(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167782
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】有機系キレート剤及び重金属類を含む排水の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/72 20230101AFI20231116BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20231116BHJP
C02F 1/56 20230101ALI20231116BHJP
【FI】
C02F1/72 Z
C02F1/58 R
C02F1/56 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079241
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】豊島 光康
【テーマコード(参考)】
4D015
4D038
4D050
【Fターム(参考)】
4D015BA19
4D015BA21
4D015BB05
4D015CA17
4D015CA18
4D015DB01
4D015DB14
4D015DC06
4D015EA02
4D015FA01
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4D038AA08
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4D038BA06
4D038BB13
4D038BB16
4D038BB18
4D050AA12
4D050AB05
4D050BB09
4D050BC07
4D050BD02
4D050BD03
4D050BD06
4D050BD08
4D050CA13
4D050CA16
(57)【要約】
【解決課題】生物処理阻害作用のある重金属類及びキレート剤を含有する排水にも適用可能な重金属類を除去する方法を提供する。
【解決手段】有機系キレート剤及び重金属類を含有する排水の処理方法であって、(1)当該排水に、過酸化水素及び塩化第一鉄をFe/H
2O
2のモル当量比0.10以上0.26未満で含むフェントン試薬を添加し、(2)フェントン試薬中のFeに対してCaが0.15倍以上0.45倍以下のモル当量比となるようにカルシウム源を添加し、(3)フェントン試薬及びカルシウム源が添加された排水をpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で曝気処理し、(4)曝気処理後の排水に、両性高分子凝集剤を添加し、pH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で固液分離することを含むことを特徴とする排水の処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機系キレート剤及び重金属類を含有する排水の処理方法であって、
(1)当該排水に、過酸化水素及び第一鉄塩をFe/H2O2のモル当量比0.10以上0.26未満で含むフェントン試薬を添加し、
(2)フェントン試薬中のFeに対してCaが0.15倍以上0.45倍以下のモル当量比となるようにカルシウム源を添加し、
(3)フェントン試薬及びカルシウム源が添加された排水をpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で曝気処理し、
(4)曝気処理後の排水に、両性高分子凝集剤を添加し、pH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で固液分離すること
を含むことを特徴とする排水の処理方法。
【請求項2】
前記重金属類は、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、マンガン、及びカドミウムから選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の排水の処理方法。
【請求項3】
前記排水は、さらにリンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の排水の処理方法。
【請求項4】
有機系キレート剤及び重金属類を含有する排水の処理装置であって、
当該排水に、過酸化水素及び第一鉄塩をFe/H2O2のモル当量比0.10以上0.26未満で含むフェントン試薬を添加するフェントン試薬添加手段と、
フェントン試薬中のFeに対してCaが0.15倍以上0.45倍以下のモル当量比となるようにカルシウム源を添加するカルシウム源添加手段と、
少なくともフェントン試薬が添加された排水をフェントン処理するフェントン処理槽と、
フェントン処理後の排水をpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で曝気処理する曝気処理槽と、
曝気処理後の排水に、両性高分子凝集剤を添加する両性高分子凝集剤添加手段と、
凝集処理後の不溶化された重金属を含む排水をpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で固液分離する固液分離装置と、
を含むことを特徴とする排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機系キレート剤及び重金属類を含む排水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体、電子部品、医療機器、バイオ機器、装飾品等の製品を製造する際にはめっき工程が必要不可欠である。めっき工程から排出される廃液は、重金属類をはじめとする様々な有害物質及び有機物を含有している。廃液中の重金属類の処理としては、アルカリ性条件下で重金属類を不溶化させて凝集沈殿処理を行うことが一般的である。しかし、重金属類に加えてキレート剤を含む廃液は、重金属類がキレート剤と化合しているため、重金属類を不溶化することができず、アルカリ性条件下での凝集沈殿処理では重金属類を除去することができない。
【0003】
キレート剤を含有する廃液の処理方法として、特開2007-125482号公報(特許文献1)に、カルシウム化合物を添加して不溶化物を形成する凝集沈殿処理の前に、微生物により原水中のキレート剤由来の有機成分を分解する方法が提案されている。しかし、廃液に含まれる重金属類及びキレート剤が生物阻害作用を有する場合には、凝集沈殿処理前の生物処理が有効ではない。
【0004】
生物処理及び凝集処理でも除去できない汚染物質を分解する処理として、フェントン試薬を用いたフェントン処理が知られている。フェントン試薬は、過酸化水素水に第一鉄塩を加えた強い酸化力を有する試薬である。一般的には、酸性条件下で、難生物分解性有機物を含む排水にフェントン試薬を添加して、ヒドロキシラジカルを発生させて有機物を分解する。特開2007―130518号公報(特許文献2)には、一般的なフェントン処理の条件は、pH2~4、H2O2[mg/L]/被処理水TOC[mg/L]=3~6、Fe[mg/L]/被処理水TOC[mg/L]=3.5~7であることが記載されている。
【0005】
同公報には、キレート剤を含む排水からフッ素及び/又はリンを除去するために、フェントン法を利用することが開示されている。カルシウム化合物を作用させて不溶化物を形成する前に、第一鉄イオンと過酸化水素の存在下でフェントン処理する工程を設けると、カルシウムキレートの生成を防止して、フッ素及び/又はリンとのカルシウム化合物を形成できるが、第一鉄イオンを大量に必要とするため薬品費が高く、添加した第一鉄塩に起因する水酸化鉄(III)の汚泥が大量に発生するため、薬品費を低減して汚泥の大量発生を防止するために第一鉄イオンを第二鉄イオンまたは第二鉄塩を光触媒に接触させながら光を照射することにより発生させる方法が記載されている。同公報には、フェントン処理時のpHは2~4とすること、カルシウム塩を添加する際のpHは3~12とすること、カルシウム化合物反応後の被処理水にアルミニウム系無機凝集剤を添加してpHを5~8.5とすることが記載されている。大量の第一鉄塩の添加及び大量の汚泥発生を防止するために、光触媒に接触させながら光を照射することが必要であり、処理装置が複雑になる。また、フッ素及び/又はリンを不溶化させるためには、大量のカルシウム塩を必要とする。大量のカルシウム塩の使用は、カルシウムスケール発生のリスクを増大させる。
【0006】
重金属類、キレート剤及びリンを含有する排水を処理する方法は、当該排水に第一鉄を添加して過酸化水素の存在下でフェントン処理するフェントン処理工程と、フェントン処理水に水酸化ナトリウムを添加して過酸化水を除去する曝気工程と、曝気処理後に高分子凝集剤を添加してpHを調整して凝集させ、固液分離する固液分離工程と、を含み、凝集汚泥を固液分離後に別処理設備にて処理する。リンを除去するために、大量の第一鉄を添加することが必要であり、汚泥発生量が増加する。第一鉄塩の添加量を削減するためには、リンをあらかじめ除去することが必要となり、別途処理設備が必要となる。高分子凝集剤を添加して凝集させる際に、pHを4.5~5.0にするとフェントン処理に使用した第一鉄塩を用いてリンを処理することが可能であるが、アルカリ側で処理する必要がある重金属類が残留してしまう。pHを9.0~10.0に調整すると重金属類を除去できるが、リンが残留してしまう。いずれの場合も残留したリン又は重金属類を除去するために別処理設備が必要となる。したがって、従来の処理装置は、追加の処理を行う設備が必要となり、装置全体が大きくなり、複雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-125482号公報
【特許文献2】特開2007―130518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体、配線基板、電子部品等の製造に必要なエッチング工程や無電解ニッケルめっき工程において、銅及びニッケルなどの重金属類及びリンを含む排水が発生する。また、他の工程においてキレート剤を含む排水が発生し、工場排水には重金属類、リン及びキレート剤が含まれる。このような排水から重金属類を除去するために、含有されているキレート剤とは異なる凝集処理用のキレート剤を添加すると、大量のキレート剤が必要となり、また、リンを除去できないことがわかった。陽イオンキレート剤を含む排水の場合、陽イオンキレート剤と錯体を形成している重金属よりも陽イオンキレート剤と選択的に結合するカルシウム塩やマグネシウム塩を添加することで、重金属を分離させ、不溶化させることができる。しかし、強力なキレート剤と錯体を形成している重金属は、カルシウム塩やマグネシウム塩を添加しても重金属との置換が進行せず、重金属はキレート剤と錯体を形成したままとなって分離しないため、不溶化させることができないことがわかった。また、置換できる場合でも大量のカルシウム塩やマグネシウム塩が必要となるため、スケールの問題が発生することがわかった。
【0009】
キレート剤を処理するために、特許文献1に提案されている凝集沈殿処理の前に生物処理を行う方法を検討したが、生物阻害作用を有する銅やキレート剤を含む排水や難分解性有機物を含有する排水には適用できないことがわかった。
【0010】
キレート剤を処理するために、フェントン処理を検討したところ、重金属類を不溶化することができ、アルカリ性条件下での凝集沈殿処理により重金属類を除去することが確認できた。しかし、リンを除去するためには、酸性条件下での凝集沈殿処理が必要であり、鉄試薬を大量に用いる必要があることがわかった。
【0011】
本発明は、生物処理阻害作用のある重金属類及びキレート剤を含有する排水にも適用可能な重金属類を除去する方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、カルシウムスケールの発生を抑制することができる、重金属類及びキレート剤を含有する排水から重金属類を除去する方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本発明は、リンを除去することができる、重金属類及びキレート剤を含有する排水から重金属類を除去する方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、試薬使用量、汚泥発生量及び汚泥体積を削減できる、重金属類及びキレート剤を含有する排水から重金属類を除去する方法を提供することを目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、重金属類及びリンの除去を同一プロセスで行うことができる、小型化された処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、フェントン試薬を用いることによって有機系キレート剤を分解し、有機系キレート剤と結合している重金属類を分離して重金属類を不溶化させ、残留するキレート剤はカルシウムイオンを添加して結合させて
処理することができることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明によれば、下記態様の処理方法及び処理装置が提供される。
[1]有機系キレート剤及び重金属類を含有する排水の処理方法であって、
(1)当該排水に、過酸化水素及び第一鉄塩をFe/H2O2のモル当量比0.10以上0.26未満で含むフェントン試薬を添加し、
(2)フェントン試薬中のFeに対してCaが0.15倍以上0.45倍以下のモル当量比となるようにカルシウム源を添加し、
(3)フェントン試薬及びカルシウム源が添加された排水をpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で曝気処理し、
(4)曝気処理後の排水に、両性高分子凝集剤を添加し、pH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で固液分離する
ことを含むことを特徴とする排水の処理方法。
[2]前記重金属類は、ニッケル、銅、鉛、亜鉛、マンガン、及びカドミウムから選択される1種以上を含むことを特徴とする上記[1]に記載の排水の処理方法。
[3]前記排水は、さらにリンを含むことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の排水の処理方法。
[4]有機系キレート剤及び重金属類を含有する排水の処理装置であって、
当該排水に、過酸化水素及び第一鉄塩をFe/H2O2のモル当量比0.10以上0.26未満で含むフェントン試薬を添加するフェントン試薬添加手段と、
フェントン試薬中のFeに対してCaが0.15倍以上0.45倍以下のモル当量比となるようにカルシウム源を添加するカルシウム源添加手段と、
少なくともフェントン試薬が添加された排水をフェントン処理するフェントン処理槽と
フェントン処理後の排水をpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で曝気処理する曝気処理槽と、
曝気処理後の排水に、両性高分子凝集剤を添加する両性高分子凝集剤添加手段と、
凝集処理後の不溶化された重金属を含む排水をpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で固液分離する固液分離装置と、
を含むことを特徴とする排水の処理装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明の排水処理方法は、生物阻害作用があるキレート剤及び重金属類を含む排水にも適用でき、排水から重金属類を除去することができる。
【0019】
フェントン試薬として添加される鉄に対してカルシウムの添加量を規制することにより、カルシウムのスケールの発生を抑制できる。また、フェントン処理はpH4.0以下で行うため炭酸イオンの残留が少ないフェントン処理液に対してカルシウムを添加することにより、炭酸カルシウムの生成を抑制できる。
【0020】
固液分離時のpHを9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下とすることにより、フェントン処理後の第二鉄イオンとリンイオンとが結合することによるリンの除去効果を維持することができる。また、フェントン試薬に加えて、カルシウム源を添加することにより、リン酸カルシウムが形成されるため、高効率のリン除去が可能となる。さらに、フェントン処理液にカルシウムと錯体を形成し易いキレート剤が残留する場合には、カルシウムを添加することでカルシウム錯体を形成させる、すなわち、キレート剤をカルシウムでマスキングする効果もある。
【0021】
さらに、フェントン試薬として添加する鉄を低減することができ、汚泥発生量を削減でき、汚泥体積を減容化できる。
【0022】
本発明の処理方法によれば、キレート剤、重金属類及びリンを同一プロセスで処理することができるため、装置構成を最小化できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の処理方法を説明する処理フローを示す説明図。
【
図2】本発明の処理装置の装置構成を示す概略説明図。
【
図3】比較例1及び2で用いたフェントン処理のみの処理フローを示す説明図。
【
図4】実施例1~3のCa/FeとCu、Ni及びPの処理水濃度(残留)との関係を示すグラフ。
【好ましい実施形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の有機系キレート剤及び重金属類を含有する排水の処理方法は、
(1)当該排水に、過酸化水素及び第一鉄塩をFe/H2O2のモル当量比0.11以上0.19以下で含むフェントン試薬を添加し、
(2)フェントン試薬中のFeに対してCaが0.15倍以上0.45倍以下のモル当量比となるようにカルシウム源を添加し、
(3)フェントン試薬及びカルシウム源が添加された排水をpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で曝気処理し、
(4)曝気処理後の排水に、両性高分子系凝集剤を添加し、pH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で固液分離する
ことを含むことを特徴とする。
【0026】
図1に、本発明の処理フローを示す。排水にフェントン試薬を添加してフェントン処理を行い、カルシウム源を添加した後に曝気処理を行い、ついで、両性高分子凝集剤を添加して凝集させ、固液分離する。
【0027】
フェントン処理は、過酸化水素(H2O2)が第一鉄イオン(Fe2+)などの金属イオンによってヒドロキシラジカル(HO・)とヒドロキシイオン(OH-)に分解するフェントン反応を利用し、ヒドロキシラジカル(HO・)により有機物を酸化させる方法である。
【0028】
【0029】
本発明の処理方法において、有機系キレート剤及び重金属類を含有する排水をフェントン試薬と反応させることにより、フェントン反応により生じたヒドロキシラジカル(HO・)が、有機系キレート剤を酸化分解して重金属類に対するキレート作用を低減・消失させることで、重金属類を解離させて不溶化させる。ヒドロキシラジカル(HO・)は、有機キレート剤をカルシウムと錯体を形成しやすい形態に変化させ次いでカルシウム源を添加することにより、カルシウム錯体を形成することによって重金属類を解離させて不溶化させる。フェントン処理後にカルシウム源を添加することにより、カルシウムイオン(Ca2+)が排水中のリンと結合してヒドロキシアパタイト(HAP)などのカルシウム塩が形成され、リンを不溶化させる。次いで、高分子凝集剤を添加することにより、不溶化された重金属類及びリンは凝集され、固液分離されて、排水から除去される。
【0030】
フェントン試薬は、過酸化水素及び第一鉄塩をFe/H2O2のモル当量比0.10以上、好ましくは0.10超過、より好ましくは0.11以上、0.26未満、好ましくは0.19以下、より好ましくは0.13以下で含む。Fe/H2O2のモル当量比がこの範囲内であれば、有機系キレート剤を含む排水から、重金属類及びリンを良好に除去でき、汚泥の発生量が増加することも防止できる。第一鉄塩としては、塩化第一鉄、硫酸第一鉄等があげられ、塩化第一鉄を好ましく用いることができる。過酸化水素は、排水に含有されるCODCrのモル当量比で0.50倍以上1.5倍以下、好ましくは1.0倍以上1.5倍以下とすることが望ましい。この範囲内であれば、有機系キレート剤を含む排水から、重金属類及び有機物を除去することができる。
【0031】
フェントン反応はpH4.0以下で生じることから、フェントン試薬を添加した排水のpHは1.5~4.0、好ましくは2.5~3.0に調整することが望ましい。
【0032】
フェントン試薬と排水との反応時間は、一般的には長くすることが必要であるが、本発明による処理では30分でも60分でも同等の効果が得られたことから、30分以上、好ましくは30分以上60分以内とすることが望ましい。
【0033】
フェントン試薬に加えて、カルシウム源を添加する。カルシウム源の添加量は、フェントン試薬中の鉄(Fe)に対してカルシウム(Ca)が0.09倍以上0.45倍以下、好ましくは0.13倍以上0.45倍以下、より好ましくは0.18倍以上0.45倍以下のモル当量比となる量が望ましい。
【0034】
鉄の添加量と、カルシウム源の添加量とは、重金属類を不溶化させて除去することができる比率とすることが好ましい。フェントン試薬中の鉄に対するカルシウムの添加量が、モル当量比でCa/Fe=0.09以上0.45以下の場合には、排水中の銅及びニッケルを除去することができる。モル当量比がCa/Fe=0.18以上0.45以下の場合には、排水中の銅、ニッケル及びリンを効率よく除去することができる。
【0035】
また、Feの濃度比率が一方的に高い場合には、後段の曝気工程におけるカルシウム塩(HAP)の形成または鉄塩(FePO4)の形成が阻害されてしまい、Caの濃度比率が一方的に高い場合には、カルシウムスケールが発生してしまう。よって、Caは50mg/L以上300mg/L以下、好ましくは100mg/L以上250mg/L以下、より好ましくは150mg/L以上200mg/L以下、Feは400mg/L以上900mg/L以下、好ましくは500mg/L以上900mg/L以下、より好ましくは600mg/L以上850mg/L以下となる範囲での添加が好ましい。Feの添加量が多くなるほど排水中の銅、ニッケル及びリンの除去効果は高くなるが、Feの添加量が多いとFe(OH)3主体の汚泥が多量に発生するため、Feの添加量は少量とすることが望ましい。
【0036】
カルシウム源としては、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、が挙げられる。特に安価で入手が容易い水酸化カルシウムを好ましく用いることができる。
【0037】
次いで、フェントン試薬及びカルシウム源が添加された排水をpH9以上10.5以下のアルカリ性条件下で曝気処理する。pH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で曝気することにより、残留する過酸化水素を除去するとともに、カルシウム塩(HAP)を形成させる。過酸化水素は凝集を阻害するため、凝集・固液分離工程の前に除去することが必要である。pH調整は、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を添加することにより行うことができる。なお、曝気処理時に排水中にカルシウムが存在していればよく、カルシウム源の添加は、フェントン処理工程でも曝気処理工程でもよい。
【0038】
曝気処理時間は、過酸化水素を除去し、カルシウム化合物が形成されればよく特に限定されないが、30分以上60分以下が望ましい。曝気処理時間が長くなると、曝気槽内にHAPの付着(スケール)が生じるため、好ましくは50分以下、より好ましくは40分以下が望ましい。
【0039】
次に、曝気処理後の排水に、両性高分子系凝集剤を添加し、不溶化された重金属類及びリンを凝集させ、pH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で固液分離する。固液分離工程を曝気処理工程と同じpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下で行うことにより、曝気処理工程でヒドロキシアパタイト(HAP)及びFePO4が形成されることによるリンの不溶化に加えて、重金属類を不溶化させたまま沈降させることができ、固液分離により、リン及び重金属類を同時に除去することができる。なお、フェントン試薬として添加した鉄が第二鉄イオンとしてリンをFePO4として不溶化させる反応は酸性域で生じるとされているが、本発明においてはpH9.0以上10.5以下のアルカリ性条件下でもFePO4として不溶化できることを実験によって確認している。また、水処理においてはアルカリ性条件下で凝集を行う場合、一般的にアニオン系高分子凝集剤を使用するが、本発明では両性高分子凝集剤を使用することによって、アルカリ性条件下でも凝集性及び固液分離性が優れたフロックが形成されることを実験によって確認している。固液分離は、沈殿池による自然沈降を好ましく用いることができる。
【0040】
両性高分子凝集剤は、カチオン性モノマー単位、アニオン性モノマー単位及びノニオン性モノマー単位の共重合体である。両性高分子凝集剤は、懸濁粒子の中和効果(カチオン)と高分子鎖により絡まりあい(高分子量体)、その絡まりあいをアニオンとカチオンの電荷による静電引力(カチオンとアニオン)により補強できる。本発明で特に効果がある両性高分子凝集剤としては、例えば、ジメチルアミノエチルアクリレートとジメチルアミノエチルメタクリレートの少なくとも一方(いずれも塩化メチル4級化物が好ましい)と、アクリルアミドと、アクリル酸との共重合体を好ましく挙げることができる。
【0041】
本発明の有機系キレート剤及び重金属類を含有する排水の処理装置の概略構成を
図2に示す。本発明の処理装置は、該排水に、過酸化水素及び第一鉄塩をFe/H
2O
2のモル当量比0.10以上0.13以下で含むフェントン試薬を添加するフェントン試薬添加手段12と、フェントン試薬中のFeに対してCaが0.15倍以上0.45倍以下のモル当量比となるようにカルシウム源を添加するカルシウム源添加手段22と、少なくともフェントン試薬が添加された排水をフェントン処理するフェントン処理槽10と、フェントン処理後の排水をpH9以上10.5以下のアルカリ性条件下で曝気処理する曝気処理槽20と、曝気処理後の排水に、両性高分子凝集剤を添加する両性高分子凝集剤添加手段32と、凝集処理後の不溶化された重金属を含む排水をpH9以上10.5以下のアルカリ性条件下で固液分離する固液分離装置30と、を含むことを特徴とする。
【0042】
カルシウム源添加手段22は、フェントン処理後曝気処理前の廃水にカルシウム源を添加することができれば、フェントン処理槽10、曝気処理槽20又はフェントン処理槽から曝気処理槽に排水を送水する配管14にカルシウム源を添加することができるように設けられていればよい。曝気処理槽20に添加するように設けられていることが好ましい。
【0043】
固液分離装置30は、沈殿池など自然沈降による固液分離を行うことができる装置であればよい。両性高分子凝集剤添加手段32は、固液分離対象となる排水に両性高分子凝集剤を添加することができればよく、曝気処理槽20から固液分離装置30に排水を送る配管24又は固液分離装置30に両性高分子凝集剤を添加することができるように設けられていればよい。固液分離装置30に添加するように設けられていることが好ましい。
【0044】
本発明の処理装置は、フェントン処理槽において重金属類を不溶化させ、次いで曝気処理槽においてリンを不溶化させ、凝集・固液分離槽において不溶化させた重金属類とリンを沈降させて固液分離することができ、追加の処理設備が不要であるため、装置構成が簡単である。
【実施例0045】
[フェントン試薬のFe/H2O2比率]
フェントン試薬中のFe/H2O2比率の適正範囲を求めるため、カルシウム源を添加せずに、フェントン処理する際の過酸化水素とFeとの比率を表1に示すように変えて処理対象排水に添加して曝気し、次いでポリアクリル酸エステル系両性高分子凝集剤を添加して凝集及び固液分離を行い、得られた処理水の銅(S-Cu)、ニッケル(S-Ni)、カルシウム(S-Ca)を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)で分析した。また、総リン(S-T-P)は、ペルオキソ二硫酸カリウム分解法によって測定した。
【0046】
処理対象排水として、Niを58.2mg/L、Cuを11.4mg/L含み、総リン(T-P)が94.0mg/Lであり、キレート剤を含む排水を用いた。
フェントン試薬の過酸化水素量は4100mg/Lとし、Fe源として硫酸第一鉄7水和物を用いた。
【0047】
フェントン処理時のpHは2.5、フェントン処理時間は60分、凝集・固液分離時のpHは9.0とした。凝集・固液分離時のpHの調整には、pH調整剤として水酸化ナトリウム及び硫酸を用いた。処理試験条件及び結果を表1に示す。
【0048】
【0049】
表1から、フェントン試薬中のFe/H2O2比率が0.10以上でCu及びNiの除去効果が顕著に改善され、比率が高くなるほどCu、Ni及びPの除去効果が改善されることがわかる。No.6とNo.7の比較から、Fe/H2O2比率が0.19及び0.26におけるCuとNiの除去効果が同等であり、Fe/H2O2比率が0.26の方がPの除去効果が高いが、汚泥の発生が認められる。したがって、フェントン試薬中のFe/H2O2比率は0.10以上0.26未満、好ましくは0.19以下とすることで、汚泥発生を抑制して、キレート剤を含む排水から重金属類及びリンを除去できることが確認できた。
【0050】
[フェントン試薬のFe/H2O2比率とカルシウム源の添加量]
フェントン処理する際の過酸化水素とFeとの比率、水酸化カルシウムの添加量を表2に示すように変えて処理対象排水に添加して曝気し、次いでポリアクリル酸エステル系両性高分子凝集剤を添加して凝集及び固液分離を行い、得られた処理水の銅(S-Cu)、ニッケル(S-Ni)、カルシウム(S-Ca)を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)で分析した。また、総リン(S-T-P)は、ペルオキソ二硫酸カリウム分解法によって測定した。
【0051】
処理対象排水として、Niを62.1mg/L、Cuを11.7mg/L含み、総リン(T-P)が94.0mg/Lであり、キレート剤を含む排水を用いた。
フェントン試薬の過酸化水素量は4100mg/Lとし、Fe源として塩化第一鉄4水和物を用いた。
【0052】
フェントン処理時のpHは2.5、フェントン処理時間は60分、凝集・固液分離時のpHは9.0とした。凝集・固液分離時のpHの調整には、pH調整剤として水酸化ナトリウム及び硫酸を用いた。処理試験条件及び結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
本発明の処理を行うことにより、処理対象排水中の銅、ニッケル及びリンを除去できることがわかる。フェントン試薬中のFe/H2O2の比率は0.10及び0.13のいずれも銅、ニッケル及びリンの除去効果が高いが、水酸化カルシウムを添加しないNo.11とNo.14の対比から、Fe/H2O2の比率を0.1から0.13に増やすと、リンの除去効果は同等であるが、銅及びニッケルの除去効果が顕著に改善されることがわかる。水酸化カルシウムを添加するNo.12とNo.16の対比及びNo.13とNo.17の対比から、Fe/H2O2の比率を0.1から0.13に増やすと、ニッケルとリンの除去効果が顕著に改善されることがわかる。No.16及びNo.17の銅は0.1mg/L未満であり、水酸化カルシウムを添加しないNo.14と比較すると顕著な除去効果があることがわかる。Fe/H2O2の比率が同じNo.11~No.13の対比及びNo.14~17の対比から、水酸化カルシウムの添加量が100mg/L以下よりも200mg/L及び300mg/Lで銅、ニッケル及びリンの除去効果が顕著に改善されることがわかる。以上の結果から、フェントン試薬中のFe/H2O2の比率は0.10以上0.13以下で特に良好な重金属類及びリンの除去効果があることが確認できた。
【0055】
[実施例1~3及び比較例1~2]
図1に示す本発明の処理方法(実施例1~3)及び
図3に示す処理方法(比較例1~2)に従い、薬品注入量を表3に示すように変えて、処理対象排水を処理し、処理水中の銅(S-Cu)、ニッケル(S-Ni)、をICPで分析し、スラッジ総量(vol%)、及び汚泥発生量(g/L)を測定した。総リン(S-T-P)はペルオキソ二硫酸カリウム分解法によって測定した。
【0056】
処理対象排水として、Niを62.1mg/L、Cuを11.7mg/L含み、総リン(T-P)が94.0mg/Lであり、キレート剤を含む排水を用いた。
実施例1~3及び比較例1ではFeCl2・4H2Oを3000mg/L、H2O2を4100mg/L含むフェントン試薬(Fe/H2O2=0.13)を用い、比較例2ではFeSO4・7H2Oを8200mg/L、H2O2を4100mg/L含むフェントン試薬(Fe/H2O2=0.24)を用いた。
【0057】
実施例及び比較例ともに、曝気処理工程においてpH調整剤としてNaOHを2000mg/L添加して曝気し、凝集及び固液分離工程はpH9.0に調整して自然沈降分離させた。処理試験条件及び試験結果を表3に示す。なお、表3中、Fe/H2O2及びCa/Feは、それぞれモル当量比を示す。
【0058】
【0059】
[比較例1]
図3に示すフェントン処理のみを行った。フェントン処理工程においてFeCl
2・4H
2Oを3000mg/L、H
2O
2を4100mg/L含むフェントン試薬を排水に添加し、曝気処理工程においてNaOHを2000mg/L添加して曝気し、ポリアクリル酸エステル系両性高分子凝集剤を添加し、凝集・固液分離工程はpH9.0で自然沈降分離させた。処理水のS-T-Pは24.1mg/L、S-Cuは1.7mg/L、S-Niは9.4mg/L、スラッジは34.3vol%、汚泥発生量は1.6g/Lであった。スラッジが多く、凝集性が安定していなかった。
【0060】
[比較例2]
フェントン試薬としてFeSO4・7H2Oを8200mg/L添加し、曝気処理工程においてNaOHを3300mg/L添加した以外は比較例1と同様に処理した。処理水のS-T-Pは2.0mg/L、S-Cuは0.1mg/L未満、S-Niは0.2mg/Lと残留量が非常に減少して除去効果が認められたが、スラッジは55.0vol%、汚泥発生量は3.2g/Lと大幅に増加した。水酸化カルシウムを添加せずに、Cu、Ni及びPをすべて不溶化して除去するためには、Feの添加量を1650mg/L以上とする必要があることがわかった。
【0061】
[実施例1]
フェントン試薬として添加するFeに対するCaのモル当量比Ca/Feが0.09となるように、
図1の曝気工程においてCa(OH)
2を100mg/L添加した。曝気工程の排水のpHは9.0に調整し、両性高分子凝集剤を添加して、pH9.0に維持したまま、自然沈降により固液分離した。処理水のS-T-Pは15.1mg/L、S-Cuは1.4mg/L、S-Niは8.4mg/Lであり、比較例1よりもCu、Ni及びPの残留量は減少しており、重金属類及びリンの除去が改善されていることがわかる。特に、リンの除去率は比較例1よりも約9.6ポイントも改善された。本発明の処理方法では、比較例2の鉄の添加量1650mg/Lの約半分の848mg/LでCu、Ni及びPを不溶化させて除去できることがわかった。
【0062】
[実施例2]
フェントン試薬として添加するFeに対するCaのモル当量比Ca/Feが0.18となるように、
図1の曝気工程においてCa(OH)
2を200mg/L添加した以外は実施例1と同様に処理した。処理水のS-T-Pは4.3mg/L、S-Cuは0.1mg/L未満、S-Niは0.3mg/Lであり、比較例1よりもCu、Ni及びPの残留量が大幅に減少しており、重金属類及びリンの除去が非常に改善されていることがわかる。特に、リンの除去率は比較例1よりも約21ポイントも改善された。
【0063】
[実施例3]
フェントン試薬として添加するFeに対するCaのモル当量比Ca/Feが0.27となるように、
図1の曝気工程においてCa(OH)
2を300mg/L添加した以外は実施例1と同様に処理した。処理水のS-T-Pは2.0mg/L、S-Cuは0.1mg/L未満、S-Niは0.9mg/L未満であり、比較例1よりもCu、Ni及びPの残留量が大幅に減少しており、重金属類及びリンの除去が非常に改善されていることがわかる。特に、リンの除去率は比較例1よりも約21ポイントも改善された。スラッジは25.0vol%、汚泥発生量は1.9g/Lであり、比較例2よりもスラッジは30ポイント、汚泥発生量は40.6ポイント改善が見られ、大幅に減容化されていることがわかる。また、鉄の添加量が同等である比較例1よりもスラッジは9.3ポイント改善しており、凝集性が安定したことがわかる。
【0064】
実施例1~3のCa/Feモル当量比と処理水中Cu、Ni及びPの残留量との関係を
図4に示す。
図4より、Cu、Ni及びPのすべてを減少させるためには、Ca/Feモル当量比を0.9以上とすることが必要で、Ca/Feモル当量比が0.18でNi及びPがほぼ検出されない程度に除去され、Ca/Feモル当量比が0.27以上でCuが90%以上除去されることがわかる。