(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167844
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】トンネル切羽監視方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20231116BHJP
E21D 9/093 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01C15/00 104A
G01C15/00 103A
E21D9/093 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079344
(22)【出願日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000150110
【氏名又は名称】株式会社竹中土木
(71)【出願人】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(71)【出願人】
【識別番号】595160927
【氏名又は名称】計測技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕考
(72)【発明者】
【氏名】市川 晃央
(72)【発明者】
【氏名】芥川 真一
(72)【発明者】
【氏名】林 稔
(72)【発明者】
【氏名】橋村 義人
(72)【発明者】
【氏名】岡本 剛司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 伸輝
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054GA10
2D054GA15
2D054GA60
2D054GA65
2D054GA82
(57)【要約】
【課題】計測精度を高めたトンネル切羽監視方法を通じて施工性、経済性、及び合理性に優れた山岳トンネル施工を実現することができる、トンネル切羽監視方法を提供する。
【解決手段】3Dレーザースキャナ2でトンネル切羽1をスキャンして3次元点群データを収集し、3次元点群データを転送し、トンネル切羽1を複数のメッシュに分割したメッシュデータに変換する一連の計測作業を連続的に繰り返し行う過程において、前記一連の計測作業毎に、前記3次元点群データにおける初期計測点からの平面距離が、予め設定した許容範囲内に位置し、かつ前記初期計測点に最も近い初期以降計測点を採用し、前記初期計測点と前記初期以降計測点との押し出し量の差を算出し、予め設定した許容範囲内に初期以降計測点が位置していない前記初期計測点は算出対象から除外すること等により、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル工事におけるトンネル切羽を3Dレーザースキャナで常時監視し、トンネル切羽の状況をリアルタイムに把握するトンネル切羽監視方法であって、
前記3Dレーザースキャナで前記トンネル切羽をスキャンして3次元点群データを収集し、当該3次元点群データを転送し、前記トンネル切羽を複数のメッシュに分割したメッシュデータに変換する一連の計測作業を連続的に繰り返し行う過程において、
前記一連の計測作業毎に、前記3次元点群データにおける初期計測点からの平面距離が、予め設定した許容範囲内に位置し、かつ前記初期計測点に最も近い初期以降計測点を採用し、前記初期計測点と前記初期以降計測点との押し出し量の差を算出し、予め設定した許容範囲内に初期以降計測点が位置していない前記初期計測点は算出対象から除外すること、
前記メッシュデータの各メッシュ内に位置する複数の前記初期計測点に係る算出した前記押し出し量の差の平均値に基づき、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見することを特徴とする、トンネル切羽監視方法。
【請求項2】
トンネル工事におけるトンネル切羽を3Dレーザースキャナで常時監視し、トンネル切羽の状況をリアルタイムに把握するトンネル切羽監視方法であって、
前記3Dレーザースキャナで前記トンネル切羽をスキャンして3次元点群データを収集し、当該3次元点群データを転送し、前記トンネル切羽を複数のメッシュに分割したメッシュデータに変換する一連の計測作業を連続的に繰り返し行う過程において、
前記一連の計測作業毎に、前記3次元点群データにおける初期計測点からの平面距離が、予め設定した許容範囲内に位置し、かつ前記初期計測点に最も近い初期以降計測点を採用し、前記初期計測点と前記初期以降計測点との押し出し量の差を算出し、予め設定した許容範囲内に初期以降計測点が位置していない前記初期計測点は算出対象から除外すると共に、前記3次元点群データの初期計測点からの押出し方向距離が、予め設定した許容範囲内に前記初期以降計測点が位置していない当該初期計測点も算出対象から除外すること、
前記メッシュデータの各メッシュ内に位置する複数の前記初期計測点に係る算出した前記押し出し量の差の平均値に基づき、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見することを特徴とする、トンネル切羽監視方法。
【請求項3】
前記平面距離における前記初期計測点から予め設定した許容範囲内は、前記初期計測点から半径25mmの範囲内に設定することを特徴とする、請求項1又は2に記載したトンネル切羽監視方法。
【請求項4】
前記押し出し方向距離における前記初期計測点から予め設定した許容範囲内は、前記初期計測点から±100mm程度の範囲内に設定することを特徴とする、請求項2に記載したトンネル切羽監視方法。
【請求項5】
前記トンネル切羽に対する前記3Dレーザースキャナによる計測は、計測距離が30m~70m、計測点間隔が4cm~10cm、計測範囲角度が80°~90°の測定条件で行うことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載したトンネル切羽監視方法。
【請求項6】
前記トンネル切羽に対する前記3Dレーザースキャナによる計測は、計測距離が30~70m、計測点間隔が5cm、計測範囲角度が80°の測定条件で行うことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載したトンネル切羽監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル切羽監視方法に関し、さらに言えば、山岳トンネルの施工におけるトンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見するために常時監視し、トンネル切羽の状況をリアルタイムに把握可能なトンネル切羽監視方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの施工において、重機による岩盤掘削作業、穿孔した発破孔に爆薬を装填する作業、岩盤を支える鋼製支保工を建て込む作業、コンクリートに吹き付けた後で岩盤へロックボルトを打ち込む作業など、トンネル切羽に作業員が近接して行う作業が多いため、切羽面からの落石等の肌落ちや崩落、崩壊による労働災害(以下、肌落ち災害と略す。)がたびたび発生している。
前記肌落ち災害の発生状況の一例を示すと、6%が死亡し、42%が休業1ヶ月以上となっており発生した場合の重篤度が高くなっている(厚生労働省:山岳トンネル工事の切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン,2018年1月)。
【0003】
そこで、本出願人らは、近年、前記肌落ち災害を適時に予見可能なトンネル切羽監視方法を開発した(特許文献1参照)。この特許文献1に係る技術は、レーザー距離計等を用いた切羽挙動把握手段により、トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見するための監視を常時行い、予め設定しておいた管理基準値を超えた場合等にトンネル切羽で起きている地山の押し出し挙動を即座にトンネル工事関係者に知らせ、リアルタイムにトンネル切羽の状況を把握できることにより、前記肌落ち災害の抑制に寄与するものである(請求項1等の記載参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に係るトンネル切羽監視方法は、上記したように、レーザー距離計等を用いた切羽挙動把握手段により、トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見するための監視を常時行い、リアルタイムにトンネル切羽の状況を把握できるので、非常に有益な技術ではある。
【0006】
しかしながら、前記切羽挙動把握手段の中で3Dレーザースキャナを採用した場合、3Dレーザースキャナの性能上どうしても経時的に同じ場所を狙って照射(スキャン)することができず、トンネル切羽の押し出し量に誤差が生じていたり、レーザーがトンネル切羽の手前の重機や機器に照射(誤射)した場合の押し出し量もそのまま採用していたりしていた課題を本出願人らは知見し、まだまだ改善の余地があると判断した。
仮に、前記課題を解決することにより前記3Dレーザースキャナによる計測精度(計測処理精度)を更に高めることができれば、前記切羽の挙動(押し出し量等)をより正確に把握でき、前記肌落ち災害を抑制できることはもとより、山岳トンネル施工の作業効率を高めることができる等、非常に有益な技術になることは明らかである。
【0007】
具体的に、例えば、3Dレーザースキャナによる従来の計測方法によれば、実際には前記管理基準時に到達していないにも拘わらず到達したと判断してトンネル切羽に作業員が近接して行う作業を中断・中止していたものを、前記切羽の挙動をより正確に把握することにより、前記管理基準時にまだ到達していないことを正確に把握し、当該作業を継続して行うことで山岳トンネル施工の作業効率を高めることができる。よって、計測精度(計測処理精度)をより高めたトンネル切羽監視方法を通じて施工性、経済性、及び合理性に優れた山岳トンネル施工を実現することができる。
【0008】
本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、3Dレーザースキャナによる従来の計測方法に一手間加える等の工夫を施して計測精度(計測処理精度)を高めることにより、計測精度をより高めたトンネル切羽監視方法を通じて施工性、経済性、及び合理性に優れた山岳トンネル施工を実現することができる、トンネル切羽監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係るトンネル切羽監視方法は、トンネル工事におけるトンネル切羽を3Dレーザースキャナで常時監視し、トンネル切羽の状況をリアルタイムに把握するトンネル切羽監視方法であって、
前記3Dレーザースキャナで前記トンネル切羽をスキャンして3次元点群データを収集し、当該3次元点群データを転送し、前記トンネル切羽を複数のメッシュに分割したメッシュデータに変換する一連の計測作業を連続的に繰り返し行う過程において、
前記一連の計測作業毎に、前記3次元点群データにおける初期計測点からの平面距離が、予め設定した許容範囲内に位置し、かつ前記初期計測点に最も近い初期以降計測点を採用し、前記初期計測点と前記初期以降計測点との押し出し量の差を算出し、予め設定した許容範囲内に初期以降計測点が位置していない前記初期計測点は算出対象から除外すること、
前記メッシュデータの各メッシュ内に位置する複数の前記初期計測点に係る算出した前記押し出し量の差の平均値に基づき、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載した発明に係るトンネル切羽監視方法は、トンネル工事におけるトンネル切羽を3Dレーザースキャナで常時監視し、トンネル切羽の状況をリアルタイムに把握するトンネル切羽監視方法であって、
前記3Dレーザースキャナで前記トンネル切羽をスキャンして3次元点群データを収集し、当該3次元点群データを転送し、前記トンネル切羽を複数のメッシュに分割したメッシュデータに変換する一連の計測作業を連続的に繰り返し行う過程において、
前記一連の計測作業毎に、前記3次元点群データの初期計測点からの平面距離が、予め設定した許容範囲内に位置し、かつ前記初期計測点に最も近い初期以降計測点を採用し、前記初期計測点と前記初期以降計測点との押し出し量の差を算出し、予め設定した許容範囲内に初期以降計測点が位置していない前記初期計測点は算出対象から除外すると共に、前記3次元点群データの初期計測点からの押出し方向距離が、予め設定した許容範囲内に前記初期以降計測点が位置していない当該初期計測点も算出対象から除外すること、
前記メッシュデータの各メッシュ内に位置する複数の前記初期計測点に係る算出した前記押し出し量の差の平均値に基づき、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載したトンネル切羽監視方法において、前記平面距離における前記初期計測点から予め設定した許容範囲内は、前記初期計測点から例えば、半径25mmの範囲内に設定することを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載した発明は、請求項2に記載したトンネル切羽監視方法において、前記押し出し方向距離における前記初期計測点から予め設定した許容範囲内は、前記初期計測点から±100mm程度の範囲内に設定することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載した発明は、請求項1~4のいずれか1項に記載したトンネル切羽監視方法において、前記トンネル切羽に対する前記3Dレーザースキャナによる計測は、計測距離が30m~70m、計測点間隔が4cm~10cm、計測範囲角度が80°~90°の測定条件で行うことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載した発明は、請求項1~4のいずれか1項に記載したトンネル切羽監視方法において、前記トンネル切羽に対する前記3Dレーザースキャナによる計測は、計測距離が30~70m、計測点間隔が5cm、計測範囲角度が80°の測定条件で行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るトンネル切羽監視方法によれば、前記3Dレーザースキャナで前記トンネル切羽をスキャンして3次元点群データを収集し、当該3次元点群データを転送し、前記トンネル切羽を複数のメッシュに分割したメッシュデータに変換する一連の計測作業を連続的に繰り返し行う過程において、前記一連の計測作業毎に、前記3次元点群データの初期計測点からの平面距離が、予め設定した許容範囲内に位置し、かつ前記初期計測点に最も近い初期以降計測点を採用し、前記初期計測点と前記初期以降計測点との押し出し量の差を算出し、予め設定した許容範囲内に初期以降計測点が位置していない前記初期計測点は算出対象から除外し、前記メッシュデータの各メッシュ内に位置する複数の前記初期計測点に係る算出した前記押し出し量の差の平均値に基づき、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見するので、前記3次元点群データを全て除外することなくそのままメッシュ内で平均化する従来技術と比し、トンネル切羽の押し出し量の計測精度(計測処理精度)を非常に高めることができる。
よって、3Dレーザースキャナによる従来の計測方法であれば、実際には前記管理基準時に到達していないにも拘わらず到達したと判断してトンネル切羽に作業員が近接して行う作業を中断・中止していたものを、前記切羽の挙動をより正確に把握することにより、前記管理基準時にまだ到達していないことを正確に把握し、当該作業を継続して行うことで山岳トンネル施工の作業効率を高めることができる。
したがって、計測精度をより高めたトンネル切羽監視方法を通じて施工性、経済性、及び合理性に優れた山岳トンネル施工を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るトンネル切羽監視方法の計測実施概要を模式的に示した説明図である。
【
図2】本発明に係るトンネル切羽監視方法の一例を示したフローチャートである。
【
図3】本発明に係るトンネル切羽監視方法の一工程を説明するための概略図である。
【
図4】本発明に係るトンネル切羽監視方法の一工程を説明するための概略図である。
【
図5】本発明に係るトンネル切羽監視方法の一工程を説明するための概略図である。
【
図6】本発明に係るトンネル切羽監視方法の計測処理結果を例示したメッシュデータである。
【
図7】本発明に係るトンネル切羽監視方法における採用したパラメータ(数値)の根拠を説明するための表である。
【
図8】従来の計測方法の計測処理結果を例示したメッシュデータである。
【
図9】3Dレーザースキャナでトンネル切羽をスキャンして得た情報データである。
【
図10】3Dレーザースキャナでトンネル切羽をスキャンして得た情報データである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明に係るトンネル切羽監視方法の実施例を図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明に係るトンネル切羽監視方法は、トンネル工事におけるトンネル切羽を3Dレーザースキャナで常時監視し、トンネル切羽の状況をリアルタイムに把握するトンネル切羽監視方法であって、
前記3Dレーザースキャナで前記トンネル切羽をスキャンして3次元点群データを収集し、当該3次元点群データを転送し、前記トンネル切羽を複数のメッシュに分割したメッシュデータに変換する一連の計測作業を連続的に繰り返し行う過程において、
前記一連の計測作業毎に、前記3次元点群データにおける初期計測点からの平面距離が、予め設定した許容範囲内に位置し、かつ前記初期計測点に最も近い初期以降計測点を採用し、前記初期計測点と前記初期以降計測点との押し出し量の差を算出し、予め設定した許容範囲内に初期以降計測点が位置していない前記初期計測点は算出対象から除外すること、
前記メッシュデータの各メッシュ内に位置する複数の前記初期計測点に係る算出した前記押し出し量の差の平均値に基づき、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見することを特徴とする。
ちなみに、本明細書において前記「平面距離」とは、トンネル切羽面を正面方向から二次元的に見た場合の点(初期計測点)と点(初期以降計測点)との最短距離を云う。
【0019】
すなわち、本発明に係るトンネル切羽監視方法は、前記3Dレーザースキャナで前記トンネル切羽をスキャンして3次元点群データを収集し、当該3次元点群データを転送し、前記トンネル切羽を複数のメッシュに分割したメッシュデータに変換する一連の計測作業を連続的に繰り返し行うことを大前提として、前記一連の計測作業を行いながら、前記一連の計測作業毎に以下の各ステップ(工程)を繰り返して行う。
(第1ステップ)前記3次元点群データにおける初期計測点からの平面距離が、予め設定した許容範囲内に位置し、かつ前記初期計測点に最も近い初期以降計測点を採用するステップ。
(第2ステップ)前記採用した前記初期計測点と前記初期以降計測点との押し出し量の差を算出するステップ。
(第3ステップ)予め設定した許容範囲内に初期以降計測点が位置していない前記初期計測点は算出対象から除外するステップ。
(第4ステップ)前記3次元点群データの初期計測点からの押出し方向距離が、予め設定した許容範囲内に前記初期以降計測点が位置していない当該初期計測点も算出対象から除外するステップ。
(第5ステップ)前記メッシュデータの各メッシュ内に位置する複数の前記初期計測点に係る算出した前記押し出し量の差の平均値を求めるステップ。
(第6ステップ)前記求めた平均値に基づき、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見するステップ。
【0020】
よって、先ずは、本発明に係るトンネル切羽監視方法の根幹となる前記一連の計測作業について説明し、次に、前記各ステップについて説明する。
なお、あくまでも一例として、本実施例に係るトンネルの形態等の概要は以下の通りである。
(トンネル形態等の概要)
トンネル長さ(L)が305m、掘削断面積(トンネル切羽面積)が約102~105m2、掘削幅が15m、掘削高さが7.2m、全長の約93%が1.5D以下の小土被り。
【0021】
<前記一連の計測作業についての説明>
本発明に係るトンネル切羽監視方法における一連の計測作業とは、
図1に模式的に示したように、3Dレーザースキャナ2でトンネル切羽1をスキャンして3次元点群データを収集し、当該3次元点群データを端末等に転送し(
図9、
図10参照)、前記トンネル切羽1を複数のメッシュに分割したメッシュデータに変換する作業である。
【0022】
前記3Dレーザースキャナ2による計測は、計測距離(L)を30m~70m、計測点間隔(H)を4cm~10cm、計測範囲角度(θ)を80°~90°の測定条件で行うことが好ましい。ちなみに本実施例では、一連(1回)の計測作業を5分以内(スキャン時間は2.5分以内)で行うことを条件(目標)とし、計測距離(L)を30m~70m、計測点間隔(H)を5cm、計測範囲角度(θ)を80°の測定条件で行った。この測定条件の数値を採用した根拠を
図7に示す。当該根拠の詳しい説明は割愛するが、計測点間隔(H)は5cmから4cmに小さくすると3次元点群データ(取得点数)が約22,000点から約41,000点と倍近くなり、スキャン時間も137秒から272秒と倍程度になったこと等を勘案した。
ちなみに、
図1中の符号CLは、トンネルのセンターラインを示し、符号SLは、トンネルのスプリングラインを示している。
【0023】
前記メッシュデータは、特に説明するまでもなく種々のバリエーションがあるが、本実施例では、
図6に例示したように、前記トンネル切羽1を複数(多数)のメッシュ状(例えば、0.5m×0.5m~1.0m×1.0mのブロック)に分割したデータである。
【0024】
(初期計測作業)
前記一連の計測作業の過程において、最初に計測し取得した初期計測点(3次元点群データ)は、その後に連続的に行う初期以降計測点と比較するための基準となる初期値データとして保存する。
具体的には、先ず、
図2に示すように、前記3Dレーザースキャナ2により初期値計測を行った(F1参照)。次に、前記3Dレーザースキャナ2を前記トンネル切羽1に向けてスキャン(照射)して収集した前記22,000点余りの初期計測点(3次元点群データ)を、分割した多数のブロック(メッシュ領域)毎に区画し、当該ブロック毎に押し出し方向(TD方向)の押し出し量(TD)の平均値を算出する(F2参照)。次に、
図3に概略的に示したように、重機3に照射する等して前記TD方向の許容範囲内(前記平均値(ブロック平均値)から例えば、±100mm(符号B参照))に収まらない数値(
図3の×印参照)は、誤認したと処理し(F3参照)、データ無効として採用しないことにした(F0参照)。
次に、前記データ無効と判断した数値を除いた前記TD量の有効データ(3次元点群データ)をブロック(分割メッシュ領域)毎に平均化し、初期値データとして保存する(F4参照)。
【0025】
(初期以降計測作業)
<(第1ステップ)についての説明>
次に、前記3Dレーザースキャナにより、前記(第1ステップ)を実施するための初期以降計測点を取得するための変位計測を行う(F5参照)。この計測作業は改めて書くまでもなく、前記繰り返し行う一連の計測作業の過程に含まれているのでその説明は割愛する。
前記計測作業の結果、前記3次元点群データにおける初期計測点からの平面距離が、予め設定した許容範囲内に位置し、かつ前記初期計測点に最も近い初期以降計測点を採用する第1ステップを行う。
具体的には、
図4に概略的に示したように、前記多数(約22,000点)ある初期以降計測点のなかで前記初期計測点と、平面距離(座標)で最も近い初期以降計測点を検索し(F6参照)、その最も近い初期以降計測点(近接点)が前記予め設定した許容範囲内(例えば、前記初期計測点から半径25mmの範囲内)に位置しているか否かを判定する(F7参照)。
【0026】
<(第2ステップ)についての説明>
次に、前記許容範囲内に位置する初期以降計測点は、前記初期計測点の押し出し量(TD)と前記初期以降計測点の押し出し量(TD)との差を算出する(F8参照)。
【0027】
<(第3ステップ)についての説明>
次に、前記許容範囲内に位置していない初期以降計測点は、データ無効として採用しない(F0)。すなわち、予め設定した許容範囲内に初期以降計測点が位置していない前記初期計測点は算出対象から除外する。
【0028】
<(第4ステップ)についての説明>
前記ステップ3と同時期に、
図5に例示したように、前記3次元点群データの初期計測点からの押出し方向距離が、予め設定した許容範囲(ブロック毎の押し出し量(TD)の平均値から例えば、±100mm(符号C参照))内に前記初期以降計測点が位置していない(
図5の×印参照)当該初期計測点も算出対象から除外する(F9参照)。
なお、この第4ステップを実施しなくても、従来よりも十分に精度(確度)の高い計測結果を収集することはできる(請求項1記載の発明)。
【0029】
<(第5ステップ)についての説明>
次に、前記第4ステップで除外した数値を除いた前記TD量の有効データ(3次元点群データ)をブロック(分割メッシュ領域)毎に平均化する(F10参照)。
【0030】
<(第6ステップ)についての説明>
前記第1ステップから第5ステップまでの工程(1ローテーション5分)を連続的に行いつつ、前記平均化した平均値に基づき、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見する。具体的には、メッシュデータに係る各ブロック毎に求めた当該平均値から、前記保存しておいた前記初期値データ(前記F4参照)を差し引いた押し出し量を求め、これを保存し、端末等にメッシュデータ(
図6参照)として表示する(F11参照)。これらの情報を基に、前記トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見することが可能となる。
【0031】
ちなみに、上述した計測処理を行うことで、前記
図6から分かるように、±3mm以内の誤差でトンネル切羽1の変位計測を行うことが可能となった。一方、
図8は、前記3次元点群データを全て除外することなくそのままメッシュ内で平均化した従来技術による計測処理結果を示す。0.5m×0.5mに対して1.0m×1.0mとメッシュの大きさに多少の相違はあるものの、前記従来技術による計測処理結果によれば、外周部の異常値を除いても±13mm程度の誤差があり、本発明に係る計測処理結果との差は歴然としている。
【0032】
そして、前記トンネル切羽1の肌落ちや崩落・崩壊を予見した場合、必要に応じて適宜、スマートフォンやタブレット、PC等の端末機器にてメールを発信して、トンネル切羽1の状況を映像データ及び/又は画像データで工事関係者(全員)に通知する。この種の公知手段は、本出願人らが出願し既に公開されている前記特許文献1に一層詳細に説明されていることを念のため特記しておく。
【0033】
以上に本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、3Dレーザースキャナ2は、ライカのマルチステーション Nova MS60(1000pts/秒、測定範囲300m、スキャン範囲1000m)を使用したが勿論これに限定されず、3Dレーザースキャナであれば良い。
また、3Dレーザースキャナ2の設置位置は、トンネル切羽1の作業時の重機をできるだけ避け、切羽の見通しが良いトンネル切羽の天端が好ましい。
【符号の説明】
【0034】
1 トンネル切羽
2 3Dレーザースキャナ
3 重機