IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ぺんてる株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ボールペンチップ 図1
  • 特開-ボールペンチップ 図2
  • 特開-ボールペンチップ 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167727
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ボールペンチップ
(51)【国際特許分類】
   B43K 1/08 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
B43K1/08 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079126
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(72)【発明者】
【氏名】初谷 洋勝
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】筆記ボールと中間ボールの間に内方突出部を形成するボールペンチップは筆記距離が長くなった際に良好な筆記感の維持と、筆跡の綺麗さを両立するのが困難なものである。
【解決手段】内方突出部10の筆記ボール3側前面には筆記ボール3の曲面とほぼ同曲面を有するボール受け座11を形成し、ボールホルダー2の中心にはインキ流通路となる中心孔8を形成し、さらに、筆記ボール3と中間ボール4の当接位置を、筆記ボール3がボール受け座11に着座した状態で中心孔8より下方に位置させると共に、筆記ボール径をA、中心孔の軸方向長さBとしたとき、前記筆記ボール径に対する中心孔長さB/Aを5%以上とし、また、ボール受け座11の径方向長さCとしたとき、前記筆記ボール径に対するボール受け座11の径方向長さC/Aを6%以上17%以下にしたボールペンチップ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールホルダーのインキ流通孔の中腹に筆記ボールの後方移動規制をなす内方突出部を形成し、当該内方突出部の先端側に筆記ボールを配置すると共に、当該内方突出部の後方に筆記ボールと当接し、弾撥部材によって付勢される中間ボールを配置したボールペンチップにおいて、前記内方突出部の筆記ボール側前面には筆記ボールの曲面とほぼ同曲面を有するボール受け座を形成し、前記ボールホルダーの中心にはインキ流通路となる中心孔を形成し、さらに、前記筆記ボールと中間ボールの当接位置を、前記筆記ボールがボール受け座に着座した状態で中心孔より下方に位置させると共に、前記筆記ボール径をA、中心孔の軸方向長さBとしたとき、前記筆記ボール径に対する中心孔長さB/Aを5%以上とし、また、前記ボール受け座の径方向長さCとしたとき、前記筆記ボール径に対するボール受け座の径方向長さC/Aを6%以上17%以下にしたボールペンチップ。
【請求項2】
前記内方突出部の反筆記ボール側である後面の開き角度が100度以上130度以下である請求項1記載のボールペンチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記ボールと、この筆記ボールを先端開口部より一部突出した状態で回転自在に抱持するボールホルダーと、筆記ボールを後方から付勢する中間ボールとを備えるボールペンチップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年は運筆に力をあまり要しない軽く滑らかな筆記感のボールペンが好まれる傾向にあることから、インキの粘度を低く設定したり、界面活性剤を添加したりするなどして、結果的に浸透性が高いインキが一般的になっている。
その為、ボールホルダー先端開口部の前端縁部と筆記ボールとの微細な隙間からのインキの滲み出しや洩れやすいものとなっており、それらを抑制するために、筆記ボールの後方に配置したコイルスプリングなどの弾撥部材によって、筆記ボールを前方付勢して、非筆記時には先端開口部の前端縁部の内面に筆記ボールを押し付けることによってシール性を有する構造のボールペンチップが知られている。
【0003】
そして、上述したコイルスプリングで直接筆記ボールを付勢するボールペンチップよりも確実なシール性を持たせつつ、筆記ボールの回転安定性を高めて筆記感を良好にする手段として、筆記ボールの後方移動を規制する内方突出部を形成して、その内方突出部の後方に比較的大きな中間ボールを配置し、その中間ボールを弾撥部材によって前方付勢し筆記ボールの後面と当接させたボールペンチップ(特許文献1)が知られている。
特許文献1に記載のボールペンチップでは、比較的大きな中間ボールにて筆記ボールを付勢することで、筆記ボールをボールペンチップの中心軸の水平に近い方向に付勢力をかけることができるので筆記ボールとボールホルダー先端開口部の前端縁部のシール性を確実に保つことができる。また、前記内方突出部の筆記ボール側に、筆記ボールの曲面を転写したボール受け座を形成することによって、筆記時には、前記筆記ボールがボール受け座の上を安定して回転することができ、良好な筆記感が得られるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-130280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のボールペンチップのように筆記ボールと中間ボールの間に内方突出部を形成するボールペンチップにあっては、おのずと内方突出部は薄いものとなり、前記筆記ボールを先端から叩いてボール受け座を形成すると、内方突出部が下方に逃げるように変形し、その結果、筆記ボールの曲率と大きく異なるボール受け座が形成されてしまう危険性がある。
本来、筆記ボールとボール受け座は、およそ同程度の曲面になるよう設計する。そして、前記筆記ボールとボール受け座の間の広範囲に及ぶ微小な隙間にインキが介在する事によって、潤滑性を生み良好な筆記感を得られるのと同時にボール受け座の摩耗を抑制する。
しかし、筆記ボールとボール受け座の曲率が大きく異なる場合は、筆記圧がボール受け座の狭い範囲に集中してしまい、インキによる潤滑性を得られにくくなり、摩耗が進みやすいものとなってしまう。また、そもそも内方突出部の厚さが薄いので、前記の摩耗が進行すると更に薄くなってしまい、強い筆記圧では内方突出部の下方への変形が生じてしまい、筆記ボールの回転に対する大きな抵抗となり、ひいては長距離筆記において良好な筆記感を維持するには懸念が残る。
上述した問題に対して内方突出部の強度を維持しようと中心孔の長さを長くし、前記内方突出部を厚くすることも考えられるが、内方突出部の後面と中間ボールが近づき、インキの流通の妨げとなってしまい、筆跡のカスレなどの原因になってしまう。また、中心孔の径を大きくして内方突出部を厚くすることも考えられるが、十分な大きさのボール受け座を形成する事が困難となり、筆記ボールとボール受け座の潤滑が得ら難く良好な筆記感が得られないものとなってしまう。すなわち、筆記ボールと中間ボールの間に内方突出部を形成するボールペンチップは筆記距離が長くなった際に良好な筆記感の維持と、筆跡の綺麗さを両立するのが困難なものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ボールホルダーのインキ流通孔の中腹に筆記ボールの後方移動規制をなす内方突出部を形成し、当該内方突出部の先端側に筆記ボールを配置すると共に、当該内方突出部の後方に筆記ボールと当接し、弾撥部材によって付勢される中間ボールを配置したボールペンチップにおいて、当該内方突出部の筆記ボール側の前面には筆記ボールの曲面とほぼ同曲面を有するボール受け座を形成し、前記ボールホルダーの中心にはインキ流通路となる中心孔を形成し、さらに、前記筆記ボールと中間ボールの当接位置を、前記筆記ボールがボール受け座に着座した状態で中心孔より下方に位置させると共に、前記筆記ボール径をA、中心孔の軸方向長さBとしたとき、前記筆記ボール径に対する中心孔長さB/Aを5%以上とし、また、前記ボール受け座の径方向長さCとしたとき、前記筆記ボール径に対するボール受け座の径方向長さC/Aを6%以上17%以下にしたことを第1の要旨とし、前記内方突出部の反筆記ボール側である後面の開き角度が100度以上130度以下であることを第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ボールホルダーのインキ流通孔の中腹に筆記ボールの後方移動規制をなす内方突出部を形成し、当該内方突出部の先端側に筆記ボールを配置すると共に、当該内方突出部の後方に筆記ボールと当接し、弾撥部材によって付勢される中間ボールを配置したボールペンチップにおいて、前記内方突出部の筆記ボール側前面には筆記ボールの曲面とほぼ同曲面を有するボール受け座を形成し、前記ボールホルダーの中心にはインキ流通路となる中心孔を形成し、さらに、前記筆記ボールと中間ボールの当接位置を、前記筆記ボールがボール受け座に着座した状態で中心孔より下方に位置させると共に、前記筆記ボール径をA、中心孔の軸方向長さBとしたとき、前記筆記ボール径に対する中心孔長さB/Aを5%以上とし、また、前記ボール受け座の径方向長さCとしたとき、前記筆記ボール径に対するボール受け座の径方向長さC/Aを6%以上17%以下にしたので、長距離筆記においても良好な筆跡と筆記感を維持できるボールペンチップを提供できる。
【0008】
更に、前記前記内方突出部の反筆記ボール側である後面の開き角度が100度以上130度以下にする事で、上述した長距離筆記における良好な筆跡と筆記感の維持をより確実なものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のボールペンチップ1の縦断面図。
図2図1のI部拡大図。
図3図2のII-II’断面矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
筆記ボールを抱持するボールホルダーは、貫通孔であるインキ流通孔を有し、インキ流通孔の先端にカシメ加工などで筆記ボールの直径よりも小径に形成して、筆記ボールが抜けてしまうことを防止し筆記ボールの一部が突出する先端開口部を有している。また、インキ流通孔の中腹には、筆記時に筆記ボールの後方移動を規制する内方突出部を形成し、先端開口部と内方突出部との間の空間を筆記ボール抱持部としている。
そして、その内方突出部の筆記ボール側前面には、筆記ボールを強く押し当てる事でボールの曲面を転写した凹みであるボール受け座が形成されており、また、インキを筆記ボール側に供給するための中心孔と放射状溝が形成され、前記中心孔の後方には中心孔の内径よりも大きい後孔が形成されている。その後孔は形成する際、切削工具の消耗を抑えるためボールホルダー後端から段階的に刃径を小さくして削孔して掘り進め、結果的に先端側に向かって階段状に次第に小径となる後孔となっている。
【0011】
前記後孔内には筆記ボールと当接する中間ボールと、前記中間ボールを前方に付勢するコイルスプリングが配置されて、中間ボールはコイルスプリングの付勢力を受けて筆記ボールを前方に付勢していると共に、コイルスプリングの前端部で回転可能に抱持されている。上述したように中間ボールを内方突出部後方の後孔内に配置した場合、内方突出部の後面と中間ボールとの隙間が非常に小さくなり、インキの流通を妨げてしまう恐れがある。その為、筆記ボールがボール受け座に着座した状態において、筆記ボールと中間ボールの当接位置を中心孔よりも下方に位置させるように中心孔の長さを設定する事で、中間ボールと内方突出部の後面との間にインキの流通を妨げない空間を十分に確保することができる。
しかし、中心孔の長さは筆記圧を受ける内方突出部の厚みでもあり、その中心孔の長さが短いと内方突出部の強度が低下し、筆記圧によっては筆記ボールを抑え込むように変形して筆記感が重くなってしまう。また、長距離筆記によりボール受け座の摩耗が進行すると、中心孔の長さが更に短くなってしまうので、筆記感の低下はより顕著になってしまう。そこで中心孔の長さは筆記ボール径に対して5%以上としておくことで、摩耗が進行しても筆記圧によって変形しない強度を有する内方突出部の厚みを確保することができる。
【0012】
前記ボール受け座は筆記ボールを内方突出部に強く押し当て塑性変形させることで形成しているので、筆記ボールとほぼ同等の曲率を有することになり、筆記中に筆記ボールの回転の受け皿となるので筆記ボールの回転安定性を向上することができる。
しかし、同時にボール受け座形成時の筆記ボールの押圧力を解いた時に元の形状に戻ろうとする現象であるスプリングバック現象もわずかながら生じることとなる。それ故、ボール受け座は筆記ボールとほぼ同等の曲率を有するものの、わずかな曲率差は存在するものである。その為、筆記時にボール受け座の全ての面と筆記ボールが接触するものではなく、接触していないわずかな隙間にインキが介在する事によりインキが潤滑剤の役割を果たし筆記ボールの回転抵抗の低減やボール受け座の摩耗を抑制する効果も有する。
しかしながら、上述した効果を十分に得る為には適切なボール受け座の大きさが必要であり、その大きさとして、筆記ボール径に対してボール受け座の径方向長さが6%以上17%以下となるように形成しておくことが好ましい。ボール受け座の径方向長さが6%より小さいと潤滑効果を有する面が少なくなり、同時に筆記圧を狭い面に集中して受ける事となり筆記感が重くなってしまう。また、17%より大きいと、それだけ大きなボール受け座を形成することとなり内方突出部に大きな塑性変形を生じさせるので、同時にスプリングバック現象が増大し筆記ボールとボール受け座の曲率差が大きなボール受け座が形成されてしまい、筆記ボールとボール受け座の隙間が大きい部分ができてしまう事でインキを潤滑剤としたくさび効果を生みにくく潤滑効果を十分に得られず、筆記感や耐摩耗性の低下に繋がってしまう。
【0013】
ボールホルダーの材質としては、ステンレス鋼や、洋白、真鍮などの銅合金が使用できるが、筆記時の耐磨耗性やインキの耐食性を考慮するとステンレス鋼が好ましく、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304、フェライト系ステンレス鋼であるSUS430が好ましく用いられる。また、自然環境への配慮から、切削性の向上を目的として添加される鉛を、同程度の加工性を付与できるビスマスに置き換えたものを使用する事もできる。また、良好な加工性を有しつつボールホルダー先端部の打痕や摩耗などの変形等を抑制する為にビッカース硬さ(HV)を150以上、300以下とすることが好ましい。
【0014】
筆記ボールの大きさは直径0.18(mm)以上2.0(mm)以下が使用可能であるが、一般的なボールペンで使用されている直径0.3(mm)~1.0(mm)の範囲が好ましい。
【0015】
中間ボールの大きさは特に限定されるものではないが、筆記ボールの直径の70%以上と大きいものとすることで、筆記ボールの回転により発生する筆記ボールと中間ボールとの間に働く摩擦によって、中間ボールに大きな回転トルクが得られると共に、中間ボールを前方付勢するコイルスプリングの押圧荷重を調整することで、中間ボールが回転することに対して、中間ボールとコイルスプリングとの接触による摩擦抵抗を超える力が得られ、筆記時の筆記ボールの回転に対して中間ボールが回転しやすく、軽い筆記感が得られる。中間ボールの直径は筆記ボールの直径の80%以上がより好ましく、100%以上が更に好ましい。
【0016】
筆記ボールおよび中間ボールの表面の算術平均高さSaは、紙面と筆記ボールとの筆記感や、筆記ボールと中間ボールとの接触、筆記ボールとボールホルダーとの接触、中間ボールとコイルスプリング前端部との接触による摩擦係数の増加や耐摩耗性を考慮すると、2(nm)以上20(nm)以下が好ましい。尚、算術平均高さSaは、国際規格ISO 25178に準拠したものであり、粗さ曲線の算術平均粗さRaを面に拡張したパラメーターに相当し、任意の範囲の表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表すパラメーターである。
【0017】
筆記ボールおよび中間ボールの材質としては、炭化タングステンを主成分とした超硬合金や、ステンレス、アルミ、スチール等の金属や、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、炭化クロム、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂といった樹脂材料や、ガラスなどが使用できるが、筆記ボールにおいてはインキに対する濡れ性や耐食性、中間ボールとの摺動性や耐磨耗性を考慮すると超硬合金やセラミックスが好ましい。
中間ボールは筆記ボールと同一の材質でも、異なる材質でも構わないが、炭化タングステンを主成分とした超硬合金同士など、高硬度の材質の組み合わせが好ましい。また、凝着摩耗を抑制するという観点から、筆記ボールと同一の材質ではなく、筆記ボールが炭化タングステンを主成分とした超硬合金であるなら、中間ボールは炭化ケイ素や炭化クロムなど、相互溶解性が低い材質の組み合わせを用いる方がより好ましい。
【0018】
中間ボールを前方付勢するコイルスプリングの押圧荷重は、小さ過ぎると筆記ボールとボールホルダーの先端開口部との押圧による密閉性が不安定になり、インキの滲み出しや洩れに繋がるおそれがあり、強過ぎると筆記ボールと中間ボールの当接荷重が大きくなり、回転による中間ボールの摩耗を促進したり、筆記感が重くなってしまうことから、3(gf)以上40(gf)以下とすることが好ましい。
【0019】
本発明のボールペンチップは、インキを収容したインキタンクに直接、または中継部材を介して接続することで筆記具としての形態となり、これをボールペンリフィルとして外装体内に設置することもできる。外装体に設置されるものとしたとき、外装体の先端より突出したボールペンチップ部分を被覆するキャップを装着したり、ノック操作により外装体の前端からボールペンリフィルを出没させる、所謂ノック式ボールペンとしても良く、外装体内に複数リフィルを収容し、スライド操作により外装体の前端からボールペンリフィルを出没させる、所謂多色ボールペンとしても良い。
【0020】
筆跡を形成するものとして使用するインキは、水を主媒体とした水性インキ、アルコールなどの有機溶剤を主媒体とした油性インキ、剪断減粘性を有する水性または油性ゲルインキのいずれも使用可能であり、これに着色成分である顔料および/または染料、凍結防止などのための高沸点有機溶剤、被筆記面への定着性を付与する樹脂成分、表面張力や粘弾性、潤滑性などを調整する界面活性剤や多糖類、防錆・防黴剤などが配合されている。また、酸化チタンなどの白色隠蔽成分を配合した修正液組成物でもよい。
【実施例0021】
以下、図面に基づいて一例を説明する。
図1は、本発明のボールペンチップの一例を示す縦断面図であり、図2は、図1のI部拡大図である。
【0022】
ボールペンチップ1は、ボールホルダー2と、筆記部材としての筆記ボール3と、中間ボール4と、コイルスプリング5とを備えている。前記ボールホルダー2には、インキ流通孔として先端側より先端開口部6、筆記ボール抱持部7、中心孔8、後孔9が形成され、筆記ボール3を先端開口部6より一部突出した状態でボールホルダー2内にて回転自在に抱持している。先端開口部6は先端を筆記ボール3よりも小径にカシメ加工されている。この先端開口部6の内縁は、カシメ加工を行う際に筆記ボール3に押し当てる事で筆記ボール3の曲面を転写しつつ鏡面化し、被筆記時には前方付勢された筆記ボール3が周状に密接することでインキの漏れ出しや空気の流入を防止している。
【0023】
筆記ボール抱持部7と後孔9との間には筆記ボール3の後方移動規制をなす内方突出部10が形成されており、筆記ボール3を内方突出部10に強く押し当てることで筆記ボール3とおよそ同じ曲率をもったボール受け座11が形成されている。そして、内方突出部10の後側である後孔9に中間ボール4が筆記ボール3と当接するようにして回転可能に配置され、更に、中間ボール4の後方には、コイルスプリング5が中間ボール4と接触して付勢するように配置されている。
前記内方突出部10の前面10aの開き角度αは、ボール受け座11を形成する前の筆記ボール抱持部7の底面の開き角度でもある。この開き角度αは鋭角にするに従ってボール受け座11を形成する際の押圧力が径方向外側に向かいやすくなる為、前記ボールホルダー2の外周面が膨らみに繋がってしまう。逆に鈍角にするに従ってボール受け座11を形成する際に座屈しやすくなる為、筆記ボール抱持部7の歪み等に繋がってしまう。これらのことから、内方突出部10の前面10aの開き角度は90度以上150度以下が好ましい。
また、内方突出部10の後面10bの開き角度βは、鋭角にするに従って中間ボール4と接触しやすくインキ流通を阻害しやすくなってしまい、逆に鈍角にするに従って内方突出部10の強度が得られにくく、ボール受け座11の形成時や強い筆記圧を掛けた時に想定以上の変形してしまう事から、内方突出部10の後面10aの開き角度は90度以上150度以下にしておくことが好ましく、さらに十分なインキ流通を確保しつつ同時に十分な強度を得る為には100度以上130度以下がより好ましい。
【0024】
そして、本発明は、筆記ボール3がボール受け座11に着座した状態において、筆記ボール3と中間ボール4の当接位置4aが中心孔8より下方に位置させ、筆記ボール3の径をA、中心孔8の軸方向長さBとした場合、筆記ボール3の径に対する中心孔8の軸方向長さB/Aが5%以上であると共に、ボール受け座11の径方向長さCとした場合、筆記ボール3の径に対するボール受け座11の径方向長さC/Aを6%以上17%以下となるように、内方突出部10とボール受け座11の形状を整えた。
【0025】
前記コイルスプリング5は、ボールホルダー2の後方から挿入され、全長を圧縮するように押し込まれ抜け止めされており、その圧縮による復元力によって中間ボール4を前方に付勢し、この中間ボール4を介して筆記ボール3を前方に付勢している。
本発明ではコイルスプリング5の後端部は、ボールホルダー2の後孔9の内壁面の同周上にブローチ加工によって等間隔に4箇所形成された凸部12によってボールホルダー2の内部から抜け止めされているが、後端の全周をコイルスプリング5の後端部の径よりも小径にかしめる方法でも良く、抜け止めの方法はこの限りではない。
【0026】
図3図2のII-II’断面矢視図を示す。尚、説明の都合上、筆記ボール3と中間ボール4、コイルスプリング5は省略している。
図3に示すように、内方突出部10には切削により周状に等間隔に複数本配置した放射状溝13が形成されている。この放射状溝13は、筆記ボール抱持部7へのインキ供給を確実とする為に後孔9へ貫通させているが、インキの逆流を防止するなどの目的で後孔9に貫通させずに中心孔8の途中で留めてもよい。また、放射状溝13を後孔9へ貫通させた際に、放射状溝13と後孔9との境界部分にバリや切片が残る場合には、後孔9をドリルで追加工して除去することができる。本実施例では、放射状溝13を周状に等間隔な位置に5箇所形成しているが、その大きさや数は特に限定されるものではない。
【0027】
前記ボールホルダー2の材質は、ビッカース硬度(HV)が240のステンレス(下村特殊精工(株)製、商品名:SF20T)を使用している。また、インキに対する濡れ性や耐食性、中間ボールとの摺動性や耐磨耗性を考慮すると共に、製造コストなど鑑みて、筆記ボール3の材質は、タングステンカーバイドを主成分として結合相にコバルトや、クロム等を使用した超硬合金((株)ツバキナカシマ製、商品名:PB11、表面の算術平均高さSa(ISO 25178):約3(nm))を使用した。更に、中間ボール4の材質は、タングステンカーバイドを主成分として結合相にコバルトや、クロム等を使用した超硬合金((株)Heraeus製、商品名:H3)を使用した。
【0028】
前記コイルスプリング5の材質は、ニッケルメッキを施したSUS304のステンレス鋼線を使用し、中央に大径コイル部と前後端に小径コイル部を形成しており、小径コイル部の端部を密着コイル部としている。コイルスプリング5は筆記ボール3への押圧荷重が20(gf)になるように凸部12の位置を変更しコイルスプリング5の撓み量によって調整しているが、押圧荷重を大きくすると筆記ボール3と中間ボール4の摩擦抵抗が大きくなり筆記感が重くなってしまい、逆に押圧荷重を小さくすると筆記ボール3が先端開口部6の内縁にしっかり押し当てる事ができなく密閉性が低下してしまうので、3(gf)以上40(gf)以下が好ましい。
【0029】
筆記ボール3の径が、0.8(mm)、1.0(mm)の2種類の各部の寸法を変化させて実施例1から実施例18、および比較例1から比較例17のボールペンチップ1を作製した。各部の寸法は表1に示す。
尚、筆記ボール3の径が0.8(mm)においては、中間ボール4の径は0.8(mm)、内方突出部の前面10aの開き角度αは105度としている。
また、筆記ボール3の径が1.0(mm)においては、中間ボール4の径は0.8(mm)、内方突出部の前面10aの開き角度αは120度としている。
また、ボール受け座11の径方向長さCは図3で示している中心孔の径D、ボール受け座11の外周径Eを測定して、(E-D)/2で求めたものとしている。
【0030】
作製したそれぞれのボールペンチップ1を市販されているゲルインキボールペン(ぺんてる(株)製、製品符号BL17-A)のボールペンチップとして取り付け、インキタンク内には下記に示す試験用インキを充填し、ペン先の方向に遠心力が働くようにペン先を外側に向けて配置して、遠心分離機(国産遠心器(株)製、卓上遠心機H-103N)で遠心処理を施し、リフィル内の不要な空気を除去し試験用ボールペンサンプルを作製し下記の試験を行なった。結果は表1に示す。
【0031】
(試験用インキ)
ウォーターブラック#256L(黒色染料の14%水溶液、オリエント化学工業(株)製)
35.0重量部
ウォーターイエロー#1(C.I.アシッドイエロー23、オリエント化学工業(株)
製) 1.2重量部
エチレングリコール 6.0重量部
グリセリン 8.0重量部
チオジグリコール 8.0重量部
サルコシネートOHV(N-オレオイルサルコシン、日光ケミカルズ(株)製)
3.0重量部
ベンゾトリアゾール 0.5重量部
プロクセルGXL(1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンの20%ジプロピレングリコール溶液、アビシア(株)製) 0.2重量部
ハイドロキノンスルホン酸カリウム 0.3重量部
BC-5.5(ポリオキシエチレンセチルエーテル、HLB11.5、日光ケミカルズ(株)製) 1.0重量部
AKP-50(微粒子アルミナ、平均粒子径0.2μm、住友化学工業(株)製)
0.05重量部
水酸化ナトリウム 0.3重量部
ケルザンAR(キサンタンガム、三晶(株)製) 0.4重量部
イオン交換水 36.05重量部
上記成分のうち、ケルザンARの全量を水5重量部に攪拌しながら加え1時間攪拌してケルザンAR水溶液を得た。次いで残りの成分を混合し1時間攪拌して均一に溶解した後ケルザンAR水溶液を加えて、更に2時間攪拌して黒色の試験用インキを得た。
試験用インキの粘度は、ELD型粘度計((株)トキメック製)にて、ST型ローターを用いて、温度25(℃)、剪断速度100(s-1)の条件にて測定し、200(mPa・s)であった。
試験用インキのpH値は8.7であり、コンパクトpHメーターB-212((株)堀場製作所製)を用いて測定した。
【0032】
(試験1:初期筆記抵抗値試験)
静・動摩擦測定機(Tribo-masterType TL201Sa;(株)トリニティーラボ製)を用い、試験用ボールペンサンプルをJIS S 6061に規定される被筆記用紙を用いて、押しつける力を100(gf)、被筆記用紙との筆記角度を70°とし、被筆記用紙の移動速度を7(cm/sec)の条件で15(cm)直線移動させることによって筆記し、その際に被筆記用紙の移動によってボールペン本体が筆記の移動方向に掛かる荷重の大きさをロードセルにて感知し、それを筆記抵抗値として測定した。
測定は2.5秒間行い、その間に500個のデータを得ているが、筆記速度が安定していない書き始めと終わりのそれぞれ0.5秒間の100個のデータを除して途中の約300個のデータの平均値を試験結果のデータとした。
また、試験用のボールペンサンプルは各水準で3本ずつ用意して、その3本の平均値を表に記載し、以下の評価基準に基づいて評価を行った。尚、〇と△は良品判定として、×は不良品判定としている。
〇:10(gf)以下 非常に軽い書き味で滑らかである。
△:10(gf)より大きく13(gf)より小さい 軽い書き味である。
×:13(gf)以上 やや重さ感じる書き味である。
【0033】
(試験2:筆跡目視評価)
試験1で使用したボールペンサンプルを、筆記試験機を用いて筆記角度70°、筆記荷重100(gf)(0.98(N))、筆記速度7(cm/sec)の条件で螺旋筆記を100(m)実施し、その筆跡を目視確認し、以下の基準に基づいて評価した。尚、〇と△は良品判定として、×は不良品判定としている。
〇:終始綺麗な筆跡である。
△:一部微小なカスレが発生しているものの、基本綺麗な筆跡である。
×:周期的、もしくは終始においてカスレが発生している。
【0034】
(試験3:長距離筆記後筆記抵抗値試験)
筆記試験機を用いて試験2の筆記条件にてそのまま600(m)の連続筆記を行い、その後、試験1と同じ条件にて筆記抵抗値を測定した。
そして、試験1の結果との差を求め、初期の筆記抵抗値からどれだけ変化したかを評価対象として、以下の評価基準に基づいて評価を行った。尚、〇と△は良品判定として、×は不良品判定としている。
〇:3(gf)以下 長距離筆記でも抵抗値の変化が小さく、体感できない。
△:3(gf)より大きく5(gf)より小さい 長距離筆記においてやや変化はするが体感として感じにくい。
×:5(gf)以上 長距離筆記において体感で抵抗値の変化を感じてしまう。
【0035】
【表1】
【0036】
表1に示した結果より、本発明の構成の範囲内である実施例1から実施例18は初期の筆記抵抗値が小さく良好な筆記感となり、綺麗な筆跡を得られ、更に長距離筆記のおいても初期の筆記抵抗値からの変化も小さいボールペンとする事ができた。
【0037】
実施例1並びに、実施例6と比較例1は、中心孔8の径Dとボール受け座11の径Eを同じとすることで筆記ボール3の径Aに対するボール受け座11の径方向長さC/Aを同じとし、中心孔の軸方向長さBを調整したものである。これらによると筆記ボール3の径に対する中心孔8の軸方向長さB/Aを比較例1の4.4%から実施例6の5.0%にすることによって、長距離筆記した時の筆記抵抗値の変化の差の小さくでき大幅に改善できていることがわかる。
更に、実施例1のようにB/Aを7.5%と実施例6より大きくしたものや、実施例4のB/Aのように10.0%と更に大きくしたものでは、その変化の差はより小さくなり良化する傾向にあるが、比較例2や比較例5のように中心孔8の軸方向長さBを筆記ボール3と中間ボール4の当接位置4aが中心孔8の内部に位置するまで長くしてしまうと、筆跡にカスレが生じてしまっている。これは中間ボール4と内方突出部の後面10bとの隙間が小さくなってしまい、筆記ボール3に十分なインキが供給できなくなってしまった事が原因である。
つまり、中心孔の軸方向長さBを調整して筆記ボール3の径に対する中心孔8の軸方向長さB/Aが5%以上と、筆記ボール3と中間ボール4の当接位置4aが中心孔8の下方に位置させることを両立する事で、綺麗な筆跡を得つつ、長距離筆記しても初期の筆記抵抗値からの変化が小さいものが得られる。
【0038】
実施例1と比較例3は中心孔8の軸方向長さBを同じとし、中心孔8の径Dを調整したものである。これらによると筆記ボール3の径に対するボール受け座11の径方向長さC/Aを比較例3の4.1%から実施例1の10.3%とすることによって、初期の筆記抵抗値が大幅に小さくなり非常に軽い筆記感を得ることができることがわかる。
しかし、実施例4のように13.8%と大きくするとやや筆記抵抗値の上昇がみられて、比較例4の17.8%、比較例8の18.8%と更に大きくしていくとより筆記抵抗値が上昇して、体感的にもやや重さを感じる筆記感となってしまう。
つまり、筆記ボール3の径に対するボール受け座11の径方向長さC/Aは良好な筆記感を得る最適な範囲があり、本試験においては6%以上17%以下で良好な結果が得られる。
【0039】
実施例7から実施例10、比較例11から比較例17は筆記ボール3の径Aが1.0(mm)のボールペンチップにおいて試験を実施したものであるが、筆記ボール3の径Aが0.8(mm)と同様の傾向を示しており、ボール径Aが1.0(mm)においても筆記ボール3の径に対する中心孔8の軸方向長さB/Aが5%以上で、且つ、筆記ボール3の径に対するボール受け座11の径方向長さC/Aが6%以上17%以下にすることで長距離筆記においても良好な筆跡と筆記感を維持できるボールペンチップにすることができる。
【0040】
また、実施例11から実施例14は、筆記ボール3の径が0.8(mm)である実施例1の形状を基準として内方突出部の後面10bの開き角度であるβの影響を確認したものである。この結果より内方突出部の後面10bの開き角度βが100度以上130度以下にすると、長距離筆記における抵抗値変化がより小さく筆跡も綺麗なものが得られ、より性能の向上が確認できた。更に、実施例15から実施例18は、筆記ボール3の径が1.0(mm)である実施例7を基準として内方突出部の後面10bの開き角度であるβの影響を確認したものであるが、前述した筆記ボール3の径が0,8(mm)の場合で得られた結果と同様の傾向を示し、筆記ボール径に問わず同様の効果が得られるものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本実施例のボールペンチップは筆記具用途として、キャップ式、ノック式、または回転繰り出し式等、インキの種類を問わずあらゆるタイプのボールペンに利用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 ボールペンチップ
2 ボールホルダー
3 筆記ボール
4 中間ボール
5 コイルスプリング
6 先端開口部
7 筆記ボール抱持部
8 中心孔
9 後孔
10 内方突出部
10a 内方突出部の前面
10b 内方突出部の後面
11 ボール受け座
12 凸部
A 筆記ボール3の径
B 中心孔8の軸方向長さ
C ボール受け座11の径方向長さ
D 中心孔8の径
E ボール受け座11の外周径
α 内方突出部8の前面の開き角度
β 内方突出部8の後面の開き角度
図1
図2
図3