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特開2023-167910電力系統安定化装置、電力系統安定化方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167910
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電力系統安定化装置、電力系統安定化方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/30 20060101AFI20231116BHJP
   H02J 15/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
H02J3/30
H02J15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079453
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】広江 隆治
(72)【発明者】
【氏名】井手 和成
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 遼
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA09
5G066JB02
(57)【要約】
【課題】電力系統の周波数の変動に応じた補償電力を提供することができる電力系統安定化装置を提供する。
【解決手段】電力系統安定化装置は、交流電力系統の系統周波数を検出する周波数検出器と、前記系統周波数に基づいて、回転機械の回転数を調整する周波数指令値を算出する演算部と、前記交流電力系統と前記回転機械との間に設けられ、前記周波数指令値に基づいて前記回転機械の回転数を調整する電力変換器と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力系統の系統周波数を検出する周波数検出器と、
前記系統周波数に基づいて、回転機械の回転数を調整する周波数指令値を算出する演算部と、
前記交流電力系統と前記回転機械との間に設けられ、前記周波数指令値に基づいて前記回転機械の回転数を調整する電力変換器と、
を備える電力系統安定化装置。
【請求項2】
前記回転機械は、フライホイールと、前記フライホイールを駆動する電動機としての機能、および前記フライホイールに蓄積された運動エネルギーにより駆動する発電機としての機能を有する電動機と、を有し、
前記演算部は、前記フライホイールの角速度が前記系統周波数に比例して増減するように、前記周波数指令値を算出する、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項3】
前記周波数指令値の時間変化率の上限または下限を、前記周波数指令値と前記交流電力系統の基準周波数との偏差に基づいて定める補償電力制限器をさらに備える、
請求項2に記載の電力系統安定化装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記フライホイールの基準角速度または補償電力を定める制御定数を、前記周波数指令値の変化率の大きさに基づいて定める、
請求項3に記載の電力系統安定化装置。
【請求項5】
前記回転機械は空気調和機の圧縮機であり、
前記演算部は、前記空気調和機の制御装置が出力する回転数指令値を、前記系統周波数の変動に比例して補正した前記周波数指令値を算出する、
請求項1に記載の電力系統安定化装置。
【請求項6】
前記演算部は、前記回転数指令値の計算に用いられる前記空気調和機の出力の目標値を、前記系統周波数の変動に比例してさらに補正する、
請求項5に記載の電力系統安定化装置。
【請求項7】
前記電力系統安定化装置および電気設備を有する施設において、前記施設全体が前記交流電力系統との間で授受する有効電力を検出する有効電力検出器と、
前記有効電力に基づいて、前記周波数指令値の補正量を算出する有効電力補償器と、
をさらに備え、
前記演算部は、前記交流電力系統の前記系統周波数と、前記補正量とに基づいて前記周波数指令値を算出する、
請求項1から6の何れか一項に記載の電力系統安定化装置。
【請求項8】
交流電力系統と電気設備との間に設けられ、前記電気設備に交流電力または直流電力を供給する電力変換器と、
前記交流電力系統の系統周波数を検出する周波数検出器と、
前記系統周波数に基づいて、前記電気設備に供給する前記交流電力の周波数指令値、または前記直流電力の電流指令値を算出して前記電力変換器に出力する演算部と、
を備える電力系統安定化装置。
【請求項9】
交流電力系統の系統周波数を検出するステップと、
前記系統周波数に基づいて回転機械の回転数を調整する周波数指令値を算出するステップと、
前記周波数指令値に基づいて回転機械の回転数を調整するステップと、
を有する電力系統安定化方法。
【請求項10】
交流電力系統の系統周波数を検出するステップと、
前記系統周波数に基づいて回転機械の回転数を調整する周波数指令値を算出するステップと、
前記周波数指令値に基づいて回転機械の回転数を調整するステップと、
を電力系統安定化装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力系統安定化装置、電力系統安定化方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統は、電力需要に応じて発電所がガバナフリー運転を行い、発電出力を瞬時に調整することにより、送配電系統の周波数が維持されている。オフィスや工場、一般家庭等における電力需要は時々刻々と変動する。送配電系統の電力需要が電力供給を超過すると、送配電系統の周波数は基準値(例えば、50Hzまたは60Hz)よりも低下し、逆に、電力供給が電力需要を超過すると周波数は基準値より上昇する。発電所は、時々刻々と変動する需要に供給をバランスさせるよう、周波数に応じて発電電力を調整している(例えば、特許文献1を参照)。調整が理想的に行われた場合には、周波数は基準値に一致する。
【0003】
ガバナフリー運転で調整することができる電力需給の変動幅には限度がある。このため、日中と夜間のような長周期の電力需要の変動は、発電所を追加起動または停止させる等で処置して、時々刻々と変動する需要はガバナフリーで調節できる範囲に維持されている。
【0004】
このように、ガバナフリー運転は電力系統の需給調整の中心的な役割を果たしているが、発電機の慣性も、時々刻々と変動する需要の調整に役立っている。発電機の慣性は、発電所の発電機とタービンなどの回転子の運動エネルギーを表すものである。回転子はタービン入力と電気出力の差で加減速するが、差がマイナスになれば回転子の運動エネルギーが放出され回転数が減り、逆にプラスになれば回転数が増える。つまり、回転子の回転数(≒周波数)が変化すると、運動方程式に従って、回転変化を補償する(抑制する)ように運動エネルギーが放出される。例えば電力需要増により系統の周波数が低下すると、回転子速度も系統の周波数に同期して低下する。このとき、慣性が大きければ、運動エネルギーをより多く放出して需要増を補償するので、電力系統の周波数の変動は小さい。このように発電機の慣性は周波数変動を防ぐために重要である。
【0005】
今後、脱炭素社会に向けて太陽光発電や風力発電のような変動性の発電の占める割合が年々増えるが、それらの発電量の変動が受け入れられるよう、ガバナフリー運転の能力や発電機慣性を改善し、時々刻々の需給調整の能力の向上も並行的に進めなければならない。
【0006】
電力系統の需給調整は、電力系統の周波数に基づいて行われる。電力系統の周波数fの最もシンプルなモデルの一つは次式(1)で表される。ΔPは供給電力の変動、ΔPは需要電力の変動、Jwhоleは系統の慣性、そして電力系統の基準周波数は60Hzである。
【0007】
【数1】
【0008】
需要電力の変動ΔPは次式(2)で近似される。kは負荷周波数特性と呼ばれる正の定数であり、周波数変動を相殺するよう負荷が自律的に電力需要を増減する性質を表している。
【0009】
【数2】
【0010】
周波数fの原点を60Hzとし、需給変動ΔP-ΔPL0を記号dで表すと、式(1)と式(2)から、式(3)の周波数の伝達関数モデルが得られる。sはラプラス演算子である。
【0011】
【数3】
【0012】
発電所がガバナフリー運転を行うと、電力系統にはガバナフリー運転による調整力ΔPGFが供給される。ガバナフリー運転の調整力ΔPGFは、次式(4)のように周波数の変動Δfに比例すると近似することができる。kGFは正の比例係数である。
【0013】
【数4】
【0014】
ガバナフリーの調整力ΔPGFを考慮に入れると、式(1)は式(5)となる。
【0015】
【数5】
【0016】
ガバナフリー運転を考慮すると,需給変動ΔP-ΔPL0すなわちdに対する周波数fの応答の伝達関数すなわち整定状態を原点とする線形近似モデルは式(6)で表される。
【0017】
【数6】
【0018】
周波数fが整定した状態で、電力の供給をステップ的に減少させたとき(dを0から-1に変えたとき)の周波数fの平衡状態からの変動について考える。ガバナフリー運転しないときの応答は式(3)の伝達関数から得られるものである。ガバナフリー運転するときの応答は式(6)の伝達関数から得られる。
【0019】
電力系統の需給不均衡に対する安定性を確保するためには,周波数変化率(RоCоF,Rate оf Chanege оf frequency)の大きさが小さい(緩やかである)ことが重要である。周波数変化率が緩やかであれば、他の発電所が供給を増やして周波数低下を食い止めることができるからである。図11は、ガバナフリー運転と周波数変化率(RоCоF)との関係を示している。ガバナフリー運転するケースが破線、ガバナフリー運転しないケースが実線である。周波数変化率(RoCoF)は、周波数のステップ応答の初期の勾配に相当する。図11に示すように、ガバナフリー運転により周波数のステップ応答の整定値は小さくなるが、ガバナフリー運転では周波数変化率(RoCoF)は変わらない。
【0020】
周波数変化率(RoCoF)は、伝達関数の初期値定理から1/(4π60Jwhоle)に比例する。よって、周波数変化率(RоCоF)を小さくするには、慣性を大きくすることが効果的である。具体的には、式(7)のように、周波数の時間微分値に比例して調整力ΔPを発揮する。kは正の比例係数である。f・は周波数fの時間変化率である。
【0021】
【数7】
【0022】
ΔPをΔPGFに追加すると、需給変動ΔP-ΔPL0すなわちdに対する周波数fの応答は次の伝達関数で表される。
【0023】
【数8】
【0024】
図12は、周波数の時間微分値に比例する調整力ΔPと周波数変化率(RоCоF)との関係を示している。ガバナフリー運転のみのケースが破線、ガバナフリー運転に周波数の時間微分値に比例する調整力ΔPを加えたケースが一点鎖線である。比例係数kを正に設定すると、周波数変化率(RoCoF)を緩やかにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開2021-40418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
電力系統の需給調整に慣性を利用する例として、例えば、発電を止めた火力発電所のタービンをフライホイールに置き換えたシステムが考えられている。このシステムでは、発電機の動力となるタービンが取り去られているので、もはや発電所のように定常的に発電することはできない。しかし、フライホイールは発電機を介して電力系統と同期するので、慣性としての機能を引き続き発揮することができる。
【0027】
フライホイールの慣性能率をJ[kgm]、角速度をω[rad/s]と記すと、フライホイールの運動エネルギーK[J]は次式(9)で表される。
【0028】
【数9】
【0029】
フライホイールの回転数が減ると、フライホイールは運動エネルギーの一部を電力系統に提供する。フライホイールの回転数の時間変化率をω・と記すと、フライホイールが電力系統に提供する補償電力P[W]は式(10)で表される。右辺の負の符号は、フライホイールの運動エネルギーの減少が補償電力Pを産出することを表している。
【0030】
【数10】
【0031】
フライホイールの角速度ωは電力系統の周波数(以下、「系統周波数」とも記載する。)に同期している。フライホイールの回転数ωは、系統周波数の同期速度である。したがって、系統周波数をf、発電機の極数をpと記すと、フライホイールの角速度ωは式(11)で表される。
【0032】
【数11】
【0033】
よって、式(10)は式(12)となる。
【0034】
【数12】
【0035】
フライホイールにとって極数p、系統周波数f、および系統周波数の変化率f・は所与だから、フライホイールが電力系統に提供する補償電力Pを向上するには、慣性能率Jを大きくすることが有効である。しかし、慣性能率Jを大きくするにはより大きなフライホイールが必要になる。発電を止めた火力発電所にフライホイールを設置するような事例であれば、大きなフライホイールを設置することも可能であろう。しかし、例えば各家庭に小規模なフライホイールを配置しようとすれば、フライホイールのサイズは限られる。このため、どのような施設においても利用可能となるように、慣性能率Jを大きくすることなく補償電力Pを向上する技術が求められている。
【0036】
本開示の目的は、電力系統の周波数の変動に応じた補償電力を提供することができる電力系統安定化装置、電力系統安定化方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本開示の一態様によれば、電力系統安定化装置は、交流電力系統の系統周波数を検出する周波数検出器と、前記系統周波数に基づいて、回転機械の回転数を調整する周波数指令値を算出する演算部と、前記交流電力系統と前記回転機械との間に設けられ、前記周波数指令値に基づいて前記回転機械の回転数を調整する電力変換器と、を備える。
【0038】
本開示の一態様によれば、電力系統安定化装置は、交流電力系統と電気設備との間に設けられ、前記電気設備に交流電力または直流電力を供給する電力変換器と、前記交流電力系統の系統周波数を検出する周波数検出器と、前記系統周波数に基づいて、前記電気設備に供給する前記交流電力の周波数指令値、または前記直流電力の電流指令値を算出して前記電力変換器に出力する演算部と、を備える。
【0039】
本開示の一態様によれば、電力系統安定化方法は、交流電力系統の系統周波数を検出するステップと、前記系統周波数に基づいて回転機械の回転数を調整する周波数指令値を算出するステップと、前記周波数指令値に基づいて回転機械の回転数を調整するステップと、を有する。
【0040】
本開示の一態様によれば、プログラムは、交流電力系統の系統周波数を検出するステップと、前記系統周波数に基づいて回転機械の回転数を調整する周波数指令値を算出するステップと、前記周波数指令値に基づいて回転機械の回転数を調整するステップと、を電力系統安定化装置に実行させる。
【発明の効果】
【0041】
上記態様によれば、電力系統の周波数の変動に応じた補償電力を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】第1の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図2】第2の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図3】第2の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能を説明するための図である。
図4】第3の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図5】第4の実施形態に係る空気調和機の機能構成を示す図である。
図6】第4の実施形態に係る制御装置および電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図7】第5の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図8】第6の実施形態に係る電気炉システムおよび電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図9】第6の実施形態の変形例に係る蓄電池システムおよび電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図10】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
図11】周波数変化率の一例を示す第1の図である。
図12】周波数変化率の一例を示す第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
<第1の実施形態>
以下、図1を参照しながら第1の実施形態について詳しく説明する。
図1は、第1の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
【0044】
(電力系統安定化装置の機能構成)
第1の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、例えば発電プラントや工場などの施設C内に設けられる。電力系統安定化装置10と、施設C内の他の電気設備90(例えば、発電機や負荷となる電気機器など)は、電力系統ACとの間で電力の授受を行う。
【0045】
電力系統安定化装置10は、周波数検出器11と、演算部12と、電力変換器13と、回転機械14とを備える。また、第1の実施形態に係る回転機械14は、電動機14Aと、フライホイール14Bとを有する。電動機14Aは、フライホイール14Bを駆動する電動機としての機能と、フライホイール14Bに蓄積された運動エネルギーにより駆動する発電機としての機能を有する。具体的には、電動機14Aは、電力系統ACの供給が多い(系統周波数が基準周波数よりも高い)場合に、フライホイール14Bに電力を供給して回転させることにより、余剰電力をフライホイール14Bの運動エネルギーとして蓄積する(フライホイール14Bを力行する)。また、電動機14Aは、電力系統ACの需要が多い(系統周波数が基準周波数よりも低い)場合に、フライホイール14Bに蓄積された運動エネルギーを電力に変換して出力する(フライホイール14Bから回生する)発電機として機能する。
【0046】
周波数検出器11は、電力系統ACの周波数(系統周波数)を検出する。例えば、周波数検出器11は、電力系統ACの送電線と施設Cの電力線との接続点において系統周波数を計測する。また、他の実施形態では、周波数検出器11は、電力変換器13の電力系統AC側の出入口付近で系統周波数を計測してもよい。
【0047】
演算部12は、系統周波数に基づいて、回転機械14の回転数を調整する周波数指令値を算出して、電力変換器13に出力する。具体的には、第1の実施形態に係る演算部12は、フライホイール14Bの角速度が系統周波数に比例して増減するように、周波数指令値を算出する。
【0048】
電力変換器13は、電力系統ACに接続され、演算部12が演算した周波数指令値に基づいて、回転機械14の回転数を調整し、それに伴い施設Cおよび施設Cが接続する電力系統ACに電力を消費または供給する。
【0049】
(電力系統安定化装置の作用、効果)
交流電力の電力変換器は、周波数を変えずに電圧の大きさ(実効値)を変える交流電力調整回路と周波数調整回路からなる。第1の実施形態で述べる電力変換器13は、特に明記しない場合、周波数調整回路を有しており出力周波数は随意であるとする。
【0050】
電力変換器13を有しない場合、電力系統の周波数をf、電動機14Aの極数をpと記すと、電動機14Aおよびフライホイール14Bの角速度ωは前述の式(11)で表される。第1の実施形態では、電力変換器13を用いると、フライホイール14Bの角加速度ω・を、例えば式(13)のように定めることができるようになる。
【0051】
【数13】
【0052】
式(13)において、kは補償電力Pの大きさを調節する制御定数であり、非負の値を設定する。k=0であれば補償電力Pを供給しない。kが正の大きな値になるほど補償電力Pは大きな値となる。例えば、フライホイール14Bの角速度がωrefであるとすると、前述の式(12)による補償電力Pは式(14)で表される。
【0053】
【数14】
【0054】
フライホイール14Bの角速度をωref=2πf、制御定数をk=1とすれば、式(14)は式(12)に一致する。従って,ωref×k×2/p>1となるようにωrefまたはkを大きくすると、等価的に慣性Jを大きする効果が得られる。
【0055】
式(12)は系統周波数に同期するフライホイール(従来技術のフライホイール)が発する補償電力を表している。系統周波数と同期するフライホイールでは、補償電力Pは慣性能率J並びに電動機の極数p、系統周波数fおよびその変化率f・から決まる。これらのうち、極数p並びに系統周波数fおよびその変化率f・はフライホイールについては所与である。従って、系統に同期するフライホイールで補償電力Pを大きくしようとすれば、慣性能率Jを大きくすることが唯一の方法である。すなわち、フライホイールを大きくする必要がある。
【0056】
一方、第1の実施形態のように、電力変換器13を用いればフライホイール14Bの回転を系統周波数に対して独立させるとができる。式(14)のように、補償電力Pを慣性能率Jの他に、フライホイール14Bの角速度ωrefと制御定数kによって調節することが可能となる。両者の積k×ωrefの値を大きくすれば、慣性能率Jを大きくするのと同じ効果が得られる。すなわち、小さなフライホイールで大きな補償電力Pを提供することが可能となる。
【0057】
第1の実施形態に係る電力系統安定化装置10の具体的な作用および効果について、図1を参照しながら説明する。電力系統ACの系統周波数fを周波数検出器11で検出する。周波数検出器11は、電力系統ACの交流電圧波形が0ボルトを交差する時間間隔などにより検出することができる。
【0058】
電力変換器13は電力系統ACから系統周波数fの交流を入力し、別に指定する周波数fSVの交流をフライホイール14Bの動力となる電動機14Aに出力する。そして、電力変換器13は、周波数fSVの値を変えることによりフライホイール14Bの回転を任意に定めることができる。フライホイール14Bの基準角速度としてωrefを所望するならば、電力変換器13から出力する交流の周波数はfSV=ωref×p/4πとすればよい。演算部12は、フライホイール14Bの角速度が、系統周波数fの変動(基準周波数との差)に応じて基準角速度から増減するように、周波数fSV(周波数指令値)を演算して電力変換器13に出力する。
【0059】
このように、フライホイール14Bの基準角速度が随意になることが、第1の実施形態において電力変換器13を利用する第一の利点である。加えて、系統周波数fの変動に対するフライホイール回転の応答を制御定数kで調整することができることが第二の利点である。
【0060】
再度述べるが、電力変換器が無い従来技術では、系統周波数とフライホイール回転は比例係数2/pで固定である。例えば、電力系統の基準周波数が60Hzであり、系統周波数が1秒間に60Hzから60.1Hzに変わったとしよう。このとき、電力変換器が無い場合の補償電力Pは次式(15)のとおりである。補償電力Pを大きくするには慣性能率Jを大きくする、電動機の極数pを小さくする、のどちらかである。しかし、これらは所与であることが多く、随意ではない。
【0061】
【数15】
【0062】
これに対し、第1の実施形態に係る電力系統安定化装置10が提供する補償電力Pは次式(16)であり、k×ωrefの値により随意にできる。
【0063】
【数16】
【0064】
調整電力Pは系統周波数の変動率f・に比例する。しかし、図1にはf・が陽に記されず、周波数fに比例して周波数指令fSVを電力変換器に指示するよう記している。電力変換器13への周波数指令fSVがfに比例するなら周波数指令の時間変化率fSV・もf・に比例するので、本質的には同意である。
【0065】
このようにすることで、第1の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、系統周波数に応じて提供する補償電力Pを増減させることができる。また、電力系統安定化装置10は、電力変換器13によりフライホイール14Bの角速度を変更することにより、フライホイール14Bの慣性を大きくすることができる。したがって、電力系統安定化装置10は、小さなフライホイールを使用したとしても、大きな補償電力Pを提供することができる。これにより、電力系統安定化装置10を小型化することが可能である。図1には発電プラントや工場などの施設Cに電力系統安定化装置10を設置する例を示したが、家庭やオフィスなど、大きなフライホイールを設置できない施設にも設置することも可能である。
【0066】
なお、第1の実施例の変形例として、演算部12は、フライホイール14Bの角速度または角度、さらにそれらの推定値に基づき周波数指令値を算出し、電力変換器13が出力する交流電力を調節してもよい。
【0067】
<第2の実施形態>
次に、図2図3を参照しながら、第2の実施形態について詳しく説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0068】
(電力系統安定化装置の機能構成)
図2は、第2の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図2に示すように、第2の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、フライホイール14Bの角速度を検出する角速度計14Cと、補償電力制限器15とをさらに備える点において、第1の実施形態と異なっている。
【0069】
補償電力制限器15は、周波数指令値の時間変化率の上限または下限を、周波数指令値と電力系統ACの基準周波数との偏差に基づいて定める。
【0070】
(電力系統安定化装置の作用、効果)
電力系統安定化装置10が休止状態であるときフライホイール14Bは停止している。電力系統安定化装置10を起動すると、フライホイール14Bを基準角速度ωrefまで加速する。このとき、第2の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、フライホイール14Bに定常的に力行電力を与えるのではなく、フライホイール14Bに与える力行電力が電力系統ACの系統周波数の変動を抑制側に働く場合(すなわち、系統周波数が増加しているとき)にのみ、フライホイール14Bに力行電力を与えるように制限する。同様に、電力系統安定化装置10を停止するときに、フライホイール14Bから取り出す回生電力が電力系統ACの系統周波数の変動を抑制側に働く場合(すなわち、系統周波数が減少しているとき)にのみ、フライホイール14Bから回生電力を取り出すように制限する。
【0071】
この目的のため、補償電力制限器15は、フライホイール14Bの基準角速度ωrefと、角速度計14Cが計測した現在の角速度ωとを比較し、角速度ωが基準角速度ωrefに不足しているときには回生を0kWに制限する。電力系統ACの周波数は例えば60Hzの一定値なので、電力系統ACの周波数の変化率f・の期待値は0である。
【0072】
図3は、第2の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能を説明するための図である。
図3のように、フライホイール14Bの角速度ωがその基準値ωrefより小さいときには、フライホイールの角速度ωに対して定まる回生制限値PLREGおよび力行制限値PLPOWは「回生制限値PLREG<力行制限値PLPOW」であるので、補償電力Pの期待値は負側(フライホイール14Bを力行して、電力系統ACから電力を吸い取る)に偏移する。従って、時間とともにフライホイール14Bは加速する。そして、フライホイール14Bの基準角速度ωrefで力行制限値PLPOWと回生制限値PLREGが釣り合うよう設定しておくと、フライホイール14Bの速度は整定する。フライホイール14Bが基準角速度ωrefを超過する領域では、「回生制限値PLREG>力行制限値PLPOW」とし、補償電力Pの期待値が正側(フライホイール14Bから回生して、電力系統ACに電力を放出する)に偏位させる。これにより、フライホイール14Bは減速し、基準角速度ωrefに復帰する。
【0073】
図3は、回生制限値PLREGと力行制限値PLPOWをフライホイール14Bの角速度ωに依存して定める例を表している。各制限値はフライホイール14Bの角速度ω以外にも、電力変換器13の周波数指令値fSVに依存して定めても良い。力行の最大値と回生の最大値は主に電力変換器13の容量から決まる。一般に電動機14Aの誘起電圧は角速度に比例する。従って、フライホイール14Bの昇速過程では誘起電圧は角速度に比例する。一方、電力変換器13には電流の上限がある。従って、電力系統安定化装置10の起動過程においては電力変換器13の出力の上限は角速度に比例する。基準角速度ωref以下の領域で力行制限値PLPOWが角速度に比例するのはこのためである。
【0074】
また、第2の実施形態に係る電力系統安定化装置10の具体的な作用および効果について、図2を参照しながら説明する。
【0075】
図2に示すように、補償電力制限器15では、力行制限値PLPOWと回生制限値PLREGを考慮して電力制限付きの周波数指令値fSV1を決定する。
【0076】
補償電力制限器15には、系統周波数fと基準周波数(例えば60Hz)の偏差と、フライホイール14Bの角速度ωが入力される。基準周波数は時間的に不変だから、周波数偏差の時間変化率とフライホイール14Bの角速度ωからフライホイール14Bを電力系統ACに同期させたときの補償電力Pは次式(17)で得られる。
【0077】
【数17】
【0078】
補償電力Pに対し、回生制限値PLREGと力行制限値PLPOWの考慮を加えた補償電力をPと記すと、Pは次式(18)で表される。
【0079】
【数18】
【0080】
補償電力Pを電力変換器13の出力周波数の変化率に換算する。換算値をfSV2・と記すと、fSV2・は次式(19)で表される。
【0081】
【数19】
【0082】
補償電力制限器15は、これを積分して電力変換器13の周波数指令値fSV1を求める。
【0083】
【数20】
【0084】
このようにすることで、第2の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、起動時にフライホイール14Bの加速するときの力行電力、または、停止時にフライホイール14Bを減速するときの回生電力が電力系統ACの擾乱となることを抑制できる。
【0085】
<第2の実施形態の変形例>
第2の実施形態では、フライホイール14Bの基準角速度ωref、および補償電力Pの制御定数kを予め規定した固定値としていた。これに対し、本変形例では、電力系統安定化装置10(演算部12)がフライホイール14Bの基準角速度ωref、または補償電力Pの制御定数kを可変とする点において、第2の実施形態と異なっている。
【0086】
(電力系統安定化装置の作用、効果)
補償電力Pは、電力系統ACの系統周波数fから、前述の式(14)により定まる。
【0087】
補償電力Pは、回生制限値PLREGと、力行制限値PLPOWとの間に位置しなければならない。例えば、0より大きく、かつ、概ね1以下の調整定数Cについて、補償電力Pの2乗の期待値が次式(21)を満たすならばその状況にあると言える。Cの値は、例えば、0.5が候補である。
【0088】
【数21】
【0089】
補償電力Pの大きさは、前述の式(14)のように、基準角速度ωrefと制御定数kの積で調整できる。例えば、式(21)の両辺の大小関係に応じて基準角速度ωrefと制御定数kの積を、例えば次式(22)により一定時間毎(例えば、1分毎)に更新すれば、補償電力Pを回生制限値PLREGと力行制限値PLPOWとの間に保つことができる。
【0090】
【数22】
【0091】
実際の運転では、両者の積を制御定数kと基準角速度ωrefとに分解しなければならない。フライホイール14Bの摩擦損失は回転数と共に増加するので、基準角速度ωrefを小さくして摩擦損失を下げたい。そのためには、制御定数kをできるだけ大きくすればよい。一般に、電力変換器13には周波数変化レートに上下限がある。制御定数kは周波数変化レートの上下限を超えない範囲のできるだけ大きな値に固定し、基準角速度ωrefと制御定数kの積、すなわち補償電力Pの大きさは、基準角速度ωrefに反映する。例えば、演算部12は、次式(23)により、基準角速度ωrefの値を更新する。
【0092】
【数23】
【0093】
電力変換器13が出力できる電力的な能力には機器固有の限度がある。本変形例は、上述のようにフライホイール14Bの基準角速度ωref、または補償電力Pを定める制御定数kを変更することにより、電力変換器13の能力の利用率を高めることができる。この結果、電力系統安定化装置10は、電力変換器13の能力が過度に余ることも、過度に不足することもなく運転できる。
【0094】
<第3の実施形態>
次に、図4を参照しながら、第3の実施形態について詳しく説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0095】
(電力系統安定化装置の機能構成)
図4は、第3の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図4に示すように、第3の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、有効電力検出器16と、有効電力補償器17とをさらに備える。
【0096】
有効電力検出器16は、施設Cが電力系統ACとの間で授受する有効電力を検出する。例えば、有効電力検出器16は、電力系統ACの送電線と施設Cの電力線との接続点において、施設C全体(電力系統安定化装置10および他の電気設備90)が提供する有効電力を計測する。また、他の実施形態では、有効電力検出器16は、施設Cの配電系統の母線や幹線において、施設C全体の有効電力を計測してもよい。
【0097】
有効電力補償器17は、施設C全体の有効電力に基づいて、電力系統安定化装置10が提供する補償電力を補正する補正量を算出する。
【0098】
演算部12は、有効電力補償器17が算出した補正量に基づいて補正した周波数指令値を算出する。
【0099】
なお、図4には、第1の実施形態に係る電力系統安定化装置10の構成(図1)に、有効電力検出器16および有効電力補償器17を追加した例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、第2の実施形態に係る電力系統安定化装置10の構成(図2)に有効電力検出器16および有効電力補償器17を追加してもよい。
【0100】
(電力系統安定化装置の作用、効果)
第1の実施形態では、周波数指令値fSVを電力系統ACの系統周波数fに基づいて決定した。第3の実施形態では、電力系統ACの系統周波数fと、電力系統ACとの間で授受する有効電力と、に基づいて周波数指令値fSVを決定する。
【0101】
第3の実施形態は、有効電力補償器17が特徴である。有効電力補償器17においては、基準モデル周波数fに対しフライホイール14Bが発生する補償電力P~のモデルを補償電力推定関数G(f)として定める。補償電力推定関数は、例えば、次式(24)である。なお、他の実施形態では、補償電力推定関数は系統周波数fの他に、fの微分値、fの積分値、さらにfを伝達関数で濾波した値に基づいて補償電力の推定値P~を定めてもよい。
【0102】
【数24】
【0103】
施設Cには、フライホイール14Bの他にも少なくとも1つの電気設備90があり、有効電力を消費している。施設Cと電力系統ACとの接続点で計測する有効電力Pwhоleは、施設C全ての電力の消費を合算したものである。上述の各実施形態では、フライホイール14Bは電力系統ACの周波数に基づいて補償電力を発生し、施設C内の他の電気設備の消費電力は成り行きであった。これに対し、第3の実施形態では、補償電力の推定値P~に対する施設C全体の有効電力Pwhоleの偏差に基づいて、周波数指令fSVをΔfSV2だけ、例えば次式(25)により補正する。補償電力の推定値P~は電力系統ACに電力を供給する向きが正、施設C全体の有効電力Pwhоleも電力系統ACに電力を供給する向きが正である。
【0104】
【数25】
【0105】
有効電力補償器17が出力する補正量ΔfSV2は、補償電力の推定値P~に対し、
施設C全体の有効電力Pwhоleが不足したときにオリジナルの補正量ΔfSV1を増幅し、施設C全体の有効電力Pwhоleを補償電力の推定値P~に近付けることを目的としている。
【0106】
補償電力の推定値P~に対し施設C全体の有効電力Pwhоleが超過すると、有効電力補償器17が出力する補正量ΔfSV2はオリジナルの補正量ΔfSV1を減衰するよう働く。この場合、次式(26)のように減衰を制限してもよい。
【0107】
【数26】
【0108】
第3の実施形態は、複数の電気設備90を有する施設Cにおいて有効である。複数の電気設備90を有する施設Cでは、フライホイール14Bの他の電気設備90も電力を需要または供給するので、フライホイール14B以外の電気設備90もフライホイール14Bと同様に補償電力を発生させられると、施設トータルで需給調整に貢献できる。
【0109】
第3の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、フライホイール14Bの補償電力のモデルG(f)を定め、施設C全体の有効電力Pwholeが前記モデルに一致するように周波数指令値fSVを補正することにより、施設トータルで需給調整に貢献することを可能とする。
【0110】
<第4の実施形態>
次に、図5図6を参照しながら、第4の実施形態について詳しく説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
第4の実施形態では、電力系統安定化装置10を、例えば、家庭やオフィスなどに設置する空気調和機20に適用する例について説明する。
【0111】
(空気調和機の機能構成)
図5は、第4の実施形態に係る空気調和機の機能構成を示す図である。
図5に示すように、空気調和機20は、室外機21と、室内機22と、制御装置23とを備える。
【0112】
室外機21は、圧縮機210と、アキュムレータ211と、四方弁212と、室外送風ファン213と、室外熱交換器214と、室外膨張弁215と、レシーバ216と、圧力検出器217と、可変速駆動装置218とを備える。
【0113】
圧縮機210は、室外機21および室内機22の間を流通する冷媒Rを圧縮して高温高圧のガス状の冷媒を生成する。
【0114】
アキュムレータ211は、液状の冷媒とガス状の冷媒とを分離する。アキュムレータ211によって分離された冷媒Rのうちガス状の冷媒のみが圧縮機210に送られる。
【0115】
四方弁212は、空気調和機20の運転モード(冷房運転または暖房運転)に応じて冷媒Rの流通方向を切り替える。図5は、冷房運転時の四方弁212の状態が例示されている。冷房運転時には、四方弁212は圧縮機210から吐出された冷媒Rの送り先を室外熱交換器214とし、実線矢印の方向に冷媒Rを流す冷凍サイクルSを構成する。また、暖房運転時には、四方弁212は圧縮機210から吐出された冷媒Rの送り先を室内機22の室内熱交換器221として、破線矢印の方向に冷媒Rを流す冷凍サイクルSを構成する。
【0116】
室外送風ファン213は、室外熱交換器214に室外の空気を送り込む。
【0117】
室外熱交換器214は、内部に供給された冷媒Rと室外の空気との間で熱交換を行う。室外熱交換器214は、冷房運転時には凝縮器として機能し、暖房運転時には蒸発器として機能する。
【0118】
室外膨張弁215は、冷房運転時に室外熱交換器214で凝縮された冷媒Rの圧力を低下させて低圧の冷媒Rとする。
【0119】
レシーバ216は、導入された液状の冷媒Rを一時的に貯留する。
【0120】
圧力検出器217は、圧縮機210の上流側の圧力(吸入圧力)を計測する。
【0121】
可変速駆動装置218は、制御装置23に指定された周波数の電力を圧縮機210に供給して、圧縮機210の回転数を制御する。また、可変速駆動装置218は、電力系統安定化装置10の電力変換器13としても利用される。
【0122】
室内機22は、室内送風ファン220と、室内熱交換器221と、室内膨張弁222とを備える。
【0123】
室内送風ファン220は、室内熱交換器221に室内の空気を送り込む。
【0124】
室内熱交換器221は、内部に供給された冷媒Rと室内の空気との間で熱交換を行う。室内熱交換器221は、冷房運転時には蒸発器として機能し、暖房運転時には凝縮器として機能する。
【0125】
室内膨張弁222は、暖房運転時に室内熱交換器221で凝縮された冷媒Rの圧力を低下させて低圧の冷媒Rとする。
【0126】
制御装置23は、ユーザが指定する運転モード、温度などの設定条件に応じて、室外機21および室内機22の動作を制御する。
【0127】
(制御装置の機能構成)
図6は、第4の実施形態に係る制御装置および電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図6に示すように、空気調和機20の制御装置23は、目標決定部230と、PI制御器231とを備える。
【0128】
目標決定部230は、ユーザが指定する設定条件に基づいて、室外機21の圧縮機210の吸入圧力の目標値Ps0を決定する。吸入圧力の目標値Ps0を決めることは空気調和機20の冷暖房の出力の目標値を決めることと等価である。
【0129】
PI制御器231は、吸入圧力の目標値Ps0と、圧力検出器217が検出した現在の吸入圧力Pとの偏差ΔPに基づいて、圧縮機210の回転数指令値を算出する。
【0130】
(電力系統安定化装置の機能構成)
本実施形態に係る電力系統安定化装置10の機能構成について、図6を参照しながら説明する。なお、図6には、電力系統安定化装置10が空気調和機20の制御装置23の内部に設ける例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、電力系統安定化装置10は制御装置23の外部に設けられてもよい。吸入圧力の目標値Ps0は空気調和機20の冷暖房の出力の目標値の一例であり、これに限られることはない。
【0131】
電力系統安定化装置10は、周波数検出器11と、演算部12と、電力変換器13とを備える。周波数検出器11の機能は、第1の実施形態と同じである。また、電力系統安定化装置10は、電力変換器13として室外機21の可変速駆動装置218を利用する。
【0132】
演算部12は、制御装置23のPI制御器231が算出した回転数指令値を、電力系統ACの系統周波数fの変動に比例して補正した周波数指令値を算出して、電力変換器13に出力する。
【0133】
(電力系統安定化装置の作用、効果)
ここでは、図5に示す冷房運転時の冷凍サイクルSを例として、電力系統安定化装置10の作用および効果について説明する。
【0134】
この冷凍サイクルSの状態を目的どおりに運転制御するために、例えば、圧縮機210の吸入圧力を計測する圧力検出器217が配置される。圧縮機210の吸入圧力により、空気調和機20の冷房出力を近似的に計ることができる。図6に示す制御装置23の構成は、圧縮機210の吸入圧力Pを制御する制御系統である。目標決定部230は、ユーザによる温度などの設定条件を満たすように吸入圧力Pの目標値Ps0を決定する。また、PI制御器231は、この目標値Ps0と圧力検出器217の検出値Pとの偏差ΔPを小さくするような圧縮機210の回転数指令値を算出する。この回転数指令値に基づいて圧縮機210の可変速駆動装置218を制御すると、冷凍サイクルSのサイクル状態が変化し、吸入圧力Pが目標値Ps0に近づくように制御される。なお、目標値Ps0および回転数指令値の算出方法は既知であるため説明を省略する。
【0135】
このように、空気調和機20の冷凍サイクルSの圧縮機210には可変速駆動装置218が利用されている。可変速駆動装置218により圧縮機210の回転数を変更すると、圧縮機210が吐出する冷媒温度は遅滞なく回転数に応答する。しかし、温度調節の対象となる部屋の熱容量や、室外熱交換器214および室内熱交換器221それぞれの熱容量のため、部屋の温度は圧縮機回転数の変更に瞬時に応答することはない。部屋の温度が圧縮機回転数の変更に応答するには、少なくとも数分の遅れを要する。第4の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、この応答の遅れを利用して補償電力Pを提供する。
【0136】
具体的には、演算部12は、電力系統ACの系統周波数fとその基準周波数との差を、すなわちf-60Hzの高周波数成分を、第1の高域通過フィルタ121で抽出する。例えば、周期が1分より速い成分を抽出するならばτ=2π/60と設定すればよい。第1の高域通過フィルタ121を用いるのは、補償電力の提供を、例えば周期が1分よりも短い高周波数成分に限定することにより、空気調和機20の本来の目的である室温の調節に悪影響を及ぼすことを回避するためである。また、演算部12は、抽出した高周波数成分について、第1の実施形態と同様の演算を行うことにより、回転数指令値の補正量を算出する。演算部12は、算出した補正量を、制御装置23のPI制御器231が算出した回転数指令値に加算した周波数指令値を、電力変換器13(室外機21の可変速駆動装置218)に出力する。
【0137】
また、第4の実施形態による補償電力Pは、次式(27)で表される。
【0138】
【数27】
【0139】
このようにすることで、第4の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、空気調和機20の圧縮機210の可変速駆動装置218を電力系統ACの安定化装置として機能させることができる。つまり、空気調和機20に電力系統安定化装置10を取り入れることにより、家庭やオフィスに既存の電気設備である空気調和機20に電力系統ACの周波数変動を抑制する(安定化する)作用を追加することができる。
【0140】
なお、図6には、第1の実施形態に係る電力系統安定化装置10を空気調和機20に適用する構成例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、第2または第3の実施形態に係る電力系統安定化装置10を空気調和機20に適用してもよい。
【0141】
<第5の実施形態>
次に、図7を参照しながら、第5の実施形態について詳しく説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0142】
図7は、第5の実施形態に係る電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図7に示すように、第5の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、演算部12が圧縮機210の吸入圧力の目標値Ps0を系統周波数fの変動に比例させて補正する点において、第4の実施形態と異なっている。
【0143】
(電力系統安定化装置の作用、効果)
第4の実施形態では、空気調和機20の圧縮機210の可変速駆動装置を電力系統ACの安定化装置として機能させる技術について述べた。家庭用の空気調和機20の圧縮機210は運転可能な回転数の範囲が限られているので、例えば正の補償電力が持続的であると圧縮機210の回転数はすぐに下限値に達してしまう。家庭用の空気調和機20の圧縮機210は慣性能率も小さいため下限値に達するまでに提供できる補償電力の総量もまた限られる。これを踏まえ、第5の実施形態では、圧縮機210の回転数に加えて、加熱または冷却の能力を加減することにより、持続的な補償電力を提供できるようにする。
【0144】
第4の実施形態で説明したように、空気調和機20の冷凍サイクルSのようなヒートポンプでは、圧縮機210の回転数を変えて加熱または冷却の能力を可変にしている。第5の実施形態に係る電力系統安定化装置10の演算部12は、第4の実施形態の構成に加えて、第2の高域通過フィルタ122を有し、第2の高域通過フィルタ122の出力信号に基づき圧縮機210の回転数をさらに調節する。例えば、演算部12は、PI制御器231に入力される吸入圧力の目標値Ps0を補正することにより、圧縮機210の回転数を調節する。
【0145】
第2の高域通過フィルタ122の遮断角速度1/τ[rad/s]は、第4の実施形態の第1の高域通過フィルタ121の遮断角速度1/τ[rad/s]より小さく設定して、系統周波数fの低い周波数帯域の変動(すなわち、持続的な変動)に対して圧縮機210の回転数を応答させる。圧縮機210の消費動力は圧縮機210の回転数に正の相関関係があるので、系統周波数fが増加すると圧縮機210の消費動力が増え、電力系統ACに対しては負の補償動力Pとして作用する。
【0146】
このようにすることで、第5の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、補償電力を持続的に発揮することができる。
【0147】
<第6の実施形態>
次に、図8を参照しながら、第6の実施形態について詳しく説明する。上述の実施形態と共通の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
【0148】
第1から第5の実施形態では、回転機械(フライホイール14B、圧縮機210)の運動エネルギーがその回転数変化に伴って増加または減少するときに消費または供給する動力を補償電力Pとして電力系統ACの安定化に利用する技術を開示した。特に、電力変換器13を用いて、電力系統ACの周波数が変動したときに、回転機械の回転数が電力系統ACの周波数に同期して変動するよりも大きく変動させて、等価的に慣性能率を増やす技術を開示した。
【0149】
これに対し、第6の実施形態では、回転機械を有していない電気設備に対し、電力系統安定化装置10を適用する例について説明する。
【0150】
(電気炉システムの機能構成)
図8は、第6の実施形態に係る電気炉システムおよび電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
ここでは、電力系統安定化装置10を電気炉システム30に適用する例について説明する。電気炉システム30は、回転機械を有していない電気設備の一態様である。
【0151】
図8に示すように、電気炉システム30は、制御装置31と電気炉装置32とを備える。
【0152】
電気炉装置32は、交流電力調整器320と、誘導巻線321と、電気炉322と、温度検出器323とを有する。
【0153】
交流電力調整器320は、誘導巻線321に交流電力を供給する。また、交流電力調整器320は、電力系統安定化装置10の電力変換器13としても利用される。なお、電気炉322では、回転機械と異なり出力の周波数を調節する必要がないので、本実施形態に係る電力変換器13(交流電力調整器320)は周波数調整回路を有してなくてもよい。したがって、交流電力調整器320は、例えば、サイリスタレギュレータなどの交流電力調整回路のみで構成される。
【0154】
誘導巻線321は、交流電力が供給されると、電気炉322内に交番磁界を発生させて、電気炉322の内部の温度を上昇させる。
【0155】
温度検出器323は、電気炉322内の温度を計測する。
【0156】
制御装置31は、目標決定部310と、PI制御器311とを有する。目標決定部310は、電気炉322の温度設定値TSVを決定する。PI制御器311は、電気炉322の温度が温度設定値TSVに近づくように、交流電力調整器320が誘導巻線321に供給する電力の指令値を算出する。
【0157】
(電力系統安定化装置の機能構成)
本実施形態に係る電力系統安定化装置10の機能構成について、図8を参照しながら説明する。なお、図8には、電力系統安定化装置10が電気炉システム30の制御装置31の内部に設ける例が示されているが、これに限られることはない。他の実施形態では、電力系統安定化装置10は制御装置31の外部に設けられてもよい。
【0158】
電力系統安定化装置10は、周波数検出器11と、演算部12と、有効電力検出器16と、有効電力補償器17とを備える。周波数検出器11および有効電力検出器16の機能は、上述の各実施形態と同じである。
【0159】
有効電力補償器17は、電気炉システム30を含む複数の電気設備が設置された施設C全体の有効電力Pwholeに基づいて補正量P~1を算出する。
【0160】
演算部12は、電力系統ACの系統周波数の変動に応じたを補正量P~2と、有効電力補償器17が算出した補正量P~1とに基づいて、交流電力調整器320(電力変換器13)から電気炉322の誘導巻線321に供給される交流電力の周波数指令値を算出する。交流電力調整器320は、演算部12が算出した周波数指令値に基づいて、誘導巻線321に出力する交流電力を調整する。
【0161】
(電力系統安定化装置の作用、効果)
図8を参照しながら、電力系統安定化装置10の作用および効果について説明する。交流電力調整器320は誘導巻線321に交流電力を供給する。誘導巻線321は電気炉322内に交番磁界を発生させる。電気炉322内には例えば鋳造用の金属片があり、金属片は交番磁界に誘起されて自らに発生する渦電流と自らの電気抵抗によるジュール発熱で高温化し、融解する。電気炉322内の温度TPVは温度検出器323で計測される。電気炉322内の温度は、制御装置31の目標決定部310によって設定値TSVが予め定められている。交流電力調整器320は、例えばPI制御器311が設定値TSVと電気炉322内の温度TPVの偏差に基づいて算出した指令値に従って誘導巻線321に供給する交流電力を調節する。
【0162】
第1から第5の実施形態では、回転機械を有する電気設備を利用する例について述べた。回転機械を有する場合には、回転機械の回転数を電力系統ACの周波数変動に比例して調節すれば、回転機械の回転数が増加または減少する時間変化率に比例して、回転機械が消費または供給する運動エネルギーが補償電力Pとなった。しかし、例えば電気炉322には回転エネルギーに相当するものがないので電力系統ACの周波数の時間変化率f・に比例する電力を消費して代用する。具体的には、演算部12は、図8の補償電力モデルGにて補償電力Pの推定値を計算する。その値がP~1である。有効電力補償器17は、例えば施設C全体が電力系統ACと授受する有効電力Pwholeを入力する。有効電力Pwholeは、補償電力Pと同様に、電力系統ACに供給する向きを正にとる。そして、有効電力補償器17は、Pwholeを第3の高域通過フィルタ171で濾波してPwholeの変動成分を取り出し、Pwholeの変動成分と補償電力モデルGとの偏差に基づき補正量P~2を出力する。演算部12は、補償電力の推定値P~1と補正量P~2の和を、温度制御用のPI制御器311の出力から減算して、交流電力調整器320の周波数指令値を算出する。
【0163】
なお、第2の高域通過フィルタ122は、電力系統ACの系統周波数の持続的な偏差に対して補償電力を発生するためのものである。これは、第5の実施形態と同様である。
【0164】
このようにすることで、第6の実施形態に係る電力系統安定化装置10は、回転機械を有しない電気設備(例えば、電気炉322)を利用して、電力系統ACの周波数変動に応じた補償電力Pを提供することが可能となる。
【0165】
<第6の実施形態の変形例>
第6の実施形態では、電気炉システム30に電力系統安定化装置10を適用する例について説明したが、これに限られることはない。本変形例のように、電力系統安定化装置10は蓄電池システム40に適用されてもよい。電気炉システム30は、回転機械を有していない電気設備の一態様である。
【0166】
(蓄電池システムの機能構成)
図9は、第6の実施形態の変形例に係る蓄電池システムおよび電力系統安定化装置の機能構成を示す図である。
図9に示すように、蓄電池システム40は、制御装置41と蓄電池装置42とを備える。
【0167】
蓄電池装置42は、順変換器420と、蓄電池421と、電流検出器422とを有する。
【0168】
順変換器420は、例えば整流器である。順変換器420は、交流電力を直流電力に変換して蓄電池421に供給する。また、順変換器420は、電力系統安定化装置10の電力変換器13としても利用される。
【0169】
蓄電池421は、順変換器420から供給された直流電力により蓄電する。
【0170】
電流検出器422は、蓄電池421が充放電する電流IPVを計測する。
【0171】
(電力系統安定化装置の作用、効果)
図9を参照しながら、電力系統安定化装置10の作用および効果について説明する。図9は、充電の初期の電流制御モードの制御系を表している。充電の初期においては、蓄電池421の電圧が低いので、過電流で蓄電池421が損傷することを回避するために電流制御が行われる。制御装置41の目標決定部410によって予め電流の設定値ISVが定められている。順変換器420(電力変換器13)は、例えばPI制御器411が設定値ISVと電流検出器422が検出した電流IPVとの偏差に基づいて算出した指令値に従って、蓄電池421に供給する直流電流を調節する。
【0172】
電力系統安定化装置10の有効電力補償器17は、第6の実施形態と同様に、施設C全体の有効電力Pwholeの変動成分と補償電力モデルGとの偏差に基づき補正量P~2を出力する。演算部12は、系統周波数の偏差を補償電力モデルGに入力して補償電力の推定値P~1を計算する。また、演算部12は、補償電力の推定値P~1と補正量P~2の和を、PI制御器411の出力から減算して、順変換器420に出力する電流指令値を算出する。
【0173】
このようにすることで、本変形例に係る電力系統安定化装置10は、蓄電池421を利用して、電力系統ACの周波数変動に応じた補償電力Pを提供することが可能となる。
【0174】
<コンピュータ構成>
図10は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
図10に示すように、コンピュータ90は、プロセッサ91、メインメモリ92、ストレージ93、および、インタフェース94を備える。
【0175】
上述の電力系統安定化装置10、空気調和機20の制御装置23、電気炉システム30の制御装置31、および蓄電池システム40の制御装置41は、それぞれコンピュータ90に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ93に記憶されている。プロセッサ91は、プログラムをストレージ93から読み出してメインメモリ92に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ91は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ92に確保する。
【0176】
プログラムは、コンピュータ90に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータは、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0177】
ストレージ93の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ93は、コンピュータ90のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース94または通信回線を介してコンピュータ90に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ90に配信される場合、配信を受けたコンピュータ90が当該プログラムをメインメモリ92に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ93は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0178】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0179】
<付記>
上述の各実施形態は、例えば以下のように把握される。
【0180】
(1)本開示の第1の態様によれば、電力系統安定化装置10は、交流電力系統ACの系統周波数を検出する周波数検出器11と、系統周波数に基づいて、回転機械14,210の回転数を調整する周波数指令値を算出する演算部12と、交流電力系統と回転機械14,210との間に設けられ、周波数指令値に基づいて回転機械14,210の回転数を調整する電力変換器13と、を備える。
【0181】
このようにすることで、電力系統安定化装置10は、系統周波数に応じた補償電力Pを提供することができる。
【0182】
(2)本開示の第2の態様によれば、第1の態様に係る電力系統安定化装置10において、回転機械14は、フライホイール14Bと、フライホイール14Bを駆動する電動機としての機能、およびフライホイール14Bに蓄積された運動エネルギーにより駆動する発電機としての機能を有する電動機14Aと、を有し、演算部12は、フライホイール14Bの角速度が系統周波数に比例して増減するように、周波数指令値を算出する。
【0183】
このようにすることで、電力系統安定化装置10は、電力変換器13によりフライホイール14Bの角速度を変更することにより、フライホイール14Bの慣性を大きくすることができる。したがって、電力系統安定化装置10は、小さなフライホイールを使用したとしても、大きな補償電力Pを提供することができる。これにより、電力系統安定化装置10を小型化することが可能であり、家庭やオフィスなど大型の装置を設置するスペースがない施設にも適用できる。
【0184】
(3)本開示の第3の態様によれば、第2の態様に係る電力系統安定化装置10は、周波数指令値の時間変化率の上限または下限を、周波数指令値と交流電力系統ACの基準周波数との偏差に基づいて定める補償電力制限器15をさらに備える。
【0185】
このようにすることで、電力系統安定化装置10は、起動時にフライホイール14Bの加速するときの力行電力、または、停止時にフライホイール14Bを減速するときの回生電力が電力系統ACの擾乱となることを抑制できる。
【0186】
(4)本開示の第4の態様によれば、第2または第3の態様に係る電力系統安定化装置10において、演算部12は、フライホイール14Bの基準角速度ωrefまたは補償電力を定める制御定数kを、周波数指令値の変化率の大きさに基づいて定める。
【0187】
このようにすることで、電力系統安定化装置10は、電力変換器13の能力の利用率を高めることができる。この結果、電力系統安定化装置10は、電力変換器13の能力が過度に余ることも、過度に不足することもなく運転できる。
【0188】
(5)本開示の第5の態様によれば、第1の態様に係る電力系統安定化装置10において、回転機械は空気調和機20の圧縮機210であり、演算部12は、空気調和機20の制御装置23が出力する回転数指令値を、系統周波数の変動に比例して補正した周波数指令値を算出する。
【0189】
このようにすることで、電力系統安定化装置10は、空気調和機20の圧縮機210の可変速駆動装置218を電力系統ACの安定化装置として機能させることができる。つまり、空気調和機20に電力系統安定化装置10を取り入れることにより、家庭やオフィスに既存の電気設備である空気調和機20に電力系統ACの周波数変動を抑制する(安定化する)作用を追加することができる。
【0190】
(6)本開示の第6の態様によれば、第5の態様に係る電力系統安定化装置10において、演算部12は、回転数指令値の計算に用いられる空気調和機20の出力の目標値Ps0を、系統周波数の変動に比例してさらに補正する。
【0191】
このようにすることで、電力系統安定化装置10は、補償電力を持続的に発揮することができる。
【0192】
(7)本開示の第7の態様によれば、第1から第6の何れか一の態様に係る電力系統安定化装置10は、電力系統安定化装置10および電気設備90を有する施設Cにおいて、施設C全体が交流電力系統ACとの間で授受する有効電力を検出する有効電力検出器16と、有効電力に基づいて、周波数指令値の補正量を算出する有効電力補償器17と、をさらに備え、演算部12は、交流電力系統ACの系統周波数と、補正量とに基づいて周波数指令値を算出する。
【0193】
このようにすることで、電力系統安定化装置10は、施設トータルで需給調整に貢献することを可能とする。
【0194】
(8)本開示の第8の態様によれば、電力系統安定化装置10は、交流電力系統ACと電気設備30,40との間に設けられ、電気設備30,40に交流電力または直流電力を供給する電力変換器13と、交流電力系統ACの系統周波数を検出する周波数検出器11と、系統周波数に基づいて、電気設備30,40に供給する交流電力の周波数指令値、または直流電力の電流指令値を算出して電力変換器13に出力する演算部12と、を備える。
【0195】
このようにすることで、電力系統安定化装置10は、回転機械を有しない電気設備(例えば、電気炉322、蓄電池421)を利用して、電力系統ACの周波数変動に応じた補償電力Pを提供することが可能となる。
【0196】
(9)本開示の第9の態様によれば、電力系統安定化方法は、交流電力系統ACの系統周波数を検出するステップと、系統周波数に基づいて回転機械14,210の回転数を調整する周波数指令値を算出するステップと、周波数指令値に基づいて回転機械14,210の回転数を調整するステップとを有する。
【0197】
(10)本開示の第10の態様によれば、プログラムは、交流電力系統ACの系統周波数を検出するステップと、系統周波数に基づいて回転機械14,210の回転数を調整する周波数指令値を算出するステップと、周波数指令値に基づいて回転機械の回転数を調整するステップと、を電力系統安定化装置に実行させる。
【符号の説明】
【0198】
10 電力系統安定化装置
11 周波数検出器
12 演算部
121 第1の高域通過フィルタ
122 第2の高域通過フィルタ
13 電力変換器
14 回転機械
14A 電動機
14B フライホイール
14C 角速度計
15 補償電力制限器
16 有効電力検出器
17 有効電力補償器
171 第3の高域通過フィルタ
20 空気調和機
21 室外機
210 圧縮機(回転機械)
217 圧力検出器
218 可変速駆動装置(電力変換器)
22 室内機
23 制御装置
230 目標決定部
231 PI制御器
30 電気炉システム(電気設備)
31 制御装置
310 目標決定部
311 PI制御器
32 電気炉装置
320 交流電力調整器(電力変換器)
321 誘導巻線
322 電気炉
323 温度検出器
40 蓄電池システム(電気設備)
41 制御装置
410 目標決定部
411 PI制御器
42 蓄電池装置
420 順変換器(電力変換器)
421 蓄電池
422 電流検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12