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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167904
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】放射線測定装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/167 20060101AFI20231116BHJP
   G01T 1/20 20060101ALI20231116BHJP
   G01T 1/203 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01T1/167 A
G01T1/20 B
G01T1/203
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079444
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】522291773
【氏名又は名称】日本レイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】押切 恵介
(72)【発明者】
【氏名】花谷 智則
【テーマコード(参考)】
2G188
【Fターム(参考)】
2G188AA12
2G188BB05
2G188BB06
2G188BB15
2G188CC10
2G188CC12
2G188CC15
2G188CC18
2G188CC21
2G188DD30
2G188DD43
2G188EE06
2G188EE07
2G188EE12
2G188EE16
2G188EE17
2G188EE25
2G188FF02
(57)【要約】
【課題】放射線測定のためのシンチレータ部材(集合体)の表面積を増大させる。液体試料中での自己吸収の影響を低減する。
【解決手段】容器16内に集合体22が収容される。集合体22は、複数のシンチレータ要素により構成される。各シンチレータ要素は、線状又は帯状の細長い形態を有し、また柔軟性を有する。集合体22それ自体が変形性を有する。集合体22の内部には複雑な細かい隙間網23が生じ、その隙間網23が液体試料で満たされる。液体試料はトリチウムを含有する水である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料が入れられる容器と、
前記容器内に配置され、複数のシンチレータ要素からなる集合体と、
前記液体試料からの放射線が前記集合体に到達することにより生じた光を検出する検出部と、
を含み、
前記各シンチレータ要素は細長い形態を有し且つ柔軟性を有し、
前記集合体の内部に生じた隙間網が前記液体試料により満たされる、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の放射線測定装置において、
前記集合体はそれ全体として変形性を有し、
前記集合体は前記容器の内面の形状に従う外形を有する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の放射線測定装置において、
前記集合体において前記複数のシンチレータ要素が絡み合っており、
前記隙間網が前記集合体の内部で生じた光を拡散させる、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
請求項1記載の放射線測定装置において、
前記容器は前記集合体を収容した収容空間を有し、
前記収容空間に対する前記集合体の体積割合は5~80%の範囲内にある、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項5】
請求項1記載の放射線測定装置において、
前記各シンチレータ要素は線状の形態を有する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の放射線測定装置において、
前記各シンチレータ要素の直径は3μmから80μmの範囲内にある、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項7】
請求項1記載の放射線測定装置において、
前記各シンチレータ要素は帯状の形態を有する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項8】
請求項7記載の放射線測定装置において、
前記各シンチレータ要素の厚みは3μm~80μmの範囲内にある、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項9】
請求項1記載の放射線測定装置において、
前記容器内へ前記液体試料を注入するための注入管と、
前記容器内から前記液体試料を排出するための排出管と、
を含むことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項10】
請求項9記載の放射線測定装置において、
前記排出管の入口開口への前記液体試料の到達を許容しつつ前記排出管の入口開口から前記集合体を隔てる隔離構造を含む、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項11】
請求項1記載の放射線測定装置において、
前記液体試料にはトリチウムが含まれ、
前記放射線は前記トリチウムから放出されるβ線である、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項12】
容器内に複数のシンチレータ要素からなる集合体を配置すると共に前記容器内にトリチウムを含む液体試料を注入する工程と、
前記トリチウムからのβ線が前記集合体に到達することにより生じた光を検出する工程と、
を含み、
前記各シンチレータ要素は細長い形態を有し且つ柔軟性を有し、
前記集合体において前記複数のシンチレータ要素が互いに絡み合っており、
前記集合体の内部に生じた隙間網が前記液体試料により満たされる、
ことを特徴とする放射線測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線測定装置及び方法に関し、特に、シンチレータを用いた放射線測定に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料中の放射性同位元素の濃度(放射能)を測定する方法として、液体シンチレータを用いる第1の方法、及び、プラスチックシンチレータを用いる第2の方法が挙げられる。第1の方法を採用した場合、高感度測定を実現できるが、測定後に生じる廃液の処理が問題となる。また、第1の方法を採用した場合、大量の液体試料を連続的に測定することが困難である。
【0003】
第2の方法を採用した場合、廃液が生じず、また、大量の液体試料を連続的に測定し得る。しかし、第2の方法では、特に、従来提案されている第2の方法では、高感度測定が困難である。例えば、液体試料に含まれるトリチウムの放射能の測定において、1500Bq/Lといった、かなり小さな検出限界が要求された場合、従来提案されているプラスチックシンチレータを用いて当該要求を満たすことは難しい。トリチウムから出るβ線のエネルギーは非常に低く、水中において、そのβ線の飛程は10μm以下(5~6μm程度)しかない。トリチウムから出るβ線のほとんどが、プラスチックシンチレータの表面に到達する前に、液体試料それ自身に吸収されてしまう。その現象は、自己吸収と呼ばれている。トリチウム以外の放射性同位元素から放出される放射線(α線、β線)を検出する場合においても、検出限界を引き下げることが求められている。
【0004】
特許文献1には、バイアル内に配置される複数のシンチレータプレートを用いた放射線測定方法が開示されている。特許文献2には、バイアル内に配置される複数のシンチレータペレットを用いた放射線測定方法が開示されている。特許文献3には、フローセル内に配置される複数のシンチレータプレートを用いた放射線測定方法が開示されている。特許文献1~3に開示された技術において、個々のシンチレータ要素(シンチレータプレート又はシンチレータペレット)は、ある程度の厚みを有している。個々のシンチレータ要素は柔軟性又は変形性を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-91159号公報
【特許文献2】特開2016-24133号公報
【特許文献3】特開昭63-32390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の目的は、放射線測定のためのシンチレータ部材の表面積を増大させることにある。あるいは、本開示の目的は、液体試料中での自己吸収の影響を低減させることにある。あるいは、本開示の目的は、容器内において自然に広がり且つ細かい複雑な隙間網を生じさせるシンチレータ部材を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る放射線測定装置は、液体試料が入れられる容器と、前記容器内に配置され、複数のシンチレータ要素からなる集合体と、前記液体試料からの放射線が前記集合体に到達することにより生じた光を検出する検出部と、を含み、前記各シンチレータ要素は細長い形態を有し且つ柔軟性を有し、前記集合体の内部に生じた隙間網が前記液体試料により満たされる、ことを特徴とする。
【0008】
本開示に係る放射線測定方法は、容器内に複数のシンチレータ要素からなる集合体を配置すると共に前記容器内にトリチウムを含む液体試料を注入する工程と、前記トリチウムからのβ線が前記集合体に到達することにより生じた光を検出する工程と、を含み、前記各シンチレータ要素は細長い形態を有し且つ柔軟性を有し、前記集合体において前記複数のシンチレータ要素が互いに絡み合っており、前記集合体の内部に生じた隙間網が前記液体試料により満たされる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、放射線測定のための集合体(シンチレータ部材)の表面積を増大できる。あるいは、本開示によれば、液体試料中での自己吸収の影響を低減できる。あるいは、本開示によれば、容器内において自然に広がり且つ細かい複雑な隙間網を生じさせる集合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る放射線測定装置の構成を示す図である。
図2】第1実施例に係る集合体を示す断面図である。
図3】隔離構造の第1例を示す断面図である。
図4】信号処理回路の構成例を示すブロック図である。
図5】測定動作例を示す図である。
図6】隔離構造の第2例を示す断面図である。
図7】隔離構造の第3例を示す断面図である。
図8】複数の区画を示す図である。
図9】測定部の変形例を示す図である。
図10】第2実施例に係る集合体を示す図である。
図11】第2実施例に係るシンチレータ要素の製作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る放射線測定装置は、容器、集合体、及び、検出部を有する。容器には、液体試料が入れられる。集合体は、容器内に配置され、複数のシンチレータ要素からなる。検出部は、液体試料からの放射線が集合体に到達することにより生じた光を検出する。各シンチレータ要素は、細長い形態を有し、且つ、柔軟性を有する。集合体の内部に生じた隙間網が液体試料により満たされる。
【0013】
上記構成によれば、集合体(隙間網を除いた実質部分)の表面積を増大でき、また、集合体の内部に細かい複雑な隙間網が生じる。よって、放射線の検出感度を高められる。上記構成は、α線やβ線を検出する場合に、特に、低エネルギーβ線を検出する場合に、効果的に機能する。実施形態において、液体試料は、トリチウムを含む水である。検出される放射線は、トリチウムから放出されるβ線である。
【0014】
実施形態においては、集合体はそれ全体として変形性を有する。集合体は容器の内面の形状に従う外形を有する。より詳しくは、複数のシンチレータ要素を容器の中に入れると、容器の内部空間(具体的には集合体を収容する収容空間)それ全体に広がる集合体が自然に生じる。実施形態では、集合体は弾力性を有する。容器内に集合体が圧縮状態で配置されてもよい。容器の内面の全部又は一部が集合体に接し、これにより集合体の外形が定められる。すなわち、内面の全部又は一部が成形作用を発揮する。
【0015】
実施形態においては、集合体において複数のシンチレータ要素が絡み合っている。集合体の内部で生じた光が隙間網により拡散する。複数のシンチレータの絡み合いにより、集合体の内部に生じる隙間網が複雑化する。集合体内部で生じた光を散乱させれば、検出部に到達する光の量を増大できる。細密な隙間網によれば、自己吸収の影響を低減できる。実施形態において、容器は透明性を有し、各シンチレータ要素も透明性を有する。
【0016】
実施形態において、容器は、集合体を収容する収容空間を有する。収容空間に対する集合体(隙間網を除いた実体部分)の体積割合は5~80%の範囲内にある。その体積割合を、10~70%の範囲内、又は、20~60%の範囲内としてもよい。
【0017】
実施形態において、各シンチレータ要素は線状の形態を有する。各シンチレータ要素の直径は3μmから80μmの範囲内にある。線状の形態は、糸状又は紐状の形態とも言い得る。あるいは、各シンチレータ要素は帯状の形態を有する。各シンチレータ要素の厚みは3μm~80μmの範囲内にある。帯状の形態は、リボン状の形態とも言い得る。各シンチレータ要素の長さは任意に定め得る。1本のシンチレータ要素により集合体を構成することも可能であるが、実際上は、複数のシンチレータ要素により集合体が構成される。検出対象となる放射線に応じて、各シンチレータ要素の厚みを変更してもよい。各シンチレータ要素の直径又は厚みを小さくすることにより、且つ、集合体を構成するシンチレータ要素の個数を増大させることにより、隙間網の細密さを高められ、また、集合体の表面積を増大できる。
【0018】
実施形態に係る放射線測定装置は、容器内へ液体試料を注入するための注入管と、容器内から液体試料を排出するための排出管と、を含む。液体試料を流通させながら放射線が測定されてもよいし、液体試料を断続的に流通させながら放射線が断続的に測定されてもよい。
【0019】
実施形態に係る放射線測定装置は、排出管の入口開口への液体試料の到達を許容しつつ排出管の入口開口からシンチレータ集合体を隔てる隔離構造を含む。この構成によれば、1又は複数のシンチレータ要素による入口開口の閉塞を防止できる。
【0020】
実施形態に係る放射線測定方法は、準備工程、及び、検出工程を有する。準備工程では、容器に複数のシンチレータ要素からなる集合体が配置され、また、容器内にトリチウムを含む液体試料が注入される。検出工程では、トリチウムからのβ線が集合体に到達することにより生じた光が検出される。各シンチレータ要素は、細長い形態を有し且つ柔軟性を有する。集合体において複数のシンチレータ要素が互いに絡み合っている。集合体の内部に生じた隙間網が液体試料により満たされる。
【0021】
上記構成によれば、容器内に複数のシンチレータ要素を投入する過程で、容器の内面の形状に従って集合体が自然に変形する。同時に、集合体の内部に複雑で細かい隙間網が自然に生じ、その隙間網が液体試料により満たされる。よって、液体試料から放出された放射線が、液体試料それ自体に吸収されずに、集合体の表面に達する確率を高められる。また、集合体の内部で生じた光が隙間網により拡散するので、検出器に到達する光量を増大できる。集合体が圧縮状態で配置されるならば、検出効率を高められる。
【0022】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る放射線測定装置が示されている。この放射線測定装置において、液体試料はトリチウムを含む水であり、検出される放射線はトリチウムから出る低エネルギーβ線である。他の放射性同位元素又は他の放射線が測定対象とされてもよい。実施形態においては、液体試料が連続的に測定される。
【0023】
図1において、放射線測定装置は、測定部10及び信号処理部12により構成される。測定部10は、遮蔽容器45の内部に設けられた測定室14を有する。測定室14は井戸状且つ円柱状の形態を有する。測定室14内にフローセルとして機能する容器16が配置されている。容器16は、図1に示す構成例において、円筒状の形態を有する。容器16は、透明な材料で構成されている。その材料として、ガラス、樹脂等が挙げられる。
【0024】
容器16は、内部空間としての収容空間17を有する。収容空間17は、容器16の内面(底面、側面及び天井面)により画定される空間であり、それは円筒状の形態を有する。容器16が有する内部空間の中の一部が収容空間17とされてもよい。
【0025】
収容空間17は、具体的には、集合体22を収容する空間である。集合体22は、複数のシンチレータ要素により構成されるシンチレータ部材である。各シンチレータ要素は、細長い形態を有し且つ柔軟性(屈曲性、変形性)を有する。集合体22は、第1実施例に係る集合体であり、集合体22を構成する各シンチレータ要素は、細線状の形態を有する。集合体22を構成するシンチレータ要素の個数は、数個から数千個の範囲内にあり、あるいは、数十個から数百個の範囲内にある。但し、本願明細書において挙げる数値はいずれも例示である。
【0026】
集合体22においては、複数のシンチレータ要素が不規則に絡み合っている。各シンチレータ要素は、透明性を有するプラスチックシンチレータにより構成される。すなわち、各シンチレータ要素は、放射線を光に変換する作用を発揮する。
【0027】
集合体22は、それ全体として、変形性を有する。容器16内への集合体22の配置の際に、集合体22が容器16の内面の形状に従って自然に変形する。換言すれば、集合体22が容器16内の収容空間それ全体に自然に広がる。集合体22を構成するシンチレータ要素の個数の調整により、集合体22の圧縮度あるいは隙間割合を調整し得る。集合体22の内部には、複雑で細かい隙間網が自然に生じる。
【0028】
容器16内において、液体試料中のトリチウムから放出されたベータ線が集合体22の表面に到達すると、光が生じる。その光が隙間網によって拡散される。拡散光28が複数の光電子増倍管(PMT)24,26により検出され、各PMT24,26から検出パルスが出力される。PMT24,26により検出部が構成される。3つ以上のPMTにより検出部が構成されてもよい。各PMT24,26の受光面が容器16の側面に近接した状態で対向している。
【0029】
注入管18及び排出管20が容器16の蓋(天井壁)を貫通している。注入管18は、容器16内へ液体試料を注入するためのものであり、排出管20は容器16内から外部へ液体試料を排出するためのものである。ポンプP1は注入用ポンプを示しており、ポンプP2は排出用ポンプを示している。ポンプP1及びポンプP2のいずれか一方のみを設置してもよい。
【0030】
注入管18の途中にはフィルタFが設けられている。フィルタFは、集合体22での目詰まりを防止するために、液体試料中の異物を除去するものである。なお、ポンプP1の上流側には、液体試料を貯留したタンクが設けられている。
【0031】
測定室14の周囲には、ガード検出部が設けられている。ガード検出部は、宇宙線等の高エネルギー放射線の検出に起因するノイズを除外するためのものである。ガード検出部は、具体的には、シンチレータ32及び複数のPMT34,36により構成される。高エネルギー放射線がシンチレータ32に進入すると、それにより光38が生じ、その光38が複数のPMT34,36で検出される。その場合、各PM34,36から検出パルスが出力される。
【0032】
シンチレータ32は、円柱状の形態を有し、その一部に井戸状の凹部が形成されている。その凹部が測定室14である。シンチレータ32の表面には光反射層42が形成されている。各PMT24,26の受光端部は、光反射層42に形成された開口を突き抜けている。測定室14の内面には、ライトガイド又はミラーが設けられている。PMT34,36の受光端部がシンチレータ32の内部に進入している。シンチレータ32はプラスチックシンチレータにより構成される。上記のノイズが問題とならない場合、ガード検出部を除去してもよい。
【0033】
遮蔽容器45は、一定の厚みを有する鉛により構成される。測定室14の上側には、測定室14を開閉するための蓋44が設けられている。蓋44は、遮蔽容器45の一部であり、それも鉛により構成される。
【0034】
続いて、信号処理部12について説明する。信号処理部12は、図示の構成例において、信号処理回路46、マルチチャンネルアナライザ(MCA)50、演算制御部54、表示部56、入力部58、等を含む。信号処理回路46は、集合体22において生じた光に起因する検出パルスのみを通過させ、ノイズに相当する検出パルスを遮断するものである。信号処理回路46の具体的な構成例については後に図4を用いて説明する。
【0035】
MCA50は、放射線エネルギー(β線エネルギー)ごとに検出パルスを計数し、これによりエネルギースペクトルを生成する。演算制御部54は、エネルギースペクトルに基づいて、トリチウムの濃度(放射能)を演算する。また、演算制御部54は、流量制御機能、グラフ生成機能、異常判定機能、等を備えている。
【0036】
表示部56には、測定結果であるトリチウムの放射能が表示される。入力部58を利用してユーザーにより動作条件等が設定される。表示部56及び入力部58は、例えば、タッチスクリーンパネルにより構成される。
【0037】
プラスチックシンチレータは、一般に、溶媒に対して溶質を加えることにより製作される。代表的な溶媒として、PVT_(C10、PS_(C、PMMA_(C、が挙げられる。代表的な溶質として、PPO(又はDPO)_C1511NO、PBD_C2014O、butyl-PBD_C2422O、pTP_C1814、POPOP_C2416、BDB_C3230、が挙げられる。
【0038】
図2には、容器16が示されている。容器16は、既に説明したように、透明な材料により構成され、それは本体16A及び蓋16Bからなる。容器16は円筒状の形態を有しているが、その形態を円盤状、角柱状等にしてもよい。容器16の内部は収容空間17である。収容空間17は、図示の構成例では、容器16の内面(底面、側面及び天井面)によって画定される空間である。収容空間17それ全体にわたって、第1実施例に係る集合体22が広がっている。
【0039】
既に説明したように、集合体22は、複数のシンチレータ要素22aにより構成される。各シンチレータ要素22aは、細長い形態を有し、具体的には、糸状の形態を有する。各シンチレータ要素22aは柔軟性を有し、外力により容易に変形する。その変形は、弾性変形又は塑性変形である。集合体22は、綿状又は繊維状である。
【0040】
第1実施例に係る集合体22において、各シンチレータ要素22aの直径は、例えば、3~80μmの範囲内に設定される。各シンチレータ要素22aの長さは任意に定め得る。例えば、その長さは、5mmから10mの範囲内、又は、1cm~1mの範囲内に設定され得る。その長さをある程度大きくすれば、シンチレータ要素の流出や多数のシンチレータ要素の局所密集を避けられる。集合体22の内部には、複雑で細かい隙間網23が生じる。隙間網23が液体試料で満たされる。例えば、収容空間に対する集合体(隙間網23を除いた実質部分)の体積割合は、例えば、5~80%の範囲内に設定され、又は、10~70%の範囲内に設定される。
【0041】
実施形態においては、容器16内において、集合体22が圧縮状態で配置されている。これにより集合体22の表面積が増大されており、また、隙間網23の細密さが高められている。すなわち、トリチウムから放出されるβ線が集合体22の表面に到達する確率が高められている。なお、後述するように、各シンチレータ要素を帯状としてもよい。あるいは、各シンチレータ要素を他の細長い形状(例えば、太さや幅が変化している形状)としてもよい。
【0042】
注入管18の端部、具体的には、その出口開口18Aは、容器16の底面付近に位置している。一方、排出管20の端部、具体的には、その入口開口は、容器16の天井付近に位置している。出口開口18A及び入口開口が垂直方向且つ水平方向に互いに隔てられていることから、容器16内における液体試料の置換を促進できる。つまり、部分的な滞留の発生を回避できる。排出管20の端部を囲むようにフィルタ60が設けられている。そのフィルタ60は隔離構造の第1例である。
【0043】
図3には、フィルタ60の断面が示されている。フィルタ60は、円筒状の形態を有し、排出管20の入口開口20Aを非接触で包み込んでいる。フィルタ60は、液体試料の通過を許容し、シンチレータ要素22aの通過を制限するものである。フィルタ60により、入口開口20Aの閉塞が防止される。フィルタ60は、例えば、メッシュ状の透明部材で構成される。
【0044】
図4には、信号処理回路46の構成例が示されている。同時計数回路62には、容器内で生じた光を検出する2つのPMTから出力された検出パルス24A,26Aが入力される。同時計数回路62は、検出パルス24A,26Aが同時に入力された場合に通過パルスGを出力する。パルス加算回路64は、検出パルス24A,26Aを加算し、検出パルス列70を出力する。同時計数回路66には、高エネルギー放射線を検出する2つのPMTから出力された検出パルス34A,36Aが入力される。同時計数回路66は、検出パルス34A,36Aが同時に入力された場合に棄却パルスRを出力する。
【0045】
ゲート回路68は、検出パルス列の内で、通過パルスGが得られた時点で入力された検出パルスの通過を許容する。但し、棄却パルスRが得られた時点で入力された検出パルスの通過は禁止される。これにより高エネルギー放射線の検出に起因する誤計数を回避できる。
【0046】
図5には、動作例が示されている。この動作例は、液体試料を連続的に流通させつつ液体試料中のトリチウムから出るβ線の検出を連続的に行う場合における動作を示すものである。横軸tは時間軸である。(A)及び(B)は、測定開始時に始動する液体試料注入及び液体試料排出を示している。液体試料排出の始動タイミングを遅らせてもよい。(C)が示すように、測定期間ごとに計数結果が積算され、その積算値に基づいて放射能が演算される。実際には、(D)が示すように、表示期間ごとに、例えば、k個の放射能から平均値が演算される。表示期間は、測定期間のk倍である。
【0047】
符号82が示すように、平均値が表示され、平均値に基づいて異常又は正常が判定される。平均値は測定期間ごとに更新される。また、符号80が示すように、測定期間ごとにトリチウム濃度の急峻な上昇の有無が判定される。トリチウム濃度が急に上昇した場合、異常が判定される。
【0048】
容器内の液体試料は非常にゆっくりと置換される。もちろん、測定目的や測定条件に応じて液体試料の流速が調整されてもよい。液体試料の注入、液体試料の測定、液体試料の注入、及び、容器内の洗浄からなる工程セットが繰り返し実行されてもよい。
【0049】
図1図2等に示した第1実施例に係る集合体についての検出限界は、以下のように計算される。目標検出限界は例えば1500Bq/Lである。
【0050】
シンチレータ水が満たされる容器の容積を20mlとし、バックグラウンド計数率を15cpmとする。個々のシンチレータ要素の直径を7μmとし、容器内における集合体(隙間網を除いた実質部分)の体積割合を30%とする。計算簡易化のため集合体が1本のシンチレータ要素により構成されているものと仮定する。それらのパラメータから、シンチレータ要素の長さが15,590,688cmと求まり、それに基づいて集合体の表面積が34,286cmと求まる。詳細な計算式の記載を省略するが、以上の前提の下で、測定時間を1分と仮定した場合、第1実施例についての検出限界は、1分の測定時間で、246.9Bq/Lとなる。これは、目標検出限界1500Bq/Lよりも、かなり小さな値である。実施形態によれば、短い測定時間であっても、満足できる検出限界を実現できる。
【0051】
ちなみに、容器内における集合体の体積割合を下げると、当然ながら、検出限界は高くなる。その体積割合を5%まで下げた場合、第1実施例についての検出限界は、1分の測定時間で、1481Bq/Lとなる。体積割合を5%まで下げても、目標検出限界1500Bq/Lより低い検出限界を実現できる。例えば、体積割合を50%又は60%まで高めた場合、非常に低い検出限界を実現することが可能である。実施形態によれば、体積割合の操作により、任意の検出限界を実現し得る。
【0052】
参考までに、比較例1及び比較例2について検出限界を試算してみる。比較例1として、バイアル内に配置された10枚のシンチレータプレートを用いてトリチウム含有水を測定することを想定する。バックグラウンド計数率を15cpmとし、トリチウム含有水の量を20mlとする。各シンチレータプレートのサイズを1.5×4.5×0.05cmと仮定する。その場合、10枚のシンチレータプレートの総表面積は141cmとなる。仮に、測定時間を720分(12時間)とした場合、検出限界は1725Bq/Lとなり、その検出限界は、目標検出限界1500Bq/Lには届かない。そもそも720分という測定時間は現実的ではない。
【0053】
比較例2として、バイアル内に配置された多数のシンチレータペレットを用いてトリチウム含有水を測定することを想定する。バックグラウンド計数率を15cpmとし、容器内のトリチウム水の量を8mlとする。容器内に556個のシンチレータペレットが充填され、各シンチレータペレットの形状を3×3×3mmの立方体と仮定する。その場合、シンチレータペレット集合体の総表面積は300cmとなる。仮に、測定時間を240分(4時間)とした場合、目標検出限界1500Bq/Lが達成されるが、240分という測定時間は現実的ではない。
【0054】
比較例1,2によると、検出限界を引き下げることが困難であり、あるいは、満足できる検出限界を得るためには測定時間を非常に長くする必要がある。これに対して、実施形態に係る構成によれば、短時間の測定であっても、かなり低い検出限界を容易に実現することが可能である。
【0055】
図6には、隔離構造の第1変形例であるフィルタユニット84が示されている。フィルタユニット84は、排出管20の端部に着脱可能に装着される。フィルタユニット84は、筒状の本体86を有する。本体86の上部に形成された開口部に排出管20の端部が差し込まれている。端部と本体86は螺合している。排出管20の端部と本体86の内部段差との間にフィルタ88が挟み込まれている。具体的には、入口開口20Aを覆うようにフィルタ88が設けられている。フィルタ88は、液体試料を通過させ、異物の通過を禁止する作用を発揮する。本体86は、集合体をせき止めており、集合体が入口開口20Aを塞ぐことを防止している。仮に、シンチレータ要素又はその破片がフィルタユニット84内に進入しても、それが入口開口20A内に進入することはない。
【0056】
図7には、隔壁構造の第2変形例が示されている。容器16の内部空間がメッシュ状の隔壁90によって2つの部分空間92,94に仕切られている。部分空間92は、集合体22を収容した収容空間である。部分空間92の下部に注入管18の端部が設けられている。隔壁90は、液体試料の透過を許容し、集合体の移動を制限するものである。
【0057】
部分空間94は、集合体22を含まない上部空間であり、その内部には排出管20の端部が設けられている。隔壁90によって、排出管20の入口開口が集合体22から隔てられており、集合体22による入口開口の閉塞が回避されている。この構成を採用する場合、収容空間である部分空間92の中間高さに各PMTの受光面の中心が合うように、2つのPMTが配置される。
【0058】
図8には、容器16の内部に配置された2つのメッシュ部材96,98が示されている。2つのメッシュ部材96,98により、容器16内の収容空間が3つの区画100A,100B,100Cに分けられている。3つの区画100A,100B,100C内に、集合体22を構成する3つの部分22A,22B,22Cが収容されている。各メッシュ部材96,98は、液体試料の透過を許容し、シンチレータ要素の透過を制限するものである。図8に示す構成によれば、容器16内での集合体22の片寄りや潰れを防止できる。
【0059】
図9には、測定部の変形例が示されている。容器102は立方体形状を有し、その内部には複数のシンチレータ要素からなる集合体104が配置されている。容器102の上面板を貫通する注入管が設けられ、容器102の下面板を貫通する排出管が設けられている。第1PMT106の受光面が容器102における第1側面に対向している。第2PMT108の受光面が容器102における第2側面に対向している。
【0060】
図10には、第2実施例に係る集合体116が示されている。集合体116は容器114の内部それ全体に広がっており、集合体116は複数のシンチレータ要素116aにより構成される。各シンチレータ要素116aは、細長い帯状の形態を有する。その長さは任意に定め得る。各シンチレータ要素の厚みは、例えば、3~80μmの範囲内に定められる。その横幅は例えば3mm~2cmの範囲内に定められる。複数のシンチレータ要素116aの絡み合いの結果、集合体116の中には、複雑な細かい隙間網117が生じる。隙間網117が液体試料で満たされる。
【0061】
図11には、第2実施例に係るシンチレータ要素の製作方法が示されている。旋盤118によりインゴット120が保持されている。インゴット120は、プラスチックシンチレータにより構成される。インゴット120を回転させながら、それに対して刃物の先端が当てられる。これにより、一定の厚さを有する薄皮状又はリボン状のシンチレータ要素が製作される。
【0062】
第2実施例に係る集合体について検出限界を計算してみる。容器の容量を20mlとし、バックグラウンド計数率を15cpmとし、容器内のトリチウム水の量が8mlであり、容器内に44,444個のシンチレータ要素が設けられているとする。各シンチレータのサイズが幅1.5mm、長さ4.5mm、厚み50μmであると仮定する。その場合、容器内の集合体の表面積は6,267cmとなる。測定時間を1分と仮定すると、検出限界が1351Bq/Lと求められる。これは目標検出限界を下回る数値である。このように、線状のシンチレータ要素に代えて帯状のシンチレータ要素を採用しても、トリチウムからのβ線の高感度測定を行える。
【0063】
上記集合体をフローセルではなくバイアル内に配置してもよい。集合体が劣化した場合、集合体が交換されてもよい。例えば、外部線源からの放射線を集合体に照射した場合における測定結果から、集合体の劣化度が評価されてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10 測定部、12 信号処理部、16 容器、17 収容空間、18 注入管、20 排出管、22 集合体、22a シンチレータ要素、23 隙間網。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11