(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167827
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ジルコニア連続繊維の前駆体製造方法およびジルコニア連続繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/08 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
D01F9/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079316
(22)【出願日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和3年10月刊行、公益社団法人日本ガスタービン学会発行、第49回日本ガスタービン学会定期講演会 講演論文集、A-18 (2)令和3年10月13日~10月14日開催、公益社団法人日本ガスタービン学会主催、第49回日本ガスタービン学会定期講演会、https://www.gtsj.or.jp/html_calender/teiki49-hakata.html
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】鉄井 利光
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 良雄
(72)【発明者】
【氏名】秦 青
【テーマコード(参考)】
4L037
【Fターム(参考)】
4L037AT05
4L037CS17
4L037CS29
4L037CS31
4L037FA01
4L037PA41
4L037PC01
4L037PC05
4L037PC08
4L037PC09
4L037PC11
4L037PS02
4L037UA03
4L037UA06
4L037UA09
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れたジルコニア連続繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を生成する第1の金属アルコキシド、並びに結晶成長を抑制する酸化物成分を生成する第二の金属アルコキシドの共存下で、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解縮合を行ない、連続紡糸性に優れた前駆体を形成する第一工程と、これを乾式紡糸法で高速で連続紡糸する第二工程と、制御された水蒸気雰囲気で不融化する第三工程と、大気中または必要に応じて水蒸気を含有する非酸化性雰囲気で一次焼成して高強度を有する繊維に変換する第四工程と、さらに高速昇温し結晶成長させた繊維に変換する第五工程とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を生成する第1の金属アルコキシド、並びに結晶成長を抑制する酸化物成分を生成する第二の金属アルコキシドの共存下で、ジルコニウムアルコキシドとの部分共加水分解縮合を行ない、連続紡糸性に優れた前駆体を形成する、
ジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項2】
前記部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を生成する第1の金属アルコキシド、並びに結晶成長を抑制する酸化物成分を生成する第二の金属アルコキシドの共存下で、ジルコニウムアルコキシドとの部分共加水分解縮合を行ない、連続紡糸性に優れた前駆体を形成し、
さらに前記前駆体にSiCを生成するポリカルボシランを添加して、連続紡糸性に優れた前駆体を形成する、
請求項1に記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項3】
前記前駆体の形成工程において、前記結晶成長を抑制する酸化物成分が、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、酸化ホウ素(B2O3)からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項4】
前記前駆体の形成工程において、前記結晶成長を抑制する酸化物成分を混合する量は、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、酸化ホウ素(B2O3)からなる群より選ばれる1種以上については、ZrO2に換算して0.1モル%以上20モル%以下であることを特徴とする請求項3に記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項5】
前記前駆体の形成工程において、前記SiCを生成するポリカルボシランを混合する量は、SiCに換算して前駆体中に含まれるZrO2に対して0.1モル%以上20モル%以下であることを特徴とする請求項2乃至4の何れかに記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項6】
前記ポリカルボシランの添加比率は、前記第一の金属アルコキシド、並びに前記第二の金属アルコキシドの共存下で部分加水分解して得られるジルコニア繊維前駆体に対して、含有されるZrに対するポリカルボシラン中に含有されるSi原子数比が0.001以上0.1以下である請求項2乃至5の何れかに記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項7】
前記ポリカルボシランの添加比率は、前記第一の金属アルコキシドを部分加水分解して得られるジルコニア繊維前駆体に対して、含有されるZrに対するポリカルボシラン中に含有されるSi原子数比が0.001以上0.1以下である請求項6に記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項8】
部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を生成する第1の金属アルコキシドの共存下で、ジルコニウムアルコキシドとの部分共加水分解縮合を行ない、連続紡糸性に優れた前駆体を形成し、
さらに前記前駆体にSiCを生成するポリカルボシランを添加して、連続紡糸性に優れた前駆体を形成する、
ジルコニウム連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項9】
前記前駆体の形成工程において、前記SiCを生成するポリカルボシランを混合する量は、SiCに換算して前駆体中に含まれるZrO2に対して0.1モル%以上20モル%以下であることを特徴とする請求項8に記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項10】
前記前駆体の形成工程において、前記部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分がイットリア(Y2O3)、セリア(Ce2O3)、エルビア(Er2O3)からなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項11】
前記前駆体の形成工程において、前記部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を混合する量は、ZrO2に対して2モル%以上12モル%以下であることを特徴とする請求項10に記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
【請求項12】
前記前駆体の形成工程で形成される前駆体は、次式で定義される紡糸性値が、
SiC繊維前駆体のポリカルボシランの値の2倍以上である請求項1乃至11の何れか1項に記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法。
紡糸性値=巻き取りドラム回転数(rpm)×連続巻き取り時間(min)÷押出し圧力(MPa)
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか1項に記載のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法で形成された前駆体を準備する第一工程と、
前記前駆体を乾式紡糸法で高速で連続紡糸する第二工程と、
制御された水蒸気雰囲気で不融化する第三工程と、
大気中、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で一次焼成する第四工程と、
さらに高温で、大気中、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で二次焼成する結晶化の進んだジルコニア系繊維に変換する第五工程と、
を備える高耐熱性ジルコニア連続繊維の製造方法。
【請求項14】
前記第二工程において、前駆体の乾式紡糸のための溶液の溶媒をキシレンとし、濃度が75~85重量%であることを特徴とする請求項13に記載のジルコニア連続繊維の製造方法。
【請求項15】
前記第三工程において、前駆体繊維の不融化を飽和水蒸気雰囲気で、5~100℃/時で、95℃から200℃までの所定時間まで昇温し、0.5時間以上保持して行うことを特徴とする請求項13に記載のジルコニア連続繊維の製造方法。
【請求項16】
前記第四工程において、不融化した前駆体繊維を、大気中、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で、10~200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、高強度低弾性率繊維に変換することを特徴とする請求項13に記載のジルコニア連続繊維の製造方法。
【請求項17】
前記第四工程で得られる繊維径が6μm以上20μm以下である請求項13に記載のジルコニア系連続繊維の製造方法。
【請求項18】
前記第五工程において、第四工程で得られた繊維を大気中、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で昇温速度500~1000℃/時で1000~1600℃まで加熱し、結晶化の進んだ高強度高弾性率ジルコニア系繊維に変換することを特徴とする請求項13に記載のジルコニア連続繊維の製造方法。
【請求項19】
前記第五工程で得られる繊維径が6μm以上20μm以下である請求項18に記載のジルコニア系連続繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は連続繊維の前駆体製造方法に関する。
また、本発明はジルコニア連続繊維の原料および不融化工程、焼成工程で繊維内での結晶成長、および軟化を抑制する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアは室温では単斜晶系であり、温度を上げていくと正方晶、及び立方晶へと結晶構造が相転移する。この相転移は体積変化を伴うため、焼結体は昇降温を繰り返すことによって破壊に至る。特に単斜晶から正方晶への相転移では、約4%の体積収縮が見られる。
【0003】
ジルコニアに酸化カルシウムや酸化マグネシウム、または酸化イットリウムなどの希土類酸化物を固溶させると、構造中に酸素空孔が形成され、立方晶および正方晶が室温でも安定、または準安定となり、昇降温による破壊を抑制することができる。このような安定化剤と呼ばれる酸化物を添加したジルコニアは、安定化ジルコニア、または部分安定化ジルコニアと呼ばれる。
【0004】
安定化ジルコニアは、酸化物無添加ジルコニアに比べて強度、及び靭性などの機械的特性に優れる。これは、破壊の原因となる亀裂の伝播を正方晶から単斜晶への相変態によって阻害し、亀裂先端の応力集中を緩和するからである。この特異なメカニズムを「応力誘起相変態強化機構」と言い、最大で正方晶の約40%が単斜晶に変態する。また、変態を完全に抑制した完全安定化ジルコニアよりも、添加剤の量を減らしてわずかに変態出来るようにした部分安定化ジルコニアの方が機械的特性に優れることが知られている。
さらに、セラミック繊維は、電気絶縁性、低熱伝導性、高弾性などの性質を活かして、電気絶縁材、断熱材、フィラー、フィルターなど様々な分野で用いられる有用な材料であり、ジルコニアについても同様である。
【0005】
ジルコニア繊維は、種々の方法により製造することができ、例えば、ジルコニウム塩の水溶液を出発原料としてこれを繊維化し、これを高温で焼成して製造することができる。
具体的には、ジルコニウム塩の水溶液にポリエチレンオキサイドやポリビニルアルコ-ルなどの水溶性有機高分子を加えて粘稠液とし、ノズルより吹き出しこれを焼成する無機塩法(特許文献1)、ZrO2微粉及び結晶安定化剤にZrOCl2をバインダ-として加えて粘稠なスラリ-としこれを乾式紡糸し焼成するスラリ-法(特許文献2)、ジルコニウム含有化合物と部分安定化剤、焼結助剤及び紡糸助剤から調製した水溶液を、紡糸良好な紡糸原液として、耐熱性及び機械的強度が優れている工業的なジルコニア連続繊維の製造法(特許文献3)、ジルコニウムの有機酸塩を溶融して紡糸し、焼成する方法(非特許文献1)などがある。また、従来より、金属アルコキシドを原料としたゾル-ゲル法で繊維化できることは良く知られている。
【0006】
このように、ジルコニアを繊維状にすることは可能であるが、これらの繊維は、多結晶体であるので、高温で粒成長による劣化を起こしやすく、また、1300℃を超える高温では繊維同士の融着が起きるなどの理由により、機械的強度などの特性が単結晶繊維に比べて劣るという課題がある。
そこで、従来、セラミック材料の単結晶繊維を作る方法も数多く提案されてきた。ジルコニアに関しては、水熱合成法、レーザー加熱法、気相法で単結晶繊維を作ることができる。また、従来の繊維よりも細い繊維を作製し高強度化する方法としてエレクトロスピニング法が知られている。エレクトロスピニング法は、繊維形成性の溶液に高電圧を印加させることにより、溶液を電極に向かって噴出させ、噴出によって溶媒が蒸発し、簡便に極細の繊維構造体を得ることのできる方法であり、平均繊維径が50~1000nmであり、さらに繊維長が100μm以上であるジルコニア繊維が得られている(特許文献4)。
【0007】
しかしながら、これらは極短繊維であり、連続繊維強化セラミックスの強化繊維としては使用できないという課題がある。
従来のジルコニア連続繊維は、特に、安定化ジルコニアは、溶融法、すなわち溶融させて引き伸ばし繊維状にすることができたが、その融点が2700℃と高温であるため、非常に製造原価が高くなるという課題があった。また、上述の無機塩法やゾル-ゲル法による安定化ジルコニア繊維の製造方法では、得られる繊維が多結晶体であるので、高温で粒成長による劣化を起こしやすく、また、機械的強度なども充分ではないという課題があった。
【0008】
特許文献3に開示の方法はこれら従来法の中では、1300℃程度まで比較的高強度を示す連続繊維を得る方法として優れているが、これ以上の温度では繊維同士の融着が起こり、さらに結晶成長により強度の低下が著しいという欠点があり、高耐熱性酸化物系複合材料用強化繊維としては用いることができなかった。
そこで、本発明者らは、従来の多結晶体ジルコニア繊維の高温での粒成長による劣化を防止し、また、機械的強度などの特性を改良しハンドリング性に優れた、長繊維強化複合材料用繊維の開発を目的として、ジルコニア繊維強化ジルコニア複合材料に使用することができる、安定化ジルコニア連続繊維または部分安定化ジルコニア連続繊維及びその製造方法を提供した。その結果、ジルコニア連続繊維中に炭素を少量含有させることにより繊維内の結晶成長による繊維の多孔性を抑制し、機械的強度の優れた繊維を得て、さらに必要により、その後の急速昇温による、より高温での焼成による炭素含有量の少ない比較的緻密な高結晶化ジルコニア繊維を得ている(特許文献5)。
しかしながら、これらの繊維は繊維径が10~50μmで複合材料用に必要な織布化にとっては10μm程度が好ましく、したがって5~20μm程度で紡糸できることが必要であり、さらに、1000℃を超える焼成では強度の低下が著しく、特に弾性率の上昇によりハンドリングできないという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭55-36726号公報
【特許文献2】特開昭60-246817号公報
【特許文献3】特開平4-91227号公報
【特許文献4】特開2006-336121号公報
【特許文献5】特開2015-94055号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.Am.Ceram.Soc.,70(1987)C187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の複合材料用ジルコニア連続繊維は多結晶体であるので、高温で粒成長による劣化を起こしやすく、さらに、耐熱性の繊維とするための1300℃を超える高温焼成では繊維間の融着が起こり、機械的強度などの特性が低下してしまう問題があり、長繊維強化複合材料用繊維としては使用できなかった。
そこで、本発明の目的は、上述の問題点を解消し、ジルコニア繊維強化ジルコニア複合材料に使用することができる、高温でも結晶成長を抑制し、高温でも高強度な、ハンドリング性に優れた安定化ジルコニア連続繊維または部分安定化ジルコニア連続繊維の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、ハンドリング性に優れた安定化ジルコニア連続繊維または部分安定化ジルコニア連続繊維の製造に用いて好適な、ジルコニア連続繊維の前駆体製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、アルコキシドを主原料にした、アルカリなどの不純物が極めて少なく、炭素量を制御し、さらに内包させるY、Al、Siなどの添加元素量の制御による結晶子サイズが20nm程度以下に制御した、連続ジルコニア繊維の製造法を鋭意検討した結果、本発明に到った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0013】
[1]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法は、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解縮合を、部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を生成する第一の金属アルコキシド、並びに結晶成長を抑制する酸化物成分を生成する第二の金属アルコキシドの共存下で、ジルコニウムアルコキシドとの部分共加水分解縮合を行ない、連続紡糸性に優れた前駆体を形成するものである。
[2]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[1]において、好ましくは、前記部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を生成する第1の金属アルコキシド、並びに結晶成長を抑制する酸化物成分を生成する第二の金属アルコキシドの共存下で、ジルコニウムアルコキシドとの部分共加水分解縮合を行ない、連続紡糸性に優れた前駆体を形成し、さらに前記前駆体にSiCを生成するポリカルボシランを添加して、連続紡糸性に優れた前駆体を形成するとよい。
【0014】
[3]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[1]又は[2]において、好ましくは、前記結晶成長を抑制する酸化物成分が、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、酸化ホウ素(B2O3)からなる群より選ばれる1種以上であるとよい。
[4]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[3]において、好ましくは、前記結晶成長を抑制する酸化物成分を混合する量は、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、酸化ホウ素(B2O3)からなる群より選ばれる1種以上については、ZrO2に対して0.1モル%以上20モル%以下であるとよい。
[5]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[2]乃至[4]において、好ましくは、前記結晶成長を抑制するSiCを混合する量はZrO2に対して0.1モル%以上20モル%以下であるとよい。
[6]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[2]乃至[5]において、好ましくは、前記ポリカルボシランの添加比率は、前記第一の金属アルコキシド、並びに前記第二の金属アルコキシドの共存下で部分加水分解して得られるジルコニア繊維前駆体に対して、含有されるZrに対するポリカルボシラン中に含有されるSi原子数比が0.001以上0.1以下であるとよい。
[7]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[6]において、好ましくは、前記ポリカルボシランの添加比率は、前記第一の金属アルコキシドを部分加水分解して得られるジルコニア繊維前駆体に対して、含有されるZrに対するポリカルボシラン中に含有されるSi原子数比が0.001以上0.1以下であるとよい。
【0015】
[8]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法は、前記部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を生成する第1の金属アルコキシドの共存下で、ジルコニウムアルコキシドとの部分共加水分解縮合を行ない、連続紡糸性に優れた前駆体を形成し、さらに前記前駆体にSiCを生成するポリカルボシランを添加して、連続紡糸性に優れた前駆体を形成するものである。
[9]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[8]において、好ましくは、前記結晶成長を抑制するSiCを混合する量はZrO2に対して0.1モル%以上20モル%以下であるとよい。
【0016】
[10]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[1]乃至[9]において、好ましくは、前記部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分がイットリア(Y2O3)、セリア(Ce2O3)、エルビア(Er2O3)からなる群より選ばれる1種以上であるとよい。
[11]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[10]において、好ましくは、前記部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を混合する量は、ZrO2に対して2モル%以上12モル%以下であるとよい。
[12]本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[1]~[11]において、好ましくは、前記前駆体は、次式で定義される紡糸性値が、SiC繊維前駆体のポリカルボシランの値の2倍以上であるとよい。
紡糸性値=巻き取りドラム回転数(rpm)×連続巻き取り時間(min)÷押出し圧力(MPa)
【0017】
[13]本発明のジルコニア連続繊維の製造方法は、ジルコニア連続繊維の前駆体製造方法[1]~[12]の何れかで製造された前駆体を準備する第一工程と、これを乾式紡糸法で連続紡糸する第二工程と、制御された水蒸気雰囲気で不融化する第三工程と、制御雰囲気下で低温焼成して高強度繊維に変換する第四工程と、さらに高温で焼成し、高温での強度の低下率の小さいジルコニア系繊維に変換する第五工程とを備えるものである。ここで、高温で焼成とは、1000~1600℃の温度範囲で焼成することをいう。
【0018】
[14]本発明のジルコニア連続繊維の製造方法[13]において、好ましくは、上記第二工程において、第一工程で得られた前駆体を乾式紡糸法で高速で連続紡糸する。紡糸溶液の溶媒はキシレンが好ましく、一般的には濃度は75~85重量%であり、紡糸温度は室温でよいが、紡糸溶液の粘度により5~50℃程度で行うとよい。
[15]本発明のジルコニア連続繊維の製造方法[13]において、好ましくは、上記第三工程において、前駆体繊維の不融化を、室温から200℃までの水蒸気を含む雰囲気で所定時間保持して行うことができるが、95℃以上200℃までの飽和水蒸気雰囲気で0.5時間以上保持して行うとよい。
[16]本発明のジルコニア連続繊維の製造方法[13]において、好ましくは、上記第四工程において、不融化した前駆体繊維を、大気中、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で、10~200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、所定時間保持して低温焼成し、高強度繊維に変換するとよい。室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中低温焼成は、500℃以上では不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
[17]本発明のジルコニア連続繊維の製造方法[16]において、好ましくは、上記第四工程で得られる繊維径が6μm以上20μm以下であるとよい。
[18]本発明のジルコニア連続繊維の製造方法[13]において、好ましくは、上記第五工程において、第四工程で得られたゲル繊維を大気中、窒素ガス、アルゴンガスなどの雰囲気で、500~20000℃/時の昇温速度で1000~1600℃まで加熱することにより二次焼成し、結晶化を促進させ焼結を進め、安定化ジルコニア繊維または部分安定化ジルコニア繊維を得るとよい。
[19]本発明のジルコニア連続繊維の製造方法[18]において、好ましくは、上記第五工程で得られる繊維径が6μm以上20μm以下であるとよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の酸化ジルコニウム連続繊維の製造方法によれば、1000℃を超える焼成で、すなわち高温でも高強度な、ジルコニア連続繊維を得ることができる。
また、本発明のジルコニア連続繊維の製造方法明によればジルコニア連続繊維中に炭素、さらに結晶成長を抑制する金属を少量含有させることにより結晶化による繊維内の結晶粒界での空孔生成を抑制し、機械的強度の優れた繊維を獲ることができる。さらに、本製造方法の発明の第五工程を付加することで、急速昇温による、より高温での焼成工程で緻密な高結晶化ジルコニア繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】5YSZ(Y/Zr=0.10)系前駆体の1500および1600℃での熱分解後の結晶子サイズを示す図である。
【
図2】Zr-Y(0.1)・Al(0.1)・Si(0.01)+PCS(0.1)の乾式紡糸繊維の、不融化温度と、窒素ガス中、1000℃で焼成して得られたジルコニア繊維の引張強度(〇)と結晶子サイズ(●)の関係を示す図である。
【
図3】100~200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持して一次焼成したZr-Y(0.1)・Al(0.1)・Si(0.1)-061を前駆体とした繊維の引張強度の、水蒸気を含むAr雰囲気での焼成終了温度(T
H2O)依存性を示す図である。
【
図4】Ar中で1000℃で一次焼成した繊維を所定温度まで大気中で二次焼成した繊維の引張強度の二次焼成温度依存性を示す図である。
【
図5A】Zr-Y(0.1)-077+PCS(0.05)から得られた繊維No.7の一次焼成(1000℃)で得られた繊維の断面のSEM写真である。
【
図5B】Zr-Y(0.1)-077+PCS(0.05)から得られた繊維No.7の二次焼成(1300℃)で得られた繊維の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明を具体的に説明する。なお、範囲を示す『~』の上下限値に関しては、特に別段の表現を用いない限り、境界値を含むものとする。即ち、例えば『〇〇~△△』であれば、〇〇以上△△以下を表している。
本発明のジルコニア連続繊維の製造方法は以下の通りである。
本発明のジルコニア連続繊維の製造方法の第一工程は、ジルコニウムアルコキシドの部分加水分解縮合を金属アルコキシド共存下で行ない、連続紡糸性に優れた前駆体を合成する。
ここで、安定化剤としての金属アルコキシドは、部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを形成する酸化物成分を生成するものである。
さらに、結晶成長抑制剤としては抑制効果が確認されている、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)、チタニア(TiO2)、酸化ホウ素(B2O3)を形成するアルコキシドであればよい。さらに、Si成分としてはSiCを形成する、SiC繊維の前駆体であるポリカルボシランでもよい。
【0022】
金属アルコキシドとしてジルコニウムアルコキシドを用いる場合には、例えばジルコニウムテトラ-n-ブトキシドZr(OC
4H
9)
4が好適であるが、ジルコニウムテトラ-i-プロポキシド、ジルコニウムテトラ-sec-ブトキシド、ジルコニウムテトラ-t-ブトキシド、などでもよい。
安定化剤としては、安定化剤となる化合物、すなわちイットリウム、セリウム、エルビウムなどの希土類元素、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属などの化合物を含ませればよいが、ジルコニウムアルコキシドと均一に混合するためには、アルコキシドが好ましく、イットリウムテトライソプロポキシド、イットリウムトリ-n-ブトキシド、エルビウムアセチルアセトナートなどが好適である。アルコキシドをイソプロパノールなどに溶解し所定量をジルコニウムアルコキシドと混合する。混合する量はZrO
2に対して安定化剤を酸化物に換算して2~12モル%であることが好ましく、2モル%より少なくては効果が乏しく、12モル%より多いと酸化物が析出するなどの理由で繊維の特性が低下するため好ましくない。特に好適な酸化物はイットリア(Y
2O
3)であり、5mol%添加の場合、他の結晶成長抑制剤が存在しなくても、1600℃の焼成でのジルコニア結晶子サイズが10nm程度となる(
図1)。
【0023】
図1は、5YSZ(Y/Zr=0.10)系前駆体の1500および1600℃での熱分解後の結晶子サイズを示す図で、横軸はAl/Zrの比を0.0から0.3まで0.1刻みで示し、奥行き軸はSi/Zrの比を0.0から0.3まで0.1刻みで示し、縦軸は結晶子サイズを示している。図中、Al/Zrの比が0.1で、Si/Zrの比を0.0から0.3まで0.1刻みの結晶子サイズは、1500℃での熱分解後では、16.8、9.4、6.3、18.9nmとなっている。これに対して、1600℃での熱分解後では、10.0、7.5、3.9、10.8nmとなっている。なお、結晶子サイズを示す棒グラフの表記がない格子座標については、熱分解実験が実施されていない。
【0024】
結晶成長抑制剤の原料アルコキシドとしては、アルミナ(Al2O3)では(エチルアセトアセタト)アルミニウムジイソプロポキシド、シリカ(SiO2)ではテトラエトキシシラン、チタニア(TiO2)ではテトラ-i-プロポキシチタン、酸化ホウ素(B2O3)ではホウ酸トリエチル、が好適に使用できる。Si成分としてSiCを添加する場合は、SiC繊維の前駆体であるポリカルボシランが好適である。混合する量はジルコニア繊維前駆体中に含有されるZrに対するポリカルボシラン中に含有されるSi原子数比が0.001以上0.2以下が好ましく、更に好ましくは0.001以上0.1以下が好ましい。混合する量を0.2以上とすると、ジルコニアの特性が損なわれるので好ましくない。
【0025】
ジルコニウムアルコキシドと上記安定化剤、結晶成長抑制剤の混合物を部分加水分解させる為β-ジケントンでキレート化を行う。β-ジケントンとしては3-オキソブタン酸エチルが好ましい。3-オキソブタン酸エチルの使用量は、ジルコニウムアルコキシドと金属アルコキシドの0.1~2倍モルが好ましい。
ジルコニウムテトラ-n-ブトキシドを加水分解させるためには、例えば、水、イソプロパノールの混合溶液を添加し撹拌する。各使用量は、金属アルコキシドに対して、特に限定しないが、イソプロパノールは3倍モル程度で良い。水は0.3~3倍モルが好ましい。アルコキシドに対する水の量が0.3倍モル以下では反応が十分進行せず高分子量化しない。3倍モル以上では、高分子量化が進みすぎ、紡糸が困難になったりゲル化が起こり好ましくない。
また、安定化剤および結晶成長抑制剤の混合は、ジルコニウムアルコキシドの加水分解縮合反応の後でもよい。
【0026】
次に、室温から徐々に温度を上げながら減圧下で加水分解を進めながら濃縮を行い紡糸可能な前駆体を得る。濃縮温度はおよそ90℃まででよい。
本発明の第二工程は第一工程で得られた前駆体を乾式紡糸法で高速で連続紡糸する。紡糸溶液の溶媒はトルエン、キシレンが好ましく、真円の断面を有する繊維のためにはキシレンが好ましく、一般的には濃度は75~85%であり、紡糸温度は室温でよいが、紡糸溶液の粘度により5~50℃程度で行なってもよい。第一工程で得られた前駆体は乾式紡糸における紡糸性が極めて良好であり、上記紡糸溶液の調製条件と紡糸条件では、紡糸性値が、ノズル系100μmの場合、乾式紡糸で工業化が検討されているSiC繊維前駆体のポリカルボシランの値(168)の数倍以上(>680)を示しており、マルチホールノズルによる紡糸、すなわち工業的な量産性を示し、繊維径5~20の紡糸が可能である。ここで、紡糸性値は、次式で表されるもので、紡糸のし易さを示す指標である。
紡糸性値=巻き取りドラム回転数(rpm)×連続巻き取り時間(min)÷押出し圧力(MPa)
【0027】
本発明の第三工程では、得られた前駆体繊維を制御された水蒸気雰囲気で不融化する。不融化は、前駆体中に残存するアルコキシ基またはキレート部分を加水分解縮合させ分子間を架橋させ第三工程で繊維が溶融し融着をすることを防止することが目的である。不融化を短時間で効率よく進めるためには飽和水蒸気雰囲気で、室温から200℃まで、5~100℃/時で所定時間まで昇温し、所定時間保持して行うが、95℃以上200℃までの飽和水蒸気雰囲気で0.5時間以上保持して行うと、得られるジルコニア連続繊維の強度が大きくなる(
図2)。これ以上の長時間の水蒸気処理は効果が望めず効率的ではないので好ましくない。
【0028】
本発明の第四工程では、不融化した前駆体繊維を、大気中、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で、10~200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、所定時間保持して低温焼成、すなわち一次焼成し、高強度繊維に変換する。室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中低温焼成は、500℃以上では不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。ここで、室温とは20~30℃の範囲をいう。
一次焼成の目的は不融化繊維中に残存する溶媒やアルコキシ基等の有機物を適度に除去し、第五工程の焼成でさらに耐熱性を有するジルコニア繊維を生成させることである。したがって、第三工程での不融化後、前駆体の組成によって、炭素を残す必要のない場合は乾燥空気でもよいし、微量の炭素を残留させる場合は乾燥窒素ガスなど非酸化性雰囲気が好適であり、さらに一次焼成での結晶成長機構を制御する場合は、室温で飽和蒸気圧の水を含有する不活性ガス雰囲気で焼成することが高強度化には効果的である。一次焼成する温度は、セラミックス化が終了する温度、すなわち焼成による質量減少がほぼなくなる温度である1000℃まででよい。昇温速度は速すぎては繊維内から残留有機物の放出が間に合わず気泡が発生したり不均一な構造が生成しやすいので、10~200℃/時が好ましい。
また、Al成分、Si成分を含有する前駆体では、窒素ガス雰囲気では1300℃以上でウィスカーが生成し強度が低下するため、非酸化性雰囲気はArガス雰囲気が好ましい。
【0029】
本発明の第五工程では、さらに結晶化を促進させ、耐熱性の高強度繊維を得ることができる。第四工程で得られた繊維を大気中、窒素ガス、アルゴンガスなどの雰囲気で、500~20000℃/時の昇温速度で1000~1600℃まで加熱し、結晶化を促進させ焼結を進め、安定化ジルコニア繊維または部分安定化ジルコニア繊維を得る。
第四工程で得られた繊維は炭素を含有している場合もあるので、用途に応じ炭素含有量が少ない方が良い場合には1000~1600℃まで大気中で加熱し、炭素を酸化除去しながら焼結を進め、炭素含有量の少ない焼結性の安定化ジルコニア繊維または部分安定化ジルコニア繊維を得ることができる。昇温速度が500℃/時より小さいと結晶化が進みすぎ、低強度繊維となるので好ましくない。酸化性の焼成雰囲気は酸素や乾燥空気中でもよい。
【0030】
以上の製造方法により、繊維径5~20μmで、結晶子サイズの小さい緻密な安定化ジルコニア繊維または部分安定化ジルコニア繊維を得ることができ、さらに、炭素またはSiCを添加した繊維は、しなやかで、織布に加工しやすく、加工後、若しくは複合材料化後にこれらを酸化除去、またはSiO2にすることで、酸化雰囲気で安定な繊維とすることができる。その理由は以下のように推定されるが、必ずしもこの推定に限定されるものではない。
【0031】
実施例で示すように本発明の第五工程で得られる繊維は従来のジルコニア繊維とは異なり1~6質量%程度の炭素および金属酸化物、またはSiCを含有している。その効果は、
図1に示したように、1600℃焼成でも粉末X線回折の結果から結晶子サイズが10nm以下と、非常に小さい値を示している。したがって金属酸化物の添加は、ジルコニアの結晶成長を抑制する。さらに、炭素またはSiCのような炭化物を残留させることは、金属酸化物と同様、ジルコニア結晶粒界に炭素やSiCが偏在し、ジルコニアの結晶化を抑制し、その結果、高温での結晶成長に伴う強度低下の原因となる欠陥を減少させていると推定される。また、炭素やSiCの存在は繊維の弾性率を幾分低くしていることが推定され、その結果、織布化がより容易である。このような構造に由来する強度は、二次焼成での酸化性雰囲気、すなわち大気中焼成でも維持されると考えられ、酸化性雰囲気でさらに高温焼成し結晶化が幾分促進させる場合も、強度低下を最小限にすることができるものと推定される。
【0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
まず第1工程において、所定量のジルコニウムテトラ-n-ブトキシドに、3-オキソブタン酸エチルを所定量混合し、発熱反応が終了した後、所定量のH2Oを2-プロパノールを用いて希釈して混合した。発熱反応終了後、さらに、イットリウムトリ-n-ブトキシドまたはエルビウムアセチルアセトナートの2-プロパノール溶液を、ZrO2に対してY2O3またはEr2O3が所定のモル%になるように計算量を混合し、15分攪拌を行った。その後、結晶化抑制剤となる金属酸化物の原料アルコキシドであるアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、テトラエトキシシラン、テトラ-i-プロポキシチタンを所定量添加し、さらに、所定量のH2Oを2-プロパノールを用いて希釈して混合した。発熱反応終了後、ロータリーエバポレーターを使用し、室温からウォーターバスで徐々に加熱しながら反応を進め、溶媒と加水分解生成物である2-プロパノールなど低沸点成分を除去し、95℃まで濃縮し、イットリアまたはエルビア安定化ジルコニア繊維前駆体を得た。
【0033】
次の第二工程において、場合によりポリカルボシラン(PCS)を添加して、第一工程で得られた前駆体を所定濃度のキシレン溶液として紡糸筒に入れ、前駆体溶液が適当な粘度で押しだされる温度で、紡糸筒内を窒素ガスでおよそ2.5MPa以下に加圧し、直径100μmのノズルから前駆体を押し出しながら、およそ1800m/分の速度で連続的に巻き取った。
次の第三工程で、得られた生繊維を飽和水蒸気中で45~200℃まで、10℃/時で加熱し、1時間保持して不融化した。不融化は150℃のホットプレート上で溶融しないことで確認した。
【0034】
不融化した繊維は、次の第四工程において、大気中、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で、100~200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持して低温焼成、すなわち一次焼成した。飽和水蒸気圧の水を含む不活性ガスは、室温で水中にArガスをバブリングした後、焼成炉に導入する方法で調製した。大気中焼成繊維では白色繊維が得られ、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中の焼成では黒色繊維となり、炭素分析の結果から6%以下の炭素を含有していた。繊維径はほぼ6~20μmであった。
【0035】
表1には本実施例で得られた前駆体の合成条件(( )内の数字はZrに対する添加元素の原子数比を示す)と紡糸性値を示す。なお、前駆体の『-』以下の3桁の数字は合成ロット番号である。同じ組成の前駆体があるが、表1に示すように合成条件が異なるので、合成ロットが異なることがわかるように付記している。合成ロット番号の表記に関しては、表2、表3でも同様である。表1では、比較としてSiC繊維前駆体のポリカルボシラン(PCS-UUH)の紡糸性値を示したが、きわめて高い紡糸性値を示し、紡糸が工業的に成立することが分かる。
【0036】
【0037】
表2には、紡糸して得られた繊維の不融化条件と一次焼成条件、得られた繊維の機械的特性の例を示す。不融化は飽和水蒸気雰囲気の大気中で10℃/時で所定温度まで加熱し一時間保持で行った。
前駆体Zr-Y(0.1)・Al(0.1)・Si(0.1)-061から得られた不融化糸は、平均繊維径18μm、引張強度0.32MPa、破断伸び0.7%で、ハンドリング可能であった。
【0038】
その後、一次焼成を、大気中、不活性雰囲気中、または室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で、100~200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持して低温焼成、すなわち一次焼成した。焼成条件は水蒸気を含む雰囲気での焼成は、一次焼成温度以下で水蒸気を含まない雰囲気に切り替えたため、所定温度/昇温速度(℃/時)-保持時間(H2O)+一次焼成温度/昇温速度(℃/時)-保持時間(雰囲気)、で表2中に記載した。
【0039】
【0040】
図2は、Zr-Y(0.1)・Al(0.1)・Si(0.01)+PCS(0.1)の乾式紡糸繊維の、不融化温度と、窒素ガス中、1000℃で焼成して得られたジルコニア繊維の引張強度(〇)と結晶子サイズ(●)の関係を示す図である。これは、前駆体No.5に対応している。不融化温度(curing temperature、硬化温度ともいう)が95℃以上での結晶子サイズは12-15nm、引張強度は1.0~1.3GPaとなって安定している。
【0041】
図3は、100~200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持して一次焼成したZr-Y(0.1)・Al(0.1)・Si(0.1)-061を前駆体とした繊維の引張強度の、水蒸気を含むAr雰囲気での焼成終了温度(T
H2O)依存性を示す図である。室温で飽和蒸気圧の水を含む不活性ガス中で、100~200℃/時の昇温速度で1000℃まで加熱し、1時間保持して一次焼成したZr-Y(0.1)・Al(0.1)・Si(0.1)-061を前駆体とした繊維の引張強度は、水蒸気を含む雰囲気での焼成を終了する温度(T
H2O)に依存し、400~600℃で高強度が得られた(
図3)。
【0042】
<実施例2>
実施例1で得られた繊維を、各種雰囲気で500℃/時で1200~1400℃まで昇温し、1時間保持して二次焼成繊維を得た。これらの繊維の炭素含有量は不活性ガス雰囲気または水蒸気を含む不活性ガス雰囲気での焼成後はそれぞれ、6質量%および1質量%以下であり、大気中焼成によりほとんど消滅していることが分かった。
これらの繊維のXRDから、繊維は正方晶または正方晶と立方晶との混合系であり、結晶子サイズは20nm以下であった。
【0043】
表3に、二次焼成した繊維の焼成条件と特性を示した。
【表3】
図4は、Ar中で1000℃で一次焼成した繊維(繊維No.7)を所定温度まで大気中で二次焼成した繊維の引張強度の二次焼成温度依存性を示す図である。二次焼成温度が1000℃、1200℃、1300℃、及び1400℃の場合の引張強度は、1.7GPaから1.0GPaまで緩やかに減少している。
【0044】
これらの繊維の断面は、1000℃の一次焼成で得られた繊維からわずかに粒成長した、しかしながら空孔などの欠陥のほとんどない緻密な構造を示した。Zr-Y(0.1)-077+PCS(0.05)から得られた繊維No.7の一次焼成(1000℃)と二次焼成(1300℃)で得られた繊維の断面のSEM写真を示す(
図5A、
図5B)。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のジルコニア連続繊維の製造方法によれば、ジルコニアの結晶相を安定化させる成分および結晶成長を抑制する酸化物、SiCまたは炭素をジルコニア連続繊維中に少量含有させることにより高温での結晶化による繊維の機械的特性の低下を抑制し、高温でも機械的強度の低下が起こりにくい繊維を得ることができる。これらのジルコニア連続繊維は、酸化物をマトリックスとするジルコニア繊維強化酸化物セラミックス複合材料の製造時に炭素を焼失させても強度を維持でき、酸化物系複合材料用強化繊維として好適である。
本発明のジルコニア連続繊維の前駆体製造方法によれば、上記のジルコニア連続繊維を製造するのに好適な前駆体が容易に得られる。