(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167760
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20231116BHJP
D06M 13/03 20060101ALI20231116BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20231116BHJP
D02G 3/44 20060101ALI20231116BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20231116BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20231116BHJP
D06M 101/36 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
D06M15/643
D06M13/03
D06M15/227
D02G3/44
C04B16/06 A
C04B16/06 C
C04B28/02
D06M101:36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079202
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
【テーマコード(参考)】
4G112
4L033
4L036
【Fターム(参考)】
4G112PA24
4L033AA08
4L033AB01
4L033AC11
4L033AC15
4L033BA03
4L033CA12
4L033CA59
4L036MA06
4L036MA35
4L036PA31
4L036RA14
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】 セメント材料や、ゴム、樹脂等の高分子材料に分散しやすく、分散後の粘度増大を抑制して高い取扱性を得るとともに、曲げ強度および曲げ靭性を向上させることのできる、短繊維の集合体を提供する。
【解決手段】 平均繊維長が0.1~30mmである表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体であって、表面処理剤がシリコーンオイルおよびワックスであり、表面処理剤の付着量が芳香族ポリアミド繊維重量に対して合計で0.1~20重量%であることを特徴とする、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維長が0.1~30mmである表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体であって、表面処理剤がシリコーンオイルおよびワックスであり、表面処理剤の付着量が芳香族ポリアミド繊維重量に対して合計で0.1~20重量%であることを特徴とする、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体。
【請求項2】
短繊維の集合体を構成する短繊維が、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士が撚られた部分および/または交絡された部分を含む、請求項1に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体。
【請求項3】
かさ密度が0.02g/cm3~0.40g/cm3である、請求項2に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体。
【請求項4】
平均繊維長が1.5~30mmで、繊維長の変動係数が1~50%である、請求項1に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体。
【請求項5】
セメントへの配合材として用いられる、請求項1に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体。
【請求項6】
請求項1に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体をセメント複合材料の全体積あたり0.1~5.0体積%含むセメント複合材料。
【請求項7】
高分子材料への配合材として用いられる、請求項1に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体。
【請求項8】
請求項1に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を高分子材料の全体積あたり0.1~30体積%含む高分子材料。
【請求項9】
請求項1に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体の製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体の製造方法。
(1)表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を切断し、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を平均繊維長31~100mmとする工程
(2)上記(1)で得られた平均繊維長31~100mmの表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を、開繊機にて開繊し、開繊品を得る工程
(3)上記(2)で得られた開繊品から、スライバーまたは紡績糸を得る工程
(4)上記(3)で得られたスライバーまたは紡績糸を切断し、請求項1に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミド(アラミド)繊維の短繊維の集合体は、セメント材料や、ゴム、樹脂等の高分子材料の補強材として広く使用されている。
この短繊維の集合体をセメント材料や、ゴム、樹脂等のマトリックス材料に分散すると、引張強度や曲げ強度等の補強特性の向上を見込むことができる。これは、アラミド繊維の短繊維とマトリックス材料との接着力が高いため、マトリックス材料にかかる応力の一部をアラミド繊維の短繊維が負担することになるためである。
【0003】
アラミド繊維の短繊維が破断せずにマトリックス材料から引き抜かれる場合であっても、引き抜かれる際に発生する摩擦力によってマトリックス材料に少なくない補強効果が得られる。この補強効果は、アラミド繊維の短繊維が引き抜かれるまで、短繊維の長さ分の変位にわたって発現されるため、より大きな変位にわたり補強効果を得ることができる。結果として、このような短繊維強化複合材料は、優れた引張靭性や曲げ靭性を有する。
【0004】
これらの短繊維強化複合材料は、繰り返しの引張や曲げによる動的疲労に対する耐性も高くなる。このように、優れた靭性や耐疲労性を有する短繊維強化複合材料を得るためには、短繊維とマトリックスとの接着力が、高すぎたり低すぎたりすることなく、適度な接着力を有することが求められる。
【0005】
他方、短繊維の表面の摩擦係数を適度に低下させるように改質すると、短繊維をマトリックス材料と混練する際に、短繊維がマトリックス材料中で動きやすくなり、マトリックス材料の粘度の増大を抑制することができる。その結果、短繊維がマトリックス材料中で分散しやすくなり、マトリックス材料の流動性が改善され工程通過性が向上する。
【0006】
アラミド繊維の表面を改質する方法として、フッ素樹脂、けい素樹脂(シリコン樹脂)、ポリエチレンワックス等の摩擦係数を低下させる処理剤で繊維表面を処理する方法が知られている(特許文献1)。これによると、アラミド繊維の短繊維をゴム中で使用するときに、引張り、屈曲、剪断などの変形を繰返し受けても、短繊維がゴム中で動き易くなっていて、短繊維とゴムとの界面に応力が集中せず、亀裂が発生しにくい繊維補強ゴム組成物を得ることができる。
【0007】
しかし、フッ素樹脂やけい素樹脂は、アラミド繊維の短繊維との密着力が著しく低いため、マトリックス材料との混練時に、アラミド短繊維表面から脱落してしまい、結果的に狙い通りの摩擦係数を得ることが難しい。
【0008】
また、ポリエチレンワックスは、フッ素樹脂やけい素樹脂に比べてアラミド短繊維表面の接着性や摩擦係数を十分に変化させることができない。この結果、フッ素樹脂、けい素樹脂(シリコン樹脂)、ポリエチレンワックスを、それぞれ単独で用いても、接着力を十分に制御することができず、マトリックス材料の靭性の向上の効果は十分でない。また、摩擦係数を適切に制御することができないため、マトリックス材料の流動性の改善による工程通過性の改善も十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、補強材として用いたときに、セメント材料や、ゴム、樹脂等の高分子材料に分散しやすく、分散後の粘度増大を抑制して高い取扱性を得るとともに、曲げ強度および曲げ靭性を向上させることのできる、短繊維の集合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、平均繊維長が0.1~30mmである表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体であって、表面処理剤がシリコーンオイルおよびワックスであり、表面処理剤の付着量が芳香族ポリアミド繊維重量に対して合計で0.1~20重量%であることを特徴とする、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体である。
【0012】
本発明はまた、上記の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体の製造方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体の製造方法である。
(1)表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を切断し、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を平均繊維長31~100mmとする工程
(2)上記(1)で得られた平均繊維長31~100mmの表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を、開繊機にて開繊し、開繊品を得る工程
(3)上記(2)で得られた開繊品から、スライバーまたは紡績糸を得る工程
(4)上記(3)で得られたスライバーまたは紡績糸を切断し、請求項1に記載の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得る工程
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、補強材として用いたときに、セメント材料や、ゴム、樹脂等の高分子材料に分散しやすく、分散後の粘度増大を抑制して高い取扱性を得るとともに、曲げ強度および曲げ靭性を向上させることのできる、短繊維の集合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
〔芳香族ポリアミド繊維〕
本発明における芳香族ポリアミド繊維は、芳香族ポリアミドからなる繊維であり、具体的には、パラ型芳香族ポリアミド繊維であるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、テイジンアラミドB.V.製「トワロン(登録商標)」)や、共重合型の芳香族ポリアミド繊維であるコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社製「テクノーラ(登録商標)」)、メタ型芳香族ポリアミド繊維であるポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社製「コーネックス(登録商標)」)を例示することができる。
【0016】
芳香族ポリアミド繊維として、共重合型のパラ型芳香族ポリアミド繊維であるコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維が好ましい。コポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維は、高い引張強度を有することに加えて、屈曲疲労性に優れることから、セメント材料や、ゴム、樹脂と混合される際に、強いせん断応力下で混合、混練されても繊維が破断したり損傷することが少ないため、高い補強効果を得ることができる。
【0017】
芳香族ポリアミド繊維の平均繊維径は、短繊維としたときにマトリックスと適切な接着力を実現するための適切な接触面積と良好な分散性を得る観点から、好ましくは5~50μm、さらに好ましくは8~25μm、特に好ましくは10~15μmである。異なる繊維径のものが含まれていてもよいが、その場合でも繊維径の変動係数が10%以下であることが好ましい。
【0018】
〔表面処理剤〕
本発明において表面処理剤は、シリコーンオイルおよびワックスである。本発明では、両者が併用されることが必要である。
表面処理剤の付着量は、芳香族ポリアミド繊維100重量%に対して、合計で0.1~20重量%である。付着量が0.1重量%未満であると、繊維表面の摩擦係数を制御する効果を十分に得ることができない。他方、付着量が20重量%を超えても摩擦係数を制御する効果が変わらない。
【0019】
シリコーンオイルとして、ポリアルキルシロキサン、ポリエーテルアルキルシロキサンを例示することができる。これらは併用してもよい。
ワックスとして、石油系ワックス、天然ワックス、合成ワックスを例示することができる。具体的には、フィッシャートロプシュワックス、サゾールワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックスが好ましい。
【0020】
本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、シリコーンオイルおよびワックスの両方が付着していることで、それぞれが単独で付着したものに比べて、セメント材料や、ゴム、樹脂等の高分子材料と混合した際に、優れた粘度抑制効果を得ることができ、さらに引張および曲げ靭性の向上において優れた効果を得ることができる。
【0021】
このメカニズムは定かでないが、シリコーンオイルが最適な摩擦係数を与えることに寄与しており、ワックスがセメント材料や、ゴム、樹脂との混合時に芳香族ポリアミド繊維表面からシリコーンオイルが脱落することを抑制していることによると、発明者は推測している。
【0022】
シリコーンオイルとワックスとの重量比率は、その併用により実現される摩擦係数と繊維表面との密着性の観点から、好ましくは10:90~90:10、さらに好ましくは10:90~60:40、特に好ましくは10:90~40:60である。
表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体には、シリコーンオイルおよびワックス以外に、一般的に繊維に用いられる油剤、例えば界面活性剤、が付着していてもかまわない。
【0023】
〔付着方法〕
シリコーンオイルおよびワックスを、芳香族ポリアミド繊維に付着させる方法は、公知の方法を用いることができ、キスロールやノズル、スプレーによる繊維表面への塗布や、繊維を処理剤に含浸(ディップ)する方式を例示することができる。
【0024】
シリコーンオイルを芳香族ポリアミド繊維に付着するために、シリコーンオイルは、水中で乳化させてシリコーンオイルエマルジョンとして用いてもよい。
ワックスを芳香族ポリアミド繊維に付着するために、ワックスは、水中で乳化させてワックスのエマルジョンとして用いてもよい。静電気の抑制効果を得るために、帯電防止剤をエマルジョンに添加してもよい。
【0025】
シリコーンオイルおよびワックスは、別々に芳香族ポリアミド繊維に付着されてもよいが、シリコーンオイルのエマルジョンとワックスのエマルジョンを混合させたエマルジョンを用いて、芳香族ポリアミド繊維に塗布した後、水分を乾燥させることで付着させることが好ましい。
【0026】
〔表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体〕
本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、表面処理剤が付着した芳香族アラミド繊維を切断して得られた短繊維の集合体である。別の言い方をすれば、本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維が2本以上集合したものである。
【0027】
この表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体には、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維以外の短繊維が幾分混入していても問題無いが、好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは75重量%以上が、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維が占める。
【0028】
表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体の平均繊維長は、0.1~30mmであり、好ましくは1.5~30mm、さらに好ましくは2~20mm、特に好ましくは3~15mmである。平均繊維長が0.1mm未満であると、この短繊維の集合体をセメント材料や、ゴム、樹脂等の高分子材料といったマトリックス材料に配合しても、短繊維とマトリックス材料との接触面積が小さく、十分な接着力を確保することができず、高い補強効果を得ることができない。他方、30mmを超えると、分散性の問題からマトリックス材料と混合することが困難となる。
【0029】
すなわち、本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を、所定の繊維長に切断して得た短繊維の集合体であり、その平均繊維長が0.1~30mm、好ましくは1.5~30mm、さらに好ましくは2~20mm、特に好ましくは3~15mmのものである。
【0030】
表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、異なる繊維長の短繊維が集合したものであってもよい。その場合、繊維長の変動係数は、好ましくは1~50%、さらに好ましくは1~30%、特に好ましくは1~20%である。変動係数が50%を超えると、大きく異なる繊維長の短繊維が集合していることになり、セメント材料や、ゴム、樹脂等の高分子材料のマトリックス材料に混合したときにマトリックス材料の場所によって分散されている短繊維の繊維長が異なることになるため、品質が安定しなくなり好ましくない。なお、変動係数が1%未満である短繊維の集合体を得ることは、それ自体が難しい。
【0031】
本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を構成する短繊維は、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士が撚られた部分および/または交絡された部分を含むことが好ましい。この場合、撚られた部分および/または交絡された部分は、複数本の芳香族ポリアミド繊維の単繊維の束の状態で撚られた部分および/または交絡された部分であり、好ましくは50~10000本、さらに好ましくは100~1000本の芳香族ポリアミド繊維の単繊維の束の状態で撚られた部分および/または交絡された部分である。
【0032】
表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士が撚られた部分および/または交絡された部分を含むことで、本発明の短繊維の集合体をセメント材料や、ゴム、樹脂のようなマトリックスに混合する際に、スムーズに混練機に供給することができ、供給量の計量精度が向上する。また、予め意図的に、撚りおよび/または交絡された部分を含ませることで、意図せずに過剰の短繊維が静電気等で絡まり、ファイバーボールといった短繊維の塊を形成することを防ぎ、混練機において分散できずにマトリックス材料中で欠陥となってしまう不具合を無くすことができる。
【0033】
〔かさ密度〕
表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体のかさ密度は、好ましくは0.02~0.40g/cm3、さらに好ましくは0.04~0.40g/cm3である。かさ密度が0.02g/cm3未満であると、短繊維の集合体をセメント材料や、ゴム、樹脂等の高分子材料といったマトリックスに混合する際、スムーズに混練機に供給することが難しくなり、供給量の精度良い制御ができなくなり好ましくない。他方、かさ密度が0.40g/cm3を超えると、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士が過剰に高密度で撚りおよび/または交絡されてしまっており、セメント材料や、ゴム、樹脂等の高分子材料といったマトリックス材料との混合時の分散性が悪くなるため好ましくない。
【0034】
かさ密度を向上させるためには、繊維長を繊維径で割ることで求めるアスペクト比を小さくすることが効果的であるが、アスペクト比が小さくなりすぎると、補強性能が低下してしまう。十分なアスペクト比を維持したまま、かさ密度を向上させるためには、前述のように、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士が撚られた部分および/または交絡された部分を含むことが好ましい。特に、複数本の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士が、同一方向に配向した状態で撚りおよび/または交絡された部分を含むことが好ましい。
【0035】
〔表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体の製造方法〕
本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、以下の工程を含む製造方法によって、好適に製造することができる。
(1)表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を切断し、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を平均繊維長31~100mmとする工程
(2)上記(1)で得られた平均繊維長31~100mmの表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を、開繊機にて開繊し、開繊品を得る工程
(3)上記(2)で得られた開繊品から、スライバーまたは紡績糸を得る工程
(4)上記(3)で得られたスライバーまたは紡績糸を切断し、本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得る工程
【0036】
なお、上記の工程(1)に供する表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維は、単繊維の複数本が束になったマルチフィラメントである。マルチフィラメント構成する単繊維の本数は、好ましくは50~10000本、さらに好ましくは100~1000本である。
【0037】
工程(1)において、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を切断し、平均繊維長31~100mmとすることは、切断前のマルチフィラメントを、例えばギロチンカット機、ロータリーカット機、裁断機、コンターマシンといった一般的な切断機で切断することで行うことができる。
【0038】
工程(2)において、平均繊維長31~100mmの表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を、開繊機にて開繊し、開繊品を得ることは、反毛機やカード機といった公知の開繊機を用いて開繊することで行うことができる。具体的には、針、ピンやワイヤーが付属された反毛機のローラー上に、平均繊維長31~100mmの表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維(マルチフィラメント)を、1回または複数回通すことで、開繊を行うことが好ましい。反毛機には、金属針またはピンが付属した反毛機を用いることが好ましい。
【0039】
工程(3)において、開繊品からスライバーまたは紡績糸を得る。スライバーは、開繊品を機械方向に引き揃えることで得る。得られたスライバーには、さらに粗紡および/または精紡を行い、粗糸や紡績糸とすることが好ましい。粗紡および/または精紡に用いる紡績機械として、リング精紡機や空気精紡機、ミュール紡績機といった公知の紡績糸を例示することができる。
【0040】
工程(4)において、スライバーや紡績糸を再度切断して所望の繊維長とすることで、本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得ることができる。 この切断は、例えばギロチンカット機やロータリーカット機のような公知の切断機を用いて行うことができる。
【0041】
得られた表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士が撚られた部分および/または交絡された部分を含む表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士の短繊維の集合体である。
【0042】
表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士を強く集束したい場合には、スライバーまたは紡績糸を、工程(3)の後に、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂等をスライバーまたは紡績糸にコーティングする工程を加えてもよい。
【0043】
〔再利用〕
本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、芳香族ポリアミド繊維の製造工場や芳香族ポリアミド繊維を使用する工場で発生する芳香族ポリアミド繊維を含む屑糸および/または芳香族ポリアミド繊維を含む使用済み製品から、好ましく得ることができる。
芳香族ポリアミド繊維は高強度であるため、切断が難しく、紙管やボビンに巻かれた状態以外から精度良く切断することは、従来の方法では難しい。
【0044】
本発明では、屑糸および/または使用済み製品から、一度、繊維長分布のある芳香族ポリアミド繊維の切断品を得た後、スライバーまたは紡績糸といった繊維が一方向に引き揃えられた連続繊維を再度切断することにより、繊維長分布が小さく、補強性能に優れる表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得ることができる。
【0045】
本発明で表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維に用いられるシリコーンオイルおよびワックスは、繊維表面の摩擦係数を下げ、繊維の耐摩耗性を向上させることができ、また水等で容易に脱落することが無い。このため、シリコーンオイルおよびワックスは、ロープやスリングベルトといった用途に用いる芳香族ポリアミド繊維の連続繊維に適用することもできる。
【0046】
そこで、シリコーンオイルおよびワックスが付着した芳香族ポリアミド繊維の連続繊維を、まずロープやスリングベルトの用途に用いた後、摩耗したり紫外線によって劣化したりした表面を除去して、劣化の少ない内部の芳香族ポリアミド繊維の連続繊維から表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の連続繊維を回収し、これを用いて、本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得ることもできる。
【0047】
連続繊維に付着している表面処理剤の付着量が多い場合には、洗浄により本発明の付着量まで落とした後に、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体とすることもできる。
【0048】
〔用途〕
本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、セメント複合材料への配合材として好適に用いることができる。この場合、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、セメント複合材料の全体積あたり、好ましくは0.1~5.0体積%含まれる。0.1体積%未満であると繊維量が少なく十分な補強効果が得られず好ましくなく、5.0体積%を超えると分散が困難となり添加しただけの補強効果が得られないため好ましくない。
【0049】
すなわち、本発明によれば、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体をセメント複合材料の全体積あたり0.1~5.0体積%含むセメント複合材料が提供される。
【0050】
セメント複合材料として、ポルトランドセメントと水から製造される人造スレートやセメントペースト、さらに細骨材を含むモルタル、さらに粗骨材を含むコンクリートを例示することができる。また、酸化カルシウムおよび二酸化ケイ素をセメント成分として用いて、水と反応して得られるケイ酸カルシウム板に用いることもできる。
【0051】
本発明の表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、高分子材料への配合材としても好適に用ることができる。この場合、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体は、高分子材料の全体積あたり、好ましくは0.1~30体積%含まれる。0.1体積%未満であると繊維量が少なく十分な補強効果が得られず好ましくなく、30体積%を超えると分散が困難となり添加しただけの補強効果が得られないため好ましくない。
【0052】
すなわち、本発明によれば、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を高分子材料の全体積あたり0.1~30体積%含む高分子材料が提供される。高分子材料として、ゴムや熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を例示することができる。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
(1)平均繊維長
表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維を、短繊維の集合体から無作為に1本ずつ取り出し、繊維を伸長せずに真っ直ぐな状態で測長した。50本について測長し平均値を求めた。
【0054】
(2)繊維長の変動係数
上記(1)で測長した50本の各繊維長の標準偏差を平均値で割ることで算出した。
【0055】
(3)平均繊維径
JIS A 6208に記載の方法に従い、dtexと密度から算出した。
【0056】
(4)かさ密度
表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体5gを、内径38mmの250mL用メスシリンダーに投入した後、50gの荷重を掛けて、軽く押し込んだ。荷重を除荷した後に、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体の嵩高さをメスシリンダーの目盛から読み取った。サンプル量の5gを嵩高さで割ることで、かさ密度を算出した。
【0057】
(5)生モルタルの流動性
芳香族ポリアミド短繊維をモルタル原料と混練した後に、水平に配置した50cm角のアルミ板上のフローコーン(高さ6cm、下面内径10cm、上面内径7cmの内側がくり貫かれた円錐柱)に生モルタルを摺り切りで注ぎ入れ、フローコーンをゆっくり垂直に引き上げた。このとき生モルタルはアルミ板上に円形に広がる。このときの広がった円形の直径、または円形が歪んでいる場合は最短径と最長径の相加平均をフロー値として計測した。このフロー値は生モルタルの流動性を反映している。
【0058】
(6)モルタル成形物の曲げ強度および曲げ靭性
幅40mm×高さ40mm×長さ160mmの型枠に、生モルタルを打設し、気中で2日間、水中で3日間、また気中で2日間養生して、供試体を製造した。上記供試体を、「JIS-R-5201」に準拠して3点曲げ測定した。より詳しくは、10トン用引張圧縮試験機(株式会社エー・アンド・デイ製、テンシロン万能材料試験機 RTF2410)を用い、支点間距離10cmの中心を2mm/分の速度で圧縮し、曲げ応力-歪みの最大応力を曲げ強度として算出した。また、0mmから4mmの変位に掛けての応力の積分値を曲げ靭性値とした。
【0059】
(7)シリコーンオイルおよびワックスの各付着量
シリコーンオイルおよびワックスを付着させる処理の前後の繊維重量の差異から付着量を算出した。
【0060】
〔実施例1〕
繊維100重量%に対して、シリコーンオイル0.8重量%およびパラフィンワックス2.3重量%が付着したパラ系アラミド繊維(帝人株式会社製、テクノーラ(登録商標))1670dtex1000filamentのマルチフィラメント(単繊維の平均繊維径12μm)である表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を準備した。これは、紙管に巻かれずに段ボールに乱雑に詰められたものである。
【0061】
この表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を、ギロチンカット機にて切断して、平均繊維長40mmの切断品とした。ここで得られた切断品の繊維長分布は、変動係数78%と大きいものであった。
この切断品について、金属針を有する反毛機に3回通し、開繊を行った。その後、カード機にてスライバーを得た後、リング精紡機にて7.9回/インチの撚りを有する英式綿番手5番手(1181dtex)の紡績糸を得た。
【0062】
得られた紡績糸をギロチンカット機にて切断し、平均繊維長6mmの表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得た。得られた短繊維の集合体の物性を表1に示す。この短繊維の集合体を構成する短繊維を目視で確認したところ、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士が撚られた部分および/または交絡された部分を含むものであった。
【0063】
この表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体4.9gを、低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製)1265g、細骨材(三栄シリカ株式会社製、「6号珪砂」)569g、高性能減水剤(BASFジャパン株式会社製、「マスターグレニウム SP8HU」)4.5g、水380gと共に、モルタルミキサー(マルイ製、MIC-362型、容量:5L)を用いて、140rpmの撹拌速度で約3分間混練して生モルタルを得た。
この生モルタルを気中で2日間、水中で3日間、また気中で2日間養生してモルタル成形体を得た。モルタル成形体の評価結果を表1に示す。
【0064】
〔実施例2〕
繊維100重量%に対して、シリコーンオイル3.0重量%およびパラフィンワックス9.0重量%が付着したパラ系アラミド繊維(帝人株式会社製、テクノーラ(登録商標))1670dtex1000filamentのマルチフィラメント(単繊維の平均繊維径12μm)である表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を準備した。これは、紙管に巻かれずに段ボールに乱雑に詰められたものである。
【0065】
その他、実施例1と同様の手順で、平均繊維長6mmの表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得た。得られた短繊維の集合体の物性を表1に示す。この短繊維の集合体を構成する短繊維を目視で確認したところ、表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維同士が撚られた部分および/または交絡された部分を含むものであった。
この短繊維の集合体を用いて、実施例1と同様の手順でモルタル成形体を得た。これを評価した結果を表1に示す。
【0066】
〔実施例3〕
繊維100重量%に対して、シリコーンオイル0.8重量%およびパラフィンワックス2.3重量%が付着したパラ系アラミド繊維(帝人株式会社製、テクノーラ(登録商標))1670dtex1000filamentのマルチフィラメント(単繊維の平均繊維径12μm)である表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を準備した。これは、紙管に巻かれずに段ボールに乱雑に詰められたものである。
【0067】
この表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を、直接、ギロチンカット機にてカットして、平均繊維長6mmの芳香族ポリアミド短繊維の集合体を得た。得られた表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体の物性を表1に示す。さらに、実施例1と同様の手順でモルタル成形体を得た。これを評価した結果を表1に示す。
【0068】
〔比較例1〕
繊維100重量%に対して、シリコーンオイル0.8重量%が付着したパラ系アラミド繊維(帝人株式会社製、テクノーラ(登録商標))1670dtex1000filamentのマルチフィラメント(単繊維の平均繊維径12μm)である表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を準備した。これは、紙管に巻かれずに段ボールに乱雑に詰められたものである。
【0069】
この表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を、直接、ギロチンカット機にてカットして、平均繊維長6mmの表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得た。得られた短繊維の集合体の物性を表1に示す。さらに、実施例1と同様の手順でモルタル成形体を得た。これを評価した結果を表1に示す。
【0070】
〔比較例2〕
繊維100重量%に対して、パラフィンワックス2.3重量%が付着したパラ系アラミド繊維(帝人株式会社製、テクノーラ(登録商標))1670dtex1000filamentのマルチフィラメント(単繊維の平均繊維径12μm)である表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を準備した。これは、紙管に巻かれずに段ボールに乱雑に詰められたものである。
【0071】
この表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維を、直接、ギロチンカット機にてカットして、平均繊維長6mmの表面処理剤付着芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得た。得られた短繊維の集合体の物性を表1に示す。さらに、実施例1と同様の手順でモルタル成形体を得た。これを評価した結果を表1に示す。
【0072】
〔比較例3〕
繊維100重量%に対して、シリコーンオイルもパラフィンワックスも含まず、脂肪酸エステル系の油剤が2重量%付着したパラ系アラミド繊維(帝人株式会社製、テクノーラ(登録商標))1670dtex1000filamentのマルチフィラメント(単繊維の平均繊維径12μm)である芳香族ポリアミド繊維を準備した。これは、紙管に巻かれずに段ボールに乱雑に詰められたものである。
【0073】
この芳香族ポリアミド繊維を、直接、ギロチンカット機にてカットして、平均繊維長6mmの芳香族ポリアミド繊維の短繊維の集合体を得た。得られた短繊維の集合体の物性を表1に示す。さらに、実施例1と同様の手順でモルタル成形体得た。これを評価した結果を表1に示す。
【0074】