(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167824
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】切削加工機および切削方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/00 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
B23Q11/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079309
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】317009525
【氏名又は名称】DGSHAPE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴之
【テーマコード(参考)】
3C011
【Fターム(参考)】
3C011BB03
(57)【要約】
【課題】切削屑の大きさにかかわらず高い集塵効率を達成できる切削加工機
【解決手段】
切削加工機10は、被切削物1を切削する切削装置と、切削装置が収容された加工室21と、加工室21に開口し集塵機に接続された集塵口61と、集塵口61の開口面積を変更可能に構成された絞り機構90と、を備えている。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切削物を切削する切削装置と、
前記切削装置が収容された加工室と、
前記加工室に開口し、集塵機に接続された集塵口と、
前記集塵口の開口面積を変更可能に構成された絞り機構と、
を備えた、切削加工機。
【請求項2】
前記絞り機構は、前記加工室に着脱可能に構成され前記集塵口を覆うように前記加工室に装着されるカバー部材を備え、
前記カバー部材は、前記集塵口よりも総開口面積の小さい1つまたは複数の集塵孔を有している、
請求項1に記載の切削加工機。
【請求項3】
前記加工室は、
前記切削装置よりも下方に設けられた底面と、
前記底面に接続され前記底面と交差するように延びる他の壁面と、を有し、
前記集塵口は、前記底面と前記他の壁面との接続部に設けられ、
前記カバー部材は、装着された状態で、前記底面および前記他の壁面に当接し、前記底面および前記他の壁面とともに前記集塵口を覆っている、
請求項2に記載の切削加工機。
【請求項4】
前記1つまたは複数の集塵孔のうちの少なくとも1つは、前記カバー部材の辺のうち前記底面に接する辺と交差するように開口している、
請求項3に記載の切削加工機。
【請求項5】
被切削物の材質を含む切削条件と前記集塵口の開口面積とを関連付けた予め定められたテーブルを記憶する記憶装置と、
切削条件が入力される入力装置と、
前記入力装置に入力された切削条件と前記記憶装置に記憶された前記テーブルとに基づいて前記カバー部材を装着するかどうかを指示する指示装置と、をさらに備えた、
請求項2~4のいずれか一つに記載の切削加工機。
【請求項6】
前記絞り機構は、前記集塵口の縁部の一部を構成するとともに前記集塵口を拡大または縮小するように移動する可動部材を備えている、
請求項1に記載の切削加工機。
【請求項7】
前記絞り機構は、前記可動部材を移動させる駆動部を備えている、
請求項6に記載の切削加工機。
【請求項8】
前記駆動部を制御する制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、
被切削物の材質を含む切削条件と前記集塵口の開口面積とを関連付けた予め定められたテーブルを記憶する記憶部と、
切削条件が入力される入力部と、
前記入力部に入力された切削条件と前記記憶部に記憶された前記テーブルとに基づいて前記集塵口の開口面積を決定する決定部と、
前記駆動部を制御して、前記集塵口の開口面積を前記決定部によって決定された開口面積とする駆動制御部と、を備えている、
請求項7に記載の切削加工機。
【請求項9】
被切削物を切削することと、
空気を吸引する集塵口を備えた集塵機によって被切削物の切削屑を回収することと、を含み、
切削屑の大きさまたは形状に応じて前記集塵口の開口面積を変更する、切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工機および切削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被切削物を切削加工することによって、例えば歯科用成形品などを作製する切削加工機が従来から知られている。例えば特許文献1には、箱状のケースと、フロントカバーと、ケースの内部空間に収容され被加工物の加工を行う切削装置と、を備えた切削加工機が開示されている。特許文献1に記載の切削加工機には、集塵装置が接続されている。集塵装置は、ケースの内部空間に連通しており、切削加工で生じた切削屑を回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切削加工で発生する切削屑の大きさは、例えば被切削物の材料や切削条件により、様々な大きさとなり得る。加工室に接続された集塵機によって加工室内の切削屑を集塵する場合、切削屑の大きさによって効率的な集塵条件が異なることがある。本願発明者の知見によれば、細かい切削屑の場合には、加工室に開口した集塵口における風量が大きい方が集塵効率が良い傾向がある。一方で、大きい切削屑の場合には、集塵口における風速が大きい方が集塵効率が良い傾向がある。しかし、集塵機においては、集塵口での風量を大きくすると風速が低下し、集塵口での風速を大きくすると風量が低下しやすい。そのため、様々な大きさの切削屑に対して高い集塵効率が得られる集塵条件を得るのは難しかった。
【0005】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、切削屑の大きさにかかわらず高い集塵効率を達成できる切削加工機を提供することである。また、切削屑の大きさにかかわらず高い集塵効率を実現できる被切削物の切削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示する切削加工機は、被切削物を切削する切削装置と、前記切削装置が収容された加工室と、前記加工室に開口し集塵機に接続された集塵口と、前記集塵口の開口面積を変更可能に構成された絞り機構と、を備えている。
【0007】
上記切削加工機によれば、絞り機構によって集塵口の開口面積を調整することにより、切削屑の大きさに応じた好適な集塵条件を得ることができる。例えば、切削屑が細かい場合には、集塵口の開口面積を絞り機構によって大きくすることにより、集塵口における風量を大きくすることができる。これにより、細かい切削屑を効率良く集塵することができる。また、例えば、切削屑が大きい場合には、集塵口の開口面積を絞り機構によって小さくすることにより、集塵口における風速を速くすることができる。これにより、大きい切削屑を効率良く集塵することができる。上記切削加工機によれば、集塵口の開口面積を調整することによって、切削屑の大きさにかかわらず高い集塵効率を実現することができる。
【0008】
また、ここに開示する被切削物を切削する方法は、被切削物を切削することと、空気を吸引する集塵口を備えた集塵機によって被切削物の切削屑を回収することと、を含み、切削屑の大きさまたは形状に応じて前記集塵口の開口面積を変更する。かかる切削方法によっても、上記した切削加工機と同様に、切削屑の大きさにかかわらず高い集塵効率を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る切削加工機の斜視図である。
【
図3】加工室の内部を示す斜視図であって、加工室に絞りカバーを装着していない状態を示す図である。
【
図8】集塵口に装着された状態の絞りカバーを示す縦断面図である。
【
図9】加工室の内部を示す斜視図であって、集塵口に絞りカバーを装着した状態を示す図である。
【
図10】第2実施形態に係る切削加工機の加工室を模式的に示す一部破断斜視図である。
【
図11】第2実施形態に係る切削加工機のブロック図である。
【
図12】開口度選定テーブルの一例を示す図である。
【
図13】可動底壁の回動位置を示す加工室の模式的な縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る切削加工機について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0011】
[第1実施形態]
図1は、一実施形態に係る切削加工機10の斜視図である。以下の説明では、切削加工機10を正面から見たときに、切削加工機10から遠ざかる方を前方、切削加工機10に近づく方を後方とする。左、右、上、下とは、切削加工機10を正面から見たときの左、右、上、下をそれぞれ意味するものとする。また、図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を意味するものとする。
【0012】
本実施形態に係る切削加工機10は、アダプタに保持されたディスク状の被切削物を切削加工する切削加工機である。
図2は、被切削物1およびアダプタ5の平面図である。切削加工機10は、ここでは、被切削物1を切削して、歯科用成形品、例えば、クラウン、ブリッジ、コーピング、インレー、アンレー、ベニア、カスタムアバットメント等の歯冠補綴物や、人工歯、義歯床等を作製する装置である。本実施形態に係る切削加工機10は、クーラントを使用しないドライ式の切削加工機である。
【0013】
被切削物1は、例えば、ABS、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、歯科用レジン等のレジンや、ワックス、ジルコニア、石膏等で構成されている。被切削物1の材質は、その他、例えば、PEEK、ガラス繊維強化樹脂、ハイブリッドレジン等のレジンや、ガラスセラミックス等のセラミックス材料、コバルトクロムシンターメタル等の金属材料等で構成されていてもよい。被切削物1の材料は特に限定されない。被切削物1の形状は、ここではディスク状(円板状)である。ただし、被切削物1は、他の形状、例えばブロック状(例えば立方体状や直方体状)等であってもよい。
【0014】
アダプタ5は、ディスク状の被切削物1を保持する。アダプタ5は、ここでは、被切削物1に対応する略円形の挿入孔5aが中央部に形成された平板状のアダプタである。被切削物1は、挿入孔5aに挿入されることにより、アダプタ5に保持される。被切削物1は、アダプタ5に保持された状態で切削加工機10に収容され、加工される。
【0015】
図1に示すように、切削加工機10は、箱状に構成された筐体20を有している。筐体20の正面側には、筐体20の内部空間と外部とを連通させる開口部が開口している。開口部には、加工室扉25と収容室扉26とがそれぞれ開閉可能に設けられている。加工室扉25の後方および収容室扉26の後方には、それぞれ加工室21と収容室22とが設けられている。加工室21は、被切削物1を切削加工するエリアである。収容室22は、被切削物1がそれぞれ装着された複数のアダプタ5が収容されるエリアである。加工室21と収容室22との間は、内部壁によって仕切られている。切削加工機10は、収容室22に収容されたアダプタ5を加工室21に搬送し、被切削物1の加工が終了したアダプタ5を収容室22に戻す、図示しない搬送装置を備えている。
【0016】
図3は、加工室21の内部を示す斜視図である。
図4は、切削加工機10の加工室21を通る縦断面図である。
図3は、加工室扉25等の一部の部材を取り外した状態を図示している。
図3および
図4に示すように、加工室21には、被切削物1を切削する切削装置30と、アダプタ5を介して被切削物1を保持する保持装置41と、アダプタ5の回転装置42と、各種の切削ツール6を収容するツールマガジン45と、アダプタ5と切削装置30とを相対的に移動させるX軸移動装置50X、Y軸移動装置50Y(
図3および
図4には図示せず、
図5参照)、およびZ軸移動装置50Zと、が収容されている。
【0017】
図4に示すように、加工室21は、傾斜壁21Fと、底壁21Dと、天壁21Uと、後壁21Rrと、左壁21Lと、右壁21R(
図3参照)と、を有している。加工室21の前面は開放され、開口部21aを構成している。開口部21aには、開口部21aを開閉可能な加工室扉25が設けられている。傾斜壁21Fおよび底壁21Dは、切削装置30よりも下方に設けられている。傾斜壁21Fは、開口部21aの下辺に接続され、切削加工機10の背面側に向かって下降傾斜している。傾斜壁21Fの後端には、底壁21Dが接続されている。底壁21Dは、略水平に設けられている。傾斜壁21Fに降り積もった被切削物1の切削屑は、傾斜壁21Fの下降傾斜に沿って底壁21Dに導かれる。後壁21Rrは、底壁21Dに接続され、底壁21Dと交差するように延びている。ここでは、後壁21Rrは、底壁21Dの後端に接続され、傾斜壁21Fに直交する方向に延びている。左壁21Lは、傾斜壁21Fおよび底壁21Dの左端と後壁21Rrの左端とに接続され、斜め上方に向かって延びている。右壁21Rは、傾斜壁21Fおよび底壁21Dの右端と後壁21Rrの右端とに接続され、斜め上方に向かって延びている。開口部21aは、後壁21Rrと略平行に開口している。以下、後壁21Rrに略垂直な斜め前後方向のことをY軸方向とも呼ぶ。また、傾斜壁21Fに略垂直な斜め上下方向のことをZ軸方向とも呼ぶ。左右方向のことも、適宜、X軸方向と呼ぶ。
【0018】
切削装置30は、保持装置41によって保持された被切削物1を切削する。
図4に示すように、切削装置30は、Z軸方向に延びる主軸31と、主軸31の先端部に設けられたツール把持部32と、を備えている。ツール把持部32は、切削ツール6を把持するように構成されている。ツール把持部32は、例えば、エア駆動で開閉するコレットチャックを備えている。ただし、ツール把持部32の構成は限定されない。主軸31は、その軸線周りに回転するように構成されている。主軸31には、主軸31を回転させる主軸モータ33が接続されている。ツール把持部32に切削ツール6を把持させた状態で主軸31を回転させると、切削ツール6は、主軸31の軸線周りに回転する。
【0019】
保持装置41は、被切削物1を保持したアダプタ5を保持することにより、被切削物1を保持する。保持装置41は、ここでは、左方に向かって開いたU字のアームを備え、アームの間に差し入れられたアダプタ5を保持する。ただし、保持装置41の構成は特に限定されない。回転装置42は、X軸方向に延びる第1回転軸42a周りと、第1回転軸42aに直交する第2回転軸42b周りとに保持装置41を回転させることが可能に構成されている。回転装置42は、第1回転軸42a周りに保持装置41を回転させる第1モータ43(
図5参照)と、第2回転軸42b周りに保持装置41を回転させる第2モータ44(
図5参照)と、を備えている。回転装置42が保持装置41を回転させることにより、切削装置30に対する被切削物1の向きを変えることができる。
【0020】
Z軸移動装置50Zは、切削装置30をZ軸方向に移動するように構成されている。X軸移動装置50Xは、Z軸移動装置50Zを介して切削装置30をX軸方向に移動するように構成されている。
図3および
図4では図示を省略するY軸移動装置50Y(
図5参照)は、回転装置42、保持装置41、およびツールマガジン45をY軸方向に移動するように構成されている。Y軸移動装置50Yは、回転装置42および保持装置41をY軸方向に移動することにより、被切削物1をY軸方向に移動する。これらの構成により、切削装置30に対して被切削物1をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に移動させることが可能となっている。ここでは、X軸移動装置50X、Y軸移動装置50Y、およびZ軸移動装置50Zは、それぞれ、図示しないモータとボールねじ機構とを備えている。ただし、切削装置30に対して被切削物1をX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向に移動させる機構は、上記には限定されない。
【0021】
切削加工機10は、外部の集塵機80を接続可能な接続部60を備えている。集塵機80は、負圧を発生させて空気を吸引することにより、被切削物1の切削屑を回収する。
図4に示すように、接続部60は、筐体20の背面に開口している。加工室21の後壁21Rrには、集塵口61が開口している。集塵口61は、加工室21内の被切削物1の切削屑が吸引される開口部である。
図3に示すように、集塵口61は、連結パイプ62によって接続部60と接続されている。集塵口61は、連結パイプ62、接続部60、および接続部60と集塵機80との間を接続する集塵管81を介して、集塵機80に接続されている。集塵機80を駆動すると、集塵口61からは空気が吸い込まれる。これにより、加工室21内の被切削物1の切削屑が集塵機80に吸引される。
【0022】
集塵口61は、加工室21のうち底壁21Dと後壁21Rrとの接続部に設けられている。集塵口61は、切削装置30よりも下方に位置している。
図3に示すように、集塵口61は、後壁21Rrの下端に達するように、後壁21Rrに開口している。集塵口61は、底壁21Dの後端に接続されている。集塵口61は、それぞれX軸方向に延びるとともにZ軸方向に並んだ複数のスリット61a~61cからなっている。一番上のスリット(底壁21Dから最も離れたスリット)61aは、それより下方の(底壁21D側の)2つのスリット61bおよび61cよりもZ軸方向の幅が大きく構成されている。詳しくは後述するが、集塵口61の開口面積は、集塵口61に絞りカバー91(
図7参照)を装着することによって変更可能である。ここでは、集塵口61の開口面積は、集塵口61に絞りカバー91を装着することによって小さくなる。
図3および
図4は、集塵口61に絞りカバー91を装着していない状態を示している。
【0023】
切削加工機10は、集塵機80によって加工室21内の空気が排出されるのに伴って加工室21内に外部の空気を取り込む吸気口65を備えている。
図4に示すように、吸気口65は、ここでは、切削加工機10の背面側に設けられている。吸気口65は、切削装置30よりも上方に位置している。吸気口65には、ダクト66が接続されている。ダクト66は、前後方向に延びている。ダクト66の後端は、吸気口65に接続されている。ダクト66の前端部は、加工室21の開口部21aに沿って下方に向かって屈折している。下方に向かって屈折したダクト66の先端(下端)には、吸気口65から吸い込まれた空気が噴出されるノズル67が形成されている。かかる吸気口65および集塵口61の配置により、吸気口65から吸い込まれ集塵口61から排出される空気は、加工室21内を上方から下方に向かって、かつ、前方から後方に向かって流れる(
図4の矢印W参照)。
【0024】
図5は、切削加工機10のブロック図である。
図5に示すように、制御装置70は、ツール把持部32、主軸モータ33、第1モータ43、第2モータ44、X軸移動装置50X、Y軸移動装置50Y、およびZ軸移動装置50Zに接続され、それらの動作を制御している。集塵機80は、制御装置70によって制御されてもよく、制御されなくてもよい。集塵機80は、ユーザーによって操作されるのでもよい。
図5では、集塵機80が制御装置70に接続されている場合を図示している。制御装置70は、例えばマイクロコンピュータである。制御装置70のハードウェア構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータ等の外部機器から切削データ等を受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶装置と、を備えている。なお、制御装置70は必ずしも切削加工機10の内部に設けられている必要はなく、例えば、切削加工機10の外部に設置され、有線または無線を介して切削加工機10と通信可能に接続されたコンピュータ等であってもよい。
【0025】
図5に示すように、制御装置70は、被切削物1の切削屑の回収に関する処理部として、記憶部71と、入力部72と、指示部73と、を備えている。記憶部71は、被切削物1の材質を含む切削条件と集塵口61の開口面積とを関連付けた、予め定められたテーブルを記憶している。本実施形態では、「集塵口61の開口面積」は、絞りカバー91が集塵口61に装着されていない開口面積「大」の状態か、または、絞りカバー91が集塵口61に装着されている開口面積「小」の状態を意味する。上記予め定められたテーブルは、被切削物1の材質を含む切削条件に対応して、絞りカバー91を装着するべきかどうかを定めた、カバー選定テーブルである。入力部72には、被切削物1の材質を含む切削条件が入力される。入力部72に入力される切削条件には、被切削物1の材質の他、切削ツール6の積算使用時間、切削ツール6の切込み量などが含まれていてもよい。ただし、入力部72に入力される切削条件は特に限定されるわけではない。切削条件は、ユーザーが手動で入力してもよく、切削データから取得されてもよい。指示部73は、入力部72に入力された切削条件と記憶部71に記憶されたカバー選定テーブルとに基づいて、絞りカバー91を装着するかどうかを指示する。なお、記憶部71、入力部72、および指示部73は、制御装置70とは別のハードウェアまたはソフトウェアによって構成されていてもよい。
【0026】
図6は、カバー選定テーブルT1の一例を示す図である。ただし、
図6に示すカバー選定テーブルT1は一例に過ぎず、カバー選定テーブルT1はこれに限定されない。
図6に示すように、一例に係るカバー選定テーブルT1によれば、被切削物1の材料がワックス、歯科用レジン、ABS、PMMAといった、大きな切削屑が出やすい、柔らかい材料の場合には、絞りカバー91を装着して集塵口61の開口面積を小さくすることが指示される。一方、カバー選定テーブルT1によれば、被切削物1の材料がジルコニアや石膏といった、小さな切削屑が出やすい、硬い材料の場合には、絞りカバー91を装着せず集塵口61の開口面積を大きく保つことが指示される。この理由については後述する。なお、例えば、被切削物1が義歯床のような所定の成形品に形成されることが切削データで指示されているとき、または、被切削物1が上記所定の成形品に形成されることがユーザーによって入力されたときには、被切削物1の材料は柔らかい材料であると判断され、絞りカバー91を装着することが指示されてもよい。逆に、例えば、被切削物1が人工歯のような所定の成形品に形成されることが切削データで指示されているとき、または、被切削物1が上記所定の成形品に形成されることがユーザーによって入力されたときには、被切削物1の材料は硬い材料であると判断され、絞りカバー91を装着しないことが指示されてもよい。
【0027】
図6に示した例では、カバー選定テーブルT1は、切削条件に対応して、絞りカバー91を装着するかしないかを指示したが、複数種類の絞りカバー91のどれを装着するか(または、どの絞りカバー91も装着しないか)を指示してもよい。この場合、複数種類の絞りカバー91は、集塵口61に装着されたときの集塵口61の開口面積が互いに異なるように構成されていてもよい。
【0028】
[絞りカバーの構成]
図7は、絞りカバー91の斜視図である。
図8は、集塵口61に装着された状態の絞りカバー91を示す縦断面図である。本実施形態では、絞りカバー91は、集塵口61の開口面積を変更可能な絞り機構90を構成している。ただし、例えば後述の第2実施形態等に示すように、絞り機構90は、絞りカバー91を備えるものに限定されるわけではない。また、絞り機構90は、絞りカバー91以外の構成、例えば、絞りカバー91を固定する部材などを備えていてもよい。以下の
図7および
図8の説明においては、絞りカバー91を加工室21内に装着したときの方向を適宜使用する。
図7および
図8に示すように、絞りカバー91は、左右一対の略三角形の側板92と、一対の側板92の斜辺同士を繋ぐように左右方向に延びる前板93と、を有している。前板93の後方であって一対の側板92の間の空間は、絞りカバー91が加工室21に装着されたとき、絞りカバー91の内部空間を形成する。絞りカバー91は、ここでは、1つの材料から形成されている。ただし、絞りカバー91は、複数の部品、例えば、一対の側板92と前板93とを接合することによって形成されていてもよい。
【0029】
図7に示すように、一対の側板92の下辺92aには、それぞれ第1集塵孔94が開口している(
図7では、右側の第1集塵孔94のみ図示、左側の第1集塵孔94は
図8参照)。第1集塵孔94は、側板92の下辺92aと後辺92bとに切り抜けるように形成された切欠きである。前板93の下辺93aには、第2集塵孔95が開口している。第2集塵孔95は、前板93の下辺93aに切り抜けるように形成された切欠きである。第2集塵孔95は、X軸方向の幅が広い下部95aと、下部95aよりも上方に形成され下部95aよりもX軸方向の幅が狭い上部95bとを有している。下部95aは、一対の側板92の厚さ分を残してX軸方向の全幅にわたって形成されている。
図8に示すように、一対の側板92は、前板93の後端93b(上端でもある)よりも後方に突出しており、前板93の後端よりも後方の隙間は、絞りカバー91が加工室21に装着されたとき、第3集塵孔96を形成する。
【0030】
このように、本実施形態では、絞りカバー91は、一対の第1集塵孔94、第2集塵孔95、および第3集塵孔96の計4つの集塵孔を有している。複数の集塵孔94~96の総開口面積は、集塵口61の開口面積よりも小さく構成されている。ただし、絞りカバー91は、かかる複数の集塵孔94~96ではなく、例えば、集塵口61よりも開口面積の小さい1つの集塵孔を有していてもよい。
【0031】
[絞りカバーの装着]
絞りカバー91は、加工室21に着脱可能に構成されている。絞りカバー91は、集塵口61を覆うように加工室21に装着される。ここでは、絞りカバー91は、集塵口61を覆うように、加工室21の底壁21Dと後壁21Rrとの接続部に載置される。
図9は、加工室21の内部を示す斜視図であって、集塵口61に絞りカバー91を装着した状態を示す図である。
図8および
図9に示すように、絞りカバー91は、装着された状態では、加工室21の底壁21Dおよび後壁21Rrに当接し、底壁21Dおよび後壁21Rrとともに集塵口61を覆っている。詳しくは、絞りカバー91の側板92の後辺92bは、加工室21の後壁21Rrに当接する。側板92の下辺92aおよび前板93の下辺93aは、加工室21の底壁21Dに当接する。
【0032】
図8に示すように、複数の集塵孔94~96のうち、一対の第1集塵孔94および第2集塵孔95は、絞りカバー91の辺のうち加工室21の底壁21Dに接する辺と交差するように開口している。ここでは、一対の第1集塵孔94は、加工室21の底壁21Dに接する側板92の下辺92aと交差するように開口している。第2集塵孔95は、加工室21の底壁21Dに接する前板93の下辺93aと交差するように開口している。1つまたは複数の集塵孔のうちの少なくとも1つは、このように、絞りカバー91の辺のうち加工室21の底壁21Dに接する辺と交差するように開口していることが好ましい。ただし、絞りカバー91は、加工室21の底壁21Dに接する辺と交差する集塵孔を有さなければならないわけではない。第3集塵孔96は、切削装置30よりも下方に位置しており、上方に向かって開口している。
【0033】
絞りカバー91を集塵口61に装着することにより、集塵口61の開口面積は、絞りカバー91が装着されていないときよりも減少する。前述したように、複数の集塵孔94~96の総開口面積は、集塵口61の開口面積よりも小さく構成されている。絞りカバー91が装着されているときには、「集塵口61の開口面積」は、絞りカバー91の集塵孔94~96の総開口面積を意味する。絞りカバー91が装着されている状態で集塵機80を駆動すると、新たな集塵口としての絞りカバー91の集塵孔94~96から加工室21内の空気が吸引される。集塵口61の開口面積が減少することにより、集塵孔94~96に流れ込む空気の流速は速くなる。一方で、集塵口61の開口面積が減少することにより、集塵孔94~96に流れ込む空気の流量(時間当たりの空気量)は小さくなる。絞りカバー91を集塵口61に装着していないときには、絞りカバー91を装着しているときに比べて、集塵孔94~96に流れ込む空気の流量は大きくなり、流速は低下する。
【0034】
上記より、集塵口61における流量が大きい方が回収しやすい切削屑を回収する場合には、絞りカバー91を集塵口61に装着しないことが好ましい。逆に、集塵口61における流速が速い方が回収しやすい切削屑を回収する場合には、絞りカバー91を集塵口61に装着することが好ましい。本願発明者の知見によれば、被切削物1の材料がジルコニアや石膏といった材料の場合には、小さく軽量の切削屑が生成されやすい。本願発明者のさらなる知見によれば、小さく軽量の切削屑を回収する場合には、集塵口61における流量が大きい方が回収効率が高く、集塵口61における流速はあまり回収効率に寄与しない。一方で、被切削物1の材料が例えばワックス、歯科用レジン、ABS、PMMAといった材料の場合には、サイズおよび重量の大きい切削屑が生成されやすい。本願発明者のさらなる知見によれば、サイズおよび重量の大きい切削屑を回収する場合には、集塵口61における流速を速くしなければ回収効率が高くならない。本願発明者の知見によれば、これは、空気の流速を速めて切削屑を移動させる力を大きくしなければ、サイズおよび重量の大きい切削屑は動きにくいためである。カバー選定テーブルT1は、かかる知見に基づいて設定されている。
【0035】
[切削加工の手順]
以下では、本実施形態に係る切削加工機10を使用した切削加工の手順の一例について説明する。本実施形態に係る切削加工機10を使用した被切削物1の切削加工においては、まず、制御装置70の入力部72がコンピュータの表示装置等に表示させる入力画面を操作して、ユーザーが被切削物1の切削条件、ここでは、被切削物1の材料を入力する。被切削物1の材料は、好ましくは、予め定められた材料から選択することにより入力されるとよい。なお、前述したように、この入力作業は、切削データ等から取得した情報に基づいて自動で行われてもよい。
【0036】
被切削物1の切削条件が入力されると、切削加工機10は、入力された切削条件と、記憶されたカバー選定テーブルT1とに基づいて、絞りカバー91を集塵口61に装着するかどうかを指示する。ユーザーは、その指示に基づいて、絞りカバー91を集塵口61に装着するか、または装着しない。その後、被切削物1を装着したアダプタ5を収容室22にセットし(セット済みの場合は省略)、切削加工を開始する。その際、集塵機80を駆動させる。これにより、切削屑の大きさに対応した好適な流量および流速で、空気が集塵口61に流れ込む。その結果、切削屑が効率的に集塵機80に回収される。
【0037】
[第1実施形態の作用効果]
以下、本実施形態の作用効果について説明する。本実施形態に係る切削加工機10は、被切削物1を切削する切削装置30と、切削装置30が収容された加工室21と、加工室21に開口し集塵機80に接続された集塵口61と、集塵口61の開口面積を変更可能に構成された絞り機構90と、を備えている。かかる構成によれば、絞り機構90によって集塵口61の開口面積を調整することにより、切削屑の大きさに応じた好適な集塵条件を得ることができる。例えば、切削屑が細かい場合(上記した例では、被切削物1がジルコニア、石膏といった材料の場合)には、集塵口61の開口面積を絞り機構90によって大きくする(本実施形態の場合には、絞りカバー91を非装着状態とする)ことにより、集塵口61における風量を大きくすることができる。これにより、細かい切削屑を効率良く集塵することができる。また、例えば、切削屑が大きい場合(上記した例では、被切削物1がワックス、歯科用レジン、ABS、PMMAといった材料の場合)には、集塵口61の開口面積を絞り機構90によって小さくする(本実施形態の場合には、絞りカバー91を装着する)ことにより、集塵口61における風速を大きくすることができる。これにより、大きい切削屑を効率良く集塵することができる。よって、切削加工機10によれば、切削屑の大きさにかかわらず高い集塵効率を実現することができる。
【0038】
本実施形態では、絞り機構90は、加工室21に着脱可能に構成され、集塵口61を覆うように加工室21に装着される絞りカバー91を備えている。絞りカバー91は、集塵口61よりも総開口面積の小さい1つまたは複数の集塵孔、ここでは複数の集塵孔94~96を有している。かかる構成によれば、絞りカバー91を着脱するという簡単な作業により、集塵口61の開口面積を変更することができる。また、かかる構成によれば、絞り機構90の構成を簡易なものとでき、絞り機構90に係るコストを低減できる。
【0039】
本実施形態では、集塵口61は、加工室21の底壁21Dと後壁21Rrとの接続部に設けられており、絞りカバー91は、装着された状態では、加工室21の底壁21Dおよび後壁21Rrに当接する。絞りカバー91は、加工室21に装着された状態で、加工室21の底壁21Dおよび後壁21Rrとともに集塵口61を覆うように構成されている。加工室21の底壁21Dは、切削装置30よりも下方に設けられている。そのため、加工室21の底壁21Dには、被切削物1の切削屑が降り積もる。さらに、加工室21の底壁21Dには、傾斜壁21Fの傾斜と空気の流れW(
図4参照)とにより、傾斜壁21Fに降り積もった被切削物1の切削屑などが誘導される。本実施形態では、集塵口61が加工室21の底壁21Dと後壁21Rrとの接続部に設けられているため、加工室21の底壁21Dに集まった被切削物1の切削屑を効率良く回収することができる。また、集塵口61を覆うのに、加工室21の底壁21Dおよび後壁21Rrを利用するため、絞りカバー91の構成を簡易にできる。ここでは、絞りカバー91の背面および底部が省略されている。
【0040】
さらに本実施形態では、集塵孔94~96のうち第1集塵孔94および第2集塵孔95は、それぞれ、絞りカバー91の辺のうち加工室21の底壁21Dに接する辺(ここでは、それぞれ、側板92の下辺92aおよび前板93の下辺93a)と交差するように開口している。かかる構成によれば、絞りカバー91を装着した状態において、加工室21の底壁21Dに集まる被切削物1の切削屑をより効率良く回収することができる。本実施形態では、第2集塵孔95は、前方、すなわち、前後方向に関して傾斜壁21Fの方を向いており、切削屑の多くを吸引できる。一対の第1集塵孔94は、第2集塵孔95よりも後方、すなわち、前後方向に関して第2集塵孔95よりも傾斜壁21Fから離れて設けられており、かつ、左右方向に開口している。よって、加工室21の底壁21Dに集められたものの第2集塵孔95に吸い込まれなかった切削屑の多くを吸引できる。第3集塵孔96は、絞りカバー91の辺のうちの底壁21Dに接する辺に交差していないが、上方から集塵口61の方に降ってくる切削屑を吸引することができる。
【0041】
絞りカバー91を装着しない場合、加工室21の底壁21Dに集まった切削屑は、集塵口61の3つのスリット61a、61bおよび61cから吸引される。ここでは、集塵口61の開口面積(スリット61a、61bおよび61cの合計の開口面積)は、接続部60の断面積よりも大きい。これにより、風力の損失が発生して集塵口61における風速が遅くなることが防止されている。
【0042】
なお、集塵口61は、加工室21の底壁21Dと、底壁21Dおよび後壁21Rr以外の加工室21の壁部と、の接続部に設けられていてもよい。集塵口61は、加工室21の底壁21Dと、例えば左壁21Lとの接続部に設けられていてもよい。本実施形態では、傾斜壁21Fが後方に向かって下降傾斜している。そのため、加工室21の底壁21Dと後壁21Rrとの接続部に集塵口61が設けられることが好ましい。しかしながら、切削加工機10は加工室21に傾斜壁21Fを備えなくてもよく、傾斜壁を備える場合でも、傾斜壁の傾斜方向は限定されない。従って、例えば傾斜壁の傾斜方向が異なる他の構成の場合には、集塵口61の好適な位置は、加工室21の底壁21Dと、底壁21Dおよび後壁21Rr以外の加工室21の壁部と、の接続部であってもよい。また、例えば、加工室21の底壁21Dがすり鉢状に形成されているような場合には、集塵口61の好適な位置は、底壁21Dの最下部等であり得る。
【0043】
本実施形態では、切削加工機10の制御装置70は、被切削物1の材質を含む切削条件と集塵口61の開口面積とを関連付けた予め定められたカバー選定テーブルT1を記憶する記憶部71と、切削条件が入力される入力部72と、入力部72に入力された切削条件と記憶部71に記憶されたカバー選定テーブルT1とに基づいて絞りカバー91を装着するかどうかを指示する指示部73と、を備えている。かかる構成によれば、ユーザーが判断しなくても、切削加工機10が絞りカバー91を装着するかどうかを判断する。そのため、切削加工機10が絞りカバー91を装着するかどうかの判断が適切に行われる。また、判断のために時間および労力を費やす必要がない。
【0044】
なお、切削加工機10は、絞りカバー91を装着するかどうかを指示するように構成されていなくてもよい。その場合には、絞りカバー91を装着するかどうかは、ユーザーが判断してもよい。
【0045】
絞りカバー91の形状は、上記したようなものには限定されない。絞りカバー91は、例えば、1つまたは複数の集塵孔が形成された平板状の部材であってもよい。上記した実施形態では、集塵口61における空気の流速を速めたい場合にのみ集塵口61に絞りカバー91を装着したが、切削加工機10は、複数種類の絞りカバー91のうちのいずれかを集塵口61に必ず装着するように構成されていてもよい。
【0046】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る切削加工機は、絞り機構が制御され、被切削物の切削条件に応じて集塵口の開口面積が自動で変更される。以下の第2実施形態の説明、および、さらに他の実施形態の説明においては、第1実施形態と共通の機能を奏する部材には、第1実施形態と共通の符号を用いるものとする。また、第1実施形態の説明と重複する説明は、省略または簡略化する。
【0047】
図10は、第2実施形態に係る切削加工機10の加工室21を模式的に示す一部破断斜視図である。
図10に示すように、本実施形態では、加工室21の底部は、可動底壁101と固定底壁102とによって形成されている。可動底壁101と固定底壁102との間には隙間が設けられている。本実施形態では、この隙間が集塵口61を構成している。可動底壁101は回動可能に構成されている。可動底壁101が回動することにより、集塵口61(可動底壁101と固定底壁102との間の隙間)の開口面積が変更される。本実施形態では、このように、絞り機構90は、集塵口61の縁部の一部を構成するとともに集塵口61を拡大または縮小するように移動する可動底壁101を備えている。ここでは、可動底壁101が構成する集塵口61の縁部は、集塵口61の前縁である。
【0048】
図10に示すように、可動底壁101は加工室21の前方側に配置され、固定底壁102は可動底壁101よりも後方に配置されている。集塵口61は、可動底壁101と固定底壁102との間で左右方向に延びている。固定底壁102は、集塵口61の方に向かって(ここでは前方に向かって)下降傾斜している。可動底壁101も集塵口61の方に向かって(ここでは後方に向かって)下降傾斜しているが、その傾斜角は可動底壁101の回動によって変化する。
【0049】
絞り機構90は、可動底壁101を上下方向に回動可能に支持する回動軸103と、可動底壁101を回動軸103周りに回動させる駆動部104(
図11参照)と、を備えている。
図10に示すように、回動軸103は、左右方向に延びている。回動軸103は、可動底壁101の前端部を支持している。駆動部104は、例えば、回転位置を制御可能なステッピングモータやサーボモータである。ただし、駆動部104は、電動モータには限定されず、例えばエア駆動のアクチュエータであってもよい。駆動部104は、回転位置を制御不能なアクチュエータであってもよく、その場合、絞り機構90は、可動底壁101の位置を検出するセンサを備えていてもよい。
【0050】
図11は、本実施形態に係る切削加工機10のブロック図である。本実施形態では、制御装置70は、駆動部104を制御する。
図11に示すように、本実施形態に係る制御装置70は、記憶部71と、入力部72と、決定部74と、駆動制御部75と、を備えている。記憶部71は、被切削物1の材質を含む切削条件と集塵口61の開口面積とを関連付けた予め定められたテーブルT2(以下、開口度選定テーブルT2、
図12参照)を記憶している。入力部72には、切削条件が入力される。入力部72は、第1実施形態と同様であってもよい。決定部74は、入力部72に入力された切削条件と記憶部71に記憶された開口度選定テーブルT2とに基づいて集塵口61の開口面積を決定する。駆動制御部75は、駆動部104を制御して、集塵口61の開口面積を決定部74によって決定された開口面積とする。本実施形態では、「集塵口61の開口面積を決定する」、「集塵口61の開口面積を所定の開口面積とする」とは、可動底壁101の回動位置を決定すること、および、可動底壁101の回動位置を決定された回動位置に制御することを意味する。
【0051】
図12は、開口度選定テーブルT2の一例を示す図である。
図12に示すように、ここに例示する開口度選定テーブルT2によれば、切削条件には、被切削物1の材質、切削ツール6の積算使用時間、および切削時の切込み量が含まれている。また、
図12に示すように、開口度選定テーブルT2では、集塵口61の開口度は、「大」「中」「小」の3段階に分けられている。
【0052】
図13は、可動底壁101の回動位置を示す加工室21の模式的な縦断面図である。
図13において、実線で示す可動底壁101は、開口度「小」のときの可動底壁101を示している。この可動底壁101の位置を、以下では適宜、第1回動位置R1と呼ぶこととする。
図13において、2点鎖線で示す可動底壁101のうちの1つは、開口度「中」のときの可動底壁101を示している。以下では適宜、この可動底壁101の位置を第2回動位置R2と呼ぶこととする。
図13において、2点鎖線で示す可動底壁101のうちのもう1つは、開口度「大」のときの可動底壁101を示している。以下では適宜、この可動底壁101の位置を第3回動位置R3と呼ぶこととする。
【0053】
図13に示すように、可動底壁101が第1回動位置R1にあるとき(開口度「小」のとき)、集塵口61の開口面積は他の回動位置よりも小さい。そのため、開口度「小」が選択された場合の集塵口61における空気の流速は、他の開口度の場合よりも速い。また、開口度「小」が選択された場合の集塵口61における空気の流量は、他の開口度の場合よりも小さい。
【0054】
可動底壁101が第3回動位置R3にあるとき(開口度「大」のとき)、集塵口61の開口面積は他の回動位置よりも大きい。そのため、開口度「大」が選択された場合の集塵口61における空気の流量は、他の開口度の場合よりも大きい。また、開口度「大」が選択された場合の集塵口61における空気の流速は、他の開口度の場合よりも遅い。可動底壁101が第2回動位置R2にあるとき(開口度「中」のとき)の集塵口61の開口面積は、第1回動位置R1の場合よりも大きく、第3回動位置R3の場合よりも小さい。そのため、開口度「中」が選択された場合の集塵口61における空気の流量は、開口度「小」の場合よりも大きく、開口度「大」の場合よりも小さい。また、開口度「中」が選択された場合の集塵口61における空気の流速は、開口度「大」の場合よりも速く、開口度「小」の場合よりも遅い。
【0055】
図12に示すように、ここに例示する開口度選定テーブルT2によれば、被切削物1の材質がワックスの場合には、他の切削条件に関わらず、集塵口61の開口度は「小」が選定される。ワックスは、他の切削条件によらず切削屑が大きくなりやすいため、被切削物1の材質がワックスの場合には、集塵口61の開口度を「小」として集塵口61における空気の流速を速くしている。
【0056】
図12に示すように、開口度選定テーブルT2によれば、被切削物1の材質がジルコニアまたは石膏の場合には、他の切削条件に関わらず、集塵口61の開口度は「大」が選定される。ジルコニアおよび石膏は、他の切削条件によらず切削屑が小さくなりやすいため、被切削物1の材質がジルコニアまたは石膏の場合には、集塵口61の開口度を「大」として集塵口61における空気の流量を大きくしている。
【0057】
図12に示すように、開口度選定テーブルT2によれば、被切削物1の材質がPMMAの場合には、他の切削条件に関わらず、集塵口61の開口度は「中」が選定される。また、開口度選定テーブルT2によれば、被切削物1の材質が歯科用レジンまたはABSの場合には、他の切削条件に応じて、集塵口61の開口度として「小」または「中」が選定される。歯科用レジンおよびABSは、切削ツール6の使用時間が長くなって切削ツール6の切れ味が低下すること、または、切込み量を大きくすることによって、切削屑が大きくなりやすい。そこで、被切削物1の材質が歯科用レジンおよびABSの場合には、切削ツール6の使用時間が所定の時間よりも長いとき、または、切込み量が所定量よりも大きいときに、集塵口61の開口度を「小」として集塵口61における空気の流速を速くしている。
【0058】
[第2実施形態の作用効果]
このように、本実施形態によれば、絞り機構90は、集塵口61の縁部の一部を構成するとともに集塵口61を拡大または縮小するように移動する可動部材として、可動底壁101を備えている。かかる構成によれば、可動部材としての可動底壁101を移動することにより、集塵口61の開口面積を容易に変更することができる。なお、可動部材の移動方式は、回動方式には限定されない。例えば、可動部材の移動方式は、スライド方式(例えば、開口度を制御可能なシャッタ方式)等であってもよい。
【0059】
本実施形態では、絞り機構90は、可動底壁101を移動させる駆動部104を備えている。かかる構成によれば、ユーザーの手によって可動底壁101を移動させなくても、駆動部104の駆動力で可動底壁101を移動させることができる。さらに本実施形態では、制御装置70は、入力部72に入力された切削条件と開口度選定テーブルT2とに基づいて集塵口61の開口面積を決定する決定部74と、駆動部104を制御して集塵口61の開口面積を決定された開口面積とする駆動制御部75と、を備えている。これにより、被切削物1の切削条件に対応して、集塵口61の開口面積を自動で好適な開口面積とすることができる。
【0060】
ただし、可動底壁101等の可動部材は、ユーザーの手で移動されてもよい。絞り機構90が可動部材を移動させる駆動部104を備えている場合であっても、集塵口61の開口度はユーザーが判断してもよい。その場合には、切削加工機10は、例えば、集塵口61の開口度を設定する操作画面などを備えていてもよく、駆動部104は、操作画面で設定された開口度を実現するように制御されてもよい。
【0061】
[他の実施形態]
以上、いくつかの好適な実施形態に係る切削加工機について説明した。しかし、ここに開示する技術は、上記した実施形態以外の他の態様により実施することもできる。例えば、上記した実施形態では、切削加工機10は、密閉型の加工室21を有していたが、ここに開示する技術は、密閉型の加工室を有する切削加工機を使用しない切削加工にも適用できる。例えば、そのような1つの方法は、被切削物を切削することと、空気を吸引する集塵口を備えた集塵機によって被切削物の切削屑を回収することと、を含み、切削屑の大きさまたは形状に応じて集塵口の開口面積を変更する。例えば細長い形状の切削屑は、風速が速くないと回収されにくいため、切削屑の形状によっても集塵口の開口面積が変更されてもよい。被切削物の切削の方法は限定されず、例えば手作業ツールを使用して行われてもよく、開放空間で行われてもよい。集塵口の開口面積の変更方法も特に限定されない。集塵口の開口面積の変更は、例えば、ホース状の集塵管の先端部に設けられた集塵口に、開口面積を変更するアタッチメントを着脱することにより行われてもよい。上記方法において、集塵口の開口面積は、被切削物の材料に応じて変更されてもよい。
【0062】
その他、特に言及されない限りにおいて、実施形態は本発明を限定しない。例えば、切削加工機は、歯科用成形品を作製するデンタル用の切削加工機でなくてもよい。被切削物は、アダプタを介して切削加工機に保持されなくてもよく、切削加工機によって直接保持されてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 被切削物
10 切削加工機
21 加工室
21D 底壁(底面)
21Rr 後壁(他の壁面)
30 切削装置
61 集塵口
70 制御装置
71 記憶部
72 入力部
73 指示部
74 決定部
75 駆動制御部
80 集塵機
90 絞り機構
91 絞りカバー(カバー部材)
94 第1集塵孔
95 第2集塵孔
101 可動底壁(可動部材)
104 駆動部
T1 カバー選定テーブル(テーブル)
T2 開口度選定テーブル(テーブル)