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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167947
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】衝撃吸収部材
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/12 20060101AFI20231116BHJP
   B60R 19/24 20060101ALI20231116BHJP
   B60R 19/34 20060101ALI20231116BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20231116BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20231116BHJP
【FI】
F16F7/12
B60R19/24 M
B60R19/34
B23K26/21 N
B23K26/342
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079511
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼▲崎▼ 星太
【テーマコード(参考)】
3J066
4E168
【Fターム(参考)】
3J066AA23
3J066BA03
3J066BC01
3J066BD07
3J066BE01
3J066BF02
4E168BA21
4E168BA32
(57)【要約】
【課題】吸収できる衝撃エネルギが小さくなることを抑制できる衝撃吸収部材を提供する。
【解決手段】衝撃吸収部材は、横断面が多角形状となる筒体11を備える。筒体11は、金属板13を複数箇所で折り曲げて縁同士を溶接することにより、内部に閉空間を有するものとされる。筒体11における複数の稜線上には、それら稜線に沿って延びる補強部14が設けられている。衝撃吸収部材は、筒体11の中心線の延びる方向に衝撃が加わったとき、筒体11が座屈することによって衝突エネルギを吸収する。筒体11における金属板13の縁同士を接合した箇所の隣に位置する稜線上は、上記補強部14のない無補強部15となっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面が多角形状となる筒体を備え、
前記筒体は、金属板を複数箇所で折り曲げて縁同士を溶接することにより、内部に閉空間を有するものであって、
前記筒体における複数の稜線上には、それら稜線に沿って延びる補強部が設けられており、
前記筒体の中心線の延びる方向に衝撃が加わったとき、前記筒体が座屈することによって衝突エネルギを吸収する衝撃吸収部材において、
前記筒体における前記金属板の縁同士を接合した箇所の隣に位置する前記稜線上は、前記補強部のない無補強部となっている衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記筒体における複数の稜線間の距離は等しくされている請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記無補強部は、前記筒体における前記金属板の縁同士を接合した箇所の両隣の稜線上にそれぞれ位置している請求項2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
複数の前記稜線にそれぞれ対応する前記補強部は、前記稜線の長さよりも短くされることにより、前記筒体における衝撃の入力側で前記稜線を露出させている請求項3に記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記筒体における前記金属板の縁同士の溶接、及び、前記稜線上での前記補強部の形成は、共にレーザークラッドによって行われている請求項1~4のいずれか一項に記載の衝撃吸収部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等には、衝突時の衝撃エネルギを吸収するための衝撃吸収部材が搭載される。こうした衝撃吸収部材としては、横断面が多角形状となる筒体を備えたものが知られている。筒体は、金属板を複数箇所で折り曲げて縁同士を溶接することにより、内部に閉空間を有している。衝撃吸収部材は、衝撃の入力方向が筒体の中心線の延びる方向となるよう、車両に搭載される。衝突時の衝撃が衝撃吸収部材の筒体に加わったときには、筒体が座屈することによって衝突時の衝撃エネルギが衝撃吸収部材によって吸収される。
【0003】
また、特許文献1には、多角形状の筒体における複数の稜線に補強部を設けることが記載されている。上記補強部は、筒体における複数の稜線上に、その稜線に沿って延びるように設けられる。このように筒体に補強部を設けることにより、筒体を形成する金属板を薄くして材料費を抑えながらも、それに伴う衝突時に吸収できる衝撃エネルギの低下を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2012/036262号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記補強部を設けた筒体では、金属板の縁同士を溶接した箇所の周辺に、補強部及び上記溶接した箇所が密集する。その結果、筒体における金属板の縁同士を溶接した箇所の周辺では剛性が高くなるため、衝突時の衝撃が筒体に加わったとき、筒体における金属板の縁同士を溶接した箇所の周辺で急激に大きな座屈が生じる。これにより、衝撃吸収部材で吸収できる衝撃エネルギが小さくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する衝撃吸収部材は、横断面が多角形状となる筒体を備える。筒体は、金属板を複数箇所で折り曲げて縁同士を溶接することにより、内部に閉空間を有するものとされる。筒体における複数の稜線上には、それら稜線に沿って延びる補強部が設けられている。衝撃吸収部材は、筒体の中心線の延びる方向に衝撃が加わったとき、筒体が座屈することによって衝突エネルギを吸収する。筒体における金属板の縁同士を接合した箇所の隣に位置する稜線上は、上記補強部のない無補強部となっている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】衝撃吸収部材における筒体の横断面を示す略図である。
図2】同衝撃吸収部材を示す斜視図である。
図3】上記筒体を示す斜視図である。
図4】車両の衝突時における衝撃吸収部材の変形量、衝撃吸収部材に作用する力の大きさ、及び、衝撃吸収部材によって吸収される衝突エネルギの関係を示すグラフである。
図5】車両の衝突時における衝撃吸収部材を示す斜視図である。
図6】車両の衝突時における衝撃吸収部材を示す斜視図である。
図7】衝撃吸収部材における筒体の横断面の他の例を示す略図である。
図8】衝撃吸収部材における筒体の横断面の他の例を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、衝撃吸収部材の一実施形態について、図1図6を参照して説明する。
図1は衝撃吸収部材における筒体11の横断面を示し、図2は衝撃吸収部材を斜め上方から見た状態を示し、図3は上記筒体11を斜め上方から見た状態を示している。
【0009】
この衝撃吸収部材は、車両に搭載されるものであって、車両の衝突時における衝撃エネルギを吸収する。衝撃吸収部材は、横断面が多角形状となる金属製の筒体11を備えている。衝撃吸収部材は、上記筒体11の中心線の延びる方向が車両の前後方向となるように車両に搭載される。筒体11の中心線の延びる方向の両端部には、それぞれ金属製のプレート12が溶接されている。
【0010】
衝撃吸収部材を車両に搭載した状態では、車両の衝突時の衝撃が、衝撃吸収部材に対し図2に矢印で示すように入力される。従って、車両の衝突時には、筒体11の中心線の延びる方向に衝撃が加わる。衝撃吸収部材においては、このように筒体11の中心線の延びる方向に衝撃が加わったとき、筒体11が座屈することによって衝突エネルギを吸収する。
【0011】
<筒体11>
図1及び図3に示すように、筒体11は、二つの金属板13によって形成されている。詳しくは、二つの金属板13をそれぞれ複数箇所で折り曲げるとともに、金属板13の縁同士を厚さ方向に重ねる。そして、二つの金属板13の縁同士を溶接することにより、内部に閉空間を有する筒体11が形成される。二つの金属板13の縁同士の溶接は、例えばレーザークラッドによって行うことが考えられる。この例の筒体11は、16箇所で折り曲げられており、複数(この例では16箇所)の稜線を有している。筒体11の横断面は、正八角形を繋げた形状となっている。筒体11における複数の稜線間の距離は、等しくされている。
【0012】
筒体11における複数の稜線上には、それら稜線に沿って延びる補強部14が設けられている。この補強部14の形成は、レーザークラッドによって行われている。図3に示すように、複数の稜線にそれぞれ対応する補強部14は、上記稜線の長さよりも短くされることにより、筒体11における衝撃の入力側、すなわち図3の上端側で上記稜線を露出させている。図1に示すように、筒体11における金属板13の縁同士を接合した箇所の隣に位置する稜線上は、補強部14のない無補強部15となっている。無補強部15は、筒体11における金属板13の縁同士を接合した箇所の両隣の稜線上にそれぞれ位置している。
【0013】
次に、本実施形態の衝撃吸収部材の作用について説明する。
図4は、車両の衝突時における衝撃吸収部材の変形量、衝撃吸収部材に作用する力の大きさ、及び、衝撃吸収部材によって吸収される衝突エネルギの関係を示している。図4の横軸は、車両の衝突時における衝撃吸収部材の変形量を表している。図4において、破線LA1及び実線LB1は車両の衝突時における衝撃吸収部材に作用する力の大きさを表しており、破線LA2,LB2は車両の衝突時に衝撃吸収部材によって吸収される衝撃エネルギを表している。
【0014】
補強部14を筒体11の全ての稜線上に設けたとすると、金属板13の縁同士を溶接した箇所の周辺に、補強部14及び上記溶接した箇所が密集する。その結果、筒体11における金属板13の縁同士を溶接した箇所の周辺では剛性が高くなるため、車両の衝突時における衝撃が筒体11に加わったとき、図5に示すように筒体11における金属板13の縁同士を溶接した箇所の周辺で急激に大きな座屈が生じる。これにより、衝撃吸収部材で吸収できる衝撃エネルギが小さくなる。
【0015】
この場合、車両の衝突時における衝撃吸収部材に作用する力の大きさは、図4に破線LA1で示すように推移する。また、車両の衝突時に衝撃吸収部材によって吸収される衝撃エネルギは、図4に破線LA2で示すように推移する。
【0016】
一方、本実施形態の衝撃吸収部材では、筒体11における金属板13の縁同士を接合した箇所の隣に位置する稜線上は、補強部14のない無補強部15となっている。この無補強部15により、金属板13の縁同士を溶接した箇所の周辺で、上記補強部14及び上記溶接した箇所が密集することはなくなる。そして、その密集によって筒体11の剛性が高くなることは抑制される。その結果、車両の衝突時における衝撃が筒体11に加わったとき、図5に示すように筒体11における金属板13の縁同士を溶接した箇所の周辺で急激に大きな座屈が生じることはなくなる。言い換えれば、筒体11では、図6に示すように複数箇所で徐々に小さな座屈が生じるようになる。こうした座屈を通じて衝撃吸収部材による効果的な衝撃エネルギの吸収を実現でき、衝撃吸収部材によって吸収できる衝撃エネルギが小さくなることを抑制できる。
【0017】
この場合、車両の衝突時における衝撃吸収部材に作用する力の大きさは、図4に実線LB1で示すように推移する。また、車両の衝突時に衝撃吸収部材によって吸収される衝撃エネルギは、図4に破線LB2で示すように推移する。図4の破線LA2と破線LB2との比較から分かるように、衝撃吸収部材の筒体11に上記無補強部15を設けることにより、車両の衝突時における衝撃エネルギを衝撃吸収部材によって効果的に吸収できるようになる。
【0018】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)車両の衝突時に衝撃吸収部材によって吸収できる衝撃エネルギが小さくなることを抑制できる。
【0019】
(2)筒体11における複数の稜線間の距離が等しくされているため、筒体11の中心線の延びる方向に衝撃が加わったとき、筒体11にはその中心線周り全体で偏りなく座屈が生じるようになる。従って、車両の衝突時の衝撃が加わったとき、筒体11を安定して座屈させることができる。その結果、衝撃吸収部材によって効率よく衝撃エネルギを吸収することができる。
【0020】
(3)無補強部15は、筒体11における金属板13の縁同士を接合した箇所の両隣の稜線上にそれぞれ位置している。このため、金属板13の縁同士を溶接した箇所の周辺で、補強部14及び上記溶接した箇所が密集することをより効果的に抑制できる。
【0021】
(4)複数の稜線にそれぞれ対応する補強部14は、稜線の長さよりも短くされることにより、筒体11における衝撃の入力側で稜線を露出させている。このため、筒体11の中心線の延びる方向に衝突時の衝撃が加わったとき、筒体11における衝撃の入力側で座屈のきっかけが生じやすくなる。その結果、衝突時の衝撃が加わったとき、容易に筒体11を衝撃の入力側から徐々に座屈させることができるようになる。これにより、筒体11を安定して座屈させることができる。
【0022】
補強部14を稜線の長さと同じにして稜線全体を補強部14で覆うようにした場合、図4に二点鎖線LCで示すように車両の衝突初期に衝撃吸収部材に作用する力が急に大きくなる。しかし、補強部14稜線の長さよりも短くして筒体11における衝撃の入力側で稜線を露出させることにより、車両の衝突初期に衝撃吸収部材に作用する力が急に大きくなることが、図4に実線LB1で示すように抑制される。これにより、上述したように筒体11を安定して座屈させることができる。
【0023】
(5)筒体11における金属板13の縁同士の溶接、及び、稜線上での補強部14の形成は、共にレーザークラッドによって行われている。このため、筒体11の形成と補強部14の形成とを同じ加工機で行うことができ、それらを別の加工機で行う場合のように衝撃吸収部材を製造する手順が複雑になることを抑制できる。
【0024】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・筒体11は、図7及び図8に示すような横断面となるものであってもよい。
【0025】
・補強部14の形成と金属板13の縁同士の溶接との一方のみを、レーザークラッドによって行うようにしてもよい。
・補強部14の形成と金属板13の縁同士の溶接との両方を、レーザークラッド以外の方法で行うようにしてもよい。
【0026】
・無補強部15は、筒体11における金属板13の縁同士を接合した箇所の両隣の稜線のうちの一方の稜線上のみに位置するものであってもよい。
・筒体11における複数の稜線間の距離は必ずしも等しくされている必要はない。
【0027】
・補強部14の長さを筒体11の稜線の長さと同じにしてもよい。
・衝撃吸収部材を車両以外に用いてもよい。
次に、上記実施形態から把握できる技術思想について記載する。
【0028】
(A)
横断面が多角形状となる筒体を備え、
前記筒体は、金属板を複数箇所で折り曲げて縁同士を溶接することにより、内部に閉空間を有するものであって、
前記筒体における複数の稜線上には、それら稜線に沿って延びる補強部が設けられており、
前記筒体の中心線の延びる方向に衝撃が加わったとき、前記筒体が座屈することによって衝突エネルギを吸収する衝撃吸収部材において、
前記筒体における前記金属板の縁同士を接合した箇所の隣に位置する前記稜線上は、前記補強部のない無補強部となっている衝撃吸収部材。
【0029】
(B)
上記(A)に記載の衝撃吸収部材において、
前記筒体における複数の稜線間の距離は等しくされている衝撃吸収部材。
【0030】
(C)
上記(A)又は(B)に記載の衝撃吸収部材において、
前記無補強部は、前記筒体における前記金属板の縁同士を接合した箇所の両隣の稜線上にそれぞれ位置している衝撃吸収部材。
【0031】
(D)
上記(C)に記載の衝撃吸収部材において、
複数の前記稜線にそれぞれ対応する前記補強部は、前記稜線の長さよりも短くされることにより、前記筒体における衝撃の入力側で前記稜線を露出させている衝撃吸収部材。
【0032】
(E)
上記(A)~(D)のいずれか一つに記載の衝撃吸収部材において、
前記筒体における前記金属板の縁同士の溶接、及び、前記稜線上での前記補強部の形成は、共にレーザークラッドによって行われている衝撃吸収部材。
【符号の説明】
【0033】
11…筒体
12…プレート
13…金属板
14…補強部
15…無補強部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8