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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167795
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電極昇降制御装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 7/152 20060101AFI20231116BHJP
   F27B 3/28 20060101ALI20231116BHJP
   F27D 11/10 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H05B7/152
F27B3/28
F27D11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079261
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】金子 徳男
【テーマコード(参考)】
4K045
4K063
【Fターム(参考)】
4K045AA04
4K045BA01
4K045DA02
4K045RA09
4K045RB02
4K045RB08
4K063AA04
4K063AA12
4K063BA02
4K063BA03
4K063CA01
4K063FA53
4K063FA66
4K063FA74
4K063FA78
(57)【要約】
【課題】スクラップの溶解の効率を最適化した電極昇降制御装置を提供する。
【解決手段】実施形態の電極昇降制御装置は、アーク電流およびアーク電圧にもとづいて、算出された実測インピーダンスから、あらかじめ設定された基準インピーダンスを差し引いてインピーダンス偏差を算出し、前記インピーダンス偏差に対する前記電極の昇降速度の速度基準を表す操業速度基準特性にもとづいて、前記電極を昇降させる電動機を駆動するインバータに前記速度基準を出力するインバータ目標速度設定手段と、を備える。前記操業速度基準特性は、前記インピーダンス偏差が0の場合に前記操業速度基準が0となり、前記インピーダンス偏差が0でない場合に前記操業速度基準が0でなく、前記インピーダンス偏差に対する前記操業速度基準の傾きが0以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極とスクラップとの間に形成されるアーク放電により前記スクラップを溶解する交流アーク炉の前記電極を昇降制御する電極昇降制御装置であって、
前記電極に流れるアーク電流および前記電極と前記スクラップとの間のアーク電圧にもとづいて、実測インピーダンスを算出し、前記実測インピーダンスから、あらかじめ設定された基準インピーダンスを差し引いてインピーダンス偏差を算出するインピーダンス偏差演算手段と、
前記インピーダンス偏差に対する前記電極の昇降速度の速度基準である操業速度基準を表す操業速度基準特性にもとづいて、前記電極との機械的な結合により前記電極を昇降させる電動機を駆動するインバータに前記操業速度基準を出力するインバータ目標速度設定手段と、
を備え、
前記操業速度基準特性は、
前記インピーダンス偏差が0の場合に前記操業速度基準が0であり、前記インピーダンス偏差が0よりも大きく正の第1しきい値よりも小さく、かつ、前記インピーダンス偏差が0よりも小さく負の第2しきい値よりも大きい範囲の高精度制御特性を有し、
前記第1しきい値および前記第2しきい値で連続し、前記第1しきい値以上および前記第2しきい値以下の範囲で係数が正となる線形特性を有する第1感度特性を有し、
前記高精度制御特性は、前記第1感度特性の前記係数よりも小さい微分係数を有する範囲を含み、
前記範囲は、前記インピーダンス偏差が0よりも大きく前記第1しきい値よりも小さい第3しきい値から、前記第1しきい値までの範囲と、前記インピーダンス偏差が前記第2しきい値から、前記第2しきい値より大きく0よりも小さい第4しきい値までの範囲と、を含む電極昇降制御装置。
【請求項2】
前記電動機の回転速度および回転方向にもとづいて前記電極の位置を算出して出力する電極位置測長手段と、
前記電極の位置にもとづいて、前記操業速度基準または前記操業速度基準の大きさよりも大きい値を有する高速速度基準のいずれかを選択して前記インバータ目標設定手段に出力するインバータ運転制御手段と、
をさらに備え、
前記インバータ運転制御手段は、
前記電極の位置があらかじめ設定された減速完了位置よりも前記スクラップに近い場合に前記操業速度基準を選択して出力し、
前記電極の位置が前記減速完了位置よりも前記スクラップから遠い場合に前記高速速度基準を選択して出力する請求項1記載の電極昇降制御装置。
【請求項3】
前記高速速度基準が選択された場合に、加速時に第1加速時速度基準変化率および減速時に第1減速時速度基準変化率を適用して前記高速速度基準として逐次出力し、
前記操業速度基準が選択された場合に、加速時に第2加速時速度基準変化率および減速時に第2減速時速度基準変化率を適用して前記操業速度基準として逐次出力するインバータ加減速設定切替手段をさらに備え、
前記第2減速時速度基準変化率は、前記第1加速時速度基準変化率よりも大きく、
前記第2減速時速度基準変化率は、前記第1減速時速度基準変化率よりも大きい請求項2記載の電極昇降制御装置。
【請求項4】
前記インバータ運転制御手段は、
前記高速速度基準を選択した場合には、前記第1加速時速度基準変化率に応じて設定された第1電流制限値を適用し、
前記操業速度基準を選択した場合には、前記第2加速時速度基準変化率に応じて設定された第2電流制限値を適用し、
前記第1電流制限値と前記第1加速時速度基準変化率との積は、前記第2電流制限値と前記第2加速時速度基準変化率との積と等しい請求項3記載の電極昇降制御装置。
【請求項5】
前記第2加速時速度基準変化率では、加速の初期および終期の変化率は、前記加速の初期と前記加速の終期との間の前記加速の中期の変化率よりも小さく、
前記第2減速時速度基準変化率では、減速の初期および終期の変化率は、前記減速の初期と前記減速の周期との間の減速の中期の変化率よりも小さい請求項3または4に記載の電極昇降制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、交流アーク炉の電極昇降制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流アーク炉では、電極とスクラップとの間のアーク放電によって、スクラップを溶解する。電極昇降制御装置は、電極とスクラップとの間の距離を調整することによってアーク放電を維持して、スクラップを加熱し溶解する。
【0003】
電極昇降制御装置は、たとえば電極とスクラップとの間のインピーダンスを一定に制御するインピーダンス一定制御が適用される。インピーダンス一定制御では、電極を昇降させて、インピーダンスの実測値を目標値に追従させる制御を行う。
【0004】
インピーダンスの目標値と実測値との偏差が小さい場合に、インピーダンスの実測値を目標値に追従させようとすると、電極の昇降動作がハンチングし、挙動が不安定になることがある。そのため、インピーダンスの偏差ΔZが小さい場合には、不感帯を設けて、電極の昇降を停止することが行われる。
【0005】
インピーダンス一定制御において不感帯を設けると、機械制御系の安定性は向上するが、最適なアーク放電下でのスクラップへの効率的なエネルギー投入がなされているとは限らない。アーク放電の状態によっては、アーク電流が減少し、スクラップへのエネルギー投入が不足してスクラップの溶解に要する時間が長くなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-126417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、スクラップの溶解の効率を最適化した電極昇降制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、電極とスクラップとの間に形成されるアーク放電により前記スクラップを溶解する交流アーク炉の前記電極を昇降制御する電極昇降制御装置である。この電極昇降制御装置は、前記電極に流れるアーク電流および前記電極と前記スクラップとの間のアーク電圧にもとづいて、実測インピーダンスを算出し、前記実測インピーダンスから、あらかじめ設定された基準インピーダンスを差し引いてインピーダンス偏差を算出するインピーダンス偏差演算手段と、前記インピーダンス偏差に対する前記電極の昇降速度の速度基準である操業速度基準を表す操業速度基準特性にもとづいて、前記電極との機械的な結合により前記電極を昇降させる電動機を駆動するインバータに前記操業速度基準を出力するインバータ目標速度設定手段と、を備える。前記操業速度基準特性は、前記インピーダンス偏差が0の場合に前記操業速度基準が0となり、前記インピーダンス偏差が0から正の第1しきい値よりも小さく、かつ、前記インピーダンス偏差が負の第2しきい値よりも大きい範囲の高精度制御特性を有し、前記第1しきい値および前記第2しきい値で連続し、前記第1しきい値以上および前記第2しきい値以下の範囲で係数が正となる線形特性を有する第1感度特性を有する。前記高精度制御特性は、前記第1感度特性の前記係数よりも小さい微分係数を有する範囲を含み、前記範囲は、前記インピーダンス偏差が0よりも大きく前記第1しきい値よりも小さい第3しきい値から、前記第1しきい値までの範囲と、前記インピーダンス偏差が前記第2しきい値から、前記第2しきい値より大きく0よりも小さい第4しきい値までの範囲と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
実施形態によれば、スクラップの溶解の効率を最適化した電極昇降制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る電極昇降制御装置を例示する模式的なブロック図である。
図2】実施形態に係る電極昇降制御装置の動作を説明するための模式図である。
図3】実施形態に係る電極昇降制御装置の動作を説明するための模式図である。
図4】実施形態に係る電極昇降制御装置の動作を表すグラフ図である。
図5】実施形態に係る電極昇降制御装置の動作を説明するための模式図である。
図6】実施形態の変形例に係る電極昇降制御装置の動作を説明するための模式図である。
図7】比較例に係る電極昇降制御装置の動作の特性を表すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係る電極昇降制御装置を例示する模式的なブロック図である。
図1には、電極昇降制御装置6のほか、電極昇降制御装置6によって昇降制御される電極2を含む交流アーク炉の一部が表されている。交流アーク炉において、炉用変圧器1は、交流母線に接続されている。電極2は、炉用変圧器1の2次側に接続されている。電極2の下方には、炉体3が配置されており、炉体3にはスクラップ4が装入される。炉用変圧器1の2次側には、内蔵型の変流器15が設けられており、変流器15は、電極2とスクラップ4との間に流れるアーク電流IFBを検出する。変流器15は、炉用変圧器1に流れる線電流を検出できれば、内蔵型に限らない。補助変圧器16は、電極2とスクラップ4との間のアーク電圧VFBを検出するように炉用変圧器1の2次側に接続されている。
【0013】
電動機8は、図1の破線で簡易的に示される電極昇降機構を介して、電極2に機械的に結合されている。電極2は、電動機8の回転方向に応じて、炉体3に装入されたスクラップ4に近づくように下降し、スクラップ4から遠ざかるように上昇する。
【0014】
電極昇降制御装置6は、変流器15および補助変圧器16に接続されている。電極昇降制御装置6は、変流器15によって検出されたアーク電流IFBおよび補助変圧器16によって検出されたアーク電圧VFBのそれぞれの検出値を入力する。
【0015】
電極昇降制御装置6は、電動機8を駆動するインバータ7に接続されている。インバータ7は、電動機8の回転速度および回転方向に応じて生成されるパルス信号PCを電極昇降制御装置6に出力する。
【0016】
電極昇降制御装置6は、アーク電流IFBおよびアーク電圧VFBにもとづいて実測インピーダンスZFBを算出する。電極昇降制御装置6は、パルス信号PCにもとづいて電極2の位置を推定する。電極昇降制御装置6は、電極2が高速昇降領域にある場合には、実測インピーダンスZFBにかかわらず、高速速度基準V1*をインバータ7に出力する。電極昇降制御装置6は、電極2が操業領域にある場合には、実測インピーダンスZFBが、あらかじめ設定された基準インピーダンスZREFに追従するように、操業速度基準V2*をインバータ7に出力する。高速昇降領域および操業領域は、電極2が昇降する領域であり、操業領域は、高速昇降領域よりもスクラップ4に近い領域である。高速速度基準V1*の上限値は、操業速度基準V2*の上限値よりも十分大きく設定されている。
【0017】
インバータ7は、電動機8に設けられた速度センサから速度フィードバック信号VFBKを取得する。インバータ7は、速度フィードバック信号VFBKが電極昇降制御装置6から出力された高速速度基準V1*または操業速度基準V2*に追従するように、電動機8を駆動し、電極2を昇降させる。
【0018】
なお、交流アーク炉では、電極2は、3相交流の各相に少なくとも1本ずつ設けられる。各相に設けられた電極2は、それぞれ電極昇降制御装置6によって、上述の電極昇降制御が実行される。以下では、3相のうちの1相分の電極2の電極昇降制御について説明するが、特に断らない限り、以下で説明する電極昇降制御装置6が3相交流の各相に設けられ、交流アーク炉は制御されるものとする。
【0019】
電極昇降制御装置6の構成について詳細に説明する。
電極昇降制御装置6は、インピーダンス偏差演算部9と、インバータ目標速度設定部12と、を備える。電極昇降制御装置6は、電極位置測長部13と、インバータ運転制御部11と、インバータ加減速設定切替部14と、をさらに備える。また、電極昇降制御装置6は、電極運転停止指令部10を有している。
【0020】
電極昇降制御装置6は、この例では、電極昇降主幹盤5内に設けられる。たとえば、電極昇降主幹盤5は、交流アーク炉が設置されたプラント内の操作室内に設置される。たとえば、電極昇降主幹盤5には、交流アーク炉を操作するオペレータが操作するためのボタンやレバー、計器類等が配置された操作盤が接続されており、操作盤との接続インタフェース等を含んでいる。電極昇降制御装置6は、たとえば、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)であり、後述する各部の機能は、PLCのプログラムを構成する1つ以上のステップにより実現される。
【0021】
インピーダンス偏差演算部(インピーダンス偏差演算手段)9には、変流器15によって検出されたアーク電流IFBおよび補助変圧器16によって検出されたアーク電圧VFBの検出値が入力される。インピーダンス偏差演算部9は、アーク電流IFBおよびアーク電圧VFBのそれぞれの検出値を用いて、実測インピーダンスZFBを計算する。インピーダンス偏差演算部9には、あらかじめ基準インピーダンスZREFが設定されている。インピーダンス偏差演算部9は、基準インピーダンスZREFと実測インピーダンスZFBとの差分を計算して求めたインピーダンス偏差ΔZをインバータ運転制御部11に出力する。
【0022】
電極運転停止指令部10は、操作盤に設けられた操作ボタン等に接続されている。電極運転停止指令部10は、操作ボタン等を操作するオペレータによって、運転操作が行われると、運転指令をインバータ運転制御部11に出力する。電極運転停止指令部10は、オペレータによって、停止操作が行われると、停止指令をインバータ運転制御部11に出力する。
【0023】
インバータ運転制御部(インバータ運転制御手段)11は、運転指令にもとづいて、電極2の昇降動作を開始するための処理を実行する。インバータ運転制御部11は、停止指令にもとづいて、電極2の昇降動作を停止するための処理を実行する。
【0024】
インバータ運転制御部11は、運転指令を取得すると、電極位置測長部13が出力する電極2の位置の情報にもとづいて、現在の電極2の位置を判定する。運転開始時の電極2の位置は、たとえば、初期値の0であり、初期値0は電極2が昇降する上限位置である。インバータ運転制御部11は、現在の電極2の位置の情報にもとづいて、高速速度基準V1*および操業速度基準V2*のいずれかを電極2の昇降のための速度基準として、選択し出力する。高速速度基準V1*の上限値は、操業速度基準V2*の上限値よりも大きい。
【0025】
図2および図3に関連して後に詳述するように、実施形態の電極昇降制御装置6では、電極2の昇降可能な領域は、少なくとも2つの領域に区分される。電極2がスクラップ4から離れた位置となる領域は高速昇降領域R1とされ、電極2が高速昇降領域R1よりもスクラップ4に近い位置となる領域は操業領域R2とされる。インバータ運転制御部11は、電極2の位置が高速昇降領域R1にあると判定した場合には、高速速度基準V1*を選択しインバータ目標速度設定部12に出力する。インバータ運転制御部11は、電極2の位置が操業領域R2にあると判定した場合には、操業速度基準V2*をインバータ目標速度設定部12に出力する。インバータ運転制御部11は、インピーダンス偏差ΔZを、高速速度基準V1*または操業速度基準V2*とともにインバータ目標速度設定部12に出力する。
【0026】
インバータ運転制御部11は、変流器15および補助変圧器16から出力される検出値を取得する。たとえば、インバータ運転制御部11は、操業開始時に変流器15からアーク電流IFBの検出値を取得することにより、電極2とスクラップ4との間でアーク放電が開始された電極2の位置をスクラップタッチ位置Pcとして記憶する。スクラップタッチ位置Pcの検出には、アーク電流IFBに代えて、あるいはアーク電流IFBとともにアーク電圧VFBを取得することによって判定してもよい。以下では、特に断らない限り、アーク放電の開始には、アーク電流IFBを検出することによるものとする。
【0027】
図5に関連して後述するように、インバータ運転制御部11は、アーク電流IFBを検出して、所定の電流制限値でアーク電流IFBを制限する。所定の電流制限値は、あらかじめ設定された速度基準の変化率に応じて設定され、操業領域の電流制限値は、高速昇降領域の電流制限値よりも大きい値に設定されている。
【0028】
電極位置測長部(電極位置測長手段)13は、インバータ7から電動機8の回転速度および回転方向に応じて出力されるパルス信号PCを取得し、パルス信号を積算することによって、電極2の位置を計算する。電極位置測長部13は、計算した電極2の位置の情報をインバータ運転制御部11に出力する。この例では、電極位置測長部13は、インバータ7がパルスカウンタ機能を有しており、パルスカウンタ機能が出力するパルス信号PCを利用するものとしたが、パルスカウンタ機能は、インバータ7に内蔵する場合に限らず、電動機側に設けるようにしてもよい。
【0029】
インバータ目標速度設定部(インバータ目標速度設定手段)12は、インバータ運転制御部11から出力された高速速度基準V1*、操業速度基準V2*およびインピーダンス偏差ΔZにもとづいて、適切な速度基準をインバータ加減速設定切替部14に出力する。
【0030】
より具体的には、インバータ目標速度設定部12は、高速速度基準V1*を取得した場合には、インピーダンス偏差ΔZにかかわらず、あらかじめ設定された高速速度基準上限値V1を高速速度基準V1*として、インバータ加減速設定切替部14に出力する。インバータ目標速度設定部12は、操業速度基準V2*を取得した場合には、インピーダンス偏差ΔZに応じて設定された操業速度基準V2*を抽出して、インバータ加減速設定切替部14に出力する。
【0031】
インバータ目標速度設定部12は、図4に関連して後に詳述するように、操業速度基準特性12aから、インピーダンス偏差ΔZに応じた操業速度基準V2*を抽出する。操業速度基準特性12aは、ΔZ=0のときにV2*=0となり、ΔZ≠0のときにV2*≠0となる。操業速度基準特性12aの微分係数、すなわち傾きは正であり、ΔZの範囲によっては、一部傾きが0であってもよい。つまり、操業速度基準特性12aは、d(V2*)/d(ΔZ)≧0となる特性を有しており、V2*はΔZに関する増加関数である。
【0032】
より詳細には、操業速度基準特性12aは、ΔZ≧+ΔZ1(>0、第1しきい値))およびΔZ≦-ΔZ2(<0、第2しきい値)では、線形特性を有する感度特性をそれぞれ有している。-ΔZ2<ΔZ<+ΔZ1では、感度特性の係数よりも小さい値の微分係数となる特性を含んでいる。たとえば、-ΔZ2<ΔZ<+ΔZ1の微分係数は、-ΔZ2<ΔZ<+ΔZ1のほとんどの範囲において、感度特性の係数よりも小さく設定されている。-ΔZ2<ΔZ<+ΔZ1のほとんどの範囲とは、ΔZの0の近傍を除く範囲であり、たとえば、ΔZ>0において、+ΔZ1の10%のしきい値(第3しきい値)以上、ΔZ<0において、-ΔZ2の10%のしきい値(第4しきい値)以下のそれぞれの範囲で感度特性の係数よりも小さく設定される。ΔZの近傍を規定するしきい値には適切な値が任意に設定される。
【0033】
実施形態に係る電極昇降制御装置6は、このような操業速度基準特性12aにもとづいて、すべてのインピーダンス偏差ΔZの範囲において電極2とスクラップ4との間の距離を制御するので、高精度かつ高安定な電極昇降制御が可能になる。
【0034】
操業速度基準特性12aのデータは、たとえば電極昇降制御装置6の記憶部にあらかじめ格納されている。操業速度基準特性12aのデータの形式は問わない。操業速度基準特性12aは、たとえばテーブル形式で記憶部等に格納されてもよいし、近似式等を含む数式で記憶部等に格納されてもよい。
【0035】
インバータ加減速設定切替部(インバータ加減速設定切替手段)14は、インバータ目標速度設定部12から出力された高速速度基準V1*または操業速度基準V2*にもとづいて、それぞれの速度基準に対する加速時の速度基準変化率および減速時の速度基準変化率を適用する。インバータ加減速設定切替部14は、加速時および減速時の速度基準変化率を適用した速度基準をインバータ7に逐次出力する。
【0036】
より具体的には、高速速度基準V1*について、高速加速時速度基準変化率(第1加速時速度基準変化率)および高速減速時速度基準変化率(第1減速時速度基準変化率)は、あらかじめ設定されている。また、操業速度基準V2*について、操業加速時速度基準変化率(第2加速時速度基準変化率)および操業減速時速度基準変化率(第2減速時速度基準変化率)は、あらかじめ設定されている。インバータ加減速設定切替部14は、取得した速度基準の大きさを判断して、いずれかの加速時の速度基準変化率および減速時の速度基準変化率を適用する。
【0037】
実施形態に係る電極昇降制御装置6の動作について詳細に説明する。
まず、電極2が昇降する領域と、領域ごとの昇降速度の設定について説明する。
図2および図3は、実施形態に係る電極昇降制御装置の動作を説明するための模式図である。
図2には、電極2の昇降可能な領域が示されている。
図2に示すように、電極2は、電極上限位置Paから電極下限位置Pdまでの間を昇降することが可能である。たとえば、電極上限位置Paおよび電極下限位置Pdには、それぞれリミットスイッチが設けられており、電極昇降制御装置6は、リミットスイッチからの信号にもとづいて、電極2が上限または下限の位置にあることを認識し、電極2がそれらを超える範囲で昇降することを禁止する。なお、以下の具体例では、特に断らない限り、電極上限位置Paは、操業開始時または操業再開時の電極2の初期の位置とされる。操業再開時とは、操業において異常状態が検出された場合に、電極2を退避した後に異常状態が除去されたことにより操業が再開されることをいう。操業時の異常状態は、たとえば、電極2とスクラップ4との間でのアーク電流が過大となった場合である。
【0038】
電極上限位置Paと電極下限位置Pdとの間に、減速完了位置Pbが設定される。また、減速完了位置Pbと電極下限位置Pdとの間に、スクラップタッチ位置Pcが設定される。高速昇降領域R1は、電極上限位置Paから減速完了位置Pbまでの領域と定義される。操業領域R2は、減速完了位置Pbからスクラップタッチ位置Pcまでの領域と定義される。操業可能領域R3は、減速完了位置Pbから電極下限位置Pdまでの領域と定義される。
【0039】
スクラップタッチ位置Pcは、電極2が下降して、電極2とスクラップ4との間にアーク電流IFBが流れたことをインバータ運転制御部11が検出することによって設定される。インバータ運転制御部11は、アーク電流IFBが流れ始めた位置を記憶し、スクラップタッチ位置Pcとして設定する。このようなスクラップタッチ位置Pcの設定は、操業の開始ごとおよび操業を再開するごとに行われる。スクラップタッチ位置Pcは、スクラップタッチを行うたびに更新され、記憶される。
【0040】
減速完了位置Pbは、スクラップタッチ位置Pcからマージン距離ΔLだけ上方に離れた位置に設定される。マージン距離ΔLは、電極2の移動距離の計算誤差等を吸収するために、あらかじめ設定された固定値である。減速完了位置Pbは、操業の開始時に初期値があらかじめ設定されている。スクラップタッチ位置Pcが更新されると、減速完了位置Pbも更新される。減速完了位置Pbを境にして、上方が高速昇降領域R1とされ、下方が操業領域R2および操業可能領域R3とされる。操業可能領域R3は、スクラップタッチ位置Pcが更新され得る範囲であり、電極が最大に下降し得る範囲を含む領域である。
【0041】
電極2は、高速昇降領域R1では、高速速度基準上限値V1で昇降する。電極2は、操業領域R2では、操業速度基準上限値V2を上限とし、インピーダンス偏差ΔZに応じて決定される操業速度基準V2*で昇降する。高速速度基準上限値V1の値は、操業速度基準上限値V2の値よりも十分に大きい。
【0042】
図3には、高速速度基準V1*および操業速度基準V2*のそれぞれの時間に対する変化が示されている。
図3の一点鎖線は、高速速度基準V1*の時間変化を示している。図3の実線は、操業速度基準V2*の時間変化を示している。
【0043】
図3に示すように、高速速度基準V1*の場合には、電極2は、高速加速時速度基準変化率(第1加速時速度基準変化率)α1で加速され、高速速度基準上限値V1に達すると、高速速度基準上限値V1で定速走行し、高速減速時速度基準変化率(第1減速時速度基準変化率)β1で減速される。操業速度基準V2*の場合には、操業加速時速度基準変化率(第2加速時速度基準変化率)α2で加速し、この例では、操業速度基準上限値V2で定速走行し、操業減速時速度基準変化率(第2減速時速度基準変化率)β2で減速される。
【0044】
高速加速時速度基準変化率α1、高速減速時速度基準変化率β1、操業加速時速度基準変化率α2および操業減速時速度基準変化率β2は、あらかじめ設定された固定値であり、インバータ加減速設定切替部14において適用される。また、高速速度基準上限値V1はあらかじめ設定された固定値であり、操業速度基準V2*はインピーダンス偏差ΔZに応じて設定され、操業速度基準上限値V2は操業速度基準V2*の上限値である。
【0045】
実施形態の電極昇降制御装置6では、高速加速時速度基準変化率α1の大きさと、操業加速時速度基準変化率α2の大きさとの関係は、α1<α2となるように設定される。また、高速減速時速度基準変化率β1の大きさと、操業減速時速度基準変化率β2の大きさとの関係は、β1<β2となるように設定される。
【0046】
高速昇降領域R1の場合には、高速加速時速度基準変化率α1および高速減速時速度基準変化率β1は十分に小さい値に設定されている。そのため、高速速度基準上限値V1を十分に大きい値に設定しても、高速速度基準V1*の時間変化によるオーバーシュートやアンダーシュートを抑えることができる。したがって、電極昇降制御装置6は、高速昇降領域R1において、電極2を精度よく所望の位置に迅速に昇降させることができる。
【0047】
操業領域R2の場合には、操業加速時速度基準変化率α2および操業減速時速度基準変化率β2は、十分に大きい値が設定されている。一方、操業速度基準上限値V2の大きさは、高速速度基準上限値V1の大きさよりも小さい値に設定されている。そのため、操業速度基準V2*の時間変化によるオーバーシュートやアンダーシュートを抑えることができ、電極昇降制御装置6は、電極2を精度よく所望に位置に迅速に昇降させ移動させることができる。
【0048】
操業速度基準特性12aを用いて、操業領域R2における電極2の昇降速度の設定について説明する。
図4は、実施形態に係る電極昇降制御装置の動作を表すグラフ図である。
図4は、操業速度基準特性12aを表すグラフ図である。このグラフ図では、横軸にインピーダンス偏差ΔZ、縦軸に操業速度基準V2*がとられており、インピーダンス偏差ΔZに対する操業速度基準V2*がプロットされている。
実施形態に係る電極昇降制御装置6では、電極2が操業領域R2にある場合には、操業速度基準特性12aにしたがって、インピーダンス偏差ΔZに応じた操業速度基準V2*が適用される。
【0049】
操業速度基準特性12aにおいて、ΔZ≦-ΔZ2および+ΔZ1≦ΔZの範囲を感度設定制御範囲SRと呼ぶ。+ΔZ1はΔZの正側のしきい値(第1しきい値)であり、-ΔZ2は負側のしきい値(第2しきい値)である。感度設定制御範囲SRでは、ΔZ≦-Z2の範囲において、異なる係数、すなわち傾きを有する3本の直線-S1~-S3が描かれ、+ΔZ1≦ΔZの範囲において、異なる傾きを有する3本の直線+S1~+S3が描かれている。これらの直線を感度設定直線と呼ぶ。これらの感度設定直線は、操業速度基準V2*がインピーダンス偏差ΔZに対して異なる感度を有することを表している。オペレータは、たとえばスクラップ4の状態に応じて、いずれかの感度設定直線を選択する。
【0050】
操業速度基準特性12aにおいて、-ΔZ2<ΔZ<+ΔZ1の範囲を高精度制御範囲HRと呼ぶ。また、高精度制御範囲HRの操業速度基準特性を高精度制御曲線と呼ぶことがある。操業速度基準特性12aでは、ΔZ=-ΔZ2において、V2*=-V22であり、ΔZ=+ΔZ1において、V2*=+V21である。つまり、操業速度基準特性12aにおいて、高精度制御曲線は、各感度設定直線と連続しており、オペレータによっていずれかの感度設定直線が選択された場合において、高精度制御曲線は共通である。
【0051】
図4に示すように、高精度制御曲線では、ΔZ=0のときには、V2*=0とされる。高精度制御曲線では、ΔZ>0の範囲ではV2*>0に設定され、ΔZ<0の範囲では、V2*<0に設定される。操業速度基準特性12aの全範囲にわたって、d(V2*)/d(ΔZ)≧0とされ、好ましくは、d(V2*)/d(ΔZ)>0である。つまり、好ましくは、操業速度基準V2*は、インピーダンス偏差ΔZについての単調増加関数である。
【0052】
高精度制御曲線では、電極2とスクラップ4との間の距離Laとした場合に、+V21=d(La)/dtとされる。
【0053】
あるいは、ΔZ>0の範囲では、d(V2*)/d(ΔZ)は、ΔZ=0の近傍を除いて、どの感度設定直線の傾きよりも小さく設定される。同様に、ΔZ<0の範囲では、d(V2*)/d(ΔZ)は、ΔZ=0の近傍を除いて、どの感度設定直線の傾きよりも小さく設定される。つまり、高精度制御曲線は、感度設定直線よりも、ΔZのほとんどの範囲で電極2の昇降速度の感度を抑えるように設定されている。ΔZのほとんどの範囲とは、たとえば、+ΔZ1×10%以上であり、-ΔZ2×10%以下の範囲である。ここで、+ΔZ1×10%(第3しきい値)および-ΔZ2×10%(第4しきい値)は、アーク電流IFBおよびアーク電圧VFBの検出精度、実測インピーダンスZFBの演算精度、高精度制御曲線の設定精度等にもとづいて適切な値が設定される。
【0054】
より具体的に説明する。
インピーダンス偏差ΔZは、以下の式(1)で計算される。
ΔZ=ZFB-ZREF
=(VFB/IFB)-ZREF (1)
【0055】
式(1)より、ZFB>ZREFの場合にΔZ>0であり、VFBが一定であるとすると、ZREFから推定される電流値よりも、検出されたIFBが小さい。そのため、電極昇降制御装置6は、電極2をスクラップ4に近づけるように降下させて、IFBを大きくしてZFBをZREFに追従させる。
【0056】
式(1)より、ZFB<ZREFの場合にΔZ<0であり、VFBが一定であるとすると、ZREFから推定される電流値よりも、検出されたIFBが大きい。そのため、電極昇降制御装置6は、電極2をスクラップ4から遠ざけるように上昇させて、IFBを小さくしてZFBをZREFに追従させる。
【0057】
操業速度基準特性12aでは、V2*の正方向が電極2の下降する方向であり、ΔZが大きくなるほど、電極2の下降速度は大きくなる。また、操業速度基準特性12aでは、V2*の負方向が電極2の上昇する方向であり、|ΔZ|が大きくなるほど、電極2の上昇速度は大きくなる。
【0058】
高精度制御範囲HRでは、ΔZ>0の範囲においては、V2*>0とされている。そのため、VFBが一定であるとすると、電極昇降制御装置6は、ZREFから推定される電流値からIFBが減少する小さな変動があった場合に、小さなΔZに応じて設定された小さなV2*で電極2を下降させる。
【0059】
高精度制御範囲HRのΔZ<0の範囲においては、V2*<0とされているので、電極昇降制御装置6は、小さなIFBの増加があった場合に、小さなΔZに応じて設定された小さな操業速度基準V2*で上昇させる。
【0060】
感度設定制御範囲SRのΔZ>0の範囲においては、電極昇降制御装置6は、オペレータによって設定された感度直線にしたがって、電極2を十分な大きさの操業速度基準V2*で下降させる。
【0061】
感度設定制御範囲SRのΔZ<0の範囲においては、電極昇降制御装置6は、オペレータによって設定された感度直線にしたがって、電極2を十分な大きさの操業速度基準V2*で上昇させる。
【0062】
このようにして、実施形態に係る電極昇降制御装置6は、電極2を降下させ、上昇させて、操業領域R2において生じた微細なアーク電流IFBの変動を解消する。実施形態に係る電極昇降制御装置6は、操業領域R2において生じた大きなアーク電流IFBの変化についても、オペレータによって設定された感度にしたがって、電極2を昇降させて、迅速にアーク電流IFBの変動を解消し、インピーダンス一定制御を実行する。
【0063】
次に、高速昇降領域R1および操業領域R2におけるインバータ7の過負荷時の電流制限特性について説明する。
図5は、実施形態に係る電極昇降制御装置の動作を説明するための模式図である。
図5には、インバータ7の過負荷時の電流制限値の時間についての特性が示されている。電流制限特性J1は、高速昇降領域R1におけるインバータ7の電流制限値の時間特性を表している。電流制限特性J2は、操業領域R2におけるインバータ7の電流制限値の時間特性を表している。時間t1は、電極2を高速加速時速度基準変化率α1で0から高速速度基準上限値V1まで加速させる場合の時間である。時間t2は、電極2を操業加速時速度基準変化率α2で0から操業速度基準上限値V2まで加速させる場合の時間である。上述したように、V1>V2、α1<α2のため、t1>t2である。
【0064】
一般にインバータにおいて、過負荷耐量は、出力トルクの時間積分として表され、出力トルクはインバータの出力電流に比例するので、出力電流の時間積分として求めることができる。インバータの出力電流を制限する場合には、図5の例のように、過負荷耐量は、電流制限値に時間を乗じて求めることができる。過負荷耐量を一定とすると、実施形態に係る電極昇降制御装置6では、t1>t2であるため、高速昇降領域R1における電流制限値J1maxは、操業領域R2における電流制限値J2maxよりも小さい値とされる。
【0065】
より具体的には、過負荷耐量は、時間によらずに一定となるので、以下の式(2)の関係が成り立つ。
J1max×t1=J2max×t2 (2)
【0066】
つまり、実施形態に係る電極昇降制御装置6では、電極2が適切な加速を得るために、昇降領域に応じた電流制限値が適用される。
【0067】
上述では、加速の場合について説明したが、電極2の減速時についても同様に、V1>V2かつβ1<β2のため、高速昇降領域R1における電流制限時間は、操業領域R2における電流制限時間よりも長く設定される。電流制限値×電流制限時間が一定となるように、電流制限値が設定される。
【0068】
次に、電極2の一連の昇降動作について説明する。
操業開始時には、電極2は、たとえば電極上限位置Paに配置されている。電極上限位置Paに設けられたリミットスイッチにより、電極位置測長部13の出力は、初期値である、たとえば0に設定されている。
【0069】
オペレータの運転操作によって運転指令が生成される。運転指令を取得したインバータ運転制御部11は、電極位置測長部13から出力された電極2の位置の情報にもとづいて、高速速度基準V1*および操業速度基準V2*のうちのいずれをインバータ目標速度設定部12に出力するかを決定する。操業開始時には、電極位置測長部13の出力が0のため、インバータ運転制御部11は、電極2が高速昇降領域R1にあるものと判定し、高速速度基準V1*をインバータ目標速度設定部12に出力する。
【0070】
インバータ目標速度設定部12は、高速速度基準V1*を高速速度基準上限値V1に設定して、インバータ加減速設定切替部14に出力する。
【0071】
インバータ加減速設定切替部14は、高速速度基準V1*に高速加速時速度基準変化率α1および高速減速時速度基準変化率β1を適用して、高速速度基準V1*をインバータ7に逐次出力する。
【0072】
電極2は、電極上限位置Paから高速加速時速度基準変化率α1で加速した後、高速速度基準上限値V1で下降する。
【0073】
電極位置測長部13は、インバータ7からパルス信号PCを取得して、電極2の位置を継続して計算し、計算結果をインバータ運転制御部11に出力する。
【0074】
インバータ運転制御部11は、電極2が減速完了位置Pbで操業速度基準上限値V2まで減速を完了するように、操業速度基準V2*をインバータ目標速度設定部12に出力する。減速完了位置Pbは、あらかじめ初期値が設定されている。インバータ運転制御部11は、高速加速時速度基準変化率α1、高速速度基準上限値V1および高速減速時速度基準変化率β1にもとづいて、操業速度基準V2*まで減速する位置を計算し、電極2が計算された位置に到達するタイミングで操業速度基準V2*をインピーダンス偏差ΔZとともにインバータ目標速度設定部12に出力する。
【0075】
操業開始時にはアーク電流IFBは流れていないので、ΔZ=∞となっており、インバータ目標速度設定部12は、操業速度基準上限値V2を操業速度基準V2*としてインバータ加減速設定切替部14に出力する。なお、電極2のスクラップ4への衝突を防止するため、操業開始時には、操業速度基準V2*を操業速度基準上限値V2よりも十分に小さい値に設定するようにしてもよい。あるいは、減速完了位置Pbで電極2を一旦停止させ、オペレータによる手動で電極2を降下させて、スクラップタッチさせるようにしてもよい。
【0076】
電極2が下降し、アーク電流IFBが流れたことをインバータ運転制御部11が検出することによって、インバータ運転制御部11は、その位置をスクラップタッチ位置Pcとして記憶する。インバータ運転制御部11は、記憶したスクラップタッチ位置Pcに、あらかじめ設定されたマージン距離ΔLを加算して、減速完了位置Pbを計算し、計算した減速完了位置Pbを新たな減速完了位置Pbとして記憶する。
【0077】
スクラップタッチ後、電極2は、操業領域R2内で昇降制御される。操業領域R2内では、電極2は、操業速度基準特性12aにしたがって動作する。
【0078】
インバータ運転制御部11は、たとえば、アーク電流IFBの過電流を検出した場合には、電極2等の保護のために、電極2を操業領域R2から離脱させ、高速昇降領域R1に退避させる。電極2の高速昇降領域R1の退避動作では、インバータ運転制御部11は、電極2を電極上限位置Paに移動させる。
【0079】
アーク電流による加熱でスクラップ4の溶解が完了した場合には、インバータ運転制御部11は、電極2を電極上限位置Paに移動させる。これにより、1つの操業単位が完了する。
【0080】
(変形例)
図6は、実施形態の変形例に係る電極昇降制御装置の動作を説明するための模式図である。
図6には、実施形態の場合の操業速度基準V2*および本変形例の場合の操業速度基準V2a*が同一の時間軸上に示されている。
実施形態に係る電極昇降制御装置6は、図4に示したように、高精度制御範囲HRでは、微細なアーク電流IFBの変動によっても、電極2の昇降制御を行う。そのため、スクラップ4の状態によっては、電極2の昇降動作が激しくなるおそれがある。そこで、本変形例では、電極2の加減速時の速度基準の変化率を時間tに応じて異ならせる。
【0081】
図6に示すように、実施形態に係る電極昇降制御装置6では、電極2は、一定の操業加速時速度基準変化率α2で加速され、一定の操業減速時速度基準変化率β2で減速される。これに対して、本変形例に係る電極昇降制御装置では、操業加速時速度基準変化率α2aは、速度基準の加速の初期では、加速の中期よりも小さな値とされ、速度基準の加速の終期でも加速の中期よりも小さな値とされている。同様に、操業減速時速度基準変化率β2aは、速度基準の減速の初期では、減速の中期よりも小さな値とされ、速度基準の減速の終期でも減速の中期よりも小さな値とされている。つまり、変形例の場合では、加減速の初期および終期の段階で加減速をゆるやかにすることによって、電極2の昇降動作の急激な変動を抑制する。加速の中期とは、加速の初期と加速の終期との間の期間であり、減速の中期とは、減速の初期と減速の終期との間の期間である。
【0082】
加速の初期は、たとえば、操業速度基準V2a*が操業速度基準上限値V2の10%となる期間とされる。加速の終期は、たとえば、操業速度基準V2a*が操業速度基準上限値V2の90%となる期間とされる。減速の初期は、たとえば、操業速度基準V2a*が操業速度基準上限値V2の90%となる期間とされる。減速の終期は、たとえば、操業速度基準V2a*が操業速度基準上限値V2の10%となる期間とされる。
【0083】
比較例に係る電極昇降制御装置と比較しつつ、本実施形態および変形例に係る電極昇降制御装置6の効果について説明する。
まず、比較例に係る電極昇降制御装置の動作について説明する。
図7は、比較例に係る電極昇降制御装置の動作の特性を表すグラフ図である。
図7は、比較例に係る電極昇降制御装置の速度基準特性112aのグラフ図である。速度基準特性112aは、実施形態の場合の操業速度基準特性12aに対応する。比較例に係る電極昇降制御装置は、速度基準特性112aにしたがって、電極2を昇降制御する。
【0084】
図7に示すように、比較例の場合の速度基準特性112aは、0<ΔZ<+ΔZ101の範囲では、速度基準V*は0である。ΔZ≦0の範囲では、異なる傾きを有する3本の直線-S1~-S3が感度設定直線として設定され、+ΔZ101≦Zの範囲では、異なる傾きを有する+S1~+S3が感度設定直線として設定される。いずれかの感度設定直線がオペレータによって選択され、いずれの感度設定直線においても、0<ΔZ<+ΔZ101の範囲では、V*=0である。
【0085】
0<ΔZ<+ΔZ101の範囲を不感帯Dと呼ぶ。不感帯Dのしきい値である+Z101は、たとえば、インピーダンス偏差ΔZの最大値の10%~30%程度に設定される。速度基準V*の上限値は、たとえば、実施形態に係る電極昇降制御装置6の場合の操業速度基準上限値V2に等しい値とされる。
【0086】
比較例に係る電極昇降制御装置では、ΔZ>0の範囲で不感帯Dを設けることによって、電極2の昇降動作を過剰に制御することによって発生するハンチングを抑制して、電極昇降制御装置が不安定な動作となることを防止する。一方で、比較例に係る電極昇降制御装置では、アーク電流IFBの微細な変動の場合には電極2の昇降制御を行わない定位置制御を行っている。そのため、電極2とスクラップ4との間の距離が適切に維持されていない場合がある。つまり、不感帯Dにおいては、制御の安定性に重点を置くことで、アーク電流IFBにもとづく適切なエネルギーをスクラップ4に投入できない場合がある。
【0087】
また、電極昇降制御装置は、ΔZ<0の範囲においては、感度設定直線による昇降制御を行っている。そのため、アーク電流IFBの小さな変動の場合であっても、感度設定にしたがって、電極2は、頻繁にスクラップ4から大きく離れるように昇降制御される。そのため、スクラップ4に投入できる実質的なエネルギーが減少する場合がある。
【0088】
実施形態に係る電極昇降制御装置6は、高精度制御範囲HRを有する操業速度基準特性12aにしたがって、インピーダンス偏差ΔZに応じた操業速度基準V2*をインバータ7に出力する。高精度制御範囲HRでは、ΔZ=0ではV2*=0に設定され、ΔZ>0の範囲ではV2*>0に設定され、ΔZ<0の範囲では、V2*<0に設定される。さらに、操業速度基準特性12aでは、d(V2*)/d(ΔZ)≧0とされている。そのため、電極昇降制御装置6は、微細なアーク電流IFBの変化が生じた場合でも、適切な方向に電極2を昇降動作させることができる。
【0089】
高精度制御範囲HRのほとんどの範囲では、ΔZに対するV2*の感度を感度設定制御範囲SRよりも低く設定している。そのため、電極昇降制御装置6は、小さなIFBの変動を小さなV2*への応答へと変換するので、高精度な位置制御を安定して実行することができる。
【0090】
このほか、比較例に係る電極昇降制御では、操業開始時や異常発生後等の操業再開時等に、スクラップ4から十分に離れた位置から十分に抑制された遅い速度で電極2を下降させている。そのため、1つの操業単位において、アーク放電を開始して、実際にスクラップ4の溶解を開始し、再開するのに長い時間を要するとの問題もある。
【0091】
実施形態に係る電極昇降制御装置6は、電極位置測長部13を備えることにより、電極2の昇降が可能な領域における電極2の位置を推定することができる。電極昇降制御装置6は、推定した電極2の位置により、高速昇降領域R1および操業領域R2に区分された領域のうち、どちらに電極2があるかを判定することができる。高速昇降領域R1では、操業領域R2での速度基準よりも高速に電極2を昇降させることができ、操業開始時や操業再開時の電極2の下降のための時間を短縮することができる。
【0092】
実施形態に係る電極昇降制御装置6では、操業領域R2における加速時の速度基準変化率は、高速昇降領域R1における加速時の速度基準変化率よりも大きく設定されている。操業領域R2における減速時の速度基準変化率も、高速昇降領域R1における減速時の速度基準変化率よりも大きく設定されている。そのため、操業領域R2での速度基準の加減速を迅速に行いつつ、オーバーシュートおよびアンダーシュートを抑制して、高精度な位置制御を実現することが可能である。
【0093】
実施形態に係る電極昇降制御装置6では、操業領域R2における加減速時の速度基準変化率は、高速昇降領域R1における加減速時の速度基準変化率よりも大きく設定されている。その上で、操業領域R2における電流制限値を高速昇降領域R1における電流制限値よりも大きく設定することによって、電動機8の出力トルクを最大限利用することが可能になる。
【0094】
実施形態に係る電極昇降制御装置6では、操業領域R2において、ΔZの変動に対して迅速に追従するように、加減速時の速度基準変化率を十分に大きく設定している。そのために、電極2の昇降動作が激しくなる場合がある。図6に示した変形例のように、加減速時の速度基準変化率を時間に時間に応じて小さくすることによって、電極2の昇降動作をゆるやかにすることができ、より安定した昇降動作を実現することが可能になる。
【0095】
このようにして、スクラップの溶解の効率を最適化した電極昇降制御装置を実現することができる。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0097】
1…炉用変圧器、2…電極、3…炉体、4…スクラップ、5…電極昇降主幹盤、6…電極昇降制御装置、7…インバータ、8…電動機、9…インピーダンス偏差演算部、10…電極運転停止指令部、11…インバータ運転制御部、12…インバータ目標速度設定部、12a…操業速度基準特性、13…電極位置測長部、14a…インバータ加減速設定切替部、15…変流器、16…補助変圧器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7