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特開2023-167808シリコン基板、液体吐出ヘッド及びシリコン基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167808
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】シリコン基板、液体吐出ヘッド及びシリコン基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20231116BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/16 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079280
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正寛
(72)【発明者】
【氏名】茅野 祐治
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF68
2C057AG44
2C057AN05
2C057AP13
2C057AP34
2C057AP35
2C057AP52
2C057AP56
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】他の部材に接合されて使用されるシリコン基板において、該他の部材に対して剥離することを抑制する。
【解決手段】基板面のうちの一方を他の部材30に接合される側の接合面20bとするシリコン基板20であって、接合面20bに対して交差する凹み方向に延設される側壁または傾斜面を有する貫通孔22または溝23である凹部を接合面20bに有し、接合面20bのうちの凹部が形成されていない非形成領域208の少なくとも一部に、直径1nm以上500nm以下の穴部が複数形成される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板面のうちの一方を他の部材に接合される側の接合面とするシリコン基板であって、
前記接合面に対して交差する凹み方向に延設される側壁または傾斜面を有する貫通孔または溝である凹部を前記接合面に有し、
前記接合面のうちの前記凹部が形成されていない非形成領域の少なくとも一部に、直径1nm以上500nm以下の穴部が複数形成されることを特徴とするシリコン基板。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン基板において、
前記シリコン基板は、単結晶シリコン基板であって、
前記凹部は、金属アシスト化学エッチングで形成され、
前記凹み方向は、前記基板面に対して90°プラスマイナス2°以下の角度をなすことを特徴とするシリコン基板。
【請求項3】
請求項1に記載のシリコン基板において、
前記穴部は、直径10nm以上100nm以下であることを特徴とするシリコン基板。
【請求項4】
前記凹部として前記貫通孔を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のシリコン基板と、
前記他の部材として、前記シリコン基板と接合された際に前記貫通孔と繋がり液体を供給可能な流路の少なくとも一部を構成するとともに、前記流路と繋がる圧力室に対して圧力を付与可能なキャビティー基板と、
を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
基板面のうちの接合面を介して他の部材に接合されるシリコン基板の製造方法であって、
前記接合面のエッチング対象領域に触媒膜を形成する工程と、
前記接合面のうちの前記触媒膜が形成されていない非エッチング対象領域上及び前記触媒膜上に金属で金属成膜を形成する工程と、
前記金属成膜を陽極酸化して前記金属成膜を陽極酸化膜とし、前記陽極酸化膜上に複数の窪みを形成する工程と、
前記陽極酸化膜の少なくとも一部を除去し、前記エッチング対象領域の前記触媒膜上及び前記非エッチング対象領域の前記接合面上における前記窪みに対応する位置に、直径1nm以上500nm以下の穴部を形成する工程と、
前記接合面をエッチング液と接触させて前記エッチング対象領域をエッチングして、前記接合面に対して交差する凹み方向に延設される側壁または傾斜面を有する貫通孔または溝である凹部を形成する工程と、
を有することを特徴とするシリコン基板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のシリコン基板の製造方法において、
前記金属成膜を形成する工程は、アルミニウムで金属成膜を形成し、
前記穴部を形成する工程は、アルゴンでの逆スパッタにより実行されることを特徴とするシリコン基板の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載のシリコン基板の製造方法において、
前記窪みを形成する工程での前記陽極酸化膜の厚みは、50nm以上200nm以下であり、
前記窪みを形成する工程での前記窪みの直径は、20nm以上100nm以下であり、
前記穴部の直径は、10nm以上200nm以下であることを特徴とするシリコン基板の製造方法。
【請求項8】
請求項5または6のいずれか1項に記載のシリコン基板の製造方法において、
前記基板面の結晶異方性エッチング対象領域を結晶異方性エッチングすることにより、前記基板面に対して前記側壁よりも傾斜した傾斜側壁を有する傾斜貫通孔を形成する工程を有することを特徴とするシリコン基板の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載のシリコン基板の製造方法において、
前記傾斜貫通孔を形成する工程では、エッチング液としてアルカリ性水溶液を使用し、
前記凹部を形成する工程では、前記凹部が金属アシスト化学エッチングで形成されることを特徴とするシリコン基板の製造方法。
【請求項10】
請求項5または6のいずれか1項に記載のシリコン基板の製造方法において、
前記触媒膜を形成する工程では、前記触媒膜は無電解めっき法または蒸着法により形成されることを特徴とするシリコン基板の製造方法。
【請求項11】
請求項5または6のいずれか1項に記載のシリコン基板の製造方法において、
前記凹部として前記貫通孔を形成する工程では、前記貫通孔を前記接合面から前記接合面とは反対側の反対面まで貫通させ、
前記貫通孔の前記反対面側の開口部に、前記反対面に向かうにつれて広がる前記反対面に対する傾斜面を設ける工程を有することを特徴とするシリコン基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板、液体吐出ヘッド及びシリコン基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々なシリコン基板が使用されている。このようなシリコン基板は、液体としてのインクを吐出するインクジェットヘッドなど、様々な液体吐出ヘッドに好ましく使用されている。このようなシリコン基板を備える液体吐出ヘッドとして、例えば、特許文献1には、シリコン基板である吐出素子基板を備える液体吐出ヘッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-281715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体吐出ヘッドなどで使用されるシリコン基板は、別の部材に接合されて使用されることが多い。例えば、特許文献1の液体吐出ヘッドにおいては、吐出素子基板が支持体に接合されている。このように、別の部材に接合されて使用されるシリコン基板は、接合される別の部材から剥離すると、求められる性能を発揮できない虞がある。そこで、他の部材に接合されて使用されるシリコン基板においては、該他の部材に対して剥離することを抑制することが求められている。特許文献1の液体吐出ヘッドにおいては、吐出素子基板に支持体との接合面に接着剤を収容するための四角錐形状の凹部である複数のピット形状部を設け、アンカー効果により吐出素子基板が支持体に対して剥離しないようにしている。しかしながら、該ピット形状部は吐出素子基板に設けられるインク供給口とともに異方性エッチングにより構成されていると考えられ、個々のピット形状部は大きく、個々のピット形状部が大きすぎることによってアンカー効果が不十分である可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、上記課題を解決するための本発明に係るシリコン基板は、基板面のうちの接合面を介して他の部材に接合されるシリコン基板であって、前記接合面に対して交差する凹み方向に延設される側壁または傾斜面を有する貫通孔または溝である凹部を前記接合面に有し、前記接合面のうちの前記凹部が形成されていない非形成領域の少なくとも一部に、直径1nm以上500nm以下の穴部が複数形成されることを特徴とする。
【0006】
また、上記課題を解決するための本発明に係るシリコン基板の製造方法は、基板面のうちの一方を他の部材に接合される側の接合面とするシリコン基板の製造方法であって、前記接合面のエッチング対象領域に触媒膜を形成する工程と、前記接合面のうちの前記触媒膜が形成されていない非エッチング対象領域上及び前記触媒膜上に金属で金属成膜を形成する工程と、前記金属成膜を陽極酸化して前記金属成膜を陽極酸化膜とし、前記陽極酸化膜上に複数の窪みを形成する工程と、前記陽極酸化膜の少なくとも一部を除去し、前記エッチング対象領域の前記触媒膜上及び前記非エッチング対象領域の前記接合面上における前記窪みに対応する位置に、直径1nm以上500nm以下の穴部を形成する工程と、前記接合面をエッチング液と接触させて前記エッチング対象領域をエッチングして、前記接合面に対して交差する凹み方向に延設される側壁または傾斜面を有する貫通孔または溝である凹部を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施例1のシリコン基板としての封止板を有する液体吐出ヘッドの底面図及びその一部領域Xの拡大図。
図2図1の液体吐出ヘッドの側面断面図。
図3図1の液体吐出ヘッドの斜視図。
図4図1の液体吐出ヘッドの封止板の製造過程を表す図。
図5図1の液体吐出ヘッドの封止板の製造方法を表すフローチャート。
図6図1の液体吐出ヘッドの封止板の金属成膜の陽極酸化と逆スパッタを説明するための概略図。
図7図1の液体吐出ヘッドの封止板の逆スパッタ後の表面状態を表す写真。
図8図1の液体吐出ヘッド全体の製造方法を表すフローチャート。
図9】本発明の実施例2のシリコン基板の側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
最初に、本発明について概略的に説明する。
上記課題を解決するための本発明の第1の態様のシリコン基板は、基板面のうちの一方を他の部材に接合される側の接合面とするシリコン基板であって、前記接合面に対して交差する凹み方向に延設される側壁または傾斜面を有する貫通孔または溝である凹部を前記接合面に有し、前記接合面のうちの前記凹部が形成されていない非形成領域の少なくとも一部に、直径1nm以上500nm以下の穴部が複数形成されることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、接合面のうちの非形成領域の少なくとも一部に直径1nm以上500nm以下の穴部が複数形成される。すなわち、他の部材との接合面に直径1nm以上500nm以下の緻密でアンカー効果の高い穴部が複数形成される。したがって、他の部材に接合されて使用されるシリコン基板において、該他の部材に対して剥離することを抑制することができる。
【0010】
本発明に係る第2の態様のシリコン基板は、第1の態様において、前記シリコン基板は、単結晶シリコン基板であって、前記凹部は、金属アシスト化学エッチングで形成され、前記凹み方向は、前記基板面に対して90°プラスマイナス2°以下の角度をなすことを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、凹部は金属アシスト化学エッチングで形成され、凹部の凹み方向は基板面に対して90°プラスマイナス2°以下の垂直側壁で側壁が構成される。このため、基板面が広がることを抑制でき、単結晶シリコン基板を小型化することができる。
【0012】
本発明に係る第3の態様のシリコン基板は、第1の態様において、前記穴部は、直径10nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、穴部は直径10nm以上100nm以下である。穴部をこのような大きさにすることで、アンカー効果が特に有効となり、シリコン基板が他の部材に対して剥離することを特に効果的に抑制することができる。
【0014】
本発明の第4の態様の液体吐出ヘッドは、前記第1から第3のいずれか1つの単結晶シリコン基板と、前記他の部材として、前記シリコン基板と接合された際に前記貫通孔と繋がり液体を供給可能な流路の少なくとも一部を構成するとともに、前記流路と繋がる圧力室に対して圧力を付与可能なキャビティー基板と、を備えることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、上記シリコン基板とキャビティー基板とにより、シリコン基板が他の部材としてのキャビティー基板に対して剥離することを抑制することができる。
【0016】
本発明に係る第5の態様のシリコン基板の製造方法は、基板面のうちの接合面を介して他の部材に接合されるシリコン基板の製造方法であって、前記接合面のエッチング対象領域に触媒膜を形成する工程と、前記接合面のうちの前記触媒膜が形成されていない非エッチング対象領域上及び前記触媒膜上に金属で金属成膜を形成する工程と、前記金属成膜を陽極酸化して前記金属成膜を陽極酸化膜とし、前記陽極酸化膜上に複数の窪みを形成する工程と、前記陽極酸化膜の少なくとも一部を除去し、前記エッチング対象領域の前記触媒膜上及び前記非エッチング対象領域の前記接合面上における前記窪みに対応する位置に、直径1nm以上500nm以下の穴部を形成する工程と、前記接合面をエッチング液と接触させて前記エッチング対象領域をエッチングして、前記接合面に対して交差する凹み方向に延設される側壁または傾斜面を有する貫通孔または溝である凹部を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、シリコン基板における他の部材との接合面に対し、例えばアルミニウムなどで金属成膜を形成し、金属成膜を陽極酸化膜とし、陽極酸化膜上に複数の窪みを形成し、陽極酸化膜を除去することで、直径1nm以上500nm以下の穴部を形成する。すなわち、他の部材との接合面に直径1nm以上500nm以下の緻密でアンカー効果の高い穴部が複数形成する。したがって、他の部材に接合されて使用されるシリコン基板において、該他の部材に対して剥離することを抑制することができる。
【0018】
本発明に係る第6の態様のシリコン基板の製造方法は、第5の態様において、前記金属成膜を形成する工程は、アルミニウムで金属成膜を形成し、前記穴部を形成する工程は、アルゴンでの逆スパッタにより実行されることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、アルミニウムで金属成膜を形成し、アルゴンで逆スパッタすること穴部を形成する。このため、直径1nm以上500nm以下の緻密でアンカー効果の高い複数の穴部を容易に形成することができる。
【0020】
本発明に係る第7の態様のシリコン基板の製造方法は、第5または第6の態様において、前記窪みを形成する工程での前記陽極酸化膜の厚みは、50nm以上200nm以下であり、前記窪みを形成する工程での前記窪みの直径は、20nm以上100nm以下であり、前記穴部の直径は、10nm以上200nm以下であることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、陽極酸化膜の厚みは50nm以上200nm以下であり、窪みの直径は20nm以上100nm以下である。陽極酸化膜の厚み及び窪みの直径をこのような範囲で構成することで、アンカー効果が特に有効な直径10nm以上100nm以下の緻密な穴部を好適に形成することができる。
【0022】
本発明に係る第8の態様のシリコン基板の製造方法は、第5または第6の態様において、前記基板面の結晶異方性エッチング対象領域を結晶異方性エッチングすることにより、前記基板面に対して前記側壁よりも傾斜した傾斜側壁を有する傾斜貫通孔を形成する工程を有することを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、基板面の結晶異方性エッチング対象領域を結晶異方性エッチングすることにより傾斜貫通孔を形成する。結晶異方性エッチングを採用することで、容易に傾斜貫通孔を形成することができる。
【0024】
本発明に係る第9の態様のシリコン基板の製造方法は、第8の態様において、前記傾斜貫通孔を形成する工程では、エッチング液としてアルカリ性水溶液を使用し、前記凹部を形成する工程では、前記凹部が金属アシスト化学エッチングで形成されることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、傾斜貫通孔を形成する際にはエッチング液としてアルカリ性水溶液を使用して結晶異方性エッチングし、凹部を形成する際には金属アシスト化学エッチングを採用する。このような方法を採用することで、傾斜貫通孔を容易に形成することができるとともに、凹部を精密に形成することができる。
【0026】
本発明に係る第10の態様のシリコン基板の製造方法は、第5または第6の態様において、前記触媒膜を形成する工程では、前記触媒膜は無電解めっき法または蒸着法により形成されることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、触媒膜は無電解めっき法または蒸着法により形成される。このように単結晶シリコン基板を製造することで、特に簡単かつ高精度に単結晶シリコン基板を製造することができる。
【0028】
本発明に係る第11の態様のシリコン基板の製造方法は、第5または第6の態様において、前記凹部として前記貫通孔を形成する工程では、前記貫通孔を前記接合面から前記接合面とは反対側の面まで貫通させ、前記貫通孔の前記反対面側の開口部に、前記反対面に向かうにつれて広がる前記反対面に対する傾斜面を設ける工程を有することを特徴とする。
【0029】
本態様によれば、凹部としての貫通孔の反対面側の開口部は、反対面に向かうにつれて広がる反対面に対する傾斜面が設けられている。このため、開口部にバリなどが残ることを抑制することができる。また、このような開口部とすることで、例えば、開口部から貫通孔に液体を流入する場合において、液体を好適に流入することができる。
【0030】
[実施例1]
次に、本発明の実施例1の液体吐出ヘッド1について図1から図8を参照して詳細に説明する。なお、以下の図においては、液体吐出ヘッド1の構造をわかりやすくするため、一部の部材の簡略化、一部の部材の省略化、一部の部材の縦横比の変更などがなされている。
【0031】
図1で表される本実施例の液体吐出ヘッド1は、移動方向Aに媒体を搬送して、または、停止した媒体に対して移動方向Aに液体吐出ヘッド1自体が移動して、媒体に対して液体としてのインクをノズルNから吐出して画像を形成することが可能なインクジェットヘッドの底面図である。本実施例の液体吐出ヘッド1は、移動方向Aと交差する幅方向Bにおける媒体全体に対応してノズルNが設けられる所謂ラインヘッドである。
【0032】
ラインヘッドの底面であるノズル形成面11に複数のノズルNを配置する場合、幅方向BにノズルNを並べると最もシンプルにノズルNを配置することができる。ただし、そのようにノズルNを配置すると、幅方向Bにおける隣接するノズルN同士のピッチが広くなってしまう。隣接するノズルN同士のピッチが広くなると解像度が低下する。そこで、本実施例の液体吐出ヘッド1は、ノズルNが一直線に並ぶ複数のノズル列12を移動方向Aに対して斜めになるように配置している。
【0033】
図1の領域Xの拡大図で表されるように、本実施例の液体吐出ヘッド1においては、各々のノズル列12の幅方向BにおけるノズルNの間隔はピッチP1となっている。さらに、隣接するノズル列12で同じインクを吐出する構成とし、幅方向Bにおいて隣接するノズル列12同士でノズルNの位置がノズル列12毎にピッチP1の半分ずれて配置される構成としていることで、液体吐出ヘッド1の幅方向BにおけるノズルNの間隔はピッチP1の半分であるピッチP0となっている。本実施例の液体吐出ヘッド1は、このようなノズル列12の配置とすることでピッチP0をとして1200dpi(ドット パー インチ)という解像度となるように高解像度化している。
【0034】
なお、このように移動方向Aに対して斜めになるようにノズル列12の配置とすることに加えて、隣接するノズルN同士の間隔を狭めることでさらに高解像度化することができる。本実施例の液体吐出ヘッド1は、図2で表される構成とすることで、隣接するノズルN同士の間隔を狭めている。図2は、概ね移動方向Aに沿う方向において切断した断面図である。本実施例の液体吐出ヘッド1は、不図示のインクカートリッジからノズル列12のうちのノズル列12A及びノズル列12Bの両方に同じインクが供給され、ノズル列12AのノズルNとノズル列12BのノズルNとで同じインクを吐出可能である。また、本実施例の液体吐出ヘッド1は、インクを循環して使用可能な構成となっており、液体吐出ヘッド1の内部でインクは流れ方向Fに流れる。詳細には、ノズル列12A及びノズル列12Bの両方において、インクカートリッジから流れ方向Fに流れてきたインクは、いずれも流路51の一部を形成する、後述する封止板20の第2貫通孔22に対応する流路51A、後述するキャビティー基板30の貫通孔に対応する流路51B、キャビティー基板30と後述する流路基板40とで構成される流路51C、を介して、循環流路51Dに戻る。このように、2つのノズル列12に対して循環流路51Dを共通化していることで、隣接するノズル列12同士の間隔を狭めている。なお、循環流路51Dに戻ったインクは、再度流路51を流れ方向Fに流れ、再利用される。
【0035】
以下に、図2及び図3を参照してさらに本実施例の液体吐出ヘッド1の詳細な構成について説明する。図3は、本実施例の液体吐出ヘッド1のノズル列12A側の一部を表している。本実施例の液体吐出ヘッド1は、封止板20と、キャビティー基板30と、流路基板40と、を備えている。
【0036】
封止板20は、少なくとも一部が液体の流路51を構成する単結晶シリコン基板である。ただし、単結晶シリコン基板であることに限定されない。また、封止板20は、基板面として第1面20a及び該第1面20aとは反対側の面である第2面20bを有し、第1面20a及び第2面20bに対して傾斜した傾斜側壁21aを有する第1貫通孔21を備えている。また、封止板20は、流路51を構成するとともに、第1面20a及び第2面20bに対して傾斜側壁21aよりも垂直に近い垂直側壁22aで側壁が構成される第2貫通孔22を備えている。そして、第2貫通孔22は、流路51の一部であってインクリザーバーの役割をしている。このように、垂直に近い垂直側壁22aで側壁が構成される第2貫通孔22をインクリザーバーの役割とすることで、基板面の広がる面方向に封止板20が大きくなることを抑制でき、液体吐出ヘッド1の小型化が可能になっている。
【0037】
キャビティー基板30は、基板面として第3面30a及び該第3面30aとは反対側の面である第4面30bを有し、第3面30aが第2面20bに接合されることで封止板20に接合されている。本実施例のキャビティー基板30も、封止板20と同様、単結晶シリコン基板であるが、単結晶シリコン基板であることに限定されない。また、第3面30aには電極部31として圧電素子32と圧電素子32に導通する導通部としての電極膜33及び34とが形成され、第4面30bは少なくともその一部が流路51を構成している。なお、電極部31の形成位置に対応する封止板20の領域には、圧電素子収容室23が設けられている。電極膜33は圧電素子収容室23から第1貫通孔21まで進出している。別の観点から説明すると、第1貫通孔21においてTCP(テープ キャリア― パッケージ)がCOF(チップ オン フレックス)実装される。COF実装ではTCPを加熱圧着するために専用のツールを用いるが、COF実装の際に第1面20a側を広く第2面20b側を狭くすることで、面方向に封止板20やキャビティー基板30が大きくなることを抑制でき、液体吐出ヘッド1の小型化が可能になっている。
【0038】
本実施例の流路基板40も、封止板20やキャビティー基板30と同様、単結晶シリコン基板であるが、単結晶シリコン基板であることに限定されない。流路基板40は、キャビティー基板30を介して電極部31に対向する位置に圧力室41が設けられ、圧力室41にはインクを吐出方向Dに吐出するノズルNが設けられている。圧力室41は流路51の一部を形成するとともに循環流路51Dに繋がっており、ノズルNから吐出しきれないインクを循環流路51Dに流すことができる。電極部31が通電されると、圧電素子32が変形し、キャビティー基板30が振動することで圧力室41に圧力が加わり、圧力室41内のインクがノズルNから吐出方向Dに吐出する。
【0039】
ここで、本実施例の封止板20においては、第1貫通孔21は結晶異方性エッチングで形成され、第2貫通孔22は金属アシスト化学エッチング(MACE)で形成されている。MACEで貫通孔を形成することにより結晶異方性エッチングで貫通孔を形成する場合よりも垂直に近い側壁の貫通孔とすることができる。このため、基板面である第1面20a及び第2面20bに対して略垂直な垂直側壁22aで第2貫通孔22の側壁を構成することができている。封止板20をこのような構成とすることで、緻密な構造の単結晶シリコン基板を製造することができ、小型で高解像度の液体吐出ヘッド1を製造することができる。また、第1貫通孔21を結晶異方性エッチングで形成し、第2貫通孔22を金属アシスト化学エッチングで形成することで、温室効果ガスを多く用いるドライエッチングを使用せず、オールウェットの状態でエッチングをすることができる。このため、封止板20をこのような構成とすることで、生産性を向上することができるとともに、製造に伴う電力量や温室効果ガスの使用を削減することができる。
【0040】
ここで、MACEで形成される第2貫通孔22の垂直側壁22aが基板面に対してなす角度、別の表現をすると、凹部である第2貫通孔22の凹み方向の基板面に対してなす角度は、90°プラスマイナス2°以下であることが好ましい。封止板20に表面である基板面のミラー指数(面指数)が(100)の単結晶シリコンのウエハを使い、エッチング液組成を工夫することで、垂直なMACEによるエッチングを、例えば封止板20の厚みを400μm程度の範囲で管理し、垂直度を確保することができるためである。また、このような構成とすることで、基板面が広がることを抑制でき、単結晶シリコン基板である封止板20を小型化することができる。
【0041】
また、基板面に対する傾斜側壁21aのなす角度は、45.0°以上54.7°以下であることが好ましい。54.7°は、ミラー指数(面指数)が(100)の封止板20の第1面20aの表面部分とエッチングの進行が最も遅いミラー指数(面指数)が(111)の結晶面とのなす角であり、計算ではCOS-1(1/31/2)の値である。また、45°は、次に安定するミラー指数(面指数)が(110)の結晶面とのなす角となるCOS-1(1/21/2)の値である。なお、該角度を45°とした場合に比べ、該角度を54.7°とした場合の方がエッチング面として安定していて、封止板20の全体のサイズも小さくできる。
【0042】
ここで、本実施例の封止板20についてさらに説明すると、上記のように、本実施例の封止板20は、基板面のうちの一方である第2面20bを他の部材であるキャビティー基板30側の接合面とするシリコン基板である。そして、第2面20bに対して交差する凹み方向に延設される側壁または傾斜面を有する凹部として、貫通孔である第2貫通孔22と、溝である圧電素子収容室23と、を第2面20bに有している。このように、接合面に凹部としての貫通孔及び溝の少なくとも一方を有し該接合面を介して他の部材に接合されるシリコン基板は、凹部があることにより他の部材との接触面積が少なくなり、接合した他の部材から剥離しやすい場合がある。そこで、本実施例の封止板20は、接合したキャビティー基板30から剥離することを抑制するために、接合面である第2面20bのうちの凹部である第2貫通孔22及び圧電素子収容室23が形成されていない図6で表されるような非形成領域208に、直径1nm以上500nm以下の穴部207が複数形成されている。このように、非形成領域208の少なくとも一部に直径1nm以上500nm以下の穴部207が複数形成することで、緻密でアンカー効果の高い穴部207が複数形成されることとなり、他の部材に接合されるシリコン基板が他の部材から剥離することが抑制される。
【0043】
なお、穴部207は、直径10nm以上100nm以下であることが特に好ましい。穴部207をこのような大きさにすることで、アンカー効果が特に有効となり、シリコン基板が他の部材に対して剥離することを特に効果的に抑制することができるためである。
【0044】
次に、穴部207の具体的な形成方法などを含む本実施例の封止板20の製造方法について、図4から図7を参照して説明する。図5で表されるように、本実施例の封止板20の製造方法においては、最初にステップS10の触媒膜形成工程を実行する。ステップS10の触媒膜形成工程では、最初に図4の一番上の図で表される単結晶シリコン基板201に対し、図4の上から2番目の図で表されるようにSiOで表される酸化膜202を形成する。そして、フォトリソによりレジストでパターン化し、図4の上から3番目の図で表されるようにMACEの触媒膜となる金による膜であるAu膜204を形成する。ここで、図4の上から3番目の図において、Au膜204は下面から見ると円環状をしており、本実施例ではAuを蒸着させることにより形成している。
【0045】
次に、図5で表されるステップS20の金属成膜形成工程を実行する。ステップS20の金属成膜形成工程では、図4の上から4番目の図で表されるように、接合面である第2面20b側に、アルゴン環境下においてアルミニウムでスパッタ成膜205を形成する。ここで、図6の上の図は、第2面20b側の非形成領域208において単結晶シリコン基板201にスパッタ成膜205が形成された状態を表している。なお、図6では、スパッタ成膜205の状態を見やすくするため、酸化膜202は省略して表されている。
【0046】
そして、その後、図5で表されるステップS30の陽極酸化工程を実行する。ステップS30の陽極酸化工程を実行することで、図6の上の図から図6の中央の図に進むことで表されるように、スパッタ成膜205には微細な窪み206が複数形成される。窪み206は、第2面20b側の非形成領域208のAu膜204上と、第2面20b側の非形成領域208のAu膜204が形成されていない単結晶シリコン基板201の表面上と、の両方のスパッタ成膜205に形成される。
【0047】
そして、その後、図5で表されるステップS40の穴部形成工程を実行する。ステップS40の穴部形成工程は、本実施例では、アルゴンによる逆スパッタを行うことで実行される。図6の下の図で表されるように、アルゴンによる逆スパッタを行うことで、スパッタ成膜205の表面及び窪み206の内部にアルゴンが衝突し、衝突された箇所が削られることでスパッタ成膜205が薄くなるとともに窪み206の底部分に穴部207が形成される。
【0048】
そして、その後、図5で表されるステップS50のエッチングによる凹部形成工程を実行する。具体的には、最初に、図4の上から5番目の図で表されるように、スパッタ成膜205及び酸化膜202を除去する。なお、図7は穴部207を表す一例としての写真であり、スパッタ成膜205及び酸化膜202を除去した後の、Au膜204の表面と、Au膜204が形成されていない単結晶シリコン基板201の表面との、境界部分周辺を表す写真である。
【0049】
図4の上から5番目の図の状態からMACEを行うと、図4の上から6番目の図の状態となる。図4の上から6番目の図は、MACEにより単結晶シリコン基板201に円筒状の穴が形成された状態を表している。なお、図7の写真で表されるようにAu膜204の表面にも穴部207が複数形成されていることで、MACEにおいてエッチング液がAu膜204の周囲に循環しやすくなり、単結晶シリコン基板201のエッチングレートを高めることができる。その後、Au膜204をエッチングすると図4の上から7番目の図の状態となる。また、Au膜204の表面に穴部207が複数形成されていることで、Au膜204をエッチングする際のエッチングレートも高めることができる。
【0050】
その後、SiOで表される酸化膜202を単結晶シリコン基板201の全体に形成すると図4の上から8番目の図の状態となる。その後、フォトリソによりレジストでパターン化し、レジストをエッチングにより除去すると、図4の上から9番目の図の状態となる。ここでは、第2貫通孔22に対応する第1面20a側も酸化膜202が形成されていない状態とする。その後、単結晶シリコン基板201を形成するケイ素(Si)の結晶異方性エッチングを水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ性水溶液を用いて行うと、図4の上から10番目の図の状態となる。なお、本実施例では、第1貫通孔21に対応する領域及び圧電素子収容室23に対応する領域に加え、第2貫通孔22に対応する第1面20a側にも凹部が形成される。そして、最後に酸化膜202を除去すると、図4の一番下の図の状態となる。なお、上記において、MACEによるエッチングは酸化膜202によりストップするとともに酸化膜202の除去により第1貫通孔21及び第2貫通孔22が開口し、結晶異方性エッチングは単結晶シリコン基板201のミラー指数(面指数)が(111)の結晶面にてストップする。
【0051】
上記のように、シリコン基板の製造方法としての本実施例の封止板20の製造方法は、第2面20bを介してキャビティー基板30に接合されるシリコン基板の製造方法である。そして、ステップS10の触媒膜形成工程として、第2面20bのエッチング対象領域にAu膜204を形成する工程を有する。また、ステップS20の金属成膜形成工程として、第2面20bの全体、すなわち、第2面20bのうちのAu膜204が形成されていない非エッチング対象領域上と、Au膜204上と、に金属であるアルミニウムでスパッタ成膜205を形成する工程を有する。また、ステップS30の陽極酸化工程として、スパッタ成膜205を陽極酸化してスパッタ成膜205を陽極酸化膜とし、該陽極酸化膜上に複数の窪み206を形成する工程を有する。また、ステップS40の穴部形成工程として、該陽極酸化膜の少なくとも一部を除去し、エッチング対象領域のAu膜204上及び非エッチング対象領域の第2面20b上における窪み206に対応する位置に、直径1nm以上500nm以下の穴部207を形成する工程を有する。また、ステップS50の凹部形成工程として、第2面20bをエッチング液と接触させてエッチング対象領域をエッチングして、第2面20bに対して交差する凹み方向に延設される側壁または傾斜面を有する凹部である第2貫通孔22及び圧電素子収容室23を形成する工程を有する。このようなシリコン基板の製造方法を実行することで、キャビティー基板30など他の部材との接合面に直径1nm以上500nm以下の緻密でアンカー効果の高い穴部207が複数形成することができる。したがって、他の部材に接合されて使用されるシリコン基板において、該他の部材に対して剥離することを抑制することができる。
【0052】
ここで、本実施例の封止板20の製造方法は、ステップS20の金属成膜形成工程はアルミニウムで金属成膜を形成し、ステップS40の穴部形成工程はアルゴンでの逆スパッタにより実行される。このような方法を採用することで、直径1nm以上500nm以下の緻密でアンカー効果の高い複数の穴部207を容易に形成することができる。
【0053】
ここで、ステップS30の陽極酸化工程において陽極酸化膜の厚みを50nm以上200nm以下とするとともに窪み206の直径を20nm以上100nm以下とすることで、ステップS40の穴部形成工程において穴部207の直径を10nm以上200nm以下とすることが好ましい。陽極酸化膜の厚み及び窪み206の直径をこのような範囲で構成することで、アンカー効果が特に有効な直径10nm以上100nm以下の緻密な穴部207を好適に形成することができるためである。
【0054】
なお、陽極酸化膜の厚みが薄いと、アルゴンで逆スパッタした際にバリア膜の影響で陽極酸化膜の窪みが消失する虞がある。一方、陽極酸化膜の厚みが厚いと、陽極酸化膜の窪みが基板面に対して垂直に形成されずに、アルゴンが窪みの底に届かず逆スパッタできなくなる虞がある。陽極酸化膜の厚みは、例えば、陽極酸化の際のリン酸濃度を0.1から0.5mol/lとし、電解電圧を20から40Vとし、処理時間を5から40分とすることなど、各種条件を調整して制御することが可能である。また、穴部207の直径は陽極酸化の窪み206の直径よりも小さくなる。これは、スパッタ時におけるアルゴンの入射角が完全に垂直ではないこと、これに伴い、陽極酸化膜の窪み206が基板面に対して完全には垂直に形成されないことに起因する。
【0055】
また、上記のように、本実施例の封止板20の製造方法においては、ステップS50の凹部形成工程で、第2貫通孔22に加えて第1貫通孔21を形成している。別の表現をすると、本実施例の封止板20の製造方法は、基板面の結晶異方性エッチング対象領域を結晶異方性エッチングすることにより、基板面に対して第2貫通孔22の側壁である垂直側壁22aよりも傾斜した傾斜側壁21aを有する傾斜貫通孔である第1貫通孔21を形成する工程を有する。本実施例の封止板20の製造方法のように、結晶異方性エッチングを採用することで、容易に傾斜貫通孔を形成することができる。
【0056】
ここで、ステップS50の凹部形成工程において、傾斜貫通孔である第1貫通孔21を形成する際にはエッチング液としてアルカリ性水溶液を使用して結晶異方性エッチングし、凹部としての第2貫通孔22を形成する際にはMACEを採用している。このような方法を採用することで、第1貫通孔21を容易に形成することができるとともに、第2貫通孔22を精密に形成することができる。なお、エッチング液としてのアルカリ性水溶液としては、例えば、本実施例で用いた水酸化カリウム水溶液のほかに、テトラメチル水酸化アンモニウム(THAM)水溶液、などを好ましく使用できるが、特に限定は無い。水酸化カリウム水溶液は安価なため、例えば、半導体を伴わないシリコン基板加工に用いることができる。一方でTHAM水溶液はNaやK等の可動イオンを含まないため、例えば、半導体を伴うシリコン基板加工への結晶異方性エッチング加工に用いることができる。MACEによるエッチングの際のエッチング液は、フッ化水素水溶液などを使用することができる。
【0057】
なお、ステップS10の触媒膜形成工程では、その方法に特に限定は無いが、触媒膜は無電解めっき法または蒸着法により形成されることが好ましい。触媒膜を無電解めっき法または蒸着法により形成して封止板20を製造することで、特に簡単かつ高精度に封止板20を製造することができるためである。
【0058】
ここで、ステップS50の凹部形成工程における凹部としての第2貫通孔22を形成する工程では、第2貫通孔22を第2面20bから第2面20bとは反対側の反対面である第1面20aまで貫通させる。そして、図4の一番下の図で表されるように、第2貫通孔22の第1面20a側の開口部24に、第1面20aに向かうにつれて広がる第1面20aに対する傾斜面が設けられる。このため、開口部24にバリなどが残ることを抑制することができる。また、このような開口部24とすることで、開口部24から第2貫通孔22にインクを流入する場合において、インクを好適に流入することができる。
【0059】
次に、上記のようにして形成された封止板20を使用して液体吐出ヘッド1の全体を製造する方法について図8のフローチャートを参照して説明する。最初にステップS110で、封止板20を形成する。封止板20の形成は上記のとおりである。次に、ステップS120でキャビティー基板30を従来の製造方法などを用いて形成し、ステップS130で封止板20とキャビティー基板30とを接合する。なお、ステップS110とステップS120の順番は、逆でもよいし、同時でもよい。
【0060】
その後、ステップS140で、酸化チタン(TiOx)や酸化ハフニウム(HfOx)等のインク保護膜をCVD法(Chemical Vapor Deposition)などにより成膜してインク保護膜を形成する。また、ステップS150で従来の製造方法などを用いて流路基板40を形成するが、ステップS150はステップS140以前に行ってもよい。そして、ステップS160で、流路基板40を封止板20とキャビティー基板30とが接合された基板に接合する。そして、ステップS170でこれをレーザースクライプなどにより割断することでチップ化し、ステップS180で導通部を構成するTCPをCOF実装する。最後に、ステップS190で、ケース部品を装着して液体吐出ヘッド1の製造を完了する。このような方法では、ウエハ状態で液体吐出ヘッド1のチップを組み立てることができるので、品質を安定化させることができるとともに、大量生産が容易になる。
【0061】
上記のように、本実施例の液体吐出ヘッド1は、上記の封止板20と、封止板20と接合された際に第2貫通孔22と繋がりインクを供給可能な流路51の少なくとも一部を構成するとともに流路51と繋がる圧力室41に対して圧力を付与可能なキャビティー基板30と、を備えている。このような構成とすることで、封止板20とキャビティー基板30とにより、封止板20がキャビティー基板30に対して剥離することを抑制することができる。
【0062】
[実施例2]
以下に、実施例2のシリコン基板200について図9を参照して説明する。本実施例のシリコン基板200も、実施例1の封止板20と同様、液体吐出ヘッドの構成部材として使用することができる。図9では、実施例1の封止板20と共通する構成部材は同じ符号で示している。本実施例のシリコン基板200も、実施例1の封止板20と同様、基板面を貫通する第2貫通孔22と圧電素子収容室23に対応する溝とが形成されている。ただし、本実施例のシリコン基板200は、基板面のうちの接合面としての第1面20aを介して他の部材に接合される。このため、穴部207は第1面20aに設けられている。なお、本実施例のシリコン基板200の穴部207の構成は実施例1の封止板20の穴部207の構成と同様である。また、第2貫通孔22と圧電素子収容室23に対応する溝とは、水酸化カリウム水溶液をエッチング液として使用して結晶異方性エッチングにより形成することができるが、他にも、RIE(リアクティブ イオン エッチング)により形成することもできる。
【0063】
本発明は、上述の実施例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、上記の封止板20のような単結晶シリコン基板をマイクロポンプなど、液体吐出ヘッド以外に使用することもできる。また、穴部207を封止板20ではなくキャビティー基板30や流路基板40に設けることも可能である。また、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1…液体吐出ヘッド、11…ノズル形成面、12…ノズル列、12A…ノズル列、12B…ノズル列、20…封止板(シリコン基板)、20a…第1面(基板面、反対面)、20b…第2面(基板面、接合面)、21…第1貫通孔、21a…傾斜側壁、22…第2貫通孔(凹部)、22a…垂直側壁、23…圧電素子収容室(凹部)、24…開口部、24a…傾斜面、30…キャビティー基板(他の部材)、30a…第3面、30b…第4面、31…電極部、32…圧電素子、33…電極膜、34…電極膜、40…流路基板、41…圧力室、51…流路、51A…流路、51B…流路、51C…流路、51D…循環流路、200…シリコン基板、201…単結晶シリコン基板、202…酸化膜、204…Au膜(触媒膜)、205…スパッタ成膜(金属成膜)、206…窪み、207…穴部、208…非形成領域、N…ノズル、P0…ピッチ、P1…ピッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9