(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167941
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】伸線加工方法及び鋼線
(51)【国際特許分類】
B21C 1/00 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
B21C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079503
(22)【出願日】2022-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日:令和3年5月17日 山梨県が運営するWEBサイトの掲載アドレス:https://www.pref.yamanashi.jp/yitc/sokuho/documents/p07_02-02.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】391017849
【氏名又は名称】山梨県
(71)【出願人】
【識別番号】502200748
【氏名又は名称】株式会社降矢技研
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】長田 和真
(72)【発明者】
【氏名】三枝 良一
(72)【発明者】
【氏名】深澤 郷平
(72)【発明者】
【氏名】石田 正文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】阿部 治
(72)【発明者】
【氏名】佐野 正明
(72)【発明者】
【氏名】山本 忍
(72)【発明者】
【氏名】細野 勇樹
【テーマコード(参考)】
4E096
【Fターム(参考)】
4E096EA03
4E096EA12
4E096HA15
4E096KA01
4E096KA02
4E096KA05
4E096KA06
4E096KA09
(57)【要約】
【課題】 高強度かつ良好な成形性を有するとともに、優れた比透磁率特性を有する鋼線の伸線加工方法及びその方法により製造された鋼線を提供する。
【解決手段】 鋼線をダイスに通過させて線径を調整する伸線加工方法において、鋼線を軸断面周方向に回転して捩じりつつ、捩じりを加えた鋼線をダイスに通過させて引き抜き伸線する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼線をダイスに通過させて線径を調整する伸線加工方法において、前記鋼線を軸断面周方向に回転して捩じりつつ、捩じりを加えた前記鋼線を前記ダイスに通過させて引き抜き伸線することを特徴とする鋼線の伸線加工方法。
【請求項2】
前記鋼線の捩じり回転速度をα rev/min、引き抜き速度をβ m/minとしたときの回転付与率γ rev/m(α/β)が1~400の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の伸線加工方法。
【請求項3】
伸線による線径の総断面減少率が5~99%であることを特徴とする請求項1に記載の伸線加工方法。
【請求項4】
伸線加工を段階的に複数回行うことを特徴とする請求項1に記載の伸線加工方法。
【請求項5】
前記鋼線がオーステナイト系ステンレス鋼線であることを特徴とする請求項1に記載の伸線加工方法。
【請求項6】
伸線加工が、冷間加工、低温域加工又は高温域加工のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の伸線加工方法。
【請求項7】
請求項1に記載の伸線加工方法により製造された鋼線であって、比透磁率が4以下であることを特徴とする鋼線。
【請求項8】
線径が0.1~10mmであることを特徴とする請求項7に記載の鋼線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸線加工方法及び鋼線に関するものであり、詳しくは、高強度伸線加工方法及びその方法により製造された鋼線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、非磁性特性を有する鋼線材料は、各種機械の構成部材の原材料として使用されており、特に、耐食性が高く非磁性であるオーステナイト系ステンレス鋼線材は、精密機器用の微細ねじや医療用ワイヤなどに好適に使用されている。
【0003】
このような用途に用いられる鋼線は、通常、鋼線材をダイスと呼ばれる工具に通過させて軸方向に引き抜くことで外径を縮小させ、さらにこれを繰り返すことにより要求される線径に加工している。
【0004】
一方で、オーステナイト系ステンレス鋼線に対してダイスを用いて伸線加工を施すと、延伸による加工誘起マルテンサイト変態を誘発し、加工後に比透磁率が上昇して磁気を帯びるという問題がある。そして、このような磁気を帯びた鋼線から製造したねじを精密機器や電子機器に用いた場合、機器性能に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、高強度かつ良好な成形性を有するとともに、優れた非磁性特性を有する鋼線の開発が望まれている。
【0005】
このような問題に対して、これまでに、鋼線の化学成分組成を特定の組成とすることにより、低透磁率の鋼線を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-177170号公報
【特許文献2】特開2016-183396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1、2の提案によれば、特定の組成の合金を特定の圧延条件で延伸処理することにより鋼線の高強度化及び低透磁率化を実現するとしている。しかしながら、上記特許文献1、2の技術では、材料自体の組成を限定しているため製造コストがかかったり、他の金属素材に適用できない等の問題があった。また、通常の鋼線の伸線加工では、線材の軸線方向、即ち一軸方向の機械的強度特性にしか効果を及ぼさないという問題もあった。
【0008】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、高強度かつ良好な成形性を有するとともに、優れた比透磁率特性を有する鋼線の伸線加工方法及びその方法により製造された鋼線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の伸線加工方法及び鋼線は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
第1に、本発明の伸線加工方法は、鋼線をダイスに通過させて線径を調整する伸線加工方法において、前記鋼線を軸断面周方向に回転して捩じりつつ、捩じりを加えた前記鋼線を前記ダイスに通過させて引き抜き伸線することを特徴とする。
第2に、上記第1の発明の伸線加工方法において、前記鋼線の捩じり回転速度をα rev/min、引き抜き速度をβ m/minとしたときの回転付与率γ rev/m(α/β)が1~400の範囲であることが好ましい。
第3に、上記第1又は第2の発明の伸線加工方法において、伸線による線径の総断面減少率が5~99%であることが好ましい。
第4に、上記第1から第3の発明の伸線加工方法において、伸線加工を段階的に複数回行うことが好ましい。
第5に、上記第1から第4の発明の伸線加工方法において、前記鋼線がオーステナイト系ステンレス鋼線であることが好ましい。
第6に、上記第1から第5の発明の伸線加工方法において、伸線加工が、冷間加工、低温域加工又は高温域加工のいずれかであることが好ましい。
第7に、本発明の鋼線は、上記第1に記載の伸線加工方法により製造された鋼線であって、比透磁率が4以下であることを特徴とする。
第8に、上記第7の発明の鋼線において、線径が0.1~10mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の伸線加工方法によれば、線材の種類を限定することなく高強度かつ良好な成形性を有するとともに、優れた比透磁率特性を有する鋼線を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る伸線加工方法の概略説明図である。
【
図2】本発明に係る鋼線の捩じり角を示すSEM写真である。
【
図3】実施例及び比較例の低温域加工鋼線の表面状態のSEM写真である。
【
図4】実施例及び比較例の低温域加工鋼線の表面及び中心付近の金属顕微鏡写真である。
【
図5】実施例及び比較例の高温域加工鋼線の最大比透磁率を示すグラフである。
【
図6】実施例及び比較例の低温域加工鋼線のビッカース硬さを示すグラフである。
【
図7】実施例及び比較例の低温域加工鋼線の引張強さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の伸線加工方法及び鋼線の実施形態について図面を用いて詳述する。
図1は、本発明の伸線加工方法を模式的に示した概略説明図である。
【0013】
本実施形態の伸線加工方法は、原材料の鋼線をダイスに通過させて線径を調整する伸線加工方法において、鋼線を軸断面周方向に回転して捩じりつつ、捩じりを加えた鋼線をダイスに通過させて引き抜き伸線するものである。
【0014】
本発明の伸線加工方法に適用可能な鋼線としては、高強度の金属製鋼線であれば特に制限はなく、例えば、炭素鋼、クロムモリブデン鋼、プリハードン鋼、ステンレス鋼、アルミ合金、鋳鉄等の鋼線を例示することができる。これらの中でも、高い比透磁率特性を有する観点から、ステンレス鋼線、特にオーステナイト系ステンレス鋼線を好適に用いることができる。以下、オーステナイト系ステンレス鋼を用いた伸線加工方法の実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態の伸線加工方法で用いられる伸線用のダイスは、鋼線の線径を調整するために用いる工具であり、
図1に示すように、中心に鋼線を通すためのテーパー状の穿孔が設けられており、この穿孔に鋼線を通して引き抜くことにより、穿孔の径の鋼線に加工することができる。ダイスの材質としては、超硬製やダイヤモンド焼結体製のもの、単結晶ダイヤモンドが埋め込まれたもの、セラミック製等のものがあり、伸線する鋼線の種類や硬度に応じて適宜選択して用いることができる。
【0016】
ダイスによる伸線加工では、ダイスのテーパー状の穿孔を通過する前段の未加工領域、テーパー部を通過する塑性変形領域、テーパー状の穿孔を通過した既加工領域に分類され、未加工領域の原材料鋼線の線径から既加工領域の伸線加工後の線径に細く加工される。
【0017】
本実施形態の伸線加工方法では、
図1に示すように、加工する鋼線をダイスに通過させる前段の未加工領域で軸断面周方向に回転して捩じり、捩じりを加えた鋼線を塑性変形領域、既加工領域とダイスに通過させて引き抜く。なお、未加工領域における軸断面周方向の回転による捩じりとは、鋼線軸方向の垂直断面において、外周を右方向又は左方向に回転して捩じることを意味する。
【0018】
捩じり条件は、捩じり回転数と引き抜き速度により決定される回転付与率で決定することができる。具体的には、鋼線の捩じり回転速度をα rev/min、引き抜き速度をβ m/minとしたとき、回転付与率はγ rev/m(α/β)で表すことができる。即ち、本発明では、回転速度及び引き抜き速度の範囲を回転付与率1つのパラメータで規定している。これにより、例えば、引き抜き速度を速く、かつ回転速度を速くした場合と、引き抜き速度を遅く、かつ回転速度を遅くした場合のように、引き抜き速度と回転速度の設定値を各々変化させた場合においても回転付与率を同等のパラメータで表すことができる。
【0019】
具体的には、例えば、捩じりの回転速度を300rev/min、引き抜き速度を7m/minとしたとき、回転付与率γは43rev/mとなる。上記の点を考慮した本発明の伸線加工方法における回転付与率γは1~400rev/m、好ましくは5~150rev/m、より好ましくは10~60rev/mの範囲である。回転付与率を上記範囲とすることにより、正確かつ確実に鋼線に対して所定の捩じり加工を施すことができる。
【0020】
なお、本実施形態において、捩じり方向は特に限定されず、右捻りでも左捻りでも構わない。一方、処理後の鋼線を、例えばねじに加工して用いる場合には、ねじの捩じ込み方向、即ちねじ山の螺旋構造を考慮して設定することが考慮される。
【0021】
本実施形態の伸線加工方法では、上記条件で鋼線に捩じりを加えた後、ダイスに通過させて所望の線径に加工するが、ダイスの孔径は原材料の鋼線の径と目的とする線径によって決定される。本発明における原材料の鋼線の線径及び目的とする線径は特に限定されず、製品の仕様に応じて適宜設定することができるが、通常、加工後の線径は10~0.1mm、好ましくは2.0~0.4mm程度の範囲が考慮される。
【0022】
また、ダイスによる線径の加工は、段階的に複数回徐々に細く加工することもできる。具体的には、例えば、原材料の線径2.15mmの鋼線をダイスにより数パスを経て1.68mmに加工し、これを1.16mmに加工、さらに0.80mm、0.41mmに加工することもできる。また、伸線による線径の総断面減少率は5~99%、好ましくは39~96%の範囲である。なお、上記のように段階的に複数回伸線加工する場合には、捩じる回転付与率や捩じり方向は一定でも変更しても構わない。
【0023】
また、本実施形態の伸線加工を施した鋼線の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察すると、軸線に対して捩じり角を持った結晶粒のメタルフローが確認できる。
図2に、線径1.68~0.41mmに対して、回転付与率0~43rev/mの処理後のオーステナイト系ステンレス鋼線のSEM写真を示す。通常の伸線加工(回転付与率0rev/m)では、結晶粒は軸方向に引き伸ばされるが、捩じり加工を付与した場合には、捩じりの影響を受けた分だけ軸方向に対して角度をつけて引き伸ばされる。この捩じり角は回転速度が増すほど大きく 線径が細くなるほど小さくなる傾向にある。
図2に示すSEM写真で確認できる捩じり角(矢印)は、回転付与率により凡そ決定されるものであるが、通常、軸線(0°)に対して1~80°、好ましくは3~60°程度の範囲である。
【0024】
このように捩じり処理により軸線に対して捩じり角を有するメタルフローに変化を付与することにより、通常の伸線が一軸方向の機械特性のみであるのに対して、捩じり方向に対しても有効に保持させることが可能となる。
【0025】
本実施形態における伸線加工は冷間加工、低温域加工又は高温域加工のいずれの温度域においても適用が可能である。ここで、本発明における冷間加工とは再結晶温度以下の条件で行う加工を意味し、低温域加工とは-5~30℃の室温で行う加工、高温域加工とは30~500℃で外部加熱器を用いた温度調整を伴い行う加工を意味する。
【0026】
上記本実施形態の伸線加工方法により製造した鋼線は、捩じり処理を施していない通常の伸線処理による鋼線に比べて低比透磁率特性を有している。本発明の鋼線を用いた精密機器等に用いる精密ねじの製造を想定した場合、比透磁率は4以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.02以下である。比透磁率が上記範囲であれば、ねじが磁気を帯びて不具合を生じさせる可能性を低減することができる。
【0027】
また、本発明の伸線加工方法による鋼線によれば、上記の低比透磁率特性を有することを前提として、特定の線径条件で加工することにより、他の優れた物性を付与した鋼線とすることができる。例えば、低温域加工において、伸線による線径を0.80mm以上、総断面減少率を86%以下とし、かつ、回転付与率を10rev/m以上に設定した場合、鋼線の硬度(ビッカース硬さ)及び引張強さを捩じり処理を施さない鋼線以上とすることができる。
【0028】
また、高温域加工においては、伸線による線径を1.68mmの総断面減少率を40%前後とし、かつ、回転付与率を40rev/m以上に設定した場合、鋼線の硬度(ビッカース硬さ)及び引張強さを、捩じり処理を施さない鋼線に比べて同等あるいはそれ以上とすることができる。
【0029】
線径の総断面減少率が小さいときは、捩じり加工の分だけ余計に加工硬化が誘発され、鋼線の硬度や引張強さが向上するものと考えられる。一方、線径の総断面減少率が大きくなると、加工硬化による差は減少し、結晶粒が引き伸ばされた方向による影響を大きく受けるものと考えられる。
【0030】
なお、高温域加工において、線径の総断面減少率を大きく、例えば86%程に細く伸線加工を施した場合、硬度や引張強さは、捩じり加工を施さない鋼線よりも減少する場合があるが、この場合には鋼線の加工性が向上する。
【0031】
以上、本発明の伸線加工方法及びその方法により製造された鋼線を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【0032】
例えば、上記実施形態では目的とする製品の線径を2.0mm以下の比較的細径のもので説明したが、これ以上の太径の鋼線の製造に対しても適用が可能である。
【実施例0033】
以下、本発明の伸線加工方法及び鋼線について、実施例とともに説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例として、伸線加工材の素線(オーステナイト系ステンレス鋼:SUSXM7 線径2.15mm)を用いて、
図1に示す概略図のように、伸線加工材そのものを軸断面周方向に回転させ、捩じり付与しながら伸線加工を行った。温度条件を低温域加工と高温域加工のそれぞれで、伸線加工材の引き抜き速度7m/min、伸線加工材の回転速度を各々100rpm、300rpm、400rpm、即ち、回転付与率を14rev/m、43rev/m、57rev/mとして、線径1.68mm、1.16mm、0.80mm、0.41mmのサンプルを作製した。なお、各々の総断面減少率は39%、71%、86%、96%である。高温域加工の条件は、400℃とし、低温域加工の条件は、室温(20℃)とした。
【0035】
なお、1.68mmの加工は、原材料の2.15mmを5工程で、1.16mmの加工は1.68mmを6工程で、0.80mmの加工は1.16mmをさらに7工程で、0.41mmの加工は0.80mmをさらに8工程で段階的に行った。
【0036】
また、比較例として、線材を軸断面周方向に回転させない通常の伸線加工を行った。伸線加工材の素線は、上記実施例と同様にオーステナイト系ステンレス鋼:SUSXM7 線径2.15mmを用いて、引き抜き速度7m/minで伸線加工を繰り返すことで線径1.68mm、1.16mm、0.80mm、0.41mmの線経の比較例サンプルを作製した。このときの総断面減少率は実施例と同様にそれぞれ39%、71%、86%、96%である。また、各々の線径の加工も実施例と同様に段階的に行い、高温域加工、低温域加工の条件も実施例と同様に行った。
【0037】
<外観及び中心断面観察>
(外観観察)
低温域加工サンプルにおける、線径1.68mmの実施例(回転付与率14rev/m、43rev/m、57rev/m)及び、比較例(回転付与率0rev/m)、回転付与率57rev/mの線径1.16mm、0.80mm、0.41mmの表面状態をSEMにて観察した。そのSEM写真を
図3に示す。
【0038】
図3のSEM写真からわかるように、比較例(回転付与率0rev/m)の場合は、軸方向にのみ引き伸ばされていたのに対し、実施例では、捩じりを付与することにより軸方向に対して角度をつけて引き伸ばされていた。この角度は、伸線加工時の回転数が大きいほど大きくなり(回転付与率14~57rev/m)、線径が小さくなるほど(加工率を大きくするほど)小さくなった(回転付与率57rev/m、線径1.16~0.41mm)。
【0039】
(断面観察)
低温域加工サンプル(線径1.68mm)における比較例(回転付与率0rev/m)の外周付近及び、実施例(回転付与率57rev/m)の外周付近、中心断面付近及びその拡大部を金属顕微鏡にて観察した。その金属顕微鏡写真を
図4に示す。
【0040】
比較例(回転付与率0rev/m)の中心断面付近では、外観と同様に軸方向への塑性流動が観察された(
図4(A))。一方、捩じりを付与した実施例では、外周表面における金属組織において捩じり加工の影響を受けて軸方向に対して角度をつけて引き伸ばされたが(
図4(B))、中心断面付近ではこの角度が緩やかであった(
図4(C))。これらの観察結果から、捩じりの付与によりメタルフローが変化していることが確認された。
【0041】
<比透磁率>
高温域加工による上記実施例及び比較例のサンプルについて、最大比透磁率を測定した。最大比透磁率は、振動試料型磁力計を用いて得られたプロファイルから求めた。その結果を
図5に示す。比較例(回転付与率0rev/m)のサンプルでは、伸線加工を繰り返すほど、つまり伸線加工による総断面減少率が大きくなるほど大きい歪みが導入され、比透磁率が高くなる傾向を示した。一方で、実施例の伸線加工方法で製造したサンプルの比透磁率は、比較例の捩じりを加えない伸線加工方法で製造した鋼線に比べて明らかに低く抑えられていることが確認できた。
【0042】
<ビッカース硬さ>
次に、低温域加工のサンプルについて、ビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さの測定は、線材の横断面の各測定点に対してJIS Z 2244-1(2020)に準じて行った。その結果を
図6に示す。
図6の結果からわかるように、実施例の1.68~0.80mmの線径の鋼材のビッカース硬さは、比較例に比べて、全ての回転付与率について向上していた。また、実施例の線径0.41mmの鋼材については、回転付与率14rev/mは比較例に比べて低下しているものの、43rev/m、57rev/mにおいては、同等又は若干向上していた。
【0043】
<引張強さ>
次に、上記ビッカース硬さを測定したサンプルについて引張強さを測定した。引張強さの測定は、JIS Z 2241(2011)に準じて行った。その結果を
図7に示す。
図7の結果からわかるように、線径0.41mmの実施例は、比較例に比べて低下したものの、線径1.68mm、1.16mmは比較例のものより向上しており、0.80mmはほぼ同等であった。
【0044】
これらのことから、本発明に係る鋼材は、断面減少率を考慮して処理を行うことにより、捩じり処理を施していない鋼材よりも低比透磁率に加えて高強度の鋼材とすることができることが確認された。
【0045】
上記結果から、本発明の伸線加工方法によれば、高強度かつ優れた比透磁率特性を有する鋼線を得ることが可能であることが確認された。また、上記特性を有する本発明に係る鋼線は、特に磁気を嫌う精密機器等に用いる微細ねじの原材料として好適に用いることができる。