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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167862
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】腎疾患の検出を補助する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20231116BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/53 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079380
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西井 友教
(72)【発明者】
【氏名】八木 慎太郎
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB03
2G045DA36
2G045FB01
2G045FB03
2G045FB12
2G045FB13
(57)【要約】
【課題】新規な腎疾患マーカーを利用した、尿検体を用いた腎疾患の検出を補助する方法を提供すること。
【解決手段】腎疾患の検出を補助する方法は、尿検体中のグリピカン3を測定することを含む。尿検体中のグリピカン3の濃度が健常者よりも低いことが、腎疾患に罹患している可能性が高いことを示す。尿検体中のグリピカン3は、イムノアッセイ等により測定することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿検体中のグリピカン3を測定することを含み、尿検体中のグリピカン3の濃度が健常者よりも低いことが、腎疾患に罹患している可能性が高いことを示す、腎疾患の検出を補助する方法。
【請求項2】
前記腎疾患が、慢性腎疾患である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
イムノアッセイにより尿検体中のグリピカン3を測定する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記イムノアッセイが、サンドイッチアッセイである請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記サンドイッチアッセイが、グリピカン3と特異的に結合する2種類のモノクローナル抗体を用いる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記2種類のモノクローナル抗体として、グリピカン3のN末端側サブユニットと特異的に結合する2種類のモノクローナル抗体を用いる請求項5記載の方法。
【請求項7】
腎疾患に罹患している可能性が高いと判定する、尿検体中のグリピカン3濃度のカットオフ値が、1600 pg/mL~9600 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記カットオフ値が、4800 pg/mL~9600 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記2種類のモノクローナル抗体として、グリピカン3のN末端側サブユニットと特異的に結合するモノクローナル抗体と、グリピカン3のC末端側サブユニットと特異的に結合するモノクローナル抗体とを用いる請求項5記載の方法。
【請求項10】
腎疾患に罹患している可能性が高いと判定する、尿検体中のグリピカン3濃度のカットオフ値が、1200 pg/mL~9600 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記カットオフ値が、1200 pg/mL~2400 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値である、請求項10記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿検体を用いた腎疾患の検出を補助する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、尿検体を用いた腎疾患の検出方法として、尿中のL-FABPを腎疾患マーカーとして用いる方法が知られている。L-FABPは、腎臓の近位尿細管に存在する脂肪酸結合蛋白で、腎障害が進行する前の尿細管周囲の血流不全による酸化ストレスにより尿中に排出される。尿中のL-FABPの値が高くなることで腎障害進行・悪化を早期に評価できる。
【0003】
一方、グリピカン3は、タンパク質に糖鎖が結合したプロテオグリカンであり、肝細胞がんにおいて特異的に発現することが知られている。このため、グリピカン3は、肝細胞がんのマーカーとして利用されている。例えば、非特許文献1には、血中グリピカン3が肝細胞がんのマーカーとして有用であることが記載されており、また、非特許文献2には、血中グリピカン3が肝細胞がんの術後再発予測マーカーとして有用であることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chen M, Li G, Yan J et al. Reevaluation of glypican-3 as a serological marker for hepatocellular carcinoma. Clin Chim Acta. 423; 105-111: 2013.
【非特許文献2】Ofuji K, Saito K, Suzuki S et al. Perioperative plasma glypican-3 level may enable prediction of the risk of recurrence after surgery in patients with stage I hepatocellular carcinoma. Oncotarget. 2017; 8: 37835-37844.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
L-FABPは室温保存の場合8時間程度であれば測定結果に与える影響は軽微であるが、まれに高濃度のL-FABP(数百ng/mL)が検出された尿検体のなかには継続的にL-FABP値が上昇する検体も確認されている。すなわち、L-FABPは、室温での保存安定性に問題があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、新規な腎疾患マーカーを利用した、尿検体を用いた腎疾患の検出を補助する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、腎疾患患者では、尿中のグリピカン3濃度が、健常者に比較して大きく低下することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
(1) 尿検体中のグリピカン3を測定することを含み、尿検体中のグリピカン3の濃度が健常者よりも低いことが、腎疾患に罹患している可能性が高いことを示す、腎疾患の検出を補助する方法。
(2) 前記腎疾患が、慢性腎疾患である、(1)記載の方法。
(3) イムノアッセイにより尿検体中のグリピカン3を測定する、(1)又は(2)記載の方法。
(4) 前記イムノアッセイが、サンドイッチアッセイである(3)記載の方法。
(5) 前記サンドイッチアッセイが、グリピカン3と特異的に結合する2種類のモノクローナル抗体を用いる、(4)記載の方法。
(6) 前記2種類のモノクローナル抗体として、グリピカン3のN末端側サブユニットと特異的に結合する2種類のモノクローナル抗体を用いる(5)記載の方法。
(7) 腎疾患に罹患している可能性が高いと判定する、尿検体中のグリピカン3濃度のカットオフ値が、1600 pg/mL~9600 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値である、(6)記載の方法。
(8) 前記カットオフ値が、4800 pg/mL~9600 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値である、(7)記載の方法。
(9) 前記2種類のモノクローナル抗体として、グリピカン3のN末端側サブユニットと特異的に結合するモノクローナル抗体と、グリピカン3のC末端側サブユニットと特異的に結合するモノクローナル抗体とを用いる(5)記載の方法。
(10) 腎疾患に罹患している可能性が高いと判定する、尿検体中のグリピカン3濃度のカットオフ値が、1200 pg/mL~9600 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値である、(9)記載の方法。
(11) 前記カットオフ値が、1200 pg/mL~2400 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値である、(10)記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、尿検体を用いた新規な、腎疾患の検出を補助する方法が提供された。また、慢性腎疾患の場合、初期ステージであっても尿検体中のGPC3は健常者と比較して顕著に低下するので、本発明の方法によれば、慢性腎疾患を早期に検出することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の方法では、尿検体中のグリピカン3を測定する。グリピカン3(以下、「GPC3」と呼ぶことがある)は、アミノ酸数580個のタンパク質にヘパラン硫酸が結合したプロテオグリカンである。GPC3のアミノ酸配列を配列表の配列番号1に示す。GPC3は、このアミノ酸配列のN末端から、N末端から358番目のアミノ酸までの領域から成る、分子量約40kDaのN末端側サブユニットと、N末端から358番目のアミノ酸からC末端までの領域から成る、分子量約30kDaのC末端側サブユニットから成る。N末端側サブユニットの358番目のアミノ酸と、C末端側サブユニットのN末端(全長のN末端から359番目のアミノ酸)との間には、フリン開裂部位が存在し、ゴルジ体により切断されて各サブユニットに分離する。
【0011】
より具体的には、ヒト可溶性GPC3は、(a)配列番号1のアミノ酸配列における1~358位のアミノ酸残基からなるN末端断片またはそのバリアント、(b)配列番号1のアミノ酸配列における1~358位のアミノ酸残基からなるN末端断片またはそのバリアントと、配列番号1のアミノ酸配列における359~560位のアミノ酸残基からなる可溶性C末端断片またはそのバリアントとがジスルフィド結合によって連結した可溶性全長型GPC3、あるいは(c)人種間および/または個人間において天然に生じ得るそれらの変異体である。このような変異体は、(a)N末端断片またはそのバリアント、または(b)可溶性全長型GPC3またはそのバリアントに対して、人種間および/または個人間において天然に生じ得る1個以上のアミノ酸残基の変異(例、置換、挿入、欠失)が導入されたものである。このような変異体におけるアミノ酸残基の変異の個数は、例えば1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~15個、さらにより好ましくは1~10個、特に好ましくは1個、2個、3個、4個又は5個であってもよい。
【0012】
本発明の方法では、尿検体中のグリピカン3濃度を測定する。グリピカン3濃度の測定は、検体中のグリピカン3濃度を測定することができる方法であればよく、特に限定されないが、例えば、イムノアッセイ、質量分析法等により行うことができる。
【0013】
GPC3の測定は、定量が好ましいが、尿検体中のGPC3濃度が、後述するカットオフ値以下か否かがわかれば良いので、必ずしも定量である必要はなく、カットオフ値以下か否かがわかる半定量でもよい。
【0014】
GPC3は、イムノアッセイにより測定することが、簡便でかつ高精度であるので好ましい。イムノアッセイ自体は、周知であり、周知のいずれのイムノアッセイをも採用することができる。すなわち、GPC3と特異的に結合する(すなわち、抗原抗体反応する)抗体、好ましくはモノクローナル抗体を用いて、周知の手法によりイムノアッセイを行うことができる。このようなイムノアッセイとしては、例えば、直接競合法、間接競合法、及びサンドイッチ法等が挙げられる。また、このようなイムノアッセイとしては、例えば、化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、免疫比濁法(TIA)、酵素イムノアッセイ法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、及びサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、及びイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。これらのイムノアッセイ自体は周知であり、ここで詳しく述べる必要はないが、それぞれ簡単に説明する。
【0015】
直接競合法は、例えば、測定すべき標的抗原(本発明ではGPC3)に対する抗体を固相に固定化し(固相化)、非特異吸着を防ぐためのブロッキング処理(血清アルブミン等のタンパク質溶液で固相を処理)後、この抗体と、前記標的抗原を含む被検試料と、一定量の標識した抗原とを反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。被検試料中の抗原と標識抗原とが、抗体に対して競合的に結合するので、被検試料中の抗原量が多いほど、固相に結合する標識の量が少なくなる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化された標識量(標識の性質に応じて、吸光度、発光強度、蛍光強度等、以下同じ)を測定して、抗原濃度を横軸、標識量を縦軸にとった検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。直接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、US20150166678Aに記載されている。
【0016】
間接競合法では、例えば、標的抗原(本発明ではGPC3)を固相化する。次いで、固相のブロッキング処理後、標的抗原を含む被検試料と、一定量の抗標的抗原抗体とを混合し、前記固相化抗原と反応させる。洗浄後、固相に結合された前記抗標的抗原抗体を定量する。これは、前記抗標的抗原抗体に対する標識した二次抗体を反応させ、洗浄後、標識量を測定することにより行うことができる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化されて標識量を測定して、検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。なお、標識二次抗体を用いずに、標識した一次抗体を用いることも可能である。間接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、上記したUS20150166678Aに記載されている。
【0017】
サンドイッチ法は、例えば、抗標的抗原抗体を固相化し、ブロッキング処理後、標的抗原を含む被検試料を反応させ、洗浄後、標的抗原に対する標識した二次抗体を反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。サンドイッチ法において、固相化した抗体を「捕捉用抗体」、標識した抗体を「検出用抗体」とも称する。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化された標識量を測定して、検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。サンドイッチ法自体はこの分野において周知であり、例えば、US20150309016Aに記載されている。
【0018】
上記した各種イムノアッセイのうち、化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、酵素イムノアッセイ法(EIA)、放射イムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)は、上記した直接競合法、間接競合法、サンドイッチ法等を行う際に用いる標識の種類に基づいて分類したイムノアッセイである。化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)は、標識として酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ)を用い、基質として化学発光性化合物を生じる基質(例えば、AMPPD)を用いた、イムノアッセイである。酵素イムノアッセイ法(EIA)は、標識として酵素(例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ等)を用いるイムノアッセイである。各酵素の基質としては、吸光度測定等により定量可能な化合物が用いられる。例えば、ペルオキシダーゼの場合には、1,2-フェニレンジアミン(OPD)や3,3',5,5'-テトラメチルベンチジン(TMB)等、アルカリフォスファターゼの場合には、p-ニトロフェニルフォスフェート(pNPP)等、β-ガラクトシダーゼの場合には、MG:4-メチルウンベリフェリルガラクトシド、NG:ニトロフェニルガラクトシド等、ルシフェラーゼの場合には、ルシフェリン等が用いられる。放射イムノアッセイ(RIA)は、標識として放射性物質を用いる方法であり、放射性物質としては、H、14C、32P、35S、125I等の放射性元素が挙げられる。蛍光イムノアッセイ(FIA)は、標識として蛍光物質または蛍光タンパク質を用いる方法であり、蛍光物質または蛍光タンパク質としては、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質等が挙げられる。これらの標識を用いるイムノアッセイ自体はこの分野において周知であり、例えば、US8039223BやUS20150309016Aに記載されている。
【0019】
免疫比濁法(TIA)は、例えば、測定すべき標的抗原(本発明ではGPC3)と、該抗原に対する抗体との結合により生成された抗原抗体複合物により濁度が増大する現象を利用したイムノアッセイである。抗標的抗原抗体溶液に、種々の既知濃度の抗原を添加し、それぞれ濁度を測定し、検量線を作成する。未知の被検試料について、同様に濁度を測定し、測定された濁度を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。免疫比濁法自体は周知であり、例えば、US20140186238Aに記載されている。ラテックス凝集法は、免疫比濁法と類似しているが、免疫比濁法における抗体溶液に代えて、表面に抗標的抗原抗体を固定化したラテックス粒子の浮遊液を用いる方法である。免疫比濁法及びラテックス凝集法自体はこの分野において周知であり、例えば、US7820398Bに記載されている。
【0020】
イムノクロマトグラフィー法は、ろ紙、セルロースメンブレン、ガラス繊維、不織布等の多孔性材料で形成された基体(マトリックスやストリップとも呼ばれる)上で上記したサンドイッチ法や競合法を行う方法である。例えば、サンドイッチ法によるイムノクロマトグラフィー法の場合、抗標的抗原抗体を固定化した検出ゾーンを上記基体上に設け、標的抗原を含む被検試料を基体に添加し、上流側から展開液を流して標的抗原を検出ゾーンまで移動させ、検出ゾーンに固定化させる。固定化された標的抗原を、標識した二次抗体でサンドイッチして、検出ゾーンに固定化された標識を検出することにより、被検試料中の標的抗原を検出する。標識二次抗体を含む標識ゾーンを検出ゾーンよりも上流側に形成しておくことにより、標的抗原と標識二次抗体との結合体が検出ゾーンに固定化される。標識が酵素の場合には、酵素の基質を含めた基質ゾーンも検出ゾーンよりも上流側に設けられる。競合法の場合には、例えば、検出ゾーンに標的抗原を固定化しておき、被検試料中の標的抗原と、検出ゾーンに固定化された標的抗原とを競合させることができる。検出ゾーンよりも上流側に標識抗体ゾーンを設けておき、被検試料中の標的抗原と標識抗体を反応させ、未反応の標識抗体を検出ゾーンに固定化して標識を検出又は定量することにより、被検試料中の標的抗原を検出又は定量することができる。イムノクロマトグラフィー法自体は、この分野において周知であり、例えばUS6210898Bに記載されている。
【0021】
上記した各種イムノアッセイのうち、検出感度及び自動化の容易性の観点から、サンドイッチ法、特に、固相として磁性粒子を用い、標識として酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ)を用い、基質として化学発光性化合物を生じる基質(例えば、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD))を用いるイムノアッセイである化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)が好ましい。なお、上記のとおり、GPC3は、肝細胞がんのマーカーとして利用されているので、GPC3をイムノアッセイするキット及び装置は既に市販されており、このような市販のキット(FujiRebio Diagnostics AB社製のCanAg Glypican‐3 EIA)及び装置を用いて本願発明の方法を好ましく行うこともできる。
【0022】
サンドイッチ法によりGPC3をイムノアッセイする場合、2種類の抗体、好ましくは2種類のモノクローナル抗体が用いられる。2種類の抗体は、両者ともGPC3のN末端側サブユニットに特異的に結合するものであってもよいし(以下、「N-N型」と記載することがある)、両者ともC末端側サブユニットに特異的に結合するものであってもよいし、一方がN末端側サブユニットに特異的に結合するもので他方がC末端側サブユニットに特異的に結合するもの(以下、「N-C型」と記載することがある)であってもよい。
【0023】
本発明の方法により検出される腎疾患としては、特に限定されないが、慢性腎疾患(CKD)が好ましい。慢性腎疾患の原疾患は限定されるものではなく、慢性腎疾患であれば検出可能である。慢性腎疾患は、血清クレアチニン値と年齢と性別から計算される推算糸球体濾過量(GFR)に基づき、ステージ1~ステージ4まで分類されている。慢性腎臓病において、L-FABPはステージが後期になるほど尿中の値が高値になることが知られている。そのため、初期ステージの慢性腎臓病患者の検体の一部では、L-FABPの値が基準値よりも低くなることがある。これに対して、下記実施例に具体的に示されるとおり、尿中のGPC3は初期ステージであっても健常者と比較して顕著に低下するので、本願発明によれば、慢性腎疾患をステージ1でも早期に検出することが可能である。
【0024】
本発明の方法は、L-FABPの代わりに、又はL-FABPと共に、慢性腎臓病疾患の検出に用いることができる。
【0025】
下記実施例に具体的に記載されるとおり、腎疾患患者では、尿中のGPC3濃度が健常者と比較して大幅に低い。したがって、本発明の方法では、尿検体中のGPC3の濃度が健常者よりも低いことが、腎疾患に罹患している可能性が高いことを示す。このため、尿検体中のGPC3の濃度が、あるカットオフ値以下である場合に、腎疾患に罹患している可能性が高いと判定することが可能となる。サンドイッチ法におけるカットオフ値としては、N-N型の場合には、通常、1600 pg/mL~9600 pg/mLの範囲内、好ましくは2000 pg/mL~8000 pg/mLの範囲内、さらに好ましくは6000 pg/mL~8000 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値を挙げることができる。また、N-C型の場合には、通常、1200 pg/mL~9600 pg/mLの範囲内、好ましくは1200 pg/mL~2400 pg/mLの範囲内、さらに好ましくは1500 pg/mL~2000 pg/mLの範囲内にあるいずれかの数値を挙げることができる。なお、カットオフ値は、腎疾患患者及び健常者の集団や、用いる抗体の結合親和性等により適切に設定することが可能であり、必ずしも、上記範囲内にある必要はない。
【0026】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0027】
[参考例1] 抗GPC3抗体A固相化粒子液の調製
10mM MES緩衝液(pH5.0)中で磁性粒子0.01g/mLに、GPC3のN末端側サブユニットを認識する抗GPC3抗体Aを0.2mg/mLになるように添加し、5℃で1時間ゆるやかに攪拌しながらインキュベートした。反応後、磁性粒子を磁石で集磁し、磁性粒子を洗浄液(50mMトリス緩衝液、150mM NaCl、2.0%BSA、pH7.2)にて洗浄し、抗GPC3抗体A固相化粒子を得た。測定時には、抗GPC3抗体A固相化粒子を粒子希釈液(50mM Tris緩衝液、1mM EDTA2Na、0.1% NaN、2.0%BSA、pH7.2)に懸濁し、抗GPC3抗体A固相化粒子液とした。
【0028】
[参考例2] アルカリホスファターゼ標識抗GPC3抗体液の調製
脱塩したアルカリホスファターゼ(ALP)とN-(4-マレイミドブチリロキシ)-スクシンイミド(GMBS)(終濃度0.3mg/mL)を混合し、30℃で1時間静置してマレイミド化ALPを得た。次いで、カップリング用反応液(100mMリン酸緩衝液、1mM EDTA2Na、pH6.3)中で、Fab´化されたGPC3のN末端側サブユニットを認識する抗GPC3抗体Bと、マレイミド化ALPとを1:1のモル比で混合し、25℃で1時間反応させた。反応させた抗体とALPの混合液を、Superdex200 10/300(商品名、GE社製)のカラムクロマトグラフィーを用いて、精製用緩衝液(50mM MES緩衝液、150mM NaCl、0.1%NaN、pH8.0)で、流速0.5mL/minで主要ピークを分取して精製し、ALP標識抗GPC3抗体Bを得た。測定時には、ALP標識抗GPC3抗体Bを標識体希釈液(50mM MES緩衝液、150mM NaCl、0.3mM ZnCl、1mM MgCl、0.1% NaN、2.0% BSA、pH6.8)に懸濁し、アルカリホスファターゼ標識抗GPC3抗体B液とした。
【0029】
アルカリホスファターゼ標識抗GPC3抗体C液は、GPC3のN末端側サブユニットを認識する抗GPC3抗体Bの代わりに、GPC3のC末端側サブユニットを認識する抗GPC3抗体Cを用いる以外は、上記と同様の方法で調製した。これをアルカリホスファターゼ標識抗GPC3抗体C液とした。
【0030】
[実施例1]健常人及び慢性腎疾患患者の尿検体におけるGPC3の測定
測定対象として、健常人由来の尿検体である陰性尿検体5例(以下、陰性尿検体)および、慢性腎疾患患者の尿検体であって、腎臓機能の指標となるGFRが低値の検体(Bioreclamation IVTLLC)19例(以下、慢性腎疾患患者の尿検体)を用いた。年齢の幅は43歳~86歳であり、性別は男性が7例、女性が12例であった。
【0031】
測定のキャリブレータとして、GPC3抗原(購入:R&D Systems、濃度:0、10、100、1,000、10,000pg/mL)を使用した。
【0032】
陰性尿検体および慢性腎疾患患者の尿検体中のGPC3の濃度は、2種の測定系で評価した。1つは抗GPC3抗体A固相化粒子とALP標識抗GPC3抗体Bとを組合せた測定系であり(A-B測定系)、もう1つは抗GPC3抗体A固相化粒子とALP標識抗GPC3抗体Cとを組合せた測定系である(A-C測定系)。
【0033】
A-B測定系を以下に示す。抗GPC3抗体A固相化粒子液50μLを分注し、検体と混合した。その後、37℃で8分間インキュベーションし、キュベット内の粒子を磁石で集磁し、キュベット内を洗浄液(0.05% Tween20(商品名)/PBS)にて洗浄した。アルカリホスファターゼ標識抗GPC3抗体B液50μLを反応槽に分注し、攪拌後37℃で8分間インキュベーションし、キュベット内の粒子を磁石で集磁し、キュベット内を洗浄液にて洗浄した。その後、化学発光基質である3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD)を含むルミパルス(登録商標)基質液200μLを反応槽に分注し、攪拌後37℃で4分間インキュベーションした後、発光量(カウント)をルミノメーターで測定した。測定は全自動化学発光酵素免疫測定システム(ルミパルスL2400(富士レビオ社製))にて行った。キャリブレータのカウントを用いてそれぞれの検量線を作成し、GPC3濃度を算出した。
【0034】
A-C測定系は、アルカリホスファターゼ標識抗GPC3抗体B液の代わりにアルカリホスファターゼ標識抗GPC3抗体C液を用いる以外は、上記と同様の方法で、キャリブレータ及び検体中のGPC3の測定を行った。
【0035】
A-B測定系及びA-C測定系で測定した、陰性尿検体の測定値、測定値の平均値、及び低下率を表1Aに示す。そして、慢性腎疾患患者の尿検体の測定値、測定値の平均値、性別、年齢、CKDステージを表1Bに示す。CKDステージとは、慢性腎臓病(CKD)の進行の程度を表し、数字が小さいほど軽度であることを示す。
【0036】
低下率(%)は、「100-(慢性腎疾患患者の尿検体の平均値の測定値/陰性尿検体の平均値の測定値)×100」によって算出された値である。GPC3測定における慢性腎疾患の尿検体への影響を評価するため、2種の測定系(A-B、A-C測定系)での低下率を算出した。
【0037】
【表1A】
【0038】
【表1B】
【0039】
表1A及び表1Bに示すように、慢性腎疾患患者の尿検体中のGPC3の測定値は、陰性尿検体中のGPC3の測定値と比較して低い値を示した。A-B測定系では、低下率86%であり、A-C測定系では、低下率97%であった。慢性腎疾患患者の尿検体中のGPC3の測定値の低下は、CKDステージが「1」である検体No.1~6においても有意に低値であった。
【0040】
GPC3測定値500pg/mLから8500ng/mLの範囲にカットオフ値を定めた場合の、慢性腎疾患患者の尿検体19例と健常人の陰性尿検体5例の、A-B測定系とA-C測定系での陽性検体数及び感度を表2に示した。感度は、「陽性検体数/慢性腎疾患検体数(19例)×100(%)」によって算出された。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に示すように、カットオフ値を、GPC3測定値2000~8000pg/mLに設定したとき、A-B測定系及びA-C測定系いずれでも感度が74%以上であった。GPC3のN末端側サブユニットを認識する抗体でGPC3を測定する測定系であっても(GPC3N末端側測定系)、GPC3のN末端側サブユニットを認識する抗体とGPC3のC末端側サブユニットを認識する抗体とで、GPC3を測定する測定系であっても(GPC3N末端及びC末端側側測定系)、陰性尿検体と慢性腎疾患患者の尿検体のGPC3測定値に差があり、両者を区別可能であり、慢性腎疾患の評価マーカーとしてGPC3の測定値の確認が有用であることを示す。
【0043】
さらに、A-B測定系では、カットオフ値を6000~8000pg/mLに設定すると、感度が95%以上になるため、非常に高い割合で、慢性腎疾患を診断することが可能であることが明らかとなった。一方、A-C測定系では、カットオフ値を1500~2000pg/mLに設定すると、感度が95%以上になるため、非常に高い割合で、慢性腎疾患を診断することが可能であることが明らかとなった。
【0044】
これらの結果から、検体中のGPC3を測定することによって、慢性腎疾患の診断が可能であることが示された。本発明の方法によれば、GPC3測定値から、CKDステージが「1」の慢性腎疾患患者であっても、診断することができる。
【配列表】
2023167862000001.app