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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023016781
(43)【公開日】2023-02-02
(54)【発明の名称】疼痛治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/39 20060101AFI20230126BHJP
   A61K 31/74 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A61K38/39
A61K31/74
A61P25/02 101
A61P29/00
A61K38/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116713
(22)【出願日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2021120868
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520336160
【氏名又は名称】医療法人社団祐優会
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】奥野 祐次
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA22
4C084BA44
4C084MA41
4C084NA14
4C084ZA211
4C084ZA212
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA41
4C086NA14
4C086ZA21
(57)【要約】
【課題】水溶性高分子系の粒子状塞栓物質を含みかつ疼痛を安全に治療することができる剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、粒子状塞栓物質を含む疼痛治療剤であって、前記物質は水溶性高分子を含有し、(C)及び(D)を満たす。(C)前記物質0.2gを37℃の生理食塩水30ccに混和し、その10分後の「回折強度/散乱光強度」が、混和直後の「回折強度/散乱光強度」の10%以上である。(D)前記物質0.2gを37℃の生理食塩水30ccに混和し、その1時間後の「回折強度/散乱光強度」が、混和直後の「回折強度/散乱光強度」の90%以下である。(「回折強度/散乱光強度」は、混和液についてレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)及び回文セル「BC23」(同社製)を用いて、屈折率1.65-0.20iで測定される。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状塞栓物質を含む疼痛治療剤であって、
前記物質は水溶性高分子を含有し、(C)及び(D)を満たすものである、
前記剤。
(C)前記物質0.2gを37℃の生理食塩水30ccに混和し、その10分後の「回折強度/散乱光強度」が、混和直後の「回折強度/散乱光強度」の10%以上である。
(D)前記物質0.2gを37℃の生理食塩水30ccに混和し、その1時間後の「回折強度/散乱光強度」が、混和直後の「回折強度/散乱光強度」の90%以下である。
(「回折強度/散乱光強度」は、混和液についてレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)及び回文セル「BC23」(同社製)を用いて、屈折率1.65-0.20iで測定される。)
【請求項2】
粒子状塞栓物質を含む疼痛治療剤であって、
前記物質は水溶性高分子を含有し、(A)及び(B)を満たすものである、
前記剤。
(A)前記物質100mgを37℃の生理食塩水160ccに混和し、その10分以内に測定される平均粒子径が30μm以上500μm以下である。
(B)前記混和した液を37℃、100rpmで3時間撹拌した後に測定される平均粒子径が、(A)の平均粒子径の50%以下である。
(平均粒子径は、混和液についてレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)及び回文セル「BC23」(同社製)を用いて測定される。)
【請求項3】
(B)の平均粒子径が100μm以下である請求項2記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢にともない生じる症状の1つとして、肩こり、腰痛、頚部痛等の難治性の疼痛が知られる。他にも、各種疾患(ヘバーデン結節や足底腱膜炎)によって生じる疼痛も知られる。
【0003】
疼痛の原因は長年不明であったが、本発明者の検討の結果、異常な毛細血管(「モヤモヤ血管」として知られる。)の増加による血流の異常化がその一因であることがわかった(例えば、非特許文献1)。このような異常な毛細血管は、神経の増殖等にともなって生じる。
【0004】
これを踏まえ、本発明者は、異常な毛細血管に結晶性の塞栓物質(イミペネム・シラスタチン粒子)をデリバリーすることで、異常な毛細血管を詰まらせることによる、疼痛の治療方法を開示している(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6856809号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】奥野祐次、「ヘバーデン結節の痛みはモヤモヤ血管が原因だった」、2020年、ワニブックス
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、疼痛治療に用いる塞栓物質として結晶性物質の代替候補を模索している。
ここで、血管内に塞栓を目的として投与される粒子状物質として、ゼラチン製剤が周知であり、例えば、商品名「ジェルパート」や「セレスキュー」が挙げられる。従来、ゼラチン製剤は、血管内に投与して肝細胞癌や子宮筋腫などの動脈を塞栓する用途で用いられ、効能と安全性が確認されている。
一方、ゼラチン製剤といった水溶性高分子系粒子状物質を疼痛治療に用いる場合、治療後に長期に亘る強い痛みが生じたり、神経障害を引き起こしたりするおそれに、本発明者は着目した。
【0008】
本発明は、水溶性高分子系の粒子状塞栓物質を含みかつ疼痛を安全に治療することができる剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水溶性高分子系の粒子状塞栓物質を疼痛治療に用いる場合、水中に分散した直後のサイズが適切なだけではなく、水中での所定時間経過後にサイズが適度に小さくなることが、疼痛の治療効果と安全性の両立において重要なことを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0010】
(1) 粒子状塞栓物質を含む疼痛治療剤であって、
前記物質は水溶性高分子を含有し、(C)及び(D)を満たすものである、
前記剤。
(C)前記物質0.2gを37℃の生理食塩水30ccに混和し、その10分後の「回折強度/散乱光強度」が、混和直後の「回折強度/散乱光強度」の10%以上である。
(D)前記物質0.2gを37℃の生理食塩水30ccに混和し、その1時間後の「回折強度/散乱光強度」が、混和直後の「回折強度/散乱光強度」の90%以下である。
(「回折強度/散乱光強度」は、混和液についてレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)及び回文セル「BC23」(同社製)を用いて、屈折率1.65-0.20iで測定される。)
【0011】
(2) 粒子状塞栓物質を含む疼痛治療剤であって、
前記物質は水溶性高分子を含有し、(A)及び(B)を満たすものである、
前記剤。
(A)前記物質100mgを37℃の生理食塩水160ccに混和し、その10分以内に測定される平均粒子径が30μm以上500μm以下である。
(B)前記混和した液を37℃、100rpmで3時間撹拌した後に測定される平均粒子径が、(A)の平均粒子径の50%以下である。
(平均粒子径は、混和液についてレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)及び回文セル「BC23」(同社製)を用いて測定される。)
【0012】
(3) (B)の平均粒子径が100μm以下である(2)記載の剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水溶性高分子系の粒子状塞栓物質を含みかつ疼痛を安全に治療することができる剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0015】
<疼痛治療剤>
本発明に係る疼痛治療剤(以下、「本発明の治療剤」ともいう。)は、粒子状塞栓物質を含み、疼痛部を栄養する動脈又は疼痛部の動脈に投与される。
【0016】
上述のとおり、本発明者は、水溶性高分子系の粒子状塞栓物質を疼痛治療に用いる場合、水中に分散した直後のサイズが適切なだけではなく、水中での所定時間経過後にサイズが適度に小さくなることが、疼痛の治療効果と安全性の両立において重要である点を発見した。
【0017】
本発明において「疼痛治療」とは、疼痛を緩和、又は完治することを意味する。
【0018】
本発明において「疼痛」とは、生体に生じる任意の痛みを意味し、疼痛の部位や、疼痛の原因疾患は特に限定されない。
例えば、頚部、肩部、腰部、背部(帯状疱疹後神経痛等)、体幹部、腕部(肘、手首から指先側)、股部、足部(膝、くるびしよりつま先側)等における痛みが挙げられる。具体的には、上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎を含めた肘関節の慢性炎症全般;有痛性肩こり(肩甲骨周囲の痛み);肩関節周囲炎、有痛性腱板断裂、肩峰下インピンジメントを含めた肩関節炎全般;TFCC損傷、CM関節症を含めた、手関節の慢性炎症;変形性股関節症、ハムストリングス付着部炎、股関節周囲炎を含めた慢性股関節炎全般;膝蓋腱炎、鵞足炎、腸脛靭帯炎、変形性膝関節症をはじめとした慢性膝関節炎全般;アキレス腱炎、有痛性外脛骨、足底腱膜炎、シンスプリント、変形性足関節症を含めた足部の慢性炎症全般からなる群から選択される1以上であってもよい。疼痛の種類は、医師による診断によって特定することができる。
【0019】
本発明において「塞栓物質」としては、動脈内の血流を遮断できる物質を意味する。
【0020】
以下、本発明の治療剤の治療剤の構成について詳述する。
【0021】
(第1の態様に係る粒子状塞栓物質)
第1の態様に係る粒子状塞栓物質は、水溶性高分子を含有し、(A)及び(B)を満たすものである。
(A)前記物質100mgを37℃の生理食塩水160ccに混和し、その10分以内に測定される平均粒子径が30μm以上500μm以下である。
(B)前記混和した液を37℃、100rpmで3時間撹拌した後に測定される平均粒子径が、(A)の平均粒子径の50%以下である。
(平均粒子径は、混和液についてレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)及び回文セル「BC23」(同社製)を用いて測定される。)
【0022】
(A)は、塞栓物質を水中に分散した直後のサイズであり、疼痛治療における投与時における塞栓物質サイズの指標である。
(A)の平均粒子径が過大であると、痛みの原因である異常血管部位よりも上流側で塞栓物質が詰まり、異常血管部位の塞栓が不十分になりやすく、また、異常血管以外への血流を阻害することによる副作用のおそれがある。このため、(A)の平均粒子径は、より好ましくは350μm以下、又は250μm以下である。
(A)の平均粒子径が過小であると、短期間に溶解して異常血管部位から流失してしまい、異常血管を塞栓させ難い。このため、(A)の平均粒子径は、より好ましくは40μm以上、又は50μm以上である。
【0023】
(B)は、水中での所定時間経過後のサイズであり、投与されて疼痛治療効果を果たした後の血管中塞栓物質サイズの指標である。
(A)の平均粒子径が適切であるが(B)の平均粒子径が過大である場合、塞栓物質が正常血管をも長時間に亘って詰まらせ、それによる痛みが施術後に発生するおそれがあり、また、塞栓物質が脊髄栄養血管や中枢神経の栄養血管に迷入して神経障害を招くおそれがある。(B)の平均粒子径は(A)の平均粒子径に対し、より好ましくは60%以下、又は70%以下である。このような設計思想は、従来使われる難溶性の結晶性塞栓物質(例えば「イミペネム・シラスタチン」)を使う疼痛治療剤ではあり得ず、水溶性高分子を使う本発明に特有のものである。
【0024】
同様の観点で、(B)の平均粒子径は100μm以下であることが好ましく、より好ましくは80μm以下である。(B)の平均粒子径の下限は特に限定されないが、例えば1μm以上、10μm以上、又は25μm以上であってよい。
【0025】
(第2の態様に係る粒子状塞栓物質)
第2の態様に係る粒子状塞栓物質は、水溶性高分子を含有し、(C)及び(D)を満たすものである。
(C)前記物質0.2gを37℃の生理食塩水30ccに混和し、その10分後の「回折強度/散乱光強度」が、混和直後の「回折強度/散乱光強度」の10%以上である。
(D)前記物質0.2gを37℃の生理食塩水30ccに混和し、その1時間後の「回折強度/散乱光強度」が、混和直後の「回折強度/散乱光強度」の90%以下である。
(「回折強度/散乱光強度」は、混和液についてレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2300」(島津製作所社製)及び回文セル「BC23」(同社製)を用いて、屈折率1.65-0.20iで測定される。)
【0026】
「回折強度/散乱光強度」とは、粒子状塞栓物質の回折強度を、粒子状塞栓物質の散乱光強度で除した値である。
第2の態様に係る粒子状塞栓物質は、その生理食塩水溶液の調製における3時点(すなわち、調整直後、調整10分後、及び調整1時間後)での「回折強度/散乱光強度」を、投与後の経過にあわせた適切な塞栓物質サイズの指標としたものである。
【0027】
なお、各時点の「回折強度/散乱光強度」の比較に際しては、まず、「SALD―2300」(65個のセンサーを有する)のセンサーのうち、混和直後の測定で最も高い「回折強度/散乱光強度」を示したセンサーを特定する。
次いで、該センサーについて、混和直後の「回折強度/散乱光強度」と、その後の時点(10分後又は1時間後)での「回折強度/散乱光強度」との比較を行う。
【0028】
(C)が10%未満であると、粒子状塞栓物質が体内で早く溶けすぎ、異常血管を塞栓し難いため、疼痛治療効果が得られにくくなる。このため、(C)は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%である。
また、(C)の上限は特に限定されないが、適切な塞栓物質サイズを満たしやすいという観点から、好ましくは100%以下、より好ましくは98%以下、さらに好ましくは95%以下である。
ただし、(C)は、後述する(D)よりも高い値を有する。
【0029】
(D)が90%超であると、粒子状塞栓物質が体内で早く溶けにくく、関節を栄養する正常血管が詰まりやすくなるため、投与後の痛み等の副作用が強く出やすくなる。このため、(D)は、好ましくは70%以下、より好ましくは30%以下である。
また、(D)の下限は特に限定されないが、適切な塞栓物質サイズを満たしやすいという観点から、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上である。
【0030】
(C)と(D)との比率は、(C)>(D)を満たす限り特に限定されない。
「(C)/(D)」((C)を(D)で除した値)の下限は、例えば、1.01以上、1.50以上、2.00以上、3.00以上であり得る。
「(C)/(D)」の上限は、例えば、10.00以下、9.00以下、8.00以下、7.00以下、6.00以下、5.00以下であり得る。
【0031】
(粒子状塞栓物質の例)
第1の態様及び第2の態様に係る塞栓物質の成分は、動脈内の血流を遮断可能であり、生体に有害な作用を及ぼさないものであれば特に限定されない。
水溶性高分子としては、ゲル化能を有するものであれば特に限定されず、例えば、寒天、ゼラチン、コラーゲン、カードラン等の非架橋型のもの、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ペクチン、カラギーナン等の架橋型のものが挙げられる。また、塞栓物質は水溶性高分子以外の高分子を含んでも、含まなくてもよい。このような水溶性高分子を水中に分散して三次元構造体とし、短時間溶解型のハイドロゲルは、一実施形態における塞栓物質として使用可能である。特に限定されないが、水溶性高分子の親水度や分子量、架橋密度を適宜調整することで、条件(A)及び(B)を充足した塞栓物質を製造可能である。このような塞栓物質の市販品としては、Engain社製の「IPZA100-300」や「IPZA300-500」、Nextbiomedical社製の「Nexsphere」が挙げられる。
【0032】
第1の態様及び第2の態様に係る塞栓物質の形状は特に限定されないが、不定形、球形、角形等であり得る。
【0033】
第1の態様及び第2の態様に係る塞栓物質は、同一の物質、又は互いに異なる物質であり得る。したがって、第1の態様及び第2の態様に係る塞栓物質は、互いの要件を満たし得る。
第1の態様及び第2の態様に係る塞栓物質が互いに異なる物質である場合、本発明の治療剤は、第1の態様及び第2の態様に係る塞栓物質の両方、並びに片方を含む治療剤をいずれも包含する。
ただし、いずれの態様の治療剤についても、含まれる塞栓物質以外の構成(治療剤の形態、使用方法等)は共通する。
【0034】
(治療剤の形態)
本発明の治療剤は、動脈内又は注射投与される剤である。したがって、本発明の治療剤には、塞栓物質による塞栓作用を損なわない範囲で、塞栓物質とともに、生体に投与可能な媒体(生理緩衝液、滅菌水、生理食塩水、培地、造影剤)や、動脈内又は注射投与される剤に含まれ得る任意の成分等が必要に応じて配合されていてもよい。
【0035】
本発明の治療剤の投与の際には、治療剤の投与部位の特定のために、血管撮影を行ってもよい。また、このような撮影等のために、本発明の塞栓物質とともに造影剤を併用してもよい。
造影剤の種類としては特に限定されないが、イオヘキソール等が挙げられる。
なお、造影剤は、本発明の治療剤に配合してもよいし(すなわち、塞栓物質と同時に投与してもよいし)、本発明の治療剤とは別個に投与してもよい。造影剤と本発明の治療剤とを別個に投与する場合、その順序は特に限定されないが、造影剤を先に投与すると、投与部位の特定がより容易になる観点から好ましい。一方、本発明の治療剤に配合することは、塞栓物質が脊髄栄養血管や中枢神経の栄養血管に迷入する現象の有無を視認的に推認できる点で好ましい。
【0036】
動脈内投与において、本発明の治療剤はカテーテルを用いて投与されてよい。
【0037】
カテーテルの径や形状等は、動脈内に挿入でき、塞栓物質を注入できる、管腔構造を有するチューブであれば特に限定されない。通常、外径0.6~1mmのカテーテル(いわゆるマイクロカテーテル)を好適に用いることができる。
【0038】
カテーテルの操作にあたっては、ガイドワイヤーやポンプ等、経カテーテル投与において通常採用される装置や手法を用いることができる。
【0039】
カテーテルからの投与の際には、投与部位等に応じて、圧入やフリーフローを適宜選択できる。例えば、動脈同士の交通がある場所では、圧入による投与が好ましい。この場合、脊髄動脈と距離(例えば、2cm以上)が保たれていることを確認することが望ましい。例えば、圧入によるバックフローで塞栓物質が脊髄動脈へ流入するリスクを減らす観点からは、フリーフローが好ましい。
【0040】
本発明において、カテーテルからの投与の際にバックフローを避ける方法としては、テスト注入した造影剤が自然と末梢血管へと流れること(ウォッシュアウトとも呼ばれる。)が確認された箇所に、塞栓物質を投与する方法が挙げられる。
【0041】
特に限定されないが、経カテーテル的な動脈内投与は、頚部、肩部、腰部、背部(帯状疱疹後神経痛等)、体幹部、腕部(手首より肩側)、股部、足部(くるびしより股側)の疼痛の治療において、疼痛部位を栄養する動脈に対して行う際に好ましい。
【0042】
注射投与において、注射剤の構成は特に限定されないが、注射針を用いて投与対象の手又は足の皮膚に投与できる任意の構成を採用できる。通常、注射剤は、注射針(サーフロー留置針等)、及びシリンジ等を備え、シリンジ内に塞栓物質等が充填される。
【0043】
特に限定されないが、注射投与は、手首から指先の疼痛や、くるぶしからつま先の疼痛の治療において、疼痛部位を栄養する近傍の動脈(例えば、疼痛部位から上流側10cm以内に分布する動脈)に対して行う際に好ましい。
【0044】
本発明の治療剤の具体的な投与部位は、疼痛の部位に応じて適宜設定できる。以下に、疼痛の具体例ごとに、投与部位の特定方法の例を示す。
なお、以下に挙げる投与部位である各種動脈には、該動脈から分岐する枝も含まれる。
【0045】
[上腕骨外側上顆炎、上腕骨内側上顆炎を含めた肘関節の慢性炎症全般]
橈骨反回動脈、反回骨間動脈、上腕深動脈、尺側側副動脈、又は尺側反回動脈の1以上の動脈に治療剤を投与することが好ましい。
【0046】
[有痛性肩こり(肩甲骨周囲の痛み)]
頚横動脈、肩甲上動脈、又は肩甲回旋動脈の1以上の動脈に治療剤を投与することが好ましい。
【0047】
[肩関節周囲炎、有痛性腱板断裂、肩峰下インピンジメントを含めた肩関節炎全般]
肩甲上動脈、胸肩峰動脈、腋窩動脈烏口枝、肩甲回旋動脈、前上腕回旋動脈、後上腕回旋動脈、又は上腕深動脈の1以上の動脈に治療剤を投与することが好ましい。
【0048】
[TFCC損傷、CM関節症を含めた、手関節の慢性炎症]
尺骨動脈、骨間動脈、又は橈骨動脈の1以上の動脈に治療剤を投与することが好ましい。
【0049】
[変形性股関節症、ハムストリングス付着部炎、股関節周囲炎を含めた慢性股関節炎全般]
閉鎖動脈、上臀動脈、下臀動脈、深腸骨回旋動脈、内側大腿回旋動脈、又は外側大腿回旋動脈の1以上の動脈に治療剤を投与することが好ましい。
【0050】
[膝蓋腱炎、鵞足炎、腸脛靭帯炎、変形性膝関節症をはじめとした慢性膝関節炎全般]
下行膝動脈、上内側膝動脈、上外側膝動脈、正中膝動脈、下内側膝動脈、下外側膝動脈、前脛骨反回動脈、膝蓋上動脈の1以上の動脈に治療剤を投与することが好ましい。
【0051】
[アキレス腱炎、有痛性外脛骨、足底腱膜炎、シンスプリント、変形性足関節症を含めた足部の慢性炎症全般]
後脛骨動脈、前脛骨動脈、又は腓骨動脈の1以上の動脈に治療剤を投与することが好ましい。
【0052】
(投与量等)
本発明の治療剤の投与量や、投与頻度は、患者の状態(年齢、体重、症状の重篤性等)に応じて適宜設定できる。
【0053】
<本発明の治療剤による治療効果>
本発明の治療剤によれば、水溶性高分子系粒子状塞栓物質を使いつつ、治療後に長期に亘る強い痛みが生じたり、神経障害を引き起こしたりするおそれが低減される。このため、安全に疼痛治療を行うことができる。
【実施例0054】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<材料等の準備>
本例では以下の各種材料を用いた。
【0056】
(塞栓物質)
塞栓物質として、市販されるゼラチン製剤である、Engain社製の「IPZA100-300」(実施例1)、「IPZA300-500」(実施例2)、Nextbiomedical社製の「Nexsphere」(実施例3)、日本化薬社の「ジェルパート」(比較例1)、アステラス製薬社の「セレスキュー」(比較例2)、日本化薬社製の「Embosphere」(比較例3)を用いた。
なお、実施例1~3はいずれも上記条件(A)乃至(D)の全てを充足する。
比較例1及び2は条件(A)及び(B)の上限を上回り、かつ、(C)を充足するが(D)を充足しない。
比較例3は条件(A)を満たすが(B)の上限を上回り、かつ、(C)を充足するが(D)を充足しない。
【0057】
(カテーテル)
本例では、血管造影カテーテル(外径1mm、メディキット株式会社製)及びマイクロカテーテル(外形0.6mm朝日インテック社製)を用いた。
【0058】
(造影剤)
本例では、イオパーク(富士製薬社製)を用いた。造影剤は塞栓物質と混合して用いた。混合比(有効成分の質量比)は塞栓物質:造影剤=0.5gに対して造影剤10ccと設定した。
【0059】
<塞栓物質の投与方法>
以下の各疼痛を有する患者に対して、カテーテルを用いて、血管内への塞栓物質の投与を行った。塞栓物質は、塞栓物質単体、又は、塞栓物質及び造影剤の混合液として投与した。
なお、塞栓物質は、0.5g/10mlの水溶液として調製し、患者1人あたりの総投与量が塞栓物質の量として0.5~2gとなるように投与した。
【0060】
(1)肘関節痛
2020年6月~2021年2月に、肘関節痛を有する33名の患者に対して、橈骨反回動脈、反回骨間動脈、上腕深動脈、尺側側副動脈、及び尺側反回動脈の5動脈に、実施例1~3の各々を経カテーテル的に1回投与した。
【0061】
(2)肩関節痛・有痛性肩こり
2020年12月~2021年2月に、肩関節痛又は有痛性肩こりを有する18名の患者に対して、頚横動脈、肩甲上動脈、及び肩甲回旋動脈の3動脈、又は肩甲上動脈、胸肩峰動脈、腋窩動脈烏口枝、肩甲回旋動脈、前上腕回旋動脈、後上腕回旋動脈、及び上腕深動脈の7動脈に、実施例1~3の各々を経カテーテル的に1回投与した。
【0062】
(3)手関節痛
2020年6月~2020年12月に、手関節痛を有する15名の患者に対して、尺骨動脈、骨間動脈、及び橈骨動脈の3動脈に、実施例1~3の各々を経カテーテル的に1回投与した。
【0063】
(4)股関節、膝関節、又は足関節痛
2020年6月~2021年2月に、股関節、膝関節、又は足関節痛を有する28名の患者に対して、閉鎖動脈、上臀動脈、下臀動脈、深腸骨回旋動脈、内側大腿回旋動脈及び外側大腿回旋動脈の6動脈、下行膝動脈、上内側膝動脈、上外側膝動脈、正中膝動脈、下内側膝動脈、下外側膝動脈、前脛骨反回動脈及び膝蓋上動脈の8動脈、又は、後脛骨動脈、前脛骨動脈、及び腓骨動脈の3動脈に、実施例1~3の各々を経カテーテル的に1回投与した。
【0064】
<治療効果の評価方法>
塞栓物質の投与後、各患者における治療効果を以下のように評価した。
【0065】
一般的な痛みの評価基準の1つである「NRS(Numerical Rating Scale)スコア」を採用した。該スコアにおいては、治療前を「10」とした場合の、整数(0以上10以下)の数値として回答された治療後の痛みに基づき、痛みを評価する。なお、回答された数値が低いほど、治療後の痛みが軽減したことを意味する。
【0066】
一般的な痛みの評価基準の1つである「PGISスコア」を採用した。該スコアにおいては、治療後に、「非常に改善した」を1、「非常に悪化した」を7とした場合の、整数(1以上7以下)の数値として回答された結果に基づき、治療効果を評価する。なお、回答された数値が低いほど、治療後の痛みが軽減したことを意味する。
【0067】
<結果>
肘関節痛について、投与期間の終了後2ヶ月経過した時点で28名の患者が、NRSスコアが5以下であると回答した。
肩関節痛・有痛性肩こりについて、投与期間の終了後3ヶ月経過した時点で17名の患者で、PGISスコア上の有意な改善が確認された。
手関節痛について、投与期間の終了後2ヶ月経過した時点で11名の患者で、PGISスコア上の有意な改善が確認された。
股関節、膝関節、又は足関節痛について、投与期間の終了後2ヶ月経過した時点で24名の患者が、NRSスコアが5以下であると回答した。
【0068】
上記のとおり、本発明の治療剤により、各種疼痛について大幅な改善が認められた。さらに、投与期間の終了後において、本発明の治療剤による有害事象(合併症等)は認められず、本発明の治療剤の安全性が確認された。
【0069】
一方、比較例1及び2の治療剤を使った場合、塞栓すべき部位よりも手前で詰まって治療効果が実施例1~3よりも劣り、また、治療後の長期間に亘り虚血性の強い痛みを感じる患者や、神経障害を引き起こす患者がいた。
比較例3の治療剤を使った場合、治療後に虚血性の強い痛みを感じる患者がいた。