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特開2023-167668鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測方法および騒音予測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167668
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測方法および騒音予測システム
(51)【国際特許分類】
   B61D 49/00 20060101AFI20231116BHJP
   G01H 3/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B61D49/00 A
G01H3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079016
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】川口 二俊
(72)【発明者】
【氏名】中川 隼
(72)【発明者】
【氏名】佐原 孝紀
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA14
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB12
2G064AB15
2G064BA08
2G064CC29
2G064CC41
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】鉄道車両の走行区間ごとのレール表面状態等の条件に応じて変化する車両下部騒音によるレール近傍の騒音を、簡易な測定手法により高い精度で予測できるレール近傍の騒音予測方法および騒音予測システムを提供する。
【解決手段】鉄道車両10の床下騒音によるレール近傍の騒音予測方法であって、鉄道車両10の走行時の床下騒音と、レール20から一定距離の位置のレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を、軌道または当該軌道の周辺の環境条件毎に予め測定して求める関数導出工程S11と、鉄道車両10において、レール近傍騒音を予測する予測地点の走行時の床下騒音を測定する騒音測定工程S21と、騒音伝達関数を用いて、騒音測定工程S21で測定した床下騒音の測定値から、鉄道車両10の前記予測地点の走行時のレール近傍騒音を予測する騒音予測工程S22と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測方法であって、
鉄道車両の走行時の床下騒音と、レールから一定距離の位置のレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を、軌道または当該軌道の周辺の環境条件毎に予め測定して求める関数導出工程と、
前記鉄道車両において、レール近傍騒音を予測する予測地点の走行時の床下騒音を測定する騒音測定工程と、
前記騒音伝達関数を用いて、前記騒音測定工程で測定した床下騒音の測定値から、前記鉄道車両の前記予測地点の走行時のレール近傍騒音を予測する騒音予測工程と、を有することを特徴とする、レール近傍の騒音予測方法。
【請求項2】
鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測方法であって、
第一の鉄道車両の走行時の床下騒音と、レールから一定距離の位置のレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を、軌道または当該軌道の周辺の環境条件毎に予め測定して求める関数導出工程と、
前記第一の鉄道車両とは車両形式が異なる第二の鉄道車両のレール近傍騒音を予測する予測地点における前記第一の鉄道車両の床下騒音を測定する騒音測定工程と、
前記騒音伝達関数を用いて、前記騒音測定工程で測定した床下騒音の測定値から、前記第一の鉄道車両の前記予測地点の走行時のレール近傍騒音を予測する騒音予測工程と、
前記第一の鉄道車両と前記第二の鉄道車両とのレール近傍騒音の差分を予め測定して求める差分導出工程と、
前記騒音予測工程で予測した前記第一の鉄道車両のレール近傍騒音の予測値に前記差分を加えて、前記第二の鉄道車両の前記予測地点走行時のレール近傍騒音を予測する補正工程と、を有することを特徴とする、レール近傍の騒音予測方法。
【請求項3】
前記環境条件は、軌道の種別、防音壁の条件、鉄道車両の台車キャビティ部の内部構造、または床下騒音を測定する測定部の設置位置であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載のレール近傍の騒音予測方法。
【請求項4】
前記鉄道車両の走行速度は、150km/h以上であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載のレール近傍の騒音予測方法。
【請求項5】
前記床下騒音は、鉄道車両の台車キャビティ部の内部にマイクロホンを取り付けて測定することを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載のレール近傍の騒音予測方法。
【請求項6】
鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測システムであって、
鉄道車両の床下に設けられて床下騒音を測定する測定部と、
軌道または当該軌道の周辺の環境条件毎の、前記床下騒音とレールから一定距離の位置のレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を用いて、前記鉄道車両のレール近傍騒音を予測する予測地点の走行時の前記床下騒音の測定値から、当該鉄道車両の前記予測地点の走行時のレール近傍騒音を予測する演算部と、を備えていることを特徴とする、レール近傍の騒音予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両走行時に車両の床下で発生する騒音によるレール近傍の騒音予測に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行により発生する沿線の騒音予測手段として、非特許文献1に、主な騒音の発生位置やパワーレベルを車両形式毎に求め、それらの音源による騒音の総和から鉄道沿線における全体音を予測する方法が記載されている。非特許文献1においては、主な騒音を、車両下部騒音、構造物騒音、車両上部空力騒音、集電系騒音の4種類に分類している。これらの騒音のうち、車両下部騒音のパワーレベルは、非特許文献2(2.4節(1)参照)に記載されているように、地上のレール近傍に設置されたマイクロホンによるレール近傍騒音の測定結果から決定される。そして、非特許文献1に記載された手順により、非特許文献1の予測手法に対応した車両下部騒音のパワーレベルが決定される。
【0003】
また、特許文献1には、床下騒音を活用した騒音予測に関する技術が開示されている。特許文献1に開示された技術は、従来は実態が把握し難かった歯車装置の騒音を、床下騒音を用いて予測するものである。
【0004】
一方、200km/h以上の列車速度においては、車両下部騒音は、主に台車部の空力音と転動音とで構成される。転動音は、車輪踏面とレール頭頂面に存在するミクロンオーダーの振幅の凹凸が干渉することによって、車輪とレールが振動して発生する音である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4676811号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】長倉 清、善田 康雄:「新幹線沿線騒音予測手法」、鉄道総研報告、Vol.14、No.9、2000
【非特許文献2】長倉 清:「新幹線騒音の音源解析法」、鉄道総研報告、Vol.10、No.2、1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の鉄道沿線の騒音予測方法では、車両下部騒音の転動音は、レール頭頂の表面の凹凸状態が標準的な状態を想定して予測を行っている。ところが、実際の転動音は、レールの継ぎ目やカーブを走行する場合など、標準的な状態とは異なることがある。そのため、従来の予測方法では、各地点での軌道条件に対応した車両下部騒音によるレール近傍騒音の予測を行うことはできない。
【0008】
また、上記特許文献1は、鉄道の床下騒音に含まれる複数の音源のうち、電動車の歯車装置の騒音を予測する技術であり、転動騒音や、それに伴うレール近傍の騒音を予測するものではない。したがって、車両下部騒音が台車部の空力音と転動音で構成される200km/h以上の高速の列車の沿線騒音の予測には適用できない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、鉄道車両の走行区間ごとのレール表面状態等の条件に応じて変化する車両下部騒音によるレール近傍の騒音を、簡易な測定手法により高い精度で予測できるレール近傍の騒音予測方法および騒音予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測方法であって、鉄道車両の走行時の床下騒音と、レールから一定距離の位置のレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を、軌道または当該軌道の周辺の環境条件毎に予め測定して求める関数導出工程と、前記鉄道車両において、レール近傍騒音を予測する予測地点の走行時の床下騒音を測定する騒音測定工程と、前記騒音伝達関数を用いて、前記騒音測定工程で測定した床下騒音の測定値から、前記鉄道車両の前記予測地点の走行時のレール近傍騒音を予測する騒音予測工程と、を有することを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測方法であって、第一の鉄道車両の走行時の床下騒音と、レールから一定距離の位置のレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を、軌道または当該軌道の周辺の環境条件毎に予め測定して求める関数導出工程と、前記第一の鉄道車両とは車両形式が異なる第二の鉄道車両のレール近傍騒音を予測する予測地点における前記第一の鉄道車両の床下騒音を測定する騒音測定工程と、前記騒音伝達関数を用いて、前記騒音測定工程で測定した床下騒音の測定値から、前記第一の鉄道車両の前記予測地点の走行時のレール近傍騒音を予測する騒音予測工程と、前記第一の鉄道車両と前記第二の鉄道車両とのレール近傍騒音の差分を予め測定して求める差分導出工程と、前記騒音予測工程で予測した前記第一の鉄道車両のレール近傍騒音の予測値に前記差分を加えて、前記第二の鉄道車両の前記予測地点走行時のレール近傍騒音を予測する補正工程と、を有することを特徴としている。
【0012】
前記環境条件は、軌道の種別、防音壁の条件、鉄道車両の台車キャビティ部の内部構造、または床下騒音を測定する測定部の設置位置でもよい。
【0013】
前記鉄道車両の走行速度は、150km/h以上であることが好ましい。また、前記床下騒音は、鉄道車両の台車キャビティ部の内部にマイクロホンを取り付けて測定することが好ましい。
【0014】
また、別な観点による本発明は、鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測システムであって、鉄道車両の床下に設けられて床下騒音を測定する測定部と、軌道または当該軌道の周辺の環境条件毎の、前記床下騒音とレールから一定距離の位置のレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を用いて、前記鉄道車両のレール近傍騒音を予測する予測地点の走行時の前記床下騒音の測定値から、当該鉄道車両の前記予測地点の走行時のレール近傍騒音を予測する演算部と、を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉄道車両の走行区間ごとに変化するレール表面の状態等の条件に応じて、車両の下部騒音によるレール近傍の騒音を、簡易な測定手法により高い精度で予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態にかかる騒音予測システムの構成の概略の一例を示す説明図である。
図2】デバイスのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施の形態にかかる騒音予測方法を用いて新幹線沿線の騒音を予測する手順を示すフローチャートである。
図4】鉄道車両の床下騒音とレール近傍騒音との騒音伝達関数を説明する図であり、(a)は床下騒音とレール近傍騒音との関係を示すグラフ、(b)は騒音伝達関数を示すグラフである。
図5】本発明の異なる実施の形態にかかる騒音予測システムの構成の概略の例を示す説明図である。
図6】本発明の異なる実施形態にかかる騒音予測方法を用いて新幹線沿線の騒音を予測する手順を示すフローチャートである。
図7】車両の形式による差分を説明する図であり、(a)は車種Aと車種Bのレール近傍騒音を示すグラフ、(b)は車種Aと車種Bとの差分を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
本発明は、騒音予測システムを用いて、実際に走行する鉄道車両の床下騒音を測定し、その測定結果から、レール表面状態等により地点ごとに変化するレール近傍騒音を予測するものである。ここでいう床下騒音とは、鉄道車両の床下の台車近傍に設置したマイクロホンで測定した騒音であり、鉄道車両の台車部空力音および転動音が含まれる。本発明では、予め予備測定として、レール近傍騒音と床下騒音とを同時に測定することで両者の騒音伝達関数を求める。そして、その騒音伝達関数を用いて、レール近傍騒音の予測対象とする鉄道車両の予測地点の走行時の床下騒音から、その予測地点でのレール近傍騒音を予測する。さらに、予備測定を行う車両(以下、第一の鉄道車両という。)と予測対象とする車両(以下、第二の鉄道車両という。)との車両の形式が異なる場合には、形式ごとのレール近傍騒音の差分を加えて、第二の鉄道車両のレール近傍騒音を予測する。
【0019】
〈レール近傍の騒音予測システム〉
先ず、本発明の実施形態にかかる鉄道車両によるレール近傍の騒音予測システムの一例について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態にかかる騒音予測システム1の構成の概略を示す説明図である。本実施形態では、予備測定を行う第一の鉄道車両と予測対象とする第二の鉄道車両とは、同一の鉄道車両10である。騒音予測システム1は、鉄道車両10に設けられたマイクロホン11、レール20の近傍に設けられたマイクロホン21、およびデバイス30を有している。マイクロホン11、21とデバイス30は、ネットワーク40を介して接続可能に構成されている。
【0021】
(マイクロホン11)
マイクロホン11は、後述する関数導出工程および騒音測定工程において、鉄道車両10の床下騒音を測定する。マイクロホン11は、軌道の中心線上となる位置の、鉄道車両10の床面12の下面側の台車近傍に取り付ける。なお、マイクロホン11の設置による気流の乱れが騒音に影響しないように、マイクロホン11は、台車キャビティ部13の内部において、例えば既製のマイクロホン格納用ホルダ等に収容して設置することが好ましい。また、マイクロホン11は、台車部の空力音と転動音とを正確に測定するために、測定値が主電動機の騒音の影響を受けない位置に設置することが好ましい。さらに、空気の流れが安定する例えば先頭から3両目以降に設置することが好ましい。
【0022】
なお、床下騒音を測定するマイクロホン11は、本発明における測定部に相当する。但し、測定部は、騒音を測定できるものであればマイクロホンに限定されない。
【0023】
(マイクロホン21)
マイクロホン21は、鉄道車両10通過時のレール近傍騒音を測定する。レール近傍騒音は、レール20から一定距離の位置における騒音である。マイクロホン21は、2本のレールのうち防音壁等が設置された沿線側のレールから水平方向に距離L、且つレール20から高さHのレール近傍騒音を適切に評価できる位置に設置する。一例として、距離Lを例えば2m程度、高さHを例えば45cm程度とする。また、マイクロホン21は、軌道方向に例えば車両長の20~25m間隔で設置する。
【0024】
(デバイス30)
デバイス30は、例えばコンピュータであってもよいし、例えばスマートフォンやタブレットなどの携帯端末であってもよい。デバイス30は、図2に示すようにバス31、プロセッサ32、メモリ33、ストレージ34、通信装置35、入力装置36及び出力装置37を有している。これらプロセッサ32、メモリ33、ストレージ34、通信装置35、入力装置36及び出力装置37は、バス31を介して互いに接続されている。
【0025】
プロセッサ32は、演算部として機能し、プログラムに含まれる命令を実行することによりデバイス30内の動作全般又はその一部を制御する。プロセッサ32には、例えばCPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが用いられる。
【0026】
メモリ33は、プログラム、プログラム等で処理されるデータなどを一時的に記憶する。メモリ33には、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などが用いられる。
【0027】
ストレージ34は、プログラムや各種データを記憶する。ストレージ34には、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)などが用いられる。
【0028】
通信装置35は、ネットワーク40に接続するための通信デバイスなどで構成された通信インタフェースである。
【0029】
入力装置36は、ラリー管理者からの入力操作を受け付けるための入力装置である。入力装置36は、例えばキーボード等のハードウェアキー、マウス等のポインティングデバイス、タッチパネル、タッチパッドなどで構成される。
【0030】
出力装置37は、ラリー管理者に対し情報を提示するための出力装置である。出力装置37は、例えばディスプレイ等の表示装置、スピーカ及びヘッドホン等の音声出力装置などで構成される。
【0031】
入力装置36と出力装置37は、それぞれの一部又は全部が一体化されていてもよい。かかる場合、タッチパネルとディスプレイが一体化したタッチパネルディスプレイが用いられてもよい。
【0032】
なお、本実施形態のデバイス30において、その構成要素は上記の例に限定されない。例えば、各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0033】
また、本実施形態のプログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供されてもよい。記憶媒体は、例えばHDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、各種メモリなどである。また、上記プログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0034】
(ネットワーク40)
ネットワーク40は、通信を行うことができるものであれば特に限定されるものではない。ネットワーク40には、例えばインターネットや有線LAN(Local Area Network)、無線LAN、公衆回線網、モバイルデータ通信網などが用いられる。
【0035】
〈レール近傍の騒音予測方法〉
次に、本発明の実施形態にかかる鉄道車両によるレール近傍の騒音予測方法の例について説明する。本実施形態では、200km/h以上の走行速度の鉄道車両(例えば、新幹線の鉄道車両)によるレール近傍の騒音を予測する。
【0036】
図3は、本実施形態にかかる予測方法を用いて新幹線沿線の騒音を予測する手順を示すフローチャートである。図3において実線で囲まれた工程が本発明の実施形態にかかる工程であり、点線で囲まれた工程は、上記非特許文献1に記載した騒音予測工程を示している。本発明は、非特許文献1で沿線の騒音の音源として挙げた車両下部騒音、構造物騒音、車両上部空力騒音、集電系騒音のうち、車両下部騒音の予測に関するものである。
【0037】
(関数導出工程)
先ず、鉄道車両10の走行時の床下騒音と、レールから一定距離の位置におけるレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を求めておく(ステップS11)。
【0038】
具体的には、鉄道車両10の走行中に、マイクロホン11によって床下騒音を測定し、そのときのレール近傍騒音をマイクロホン21によって測定する。測定された床下騒音とレール近傍騒音はそれぞれ、マイクロホン11、21からデバイス30の通信装置35に出力され、ストレージ34に記憶される。デバイス30は、これら床下騒音とレール近傍騒音に基づいて、騒音伝達関数を導出する。
【0039】
具体的にデバイス30は、図4に示すように騒音伝達関数を算出する。図4は、騒音伝達関数を説明する模式図である。図4(a)は、鉄道車両10の床下騒音およびレール近傍騒音の周波数ごとの測定結果を示す。すなわち、図4(a)は、マイクロホン11によって測定された床下騒音のA特性音圧レベルを周波数ごとにプロットして補完したグラフと、マイクロホン21によって測定されたレール近傍騒音を周波数ごとにプロットして補完したグラフを示す。図4(b)は、騒音伝達関数を示す。騒音伝達関数は、各周波数における床下騒音とレール近傍騒音との音圧レベル差で定義される。例えば図4の周波数fでの音圧レベル差はΔL(f)であり、これを周波数ごとに求めたものが、騒音伝達関数である。
【0040】
騒音伝達関数は、車両床下からレール近傍までの音の伝搬特性に影響を与えうる軌道または当該軌道周辺の環境条件ごとに求める。この環境条件としては、例えば軌道の種別、防音壁の条件、鉄道車両の台車キャビティ部の内部構造、マイクロホン11、21の設置位置が挙げられる。軌道の種別には、有道床または無道床の種別、有道床におけるバラスト軌道やコンクリート製の防振スラブ軌道等のような軌道の構造の種別、さらにレールの継ぎ目やカーブ等が含まれる。防音壁の条件は、レール20の脇に存在する防音壁の有無、防音壁の構造、吸音板の有無、吸音板の種類等が含まれる。また、台車キャビティ部13の内部の構造やマイクロホン11、21の設置位置によっても騒音伝達関数が異なる。
【0041】
(騒音測定工程)
鉄道車両10の床下に、測定部としてマイクロホン11を設置し、レール20上を走行して、床下騒音を測定する。(ステップS21)。具体的には、マイクロホン11によって、予測地点における床下騒音を測定する。予測地点とは、一般には上述の関数導出工程の測定場所とは異なる場所であり、沿線の騒音を予測する場所である。測定された床下騒音は、マイクロホン11からデバイス30の通信装置35に出力され、ストレージ34に記憶される。
【0042】
(騒音予測工程)
次に、デバイス30において、ステップS11で求めておいた騒音伝達関数を用いて、プロセッサ32により、床下騒音の測定値から、レール近傍騒音を予測する(ステップS22)。
【0043】
本実施形態では、以上のように予測されたレール近傍騒音を基に、上記非特許文献2に記載された車両下部のパワーレベル予測値が求められる。また、上記非特許文献2および非特許文献1に記載された手順により、非特許文献1に対応した車両下部音のパワーレベル予測値が求められる(ステップS23)。その後の工程は、非特許文献1に記載された通りである。つまり、車両下部騒音以外の構造物騒音、車両上部空力騒音、集電系騒音の音響パワーレベルを予測し(ステップS24)、新幹線の沿線騒音予測手法に準じて、単発騒音暴露レベルや時間重み特性での最大レベル値を計算する(ステップS25)。そして、例えば軌道の中心から25m離れた場所の地上1.2mでの騒音を算出、予測する(ステップS26)。これらステップS24~S26の具体的方法は、前述したように非特許文献1に記載された通りであるので、説明を省略する。
【0044】
以上の実施形態によれば、鉄道車両の走行区間ごとに変化するレール表面の凹凸やカーブ通過時等の環境条件に応じたレール近傍騒音を正確に予測できる。したがって、鉄道沿線騒音の予測精度を向上させることができる。
【0045】
〈他の実施形態〉
また、図5は、本発明の異なる実施形態にかかる騒音予測システム100の構成の概略を示す説明図である。本実施形態では、予備測定を行う第一の鉄道車両50と予測対象とする第二の鉄道車両60とは、鉄道車両としての形式が異なる。本実施形態の騒音予測システム100は、第一の鉄道車両50に設けられたマイクロホン51、レール20の近傍に設けられたマイクロホン21、およびデバイス30を有している。マイクロホン21、51とデバイス30は、ネットワーク40を介して接続可能に構成されている。
【0046】
(マイクロホン51)
マイクロホン51は、第一の鉄道車両50の床下騒音を測定する。このマイクロホン51の設置位置等は、図1に示す実施形態におけるマイクロホン11と同様である。すなわち、マイクロホン51は、第一の鉄道車両50の床面52の下面側に取り付けられ、好ましくは既製のマイクロホン格納用ホルダ等に収容して台車キャビティ部53の内部に設置する。またマイクロホン51は、好ましくは測定値が主電動機の騒音の影響を受けない位置に設置し、例えば先頭から3両目以降の鉄道車両に設置する。
【0047】
マイクロホン21、デバイス30、ネットワーク40については、図1の実施形態と同様であり、説明を省略する。
【0048】
図6は、図5に示す騒音予測システム100を用いた本発明の異なる実施形態にかかる予測方法により新幹線沿線の騒音を予測する手順を示すフローチャートである。
【0049】
(関数導出工程)
先ず、予備測定として、第一の鉄道車両50によって、走行時の床下騒音と、そのときのレールから一定距離の位置におけるレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を求めておく(ステップT11)。
【0050】
第一の鉄道車両50は、レール近傍騒音の予測対象となる鉄道車両用のレール20を走行可能な鉄道車両であり、第二の鉄道車両60の走行範囲の適宜位置で、床下騒音およびレール近傍騒音を測定する。具体的には、第一の鉄道車両50の走行中に、マイクロホン51によって床下騒音を測定し、同時に、そのときのレール近傍騒音を、マイクロホン21によって測定する。測定された床下騒音とレール近傍騒音はそれぞれ、マイクロホン51、21からデバイス30の通信装置35に出力され、ストレージ34に記憶される。デバイス30は、これら床下騒音とレール近傍騒音に基づいて、騒音伝達関数を導出する。関数導出工程での測定場所および騒音伝達関数の具体的な求め方は、上述した方法と同様であり、説明を省略する。
【0051】
(騒音測定工程)
第二の鉄道車両60のレール近傍騒音を予測する予測地点を第一の鉄道車両50が走行した際の床下騒音を、第一の鉄道車両50に取り付けたマイクロホン51で測定する。(ステップT21)。予測地点とは、一般には上述の関数導出工程の測定場所とは異なる場所であり、沿線の騒音を予測する場所である。マイクロホン51によって測定された床下騒音は、マイクロホン51からデバイス30の通信装置35に出力され、ストレージ34に記憶される。
【0052】
(騒音予測工程)
次に、デバイス30において、ステップT11で求めておいた騒音伝達関数を用いて、プロセッサ32により、床下騒音の測定値から、レール近傍騒音を予測する(ステップT22)。
【0053】
本実施形態では、さらに、形式が異なる2種類の鉄道車両において、その形式の違いによるレール近傍騒音の差分を求める。
【0054】
(差分導出工程)
騒音測定工程を行う前に、第一の鉄道車両50と第二の鉄道車両60とのレール近傍騒音の差分を求めておく(ステップT12)。第一の鉄道車両50と第二の鉄道車両60のレール近傍騒音が、マイクロホン21からデバイス30の通信装置35に出力され、ストレージ34に記憶され、デバイス30において、これらレール近傍騒音の差分を導出する。なお、差分導出工程は、少なくとも後述する補正工程の前に行えばよい。
【0055】
図7は、形式が異なる2種類の鉄道車両のレール近傍騒音の補正に用いる差分を説明する模式図である。図7(a)は、車種A(第一の鉄道車両50)および車種B(第二の鉄道車両60)のレール近傍騒音の周波数ごとの測定結果を示す。すなわち、図7(a)は、マイクロホン21によって測定されたレール近傍騒音のA特性音圧レベルを周波数ごとにプロットして補完したグラフを示す。図7(b)は、車種Aと車種Bとの差分を示すものである。差分は、各周波数における車種Aと車種Bとの音圧レベル差で定義される。例えば図7において、周波数fでの音圧レベル差ΔL(f)が差分となる。なお、レール近傍騒音は速度依存性があるため(上記非特許文献1参照)、差分は、車両の走行速度が同等の条件下における音圧レベル差で定義される。
【0056】
(補正工程)
次に、デバイス30において、ステップT22で求めたレール近傍騒音の予測値に、ステップT12で求めた差分を加えて補正し、予測地点における第二の鉄道車両60のレール近傍騒音を予測する(ステップT23)。
【0057】
本実施形態では、以上のように、騒音予測工程で予測された値を補正工程で補正してレール近傍騒音を求め、予測されたレール近傍騒音を基に、上記非特許文献2に記載された車両下部のパワーレベル予測値が求められる。また、上記非特許文献2および非特許文献1に記載された手順により、非特許文献1に対応した車両下部音のパワーレベル予測値が求められる(ステップT24)。その後の工程(ステップT25~T27)はそれぞれ、図3に示す前述の実施形態のステップS24~S26と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
本実施形態においても、前述の実施形態と同様の効果を享受することができる。すなわち、鉄道車両の走行区間ごとに変化するレール表面の凹凸やカーブ通過時等の環境条件に応じたレール近傍騒音を正確に予測できる。しかも、形式の異なる車種の鉄道車両によって発生するレール近傍騒音も予測することが可能となる。
【0059】
なお、本発明は、主電動機の騒音の影響が少ない速度域、例えば走行速度が150km/hから300km/h程度の鉄道車両のレール近傍騒音の予測において、好適に適用される。さらに走行速度200km/h以上の場合、主電動機の騒音の影響がさらに少なくなり、より好ましい。
【0060】
また、走行速度200km/h以上の場合、車両下部騒音において、台車部の空力音の寄与が現れ、走行速度の増加に応じて空力音が大きくなるが、300km/h程度までの走行速度においては、転動音の影響が支配的である。換言すれば、走行速度200km/h以上の場合に、鉄道車両の走行区間ごとに変化するレール表面の凹凸やカーブ通過時等の環境条件に応じたレール近傍騒音を正確に予測できる本発明が有用になる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的または例示的なものであって限定的ではない。つまり、本開示に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0063】
なお、以下のような構成も本開示の技術的範囲に属する。
(1)鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測方法であって、
鉄道車両の走行時の床下騒音と、レールから一定距離の位置のレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を、軌道または当該軌道の周辺の環境条件毎に予め測定して求める関数導出工程と、
前記鉄道車両において、レール近傍騒音を予測する予測地点の走行時の床下騒音を測定する騒音測定工程と、
前記騒音伝達関数を用いて、前記騒音測定工程で測定した床下騒音の測定値から、前記鉄道車両の前記予測地点の走行時のレール近傍騒音を予測する騒音予測工程と、を有することを特徴とする、レール近傍の騒音予測方法。
(2)鉄道車両の床下騒音によるレール近傍の騒音予測方法であって、
第一の鉄道車両の走行時の床下騒音と、レールから一定距離の位置のレール近傍騒音との関係を示す騒音伝達関数を、軌道または当該軌道の周辺の環境条件毎に予め測定して求める関数導出工程と、
前記第一の鉄道車両とは車両形式が異なる第二の鉄道車両のレール近傍騒音を予測する予測地点における前記第一の鉄道車両の床下騒音を測定する騒音測定工程と、
前記騒音伝達関数を用いて、前記騒音測定工程で測定した床下騒音の測定値から、前記第一の鉄道車両の前記予測地点の走行時のレール近傍騒音を予測する騒音予測工程と、
前記第一の鉄道車両と前記第二の鉄道車両とのレール近傍騒音の差分を予め測定して求める差分導出工程と、
前記騒音予測工程で予測した前記第一の鉄道車両のレール近傍騒音の予測値に前記差分を加えて前記第二の鉄道車両の前記予測地点走行時のレール近傍騒音を予測する補正工程と、を有することを特徴とする、レール近傍の騒音予測方法。
(3)前記環境条件は、軌道の種別、防音壁の条件、鉄道車両の台車キャビティ部の内部構造、または床下騒音を測定する測定部の設置位置であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のレール近傍の騒音予測方法。
(4)前記鉄道車両の走行速度は、150km/h以上であることを特徴とする、前記(1)から(3)のいずれかに記載のレール近傍の騒音予測方法。
(5)前記床下騒音は、鉄道車両の台車キャビティ部の内部にマイクロホンを取り付けて測定することを特徴とする、前記(1)から(4)のいずれかに記載のレール近傍の騒音予測方法。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、鉄道車両走行時に車両の床下で発生する騒音によるレール近傍の騒音予測に適用され、殊に200km/h以上の高速の鉄道車両において有用である。
【符号の説明】
【0065】
1、100 騒音予測システム
10 鉄道車両
11、51、61 マイクロホン
12、52 床面
13、53 台車キャビティ部
20 レール
21 マイクロホン
30 デバイス
31 バス
32 プロセッサ
33 メモリ
34 ストレージ
35 通信装置
36 入力装置
37 出力装置
40 ネットワーク
50 第一の鉄道車両
60 第二の鉄道車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7