(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167937
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】塗装用ローラー及び塗装方法
(51)【国際特許分類】
B05C 17/02 20060101AFI20231116BHJP
B05D 1/28 20060101ALI20231116BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20231116BHJP
E04F 13/02 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B05C17/02
B05D1/28
B05D3/00 D
E04F13/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079493
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】000206934
【氏名又は名称】株式会社マルテー大塚
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 章子
(72)【発明者】
【氏名】沼崎 孝義
(72)【発明者】
【氏名】松尾 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 伸
(72)【発明者】
【氏名】法木 達成
(72)【発明者】
【氏名】桑原 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】尾田 光
(72)【発明者】
【氏名】野上 知徳
【テーマコード(参考)】
4D075
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AC57
4D075AC88
4D075AC91
4D075AC92
4D075AC93
4D075AC95
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DA15
4D075DA20
4D075DA23
4D075DC01
4D075DC05
4D075EA05
4F042FA01
4F042FA10
4F042FA15
4F042FA18
4F042FA19
(57)【要約】
【課題】平らな塗装面及び湾曲した塗装面の双方に対して、十分な塗布量を保持しつつ塗布量のムラの発生を抑えた状態で塗装可能とする。
【解決手段】本開示に係る塗装用ローラー10は、把持可能な把持部材11と、把持部材11側から互いに離間する方向へ延びる一対のアーム17a,17bを有し、把持部材11に支持される軸支持部材12と、伸縮可能な弾性を有し、軸支持部材12の一対のアーム17a,17b間に張り渡されて軸支持部材12に支持されるコイルバネ13と、コイルバネ13に回転自在に支持され、コイルバネ13の軸方向に並んで配置される複数のロール14と、コイルバネ13のうち複数のロール14の軸方向の一側の一端から他側の他端までを挿通している領域の伸縮を調節可能な一対のE形止め輪23a,23bと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
把持可能な把持部材と、
前記把持部材側から互いに離間する方向へ延びる一対のアームを有し、前記把持部材に支持される軸支持部材と、
伸縮可能な弾性を有し、前記軸支持部材の前記一対のアーム間に張り渡されて前記軸支持部材に支持される支軸と、
前記支軸に回転自在に支持され、前記支軸の軸方向に並んで配置される複数のロールと、
前記支軸のうち前記複数のロールの前記軸方向の一側の一端から他側の他端までを挿通している領域の伸縮を調節可能な伸縮調節手段と、を備える
ことを特徴とする塗装用ローラー。
【請求項2】
前記伸縮調節手段は、前記複数のロールの前記一側に配置されて前記支軸に対して固定され、又は着脱可能に取り付けられて前記複数のロールの前記一側への移動を規制する一側ストッパと、前記複数のロールの前記他側に配置されて前記支軸に対して着脱可能に取り付けられて前記複数のロールの前記他側への移動を規制する他側ストッパとである
ことを特徴とする請求項1に記載の塗装用ローラー。
【請求項3】
前記一側ストッパ及び前記他側ストッパは、E形止め輪である
ことを特徴とする請求項2に記載の塗装用ローラー。
【請求項4】
前記把持部材は、前記軸方向と交叉する所定方向に延び、
前記軸支持部材は、前記軸方向及び前記所定方向の双方と交叉する方向に延びる軸を中心として前記把持部材に傾動可能に支持される
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の塗装用ローラー。
【請求項5】
前記支軸は、コイルバネである
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の塗装用ローラー。
【請求項6】
前記一対のアーム間に張り渡されている前記コイルバネにかかる荷重が、1.0kg以上4.0kg以下である
ことを特徴とする請求項5に記載の塗装用ローラー。
【請求項7】
一対のアームと、伸縮可能な弾性を有し、前記一対のアーム間に張り渡される支軸と、前記支軸に回転自在に支持され、前記支軸の軸方向に並んで配置される複数のロールと、前記支軸のうち前記複数のロールの前記軸方向の一端から他端までを挿通している領域の伸縮を調節可能な伸縮調節手段と、を備える塗装用ローラーを用いて塗装する塗装方法であって、
塗装対象となる塗装面に応じて、前記支軸の前記領域の伸縮を前記伸縮調節手段で調節し、前記支軸の前記領域にかかる荷重を調節する
ことを特徴とする塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗装用ローラー及び塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パイプ用塗装ローラーが記載されている。このパイプ用塗装ローラーでは、5個の塗布ロールの中心孔にコイルバネを通して数珠つなぎにし、コイルバネの両端を枠杆の鉤に引っ掛けて強く張り渡している。塗布ロールは、左右動しないようにワッシャーで止められている。
【0003】
特許文献2には、塗装用ローラーが記載されている。塗装用ローラーは、作業者が把持する取手と、この取手の端部から設けられた一対の軸受体と、これらの軸受体の先端部の間に張設された支軸としてのコイルバネと、このコイルバネに挿通されて回転自在に支持された、3個、6個、あるいはその他の数のローラ体等とからなっている。個々の円柱形状のローラ体の両側面は、中央部の通孔近傍から外周部に向かって傾斜して切欠され円錐台形状となっており、互いに隣接するローラ体の間に空間部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭48-017239号公報
【特許文献2】実開平05-009681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、大型の建築物や構造物を塗装する場合、一般的なサイズの塗装用ローラーでは、多くの時間と労力が必要となるので、ローラーの幅(軸方向の長さ)を広くすることが考えられる。しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の塗装用ローラーのロールの個数を増やしてローラーの幅を広くすると、ローラーの幅方向の中央部分が塗料の重みや自重で垂れ下がり易く、平らな塗装面を塗装する際に、塗布量にムラが生じてしまう可能性がある。また、ローラーの幅を広くすると、湾曲面を塗装する際に、ローラー全体に均等に力を伝えることが難しく、幅方向の外側のロールが塗装面から浮くなどして、塗布量にムラが生じてしまう可能性がある。塗布量にムラが生じると、塗膜性能の不具合や外観不良を引き起こす原因となるので、塗り直す必要が生じてしまい、塗り直しによって塗料や時間の無駄が発生しまうおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、平らな塗装面及び湾曲した塗装面の双方に対して、十分な塗布量を保持しつつ塗布量のムラの発生を抑えた状態で塗装することが可能な塗装用ローラーの提供、及び塗装用ローラーを用いた塗装方法の提示を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様の塗装用ローラーは、把持可能な把持部材と、前記把持部材側から互いに離間する方向へ延びる一対のアームを有し、前記把持部材に支持される軸支持部材と、伸縮可能な弾性を有し、前記軸支持部材の前記一対のアーム間に張り渡されて前記軸支持部材に支持される支軸と、前記支軸に回転自在に支持され、前記支軸の軸方向に並んで配置される複数のロールと、前記支軸のうち前記複数のロールの前記軸方向の一側の一端から他側の他端までを挿通している領域の伸縮を調節可能な伸縮調節手段と、を備える。
【0008】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様の塗装用ローラーであって、前記伸縮調節手段は、前記複数のロールの前記一側に配置されて前記支軸に対して固定され、又は着脱可能に取り付けられて前記複数のロールの前記一側への移動を規制する一側ストッパと、前記複数のロールの前記他側に配置されて前記支軸に対して着脱可能に取り付けられて前記複数のロールの前記他側への移動を規制する他側ストッパとである。
【0009】
本発明の第3の態様は、上記第2の態様の塗装用ローラーであって、前記一側ストッパ及び前記他側ストッパは、E形止め輪である。
【0010】
本発明の第4の態様は、上記第1の態様から上記第3の態様のいずれかの塗装用ローラーであって、前記把持部材は、前記軸方向と交叉する所定方向に延び、前記軸支持部材は、前記軸方向及び前記所定方向の双方と交叉する方向に延びる軸を中心として前記把持部材に傾動可能に支持される。
【0011】
本発明の第5の態様は、上記第1の態様から上記第4の態様のいずれかの塗装用ローラーであって、前記支軸は、コイルバネである。
【0012】
本発明の第6の態様は、上記第5の態様の塗装用ローラーであって、前記一対のアーム間に張り渡されている前記コイルバネにかかる荷重が、1.0kg以上4.0kg以下である。
【0013】
本発明の第7の態様は、一対のアームと、伸縮可能な弾性を有し、前記一対のアーム間に張り渡される支軸と、前記支軸に回転自在に支持され、前記支軸の軸方向に並んで配置される複数のロールと、前記支軸のうち前記複数のロールの前記軸方向の一端から他端までを挿通している領域の伸縮を調節可能な伸縮調節手段と、を備える塗装用ローラーを用いて塗装する塗装方法であって、塗装対象となる塗装面に応じて、前記支軸の前記領域の伸縮を前記伸縮調節手段で調節し、前記支軸の前記領域にかかる荷重を調節する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、平らな塗装面及び湾曲した塗装面の双方に対して、十分な塗布量を保持しつつ塗布量のムラの発生を抑えた状態で塗装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る塗装用ローラーの平面図である。
【
図2】
図1の塗装用ローラーの複数のロールの断面図である。
【
図5】コイルバネの伸縮調整についての模式的な説明図であり、(a)は伸ばした状態を、(b)は縮めた状態をそれぞれ示す。
【
図6】湾曲した塗装面の塗装についての説明図であって、(a)は大きな曲率半径の塗装面を塗装している状態を、(b)は小さな曲率半径の塗装面を塗装している状態をそれぞれ示す。
【
図7】スペースが狭い場所における湾曲した塗装面の塗装についての説明図である。
【
図8】湾曲した塗装面に対する塗装幅の比較図であって、(a)は本発明の一実施形態に係る塗装用ローラーを用いた際の塗装幅を、(b)は一般的なクッションローラーを用いた際の塗装幅を、(c)は一般的なレギュラーローラーを用いた際の塗装幅をそれぞれ示す。
【
図9】コイルバネが柔らか過ぎて、アーム部にロールが接触している状態を示す説明図である。
【
図10】コイルバネが硬すぎて、ロールの幅方向の外端部と塗装面とが密着していない状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る塗装用ローラー10の平面図である。
図2は、
図1の塗装用ローラー10の複数のロールの断面図である。
図3は、
図2のIII部分の拡大図である。
図4は、E形止め輪の平面図である。
図5は、コイルバネの伸縮調整についての模式的な説明図であり、(a)は伸ばした状態を、(b)は縮めた状態をそれぞれ示す。
図6は、湾曲した塗装面1a,1bの塗装についての説明図であって、(a)は大きな曲率半径の塗装面1aを塗装している状態を、(b)は小さな曲率半径の塗装面1bを塗装している状態をそれぞれ示す。
図7は、スペースが狭い場所における湾曲した塗装面1cの塗装についての説明図である。
【0018】
図1及び
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る塗装用ローラー10は、平面状の塗装面のみならず、湾曲した塗装面に対しても塗装可能な塗装用ローラー10であって、把持可能な把持部材11と、把持部材11に支持される軸支持部材12と、軸支持部材12に支持されるコイルバネ(支軸)13と、コイルバネ13に回転自在に支持される複数のロール14と、コイルバネ13に対して着脱可能に取り付けられる一対のE形止め輪(伸縮調節手段)23a,23bとを備える。
【0019】
なお、本明細書の説明において、塗装用ローラー10の方向は、特に説明のない限り、把持部材11が支軸(本実施形態ではコイルバネ13)に対して直交する状態(
図1及び
図2に示す状態)での方向を示す。また、前後方向とは、把持部材11が延びる方向を意味し、複数のロール14側を前方とし、把持部材11側を後方とする。また、左右方向とは、支軸(本実施形態ではコイルバネ13)が延びる方向(軸方向)であり、塗装用ローラー10の前方を向いた状態での左右方向を意味する。上下方向とは、前後方向及び左右方向の双方と交叉する方向を意味する。各図において、FRは塗装用ローラー10の前方を、Lは塗装用ローラー10の左側をそれぞれ示す。
【0020】
把持部材11は、塗装作業時に把持するための部材であって前後方向(所定方向)に延びる。本実施形態では、把持部材11は、前後方向に直線状に延びる棒状に形成される。把持部材11の一端側(後端側)には、把持し易いように太径に形成された把持部11aが設けられる。把持部材11の他端側の端部11b(前端部11b)は、軸支持部材12を支持する。本実施形態では、把持部材11の前端部11bは、軸支持部材12を傾動可能に支持する。
【0021】
軸支持部材12は、コイルバネ13を支持する部材であって、把持部材11側から互いに離間する方向へ延びる一対のアーム17a,17bを有する。本実施形態では、軸支持部材12は、一対のアーム17a,17bによって構成される。一対のアーム17a,17bは、把持部材11の前端部11bから左右に互いに離間するように、前方へ向かって延びる。軸支持部材12は、上下方向に延びる軸を中心として把持部材11の前端部11bに傾動可能に支持される基端部16と、基端部16から互いに離間する方向へ延びる一対のアーム17a,17bと、一対のアーム17a,17bの先端部に設けられる軸支持部18とを有する。すなわち、軸支持部材12は、上下方向に延びる軸を中心として把持部材11に傾動可能に支持される。把持部材11に対する軸支持部材12の角度は、角度調節部材15(本実施形態ではボルト・ナット)によって調節可能に保持される。軸支持部材12の基端部16と把持部材11の前端部11bとは、上下方向に延びるボルト15によって締結固定され、ボルト15を緩めることによって、把持部材11に対する軸支持部材12の角度を調節可能となっている。軸支持部材12の一対のアーム17a,17bの軸支持部18は、コイルバネ13の両端を係止可能に形成される。一対のアーム17a,17bの軸支持部18同士の距離(左右方向の距離)は、左右方向に詰めて並べた状態の複数のロール14の左右方向の長さよりも長く設定される。なお、本実施形態では、軸支持部材12を、一対のアーム17a,17bによって構成し、一対のアーム17a,17bを、把持部材11の前端部11bによって直接的に支持したが、これに限定されるものではない。例えば、軸支持部材12を、一対のアーム17a,17bと、一対のアーム17a,17bの基端側から延びて把持部材11の前端部11bに支持される1本の軸部とによってY字状に構成し、一対のアーム17a,17bを、把持部材11の前端部11bによって、上記1本の軸部を介して間接的に支持してもよい。
【0022】
コイルバネ13は、複数のロール14を回転自在に支持する支軸であって、把持部材11と交叉する方向(左右方向)に延びる。コイルバネ13は、伸縮可能な弾性を有する引張コイルバネである。コイルバネ13の自然長は、軸支持部材12の一対のアーム17a,17bの軸支持部18間の距離よりも短い。コイルバネ13の両端部は、軸支持部材12の一対のアーム17a,17bの軸支持部18にそれぞれ係止されることによって支持される。すなわち、コイルバネ13は、軸支持部材12の一対のアーム17a,17bの軸支持部18間に、自然長よりも引き伸ばした状態(縮む方向の付勢力が発生した状態)で張り渡される。軸支持部材12の一対のアーム17a,17bの軸支持部18間の距離は、200mm以上500mm以下が好ましく、350mm以上500mm以下がさらに好ましく、軸支持部18間に張り渡されたコイルバネ13にかかる荷重は、1.0kg以上4.0kg以下が好ましく、2.0kg以上3.5kg以下がさらに好ましい。
【0023】
図1~
図3に示すように、複数(本実施形態では、10個)のロール14は、塗料を保持可能であり、塗装面に対して塗料を塗布する円筒状の部材であって、コイルバネ13に回転自在に支持される。複数のロール14は、コイルバネ(支軸)13の軸方向(左右方向)に並んで配置され、1つのローラー27として機能する。本実施形態のローラー27の幅は、一般的なクッションローラー(
図8(b)参照)やレギュラーローラー(
図8(c)参照)の幅(例えば18cm)よりも長く、例えば34cmに設定される(
図8(a)参照)。なお、複数のロール14の数は10個に限定されるものではない。また、複数のロール14は、それぞれ同様の構成を有するため、一のロール14について説明し、他のロール14の説明を省略する。
【0024】
ロール14は、コイルバネ13の軸方向に沿って延びる円筒状のロール芯材19と、ロール芯材19の外周面に固定的に設けられる塗料保持部20とを有する。ロール芯材19は、同一径の有底円筒状の2つの有底筒状部材19a,19bの底板21同士を固定して形成される。2つの有底筒状部材19a,19bの底板21の中央には、コイルバネ13の挿通を許容する大きさの軸挿通孔22が形成される。ロール芯材19の軸挿通孔22には、コイルバネ13が挿通している。塗料保持部20の表面は、毛体によって構成される。ロール14の幅(軸方向の長さ)は、20mm以上50mm以下が好ましい。
【0025】
図2~
図5に示すように、E形止め輪23a,23bは、コイルバネ13に対して取り付けられて、コイルバネ13に対する複数のロール14の左右方向への移動を規制する。コイルバネ13に対して取り付けた状態のE形止め輪23a,23bは、コイルバネ13に対する軸方向の相対的な移動が規制されている。E形止め輪23a,23bは、C状のリング本体部24と、リング本体部24の両端及び周方向の中央部から径方向の内側へ突出する3つの凸部25とを有する略E状に形成される(
図4参照)。本実施形態では、左側(軸方向の一側)のE形止め輪(一側ストッパ、伸縮調節手段)23aは、複数のロール14のうち最も左側のロール14の左側に配置され、コイルバネ13に対して着脱可能に取り付けられて、複数のロール14の左側への移動をE形止め輪23aまでに規制する。また、右側(軸方向の他側)のE形止め輪(他側ストッパ、伸縮調節手段)23bは、複数のロール14のうち最も右側のロール14の右側に配置され、コイルバネ13に対して着脱可能に取り付けられて、複数のロール14の右側への移動をE形止め輪23bまでに規制する。すなわち、E形止め輪23a,23bは、コイルバネ13のうち、複数のロール14(ローラー27)を左右から挟む位置(複数のロール14の左右の両側)に配置される。
【0026】
E形止め輪23a,23bは、コイルバネ13のうち、複数のロール14の左側(軸方向の一側)の一端から右側(軸方向の他側)の他端までを挿通しているロール挿通領域(領域)26(
図5に符号26で示す領域)の伸縮(張り具合)を調節可能な伸縮調節手段として機能する。例えば、コイルバネ13のロール挿通領域26を伸ばして張った状態にしたい場合には、右側のE形止め輪23b(左側のE形止め輪23aであってもよい。)をコイルバネ13から取り外した状態でコイルバネ13を右側へ引っ張って伸ばし、コイルバネ13を伸ばしたままの状態で、右側のE形止め輪23bをコイルバネ13のうち複数のロール14の右側に取り付ける(
図5(a)参照)。また、コイルバネ13のロール挿通領域26を緩めた状態にしたい場合には、右側のE形止め輪23b(左側のE形止め輪23aであってもよい。)を取り外した状態でコイルバネ13を所望の張り具合になるまで緩め(縮め)、そのままの状態で、右側のE形止め輪23bをコイルバネ13のうち複数のロール14の右側に取り付ける(
図5(b)参照)。E形止め輪23a、23bを取り付ける位置は、特に限定されないが、軸支持部18から1.0cm~3.5cmの位置に取り付けることが好ましい。
【0027】
本発明の一実施形態に係る塗装方法は、一対のアーム17a,17bと、伸縮可能な弾性を有し、一対のアーム17a,17b間に張り渡されるコイルバネ13と、コイルバネ13に回転自在に支持され、コイルバネ13の軸方向に並んで配置される複数のロール14と、コイルバネ13のうち複数のロール14の軸方向の一端から他端までを挿通しているロール挿通領域26の伸縮を調節可能なE形止め輪23a,23bと、を備える塗装用ローラー10を用いて塗装する塗装方法であって、塗装対象となる塗装面に応じて、コイルバネ13のロール挿通領域26の伸縮をE形止め輪23a,23bで調節し、ロール挿通領域26にかかる荷重を調節する。
【0028】
上記のように構成された塗装用ローラー10では、伸縮可能な弾性を有するコイルバネ13が、軸支持部材12の一対のアーム17a,17bの軸支持部18間に張り渡され、複数のロール14が、コイルバネ13に回転自在に支持される。そして、E形止め輪23a,23bは、コイルバネ13のロール挿通領域26の伸縮(張り具合)を調節可能な伸縮調節手段として機能する。これにより、E形止め輪23a,23bの位置を適切に設定することによって、コイルバネ13のロール挿通領域26を伸ばして張った状態に保持したり(
図5(a)参照)、コイルバネ13のロール挿通領域26を緩め(縮め)た状態にしたり(
図5(b)参照)することができる。また、軸支持部18に張り渡されたコイルバネ13にかかる荷重によっても調整することが可能であり、荷重が大きいほど伸ばして張った状態に保持しやすく、荷重が小さいほど緩め(縮め)た状態にしやすい。コイルバネ13のロール挿通領域26を伸ばして張った状態に保持した場合には、複数のロール14を互いに近接させる方向へのコイルバネ13の付勢力を強めることができ、コイルバネ13のロール挿通領域26を緩めた状態にした場合には、コイルバネ13による上記付勢力を弱めることができる。
【0029】
このため、平らな塗装面(図示省略)や曲率半径の大きな塗装面1a(
図6(a)参照)を塗装する際には、コイルバネ13のロール挿通領域26を伸ばして張った状態に保持することによって(
図5(a)参照)、複数のロール14が構成する1つのローラー27の幅方向の中央部分が塗料の重みや自重で垂れ下がってしまうことを抑えることができるので、平らな塗装面や曲率半径の大きな塗装面1aを塗装する際の塗布量のムラの発生を抑えることができる。
【0030】
また、曲率半径の小さな湾曲面1b(
図6(b)参照)を塗装する際には、コイルバネ13のロール挿通領域26を緩めた状態に保持することによって(
図5(b)参照)、コイルバネ13のロール挿通領域26が曲がり易くなるので、小さな力で幅方向の外側のロール14を塗装面1bへ密着させることができる。このため、幅方向の中央部分のロール14から塗装面1b側への圧力と、幅方向の外側のロール14から塗装面1b側への圧力との差を小さく抑えることができるので、曲率半径の小さな湾曲面1bを塗装する際の塗布量のムラの発生を抑えることができる。
【0031】
このように、コイルバネ13のロール挿通領域26の伸縮(張り具合)を調節することができるので、ローラー27の幅(軸方向の長さ)を広くしても、コイルバネ13のロール挿通領域26の伸縮を適切に設定することによって、平らな塗装面のみならず、様々な曲率半径の塗装面に対しても、塗布量のムラの発生を抑えた状態で塗装することができる。
【0032】
したがって、本実施形態によれば、平らな塗装面及び湾曲した塗装面1a,1bの双方に対して、十分な塗布量を保持しつつ、一度で大面積に塗布量のムラの発生を抑えた状態で塗装することができる。
【0033】
また、E形止め輪23a,23bは、コイルバネ13に対して取り付けられて、コイルバネ13に対する複数のロール14の左右方向への移動を規制するストッパとして機能する。このため、コイルバネ13に対する軸方向へのローラー27の移動が規制されているので、塗装時に塗装面に対するローラー27の幅方向へのブレを抑えることができる。
【0034】
また、コイルバネ13に対する複数のロール14の左右方向への移動を規制するストッパ(一側ストッパ及び他側ストッパ)が、コイルバネ13に対して取り付けられるE形止め輪23a,23bであるので、簡単な構成とすることができる。
【0035】
また、複数のロール14を支持する支軸がコイルバネ13であるので、例えば、伸縮可能な弾性を有するゴム等の支軸である場合とは異なり、支軸の耐久性を確保することができる。
【0036】
また、軸支持部18間に張り渡されたコイルバネ13にかかる荷重が、1.0kg以上4.0kg以下であるので、操作性の低下を抑えることができる。軸支持部18間に張り渡されたコイルバネ13にかかる荷重が1.0kgよりも小さい場合には、コイルバネ13が柔らか過ぎて塗料の重みや自重で垂れ下がったり、アーム部17a,17bにロール14が接触したりする(
図9参照)可能性がある。また、軸支持部18間に張り渡されたコイルバネ13にかかる荷重が4.0kgよりも大きい場合には、コイルバネ13が硬過ぎてローラー27の軸方向の外端部(軸方向の外側のロール14)と塗装面とが密着しづらくなる(
図10参照)等、操作性が悪くなる可能性がある。さらに、軸支持部18間に張り渡されたコイルバネ13にかかる荷重が2.0kg以上3.5kg以下であれば、より操作性の低下を抑えることができる。
【0037】
また、軸支持部材12は、上下方向に延びる軸を中心として把持部材11に傾動可能に支持されるので、把持部材11と軸支持部材12との角度を変更することができる。このため、
図7に示すように、湾曲した塗装面1cの前方(塗装面1cが向いている側)のスペースが狭い場合であっても、塗装面1cの前方の障害物2を回避するように、軸支持部材12に対する把持部材11の角度を設定することができるので、スペースが狭い場所における湾曲した塗装面1cを奥まで容易に塗装することができる。
【0038】
また、コイルバネ13のロール挿通領域26の伸縮(張り具合)を調節することによって、ローラー27の幅方向の中央部分が塗料の重みや自重で垂れ下がってしまうことを抑えることができるので、ローラー27の幅を長く設定することができる。このため、
図8(a)に示すように、ローラー27の幅を一般的なクッションローラー(
図8(b)参照)の幅(例えば18cm)よりも長く設定(例えば34cmに設定)することができるので、塗装面を塗装した際の塗装幅を広くすることができ、効率よく塗装面を塗装することができる。なお、
図8(c)に示すように、1本の筒状のローラーで構成される一般的なレギュラーローラーでは、湾曲面を塗装する際にローラーの端部が塗装面から浮いてしまうので、その塗装幅は、係るローラーの幅(例えば18cm)よりも短く(例えば13cm)なってしまう。
【0039】
なお、本実施形態では、複数のロール14を支持する支軸を、コイルバネ13としたが、これに限定されるものではなく、例えば、伸縮可能な弾性を有するゴム等の支軸であってもよい。
【0040】
また、本実施形態では、軸支持部材12を、把持部材11に対して傾動可能な構成としたが、これに限定されるものではなく、軸支持部材12を把持部材11に対して傾動不能に固定していてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、一方のE形止め輪23aを、支軸(コイルバネ13)に対して着脱可能に取り付けたが、これに限定されるものではなく、支軸に対して固定して(取り外し不能に取り付けて)もよい。すなわち、2つのE形止め輪23a,23bのうち少なくとも一方が、支軸に対して着脱可能に取り付けられていればよい。
【0042】
また、本実施形態では、E形止め輪23a,23bを、コイルバネ13のロール挿通領域26の伸縮(張り具合)を調節可能な伸縮調節手段として機能させたが、伸縮調節手段はE形止め輪23a,23bに限定されるものではなく、類似形状の止め具の使用や、他の手段を用いてもよい。例えば、E形止め輪の代わりにC型軸用偏心止め輪を用いてもよく、また、軸方向の両端側のロール14のロール芯材19の底板21の軸方向の外側面に、支軸を係止可能なロック機構等を設け、係るロック機構を伸縮調節手段として機能させてもよい。
【0043】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0044】
10:塗装用ローラー
11:把持部材
12:軸支持部材
13:コイルバネ(支軸)
14:複数のロール
17a,17b:一対のアーム
23a:一方のE形止め輪(一側ストッパ、伸縮調節手段)
23b:他方のE形止め輪(他側ストッパ、伸縮調節手段)
26:ロール挿通領域(領域)