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特開2023-167653レンジ加熱対応パウチへの食品の包装方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167653
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】レンジ加熱対応パウチへの食品の包装方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/34 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
B65D81/34 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078988
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】田邉 利裕
(72)【発明者】
【氏名】厚木 将志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 崇
(72)【発明者】
【氏名】萩原 杜子
(72)【発明者】
【氏名】東海林 礼奈
【テーマコード(参考)】
3E013
【Fターム(参考)】
3E013AA10
3E013AB01
3E013AE12
3E013BA30
3E013BB12
3E013BC14
3E013BD11
3E013BE01
3E013BF62
3E013BG15
3E013CC12
(57)【要約】
【課題】レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、該食品を電子レンジ加熱するときに該パウチに生じる穴開き等の損傷が有効に防止される方法を提供する。
【解決手段】電子レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、レンジ加熱に際して発生する損傷についての塩分濃度の閾値を設定しておき、前記食品について塩分濃度を測定し、測定された塩分濃度に基づいて、該塩分濃度が前記閾値未満である低塩分食品(A)と、該塩分濃度が前記閾値以上である高塩分食品(B)とに分類し、前記低塩分食品(A)については、そのまま前記パウチで包装し、前記高塩分食品(B)については、回転粘度計で測定した25℃での液分の粘度が、易損傷発生領域の範囲内にあるものについては、該粘度が易損傷発生領域外となるように粘度調整を行った後に、前記パウチで包装し、該液分の粘度が易損傷発生領域外にあるものは、そのまま前記パウチで包装することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、
レンジ加熱に際して発生する損傷についての塩分濃度の閾値を設定しておき、
前記食品について塩分濃度を測定し、測定された塩分濃度に基づいて、該塩分濃度が前記閾値未満である低塩分食品(A)と、該塩分濃度が前記閾値以上である高塩分食品(B)とに分類し、
前記低塩分食品(A)については、そのまま前記パウチで包装し、
前記高塩分食品(B)については、回転粘度計で測定した25℃での液分の粘度が、易損傷発生領域の範囲内にあるものについては、該粘度が易損傷発生領域外となるように粘度調整を行った後に、前記パウチで包装し、該液分の粘度が易損傷発生領域外にあるものは、そのまま前記パウチで包装すること、
を特徴とする包装方法。
【請求項2】
前記塩分濃度の閾値が1.5±0.5質量%の範囲に設定されている請求項1に記載の包装方法。
【請求項3】
前記粘度の易損傷発生領域が、500±50mP・s以上、7000±500mP・s以下の範囲にある請求項1に記載の包装方法。
【請求項4】
前記高塩分食品(B)について行われる粘度調整が、水の処方による低粘度化或いは増粘剤の処方による高粘度化により行われる請求項1に記載の包装方法。
【請求項5】
前記パウチが、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン及びポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種を含む単層または多層構造の合成樹脂フィルムにより形成されている請求項1に記載の包装方法。
【請求項6】
前記パウチが自立形態を有している請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の方法によって包装された食品入りパウチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ加熱に供することができるレンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における電子レンジの普及に伴い、加熱調理される食品類については、電子レンジ加熱に対応し得るパウチ(レンジ加熱対応パウチ)で包装して販売されるようになってきた。
【0003】
ところで、電子レンジは、マイクロ波の照射により、食品中の水分を加熱し、これにより食品を加熱するという機器である。従って、電子レンジ加熱対応パウチは、マイクロ波透過性のプラスチックフィルムを用いて製袋されたものであることが必要であり、また、該フィルムは、水分含量が極力ゼロに近いものでなければならない。このような材料制限に加え、電子レンジ加熱に際しての破袋を防止するための手段として、該パウチに、電子レンジ加熱により発生する水蒸気を逃がす蒸気抜き機構が設けることが、特許文献1及び2等で提案されており、このような蒸気抜き機構は、実際に広く使用されている。
【0004】
しかしながら、上記のような電子レンジ加熱が可能なパウチを用いた場合においても、その内容物によっては、電子レンジ加熱中に、パウチに穴が開くなどの問題が生じていた。非特許文献1には、このような穴開きは、内容物の界面近傍に発生し易いとの報告がなされており、さらに、無機塩濃度、粘度(小麦粉溶液濃度)、油濃度が既知の内容物について電子レンジ加熱を行った場合、粘度と油濃度が低ければパウチ損傷が防止できると示唆されるとの報告もなされている。
【0005】
また、特許文献3には、蒸気抜き機構を備えた電子レンジ加熱対応パウチが開示されていると同時に、内容物の油分が多いと、電子レンジ加熱に際して過加熱状態となり、パウチに損傷を生じ易いことが示唆されている。
【0006】
このように、電子レンジ加熱対応パウチに包装される内容物について、種々の実験がなされているのであるが、何れも漠然とした報告がなされているに過ぎず、どのようにすれば、電子レンジ加熱に際して、不都合なパウチの損傷が防止できるかについて、具体的な提案は、ほとんどなされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2018/055989号公報
【特許文献2】特開2019-99257号公報
【特許文献3】特開2012-71847号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「電子レンジ加熱中のレトルトパウチ損傷の調査」東洋食品工業短大・東洋食品研究報告書、27、41-46(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、該食品を電子レンジ加熱するときに該パウチに生じる穴開き等の損傷が有効に防止される方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、レンジ加熱対応パウチに収容されている食品について電子レンジ加熱するときにパウチに生じる穴開き等の損傷について、多くの実験を行った結果、食品に含まれる塩分濃度と、食品に含まれる液分の粘度との一定の関係にあり、塩分濃度に応じて粘度を一定の範囲に調整することにより、レンジ加熱に際しての損傷を有効に防止できるという新規知見を得、かかる知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明によれば、レンジ加熱対応パウチに食品を包装する方法において、
レンジ加熱に際して発生する損傷についての塩分濃度の閾値を設定しておき、
前記食品について塩分濃度を測定し、測定された塩分濃度に基づいて、該塩分濃度が前記閾値未満である低塩分食品(A)と、該塩分濃度が前記閾値以上である高塩分食品(B)とに分類し、
前記低塩分食品(A)については、そのまま前記パウチで包装し、
前記高塩分食品(B)については、回転粘度計で測定した25℃での液分の粘度が、易損傷発生領域の範囲内にあるものについては、該粘度が易損傷発生領域外となるように粘度調整を行った後に、前記パウチで包装し、該液分の粘度が易損傷発生領域外にあるものは、そのまま前記パウチで包装すること、
を特徴とする包装方法が提供される。
本発明によれば、また、上記の方法によって包装された食品入りパウチが提供される。
【0012】
本発明の包装方法においては、
(1)前記塩分濃度の閾値が1.5±0.5質量%の範囲に設定されていること、
(2)前記25℃での粘度の易損傷発生領域が、500±50mP・s以上、7000±500mP・s以下の範囲にあること、
(3)前記高塩分食品(B)について行われる粘度調整が、水の処方による低粘度化或いは増粘剤の処方による高粘度化により行われること、
(4)前記パウチが、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン及びポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種を含む単層または多層構造の合成樹脂フィルムにより形成されていること、
(5)前記パウチが自立形態を有していること、
が好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、パウチ詰めしようとする食品が、塩分濃度が一定の閾値未満の低塩分食品(A)と、該塩分濃度が閾値以上である高塩分食品(B)との何れかに属するかを、塩分濃度測定により区分けされ、低塩分食品(A)については、そのままレンジ対応パウチにパウチ詰め(包装)される。一方、高塩分食品(B)については、回転粘度計による粘度測定が行われ、25℃で一定の粘度範囲(易損傷発生領域)にあるもののみについて、粘度調整が行われ、低粘度化或いは高粘度化によって易損傷発生領域外の粘度に調整され、その後、パウチ詰め(包装)される。即ち、粘度の測定値が初めから易損傷発生領域外にある高塩分食品(B)については、粘度調整は行われず、そのまま、パウチ詰めされることとなる。
このようにして食品のパウチ詰めを行うことにより、本発明では、どのような食品についても、レンジ加熱に際してのパウチの損傷を有効に回避することができる。
【0014】
しかも、本発明においては、パウチの損傷回避のために食品に処方される物質は、低粘度化或いは高粘度化のために使用される物質のみであり、例えば低粘度化のためには、水(飲用水)を使用することができ、高粘度化のためには、多糖類(例えばデンプンなど)を使用することができ、所謂食品に処方しても安全性に問題はなく、食品のフレーバーを大きく損なわずに、容易に電子レンジ加熱対応パウチで包装して電子レンジ加熱を行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
電子レンジ加熱に際して、パウチの蒸気抜き機構以外の部分で生じる穴開きや亀裂等の損傷は、以下の様にして発生するものと考えられる。
(a)レンジ加熱のエッジ効果により、パウチ内の食品(内容物)の液界面が集中的に加熱される。
(b)加熱による濃縮(水分等の揮散)が生じることで、さらに加熱が集中し、部分的に温度がパウチを形成しているフィルム(樹脂)の融点近くまで上昇する。
(c)内容物が加熱されることで蒸気圧が発生し、パウチの内圧が上昇する。
(d)(a)~(c)の結果、蒸気抜き機構が機能するに先立って、パウチの融点近くまで温度上昇した部分(内容物の界面近傍)を起点として、穴が開いたり、亀裂が生じることになる。
【0016】
ところで、各種の食品の中では、ねばりのある成分を多く含んでいる食品、例えば、味噌やケチャップのような食品がレンジ加熱に際して損傷を生じ易い。また、食品には、必ずと言ってよいほど塩分を含んでいる。この塩分は、マイクロ波の吸収剤として機能する。即ち、塩分をある程度以上の濃度で含むと、食品のマイクロ波の吸収率が増大し、この結果、食品の表面部に加熱が集中しやすくなりパウチ内の液界面部分に付着した塩分を含む高粘性成分が集中的に加熱されて濃縮され、さらに加熱が集中するようになり、パウチの損傷が発生し易くなると考えられる。従って、レンジ加熱に際しての損傷のし易さは、食品に含まれる塩分濃度に大きく依存するものと考えられる。
【0017】
塩分濃度についての閾値の設定;
上記のことから、本発明者等は、多くの食品について、レンジ加熱対応パウチにパウチ詰めしてレンジ加熱試験を行ったところ、塩分濃度が一定の閾値未満の低塩分食品(A)は、損傷がほとんど発生せず、塩分濃度が一定の閾値以上の高塩分食品(B)については、一定の粘度条件を満たすときに、損傷が発生し易いという実験結果を得たのである。即ち、この実験結果は、塩分をほとんど含まない食品は、マイクロ波の表面部での吸収をほとんど生じていないため、加熱の集中が起こらず、従って、レンジ加熱に際して損傷がほとんど生じないことを物語っている。
【0018】
よって、本発明においては、パウチ詰めしようとする食品について、予めレンジ加熱試験を行い、損傷の有無を判定するために、塩分濃度についての閾値を設定しておく。即ち、塩分濃度を測定し、該塩分濃度が前記閾値未満である低塩分食品(A)と、該塩分濃度が前記閾値以上である高塩分食品(B)とに分類する。
【0019】
塩分濃度の測定は、試料の食品(通常、1~10g程度)を加熱して灰化し、灰中のNa分を原子吸光度法により測定し、これを食塩相当量に換算すること等により行われる。
【0020】
上記の閾値は、塩分濃度の測定に際してのサンプリングのバラつきや食品中に含まれる成分の相違などによって多少ばらつくが、本発明者等の実験によれば、一般に、1.5±0.5質量%程度の範囲に設定される。
【0021】
低塩分食品(A)について;
塩分濃度の測定値が上記の閾値未満となり、低塩分食品(A)に分類された食品は、レンジ加熱に際して損傷を発生しない食品であるため、そのまま、レンジ加熱対応パウチに充填・密封(即ち、包装)されることとなる。
【0022】
高塩分食品(B)について;
塩分濃度の測定値が上記の閾値以上となり、高塩分食品(B)に分類された食品は、液分の25℃での粘度が一定の範囲内にあるとき、レンジ加熱に際して損傷を発生し易いことが実験により確認されている。即ち、この粘度が小さいと、パウチ内の食品がレンジ加熱に際して対流により流動し、この結果、パウチの一定箇所(例えば、液界面部分)に液が止まることがなく、従って局部的な加熱が防止され、損傷の発生が抑制されるものと信じられる。また、25℃での粘度が一定値以上よりも高いと、液部が流動できず、液界面部に塩分の供給がないため、塩分の濃縮が起こりにくく、局部的な加熱が抑制され、損傷の発生が抑制されるものと考えられる。
【0023】
従って、本発明では、高塩分食品(B)について粘度測定を行い、25℃での粘度が上記範囲(易損傷発生領域)内にあるときは、粘度が易損傷発生領域外となるように、粘度調整を行った後に、レンジ加熱対応パウチにパウチ詰めされることとなる。勿論、測定された粘度が易損傷発生領域外であるときは、粘度調整することなく、そのまま、パウチ詰めされることとなる。
【0024】
本発明において、易損傷発生領域は、高塩分食品(B)毎に、レンジ加熱試験を行って決定することができるが、その下限値は、通常、500±50mP・sに存在し、上限値は、7000±500mP・sの範囲にある。勿論、食品の種類に応じては、この易損傷発生領域が高粘度側にシフトすることがある。特に、多糖類の如き、増粘剤成分を多く含む食品が、高粘度側にシフトする傾向がある。
【0025】
本発明において、高塩分食品(B)についての粘度測定は、この食品をメッシュにより篩にかけ、固形分を除去してから、サンプリングを行い、回転粘度計(B型粘度計)を用いて25℃の温度で測定する(詳細な測定条件は実施例参照)。
【0026】
粘度を易損傷発生領域外に調整するためには、低粘度化或いは高粘度化により行われる。
低粘度化には、水(飲用水)を使用し、高粘度化には、多糖類(デンプン、加工デンプン、グアーガム等)などの増粘剤が使用される。即ち、これらの粘度調整剤を高塩分食品(B)に処方混合することにより粘度調整が行われる。
【0027】
尚、増粘剤を用いて高粘度化を行う場合、フレーバーや食感の大きな変化をもたらす場合がある。このため、増粘剤の量は可及的に少量とすべきである。
【0028】
<電子レンジ加熱対応パウチ>
本発明において、上述した低塩分食品(A)や、適宜粘度調整され、25℃での粘度が易損傷発生領域外である高塩分食品(B)を充填・密封するレンジ加熱対応パウチ(以下、単にレンジ対応パウチと呼ぶことがある)は、マイクロ波透過性のフィルム(即ち、金属箔を含んでいないパウチ形成用フィルム)を製袋して得られるものであり、さらには、蒸気抜き機構が設けられているものである。この蒸気抜き機構は、電子レンジ加熱により発生した水蒸気が、一定の蒸気圧となったときにガス抜き孔を形成するような構造を有していればよく、特に制限されず、それ自体公知の構造であってよい。例えば、前述した特許文献1,2等で開示されている構造ものであってもよい。
【0029】
製袋は、パウチ形成用フィルムが有しているヒートシール性樹脂層でのヒートシールによる貼り付けによって行われる。例えば、2枚のフィルムを用いての3方シールにより、空パウチを作製し、開口部から後述する内容物を充填し、最後に開口部をヒートシールにより閉じる。
また、1枚のフィルムを折り返して両側端をヒートシールすることにより上記の空パウチを作製することもできる。この場合、底部をヒートシールする必要はない。
さらに、側部或いは底部専用のフィルムを使用して上記の空パウチを製造することもできる。このような方法は、パウチの容積を大きくし、あるいは自立性を付与する上で有利である。電子レンジ加熱対応パウチの中には、電子レンジ内での設置安定性を考慮して、底部専用のフィルムが使用されて自立性が付与されたスタンディング形状のものもある。しかしながら、このように底材が付加され自立性を有したスタンディング形状のパウチは、内容物界面でエッジ部が発生しやすいことから特に穴開き等の損傷が起こりやすい形状である。
【0030】
また、本発明で使用されるレンジ加熱対応パウチは、蒸気抜き機構を有していながら、電子レンジ加熱に際して胴部穴開き等の損傷を生じ易いフィルム構成のパウチに対しても好適に適用される。
このようなパウチは、合成樹脂性フィルムとしてポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン及びポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種を含む単層または多層構造の合成樹脂フィルムにより形成される。
【0031】
即ち、本発明では、上記のような構造のパウチを用いた場合にも電子レンジ加熱に際しての損傷を有効に回避することができ、これは、本発明の大きな利点である。
【0032】
尚、上述した説明から理解されるように、レンジ加熱に際しての損傷を防止するためだけであるならば、食品の塩分濃度を低下させる処理(例えば飲用水の添加)でも十分に目的を達成することができる。しかし、塩分濃度は、食品の味に大きく影響し、塩分濃度を低減させることは、食品本来の味を損ねてしまうことになり、採用することができない。即ち、本発明は、食品の味をほとんど変化せることなく、レンジ加熱に際しての不都合な損傷を有効に防止することができる。
【0033】
本発明の包装方法は、レンジ加熱に供することのできる種々のパウチ詰め食品、例えば、レトルトカレー、ハヤシライス、各種スープ類、各種ソース類などに好適に適用される。
【実施例0034】
以下の実験において、電子レンジとしては、National製電子レンジNE-EZ2を使用した。
【0035】
また、レンジ加熱対応パウチとしては、12PET15NY60CPP構成の150x160x41mmサイズのフィルムを製袋して得られる蒸気抜け孔機構付きのパウチを使用した。
【0036】
さらに、食品の塩分測定は、食品を灰化し、原子吸光法によりNa量を測定し、これを食塩(NaCl)に換算することにより、算出した。
【0037】
食品の粘度測定は、メッシュ篩により食品中の固形分を除去し、残った液分についての25℃での粘度を以下の条件で測定した。
粘度計:東機産業株式会社製回転粘度計BLII型
ロータ:No.2
回転数:12rpm
測定温度:25℃
【0038】
<実験例1>
モデル食品aとして、赤味噌20質量%、塩1質量%、加工デンプン0.75質量%(残分:水)を混ぜ合わせ、加熱してとろみをつけたものを用意した。
このモデル食品aの塩分濃度は、3.2質量%であり、液分の25℃での粘度は、500mP・sであった。
また、モデル食品bとして、赤味噌20質量%、塩1質量%、加工デンプン1質量%(残分:水)を混ぜ合わせ、加熱してとろみをつけたものを用意した。
このモデル食品bの塩分濃度は、3.2質量%であり、液分の25℃での粘度は、800mP・sであった。
さらに、モデル食品cとして、赤味噌20質量%、塩1質量%、加工デンプン2質量%(残分:水)を混ぜ合わせ、加熱してとろみをつけたものを用意した。
このモデル食品cの塩分濃度は、3.2質量%であり、液分の25℃での粘度は2000mP・sであった。
【0039】
これらのモデル食品aからc230gを、前記レンジ対応パウチに充填・密封し、この包装体をそれぞれ3袋用意し、電子レンジで500W、3分間(適正加熱時間)加熱したところ、それぞれ3袋の全てにおいて、容器の胴部の液界面付近に裂けるような大きな穴開きが発生した。
【0040】
<実験例2>
実験例1のモデル食品aの加工デンプン濃度を0%または0.5質量%に変更したモデル食品d及びeを用意した。これら食品の塩分濃度及び25℃での粘度は、以下のとおりであった。
モデル食品d(加工デンプン0%);
塩分濃度:3.2質量%
粘度(25℃):50mP・s
モデル食品e(加工デンプン0.5質量%);
塩分濃度:3.2質量%
粘度(25℃):350mP・s
【0041】
これらのモデル食品d及びeを、実験例1と同様にしてレンジ対応パウチに充填・密封し、レンジ加熱(500W、3分間)を行ったところ、モデル食品d(加工デンプン0%)は、損傷は全く生じなかった。また、モデル食品e(加工デンプン0.5質量%)では、容器胴部にわずかなクラックが生じたが、穴開きには至らなかった。
【0042】
<実験例3>
モデル食品fとして、こしあん40質量%、塩1.5質量%、加工デンプン2質量%(残分:水)を混ぜ合わせ、加熱してとろみをつけたものを用意した。このモデル食品fの塩分濃度は、1.5質量%(こしあんの塩分濃度は0%)であり、液分の25℃での粘度は、1000mP・sであった。
モデル食品gとして、モデル食品fの塩分濃度を2質量%に代えたものを用意した。このモデル食品gの塩分濃度は、2質量%であり、液分の25℃での粘度は、1000mP・sであった。
モデル食品hとして、モデル食品fの塩分濃度を3質量%に代えたものを用意した。このモデル食品hの塩分濃度は、3質量%であり、液分の25℃での粘度は、1000mP・sであった。
【0043】
これらのモデル食品f~hを、実験例1と同様にしてレンジ対応パウチに充填・密封し、レンジ加熱(500W、3分間)を行ったところ、何れも容器胴部の液界面部分に穴あきが生じた。
【0044】
<実験例4>
実験例3におけるモデル食品fの塩分濃度を、0%及び1質量%に変更したモデル食品i(塩分0%)及びモデル食品j(塩分1質量%)を用意した。これらの食品i及びjの25℃での粘度は、何れも1000mP・sであった。
【0045】
これらのモデル食品i及びjを、実験例1と同様にしてレンジ対応パウチに充填・密封し、レンジ加熱(500W、3分間)を行ったところ、モデル食品i(塩分0%)は、損傷は全く生じなかった。また、モデル食品j(塩分1質量%)では、容器胴部にわずかなクラックが生じたが、穴開きには至らなかった。このことから、こしあん系の食品での塩分濃度の閾値は、1質量%前後であることが判る。
【0046】
<実験例5>
モデル食品Lとして、実験例3におけるモデル食品fの加工デンプン濃度を5質量%に変更したものを用意した。このモデル食品Lの塩分濃度は、1.5質量%であり、液分の25℃での粘度は、10000mP・sであった。
【0047】
このモデル食品Lを、実験例1と同様にしてレンジ対応パウチに充填・密封し、レンジ加熱(500W、3分間)を行ったところ、容器胴部にわずかなクラックが生じたが、穴開きには至らなかった。
【0048】
<実験例6>
モデル食品mとして、実験例3におけるモデル食品fの加工デンプン濃度を4.5質量%に変更したものを用意した。このモデル食品mの塩分濃度は、1.5質量%であり、液分の25℃での粘度は、7000mP・sであった。
【0049】
このモデル食品mを、実験例1と同様にしてレンジ対応パウチに充填・密封し、レンジ加熱(500W、3分間)を行ったところ、容器胴部の液界面付近に穴開きが生じた。
【0050】
<実験例7>
モデル食品nとして、実験例3におけるモデル食品fの加工デンプン濃度を4.7質量%に変更したものを用意した。このモデル食品mの塩分濃度は、1.5質量%であり、液分の25℃での粘度は、8000mP・sであった。
【0051】
このモデル食品nを、実験例1と同様にしてレンジ対応パウチに充填・密封し、レンジ加熱(500W、3分間)を行ったところ、容器胴部にわずかなクラックが生じたが、穴開きには至らなかった。