(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167921
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】直動案内装置の油路構造
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20231116BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
F16C29/06
F16C33/66 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079472
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183357
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義美
(72)【発明者】
【氏名】中野 健太
【テーマコード(参考)】
3J104
3J701
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA36
3J104AA67
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA76
3J104AA77
3J104BA33
3J104BA80
3J104DA20
3J701AA01
3J701AA44
3J701AA52
3J701AA64
3J701CA08
3J701FA13
(57)【要約】
【課題】リニアガイドの姿勢変化によって生じる、潤滑剤漏れのアンバランスを小さくすることが可能な直動案内装置の油路構造を提供する。
【解決手段】案内レールに跨設されてレール軸方向に移動する直動体の両端に備えられ、複数の部品を組み合わせて油路41を形成してなるエンドキャップ7であって、前記複数の部品を組み合わせて形成された油路41は、油路断面中心線を対称に配置された二箇所の接合面b1とb2位置を不等とした。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールに跨設されてレール軸方向に移動する直動体の両端に備えられ、複数の部品を組み合わせて油路を形成してなるエンドキャップであって、
前記複数の部品を組み合わせて形成された油路は、油路断面の中心線を対称に配置された二箇所の接合面位置を不等としたことを特徴とする直動案内装置のエンドキャップ油路構造。
【請求項2】
前記油路は、エンドキャップ本体と、前記エンドキャップ本体に組み合わせてなる油路構成別体とで構成され、
前記油路構成別体は、蓋部材によって前記エンドキャップ本体とで挟み込むようにして設けられていることを特徴とする請求項1に記載の直動案内装置のエンドキャップ油路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置の油路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置(リニアガイド)は、案内レールにスライド自在に跨設された直動体(スライダ)の両端部に配するエンドキャップに油路を形成し、複数の油溝へ潤滑剤を分配する構造を持つのが一般的である。
この油路は可能な限り漏れのない形状にすることが望ましく、理想としてはゴムチューブのような閉曲面の配管で構成することが望ましい。
しかし、限られた空間の中にチューブのような配管部品を格納することは難しく、複数の部品で油路を構成しているものが多い。
このように複数部品で油路を構成する場合、部品間の接合面より潤滑剤が漏れる虞があるが、この影響を可能な限り小さくする設計が重要となる。
【0003】
特許文献1では、エンドキャップ側に刻設した第一の油溝及び第二の油溝に、蓋部材側に突設した凸部を部分的に嵌め込んで油路を構成している(
図6参照。)。
このように、エンドキャップの油溝に蓋部材の凸部を嵌め込む構成を採用することで密閉状の油路が形成されるため、潤滑油が漏れにくくなっている。
【0004】
しかし、
図6に示すように、2つの接合面位置は、油路断面の中心線に対して、対称に配置されているため、リニアガイドの姿勢によって潤滑油の漏れが大きくことなるという問題があった。
すなわち、水平状に配した案内レール上にスライダが跨設され、その上面側を天(鉛直方向で上方)に向けた状態で水平移動する仕様の場合、接合面から
図6にてF1で示す方向への潤滑油漏れは生じにくいが、接合面から
図6にてF2で示す方向への潤滑油漏れが生じ得る。また、スライダの上面側(
図6にて「天」側)を、「地」(鉛直方向で下方)に向けた状態で水平移動する仕様の場合、接合面から
図6にてF2で示す方向への潤滑油漏れは生じにくいが、接合面から
図6にてF1で示す方向への潤滑油漏れが生じ得る。そして、鉛直方向に立設して配した案内レールに沿って鉛直方向で上下スライド移動するように配設した仕様の場合には、
図6にて「後」と記したスライダの後側を鉛直方向で下にして上下スライド移動すると、F1及びF2の方向への潤滑油漏れが生じ得る。
【0005】
この問題点は、特許4304087号、特開2012-229794号においても同様であり、これまでに抜本的な解決策は提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は従来技術の有するこのような問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、リニアガイドの姿勢変化によって生じる、潤滑剤漏れのアンバランスを小さくすることが可能な直動案内装置の油路構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、第1の本発明は、案内レールに跨設されてレール軸方向に移動する直動体の両端に備えられ、複数の部品を組み合わせて油路を形成してなるエンドキャップであって、
前記複数の部品を組み合わせて形成された油路は、油路断面の中心線を対称に配置された二箇所の接合面位置を不等としたことを特徴とする直動案内装置のエンドキャップ油路構造としたことである。
【0009】
第2の本発明は、第1の本発明において、前記油路は、エンドキャップ本体と、前記エンドキャップ本体に組み合わせてなる油路構成別体とで構成され、
前記油路構成別体は、蓋部材によって前記エンドキャップ本体とで挟み込むようにして設けられていることを特徴とする直動案内装置のエンドキャップ油路構造としたことである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リニアガイドの姿勢変化によって生じる、潤滑剤漏れのアンバランスを小さくすることが可能な直動案内装置の油路構造を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明直動案内装置の油路構造を備えた直動案内装置の一実施形態を示す概略側面図である。
【
図2】本発明直動案内装置の油路構造を備えたエンドキャップの一実施形態について、スライダ本体対向面側から見た概略正面図である。
【
図6】従来技術の油路構造を部分的に拡大して示す概略断面部である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明直動案内装置の油路構造の一実施形態について説明する。
なお、本実施形態は本発明の一実施形態に過ぎず、何等限定解釈されるものではなく、本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。
また、本発明直動案内装置の油路構造は、
図1に示すように、案内レール1上に跨設され、転動体(不図示)の無限循環によりレール1に沿ってスライド移動する直動体(スライダ)3の移動方向両端に備えられたエンドキャップ5に形成されるものであり、その特徴的な構成部分はエンドキャップ5にあるため、エンドキャップ5の油路構造の特徴的部分について詳述し、その他の構成についての説明は省略する。なお、図中符号60は、エンドキャップの両端に配設されるサイドシールを示す。また、
図1中、矢印L1はスライダ3の移動方向を示す。
「第一実施形態」
【0013】
図1乃至
図3は、本発明の第一実施形態を示し、本実施形態においてエンドキャップ5は、エンドキャップ本体7と、エンドキャップ本体7の内面(スライダ対向面)側に配される蓋部材50と、エンドキャップ本体7と蓋部材50との間に配設される油路構成別体31と、の3部品によって構成されている。
【0014】
エンドキャップ本体7は、案内レール1の幅方向両側に配置される脚部9,9と、両脚部9,9と直交する方向に延びて両脚部9,9を連結する胴部11と、からなり、両脚部9,9のスライダ対向面に、転動体(不図示)の方向転換路の外側溝13が形成されている。この外側溝13と、第1のリターンガイド131および第2のリターンガイド132により、転動体の方向転換路が形成される。
【0015】
エンドキャップ本体7のスライダ対向面7aには、所定形状の凹部7bが設けられており、その凹部7bの内底面には、さらに油路構成部43が凹設されている。
油路構成部43は、凹部7bに凹設された凹設領域7cの内底面である第一垂設面部17から、前方に向けて略L字状に第一水平面部19を突出させた第一段差部15と、第一段差部15の第一水平面部19の前端から垂設された第二垂設面部23及び第二垂設面部23から前方に向けて略L字状に第二水平面部25を突出させた第二段差部21とを含んで構成されている(
図3参照。)。
【0016】
油路構成別体31は、凹部7b内に嵌合して収まる形態に構成されており、例えば、第一段差部15の第一水平面部19と同一幅に形成される短尺脚部33と、第二段差部21の第二垂設面部23との間に所定の隙間41を残して第二水平面部25の端部までの所定幅で形成される長尺脚部35と、短尺脚部33と長尺脚部35とのそれぞれの上端間にわたって架設される胴部37と、で構成されている(
図3参照。)。
【0017】
エンドキャップ本体7の第一段差部15上に、油路構成別体31の短尺脚部33を配設するとともに、第二段差部21上に長尺脚部35を配設することにより、長尺脚部35と第二段差部21の第二垂設面部23との間に所定の隙間41が形成され、この所定の隙間41が油路として構成される(
図3参照。)。
油路41は、胴部側油路41aから左右の脚部9,9側にわたって延設され、脚部9,9側の脚部側油路(不図示)の端部から第2のリターンガイド132に連通する。
そして、給油口(不図示)から給油される潤滑油が油路41を介して方向転換路の外側溝13に導入される。
【0018】
蓋部材50は、エンドキャップ本体7のスライダ対向面7aに設けた凹部7bに嵌合可能な形態に形成されている(
図2及び
図3参照。)。
そして、蓋部材50とエンドキャップ本体7とにより、油路構成別体31を挟み込むようにして密接させる。蓋部材50の形態は特に限定解釈されるものではなく、凹部7bに嵌合可能な形態を有していれば本発明の範囲内で適宜設計変更可能である。
【0019】
従って、本実施形態によれば、油路断面中心線を境に対象に配置された、エンドキャップ7の第一垂設面部17と油路構成別体31の短尺脚部33の面部との接合面(第一の接合面)b1と、蓋部材50の面部と長尺脚部35の面部との接合面(第二の接合面)b2と、が不等に構成されている(
図3参照。)。
【0020】
この配置において、例えば、水平状に配した案内レール1にスライダ3が跨設され、接合面a1側を「天」(鉛直方向で上方)に向けた状態で水平移動する仕様の場合、潤滑油は、矢印F2で示すように接合面a2→接合面c1に漏れる可能性があるが、接合面a1→接合面b1には漏れる可能性が低い(
図3参照。)。
また、その逆で、接合面a1側(
図3にて「天」側)を、「地」(鉛直方向で下方)に向けた状態でスライダ3が水平移動する仕様の場合は、逆に潤滑油は、矢印F1で示すように接合面a1→接合面b1より漏れる可能性があるものの、接合面a2→接合面c1より漏れる可能性は低い(
図3参照。)。
【0021】
そして、鉛直方向に立設して配した案内レールに沿って鉛直方向で上下スライド移動するように配設した仕様の場合には、
図3にて「後」と記したスライダの後側を鉛直方向で下にして上下スライド移動すると、潤滑油は、矢印F1で示すように接合面a1→接合面b1より漏れる可能性があるものの、矢印F2で示すように接合面a2→接合面c1より漏れる可能性は低い(
図3参照。)。
また、その逆で、
図3にて「前」と記したスライダの前側を鉛直方向で下にして上下スライド移動すると、潤滑油が、矢印F2で示すように接合面a2→接合面c1より漏れる可能性があるものの、矢印F1で示すように接合面a1→接合面b1より漏れる可能性は低い(
図3参照。)。
【0022】
したがって、いずれの方向にリニアガイドが配置されても、潤滑油が漏れる可能性があるのは1面のみであり、取付姿勢による潤滑剤漏れのアンバランスが抑制されている。
また、複数の部品を組み合わせた場合に、同じような形状の部品があると組み付け間違いのリスクも生じるが、本発明のように不当な接合面を有することで間違い防止にも寄与できる。
【0023】
なお、本実施形態では、エンドキャップ本体7と蓋部材50と油路構成別体31との3部品にて構成されているが、例えば、油路構成別体31は蓋部材50と一体に形成されている形態であってもよく本発明の範囲内である。また、油路構成別体31をエンドキャップ本体7と一体に形成されるものであってもよい。
「第二実施形態」
【0024】
図4は本発明の第二実施形態を示し、油路構成別体31を、L字形状の部品とした場合である。
この場合においても実施例1と同様の効果が期待できる。
実施例1と比較して短尺脚部33がなく、凹形状としていないため、比較的容易に加工可能である。
但し、潤滑油の漏れる可能性がある接合面と部品の応力集中点が同じであるため、応力によって生じる接触面のスベリで漏れが大きくなるリスクもある。
その他の構成及び作用効果の説明は第一実施形態の説明を援用し、ここでの説明は省略する。
「第三実施形態」
【0025】
図5は本発明の第三実施形態を示し、油路41を、凹形状の組み合わせとしている。すなわち、エンドキャップ本体7の第二段差部21を構成する第二水平面部25の端部から鉛直方向で上方に立ち上げた立ち上げ面部47と、立ち上げ面部47の端部から水平方向で前方に向けて延設した第三水平面部49と、からなる立ち上げ段差部45を形成し、立ち上げ段差部45の第三水平面部49上に長尺脚部35を配置している。
この場合においても第一実施形態及び第二実施形態と同様の効果が期待できる。第二実施形態と比較して、潤滑油の漏れる可能性がある接合面と部品の応力集中点が異なるため、部材変形の影響を受けにくいとの作用効果もそうする。
その他の構成及び作用効果の説明は第一実施形態の説明を援用し、ここでの説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、複数部品を組み合わせてなる油路を備え持つ直動案内装置全般に利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 案内レール
3 直動体(スライダ)
5 エンドキャップ
7 エンドキャップ本体
15 第一段差部
21 第二段差部
31 油路構成別体
41 油路(隙間)
50 蓋部材
a1 接合面
a2 接合面
b1 接合面
b2 接合面
c1 接合面