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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167905
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電気コネクター
(51)【国際特許分類】
   H01R 11/01 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
H01R11/01 501G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079445
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】土屋 昌俊
(57)【要約】
【課題】使用時に発生する金属やエラストマーの削りカスを容易に除去することが可能な電気コネクターを提供する。
【解決手段】エラストマー製の基材シートと、前記基材シートを厚さ方向に貫通する複数の金属細線と、を備えた電気コネクターであって、前記基材シートの少なくとも一方の面にDLC層が設けられている、電気コネクター。前記基材シートに形成されたDLC層のマルテンス硬さは1.70~2.50N/mm好ましい。前記基材シートに形成されたDLC層の動摩擦係数は0.350以下が好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー製の基材シートと、前記基材シートを厚さ方向に貫通する複数の金属細線と、を備えた電気コネクターであって、
前記基材シートの少なくとも一方の面にDLC層が設けられている、電気コネクター。
【請求項2】
前記基材シートに形成されたDLC層のマルテンス硬さが1.70~2.50N/mmである、請求項1に記載の電気コネクター。
【請求項3】
前記基材シートに形成されたDLC層の動摩擦係数が0.350以下である、請求項1に記載の電気コネクター。
【請求項4】
前記一方の面のDLC層が形成された表面の平面視において、前記基材シートを構成するエラストマー部分に形成されたDLC層の炭素濃度の方が、前記金属細線の端面に形成されたDLC層の炭素濃度よりも高い、請求項1に記載の電気コネクター。
【請求項5】
前記金属細線の端面が前記DLC層の面一から突出している、請求項4に記載の電気コネクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気コネクターに関する。
【背景技術】
【0002】
表面実装型の半導体デバイスと回路基板の接続を検査する際に、圧接型のコネクターが用いられることがある。圧接型コネクターの一例として、中空化された導電線を有する電気コネクターが挙げられる(特許文献1)。その導電線の先端は中空化されて柔軟になっているので、圧接するデバイスの電極(電極端子)が電気コネクターの導電線との接触によって傷つくことが低減されている。また、中空化された導電線の先端にエラストマーが充填され、耐久性が向上した電気コネクターも開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/212277号
【特許文献2】特開2022-047035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気コネクターの導電線に対してデバイスの電極端子の圧接を繰り返すと、導電線又は電極端子に由来する削りカスが発生する。この削りカスはその後の使用に邪魔となるが、圧接型コネクターの本体がエラストマー製であると、本体の表面に削りカスが付着してしまい、容易には除去できない問題がある。また、本体がエラストマー製であると、デバイスの電極端子が圧接される際に本体が擦られて、エラストマーの削りカスが発生する問題がある。
【0005】
本発明は、使用時に発生する金属やエラストマーの削りカスを容易に除去することが可能な電気コネクターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] エラストマー製の基材シートと、前記基材シートを厚さ方向に貫通する複数の金属細線と、を備えた電気コネクターであって、前記基材シートの少なくとも一方の面にDLC層が設けられている、電気コネクター。
[2] 前記基材シートに形成されたDLC層のマルテンス硬さが1.70~2.50N/mmである、[1]に記載の電気コネクター。
[3] 前記基材シートに形成されたDLC層の動摩擦係数が0.350以下である、[1]に記載の電気コネクター。
[4] 前記一方の面のDLC層が形成された表面の平面視において、前記基材シートを構成するエラストマー部分に形成されたDLC層の炭素濃度の方が、前記金属細線の端面に形成されたDLC層の炭素濃度よりも高い、[1]に記載の電気コネクター。
[5] 前記金属細線の端面が前記DLC層の面一から突出している、[4]に記載の電気コネクター。
【発明の効果】
【0007】
本発明の電気コネクターにあっては、エラストマー製の基材シートの表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)層が設けられているので、削りカスがエラストマー製の表面に付着せず、DLC層の上に乗る。DLC層の表面はエラストマーに比べてタック性(粘着性)が低いので、DLC層に乗った削りカスをエアブロウ等で容易に除去することができる。また、DLC層はエラストマーに比べて表面硬度が高いので、削りカスがDLC層の表面に突き刺さることを防止できる。また、DLC層はエラストマーに比べて動摩擦係数が低いので、圧接時に電極端子が擦れてもエラストマーの削りカスの発生を低減することができる。さらに、DLC層をエラストマー製の基材シートの表面に設けたことにより、エラストマーに由来する化学成分が表面に滲出したとしても、DLC層がその表面を覆っているので、化学成分がデバイスの電極端子に付着することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】比較例1の電気コネクターの金属細線の端面のSEM像と、そのSEM像に重ねた炭素原子のマッピング像(明るい部分が炭素原子)である。
図2】実施例1の電気コネクターの金属細線の端面のSEM像と、そのSEM像に重ねた炭素原子のマッピング像(明るい部分が炭素原子)である。
図3】実施例2の電気コネクターの金属細線の端面のSEM像と、そのSEM像に重ねた炭素原子のマッピング像(明るい部分が炭素原子)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一態様は、エラストマー製の基材シートと、前記基材シートを厚さ方向に貫通する複数の金属細線と、を備えた異方導電性の電気コネクターである。前記基材シートの少なくとも一方の面にDLC層が設けられている。
【0010】
電気コネクターは、第一デバイスの接続端子と第二デバイスの接続端子との間に配置され、これらを電気的に接続するために使用するためのものである。電気コネクターにおいて、金属細線は、第一デバイスの接続端子と第二デバイスの接続端子の電気的接続を行う線状の部材である。基材シートの両面に露出している金属細線の両端部は、各デバイスの電極端子に接触する。各デバイスとしては、例えば、半導体パッケージ、回路基板、シリコーンウエハー、受動部品、液晶モジュール及びセンサー等が挙げられる。
【0011】
基材シートは、その厚さ方向に沿って貫通する複数の貫通孔を有する。各貫通孔の内壁に1つの金属細線が接合されている。「接合」とは、貫通孔の内壁に金属細線の少なくとも一部が接し、保持されている状態を意味する。
【0012】
基材シートにおける金属細線を設ける位置、すなわち、基材シートにおける貫通孔の配置や数は、特に限定されず、電気コネクターによって電気的に接続される2つのデバイスの接続端子の配置や数、圧接に必要とされる押圧力等に応じて適宜調整される。電気コネクターの全体を均一にする観点から、基材シートにおいて、金属細線及び貫通孔が等間隔に設けられていることが好ましい。
【0013】
各貫通孔は、基材シートを、その厚さ方向に対して平行または斜めに貫通する。「基材シートの厚さ方向」とは、主面に対して垂直な方向を意味する。「主面」とは、面積が最も広い面を意味する。
貫通孔が、基材シートを、その厚さ方向に対して斜めに貫通する場合、一方の主面の垂線に対する貫通孔の基材シートの厚さ方向に対する鋭角側の角度は、0°超60°以下が好ましく、1°以上60°以下がより好ましく、10°以上30°以下がさらに好ましい。上記角度の範囲であると、小さい荷重で安定した接続が得られやすく、接続するデバイスの端子を傷付けるおそれが少ない。貫通孔の基材シートの厚さ方向に対する角度は、電気コネクターによって電気的に接続される2つのデバイスの接続端子の配置等に応じて適宜調整される。ここで貫通孔の基材シートの厚さ方向に対する角度は、金属細線を備えた5つ以上の貫通孔について、基材シートの断面を測定顕微鏡等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて測定し、平均した値である。
【0014】
貫通孔の形状、すなわち、貫通孔の長手方向と垂直な断面の形状は、特に限定されず、貫通孔に接合する金属細線の断面の形状に応じて適宜設定され、例えば、円形、楕円形、三角形、正方形、長方形、五角形以上の多角形等が挙げられる。
【0015】
貫通孔の孔径は特に限定されず、貫通孔に接合される金属細線の直径に応じて適宜設定され、例えば、5μm~300μmが挙げられる。貫通孔の形状が円形以外である場合には、貫通孔の孔径は、貫通孔の外縁(開口部の縁部)の最も幅広い部分の長さとする。
貫通孔の孔径は、基材シートの主面に開口する5つ以上の貫通孔について、測定顕微鏡等の拡大観察手段で観察して得た画像に基づいて測定し、平均した値である。
【0016】
基材シートの厚さは、例えば、20μm~5000μm、40μm~1000μm、60μm~500μm等の範囲が挙げられる。上記範囲の下限値以上であると、電気コネクターの機械的強度や剛性が向上し、取り扱いが容易になる。上記範囲の上限値以下であると、金属細線の長さが高周波特性の向上に適したものとなりやすい。
基材シートの厚さは、無作為に選択される5箇所以上の厚さを、測定顕微鏡等の拡大観察手段で測定し、平均した値である。
【0017】
基材シートの材料は公知のエラストマーから任意に選択することができ、例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム等の合成ゴム等が挙げられる。これらの中でも、高弾性で耐熱性に優れる点から、シリコーンゴムが好ましい。
【0018】
金属細線は、貫通孔の内壁に接合され、基材シートの厚さ方向に対して垂直又は斜めに延在し、電気コネクターの各主面に露出する金属細線の各先端に接続されたデバイスの電極端子同士を電気的に接続する導電性の部材である。金属細線は中実の金属線であってもよいし、中空の金属線であってもよい。中空である場合、金属細線の長手方向に見て、全体が中空であってもよいし、端部のみが中空で、中央部が中実であってもよい。金属細線の少なくとも一方の端部が中空であることにより、デバイスの電極端子が圧接されたときの押圧力を、中空の端部が有する柔軟性により緩和することができる。
【0019】
金属細線の直径は特に限定されず、例えば、5μm~300μm、5μm~100μm、5μm~50μm等の範囲が挙げられる。
上記範囲の下限値以上であると金属細線の電気抵抗が過度に高くなることを防止できる。上記範囲の上限値以下であると金属細線の剛性が適度となり、デバイスの電極端子の傷付きを低減できる。
金属細線の形状が円形以外である場合には、金属細線の直径は、金属細線の長手方向と垂直な断面における、外縁の最も幅広い部分の長さとする。
前記直径は、複数の金属細線から無作為に選択される5本以上の金属細線について、測定顕微鏡等の拡大観察手段で5箇所以上の直径を測定し、平均した値である。
【0020】
基材シートの何れかの主面の平面視において、隣接する2つの金属細線同士の間隔、すなわち、金属細線同士の中心間距離(ピッチ)は、例えば、6μm~1000μmが挙げられる。ここで、前記中心間距離は、電気コネクターにおける基材シートの主面を平面視し、複数の金属細線から無作為に選択される5組以上の互いに隣接する金属細線について、測定顕微鏡等の観察手段により測定し、平均した値である。
【0021】
金属細線の一方の端面(先端)は基材シートの一方の主面に位置してもよいし、一方の主面から突出した上方に位置してもよい。また、金属細線の他方の端面は基材シートの他方の主面に位置してもよいし、他方の主面から突出した上方に位置してもよい。
【0022】
金属細線の材料は特に制限されず、例えば銅、銀、金、真鍮等の公知の金属材料から任意に選択すればよい。金属細線を構成する金属材料は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。例えば、芯線の周囲が他の金属でメッキされた多層の金属細線であってもよい。
【0023】
基材シートの一方の主面及び他方の主面のうち少なくとも一方の面にDLC層が設けられている。DLC層は当該面の一部のみに設けられていてもよいし、全部に設けられていてもよい。一部のみに設けられている場合であっても、金属細線の先端が露出している領域の全体を覆っていることが好ましい。
【0024】
DLC層の厚みは、例えば0.05μm~3.0μmが好ましく、0.1μm~2.5μmがより好ましく、0.2μm~2.0μmがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であるとDLC層の硬度を高められる。上記範囲の上限値以下であるとDLC層の剛性が過度に高くなり、基材シート及びDLC層に反りが生じることを防止できる。
DLC層の厚さは、無作為に選択される5箇所以上の厚さを、電子顕微鏡等の拡大観察手段で測定し、平均した値である。
【0025】
基材シートの表面に形成されたDLC層のマルテンス硬さ(HMs)は、1.70~2.50N/mmが好ましく、1.75~2.20N/mmがより好ましく、1.80~2.00N/mmがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、デバイスの電極端子(半田ボール等)の削りカスがDLC層に突き刺さることを抑制することができる。
上記範囲の上限値以下であると、デバイスの電極端子が圧接されたときに撓み易くなり、DLC層のひび割れを防止することができる。
【0026】
基材シートの表面に形成されたDLC層のマルテンス硬さは、ISO 14577-1に準拠して、金属細線が無いエラストマー部分の2箇所以上で測定された値の平均値である。測定条件は、陵間角115°の三角錐圧子を用い、最大試験力10mN、設定押し込み深さ1μm、負荷速度1.4632mN/秒、温度25℃とする。
【0027】
基材シートの表面に形成されたDLC層の動摩擦係数は、基材シートの表面の動摩擦係数よりも小さければよく、例えば、0.350以下が好ましく、0.300以下がより好ましく、0.250以下がさらに好ましい。下限値は特に制限されず、目安は0.150以上である。
動摩擦係数が小さいと、デバイスの電極端子が圧接されて擦れたときに滑りやすくなり、DLC層の表面が削れたり、削りカスが発生したりすることを抑制することができる。
【0028】
基材シートの表面に形成されたDLC層の動摩擦係数は、JIS K7125:1999(プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法)に準拠して、金属細線が無いエラストマー部分の2箇所以上で測定された値の平均値である。測定条件は、試験速度:100mm/分、垂直荷重:20g、測定距離:60mm、試験片サイズ20mm×20mm、試験片厚み(DLC層の厚みを除いた基材シートの厚み):0.15mm、相手材:SUSとする。
【0029】
基材シートの一方の面のDLC層が形成された表面の平面視において、前記基材シートを構成するエラストマー部分に形成されたDLC層の炭素濃度の方が、前記金属細線の端面に形成されたDLC層の炭素濃度よりも高いことが好ましい。すなわち、前記金属細線の端面のDLC層の厚みが、前記エラストマー部分のDLC層の厚みよりも薄いことが好ましい。
【0030】
DLC層は高抵抗であり、実質的な絶縁体を形成し得るので、デバイスの電極端子に接する金属細線の端面の少なくとも一部はDLC層に覆われずに露出しているか、DLC層が金属細線の端面の全体を覆っているとしても薄いことが好ましい。薄ければ絶縁体として機能し難く、また電極端子の接触により擦れてDLC層の一部が除かれ得る。
金属細線の端面の一部が露出しているか、及び金属細線の端面上に存在する炭素濃度は、電子顕微鏡のSEM像とエネルギー分散型X線分光法(EDS)を組み合わせた公知の元素マッピング法によって測定することができる。
【0031】
DLC層が形成された側の金属細線の端面は、DLC層の面一から突出していることが好ましい。突出する程度としては、例えば0.1μm~30.0μmが好ましく、0.5μm~25.0μmがより好ましく、1.0μm~20.0μmがさらに好ましい。
金属細線の端面がDLC層の面一から突出していると、上述のように金属細線の端面上のDLC層の炭素濃度を低減させることができる。また、デバイスの電極端子に対する接続性が向上する。
金属細線の端面がDLC層の面一から突出していること及びその程度は、電子顕微鏡等の拡大観察手段によって確認することができる。
【0032】
[電気コネクターの製造方法]
本発明に係る電気コネクターは、DLC層を形成すること以外は公知の電気コネクターの製造方法によって得られる。DLC層の形成方法は特に制限されず、公知の物理蒸着法や化学蒸着法(例えばPVD,プラズマCVD等)によって形成すればよい。DLC層を形成する表面には、予めイオンエッチング等の表面処理を施し、後で形成するDLC層の密着力を高めてもよい。なお、金属細線の端部の端面をDLC層の面一から突出させる場合には、DLC層を形成する前に、金属細線の端部を基材シートの表面から突出させる公知の処理(例えばレーザー処理)を行っておくことが好ましい。
【実施例0033】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート基材上に形成したシリコーンゴムからなる厚さ15μmの第一の樹脂層の一方の面上に、複数の金属細線を、向きを揃えて50μmの間隔で並列に配置した。
金属細線として、真鍮からなる円柱状の芯線と、その芯線の外周面を覆うニッケルメッキ(厚み0.1μm)と、ニッケルメッキの外周面を覆う金メッキ(厚み0.1μm)とからなる、直径25μmの金属細線を用いた。
次に、複数の金属細線が配置された第一の樹脂層の一方の面上に、シリコーンゴムからなる厚さ15μmの第二の樹脂層を形成し、第二の樹脂層を第一の樹脂層と一体化するとともに、第一の樹脂層と第二の樹脂層の間に金属細線を固定し、導電線含有シートを形成した。
次に、金属細線含有シートの200枚を、互いに金属細線の長手方向の向きを揃えて、かつ積層方向に見て各金属細線が重なるように積層し、金属細線含有シートの積層体を形成した。
次に、切削加工により、金属細線の延在する方向に対して角度約60°でスライスカットし、厚み150μmの前駆シートを得た。前駆シートは、シリコーンゴムからなる基材シートと、前記基材シートを厚さ方向に貫通する複数の金属細線とを有する。各金属細線は、基材シートを厚さ方向に貫通する貫通孔に接合されている。前駆シートの主面に対して交わる金属細線の延在方向の角度は約60°であった。
【0034】
続いて、成膜原料としてメタンを用い、高周波プラズマCDVによって、処理温度70℃で、前駆シートの両方の主面に厚みが0.2μmのDLC層を形成し、本発明に係る電気コネクターを得た。
【0035】
[実施例2]
前駆シートの両方の主面に形成するDLC層の厚みを1.0μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、電気コネクターを得た。
【0036】
[実施例3]
前駆シートの両方の主面に形成するDLC層の厚みを2.0μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、電気コネクターを得た。
【0037】
[比較例1]
DLC層を形成する前の前駆シートを比較例の電気コネクターとして、以下の試験に用いた。
【0038】
前述の試験方法に従い、各例の電気コネクターのマルテンス硬さと動摩擦係数を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
各例の電気コネクターについて、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT200)を使用し、信号BED-C(反射電子検出器)、入射電圧15.0kV、ワーキングディスタンス9.6mm、倍率×2300、真空モード:LowVacuumの条件にて、代表的な金属細線の端面における炭素原子の元素マップ像を作成した。その結果、図1~3に示すように、本発明に係る電気コネクターの金属細線の端面に形成されたDLC層は周囲のエラストマー部分に形成されたDLC層よりも薄く、その炭素濃度が低く(図2;実施例1)、金属細線の端面の一部が露出していた(図3;実施例2)。
【0041】
各例の電気コネクターについて、半導体デバイスの電極端子(半田ボール)の接続試験を行った。詳細な結果は示さないが、何れの例においても、圧接により適切な電気的接続が可能であった。また、圧接を繰り返した際に発生した金属の削りカスの除去は、比較例1に比べて実施例1~3では各段に容易であった。さらに、圧接を繰り返した際に発生したシリコーンゴムの削りカスの発生量は、比較例1に比べて実施例1~3では各段に少なかった。
図1
図2
図3