(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167788
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】地絡検出装置の健全性試験装置および健全性試験方法
(51)【国際特許分類】
H02H 3/33 20060101AFI20231116BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20231116BHJP
H02H 3/16 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H02H3/33
G01R31/00
H02H3/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079248
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富岡 和也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 拓馬
【テーマコード(参考)】
2G036
5G004
【Fターム(参考)】
2G036AA19
2G036BA34
5G004AA02
5G004AB02
5G004BA01
5G004CA08
5G004DA01
5G004DC11
(57)【要約】
【課題】地絡検出装置全体の健全性を試験する装置および方法を提供する。
【解決手段】交流電路が貫通するように配置された零相変流器と、該零相変流器の2次巻線からの出力が所定値を超えるときに動作する前記交流電路の漏電リレーと、該漏電リレーの出力に応じて前記交流電路を遮断する遮断器と、を備える地絡検出装置の健全性試験装置であって、前記零相変流器を貫通して、または、前記零相変流器に巻き付けて配される試験導線と、該試験導線に疑似地絡信号を流す可搬電源と、前記疑似地絡信号の電流値を測定する電流計と、を備え、前記可搬電源が交流電流を増減できるように回路内に可変抵抗を有する試験装置である。さらに、前記疑似地絡信号を発してから前記漏電リレーが前記遮断器に所定の信号を出力するまでの経過時間の計測手段を備えることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電路が貫通するように配置された零相変流器と、
該零相変流器の2次巻線からの出力が所定値を超えるときに動作する前記交流電路の漏電リレーと、
該漏電リレーの出力に応じて前記交流電路を遮断する遮断器と、を備える地絡検出装置の健全性試験装置であって、
前記零相変流器を貫通して、または、前記零相変流器に巻き付けて配される試験導線と、
該試験導線に疑似地絡信号を流す可搬電源と、
前記疑似地絡信号の電流値を測定する電流計と、を備え、
前記可搬電源が交流電流を増減できるように回路内に可変抵抗を有する、
地絡検出装置の健全性試験装置。
【請求項2】
さらに、前記疑似地絡信号を発してから前記漏電リレーが前記遮断器に所定の信号を出力するまでの経過時間の計測手段を備える、請求項1に記載の地絡検出装置の健全性試験装置。
【請求項3】
交流電路が貫通するように配置された零相変流器と、
該零相変流器の2次巻線からの出力が所定値を超えるときに動作する前記交流電路の漏電リレーと、
該漏電リレーの出力に応じて前記交流電路を遮断する遮断器と、を備える地絡検出装置の健全性試験方法であって、
前記零相変流器を貫通するように、または、前記零相変流器に巻き付けるように試験導線を配し、
可搬電源から疑似地絡信号として電流値を増加させながら交流電流を前記試験導線に流し、
前記疑似地絡信号を所定の電流値で流した時に、前記漏電リレーが前記遮断器に対し所定の信号を出力することを健全性の判断とする、地絡検出装置の健全性試験方法。
【請求項4】
さらに、所定の電流値の前記疑似地絡信号を発してから、前記漏電リレーが前記遮断器に対し所定の信号を出力するまでの経過時間が所定時間以内にあることを健全性の判断とする、請求項3に記載の地絡検出装置の健全性試験方法。
【請求項5】
あらかじめ、前記可搬電源が前記疑似地絡信号として所定の電流値を出力することを確認する、請求項3または4に記載の地絡検出装置の健全性試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は別回路から電源を取り出し実際に使用している電圧より降圧し、疑似漏電を使用して地絡検出装置(ZCTから漏電リレー入力側までの間)の健全性を確認し地絡事故を防止する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレーンなどの動力を使用する工場では、送電された高電圧の交流を使用電圧に降圧する高圧盤、工場内設備に給電する電気室に気中遮断器(以下、ACBともいう。)およびクレーン用電源盤に地絡検出装置を配して、地絡事故を防止している。
【0003】
図4に例示するように、地絡検出装置1は、通常、交流電路が貫通するように配置された零相変流器2(以下、ZCTともいう。)と、該零相変流器2の2次巻線からの出力が所定値を超えるときに動作する前記交流電路の漏電リレー3と、該漏電リレー3の出力に応じて前記交流電路を遮断する遮断器としての過電流遮断器4(以下、NFB(ノーフューズブレーカー)ともいう)とで構成されている。一般に漏電リレー3のテストボタンは、漏電リレー3の出力がNFB4を確実に動作させ、交流電路を瞬時に遮断するかどうかを試験するものである。
【0004】
地絡検出装置が正常に作動しないと、ACBや高圧盤が地絡を検出してしまい工場全体の電源を遮断することになる。そうすると配線を焼損したり、工場の操業が停止したりしてしまい、原因究明などで復帰に時間がかかってしまうおそれがあった。
【0005】
たとえば、特許文献1には、疑似電流回路を具える漏電遮断器が開示されている。この漏電遮断器はテストボタンですべての回路を点検できるようになっている。
【0006】
また、特許文献2には、漏電リレー本体からZCTに疑似信号を送って動作チェックが行える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007- 96616号公報
【特許文献2】特開2003-274550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術には以下の問題があった。
特許文献1に記載の技術は、漏電遮断器にかかるものであり、そのまま地絡検出器には適用できない。また、特許文献2に記載の技術は、ZCTの2次巻線を使用しており、交流電路内の地絡をZCTが確実に検出できるか、確認できていない問題があった。つまり、ZCTから漏電リレー入力側までの点検ができていなかった。さらに、従来の点検では、地絡の発生から交流電路の遮断までの時間を把握できていなかった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、ZCTから漏電リレー入力側まで、および、地絡検出装置全体の健全性を試験する装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するための、本発明にかかる地絡検出装置の健全性試験装置は、交流電路が貫通するように配置された零相変流器と、該零相変流器の2次巻線からの出力が所定値を超えるときに動作する前記交流電路の漏電リレーと、該漏電リレーの出力に応じて前記交流電路を遮断する遮断器と、を備える地絡検出装置の健全性試験装置であって、前記零相変流器を貫通して、または、前記零相変流器に巻き付けて配される試験導線と、該試験導線に疑似地絡信号を流す可搬電源と、前記疑似地絡信号の電流値を測定する電流計と、を備え、前記可搬電源が交流電流を増減できるように回路内に可変抵抗を有することを特徴とする。
【0011】
なお、本発明にかかる地絡検出装置の健全性試験装置は、さらに、前記疑似地絡信号を発してから前記漏電リレーが前記遮断器に所定の信号を出力するまでの経過時間の計測手段を備えることがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するための、本発明にかかる地絡検出装置の健全性試験方法は、交流電路が貫通するように配置された零相変流器と、該零相変流器の2次巻線からの出力が所定値を超えるときに動作する前記交流電路の漏電リレーと、該漏電リレーの出力に応じて前記交流電路を遮断する遮断器と、を備える地絡検出装置の健全性試験方法であって、前記零相変流器を貫通するように、または、前記零相変流器に巻き付けるように試験導線を配し、可搬電源から疑似地絡信号として電流値を増加させながら交流電流を前記試験導線に流し、前記疑似地絡信号を所定の電流値で流した時に、前記漏電リレーが前記遮断器に対し所定の信号を出力することを健全性の判断とすることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明にかかる地絡検出装置の健全性試験方法は、
(a)さらに、所定の電流値の前記疑似地絡信号を発してから、前記漏電リレーが前記遮断器に対し所定の信号を出力するまでの経過時間が所定時間以内にあることを健全性の判断とすること、
(b)あらかじめ、前記疑似地絡信号が所定の電流値を出力することを確認すること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる地絡検出装置の健全性試験装置および方法によれば、地絡検出装置全体の健全性を試験できるようになったので、地絡検出装置の故障による地絡検出漏れの地絡事故を未然に防止できるため、地絡による重大トラブルを抑制できるようになった。また、地絡検出装置の漏電リレーやZCTの交換に際し、確実に作動することを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる地絡検出装置の健全性試験装置の概略構成を表す回路図である。
【
図2】上記実施形態にかかる地絡検出装置の健全性試験装置の装置構成を示す模式詳細図である。
【
図3】上記実施形態にかかる地絡検出装置の健全性試験装置を用いて疑似地絡信号を発してから交流電路を遮断するまでの経過時間の計測結果を示すグラフであって、(a)は機側配電盤の地絡検出装置の作動例を示し、(b)は電気室のACBの作動例を示す。
【
図4】従来の地絡検出装置の概略構成を表す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
まず、
図1および
図2に基づき、本発明の実施の形態にかかる地絡検出装置の健全性試験装置の構成について説明する。
図1は、地絡検出装置および試験装置の概略構成を示す回路図である。
図2は、試験装置の構成の模式詳細図である。
【0018】
地絡検出装置1は、ZCT2と漏電リレー3と交流電路の遮断器としてのNFB4とからなる。交流電路の給電側5からクレーンなどの受電側6に向かって、NFB4、ZCT2の順に配されている。ZCT2の2次巻線の出力が漏電リレー3の入力端子に接続されている。通常はバランスが取れている三相交流の相間電流のいずれかの相に地絡が発生すると、その相に過剰に電流が流れる。ZCT2はその過剰の電流により発生した交流磁界を検知して漏電リレー3に出力し、漏電リレー3がNFB4に交流電路の遮断の出力を行う。
【0019】
本実施形態の試験装置10は、ZCT2を貫通して配された試験導線11と、試験導線に交流電流を流すための可搬電源20と、試験導線11に流す電流値を計測する電流計12と、を備える。また、本実施形態では、経過時間を計測するための計測手段としてストップウォッチ30を備えている。試験導線11はZCT2に複数回巻き付けるように配されていてもよい。たとえば、可搬電源20、電流計12および経過時間の計測手段30は、持ち運び可能なケース等にまとめて納めておくことが好ましい。あわせて、試験導線11も収納できるようにすることが好ましい。
【0020】
本実施形態の可搬電源20は、乾電池などの直流電源21と、起動スイッチ22と、起動を確認する起動LED23と、直流電気を交流電気に変換する正弦波インバータ24と、交流電圧を所定の出力電圧に変換するトランス25と、所定の出力電流値に調整する電気抵抗器26および可変抵抗器27と、ヒューズ28と、試験導線11に接続するためのコネクタ29と、をもつ。また、試験導線11への出力の途中に地絡信号を発するためのプッシュボタン7および電流計12をもつ。たとえば、直流電圧をDC12Vとし、正弦波インバータ24の出力をAC100Vとし、試験導線11への出力電圧をAC17V、電気抵抗器26を20Ωとして、出力電流を最大で0.85Aとすることができる。電気抵抗器26に直列に配した可変抵抗27により、試験導線11に流す電流値を増減することができる。
【0021】
本実施形態のストップウォッチ30は、時間計測の開始および停止のための回路を構成するスタート/ストップ端子30と、時間の計測およびリセットのための回路を構成するリセット/ラップ端子32と、をもつ。また、時間計測の開始および停止のための回路には、疑似地絡信号と連動したプッシュボタン7をもつ。リセット/ラップ端子32は漏電リレー3の出力端子にコネクタ34で接続されている。また、リセットプッシュボタン33によってストップウォッチ30がリセットできるようになっている。コネクタ34の一方がワニ口クリップであってもよい。
【0022】
上記試験装置10を用いた地絡検出装置1の健全性試験方法について説明する。漏電リレー3-NFB4間の点検は既設の回路で実行できるため省略する。
【0023】
試験回路を構成するため、試験導線11はZCT2を貫通するようにセットする。ZCT2に複数回巻き付けてもよい。
次に、可搬電源20のコネクタ29に試験導線11の両端を接続する。ストップウォッチ30のリセット/ラップ端子32の回路のコネクタ34を漏電リレー3の出力端子に接続する。
【0024】
可搬電源20の起動スイッチ22を接続し、起動LED23の点灯を確認する。
疑似地絡信号を発するためのプッシュボタン7を押しながら、可変抵抗27を操作し、試験導線11に流す出力電流を増加させる。
漏電リレー3がNFB4に地絡検出信号を出力し、NFB4が交流電路を遮断した電流値を確認する。この電流値が所定の電流値を超えていたり、所定の電流値を超えても漏電リレーが作動しないときは、ZCT2-漏電リレー3間に不良があると判断し、所要の措置を行う。たとえば、断線の点検、ZCT2や漏電リレー3の交換を実施する。
なお、前記の所定の電流値とは各遮断器で漏電として検出される任意の電流の設定値であり、たとえばNFBでの検出に異常があればACBや高圧盤が地絡を検出してしまい工場全体の電源を遮断することになったり、配線を焼損したり、工場の操業が停止したりしてしまうことが発生する。
【0025】
漏電リレー3が作動する電流値が所定値以内にあれば、その電流値に可変抵抗27を固定する。
一旦、可搬電源20の起動スイッチ22を解放し、起動LED23の消灯を確認する。
リセットプッシュボタン33でストップウォッチ30をリセットする。
NFB4を復帰させる。
あらためて、可搬電源20の起動スイッチ22を接続し、起動LEDの点灯を確認する。
疑似地絡信号のプッシュボタン7を押し、NFB4の遮断までの経過時間をストップウォッチ30で計測する。
経過時間が所定値以内であれば、地絡検出装置1は正常であると判断する。
【0026】
本実施形態の試験装置を用いた経過時間の測定結果を
図3に示す。
図3(a)の例では、試験導線11への出力電流0.2AでNFB4が交流電路を遮断した。この地絡検出装置の動作時間は0.1sであり、上流の電気室内ACBが作動して電源を遮断するまで動作時間や、高圧盤の電源を遮断するまで動作時間より短くなっている。健全な地絡検出装置では、疑似地絡信号を発してから検出設定値以内の〇印(実線)でNFB4が交流電路を遮断した。一方、×印(破線)で示すものは、ACBや高圧盤が作動する時間よりNFB4が交流電路を遮断するまでの経過時間が長く、地絡検出装置1が不良であると判断した。なお、前記の地絡検出装置1の動作時間0.1sは、漏電リレーで規定される動作時間の例である。実際に検出するまでの時間が動作時間よりも大きくなると、上流側のACBや高圧盤の遮断機が作動し工場全体の停電などにつながる。本試験装置及び試験方法ではこの動作時間以内に地絡検出が働くことを確認することを目的としている。この地絡検出装置の動作時間は、漏電リレーの規格であるJIS C8374:1991で規定される動作時間、具体的には、高速形:0.1s以内、時延形:0.1s超え2s以内ならびに反限時形:定格感度電流およびその倍数によって定められた動作時間とすることが好ましい。なお、本試験装置および試験方法は、既設の地絡検出装置の点検だけでなく、ZCT2や漏電リレー3、NFB4の交換時に適用することが好ましい。
【0027】
上記実施形態では、地絡検出装置の遮断器として、過電流遮断器、つまり、NFBを例に説明したが、本発明は、
図3(b)に示すように遮断器が気中遮断器、つまり、ACBの場合にも適用できる。ACBの作動電流設定値および所定動作時間に合わせて、可搬電源や電流計、抵抗器、可変抵抗などを所望の容量のものに変更すればよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明にかかる地絡検出装置の健全性試験装置および健全性試験方法によれば、地絡検出装置全体の健全性を試験できるようになったので、地絡検出装置の故障による地絡検出漏れの地絡事故を未然に防止できるため、地絡による重大トラブルを抑制できるので、生産性向上に寄与し産業上有用である。
【符号の説明】
【0029】
1 地絡検出装置
2 零相変流器(ZCT)
3 漏電リレー
4 過電流遮断器(NFB)
5 給電側
6 受電側
7 プッシュボタン(PB1)(連動)
10 試験装置
11 試験導線
12 電流計
20 可搬電源
21 直流電源(乾電池)
22 起動スイッチ
23 起動LED
24 正弦波インバータ
25 トランス
26 電気抵抗器
27 可変抵抗
28 ヒューズ
29 コネクタ
30 時間計測手段(ストップウォッチ)
31 スタート/ストップ端子
32 リセット/ラップ端子
33 リセットプッシュボタン
34 コネクタ