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特開2023-167930炭素繊維含有塗料及びそれを塗布してなる機械用部品
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  • 特開-炭素繊維含有塗料及びそれを塗布してなる機械用部品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167930
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】炭素繊維含有塗料及びそれを塗布してなる機械用部品
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20231116BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20231116BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231116BHJP
【FI】
C09D179/08
C09D127/12
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079486
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】505238175
【氏名又は名称】穴織カーボン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390015679
【氏名又は名称】ジャパンマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176326
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 美穂
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敏明
(72)【発明者】
【氏名】パン ティ フォン ガト
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 智広
(72)【発明者】
【氏名】竹内 敬一
(72)【発明者】
【氏名】惟高 直人
(72)【発明者】
【氏名】塚本 浩晃
(72)【発明者】
【氏名】沖 真人
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD122
4J038DH011
4J038HA026
4J038HA556
4J038KA07
4J038KA19
4J038KA20
4J038MA08
4J038NA09
4J038NA11
4J038PB06
4J038PB07
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】塗膜が優れた摺動特性を有するフッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物に炭素繊維を配合した塗料を提供すること、炭素材料からなる基材の表面に上記の塗料の塗膜を形成した軽量の機械用部品を提供すること。
【解決手段】フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物に炭素繊維が3~30質量%配合されてなる塗料が開示されている。また、フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物に炭素繊維が3~30質量%配合されてなる炭素繊維含有塗料が、炭素材料からなる基材の表面の一部又は全面に塗布してなる塗膜が形成された機械用部品が開示されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを含む溶液組成物と、3~30質量%の炭素繊維とを含むことを特徴とする炭素繊維含有塗料。
【請求項2】
前記炭素繊維が等方性ピッチ系炭素繊維であり、数平均長さが30~100μmであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維含有塗料。
【請求項3】
前記溶液組成物に、3~20質量%の電気石の微粒子を含むことを特徴とする請求項1及び2に記載の炭素繊維含有塗料。
【請求項4】
フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを含む溶液組成物と、3~30質量%の炭素繊維とを含む炭素繊維含有塗料を、炭素材料からなる基材の表面の一部又は全面に塗布してなる塗膜が形成されたことを特徴とする機械用部品。
【請求項5】
前記炭素繊維が等方性ピッチ系炭素繊維であり、数平均長さが30~100μmであることを特徴とする請求項4に記載の機械用部品。
【請求項6】
前記溶液組成物に、3~20質量%の電気石の微粒子を含むことを特徴とする請求項4及び5に記載の機械用部品。
【請求項7】
前記炭素材料が、人造黒鉛であることを特徴とする請求項4に記載の機械用部品。
【請求項8】
前記炭素材料が、人造黒鉛であることを特徴とする請求項5に記載の機械用部品。
【請求項9】
前記炭素材料が、人造黒鉛であることを特徴とする請求項6に記載の機械用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維が配合されたフッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物からなる塗料、及びその塗料を炭素材料の表面に塗布してなる塗膜が形成された機械用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フッ素樹脂とポリイミド樹脂とからなる塗料を塗布してなる塗膜は、優れた絶縁耐力性、低誘電率、低誘電正接化などの電気特性を有し、例えば回路基板などの電子部品用途に好適である。更に、高い耐熱性や機械的特性を有し、撥水性や撥油性が高いなどの特長を有するため、幅広い用途で利用されている。このような主としてフッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主成分とする溶液組成物は、例えば特許文献1及び2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6491947号公報
【特許文献2】特許第6781442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、上記のようなフッ素樹脂とポリイミド前駆体とからなる溶液組成物(塗料)を塗布してなる塗膜は、潤滑性や耐摩耗性といった摺動特性に課題があった。
従って、ロッドパッキン、ピストンリング、ラビリンスリング、軸受け、ベーン、シールリング、ロータリージョイントシール、バルブシート、流量計用部品などの摺動部品を含む機械用部品において優れた性能を発揮するには、摺動特性を高める必要性があった。
【0005】
さらに、上記のような機械用部品においては、軽量であることが求められることが多く、軽量素材として挙げられる炭素材料が、機械用部品に広く使われるようになっている。
そこで、炭素材料の表面に、主としてフッ素樹脂とポリイミド樹脂とを樹脂成分とする、更に優れた摺動特性を有する塗膜を有する機械用部品が求められていた。
【0006】
本発明の目的は、塗膜が優れた摺動特性を有するフッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物に炭素繊維を配合した塗料を提供すること、更に、炭素材料からなる基材の表面に上記の塗料の塗膜を形成した軽量の機械用部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の炭素繊維含有塗料は、フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物に炭素繊維が3~30質量%配合されてなることを特徴としている。
【0008】
前記第1発明は、次のような形態を採用してもよい。
第1の形態では、炭素繊維が等方性ピッチ系炭素繊維であり、数平均長さが30~100μmである。
【0009】
第2の形態では、前記溶液組成物中に電気石(トルマリン)の微粒子が3~20質量%混合されている。
【0010】
第2発明の機械用部品は、フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物に炭素繊維が3~30質量%配合されてなる炭素繊維含有塗料が、炭素材料からなる基材の表面の一部又は全面に塗布してなる塗膜が形成されていることを特徴としている。
【0011】
前記第2発明は、次のような形態を採用してもよい。
第1の形態では、前記炭素繊維が等方性ピッチ系炭素繊維であり、数平均長さが30~100μmである。
【0012】
第2の形態では、前記溶液組成物中に電気石の微粒子が3~20質量%混合されている。
【0013】
第3の形態では、前記炭素材料が人造黒鉛である。
【発明の効果】
【0014】
第1発明の炭素繊維含有塗料によれば、フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物に炭素繊維が3~30質量%配合してなる塗料であるため、前記溶液組成物からなる塗料を塗布してなる塗膜の特徴である耐熱性、低誘電性、高密着性、耐絶縁性を保持したまま、炭素繊維により摺動特性(滑り性や耐摩耗性)を大きく向上させることができる。
【0015】
特に、炭素繊維は、ダングリングボンドに由来するプラス電荷とマイナス電荷の官能基を有するため、フッ素樹脂粉体の分散性と炭素繊維の分散性を高め、炭素繊維の電気力による塗膜の密着性を高めることができる。
第2の形態のように、前記溶液組成物中に電気石(トルマリン)の微粒子を混合するため、この塗料を金属表面に塗布した場合、電気石のマイナス電荷により、プラス電荷を持つ金属表面との密着性が格段に強化される。
【0016】
第2発明に係る機械用部品は、炭素材料からなる基材の表面の一部又は全部に、上記の塗料の塗膜を形成したため、耐熱性、高密着性、耐絶縁性、低誘電性、優れた摺動特性(滑り性や耐摩耗性)を有する塗膜が形成された軽量な機械用部品が得られる。
第2の形態のように、前記溶液組成物中に電気石の微粒子を混合するため、電気石のマイナス電荷により、炭素材料製の基材の表面と塗膜との密着性が強化される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例に係る摺動試験に関する模式図である。
図2】本発明の実施例2に係る塗膜の表面拡大図である。
図3】本発明の実施例2に係る塗膜の断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の炭素繊維含有塗料を構成する溶液組成物は、フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とし、前記成分を調整しても良く、市販のものを用いても良い。この溶液組成物は、有機溶剤系溶液でも水溶液であっても良いが、水溶液の方が安全性や設備費用等を考慮した取り扱い性に優れる点で好ましい。
【0020】
フッ素樹脂は、市販のフッ素樹脂系のマイクロパウダーを用いることができる。代表的なフッ素樹脂系のマイクロパウダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がある。その他、フッ化エチレンープロピレン共重合体、パーフルオロアルコキシ重合体、クロロトリフルオロエチレン、ビニリデンフロライド、ビニルフルオライドなど公知のものを用いることができる。1種類のマイクロパウダーを用いてもよく、2以上のものを混合して用いても良い。
【0021】
ポリイミド前駆体は、ポリアミド酸(ポリアミック酸)が最も一般的である。ポリイミド前駆体溶液の調整は、公知の方法を採用することができる。
有機溶剤(非水系)の溶剤は、n-メチル―2―ピロリドン、n-アセチル―2―ピロリドン、フォルムアミド、アセトアニリドなどが挙げられるが公知の好適な溶剤を用いることができる。水性塗料(水溶液)では、ポリイミド前駆体と水分散したフッ素樹脂パウダーの混合液も製品化されている。
【0022】
本発明の炭素繊維含有塗料は、フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物に潤滑性や耐摩耗性といった摺動特性を向上させるための添加剤として、カーボンブラックなどの各種カーボン粉末、アルミナなどのセラミックス粉末、炭素繊維などを配合することが挙げられる。これらのうち、特に炭素繊維を用いることが好ましい。炭素繊維としては、等方性ピッチ系炭素繊維、異方性ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などを挙げることができるが、特に等方性ピッチ系炭素繊維を用いることが好ましい。
【0023】
異方性ピッチ系炭素繊維やPAN系炭素繊維は、機械的強度及び硬度が高すぎるので、摺動材として使用する場合に相手材を傷つける傾向にある。レーヨン系炭素繊維は結晶子の配列に方向性があるので、等方性ピッチ系炭素繊維に比べて摺動皮膜の形成がやや劣ると考えられる。
一方、等方性ピッチ系炭素繊維は、炭素六角網面からなる結晶子が小さく、且つ、ランダムに並んでいるため、機械的強度及び硬度が比較的低いので、炭素繊維の結晶子を含んだ良質な摺動皮膜を形成できる。
【0024】
等方性ピッチ系炭素繊維の数平均長さが30~100μmであることが好ましい。より好ましくは、30~50μmである。数平均長さが30μmより短いとアスペクト比が小さくなりすぎて、塗膜の中の炭素繊維の並びの方向がランダムになりやすく炭素繊維としての性能が十分に発揮しにくくなる。数平均長さが100μmより長いと、塗料への均一な混合が難しくなる。
【0025】
炭素繊維の配合量は、塗料中に3~30質量%であることが好ましい。また、5~20質量%であることがより好ましい。炭素繊維の配合量が、3質量%未満であると摺動特性の向上が少なくなり、30質量%より多くなると塗料への均一な混合が難しくなる。
【0026】
また、炭素繊維には、熱処理温度を調整することにより、黒鉛の結晶性が異なるものがある。一般に、黒鉛結晶性の低い炭素繊維はより低温(例えば、800~1500℃)で熱処理され、炭素質と呼ばれることがある。
【0027】
そして、黒鉛結晶性の高い炭素繊維はより高温(例えば、2000~3000℃)で熱処理され、黒鉛質と呼ばれることがある。炭素質と黒鉛質の何れも使用することができる。
炭素繊維の種類によっても異なるが、等方性ピッチ系炭素繊維の場合は、炭素質のものが好ましい。炭素繊維を配合するため、炭素繊維表面にプラス電荷とマイナス電荷の官能基が多く存在し、炭素繊維が溶液組成物に均一に分散されやすくなる。
フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物への炭素繊維の混合は、例えば、溶液組成物に炭素繊維を加えて、混合機を用いて攪拌するなど常法に従って行う。
【0028】
塗膜と基材との密着性を強化するため、また、炭素繊維の溶液組成物中への分散性を高めるために、マイナス電荷を有する或いはマイナスイオンを発生する鉱石を混合することが好ましい。このような鉱石として例えばブラックトルマリン、ピンクトルマリン、六晶石(登録商標)等のマイナス電荷を有する電気石が挙げられる。
電気石の粒径は3μm程度かそれ以下が好ましく、電気石の混合量は、溶液組成物に対して2~20質量%が好ましい。より好ましくは、5~15質量%である。2質量%より少なくなると炭素繊維の分散性が乏しくなり、20質量%を超えると電気石の割合が多くなりすぎるからである。
【0029】
ステンレス鋼、炭素鋼、銅や銅合金、アルミニウムやアルミニウム合金等の各種金属材料を基材として、本発明の炭素繊維含有塗料を塗布して塗膜を形成することにより、優れた摺動特性を有する塗膜を有する機械用部品とすることができる。
しかし、上記金属材料を基材とする場合は、かさ密度が高くなり軽量化が難しいため、軽量化が求められる機械用部品を用途とする場合には、炭素材料からなる基材を採用することが好ましい。
【0030】
一方、炭素材料からなる基材の場合は軽量化は図れるが、一般的に炭素材料の表面は気孔が存在し平滑ではないため、金属材料に比べて炭素繊維含有塗料の塗布が困難であると考えられる。
ここで、炭素材料としては、人造黒鉛、機械用炭素材料、ブラシ素材、C/C複合材料などの炭素繊維複合材料などが挙げられる。人造黒鉛は、加工性が良く様々な大きさの精密加工品にすることができるという利点がある。
【0031】
人造黒鉛には、一般に押出し成形品、型込め成形品、冷間静水圧加圧(CIP)成形品などがあるが、どれも本発明の炭素繊維含有塗料を塗布する基材として使用することができる。機械用部品の目的や用途に応じて基材を選択するのが望ましい。人造黒鉛ブロックのかさ密度は、概ね1.3~2.0g/cmの範囲のもの市販されているが、1.5~2.0g/cmのものが好ましく、より好ましくは、1.7~1.9g/cmである。かさ密度が小さいほど気孔が多くなり塗料の塗布が難しくなる傾向にあり、かさ密度が、1.9g/cmを超えるものは、大きさが限定されるといった制限があるためである。
【0032】
次に、本発明の炭素繊維含有塗料A、B及びCを塗布して塗膜を形成した基材が機械用部品として優れた摺動性を備えることを調べるための摺動試験を行った。
実施例1~4及び比較例1~6では、炭素材料のうち軽量素材の一つである人造黒鉛を基材に用いて後述するように摺動試験を行い、その結果を表1及び表2に示す。
【実施例0033】
ベース塗料として、フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物であり、PTFE微粒子がポリアミック酸に均一に分散され、水を溶剤とし、粒径3μm以下の電気石の微粒子が5質量%混合された高機能水溶性塗料Y(ジャパンマテックス株式会社製 商品名:QUATLON(通常品))を用いた。
【0034】
高機能水溶性塗料Yに等方性ピッチ系炭素繊維ミルド(大阪ガスケミカル株式会社製 商品名:ドナカーボ 品番:S-2404N)を配合した。炭素繊維ミルドは、数平均繊維長が40μm、アスペクト比が3である。なお、本炭素繊維は、いわゆる炭素質である。
【0035】
高機能水溶性塗料Yをステンレス製の容器に475g入れた後、その中に本炭素繊維ミルド25gを入れ撹拌機を用いて、30分間撹拌することによって、炭素繊維を5質量%含有した炭素繊維含有塗料A(高機能水溶性塗料Y+炭素繊維5質量%)を調整した。このとき、攪拌は市販の金属製の羽が回転するタイプの撹拌機を用いて行った。
【0036】
市販の人造黒鉛A(イビデン株式会社製の等方性黒鉛 品番:EX-60)を塗布基材に用いた。人造黒鉛Aのかさ密度は、1.80g/cmであった。
人造黒鉛Aの素材ブロックより、30×30×3(mm)、50×50×5(mm)、180×100×5(mm)のサイズの人造黒鉛基材をフライス加工により切り出した。
【0037】
炭素繊維含有塗料を塗布する前に、人造黒鉛基材はアセトンで拭くことにより脱脂した。その後、乾燥器を用いて30~40℃で10分間以上予熱した。予熱後、エアガンを用いて人造黒鉛基材の表面に空気を吹き付けた。このとき、エアガンの空気圧力は、約0.15MPaであった。塗布前の炭素繊維含有塗料Aの調整は、90メッシュのストレーナーに通すことによって行った。
【0038】
ストレーナーに通した炭素繊維含有塗料Aを市販の口径1.3mmのエアスプレーガンを用いて人造黒鉛基材に塗布した。このときの吹付空気圧は、約0.2MPaであった。
また、人造黒鉛基材の方向を変えながら、塗布を3回程度繰り返して行い、熱処理後の塗膜の厚みが40μm以上になるように塗布した。
このとき、塗布は試験片の最も面積の大きな一面又は全面に施した。人造黒鉛基材に炭素繊維含有塗料Aを塗布したものは、ステンレス製の網に載せて、乾燥器内に配置し、大気雰囲気下120℃で30分間、乾燥処理を行って、殆どの溶剤を飛散させた。
【0039】
その後、同様に大気中で380℃まで約8℃/分の速度で昇温し、その温度で15分間保持した。これによって、塗料の樹脂成分の硬化が完了する。その後、炭素繊維含有塗料Aが塗布された人造黒鉛基材を380℃の状態から水に浸すことによって急冷を行った。10分間以上、水に浸した後、塗布した黒鉛に付着した水を布で拭き取り、風乾後、120℃で20分間乾燥した。
【0040】
なお、高機能水溶性塗料Yは硬化までに溶剤の飛散等により概ね57%の質量が減少するため、炭素繊維含有塗料Aを人造黒鉛基材に塗布して形成された塗膜における炭素繊維含有量は、約11質量%となる。何れの試験片も塗膜は、膜厚90μmで、ムラやクラックが無く良好な外観であった。各実施例に共通の摺動試験の方法は、後述するとおりであり、各実施例の膜厚及び摺動試験の結果は表1、表2に示すとおりである。
【0041】
【表1】
【実施例0042】
実施例1の炭素繊維含有塗料Aの調整に於いて、炭素繊維ミルドの配合を炭素繊維10質量%とした。すなわち、高機能水溶性塗料Yをステンレス製の容器に450g入れた後、その中に本炭素繊維ミルド50gを入れ、炭素繊維を10質量%含有した炭素繊維含有塗料B(高機能水溶性塗料Y+炭素繊維10質量%)とした。
炭素繊維ミルドの配合以外は、実施例1と同様の方法で実施した。なお、塗膜における炭素繊維含有量は、約21質量%となる。実施例2においても、何れの試験片も塗膜は、膜厚60μmで、ムラやクラックが無く良好な外観であった。上記表1に膜厚及び摺動試験の結果を示す。
【0043】
ここで、炭素繊維含有塗料Aを人造黒鉛基材に塗布して形成された塗膜を走査型電子顕微鏡(JEOL JSM-6010LA)を用いて撮影した。塗膜の表面写真(走査型電子顕微鏡像)を図2に示し、塗膜の断面写真(反射電子像)を図3に示す。
なお、図2から、炭素繊維含有塗料Aに配合された炭素繊維ミルドが均一に分散されて塗膜が形成されていることがわかり、図3から、塗膜の厚みが均一に形成されていることがわかる。
【実施例0044】
実施例1の炭素繊維含有塗料Aの調整に於いて、炭素繊維ミルドの配合を炭素繊維20質量%とした。すなわち、高機能水溶性塗料Yをステンレス製の容器に400g入れた後、その中に本炭素繊維ミルド100gを入れ、炭素繊維を20質量%含有した炭素繊維含有塗料C(高機能水溶性塗料Y+炭素繊維20質量%)とした。
炭素繊維ミルドの配合以外は、実施例1と同様の方法で実施した。なお、塗膜における炭素繊維含有量は、約37質量%となる。実施例3においても、何れの試験片も塗膜は、膜厚100μmで、ムラやクラックが無く良好な外観であった。上記表1に膜厚及び摺動試験の結果を示す。
【実施例0045】
塗布基材を実施例2の人造黒鉛基材から市販の人造黒鉛B(メルセン社製の等方性黒鉛 品番:2124)に変更した。塗布基材以外は実施例2と同様の方法で実施した。
人造黒鉛Bのかさ密度は、1.85g/cmであった。なお、塗膜における炭素繊維含有量も、実施例2と同様の炭素繊維10質量%である。実施例4においても、何れの試験片も塗膜は、膜厚140μmで、ムラやクラックが無く良好な外観であった。
ここで、塗布基材に人造黒鉛Bを用いた膜厚及び摺動試験の結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【実施例0047】
市販の人造黒鉛C(SECカーボン株式会社製の押出し黒鉛 品番:PSG-12)を塗布基材に用いた。なお、人造黒鉛Cのかさ密度は、1.74g/cmであった。
炭素繊維含有塗料Dの調整に於いて、炭素繊維ミルドの配合を炭素繊維30質量%とした。すなわち、高機能水溶性塗料Yをステンレス製の容器に350g入れた後、その中に本炭素繊維ミルド150gを入れ、炭素繊維を30質量%含有した炭素繊維含有塗料D(高機能水溶性塗料Y+炭素繊維30質量%)とした。上記基材と炭素繊維を30質量%含有した炭素繊維含有塗料Dを用いた以外は、実施例1と同様の方法で実施した。なお、塗膜における炭素繊維含有量は、約50質量%となる。実施例5においても、何れの試験片も塗膜は、ムラやクラックが無く良好な外観であった。
【実施例0048】
ステンレス鋼(SUS304、サイズ:100×100×2(mm))を塗布基材に用いた以外は、実施例1と同様の方法で実施した。塗膜は、膜厚40~50μmで、ムラやクラックが無く良好な外観であった。
【実施例0049】
ステンレス鋼(SUS304、サイズ:100×100×2(mm))を塗布基材に用いた以外は、実施例2と同様の方法で実施した。塗膜は、膜厚40~50μmで、ムラやクラックが無く良好な外観であった。
【実施例0050】
ステンレス鋼(SUS304、サイズ:100×100×2(mm))を塗布基材に用いた以外は、実施例3と同様の方法で実施した。塗膜は、膜厚40~50μmで、ムラやクラックが無く良好な外観であった。
【実施例0051】
ステンレス鋼(SUS304、サイズ:100×100×2(mm))を塗布基材に用いた以外は、実施例5と同様の方法で実施した。塗膜は、膜厚40~50μmで、ムラやクラックが無く良好な外観であった。
【0052】
(比較例1)
人造黒鉛Aの素材ブロックより、30×30×3(mm)、50×50×5(mm)、180×100×5(mm)のサイズの人造黒鉛基材をフライス加工により切り出した。塗料の塗布は、行っていない。上記表1に摺動試験の結果を示す。
【0053】
(比較例2)
実施例1の高機能水溶性塗料Yを用いた。炭素繊維ミルドが配合されていない高機能水溶性塗料Yをステンレス製の容器に500g入れた後、撹拌機を用いて、30分間撹拌することによって、塗布用の塗料を調整した。このとき、攪拌は市販の金属製の羽が回転するタイプの撹拌機を用いて行った。
市販の人造黒鉛Aを塗布基材に用いた。
人造黒鉛Aの素材ブロックより、30×30×3(mm)、50×50×5(mm)、180×100×5(mm)のサイズの人造黒鉛基材をフライス加工により切り出した。
【0054】
塗布する前に、人造黒鉛基材はアセトンで拭くことにより脱脂した。その後、乾燥器を用いて30~40℃で10分間以上予熱した。予熱後、エアガンを用いて人造黒鉛基材は表面に空気を吹き付けた。このとき、エアガンの空気圧力は、約0.15MPaであった。塗布前の塗料の調整は、140メッシュのストレーナーに通すことによって行った。
【0055】
ストレーナーに通した塗料を市販の口径0.8mmのエアスプレーガンを用いて人造黒鉛基材に塗布した。このときの吹付空気圧は、約0.2MPaであった。また、人造黒鉛基材の方向を変えながら、塗布を3回程度繰り返して行い、熱処理後の塗膜の厚みが10μm程度になるように塗布した。このとき、塗布は試験片の最も面積の大きな一面又は、全面に施した。人造黒鉛基材に塗料を塗布されたものは、ステンレス製の網に載せて、乾燥器内に配置し、大気雰囲気下120℃で30分間、乾燥処理を行って、殆どの溶剤を飛散させた。
【0056】
その後、同様に大気中で380℃まで約8℃/分の速度で昇温し、その温度で15分間保持した。これによって、塗料の樹脂成分の硬化が完了する。その後、急冷した。急冷は、塗布した黒鉛を380℃の状態から水に浸すことによって行った。10分間以上、水に浸した後、塗布した黒鉛に付着した水を布で拭き取り、風乾後、120℃で20分間乾燥した。何れの試験片も塗膜はムラやクラックが無く良好な外観であった。上記表1に膜厚及び摺動試験の結果を示す。
【0057】
(比較例3)
フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物の塗料として高機能水溶性塗料Ya(ジャパンマテックス株式会社製 商品名:QUATLON(黒色品))用いたこと以外は、比較例2と同様の方法で実施した。QUATLON(黒色品)は、高機能水溶性塗料Yにカーボンブラックを約13質量%加えたものである。何れの試験片も塗膜は、ムラやクラックが無く良好な外観であった。上記表1に膜厚及び摺動試験の結果を示す。
【0058】
(比較例4)
フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物のベース塗料として高機能水溶性塗料Yを用いた。
そのベース塗料に、粒径3μm以下の電気石の微粒子を15質量%混合し、高機能水溶性塗料Ybとした。高機能水溶性塗料Ybを塗料として用いたこと以外は、比較例2と同様の方法で実施した。何れの試験片も塗膜は、ムラやクラックが無く良好な外観であった。上記表1に膜厚及び摺動試験の結果を示す。
【0059】
(比較例5)
人造黒鉛Bの素材ブロックより、30×30×3(mm)、50×50×5(mm)、180×100×5(mm)のサイズの人造黒鉛基材をフライス加工により切り出した。塗布は、行っていない。何れの試験片も塗膜は、ムラやクラックが無く良好な外観であった。上記表2に膜厚及び摺動試験の結果を示す。
【0060】
(比較例6)
市販の人造黒鉛B(メルセン社製の等方性黒鉛 品番:2124)を塗布基材に用いた以外は、比較例2と同様の方法で実施した。何れの試験片も塗膜は、ムラやクラックが無く良好な外観であった。表2に膜厚及び摺動試験の結果を示す。
【0061】
(塗膜密着性の評価)
塗膜密着性の評価は、付着性(クロスカット法)JIS K 5600-5-6に準拠して行った。当該JISに示されている分類表「表1試験結果の分類」に従って塗膜密着性を評価した。この分類表の分類0が最も密着性が高く、数値が高くなるに従って密着性が低いことを示す。ガイドを使用し、塗膜に対して垂直になるように所定の刃を当てて切り込みを行った。
【0062】
1mmの間隔で6本の切込みを行なったら、90°方向を変えて直行する6本の切込みを行った。透明感圧付着テープを塗膜の格子にカットした部分に貼り、塗膜が透けて見えるようにしっかり指でテープをこする。付着して5分以内に60°に近い角度で、0.5~1.0秒で確実に引き離し、分類表と照合判定した。分類表の分類0は、「カット縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない」状態である。
実施例1~5及び比較例2、3、4、6の場合は、50×50×5(mm)の試験片を用いた。実施例6~9の場合は、100×100×2(mm)の試験片を用いた。
実施例1~9及び比較例2、3、4、6の何れも分類0と良好に塗膜が付着していた。
【0063】
(摺動試験)
摺動試験に関する模式図を図1に示す。
摺動試験は、JIS K7218 A法に準拠して行った。市販の摩擦摩耗試験機(株式会社 エー・アンド・デイ製 MODEL EFM-III-H)を用いてリングオンディスク方式でV(滑り速度)一定の下P(圧力)を変化させる方法でPV試験を行った。
【0064】
図1に示すように、サイズ30×30×3(mm)の試験片2の表面(30×30mm)に炭素繊維含有塗料を塗布した塗布面2aを相手材であるSUS304リング3(面積:2cm、中心線平均表面粗さRa:0.1μm程度)と接触させた。試験片2が回転し、滑り速度を0.5m/sとして、初期荷重50N(圧力250kPa)とし、10分間毎に荷重50N(圧力250kPa)を上げていった。試験環境は、室温25℃±5℃、湿度50%RH±5%RHとした。試験片2の摩耗深さ、摩擦係数及び摺動面近傍の温度を測定した。
【0065】
なお、試験片2の摩耗深さは、試験片2を押さえているトルク軸に取り付けられている金属板(図示略)との変位を、渦流式変位センサーで検知することによって求めた。摺動面近傍の温度は、相手材であるリング3の一部に形成された貫通孔3aに挿入された熱電対4で測定した。
【0066】
実施例及び比較例では、圧力Pの上昇において、ある時点で急激に摩耗深さの値が大きくなる現象が認められた。従って、本試験においては、摩耗深さが急激に上昇する手前のPとVとの積の値であるPV値を、限界PV値とした。
表1及び表2には、摺動試験の結果として、限界PV値、限界PV値における摩擦係数及び摺動面近傍の温度を示す。
実施例1~4の炭素繊維含有塗料を塗布した試験片では、高いPV限界値と低い摩擦係数が得られたことが分かる。
【0067】
以上説明した炭素繊維含有塗料によれば、フッ素樹脂とポリイミド前駆体とを主な樹脂成分とする溶液組成物に炭素繊維が3~30質量%配合してなる塗料であるため、前記溶液組成物からなる塗料を塗布してなる塗膜の特徴である耐熱性、低誘電性、高密着性、耐絶縁性を保持したまま、炭素繊維により摺動特性(滑り性や耐摩耗性)を大きく向上させることができる。
【0068】
特に、炭素繊維は、ダングリングボンドに由来するプラス電荷とマイナス電荷の官能基を有するため、フッ素樹脂粉体の分散性と炭素繊維の分散性を高め、炭素繊維の電気力による塗膜の密着性を高めることができる。
しかも、前記溶液組成物中に電気石(トルマリン)の微粒子を混合する場合には、この塗料を金属表面に塗布した場合、電気石のマイナス電荷により、プラス電荷を持つ金属表面との密着性が格段に強化される。
【0069】
以上説明した機械用部品のうち、炭素材料からなる基材の表面の一部又は全部に、上記の塗料の塗膜を形成した場合には、耐熱性、高密着性、耐絶縁性、低誘電性、優れた摺動特性(滑り性や耐摩耗性)を有する塗膜が形成された軽量な機械用部品が得られる。
しかも、前記溶液組成物中に電気石の微粒子を混合する場合には、電気石のマイナス電荷により、炭素材料製の基材の表面と塗膜との密着性が強化される。
【0070】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく上記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態を包含するものである。
【符号の説明】
【0071】
2 :試験片
2a :塗布面
3 :リング
3a :貫通孔
4 :熱電対
図1
図2
図3