジ加熱により穴開きが発生する油分濃度についての閾値を設定しておき、該閾値を基準として、油分濃度を高めるように調整する請求項1に記載の包装方法。
【請求項5】
前記油分濃度についての閾値が、該食品中に非乳化状態で存在する油分の濃度である請求項4に記載の包装方法。
【請求項6】
前記閾値が、前記パウチの内側表面積1cm2当り3~15mgの範囲に設定される請求項5に記載の包装方法。
【請求項7】
前記食品中に非乳化状態で存在するように添加する油分量を、パウチの内側表面積1cm2当り3mg以上となるように油分濃度の調整を行う請求項1に記載の包装方法。
【請求項8】
前記食品中に非乳化状態で存在するように添加する油分量を、パウチの内側表面積1cm2当り3~30mgとなるように油分濃度の調整を行う請求項7に記載の包装方法。
【請求項9】
前記パウチが、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン及びポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種を含む単層または多層構造の合成樹脂フィルムにより形成されている請求項1に記載の包装方法。
【請求項10】
前記パウチが、自立形態を有している請求項9に記載の包装方法。
【請求項11】
請求項1~10の何れかに記載の方法によって包装された食品入りパウチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における電子レンジの普及に伴い、加熱調理される食品類については、電子レンジ加熱に対応し得るパウチ(電子レンジ加熱対応パウチ)で包装して販売されるようになってきた。
【0003】
ところで、電子レンジは、マイクロ波の照射により、食品中の水分を加熱し、これにより食品を加熱するという機器である。従って、電子レンジ加熱対応パウチは、マイクロ波透過性のプラスチックフィルムを用いて製袋されたものであることが必要であり、また、該フィルムは、水分含量が極力ゼロに近いものでなければならない。このような材料制限に加え、電子レンジ加熱に際しての破袋を防止するための手段として、該パウチに、電子レンジ加熱により発生する水蒸気を逃がす蒸気抜き機構が設けることが、特許文献1及び2等で提案されており、このような蒸気抜き機構は、実際に広く使用されている。
【0004】
しかしながら、上記のような電子レンジ加熱が可能なパウチを用いた場合においても、その内容物によっては、電子レンジ加熱中に、蒸気抜き機構部位とは異なるパウチ胴部に穴が開くなどの問題が生じていた。非特許文献1には、このような穴開きは、内容物の界面近傍に発生し易いとの報告がなされており、さらに、無機塩濃度、粘度(小麦粉溶液濃度)、油濃度が既知の内容物について電子レンジ加熱を行った場合、粘度と油濃度が低ければパウチ損傷が防止できると示唆されるとの報告もなされている。
【0005】
また、特許文献3には、蒸気抜き機構を備えた電子レンジ加熱対応パウチが開示されていると同時に、内容物の油分が多いと、電子レンジ加熱に際して過加熱状態となり、パウチに損傷を生じ易いことが示唆されている。
【0006】
このように、電子レンジ加熱対応パウチに包装される内容物について、種々の実験がなされているのであるが、何れも漠然とした報告がなされているに過ぎず、どのようにすれば、電子レンジ加熱に際して、不都合なパウチの損傷が防止できるかについて、具体的な提案は、ほとんどなされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2018/055989号公報
【特許文献2】特開2019-99257号公報
【特許文献3】特開2012-71847号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「電子レンジ加熱中のレトルトパウチ損傷の調査」東洋食品工業短大・東洋食品研究報告書、27、41-46(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、電子レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、該食品を電子レンジ加熱するときに該パウチに生じる胴部穴開き等の損傷が有効に防止される方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、電子レンジ加熱対応パウチに収容されている食品について電子レンジ加熱するときにパウチに生じる胴部穴開き等の損傷について、多くの実験を行った結果、従来得られている知見とは全く逆に、食品に含まれる油分、即ち、脂質が多いほど、損傷を有効に防止できるという新規知見を得、かかる知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明によれば、電子レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、
前記食品の油分濃度が高くなるように調整した後、該食品を、前記パウチに包装することを特徴とする包装方法が提供される。
また、本発明によれば、上記の方法によって包装された食品入りパウチも提供される。
【0012】
本発明の包装方法においては、次の手段を好適に採用することができる。
(1)油分濃度の調整を、食用油の添加により行うこと。
(2)油分濃度の調整を、該食品に含まれる脂質以外の成分量が少なくなるようなレシピの変更により行うこと。
(3)前記食品について、電子レンジ加熱試験を行い、電子レンジ加熱により穴開きが発生する油分濃度についての閾値を設定しておき、該閾値を基準として、油分濃度を高めるように調整すること。
(4)前記油分濃度についての閾値が、該食品中に非乳化状態で存在する油分の濃度であること。
(5)前記閾値が、前記パウチの内側表面積1cm2当り3~15mgの範囲に設定されること。
(6)前記食品中に非乳化状態で存在するように添加する油分量を、パウチの内側表面積1cm2当り3mg以上となるように油分濃度の調整を行うこと。
(7)前記食品中に非乳化状態で存在するように添加する油分量を、パウチの内側表面積1cm2当り3~30mgとなるように油分濃度の調整を行うこと。
(8)前記パウチが、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン及びポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種を含む単層または多層構造の合成樹脂フィルムにより形成されていること。
(9)前記パウチが、自立形態を有していること。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、食品に含まれる油分(即ち、脂質)の濃度を増大させるという簡単な手段により、電子レンジ加熱に際してのパウチの損傷を有効に回避することができる。即ち、食品に食用油を添加したり、或いは油分以外の成分(例えば水)の量を少なくするなど食品のレシピを変更し、油分濃度が高くなるように調整した後、該食品を電子レンジ加熱対応パウチで包装するわけである。このような食品入りパウチについて電子レンジ加熱を行ったとき、設定通りに蒸気抜き用の孔が形成され、該孔から水蒸気が放出されることとなり、蒸気抜け用の孔とは別の箇所での穴開きや亀裂などの損傷が有効に回避される。
【0014】
上記の手段は、食用油の添加などによって食品中の油分濃度を変化させ、油分濃度毎にレンジ加熱を行ってパウチの穴開きや亀裂などを発生する閾値を設定しておき、この閾値に基づいて、上記のような油分濃度の調整を行うことができる。このような閾値は、食品の包装に用いるパウチの内側表面積1cm2あたりの油分量として設定することが好適である。即ち、レンジ加熱に際してのパウチの穴開きや亀裂のし易さは、パウチの内側表面積(即ち、食品と接触するパウチの面積)にも依存するからである。
【0015】
例えば、油分を上記のようにして設定された閾値以上含んでいる食品については、そのまま電子レンジ加熱対応パウチに包装すればよく、油分濃度が閾値未満の食品については、食用油の添加或いはレシピの変更などにより油分濃度を増大してから電子レンジ加熱対応パウチに包装することとなる。
なお、食品の種類などによっては、油分の測定は省略することもでき、一定量以上の食用油の添加により油分濃度を増大させた後、パウチに包装すればよい。
【0016】
本発明では、あらゆる食品について、比較的損傷を起こしやすいポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレンまたはポリエチレンからなる単層或いは多層の合成樹脂性フィルムから形成されている電子レンジ加熱対応パウチで包装して電子レンジ加熱を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<本発明の原理>
電子レンジ加熱に際して、パウチの蒸気抜き機構以外の部分で生じる穴開きや亀裂等の損傷は、以下の様にして発生するものと考えられる。
(a)ねばりのある成分を多く含んでいる。例えば、油分(脂質分)が少ない味噌やケチャップなどである。
(b)電子レンジ加熱のエッジ効果により、内容物の液界面が集中的に加熱される。
(c)加熱による濃縮(水分等の揮散)が生じることで、さらに加熱が集中し、部分的に温度がパウチを形成しているフィルム(樹脂)の融点近くまで上昇する。
(d)内容物が加熱されることで蒸気圧が発生し、パウチの内圧が上昇する。
(e)(a)~(d)の結果、蒸気抜き機構が機能するに先立って、パウチの融点近くまで温度上昇した部分(内容物の界面近傍)を起点として、穴が開いたり、亀裂が生じることになる。
【0018】
従って、上記のような損傷を回避するために、内容物の液界面部分での内容物のパウチへの付着(へばりつき)を防止すればよい。このために、本発明では、内容物について必要に応じて油分濃度を測定し、油分濃度が少ないものについては、油分濃度を高くすることにより、このような付着を防止し、電子レンジ加熱に際してのパウチの損傷を防止することに成功したものである。
【0019】
即ち、油分を多くすることにより、内容物のパウチに対する滑落性が向上するため、内容物のパウチ面に対しての付着が生じ難くなる。このことから、本発明では、内容物を電子レンジ対応パウチに充填するに先立って、内容物について必要に応じて油分濃度を測定し、油分濃度が一定の閾値未満のものについては、油を追加或いはレシピの変更により油分濃度を高めてからパウチに充填することとするわけである。
尚、本発明において、油分として乳化状態で存在するものは含まない。乳化状態で存在する油分は、水分と一体に挙動するため、パウチ内面への付着防止などの潤滑性を示さないからである。
【0020】
<電子レンジ加熱対応パウチ>
本発明において使用される電子レンジ加熱対応パウチ(以下、単にレンジ対応パウチと呼ぶことがある)は、マイクロ波透過性のフィルム(即ち、金属箔を含んでいないパウチ形成用フィルム)を製袋して得られるものであり、さらには、蒸気抜き機構が設けられているものである。この蒸気抜き機構は、電子レンジ加熱により発生した水蒸気が、一定の蒸気圧となったときにガス抜き孔を形成するような構造を有していればよく、特に制限されず、それ自体公知の構造であってよい。例えば、前述した特許文献1、2等で開示されている構造ものであってもよい。
【0021】
製袋は、パウチ形成用フィルムが有しているヒートシール性樹脂層でのヒートシールによる貼り付けによって行われる。例えば、2枚のフィルムを用いての3方シールにより、空パウチを作製し、開口部から後述する内容物を充填し、最後に開口部をヒートシールにより閉じる。
また、1枚のフィルムを折り返して両側端をヒートシールすることにより上記の空パウチを作製することもできる。この場合、底部をヒートシールする必要はない。
さらに、側部或いは底部専用のフィルムを使用して上記の空パウチを製造することもできる。このような方法は、パウチの容積を大きくし、あるいは自立性を付与する上で有利である。電子レンジ加熱対応パウチの中には、電子レンジ内での設置安定性を考慮して、底部専用のフィルムが使用されて自立性が付与されたスタンディング形状のものがあるが、自立性を有したスタンディング形状のパウチは、内容物界面でエッジ部が発生しやすいことから特に穴開き等の損傷が起こりやすい形状である。
【0022】
また、本発明で使用されるレンジ加熱対応パウチは、蒸気抜き機構を有していながら、電子レンジ加熱に際して胴部穴開き等の損傷を生じ易いフィルム構成のパウチに対しても好適に適用される。
このようなパウチの例として、合成樹脂性フィルムとしてポリエステル、ポリアミド及び、ポリプロピレンまたはポリエチレンが積層されてなる構成のものが挙げられる。
【0023】
即ち、本発明では、上記のような形状や構成のパウチを用いた場合にも電子レンジ加熱に際しての損傷を有効に回避することができ、これは、本発明の大きな利点である。
【0024】
<食品の選択>
本発明では、パウチに充填しようとする食品の種類に応じてラボ試験(電子レンジ加熱試験)を行い、電子レンジ加熱に際しての損傷発生の有無について、閾値を設定しておくことが好ましい。即ち、原理的には、この閾値は食品の種類に関係なく、一定の値に設定しておけばよいのであるが、食品に含まれる油分の形態によって油分含量の測定値にバラつきを生じるため、油分の形態が類似している食品毎に(好ましくはさらにパウチ毎に)、予めラボ試験を行って損傷の有無を確認し、損傷が生じないような油分濃度の最小値を閾値として設定する。この閾値未満の食品を、損傷が発生し易い食品として選択するのであり、この閾値に基づいて油分濃度を調整して包装することにより、より確実に電子レンジ加熱に際しての損傷発生を防止することができる。
【0025】
上記の閾値は、本発明者等の実験によれば、通常、パウチの内側表面積1cm2あたり3~15mgの範囲に設定される。バラつきを考慮しても、このような範囲に閾値を設定しておけば、損傷を生じ易い食品を確実に選択することができる。また、パウチの内側表面積1cm2あたりの量とすることにより、パウチの大きさの影響も抑制することができる。
ここで、油分とは、脂質(即ち、脂肪分)であり、ジエチルエーテル、石油エーテルなどの溶剤に可溶な成分を意味する。
【0026】
<油分の測定>
食品についての油分含量の測定方法としては、食品が含有する油分の形態に応じて、エーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液注出法、ゲルベル法、酸分解法、レーゼゴットリーブ法が採用される。
【0027】
エーテル抽出法は、一般食品、特に比較的脂質含量が高く、組織成分と結合している脂質が少なく、且つ乾燥時粉末、または容易に粉砕し得る状態にある食品、例えば、味噌類、納豆類、ジャム、果実類、マヨネーズ、ドレッシング、バター、マーガリン、コーヒー豆などの内、電子レンジ加熱が要求される食品について適用される。
クロロホルム・メタノール混液注出法は、大豆及び大豆製品(味噌類や納豆類は除く)、リン脂質等の極性物質を含む卵類などの食品に適用される。
ゲルベル法は、牛乳、脱脂乳及び加工乳等の乳製品に適用される。
酸分解法は、組織に結合又は包含されている脂質(複合脂質)を相対的に多く含む食品、例えば、穀類、パン、マカロニ類、いも及びでんぷん類、脂質含量の少ない種実類、豆類、野菜類、卵類、キノコ類、藻類、調理加工食品等に適用される。
レーゼゴットリーブ法は、主として牛乳及び乳製品に使用されるが、乳脂肪を含む食品や、比較的脂質含量の高い液状又は乳状の食品にも適用される。
【0028】
<油分濃度の調整>
本発明において、油分濃度の調整は、好適には、上記の実験により設定された閾値に基づいて、油分を添加し或いは食品のレシピを変更することにより行われる。即ち、食品の収容に用いるパウチの内側表面積1cm2当りの油分量が一定の閾値未満の場合には、油分濃度が該閾値以上となるように、油分が添加され或いは食品のレシピが変更される。食品中の油分量が上記閾値以上であるときは、そのまま、レンジ対応パウチに充填され包装されて市販されることとなる。
【0029】
1.油分の添加;
油分の添加により油分濃度を調整する場合には、添加する油分として、食用油が使用されるが、特に、植物油を用いることが好適である。植物油は、植物中の脂肪分を抽出し、精製したものであるため、その添加により、食品中の油分濃度を精度よく、コントロールすることができる。
【0030】
このような植物油としては、特に制限されないが、例えば、大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油等を例示することができ、食品の種類に応じて、該食品のフレーバーを損なわないような植物油が選択される。
上記のような食用油は、必ずしもその必要は無いが食品中に均一に分散されるように混合される。
【0031】
食品中に添加する食用油の量は、前述した閾値から決定されるが、一般的には、用いるパウチの内側表面積1cm2あたり、3mg以上、特に15mg以上の量とすることにより、ほぼ確実に、電子レンジ加熱に際しての損傷発生を防止することができる。この添加量が少ないと、食用油の潤滑剤としての十分に機能せず、パウチの損傷を生じ易いが、上記のような量であれば、どのような食品であろうと、その油分量が前述した閾値以上となり、電子レンジ加熱に際しての損傷発生を防止することが可能となる。
【0032】
尚、必要以上に多量の食用油が添加されると、パウチの損傷防止の点では問題は無いが、食品のフレーバーが損なわれる恐れがあるので、パウチの損傷が防止される限り、可及的に少量とすべきであり、パウチの内側表面積1cm2あたり30mg以内とするのが好適である。
【0033】
2.レシピの変更;
本発明においては、レシピの変更によっても油分濃度を調整することができる。
具体的には、食品中の油分以外の成分の量を少なくすることにより油分濃度を増大させるわけである。このような油分以外の成分としては、特に制限されるものではなく、最も簡単に行うことができるのは、水分量を少なくすることであるが、一般的には、食品の種類に応じて、食品の味等ができるだけ変化しないように、水を含めた複数の成分の量を少なくすることにより行われる。勿論、該食品に含まれる油分が明確な時には、該油分の配合量を多くすることにより油分濃度を調整することもできる。
【0034】
上記の様にして油分濃度が調整された食品は、レンジ対応パウチ(空パウチ)に充填して包装され、その後、該パウチの開口部がヒートシールされる。
【0035】
このような食品中に含まれる油分は、該食品が多くの水分を含んでいるため、経時と共に食品から分離し、食品の液面部分や食品とパウチとの間の界面に分布するようになり、これにより、電子レンジ加熱に際して油分が潤滑剤となってパウチ面への食品のへばりつきが有効に防止され、パウチの損傷を回避できる。本発明のパウチ損傷回避の機構からすると、添加する油分量はレンジ加熱前の状態において、非乳化状態で存在する油分でもって、油分濃度の調整を行うことが望ましい。
【実施例0036】
食用油の添加・配合によるレンジ加熱に際してのパウチ損傷防止効果について、以下の実験により説明する。
【0037】
以下の実験において、電子レンジとしては、National製電子レンジNE-EZ2を使用した。
また、レンジ加熱対応パウチとしては、12μmPET/15μmPA/60μmCPP構成の150x160x41mmサイズのフィルムを製袋して得られる蒸気抜け孔機構付きのパウチを使用した。尚、PETはポリエチレンテレフタレート、PAはポリアミド、CPPは、未延伸ポリプロピレンを示す。
この容器の口部をシールすると、その内側表面積は430cm2となる。
さらに、食品の油分測定は、エーテル抽出法により行った。
【0038】
<実験例1>
モデル食品として、赤味噌(マルサンアイ社製「中京赤味噌」)20質量%、食塩1質量%、加工デンプン2質量%(残分:水)を混ぜ合わせ、加熱してとろみをつけたものを用意した。
このモデル食品につき、前記方法にて測定された油分(脂質)濃度は、0.2質量%であった。
このモデル食品230gを、前記レンジ対応パウチに充填・密封した。パウチの内側表面積1cm2あたり約1mgであった。
この包装体を3袋用意し、電子レンジで500W、3分間(適正加熱時間)加熱したところ、3袋の全てにおいて、容器の胴部の液界面付近に裂けるような大きな穴開きが発生した。
【0039】
上記のモデル食品に、サラダ油(日清オイリオグループ社製「キャノーラ油」)を、4.5、9.0、13.5、15.7、18.0、22.5、27.0、31.5mg/cm2添加し、よく混ぜ込んだものをレンジ対応パウチに充填・密封し、同様にレンジ加熱を行った。サラダ油の添加量と、パウチの損傷(穴開きの有無)との結果を、以下の表1に示す。
【0040】
【表1】
+:全数穴開きが発生
±:穴が開くものと開かないものがある
-:穴開き発生せず、(-):穴開きはないが、内容物として違和感有り
【0041】
<実験例2>
実験例1のモデル食品において、赤味噌の代わりに、こしあん(谷尾食糧工業社製)を用いた以外は同様の組成のモデル食品を用意した。このモデル食品の油分濃度は、0質量%であった。
このモデル食品を用いて、実験例1と同様に、電子レンジ加熱を行った。サラダ油の添加量と、パウチの損傷(穴開きの有無)との結果を、以下の表2に示す。
【0042】
【表2】
+:全数穴開きが発生
±:穴が開くものと開かないものがある
-:穴開き発生せず
【0043】
<実験例3>
実験例1のモデル食品において、赤味噌の代わりに、ケチャップ(カゴメ社製)を用いた以外は同様の組成のモデル食品を用意した。このモデル食品の油分濃度は、0質量%であった。
このモデル食品を用いて、実験例1と同様に、電子レンジ加熱を行った。サラダ油の添加量と、パウチの損傷(穴開きの有無)との結果を、以下の表3に示す。
【0044】
【表3】
+:全数穴開きが発生
±:穴が開くものと開かないものがある
-:穴開き発生せず
【0045】
<実験例4>
市販の「どて煮」製品(セブンプレミアム:エスフーズ社製)をモデル食品として用意した。この「どて煮」の油分濃度は、本来3%程度であるが、乳化されていない油分をエーテル抽出法で測定した値は0.3%(約1.5mg/cm2)であった。
このモデル食品を用いて、実験例1と同様に、電子レンジ加熱を行った。サラダ油の添加量と、パウチの損傷(穴開きの有無)との結果を、以下の表4に示す。
【0046】
【表4】
+:全数穴開きが発生
±:穴が開くものと開かないものがある
-:穴開き発生せず
【0047】
<実験例5>
実験例1で添加した食用油をショートニング(ママパン社製)とした他は、同様の組成のモデル食品を用意した。このモデル食品を用いて、実験例1と同様に、電子レンジ加熱を行った。ショートニングの添加量と、パウチの損傷(穴開きの有無)との結果を、以下の表5に示す。
【0048】
【表5】
+:全数穴開きが発生
±:穴が開くものと開かないものがある
-:穴開き発生せず
【0049】
以上の実験結果から、食用油の添加で油分濃度を高めることにより、電子レンジ加熱に際してのパウチの損傷発生頻度が低下することが判る。
また、閾値をパウチの内側表面積1cm2あたり3~15mg程度に設定し、油分濃度が閾値未満の食品に対して、パウチの内側表面積1cm2あたり3mg以上、好ましくは15mg以上の量となるよう食用油を添加・配合することにより、電子レンジ加熱に際してのパウチの損傷を抑制できることが判る。