(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167797
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】肌質改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/67 20060101AFI20231116BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20231116BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20231116BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231116BHJP
A61K 31/015 20060101ALI20231116BHJP
A61K 31/01 20060101ALI20231116BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20231116BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20231116BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20231116BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
A61K8/67
A61Q17/04
A61Q19/08
A61Q19/00
A61K31/015
A61K31/01
A61K31/122
A61P17/16
A23L33/10
A61Q19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079263
(22)【出願日】2022-05-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 真己
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD07
4B018MD15
4B018ME14
4C083AD531
4C083AD532
4C083AD621
4C083AD622
4C083BB51
4C083CC02
4C083CC19
4C083DD39
4C083EE12
4C083EE16
4C083EE17
4C206AA01
4C206BA02
4C206CB23
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA83
4C206NA14
4C206ZA89
(57)【要約】
【課題】有用な肌質改善剤を提供する。
【解決手段】シス型カロテノイドを含む肌質改善剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シス型カロテノイドを含む肌質改善剤。
【請求項2】
肌質改善剤に含まれるカロテノイド全体の質量を100%とした場合にシス型カロテノイドを30%以上含む請求項1に記載の肌質改善剤。
【請求項3】
紫外線遮蔽のために使用される請求項1に記載の肌質改善剤。
【請求項4】
皮膚の老化抑制のために使用される請求項1に記載の肌質改善剤。
【請求項5】
美白のために使用される請求項1に記載の肌質改善剤。
【請求項6】
皮膚外用剤又は化粧料である、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の肌質改善剤。
【請求項7】
経口用剤である、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の肌質改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌質改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に広く存在するカロテノイド類は強力な抗酸化作用を有し、カラーバリエーションが多様であることから、健康食品や化粧品、食用色素など幅広い用途で利用されている。カロテノイドの中で、トマトやサケ、マスに含まれる赤色色素であるリコピンやアスタキサンチンは特に強力な抗酸化作用を示すため、近年注目を浴びている。
【0003】
一般に、天然のカロテノイドは二重結合がすべてトランス体のオールトランス型として存在する。近年、一部のカロテノイド(リコピン、アスタキサンチン)において、トランス型よりシス型の方が高い体内吸収性と蓄積性を示すことが報告されている。
【0004】
また、カロテノイドの効能として、肌質改善作用が特に注目されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これまでの研究はオールトランス型のカロテノイドが用いられており、カロテノイドの異性体と肌質改善作用の関係については、評価されていないのが実情である。
【0007】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであって、有用な肌質改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の肌質改善剤は、シス型カロテノイドを含む。この肌質改善剤によれば、シス型カロテノイドによる紫外線遮蔽の作用、皮膚の老化抑制の作用、美白作用等によって、好適に肌質を改善できる。
【0009】
したがって、本発明によれば、有用な肌質改善剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)~(F)各サンプルに用いたカロテノイドのクロマトグラムである。
【
図2】紫外線遮蔽率測定の結果を示すグラフである。
【
図3】DPPHラジカル消去活性測定の結果を示すグラフである。
【
図4】SOD消去活性測定の結果を示すグラフである。
【
図5】OHラジカル消去活性測定の結果を示すグラフである。
【
図6】過酸化脂質生成抑制率測定の結果を示すグラフである。
【
図7】一重項酸素消去活性測定の結果を示すグラフである。
【
図8】エラスターゼ阻害率測定の結果を示すグラフである。
【
図9】真皮線維芽細胞の増殖率測定の結果を示すグラフである。
【
図10】ヒアルロン酸産生促進率測定の結果を示すグラフである。
【
図11】チロシナーゼ活性測定の結果を示すグラフである。
【
図12】メラニン生成抑制率測定の結果を示すグラフである。
【
図13】メラニン前駆体(DHICA)の黒化抑制率測定の結果を示すグラフである。
【
図14】紫外線照射後の(a)皮膚の様子と(b)表皮の厚さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
・上記肌質改善剤において、肌質改善剤に含まれるカロテノイド全体の質量を100%とした場合にシス型カロテノイドを30%以上含むとよい。
・上記肌質改善剤は、紫外線遮蔽のために使用されることが好ましい。
・上記肌質改善剤は、皮膚の老化抑制のために使用されることが好ましい。
・上記肌質改善剤は、美白のために使用されることが好ましい。
・上記肌質改善剤は、皮膚外用剤又は化粧料であることが好ましい。
・上記肌質改善剤は、経口用剤であることが好ましい。
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態について説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「-」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10-20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10-20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0013】
1.肌質改善剤
本発明の肌質改善剤は、シス型カロテノイドを含んでいる。
シス型カロテノイドは、カロテン類のシス型異性体であってもよく、キサントフィル類のシス型異性体であってもよい。シス型カロテノイドは、フィトエン、フィトフルエン、リコピン、β-カロテン、アスタキサンチン、アドニルビン、アドニキサンチン、ルテイン、クリプトキサンチン、カンタキサンチン、ゼアキサンチン、シフォナキサンチン、及びフコキサンチンからなる群より選ばれる1種以上のシス型異性体であることが好ましい。なお、キサントフィルには脂肪酸が結合したエステル体と、脂肪酸が結合してないフリー体があるが、いずれの形態であってもよい。
【0014】
シス型カロテノイドは、健康食品や食品色素、化粧品への利用の観点から、シス型リコピンであることがより好ましい。シス型リコピンは、カロテン類のシス型異性体の一例である。リコピンは、化学式C
40H
56(分子量536.87)で表されるカロテノイドの1種である。リコピンは11個の共役二重結合を有するため、様々なシス異性体が存在する。本願においては、リコピンの11個の共役二重結合のうち1個でもシス型を含む異性体をシス型リコピンと称し、すべてがトランス型である異性体をトランス型リコピンと称する。単に「リコピン」という場合には、シス型リコピンとトランス型リコピンの双方を含むものとする。本願においては、炭素骨格がシス型のとき、その位置を番号で表す。
図1(A)に示すHPLCクロマトグラムにおいて、「all-trans」はトランス型リコピンを表す。
図1(B)に示すHPLCクロマトグラムにおいて、「13cis」は、13位の炭素がシス型である13シス型リコピンを表す。
【0015】
また、シス型カロテノイドは、健康食品や食品色素、化粧品への利用の観点から、シス型β-カロテンであることもより好ましい。シス型β-カロテンは、カロテン類のシス型異性体の一例である。β-カロテンは、化学式C
40H
56(分子量536.87)で表されるカロテノイドの1種である。自然界においては、β-カロテンはリコピンの末端の環化により生合成される。β-カロテンは11個の共役二重結合を有するため、様々なシス異性体が存在する。本願においては、β-カロテンの共役二重結合のうち1個でもシス型を含む異性体をシス型β-カロテンと称し、すべてがトランス型である異性体をオールトランス型β-カロテンと称する。単に「β-カロテン」という場合には、シス型β-カロテンとオールトランス型β-カロテンの双方を含むものとする。本願においては、炭素骨格がシス型のとき、その位置を番号で表す。
図1(C)に示すHPLCクロマトグラムにおいて、「all-trans」はトランス型β-カロテンを表す。
図1(D)に示すHPLCクロマトグラムにおいて、「13cis」は、13位の炭素がシス型である13シス型β-カロテンを表す。
【0016】
また、シス型カロテノイドは、健康食品や食品色素、化粧品、動物飼料の色揚げ剤への利用の観点から、シス型アスタキサンチンであることもより好ましい。シス型アスタキサンチンは、キサントフィル類のシス型異性体の一例である。アスタキサンチンは、化学式C
40H
52O
4(分子量596.841)で表されるカロテノイドの1種である。アスタキサンチンは、9個の共役二重結合からなるポリエン鎖とその両端に付くエンドグループ(末端基)から構成されている。本願においては、ポリエン鎖の9個の共役二重結合のうち1個でもシス型を含む異性体をシス型アスタキサンチンと称し、すべてがトランス型である異性体をトランス型アスタキサンチンと称する。本願においては、炭素骨格がシス型のとき、その位置を番号で表す。
図1(E)に示すHPLCクロマトグラムにおいて、「all-trans」はトランス型アスタキサンチンを表す。
図1(F)に示すHPLCクロマトグラムにおいて、「13cis」は、13位の炭素がシス型である13シス型アスタキサンチンを表す。
【0017】
カロテノイド全体に対するシス型カロテノイドの含有率は、皮膚の改善作用の観点から、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35%以上、40質量%以上、50質量%以上、55質量%以上、60質量%以上である。また、上記のシス型カロテノイドの含有率は、製造性の観点から、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下である。上記のシス型カロテノイドの含有率の下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。例えば、上記のシス型カロテノイドの含有率は、30質量%以上98質量%以下であることが好ましい。なお、肌質改善剤の総カロテノイド中、シス型カロテノイドの含有率の残部がトランス型カロテノイドの含有率である。
以下、カロテノイドの質量(100%)を基準としたシス型カロテノイドの含有率(質量%)を単に「シス型カロテノイド比率(%)」ともいう。本開示において、カロテノイドの量及びシス型カロテノイド比率(%)は、逆相カラムや順相カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)法により測定できる。定量は、クロマトグラム中における各カロテノイド異性体ピークのピーク面積に基づいてなされる。シス型カロテノイド比率(%)は、次の式により求めることができる。
【数1】
【0018】
肌質改善剤における総カロテノイド濃度は、特に限定されない。総カロテノイド濃度とは、肌質改善剤全体に対するシス型カロテノイドとトランス型カロテノイドの合計の量である。総カロテノイド濃度は、0.001mg/mL-100mg/mLであることが好ましく、0.01mg/mL-50mg/mLであることがより好ましく、0.1mg/mL-20mg/mLであることが更に好ましい。
【0019】
肌質改善剤は、肌質改善剤に含まれるカロテノイド全体の質量を100%とした場合にシス型カロテノイドを30%以上含むことが好ましい。シス型カロテノイドの上記含有率は、肌質の改善の観点から、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上である。また、シス型カロテノイドの上記含有率は、製造性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下である。シス型カロテノイドの上記含有率の下限値及び上限値は任意に組み合わせることができる。例えば、シス型カロテノイドの上記含有率は、30%以上90%以下であることが好ましい。なお、肌質改善剤の総カロテノイド中、シス型カロテノイドの含有率の残部がトランス型カロテノイドの含有率である。
以下、カロテノイドの質量(100%)を基準としたシス型カロテノイドの含有率を単に「シス型カロテノイド含有率」ともいう。
なお、本発明の肌質改善剤は、カロテノイド以外の任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分等については後に説明する。
【0020】
2.肌質改善剤の製造方法
本発明の肌質改善剤に用いるカロテノイドの原料は、市販品(例えば、植物や藻類、菌類からの抽出物)を用いることができ、あるいは従来の化学合成法により製造することができる。また、化学合成又は天然由来のカロテノイドを上記組成の範囲内で混合することにより製造されたものであってもよい。ヒトに摂食させる場合には、安全性の観点から、天然物由来のカロテノイドであることがより好ましい。
しかし、天然物由来のカロテノイドは、一般的に、シス型カロテノイド含有率が十分ではない(例えば、10質量%以下)。肌質改善剤に含まれるカロテノイドが天然物由来のカロテノイドである場合には、シス型カロテノイド含有率を増加させるための処理を施してもよい。シス型カロテノイド含有率を増加させるための処理は、例えば、簡便な手法として熱処理を例示することができる。なお、シス型カロテノイド含有率を増加させるための処理は、熱処理に限られず、マイクロ波照射や、光照射処理、カロテノイドのシス異性化反応を促進する所定の触媒を用いた処理等であってもよい。さらに、シス型カロテノイド含有率を高度に高める手法としては、トランス型カロテノイドとシス型カロテノイドの溶解度の差を利用した分離法等を例示することができる。このような方法によれば、肌質改善剤中のシス型カロテノイドの含有率が例えば50%以上であるシス型カロテノイドが高度に濃縮された肌質改善剤を得ることができる。
【0021】
3.肌質改善剤の作用及び用途
加齢した人の皮膚では、しみやしわやたるみなどの老徴が観察される。しみ、すなわち表皮におけるメラニンの蓄積にはメラノサイトにおけるチロシナーゼ活性が重要な役割を果たしている。また、しわやたるみの一因である皮膚弾力(ハリ)の低下には、真皮線維芽細胞が産生する弾力線維(エラスチン)を分解するエラスターゼ活性が関与していると考えられている。加えて、しわやたるみの原因の約80%は長期紫外線曝露による光老化であると言われている一方、紫外線が皮膚に惹起する様々な現象は、活性酸素種を介していることが知られている。このため、光老化対策を考える上で活性酸素種の消去は重要な位置づけにあると言える。
また、加齢した人の皮膚で観察されるしわ・たるみ・小じわは、皮膚弾力(ハリ)の低下や柔軟性の低下、乾燥が一因と考えられている。とりわけ真皮線維芽細胞が産生するコラーゲンは皮膚のハリ、線維芽細胞が産生するヒアルロン酸は皮膚の柔軟性や潤いに重要な役割を果たしていると考えられている。
肌悩みとして上位に挙げられる「シミやくすみ」には様々な要因がかかわっている。表皮色素細胞(メラノサイト)によるメラニン生成が肌全体であるいはスポット状に過剰になる事が、くすみやシミの一因となる。また、メラニン前駆体であるDHICA(5,6-ジヒドロキシインドール-2-カルボン酸)の酸化重合も暗色なメラニン生成に必要なステップである。
【0022】
例えば、肌質改善剤の有効成分であるシス型カロテノイドの作用及び肌質改善剤の用途として以下のものが挙げられる。
<サンスクリーン作用>
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドよりもUV-A波(320-400nm)の遮蔽率が大きい。
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドよりもUV-B波(280-320nm)の遮蔽率が大きい。
以上より、シス型カロテノイドを含む肌質改善剤は、紫外線遮蔽のために好適に使用される。シス型カロテノイドを含む肌質改善剤は、紫外線遮蔽剤、UV-A波遮蔽剤、UV-B波遮蔽剤としても有用である。
【0023】
<抗酸化作用>
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドよりもDPPH(ジフェニルピクリルヒドラジル)ラジカル消去活性が高い。
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドと略同等のSOD(Superoxide Dismutase)消去活性を有する。
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドよりもOHラジカル(ヒドロキシラジカル)消去活性が高い。
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドと略同等の過酸化脂質生成抑制作用を有する。
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドよりも劣るものの、一重項酸素消去活性を有する。
シミ、シワ、ハリ・弾力の低下、くすみや肌荒れなど、皮膚にまつわる様々な現象が活性酸素種を介していることが知られている。シス型カロテノイドを含む肌質改善剤は、例えば、紫外線照射等によって生じた活性酸素に起因した皮膚の障害の予防、改善に寄与することが期待される。
【0024】
<抗老化作用>
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドよりもエラスターゼ活性を阻害する作用が高い。
シス型リコピンは、トランス型リコピンよりも真皮線維芽細胞の増殖を促進する作用が高い。また、その他のシス型カロテノイドも、同種のトランス型カロテノイドと略同等以上の真皮線維芽細胞の増殖を促進する作用を奏すると考えられる。真皮線維芽細胞が産生するコラーゲンは皮膚のハリ、線維芽細胞が産生するヒアルロン酸は皮膚の柔軟性や潤いに重要な役割を果たしていると考えられている。
シス型リコピンは、トランス型リコピンよりもヒアルロン酸産生を促進する作用が高い。シス型β-カロテンは、トランス型β-カロテンよりもヒアルロン酸産生を促進する作用が高い。また、その他のシス型カロテノイドも、同種のトランス型カロテノイドと略同等以上のヒアルロン酸産生を促進する作用を奏すると考えられる。
以上より、シス型カロテノイドを含む肌質改善剤は、皮膚の老化抑制のために好適に使用される。シス型カロテノイドを含む肌質改善剤は、皮膚の老化抑制剤、エラスターゼ活性阻害剤、真皮線維芽細胞の増殖促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤としても有用である。
【0025】
<美白作用>
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドと略同等のチロシナーゼ活性作用を有する。
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドよりもメラニン生成を抑制する作用が高い。
シス型カロテノイドは、トランス型カロテノイドよりもメラニン前駆体(DHICA)の黒化を抑制する作用が高い。
以上より、シス型カロテノイドを含む肌質改善剤は、美白のために好適に使用される。シス型カロテノイドを含む肌質改善剤は、皮膚の美白剤、チロシナーゼ活性化剤、メラニン生成抑制剤、メラニン前駆体(DHICA)の黒化抑制剤としても有用である。
【0026】
本明細書でいう「肌質の改善」には、例えば、紫外線による皮膚のダメージの抑制が含まれる。紫外線による皮膚のダメージとしては、皮膚の弾力性の低下、経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss、TEWL)の上昇、表皮の肥厚、皮膚の色素沈着等が挙げられる。
なお、皮膚の弾力性は、例えばCutometer(MPA580、インテグラル社製)を用いて測定できる。経表皮水分蒸散量は、例えばTewameter(TM300、インテグラル社製)を用いて測定できる。表皮の肥厚は、例えばヘマトキシリンとエオシンで染色された皮膚サンプルについて、画像分析システム(WinROOF2018、三谷商事社製)を用いて測定できる。皮膚の色素沈着は、例えばMexameter(MX18、インテグラル社製)を使用して評価できる。
【0027】
本発明の肌質改善剤は、例えば、皮膚外用剤又は化粧料として有用である。シス型カロテノイドを塗布して利用した場合、経口摂取した場合と比較してその効能がより効率的に発揮されると考えられる。さらに、経口摂取した場合は体内でシス型カロテノイドの一部がトランス型に異性化されるため、皮膚に蓄積されるシス型の比率が低下することが懸念されるが、直接塗布した場合は原料のシス型比率をそのまま享受することができる。また、化粧料に用いた場合には、シス型カロテノイドの色味により需要者に有効成分が知覚されやすく、購買意欲を高め、また、継続使用を促すことができる。本発明の皮膚外用剤又は化粧料には、本発明の効果を損なわない量的質的範囲において、上記成分の他に、通常の皮膚外用剤又は化粧料等に用いられる成分として、水性成分、界面活性剤、油性成分、保湿剤、高分子、粉体、色素、紫外線吸収剤、皮膜形成剤、pH調整剤、褪色防止剤、酸化防止剤、消泡剤、美容成分、防腐剤、香料等を、各種の効果の付与のために適宜含有することができる。皮膚外用剤又は化粧料の性状は、特に限定されず、液状、ゲル状、クリーム状、半固形状、固形状、スティック状、パウダー状等のいずれであってもよい。皮膚外用剤又は化粧料としては、医薬品等の皮膚外用剤や化粧料等を挙げることができ、例えば、外用固形剤、外用液剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤等や、乳液、化粧水、美容液、美容オイル、パック化粧料、洗顔料、マッサージ用化粧料、化粧用下地料、ボディ用化粧料、ヘア用化粧料、入浴剤等が挙げられる。一方、本発明の皮膚外用剤又は化粧料の形態としては、水中油(o/w、w/o/w)型、油中水型、多重乳化、マイクロエマルション、油脂懸濁物等いずれでもよく、用途や目的に応じて適宜選択することができるが、カロテノイドの安定性の観点から、水中油(o/w、w/o/w)型が好ましい。皮膚外用剤又は化粧料の製造方法は、特に限定されるものではなく、通常皮膚外用剤又は化粧料の製造に用いられている方法を用いることができる。
【0028】
シス型カロテノイドの皮膚外用剤又は化粧料中の配合量は、用途に応じて適宜設定でき、特に限定されない。シス型カロテノイドの皮膚外用剤又は化粧料中の配合量は、保管性、塗り易さ等の使用性、及び皮膚の改善作用を得る観点から、剤全体の質量を100%とした場合に、0.01%-20%であることが好ましく、0.1%-10%であることがより好ましい。
皮膚外用剤又は化粧料の適用量や用法は特に制限されず、通常、一日数回、適量を皮膚等の外皮に適用、例えば塗布するなどして用いることができる。
【0029】
本発明の肌質改善剤は、例えば、経口用剤としても有用である。本発明の経口用剤には、本発明の効果を損なわない量的質的範囲において、上記成分の他に、通常の経口用剤等に用いられる成分を適宜含有することができる。経口用剤の性状は、特に限定されず、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、タブレット、ゼリー、グミ、ガム、ドリンク、ペットボトル等の任意の形態に添加または封入するか、あるいは任意の飲食品に添加することができる。経口用剤は、機能性食品等の食品を除く、医薬品等の経口用剤、サプリメント、食品添加剤等として好適である。また経口用剤は、加工性、保存性等の観点から、植物油にシス型カロテノイドを溶解又は分散させたものであってもよい。植物油としては、常温で液体のものが好適である。植物油は、大豆油、コーン油、ごま油、からし油、オリーブ油、及びひまわり油から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0030】
シス型カロテノイドの経口用剤中の配合量は、用途に応じて適宜設定でき、特に限定されない。シス型カロテノイドの経口用剤中の配合量は、保管性、摂取し易さと、且つ皮膚の改善作用を得る観点から、経口用剤全体の質量を100%とした場合に、0.01%-10%であることが好ましく、0.1%-5%であることがより好ましい。
経口用剤の用量は、摂取者の年齢、体重、性別、状態等の要因によって適宜変更することができる。例えば、経口用剤の1日当たりの摂取量は、シス型カロテノイド換算で体重60kgの成人1日当たり、0.001mg-100mg、好ましくは0.005mg-70mg、より好ましくは0.01mg-50mg、更に好ましくは0.1mg-20mgであるが、この範囲に限定されるものではない。必要に応じて、上記摂取量を1日あたり1回又は数回、例えば2-3回に分けて分割摂取することもできる。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0032】
1.サンプルの調整
実施例に使用するシス型カロテノイド含有の剤のサンプルは、従来の手法で準備したシス型カロテノイド含有のカロテノイドを、DMSO、クロロホルムもしくは大豆油に溶解、懸濁して用いた。トランス型カロテノイド含有の剤のサンプルは、カロテノイドをDMSO、クロロホルムもしくは大豆油に溶解、懸濁して用いた。各サンプルの詳細と、HPLCのクロマトグラムは以下の通りである。
トランス型リコピン:10mM DMSO溶解液、シス型比率2.0%、クロマトグラム
図1(A)
シス型リコピン :10mM DMSO溶解液、シス型比率97.7%、クロマトグラム
図1(B)
トランス型β-カロテン:10mM DMSO溶解液、シス型比率5.7%、クロマトグラム
図1(C)
シス型β-カロテン :10mM DMSO溶解液、シス型比率89.0%、クロマトグラム
図1(D)
トランス型アスタキサンチン:10mM DMSO溶解液、シス型比率3.0%、クロマトグラム
図1(E)
シス型アスタキサンチン :10mM DMSO溶解液、シス型比率85.0%、クロマトグラム
図1(F)
【0033】
2.分析(in vitro)
2-1.サンスクリーン作用
<紫外線遮蔽率測定>
酢酸エチル(CAS No. 141-78-6, Wako, Japan)によって10mMの被験品を500倍希釈したものを最高濃度(20μM)とした。さらに、酢酸エチルによって被験品を希釈して4濃度(1μM, 2.5μM, 5μM, 10μM)を調製し、計5濃度を試験に供した。紫外線遮蔽率の測定は、UV-A波(320-400nm)とUV-B波(280-320nm)の領域について、紫外可視分光光度計(V-750, JASCO, Japan)の遮蔽率評価システム(VWSE-798)を用いて評価した。
【0034】
2-2.抗酸化作用
後述の<一重項酸素消去活性測定>を除き、以下のようにして被試験品の希釈系列を作成した。
超純水(CAS No.7732-18-5, Wako, Japan)によって10mMの被験品を200倍希釈したものを最高濃度(50μM)とした。さらに、0.5%DMSO水溶液によって被験品を希釈して6濃度(0.78125μM, 1.5625μM, 3.125μM, 6.25μM, 12.5μM, 25μM)を用時調製し、計7濃度を試験に供した。対照には0.5%DMSO水溶液を用いた。
【0035】
<DPPHラジカル消去活性測定>
DPPHラジカルに対する被験品のラジカル消去能を評価した。
1)96ウェルプレートに50μLの100 mM酢酸buffer(pH5.5)および50μLの被験品または対照を加えた。1つの処理群に対し、3ウェルを使用した。
2)100μLの40μM 2,2-Diphenyl-1- picrylhydrazyl(DPPH, CAS No. 1898-66-4, Sigma-Aldrich, USA)溶液を加え、37℃で30分間インキュベートした。ブランクとしてDPPHの代替にエタノール(CAS No. 64-17-5, Wako,Japan)を加えた。
3)96ウェルプレートを270rpmで10秒間振とうし、ウェル内の色素を均一に分散した後、マイクロプレートリーダーを用いて517nmの吸光度(OD
517)を測定した。
4)被験品、対照のOD
517から被験品のDPPH残存率およびDPPH消去率を次式により算出した。
【数2】
【0036】
<SOD消去活性測定>
スーパーオキシドアニオン(O
2
-)消去能をスーパーオキシドディスムターゼ(Superoxide dismutase, SOD)様活性として測定した。O2-消去能の測定はSOD Assay Kit-WST(Cat No. S311, Dojindo, Japan)を用いた。
1)96ウェルプレート(Lot. 9107, Corning, USA)に20μLの被験品または対照、200μLのWST working solution、および20μLのEnzyme working solutionを加えた。また、ブランクには Enzyme working solutionの代替としてDilution bufferを用いた。1つの処理群に対し、3ウェルを使用した。
2)プレートシール(Cat No. 62-0891-48, WATSON, Japan)により96ウェルプレートを密封し、270rpmで10秒間振とうし、37℃で20分間インキュベートした。
3)マイクロプレートリーダー(SPARK 10M, TECAN, Switzerland)を用いて450nmの吸光度(OD
450)を測定した。
4)被験品、対照のOD
450から被験品のO
2
-残存率およびO
2
-消去率を次式により算出し、O
2
-消去率を被験品のSOD様活性率とした。
【数3】
【0037】
<OHラジカル消去活性測定>
過酸化水素から生成する・OHに対する被験品のラジカル消去作用を測定する。OHラジカル消去能の測定はHORAC Assay Kit(Cat No. TA30, OBR, UK)を用いた。
1)96ウェルプレートに20μLの被験品または対照を入れ、50nMのFluorescein Na(CAS No. 518-47-8, 紅不二化学工業, Japan)を140μL加えた。
2)その後、200 mMの過酸化水素(CAS No. 7722-84-1, Wako, Japan)および50 mMの硝酸コバルト(II)(CAS No. 10026-22-9, Kanto chemical, Japan)水溶液を20μLずつ加えた。
3)96ウェルプレートを270rpmで10秒間振とうした後、マイクロプレートリーダーを用いてEx/Em:485/535nmの蛍光強度を測定した。
4)プレートシールにより96ウェルプレートを密封し、37 ℃で30分間インキュベートした。
5)再度、96ウェルプレートを270rpmで10秒間振とうした後、マイクロプレートリーダーを用いてEx/Em: 485/535nmの蛍光強度を測定した。
6)被験品、対照の蛍光強度から被験品のOHラジカル生成率およびOHラジカル消去率を次式により算出した。
【数4】
【0038】
<過酸化脂質生成抑制率測定>
不飽和脂肪酸の1つであるリノール酸が酸化して生成される共役ジエンを測定した。
1)1.5 mLチューブ(Cat No. 0030125150, Eppendorf, Germany)に985μLの0.26 mMリノール酸(CAS No. 60-33-3, Wako, Japan)含有10 mM Sodium Dodecyl Sulfate(SDS, CAS No. 151-21-3, Sigma, USA)溶液、10μLの被験品および対照を加え、ソニケーションにより溶液を混合した。
2)1.5 mLチューブに5μLの0.2% 2,2'-Azobis (2-methylpropionamidine) Dihydrochloride(AAPH,CAS No. 2997-92-4, Wako, Japan)溶液を加え、ソニケーションとボルテックスミキサーにより溶液を混合した。
3)紫外線透過型96ウェルプレート(Cat No. 8404, Thermo Fisher, USA)に200μL分注し、マイクロプレートリーダーを用いて、233nmの吸光度(OD
233)を測定した。
4)プレートシールにより紫外線透過型96ウェルプレートを密封し、50 ℃で90分間インキュベートした。
5)紫外線透過型96ウェルプレートを270rpmで30秒間振とうした後、マイクロプレートリーダーを用いて233nmの吸光度(OD
233)を測定した。
6)被験品、対照のOD
233から被験品の過酸化脂質生成率および過酸化脂質生成抑制率を次式により算出した。
【数5】
【0039】
<一重項酸素消去活性測定>
測定にはAntioxidant Capacity Assay Kit for Singlet oxygen(SakuLab Science, Cat.No.SL-2010)を用いてクロロホルムを溶媒として実施した。以下に詳細を述べる。
(1)被験物質調製
各被験物質(10mM DMSO 溶解液)を、クロロホルムを用いて希釈系列を作成した。なお、希釈系列の溶媒はクロロホルムとした。
(2)一重項酸素消去活性試験
1)96ウェルホワイトプレート(発光測定用)のウェルに50μLの被検物質(クロロホルム溶媒)を添加した。
2)各ウェルに100μL のDetection solution(Assay bufferとしてクロロホルムを用いて調製)を添加し攪拌した。
3)各ウェルに50μL の EP solution(EP bufferとしてクロロホルムを用いて調製)を添加し軽く攪拌した。
4)35℃に加温したマイクロプレートリーダーにプレートを移し、3分後に各ウェルの相対発光強度(Relative Light Units: RLUs)を測定した(1000ms/well)。
5)一重項酸素活性を以下の式にて算出した。
一重項酸素活性(%)
=(検体の発光強度値)/(コントロールの発光強度値)×100
【0040】
2-3.抗老化作用
<エラスターゼ阻害率測定>
N-Methoxysuccinyl-Ala-Ala-Pro-Val-MCAを基質としたエラスターゼ活性に及ぼす被験品の効果を評価した。
【0041】
超純水(CAS No.7732-18-5, Wako, Japan)によって10mMの被験品を200倍希釈したものを最高濃度(50μM)とした。さらに、0.5%DMSO水溶液によって被験品を希釈して6濃度(0.78125μM, 1.5625μM, 3.125μM, 6.25μM, 12.5μM, 25μM)を用時調製し、計7濃度を試験に供した。対照には0.5%DMSO水溶液を用いた。
【0042】
1)96ウェルプレートに25μLの被験品または対照、25μLの5 mU/mL エラスターゼ(CAS No. 9004-06-2,Sigma-Aldrich, USA)溶液、50μLのSuc(OMe)-Ala-Ala-Pro-Val-MCA(CAS No. 72252-90-5, PeptideInstitute, Japan)溶液を加えた。
2)96ウェルプレートを270rpmで10秒間振とうし、マイクロプレートリーダーを用いてEx/Em: 360/465nmの蛍光強度を測定した。37℃で60分間インキュベート後、再度Ex/Em: 360/465nmの蛍光強度を測定した。
3)被験品、対照のOD
415から被験品のエラスターゼ活性率およびエラスターゼ阻害活性率を次式により算出した。
【数6】
【0043】
<真皮線維芽細胞の増殖率測定>
超純水(CAS No.7732-18-5, Wako, Japan)によって10mMの被験品を200倍希釈したものを最高濃度(50μM)とした。さらに、0.5%DMSO水溶液によって被験品を希釈して3濃度(1μM, 5μM, 10μMμM)を用時調製し、計4濃度を試験に供した。対照には0.5%DMSO水溶液を用いた。
【0044】
(1)細胞
CO2インキュベータ(CO2濃度 5%、37℃) を用いて、ヒト新生児由来の真皮線維芽細胞株NB1RGB細胞(RIKEN BRC, Japan)を培養し、本試験を実施した。
(2)培地
10.0%(v/v) Fetal Bovine Serum FBS, Cat No. SH30071.03, Hyclone, UK)および1.0%(v/v) 抗真菌剤(Antibiotic-Antimycotic 100X, Cat No. 15240-062, Invitrogen, USA)を含むEagle’s Minimal Essential Medium(EMEM, Cat No.051-07615, Wako, Japan)を用いた。
(3)被験品
試験培地によって被験品を希釈して計3濃度(1μM, 5μM, 10μM)を用時調製した。対照には0.2%DMSOを含有する試験培地を用いた。
(4)試験構成
細胞賦活、コラーゲン産生およびヒアルロン酸産生の算出には1つの処理群につき96ウェルプレート(細胞賦活:CatNo. 3595、Corning、USA コラーゲン産生およびヒアルロン酸産生:Cat No. 3855, Thermo scientific, USA)の3ウェルを用いた。また、1プレートにつき被験品群、対照群をそれぞれ1群設けて試験を実施した。被験品調製を含め、試験に関わる操作は別途記載のないかぎり室温で実施した。
【0045】
(5)試験操作
(5-1)細胞培養
1)96ウェルプレートに1.0×104 cells/wellの密度でNB1RGB細胞を播種し、CO2インキュベータ内で24時間培養した。また、培養時の乾燥を防ぐため、試験に用いないウェルにPhosphate buffer saline(PBS(-), Cat No. 198601,Nissui, Japan)を200μL加えた。
2)24時間後、培地を除去し96ウェルプレートに100μLの被験品および対照を添加し、CO2インキュベータ内で48時間培養した。
3)48時間後、培養上清を新しい96ウェルプレートに分注・冷凍保存(-80℃)した。4-5-3および4-5-4に示す方法により、Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)にて、この培養上清中のコラーゲン量およびヒアルロン酸量を測定し、被験品のコラーゲン・ヒアルロン酸産生促進作用を評価した。また、培養上清を除去した96ウェルプレートの細胞数を(5-2)に示す方法により評価し、被験品の細胞賦活作用を評価した。
(5-2)細胞賦活作用評価
真皮線維芽細胞の増殖に及ぼす被験品の効果を評価した。
1)培地を除去した96ウェルプレートを200μLのPBS(-)で洗浄した。
2)200μLの0.5 mg/mL 3-(4,5-Dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide(MTT, CAS No. 298-93-1,Sigma-Aldrich, USA)溶液を加え、CO2インキュベータ内で2時間インキュベートした。
3)MTT溶液を除去し、200μLのPBS(-)で洗浄後、200μLの2-プロパノール(CAS No. 67-63-0, Wako, Japan)を加えて不溶性のホルマザンを溶解した。
4)96ウェルプレート内の色素を均一に分散した後、マイクロプレートリーダー(SPARK 10M, TECAN, Switzerland)を用いて570nmの吸光度(OD570)を測定した。
5)対照群のOD570を100%として被験品添加群のOD570、すなわち細胞増殖の作用を被験品の細胞賦活作用(%)として算出した。
【0046】
<ヒアルロン酸産生促進率測定>
コラーゲンやエラスチンの間で水分を抱え込むと言われているヒアルロン酸の産生量に対する被験品の効果をサンドイッチELISAで評価した。
【0047】
超純水(CAS No.7732-18-5, Wako, Japan)によって10mMの被験品を200倍希釈したものを最高濃度(50μM)とした。さらに、0.5%DMSO水溶液によって被験品を希釈して3濃度(1μM, 5μM, 10μMμM)を用時調製し、計4濃度を試験に供した。対照には0.5%DMSO水溶液を用いた。
【0048】
1)100μLのHyaluronsan Binding Protein (HABP, Cat No. BC40,Hokudo, Japan, 1:5500)溶液を高吸着型96ウェルプレートに加え、4℃で一晩インキュベートした。
2)固相したHABP溶液を除去し、200μLのPBS-T溶液で洗浄後、150μLの1% BSA溶液を加え、室温で1時間インキュベートした。
3)BSA溶液を除去し、200μLのPBS-Tで洗浄後、PBSで100倍希釈した培養上清を加え、室温で1時間インキュベートした。標準物質にはヒアルロン酸ナトリウム (Cat No. 087-04511,Wako, Japan)を使用した。
4)培養上清を除去し、200μLのPBS-Tで洗浄後、100μLのビオチン標識HABP(Cat No. BC41, Hokudo, Japan,1:2000)溶液を加え、4℃下で一晩静置させた。
5)ビオチン標識HABP溶液を除去し、200μLのPBS-Tで洗浄後、100μLのStreptavidin-HRP溶液(1:10000)を加え、30分間室温静置させた。
6)Streptavidin-HRP溶液を除去し、200μLのPBS-Tで洗浄後、100μLのABTS溶液を加え、発色を確認した。
7)96ウェルプレート内の色素を均一にした後、マイクロプレートリーダーを用いて405nmの吸光度(OD405)を測定した。
8)対照群のOD405を100%として、被験品のヒアルロン酸産生率を算出した。また、対照および被験品のOD405を、「細胞賦活作用評価」で測定したOD570で除した値を細胞あたりのヒアルロン酸産生率として算出した。対照群の細胞あたりのヒアルロン酸産生率を100%として被験品の細胞あたりのヒアルロン酸産生率を算出した。
【0049】
2-4.美白作用
<チロシナーゼ活性測定>
Dihydroxyphenylalanine(DOPA)を基質としたチロシナーゼ活性に及ぼす被験品の効果を評価した。
超純水(CAS No.7732-18-5, Wako, Japan)によって10mMの被験品を200倍希釈したものを最高濃度(50μM)とした。さらに、0.5%DMSO水溶液によって被験品を希釈して6濃度(0.78125μM, 1.5625μM, 3.125μM, 6.25μM, 12.5μM, 25μM)を用時調製し、計7濃度を試験に供した。対照には0.5%DMSO水溶液を用いた。
【0050】
1)96ウェルプレート(Cat No. 9017, Corning, USA)に20μLの被験品または対照、40μLの40 units/mLチロシナーゼ(CAS No. 9002-10-2, Sigma-Aldrich, USA)溶液および100μLの100 mMリン酸buffer(pH6.8)を加え、23℃で3分間インキュベートした。ブランクはチロシナーゼ溶液の代替として100 mMリン酸bufferを用いた。1つの処理群に対し、3ウェルを使用した。
2)50μLの2.5mM 3,4-L-Dihydroxyphenylalanine(L-DOPA, CAS No. 59-92-7, Wako, Japan)溶液を添加し、96ウェルプレートを270rpmで10秒間振とうし、マイクロプレートリーダー(SPARK 10M, TECAN, Switzerland)を用いて490nmの吸光度(OD
490)を測定した。
3)測定したプレートを23℃で10分間インキュベートし、再度490nmの吸光度(OD
490)を測定した。
4)被験品、対照のOD
490から被験品のチロシナーゼ活性率およびチロシナーゼ阻害活性率を次式により算出した。
【数7】
【0051】
<メラニン生成抑制率測定>
(1)細胞
マウス由来B16メラノーマ細胞を、CO
2インキュベータ(CO
2濃度 5%、37℃)を用いて培養し、本試験を実施した。
(2)培地
10.0%(v/v)Fetal Bovine Serum(FBS, Cat No. SH30071.03, Hyclone, UK)および1.0%(v/v)抗真菌剤(Antibiotic-Antimycotic 100X, Cat No. 15240-062, Invitrogen, USA)を含むDulbecco’s ModifiedEagle Medium(DMEM, Cat No. 10566-016, Gibco, USA)を用いた。
(3)被験品調製
100nM α-Melanocyte stimulating hormone(α-MSH, Cat No. M4135, Sigma-Aldrich, USA)、100μM テオフィリン(Cat No. T1633, Sigma-Aldrich, USA)および10%FBSを含有するDMEMを調製し、これを試験培地とした。
試験培地によって被験品を希釈して計3濃度(1μM, 5μM, 20μM)を用時調製した。対照には0.2%DMSOを含有する試験培地を用いた。
(4)試験方法
1)細胞培養用96ウェルプレート(Cat No. 3860-096、IWAKI、Japan)に5.0×103cells/wellの密度でB16メラノーマ細胞を播種し、CO
2インキュベータ内で24時間培養した。また、培養時の乾燥を防ぐため、試験に用いないウェルにPhosphate buffer saline(PBS(-), Cat No. 198601, Nissui,Japan)を加えた。
2)培養上清を除去した96ウェルプレートに被験品および対照を100μL添加し、CO2インキュベータ内で72時間培養した 。
3)培養上清を除去した96ウェルプレートの各ウェルを、37℃に加温したPBS(-)で静かに1回洗浄した。
4)無血清DMEMで10倍希釈したalamarBlue(Cat No. DAL1025, Thermo Fisher Scientific, USA)溶液を120μL加え、CO
2インキュベータ内で1時間インキュベートした。
5)インキュベート後のalamarBlue溶液から100μLを96ウェルプレート(Lot. 9017, Corning, USA)に移し、マイクロプレートリーダー(SPARK10M, TECAN, Switzerland)を用いて570nm(OD
570)および650nm(OD
650)の吸光度を測定した。
6)細胞培養用96ウェルプレートの各ウェルを、PBS(-)200μLで静かに1回洗浄した。
7)細胞培養用96ウェルプレートの各ウェルに10%ジメチルスルホキシド(Cat No. 043-07216, Wako,Japan)含有する1 M 水酸化ナトリウム(CAS No. 1310-73-2, Wako, Japan)水溶液を100μL加え、プレートシールをして85℃で10分間インキュベートした。
8)細胞培養用96ウェルプレートをプレートミキサー(NS-4P, AS ONE, Japan)を用いて270rpmで60秒間振とうし、マイクロプレートリーダーを用いて405nmの吸光度(OD
405)を測定した。
9)被験品、対照のOD
570、OD
600、OD
405から被験品のメラニン生成率(%)およびメラニン生成抑制率(%)は次式により算出した。
【数8】
【0052】
<メラニン前駆体(DHICA)の黒化抑制率測定>
超純水(CAS No.7732-18-5, Wako, Japan)によって被験品を希釈して計3濃度(1μM, 5μM, 20μM)を用時調製した。対照には0.2%DMSOを含有する超純水を用いた。
【0053】
1)96ウェルプレート(Lot. 9107, Corning, USA)の各ウェルに20μg/mL DHICA(D452825,Toronto Research Chemicals, USA)溶液を100μL加えた後、対照および被験品を100μL添加した。対照にはPBS(-)を用いた。
2)96ウェルプレートをプレートミキサーを用いて270rpmで30秒間振とうし、マイクロプレートリーダーを用いて405nmの吸光度(OD
405)を測定した。
3)Quartz reaction container(Ozawa science, Japan)に96ウェルマイクロプレートを装着し、ソーラーシミュレーター(Suntest CPS+, Atlas, USA)を用いて30分間照射した。
4)96ウェルプレートをプレートミキサーを用いて270rpmで30秒間振とうし、マイクロプレートリーダーを用いて405nmの吸光度(OD
405)を測定した。
5)照射前後の被験品、対照のOD
405から被験品のDHICA黒化率(%)およびDHICA黒化抑制率(%)を次式により算出した。
【数9】
【0054】
3.結果(in vitro)
紫外線遮蔽率測定の結果を
図2のグラフに示す。この結果より、トランス型カロテノイドよりシス型カロテノイドの方が高い紫外線(UV-A、UV-B)遮蔽効果を有することが分かった。
【0055】
DPPHラジカル消去活性測定の結果を、
図3のDPPH残存率(%)に関するグラフに示す。この結果より、濃度25μM以上において、トランス型カロテノイドよりシス型カロテノイドの方が高いDPPHラジカル消去活性を示すことが分かった。
【0056】
SOD消去活性測定の結果を、
図4のSOD残存率(%)に関するグラフに示す。この結果より、濃度50μM以下では、トランス型カロテノイドとシス型カロテノイドはSOD消去活性は十分に確認されなかったが、シス型カロテノイドがトランス型カロテノイドと略同等のSOD消去活性を示すことが示唆された。
【0057】
OHラジカル消去活性測定の結果を、
図5のOHラジカル生成率(%)に関するグラフに示す。この結果より、濃度12.5μM以上において、トランス型カロテノイドよりシス型カロテノイドの方が高いOHラジカル消去活性を示すことが分かった。
【0058】
過酸化脂質生成抑制率測定の結果を、
図6の過酸化脂質生成率(%)に関するグラフに示す。この結果より、トランス型カロテノイドとシス型カロテノイドは略同等の過酸化脂質消去活性を示すことが分かった。
【0059】
一重項酸素消去活性測定の結果を、
図7の一重項酸素活性(%)に関するグラフに示す。この結果より、シス型カロテノイドよりトランス型カロテノイドの方が高い一重項酸素消去活性を示すことが分かった。
【0060】
エラスターゼ阻害率測定の結果を、
図8のエラスターゼ活性率(%)に関するグラフに示す。この結果より、トランス型カロテノイドよりシス型カロテノイドの方が高いエラスターゼ活性阻害作用を示すことが分かった。
【0061】
真皮線維芽細胞の増殖率測定の結果を、
図9の細胞賦活率(細胞賦活作用、%)に関するグラフに示す。この結果より、リコピンにおいて、トランス型よりシス型の方が高い真皮線維芽細胞の増殖作用を示すことが分かった。
【0062】
ヒアルロン酸産生促進率測定の結果を、
図10のヒアルロン酸産生率(%)に関するグラフに示す。この結果より、リコピンとβ-カロテンにおいて、トランス型よりシス型の方が高いヒアルロン酸産生作用を示すことが分かった。シス型アスタキサンチンにおいて、高濃度区分(10μM)においてヒアルロン酸の産生が抑制されることが確認された。
【0063】
チロシナーゼ活性測定の結果を、
図11のチロシナーゼ活性率(%)に関するグラフに示す。この結果より、トランス型カロテノイドとシス型カロテノイドのチロシナーゼ活性率は略同等であることが分かった。
【0064】
メラニン生成抑制率測定の結果を、
図12のメラニン生成率(%)に関するグラフに示す。この結果より、トランス型カロテノイドよりシス型カロテノイドの方が高いメラニン生成抑制作用を示すことが分かった。
【0065】
メラニン前駆体(DHICA)の黒化抑制率測定の結果を、
図13のメラニン前駆体(DHICA)の黒化率(%)に関するグラフに示す。この結果より、トランス型カロテノイドよりシス型カロテノイドの方が高いメラニン前駆体(DHICA)の黒化抑制作用を示すことが分かった。
【0066】
これらの結果より、シス型カロテノイドを含む肌質改善剤の有用性が確認された。
【0067】
4.紫外線照射モルモットの肌質改善効果確認試験(in vivo)
モルモット(Weiser-Maples系モルモット、雌、8週齢、n=3)に対して、アスタキサンチン非含有の大豆油(プラセボ、Placebo)、トランス型アスタキサンチン含有の大豆油(シス型アスタキサンチン比率3.2%、E-AST-D)、又はシス型アスタキサンチン含有の大豆油(シス型アスタキサンチンの含有率84.4%、Z-AST-D)の試験餌を3週間、胃内挿管を介して投与した。トランス型アスタキサンチン含有の大豆油又はシス型アスタキサンチン含有の大豆油は、カロテノイドの投与量10mg/kg 体重/dayになるように投与した。
【0068】
UV照射はUVランプ(Dermaray-200タイプA・B、テルモクリニカルサプライ社製)を用いて行った。ランプからモルモットまでの距離は、平均UV-B光強度が0.8mW/cm2になるように調整した。モルモットの背中を2cm×2cm剃り、UVを照射した。UV照射は上記の試験餌の投与が開始されてから、8日目、10日目、12日目、14日目、16日目、18日目に、1日につき8分間実施した。
【0069】
紫外線照射前と、紫外線照射開始後3日目、11日目のモルモットの背部皮膚の弾力性を測定した。測定には、Cutometer(MPA580、インテグラル社製)を用いた。
紫外線照射前と、紫外線照射開始後9日目のモルモットの背部皮膚の経表皮水分蒸散量を測定した。測定には、Tewameter(TM300、インテグラル社製)を用いた。
紫外線照射開始後13日目のモルモットの背部皮膚を、表皮の肥厚の分析に供した。表皮の肥厚の状態の評価は、アプライドメディカルリサーチ社の専門官によってなされた。表皮の肥厚は、皮膚サンプルをヘマトキシリンとエオシンで染色し、画像分析システム(WinROOF2018、三谷商事社製)を用いて測定した。
【0070】
5.結果(in vivo)
紫外線照射開始後3日目、11日目において、シス型アスタキサンチン含有の大豆油の試験餌を投与されたモルモットは、アスタキサンチン非含有の大豆油(プラセボ)の試験餌を投与されたモルモットに比して、背部皮膚の弾力性が高かった。また、シス型アスタキサンチン含有の大豆油の試験餌を投与されたモルモットは、トランス型アスタキサンチン含有の大豆油の試験餌を投与されたモルモットに比して、背部皮膚の弾力性が高い傾向がみられた。
【0071】
紫外線照射開始後9日目において、シス型アスタキサンチン含有の大豆油の試験餌を投与されたモルモットは、アスタキサンチン非含有の大豆油(プラセボ)の試験餌を投与されたモルモットに比して、経表皮水分蒸散量が低かった。また、シス型アスタキサンチン含有の大豆油の試験餌を投与されたモルモットは、トランス型アスタキサンチン含有の大豆油の試験餌を投与されたモルモットに比して、経表皮水分蒸散量が低い傾向がみられた。
【0072】
紫外線照射開始後13日目において、シス型アスタキサンチン含有の大豆油の試験餌を投与されたモルモットは、アスタキサンチン非含有の大豆油(プラセボ)の試験餌を投与されたモルモットに比して、表皮の肥厚等の皮膚の状態が良好であった(
図14(a))。また、シス型アスタキサンチン含有の大豆油の試験餌を投与されたモルモットは、トランス型アスタキサンチン含有の大豆油の試験餌を投与されたモルモットに比して、表皮の肥厚等の皮膚の状態が良好である傾向がみられた(
図14(b))。
【0073】
6.実施例の効果
本実施例によれば、有用な肌質改善剤を提供できた。
【0074】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。