(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167948
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッド、サーマルプリンタ、及びサーマルプリントヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
B41J2/335 101Z
B41J2/335 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079512
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100133514
【弁理士】
【氏名又は名称】寺山 啓進
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】中西 雅寿
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忠義
【テーマコード(参考)】
2C065
【Fターム(参考)】
2C065GA01
2C065GB01
2C065HA12
2C065JH01
2C065JH09
(57)【要約】
【課題】良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッドを提供する。また、当該サーマルプリントヘッドの製造方法を提供する。さらに、当該サーマルプリントヘッドを備えたサーマルプリンタを提供する。
【解決手段】基板15と、基板15上に配置され、かつ、基板15の一部との間において中空部20Aを有する構造体20と、基板15の厚さ方向からみて中空部20Aと重畳し、かつ、構造体20の上面に配置されている蓄熱層33と、蓄熱層33上に配置されている発熱抵抗体40と、蓄熱層33上に配置され、かつ、発熱抵抗体40と接している共通電極32と、蓄熱層33上に配置され、かつ、発熱抵抗体40と接し、共通電極32と離隔している個別電極31と、を備え、蓄熱層33に設けられた開口部33Aを介して蓄熱層33の外部と中空部20Aが連通している、サーマルプリントヘッド100。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置され、かつ、前記基板の一部との間において中空部を有する構造体と、
前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳し、かつ、前記構造体の上面に配置されている蓄熱層と、
前記蓄熱層上に配置されている発熱抵抗体と、
前記蓄熱層上に配置され、かつ、前記発熱抵抗体と接している共通電極と、
前記蓄熱層上に配置され、かつ、前記発熱抵抗体と接し、前記共通電極と離隔している個別電極と、を備え、
前記蓄熱層に設けられた開口部を介して前記蓄熱層の外部と前記中空部が連通している、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記開口部は、前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳せず、
前記サーマルプリントヘッドの主走査方向の前記中空部の端部において、前記中空部は、前記開口部と連通している、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記開口部は、前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳する領域を有し、
前記サーマルプリントヘッドの主走査方向の前記中空部の端部において、前記中空部は前記開口部と連通している、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記構造体の上面は、副走査方向における前記構造体の端部から中央に向かって徐々に前記基板と前記構造体の上面との間隔が広くなる曲面を含む、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記構造体の上面の少なくとも一部は、副走査方向における前記構造体の2つの端部のうち一方の端部から他方の端部までの領域において、前記基板と前記構造体の上面との間隔が一定である、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記副走査方向からみたときの前記構造体の断面は、矩形状又は台形状である、請求項5に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記構造体は、前記蓄熱層より融点が高い材料からなる、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記共通電極の一部及び前記個別電極の一部は、前記蓄熱層と前記発熱抵抗体との間に配置されている、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記共通電極の一部及び前記個別電極の一部は、前記発熱抵抗体上に配置されている、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
前記基板は、セラミックからなる、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタ。
【請求項12】
基板上に、前記基板の一部との間において中空部を有するように構造体を形成し、
前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳し、かつ、前記構造体の上面に、前記中空部と連通する開口部を有する蓄熱層を形成し、
前記蓄熱層上に発熱抵抗体を形成し、
前記蓄熱層上に、前記発熱抵抗体と接する、共通電極及び前記共通電極と離隔している個別電極と、を形成し、
前記蓄熱層は、前記開口部を介して前記蓄熱層の外部と前記中空部が連通するように形成される、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項13】
前記蓄熱層の形成において、前記開口部が前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳せず、かつ、前記サーマルプリントヘッドの主走査方向の前記中空部の端部において、前記中空部が前記開口部と連通するように前記蓄熱層を形成する、請求項12に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記蓄熱層の形成において、前記開口部が前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳する領域を有し、かつ、前記サーマルプリントヘッドの主走査方向の前記中空部の端部において、前記中空部が前記開口部と連通するように前記蓄熱層を形成する、請求項12に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記構造体の形成は、
前記基板上に、前記サーマルプリントヘッドの主走査方向に延在し、対向している2つの側壁部を形成し、
前記2つの側壁部を前記基板と挟むように上壁部を形成することを含む、請求項12に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記共通電極及び前記個別電極の形成は前記発熱抵抗体の形成より前に行われる、請求項12に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記共通電極及び前記個別電極の形成は前記発熱抵抗体の形成より後に行われる、請求項12に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、サーマルプリントヘッド、サーマルプリンタ、及びサーマルプリントヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルプリントヘッドは、例えば、ヘッド基板上にサーマルプリントヘッドの主走査方向に並ぶ多数の発熱部を備えている。各発熱部は、ヘッド基板にグレーズ層(蓄熱層ともいう)、共通電極、個別電極、及び抵抗体層を積層することにより形成されている。共通電極と個別電極間を通電することにより、上記抵抗体層の発熱部がジュール熱により発熱する。当該熱を印刷媒体(バーコードシート又はレシートを作成するための感熱紙等)に伝えることにより、印刷媒体への印刷がなされる。
【0003】
グレーズ層は、蓄熱層としての役割を果たしており、発熱部から発生する熱を蓄積する。グレーズ層は、例えば、SiO2-Al2O3-RO系の無鉛、無アルカリのガラスなどの低熱伝導材料が用いられ、当該材料に有機溶剤及び有機バインダー等を添加してガラスペーストをスクリーン印刷等により塗布し、塗布されたガラスペーストを乾燥させ、その後、焼成処理を行うことにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発熱抵抗部から発生する熱の蓄積をより向上させ、サーマルプリントヘッドの印字特性をより向上させたい要望がある。
【0006】
本実施形態の一態様は、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッドを提供することを目的の一とする。また、当該サーマルプリントヘッドの製造方法を提供することを目的の一とする。さらに、当該サーマルプリントヘッドを備えたサーマルプリンタを提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の一態様は、基板と、前記基板上に配置され、かつ、前記基板の一部との間において中空部を有する構造体と、前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳し、かつ、前記構造体の上面に配置されている蓄熱層と、前記蓄熱層上に配置されている発熱抵抗体と、前記蓄熱層上に配置され、かつ、前記発熱抵抗体と接している共通電極と、前記蓄熱層上に配置され、かつ、前記発熱抵抗体と接し、前記共通電極と離隔している個別電極と、を備え、前記蓄熱層に設けられた開口部を介して前記蓄熱層の外部と前記中空部が連通している、サーマルプリントヘッドである。
【0008】
また、本実施形態の他の一態様は、上記サーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタである。
【0009】
また、本実施形態の他の一態様は、基板上に、前記基板の一部との間において中空部を有するように構造体を形成し、前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳し、かつ、前記構造体の上面に、前記中空部と連通する開口部を有する蓄熱層を形成し、前記蓄熱層上に発熱抵抗体を形成し、前記蓄熱層上に、前記発熱抵抗体と接する、共通電極及び前記共通電極と離隔している個別電極と、を形成し、前記蓄熱層は、前記開口部を介して前記蓄熱層の外部と前記中空部が連通するように形成される、サーマルプリントヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本実施形態によれば、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッドを提供することができる。また、当該サーマルプリントヘッドの製造方法を提供することができる。また、当該サーマルプリントヘッドを備えたサーマルプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドを説明する部分上面図である。
【
図2A】
図2Aは、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分上面図である(その1)。
【
図3A】
図3Aは、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分上面図である(その2)。
【
図4A】
図4Aは、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分上面図である(その3)。
【
図5A】
図5Aは、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分上面図である(その4)。
【
図6A】
図6Aは、本実施形態に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分上面図である(その5)。
【
図7A】
図7Aは、第1の変形例に係るサーマルプリントヘッドを説明する部分上面図である。
【
図8】
図8は、第2の変形例に係るサーマルプリントヘッドを説明する部分上面図である。
【
図9A】
図9Aは、第3の変形例に係るサーマルプリントヘッドを説明する部分上面図である。
【
図10A】
図10Aは、第3の変形例に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分上面図である(その1)。
【
図11A】
図11Aは、第3の変形例に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分上面図である(その2)。
【
図12A】
図12Aは、第3の変形例に係るサーマルプリントヘッドの製造方法を説明する部分上面図である(その3)。
【
図13】
図13は、サーマルプリントヘッドを説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照して、本実施形態について説明する。以下に説明する図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各構成部品の厚みと平面寸法との関係等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0013】
また、本明細書等において、「電気的に接続」とは、「何らかの電気的作用を有するもの」を介して接続されている場合が含まれる。ここで、「何らかの電気的作用を有するもの」は、接続対象間での電気信号の授受を可能とするものであれば、特に限定されない。例えば、「何らかの電気的作用を有するもの」には、電極、配線、スイッチング素子、抵抗素子、インダクタ、容量素子、その他の各種機能を有する素子などが含まれる。
【0014】
また、以下に示す実施形態は、技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、各構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものではない。本実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0015】
具体的な本実施形態の一態様は、以下の通りである。
【0016】
<1> 基板と、前記基板上に配置され、かつ、前記基板の一部との間において中空部を有する構造体と、前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳し、かつ、前記構造体の上面に配置されている蓄熱層と、前記蓄熱層上に配置されている発熱抵抗体と、前記蓄熱層上に配置され、かつ、前記発熱抵抗体と接している共通電極と、前記蓄熱層上に配置され、かつ、前記発熱抵抗体と接し、前記共通電極と離隔している個別電極と、を備え、前記蓄熱層に設けられた開口部を介して前記蓄熱層の外部と前記中空部が連通している、サーマルプリントヘッド。
【0017】
<2> 前記開口部は、前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳せず、前記サーマルプリントヘッドの主走査方向の前記中空部の端部において、前記中空部は前記開口部と連通している、<1>に記載のサーマルプリントヘッド。
【0018】
<3> 前記開口部は、前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳する領域を有し、前記サーマルプリントヘッドの主走査方向の前記中空部の端部において、前記中空部は、前記開口部と連通している、<1>に記載のサーマルプリントヘッド。
【0019】
<4> 前記共通電極の一部及び前記個別電極の一部は、前記蓄熱層と前記発熱抵抗体との間に配置されている、<1>~<3>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【0020】
<5> 前記共通電極の一部及び前記個別電極の一部は、前記発熱抵抗体上に配置されている、<1>~<3>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【0021】
<1>~<5>によれば、蓄熱層に加えて、熱伝導率が非常に小さい中空部においても、発熱抵抗体(発熱抵抗部)から発生する熱を蓄積することができるため、発熱抵抗部から発生する熱の拡散を抑制することができ、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッドを得ることができる。
【0022】
<6> 前記構造体の上面は、副走査方向における前記構造体の端部から中央に向かって徐々に前記基板と前記構造体の上面との間隔が広くなる曲面を含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【0023】
<6>によれば、蓄熱層のコーヒーリング現象を抑制することにより、蓄熱層を均一に成膜することができ、発熱抵抗体周辺の熱の分布をより均一化することができる。
【0024】
<7> 前記構造体の上面の少なくとも一部は、副走査方向における前記構造体の2つの端部のうち一方の端部から他方の端部までの領域において、前記基板と前記構造体の上面との間隔が一定である、<1>~<5>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【0025】
<8> 前記副走査方向からみたときの前記構造体の断面は、矩形状又は台形状である、<7>に記載のサーマルプリントヘッド。
【0026】
<7>及び<8>によれば、平坦な上面を有する構造体を得ることができ、発熱抵抗体周辺の熱の分布をより均一化することができる。
【0027】
<9> 前記構造体は、前記蓄熱層より融点が高い材料からなる、<1>~<8>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【0028】
<9>によれば、蓄熱層の形成時に構造体が溶融することを抑制することができる。
【0029】
<10> 前記基板は、セラミックからなる、<1>~<9>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッド。
【0030】
<10>によれば、サーマルプリントヘッドに放熱性に富んだ基板を用いることができる。
【0031】
<11> <1>~<10>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタ。
【0032】
<11>によれば、良好な印字特性を確保したサーマルプリンタを得ることができる。
【0033】
<12> 基板上に、前記基板の一部との間において中空部を有するように構造体を形成し、前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳し、かつ、前記構造体の上面に、前記中空部と連通する開口部を有する蓄熱層を形成し、前記蓄熱層上に発熱抵抗体を形成し、前記蓄熱層上に、前記発熱抵抗体と接する、共通電極及び前記共通電極と離隔している個別電極と、を形成し、前記蓄熱層は、前記開口部を介して前記蓄熱層の外部と前記中空部が連通するように形成される、サーマルプリントヘッドの製造方法。
【0034】
<13> 前記蓄熱層の形成において、前記開口部が前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳せず、かつ、前記サーマルプリントヘッドの主走査方向の前記中空部の端部において、前記中空部が前記開口部と連通するように前記蓄熱層を形成する、<12>に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【0035】
<14> 前記蓄熱層の形成において、前記開口部が前記基板の厚さ方向からみて前記中空部と重畳する領域を有し、かつ、前記サーマルプリントヘッドの主走査方向の前記中空部の端部において、前記中空部が前記開口部と連通するように前記蓄熱層を形成する、<12>に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【0036】
<15> 前記構造体の形成は、前記基板上に、前記サーマルプリントヘッドの主走査方向に延在し、対向している2つの側壁部を形成し、前記2つの側壁部を前記基板と挟むように上壁部を形成することを含む、<12>~<14>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【0037】
<16> 前記共通電極及び前記個別電極の形成は前記発熱抵抗体の形成より前に行われる、<12>~<15>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【0038】
<17> 前記共通電極及び前記個別電極の形成は前記発熱抵抗体の形成より後に行われる、<12>~<15>のいずれか1項に記載のサーマルプリントヘッドの製造方法。
【0039】
<12>~<17>によれば、蓄熱層に加えて、熱伝導率が非常に小さい中空部においても、発熱抵抗体(発熱抵抗部)から発生する熱を蓄積することができるため、発熱抵抗部から発生する熱の拡散を抑制することができ、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッドを得ることができる。
【0040】
<サーマルプリントヘッド>
本実施形態に係るサーマルプリントヘッド100について図面を用いて説明する。
【0041】
図1Aは、サーマルプリントヘッド100を示す部分上面図である。
図1Bは、
図1AのIB-IB線に沿う部分断面図である。
図1Cは、
図1AのIC-IC線に沿う部分断面図である。
図1A~
図1Cは、複数のサーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタの一部分(1個のサーマルプリントヘッドに相当)を示しており、本実施形態では、この1個のサーマルプリントヘッドを個片状のサーマルプリントヘッド100とする。サーマルプリントヘッド100は、絶縁体である基板15と、基板15上に配置され、かつ、基板15の一部との間において中空部20Aを有する構造体20と、厚さ方向Zからみて中空部20Aと重畳し、かつ、構造体20の上面に配置されている蓄熱層33と、蓄熱層33上に配置されている共通電極32と、蓄熱層33上に配置され、かつ、共通電極32と離隔している個別電極31と、蓄熱層33上、共通電極32上、個別電極31上に配置されている発熱抵抗体40と、を備える。発熱抵抗体40は、共通電極32及び個別電極31のそれぞれと接している。蓄熱層33は開口部33Aを有しており、開口部33Aでは基板15が蓄熱層33に覆われていない。開口部33Aは、厚さ方向Zからみて中空部20Aと重畳せず、中空部20Aの端部20Bは、開口部33Aに面する蓄熱層33の端部33Bと厚さ方向Zからみて揃っている。サーマルプリントヘッド100の主走査方向Xの中空部20Aの端部において、中空部20Aは開口部33Aを介して蓄熱層33の外部と連通している。発熱抵抗体40は個別電極31と共通電極32との間を流れる電流により発熱する複数の発熱抵抗部41を含む。複数の発熱抵抗部41は、個別電極31と共通電極32との間において、各発熱抵抗部41が独立して形成されている。複数の発熱抵抗部41は、蓄熱層33上において直線状に配置されている。また、図示しないが個別電極31、共通電極32、及び発熱抵抗体40等を覆う保護膜を備えてもよい。
【0042】
本実施形態において、発熱抵抗体40が直線状に延びる方向を主走査方向X、主走査方向Xに対して垂直で、かつ、基板15の上面に対して平行な方向を副走査方向Y、基板15の厚さに対応する方向を厚さ方向Zとする。言い換えれば、厚さ方向Zは、主走査方向X及び副走査方向Yのそれぞれに対して垂直な方向である。また、基板15からみて蓄熱層33が位置している方向を上方向、蓄熱層33からみて基板15が位置している方向を下方向とする。
【0043】
共通電極32から発熱抵抗体40を介して個別電極31に電流が流れ、発熱抵抗体40において、電流が流れた部分が発熱する。具体的には、外部から駆動IC等に送信される印字信号に従って発熱用電圧が個別に印加される発熱抵抗体40(発熱抵抗部41)が、選択的に発熱させられる。発熱抵抗部41は、印字信号に従って個別に通電されることにより、選択的に発熱させられる。このように発熱することによって印字ドットが形成される。
【0044】
サーマルプリントヘッド100は、中空部20Aを有する構造体20を備えており、厚さ方向Zからみて、発熱抵抗部41が構造体20の中空部20Aと重畳するように配置されている。中空部20Aは、構造体20の内部の空間であり、当該空間は、熱伝導率が非常に小さいため、発熱抵抗部41から発生する熱を蓄積することができる。結果として、発熱抵抗部41から発生する熱の拡散を抑制することができ、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッド100を得ることができる。
【0045】
また、中空部20Aが開口部33Aを介して蓄熱層33の外部と連通しているため、サーマルプリントヘッド100における製造工程での加熱による中空部20A内部の体積の膨張を抑制でき、構造体20を含むサーマルプリントヘッド100の破損を抑制できる。本実施形態では、蓄熱層33が2つの開口部33Aを有しているがこれに限られず、1つだけの開口部33Aを介して中空部20Aが蓄熱層33の外部と連通していてもよい。
【0046】
構造体20は側壁部20a及び上壁部20bからなり、構造体20(上壁部20b)の上面の少なくとも一部が、副走査方向Yにおける構造体の2つの端部のうち一方の端部から他方の端部までの領域において、基板15と構造体20の上面との間隔が一定であってもよく、例えば、副走査方向Yからみたときの構造体20の断面は、矩形状又は台形状であってもよい。構造体20を上述のような構成にすることにより、平坦な上面を有する上壁部20b(構造体20)を得ることができ、発熱抵抗体40周辺の熱の分布をより均一化することができる。
【0047】
構造体20は、蓄熱層33を構成する材料より融点が高い材料を用い、例えば、セラミック、SK鋼、ステンレス鋼(SUS)などを用いることができる。蓄熱層33を構成する材料より融点が高い材料を構造体20に用いることにより、蓄熱層33の形成時に構造体20が溶融することを抑制することができる。
【0048】
基板15は、絶縁体であり、例えば、セラミック又は単結晶半導体からなる。セラミックとしては、例えば、アルミナ等を用いることができる。単結晶半導体基板としては、例えば、シリコン基板などを用いることができる。放熱性の観点から、比較的、熱伝導率が大きいアルミナを基板15に用いることが好ましい。
【0049】
蓄熱層33は、中空部20Aと同様に発熱抵抗部41から発生する熱を蓄積する。蓄熱層33は、絶縁性材料を用いることができ、例えば、ガラスの主成分である酸化シリコン、窒化シリコンを蓄熱層33に用いることができる。蓄熱層33の厚さ方向Zにおける寸法は、特に限定されず、例えば、5~200μmであり、好ましくは10~30μmである。
【0050】
蓄熱層33上には、金属ペーストから形成される、個別電極31及び共通電極32が設けられている。個別電極31の材料、及び共通電極32の材料である金属ペーストをスクリーン印刷等によって蓄熱層33に塗布し、その後焼成し、電極パターンを形成することにより、個別電極31及び共通電極32を纏めて形成することができる。また、スクリーン印刷に加えてリソグラフィ工程を行って個別電極31及び共通電極32を形成してもよい。また、スパッタリング法を用いて成膜し、リソグラフィ工程を行って個別電極31及び共通電極32を形成してもよい。
【0051】
金属ペーストとしては、例えば、銅、銀、パラジウム、イリジウム、白金、及び金等の金属粒子などを含むペーストを用いることができる。また、有機金属化合物を金属ペーストとして用いることもできる。なお、スパッタリング法を用いる際は、例えば、銅、銀、パラジウム、イリジウム、白金、金、及びアルミニウム等の金属を加工したターゲットを用いることができる。金属の特性及びイオン化傾向の観点から、銀及び金であることが好ましく、金属の特性、イオン化傾向及びコスト低減の観点から、銀であることがより好ましい。また、金属ペーストに含まれる溶剤は、金属粒子を均一に分散させる機能を有し、例えば、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、脂肪族系溶剤、脂環族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、水等の1種または2種以上を混合したものなどが挙げられるがこれに限られない。
【0052】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、乳酸エチル、炭酸ジメチル等が挙げられる。ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンベンゼン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、イソホロン、シクロヘキサンノン等が挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等、これらモノエーテル類の酢酸エステル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等や、これらモノエーテル類の酢酸エステル等である。
【0053】
脂肪族系溶剤としては、例えば、n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。脂環族系溶剤としては、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。芳香族系溶剤としては、トルエン、キシレン、テトラリン等が挙げられる。アルコール系溶剤(上述のグリコールエーテル系溶剤を除く)としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。
【0054】
金属ペーストは、必要に応じて、分散剤、表面処理剤、耐摩擦向上剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、酸化防止剤、有機顔料、無機顔料、消泡剤、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、可塑剤、難燃剤、保湿剤、イオン捕捉剤等を含有することができる。
【0055】
個別電極31は複数設けられ、概ね副走査方向Yに延伸する帯状をしており、それらは、互いに導通していない。そのため、各個別電極31には、サーマルプリントヘッドが組み込まれたプリンタが使用される際に、個別に、互いに異なる電位が付与されうる。各個別電極31の端部には、図示しない個別パッド部が接続されている。
【0056】
共通電極32は、サーマルプリントヘッドが組み込まれたプリンタが使用される際に複数の個別電極31に対して電気的に逆極性となる部位である。共通電極32は、櫛歯部32Aと、櫛歯部32Aと接続している共通部32Bと、を有する。共通部32Bは基板15の上方側の縁に沿って主走査方向Xに形成される。なお、副走査方向Yにおいて、個別電極31からみて共通電極32の共通部32Bがある方向を副走査方向Yの上方側とする。各櫛歯部32Aは、副走査方向Yに延伸する帯状をしている。各櫛歯部32Aは、各個別電極31に対して副走査方向Yに沿って所定間隔を隔てて対向している。このような構成にすることにより、発熱抵抗部41のピッチを狭くすることができるため、高精細な印字が可能となる。
【0057】
発熱抵抗体40全体は、Z方向からみて中空部20Aと重畳している。発熱抵抗体40は、個別電極31及び共通電極32を構成する材料よりも抵抗率が高い材料を用い、例えば、酸化ルテニウムなどを用いることができる。
【0058】
発熱抵抗体40は、抵抗体ペーストを焼成することによって形成することができる。本実施形態では、発熱抵抗体40の厚さ方向Zにおける寸法は、例えば、1~10μm程度である。
【0059】
発熱抵抗体40等は、保護膜で覆われていてもよく、保護膜は、発熱抵抗体40等を摩耗、腐食、酸化等から保護する。保護膜は絶縁性の材料を用いることができ、例えば、非晶質ガラスからなる。保護膜はガラスペーストを厚膜印刷した後、焼成することにより形成される。また、保護膜はスパッタリング法を用いて成膜してもよい。保護膜の厚さ方向Zにおける寸法は、例えば、2~8μm程度である。この範囲の厚さであると、耐圧不良を抑制でき、かつ、良好な印字品質を維持することが可能なサーマルプリントヘッド100を得ることができるため好ましい。
【0060】
また、本実施形態では、個別電極31上及び共通電極32上に発熱抵抗体40を設け、さらに発熱抵抗体40を保護膜で覆うため、個別電極31及び共通電極32それぞれの厚さによる保護膜の上面の凹凸を低減することができ、印刷媒体との接触性を向上させることができる。
【0061】
さらに、印刷により、保護膜が印刷媒体と何度も接触すると、保護膜の厚さは印刷媒体との摩擦により薄くなるが、当該摩擦部分が、たとえ保護膜が印刷媒体との摩擦によって消失したとしても、個別電極31及び共通電極32は露出せずに発熱抵抗体40が露出するため、個別電極31及び共通電極32と印刷媒体との短絡を抑制することができる。
【0062】
ここで、本実施形態のサーマルプリントヘッド100の製造方法について説明する。
【0063】
図2A~
図2Cに示すように、まず、基板15を用意し、基板15上に主走査方向Xに延在し、対向している2つの側壁部20aを形成する。
【0064】
側壁部20aは、例えば、上述した構造体20の材料をスラリーにし、基板15にスラリーを塗布し、塗布されたスラリーを露光してパターン形成される。
【0065】
次に、
図3A~
図3Cに示すように、2つの側壁部20aを基板15と挟むように上壁部20bを形成する。これにより、側壁部20a及び上壁部20bからなる構造体20及び中空部20Aが形成される。
【0066】
上壁部20bは、側壁部20aが上面に配置された基板15を、側壁部20aが下側になるようにひっくり返し、上述した構造体20の材料をスラリーにし、容器に入れられたスラリーにひっくり返した状態の側壁部20aを浸漬され、2つの側壁部20aを繋ぐようにスラリーを露光してパターン形成される。側壁部20aをひっくり返した状態で上壁部20bを形成するため、スラリーの重さにより上壁部20bの上面が凹むことなく、平坦な上面を有する上壁部20b(構造体20)を得ることができる。
【0067】
なお、構造体20の形成はこれに限られず、例えば、3Dプリンタ等を用いて形成してもよい。
【0068】
次に、
図4A~
図4Cに示すように、開口部33Aを有する蓄熱層33を形成する。開口部33Aは、中空部20Aと蓄熱層33の外部とが連通するように形成される。中空部20Aが開口部33Aを介して蓄熱層33の外部と連通しているため、後工程での加熱による中空部20A内部の体積の膨張を抑制でき、構造体20を含むサーマルプリントヘッド100の破損を抑制できる。
【0069】
蓄熱層33は、例えば、ガラスペーストをスクリーン印刷等により基板15及び構造体20に塗布し、塗布されたガラスペーストを乾燥させ、その後、焼成処理を行うことにより形成することができる。焼成処理は、例えば、800~1200℃で10分~1時間行う。蓄熱層33の厚さ方向Zにおける寸法は、例えば、25μmである。
【0070】
次に、
図5A~
図5Cに示すように、蓄熱層33上に、個別電極31及び共通電極32を同時に形成する。個別電極31及び共通電極32は、上述の金属ペーストをスクリーン印刷等によって蓄熱層33に塗布し、その後焼成し、リソグラフィ工程を行うことで得られる。また、スパッタリング法を用いて成膜し、リソグラフィ工程を行って個別電極31及び共通電極32を形成してもよい。個別電極31及び共通電極32の厚さ方向Zにおける寸法は、例えば、1~5μmである。
【0071】
次に、
図6A~
図6Cに示すように、発熱抵抗体40(発熱抵抗部41)となる抵抗体ペーストを形成する。抵抗体ペーストは、例えば、酸化ルテニウムを含む。次に、上述の抵抗体ペーストを焼成することにより、発熱抵抗体40(発熱抵抗部41)を形成する。
【0072】
次に、保護膜を形成してもよい。保護膜は、例えば、非晶質ガラスからなる。保護膜はガラスペーストを厚膜印刷した後、焼成することにより形成される。また、保護膜はスパッタリング法を用いて成膜してもよい。
【0073】
以上の工程により、本実施形態のサーマルプリントヘッド100を製造することができる。
【0074】
本実施形態によれば、蓄熱層33に加えて、熱伝導率が非常に小さい中空部20Aにおいても、発熱抵抗部41から発生する熱を蓄積することができるため、発熱抵抗部41から発生する熱の拡散を抑制することができ、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッド100を得ることができる。
【0075】
<第1の変形例>
本変形例に係るサーマルプリントヘッド100Aの構成を説明する。
【0076】
図7Aは、サーマルプリントヘッド100Aを示す部分上面図である。
図7Bは、
図7AのVIIB-VIIB線に沿う部分断面図である。
図7Cは、
図7AのVIIC-VIIC線に沿う部分断面図である。サーマルプリントヘッド100Aは、絶縁体である基板15と、基板15上に配置され、かつ、基板15の一部との間において中空部30Aを有する構造体30と、厚さ方向Zからみて中空部30Aと重畳し、かつ、構造体30の上面に配置されている蓄熱層33と、蓄熱層33上に配置されている共通電極32と、蓄熱層33上に配置され、かつ、共通電極32と離隔している個別電極31と、蓄熱層33上、共通電極32上、個別電極31上に配置されている発熱抵抗体40と、を備える。発熱抵抗体40は、共通電極32及び個別電極31のそれぞれと接している。蓄熱層33は開口部33Aを有しており、開口部33Aでは基板15が蓄熱層33に覆われていない。開口部33Aは、厚さ方向Zからみて中空部30Aと重畳せず、サーマルプリントヘッド100Aの主走査方向Xの中空部30Aの端部において、中空部30Aは開口部33Aを介して蓄熱層33の外部と連通している。本変形例に係るサーマルプリントヘッド100Aが上述の
図1A~
図1Cに示すサーマルプリントヘッド100と異なる点は、構造体20の代わりに構造体30が配置されている点である。本変形例において
図1A~
図1Cに示すサーマルプリントヘッド100と共通する点は上述の説明を援用し、以下、異なる点について説明する。
【0077】
上述の構造体20と同様構造体30は、中空部30Aを有しているため、構造体30の内部の空間である中空部30Aは熱伝導率が非常に小さく、発熱抵抗部41から発生する熱を蓄積することができる。結果として、発熱抵抗部41から発生する熱の拡散を抑制することができ、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッド100Aを得ることができる。
【0078】
また、中空部30Aが開口部33Aを介して蓄熱層33の外部と連通しているため、サーマルプリントヘッド100Bにおける製造工程での加熱による中空部30A内部の体積の膨張を抑制でき、構造体30を含むサーマルプリントヘッド100Aの破損を抑制できる。
【0079】
構造体30は、上面が副走査方向Yにおける構造体30の端部から中央に向かって徐々に基板15と構造体30の上面との間隔が広くなる曲面を含んでもよく、例えば、副走査方向Yからみたときの構造体30の断面は、半円状であってもよい。構造体30を上述のような構成にすることにより、上面に形成される蓄熱層33のコーヒーリング現象(エッジ部分が中央部より表面積が大きく蒸発が盛んなことにより、エッジ部分が盛り上がる現象)を抑制することができる。蓄熱層33のコーヒーリング現象を抑制することにより、蓄熱層33を均一に成膜することができ、発熱抵抗体40周辺の熱の分布をより均一化することができる。
【0080】
構造体30の形成は、例えば、3Dプリンタ等を用いて形成してもよい。
【0081】
本変形例によれば、蓄熱層33に加えて、熱伝導率が非常に小さい中空部30Aにおいても、発熱抵抗部41から発生する熱を蓄積することができるため、発熱抵抗部41から発生する熱の拡散を抑制することができ、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッド100Aを得ることができる。
【0082】
<第2の変形例>
本変形例に係るサーマルプリントヘッド100Bの構成を説明する。
【0083】
図8は、サーマルプリントヘッド100Bを示す部分上面図である。サーマルプリントヘッド100Bは、絶縁体である基板15と、基板15上に配置され、かつ、基板15の一部との間において中空部20Aを有する構造体20と、厚さ方向Zからみて中空部20Aと重畳し、かつ、構造体20の上面に配置されている蓄熱層33と、蓄熱層33上に配置されている共通電極32と、蓄熱層33上に配置され、かつ、共通電極32と離隔している個別電極31と、蓄熱層33上、共通電極32上、個別電極31上に配置されている発熱抵抗体40と、を備える。発熱抵抗体40は、共通電極32及び個別電極31のそれぞれと接している。蓄熱層33は開口部33Aを有しており、開口部33Aでは基板15が蓄熱層33に覆われていない。開口部33Aは、厚さ方向Zからみて中空部20Aと重畳する領域を有し、サーマルプリントヘッド100Bの主走査方向Xの中空部20Aの端部において、中空部20Aは開口部33Aを介して蓄熱層33の外部と連通している。本変形例に係るサーマルプリントヘッド100Bが上述の
図1A~
図1Cに示すサーマルプリントヘッド100と異なる点は、開口部33Aの形成箇所である。本変形例において
図1A~
図1Cに示すサーマルプリントヘッド100と共通する点は上述の説明を援用し、以下、異なる点について説明する。
【0084】
上述の実施形態で示したサーマルプリントヘッド100の蓄熱層33の開口部33Aは、端部が中空部20Aの端部と揃っていたが、本変形例のサーマルプリントヘッド100Bでは、蓄熱層33の開口部33Aを中空部20Aと重畳する領域の一部にまで広げ、中空部20Aの端部20Bを開口部33Aによって完全に露出させる。これにより、蓄熱層33形成時における開口部33Aの形成精度のマージン(許容誤差)を確保することができる。
【0085】
本変形例によれば、蓄熱層33に加えて、熱伝導率が非常に小さい中空部20Aにおいても、発熱抵抗部41から発生する熱を蓄積することができるため、発熱抵抗部41から発生する熱の拡散を抑制することができ、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッド100Bを得ることができる。
【0086】
<第3の変形例>
本変形例に係るサーマルプリントヘッド100Cの構成を説明する。
【0087】
図9Aは、サーマルプリントヘッド100Cを示す部分上面図である。
図9Bは、
図9AのIXB-IXB線に沿う部分断面図である。
図9Cは、
図9AのIXC-IXC線に沿う部分断面図である。サーマルプリントヘッド100Cは、絶縁体である基板15と、基板15上に配置され、かつ、基板15の一部との間において中空部20Aを有する構造体20と、厚さ方向Zからみて中空部20Aと重畳し、かつ、構造体20の上面に配置されている蓄熱層33と、蓄熱層33上に配置されている発熱抵抗体40と、蓄熱層33上及び発熱抵抗体40上に配置されている共通電極32と、蓄熱層33上及び発熱抵抗体40上に配置され、かつ、共通電極32と離隔している個別電極31と、を備える。発熱抵抗体40は、共通電極32及び個別電極31のそれぞれと接している。蓄熱層33は開口部33Aを有しており、開口部33Aでは基板15が蓄熱層33に覆われていない。開口部33Aは、厚さ方向Zからみて中空部20Aと重畳せず、サーマルプリントヘッド100Cの主走査方向Xの中空部20Aの端部において、中空部20Aは開口部33Aを介して蓄熱層33の外部と連通している。発熱抵抗体40は個別電極31と共通電極32との間を流れる電流により発熱する複数の発熱抵抗部41を含む。複数の発熱抵抗部41は、個別電極31と共通電極32との間において、各発熱抵抗部41が独立して形成されている。複数の発熱抵抗部41は、蓄熱層33上において直線状に配置されている。また、図示しないが個別電極31、共通電極32、及び発熱抵抗体40等を覆う保護膜を備えてもよい。本変形例に係るサーマルプリントヘッド100Cが上述の
図1A~
図1Cに示すサーマルプリントヘッド100と異なる点は、共通電極32の一部及び個別電極31の一部が発熱抵抗体40上に配置されている点である。
【0088】
ここで、本変形例のサーマルプリントヘッド100Cの製造方法について説明する。
【0089】
まず、
図2A~
図2Cに示したように、基板15を用意し、基板15上に主走査方向Xに延在し、対向している2つの側壁部20aを形成する。次に、
図3A~
図3Cに示すように、2つの側壁部20aを基板15と挟むように上壁部20bを形成する。これにより、側壁部20a及び上壁部20bからなる構造体20及び中空部20Aが形成される。次に、
図10A~
図10Cに示すように、開口部33Aを有する蓄熱層33を形成する。開口部33Aは、中空部20Aと蓄熱層33の外部とが連通するように形成される。中空部20Aが開口部33Aを介して蓄熱層33の外部と連通しているため、後工程での加熱による中空部20A内部の体積の膨張を抑制でき、構造体20を含むサーマルプリントヘッド100Cの破損を抑制できる。
【0090】
次に、
図11A~
図11Cに示すように、蓄熱層33上に発熱抵抗体40(発熱抵抗部41)となる抵抗体ペーストを形成する。抵抗体ペーストは、例えば、酸化ルテニウムを含む。次に、上述の抵抗体ペーストを焼成することにより、発熱抵抗体40(発熱抵抗部41)を形成する。
【0091】
次に、
図12A~
図12Cに示すように、蓄熱層33上及び発熱抵抗体40上に、個別電極31及び共通電極32を同時に形成する。個別電極31及び共通電極32は、上述の金属ペーストをスクリーン印刷等によって蓄熱層33及び発熱抵抗体40に塗布し、その後焼成し、リソグラフィ工程を行うことで得られる。また、スパッタリング法を用いて成膜し、リソグラフィ工程を行って個別電極31及び共通電極32を形成してもよい。個別電極31及び共通電極32の厚さ方向Zにおける寸法は、例えば、1~5μmである。
【0092】
次に、保護膜を形成してもよい。保護膜は、例えば、非晶質ガラスからなる。保護膜はガラスペーストを厚膜印刷した後、焼成することにより形成される。また、保護膜はスパッタリング法を用いて成膜してもよい。
【0093】
以上の工程により、本変形例のサーマルプリントヘッド100Cを製造することができる。
【0094】
本変形例によれば、蓄熱層33に加えて、熱伝導率が非常に小さい中空部20Aにおいても、発熱抵抗部41から発生する熱を蓄積することができるため、発熱抵抗部41から発生する熱の拡散を抑制することができ、良好な印字特性を確保したサーマルプリントヘッド100Cを得ることができる。
【0095】
(その他の実施形態)
上述のように、一実施形態について記載したが、開示の一部をなす論述及び図面は例示的なものであり、限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。このように、本実施形態は、ここでは記載していない様々な実施形態等を含む。
【0096】
例えば、サーマルプリントヘッド100Cにおいて、サーマルプリントヘッド100Aに示すように構造体20の代わりに構造体30が設けられていてもよい。
【0097】
<サーマルプリンタ>
サーマルプリントヘッド(例えば、サーマルプリントヘッド100)は、さらに
図13に示すように、基板15(基板15上の蓄熱層33等は図示せず)、接続基板5、放熱部材8、駆動IC7と、複数のワイヤ81と、樹脂部82と、コネクタ59と、を備える。基板15及び接続基板5は、放熱部材8上に副走査方向Yに隣接させて搭載されている。基板15には、主走査方向Xに配列される複数の発熱抵抗部41が形成されている。当該発熱抵抗部41は、接続基板5上に搭載された駆動IC7により選択的に発熱するように駆動される。当該発熱抵抗部41は、コネクタ59を介して外部から送信される印字信号にしたがって、プラテンローラ91により発熱抵抗部41に押圧される感熱紙等の印刷媒体92に印字を行う。
【0098】
接続基板5は、例えば、プリント配線基板を用いることができる。接続基板5は、基材層と図示しない配線層とが積層された構造を有する。基材層は、例えば、ガラスエポキシ樹脂などを用いることができる。配線層は、例えば、銅、銀、パラジウム、イリジウム、白金、及び金等の金属などを用いることができる。
【0099】
放熱部材8は、基板15からの熱を放散させる機能を有する。放熱部材8には、基板15及び接続基板5が取り付けられている。放熱部材8は、例えば、アルミニウムなどの金属を用いることができる。
【0100】
ワイヤ81は、例えば、金などの導体を用いることができる。ワイヤ81は複数あり、その一部はボンディングにより、駆動IC7と各個別電極とが導通している。また、他のワイヤ81のうちの一部はボンディングにより、接続基板5における配線層を介して、駆動IC7とコネクタ59とが導通している。
【0101】
樹脂部82は、例えば、黒色の樹脂を用いることができる。樹脂部82としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを使用することができる。樹脂部82は、駆動IC7及び複数のワイヤ81等を覆っており、駆動IC7及び複数のワイヤ81を保護している。コネクタ59は、接続基板5に固定されている。コネクタ59には、サーマルプリントヘッドの外部からサーマルプリントヘッドへ電力を供給し、及び、駆動IC7を制御するための配線が接続される。
【0102】
サーマルプリンタは、上述のサーマルプリントヘッドを備えることができる。サーマルプリンタは、副走査方向Yに沿って搬送される印刷媒体に印刷を施す。通常、印刷媒体は、コネクタ59側から発熱抵抗部41側に向かって搬送される。印刷媒体としては、例えば、バーコードシート又はレシートを作成するための感熱紙等が挙げられる。
【0103】
サーマルプリンタは、例えば、サーマルプリントヘッド100と、プラテンローラ91と、主電源回路と、計測用回路と、制御部と、を備える。プラテンローラ91は、サーマルプリントヘッド100に正対している。
【0104】
主電源回路は、サーマルプリントヘッド100における複数の発熱抵抗部41に電力を供給する。計測用回路は、複数の発熱抵抗部41の各々の抵抗値を計測する。計測用回路は、例えば、印刷媒体への印字を行わない時に、複数の発熱抵抗部41の各々の抵抗値を計測する。これにより、発熱抵抗部41の寿命や故障した発熱抵抗部41の有無が確認されうる。制御部は、主電源回路及び計測用回路の駆動状態を制御する。制御部は、複数の発熱抵抗部41の各々の通電状態を制御する。計測用回路は省略される場合がある。
【0105】
コネクタ59は、サーマルプリントヘッド100外の装置と通信するために用いられる。コネクタ59を介して、サーマルプリントヘッド100は、主電源回路及び計測用回路に電気的に接続している。コネクタ59を介して、サーマルプリントヘッド100は、制御部に電気的に接続している。
【0106】
駆動IC7は、コネクタ59を介して、制御部から信号を受ける。駆動IC7は制御部から受けた当該信号に基づき、複数の発熱抵抗部41の各々の通電状態を制御する。具体的には、駆動IC7は、複数の個別電極を選択的に通電させることにより、複数の発熱抵抗部41のいずれかを任意に発熱させる。
【0107】
また、サーマルプリントヘッドは、上述の構成に限られず、例えば、接続基板5を設けずに駆動IC7を直接基板15に搭載させる構成であってもよいし、フリップチップ実装によりワイヤ81を設けない構成であってもよいし、放熱部材8を設けない構成であってもよい。
【0108】
次に、サーマルプリンタの使用方法について説明する。
【0109】
印刷媒体への印刷時には、コネクタ59に、主電源回路から、入力信号である第1の電位が付与される。この場合、複数の発熱抵抗部41が選択的に通電し、発熱する。当該熱を印刷媒体に伝えることにより、印刷媒体への印刷がなされる。上述のとおり、コネクタ59に、主電源回路から、第1の電位が付与されている場合、複数の発熱抵抗部41の各々への通電経路が確保されている。
【0110】
印刷媒体への印字を行わない時には、各発熱抵抗部41の抵抗値を計測する。当該計測時には、主電源回路からコネクタ59に電位は付与されない。各発熱抵抗部41の抵抗値の計測時には、コネクタ59に、計測用回路から、第2の電位が付与される。この場合、複数の発熱抵抗部41が順番に(例えば、主走査方向Xの端に位置する発熱抵抗部41から順番に)通電する。発熱抵抗部41に流れる電流の値および第2の電位に基づき、計測用回路は、各発熱抵抗部41の抵抗値を計測する。上述のとおり、コネクタ59に、主電源回路から、第2の電位が付与されている場合、複数の発熱抵抗部41の各々への通電経路が実質的に遮断される。これにより、計測用回路によって、より正確に各発熱抵抗部41の抵抗値を計測でき、発熱抵抗部41の寿命及び故障した発熱抵抗部41の有無が確認されうる。
【0111】
上記によれば、良好な印字特性を確保したサーマルプリンタを得ることができる。
【符号の説明】
【0112】
5 接続基板
7 駆動IC
8 放熱部材
15 基板
20、30 構造体
20A、30A 中空部
31 個別電極
32 共通電極
32A 櫛歯部
32B 共通部
33 蓄熱層
33A 開口部
40 発熱抵抗体
41 発熱抵抗部
59 コネクタ
81 ワイヤ
82 樹脂部
91 プラテンローラ
92 印刷媒体
100、100A、100B、100C サーマルプリントヘッド