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特開2023-167694移動端末試験装置、及び移動端末試験方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167694
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】移動端末試験装置、及び移動端末試験方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/29 20150101AFI20231116BHJP
【FI】
H04B17/29 200
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079062
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉 志輝
(57)【要約】
【課題】測定回数を極力低減して試験用信号の出力レベルをより短時間で試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験を効率よく行える移動端末試験装置及び移動端末試験方法を提供する。
【解決手段】測定装置1に備わり、移動端末への試験用信号の送受信を繰り返し行って受信感度試験を実行する受信感度試験制御部18は、受信感度試験の開始時の試験用信号の初期ステップレベルSL0、スタート出力レベルOL0を設定パラメータとして含む試験条件を初期設定する試験条件設定部18aと、試験条件設定部18aにより設定された設定パラメータに基づきAI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測出力レベルOL01を、出力レベルOL0に代えて、初回出力レベルとして設定するAI予測試験条件変更設定部18bと、を有して構成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験用信号を発生する信号発生器(20)と、
前記信号発生器と移動端末(100)との間で前記試験用信号をN回送受信することにより前記移動端末の受信感度試験を行う受信感度試験実行部(18)と、を有し、
被試験対象である前記移動端末を試験する移動端末試験装置(1)であって、
前記受信感度試験の開始時の前記試験用信号のステップレベルSL0、出力レベルOL0を設定パラメータとして含む試験条件を初期設定する設定手段(18a)と、
前記試験条件で前記試験用信号を送受信することによりスループット測定を行い、スループット測定結果と判定閾値とを比較して合否判断する合否判断手段(18f)と、
前記合否判断の結果、否と判断された場合、以前のスループット測定の合否判断の結果に応じてレベルダウン処理A(S8a)、レベルダウン処理B(S8b)、あるいはレベルアップ処理A(S9b)、レベルアップ処理B(S9d)を行う出力レベル設定手段(18e)と、
過去の前記受信感度試験の測定ログファイルからパラメータデータと測定結果データの関連性を人工知能により機械学習させることにより生成したAI予測モデルを保持し、前記設定手段により設定された前記設定パラメータに基づき前記AI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測出力レベルOL01を、前記出力レベルOL0に代えて、初回出力レベルとして設定するAI予測試験条件変更設定手段(18b)と、
を有することを特徴とする移動端末試験装置。
【請求項2】
前記AI予測試験条件変更設定手段は、前記AI予測出力レベルで前記試験用信号を送受信することにより実施した初回のスループット測定の測定結果に基づき前記AI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測ステップレベルSL01を、前記ステップレベルSL0に代えて、2回目以降の測定のステップレベルとして設定することを特徴とする請求項1に記載の移動端末試験装置。
【請求項3】
前記AI予測試験条件変更設定手段は、前記初回のスループット測定の測定結果に対する前記合否判断の結果、否と判断された場合、その後、2回目のスループット測定までに限り、前記AI予測ステップレベルSL01を用いて次回の測定のための前記出力レベルの更新処理を実施することを特徴とする請求項2に記載の移動端末試験装置。
【請求項4】
前記AI予測試験条件変更設定手段は、前記パラメータデータとして外部接続用ケーブルの損失、前記移動端末の方位角度(θ、φ)、測定対象周波数を指定し、該パラメータデータと前記測定結果データの関係を機械学習させることにより生成した前記AI予測モデルを保持していることを特徴とする請求項1に記載の移動端末試験装置。
【請求項5】
前記受信感度試験実行部は、2回目のスループット測定の測定結果に対する前記合否判断の結果、否と判断された場合、前記出力レベル設定手段による前記レベルダウン処理A、前記レベルダウン処理B、あるいは前記レベルアップ処理A、前記レベルアップ処理Bを実施するように制御することを特徴とする請求項2に記載の移動端末試験装置。
【請求項6】
内部空間(51)を有する電波暗箱(50)と、
前記内部空間内で前記移動端末の方位を連続的に可変するように前記移動端末を駆動走査する走査手段(16、56)と、をさらに有し、
前記受信感度試験は、前記内部空間内でOTA(Over The Air)測定環境における前記走査手段の走査の対象となる全方位について行うことを特徴とする請求項1に記載の移動端末試験装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の移動端末試験装置(1)を用い、前記信号発生器と前記移動端末との間で前記試験用信号をN回送受信することにより前記移動端末の受信感度試験を行う移動端末試験方法であって、
前記受信感度試験の開始時の前記試験用信号のステップレベルSL0、出力レベルOL0を設定パラメータとして含む試験条件を初期設定する設定ステップ(S1)と、
過去の前記受信感度試験の測定ログファイルからパラメータデータと測定結果データの関連性を人工知能により機械学習させることにより生成したAI予測モデルを保持し、前記設定ステップで設定された前記設定パラメータに基づき前記AI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測出力レベルOL01を、前記出力レベルOL0に代えて、初回出力レベルとして設定するAI予測試験条件変更設定ステップ(S1a)と、
前記AI予測出力レベルで前記試験用信号を送受信することにより初回のスループット測定を行い、該初回のスループット測定結果と判定閾値とを比較して合否判断する合否判断ステップ(S4、S5)と、
前記初回のスループット測定の測定結果に基づき前記AI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測ステップレベルSL01を、前記ステップレベルSL0に代えて、2回目以降の測定のステップレベルとして設定するステップレベル変更設定ステップと、
を含むことを特徴とする移動端末試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験用信号を被試験対象で受信させて受信感度を測定する受信感度試験を複数回実行し、被試験対象である移動端末を試験する移動端末試験装置、及び移動端末試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発が進んでいる、ミリ波帯の広帯域な信号を使用するIEEE802.11adや5Gセルラ等に対応した無線信号を送受信する無線端末については、無線端末が備えている無線通信用のアンテナに対して、通信規格ごとに定められた送信電波の出力レベルや受信感度を測定し、所定の基準を満たすか否かを判定する性能試験が行われる。
【0003】
例えば、5G NRシステム(New Radio System)用の無線端末(以下、5G無線端末)を被試験対象(Device Under Test:DUT)とする性能試験においては、周囲の電波環境に影響されないコンパクト・アンテナ・テスト・レンジ(Compact Antenna Test Range:以下、CATR)と称する電波暗箱(OTAチャンバ)を用いたOTA試験が実施される。
【0004】
OTA試験の一例としては、信号発生器から送信する試験用信号をDUT(例えば、5G無線端末)で受信させて受信感度を測定する動作を複数回実行して測定結果を集計するDUTの受信感度試験が挙げられる。DUTの受信感度試験においては、非特許文献1の38.521-2章の7.3.2に記載されるように、試験用信号の最低限許容される出力レベル[dB]などの規定がある。
【0005】
最低限許容される出力レベルまで試験用信号の出力レベルを順次下げていきながらDUTの受信感度を測定する動作を複数回実行する受信感度試験の実現方法としては、例えば、試験用信号の出力レベルを初回の受信感度試験で設定した値から測定回数が増えるごとに順次一定レベルずつ変化(リニアに変化)させていく方法、ノンリニアに変化させる方法などが知られている。
【0006】
また、チェックポイント(Check Point:CP)となる条件(CP条件)を設定し、試験中に測定したスループットがCP条件を満たす場合には、試験用信号のステップレベルを大きくすることで測定結果が得られまでの時間を短縮するもの(CP判定処理を採用したもの)も従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】3GPP(登録商標)技術仕様書38.521-2章の7.3.2
【特許文献1】特開2022-54744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の移動端末試験装置において、試験用信号の出力レベルをリニアに変化させる方法と、ノンリニアに変化させる方法との受信感度試験終了までの出力レベルの変化パターン(EISサーチパス)の例を図15に示している。図15に示すように、試験用信号の出力レベルをリニアに変化させる方法(曲線L1、L2参照)と、ノンリニアに変化させる方法(曲線NL1、NL2参照)とは、常に、固定値である初回測定OL(出力)レベルからEISサーチを開始する点で共通している。また、いずれの方法も、初回測定OLレベルと受信感度試験終了位置(EIS point1、2)の出力レベルとの間に大きな開きがある。
【0009】
このため、上記いずれかの方法を適用する従来の移動端末測定装置では、試験用信号を固定値である初回出力レベルに設定してEISサーチを開始した後、かなりの回数のEISサーチを継続する必要性からEISサーチ時間を大幅に短縮することは困難であった。
【0010】
一方、特許文献1に記載されるCP判定処理を採用した従来装置にあっては、CPを境にして出力レベルの変化幅を大きくとるため、出力レベルをリニア、あるいはノンリニアに変化させる方法よりもEISのサーチ時間を短縮できる。特許文献1において、試験用信号の出力レベルをノンリニアに変化させる方法と、CP判定処理を経て変化させる方法との受信感度試験終了までの出力レベルと測定回数の関係が図11のグラフに示されている。図11においては、ノンリニアに変化させるときに対応するグラフを符号C3で示し、CP判定処理を経て変化させるときに対応するグラフを符号C1で示している。図11に示すように、CP判定処理を経て試験用信号の出力レベルを変化させる方法を採用することで、ノンリニアに変化させる方法に比べて測定回数を減らすことができ(この例では、4回まで)、その分、EISのサーチ時間を短縮することができる。しかしながら、CP判定処理を採用する従来装置においても、測定回数(EISサーチ回数)をさらに少ない数まで減らすことは困難であり、EISのサーチ時間の時間短縮には限界があった。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、測定回数を極力低減して試験用信号の出力レベルをより短時間で試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験を効率よく行える移動端末試験装置及び移動端末試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る移動端末試験装置は、試験用信号を発生する信号発生器(20)と、前記信号発生器と移動端末(100)との間で前記試験用信号をN回送受信することにより前記移動端末の受信感度試験を行う受信感度試験実行部(18)と、を有し、被試験対象である前記移動端末を試験する移動端末試験装置(1)であって、前記受信感度試験の開始時の前記試験用信号のステップレベルSL0、出力レベルOL0を設定パラメータとして含む試験条件を初期設定する設定手段(18a)と、前記試験条件で前記試験用信号を送受信することによりスループット測定を行い、スループット測定結果と判定閾値とを比較して合否判断する合否判断手段(18f)と、前記合否判断の結果、否と判断された場合、以前のスループット測定の合否判断の結果に応じてレベルダウン処理A(S8a)、レベルダウン処理B(S8b)、あるいはレベルアップ処理A(S9b)、レベルアップ処理B(S9d)を行う出力レベル設定手段(18e)と、過去の前記受信感度試験の測定ログファイルからパラメータデータと測定結果データの関連性を人工知能により機械学習させることにより生成したAI予測モデルを保持し、前記設定手段により設定された前記設定パラメータに基づき前記AI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測出力レベルOL01を、前記出力レベルOL0に代えて、初回出力レベルとして設定するAI予測試験条件変更設定手段(18b)と、を有することを特徴とする。
【0013】
この構成により、本発明の請求項1に係る移動端末試験装置は、試験用信号の初回出力レベルをAI予測によって既存のノンリニア制御等での測定終了時に近い値に速やかに設定することができ、ノンリニア制御、CP制御等の従来方式に比べて測定回数を大幅に低減して試験用信号の出力レベルを極めて短時間で試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験を効率よく行えるようになる。
【0014】
また、本発明の請求項2に係る移動端末試験装置において、前記AI予測試験条件変更設定手段は、前記AI予測出力レベルで前記試験用信号を送受信することにより実施した初回のスループット測定の測定結果に基づき前記AI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測ステップレベルSL01を、前記ステップレベルSL0に代えて、2回目以降の測定のステップレベルとして設定する構成であってもよい。
【0015】
この構成により、本発明の請求項2に係る移動端末試験装置は、AI予測により、試験用信号の初回出力レベルにとどまらず、ステップレベルについても動的に制御することで、ノンリニア制御、CP制御等の従来方式で測定を継続する場合に比べてより短時間で試験用信号を試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験の効率をより向上させることができる。
【0016】
また、本発明の請求項3に係る移動端末試験装置において、前記AI予測試験条件変更設定手段は、前記初回のスループット測定の測定結果に対する前記合否判断の結果、否と判断された場合、その後、2回目のスループット測定までに限り、前記AI予測ステップレベルSL01を用いて次回の測定のための前記出力レベルの更新処理を実施する構成であってもよい。
【0017】
この構成により、本発明の請求項3に係る移動端末試験装置は、AI予測による試験用信号の初回出力レベル、及びステップレベルの動的な制御を2回目のスループット測定までにとどめ、せっかくノンリニア制御等での測定終了時に近い値から測定開始したにもかかわらず、上述した動的な制御が無駄に繰り返される事態を回避可能となる。
【0018】
また、本発明の請求項4に係る移動端末試験装置において、前記AI予測試験条件変更設定手段は、前記パラメータデータとして外部接続用ケーブルの損失、前記移動端末の方位角度(θ、φ)、測定対象周波数を指定し、該パラメータデータと前記測定結果データの関係を機械学習させることにより生成した前記AI予測モデルを保持している構成であってもよい。
【0019】
この構成により、本発明の請求項4に係る移動端末試験装置は、外部接続用ケーブルの損失、移動端末の方位角度(θ、φ)、測定対象周波数の各パラメータデータが測定精度に影響を及ぼす環境下においても、該AI予測モデルを用いて、当該各パラメータデータを加味した正確なAI予測結果を導き出すことができ、測定精度を低下させることなく、試験用信号を極めて短時間、かつ、確実に試験可能レベルに設定することができる。
【0020】
また、本発明の請求項5に係る移動端末試験装置は、前記受信感度試験実行部は、2回目のスループット測定の測定結果に対する前記合否判断の結果、否と判断された場合、前記出力レベル設定手段による前記レベルダウン処理A、前記レベルダウン処理B、あるいは前記レベルアップ処理A、前記レベルアップ処理Bを実施するように制御する構成としてもよい。
【0021】
この構成により、本発明の請求項5に係る移動端末試験装置は、AI予測による試験用信号の初回出力レベル、及びステップレベルの動的な制御により試験用信号の出力レベルが試験可能レベルに到達しないときには、即座に通常の測定ルーチンに切り替えて試験用信号の出力レベルを確実に試験可能レベルに設定することができるようになる。
【0022】
また、本発明の請求項6に係る移動端末試験装置は、内部空間(51)を有する電波暗箱(50)と、前記内部空間内で前記移動端末の方位を連続的に可変するように前記移動端末を駆動走査する走査手段(16、56)と、をさらに有し、前記受信感度試験は、前記内部空間内でOTA(Over The Air)測定環境における前記走査手段の走査の対象となる全方位について行う構成としてもよい。
【0023】
この構成により、本発明の請求項6に係る移動端末試験装置は、OTA環境下で全ての方位について受信感度測定を行わなければならない状況下においても、AI予測による試験用信号の初回出力レベル、及びステップレベルの動的な制御を適用し、短時間で試験用信号の出力レベルを試験可能レベルに設定することができるようになる。
【0024】
また、上記課題を解決するために、本発明の請求項7に係る移動端末試験方法は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の移動端末試験装置(1)を用い、前記信号発生器と前記移動端末との間で前記試験用信号をN回送受信することにより前記移動端末の受信感度試験を行う移動端末試験方法であって、前記受信感度試験の開始時の前記試験用信号のステップレベルSL0、出力レベルOL0を設定パラメータとして含む試験条件を初期設定する設定ステップ(S1)と、過去の前記受信感度試験の測定ログファイルからパラメータデータと測定結果データの関連性を人工知能により機械学習させることにより生成したAI予測モデルを保持し、前記設定ステップで設定された前記設定パラメータに基づき前記AI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測出力レベルOL01を、前記出力レベルOL0に代えて、初回出力レベルとして設定するAI予測試験条件変更設定ステップ(S1a)と、前記AI予測出力レベルで前記試験用信号を送受信することにより初回のスループット測定を行い、該初回のスループット測定結果と判定閾値とを比較して合否判断する合否判断ステップ(S4、S5)と、前記初回のスループット測定の測定結果に基づき前記AI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測ステップレベルSL01を、前記ステップレベルSL0に代えて、2回目以降の測定のステップレベルとして設定するステップレベル変更設定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0025】
この構成により、本発明の請求項7に係る移動端末試験方法は、上記請求項1ないし6のいずれか1項に記載の移動端末試験装置を用い、本移動端末試験方法を適用することで、試験用信号の初回出力レベルをAI予測によって既存のノンリニア制御等での測定終了時に近い値に速やかに設定することができ、ノンリニア制御、CP制御等の従来方式に比べて測定回数を大幅に低減して試験用信号の出力レベルを極めて短時間で試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験を効率よく行えるようになる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、測定回数を極力低減して試験用信号の出力レベルをより短時間で試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験を効率よく行える移動端末試験装置及び移動端末試験方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る測定装置全体の概略構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る測定装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る測定装置の統合制御装置とその被制御要素の機能構成を示すブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る測定装置におけるNRシステムシミュレータの機能構成を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る測定装置のOTAチャンバ内における被試験対象の全球面走査イメージを示す図であり、(a)は球座標系の中心に対する被試験対象の配置態様を示し、(b)は球座標系における角度標本点PSの分布態様を示している。
図6】本発明の一実施形態に係る測定装置のOTAチャンバ内での試験用アンテナ5の配置態様を図5に示す球座標系(r,θ,φ)系を用いて説明するための図である。
図7】本発明の一実施形態に係る測定装置で用いるAI予測モデルの生成処理手順を示す概念図である。
図8】本発明の一実施形態に係る測定装置でのAI予測を適用したDUTの受信感度試験と既存装置でのDUTの受信感度試験とに係る測定開始位置の違いを説明するための模式図である。
図9】本発明の一実施形態に係る測定装置でのDUTの受信感度試験におけるAI予測を適用した試験用信号の出力レベル可変設定制御動作を示すフローチャートである。
図10図9のステップS8での処理の詳細を示すフローチャートであり、(a)はレベルダウン処理(A)を示し、(b)はレベルダウン処理(B)を示している。
図11】本発明の一実施形態に係る測定装置でのAI予測を適用したDUTの受信感度試験と既存装置でのDUTの受信感度試験とに係る測定回数と試験用信号の出力レベル及びスループット測定結果可否判断結果との関係を示す表図である。
図12図11の表図に示す本発明の一実施形態に係る測定装置でのAI予測を適用したDUTの受信感度試験と既存装置でのDUTの受信感度試験とに係る測定回数と試験用信号の出力レベル及びスループット測定結果可否判断結果との関係を示すグラフである。
図13】本発明の一実施形態に係る測定装置でのAI予測を適用したDUTの受信感度試験と既存装置でのDUTの受信感度試験とに係るEISサーチパスの差異を説明するためのグラフである。
図14】本発明の一実施形態に係る測定装置でのAI予測を適用したEIS-CDF測定の測定時間と機械学習のための測定回数との関係を示すグラフである。
図15】既存装置におけるDUTの受信感度試験に係る試験用信号のリニア及びノンリニア制御に基づく各種のEISサーチパスを並べて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る移動端末試験装置、及び移動端末試験方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0029】
まず、本発明の一実施形態に係る測定装置1の構成について、図1図4を参照して説明する。測定装置1は、本発明の移動端末試験装置を構成する。本実施形態に係る測定装置1は、全体として図1に示すような外観構造を有し、かつ、図2に示すような機能ブロックにより構成されている。図1図2において、OTAチャンバ50についてはその側面から透視した状態における各構成要素の配置態様を示している。
【0030】
測定装置1は、例えば、図1に示す構造を有するラック構造体90の各ラック90aに前述したそれぞれの構成要素を載置した態様で運用される。図1においては、ラック構造体90の各ラック90aに、それぞれ、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、OTAチャンバ50を載置した例を示している。
【0031】
図2に示すように、本実施形態に係る測定装置1は、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、信号処理部25、OTAチャンバ50を有している。
【0032】
これらの構成について、ここでは、便宜的に、OTAチャンバ50から先に説明する。図1図2に示すように、OTAチャンバ50は、例えば、長方体形状の内部空間51を有する金属製の筐体本体部52により構成され、内部空間51に、アンテナ110を有するDUT100、試験用アンテナ5、リフレクタ7、DUT走査機構56を収容している。
【0033】
OTAチャンバ50の内面全域、つまり、筐体本体部52の底面52a、側面52b及び上面52c全面には、電波吸収体55が貼り付けられている。これにより、OTAチャンバ50は、内部空間51内に配置される各要素(DUT100、試験用アンテナ5、リフレクタ7、DUT走査機構56)が外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を規制する機能が強化されている。このように、OTAチャンバ50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有する電波暗箱を実現している。本実施形態で用いる電波暗箱は、例えば、Anechoic型のものである。
【0034】
OTAチャンバ50の内部空間51に収容されるもののうち、DUT100は、例えばスマートフォンなどの無線端末である。DUT100の通信規格としては、セルラ(LTE、LTE-A、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV-DO、TD-SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びデジタル放送(DVB-H、ISDB-T等)が挙げられる。また、DUT100は、IEEE802.11adや5Gセルラ等に対応したミリ波帯の無線信号を送受信する無線端末であってもよい。
【0035】
本実施形態において、DUT100のアンテナ110は、例えば、5G NRの通信規格に準拠した規定の周波数帯の無線信号を使用するものである。DUT100は、本発明における被試験対象、移動端末を構成する。
【0036】
OTAチャンバ50の内部空間51において、DUT100は、DUT走査機構56の一部機構により保持されている。DUT走査機構56は、OTAチャンバ50の内部空間51における筐体本体部52の底面52aに、鉛直方向に延在して設けられている。DUT走査機構56は、性能試験を行うDUT100を保持しつつ、該DUT100に対する後述の全球面走査(図5図6参照)を実施するものである。
【0037】
DUT走査機構56は、図1に示すように、ターンテーブル56a、支柱部材56b、DUT載置部56c、駆動部56eを有している。ターンテーブル56aは、円盤形状を有する板部材で構成され、アジマス軸(鉛直方向の回転軸)を中心に回転する構成(図3参照)を有する。支柱部材56bは、ターンテーブル56aの板面上に垂直方向に延びるように配置される柱状部材により構成されている。
【0038】
DUT載置部56cは、支柱部材56bの上端近傍にターンテーブル56aと平行に配置され、DUT100を載置する載置トレイ56dを有している。DUT載置部56cは、ロール軸(水平方向の回転軸)を中心に回転可能な構成(図3参照)を有している。
【0039】
駆動部56eは、例えば、図3に示すように、アジマス軸を回転駆動する駆動モータ56fと、ロール軸を回転駆動する駆動モータ56gと、を有する。駆動部56eは、駆動モータ56fと駆動モータ56gとによって、アジマス軸とロール軸とをそれぞれの回転方向に回転させる機構を備えた2軸ポジショナにより構成されている。このように、駆動部56eは、載置トレイ56dに載置されたDUT100を、載置トレイ56dごと2軸(アジマス軸とロール軸)方向に回転させることができるものである。以下、駆動部56eを含むDUT走査機構56全体を2軸ポジショナと称することもある(図3参照)。駆動部56e、駆動モータ56f、56gは、それぞれ、本発明における駆動手段、第1の回転駆動手段、第2の回転駆動手段を構成する。載置トレイ56dは、本発明における被試験対象載置部を構成する。
【0040】
DUT走査機構56では、載置トレイ56dに載置(保持)されているDUT100を、例えば、球体(図5の球体B参照)の中心O1に配置したと仮定し、球体表面の全ての方位に対してアンテナ110が向く状態にDUT100の姿勢を順次変化させる全球面走査を行うものである。DUT走査機構56におけるDUT走査の制御は、後述するDUT走査制御部16よって行われる。DUT走査機構56、及びDUT走査制御部16は、本発明における走査手段を構成する。
【0041】
試験用アンテナ5は、OTAチャンバ50の筐体本体部52の底面52aの所要位置に、適宜な保持具(図示せず)を用いて取り付けられている。試験用アンテナ5の取り付け位置は、底面52aに設けられた開口67aを介してリフレクタ7から見透しが確保できる位置となっている。試験用アンテナ5は、DUT100のアンテナ110と同じ規定(NR規格)の周波数帯の無線信号を使用するものである。
【0042】
試験用アンテナ5は、OTAチャンバ50内でのDUT100のNRに関連する測定に際し、NRシステムシミュレータ20からDUT100に対する試験用信号の送信、及び該試験用信号を受信したDUT100から送信される被測定信号の受信を行う。試験用アンテナ5は、その受光面がリフレクタ7の焦点位置Fとなるように配置されている。なお、試験用アンテナ5をその受光面がDUT100に向き適切な受光ができるように配置できる場合には、リフレクタ7は必ずしも必要ない。
【0043】
リフレクタ7は、OTAチャンバ50の側面52bの所要位置にリフレクタ保持具58を用いて取り付けられている。リフレクタ7は、DUT100のアンテナ110により送受信される無線信号(試験用信号、及び被測定信号)を、試験用アンテナ5の受光面へと折り返す電波経路を実現する。
【0044】
次に、統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20の構成について説明する。
【0045】
図2に示すように、統合制御装置10は、NRシステムシミュレータ20に対して、例えばイーサネット(登録商標)等のネットワーク19を介して相互に通信可能に接続されている。また、統合制御装置10は、OTAチャンバ50における被制御系要素、例えば、DUT走査制御部16にもネットワーク19を介して接続されている。
【0046】
統合制御装置10は、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20、及びDUT走査制御部16を統括的に制御するものであり、例えば、パーソナル・コンピュータ(PC)により構成される。なお、DUT走査制御部16は、OTAチャンバ50に付随して独立に設けられる(図2参照)他、図3に示すように、統合制御装置10に設けられていてもよい。以下では、統合制御装置10が図3に示す構成を有するものとして説明する。
【0047】
図3に示すように、統合制御装置10は、制御部11、操作部12、表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、測定装置1の機能を実現するための所定の情報処理や、NRシステムシミュレータ20、及び信号処理部25を対象とする統括的な制御を行うCPU(Central Processing Unit)11aと、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)11bと、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)11c、外部I/F部11d、入出力ポート(図示せず)等を有する。
【0048】
外部I/F部11dは、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20、信号処理部25、及びDUT走査機構(2軸ポジショナ)56の駆動部56eとそれぞれ通信可能に接続されている。入出力ポートには、操作部12、表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
【0049】
上述したコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、図3に示すように、呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT走査制御部16、信号解析制御部17、受信感度試験制御部18を有している。呼接続制御部14、信号送受信制御部15、DUT走査制御部16、信号解析制御部17、受信感度試験制御部18も、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
【0050】
呼接続制御部14は、NRシステムシミュレータ20、信号処理部25を介して試験用アンテナ5を駆動してDUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信させることにより、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に呼(無線信号を送受信可能な状態)を確立する制御を行う。
【0051】
信号送受信制御部15は、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザによりDUT100の送信及び受信特性の測定に係る所定の測定開始操作が行われことを契機に、呼接続制御による呼の確立後のNRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信し、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ5を介して試験用信号を送信させる制御、及び信号受信指令を送信し、試験用アンテナ5を介して被測定信号を受信させる制御を行う。
【0052】
DUT走査制御部16は、DUT走査機構56の駆動モータ56f及び56gを駆動制御することにより、DUT載置部56cの載置トレイ56dに載置されているDUT100の全球面走査を行わせるものである。この制御を実現するために、例えば、ROM11bには、予め、DUT走査制御テーブル16aが用意されている。DUT走査制御テーブル16aは、例えば、DUT100の全球面走査に係る球座標系(図5(a)参照)における各角度標本点PS(図5(b)参照)の座標、各角度標本点PSの座標に対応付けられた駆動モータ56f及び56gの駆動データ、及び各角度標本点PSでの停止時間(測定時間)などが関係付けられた制御データを格納している。駆動モータ56f及び56gが例えばステッピングモータの場合には、上記駆動データとして例えば駆動パルス数が格納される。
【0053】
DUT走査制御部16は、DUT走査制御テーブル16aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT走査制御テーブル16aに記憶されている制御データに基づき、DUT走査機構56の駆動モータ56f及び56gを駆動制御する。これにより、DUT載置部56cに載置されるDUT100の全球面走査が行われる。全球面走査では、球座標系における角度標本点PSごとにDUT100のアンテナ110のアンテナ面が該角度標本点PSに向いて規定の時間(上記停止時間)だけ停止し、その後、次の角度標本点PSに移動する動作(DUT100の走査)が、全ての角度標本点PSを対象にして順次実施される。
【0054】
信号解析制御部17は、DUT100の全球面走査時に、試験用アンテナ5が受信したNR、LTEに関連する無線信号を、NRシステムシミュレータ20、信号処理部25を介して取り込み、指定測定項目の信号として解析処理(測定処理)するものである。
【0055】
受信感度試験制御部18は、NRシステムシミュレータ20の信号発生部21aから送信した試験用信号をDUT100で受信させてその受信感度を測定する受信感度試験を複数回実行させ、複数回の受信感度試験の測定結果を試験結果として集計する制御を行う。受信感度試験制御部18は、本発明の受信感度試験実行部、合否判断手段を構成している
【0056】
受信感度試験制御部18は、図3に示すように、試験条件設定部18a、AI予測試験条件変更設定部18b、スループット測定部18c、低下状態判定部18d、出力レベル可変設定部18e、測定結果出力部18fを有している。試験条件設定部18a、AI予測試験条件変更設定部18b、出力レベル可変設定部18eは、それぞれ、本発明の設定手段、試験条件変更設定手段、出力レベル設定手段を構成している。
【0057】
試験条件設定部18aは、受信感度試験の試験条件を設定する機能部である。試験条件設定部18aが設定する試験条件(設定パラメータ)として、初期ステップレベル(initial step level)SL0、スタート出力レベル(Starting output level)OL0、エラートレランスレベルEL(Error tolerance of boundary level)、接続断判定用閾値DT(Connection drop threshold)などが挙げられる。初期ステップレベルSL0は受信感度試験に際してステップ的に変動させる試験用信号の出力レベルのステップ変動幅の初期値を示す。スタート出力レベルOL0は、受信感度試験を開始する際のDUT100の出力レベル(1回目の送受信の際の出力レベル)を示す。エラートレランスレベルELは、受信感度試験を次回も継続して行うか否かを判定するための前回と今回の試験用信号の出力レベルの変動幅(所定値)を示す。DTは、この値よりも値を下げてしまうと呼接続の切断をきたす(Call Dropしてしまう)という、底の値の設定値である。図9におけるアルゴリズムでは、大きなステップで出力レベルを下げていくので、これ以上行くとCall Dropしてしまうから下げない、という閾値が必要になる。この値は、ユーザが事前に設定することが可能である。
【0058】
AI予測試験条件変更設定部18bは、当該測定装置1での過去に実施したDUT100の受信感度試験の測定ログファイルからパラメータデータと測定結果データの関連性を人工知能(AI:Artificial Intelligence)により機械学習(Machine Learning:ML)させることにより取得したAI予測モデル(model)Dai(図7参照)を用い、試験開始時に試験条件設定部18aにより設定(初期設定)された試験条件(設定パラメータ)に基づき上記AI予測モデルDaiによって事前にAI予測された特定の設定パラメータの値を、初期設定された値に代えて、変更設定する機能部である。AI予測試験条件変更設定部18bによるAI予測モデルDaiを使ったAI予測に基づく変更設定の対象となる特定の設定パラメータとしては、例えば、初期設定された試験用信号の出力レベル(スタート出力レベルOL0)、及び初期ステップレベルSL0が挙げられる。以下においては(図9参照)、2回目の測定までの間の試験用信号の出力レベルOL0、OL1、及び初期ステップレベルSL0をAI予測に基づいて変更設定する例を挙げている。
【0059】
AI予測試験条件変更設定部18bによる初期設定されたスタート出力レベルOL0の変更設定処理は、例えば、図9に示すフローチャートのステップS1aにおいて、その前のステップS1で初期設定された試験条件(設定パラメータ)に基づき上記AI予測モデルDai(AI予測モデルA1)によって事前にAI予測されたAI予測出力レベルOL01をサーチし、該AI予測出力レベルOL01をステップS1で初期設定されたスタート出力レベルOL0に代えて、初回出力レベルとして設定するという流れで実施される。また、初期ステップレベルSL0の変更設定処理は、図9に示すフローチャートのステップS26において、その前のステップS4、S5、S25での処理結果(ステップS1aで初回出力レベルに変更設定された試験用信号の送受信時の初回のスループット測定の測定結果)に基づき、AI予測モデルDai(AI予測モデルA2)によって事前にAI予測されたAI予測ステップレベルSL01を、ステップS1で初期設定された初期ステップレベルSL0に代えて設定するという流れで実施される。AI予測モデルDai(A1、A2)の生成処理手順については図7を参照して後で詳しく説明する。
【0060】
スループット測定部18cは、受信感度試験ごとにDUT100の受信能力に関するスループットを測定する機能部である。スループット測定部18cは、例えば、試験用信号の送信に合わせてその伝送レートもDUT100に送信し、その後、DUT100が試験用信号の受信結果(受信伝送レート)をNRシステムシミュレータ20側に報知してくるのに合わせ当該受信伝送レートからスループットを測定する構成であってもよい。
【0061】
低下状態判定部18dは、スループット測定部18cによるスループットの測定結果が急峻に低下する特性に関する急峻低下領域内の予め設定した割合まで低下した状態であるか否かを判定する機能を有する。この機能を実現するために、スループットの測定結果が急峻低下領域内のある割合まで低下した状態であるか否かを判定するための判定条件が、例えば、試験条件設定部18aによって予め設定されている。低下状態判定部18dは、測定されたスループットが判定条件によって示される急峻低下領域内にあるか否かに応じて低下した状態であるか否かを判定するようになっている。低下した状態であるか否かを判定する判定条件としては、例えば、1回目の試験信号の送受信によりスループット測定部18cにより測定されたスループットの値を100%とするときに、95%を超えて99%以下の範囲を設定する例が挙げられる。これにより、測定されたスループットが設定した範囲内にあるときに低下した状態であると判定することができ、上記範囲よりも高い割合である場合には低下した状態ではないと判定することができる(図9のステップS7、S9a参照)。ここで上記判定条件は、前述の如く1回目の試験信号の送受信により測定されたスループットの値を100%(基準値)とし、該基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲とするのに限らず、基準値に対する他の割合範囲を設定するようにしてもよい。
【0062】
出力レベル可変設定部18eは、スループット測定部18cによるスループットの測定結果と予め設定された所定の閾値(スループット閾値)との比較結果に応じて、次回の前記受信感度試験における試験用信号の出力レベルを上昇(レベルアップ)または下降(レベルダウン)方向に、かつ、前後する回数の受信感度試験間での試験用信号の出力レベルが異なるように可変設定する機能部である。
【0063】
測定結果出力部18fは、可変設定後の出力レベルを有する試験用信号による今回の受信感度試験の試験結果(スループットの測定結果)と前回の受信感度試験の試験結果間の試験結果変動幅が試験条件設定部18aにより設定された変動幅(EL)の範囲を超えているときには次回の受信感度試験(スループット測定)に進み、試験結果変動幅が変動幅(EL)内となったときには当該試験結果を出力する機能部である。測定結果出力部18fは、受信感度試験制御部18とともに本発明の合否判断手段を構成する。
【0064】
NRシステムシミュレータ20は、図4に示すように、信号発生部21a、送受信部21f、信号測定部21b、制御部21c、操作部21d、表示部21eを有している。NRシステムシミュレータ20は、本発明の信号発生器を構成する。
【0065】
信号発生部21aは、試験用信号の元となる信号(ベースバンド信号)を発生する。送受信部21fは、信号発生部21aが発生した信号から各通信規格の周波数に対応した試験用信号を生成して信号処理部25に送出するとともに、信号処理部25から送られてくる被測定信号からベースバンド信号を復元するRF部の機能を果たす。信号測定部21bは、送受信部21fで復元されたベースバンド信号に基づいて被測定信号の測定処理を行う。
【0066】
制御部21cは、信号発生部21a、信号測定部21b、送受信部21f、操作部21d、表示部21eの各機能部を統括的に制御する。操作部21dは、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部21eは、各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
【0067】
上述した構成を有する測定装置1では、OTAチャンバ50の内部空間51内で、DUT走査機構56(2軸ポジショナ)の載置トレイ56dにDUT100を載置し、該DUT100を、載置トレイ56dごと2軸(アジマス軸とロール軸)方向に回転させながら(ポジショナの角度を変更しながら)、DUT100の無線信号に関するEIRP(Equivalent Isotropic Radiated Power)-CDF(Cumulative Distribution Function:累積分布関数)、EIS(Equivalent Isotropic Sensitivity)-CDF、TRP(Total Radiated Power)等の測定項目の測定を行うことができる。
【0068】
ここで、上述した各測定項目を測定する際に必要とされる、2軸ポジショナの角度変更によるDUT100の角度制御(全球面走査)について図5図6を参照して説明する。
【0069】
一般に、DUT100を対象とする放射電力測定に関しては、等価等方輻射電力(EIRP)を測定する方法と、全放射電力(TRP)を測定する方法が知られている。EIRPは、例えば、図5(a)に示す球座標系(r,θ,φ)の各測定点(θ,φ)で測定した電力値である。これに対し、TRPは、上記球座標系(r,θ,φ)の全ての方位、すなわち、DUT100の全球面走査の中心O1(以下、基準点)から等距離にある球面上の予め規定した複数の角度標本点PS(図5(b)参照)でのEIRPを測定し、その総和を求めたものである。
【0070】
本実施形態において、全放射電力(TRP)を算出するための分割数Nθ及びNφは、それぞれ、例えば、12に設定されている。これにより、本実施形態においては、角度標本数(N)は、N=132(=(12-1)×12)として求められる。こうして求められた132個の角度標本点PSは、球体Bの表面上に表すと図5(b)に示すような位置となる。
【0071】
本実施形態に係る測定装置1では、図5(b)に示すように、球座標系(r,θ,φ)の基準点から等距離の132ポイントの位置でそれぞれEIRPが測定され、さらに全てのポイント位置でのEIRPが加算される。そして、上記各EIRPの加算結果、すなわち、132ポイントの全ての角度標本点PSでのEIRPの総和に基づいて、DUT100の全放射電力(TRP)が求められる。
【0072】
TRP測定に際し、統合制御装置10は、DUT走査機構56を駆動制御することでDUT100の全球面走査を実施する。DUT100の全球面走査において、統合制御装置10は、駆動モータ56fの駆動/非駆動を繰り返しつつターンテーブル56aをアジマス軸中心に回転駆動する一方で、駆動モータ56gの駆動/非駆動を繰り返しつつ載置トレイ56dをロール軸中心に回転駆動させる。その際、統合制御装置10は、アンテナ110のアンテナ面が1つの角度標本点PSを向くタイミングごとに駆動モータ56f及び駆動モータ56gを非駆動とするように制御する。このDUT100の全球面走査制御により、載置トレイ56dに載置されているDUT100は、アンテナ110が球座標系(r,θ,φ)を規定する球体Bの中心である基準点の位置に保たれたまま、アンテナ110のアンテナ面が球体Bの全ての角度標本点PSを順次向く(指向する)ように、基準点を中心に回転駆動される。
【0073】
図6に示すように、上記球座標系(r,θ,φ)系における特定の角度標本点PS(1点)の位置には、試験用アンテナ5が配置されている。上述した全球面走査において、DUT100は、アンテナ110のアンテナ面が試験用アンテナ5の受光面に順次に向くように駆動(走査)される。これにより、試験用アンテナ5は、全球面走査が行われるDUT100のアンテナ110との間でTRP測定のための信号の送受信を行うことが可能となる。ここで送受信される信号は、NRシステムシミュレータ20から試験用アンテナ5を介して送信される試験用信号と、該試験用信号を受信したDUT100がアンテナ110より送信する信号であって、試験用アンテナ5を介して受信される被測定信号である。
【0074】
統合制御装置10では、図5(b)に示す球座標系(r,θ,φ)系において、DUT100があるθの角度を保ったままφ方向の各角度標本点PSを通過するように走査されるのに合わせて、NRシステムシミュレータ20を駆動して信号発生部21a、送受信部21fより上記試験用信号を発生させ、該試験用信号を、信号処理部25を介して試験用アンテナ5から送信させる。ここでDUT100は、アンテナ110で上記試験用信号を受信すると、当該試験用信号の受信に対応した応答信号を送出する。
【0075】
統合制御装置10は、NRシステムシミュレータ20をさらに駆動し、DUT100が上記試験用信号の受信に応答して送信し、試験用アンテナ5で受信された信号を、信号処理部25から送受信部21fを介して信号測定部21bに被測定信号として受信させる。さらに統合制御装置10は、受信した被測定信号に基づいてEIRPの測定に係る信号処理を行わせるように信号測定部21bを駆動制御する。こうしたEIRPの測定制御を、θの角度を変えて全ての角度標本点PSを通過するDUT100の全球面走査に合わせ実施することで、NRシステムシミュレータ20では、NRに対応して球座標系(r,θ,φ)系の全ての角度標本点PSについてのEIRPを測定することができる。また、統合制御装置10は、全ての角度標本点PSについてのEIRP測定値の総和であるTRPを求めることができる。
【0076】
さらに統合制御装置10は、OTAチャンバ50内で2軸ポジショナ(DUT走査機構56)の角度を変更しながら行うDUT100の性能試験、具体的には、例えば、EIRP-CDF、EIS-CDF、TRP等の測定項目の測定の実施に先立って、NRシステムシミュレータ20における試験用信号の出力レベル(電力レベル)を、例えば、3GPP規格によって規定された適正なレベルに調整する出力レベル制御機能を有している。この出力レベル制御機能によって、上記各項目の測定に際してDUT100が最大の能力を発揮できる試験用信号の出力レベルのサーチ(EISサーチ)が行われる。このため、NRシステムシミュレータ20による上述した出力レベル制御機能は、DUT100にとっての受信感度を探る受信感度試験に係る制御機能という見方もできる。受信感度試験に係る制御機能は、統合制御装置10の制御部11に設けられる受信感度試験制御部18によって実現される。
【0077】
(受信感度試験における試験用信号の出力レベルの収束制御について)
統合制御装置10において、受信感度試験制御部18は、信号発生器であるNRシステムシミュレータ20とDUT100との間で試験用信号を複数回送受信することによりDUT100の受信感度試験の制御を実施する。この制御においては、受信感度試験中の各回の試験用信号の送受信に合わせてスループットが測定され、該スループットの測定値とスループット閾値との比較結果に応じて試験用信号の出力レベルをレベルダウン、若しくはレベルアップさせていきながら、適宜なスループットの値(測定結果)が得られる出力レベルに収束させていくようになっている。
【0078】
上述した受信感度試験における試験用信号の出力レベルの収束制御の一例として、本実施形態に係る測定装置1では、統合制御装置10の受信感度試験制御部18に、DUT100の測定開始時に設定される試験条件のうちの特定の設定パラメータ(例えば、スタート出力レベルOL0、初期ステップレベルSL0)をAI予測技術に基づいて初期設定値から変更設定する初回測定パラメータ変更設定機能を設け、EISサーチの開始地点が本来のEISサーチの終了地点にできるだけ近接するように試験用信号の出力レベルをダイナミック(動的)に制御するようにしている。上記初回測定パラメータ変更設定機能を設けることで、本実施形態に係る測定装置1では、初期設定した出力レベルから測定回数が増えるごとに順次一定レベルずつ変化(リニアに変化)させていく(図13の曲線L1、L2参照)方法、試験用信号の出力レベルに関してレベルダウン、若しくはレベルアップを繰り返し実行しながら、該出力レベルをノンリニアに変動させるように制御する方法(図13の曲線NL1、NL2参照)、さらにはCP判定処理を適用して測定回数を減らす既存の各種方法に比べて、試験用信号の出力レベルを目標とするレベルにまでいち早く収束させ、EISサーチ時間を大幅に削減できるようにしている。
【0079】
初回測定パラメータ変更設定機能として受信感度試験制御部18に備わるAI予測試験条件変更設定部18bは、当該測定装置1の過去におけるDUT100の受信感度試験の測定ログファイルからパラメータデータと測定結果データの関連性を機械学習させることにより取得したAI予測モデルDaiを保持し、該AI予測モデルDaiを使って上述したスタート出力レベル(OL0)、初期ステップレベル(SL0)をAI予測に基づいて初回測定、あるいは2回目の測定に用いる値に変更設定するようになっている。
【0080】
AI予測モデルDaiの生成処理手順について、図7を参照して詳しく説明する。図7に示すように、AI予測モデルDaiを生成するには、本実施形態に係る測定装置1における過去に実施した複数回のDUT100の受信感度測定で収集した測定ログファイルを用意する(ステップS31)。用意する測定ログファイルとしては、例えば、EIS測定ログファイル、またはEIS-CDF測定ログファイル等が挙げられる。これらの測定ログファイルは、生成目標とするAI予測モデルDaiとしての十分な精度を保ち得る測定回数(例えば、10回以上)に相当する数を収集するのが好ましい。
【0081】
次いで、この生成処理手順では、ステップS31で用意されたn回の測定で収集されたEIS測定ログファイル(あるいは、EIS-CDFログファイル)からEIS測定結果データ(同、EIS-CDFログファイル)とそれぞれの測定に際して使用(設定)されたパラメータデータとを抽出する(ステップS32)。ここで抽出するパラメータデータとしては、例えば、外部接続用ケーブルの損失(外部パスロス)、DUT走査機構56の角度、すなわちDUT100の方位角度(θ、φ)、測定対象の周波数が少なくとも挙げられる。
【0082】
さらにこの生成処理手順においては、ステップS32で抽出されたパラメータデータと測定結果データの関係を、AIを使って機械学習させ(ステップS33)、該機械学習結果をAI予測モデルDaiとしてまとめて所定の記憶領域に格納する(ステップS34)。ここでAI予測モデルDaiは、過去の測定ログファイルから抽出したパラメータデータの種別等を反映した複数種類のものが生成されるようになっている。本実施形態において、AI予測モデルDaiは、例えば、統合制御装置10の制御部11におけるRAM11c内に設けられるAI予測モデル格納部18b1に格納される。
【0083】
図7に示す生成処理手順から理解できるように、当該生成処理手順で生成されたAI予測モデルDaiは、過去に実施された複数回のDUT100の受信感度試験でのパラメータデータと測定結果データの関連性を統計したデータで構成されたものである。要するに、AI予測モデルDaiは、パラメータデータがどのような値のときにどのような測定結果が得られるかを示す統計データである。
【0084】
これにより、本実施形態に係る測定装置1では、DUT100の受信感度試験にて初期設定される設定パラメータから、AI予測モデルDaiに照らして、既存の測定方法でのEISサーチパス上の最後のEISサーチ点から所定サーチ回数の範囲内のEISサーチ点での試験用信号の出力レベル、あるいはステップレベル等をAI予測によって探り当てることが可能となる。言い換えると、本実施形態に係る測定装置1では、初期設定される設定パラメータを用いた上記最後のEISサーチ点までのEISサーチを飛ばし、該最後のEISサーチ点からEISサーチを開始することができ、EISサーチ回数を大幅に低減することができる。
【0085】
また、本実施形態では、AI予測モデルDaiを生成すためのパラメータデータとして外部パスロス、DUT100の方位角度(θ、φ)、測定対象周波数を用いるため、AI予測モデルを用いて、当該各パラメータデータを加味した正確なAI予測結果を導き出すことができ、測定精度を低下させることなく、試験用信号を極めて短時間、かつ、確実に試験可能レベルに設定することができるようになる。
【0086】
本実施形態に係る測定装置1でのAI予測を適用したDUTの受信感度試験と既存の装置(従来装置)でのDUTの受信感度試験の測定開始位置の比較例を図8に示している。図8に示すように、既存の装置では、試験用信号の出力レベルをリニアに制御するにしても、ノンリニアに制御するにしても、EISの測定開始時に初期設定された固定値(例えば、OL0=-80dBm)から測定が開始される(図中、「従来測定」)。このため、仮に、-90dBmで終了条件を満たすことになる「EIS1」の測定を「従来測定」手順で実施した場合には、測定回数が例えばn回となる。他方、仮に-96dBmで終了条件を満たすことになる「EIS2」の測定を「従来測定」手順で実施した場合には、測定回数がさらに多い例えばN(N>n)回となる。
【0087】
これに対し、本実施形態に係る測定装置1でのAI予測を用いた測定(図中、「AI測定」)においては、上記初期設定された設定パラメータからAI予測モデルDaiを使ってAI予測された値(例えば、OL01:(予測値))からEISサーチが開始される。ここでAI予測された値OL01は、EIS1の測定に際しては、例えば、「従来測定」における最後のEISサーチポイント(「測定n回目」に対応するポイント)から所定範囲内(この例では、1回前)のEISサーチポイントに対応する値となる。これにより、AI予測に基づくEIS1の測定は、試験用信号の出力レベルが例えば-89.8dBmに設定されて初回の測定が実施され、次いでその出力レベルが例えば-90dBmに設定されて2回目の測定が実施され、ここで終了条件を満足したと判定され、測定2回目でEISサーチが終了することとなる。
【0088】
また、EIS2の測定に際しては、AI予測された値OL01が、例えば、「従来測定」における最後のEISサーチポイント(「測定N回目」に対応するポイント)から所定範囲内(この例では、1回前)のEISサーチポイントに対応する値となる。これにより、AI予測に基づくEIS2の測定は、試験用信号の出力レベルが例えば-95.8dBmに設定されて初回の測定が実施され、次いでその出力レベルが例えば-96dBmに設定されて2回目の測定が行われ、ここで終了条件を満足したと判定され、測定2回目でEISサーチが終了することとなる。
【0089】
図8に示すように、本実施形態に係る測定装置1では、設定するパラメータに応じて測定開始する試験用信号の出力レベルをダイナミックに適応制御することにより、常に固定値から測定開始する「従来測定」に比べて、EISサーチパスを大幅に短くすることができ、EISサーチ回数を大幅に低減して試験用信号の出力レベルをより短時間で試験可能レベルに設定可能となる。
【0090】
以上に述べたAI予測モデルを用いたAI予測に基づくDUT100の受信感度試験の時間短縮手法を踏まえ、以下、本実施形態に係る測定装置1の統合制御装置10によるDUT100の受信感度試験に係る試験用信号の出力レベル可変設定制御動作について図9図10を参照して説明する。
【0091】
図9は、本実施形態に係る測定装置1でのDUT100の受信感度試験におけるAI予測を適用した試験用信号の出力レベル可変設定制御動作を示すフローチャートである。図9において、ステップS20、S1a、S25、S26、S27は、上述したAI予測を適用した出力レベル変更設定処理の部分である。このAI予測を適用した出力レベル変更設定処理を実現するための制御データの格納形態としては、設定パラメータからAI予測モデルDaiに基づいて事前にAI予測した結果のデータ(予測結果データ)を格納しておく方法と、AI予測モデルDaiを格納しておき、DUT100の受信感度試験の開始時に初期設定された設定パラメータからAI予測モデルDaiに基づいてその都度AI予測を実施する方法とが考えられる。以下においては、前者の方法を適用することを前提に説明するものとする。制御データの格納先は、いずれも、例えば、AI予測モデル格納部18b1である。
【0092】
本実施形態に係る測定装置1において、図9に示すフローチャットに沿ったDUT100の受信感度試験を開始するにはまず、統合制御装置10の制御部11における受信感度試験制御部18によって試験条件(設定パラメータ)の設定(初期設定)を行う(ステップS1)。具体的に、試験条件設定部18aは、操作部12での操作入力を受け付けることにより、例えば、上述した初期ステップレベルSL0、スタート出力レベルOL0、エラートレランスレベルEL、接続断判定閾値DT、スループットの急峻低下領域の判定条件(ステップS7、S9a参照)のそれぞれの値を設定する。
【0093】
ステップS1で設定するスタート出力レベルOL0、初期ステップレベルSL0としては、それぞれ、例えば、-75dBm、10dBを想定している。エラートレランスレベルELは、例えば、0.2dBを想定している。接続断判定閾値DTは、例えば、-90dBmを想定している。また、スループットの急峻低下領域の判定条件としては、例えば、スループット測定値が上述した基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲という条件を想定している。
【0094】
ステップS1での試験条件の初期設定が完了した後、受信感度試験制御部18では、初期設定されたスタート出力レベルOL0をAI予測に基づいて変更して設定する処理を実施する(ステップS1a)。具体的に、受信感度試験制御部18において、AI予測試験条件変更設定部18bは、例えば、ステップS1で設定されたスタート出力レベルOL0に基づいてAI予測モデル格納部18b1に格納されているAI予測モデルDaiに基づくAI予測結果データをサーチし(ステップS20)、設定中のスタート出力レベルOL0の値を、当該スタート出力レベルOL0に対応して事前にAI予測されたAI予測出力レベル(OL01)に変更して設定する(ステップS1a)。すなわち、初期設定されたスタート出力レベルOL0を初回出力レベルOL0に変更設定する。
【0095】
次いで、受信感度試験制御部18は、測定回数nを+1インクリメントしたうえで(ステップS2)、N回目の測定に係るパラメータの設定、及びそれ以前に例えばOLレベルダウン処理を行うステップS8(ステップS8a、S8bを含む)やOLレベルアップ処理を行うステップS9で設定された出力レベルOLの値などの読み込む処理を行う(ステップS3)。引き続き受信感度試験制御部18は、ステップS3で設定された(若しくは、読み取られた)測定に係るパラメータに基づいて試験用信号を送信させつつDUT100のスループットに関するn回目の測定を行うように制御する(ステップS4)。
【0096】
ステップS3、S4の制御(スループット測定制御)の具体例として、受信感度試験制御部18は、1回目の測定に関するパラメータとしては、ステップS1での試験条件の設定、及びステップS20でのAI予測に基づく変更設定で設定された初回出力レベルOL01を読み出し、DUT100を初回出力レベルOL01で駆動制御させつつスループット測定を実施する。
【0097】
次いで受信感度試験制御部18は、今回のスループット測定に係る前の回(前回)のスループット測定のときに対するステップレベルの間隔、すなわち、ステップレベルSL(n)がステップS1で設定されたエラートレランスレベルELよりも大きいかをチェックする(ステップS5)。ここでステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルELよりも大きいと判定された場合(ステップS5でYES)、受信感度試験制御部18は、ステップS25へ移行し、スループット測定及びステップレベルのサーチ制御を続行する。なお、1回目のスループット測定に際しては、上述したように初回出力レベルOL01の試験用信号の送信から開始されており、前回の測定に対するSLの変化幅を有しないため、ステップS5の処理がスルーされてステップS25へと進む。
【0098】
ステップS25において、受信感度試験制御部18は、測定回数Nが1であるか否かをチェックする。ここで測定回数Nが1ではない(すなわち、2以上である)と判定された場合(ステップS25でNO)、受信感度試験制御部18は、ステップS6以降の処理、すなわち、既存の測定方法に基づく測定処理に移行する。
【0099】
これに対して、測定回数Nが1であると判定された場合(ステップS25でYES)、受信感度試験制御部18では、ステップS1で設定された初期ステップレベルSL0から事前にAI予測されたAI予測ステップレベルSL01を取得し、該取得したAI予測ステップレベルSL01に基づき2回目の測定に用いる出力レベルOL1を設定する処理を実施する(ステップS26、ステップS27)。具体的に、受信感度試験制御部18において、AI予測試験条件変更設定部18bは、AI予測モデル格納部18b1に格納されているAI予測結果データをサーチし、ステップS1で設定された初期ステップレベルSL0から事前にAI予測されたAI予測ステップレベルSL01を取得する(ステップS26)。次いで、AI予測試験条件変更設定部18bは、その取得したAI予測ステップレベルSL01と、ステップS1aで変更設定されている初回出力レベルOL01とに基づいて2回目の測定に用いる試験用信号の出力レベルOL1(=OL01+SL01))を設定する処理を実施する(ステップS27)。
【0100】
その後、受信感度試験制御部18ではステップS2、S3、S4の処理を続行する。すなわち、受信感度試験制御部18は、測定回数nを+1インクリメントし(ステップS2)、2回目の測定に係るパラメータの設定、及びそれ以前に例えばステップS27でAI予測に基づいて設定された出力レベルOL1の値などを読み込んだうえで(ステップS3)、該設定された(若しくは、読み取られた)測定に係るパラメータに基づいて試験用信号を送信させつつDUT100のスループットに関する2回目の測定を行うように制御する(ステップS4)。
【0101】
具体的に、ステップS3、S4の制御(スループット測定制御)において、受信感度試験制御部18は、ステップS27で設定された出力レベルOL1(=OL01+SL01)を読み込み、DUT100を該出力レベルOL1で駆動制御させつつ2回目のスループット測定を実施する。
【0102】
さらに受信感度試験制御部18は、今回のスループット測定に係る前回のスループット測定のときに対するステップレベルの間隔、すなわち、ステップレベルSL(n)がステップS1で設定されたエラートレランスレベルELよりも大きいかをチェックする(ステップS5)。
【0103】
ここでステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルEL以下であると判定された場合(ステップS5でNO)、受信感度試験制御部18は、スループット測定及びステップレベルのサーチを停止し、このときの測定結果を出力(ステップS10)して一連の測定動作を終了する。これに合わせて、受信感度試験制御部18は、ステップS10で出力したスループットの測定結果及びAI予測試験条件変更設定部18bにて設定されたパラメータデータをフィードバックし、ステップS20で用いるAI予測モデルDai(AI予測モデルA1)を更新する処理を実施する(ステップS11)。
【0104】
これに対し、ステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルELよりも大きいと判定された場合(ステップS5でYES)、受信感度試験制御部18は、測定回数Nが1であるか否かをチェックする(ステップS25)。ここで測定回数Nが1ではない(すなわち、2以上である)と判定された場合(ステップS25でNO)、受信感度試験制御部18は、ステップS6以降の処理、すなわち、既存の測定方法に基づく測定処理を実行する。
【0105】
このように、図9に示す本実施形態に係る測定装置1でのDUT100の受信感度試験に係る試験用信号の出力レベル可変設定制御動作においては、ステップS1で初期設定したスタート出力レベルOL0からのAI予測に基づく設定変更を2回(ステップS1a、及びステップS26)までに制限し、その間にステップS5で「YES」の判定結果が得られない場合には、ステップS6以降の既存の測定方法に基づく測定処理を実行する例を挙げている。ここで、AI予測に基づく変更設定回数は2回に限られるものではなく、それ以外の回数とすることも可能である。
【0106】
ステップS6以降の既存の測定方法に基づく測定処理は、特許文献1の図7のフローチャートにおけるステップ6以降の処理と同じであり、概略以下の通りである。
【0107】
まず、ステップS6において、受信感度試験制御部18は、ステップS4でのスループット測定値と予め設定したスループット閾値とを比較し、スループット測定値がスループット閾値以上であると判定されると(ステップS6で「PASS」の状態)ステップS7へ進み、スループットの測定値が上記基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲という判定条件を満たすか否かを判定する。
【0108】
ここでスループットの測定値が上記基準値に対して99%を超えており、上記判定条件を満たしていないと判定された場合(ステップS7でNO)、受信感度試験制御部18は、試験用信号の出力レベルを下げるOLレベル(出力レベル)ダウン処理(A)を実行し(ステップS8a)、他方、スループットの測定値が上記基準値に対して95%を超えて99%以下の割合の範囲内にあり、上記判定条件を満たしていることが低下状態判定部18dにより判定された場合(ステップS7でYES)、受信感度試験制御部18は、OLレベルダウン処理(B)を実行する(ステップS8b)。OLレベルダウン処理(A)は図10(a)に示す通りであり、OLレベルダウン処理(B)は図10(b)に示す通りである。
【0109】
一方、上記ステップS6でスループット(測定値)がスループット閾値以下であると判定されると(ステップS6で「FAIL」の状態)、次いで受信感度試験制御部18は、ステップS9aでの判定処理を実行する。ここでスループットの測定値が上記基準値に対して80%を超えており、上記判定条件を満たしていると判定された場合(ステップS9aでYES)、試験用信号の出力レベルを下げるOLレベルアップ処理(A)を実行し、他方、スループットの測定値が上記基準値に対して80%以下で上記判定条件を満たしていないと判定された場合(ステップS9aでNO)、ステップS9cでの判定結果に応じてOLレベルアップ処理(B)または(C)を実行する。
【0110】
上記OLレベルダウン処理(A)及び(B)、若しくはOLレベルアップ処理(A)、(B)、(C)の処理後、受信感度試験制御部18は、ステップS2~S4の処理を続行し、続くステップS5でステップレベルSL(n)がエラートレランスレベルEL以下であると判定された場合(ステップS5でNO)、スループット測定及びステップレベルのサーチを停止し(ステップS10)、その後、一連の測定動作を終了する。ここでも、受信感度試験制御部18は、スループットの測定結果をフィードバックし、ステップS20で用いるAI予測モデルDai(AI予測モデルA1)を更新する処理を実施する(ステップS11)。
【0111】
図9に示した一連の測定制御によれば、ステップS1で初期設定したスタート出力レベルOL0、初期ステップレベルSL0をAI予測に基づいて変更設定する処理(ステップS20、S1a、S25、S26、S27参照)を、例えば、測定回数2回目まで対象に実施するようになっている。
【0112】
このAI予測に基づくスタート出力レベルOL0の変更設定処理によれば、例えば、たった2回のEISパスサーチで測定を完了することができ、図9のステップS6以降で実行するノンリニア、かつ、CP判定条件を採用した既存の測定方法に基づく測定に比べてEISサーチ回数をさらに低減することができる。この点について、以下、具体例を挙げて説明する。
【0113】
図11は、本実施形態に係る測定装置1でのAI予測を適用したDUT100の受信感度試験と既存装置でのDUT100の受信感度試験とに係る測定回数と試験用信号の出力レベル及びスループット測定結果可否判断結果との関係を示す表図である。図12は、図11の表図に示す本実施形態に係る測定装置1でのAI予測を適用したDUT100の受信感度試験と既存装置でのDUT100の受信感度試験とに係る測定回数と試験用信号の出力レベル及びスループット測定結果可否判断結果との関係を示すグラフである。
【0114】
図11に示す表図において、左から2行目と3行目が既存装置でのノンリニアの出力レベル制御によるDUT100の受信感度試験に係るデータ例を示し、左から4行目と5行目が本実施形態に係る測定装置1のAI予測による出力レベル制御を適用したDUT100の受信感度試験に係る測定回数と試験用信号の出力レベル及びスループット測定結果可否判断結果との関係を示している。同様に、図12に示すグラフにおいては、図11における本実施形態に係るAI予測による試験用信号の出力レベル制御のデータ例に対応するグラフを符号C1(測定回数と出力レベルの関係を示すグラフ)で示し、図11における既存装置でのノンリニアの試験用信号の出力レベル制御のデータ例に対応するグラフを符号C2(測定回数と出力レベルの関係を示すグラフ)で示している。
【0115】
図11(左から1、2~3列目参照)、並びに図12における特性C2に示されるように、既存装置でのノンリニアの出力レベル制御によるDUT100の受信感度試験では、1回目は特性C2の測定点P21においてDUT100を出力レベルOL(0)=-80dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲内(PASS)の判定となってOLレベルダウン処理が実施される。
【0116】
このOLレベルダウン処理の結果、2回目は特性C2の測定点P22においてDUT100を出力レベルOL(1)=-90dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲内(PASS)の判定となってさらにOLレベルダウン処理が実施される。
【0117】
このOLレベルダウン処理の結果、3回目は特性C2の測定点P23においてDUT100を出力レベルOL(2)=-95dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲内(PASS)の判定となってさらにOLレベルダウン処理が実施される。
【0118】
このOLレベルダウン処理の結果、4回目は特性C2の測定点P24においてDUT100を出力レベルOL(3)=-97.5dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲外(FAIL)の判定となってOLレベルアップ処理が実施される。
【0119】
このOLレベルアップ処理の結果、5回目は特性C2の測定点P25においてDUT100を出力レベルOL(4)=-96.2dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲外(FAIL)の判定となってさらにOLレベルアップ処理が実施される。
【0120】
このOLレベルアップ処理の結果、6回目は特性C2の測定点P26においてDUT100を出力レベルOL(5)=-95.6dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲内(PASS)の判定となってOLレベルダウン処理が実施される。
【0121】
このOLレベルダウン処理の結果、7回目は特性C2の測定点P27においてDUT100を出力レベルOL(6)=-95.9dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲外(FAIL)の判定となってOLレベルアップ処理が実施される。
【0122】
このOLレベルアップ処理の結果、8回目は特性C2の測定点P28においてDUT100を出力レベルOL(7)=-95.8dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲外(FAIL)の判定となるが、当該スループットと前回(7回目に)測定されたスループットとの間のステップレベルSLnはエラートレランスレベルEL以下となって一連の測定が終了する。
【0123】
一方、図11(左から1、4~5列目参照)、並びに図12における特性C1に示されるように、本実施形態に係る測定装置1でのAI予測による出力レベル制御を適用したDUT100の受信感度試験によれば、1回目は、特性C1の測定点P11において、DUT100をAI予測(図9のステップS20、S1a参照)で変更設定された初回出力レベルOL(01)=-95.9dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲外(FAIL)の判定となってOLレベルアップ処理が実施される。
【0124】
このOLレベルアップ処理の結果、2回目は特性C1の測定点P12においてDUT100をAI予測(図9のステップS26、S27参照)で設定変更された出力レベルOL(1)=-95.8dBmとして試験を開始し、このとき測定されたスループットは許容範囲内(PASS)の判定となるが、当該スループットと前回(1回目に)測定されたスループットとの間のステップレベルSLnはエラートレランスレベルEL以下となって測定が終了する。
【0125】
図12における特性C2に示されるように、既存装置でのDUT100の受信感度試験においてはノンリニアの出力レベル制御を実施したとしても、P21、P22、P23、P24、P25、P26、P27、P28での8回の測定を行う必要があった。
【0126】
これに対して、本実施形態に係る測定装置1でのDUT100の受信感度試験では、AI予測に基づく試験用信号の初回出力レベルの動的制御を適用したことで、P11とP12での2回の測定で受信感度試験を終了できるようになった。
【0127】
本実施形態に係る測定装置1でのDUT100の受信感度試験が少ない測定回数で終えることができる要因は、過去の測定ログファイルから生成されるAI予測モデルDaiに基づくAI予測技術を駆使し、初回の測定を、過去の測定の終了間際の設定パラメータ(例えば、出力レベル)に近い値から開始させることにある。これを実現するため、本実施形態に係る測定装置1では、AI予測によって、初期設定されたスタート出力レベルOL0(例えば、-75dBm)を、過去の測定における測定終了から例えば2回前の値に相当するAI予測出力レベルOL01(例えば、-95.9dBm:図11参照)へと変更設定している。ここで変更設定された設定パラメータ(AI予測出力レベル(初回出力レベル)OL01)の値が過去の測定における同設定パラメータの測定終了近傍の値に近ければ近いほど、目標とするスループットの値(測定結果)が得られる出力レベルへの収束時間を短縮できることになる。
【0128】
本実施形態に係る測定装置1でのAI予測を適用したDUT100の受信感度試験の時間短縮効果について図13を参照して説明する。図13に示すグラフにおいて、曲線L1、L2は、既存装置でのDUT100の受信感度試験におけるリニアの出力レベル制御に基づくEISサーチのサーチパスを示し、曲線NL1、NL2は、既存装置でのDUTの受信感度試験におけるノンリニアの出力レベル制御に基づくEISサーチのサーチパスを示している。曲線L2と曲線NL2とで示されるように、既存装置でのDUT100の受信感度試験におけるリニアとノンリニアの出力レベル制御に基づくEISサーチは、共に、ESIポイント1で終了している。
【0129】
このような測定状況下において、本実施形態に係る測定装置1でのAI予測を用いた測定に際しては、例えば、上記ノンリニアの出力レベル制御に基づく測定開始時に設定された初回測定OLレベル(スタート出力レベル)から、AI予測モデルDaiを使ったAI予測によって、例えばESIポイント1から所定の範囲内のAI予測レンジRai内のAI予測ポイントPai0に対応する値(AI予測結果)を上述した初回出力レベルOL01(図9のステップS1a参照)として設定することができる。これにより、測定装置1におけるAI予測を適用したときのEISサーチパスは、図13のグラフ上の曲線Laiによって示されるように、AI予測レンジRai内でAI予測ポイントPai0から始まり、次のAI予測ポイントPai1(測定結果)を経てESIポイント1で終わる2回の測定を包含するものとなる。
【0130】
図11図12に示す測定結果データが得られるときのDUT100の受信感度試験を前提に説明すると、本実施形態に係る測定装置1では、図9のステップS1aにおいて、ステップS1で設定されたスタート出力レベルOL0から図13に示すAI予測レンジRai内のAI予測ポイントPai0に対応する値(初回出力レベルOL01)をAI予測に基づいて変更設定している。その後、2回目の測定に際しては、図9のステップS27で図13に示すAI予測レンジRai内のAI予測ポイントPai2に対応する値OL1=(OL01+SL01)をAI予測に基づいて変更設定し、2回目のスループット測定後、ステップS5での「YES」判定を得て測定を終了している。
【0131】
図13は、図5(b)に示す角度標本点PSごとのEIS測定に際しての出力レベルのAI予測結果を開示したものであるが、EIS-CDFを測定する場合にはさらに多くの時間を必要とする。ここで、図14を参照し、本実施形態に係る測定装置1でのAI予測を適用したEIS-CDF測定で達成できる測定時間と機械学習のための測定回数との関係について検証する。この検証にあたっての測定装置1における測定条件については、例えば、Meas.Metric(測定対象)はEIS-CDF、Grid TypeはConstant Step、Pont(角度標本点PSの数)は168、Range(測定範囲)は半球、Step(次の角度標本点PSまで移動する角度)は15deg、Error Control(上述した「エラートレランスレベルEL」に同じ)は0.2dBとした。
【0132】
上述した測定条件下で検証用に用意された測定装置1でのEIS-CDF測定を実施したところ、測定回数に応じて図14のグラフで示されるような検証結果を得た。図14のグラフにおいて、「測定0回目」に対応する測定は、AI予測を適用しないで、つまり、従来装置での測定した場合の測定結果に相当するものである。また、「測定1回目」に対応する測定は、デフォルトで用意したAI予測モデルを用いて測定した場合の測定結果に相当するものである。また、「測定2回目」以降に対応する測定(この例では、「測定2回目」に対応する測定、「測定3回目」に対応する測定)は、それぞれ、直前の測定、つまり、「測定1回目」の対応する測定、「測定2回目」に対応する測定に基づく機械学習によって取得されたAI予測モデルを用いた測定結果に相当している。図14のグラフに示されるように、「測定0回目」に対応する測定においては、測地終了までに173分を要している。一方、「測定1回目」に対応する測定においては、機械学習が適用され、AI予測された出力レベルOL01から測定が開始される結果、「測定0回目」に対応する測定より短い126分で測定を終了している。さらに、「測定2回目」に対応する測定、「測定3回目」に対応する測定においては、それぞれ、測定終了までの時間が72分、67分と、機械学習の回数が増すにつれて測定時間が短縮される傾向を示している。図14に示すグラフからは、2~3回目程度の機械学習回数から、測定時間の短縮に係る機械学習効果が出始めていることが理解できる。このことから、今後も測定装置1を使用して測定情報を記憶することで、さらなる測定速度の向上が見込めるものと推察できる。
【0133】
なお、測定装置1を使用して測定情報を記憶する作業は、前述した通り、例えば、図7に示す手順で実行可能である。ここで、測定速度の向上が見込める測定条件、測定回数については、本件発明者等は、測定条件を「EIS/EIS-CDF測定を実施するだけで自動更新」とした場合に、10回程度の機械学習回数から測定速度向上の効果が出始めることを確認することができている。
【0134】
なお、上記実施形態では、単一面での測定(EIS測定)について特化した受信感度試験動作制御を例示したが、本実施形態は、全球面の測定(TRP測定:図5参照)に関する受信感度試験にも適用できるものである。
【0135】
また、上記実施形態では、測定装置1の外部に統合制御装置10を設けたシステム構成例を開示しているが、本発明は、測定装置1に統合制御装置10の制御機能を設けた構成であってもよい。
【0136】
上述したように、本実施形態に係る測定装置1は、試験用信号を発生するNRシステムシミュレータ20と、NRシステムシミュレータ20と移動端末(DUT100)との間で試験用信号をN回送受信することにより前記移動端末の受信感度試験を行う受信感度試験実行部(18)と、を有し、被試験対象であるDUT100を試験するものであって、受信感度試験の開始時の試験用信号のステップレベルSL0、出力レベルOL0を設定パラメータとして含む試験条件を初期設定する試験条件設定部18aと、上記試験条件で試験用信号を送受信することによりスループット測定を行い、スループット測定結果と判定閾値とを比較して合否判断する測定結果出力部18fと、合否判断の結果、否と判断された場合、以前のスループット測定の合否判断の結果に応じてレベルダウン処理A(S8a)、レベルダウン処理B(S8b)、あるいはレベルアップ処理A(S9b)、レベルアップ処理B(S9d)を行う出力レベル可変設定部18eと、過去の受信感度試験の測定ログファイルからパラメータデータと測定結果データの関連性を人工知能により機械学習させることにより生成したAI予測モデルDaiを保持し、試験条件設定部18aにより設定された設定パラメータに基づきAI予測モデルDaiによって事前にAI予測されたAI予測出力レベルOL01を、出力レベルOL0に代えて、初回出力レベルとして設定するAI予測試験条件変更設定部18bと、を有する構成である。
【0137】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、試験用信号の初回出力レベルをAI予測によって既存のノンリニア制御等での測定終了時に近い値に速やかに設定することができ、ノンリニア制御、CP制御等の従来方式に比べて測定回数を大幅に低減して試験用信号の出力レベルを極めて短時間で試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験を効率よく行えるようになる。
【0138】
また、本実施形態に係る測定装置1において、AI予測試験条件変更設定部18bは、AI予測出力レベルで試験用信号を送受信することにより実施した初回のスループット測定の測定結果に基づきAI予測モデルDaiによって事前にAI予測されたAI予測ステップレベルSL01を、初期ステップレベルSL0に代えて、2回目以降の測定のステップレベルとして設定する構成であってもよい。
【0139】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、AI予測により、試験用信号の初回出力レベルにとどまらず、初期ステップレベルについても動的に制御することで、ノンリニア制御、CP制御等の従来方式で測定を継続する場合に比べてより短時間で試験用信号を試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験の効率をより向上させることができる。
【0140】
また、本実施形態に係る測定装置1において、AI予測試験条件変更設定部18bは、初回のスループット測定の測定結果に対する合否判断の結果、否と判断された場合、その後、2回目のスループット測定までに限り、AI予測ステップレベルSL01を用いて次回の測定のための出力レベルの更新処理を実施する構成であってもよい。
【0141】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、AI予測による試験用信号の初回出力レベル、及びステップレベルの動的な制御を2回目のスループット測定までにとどめ、せっかくノンリニア制御等での測定終了時に近い値から測定開始したにもかかわらず、上述した動的な制御が無駄に繰り返される事態を回避可能となる。
【0142】
また、本実施形態に係る測定装置1において、AI予測試験条件変更設定部18bは、上記パラメータデータとして外部接続用ケーブルの損失、DUT100の方位角度(θ、φ)、測定対象周波数を指定し、該パラメータデータと測定結果データの関係を機械学習させることにより生成したAI予測モデルを保持している構成であってもよい。
【0143】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、外部接続用ケーブルの損失、DUT100の方位角度(θ、φ)、測定対象周波数の各パラメータデータが測定精度に影響を及ぼす環境下においても、該AI予測モデルを用いて、当該各パラメータデータを加味した正確なAI予測結果を導き出すことができ、測定精度を低下させることなく、試験用信号を極めて短時間、かつ、確実に試験可能レベルに設定することができる。
【0144】
また、本実施形態に係る測定装置1において、受信感度試験制御部18は、2回目のスループット測定の測定結果に対する合否判断の結果、否と判断された場合、出力レベル可変設定部18eによるレベルダウン処理A、レベルダウン処理B、あるいはレベルアップ処理A、レベルアップ処理Bを実施するように制御する構成としてもよい。
【0145】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、AI予測による試験用信号の初回出力レベル、及び初期ステップレベルの動的な制御により試験用信号の出力レベルが試験可能レベルに到達しないときには、即座に通常の測定ルーチンに切り替えて試験用信号の出力レベルを確実に試験可能レベルに設定することができるようになる。
【0146】
また、本実施形態に係る測定装置1は、内部空間51を有するOTAチャンバ50と、内部空間51内でDUT100の方位を連続的に可変するようにDUT100を駆動走査するDUT走査制御部16、DUT走査機構56と、をさらに有し、受信感度試験は、内部空間51内でOTA(Over The Air)測定環境におけるDUT走査制御部16、DUT走査機構56の走査の対象となる全方位について行う構成としてもよい。
【0147】
この構成により、本実施形態に係る測定装置1は、OTA環境下で全ての方位について受信感度測定を行わなければならない状況下においても、AI予測による試験用信号の初回出力レベル、及びステップレベルの動的な制御を適用し、短時間で試験用信号の出力レベルを試験可能レベルに設定することができるようになる。
【0148】
また、上記課題を解決するために、本実施形態に係る移動端末試験方法は、上述した構成を有する測定装置1を用い、NRシステムシミュレータ20と移動端末との間で試験用信号をN回送受信することにより移動端末の受信感度試験を行う移動端末試験方法であって、受信感度試験の開始時の試験用信号のステップレベルSL0、出力レベルOL0を設定パラメータとして含む試験条件を初期設定する設定ステップ(S1)と、過去の前記受信感度試験の測定ログファイルからパラメータデータと測定結果データの関連性を人工知能により機械学習させることにより生成したAI予測モデルを保持し、設定ステップで設定された設定パラメータに基づきAI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測出力レベルOL01を、出力レベルOL0に代えて、初回出力レベルとして設定するAI予測試験条件変更設定ステップ(S1a)と、AI予測出力レベルで試験用信号を送受信することにより初回のスループット測定を行い、該初回のスループット測定結果と判定閾値とを比較して合否判断する合否判断ステップ(S4、S5)と、初回のスループット測定の測定結果に基づきAI予測モデルによって事前にAI予測されたAI予測ステップレベルSL01を、ステップレベルSL0に代えて、2回目以降の測定のステップレベルとして設定するステップレベル変更設定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0149】
この構成により、本実施形態に係る移動端末試験方法は、上記構成を有する測定装置1を用い、本移動端末試験方法を適用することで、試験用信号の初回出力レベルをAI予測によって既存のノンリニア制御等での測定終了時に近い値に速やかに設定することができ、ノンリニア制御、CP制御等の従来方式に比べて測定回数を大幅に低減して試験用信号の出力レベルを極めて短時間で試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験を効率よく行えるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
以上のように、本発明に係る移動端末試験装置及び移動端末試験方法は、測定回数を極力低減して試験用信号の出力レベルをより短時間で試験可能レベルに設定可能であり、移動端末の受信感度試験を効率よく行えるという効果を奏し、5G用無線端末等の高速通信能力を有する移動端末の受信感度試験を行う移動端末試験装置及び測定方法全般に有用である。
【符号の説明】
【0151】
1 測定装置(移動端末試験装置)
16 DUT走査制御部(走査手段)
18 受信感度試験制御部(受信感度試験実行部、合否判断手段)
18a 試験条件設定部(設定手段)
18b AI予測試験条件変更設定部(AI予測試験条件変更設定手段)
18e 出力レベル可変設定部(出力レベル設定手段)
18f 測定結果出力部(合否判断手段)
20 NRシステムシミュレータ(信号発生器)
50 OTAチャンバ(電波暗箱)
51 内部空間
56 DUT走査機構(走査手段)
100 DUT(被試験対象、移動端末)
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