(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167832
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッド、およびサーマルプリントヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
B41J2/335 101C
B41J2/335 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079323
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
【テーマコード(参考)】
2C065
【Fターム(参考)】
2C065GA01
2C065GB01
2C065JC02
2C065JC10
2C065JC12
2C065JH05
2C065JH10
(57)【要約】
【課題】 抵抗体層の複数の発熱部の急激な温度低下を抑制しつつ、印字品位のさらなる向上を図ることが可能なサーマルプリントヘッドおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】 サーマルプリントヘッドA10は、基板1と、基板1の第1方向zの一方側を覆うグレーズ層21と、第1方向zにおいてグレーズ層21を基準として基板1とは反対側に位置する複数の発熱部31を含む抵抗体層3と、複数の発熱部31に導通する配線層4とを備える。基板1は、グレーズ層21に覆われた被覆領域14と、第1方向zにおいて被覆領域14とは反対側を向く裏面とを有する。被覆領域14は、第3方向yの両側に位置する第1端縁141および第2端縁142を含む。第1端縁141および第2端縁142の各々の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の第1方向の一方側を覆うグレーズ層と、
前記第1方向において前記グレーズ層を基準として前記基板とは反対側に位置する複数の発熱部を含む抵抗体層と、
前記複数の発熱部に導通し、かつ前記抵抗体層に接して配置された配線層と、を備え、
前記複数の発熱部は、前記第1方向に対して直交する第2方向に沿って配列されており、
前記基板は、前記グレーズ層に覆われた被覆領域と、前記第1方向において前記被覆領域とは反対側を向く裏面と、を有し、
前記被覆領域は、前記第1方向および前記第2方向に対して直交する第3方向の両側に位置する第1端縁および第2端縁を含み、
前記第1端縁および前記第2端縁の各々の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記グレーズ層は、前記第1端縁および前記第2端縁に接している、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記第1端縁および前記第2端縁の各々は、前記第2方向に延びている、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記被覆領域は、前記第1端縁と前記第2端縁との間に位置する中間部を含み、
前記中間部の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい、請求項3に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記グレーズ層には、フィラーが含有されており、
前記フィラーは、中空部を有し、
前記第1方向に視て、前記複数の発熱部は、前記フィラーに重なる、請求項4に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記フィラーは、前記中空部を囲む殻部を有し、
前記中空部は、真空である、請求項5に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記基板は、前記第1方向において前記裏面とは反対側を向く主面と、前記主面から突出する凸部と、を有し、
前記凸部は、前記被覆領域と、第1傾斜面および第2傾斜面と、を有し、
前記被覆領域は、前記第1方向において前記主面から離れており、
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面は、前記主面と前記被覆領域との間に位置し、かつ前記主面に対して傾斜しており、
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面は、前記第3方向において互いに離れている、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面は、前記主面から前記被覆領域に向かうほど互いに近づく、請求項7に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面の各々の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい、請求項8に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
前記主面の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい、請求項9に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項11】
前記第1方向において前記裏面とは反対側を向く主面を有し、
前記主面は、前記被覆領域を含む、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項12】
前記基板は、半導体材料を含み
前記基板および前記グレーズ層を覆う絶縁層をさらに備え、
前記複数の発熱部、および前記配線層は、前記絶縁層を基準として前記基板および前記グレーズ層とは反対側に位置する、請求項7ないし11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項13】
前記複数の発熱部を覆う保護層をさらに備える、請求項12に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項14】
前記配線層は、共通配線と、複数の個別配線と、を含み、
前記共通配線は、前記複数の発熱部に導通しており、
前記複数の個別配線は、前記複数の発熱部に個別に導通している、請求項13に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項15】
前記第1方向において前記基板を基準として前記グレーズ層とは反対側に位置する放熱部材をさらに備え、
前記基板は、前記放熱部材に接合されている、請求項14に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項16】
基材を形成する工程と、
前記基材の第1方向の一方側を覆うグレーズ層を形成する工程と、
前記第1方向に対して直交する第2方向に沿って配列された複数の発熱部を含む抵抗体層を前記グレーズ層の上に形成する工程と、
前記複数の発熱部に導通する配線層を前記抵抗体層に接して形成する工程と、を備え、
前記基材を形成する工程では、前記第1方向の前記一方側を向く被覆領域を形成する工程を含み、
前記被覆領域は、前記第1方向および前記第2方向に対して直交する第3方向の両側に位置する第1端縁および第2端縁を含み、
前記第1端縁および前記第2端縁の各々の表面粗さは、前記第1方向において前記被覆領域とは反対側を向く前記基材の裏面の表面粗さよりも大きくなるように設定されており、
前記グレーズ層を形成する工程では、流動体であるグレーズ材料を前記第1端縁および前記第2端縁に接するように前記被覆領域に供給した後、前記グレーズ材料を焼成する、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記基材を形成する工程では、前記第1方向の前記一方側を向く主面と、前記主面から突出する凸部と、を形成する工程を含み、
前記被覆領域は、前記主面から前記第1方向に離れた前記凸部の表面に形成される、請求項16に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、サーマルプリントヘッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドは、感熱紙などの記録媒体に印字するサーマルプリンタの主たる構成要素である。特許文献1には、サーマルプリントヘッドの一例が開示されている。当該サーマルプリントヘッドは、基板と、基板の上に配置された共通電極および複数の個別電極と、共通電極および複数の個別電極に導通する発熱抵抗体とを備える。共通電極および複数の個別電極を介した通電に伴って発熱抵抗体が選択的に発熱することによって、記録媒体にドット印字がされる。
【0003】
特許文献1に開示されているサーマルプリントヘッドは、グレーズ層をさらに備える。発熱抵抗体は、グレーズ層の上に配置されている。グレーズ層は、基板から突出している。これにより、当該サーマルプリントヘッドに対する記録媒体の接触面積を抑制しつつ、発熱抵抗体からの熱を記録媒体に伝えることができるため、記録媒体における印字品位の向上を図ることができる。さらにグレーズ層は、発熱抵抗体から発した熱を蓄える機能を具備する。これにより、発熱抵抗体の急激な温度低下を抑制することができる。この場合において、印字品位のさらなる向上を図るためには、グレーズ層が突出する方向における当該グレーズ層の寸法をより大きく設定することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は上述の事情に鑑み、抵抗体層の複数の発熱部の急激な温度低下を抑制しつつ、印字品位のさらなる向上を図ることが可能なサーマルプリントヘッドおよびその製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドは、基板と、前記基板の第1方向の一方側を覆うグレーズ層と、前記第1方向において前記グレーズ層を基準として前記基板とは反対側に位置する複数の発熱部を含む抵抗体層と、前記複数の発熱部に導通し、かつ前記抵抗体層に接して配置された配線層と、を備え、前記複数の発熱部は、前記第1方向に対して直交する第2方向に沿って配列されており、前記基板は、前記グレーズ層に覆われた被覆領域と、前記第1方向において前記被覆領域とは反対側を向く裏面と、を有し、前記被覆領域は、前記第1方向および前記第2方向に対して直交する第3方向の両側に位置する第1端縁および第2端縁を含み、前記第1端縁および前記第2端縁の各々の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい。
【0007】
本開示の第2の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドの製造方法は、基材を形成する工程と、前記基材の第1方向の一方側を覆うグレーズ層を形成する工程と、前記第1方向に対して直交する第2方向に沿って配列された複数の発熱部を含む抵抗体層を前記グレーズ層の上に形成する工程と、前記複数の発熱部に導通する配線層を前記抵抗体層に接して形成する工程と、を備え、前記基材を形成する工程では、前記第1方向の前記一方側を向く被覆領域を形成する工程を含み、前記被覆領域は、前記第1方向および前記第2方向に対して直交する第3方向の両側に位置する第1端縁および第2端縁を含み、前記第1端縁および前記第2端縁の各々の表面粗さは、前記第1方向において前記被覆領域とは反対側を向く前記基材の裏面の表面粗さよりも大きくなるように設定されており、前記グレーズ層を形成する工程では、流動体であるグレーズ材料を前記被覆領域に供給した後、前記グレーズ材料を焼成する。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかるサーマルプリントヘッドおよびその製造方法が具備する構成によれば、抵抗体層の複数の発熱部の急激な温度低下を抑制しつつ、印字品位のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0009】
本開示のその他の特徴および利点は、添付図面に基づき以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の平面図である。
【
図5】
図5は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の断面図である。
【
図6】
図6は、
図5の部分拡大図であり、グレーズ層およびその近傍を示している。
【
図7】
図7は、
図5の部分拡大図であり、基板の裏面およびその近傍を示している。
【
図8】
図8は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図9】
図9は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図10】
図10は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する部分拡大断面図である。
【
図11】
図11は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する部分拡大断面図である。
【
図12】
図12は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図13】
図13は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図14】
図14は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図15】
図15は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図16】
図16は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図17】
図17は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図18】
図18は、
図1に示すサーマルプリントヘッドの変形例にかかる要部の部分拡大断面図である。
【
図19】
図19は、本開示の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの要部の断面図である。
【
図21】
図21は、
図19に示すサーマルプリントヘッドの変形例にかかる要部の部分拡大断面図である。
【
図22】
図22は、本開示の第3実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの要部の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示を実施するための形態について、添付図面に基づいて説明する。
【0012】
〔第1実施形態〕
図1~
図7に基づき、本開示の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA10について説明する。サーマルプリントヘッドA10は、サーマルプリンタの主要部をなす。サーマルプリントヘッドA10は、要部および付随部により構成される。サーマルプリントヘッドA10の要部は、基板1、グレーズ層21、絶縁層22、抵抗体層3、配線層4および保護層5を備える。サーマルプリントヘッドA10の付随部は、配線基板71、放熱部材72、複数の駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、複数の第2ワイヤ75、封止樹脂76およびコネクタ77を備える。ここで、
図1においては、理解の便宜上、保護層5、複数の第1ワイヤ74、複数の第2ワイヤ75、および封止樹脂76の図示を省略している。
図2および
図3においては、理解の便宜上、保護層5の図示を省略している。
【0013】
ここで、説明の便宜上、後述する基板1の主面11の法線方向を「第1方向z」と呼ぶ。サーマルプリントヘッドA10の主走査方向を「第2方向x」と呼ぶ。サーマルプリントヘッドA10の副走査方向を「第3方向y」と呼ぶ。第1方向zは、第2方向xおよび第3方向yに対して直交している。
【0014】
サーマルプリントヘッドA10においては、
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10の要部をなす基板1は、放熱部材72に接合されている。さらに、配線基板71は、第3方向yにおいて基板1の隣に位置する。配線基板71は、基板1と同じく放熱部材72に接合されている。基板1の上には、抵抗体層3の一部をなし、かつ第2方向xに沿って配列された複数の発熱部31(詳細は後述)が形成されている。複数の発熱部31は、配線基板71に搭載された複数の駆動素子73により選択的に発熱する。複数の駆動素子73は、コネクタ77を介して外部から送信される印字信号に基づき駆動する。
【0015】
サーマルプリントヘッドA10は、
図4に示すように、プラテンローラ79とともにサーマルプリンタに組み付けられる。当該サーマルプリンタにおいて、プラテンローラ79は、感熱紙などの記録媒体を送り出すローラ状の機構である。プラテンローラ79が記録媒体を抵抗体層3の複数の発熱部31に押し当てることにより、複数の発熱部31が当該記録媒体に印字を行う。
【0016】
基板1は、
図1に示すように、第2方向xに延びる矩形状である。したがって、第2方向xが基板1の長辺方向に相当する。第3方向yが基板1の短辺方向に相当する。基板1は、半導体材料を含む。当該半導体材料は、ケイ素(Si)を組成とする単結晶材料を含む。
図5に示すように、基板1は、主面11および裏面12を有する。主面11および裏面12は、第1方向zにおいて互いに反対側を向く。
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10においては、主面11がプラテンローラ79に対向し、かつ裏面12が放熱部材72に対向する。基板1の結晶構造に基づく主面11の面方位は、(100)面である。
【0017】
図5に示すように、基板1は、凸部13を有する。凸部13は、主面11から第1方向zに突出している。
図1および
図2に示すように、凸部13は、第2方向xに延びている。
【0018】
図5および
図6に示すように、凸部13は、被覆領域14、第1傾斜面131および第2傾斜面132を有する。被覆領域14、第1傾斜面131および第2傾斜面132の各々は、第2方向xに延びている。被覆領域14は、第1方向zにおいて主面11と同じ側を向き、かつ主面11から離れている。第1傾斜面131および第2傾斜面132は、主面11と被覆領域14との間に位置する。サーマルプリントヘッドA10においては、第1傾斜面131および第2傾斜面132は、主面11および被覆領域14につながっている。第1傾斜面131および第2傾斜面132は、第3方向yにおいて互いに離れている。第1傾斜面131および第2傾斜面132は、主面11に対して傾斜している。第1傾斜面131および第2傾斜面132は、主面11から被覆領域14に向かうほど互いに近づいている。
【0019】
図6に示すように、被覆領域14は、第1端縁141、第2端縁142および中間部143を含む。第1端縁141、第2端縁142および中間部143の各々は、第2方向xに延びている。第1端縁141および第2端縁142は、被覆領域14の第3方向yの両側に位置する。中間部143は、第1端縁141と第2端縁142との間に位置する。
図6および
図7に示すように、第1端縁141、第2端縁142および中間部143の各々の表面粗さは、裏面12の表面粗さよりも大きい。
【0020】
図6および
図7に示すように、サーマルプリントヘッドA10においては、凸部13の第1傾斜面131および第2傾斜面132の各々の表面粗さは、裏面12の表面粗さよりも大きい。主面11の表面粗さは、裏面12の表面粗さよりも大きい。
【0021】
グレーズ層21は、
図5に示すように、基板1の第1方向zの一方側に位置する被覆領域14を覆っている。グレーズ層21は、第2方向xに延びている。グレーズ層21は、非晶質ガラスを含む材料からなる。当該非晶質ガラスは、たとえばSiO
2-BaO-Al
2O
3-SnO-ZnO系ガラスである。このため、グレーズ層21は、透明または白色を呈する。
【0022】
図6に示すように、グレーズ層21は、第1方向zにおいて被覆領域14が向く側に膨出している。第2方向xに視て、第1方向zにおいて被覆領域14よりも抵抗体層3の複数の発熱部31が位置する側におけるグレーズ層21の部分の周縁は、凸状の曲線をなす。グレーズ層21は、被覆領域14の第1端縁141および第2端縁142に接している。さらにグレーズ層21は、被覆領域14の中間部143に接している。
【0023】
絶縁層22は、
図5および
図6に示すように、基板1の主面11と、凸部13の第1傾斜面131および第2傾斜面132と、グレーズ層21とを覆っている。抵抗体層3の複数の発熱部31と、配線層4とは、絶縁層22を基準として基板1およびグレーズ層21とは反対側に位置する。絶縁層22により、基板1は、抵抗体層3および配線層4に対して電気絶縁されている。絶縁層22は、たとえば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を原材料とした二酸化ケイ素(SiO
2)を含む。絶縁層22の厚さの例は、1μm以上15μm以下である。
【0024】
抵抗体層3は、
図5および
図6に示すように、絶縁層22を覆っている。抵抗体層3は、たとえば窒化タンタル(TaN)からなる。抵抗体層3の厚さの例は、0.02μm以上0.1μm以下である。
【0025】
図2、
図3および
図5に示すように、抵抗体層3は、複数の発熱部31を含む。抵抗体層3において、複数の発熱部31は、配線層4から露出する部分である。複数の発熱部31は、第1方向zにおいてグレーズ層21を基準として基板1とは反対側に位置する。したがって、第1方向zに視て、複数の発熱部31は、グレーズ層21に重なっている。複数の発熱部31は、絶縁層22に接している。
【0026】
図2および
図3に示すように、複数の発熱部31は、第2方向xに沿って配列されている。複数の発熱部31のうち、第2方向xにおいて隣り合う2つの発熱部31は、互いに離れている。
図4に示すように、複数の発熱部31は、プラテンローラ79に対向している。複数の発熱部31に対して配線層4から選択的に通電されることによって、複数の発熱部31は、記録媒体を局所的に加熱する。
【0027】
配線層4は、
図5および
図6に示すように、抵抗体層3に接して配置されている。配線層4は、抵抗体層3の複数の発熱部31に導通している。配線層4の電気抵抗率は、抵抗体層3の電気抵抗率よりも低い。配線層4は、たとえば銅(Cu)からなる金属層である。配線層4の厚さの例は、0.3μm以上2.0μm以下である。この他、配線層4は、抵抗体層3の上に積層されたチタン(Ti)層と、当該チタン層の上に積層された銅層との2つの金属層からなる構成でもよい。この場合のチタン層の厚さの例は、0.1μm以上0.2μm以下である。
図1に示すように、配線層4は、基板1の主面11の周縁から離れている。
【0028】
図1に示すように、配線層4は、共通配線41、および複数の個別配線42を含む。共通配線41は、第3方向yにおいて抵抗体層3の複数の発熱部31を基準として複数の駆動素子73とは反対側に位置する。複数の個別配線42は、第3方向yにおいて複数の発熱部31を基準として共通配線41とは反対側に位置する。共通配線41は、複数の発熱部31に導通している。複数の個別配線42は、複数の発熱部31に個別に導通している。
【0029】
図2および
図3に示すように、共通配線41は、基部411と、基部411につながる複数の延出部412とを有する。基部411は、第3方向yにおいて複数の延出部412を基準として抵抗体層3の複数の発熱部31とは反対側に位置する。基部411は、第2方向xに延びる帯状である。複数の延出部412は、基板1の凸部13に対向する基部411の端部から、複数の発熱部31に向けて第3方向yに延びる帯状である。複数の延出部412は、第2方向xに沿って配列されている。複数の延出部412の各々の一部は、凸部13の第2傾斜面132の上に位置する。共通配線41においては、基部411から複数の延出部412を介して複数の発熱部31に電流が流れる。
【0030】
図2および
図3に示すように、複数の個別配線42の各々は、基部421と、基部421につながる延出部422を有する。基部421は、第3方向yにおいて延出部422を基準として抵抗体層3の複数の発熱部31とは反対側に位置する。複数の個別配線42の各々の基部421は、第3方向yにおいて互いに離れた2つの列をなす。当該2つの列の各々は、第2方向xに沿って配列されている。当該2つの列のうち複数の発熱部31から最も近くに位置する列においては、隣り合う2つの基部421の間に延出部422が位置する。
【0031】
図2および
図3に示すように、延出部422は、基板1の凸部13に対向する基部421の端部から、複数の発熱部31に向けて第3方向yに延びる帯状である。複数の個別配線42の各々の延出部422は、第2方向xに沿って配列されている。複数の個別配線42の各々の延出部422の一部は、凸部13の第1傾斜面131の上に位置する。複数の個別配線42の各々においては、複数の発熱部31のいずれかから延出部422を介して基部421に電流が流れる。第1方向zに視て、複数の発熱部31の各々は、複数の個別配線42のいずれかの延出部422と、共通配線41の複数の延出部412のいずれかとに挟まれている。
図2および
図3に示す配線層4、および複数の発熱部31の構成は一例である。したがって、本開示における配線層4、および複数の発熱部31の構成は、
図2および
図3に示す構成に限定されない。
【0032】
保護層5は、
図5に示すように、絶縁層22の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31と、配線層4の一部とを覆っている。保護層5は、電気絶縁性を有する。保護層5の組成は、ケイ素を含む。保護層5は、たとえば、二酸化ケイ素および窒化ケイ素(Si
3N
4)のいずれかからなる。あるいは、保護層5は、これらの物質のうち複数種類からなる積層体でもよい。
図4に示すプラテンローラ79によって、複数の発熱部31を覆う保護層5の部位に記録媒体が押し当てられる。
【0033】
図5に示すように、保護層5は、配線開口51を有する。配線開口51は、第1方向zに保護層5を貫通している。配線開口51から、複数の個別配線42の各々の基部421と、複数の個別配線42の各々の延出部422の一部とが露出している。
【0034】
配線基板71は、
図4に示すように、第3方向yにおいて基板1の隣に位置する。
図1に示すように、第1方向zに視て、複数の個別配線42は、第3方向yにおいて抵抗体層3の複数の発熱部31と、配線基板71との間に位置する。第1方向zに視て、配線基板71の面積は、基板1の面積よりも大である。さらに、第1方向zに視て、配線基板71は、第2方向xを長手方向とする矩形状である。配線基板71は、たとえばPCB基板である。配線基板71には、複数の駆動素子73、およびコネクタ77が搭載されている。
【0035】
放熱部材72は、
図4に示すように、第1方向zにおいて基板1を基準としてグレーズ層21とは反対側に位置する。基板1の裏面12は、放熱部材72に接合されている。配線基板71は、ねじなどの締結部材により放熱部材72に接合されている。サーマルプリントヘッドA10の使用時において、抵抗体層3の複数の発熱部31から発生した熱の一部は、基板1を介して放熱部材72に伝導される。放熱部材72に伝導された熱は、外部へと放熱される。放熱部材72は、たとえばアルミニウム(Al)からなる。
【0036】
複数の駆動素子73は、
図1および
図4に示すように、電気絶縁性を有するダイボンディング材(図示略)を介して配線基板71に搭載されている。複数の駆動素子73は、種々の回路が構成された半導体素子である。複数の駆動素子73には、複数の第1ワイヤ74の一端と、複数の第2ワイヤ75の一端とが導電接合されている。複数の第1ワイヤ74の他端は、複数の個別配線42の各々の基部421に個別に導電接合されている。複数の第2ワイヤ75の他端は、配線基板71に設けられ、かつコネクタ77に導通する配線(図示略)に導電接合されている。
【0037】
上述により、印字にかかる電気信号と、複数の駆動素子73の制御にかかる電気信号とが、外部からコネクタ77を介して複数の駆動素子73に入力される。複数の駆動素子73は、これらの電気信号に基づき、複数の個別配線42に電圧を選択的に印加させる。さらに、外部からコネクタ77を介して共通配線41に定電圧が印加される。この場合において、共通配線41と、複数の個別配線42のいずれかとの間に電位差が生じることによって、抵抗体層3の複数の発熱部31が選択的に発熱する。
【0038】
封止樹脂76は、
図4に示すように、複数の駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75を覆っている。さらに封止樹脂76は、絶縁層22および配線基板71の各々の一部と、複数の個別配線42の各々の一部とを覆っている。
【0039】
コネクタ77は、
図1および
図4に示すように、配線基板71の第3方向yの端部に取り付けられている。コネクタ77は、複数のピン(図示略)を有する。当該複数のピンの一部は、配線基板71において、複数の第2ワイヤ75が導電接合された配線(図示略)に導通している。さらに、当該複数のピンの別の一部は、配線基板71において、共通配線41の基部411に導通する配線(図示略)に導通している。
【0040】
次に、
図8~
図17に基づき、サーマルプリントヘッドA10の製造方法の一例について説明する。ここで、
図8、
図9、および
図12~
図17の断面位置は、サーマルプリントヘッドA10の要部を示す
図5の断面位置と同一である。
【0041】
最初に、
図8に示すように、基材81に第1マスク層88および第2マスク層89を形成する。基材81は、半導体材料からなる。当該半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む。基材81は、シリコンウエハである。z方向に対して直交する方向において、複数の基板1にそれぞれ相当する部位が複数個連なったものが、基材81に相当する。基材81は、第1面81Aおよび第2面81Bを有する。第1面81Aおよび第2面81Bは、z方向において互いに反対側を向く。基材81の結晶構造に基づく第1面81Aおよび第2面81Bの面方位は、ともに(100)面である。
【0042】
まず、第2マスク層89を形成する。第2マスク層89の形成にあたっては、減圧CVD(Chemical Vapor Deposition)により基材81の表面全体を覆う窒化ケイ素の薄膜、および二酸化ケイ素の薄膜のいずれかを形成する。その後、フッ化水素酸(HF)を用いたウェットエッチングにより基材81の第1面81Aを覆う当該薄膜を除去する。これにより、第2マスク層89が形成される。
【0043】
次いで、第1マスク層88を形成する。第1マスク層88の形成にあたっては、プラズマCVDにより基材81の第1面81Aの全体を覆う窒化ケイ素の薄膜、および二酸化ケイ素の薄膜のいずれかを形成する。プラズマCVDにより基材81を覆う薄膜を形成する温度は、減圧CVDにより基材81を覆う薄膜を形成する温度よりも低い。その後、リソグラフィパターニングと、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)とにより、第1面81Aを覆う薄膜の一部を除去する。これにより、第1マスク層88が形成される。第1マスク層88は、被覆部881および開口部882を有する。被覆部881は、第1面81Aを覆っている。開口部882からは、第1面81Aが露出している。
【0044】
次いで、
図9に示すように、異方性エッチングにより主面11および凸部13を基材81に形成した後、第1マスク層88および第2マスク層89を除去する。主面11は、z方向において基材81の第1面81Aと同じ向きを向くとともに、第1面81Aと、基材81の第2面81Bとの間に位置する。凸部13は、主面11からz方向に突出し、かつx方向に延びている。主面11および凸部13は、第1マスク層88の開口部882から露出した第1面81Aに対して異方性エッチングを行うことにより、基材81に主面11および凸部13が形成される。異方性エッチングに用いられるエッチング液は、たとえば水酸化カリウム水溶液である。その後、フッ化水素酸を用いたウェットエッチングにより第1マスク層88および第2マスク層89を除去する。以上により、主面11および凸部13が基材81に形成される。さらに、第2面81Bは、基板1の裏面12となる。第1マスク層88の被覆部881に覆われていた第1面81Aの領域が、その後の工程を経て被覆領域14となる。凸部13が異方性エッチングにより形成されるため、主面11に対する凸部13の第1傾斜面131および第2傾斜面132の各々の傾斜角αは互いに等しくなる。
【0045】
次いで、
図10に示すように、第1方向zの一方側を向く被覆領域14を基材81に形成する。被覆領域14は、基材81の主面11から第1方向zに離れた凸部13の表面13Aに形成される。被覆領域14は、表面13Aに対して反応性イオンエッチングを施すことにより形成される。この他、表面13Aに対してウェットブラストを施すことによっても被覆領域14を形成することができる。本工程においては、主面11と、凸部13の第1傾斜面131および第2傾斜面132に対しても反応性イオンエッチング、あるいはウェットブラストが施される。本工程を経ることにより、第1端縁141、第2端縁142および中間部143を含む被覆領域14が形成される。これにより、第1端縁141、第2端縁142および中間部143の各々の表面粗さと、主面11、第1傾斜面131および第2傾斜面132の各々の表面粗さは、基材81の裏面12の表面粗さよりも大きく設定される。
【0046】
次いで、
図11に示すように、基材81の第1方向zの一方側を覆うグレーズ層21を形成する。グレーズ層21の形成にあたっては、流動体であるグレーズ材料を基材81の被覆領域14に供給した後、当該グレーズ材料を焼成する。グレーズ材料を被覆領域14に供給する際、被覆領域14の第1端縁141および第2端縁142に当該グレーズ材料が接するようにする。これにより、焼成する前のグレーズ材料には、第1端縁141および第2端縁142の各々において表面張力Tが作用する。
【0047】
次いで、
図12に示すように、基材81の主面11と、凸部13の第1傾斜面131および第2傾斜面132と、グレーズ層21とを覆う絶縁層22を形成する。絶縁層22は、プラズマCVDによりオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を原料ガスとして形成された二酸化ケイ素の薄膜を複数回にわたって積層させることによって形成される。
【0048】
次いで、
図13~
図15に示すように、抵抗体層3および配線層4を形成する。抵抗体層3は、第2方向xに沿って配列された複数の発熱部31を含む。配線層4は、複数の発熱部31に導通する。さらに、配線層4を形成する工程では、共通配線41、および複数の個別配線42を形成する工程を含む。基材81において、共通配線41は、
図2に示す抵抗体層3の複数の発熱部31に対して第3方向yの一方側に位置する。基材81において、複数の個別配線42は、第3方向yにおいて
図2に示す複数の発熱部31を基準として共通配線41とは反対側に位置する。
【0049】
まず、
図13に示すように、絶縁層22の全体を覆う抵抗体膜82を形成する。抵抗体膜82は、スパッタリング法により窒化タンタルの薄膜を絶縁層22に積層させることによって形成される。
【0050】
次いで、
図14に示すように、抵抗体膜82の全体を覆う導電層83を形成する。導電層83は、スパッタリング法により銅の薄膜を複数回にわたって抵抗体膜82に積層させることによって形成される。この他、導電層83の形成にあたっては、スパッタリング法によりチタンの薄膜を抵抗体膜82に積層させた後、当該チタンの薄膜に対してスパッタリング法により銅の薄膜を複数回にわたって積層させる手法を採ってもよい。
【0051】
次いで、
図15に示すように、導電層83に対してリソグラフィパターニングを施した後、導電層83の一部を除去する。当該除去は、硫酸(H
2SO
4)および過酸化水素(H
2O
2)の混合溶液を用いたウェットエッチングにより行われる。これにより、共通配線41、および複数の個別配線42を含む配線層4が抵抗体膜82に接して形成される。あわせて、グレーズ層21の上に位置する抵抗体膜82の領域が配線層4から露出する。その後、抵抗体膜82および配線層4に対してリソグラフィパターニングを施した後、抵抗体膜82の一部を除去する。当該除去は、反応性イオンエッチングにより行われる。これにより、抵抗体層3が絶縁層22に接して形成される。あわせて、グレーズ層21の上に複数の発熱部31が現れる。
【0052】
次いで、
図16に示すように、絶縁層22の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31と、配線層4の一部とを覆う保護層5を形成する。保護層5は、プラズマCVDにより窒化ケイ素の薄膜を複数積層させることによって形成される。この他、保護層5は、スパッタリング法により二酸化ケイ素の薄膜を複数積層させることによっても形成可能である。
【0053】
次いで、
図17に示すように、保護層5を第1方向zに貫通する配線開口51を形成する。配線開口51は、保護層5に対してリソグラフィパターニングを施した後、保護層5の一部を除去することにより形成される。当該除去は、反応性イオンエッチングにより行われる。これにより、配線開口51から複数の個別配線42の各々の一部が露出する。配線開口51から露出する複数の個別配線42の各々の一部とは、
図5に示す複数の個別配線42の各々の基部421と、
図5に示す複数の個別配線42の各々の延出部422の一部とである。配線開口51から露出する複数の個別配線42の各々の一部には、めっきにより金などの金属層を積層してもよい。
【0054】
次いで、第2方向xおよび第3方向yに沿って基材81を第1方向zに切断する。これにより得られた個片が、基板1を含むサーマルプリントヘッドA10の要部となる。
【0055】
次いで、配線基板71に複数の駆動素子73を搭載する。次いで、基板1の裏面12、および配線基板71を放熱部材72に接合させる。次いで、配線基板71、複数の駆動素子73、および複数の個別配線42の各々の基部421に対して、複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75の導電接合を行う。最後に、複数の駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75を覆う封止樹脂76の形成を行う。最後に、配線基板71にコネクタ77を取り付ける。以上の工程を経ることによって、サーマルプリントヘッドA10が得られる。
【0056】
<第1実施形態の変形例>
次に、
図18に基づき、サーマルプリントヘッドA10の変形例であるサーマルプリントヘッドA11について説明する。ここで、
図18の断面位置は、サーマルプリントヘッドA10の要部を示す
図6の断面位置と同一である。
【0057】
サーマルプリントヘッドA11は、基板1の凸部13および被覆領域14の構成が、サーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。
図18に示すように、被覆領域14の中間部143の表面粗さは、被覆領域14の第1端縁141および第2端縁142の各々の表面粗さよりも小さい。基板1の主面11の表面粗さは、第1端縁141および第2端縁142の各々の表面粗さよりも小さい。中間部143および主面11の各々の表面粗さは、基板1の裏面12の表面粗さに略等しい。凸部13の第1傾斜面131の上端の表面粗さは、当該上端を除く第1傾斜面131の他の領域の表面粗さよりも大きい。凸部13の第2傾斜面132の上端の表面粗さは、当該上端を除く第2傾斜面132の他の領域の表面粗さよりも大きい。主面11に対する第1傾斜面131および第2傾斜面132の各々の傾斜角αは、互いに等しい。
【0058】
次に、サーマルプリントヘッドA10の作用効果について説明する。
【0059】
サーマルプリントヘッドA10は、基板1の被覆領域14を覆うグレーズ層21を備える。抵抗体層3の複数の発熱部31は、第1方向zにおいてグレーズ層21を基準として基板1とは反対側に位置する。本構成をとることにより、複数の発熱部31から発した熱がグレーズ層21に蓄熱される。これにより、複数の発熱部31の急激な温度低下を抑制できる。
【0060】
さらに、被覆領域14は、第3方向yの両側に位置する第1端縁141および第2端縁142を含む。第1端縁141および第2端縁142の各々の表面粗さは、基板1の裏面12の表面粗さよりも大きい。本構成をとることにより、サーマルプリントヘッドA10の製造工程のうちグレーズ層21を形成する工程では、
図11に示すように、第1端縁141および第2端縁142において焼成する前のグレーズ層21、すなわち流動体であるグレーズ材料に表面張力Tが作用する。裏面12の表面粗さに対して第1端縁141および第2端縁142の各々の表面粗さが相対的に大きくなるほど、被覆領域14に対するグレーズ材料の接触角がより大きくなる。これにより、表面張力Tの向きが第1方向zに近づくため、第1方向zにおけるグレーズ層21の最大寸法がより大きくなる。したがって、
図4に示す記録媒体への印字の際、サーマルプリントヘッドA10に対する記録媒体の接触面積を縮小しつつ、抵抗体層3の複数の発熱部31からの熱を記録媒体に伝えることができる。以上より、本構成によれば、サーマルプリントヘッドA10において、複数の発熱部31の急激な温度低下を抑制しつつ、印字品位のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0061】
被覆領域14の表面粗さが基板1の裏面12の表面粗さに略等しい場合、被覆領域14の第1端縁141および第2端縁142のいずれかに対するグレーズ層21の接触角は40°以上45°以下である。サーマルプリントヘッドA10においては、当該接触角は、45°よりも大きくなる。
【0062】
被覆領域14の中間部143の表面粗さは、基板1の裏面12の表面粗さよりも大きい。本構成をとることにより、グレーズ層21には、被覆領域14に対して投錨効果(アンカー効果)が発現する。これにより、被覆領域14に対するグレーズ層21の接合強度を増加させることができる。さらに被覆領域14に対するグレーズ層21の接触面積が拡大するため、グレーズ層21から基板1に熱が伝導しやすくなる。これにより、グレーズ層21の過度な温度上昇を効果的に抑制できる。
【0063】
サーマルプリントヘッドA10においては、基板1は、主面11から第1方向zに突出する凸部13を有する。凸部13は、被覆領域14を有する。したがって、抵抗体層3の複数の発熱部31は、凸部13の上に位置する。本構成をとることにより、記録媒体への印字の際、サーマルプリントヘッドA10に対する記録媒体の接触面積をさらに縮小することができる。したがって、印字品位のさらなる向上を図ることができる。
【0064】
サーマルプリントヘッドA10は、基板1およびグレーズ層21を覆う絶縁層22をさらに備える。抵抗体層3の複数の発熱部31と、配線層4とは、絶縁層22を基準として基板1およびグレーズ層21とは反対側に位置する。本構成をとることにより、基板1が半導体材料を含むものであっても、基板1と、複数の発熱部31、および配線層4との電気絶縁を図ることができる。
【0065】
サーマルプリントヘッドA10は、抵抗体層3の複数の発熱部31を覆う保護層5をさらに備える。これにより、複数の発熱部31が保護層5により保護されるとともに、サーマルプリントヘッドA10に対する記録媒体の接触がより円滑となる。
【0066】
サーマルプリントヘッドA10は、第1方向zにおいて基板1を基準としてグレーズ層21とは反対側に位置する放熱部材72をさらに備える。基板1は、放熱部材72に接合されている。本構成をとることにより、グレーズ層21から基板1に伝導した熱は、放熱部材72を介して速やかに外部に放出される。これにより、基板1の過度な温度上昇を防止できる。
【0067】
サーマルプリントヘッドA10は、第1方向zにおいて基板1を基準としてグレーズ層21とは反対側に位置する放熱部材72をさらに備える。基板1は、放熱部材72に接合されている。本構成をとることにより、グレーズ層21による蓄熱に伴う基板1の過度な温度上昇を抑制できる。
【0068】
〔第2実施形態〕
図19および
図20に基づき、本開示の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA20について説明する。これらの図において、先述したサーマルプリントヘッドA10と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。ここで、
図19の断面位置は、サーマルプリントヘッドA10の要部を示す
図5の断面位置と同一である。
【0069】
サーマルプリントヘッドA20においては、基板1の構成が、サーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。
【0070】
図19に示すように、基板1には、凸部13が形成されていない。被覆領域14は、主面11に含まれる。
【0071】
図20に示すように、基板1の主面11の表面粗さは、被覆領域14の第1端縁141、第2端縁142および中間部143の各々の表面粗さよりも小さい。主面11の表面粗さは、基板1の裏面12の表面粗さに略等しい。
【0072】
<第2実施形態の変形例>
次に、
図21に基づき、サーマルプリントヘッドA20の変形例であるサーマルプリントヘッドA21について説明する。ここで、
図21の断面位置は、サーマルプリントヘッドA20の要部を示す
図20の断面位置と同一である。
【0073】
サーマルプリントヘッドA21は、基板1の被覆領域14の構成が、サーマルプリントヘッドA20の当該構成と異なる。
図21に示すように、被覆領域14の中間部143の表面粗さは、被覆領域14の第1端縁141および第2端縁142の各々の表面粗さよりも小さい。基板1の主面11の表面粗さは、第1端縁141および第2端縁142の各々の表面粗さよりも小さい。中間部143および主面11の各々の表面粗さは、基板1の裏面12の表面粗さに略等しい。
【0074】
次に、サーマルプリントヘッドA20の作用効果について説明する。
【0075】
サーマルプリントヘッドA20は、基板1の被覆領域14を覆うグレーズ層21を備える。抵抗体層3の複数の発熱部31は、第1方向zにおいてグレーズ層21を基準として基板1とは反対側に位置する。被覆領域14は、第3方向yの両側に位置する第1端縁141および第2端縁142を含む。第1端縁141および第2端縁142の各々の表面粗さは、基板1の裏面12の表面粗さよりも大きい。したがって、本構成によれば、サーマルプリントヘッドA20においても、複数の発熱部31の急激な温度低下を抑制しつつ、印字品位のさらなる向上を図ることが可能となる。さらにサーマルプリントヘッドA20においては、サーマルプリントヘッドA10と共通する構成を具備することにより、サーマルプリントヘッドA10と同等の作用効果を奏する。
【0076】
〔第3実施形態〕
図22および
図23に基づき、本開示の第3実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA30について説明する。これらの図において、先述したサーマルプリントヘッドA10と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。ここで、
図22の断面位置は、サーマルプリントヘッドA10の要部を示す
図5の断面位置と同一である。
【0077】
サーマルプリントヘッドA30においては、グレーズ層21の構成が、サーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。
【0078】
図22に示すように、グレーズ層21には、フィラー211が含有されている。
図23に示すように、フィラー211は、中空部211Aおよび殻部211Bを有する。中空部211Aは、真空である。殻部211Bは、中空部211Aを囲んでいる。殻部211Bの組成は、二酸化ケイ素を含む。フィラー211の粒径Dは、0.3μm以上0.5μm以下である。グレーズ層21に対するフィラー211の重量パーセント(wt%)は、30%以上80%以下である。
【0079】
次に、サーマルプリントヘッドA30の作用効果について説明する。
【0080】
サーマルプリントヘッドA30は、基板1の被覆領域14を覆うグレーズ層21を備える。抵抗体層3の複数の発熱部31は、第1方向zにおいてグレーズ層21を基準として基板1とは反対側に位置する。被覆領域14は、第3方向yの両側に位置する第1端縁141および第2端縁142を含む。第1端縁141および第2端縁142の各々の表面粗さは、基板1の裏面12の表面粗さよりも大きい。したがって、本構成によれば、サーマルプリントヘッドA30においても、複数の発熱部31の急激な温度低下を抑制しつつ、印字品位のさらなる向上を図ることが可能となる。さらにサーマルプリントヘッドA30においては、サーマルプリントヘッドA10と共通する構成を具備することにより、サーマルプリントヘッドA10と同等の作用効果を奏する。
【0081】
サーマルプリントヘッドA30においては、グレーズ層21には、フィラー211が含有されている。フィラー211は、中空部211Aを有する。本構成をとることにより、グレーズ層21の熱伝導率がより低下する。したがって、抵抗体層3の複数の発熱部31からグレーズ層21に伝わった熱がより長い時間においてグレーズ層21に留まるため、グレーズ層21の蓄熱性能がさらに高まる。
【0082】
フィラー211は、中空部211Aを囲む殻部211Bを有する。中空部211Aは、真空である。本構成をとることにより、グレーズ層21となる非晶質ガラスを含むペーストを焼成する際、中空部211Aの熱膨張に伴うフィラー211の爆裂を防止できる。
【0083】
フィラー211の殻部211Bの組成は、二酸化ケイ素を含む。本構成をとることにより、フィラー211の線膨張係数が、グレーズ層21の線膨張係数と略等しくなる。これにより、フィラー211とグレーズ層21との界面における熱応力の発生が低減されるため、グレーズ層21に亀裂が発生することを抑止できる。
【0084】
本開示は、先述した実施形態に限定されるものではない。本開示の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0085】
本開示は、以下の付記に記載した実施形態を含む。
[付記1]
基板と、
前記基板の第1方向の一方側を覆うグレーズ層と、
前記第1方向において前記グレーズ層を基準として前記基板とは反対側に位置する複数の発熱部を含む抵抗体層と、
前記複数の発熱部に導通し、かつ前記抵抗体層に接して配置された配線層と、を備え、
前記複数の発熱部は、前記第1方向に対して直交する第2方向に沿って配列されており、
前記基板は、前記グレーズ層に覆われた被覆領域と、前記第1方向において前記被覆領域とは反対側を向く裏面と、を有し、
前記被覆領域は、前記第1方向および前記第2方向に対して直交する第3方向の両側に位置する第1端縁および第2端縁を含み、
前記第1端縁および前記第2端縁の各々の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい、サーマルプリントヘッド。
[付記2]
前記グレーズ層は、前記第1端縁および前記第2端縁に接している、付記1に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記3]
前記第1端縁および前記第2端縁の各々は、前記第2方向に延びている、付記2に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記4]
前記被覆領域は、前記第1端縁と前記第2端縁との間に位置する中間部を含み、
前記中間部の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい、付記3に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記5]
前記グレーズ層には、フィラーが含有されており、
前記フィラーは、中空部を有し、
前記第1方向に視て、前記複数の発熱部は、前記フィラーに重なる、付記2ないし4のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記6]
前記フィラーは、前記中空部を囲む殻部を有し、
前記中空部は、真空である、付記5に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記7]
前記基板は、前記第1方向において前記裏面とは反対側を向く主面と、前記主面から突出する凸部と、を有し、
前記凸部は、前記被覆領域と、第1傾斜面および第2傾斜面と、を有し、
前記被覆領域は、前記第1方向において前記主面から離れており、
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面は、前記主面と前記被覆領域との間に位置し、かつ前記主面に対して傾斜しており、
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面は、前記第3方向において互いに離れている、付記2ないし6のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記8]
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面は、前記主面から前記被覆領域に向かうほど互いに近づく、付記7に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記9]
前記第1傾斜面および前記第2傾斜面の各々の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい、付記8に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記10]
前記主面の表面粗さは、前記裏面の表面粗さよりも大きい、付記9に記載のサーマルプリントヘッド。
[付記11]
前記第1方向において前記裏面とは反対側を向く主面を有し、
前記主面は、前記被覆領域を含む、付記2ないし6のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記12]
前記基板は、半導体材料を含み
前記基板および前記グレーズ層を覆う絶縁層をさらに備え、
前記複数の発熱部、および前記配線層は、前記絶縁層を基準として前記基板および前記グレーズ層とは反対側に位置する、付記7ないし11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記13]
前記複数の発熱部を覆う保護層をさらに備える、付記2ないし12のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記14]
前記配線層は、共通配線と、複数の個別配線と、を含み、
前記共通配線は、前記複数の発熱部に導通しており、
前記複数の個別配線は、前記複数の発熱部に個別に導通している、付記2ないし13のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記15]
前記第1方向において前記基板を基準として前記グレーズ層とは反対側に位置する放熱部材をさらに備え、
前記基板は、前記放熱部材に接合されている、付記2ないし14のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
[付記16]
基材を形成する工程と、
前記基材の第1方向の一方側を覆うグレーズ層を形成する工程と、
前記第1方向に対して直交する第2方向に沿って配列された複数の発熱部を含む抵抗体層を前記グレーズ層の上に形成する工程と、
前記複数の発熱部に導通する配線層を前記抵抗体層に接して形成する工程と、を備え、
前記基材を形成する工程では、前記第1方向の前記一方側を向く被覆領域を形成する工程を含み、
前記被覆領域は、前記第1方向および前記第2方向に対して直交する第3方向の両側に位置する第1端縁および第2端縁を含み、
前記第1端縁および前記第2端縁の各々の表面粗さは、前記第1方向において前記被覆領域とは反対側を向く前記基材の裏面の表面粗さよりも大きくなるように設定されており、
前記グレーズ層を形成する工程では、流動体であるグレーズ材料を前記第1端縁および前記第2端縁に接するように前記被覆領域に供給した後、前記グレーズ材料を焼成する、サーマルプリントヘッドの製造方法。
[付記17]
前記基材を形成する工程では、前記第1方向の前記一方側を向く主面と、前記主面から突出する凸部と、を形成する工程を含み、
前記被覆領域は、前記主面から前記第1方向に離れた前記凸部の表面に形成される、付記16に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【符号の説明】
【0086】
A10,A20,A30:サーマルプリントヘッド
1:基板
11:主面
12:裏面
13:凸部
131:第1傾斜面
132:第2傾斜面
14:被覆領域
141:第1端縁
142:第2端縁
143:中間部
21:グレーズ層
211:フィラー
211A:中空部
211B:殻部
22:絶縁層
3:抵抗体層
31:発熱部
4:配線層
41:共通配線
411:基部
412:延出部
42:個別配線
421:基部
422:延出部
5:保護層
51:配線開口
71:配線基板
72:放熱部材
73:駆動素子
74:第1ワイヤ
75:第2ワイヤ
76:封止樹脂
77:コネクタ
79:プラテンローラ
81:基材
81A:第1面
81B:第2面
82:抵抗体膜
83:導電層
88:第1マスク層
881:被覆部
882:開口部
89:第2マスク層
z:第1方向
x:第2方向
y:第3方向