(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167812
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】車両用のドアロック装置
(51)【国際特許分類】
E05B 77/06 20140101AFI20231116BHJP
E05B 79/08 20140101ALI20231116BHJP
B60J 5/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
E05B77/06 Z
E05B79/08
B60J5/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079284
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一郎
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH01
2E250JJ32
2E250KK01
2E250KK02
2E250LL01
2E250MM03
2E250PP02
2E250PP04
2E250QQ01
(57)【要約】
【課題】側突などが発生した場合に車両ドアの開放を防止する車両用のドアロック装置を提供する。
【解決手段】車両用のドアロック装置10は、ロック位置とアンロック位置とに移動可能であり、ロック位置に位置するとロック機構55をロック状態に保持し、アンロック位置に位置するとロック機構55をアンロック状態に保持する用に構成されるオープンリンク56と、一部がオープンリンク56のロック位置からアンロック位置への移動軌跡の内部に位置しており、オープンリンク56に押されて弾性変形することによりオープンリンク56のアンロック位置から慣性入力位置への移動を許容するが、オープンリンク56に係合することによりオープンリンク56の慣性入力位置からアンロック位置への移動を規制するように構成される慣性スプリング57と、を備える。
【選択図】
図7B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられている車両ドアの開放を許容しないラッチ状態と前記車両ドアの開放を許容するアンラッチ状態とに切り替え可能に構成されるラッチ機構と、
筐体に対して回転可能に支持されており、初期位置と作動位置とに移動可能に構成される第一部材と、
前記第一部材に回転可能に支持されており、前記第一部材に対して回転することにより、第一位置と、第二位置と、前記第一位置と前記第二位置との間の第三位置と、に移動可能であるとともに、前記第一部材とともに前記初期位置と前記作動位置とに移動可能に構成され、前記第一位置に位置する状態で前記初期位置から前記作動位置に移動すると前記ラッチ機構を前記ラッチ状態から前記アンラッチ状態に切り替え、前記第三位置に位置する状態で前記初期位置から前記作動位置に移動すると前記ラッチ機構を前記ラッチ状態に保持するように構成される第二部材と、
前記第二部材が前記第一位置又は前記第三位置から前記第二位置に向かう方向に移動するときに前記第二部材と接触しながら弾性変形することによって前記第二部材の移動を許容し、前記第二部材が前記第二位置に移動した場合には前記第二部材から離脱するとともに自然状態に復帰し、自然状態に復帰した後に前記第二部材が前記第二位置から前記第一位置に向かう方向に移動するときには前記第二部材に係合することによって前記第二部材の移動を規制するように構成される第三部材と、
を備える、車両用のドアロック装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用のドアロック装置であって、
前記第三部材は、前記筐体に取り付けられている取付部を備え、
前記規制部は、前記取付部から延出する棒状の構成を備え、前記第二部材の前記第一部材に対する回転中心線方向視において、前記取付部に近い側の端部である基端部よりも前記基端部の反対側の端部である先端部の方が前記第二位置に近くなる向きで前記移動軌跡に対して傾斜している、
車両用のドアロック装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用のドアロック装置であって、
前記規制部の先端部には、前記第三部材が自然状態である場合に前記第二位置の側に向かって延出する延出部が設けられている、
車両用のドアロック装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用のドアロック装置であって、
前記第三部材はコイル状の部分と前記コイル状の部分の端部のそれぞれに設けられた2本のアームとを備えるトーションばねであり、
前記2本のアームのうち一方が前記規制部であり、
前記2本のアームのうちの他方と前記コイル状の部分との少なくとも一方が前記取付部である、
車両用のドアロック装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用のドアロック装置であって、
前記第二部材は前記車両の前後方向に略平行な直線を中心として前記第一部材に対して回転移動可能であり、
前記第一位置は前記第一部材に対する回転移動可能な範囲の前記車両の車幅方向外側の端部の位置であり、前記第二位置は前記回転移動可能な範囲の前記車両の車幅方向内側の端部の位置であり、前記第三位置は前記回転移動可能な範囲の前記車両の車幅方向中間の位置である、
車両用のドアロック装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の車両用のドアロック装置であって、
前記第二部材の前記第一部材に対する回転中心線に平行な方向視において、
前記第三部材の少なくとも一部は、前記第二部材と重畳している、
車両用のドアロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のドアロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の車両用ドアロック装置は、車両ドアの開放を許容するラッチ状態と許容しないアンラッチ状態とに切り替え可能なラッチ機構と、アンロック位置とロック位置との間を移動可能なオープンリンクとを備える。そして、特許文献1に記載の車両用ドアロック装置は、オープンリンクがアンロック位置に位置するアンロック状態でドアハンドルが操作されるとラッチ機構をラッチ状態からアンラッチ状態に切替え、ロック位置に位置するロック状態でドアハンドルが操作されるとラッチ機構をラッチ状態に切替えないように構成される。
【0003】
さらに、特許文献1に記載の車両用ドアロック装置は、衝突などによって慣性力が発生した場合にブロック位置に移動するブロック部材と、ブロック部材を所定の方向に付勢する付勢部材とを備える。そして、特許文献1に記載の車両用ドアロック装置は、慣性力によってブロック部材がブロック位置に移動すると、付勢部材がブロック部材を所定方向に付勢することにより、ブロック部材がオープンリンクの移動軌跡内に侵入する。このため慣性力によって一時的にロック位置に移動したオープンリンクが慣性力の入力後にアンロック位置に向かうオープンリンクの移動を阻止するように構成される。このような構成によれば、衝突などによって慣性力が発生した場合に、オープンリンクがアンロック位置に移動することを阻止することによって、車両用ドアロック装置がアンロック状態に切り替わることを阻止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、特許文献1に記載の構成では、側突などが発生した場合に、車両用ドアロック装置がロック状態からアンロック状態に切り替わることを阻止するために、ブロック部材と付勢部材との2つの部材が必要である。このため、ドアロック装置の部品コストが上昇する。特に、ブロック部材として専用の部材が必要になるため、部品コストの上昇を招きやすい。また、ドアロック装置にブロック部材と付勢部材とを配置するためのスペースが必要になるため、車両用ドアロック装置の大型化を招く。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、部品点数の増加を抑制しつつ、側突などが発生した場合にロック状態からアンロック状態に切り替わることを阻止できる車両用ドアロック装置を提供することである。
【0007】
(課題を解決するための手段)
上記目的を達成するため、本発明に係るドアロック装置は、
車両に設けられている車両ドアの開放を許容しないラッチ状態と前記車両ドアの開放を許容するアンラッチ状態とに切り替え可能に構成されるラッチ機構と、
筐体に対して回転可能に支持されており、初期位置と作動位置とに移動可能に構成される第一部材と、
前記第一部材に回転可能に支持されており、前記第一部材に対して回転することにより、第一位置と、第二位置と、前記第一位置と前記第二位置との間の第三位置と、に移動可能であるとともに、前記第一部材とともに前記初期位置と前記作動位置とに移動可能に構成され、前記第一位置に位置する状態で前記初期位置から前記作動位置に移動すると前記ラッチ機構を前記ラッチ状態から前記アンラッチ状態に切り替え、前記第三位置に位置する状態で前記初期位置から前記作動位置に移動すると前記ラッチ機構を前記ラッチ状態に保持するように構成される第二部材と、
前記第二部材が前記第一位置又は前記第三位置から前記第二位置に向かう方向に移動するときに前記第二部材と接触しながら弾性変形することによって前記第二部材の移動を許容し、前記第二部材が前記第二位置に移動した場合には前記第二部材から離脱するとともに自然状態に復帰し、自然状態に復帰した後に前記第二部材が前記第二位置から前記第一位置に向かう方向に移動するときには前記第二部材に係合することによって前記第二部材の移動を規制するように構成される第三部材と、
を備える。
【0008】
本発明によれば、車両に側突などが発生して第二部材に第一位置および第三位置から第二位置に移動させるような力(慣性力)が掛かった場合、第三部材は第二部材が第一位置および第三位置から第二位置へ移動することを許容する。そして、第二部材が第二位置に移動した後、第三部材は、第二部材が第二位置から第一位置へ移動することを規制(阻止)する。このため、第二部材は、初期位置から作動位置に移動してもラッチ機構をラッチ状態に保持する(ラッチ機構をラッチ状態からアンラッチ状態に切替えない)第三位置に保持される。したがって、車両ドアの開放が阻止される。そして、本発明によれば、前記のような規制部材を追加するだけで、前記動作が実現されるから、車両用のドアロック装置の部品点数の増加を抑制することができる。
【0009】
前記第三部材は、前記筐体に取り付けられている取付部を備え、
前記規制部は、前記取付部から延出する棒状の構成を備え、前記第二部材の前記第一部材に対する回転中心線方向視において、前記取付部に近い側の端部である基端部よりも前記基端部の反対側の端部である先端部の方が前記第二位置に近くなる向きで前記移動軌跡に対して傾斜している、
という構成であってもよい。
【0010】
このような構成によれば、第二部材が第一位置および第三位置から第二位置に移動するための規制部の移動量を、規制部が傾斜していない構成に比較して小さくできる。このため、第二部材の第一位置および第三位置から第二位置への移動を許容する動作の確実性を高めることができる。
【0011】
前記規制部の先端部には、前記第三部材が自然状態である場合に前記第二位置の側に向かって延出する延出部が設けられている、
という構成が適用できる。
【0012】
このような構成によれば、第二部材が第二位置から第一位置の側に向かって移動する際に、延出部が第二部材に係合することにより、第二部材が第一位置に移動することを阻止する動作の確実性を高めることができる。
【0013】
前記第三部材はコイル状の部分と前記コイル状の部分の端部のそれぞれに設けられた2本のアームとを備えるトーションばねであり、
前記2本のアームのうち一方が前記規制部であり、
前記2本のアームのうちの他方と前記コイル状の部分との少なくとも一方が前記取付部である、
という構成が適用できる。
【0014】
このような構成によれば、規制部材として安価なトーションバネが適用されるから、部品コストの上昇を抑制することができる。
【0015】
前記第二部材は前記車両の前後方向に略平行な直線を中心として前記第一部材に対して回転移動可能であり、
前記第一位置は前記第一部材に対する回転移動可能な範囲の前記車両の車幅方向外側の端部の位置であり、前記第二位置は前記回転移動可能な範囲の前記車両の車幅方向内側の端部の位置であり、前記第三位置は前記回転移動可能な範囲の前記車両の車幅方向中間の位置である、
という構成が適用できる。
【0016】
車両に側突が発生した場合、車両ドアに取り付けられている車両用のドアロック装置には、車幅方向内側に移動させるような外力が掛かる。そして、この外力によってドアロック装置が車幅方向内側に移動した場合、第二部材は慣性によって移動前の位置に留まろうとするため、第二部材には、見かけ上第一部材に対して車幅方向外側に移動させるような慣性力が掛かる。このため、前記構成によれば、第二部材にこのような慣性力が掛かった場合、第二部材は第一位置および第三位置から第二位置に移動する。そして、第二位置に移動した後は、前記のとおり第一位置への移動が規制されるため、ラッチ機構がラッチ状態からアンラッチ状態に切り替わることが阻止される。このように、前記構成によれば、車両に側突などが発生した場合に、ラッチ機構のラッチ状態からアンラッチ状態への切替わりの阻止の確実性を高めることができる。
【0017】
前記第二部材の前記第一部材に対する回転中心線に平行な方向視において、
前記第三部材の少なくとも一部は、前記第二部材と重畳している、
という構成が適用できる。
【0018】
このような構成によれば、車両用のドアロック装置の大型化、特に、第二部材の第一部材に対する回転中心線に平行な方向視における寸法の拡大を防止または抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図2は、車両用のドアロック装置の構成を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、車両用のドアロック装置の構成を示す分解斜視図である。
【
図4A】
図4Aは、ドアロック装置の構成および動作を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、ドアロック装置の構成および動作を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、ドアロック装置の構成および動作を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、ドアロック装置の構成および動作を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、ドアロック装置の構成および動作を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、ドアロック装置の構成および動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。以下の説明において、車両用のドアロック装置10の各方向は、車両(車体301)の各方向を基準とする。各図においては、車両の前側を矢印Frで示し、車両の後側を矢印Rrで示し、車両の上方を矢印Upで示し、車両の下方を矢印Dwで示し、車両の車幅方向(左右方向)外側を矢印Outで示し、車両の車幅方向内側を矢印Inで示す。
【0021】
(車両ドア)
図1Aは、ドアロック装置10が適用された車両ドア20の側面図であり、車外側から見た図である。
図1Bは、ドアロック装置10が適用された車両ドア20の後端部近傍の断面図であり、
図1AのIB-IB矢視断面図である。
【0022】
車両ドア20は、車体301に対して開閉可能に取り付けられている。具体的には、車両ドア20は、その前端部が車体301に対して回転可能に連結されており、車体301に対して回転することにより閉位置と開位置とに移動可能である。閉位置は、車両ドア20が車体301に設けられている乗降用の開口部を塞ぐ位置であり、開位置は前記開口部を塞がない位置である。車両ドア20は、その下半部を構成するドア本体部21と、その上半部に設けられているドアサッシュ22とを備える。ドア本体部21は、アウターパネル211、インナーパネル212、およびトリム213を備える。アウターパネル211は、車両ドア20の外側面を構成する。インナーパネル212は、アウターパネル211の車内側に位置しており、アウターパネル211に固定されている。トリム213は、インナーパネル212の車内側に固定されており、ドア本体部21の内側面を構成する。
【0023】
アウターパネル211の後端部近傍には、アウトサイドドアハンドル214およびキーシリンダ215が取り付けられている。アウトサイドドアハンドル214は、車両の使用者が手動操作可能な操作部材であり、車両ドア20に対して回転することにより初期位置と動作位置とに移動可能である。アウトサイドドアハンドル214は、図略の付勢部材により初期位置に向かって弾性付勢されており、使用者により操作されていない状態(外力が掛かっていない状態)では、付勢部材の付勢力によって初期位置に保持される。キーシリンダ215は、内筒(プラグと称されることもある)を備える。内筒は、中立位置に位置している状態で適合するキーを挿抜可能に構成されているとともに、適合するキーが挿入された状態で中立位置から所定の方向に回転した位置であるロック位置と前記所定の方向とは反対方向に回転した位置であるアンロック位置とに回転移動可能に構成されている。また、内筒は、付勢部材によって中立位置に向けて常時弾性付勢されており、キーにより操作されていない状態(外力が掛かっていない状態)では中立位置に保持される。
【0024】
インナーパネル212には、インサイドドアハンドル216およびロックノブ217が取り付けられている。インサイドドアハンドル216は、車両の使用者が手動操作可能な操作部材であり、車両ドア20に対して回転することにより初期位置と動作位置とに回転移動可能である。インサイドドアハンドル216は、図略の付勢部材によって初期位置に向けて弾性付勢されており、使用者により操作されていない状態(外力が掛かっていない状態)では初期位置に保持される。ロックノブ217は、使用者により手動操作可能な操作部材である。ロックノブ217は、トリム213の上端近傍に位置しており、例えば車両ドア20に対して上下方向に移動することによりロック位置とアンロック位置とに移動可能に構成されている。なお、ロックノブ217が取り付けられる位置は限定されるものではなく、例えばインサイドドアハンドル216の近傍に取り付けられていてもよい。
【0025】
(ドアロック装置)
ドアロック装置10は、
図1Bに示すように、車両ドア20の内部空間(すなわち、インナーパネル212とアウターパネル211とに囲まれる空間)に配置されている。そして、ドアロック装置10は、インナーパネル212(すなわち車両ドア20)に固定されている。なお、ドアロック装置10の一部は、車両ドア20の後端部において車両ドア20の外部に露出している。
【0026】
図2はドアロック装置10の外観斜視図であり、
図3はドアロック装置10の分解斜視図である。
図2および
図3に示すように、ドアロック装置10は、噛合いボディ40とアクチュエータボディ50とを備える。
【0027】
噛合いボディ40は、ベース部材41、ベースプレート42、図略のサブプレート、ラッチ44、ポール45、リフトレバー46、図略のラッチ復帰バネ、および図略のポール復帰バネを備える。ベース部材41、ベースプレート42、およびサブプレートは、噛合いボディ40の筐体である。ラッチ44、ポール45、リフトレバー46、ラッチ復帰バネ、およびポール復帰バネによりラッチ機構が構成される。ラッチ機構は、アンラッチ状態とラッチ状態とに切り替え可能に構成される。アンラッチ状態は、車両ドア20の閉位置から開位置への移動を許容する状態である。ラッチ状態は、車両ドア20の閉位置から開位置への移動を許容しない(移動を規制する)状態である。本実施形態では、ラッチ機構は、リフトレバー46が後述するラッチ係合位置(
図4A参照)に位置するとラッチ状態に保持され、ラッチ状態である場合にリフトレバー46がラッチ係合位置から後述するラッチ不係合位置(
図4B参照)に移動するとラッチ状態からアンラッチ状態に切り替わるように構成される。なお、リフトレバー46の構成については後述する。
【0028】
アクチュエータボディ50は、ハウジング51と、カバー52と、オープンレバー53と、ロック機構55とを備える。ハウジング51およびカバー52はアクチュエータボディ50の筐体である。なお、筐体には、内部に水等が浸入することを防止または抑制するための防水カバー64が取り付けられる。ロック機構55は、オープンリンク56と慣性スプリング57とを備える。ロック機構55は、アンロック状態とロック状態とに切り替え可能に構成される。ロック機構55のアンロック状態は、ラッチ機構がラッチ状態であるときにアウトサイドドアハンドル214またはインサイドドアハンドル216が操作された場合に(初期位置から作動位置に移動した場合に)、ラッチ機構をラッチ状態からアンラッチ状態に切り替える状態である。ロック機構55のロック状態は、ラッチ機構がラッチ状態であるときにアウトサイドドアハンドル214またはインサイドドアハンドル216が操作された場合に、ラッチ機構をラッチ状態に保持する(ラッチ機構をラッチ状態からアンラッチ状態に切替えない)状態である。なお、ロック機構55の構成例については後述する。
【0029】
ここで、ラッチ機構のリフトレバー46、オープンレバー53、ロック機構55のオープンリンク56の構成および動作について説明する。
図4A、
図4B、
図5A、
図5Bは、リフトレバー46、オープンレバー53、オープンリンク56の構成および動作を示す図であり、後側から見た図である。なお、
図4Aは、ロック機構55がアンロック状態であり、オープンレバー53が初期位置に位置する状態を示す。
図4Bは、ロック機構55がアンロック状態であり、オープンレバー53が作動位置に位置する状態を示す。
図5Aは、ロック機構55がロック状態であり、オープンレバー53が初期位置に位置する状態を示す。
図5Bは、ロック機構55がロック状態であり、オープンレバー53が作動位置に位置する状態を示す。
【0030】
ラッチ機構のリフトレバー46は、被押圧部461とポール係合部462とを備える。被押圧部461は、後述するオープンリンク56のリフトレバー係合部561に係脱自在に構成される部分であり、例えば前側に向かって突出する突起状の構成を備える。ポール係合部462は、ラッチ機構のポール45に係合する部分であり、例えば後側に向かって突出する突起状の構成を備える。リフトレバー46は、噛合いボディ40の筐体に対して、前後方向に略平行な軸線を中心として回転可能に支持される。なお、リフトレバー46は、ポール45の前側に配置されており、後側に突出するポール係合部462がポール45と係合することにより、ポール45と一体に回転する。そして、リフトレバー46(およびポール45)は、噛合いボディ40の筐体に対して回転することにより、
図4A、
図5Aおよび
図5Bに示すラッチ係合位置と
図4Bに示すラッチ不係合位置とに移動可能である。これらの図に示すように、リフトレバー46のラッチ不係合位置は、ラッチ係合位置よりも被押圧部461が上方に移動した位置である。前記のとおり、リフトレバー46(およびポール45)がラッチ係合位置に位置すると、ポール45がラッチ状態のラッチ44の回転を規制することによりラッチ機構がラッチ状態に保持され、ラッチ係合位置からラッチ不係合位置に移動すると、ポール45がラッチ44の回転を許容することによりラッチ機構がラッチ状態からアンラッチ状態に切り替わる。
【0031】
オープンレバー53は、本発明の第一部材の例である。オープンレバー53は、長尺板状の部材であり、長尺方向が車幅方向に略平行になる向きで配置される。オープンレバー53は、アクチュエータボディ50の筐体であるハウジング51に対して、前後方向に略平行な軸線(回転中心線C
1)を中心として回転可能に支持される。そして、オープンレバー53は、筐体に対して回転することによって、
図4Aおよび
図5Aに示す初期位置と、
図4Bおよび
図5Bに示す作動位置とに移動可能に構成される。これらの図に示すように、オープンレバー53の作動位置は、車幅方向内側の端部(後述するオープンリンク56が取り付けられている側の端部)が、初期位置に位置する場合に比較して、上方に位置する位置である。
【0032】
オープンレバー53は、アウトサイドドアハンドル214と所定の連結部材(例えばロッドまたはワイヤー)を介して連結されている。そして、オープンレバー53は、アウトサイドドアハンドル214が操作されると(初期位置から作動位置に移動すると)、アウトサイドドアハンドル214の移動に連動して初期位置から作動位置に移動するように構成される。また、オープンレバー53は、インサイドドアハンドル216が操作された場合(初期位置から作動位置に移動した場合)にも、インサイドドアハンドル216の移動に連動して初期位置から作動位置に移動するように構成される。なお、オープンレバー53は、図略のオープンレバー復帰バネによって、初期位置に向かって常時弾性付勢されている。このため、オープンレバー53は、オープンレバー復帰バネによる付勢力以外の外力が掛かっていない状態(すなわち、アウトサイドドアハンドル214およびインサイドドアハンドル216のいずれも操作されていない状態)では、初期位置に保持される。
【0033】
オープンリンク56は、本発明の第二部材の例である。オープンリンク56は、リフトレバー係合部561および慣性スプリング係合部562を備える。リフトレバー係合部561は、リフトレバー46の被押圧部461の下端に対して下側から係脱自在(接触および離脱自在)に構成される部分である。リフトレバー係合部561は、具体的には略上側を向く面が設けられる部分である。慣性スプリング係合部562は、後述する慣性スプリング57の可動アーム573に係脱自在に構成される部分である。慣性スプリング係合部562は、具体的には、前側に突出する突起状の部分である。
【0034】
オープンリンク56は、リフトレバー係合部561および慣性スプリング係合部562よりも下方において、オープンレバー53の車幅方向内側の端部近傍に、前後方向に略平行な軸線(回転中心線C
2)を中心としてオープンレバー53に対して回転可能に支持されている。このため、オープンリンク56がオープンレバー53に対して回転すると、リフトレバー係合部561および慣性スプリング係合部562は、円弧軌道を描いて略車幅方向に往復移動(振り子状に揺動)する。オープンリンク56は、オープンレバー53に対して回転して略車幅方向に移動することにより、
図4Aおよび
図4Bに示すアンロック位置と、
図5Aおよび
図5Bに示すロック位置と、慣性入力位置(
図7A参照。後述)と、に移動可能である。
【0035】
オープンリンク56のアンロック位置は、本発明の第二部材の第一位置の例である。オープンリンク56のアンロック位置は、オープンリンク56が移動可能な範囲における車幅方向内側の端部およびその近傍の位置である。オープンリンク56の慣性入力位置は、本発明の第二部材の第二位置の例である。オープンリンク56の慣性入力位置は、オープンリンク56が移動可能な範囲における車幅方向外側の端部およびその近傍の位置である。オープンリンク56のロック位置は、本発明の第二部材の第三位置の例である。オープンリンク56のロック位置は、アンロック位置と慣性入力位置との中間の位置である。
【0036】
オープンリンク56がアンロック位置に位置する状態がロック機構55のアンロック状態であり、オープンリンク56がロック位置に位置する状態がロック機構55のロック状態である。オープンリンク56は、車両の使用者による所定の操作および後述するアクチュエータ61の駆動力によって、アンロック位置とロック位置とに移動可能に(すなわち、ロック機構55をアンロック状態とロック状態とに切り替え可能に)構成される(後述)。なお、以下の説明では、オープンレバー53が初期位置に位置する状態でオープンリンク56がアンロック位置とロック位置と慣性入力位置とに移動する際の、慣性スプリング係合部562の移動軌跡を、「第一移動軌跡」と記す。各図においては、破線L1により囲まれる略円弧状の範囲が第一移動軌跡である。
【0037】
また、オープンリンク56は、アンロック位置とロック位置のそれぞれに位置する状態で、オープンレバー53とともに、
図4Aおよび
図5Aに示す初期位置と、
図4Bおよび
図5Bに示す作動位置とに移動可能である。オープンリンク56の作動位置は、初期位置に位置する場合よりも、リフトレバー係合部561および慣性スプリング係合部562が上方に位置する位置である。なお、オープンリンク56が初期位置と作動位置とに移動する場合における慣性スプリング係合部562の移動軌跡を「第二移動軌跡」と記す。各図においては、破線L
2で囲まれる直線状の範囲が第二移動軌跡である。
【0038】
図4Aに示すように、オープンレバー53が初期位置に位置する状態において、オープンリンク56がアンロック位置に位置すると(すなわち、ロック機構55がアンロック状態であると)、オープンリンク56のリフトレバー係合部561は、リフトレバー46の被押圧部461の直下に位置する。この状態で、アウトサイドドアハンドル214とインサイドドアハンドル216の一方が操作されると、オープンレバー53およびオープンリンク56は、
図4Bに示すように、作動位置へ移動する。
【0039】
そして、オープンリンク56がオープンレバー53とともに初期位置から作動位置に移動する際に、オープンリンク56のリフトレバー係合部561がリフトレバー46の被押圧部461に接触して被押圧部461を押し上げる。このため、リフトレバー46(およびポール45)はラッチ係合位置からラッチ不係合位置に移動する。その結果、ラッチ機構はラッチ状態からアンラッチ状態に切り替わる。このように、ロック機構55がアンロック状態であると、ラッチ機構のラッチ状態からアンラッチ状態への切り替えが許容される。なお、オープンリンク56のアンロック位置は「オープンレバー53とともに初期位置から作動位置に移動した場合に、リフトレバー46を押してリフトレバー46をラッチ係合位置からラッチ不係合位置に移動させることができる位置」である、ということもできる。
【0040】
図5Aに示すように、オープンリンク56のロック位置は、オープンリンク56のリフトレバー係合部561がリフトレバー46の被押圧部461に対して車幅方向外側にずれた位置である。オープンリンク56がロック位置に位置する状態で(すなわち、ロック機構55がロック状態で)ある場合に、アウトサイドドアハンドル214またはインサイドドアハンドル216が操作されると、オープンレバー53およびオープンリンク56は、
図5Bに示すように、初期位置から作動位置に移動する。しかしながら、オープンリンク56のリフトレバー係合部561はリフトレバー46の被押圧部461に接触しないため、リフトレバー46はラッチ係合位置から移動しない。このため、ラッチ機構はラッチ状態からアンラッチ状態に切り替わらず、ラッチ状態に保持される。このように、ロック機構55がロック状態であると、使用者等がアウトサイドドアハンドル214およびインサイドドアハンドル216を操作してもラッチ機構がラッチ状態に保持される。
【0041】
以上のとおり、ロック機構55は、アンロック状態とロック状態とに切り替え可能に構成される。そして、ロック機構55は、オープンリンク56がアンロック位置からロック位置に移動するとアンロック状態からロック状態に切り替わり、ロック位置からアンロック位置に移動するとロック状態からアンロック状態に切り替わるように構成される。
【0042】
(慣性スプリング)
次に、慣性スプリング57について説明する。慣性スプリング57は、本発明の第三部材の例である。
図6Aおよび
図6Bは、慣性スプリング57の構成を示す図である。なお、
図6Aは後側から見た図、
図6Bは前側から見た図である。慣性スプリング57は、オープンレバー53が初期位置に位置する場合において、オープンリンク56のアンロック位置およびロック位置から慣性入力位置への移動を許容するが、オープンリンク56の慣性入力位置からアンロック位置への移動を規制する(阻止する)ように構成される部材である。慣性スプリング57は、オープンリンク56の前側に配置されており、オープンリンク56に前後方向に並ぶように隣接している。そして、前後方向視において、慣性スプリング57の少なくとも一部は、オープンリンク56と重畳している。
【0043】
慣性スプリング57は、コイル状の部分572と当該コイル状の部分572の両端から延出する2本のアームとを備える弾性変形可能なトーションバネ(捩りバネと称されることもある)である。コイル状の部分572および2本のアームの一方は、オープンリンク56の第一移動軌跡外であって第一移動軌跡の下側に位置しており、筐体であるハウジング51に固定されている。この一方のアームを固定アーム571と記す。例えば、筐体(ハウジング51)には、後側に突出する突起状の係合部511,512が設けられており、固定アーム571とコイル状の部分572とがこれらの係合部511,512のそれぞれに係合することにより、筐体に対して固定される。このように、本実施形態では、固定アーム571およびコイル状の部分572が、本発明の取付部の例である。なお、固定アーム571とコイル状の部分572の両方が筐体に取り付けられる構成でなくてもよく、少なくとも一方が筐体に取り付けられる構成であればよい。
【0044】
2本のアームの他方は、オープンリンク56の回転中心線(すなわち略前後方向)に直角な平面内を所定の方向に突出している。この他方のアームを、可動アーム573と記す。可動アーム573は、弾性変形していない状態(以下、弾性変形していない状態を「自然状態」と記すことがある)では直線棒状の部分である。可動アーム573の先端部にはフック部574が設けられる。フック部は、本発明の延出部の例である。フック部574は、慣性スプリング57が自然状態である場合に慣性入力位置の側に向かって延出する部分である。具体的には、フック部574は、当該フック部574よりも基端側の部分に対して所定の角度で傾斜している棒状の部分である。可動アーム573は、基端側よりも先端側の方が車幅方向外側かつ上側に位置する向きに延伸している。慣性スプリング57が弾性変形していない自然状態において、可動アーム573の少なくとも一部は、第一移動軌跡L
1内および第二移動軌跡L
2内に入り込んでいる(
図4Bおよび
図7A参照)。可動アーム573の少なくとも一部が第一移動軌跡L
1内に入り込んでいる場合の位置が、本発明の可動アーム573の内部位置の例である。このため、「可動アーム573は、その少なくとも一部が第一移動軌跡L
1内に入り込む位置(内部位置)に向かって常時弾性付勢されている」ということもできる。なお、内部位置は、特定の1点の位置ではなく、ある程度の範囲を有する位置である。そして、慣性スプリング57が弾性変形していない状態では、可動アーム573は、先端部側が基端部側(コイル状の部分572に近い側)よりも車幅方向外側かつ上側に位置している。
【0045】
可動アーム573は、車幅方向に略平行な第一移動軌跡L1の延伸方向および上下方向に略平行な第二移動軌跡L2の延伸方向に対して傾斜している。具体的には、可動アーム573は、先端部の方が基端部よりも、上側、かつ、「第一移動軌跡L1の車幅方向の外側寄り(オープンレバー53が慣性入力位置に位置する場合におけるオープンリンク56の慣性スプリング係合部562の位置に近い側)」に位置する向きで、第一移動軌跡L1の延伸方向に対して傾斜している(なお、第一移動軌跡L1は円弧状であるため、厳密には、「第一移動軌跡L1の延伸方向の接線に対して傾斜している」ということができる)。また、可動アーム573は、先端部の方が基端部よりも、「第二移動軌跡L2の上側寄り(オープンレバー53が作動位置に位置する場合におけるオープンリンク56の慣性スプリング係合部562の位置に近い側)」かつ車幅方向外側に位置する向きで、第二移動軌跡L2の延伸方向に対して傾斜している。
【0046】
なお、
図4A、
図4B、
図5A、
図5Bに示すように、通常時、すなわちオープンリンク56がアンロック位置とロック位置との間の位置に位置するときに、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は可動アーム573及びその延長線よりも車幅方向内側(斜め上側ということもできる)に位置する。以下の説明では、可動アーム573およびその延長線よりも車幅方向内側(斜め上側)を「通常側」と記すことがある。これに対し、可動アーム573およびその延長線よりも斜め下側(車幅方向外側)を「規制側」と記すことがある。
図6Aと
図6Bにおいては、通常側を矢印Nで示し、規制側を矢印Aで示す。
【0047】
可動アーム573は、主にコイル状の部分572が弾性変形することにより、基端部の近傍を中心として、オープンリンク56の回転中心線C2に直角な平面内を振り子状に往復移動可能(揺動可能)である。そして、可動アーム573は、基端部の近傍を中心として斜め下方に移動することによって第一移動軌跡L1の外部(下側)に移動できる。また、可動アーム573は、基端部近傍を中心として斜め上方に移動することによって第二移動軌跡L2の外部(車内側)に移動できる。可動アーム573が第一移動軌跡L1の外部に位置する位置が、本発明の外部位置の例である。。
【0048】
図4Aは、可動アーム573が内部位置に位置し、オープンレバー53が初期位置に位置し、かつ、オープンリンク56がアンロック位置に位置する場合の、オープンレバー53、リフトレバー46、オープンリンク56の構成を示す。この場合、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は、通常側Nに位置しており、かつ、内部位置に位置する可動アーム573に接触している。そして、可動アーム573は、慣性スプリング係合部562によって斜め下側(規制側A)に向かって押されている。ただし、可動アーム573の少なくとも一部(例えば先端部)は、第一移動軌跡L
1の内部に位置している。また、
図5Aは、可動アーム573が内部位置に位置し、オープンレバー53が初期位置に位置し、かつ、オープンリンク56がロック位置に位置する場合の、オープンレバー53、リフトレバー46、オープンリンク56の構成を示す。この場合も、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は、通常側Nに位置しており、かつ、内部位置に位置する可動アーム573に接触している。そして、可動アーム573は、慣性スプリング係合部562によって斜め下側(規制側A)に向かって押されている。
【0049】
図7Aおよび
図7Bは、車両に側突などが発生した場合におけるオープンリンク56と慣性スプリング57の動作を示す図である。車両に側突などが発生すると、車両ドア20を車幅方向内側に移動させるような外力が掛かることがある。オープンリンク56は、その下端部を中心として車幅方向に回転移動可能であるから、慣性によってこのような外力が掛かる前の位置に留まろうとする。このため、オープンレバー53が前記外力によって車幅方向内側に移動した場合、見かけ上、オープンリンク56には、慣性によって、オープンレバー53に対して車幅方向外側に移動させるような力が掛かる。以下、このような力を「慣性力」と記す。
【0050】
オープンレバー53が初期位置に位置し、オープンリンク56がアンロック位置またはロック位置に位置し、通常側に位置するオープンリンク56の慣性スプリング係合部562が内部位置にある可動アーム573に接触している状態(すなわち
図5A又は
図6Aに示す状態)で、オープンリンク56に前記の慣性力が掛かる場合を想定する。この場合、オープンリンク56は慣性力によって、アンロック位置およびロック位置よりも車幅方向外側の位置である慣性入力位置に向かって移動する。この際、可動アーム573は、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562によって下方に押されて第一移動軌跡L
1の外部(外部位置)に移動する。このため、オープンリンク56はアンロック位置およびロック位置から慣性入力位置に移動できる。
【0051】
そして、オープンリンク56が慣性入力位置に位置すると、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は慣性スプリング57の可動アーム573から離れ、可動アーム573よりも車幅方向外側に位置する。このため、オープンリンク56から可動アーム573に作用していた押圧力が無くなり、慣性スプリング57は弾性変形していない自然状態になる。したがって、可動アーム573は、少なくとも一部が第一移動軌跡L1の内部に入り込んだ内部位置に位置する。
【0052】
上記のように、慣性スプリング57が自然状態であり、且つオープンリンク56が慣性入力位置にある場合、
図7Aに示すように、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は、通常側Nから規制側Aに位置する状態になる。
【0053】
その後、例えば慣性入力が消失するなどによってオープンリンク56が慣性入力位置からアンロック位置の側に向かって移動すると、
図7Bに示すように、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は、オープンリンク56がアンロック位置に到達する前に(例えばロック位置にて)、慣性スプリング57の可動アーム573のフック部574に係合し、それ以上アンロック位置の側に移動することができない。このように、オープンリンク56が慣性力によって慣性入力位置に移動すると、その後、後述する操作が行われるまでは、ロック機構55はロック状態に保持される。なお、オープンリンク56が慣性スプリング57の付勢力に抗してアンロック位置まで移動した場合であっても、オープンリンク56は可動アーム573の規制側Aに位置する状態に維持される。このため、オープンリンク56は、慣性スプリング57の付勢力によって、ロック位置まで押し戻される。このため、側突などが発生した場合において、車両ドア20が開放されることを防止できる。
【0054】
図7Bに示す状態から、アウトサイドドアハンドル214またはインサイドドアハンドル216が1回操作されると、
図4Aまたは
図5Aに示す状態に戻る。具体的には、アウトサイドドアハンドル214またはインサイドドアハンドル216の操作によってオープンレバー53が初期位置から作動位置に向かって移動すると、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は、慣性スプリング57の可動アーム573を斜め上方に向かって押す。このため、慣性スプリング57の可動アーム573は、オープンリンク56の第二移動軌跡L
2の外部(車幅方向内側)に押し出される。したがって、オープンリンク56は初期位置から作動位置に移動できる。
【0055】
そして、オープンリンク56が作動位置に位置すると、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は、慣性スプリング57の可動アーム573から離れた状態で、可動アーム573よりも上方に位置する。このため、慣性スプリング57は弾性変形していない自然状態に戻り、その結果、可動アーム573は、
図4B又は
図5Bに示す状態、すなわち可動アーム573の少なくとも一部が第二移動軌跡L
2に位置する状態(可動アーム573が内部位置に位置する状態)になる。また、
図4B又は
図5Bに示す状態では、慣性スプリング係合部562が通常側Nに位置する状態である。従って、その後、オープンリンク56がオープンレバー53とともに作動位置から初期位置に戻ると、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562が通常側Nにて可動アーム573に接触する状態になる。すなわち、
図4Aまたは
図5Aに示す状態になる。
【0056】
このように、車両に側突などが発生したことによりオープンリンク56にアンロック位置またはロック位置から慣性入力位置に向かって移動させるような力が掛かった場合、慣性スプリング57の可動アーム573は、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562に押されることにより、内部位置から外部位置(第一移動軌跡L1の外部)に移動する。このため、オープンリンク56は、慣性入力位置に移動できる。そして、オープンリンク56が慣性入力位置に移動すると、可動アーム573はオープンリンク56から離れるとともに内部位置に戻る。このため、オープンリンク56は、いったん慣性入力位置に移動すると、その後、可動アーム573によってアンロック位置への移動が規制される(ロック位置に保持される)。したがって、車両ドア20の開放が阻止される。
【0057】
例えば、特開2019-183614号公報に記載の車両用のドアロック装置は、側突などによって慣性力が入力された場合にオープンリンク56のアンロック位置への移動を阻止するための構成として、慣性力によりブロック位置に移動するブロック部材と、このブロック部材をブロック位置にて所定の方向に付勢する付勢部材との2部材が必要である。これに対して、本実施形態によれば、慣性スプリング57のみによって、側突などによって慣性力が入力された場合にオープンリンク56のアンロック位置への移動を阻止する動作を実現できる。そして、本実施形態によれば、慣性スプリング57によって前記動作が実現されるから、ドアロック装置10の部品点数の増加を抑制することができる。
【0058】
なお、車両に側突が発生した場合、車両ドア20に取り付けられているドアロック装置10には、車幅方向内側に移動させるような外力が掛かる。そして、本実施形態によれば、オープンリンク56はオープンレバー53に対して車幅方向に移動可能であるから、側突などによる外力に対応して生じる慣性力の方向とオープンリンク56の移動方向とを近づけることができる。したがって、慣性力によるオープンリンク56の慣性入力位置への移動の確実性を高めることができる。
【0059】
可動アーム573は、前記のように第一移動軌跡L1の延伸方向(略車幅方向)に対して傾斜している。このため、このような構成によれば、オープンリンク56がアンロック位置およびロック位置から慣性入力位置に移動するための可動アーム573の移動量(慣性スプリング57の弾性変形量)を、傾斜していない構成(可動アームが第一移動軌跡L1の延伸方向に直角な方向に延在している構成)に比較して小さくできる。したがって、慣性スプリング57の可動アーム573は、オープンリンク56のアンロック位置およびロック位置から慣性入力位置への移動を許容する動作の確実性を高めることができる。なお、可動アーム573の第一移動軌跡L1の延伸方向に対する傾斜角度の具体的な値は限定されるものではない。この傾斜角度は、オープンリンク56の質量(換言すると、慣性力)と慣性スプリング57のバネ定数などに応じて適宜設定される。
【0060】
また、可動アーム573に前記のようなフック部574が設けられる構成であると、オープンリンク56が慣性入力位置からアンロック位置に向かって移動する際に、フック部574がオープンリンク56の慣性スプリング係合部562が係合することにより、オープンリンク56のアンロック位置への移動の阻止の確実性を高めることができる。
【0061】
そして、本実施形態によれば、慣性スプリング57に安価なトーションバネを適用できるから、部品コストの上昇を抑制できる。
【0062】
また、本実施形態によれば、前後方向視において、慣性スプリング57の少なくとも一部はオープンリンク56に重畳している。このような構成によれば、車両用のドアロック装置10の大型化、特に、オープンリンク56のオープンレバー53に対する回転中心線C2に平行な方向視における寸法(車幅方向寸法および上下方向寸法)の拡大を防止または抑制できる。
【0063】
なお、慣性スプリング57の可動アーム573は、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562が通常側Nに位置する場合には、ロック機構55の動作を阻害しない。具体的には次のとおりである。
図4Aに示すように、オープンレバー53が初期位置に位置し、オープンリンク56がアンロック位置またはロック位置に位置する状態では、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は通常側Nに位置する。このときオープンリンク56の慣性スプリング係合部562は慣性スプリング57の可動アーム573に通常側Nにて接触しているだけであるから、その状態からオープンレバー53が作動位置に向かって移動してオープンリンク56が上昇すると、オープンリンク56の慣性スプリング係合部562は可動アーム573から離れる。したがって、オープンリンク56の初期位置から作動位置への移動は、慣性スプリング57により阻害されない。その後、オープンリンク56が作動位置から初期位置に移動する(戻る)と、
図4Aまたは
図5Aに示す状態に戻る。
【0064】
ここで、ラッチ機構の構成例について簡単に説明する。前記のとおり、ラッチ機構は、ラッチ44、ポール45、リフトレバー46、ラッチ復帰バネ、およびポール復帰バネを備える。
【0065】
ラッチ44は、フルラッチ爪、ハーフラッチ爪、よびストライカ保持溝を備える。フルラッチ爪とハーフラッチ爪は、ラッチ44の回転中心から半径方向外側に向かって延伸する板状の構成を有している。ストライカ保持溝は、車体301に設けられているストライカ302を挿抜可能な溝であり、フルラッチ爪とハーフラッチ爪との間に設けられている。
【0066】
ラッチ44は、噛合いボディ40の筐体に対して、回転可能に支持されており、回転することによってラッチ位置とアンラッチ位置とに移動可能である。ラッチ44のラッチ位置は、車両ドア20が閉位置に位置する場合にストライカ302を保持する位置(換言すると、ラッチ44とストライカ302との係合を解除できない位置)である。車両ドア20が閉位置に位置する場合にラッチ44がラッチ位置に保持されると、車両ドア20の閉位置から開位置への移動が許容されない。ラッチ44のアンラッチ位置は、車体301に設けられているストライカ302とラッチ44とが係脱自在な位置(ストライカ302がストライカ保持溝に挿抜自在な位置)である。車両ドア20が閉位置に位置する場合にラッチ44がアンラッチ位置からラッチ位置に移動すると、車両ドア20の閉位置から開位置への移動が許容される。なお、ラッチ44は、ラッチ復帰バネによって、アンラッチ位置に向けて常時弾性付勢されている。
【0067】
ポール45およびリフトレバー46は、ドアロック装置10の筐体に回転可能に支持されている。ポール45およびリフトレバー46は、互いに係合しており、一体となって回転するように構成されている。そして、ポール45およびリフトレバー46は、回転することによってラッチ係合位置とラッチ不係合位置とに移動可能である。ポール45およびリフトレバー46のラッチ係合位置は、ポール45がラッチ44に係合することによってラッチ44をラッチ位置に保持する位置(ラッチ44がラッチ位置からアンラッチ位置への移動を規制する位置)である。ポール45およびリフトレバー46のラッチ不係合位置は、ラッチ44の回転移動軌跡の外部の位置であり、ラッチ44がラッチ位置からアンラッチ位置への移動を許容する位置である。ポール45およびリフトレバー46は、ポール復帰バネによって、ラッチ係合位置に向かって常時弾性付勢されている。
【0068】
車両ドア20が閉位置に位置し、ラッチ44がラッチ位置に位置するときにポール45およびリフトレバー46がラッチ係合位置に位置すると、ポール45がラッチ44に係合する。これにより、ポール45はラッチ44をラッチ位置に保持する。このため、車両ドア20は閉位置に保持される(換言すると、開位置への移動が規制される)。ラッチ機構のこの状態がラッチ状態である。車両ドア20が閉位置に位置し、かつラッチ機構がラッチ状態である場合に、ポール45およびリフトレバー46がポール復帰バネの付勢力に抗してラッチ係合位置からラッチ不係合位置に移動すると、ポール45はラッチ44のフルラッチ爪およびハーフラッチ爪の移動軌跡の外部に位置する。そして、ラッチ44はラッチ復帰バネの付勢力によってラッチ位置からアンラッチ位置に移動し、ラッチ44はストライカ302を保持しない状態(係脱自在な状態)になる。このため、車両ドア20の開位置への移動が許容される。ラッチ機構のこの状態が、アンラッチ状態である。
【0069】
ラッチ機構がアンラッチ状態である場合に車両ドア20が開位置から閉位置に向かって移動すると、ラッチ44がストライカ302に押されてアンラッチ位置からラッチ位置に向かって移動する。この際、ラッチ44はポール45をラッチ44の回転軌跡の外に押し出す(ラッチ係合位置からラッチ不係合位置に移動させる)ことによって、アンラッチ位置からラッチ位置に移動できる。そして、車両ドア20が閉位置に到達すると、ラッチ44はラッチ位置に到達し、ポール45およびリフトレバー46はポール復帰バネの付勢力によってラッチ係合位置に保持される。したがって、ラッチ機構はアンラッチ状態からラッチ状態に切り替わる。
【0070】
このように、ラッチ機構は、車両ドア20が閉位置に位置するときにポール45およびリフトレバー46がラッチ係合位置からラッチ不係合位置に回転移動することによって、ラッチ状態からアンラッチ状態に切り替わるように構成される。なお、ラッチ機構は、リフトレバー46がラッチ係合位置からラッチ不係合位置に移動することによりラッチ状態からアンラッチ状態に切り替わるように構成されればよく、具体的な構成は前記構成例に限定されない。ラッチ機構には、公知の各種構成が適用できる。
【0071】
(ロック機構)
次に、ロック機構55の構成例について説明する。ロック機構55は、前述のオープンリンク56および慣性スプリング57のほか、アクティブレバー58、コントロールレバー59、キーレバー60、アクチュエータ61、およびホイールギア62を備える。そして、ロック機構55は、使用者による所定の手動操作およびアクチュエータ61の駆動力によって、アンロック状態とロック状態とに切り替え可能に構成される。
【0072】
アクティブレバー58は、筐体に対して回転(揺動)可能に取り付けられており、筐体に対して回転することによりロック位置とアンロック位置とに移動可能である。ロック位置は筐体に対する回転移動可能な範囲の一端の位置であり、アンロック位置は他端の位置である。そして、ロック位置に位置するとオープンリンク56のロック位置からアンロック位置への移動を規制し、アンロック位置に位置するとオープンリンク56のアンロック位置からロック位置への移動を規制するように構成される。アクティブレバー58は、節度スプリングによって、ロック位置とアンロック位置との中間の位置であるターンオーバー点よりもロック位置に近い側に位置する場合にはロック位置に向かって弾性付勢され、ターンオーバー点よりもアンロック位置に近い側に位置する場合にはアンロック位置に向かって弾性付勢される。このため、アクティブレバー58は、節度スプリング以外の外力が掛かっていない状態では、ロック位置とアンロック位置のいずれかに保持される。
【0073】
コントロールレバー59は、筐体に対して回転可能に支持されており、回転することによって中立位置とアンロック位置とロック位置とに移動可能に構成される。アンロック位置は、回転移動可能な範囲の一端の位置であり、ロック位置は回転移動可能な範囲の前記一端とは反対側の端の位置であり、中立位置はアンロック位置とロック位置の中間の位置である。コントロールレバー59は、キーレバー60を介してキーシリンダ215の内筒およびアクティブレバー58と連係している。そして、使用者がキーシリンダ215を操作して内筒を中立位置からロック位置に回転させると、コントロールレバー59は、内筒の動きによって中立位置からロック位置に移動し、アクティブレバー58をアンロック位置からロック位置に移動させる。また、使用者がキーシリンダ215を操作して内筒を中立位置からアンロック位置に回転させると、コントロールレバー59は、内筒の動きによって中立位置からアンロック位置に移動し、アクティブレバー58をロック位置からアンロック位置に移動させる。したがって、車両の使用者等は、キーシリンダを操作することによって、ロック機構をアンロック状態とロック状態とに切り替え可能である。
【0074】
また、コントロールレバー59は、図略の連結部材を介してロックノブ217に連結されている。そして、ロックノブ217がアンロック位置に位置するとコントロールレバー59もアンロック位置に位置し、ロックノブ217がロック位置に位置するとコントロールレバー59もロック位置に位置する。したがって、車両の使用者等は、ロックノブ217を操作することによって、ロック機構55をアンロック状態とロック状態とに切り替え可能である。
【0075】
アクチュエータ61は、アクティブレバー58の駆動力源である。アクチュエータ61には正逆両方向の回転動力を出力可能な電動モータが適用される。ホイールギア62は筐体に対して回転可能に支持されるとともに、アクチュエータ61の駆動力によって回転するように構成される。そして、ホイールギア62は、アクチュエータ61の回転動力によって所定の方向に回転すると、アクティブレバー58に係合し、アクティブレバー58をロック位置からアンロック位置に移動させる。一方、ホイールギア62は、アクチュエータ61の回転動力によって前記所定の方向とは反対方向に回転すると、アクティブレバー58に係合し、アクティブレバー58をアンロック位置からロック位置に移動させる。このように、ロック機構55は、アクチュエータ61の駆動力によってアクティブレバー58を移動させることにより、アンロック状態とロック状態とに切り替え可能に構成される。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において改変が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0077】
例えば、前記実施形態では、慣性スプリング57にトーションばねが適用される構成を示したが、慣性スプリング57はトーションばねに限定されない。例えば、慣性スプリング57に長尺の板バネが適用されてもよい。この場合、板バネの長尺方向の一方の端部が筐体に固定され、それ以外の部分が可動アーム573に相当する部分として機能する。
【符号の説明】
【0078】
10…ドアロック装置、46…リフトレバー、53…オープンレバー、55…ロック機構、56…オープンリンク、57…慣性スプリング、573…慣性スプリングの可動アーム