(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167785
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】光学的情報読取装置
(51)【国際特許分類】
G06K 7/10 20060101AFI20231116BHJP
H04N 23/60 20230101ALI20231116BHJP
【FI】
G06K7/10 408
G06K7/10 372
H04N5/232 290
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079244
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【弁理士】
【氏名又は名称】田下 明人
(74)【代理人】
【識別番号】100143454
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 克彦
(72)【発明者】
【氏名】深谷 量崇
【テーマコード(参考)】
5C122
【Fターム(参考)】
5C122DA04
5C122DA22
5C122EA06
5C122EA56
5C122FA06
5C122FD10
5C122FH10
5C122FH11
5C122FH14
5C122FK35
5C122GC75
5C122HA88
5C122HB05
5C122HB06
(57)【要約】
【課題】フォーカス調整機構を要することなく、複数の距離変化画像データを生成してそれぞれ評価した評価結果に基づいて許容距離を演算可能な構成を提供する。
【解決手段】読取成功時の撮像部23と情報コードCとの距離を基準距離Xoとして当該読取成功時の画像データをベース画像データとするとき、画像データ生成距離Xkを基準距離Xoから変えた複数の距離変化画像データが、ベース画像データからそれぞれ生成される。そして、生成された複数の距離変化画像データのそれぞれについて読み取り易さが評価されると、この評価結果に基づいて情報コードの読み取りに関して許容される当該情報コードと撮像部23との距離が許容距離として演算されて、この許容距離に関する情報が通知される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに印字された情報コードを光学的に読み取る固定式の光学的情報読取装置であって、
撮像手段と、
前記撮像手段により前記情報コードが撮像された画像データをデコードして読み取る読取手段と、
前記読取手段による読取成功時の前記撮像手段と前記情報コードとの距離を基準距離として当該読取成功時の画像データをベース画像データとするとき、前記撮像手段と前記情報コードとの距離を前記基準距離から変えた複数の距離変化画像データを、前記ベース画像データからそれぞれ生成する距離変化画像データ生成手段と、
前記距離変化画像データ生成手段により生成された複数の前記距離変化画像データのそれぞれについて前記読取手段による読み取り易さを評価する評価手段と、
前記評価手段の評価結果に基づいて前記情報コードの読み取りに関して許容される当該情報コードと前記撮像手段との距離を許容距離として演算する許容距離演算手段と、
前記許容距離演算手段により演算された前記許容距離に関する情報を通知する通知手段と、
を備えることを特徴とする光学的情報読取装置。
【請求項2】
前記許容距離は、前記評価手段による評価結果が所定の閾値条件を満たしている距離であって、前記情報コードと前記撮像手段との距離が最も近くなる第1の距離と前記情報コードと前記撮像手段との距離が最も遠くなる第2の距離との間となるように演算されることを特徴とする請求項1に記載の光学的情報読取装置。
【請求項3】
前記所定の閾値条件を設定可能な閾値条件設定手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の光学的情報読取装置。
【請求項4】
前記閾値条件設定手段は、外部機器からの指示に応じて前記所定の閾値条件を設定することを特徴とする請求項3に記載の光学的情報読取装置。
【請求項5】
前記許容距離演算手段は、前記情報コード及び前記撮像手段の距離と読み取りに関して許容される最も近い前記情報コード及び前記撮像手段の距離との差分である近点余裕度を演算し、
前記通知手段は、前記許容距離演算手段により演算された前記近点余裕度に関する情報を通知することを特徴とする請求項1に記載の光学的情報読取装置。
【請求項6】
前記許容距離演算手段は、前記情報コード及び前記撮像手段の距離と読み取りに関して許容される最も遠い前記情報コード及び前記撮像手段の距離との差分である遠点余裕度を演算し、
前記通知手段は、前記許容距離演算手段により演算された前記遠点余裕度に関する情報を通知することを特徴とする請求項1に記載の光学的情報読取装置。
【請求項7】
前記撮像手段は、フォーカス調整機構を備え、
前記ベース画像データは、前記基準距離が前記フォーカス調整機構によって前記情報コードに前記撮像手段のフォーカスを合わせた距離となる状態での読取成功時の画像データであることを特徴とする請求項1に記載の光学的情報読取装置。
【請求項8】
前記基準距離を取得する基準距離取得手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の光学的情報読取装置。
【請求項9】
前記距離変化画像データ生成手段は、前記距離変化画像データが作成される前記撮像手段からの距離を画像データ生成距離とするとき、前記撮像手段のベストフォーカス位置からの距離と錯乱円径との関係から前記画像データ生成距離に応じて求められる錯乱円径と前記画像データ生成距離及び前記撮像手段の画角から求められる画像の拡大率とに基づいて、前記複数の距離変化画像データを前記ベース画像データからそれぞれ生成することを特徴とする請求項1に記載の光学的情報読取装置。
【請求項10】
前記通知手段は、前記許容距離演算手段により前記許容距離が演算された後に、前記撮像手段により撮像された前記情報コードと当該撮像手段との距離と前記許容距離との差が所定距離以下となる場合に所定の警告を通知することを特徴とする請求項1に記載の光学的情報読取装置。
【請求項11】
前記通知手段は、前記所定の警告を視覚的に通知することを特徴とする請求項10に記載の光学的情報読取装置。
【請求項12】
前記通知手段は、前記所定の警告を外部機器に送信することで通知することを特徴とする請求項10に記載の光学的情報読取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報コードを光学的に読み取る光学的情報読取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、QRコード(登録商標)などの情報コードを印字したワークが製造ラインを搬送される際に、その情報コードを製造ラインに設置される固定式の光学的情報読取装置で光学的に読み取る運用がなされている。このような運用では、情報コードにフォーカスを合わせることで、ぼけることなく撮像された情報コードの撮像画像から読み取るべき情報を安定して読み取ることができる。ところで、読取距離(光学的情報読取装置の撮像手段から情報コードまでの距離)がベストフォーカスとなる距離から近点側又は遠点側に多少ずれた情報コードであれば安定して読み取ることができても、ワークの大きさの違いや位置ずれなどに起因して読取距離がばらつくと読み取りが不安定になる場合がある。そして、このような読取距離のばらつきが大きくなると、情報コードの読み取りに失敗してしまうという問題がある。
【0003】
このため、例えば、下記特許文献1に開示される光学的情報読取装置が知られている。この光学的情報読取装置では、フォーカス調整機構における調整量を複数通りに変化させたときに、調整量ごとに取得された各画像データについてデコード結果が取得される。そして、調整量を換算して得られる読み取り距離とデコード結果との対応関係に基づいて許容深度(許容距離:所望の読取成功率を達成可能な距離の範囲)が演算され、このように演算された許容深度がユーザ等に提示されることで、安定した情報コードの読み取りを維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のようにフォーカス調整機構の調整量を複数通りに変化させることで許容距離(許容深度)を演算する構成では、フォーカス調整機構が必須となり、フォーカス調整機構を備えていない光学的情報読取装置では通知すべき許容距離を演算できないという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、フォーカス調整機構を要することなく、複数の距離変化画像データを生成してそれぞれ評価した評価結果に基づいて許容距離を演算可能な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲の請求項1に記載の発明は、
ワーク(W)に印字された情報コード(C)を光学的に読み取る固定式の光学的情報読取装置(10)であって、
撮像手段(23)と、
前記撮像手段により前記情報コードが撮像された画像データをデコードして読み取る読取手段(21)と、
前記読取手段による読取成功時の前記撮像手段と前記情報コードとの距離を基準距離(Xo)として当該読取成功時の画像データをベース画像データとするとき、前記撮像手段と前記情報コードとの距離(Xk)を前記基準距離から変えた複数の距離変化画像データを、前記ベース画像データからそれぞれ生成する距離変化画像データ生成手段(21)と、
前記距離変化画像データ生成手段により生成された複数の前記距離変化画像データのそれぞれについて前記読取手段による読み取り易さ(S)を評価する評価手段(21)と、
前記評価手段の評価結果に基づいて前記情報コードの読み取りに関して許容される当該情報コードと前記撮像手段との距離を許容距離として演算する許容距離演算手段(21)と、
前記許容距離演算手段により演算された前記許容距離に関する情報を通知する通知手段(25)と、
を備えることを特徴とする。
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明では、読取手段による読取成功時の撮像手段と情報コードとの距離を基準距離として当該読取成功時の画像データをベース画像データとするとき、撮像手段と情報コードとの距離を基準距離から変えた複数の距離変化画像データが、ベース画像データから距離変化画像データ生成手段によりそれぞれ生成される。そして、生成された複数の距離変化画像データのそれぞれについて読取手段による読み取り易さが評価手段により評価されると、この評価結果に基づいて情報コードの読み取りに関して許容される当該情報コードと撮像手段との距離が許容距離として許容距離演算手段により演算されて、この許容距離に関する情報が通知手段により通知される。
【0009】
これにより、フォーカス調整機構の調整量を変化させるごとに撮像して画像データを生成することなく、1つのベース画像データから複数の距離変化画像データを生成することができる。したがって、フォーカス調整機構を要することなく、複数の距離変化画像データを生成してそれぞれ評価した評価結果に基づいて許容距離を演算して通知することができる。
【0010】
請求項2の発明のように、許容距離は、評価手段による評価結果が所定の閾値条件を満たしている距離であって、情報コードと撮像手段との距離が最も近くなる第1の距離と情報コードと撮像手段との距離が最も遠くなる第2の距離との間となるように演算されてもよい。
【0011】
請求項3の発明では、上記所定の閾値条件を設定可能な閾値条件設定手段を備えるため、光学的情報読取装置が採用される環境等に合わせるように閾値条件を設定することができる。
【0012】
請求項4の発明では、閾値条件設定手段は、外部機器からの指示に応じて上記所定の閾値条件を設定するため、ユーザが設定値等を都度入力操作する必要もないので、閾値条件の設定に関して利便性を高めることができる。
【0013】
請求項5の発明では、許容距離演算手段により、情報コード及び撮像手段の距離と読み取りに関して許容される最も近い情報コード及び撮像手段の距離との差分である近点余裕度が演算されて、この近点余裕度に関する情報が通知手段により通知される。これにより、この通知を受けたユーザ等は、近点余裕度を明確に把握することができる。
【0014】
請求項6の発明では、許容距離演算手段により、情報コード及び撮像手段の距離と読み取りに関して許容される最も遠い情報コード及び撮像手段の距離との差分である遠点余裕度が演算されて、この遠点余裕度に関する情報が通知手段により通知される。これにより、この通知を受けたユーザ等は、遠点余裕度を明確に把握することができる。
【0015】
請求項7の発明では、ベース画像データは、基準距離がフォーカス調整機構によって情報コードに撮像手段のフォーカスを合わせた距離となる状態での読取成功時の画像データである。これにより、ベース画像データは情報コードがぼけることなく撮像された画像データであると判断できるだけでなく、複数の距離変化画像データを生成すべき距離が明確になるので、各距離変化画像データの生成に関する処理負荷を軽減することができる。
【0016】
請求項8の発明では、基準距離を取得する基準距離取得手段を備えるため、ベース画像データが、フォーカスを合わせた距離で撮像された画像データ又はフォーカスを合わせた距離からどの程度離れた距離で撮像された画像データであるか容易に把握できる。このようにベース画像データが撮像された距離(基準距離)が明確になることから、基準距離が取得されない場合と比較して、複数の距離変化画像データを生成すべき距離が明確になるので、各距離変化画像データの生成に関する処理負荷を軽減することができる。
【0017】
請求項9の発明では、距離変化画像データが作成される撮像手段からの距離を画像データ生成距離とするとき、距離変化画像データ生成手段により、撮像手段のベストフォーカス位置からの距離と錯乱円径との関係から画像データ生成距離に応じて求められる錯乱円径と画像データ生成距離及び撮像手段の画角から求められる画像の拡大率とに基づいて、複数の距離変化画像データがベース画像データからそれぞれ生成される。
【0018】
光学系により集光された画素単位での光の錯乱円径は、ベストフォーカス位置となる読取距離で最も小さく、ベストフォーカス位置から離れるほど大きくなってぼけた画像となる。ベストフォーカス位置から近点側に離れる場合と遠点側に離れる場合とで錯乱円径の変化度合いが異なり、その変化度合いは光学系の構成に依存する。光学系の構成が既知であると、錯乱円径の変化度合いを事前に把握でき、ベストフォーカス位置を基準とする任意の読取距離での錯乱円径を算出することができる。
【0019】
このため、撮像手段の光学系に関する錯乱円径の変化度合いをその光学系の構成に基づいて把握できるので、ある画像データ生成距離での距離変化画像データを、ベース画像データを各画素で上記画像データ生成距離での錯乱円径に応じてぼけるように補正した後に上記拡大率に応じて拡大縮小するようにして生成することができる。そして、画像データ生成距離を変えることで、複数の距離変化画像データを1つのベース画像データから生成することができる。
【0020】
請求項10の発明では、許容距離演算手段により許容距離が演算された後に、撮像手段により撮像された情報コードと当該撮像手段との距離と許容距離との差が所定距離以下となる場合に、通知手段により所定の警告が通知される。これにより、上記所定の警告を受けたユーザ等に対して、安定した読み取りを実施するために、撮像手段から情報コードまでの距離(読取距離)の変更を促すことができる。
【0021】
請求項11の発明では、通知手段は、上記所定の警告を視覚的に通知するため、上記所定の警告を受けたユーザ等は、警告の有無だけでなくその警告のレベル等も容易に視認することができる。
【0022】
請求項12の発明では、通知手段は、上記所定の警告を外部機器に送信することで通知するため、上記外部機器を管理する管理者等に対しても、安定した読み取りを実施するための読取距離の変更等を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態に係る光学的情報読取装置を概略的に示す説明図である。
【
図2】光学的情報読取装置の電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【
図3】読取距離によって変化する読取安定度を説明する説明図である。
【
図4】読取距離によって変化する錯乱円径を説明する説明図である。
【
図5】読取距離によって変化する拡大率を説明する説明図である。
【
図6】基準距離がベストフォーカス位置となる読取距離に一致する状態で情報コードが撮像される状態を説明する説明図である。
【
図7】
図7(A)は、
図7(B)のベース画像データを近点側にずらすようにして作成した距離変化画像データを説明する説明図であり、
図7(B)は、ベストフォーカス位置となる読取距離で撮像されたベース画像データを説明する説明図であり、
図7(C)は、
図7(B)のベース画像データを遠点側にずらすようにして作成した距離変化画像データを説明する説明図である。
【
図8】基準距離がベストフォーカス位置となる読取距離からずれた状態で情報コードが撮像される状態を説明する説明図である。
【
図9】取得した基準距離から当該基準距離での錯乱円径を求める過程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態]
以下、本発明の光学的情報読取装置を具現化した第1実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る光学的情報読取装置10は、情報コード(バーコードやQRコード等)や文字情報等を光学的に読み取る固定式の情報読取装置である。具体的には、
図1に示すように、光学的情報読取装置10は、ワークWに印字される情報コードCを読取対象とするように、ワークWが搬送される搬送路上に配置されており、読取結果等を上位端末100に送信するように構成されている。なお、情報コードCは、ダイレクトマーキング(DPM)によってワークWに直接加工されることで付されてもよいし、印刷などによってワークWに印字されることで付されてもよい。
【0025】
図1に示すように、光学的情報読取装置10の外郭を構成する筐体11は、略直方体状に形成されており、その前面には、表示部25の表示画面や操作部26の操作スイッチ等が配置されている。また、筐体11の下面には、情報コード等からの反射光を筐体11内に取り込むための読取口が設けられている。
【0026】
図2に示すように、光学的情報読取装置10は、全体制御を司る制御部21、半導体メモリ等からなる記憶部22、読取口を介して情報コード等を撮像するカメラとして構成される撮像部23、撮像部23による撮像視野に対して照明光を照射する照明部24、制御部21によって表示内容が制御される表示部25、操作スイッチ等に対する入力操作に応じた操作信号を制御部21に出力する操作部26、上位端末100等の外部機器と通信するための通信部27や、電源部など(図示略)を備えている。なお、本実施形態における撮像部23は、フォーカス調整機構を有しない「撮像手段」の一例に相当し得る。
【0027】
このように構成される光学的情報読取装置10では、撮像部23にて搬送路上を順次搬送されるワークWの情報コードCが撮像され、制御部21にてなされる読取処理により情報コードCが撮像された画像データをデコードして読み取る読取処理がなされる。この読取処理の読取結果は、所定のタイミングにて通信部27を介して上位端末100に送信される。なお、上記読取処理を行う制御部21は、「読取手段」の一例に相当し得る。
【0028】
本実施形態では、上述した読取処理を開始する前に、
図3に示すように、光学的情報読取装置10の撮像部23からテストワークの情報コードCまでの距離(以下、単に、読取距離Xともいう)によって変化する読取安定度Sを示すグラフが後述するように作成される。読取安定度Sは、制御部21にてなされる読取処理での撮像回数及びデコード成功数等の関係から求められる情報コードの読み取り易さを示す指標であって、撮像部23のベストフォーカスとなる位置(読取距離)付近で最も高くなり、このベストフォーカス位置から近点側又は遠点側に離れるほど撮像画像に生じるぼけの影響が大きくなるために低下する。なお、撮像される情報コードの状態や周囲環境等によっては、ある程度ボケた状態で読取安定度Sが高くなる場合もあり、ベストフォーカスとなる位置が最も読取安定度Sが高くなるとは限らない。
【0029】
本実施形態では、
図3に示すように、読取安定度Sが予め設定される所定の閾値St以上となる読取距離Xのうち、最も近くなるものを近点側限界距離Xt1、最も遠くなるものを遠点側限界距離Xt2として、近点側限界距離Xt1と遠点側限界距離Xt2との間となる読取距離Xが許容距離として演算される。このように演算された近点側限界距離Xt1及び遠点側限界距離Xt2は、許容距離に関する情報として記憶部22に記憶される。なお、近点側限界距離Xt1及び遠点側限界距離Xt2を許容距離に関する情報として演算する処理を行う制御部21は、「許容距離演算手段」の一例に相当し得る。また、所定の閾値Stは、「所定の閾値条件」の一例に相当し、近点側限界距離Xt1は、評価結果が所定の閾値条件を満たしている距離であって、情報コードCと撮像部23との距離が最も近くなる「第1の距離」の一例に相当し得る。また、遠点側限界距離Xt2は、評価結果が所定の閾値条件を満たしている距離であって、情報コードCと撮像部23との距離が最も遠くなる「第2の距離」の一例に相当し得る。
【0030】
このため、上述のように演算された許容距離に関する情報が、表示部25又はこの情報を通信部27を介して受信した上位端末100にて画面表示等を利用して通知されることで、この通知を受けたユーザ等は、情報コードCを安定して読み取ることができる許容距離を、実際にワークWを搬送する前に把握することができる。さらに、実際にワークWが搬送される際には、撮像された情報コードCまでの読取距離Xが上記許容距離内であると、その情報コードCを安定して読み取れると判断される。一方、撮像された情報コードCまでの読取距離Xが上記許容距離内でないと、その情報コードCを安定して読み取れないと判断される。
【0031】
特に、本実施形態では、撮像部23に関する近点側限界距離Xt1及び遠点側限界距離Xt2を求めるための読取安定度Sのグラフ(
図3参照)を、テストワークの情報コードCを撮像して読取が成功した際の1つの画像データに基づいて生成する。光学的情報読取装置10がフォーカス調整機構を有しないため、同じ情報コードCに対して読取距離Xを自由に変えることができないからである。
【0032】
具体的には、制御部21にてなされる距離変化画像データ生成処理により、読取成功時の撮像部23と情報コードCとの距離を基準距離Xoとして当該読取成功時の画像データをベース画像データとし、撮像部23と情報コードCとの距離(以下、画像データ生成距離Xkともいう)を基準距離Xoから変えた複数の画像データ(以下、距離変化画像データともいう)を、ベース画像データからそれぞれ生成する。なお、上記距離変化画像データ生成処理を行う制御部21は、「距離変化画像データ生成手段」の一例に相当し得る。
【0033】
以下、ベース画像データから複数の距離変化画像データを生成する生成方法について、図面を参照して詳述する。
光学系により集光された画素単位での光の錯乱円径Rは、
図4に例示するように、ベストフォーカス位置となる読取距離Xfで最も小さく、ベストフォーカス位置から離れるほど大きくなってぼけた画像となる。ベストフォーカス位置から近点側に離れる場合と遠点側に離れる場合とで錯乱円径Rの変化度合いが異なり、その変化度合いは光学系の構成に依存する。光学系の構成が既知であると、
図4に例示する錯乱円径Rの変化度合いを事前に把握でき、ベストフォーカス位置(読取距離Xf)を基準とする任意の読取距離Xでの錯乱円径Rを算出することができる。
【0034】
このため、光学的情報読取装置10に採用される撮像部23の光学系に関する錯乱円径Rの変化度合いをその光学系の構成に基づいて把握できるので、ある画像データ生成距離Xkでの距離変化画像データを、ベース画像データを各画素で上記画像データ生成距離Xkでの錯乱円径Rに応じてぼけるように補正した後に後述する拡大率に応じて拡大縮小するようにして生成することができる。例えば、
図4に例示するように、画像データ生成距離X1での錯乱円径R1を求めることができる。そうすると、画像データは画素単位での光の点の集合体であるため、画像データ生成距離X1での距離変化画像データを、ベストフォーカス位置となる読取距離Xfでの画像データ(ベース画像データ)を各画素で錯乱円径R1に応じてぼけるように補正した後に後述する拡大縮小処理を行うことで(いわゆるフィルタ処理を行うことで)、生成することができる。同様にして異なる画像データ生成距離Xkでの距離変化画像データを、ベストフォーカス位置となる読取距離Xfでの画像データを各画素でその画像データ生成距離Xkでの錯乱円径Rに応じてぼけるように補正した後に拡大縮小処理を行うことで、生成することができる。
【0035】
そして、撮像部23の画角は一定であるため、上述した拡大縮小処理では、
図5に例示するように、ベストフォーカス位置となる読取距離Xfを基準として、読取距離Xに応じて線形的に増減する拡大率(縮小率)に基づいて、画像データが拡大縮小される。
【0036】
例えば、
図6に示すように、テストワークの情報コードCがベストフォーカス位置となる読取距離Xfにあることから、
図7(B)に示すように、情報コードCがぼけていない画像データがベース画像データとして撮像される場合を想定する(Xo=Xf)。この場合、近点側にずらした画像データ生成距離X1(
図6参照)での距離変化画像データは、ベース画像データの各画素を画像データ生成距離X1に基づいて演算される錯乱円径Rに応じてぼけるように補正した後に、画像データ生成距離X1に基づいて演算される拡大率に応じて拡大されることで、
図7(A)に例示するように生成される。また、遠点側にずらした画像データ生成距離X2(
図6参照)での距離変化画像データは、ベース画像データの各画素を画像データ生成距離X2に基づいて演算される錯乱円径Rに応じてぼけるように補正した後に、画像データ生成距離X2に基づいて演算される拡大率に応じて縮小されることで、
図7(C)に例示するように生成される。
【0037】
このようにして、ベストフォーカス位置での画像データから、近点側に徐々に離れる所定数(例えば10個)の距離変化画像データと遠点側に徐々に離れる所定数(例えば10個)の距離変化画像データとが生成されると、制御部21により評価処理がなされる。この評価処理では、各距離変化画像データについて読取処理による読み取り易さがそれぞれ評価されることで、画像データ生成距離Xkごとに読取安定度Sが算出される。なお、上記評価処理を行う制御部21は、「評価手段」の一例に相当し得る。
【0038】
これにより、読取距離Xによって変化する読取安定度Sを示すグラフを作成することができ、このグラフから許容距離に関する情報として近点側限界距離Xt1及び遠点側限界距離Xt2を上述したように演算することができる。そして、このように演算された許容距離に関する情報が、表示部25又はこの情報を通信部27を介して受信した上位端末100にて画面表示等を利用して通知されることで、この通知を受けたユーザ等は、情報コードCを安定して読み取ることができる許容距離を、実際にワークWを搬送する前に把握することができる。なお、表示部25又は通信部27は、許容距離に関する情報を通知する「通知手段」の一例に相当し得る。
【0039】
なお、光学的情報読取装置10がフォーカス調整機構を有しないために、
図8に例示するように、ベストフォーカス位置となる読取距離Xfからずれた基準距離Xoにてテストワークの情報コードCが撮像されて、この情報コードCの読取が成功する場合もある。この場合には、操作部26による入力操作又は通信部27を介した上位端末100からの指示等に応じて基準距離Xoに関する情報が取得されることで、この情報を利用して読取安定度Sを示すグラフを作成することができる。なお、操作部26又は通信部27は、基準距離Xoを取得する「基準距離取得手段」の一例に相当し得る。
【0040】
具体的には、上述したように撮像部23の光学系に関する錯乱円径Rの変化度合いを予め把握できるので、
図9に例示するように、取得した基準距離Xoに対応する錯乱円径Roを求めることができる。そして、各画像データ生成距離Xkでの距離変化画像データを、ベース画像データの各画素を各画像データ生成距離Xkに基づいてそれぞれ演算される錯乱円径Rに応じてぼけるように補正した後に、その画像データ生成距離Xkに基づいて演算される拡大率に応じて拡大縮小することで、生成することができる。このようにして生成された複数の距離変化画像データから読取安定度Sを示すグラフが作成されると、このグラフから許容距離に関する情報として近点側限界距離Xt1及び遠点側限界距離Xt2を上述したように演算することができる。
【0041】
基準距離Xoに関する情報が取得されない場合でも、そのベース画像データのぼけ程度から求めた錯乱円径Rと予め取得している錯乱円径Rのグラフとに基づいて基準距離Xoを算出することもできるが、ベース画像データのぼけ具合等によっては、基準距離Xoの算出精度が低くなるだけでなく、距離変化画像データの生成に関する処理負荷が増大する場合も想定される。
【0042】
このため、上述したように基準距離Xoを取得することで、ベース画像データが、フォーカスを合わせた距離で撮像された画像データ又はフォーカスを合わせた距離からどの程度離れた距離で撮像された画像データであるか容易に把握できる。このように基準距離Xoが明確になることから、基準距離Xoが取得されない場合と比較して、複数の距離変化画像データを生成すべき画像データ生成距離Xkが明確になるので、各距離変化画像データの生成に関する処理負荷を軽減することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係る光学的情報読取装置10では、読取成功時の撮像部23と情報コードCとの距離を基準距離Xoとして当該読取成功時の画像データをベース画像データとするとき、画像データ生成距離Xkを基準距離Xoから変えた複数の距離変化画像データが、ベース画像データからそれぞれ生成される。そして、生成された複数の距離変化画像データのそれぞれについて読み取り易さが評価されると、この評価結果に基づいて情報コードの読み取りに関して許容される当該情報コードと撮像部23との距離が許容距離として演算されて、この許容距離に関する情報が通知される。
【0044】
これにより、フォーカス調整機構の調整量を変化させるごとに撮像して画像データを生成することなく、1つのベース画像データから複数の距離変化画像データを生成することができる。したがって、フォーカス調整機構を要することなく、複数の距離変化画像データを生成してそれぞれ評価した評価結果に基づいて許容距離を演算して通知することができる。
【0045】
特に、距離変化画像データが作成される撮像部23からの距離を画像データ生成距離Xkとするとき、撮像部23のベストフォーカス位置からの距離と錯乱円径Rとの関係から画像データ生成距離Xkに応じて求められる錯乱円径Rと画像データ生成距離Xk及び撮像部23の画角から求められる画像の拡大率とに基づいて、複数の距離変化画像データがベース画像データからそれぞれ生成される。
【0046】
上述したように、撮像部23の光学系に関する錯乱円径Rの変化度合いをその光学系の構成に基づいて把握できるので、ある画像データ生成距離Xkでの距離変化画像データを、ベース画像データを各画素で上記画像データ生成距離Xkでの錯乱円径Rに応じてぼけるように補正した後に上記拡大率に応じて拡大縮小するようにして生成することができる。そして、画像データ生成距離Xkを変えることで、複数の距離変化画像データを1つのベース画像データから生成することができる。
【0047】
なお、上述のように許容距離に関する情報として近点側限界距離Xt1及び遠点側限界距離Xt2を通知する際、基準距離Xoと近点側限界距離Xt1との差分である近点余裕度を演算して、このように演算された近点余裕度に関する情報をあわせて通知してもよい。同様に、基準距離Xoと遠点側限界距離Xt2との差分である遠点余裕度を演算して、このように演算された遠点余裕度に関する情報を許容距離に関する情報にあわせて通知してもよい。これにより、この通知を受けたユーザ等は、許容距離だけでなく近点余裕度や遠点余裕度をも明確に把握することができる。なお、近点余裕度は、実際に撮像された情報コードC及び撮像部23の距離と、読み取りに関して許容される最も近い情報コードC及び撮像部23の距離との差分に相当し、遠点余裕度は、実際に撮像された情報コードC及び撮像部23の距離と、読み取りに関して許容される最も遠い情報コードC及び撮像部23の距離との差分に相当し得る。
【0048】
なお、制御部21にてなされる閾値条件設定処理にて、操作部26に対する所定の操作に応じて、近点側限界距離Xt1及び遠点側限界距離Xt2を求めるための所定の閾値Stを設定可能に構成されてもよい。これにより、光学的情報読取装置10が採用される環境等に合わせるように所定の閾値Stを設定することができる。
【0049】
上記閾値条件設定処理では、上位端末100などの外部機器からの指示に応じて所定の閾値Stが設定されてもよい。これにより、ユーザが操作部26に対して設定値等を都度入力操作する必要もないので、所定の閾値Stの設定に関して利便性を高めることができる。
【0050】
また、上述のように許容距離等が演算された後に、ワークWが搬送路上を順次搬送される運用中であって、撮像部23により撮像された情報コードCと当該撮像部23との距離が距離センサ等を利用して取得されることで、この距離と上記許容距離の近点側限界距離Xt1又は遠点側限界距離Xt2との差が所定距離以下となる場合に、所定の警告を通知してもよい。
【0051】
具体的には、例えば、情報コードCまでの距離が近点側限界距離Xt1に近くなると、表示部25による画面表示等を利用して、情報コードCが光学的情報読取装置10に近すぎるために情報コードCを安定して読み取れなくなる可能性があることを視覚的に報知することができる。これにより、上記所定の警告を受けたユーザ等に対して、安定した読み取りを実施するために、撮像部23から情報コードCまでの距離の変更を促すことができる。特に、上記所定の警告が視覚的に通知されるため、その警告のレベル等もあわせて表示されることで、上記所定の警告を受けたユーザ等は、警告の有無だけでなくその警告のレベル等も容易に視認することができる。
【0052】
また、例えば、情報コードCまでの距離が遠点側限界距離Xt2に近くなると、その旨を通信部27を介して上位端末100に送信することで、情報コードCが光学的情報読取装置10から離れすぎるために情報コードCを安定して読み取れなくなる可能性があることを、上位端末100を管理する管理者等に対して報知することができる。これにより、上記管理者等に対しても、安定した読み取りを実施するための読取距離の変更等を促すことができる。
【0053】
なお、本発明は上記各実施形態等に限定されるものではなく、例えば、以下のように具体化してもよい。
(1)本発明は、上述したようにフォーカス調整機構を有しない光学的情報読取装置10に適用されることに限らず、フォーカス調整機構を有する光学的情報読取装置に適用されてもよい。この構成では、ベース画像データを、基準距離Xoがフォーカス調整機構によって情報コードCに撮像部23のフォーカスを合わせた距離となる状態での読取成功時の画像データとすることができる。この場合には、ベース画像データは情報コードCがぼけることなく撮像された画像データであると判断できるだけでなく、複数の距離変化画像データを生成すべき画像データ生成距離Xkが明確になるので、各距離変化画像データの生成に関する処理負荷を軽減することができる。
【0054】
(2)本発明は、搬送路上を搬送されるワークWに付された情報コードCを読み取る光学的情報読取装置10に適用されることに限らず、所定の撮像ポイントを順次通過する移動体にそれぞれ付された情報コードを光学的に読み取る固定式の光学的情報読取装置に適用されてもよい。
【0055】
(3)ベース画像データから複数の距離変化画像データを生成する生成方法として、上述した錯乱円径Rの変化度合いを利用して生成する生成方法が採用されることに限らず、画像データ生成距離Xkごとにぼけ及び拡大縮小等を反映して生成する他の生成方法が採用されてもよい。
【0056】
10…光学的情報読取装置
21…制御部(読取手段,評価手段,距離変化画像データ生成手段,許容距離演算手段,閾値条件設定手段)
23…撮像部(撮像手段)
25…表示部(通知手段)
26…操作部(基準距離取得手段)
27…通信部(通知手段,基準距離取得手段)
100…上位端末(外部機器)
C…情報コード
R…錯乱円径
S…読取安定度(読み取り易さ)
St…所定の閾値(所定の閾値条件)
X…読取距離
Xk…画像データ生成距離
Xo…基準距離
Xt1…近点側限界距離(第1の距離)
Xt2…遠点側限界距離(第2の距離)
W…ワーク