IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人福岡大学の特許一覧

<>
  • 特開-質量分析用誘導体化試薬 図1
  • 特開-質量分析用誘導体化試薬 図2
  • 特開-質量分析用誘導体化試薬 図3
  • 特開-質量分析用誘導体化試薬 図4
  • 特開-質量分析用誘導体化試薬 図5
  • 特開-質量分析用誘導体化試薬 図6
  • 特開-質量分析用誘導体化試薬 図7
  • 特開-質量分析用誘導体化試薬 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167686
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】質量分析用誘導体化試薬
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/20 20060101AFI20231116BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20231116BHJP
   C07D 401/06 20060101ALI20231116BHJP
   C07D 401/10 20060101ALI20231116BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20231116BHJP
【FI】
C07D213/20
G01N30/72 C
C07D401/06 CSP
C07D401/10
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079047
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】坂口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】川末 慎葉
(72)【発明者】
【氏名】古賀 鈴依子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】能田 均
【テーマコード(参考)】
2G041
4C055
4C063
【Fターム(参考)】
2G041DA04
2G041DA05
2G041DA09
2G041EA04
2G041GA03
4C055AA06
4C055BA03
4C055BA06
4C055BA08
4C055CA01
4C055DA06
4C055DA08
4C055FA01
4C063AA01
4C063BB03
4C063BB06
4C063CC12
4C063DD10
4C063EE10
(57)【要約】
【課題】短鎖脂肪酸等の検出対象物を高感度で検出可能な質量分析用誘導体化試薬を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される質量分析用誘導体化試薬である。式(1)中、Lは2価の連結基を表し、Rはそれぞれ独立して、アリール基又は炭素数1から12の脂肪族基を表し、Rはカルボン酸反応性基又はアミン反応性基を表し、nは1から5の数を表す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される質量分析用誘導体化試薬。
【化1】

(式(1)中、Lは2価の連結基を表し、Rはそれぞれ独立して、アリール基又は炭素数1から12の脂肪族基を表し、Rはカルボン酸反応性基又はアミン反応性基を表し、nは1から5の数を表す。)
【請求項2】
式(1)中、Lがフェニレン基及び炭素数が2から12である2価の脂肪族基からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の質量分析用誘導体化試薬。
【請求項3】
式(1)中、Rが下記式(2a)で表されるアミノ基、又は式(2b)で表される環状アミノ基を含む請求項1に記載の質量分析用誘導体化試薬。
【化2】
(式中、Rは水素原子又は炭素数1から8の脂肪族基を示す。mは2から6の数を表す)
【請求項4】
式(1)中、Rが下記式(3)で表されるアミン反応性基を含む請求項1に記載の質量分析用誘導体化試薬。
【化3】
(式中、Xは脱離基を示す。)
【請求項5】
下記式(1a)で表されるピリジニウム誘導体。
【化4】

(式(1a)中、Lは炭素数が2から12である2価の脂肪族基を表し、Rはそれぞれ独立して、炭素数1から12の脂肪族基又はアリール基を表し、nは1から5の数を表し、mは2から6の数を表す。)
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の質量分析用誘導体化試薬と試料とを接触させて誘導体化試料を得ることと、
質量分析法により、前記誘導体化試料からピリジニウム誘導体化された検出対象物を検出することと、を含む検出対象物の検出方法。
【請求項7】
液体クロマトグラフィーにより、前記誘導体化試料からピリジニウム誘導体化された検出対象物を分離することを更に含む請求項6に記載の検出方法。
【請求項8】
前記質量分析法は、エレクトロスプレーイオン化法を含む請求項7に記載の検出方法。
【請求項9】
前記検出対象物は、カルボン酸化合物及びアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項6に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析用誘導体化試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
短鎖脂肪酸は極性が高く、逆相分配クロマトグラフィーにおいてカラムに保持されにくかったり、イオン化効率が低かったりする等の特性を有している。そのため、短鎖脂肪酸は、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)による分析が困難な化合物とされている。これらの特性を克服するため、様々な誘導体化法が開発されている。例えば、非特許文献1では、3-ニトロフェニルヒドラジンを用いる誘導体化手法が検討されている。また、非特許文献2では、4級アンモニウムカチオン誘導体を用いる手法が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Anal. Chem., 2021, 98, 10075-10083.
【非特許文献2】Anal. Chem., 2018, 90, 13946-13952.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、短鎖脂肪酸等の検出対象物を高感度で検出可能な質量分析用誘導体化試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一態様は、下記式(1)で表される質量分析用誘導体化試薬である。式(1)中、Lは2価の連結基を表す。Rはそれぞれ独立して、アリール基又は炭素数1から12の脂肪族基を表す。Rはカルボン酸反応性基又はアミン反応性基を表す。nは1から5の数を表す。
【0006】
【化1】
【0007】
第二態様は、下記式(1a)で表されるピリジニウム誘導体である。式(1a)中、Lは炭素数が2から12である2価の脂肪族基を表す。Rはそれぞれ独立して、炭素数1から12の脂肪族基又はアリール基を表す。nは1から5の数を表す。
【0008】
【化2】
【0009】
第三態様は、第一態様の質量分析用誘導体化試薬と試料とを接触させて誘導体化試料を得ることと、質量分析法により、前記誘導体化試料からピリジニウム誘導体化された検出対象物を検出することと、を含む検出対象物の検出方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短鎖脂肪酸等の検出対象物を高感度で検出可能な質量分析用誘導体化試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】誘導体化されたモノカルボン酸の質量分析による検出感度を示す図である。
図2】誘導体化されたジカルボン酸の質量分析による検出感度を示す図である。
図3】試料中の短鎖脂肪酸の分析結果を示す図である。
図4】誘導体化されたブタン酸の質量分析結果を示す図である。
図5】誘導体化されたコハク酸の質量分析結果を示す図である。
図6】誘導体化された1,2,3-プロパントリカルボン酸の質量分析結果を示す図である。
図7】誘導体化されたmeso-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸の質量分析結果を示す図である。
図8】誘導体化されたポリカルボン酸の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、数値範囲として例示された数値をそれぞれ任意に選択して組み合わせることが可能である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、質量分析用誘導体化試薬及び検出対象物の検出方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す質量分析用誘導体化試薬及び検出対象物の検出方法に限定されない。
【0013】
質量分析用誘導体化試薬
質量分析用誘導体化試薬は、下記式(1)で表される。
【0014】
【化3】
【0015】
式(1)中、Lは2価の連結基を表す。Rはそれぞれ独立して、アリール基又は炭素数1から12の脂肪族基を表す。Rは検出対象物と反応する反応性基であり、カルボン酸反応性又はアミン反応性である反応性基を表す。nは1から5の数を表す。
【0016】
式(1)で表される質量分析用誘導体化試薬(以下、単に「誘導体化試薬」ともいう)は、ピリジニウム骨格を有していることで質量分析におけるイオン化効率、特にエレクトロスプレーイオン化法(ESI)におけるイオン化効率に優れる。また、ピリジニウム骨格にアリール基又は脂肪族基が置換していることで、疎水性が向上し、液体クロマトグラフィーにおける分離性が向上するとともに、イオン化効率の向上にも寄与する。更に検出対象物と反応する反応性基が2価の連結基を介してピリジニウム骨格に結合していることで、反応性基の反応性が向上し、検出対象物をより高感度に検出することを可能にする。さらに、置換基を有するピリジニウム骨格を有していることでポリカルボン酸であっても高感度に検出することが可能になる。
【0017】
Lで表される2価の連結基は、例えばフェニレン基及び2価の脂肪族基からなる群から選択される少なくとも1種を含んで形成される。2価の脂肪族基は、飽和脂肪族基であっても、不飽和脂肪族基であってもよい。また2価の脂肪族基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。2価の脂肪族基の炭素数は、例えば1から12であってよく、好ましくは2から8、2から6、2から4、又は2であってよい。2価の連結基の具体例としては、フェニレン基、エチレン基、プロパンジイル基、メチルエタンジイル基、ブタンジイル基、ペンタンジイル基、ジメチルプロパンジイル基、ヘキサンジイル基、シクロヘキサンジイル基、オクタンジイル基、エチルへキサンジイル基、デカンジイル基、ドデカンジイル基、フェニレンメチレン基等が挙げられる。中でも2価の連結基は、反応性基の反応性の観点から、好ましくはフェニレン基、エチレン基、プロパンジイル基、ブタンジイル基、ジメチルプロパンジイル基、ヘキサンジイル基及びシクロヘキサンジイル基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、より好ましくはフェニレン基、エチレン基、プロパンジイル基及びブタンジイル基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、エチレン基、プロパンジイル基及びブタンジイル基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0018】
はそれぞれ独立して、アリール基又は炭素数1から12の脂肪族基を表す。Rで表されるアリール基は、炭素数が6から10であってよい。Rで表されるアリール基は、少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい。アリール基の置換基としては、例えば炭素数1から6の脂肪族基、ハロゲン原子、総炭素数が3から9の第3級アミノ基等を挙げることができる。Rで表されるアリール基として具体的には、フェニル基、ナフチル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ピリジニウム基等が挙げられる。Rで表される脂肪族基は、飽和脂肪族基であっても、不飽和脂肪族基であってもよい。またRで表される脂肪族基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。Rで表される脂肪族基の炭素数は、例えば1から12であってよく、好ましくは1から8、1から6、又は1から4であってよい。Rで表される脂肪族基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。
【0019】
中でも、質量分析におけるイオン化効率の観点から、Rは、フェニル基、メチル基、エチル基及びプロピル基からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。nは1から5の数を表し、好ましくは1から4、2又は3であってよい。nが2以上の場合、複数存在するRは、同一であっても、異なっていてもよい。Rの置換位置は、例えば2位、4位及び6位から選択される少なくとも1箇所であってよく、2位、4位及び6位の3箇所であってもよい。
【0020】
で表されるカルボン酸反応性基は、例えば第1級アミノ基、第2級アミノ基、ヒドラジニル基、ヒドラジド基等からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。中でもRは、反応性の観点から、式(2a)又は式(2b)で表されるカルボン酸反応性基であってよい。
【0021】
【化4】
【0022】
式(2a)中、Rは、水素原子、アミノ基又は炭素数1から8の脂肪族基であってよく、好ましくは水素原子又は炭素数1から8の脂肪族基であってよい。Rで表される脂肪族基は、飽和脂肪族基であっても、不飽和脂肪族基であってもよい。またRで表される脂肪族基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。反応性の観点から、Rで表される脂肪族基は、直鎖状の飽和脂肪族基又は不飽和脂肪族基であってよく、直鎖状の飽和脂肪族基であってよい。Rで表される脂肪族基の炭素数は、好ましくは1から6、1から4、1若しくは2、又は1であってよい。Rで表される脂肪族基として具体的には、メチル基、エチル基、ビニル基、プロピル基、アリル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよい。
【0023】
式(2b)で表される環状アミノ基において、mは2から6の数であってよく、好ましくは4から6、4又は5であってよい。式(2b)において、環状アミノ基を構成するメチレン基(-CH-)の少なくとも1つは、置換基を有していてもよく、置換基を有していてもよいイミノ基又は酸素原子に置換されていてもよい。置換基としては、例えば炭素数1から6の脂肪族基等を挙げることできる。
【0024】
で表されるアミン反応性基としては、カルボン酸;酸無水物、ハロゲン化カルボニル基、カルボン酸エステル等のカルボン酸誘導体;イソシアナート基;イソチオシアナート基;ホルミル基等が挙げられる。Rで表されるアミン反応性基は、下記式(3)で表されるカルボキシ基又はカルボキシ基誘導体であってよい。
【0025】
【化5】
【0026】
式(3)中、Xは脱離基を示す。Xで表される脱離基としては、水酸基;塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、サクシミジルオキシ基、脂肪族カルボニルオキシ基、芳香族カルボニルオキシ基、脂肪族オキシ基、芳香族オキシ基、スルホサクシミジルオキシ基等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよい。Xで表される脂肪族カルボニルオキシ基又は脂肪族オキシ基における脂肪族基は、例えば炭素数1から12であってよく、好ましくは炭素数1から6であってよい。脂肪族基は、飽和脂肪族基であっても不飽和脂肪族基であってもよく、また直鎖状、分岐鎖状、環状、またはこれらの組み合わせであってもよい。さらに脂肪族基は、ハロゲン原子、スルホン酸基、ニトロ基、ホスホリル基等の置換基を有していてもよい。Xで表される芳香族カルボニルオキシ基又は芳香族オキシ基における芳香族基は、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいナフチル基等であってよい。芳香族基における置換基としては、例えばハロゲン原子、スルホン酸基、ニトロ基、ホスホリル基等を挙げることができる。
【0027】
式(1)で表される質量分析用誘導体化試薬として具体的には、以下の構造式で表される化合物を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。なお、Phはフェニル基を表す。
【0028】
【化6】
【0029】
式(1)で表される誘導体化試薬であるピリジニウム塩は、例えばピリリウム塩と1級アミンとを反応させることで、合成することができる。ピリリニウム塩と反応させる1級アミンとして、カルボン酸反応性基、アミン反応性基又はそれらの誘導体が連結基を介して結合する1級アミンを用いることで、カルボン酸反応性基又はアミン反応性基が連結基を介してピリジニウム骨格に結合した誘導体化試薬が得られる。ピリリウム塩と1級アミンとの反応条件としては、反応温度が例えば-80℃以上120℃以下であってよく、反応時間が1時間以上48時間以下であってよい。ピリリウム塩と1級アミンとの反応生成物には適当な後処理を行うことができる。なお、式(1)で表される誘導体化試薬の合成方法については、例えばJ. Am. Soc. Mass Spectrom. 2010, 21, 104-111.;Sci. Rep. 2016, 37720.等の記載を参照することができる。
【0030】
ピリジニウム誘導体
第二態様であるピリジニウム誘導体は、下記式(1a)で表される。
【0031】
【化7】
【0032】
式(1a)中、Lは炭素数が2から12である2価の脂肪族基を表す。Lはで表される2価の脂肪族基の詳細は、Lで表される2価の脂肪族基と同様であり、好ましい態様も同様である。Rはそれぞれ独立して、炭素数1から12の脂肪族基又はアリール基を表す。Rで表される炭素数1から12の脂肪族基及びアリール基の詳細は記述の通りである。nは1から5の数を表し、好ましくは1から4、2又は3であってよい。nが2以上の場合、複数存在するRは、同一であっても、異なっていてもよい。Rの置換位置は、例えば2位、4位及び6位から選択される少なくとも1箇所であってよく、2位、4位及び6位の3箇所であってもよい。mは2から6の数であってよく、好ましくは4から6、4又は5であってよい。
【0033】
式(1a)で表されるピリジニウム誘導体の具体例としては、上記の化合物(1-5)、(1-6)、(1-10)、(1-11)等を挙げることができる。
【0034】
検出対象物の検出方法
検出対象物の検出方法は、第一態様の質量分析用誘導体化試薬と試料とを接触させて誘導体化試料を得る誘導体化工程と、質量分析法により、誘導体化試料からピリジニウム誘導体化された検出対象物を検出する質量分析工程と、を含む。検出対象物の検出方法は、誘導体化工程で得られる誘導体化試料からピリジニウム誘導体化された検出対象物を分離する分離工程を更に含んでいてもよい。
【0035】
検出対象物をピリジニウム誘導体化し、質量分析によってピリジニウム誘導体として検出することで、高感度に検出対象物を検出することができる。検出対象物の検出方法は、検出対象物の定量分析方法を含んでいてよく、検出対象物の同定方法を含んでいてよい。
【0036】
検出方法の検出対象物は、カルボン酸化合物及びアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてよく、少なくともカルボン酸化合物を含んでいてよい。また、試料の含まれる検出対象となるカルボン酸化合物及びアミン化合物は、それぞれ1種単独であってもよいし、複数種の混合物であってもよい。
【0037】
検出対象物であるカルボン酸化合物としては、例えば脂肪酸、ポリカルボン酸、アミノ酸等を挙げることができる。脂肪酸としては、例えば炭素数1から30の脂肪族基を有するカルボン酸化合物が挙げられる。脂肪族基の炭素数は、好ましくは1から18、1から12、1から8又は1から4であってよい。ポリカルボン酸は、複数のカルボキシ基を有する化合物であればよく、具体的には、マロン酸、コハク酸、酒石酸等のジカルボン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、クエン酸、イソクエン酸等のトリカルボン酸、ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸等のテトラカルボン酸などを挙げることができる。アミノ酸は、アミノ基とカルボキシ基を有する化合物であればよく、天然型アミノ酸であっても、非天然型アミノ酸であってもよい。天然型アミノ酸としては、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン、スレオニン、ヒスチジン、アルギニン、グリシン、アラニン、セリン、チロシン、システイン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、βアラニン、シトルリン、テアニン等が挙げられる。非天然型アミノ酸としては、D型アミノ酸等が挙げられる。
【0038】
式(1)で表される誘導体化試薬を用いてピリジニウム誘導体化することで、例えば、複数の短鎖脂肪酸の混合物であっても、それぞれの検出対象物に容易に分離することが可能になる。また、得られる誘導体のイオン化効率が高いため高感度に短鎖脂肪酸を分析することができる。また、例えば生体試料から検出されるマロン酸、コハク酸、クエン酸などのポリカルボン酸は、生体の状態を示す指標としての重要性が高いとされている。それにもかかわらず、ポリカルボン酸に対する誘導体化手法については、高感度な分析方法がほとんど知られていないのが現状であった。しかし、式(1)で表される誘導体化試薬を用いてピリジニウム誘導体化することで、ポリカルボン酸であっても、誘導体のイオン化効率が高いため高感度に分析することが可能になる。
【0039】
検出対象物であるアミン化合物としては、例えば第1級脂肪族アミン、第2級脂肪族アミン、芳香族アミン等を挙げることができる。第1級又は第2級脂肪族アミンにおける脂肪族基は、飽和脂肪族基であっても、不飽和脂肪族基であってもよい。また脂肪族基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。脂肪族基の炭素数は、例えば1から30であってよく、好ましくは1から22であってよい。芳香族アミンにおける芳香族基は、炭素数が例えば1から10であってよい。
【0040】
誘導体化工程では、式(1)で表される質量分析用誘導体化試薬と試料とを接触させて誘導体化試料を得る。誘導体化試料には、検出対象物と誘導体化試薬の反応生成物として誘導体化された検出対象物が含まれていてよい。
【0041】
試料の由来は特に制限されない。試料の由来としては、例えば生体、食品、環境試料等を挙げることができる。生体としては例えば、哺乳動物(例、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ)、鳥類等の動物、昆虫、軟体動物、微生物、植物等が挙げられる。試料が由来する生体は、好ましくは哺乳動物であり、ヒトであっても非ヒト哺乳動物であってもよい。生体に由来する試料としては、例えば血液(例えば、全血、血清、血漿等)、汗、唾液、尿、毛髪、母乳等を挙げることができる。
【0042】
試料はその由来に応じて適当な前処理を施したものであってもよい。前処理としては、例えば遠心分離処理、抽出処理、ろ過処理、溶媒除去処理(蒸発処理)等を挙げることができる。試料中の検出対象物の濃度は、例えば数amol/L以上数mmol/L以下であってよく、好ましくは数fmol/L以上数μmol/L以下であってよい。
【0043】
試料と誘導体化試薬との接触は液媒体中で行ってよい。液媒体としては、例えば水;ジメチルスルホキシド、ジメチルアセタミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の非プロトン性高極性溶剤;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のプロトン性高極性溶剤等を挙げることができる。液媒体は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
試料と誘導体化試薬との接触においては、必要に応じて縮合剤、触媒等を添加して試料中の検出対象物と誘導体化試薬の縮合反応を促進してもよい。縮合剤としては、例えば4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩等を挙げることができる。触媒としては、トリエチルアミン、4-メチルモルホリン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の塩基性触媒、N-ヒドロキシサクシミド、2-ヒドロキシベンゾトリアゾール等の活性エステル触媒等を挙げることができる。
【0045】
試料と誘導体化試薬との接触において縮合剤を用いる場合、その添加量は、例えば誘導体化試薬に対するモル比として100以上であってよく、好ましくは10以上、又は500以下であってよい。試料と誘導体化試薬との接触において触媒を用いる場合、その添加量は、例えば誘導体化試薬に対するモル比として0.1以上100以下であってよく、好ましくは1以上、又は10以下であってよい。
【0046】
試料と誘導体化試薬との接触温度は、例えば-80℃以上120℃以下であってよく、好ましくは10℃以上、又は90℃以下であってよい。試料と誘導体化試薬との接触時間は、例えば1分以上180分以下であってよく、好ましくは5分以上、又は120分以下であってよい。
【0047】
分離工程では、誘導体化工程で得られる誘導体化試料からピリジニウム誘導体化された検出対象物を分離する。誘導体化された検出対象物の分離方法としては、例えば液体クロマトグラフィー(LC)、超臨界流体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法、電気泳動法、沈殿、結晶化、膜分離等が挙げられる。液体クロマトグラフィーは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)であってよい。これらの分離方法は、公知の方法により行うことができる。また分離工程では、必要に応じて誘導体化試料に前処理を行ってもよい。前処理としては、例えば遠心分離処理、抽出処理、ろ過処理、蒸発処理等を挙げることができる。
【0048】
液体クロマトグラフィーとしては、例えば、固定相の極性が移動相の極性よりも高い分離系である順相液体クロマトグラフィー、および固定相の極性が移動相の極性よりも低い分離系である逆相液体クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)等が挙げられる。
【0049】
逆相液体クロマトグラフィーの固定相としては、例えば、疎水性化合物で修飾された充填剤が挙げられる。具体的には、逆相液体クロマトグラフィーの固定相としては、例えば、疎水性化合物で修飾されたシリカゲルが挙げられる。逆相液体クロマトグラフィーの移動相としては、例えば、有機溶媒、水溶液およびこれらの混合溶媒が挙げられる。有機溶媒の好ましい例としては、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。水溶液の好ましい例としては、水、ギ酸水溶液、ギ酸アンモニウム水溶液、トリフルオロ酢酸水溶液、酢酸水溶液、酢酸アンモニウム水溶液、重炭酸アンモニウム水溶液、アンモニア水、緩衝液等が挙げられる。また、ピーク分離が悪い場合、分離能を向上させるためにイオンペア試薬を溶媒に追加してもよく、アルキルスルホン酸ナトリウムおよびその塩、テトラアルキルアンモニウムまたはトリアルキルアミンおよびその塩などが用いられる。液体クロマトグラフィーにおいて、移動相を混合溶媒とする場合、混合比を段階的に変化させてもよく、連続的に変化させてもよい。液体クロマトグラフィーにおける温度条件、移動相流量は、誘導体化された検出対象物に応じて適宜設定され得る。
【0050】
質量分析工程では、質量分析法により、誘導体化試料からピリジニウム誘導体化された検出対象物を検出する。質量分析法は、各種イオン化方法、各種イオン分離方法、各種検出器を組み合わせた質量分析法を使用してよい。質量分析におけるイオン化方法としては、例えば電子イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、高速原子衝撃(FAB)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、大気圧光イオン化(APPI)法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)、ソフトレーザー脱離イオン化質量分析法(LDI)法、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)法、探針エレクトロスプレーイオン化(PESI)法等を挙げることができる。
【0051】
質量分析におけるイオン分離方法としては、例えば、磁場型質量分離方法、四重極型質量分離方法、イオントラップ型質量分離方法、飛行時間型質量分離方法、フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分離方法、電場型フーリエ変換型質量分析装置を用いたイオン分離方法等を挙げることができる。検出器としては、例えば、二次電子増倍管、後段加速型検出器、チャンネルトロン、マルチチャンネルトロン、アレイ検出器、位置・時間分解型アレイ検出器、光電子増倍管等を挙げることができる。
【0052】
質量分析法は、負電荷を検出するネガティブモードで行われても、正電荷を検出するポジティブモードで行われてもよい。好ましくは正電荷を検出するポジティブモードで行われてよい。
【0053】
質量分析法による誘導体化された検出対象物の検出は、1つの質量分離装置で行ってもよいし、直列につながれた2以上の質量分離装置を含む装置で行われてもよい。例えば、検出は、直列につながれた3つの質量分離装置を含む装置(例えば、三連四重極型質量分析計、四重極-飛行時間型質量分析計、四重極-キングドントラップ型質量分析計等)で行うことができる。検出を三連四重極型質量分析計により行う場合、選択反応モニタリング(SRM)、プロダクトイオンスキャンモード、プリカーサーイオンスキャンモード、ニュートラルロススキャンモードのいずれの方法によって行ってもよい。さらに、質量分析装置の前に、イオンモビリティー分離機能を搭載した質量分析計を用いてもよい。
【0054】
誘導体化された検出対象物の検出を三連四重極型質量分析計により行う場合、SRMにより検出を行ってよい。ここで、3つの四重極を、イオン源に近い方から、それぞれQ1、Q2、Q3と名付けると、Q1において、特定のイオンをプリカーサーイオンとして選択し、Q2においてプリカーサーイオンを分解し、Q3において、プリカーサーイオンの分解により生じたフラグメントイオンのうち特定のイオンを選択する。したがって、SRMにより検出を行うことにより、夾雑成分の影響を取り除いた検出を行うことができる。分離した誘導体化された検出対象物を検出する際には、質量分析法以外の他の検出方法を質量分析法と併用してもよい。他の検出方法としては、例えば、紫外吸収を検出する方法、可視光吸収を検出する方法、蛍光を検出する方法等が挙げられる。
【0055】
検出対象物の検出方法では、誘導体化試料からの誘導体化された検出対象物の分離及び検出を一連の装置で実施してもよい。例えばHPLC分析システムに質量分析装置を組み合わせたいわゆる液体クロマトグラフィー-質量分析システム(LC-MS)を用いて検出対象物を分離及び検出してもよい。
【0056】
本発明は、以下の[1]から[9]の態様を包含する。
[1] 下記式(1)で表される質量分析用誘導体化試薬。
【0057】
【化8】
【0058】
式(1)中、Lは2価の連結基を表し、Rはそれぞれ独立して、アリール基又は炭素数1から12の脂肪族基を表し、Rはカルボン酸反応性基又はアミン反応性基を表し、nは1から5の数を表す。
【0059】
[2] 式(1)中、Lがフェニレン基及び炭素数が2から12である2価の脂肪族基からなる群から選択される少なくとも1種を含む[1]に記載の質量分析用誘導体化試薬。
【0060】
[3] 式(1)中、Rが下記式(2a)で表されるアミノ基、又は式(2b)で表される環状アミノ基を含む[1]又は[2]に記載の質量分析用誘導体化試薬。
【0061】
【化9】
【0062】
式中、Rは水素原子又は炭素数1から8の脂肪族基を示す。mは2から6の数を表す。
【0063】
[4] 式(1)中、Rが下記式(3)で表されるアミン反応性基を含む[1]又は[2]に記載の質量分析用誘導体化試薬。
【0064】
【化10】
【0065】
式中、Xは脱離基を示す。
【0066】
[5] 下記式(1a)で表されるピリジニウム誘導体。
【0067】
【化11】
【0068】
式(1a)中、Lは炭素数が2から12である2価の脂肪族基を表し、Rはそれぞれ独立して、炭素数1から12の脂肪族基又はアリール基を表し、nは1から5の数を表し、mは2から6の数を表す。
【0069】
[6] [1]から[4]のいずれかに記載の質量分析用誘導体化試薬と試料とを接触させて誘導体化試料を得ることと、質量分析法により、前記誘導体化試料からピリジニウム誘導体化された検出対象物を検出することと、を含む検出対象物の検出方法。
【0070】
[7] 液体クロマトグラフィーにより、前記誘導体化試料からピリジニウム誘導体化された検出対象物を分離することを更に含む[6]に記載の検出方法。
【0071】
[8] 前記質量分析法は、エレクトロスプレーイオン化法を含む[6]又は[7]に記載の検出方法。
【0072】
[9] 前記検出対象物は、カルボン酸化合物及びアミン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む[6]から[8]のいずれかに記載の検出方法。
【実施例0073】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0074】
実施例1
誘導体化試薬(TPP-AEP)の合成
1mmolの2,4,6-トリフェニルピリリウムクロリドに対し20mLのジクロロメタンを加えた。そこに1.5mmolの4-アミノエチル-1-N-t-ブチルオキシカルボニルピペリジンを滴下し、室温で24時間反応させた。その後、20mLの水を加えて液液抽出し、上層を除去した。下層を窒素ガスで乾燥させ、残渣に10mLのメタノールと2mLの35%塩酸を加え室温で1時間反応させた。反応溶液を減圧乾固し、20mLの1M炭酸水素ナトリウム溶液と20mLのクロロホルムを加えて振り混ぜた。その後、上層を除去し、水を加えて液液抽出し上層を除去する操作を5回行った。下層を窒素ガスで乾燥させ、50mLの40%メタノールで溶解し、InertSep(R)C18(ジーエルサイエンス社製)にロードし80%methanolで回収した。回収溶液を減圧乾固して得られた結晶を誘導体化試薬(TPP-AEP)とした。
m/z:419.25(100%)、429.25(33.2%)、421.26(5.2%)
【0075】
実施例2
誘導体化試薬(TMP-AEP)の合成
2,4,6-トリフェニルピリリウムクロリドの代わりに、2,4,6-トリメチルピリリウムクロリドを用いたこと以外は実施例1と同様にして誘導体化試薬(TMP-AEP)を得た。
m/z:233.20(100%)、234.21(16.5%)、235.21(1.3%)
【0076】
実施例1、2において、4-アミノエチル-1-N-t-ブチルオキシカルボニルピペリジンの代わりに、4-N-t-ブチルオキシカルボニルアミノメチルアニリン、4-(1-t-ブチルオキシカルボニルピペリジン-4-イル)アニリンを用いて以下の誘導体化試薬を得た。
【0077】
【化12】
【0078】
TMP-AMA;m/z:227.15(100%)、228.16(16.4%)、229.16(1.4%)
TMP-TBAPC;m/z:281.20(100%)、282.21(20.8%)、283.21(2.1%)
TPP-AMA;m/z:413.20(100%)、414.21(32.7%)、415.21(5.2%)
TPP-TBAPC;m/z:467.25(100%)、468.25(37.5%)、469.26(6.7%)
【0079】
評価
上記で得られた誘導体化試薬について、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法によるイオン化効率を比較した。モノカルボン酸としてはブタン酸を用い、ジカルボン酸としてはマロン酸を用いた。なお、比較の誘導体化試薬として、1-(2-ピリミジニル)ピペリジン(1,2-PP)を用いた。
【0080】
【化13】
【0081】
誘導体化条件
50μMのカルボン酸を100mMリン酸緩衝液(pH2.0)に溶解したものを試料溶液とした。20μLの試料溶液に対して、20μLの100mM トリエチルアミンのDMF溶液と、50μLの50mM 誘導体化試薬のDMF溶液と、90%DMFで溶解した50μLの100mM 4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド溶液を加えて、60℃で30分反応させた。50μLの1%トリフルオロ酢酸を加えたのち、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)に付した。
【0082】
液体クロマト(LC)分析は、システムコントローラ(CBM-20A)、バイナリー溶媒供給システム(LC-30AD)、脱気装置(DGU-20A)、オートサンプラー(SIL-30AC)およびカラムヒーターオーブン(CTO-20A)を備えたNexera HPLC システム(島津製作所社製)を用いて実施した。質量分析計はESIインターフェース搭載のLCMS-8050トリプル四重極(島津製作所社製)を使用した。装置の制御とデータ処理にはLabSolutions LCMSソフトウェア(島津製作所社製)を使用した。ESI-MS/MSは、ポジティブイオンを選択し、選択反応モニタリング(SRM)モードで動作させた。
【0083】
LCカラムはXselect(R)CSHTM C18(50×2.1mm i.d.,2.5μm;Waters社製)を使用した。移動相は、溶媒A(0.1%ギ酸/水)および溶媒B(0.1%ギ酸/アセトニトリル)を用い、流速0.2mL/minでグラジェント溶出させた。移動相Bの濃度を1分から3分間は1%、3分から12分間は100%に直線的に増加させ、12分から15分間は100%を維持し、15分から20分間は再び1%に維持して行った。カラムオーブン温度は40℃に設定し、注入量は5μlとした。MS/MS条件は,イオンスプレー電圧4.0kV、脱溶媒ライン温度250℃、ヒートブロック温度400℃、乾燥ガス流量10.0L/min、ネブライザーガス流量3.0L/min、衝突解離ガス450kPaであった。結果をモノアミンの結果を図1に、ジアミンの結果を図2に示す。
【0084】
図1から、本実施形態の誘導体化試薬はイオン化効率が高く、高感度に短鎖脂肪酸を検出できることが分かる。またジカルボン酸に対しても優れた感度を示すことが分かる。
【0085】
実施例3
誘導体化操作
20μLの試料溶液(濃度:10nMから50μM)に対して、20μLの100mM 1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンのDMSO溶液と、50μLの50mM TPP-AEPのDMSO溶液と、90%DMSOで溶解した50μLの50mM 4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド溶液を加えて、40℃で60分反応させた。その後、50%DMSOで溶解した200μLの50mM 3-ホスホプロピオン酸を加えて、室温で30分間放置して、誘導体化試料を得た。
【0086】
実施例4
定量試験
短鎖脂肪酸(SCFA)試料として、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸と、内部標準物質としてこれらの安定同位体(18O)を用いた。
【0087】
液体クロマト(LC)分析は,システムコントローラ(CBM-20A)、バイナリー溶媒供給システム(LC-30AD)、脱気装置(DGU-20A)、オートサンプラー(SIL-30AC)およびカラムヒーターオーブン(CTO-20A)を備えたNexera HPLC システム(島津製作所社製)を用いて実施した。質量分析計はESIインターフェース搭載のLCMS-8050トリプル四重極(島津製作所社製)を使用した。装置の制御とデータ処理にはLabSolutions LCMSソフトウェア(島津製作所社製)を使用した。ESI-MS/MSは、ポジティブイオンを選択し、選択反応モニタリング(SRM)モードで動作させた。
【0088】
LCカラムはXselect(R)CSHTM C18(50×2.1mm i.d.,2.5μm;Waters社製)を使用した。移動相は、溶媒A(0.1%ギ酸/水)および溶媒B(0.1%ギ酸/アセトニトリル)を用い、流速0.2mL/minでグラジェント溶出させた。移動相Bの濃度を0分から5分間は30%、5分から15分間は55%に直線的に増加させ、15分から20分間は再び30%に維持して定量試験を行った。カラムオーブン温度は60℃に設定し、注入量は5μlとした。MS/MS条件は,イオンスプレー電圧4.0kV、脱溶媒ライン温度250℃、ヒートブロック温度400℃、乾燥ガス流量10.0L/min、ネブライザーガス流量3.0L/min、衝突解離ガス450kPaであった。SRM遷移における誘導体化試料ターゲットのプリカーサーイオン(Q1)、プロダクトイオン(Q3)、衝突エネルギー(CE)を以下に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
試料として、市販のプール尿(Pooled Human Urine Filtered;Innovative Research社製)を用意し、プール尿に含まれる酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸の6種の短鎖脂肪酸(SCFA)を定量した。結果を下表及び図3に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
対象となるSCFAはすべて検出され、その定量値は報告値と一致した。また、得られたマトリックス効果はほぼ100%であり、本検出方法によりヒト尿中のSCFAを正確に定量できることが示された.
【0093】
実施例5
比較試験
試料として、ブタン酸、コハク酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、meso-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸を用い、カルボキシル基数の増加が検出感度に与える影響について検討した。試料のカルボン酸(10μM)を50mMのTPP-AEPを用いて誘導体化した。
【0094】
溶出条件を、移動相Bの濃度(%)を0分から5分間は20%、5分から25分間は80%まで直線的に増加させ、25分から30分間は再び20%で保持したこと、ESI-MS/MSでプリカーサーイオンスキャンモードを選択したこと以外は、実施例4と同様にして、比較試験を実施した。誘導体化した化合物のMSスペクトルとLC-MSクロマトグラムデータを図4から図8に示す。
【0095】
永久電荷を持つ誘導体化試薬を用いてジカルボン酸およびトリカルボン酸を誘導化することは、これまで困難とされてきた。しかし、本実施形態の誘導体化試薬を用いることで、ポリカルボン酸を誘導体化することが可能であることが示された。さらに、これらのポリカルボン酸は、カルボキシル基の数が増えるにつれて質量分析における検出感度が向上することも確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8