(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167671
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電動車両制御方法及び電動車両制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/14 20160101AFI20231116BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20231116BHJP
H02P 25/024 20160101ALI20231116BHJP
【FI】
H02P21/14
B60L15/20 J
H02P25/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079021
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 弘征
(72)【発明者】
【氏名】澤田 彰
【テーマコード(参考)】
5H125
5H505
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA01
5H125CA01
5H125EE09
5H125EE52
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD06
5H505EE30
5H505EE41
5H505EE49
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ04
5H505JJ12
5H505JJ16
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505LL07
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL38
5H505LL41
5H505LL58
5H505PP01
(57)【要約】
【課題】駆動用モータとして巻線界磁型同期モータが採用される電動車両において、所望の加減速状態を実現する。
【解決手段】
車両情報に基づいて第1トルク目標値を算出する第1トルク目標値算出工程と、モータ101に作用する外乱トルクT
dを推定する外乱トルク推定工程と、第1トルク目標値T
m1
*及び外乱トルクT
dから第2トルク目標値T
m2
*を算出する第2トルク目標値算出工程と、第2トルク目標値T
m2
*に基づいて界磁電流指令値i
f
*を算出する界磁電流指令値算出工程と、を含む電動車両制御方法を提供する。特に、外乱トルク推定工程では、界磁電流指令値i
f
*に対する実界磁電流の応答としての実界磁電流応答i
f
^を規定し、実界磁電流応答i
f
^に基づいて補正第2トルク目標値T
m2_pr
*を求め、補正第2トルク目標値T
m2_pr
*に基づいて外乱トルクT
dを演算する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線界磁型モータにより構成される駆動モータを走行駆動源として搭載した電動車両を制御する電動車両制御方法であって、
車両情報に基づいて第1トルク目標値を算出する第1トルク目標値算出工程と、
前記駆動モータに作用する外乱トルクを推定する外乱トルク推定工程と、
前記第1トルク目標値及び前記外乱トルクから第2トルク目標値を算出する第2トルク目標値算出工程と、
前記第2トルク目標値に基づいて界磁電流指令値を算出する界磁電流指令値算出工程と、
を含み、
前記外乱トルク推定工程では、
前記界磁電流指令値に対する実界磁電流の応答としての実界磁電流応答を規定し、
前記実界磁電流応答に基づいて、前記第2トルク目標値の補正値である補正第2トルク目標値を求め、
前記補正第2トルク目標値に基づいて前記外乱トルクを演算する、
電動車両制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電動車両制御方法であって、
前記外乱トルク推定工程では、
前記電動車両の車速に比例する速度パラメータに基づいて、前記第1トルク目標値に応じた実トルク応答に相当する第1トルク推定値を演算し、
算出された前記第2トルク目標値を入力として、界磁電流の応答特性を反映した応答モデルを適用して前記実界磁電流応答を求め、
前記実界磁電流応答に基づいて、前記補正第2トルク目標値に応じた実トルク応答に相当する第2トルク推定値を演算し、
前記第1トルク推定値及び前記第2トルク推定値から前記外乱トルクを演算する、
電動車両制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電動車両制御方法であって、
前記応答モデルとして、固定子電流指令値に対する実固定子電流の応答を模擬した固定子電流応答モデル及び前記実界磁電流応答を模擬した界磁電流応答モデルを設定し、
前記第2トルク目標値の前回値に基づいて、前記固定子電流指令値及び前記界磁電流指令値を演算し、
前記固定子電流指令値に前記固定子電流応答モデルを適用することで、前記固定子電流指令値に対する実固定子電流応答としての固定子電流推定値を演算し、
前記界磁電流指令値に前記界磁電流応答モデルを適用することで、前記実界磁電流応答としての界磁電流推定値を演算し、
前記固定子電流推定値及び前記界磁電流推定値から前記第2トルク推定値を演算する、
電動車両制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電動車両制御方法であって、
前記固定子電流応答モデル及び前記界磁電流応答モデルは、それぞれ異なる時定数を持つローパスフィルタにより構成される、
電動車両制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の電動車両制御方法であって、
前記外乱トルク推定工程では、
前記電動車両の車速に比例する速度パラメータに基づいて、前記第1トルク目標値に応じた実トルク応答に相当する第1トルク推定値を演算し、
固定子電流の計測値を実固定子電流応答として規定し、
界磁電流の計測値を前記実界磁電流応答として規定し、
前記固定子電流の計測値及び前記界磁電流の計測値を入力として、前記補正第2トルク目標値に応じた実トルク応答に相当する第2トルク推定値を演算し、
前記第1トルク推定値及び前記第2トルク推定値から前記外乱トルクを演算する、
電動車両制御方法。
【請求項6】
巻線界磁型モータにより構成される駆動モータを走行駆動源として搭載した電動車両を制御する電動車両制御装置であって、
車両情報に基づいて第1トルク目標値を算出する第1トルク目標値算出部と、
前記駆動モータに作用する外乱トルクを推定する外乱トルク推定部と、
前記第1トルク目標値及び前記外乱トルクから第2トルク目標値を算出する第2トルク目標値算出部と、
前記第2トルク目標値に基づいて界磁電流指令値を算出する界磁電流指令値算出部と、
を有し、
前記外乱トルク推定部は、
前記界磁電流指令値に対する実界磁電流の応答としての実界磁電流応答を規定し、
前記実界磁電流応答に基づいて、前記第2トルク目標値の補正値である補正第2トルク目標値を求め、
補正された前記補正第2トルク目標値に基づいて前記外乱トルクを演算する、
電動車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両制御方法及び電動車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、駆動用モータに作用する外乱トルク(勾配などの影響で生じるトルク)を推定し、推定した外乱トルクに基づいて駆動用モータのトルクを制御する電動車両制御方法が記載されている。特に、特許文献1では、電動車両に対する要求駆動力(乗員によるアクセルペダル操作量など)と車速に基づいて定められる基本トルク目標値(トルクテーブル目標値)を算出し、当該基本トルク目標値を推定した外乱トルクに基づいて補正することで補正トルク目標値(第1のトルク目標値)を算出する。そして、この補正トルク目標値に基づいて、駆動用モータに供給する電力を制御することで、電動車両における所望の加減速状態が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、本発明者は、駆動用モータとしていわゆる巻線界磁型同期モータ(EESM:Electrically Excited Synchronous Motor)を採用したモータ制御系においては、上記特許文献1の制御をそのまま適用すると、外乱の推定精度が十分に確保できない点に着目した。具体的には、巻線界磁型同期モータの制御系では、モータ運転点(特に、界磁電流の制御状態)によってモータトルクの応答にばらつきが生じることで、外乱トルクの推定演算に誤差が生じる。その結果、この外乱トルクから定まる補正トルク目標値の演算にも誤差が生じ、電動車両における所望の加減速状態が実現されないという問題がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、駆動用モータとして巻線界磁型同期モータが採用される電動車両において、所望の加減速状態を実現し得る電動車両制御方法及び電動車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、巻線界磁型モータにより構成される駆動モータを走行駆動源として搭載した電動車両を制御する電動車両制御方法が提供される。この電動車両制御方法は、車両情報に基づいて第1トルク目標値を算出する第1トルク目標値算出工程と、モータに作用する外乱トルクを推定する外乱トルク推定工程と、第1トルク目標値及び外乱トルクから第2トルク目標値を算出する第2トルク目標値算出工程と、第2トルク目標値に基づいて界磁電流指令値を算出する界磁電流指令値算出工程と、を含む。
【0007】
そして、外乱トルク推定工程では、界磁電流指令値に対する実界磁電流の応答としての実界磁電流応答を規定し、実界磁電流応答に基づいて、第2トルク目標値の補正値である補正第2トルク目標値を求め、補正第2トルク目標値に基づいて外乱トルクを演算する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、駆動用モータとして巻線界磁型同期モータが採用される電動車両において、所望の加減速状態を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態による電動車両制御方法が実行される電動車両のシステム構成を説明するブロック図である。
【
図2】
図2は、アクセル開度-トルクテーブルの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、電動車両の駆動力伝達系のモデルを示す図である。
【
図4】
図4は、第2トルク目標値算出部の構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、外乱トルク推定部の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、応答遅れ処理部の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、実施例及び比較例の第1の制御結果を示すタイミングチャートである。
【
図8】
図8は、実施例及び比較例の第2の制御結果を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の各実施形態による電動車両制御方法について説明する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、電動車両制御方法が実行される電動車両10のシステム構成を説明するブロック図である。なお、本実施形態における電動車両10の概念には、走行駆動源として少なくとも一つの電動モータを搭載した電気自動車(EV)又はハイブリッド自動車(HEV)が含まれる。
【0012】
図示のように、電動車両10のシステムには、主として、駆動モータ101、インバータ102、バッテリ106、及び駆動力伝達系(減速機103、駆動軸104、及び駆動輪105)が含まれる。
【0013】
駆動モータ101は、巻線界磁型同期モータ(EESM:Electrically Excited Synchronous Motor)により構成される。特に、駆動モータ101は、インバータ102から供給される交流電流により駆動力を発生し、減速機103及び駆動軸104を介して、各駆動輪105に駆動力を伝達する。また、駆動モータ101は、車両の走行時に各駆動輪105から受ける回生制動力に基づく運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。
【0014】
インバータ102は、固定子電流制御用に各相ごとに2対のスイッチング素子(例えばIGBTやMOS-FET等のパワー半導体素子)で構成され、駆動信号に応じてスイッチング素子をON/OFFすることにより、バッテリ106から供給される直流電流を交流に変換し、駆動モータ101に所望の電流を流す。また、インバータ102は、回転子電流制御用に回転子巻線の両端にそれぞれ2対(計4個)のスイッチング素子(例えばIGBTやMOS-FET等のパワー半導体素子)を接続し、駆動信号に応じてスイッチング素子をON/OFFすることにより、バッテリ106から駆動モータ101の回転子巻線に所望の電流を流す。なお、回転子巻線に流す電流の方向が一方向のみの場合は2対のスイッチング素子の内、対角に位置する2つのスイッチング素子をダイオードに置き換えても良い。また、インバータ102は、駆動モータ101の回生運転時には、駆動モータ101で発生する交流電流を直流電流に変換してバッテリ106に供給する。
【0015】
バッテリ106は、駆動モータ101の力行運転時における駆動電力の供給(放電)及び回生運転時における回生電力の受け入れ(充電)を可能とする車載の二次電池(積層型リチウムイオンバッテリ等)により構成される。
【0016】
モータコントローラ107は、車速V、アクセル開度APO、駆動モータ101の回転子位相α、及び駆動モータ101の固定子電流(三相交流電流ius,ivs,iws)、及び回転子電流(界磁電流if)等の各種車両変数を示す信号をデジタル信号として受信し、当該デジタル信号に基づいてPWM信号を生成する。また、モータコントローラ107は、生成したPWM信号に応じてインバータ102の駆動信号(Duu
*,Dul
*,Dvu
*,Dvl
*,Dwu
*,Dwl
*,Dfu
*,Dfl
*)を生成する。なお、モータコントローラ107の詳細な構成については後述する。
【0017】
また、電動車両10のシステムには、電流センサ109及び磁気位置検出器112が設けられている。電流センサ109は、駆動モータ101の固定子巻線に流れる電流(特に三相交流電流iu,iv,iw)及び回転子巻線に流れる電流(界磁電流if)を検出して、モータコントローラ107に出力する。なお、三相交流電流iu,iv,iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。また、磁気位置検出器112は、例えばレゾルバやエンコーダであり、駆動モータ101の回転子位置(回転子位相α)を検出し、当該回転子位置に応じたA相B相Z相のパルスをモータコントローラ107に出力する。
【0018】
以下では、モータコントローラ107の構成の詳細を説明する。モータコントローラ107は、パルスカウンタ113、角速度演算器114、先読み補償部115、三相/dq座標変換器111、第1トルク目標値算出部S115、第2トルク目標値算出部S116、電流指令値演算部117、電流制御部118、非干渉制御部119、電圧指令値算出部120、及びdq/三相座標変換器121を有する。
【0019】
パルスカウンタ113は、磁気位置検出器112から入力されるA相B相Z相のパルスから、駆動モータ101の電気角θreを求める。角速度演算器114は、電気角θreを入力として、当該電気角θreの時間変化率である電気角速度ωreを演算する。また、角速度演算器114は、電気角速度ωreをモータ極対数pで除算することにより機械角速度ωrmを演算する。
【0020】
先読み補償部115は、電気角θre及び電気角速度ωreを入力して、先読み補償後電気角θre’を演算する。より具体的に、先読み補償部115は、電気角θreに、電気角速度ωreと制御系が持つむだ時間との乗算値を加算することで先読み補償後電気角θre’を求める。
【0021】
三相/dq座標変換器111は、電気角θreを用いて次式(1)に基づき、電流センサ109で検出された三相交流電流ius,ivs,iwsをdq軸電流id,iqに変換する。
【0022】
【0023】
なお、電流センサ109が2相の電流(例えば、u相電流ius,v相電流ivs)のみを検出する構成である場合には、検出した2相の電流と次式(2)に基づいて演算した残りの1相の電流(例えば、w相電流iws)を式(1)に適用してdq軸電流id,iqを演算する。
【0024】
【0025】
第1トルク目標値算出部S115は、車速V及びアクセル開度APOを入力として
図2に示すアクセル開度-トルクテーブルを参照して、第1トルク目標値T
m1
*を算出する。すなわち、第1トルク目標値T
m1
*は、駆動モータ101に対する要求出力(電動車両10に対する要求駆動力)に相当するトルク値として演算される。
【0026】
車速Vは、メータやブレーキコントローラ等の電動車両10に搭載されるモータコントローラ107以外のコントローラより通信により取得することができる。また、モータコントローラ107が、駆動モータ101の機械角速度ωrmにタイヤ動半径rを乗算し、得られた値をファイナルギヤのギヤ比で除算することにより車両速度v(m/s)を求め、これに対して3600/1000を乗算して単位変換することで、車速V(km/h)を演算する構成を採用してもよい。さらに、アクセル開度APO(%)は、図示しないアクセル開度センサから取得されるか、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから通信にて取得される。
【0027】
第2トルク目標値算出部S116は、機械角速度ωrm及び第1トルク目標値Tm1
*を入力として、第2トルク目標値Tm2
*を算出する。なお、第2トルク目標値Tm2
*は、駆動モータ101に作用する外乱の影響を考慮した上で、電動車両10の所望の走行状態(加減速状態)を実現する観点から第1トルク目標値Tm1
*を補正したトルクである。
【0028】
具体的に、第2トルク目標値算出部S116は、駆動モータ101に作用する外乱を示唆する外乱トルクTdを演算する。そして、第2トルク目標値算出部S116は、第1トルク目標値Tm1
*を外乱トルク推定値Td_eで補正することにより第2トルク目標値Tm2
*を求める。なお、第2トルク目標値算出部S116における処理の詳細は後述する。
【0029】
電流指令値演算部117は、第2トルク目標値Tm2
*、機械角速度ωrm、及び直流電圧Vdcを入力として、予めメモリに記憶させたマップデータを参照して、dq軸電流指令値id
*,iq
*及び界磁電流指令値if
*を演算する。なお、直流電圧Vdc(V)は、バッテリ106の接続ラインに設けられる図示しない電圧センサの検出値、又は図示しないバッテリコントローラで推定される電源電圧推定値に基づいて定めることができる。
【0030】
電流制御部118は、dq軸電流指令値id
*,iq
*及び界磁電流指令値if
*を入力として、第1dq軸電圧指令値vd_dsh,vq_dsh及び第1界磁電圧指令値vf_dshを演算する。より具体的に、電流制御部118は、d軸電流指令値id
*、q軸電流指令値iq
*、及び界磁電流指令値if
*にそれぞれ、計測(検出)されたd軸電流id、q軸電流iq、及び界磁電流ifを定常偏差無く所望の応答性で追従させるように、第1d軸電圧指令値vd_dsh、第1q軸電圧指令値vq_dsh、及び第1界磁電圧指令値vf_dshを演算する。
【0031】
非干渉制御部119は、電気角速度ωreと、計測されたd軸電流id、q軸電流iq、及び界磁電流ifと、を入力として、非干渉電圧vd_dcpl,vq_dcpl,vf_dcplを算出する。非干渉電圧vd_dcpl,vq_dcpl,vf_dcplは、d軸、q軸、及び界磁(f軸)の間の干渉電圧を相殺するための補正電圧である。なお、計測されたd軸電流id、q軸電流iq、及び界磁電流ifに代えて、d軸電流指令値id
*、q軸電流指令値iq
*、及び界磁電流指令値if
*を入力として非干渉電圧vd_dcpl,vq_dcpl,vf_dcplを演算する構成を採用しても良い。特に、この場合、d軸電流指令値id
*、q軸電流指令値iq
*、及び界磁電流指令値if
*から、それぞれ、規範となる応答特性に基づいて得られる応答電流としてのd軸電流規範応答id_ref、q軸電流規範応答iq_ref、及び界磁電流規範応答if_refを求める。そして、これら電流規範応答から非干渉電圧vd_dcpl,vq_dcpl,vf_dcplを演算する。
【0032】
電圧指令値算出部120は、第1d軸電圧指令値vd_dsh、第1q軸電圧指令値vq_dsh、及び第1界磁電圧指令値vf_dshにそれぞれ、d軸非干渉電圧vd_dcpl、q軸非干渉電圧vq_dcpl、f軸非干渉電圧vf_dcplを加算することで、第2d軸電圧指令値vd_dsh2、第2q軸電圧指令値vq_dsh2、及び第2界磁電圧指令値vf_dsh2を算出する。そして、電圧指令値算出部120は、これらを最終的なd軸電圧指令値vd
*、q軸電圧指令値vq
*、及び界磁電圧指令値vf
*として出力する。
【0033】
dq/三相座標変換器121は、先読み補償後電気角θre’を用いて、dq軸電圧指令値vd
*,vq
*に対して、次式(3)に基づく座標変換を実行して三相電圧指令値vu
*,vv
*,vw
*を求める。
【0034】
【0035】
次に、第2トルク目標値算出部S116における処理の詳細について説明する。特に、本実施形態の第2トルク目標値算出部S116では、モータトルクTmから機械角速度ωrmまでの伝達特性Gp(s)を定め、当該伝達特性Gp(s)を用いて外乱トルク推定値Td_eを演算する。したがって、先ず、この伝達特性Gp(s)について説明する。
【0036】
<伝達特性G
p(s)>
図3は、電動車両10の駆動力伝達系のモデルを示す図である。なお、各パラメータの定義を既に説明したものも含めて以下に示す。
【0037】
Jm:モータイナーシャ
Jw:駆動輪のイナーシャ
M:車両重量
KD:駆動系のねじり剛性
KT:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N:オーバーオールギヤ比
r:タイヤ荷重半径
ωrm:モータ機械角速度
Tm:モータトルク
TD:駆動輪のトルク
F:車両に加えられる力
V:車速
ωw:駆動輪の角速度
【0038】
図3より、電動車両10の運動方程式は、以下の式(4)~(8)で表される。
【0039】
【0040】
上記運動方程式(4)~(8)に基づくと、伝達特性Gp(s)は、以下の式(9)~式(17)のように表される。
【0041】
【0042】
なお、式(9)中の「s」はラプラス演算子を表す。さらに、式(9)を変形すると、以下の式(18)が得られる。
【0043】
【0044】
なお、式(18)中の各係数a´1~a´3、及びb´0~b´2は、式(10)~式(17)において規定される各係数a1~a4、及びb0~b3により定まる値である。
【0045】
ここで、伝達特性Gp(s)の極及び零点を調べると、これらは極めて値を示す。すなわち、これは式(18)におけるαとβが相互に極めて近い値を示すことを意味する。したがって、式(18)に対して極零相殺(α=βとする近似処理)を行うことで、伝達特性Gp(s)を、以下の式(19)に示す分子が2次で分母が3次の有理関数として表すことができる。
【0046】
【0047】
ここで、式(19)を書き換えると伝達特性Gp(s)を次式(20)のように表すことができる。
【0048】
【0049】
ただし、式(20)中の「Mp」はラプラス演算子sに依存しない定数である。また、「ζz」、「ζp」、「ωz」、及び「ωp」は以下の式(21)~(24)のように定まる。
【0050】
【0051】
<第2トルク目標値算出処理>
図4は、第2トルク目標値算出部S116の構成を示すブロック図である。図示のように、第2トルク目標値算出部S116は、外乱トルク推定部S401と、ゲイン処理部S402と、加算部S403と、を有する。
【0052】
外乱トルク推定部S401は、機械角速度ωrm及び第2トルク目標値Tm2
*を入力として、外乱トルク推定値Td_eを演算する。
【0053】
図5は、外乱トルク推定部S401の構成を示すブロック図である。図示のように、外乱トルク推定部S401は、第1フィルタ処理部S501と、応答遅れ処理部S502と、第2フィルタ処理部S503と、加算部S504と、を有する。なお、本実施形態では、第1フィルタ処理部S501が第1トルク推定値算出部として機能し、応答遅れ処理部S502及び第2フィルタ処理部S503が第2トルク推定値算出部として機能する。
【0054】
第1フィルタ処理部S501は、電動車両10の車速Vを示唆する機械角速度ωrmに対して所定の第1フィルタを施して、第1トルク推定値Tm1
^を演算する。特に、第1フィルタは、上述したモータトルクTmから機械角速度ωrmまでの伝達特性Gp(s)を分母、ローパスフィルタH(s)を分子とするH(s)/Gp(s)により構成される。なお、ローパスフィルタH(s)の次数は、第1フィルタH(s)/Gp(s)の分母の次数が分子の次数以上となるように定められる。このように演算される第1トルク推定値Tm1
^は、第1トルク目標値Tm1
*に対して実際に出力されるモータトルクTm(実トルク応答)に相当する。
【0055】
応答遅れ処理部S502は、第2トルク目標値Tm2
*(特に、第2トルク目標値Tm2
*の前回値)を入力として、応答遅れ処理値Tm2_pr
*を求める。
【0056】
図6は、応答遅れ処理部S502の構成を示すブロック図である。図示のように、応答遅れ処理部S502は、電流指令値算出部S601と、応答モデル部S602と、応答遅れ処理値算出部S603と、を有する。
【0057】
電流指令値算出部S601は、第2トルク目標値Tm2
*、機械角速度ωrm、及び直流電圧Vdcを入力として、上述した電流指令値演算部117における演算と同様のロジックで、d軸電流指令値id
*,q軸電流指令値iq
*、及び界磁電流指令値if
*を演算する。
【0058】
応答モデル部S602は、d軸電流指令値id
*,q軸電流指令値iq
*、及び界磁電流指令値if
*を入力として、これらにローパスフィルタ処理を行い、d軸電流推定値id
^、q軸電流推定値iq
^、及び界磁電流推定値if
^を算出する。なお、d軸電流推定値id
^、q軸電流推定値iq
^、及び界磁電流推定値if
^は、各指令値に対して実際に出力されるそれぞれ電流値(実電流応答)の推定値に相当する。
【0059】
ここで、巻線界磁型同期モータでは、固定子と回転子とでインダクタンスの特性に大きな差がある。このため、d軸電流id及びq軸電流iqと、界磁電流ifと、の間には、指令値に対する電流応答に差がある。その結果、q軸電流iqと界磁電流ifの積に基づいて定まる実トルク応答が、駆動モータ101の動作点(特に、界磁電流ifの制御状態)に応じてばらつくこととなる。この点を考慮して、本実施形態の応答モデル部S602は、d軸電流id、q軸電流iq、及び界磁電流ifごとに個別に設定した応答モデルS6021,S6022,S6023を用いて、d軸電流推定値id
^、q軸電流推定値iq
^、及び界磁電流推定値if
^を演算する。
【0060】
より詳細には、応答モデル部S602では、d軸電流指令値id
*に対する実d軸電流の応答を模擬したd軸応答モデルS6021、q軸電流指令値iq
*に対する実q軸電流の応答を模擬したq軸応答モデルS6022、及び界磁電流指令値if
*に対する実界磁電流の応答を模擬した界磁電流応答モデルS6023を個別に設定する。d軸応答モデルS6021、q軸応答モデルS6022、及び界磁電流応答モデルS6023は、それぞれ、本実施形態におけるモータ制御系を前提として、実d軸電流応答、実q軸電流応答、及び実界磁電流応答を反映した伝達関数により構成される。特に、d軸応答モデルS6021、q軸応答モデルS6022、及び界磁電流応答モデルS6023は、それぞれ、時定数τd,τq,τfを持つ一次のローパスフィルタにより構成される。なお、τd、τq、及びτfは、それぞれ、モータ制御系におけるd軸電流id、q軸電流iq、及び界磁電流ifの応答特性に基づいて適切な値に設定される。特に、界磁電流応答モデルS6023における時定数τfは、上述した固定子と回転子とでインダクタンスの特性の相違を考慮して、d軸応答モデルS6021における時定数τd及びq軸応答モデルS6022における時定数τqよりも大きい値に設定される。これにより、固定子電流であるdq軸電流id,iqと回転子電流である界磁電流ifの応答特性の違いを好適に反映した各電流推定値(各電流応答)を定めることができる。
【0061】
応答遅れ処理値算出部S603は、d軸電流推定値id
^、q軸電流推定値iq
^、及び界磁電流推定値if
^を入力として、予めメモリに記憶させたマップデータを参照して、トルクの単位を持つ応答遅れ処理値Tm2_pr
*を算出する。応答遅れ処理値Tm2_pr
*は、d軸電流推定値id
^、q軸電流推定値iq
^、及び界磁電流推定値if
^をそれぞれ実d軸電流応答、実q軸電流応答、及び実界磁電流応答とみなした場合の指令トルクに相当するパラメータである。すなわち、応答遅れ処理値Tm2_pr
*は、d軸電流id、q軸電流iq、及び界磁電流ifの応答特性の差を考慮して定めた第2トルク目標値Tm2
*の補正値である。
【0062】
なお、マップデータを参照する構成に代え、巻線界磁型同期モータにおけるトルクと電流の関係を規定する次式(25)に各電流推定値を適用することで、応答遅れ処理値Tm2_pr
*を算出する構成を採用しても良い。
【0063】
【0064】
なお、式(25)に含まれる各パラメータは既に説明したものも含めて、以下のように定義される。
【0065】
p: 極対数
M: 固定子と回転子の間の相互インダクタンス
Ld: d軸自己インダクタンス
Lq: q軸自己インダクタンス
【0066】
図5に戻り、第2フィルタ処理部S503は、各電流推定値から求めたトルク指令値相当の応答遅れ処理値T
m2_pr
*を、第1フィルタ処理部S501と同一のローパスフィルタH(s)で処理することで第2トルク推定値T
m2
^を定める。すなわち、第2トルク推定値T
m2
^は、応答遅れ処理値T
m2_pr
*がトルク指令値とされた場合の実トルク応答に相当する値として演算される。
【0067】
加算部S504は、第2トルク推定値Tm2
^から第1トルク推定値Tm1
^を減算して外乱トルク推定値Td_eを求め、ゲイン処理部S402に出力する。
【0068】
なお、本実施形態における外乱には、空気抵抗、乗員数や積載量に起因する車両質量の変動によるモデル化誤差、タイヤの転がり抵抗、勾配抵抗、及び第1トルク推定値Tm1
^と第2トルク推定値Tm2
^の間の位相のずれなどの種々の外乱要因が含まれる。また、これら外乱要因の中で支配的となる要因は、電動車両10の走行環境などを含む運転条件によって異なる。これに対して、本実施形態の外乱トルク推定部S401では、第2トルク目標値Tm2
*及び機械角速度ωrmから車両モデルである伝達特性Gp(s)に基づいて外乱トルク推定値Td_eを算出するため、上記外乱要因を包括的に示唆する外乱トルク推定値Td_eを定めることができる。
【0069】
図4に戻り、ゲイン処理部S402は、外乱トルク推定値T
d_eに所定のゲインを乗算することで、トルク補正値T
cを求める。そして、第1トルク目標値T
m1
*にトルク補正値T
cを加算して第2トルク目標値T
m2
*を演算し、電流指令値演算部117に出力する。
【0070】
以上の処理を行うことで、固定子電流(dq軸電流id,iq)の応答特性の違いに起因する動作点(特に、界磁電流ifの制御状態)に応じたトルク応答のばらつきが生じても、外乱推定精度の低下を抑制することができる。
【0071】
[第2実施形態]
本実施形態の電動車両制御では、上述した第1実施形態の電動車両制御に対して、応答遅れ処理部S502(
図5参照)が、第2トルク目標値T
m2
*に代え、計測されたd軸電流i
d、q軸電流i
q、及び界磁電流i
fを入力として応答遅れ処理値T
m2_pr
*を求める点において異なり、他の各処理は同様に実行する。
【0072】
特に、本実施形態の応答遅れ処理部S502は、応答遅れ処理値算出部S603が計測されたd軸電流i
d、q軸電流i
q、及び界磁電流i
fから、所定のマップデータ又は式(25)を参照して、応答遅れ処理値T
m2_pr
*を定める。すなわち、本実施形態の応答遅れ処理部S502は、電流指令値算出部S601及び応答モデル部S602(
図6参照)を介さずに、上述の各電流計測値から直接的に応答遅れ処理値T
m2_pr
*を定める。
【0073】
これにより、実固定子電流応答及び実界磁電流応答を示唆するパラメータをより簡素なロジックで取得しつつ、適切に応答遅れ処理値Tm2_pr
*を演算するための制御ロジックを実現することができる。
【0074】
[制御結果]
以下では、各実施形態の電動車両制御方法(実施例)による制御結果を参考例による制御結果と比較しつつ説明する。なお、参考例としては、実施例に対して
図5の応答遅れ処理部S502における処理を介さずに、第2フィルタ処理部S503が第2トルク目標値T
m2
*から直接的に第2トルク推定値T
m2
^を定める点で異なり、他の処理については同様に実行する電動車両制御方法を想定する。
【0075】
(実施例)
図7は、実施例及び比較例の第1の制御結果を示すタイミングチャートである。なお、
図7及び後述の
図8においては、実施例及び比較例の制御結果をそれぞれ、実線及び破線で示す。特に、第1の制御結果としては、界磁電流i
fが流れていない状態から所定のタイミング(時刻t2)において第1トルク目標値T
m1
*が入力される第1の制御シーンを想定する。
【0076】
図示のように、第1トルク目標値Tm1
*が入力されておらず界磁電流ifが0となっている状況(時刻t0~t2)から、正の第1トルク目標値Tm1
*が入力されると(時刻t2)、界磁電流if及びq軸電流iqが0から正の値に変化する。このとき、上述した固定子電流と界磁電流ifの応答特性の違いにより、界磁電流ifはq軸電流iqに対して遅れて変化する。
【0077】
ここで、駆動モータ101の実トルク応答は、界磁電流ifとq軸電流iqの積に基づいて定まる(式(25)参照)。また、界磁巻線のインダクタンスが固定子巻線のインダクタンスよりも大きいために、界磁電流ifの応答速度はq軸電流iqの応答速度よりも遅くなる。このため、第1の制御シーンでは、q軸電流iqに対して界磁電流ifが遅れることで、これらの積で定まる実トルク応答が所望のトルク応答(規範トルク応答)に対して一定以上の乖離を示すこととなる。
【0078】
そして、比較例の制御では、上述した固定子電流と界磁電流ifの応答特性の違いを考慮せずに、第2トルク目標値Tm2
*から第2トルク推定値Tm2
^を定めて外乱トルク推定値Td_eを演算している。このため、少なくとも第1トルク目標値Tm1
*が入力される時刻t2以降の一定区間は、外乱トルク推定値Td_eの精度が低下する(外乱が誤推定される)。結果として、この外乱トルク推定値Td_eを用いた第1トルク目標値Tm1
*に対する補正(最終的な第2トルク目標値Tm2
*の演算)が適切に行われず、時刻t2~時刻t3の間において意図しない車両前後加速度の振動が生じる。
【0079】
これに対して、実施例では、
図5及び
図6等で説明した制御ロジックにより、固定子電流と界磁電流i
fの応答特性の違いが加味された上で外乱トルク推定値T
d_eが演算される。このため、第1の制御シーンにおいても外乱の推定精度が確保されて第1トルク目標値T
m1
*に対する補正が適切に行われる。結果として、時刻t2~時刻t3の間における意図しない車両前後加速度の振動が抑制され、電動車両10の好適な加速フィーリングを実現することができる。
【0080】
図8は、実施例及び比較例の第2の制御結果を示すタイミングチャートである。特に、第2の制御結果としては、界磁電流i
fが流れている状態で所定のタイミング(時刻t2)において第1トルク目標値T
m1
*が入力される第2の制御シーンを想定する。
【0081】
この場合、時刻t0~t2において、正の第1トルク目標値Tm1
*が入力されており、界磁電流ifが所定値に維持されている。この状態から、時刻t2において第1トルク推定値Tm1
^が減少すると、それに応じて、界磁電流if及びq軸電流iqも減少する。このとき、上述した第1の制御シーンと同様に、界磁電流ifはq軸電流iqに対して遅れて変化する。
【0082】
ここで、第2の制御シーンでは、界磁電流if及びq軸電流iqの減少が想定されている。このため、これらの積に基づいて定まる実トルク応答の特性は、相対的に大きい値をとり且つより応答速度の速いq軸電流iqの応答特性の影響が支配的になる。したがって、界磁電流if及びq軸電流iqの応答特性の違いを考慮せずに外乱トルク推定値Td_eを演算する比較例の制御であっても、実質的な誤差が生じず、外乱の推定精度が保たれる。
【0083】
一方で、界磁電流if及びq軸電流iqの応答特性の違いを考慮して外乱トルク推定値Td_eを演算する実施例の制御においても、必然的に第2の制御シーンにおける外乱の推定精度は確保される。
【0084】
したがって、本実施例の制御では、実トルク応答の特性がそれぞれ異なる第1及び第2のいずれの制御シーンにおいても、外乱の推定精度を確保することができる。すなわち、巻線界磁型同期モータを搭載した電動車両10の制御において、モータ動作点に依存せずに外乱の推定精度を確保することができ、好適な加速フィーリングを実現することができる。
【0085】
[作用効果]
以上説明した各実施形態の構成及びこれによる作用効果についてまとめて説明する。
【0086】
上記実施形態(第1又は第2実施形態)では、誘導モータにより構成される駆動モータ101を走行駆動源として搭載した電動車両10を制御する電動車両制御方法が提供される。
【0087】
この電動車両制御方法は、車両情報(車速V及びアクセル開度APO)に基づいて第1トルク目標値Tm1
*を算出する第1トルク目標値算出工程(S115)と、駆動モータ101に作用する外乱トルクTdを推定する外乱トルク推定工程(S401)と、第1トルク目標値Tm1
*及び外乱トルクTdから第2トルク目標値Tm2
*を算出する第2トルク目標値算出工程(S116)と、第2トルク目標値Tm2
*に基づいて界磁電流指令値if
*を算出する界磁電流指令値算出工程(117)と、を含む。
【0088】
そして、外乱トルク推定工程では、界磁電流指令値if
*に対する実界磁電流の応答としての実界磁電流応答(界磁電流推定値if
^又は界磁電流ifの計測値)を規定し、実界磁電流応答に基づいて第2トルク目標値Tm2
*の補正値である補正第2トルク目標値(応答遅れ処理値Tm2_pr
*)を求め(S502)、応答遅れ処理値Tm2_pr
*に基づいて外乱トルクTdを演算する(S504)。
【0089】
これにより、固定子電流(d軸電流id又はq軸電流iq)と界磁電流ifの間の応答特性の違いを考慮して外乱トルクTdを推定し、推定した外乱トルクTdから最終的に駆動モータ101に供給すべき電力を規定する第2トルク目標値Tm2
*を定めることができる。したがって、巻線界磁型モータを想定したモータ制御系における動作点(特に、界磁電流ifの制御状態)に応じたトルク応答のばらつき(非線形なトルク応答遅れ)が生じても、動作点に依らずに外乱トルクTdの推定精度を確保することができる。
【0090】
また、上記第1実施形態の外乱トルク推定工程では、電動車両10の車速Vに比例する速度パラメータ(機械角速度ωrm)に基づいて、第1トルク目標値Tm1
*に応じた実トルク応答に相当する第1トルク推定値Tm1
^を演算し(S501)、算出された第2トルク目標値Tm2
*を入力として界磁電流ifの応答特性を反映した応答モデル(S602)を適用して実界磁電流応答(界磁電流推定値if
^)を求める。そして、界磁電流推定値if
^に基づいて、応答遅れ処理値Tm2_pr
*に相当する第2トルク推定値Tm2
^を演算し(S603)、第1トルク推定値Tm1
^及び第2トルク推定値Tm2
^から外乱トルクTdを演算する(S504)。
【0091】
これにより、外乱を推定するためのより具体的な制御ロジックが実現される。特に、第1トルク推定値Tm1
^は、第1トルク目標値Tm1
*(要求駆動力ベースの基本トルク目標値)に応じた実トルク応答として定まる。また、第2トルク推定値Tm2
^を、第2トルク目標値Tm2
*(基本トルク目標値に外乱の影響を加味したトルク目標値)を上述した応答特性の違いを考慮して補正した値(応答遅れ処理値Tm2_pr)から定めることができる。このため、第1トルク推定値Tm1
^に対して位相のずれが少ない第2トルク推定値Tm2
^を定めることができ、外乱推定精度をより向上させることができる。
【0092】
特に、第1実施形態の外乱トルク推定工程では、上記応答モデル(S602)として、固定子電流指令値(dq軸電流指令値id
*,iq
*)に対する実固定子電流の応答を模擬した固定子電流応答モデル(S6021、S6022)及び界磁電流指令値if
*に対する実界磁電流の応答を模擬した界磁電流応答モデルS6023を設定する。そして、第2トルク目標値Tm2
*の前回値に基づいて、dq軸電流指令値id
*,iq
*及び界磁電流指令値if
*を演算し(S601)、dq軸電流指令値id
*,iq
*に固定子電流応答モデルを適用することで実固定子電流応答としての固定子電流推定値(dq軸電流推定値id
^,iq
^)を演算し(S6021、S6022)、界磁電流指令値if
*に界磁電流応答モデルを適用することで実界磁電流応答としての界磁電流推定値if
^を演算する(S6023)。さらに、dq軸電流推定値id
^,iq
^及び界磁電流推定値if
^から第2トルク推定値Tm2
^を演算する(S603)。
【0093】
これにより、dq軸電流id,iq及び界磁電流ifのそれぞれの応答特性を示唆する個別のパラメータから第2トルク推定値Tm2
^を演算することができる。したがって、固定子電流及び界磁電流ifの応答特性の違いをより好適に反映させつつ外乱トルクTdを定めることのできる演算ロジックが実現される。
【0094】
特に、上記固定子電流応答モデル(S6021、S6022)及び界磁電流応答モデルS6023は、それぞれ異なる時定数(τd又はτqとτf)を持つローパスフィルタにより構成される。
【0095】
これにより、dq軸電流id,iq及び界磁電流ifのそれぞれの応答特性の違いを反映させた上で第2トルク推定値Tm2
^を演算するためのより簡素な演算ロジックを実現することができる。
【0096】
また、上記第2実施形態の外乱トルク推定工程では、電動車両10の車速Vに比例する速度パラメータ(機械角速度ωrm)に基づいて、第1トルク目標値Tm1
*に応じた実トルク応答に相当する第1トルク推定値Tm1
^を演算する(S501)。さらに、固定子電流(dq軸電流id,iq)の計測値を実固定子電流応答として規定し、界磁電流ifの計測値を実界磁電流応答として規定する。そして、dq軸電流id,iqの計測値及び界磁電流ifの計測値に基づいて、応答遅れ処理値Tm2_pr
*に応じた実トルク応答に相当する第2トルク推定値Tm2
^を演算し(S603)、第1トルク推定値Tm1
^及び第2トルク推定値Tm2
^から外乱トルクTdを演算する(S504)。
【0097】
これにより、実固定子電流応答及び実界磁電流応答を示唆するパラメータをより簡素な処理で取得しつつ、第1トルク推定値Tm1
^に対して位相のずれが少ない第2トルク推定値Tm2
^を定めるための演算ロジックを実現することができる。
【0098】
また、上記実施形態(第1又は第2実施形態)では、上記電動車両制御方法の実行に適した電動車両制御装置として機能するモータコントローラ107が提供される。
【0099】
特に、このモータコントローラ107は、車両情報(車速V及びアクセル開度APO)に基づいて第1トルク目標値Tm1
*を算出する第1トルク目標値算出部S115と、駆動モータ101に作用する外乱トルクTdを推定する外乱トルク推定部S401と、第1トルク目標値Tm1
*及び外乱トルクTdから第2トルク目標値Tm2
*を算出する第2トルク目標値算出部S116と、第2トルク目標値Tm2
*に基づいて界磁電流指令値if
*を算出する界磁電流指令値算出部(電流指令値演算部117)と、を有する。
【0100】
そして、外乱トルク推定部S401は、界磁電流指令値if
*に対する実界磁電流の応答としての実界磁電流応答(界磁電流推定値if
^又は界磁電流ifの検出値)を規定し、実界磁電流応答に基づいて第2トルク目標値Tm2
*の補正値である補正第2トルク目標値(応答遅れ処理値Tm2_pr
*)を求め(S502)、応答遅れ処理値Tm2_pr
*に基づいて外乱トルクTdを演算する(S504)。
【0101】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記各実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0102】
10 電動車両、101 駆動モータ、107 モータコントローラ、S115 第1トルク目標値算出部、S116 第2トルク目標値算出部、S401 外乱トルク推定部、S502 応答遅れ処理部、S601 電流指令値算出部、S602 電流応答算出部、S603 処理値算出部