(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167699
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】乳酸菌表層タンパク質担持リポソーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20060101AFI20231116BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20231116BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231116BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231116BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20231116BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20231116BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/42
A61P37/02
A61K45/00
A61K35/744
A61K35/747
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079070
(22)【出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 直之
(72)【発明者】
【氏名】陳 政霖
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076BB01
4C076CC07
4C076EE41
4C076FF70
4C076GG01
4C084AA17
4C084MA24
4C084MA52
4C084NA13
4C084ZB07
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087MA24
4C087MA52
4C087NA13
4C087ZB26
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、腸管免疫系の細胞に選択的に薬物を伝達できるドラッグデリバリーシステムを提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明の乳酸菌の表層タンパク質を担持した負電荷を有するリポソームによって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌の表層タンパク質を担持した負電荷を有するリポソーム。
【請求項2】
前記乳酸菌が、レビラクトバチラス・ブレビス、レンチラクトバチラス・ケフィリ、ラクトバチラス・アシドフィルス、ラクトバチラス・ヘルベティカス、ラクトバチラス・クリスパタス、ラクトバチラス・アミロボラス、及びラクトバチラス・ガリナラムからなる群から選択される乳酸菌である、請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
前記表層タンパク質が、配列番号1~7で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む表層タンパク質である、請求項2に記載のリポソーム。
【請求項4】
薬剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項5】
前記薬剤が免疫調整機能を有する薬剤である、請求項4に記載のリポソーム。
【請求項6】
負電荷を有するリポソームに、乳酸菌の表層タンパク質を添加し、接触される工程を含む、Slp担持リポソームの製造方法。
【請求項7】
前記乳酸菌が、レビラクトバチラス・ブレビス、レンチラクトバチラス・ケフィリ、ラクトバチラス・アシドフィルス、ラクトバチラス・ヘルベティカス、ラクトバチラス・クリスパタス、ラクトバチラス・アミロボラス、及びラクトバチラス・ガリナラムからなる群から選択される乳酸菌である、請求項6に記載のSlp担持リポソームの製造方法。
【請求項8】
前記表層タンパク質が、配列番号1~7で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む表層タンパク質である、請求項7に記載のSlp担持リポソームの製造方法。
【請求項9】
前記リポソームが薬剤を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載のSlp担持リポソームの製造方法。
【請求項10】
前記薬剤が免疫調整機能を有する薬剤である、請求項9に記載のSlp担持リポソームの製造方法。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか一項に記載のリポソームが結合した免疫関連細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌表層タンパク質担持リポソーム及びその製造方法に関する。本発明によれば、薬剤を体内の組織、特に腸管免疫系細胞に選択的に伝達することができる。
【背景技術】
【0002】
医薬品のドラッグデリバリーシステム(DDS)は、体内での溶解性及び安定性、並びに組織への特異的集積が求められる。例えば、腸管免疫系の細胞に選択的に薬物を伝達できるドラッグデリバリーシステムの開発が期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「バイオチミカ・エト・バイオフィジカ・アクタ(Biochimica et Biophysica Acta)」(オランダ)2007年、第1768巻、p393-400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、腸管免疫系の細胞に選択的に薬物を伝達できるドラッグデリバリーシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、腸管免疫系の細胞に選択的に薬物を伝達できるドラッグデリバリーシステムについて、鋭意研究した結果、驚くべきことに、乳酸菌の表層タンパク質Bをリポソームに担持させることにより、薬剤を選択的に腸管免疫系細胞に伝達できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]乳酸菌の表層タンパク質を担持した負電荷を有するリポソーム、
[2]前記乳酸菌が、レビラクトバチラス・ブレビス、レンチラクトバチラス・ケフィリ、ラクトバチラス・アシドフィルス、ラクトバチラス・ヘルベティカス、ラクトバチラス・クリスパタス、ラクトバチラス・アミロボラス、及びラクトバチラス・ガリナラムからなる群から選択される乳酸菌である、[1]に記載のリポソーム、
[3]前記表層タンパク質が、配列番号1~7で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む表層タンパク質である、[2]に記載のリポソーム、
[4]薬剤を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のリポソーム、
[5]前記薬剤が免疫調整機能を有する薬剤である、[4]に記載のリポソーム、
[6]負電荷を有するリポソームに、乳酸菌の表層タンパク質を添加し、接触される工程を含む、Slp担持リポソームの製造方法、
[7]前記乳酸菌が、レビラクトバチラス・ブレビス、レンチラクトバチラス・ケフィリ、ラクトバチラス・アシドフィルス、ラクトバチラス・ヘルベティカス、ラクトバチラス・クリスパタス、ラクトバチラス・アミロボラス、及びラクトバチラス・ガリナラムからなる群から選択される乳酸菌である、[6]に記載のSlp担持リポソームの製造方法、
[8]前記表層タンパク質が、配列番号1~7で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む表層タンパク質である、[7]に記載のSlp担持リポソームの製造方法、
[9]前記リポソームが薬剤を含む、[6]~[8]のいずれかに記載のSlp担持リポソームの製造方法、
[10]前記薬剤が免疫調整機能を有する薬剤である、[9]に記載のSlp担持リポソームの製造方法、及び
[11][1]~[3]のいずれかに記載のリポソームが結合した免疫関連細胞、
に関する。
なお、非特許文献1には、ポジティブチャージのリポソームにラクトバチラス・ブレビスの表層タンパク質を被覆することにより、リポソームが安定化することが記載されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の乳酸菌表層タンパク質担持リポソームによれば、薬剤を体内の組織、特に腸管免疫系細胞に選択的に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】SlpB担持リポソームの樹状化THP-1細胞への取り込みを示した顕微鏡写真(A)、フローサイトメトリーによる解析(B)、及び経時的な取り込み量の変化を示したグラフ(C)である。
【
図2】SlpB担持リポソームを取り込んだ樹状化THP-1細胞のサイトカイン(IL-12)の産生を示したグラフである。
【
図3】SlpB担持リポソームを取り込んだ樹状化THP-1細胞のサイトカイン(IL-6及びTNF-α)のmRNAの増加を示したグラフである。
【
図4】SlpB担持リポソームを投与されたマウスにおけるパイエル板のM細胞へのSlpB担持リポソームの取り込みを示した写真(A)及びグラフ(B)である。
【
図5】SlpB担持リポソームを投与されたマウスにおけるパイエル板の抗原提示細胞(APC)へのSlpB担持リポソームの取り込みを示した写真(A)及びグラフ(B)である。
【
図6】SlpB担持リポソームを投与されたマウスにおけるパイエル板でのサイトカイン(TNF-α及びIL-12)のmRNAの増加を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔1〕乳酸菌表層タンパク質担持リポソーム
本発明の乳酸菌表層タンパク質担持リポソームは、負電荷を有するリポソームに乳酸菌の表層タンパク質を担持されている。
【0009】
《乳酸菌》
前記乳酸菌は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えばレビラクトバチラス・ブレビス(L. brevis)、レンチラクトバチラス・ケフィリ(L. kefiri)、ラクトバチラス・アシドフィルス(L. acidophilus)、ラクトバチラス・ヘルベティカス(L. helveticus)、ラクトバチラス・クリスパタス(L. crispatus)、ラクトバチラス・アミロボラス(L. amylovorus)、又はラクトバチラス・ガリナラム(L. gallinarum)が挙げられる。特にはレビラクトバチラス・ブレビスが好ましい。
【0010】
《表層タンパク質》
前記乳酸菌の表層タンパク質は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、好ましくは表層タンパク質A(surface layer protein A;SlpA)又は表層タンパク質B(surface layer protein B;SlpB)である。ラクトバチラス・アシドフィルス、ラクトバチラス・ヘルベティカス、ラクトバチラス・クリスパタス、ラクトバチラス・アミロボラス、及びラクトバチラス・ガリナラム由来の表層タンパク質はSlpAである。また、レビラクトバチラス・ブレビス、及びレンチラクトバチラス・ケフィリ由来の表層タンパク質はSlpBである。
レビラクトバチラス・ブレビス由来の表層タンパク質のアミノ酸配列を配列番号1、レンチラクトバチラス・ケフィリ由来の表層タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2、ラクトバチラス・アシドフィルス由来の表層タンパク質のアミノ酸配列を配列番号3、ラクトバチラス・ヘルベティカス由来の表層タンパク質のアミノ酸配列を配列番号4、ラクトバチラス・クリスパタス由来の表層タンパク質のアミノ酸配列を配列番号5、ラクトバチラス・アミロボラス由来の表層タンパク質のアミノ酸配列を配列番号6、及びラクトバチラス・ガリナラム由来の表層タンパク質のアミノ酸配列を配列番号7に示す。
【0011】
本発明に用いる表層タンパク質は限定されるものではないが、(1)配列番号1~7で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
また、本発明に用いる表層タンパク質は、配列番号1~7で表されるアミノ酸配列において、1-10のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ樹状細胞への結合活性を有する。
前記(1)配列番号1~7で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドは、(1)配列番号1~7で表されるアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるタンパク質を含む。また、(2)配列番号1~7で表されるアミノ酸配列において、1~10のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を含み、且つ樹状細胞への結合活性を有するタンパク質(以下、「機能的等価改変体」と称することがある)は、(2)配列番号1~7で表されるアミノ酸配列において、1~10のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ樹状細胞への結合活性を有するタンパク質を含む。
前記タンパク質は、配列番号1~7で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質によって、樹状細胞への結合活性を示すことができ、前記アミノ酸配列中に、樹状細胞への結合活性を示す特定の構造を有している。従って、前記アミノ酸配列中の樹状細胞への結合活性を示す特定の構造が壊されない限りにおいて、他のアミノ酸、ポリペプチド、又はタンパク質が、前記タンパク質に結合しても、本発明のポリペプチドは樹状細胞への結合活性を示すことができる。
【0012】
機能的等価改変体における、「1~10のアミノ酸の欠失、置換、挿入、及び/又は付加」は、本発明のタンパク質の機能を維持する保存的置換である。「保存的置換」とは、限定されるものではないが、例えばアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置き換えることによって実施できる。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことでできる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸毎に当該技術分野において公知である。非極性(疎水性)アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、例えば、グリシン、セリン、トレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。正電荷を持つ(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。また、負電荷を持つ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。限定されるものではないが、このような保存的置換により、樹状細胞への結合活性を有する機能的等価改変体を得ることができる。樹状細胞への結合活性は、例えば実施例に記載の樹状化THP-1細胞への結合によって確認することができる。
【0013】
《リポソーム》
本発明に用いるリポソームは、負電荷(ネガティブチャージ)を有するリポソームである限りにおいて特に限定されるものではない。リポソームは、ネガティブチャージを有するリポソーム、中性のチャージを有するリポソーム、及びポジティブチャージを有するリポソームに分けることができる。本明細書においては、例えばΖ電位を測定し、0mV以下のリポソームを、ネガティブチャージリポソームとし、0mVを超えて20mV以下のリポソームを中性リポソームとして、20mVを超えるリポソームを、ポジテイブリポソームとする。リポソームには、カチオン性リポソーム、中性リポソーム、及びアニオン性リポソームがあるが、本発明に用いられるリポソームは、基本的にアニオン性リポソームである。アニオン性リポソームは、脂質として、負荷電脂質を含む。負荷電脂質として、限定されるものではないが、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(DOPG)が挙げられる。マイナスチャージのリポソームを選択することで、標的組織表層のリセプターに効率よく結合し、薬剤を効率的にデリバリーすることができる。
【0014】
本発明に用いるリポソームは、公知の方法によって、作製することができる。リポソームは、脂質人工膜の一種であり、リン脂質、グリセロ糖脂質を重量比50%以上の水に、当該脂質が持つゲルー液晶相転移温度以上で懸濁することにより形成される脂質二重層からなる閉鎖小胞である。リン脂質として、レシチン、リゾレシチン、スフィンゴミエリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。
【0015】
リポソームは、リン脂質を水中に分散させて形成される脂質二分子膜により囲まれた内水相部分を有する閉鎖小胞であり、そのサイズや脂質二分子の数によって多重相リポソーム(Multilamellar Vesicle:MLV)、大きな一枚膜リポソーム(Large Unilamellar Vesicle:LUV)及び小さな一枚膜リポソーム(Small Unilamellar Vesicle:SUV)の3種類に分類される。
本発明で用いるリポソームは、前記リン脂質の他に、他の膜構成成分を含むことができる。他の膜構成成分としては、例えば、リン脂質以外の脂質及びその誘導体が挙げられる。
本発明で用いるリポソームは公知の方法により調製することができる。本発明においては、リポソームの平均粒子径は特に限定されるものではないが、例えば20nm~100μmであり、好ましくは20nm~10μmであり、更に好ましくは20nm~1μmであり、更に好ましくは30~500nmであり、更に好ましくは50~200nmである。
【0016】
《薬剤》
本発明のリポソームに含まれる薬剤は、特に限定されるものではないが、好ましくは免疫調整機能を有する薬剤である。免疫調整機能を有する薬剤としては、免疫賦活剤、免疫調整剤、又は免疫抑制剤などが挙げられる。
【0017】
免疫賦活剤としては、限定されるものではないが、例えばGM-CSF、M-CSF、G-CSF、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、IL-1、IL-2、IL-3、IL-12、MIP-1、MIP-1β、MCP-1、RANTES、Fas/Fasリガンド、DR4又はDR5/TRAIL、Toll様受容体、RIG-1及びNOD様受容体(NLR)、β(1→3)グルカン(例えば、レンチナン又はシゾフィラン)、αガラクトシルセラミド、リシン、ジフテリアトキシン、ONTAK、ウベニメクス、レンチナン、又は乾燥BCGが挙げられる。
【0018】
免疫調整剤としては、限定されるものではないが、例えばメトトレキセート、レフルノミド、シクロホスファミド、サイトキサン、Immuran、シクロスポリンA、ミノサイクリン、アザチオプリン、抗生物質(例えば、FK506(タクロリムス))、メチルプレドニゾロン(MP)、コルチコステロイド、ステロイド、ミコフェノール酸モフェチル、ラパマイシン(シロリムス)、ミゾリビン、デオキシスペルグアリン、ブレキナール、マロノニトリロアミンデ(malononitriloaminde)(例えば、レフルナミド)、T細胞受容体モジュレーター、サイトカイン受容体モジュレーター、及びモジュレーター肥満細胞モジュレーターが挙げられる。
【0019】
免疫抑制剤としては、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、及びプレドニゾン、スタチン、ラパマイシン又はラパマイシン類縁体などのmTORインヒビター、TGF-βシグナル剤、TGF-β受容体アゴニスト、トリコスタチンAなどのヒストンデアセチラーゼインヒビター、コルチコステロイド、ロテノンなどのミトコンドリア機能のインヒビター、P38インヒビター、6Bio、デキサメタゾン、TCPA-1、又はIKK VIIなどのNF-κβインヒビター、アデノシン受容体アゴニスト、ミソプロストールなどのプロスタグランジンE2アゴニスト(PGE2)、ロリプラムなどのホスホジエステラーゼ4インヒビター(PDE4)などのホスホジエステラーゼインヒビター、プロテアソームインヒビター、キナーゼインヒビター、Gタンパク質共役受容体アゴニスト、Gタンパク質共役受容体アンタゴニスト、グルココルチコイド、レチノイド、サイトカインインヒビター、サイトカイン受容体インヒビター、サイトカイン受容体アクチベーター、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アンタゴニスト、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体アゴニスト、ヒストンデアセチラーゼインヒビター、カルシニューリンインヒビター、ホスファターゼインヒビター、TGX-221などのPI3KBインヒビター、3-メチルアデニンなどのオートファジーインヒビター、アリールハイドロカーボン受容体インヒビター、プロテアソームインヒビターI(PSI)、又はP2X受容体ブロッカーなどの酸化ATP、シクロスポリン、アザチオプリン、ミゾリビン、バシリキシマブ、タクロリムス水和物、グスペリムス塩酸塩、ミコフェノール酸モフェチル、エベロリムス、プレドニゾロン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、フルチカゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、ATG又はALG、OKT3、ダクリズマブ、バシリキシマブ、コルチコステロイド類、15-デオキシスペルグアリン、シクロスポリン類、タクロリムス類、アザチオプリン、メトトレキセート、ミコフェノレートモフェチル、6-メルカプトプリン、ブレジニン、ブレキナール、レフルナミド、シクロホスファミド、又はシロリムス類、が挙げられる。
【0020】
《リポソーム組成物》
本発明のリポソーム組成物は、本発明のリポソームを含むことができる。リポソームに薬剤を含む場合、本発明のリポソーム組成物は、医薬組成物として、用いることができる。本発明のリポソーム組成物は、ドラッグデリバリーシステムに用いることができる。
【0021】
本発明の医薬組成物の対象となる疾患は、リポソームに含まれる薬剤に応じて、適宜選択することができるが、例えば、免疫関連疾患である。
本発明のリポソーム組成物の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができるが、好ましくは経口剤である。
これらの経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0022】
《ドラッグデリバリーシステム》
本発明の乳酸菌表層タンパク質担持リポソーム及びそれを含むリポソーム組成物は、ドラッグデリバリーシステムに用いることができる。本発明のドラッグデリバリーシステムにおける標的細胞は、前記表層タンパク質が結合できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば免疫関連細胞であり、好ましくは樹状細胞、マクロファージ、抗原提示細胞、又はM細胞(microfold細胞)である。免疫関連細胞に、本発明のドラッグデリバリーシステムによって、免疫調整機能を有する薬剤を効率的に伝達することができる。本発明のドラッグデリバリーシステムの対象疾患としては、限定されるものではないが、免疫関連疾患が挙げられる。
【0023】
〔2〕Slp担持リポソームの製造方法
本発明のSlp担持リポソームの製造方法は、負電荷を有するリポソームに、乳酸菌の表層タンパク質を添加し、接触される工程を含む。
【0024】
《接触工程》
接触工程は、負電荷を有するリポソームに、乳酸菌の表層タンパク質を添加し、接触され、乳酸菌の表層タンパク質をリポソームに担持させる。乳酸菌の表層タンパク質の濃度は、リポソームに表層たんぱく質が担持される限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば10~1000μg/mLであり、好ましくは20~500μg/mLである。
反応温度は、特に限定されないが、例えば1~50℃であり、好ましくは5~40℃であり、更に好ましくは15~35℃である。
反応時間も特に限定されるものではないが、例えば10分~10時間であり、好ましくは30分~5時間であり、より好ましくは1~3時間である。
【0025】
前記接触工程における「乳酸菌」、「表層タンパク質」、及び「薬剤」は、前記「乳酸菌表層タンパク質担持リポソーム」に記載の「乳酸菌」、「表層タンパク質」、及び「薬剤」を限定せずに用いることができる。
【0026】
リポソームに薬剤を封入する方法は、公知の方法を用いることができる。具体的には、凍結融解法、逆相蒸発法、水和法などを用いることができる。
【0027】
〔3〕免疫関連細胞
本発明の免疫関連細胞は、本発明のリポソームが結合しているものである。前記免疫関連細胞は、本発明のリポソームが結合できる限りにおいて、限定されるものではないが、例えば樹状細胞、マクロファージ、抗原提示細胞、又はM細胞(microfold細胞)である。
【実施例0028】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
《実施例1》
本実施例では、レビラクトバチラス・ブレビスから表層タンパク質(SlpB)を回収し、リポソームに担持させた。そして、SlpB担持リポソームの樹状化細胞への取り込みを検討した。
Japan Collection of Microorganismsから入手したLevilactobacillus brevis JCM 1059を、MRS培地(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ, USA)で、30℃で嫌気的に培養し、5,530×gで10分間遠心分離することにより、増殖の定常期に回収した。ペレットをCa2+及びMg2+を含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS(-))で1回洗浄し、1M塩化リチウム溶液で2回洗浄して、細菌表面から表面層関連タンパク質を除去した。細胞を5M塩化リチウム溶液とインキュベートすることによって、SlpBを細胞から放出した。L. brevis JCM 1059から抽出した画分を、3Lの脱イオン水に対して18時間透析した。透析したSlpBの純度は、銀で染色し、ドデシル硫酸ナトリウム-12.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって確認した。その濃度はブラッドフォードアッセイ(ナカライテスク、京都、日本)によって推定した。高濃度のSlpBが必要な場合は、タンパク質の濃度を、10K遠心フィルターユニット(Merck Millipore、アイルランド、コーク)を使用し、製造元のプロトコルに従った、遠心ろ過によって得た。
【0030】
凍結乾燥したリポソーム(以下、LPと称することがある)を脱イオン水中で再水和し、最終濃度を50mg/mLにした。次に、mgのリポソームごとに、100μMのFITC又はPI、又は20μgのCy3-OVAを添加し、カプセル化を容易にするために20℃で60分間撹拌した(FITC-LP、PI-LP、又はCy3-OVA-LPを生成した)。LPを16,000×gで30分間遠心分離し、脱イオン水で洗浄することにより、過剰な色素又はタンパク質を除去した。SlpBでコーティングされたLP(SlpB-PI-LP)は、1mgのLPを400μgのSlpBと20℃でインキュベートし、混合物を120分間撹拌することによって調製した。
【0031】
理研セルバンクから入手したTHP-1単球(JRCB0112)を、加湿インキュベーター内で、5.0%CO
2で、9.09%熱不活化ウシ胎児血清(FBS)を添加したRPMI1640培地で維持した。THP-1単球をTHP-1由来樹状細胞(THP-1 DC)に分化させるために、THP-1単球を9.1%熱不活化FBS及び20nMのPMAを添加したRPMI1640培地で48時間インキュベートし、72時間静置した。その後、9.1%熱不活化FBS及び20ng/mL組換えヒトIL-4を添加したRPMI1640培地で、48時間で分化させた。次に、THP-1樹状化細胞(以下、THP-1 DCと称することがある)を、500μg/mLのリポソームPI(PI-LP)又はSlpB-PI-LPとともに、37℃で、さまざまな時間インキュベートした。その後、細胞をPBS(-)で2回洗浄して過剰なPI-LP又はSlpB-PI-LPを除去し、剥離し、D-PBS(-)に懸濁した。懸濁液を40μmセルストレーナーでろ過し、EC800フローサイトメトリーアナライザー(Sony Biotechnology、IL、USA)を使用して分析した。
THP-1 DCによるSlpB-LPのエンドサイトーシスの状態を観察するために、THP-1DCをCy3-OVA-LP及びSlpB-Cy3-OVA-LPとそれぞれ30分及び70分間共培養し、3.7%ホルムアルデヒド及び0.8%メタノールで固定し、そして3%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS(-)でブロッキングした。次に、DC-SIGNを、ヒトDC-SIGNに対する抗体、続いてマウスIgGに対するFITC結合抗体とインキュベートすることにより標識した。すべての抗体は、使用前に1%BSAを含むPBS(-)で希釈した。そしてDAPIカウンター染色を行った。最後に、THP-1 DCを洗浄し、共焦点顕微鏡(LSM780;Carl Zeiss、東京、日本)で観察した。
図1Aに示すように、THP-1DCによるSlpB-LP及びLPの取り込みが確認された。また、Cy3の強度の連続的な増加が観察された。更に、70分でSlpB-Cy3-OVA-LPと共培養したTHP-1 DCのピクセルあたりの平均強度は、Cy3-OVA-LPと共培養したTHP-1 DCの平均強度よりも高く、SlpBがTHP-1細胞へのリガンド媒介エンドサイトーシスを促進することを示していた。SlpB-PI-LPは、60分(2.42倍)及び70分(2.33倍)の共培養後にPI-LPよりも有意に高い取り込みを示した(
図1C)。
【0032】
《実施例2》
本実施例では、αガラクトシルセラミド(以下、α-GalCerと称することがある)を含むSlpB担持リポソームを取り込んだ樹状化細胞(THP-1 DC)のサイトカインの産生を検討した。
具体的には、α-GalCer-LP(Regimmune(Datong District、Taipei)から寄贈)、5mgのα-GalCer及び約50mgのリポソーム/mL)を使用して、SlpBによるリポソーム取り込みの増強が薬物の治療効果に及ぼす影響を評価した。実施例1と同様に、SlpB(20mg)をmLのα-GalCer-LPにコーティングし、SlpB-α-GalCer-LPを調製した。α-GalCer-LP又はSlpB-α-GalCer-LPを最終濃度10μLのα-GalCer-LP/mL細胞培養培地でTHP-1 DCに添加し、37℃で60分間インキュベートした。細胞をD-PBS(-)で2回洗浄し、培地を等量の新鮮な培地と交換した。細胞を37℃で48時間インキュベートし、細胞外サイトカインの産生を、製造元のプロトコルに従って、ELISAで評価した。
図2に示すように、SlpB-α-GalCer-LP処理によって、IL-12産生が劇的に誘導された。
【0033】
《実施例3》
本実施例では、α-GalCerを含むSlpB担持リポソームを取り込んだ樹状化細胞(THP-1 DC)のサイトカインの産生を、mRNAの測定によって検討した。
α-GalCer-LP又はSlpB-α-GalCer-LPを最終濃度10μLのα-GalCer-LP/mL細胞培養培地でTHP-1DCに添加し、37℃で、60分間共培養した。細胞をD-PBS(-)で2回洗浄し、培地を等量の新鮮な培地と交換した。細胞をα-GalCer-LP又はSlpB-α-GalCer-LPで処理してから8時間、16時間、及び24時間後に細胞を収集し、Qiagen RNeasyミニキットを使用して、製造元のプロトコルに従って、RNAを抽出した。 NanoDrop 2000(Thermo Fisher Scientific, MA, USA)によって、RNAの質と量を評価した後、8時間、16時間、及び24時間に抽出された等量のRNAサンプルを混合し、製造元の指示に従ってqPCRRTマスターミックスを使用し、相補DNA(cDNA)に逆転写した。得られたcDNAをヌクレアーゼフリー水で5倍に希釈し、特異的プライマー(表1)及びSYBRqPCRミックスと混合した。混合物は、製造元の指示に従って、StepOneリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems、マサチューセッツ州、米国)でインキュベートした。得られたデータは、ハウスキーピング遺伝子であるβ-アクチンのmRNA発現レベルに対して補正した。
【0034】
【表1】
処理の8時間後、16時間後、及び24時間後にTHP-1 DCから分離されたmRNAを混合し、RT-qPCRで評価した。対照群と比較して、SlpB-α-GalCer-LPは炎症性IL-6とTNF-αの有意な誘導を示した(
図3)。
【0035】
《実施例4》
本実施例では、SlpB担持リポソームのマウスパイエル板のM細胞への取り込みを検討した。
BALB/cマウス(雌、12週齢、20~25g)を、日本ノチャールズリバー研究所から入手した。動物実験は、東京工業大学の動物実験委員会(認可番号D2019006-2)により承認され、ガイドラインに従って実施された。FITC-OVA-LP又はSlpB-FITC-OVA-LP(200μL、それぞれ2mgのリポソームと40μgのFITC-OVAを含む)を、1時間絶食させたマウスに強制経口投与した(n=3)。投与1時間後、マウスを安楽死させ、腸を切除した。次に、腸をPBS(-)で洗浄し、3.7%ホルムアルデヒド及び0.8%メタノールで固定した。ホールマウントされたパイエル板切片を準備するために、パイエル板を各腸から分離し、腸間膜側で縦方向に切断した。成熟M細胞を染色するために、全体のマウントされた切片を、マウスGP2に対するウサギ抗体、続いてウサギIgGに対するDyLight405結合抗体とともにインキュベートした。染色された組織は、レーザー走査型顕微鏡LSM 780(Oberkochen、Germany)を使用して観察された。
【0036】
図4Aに示すようにFITC-OVAからの信号のほとんどは、M細胞上のGP-2からの信号と重複していた。GP2に対するFITCの強度の比率は、SlpB-LPを投与した場合、パイエル板で2.03倍高かった(
図4B)。
【0037】
《実施例5》
本実施例では、SlpB担持リポソームのマウスパイエル板の抗原提示細胞への取り込みを検討した。
Cy3-OVA-LP又はSlpB-Cy3-OVA-LP(200μL、それぞれ400μgのリポソームと8μgのCy3-OVAを含む)を、1時間絶食させたマウスに強制経口投与した(n=3)。投与の1時間後にマウスを安楽死させ、腸を切除し、PBS(-)で洗浄し、3.7%ホルムアルデヒド及び0.8%メタノールで固定した。凍結切片の準備のために、2つのパイエル板を各腸からランダムにサンプリングし、30%(w/v)ショ糖溶液に置換し、最適な切断温度のコンパウンドに包埋し、クリオスタットでドームを通って横方向に切断した。APCを染色するために、切片をマウスCD23に対するウサギ抗体、続いてウサギIgGに対するDyLight405結合抗体とともにインキュベートした。染色された組織は、蛍光顕微鏡ZOE蛍光Cell Imager(Bio-Rad、CA、USA)で観察した。
【0038】
図5Aに示すように、Cy3-OVAはマウスパイエル板の限られた領域で観察された。対照的に、パイエル板に広く分布しているCy3-OVA-LPは、主に上皮下ドーム、濾胞間領域、及び胚中心に見られた(
図5A)。更に、SlpB-LPは抗原提示細胞(APC)であるCD23+細胞に局在していたのに対し、LPはCD23-細胞に局在していた(
図5A)。SlpBがCy3-OVA-LPと結合した場合(
図5B)、Cy3-OVA-LPの信号強度がパイエル板のマウスで有意に高いことがわかった。この結果は、パイエル板で、SlpBがM細胞を介してAPCへのリポソームのトランスサイトーシスを促進できることを示している。
【0039】
《実施例6》
本実施例では、SlpB担持リポソームが投与されたマウスのパイエル板におけるサイトカインのmRNAの発現を検討した。
α-GalCer-LP又はSlpB-α-GalCer-LP(200μL、それぞれ8μLのα-GalCer-LPを含む)をBALB/cマウス(雌、9週齢、18~23g)に強制経口投与した。経口投与の8時間後、マウスを安楽死させ、パイエル板を分離して急速凍結した。Qiagen RNeasyミニキットを使用し、製造元のプロトコルに従ってパイエル板からRNAを抽出し、NanoDrop 2000(Thermo Fisher Scientific)を使用して質と量を評価した。RT-qPCRは実施例3のように実施した。データは、ハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のmRNA発現レベルに対して補正した。
【0040】
図6に示すように、TNF-α、及び炎症性サイトカインIL-12は、α-GalCer-LPと比較してSlpB-α-GalCer-LPの投与によって有意に増加した(
図6)。