(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167963
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】送給制御溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20231116BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B23K9/12 303A
B23K9/00 330Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079533
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】本田 怜央
(72)【発明者】
【氏名】上園 敏郎
(57)【要約】
【課題】消耗電極アーク溶接において、溶接開始を良好にするために、溶接終了後にワイヤ突き出し長さを効率良く適正長さに調整することができる送給制御溶接装置を提供すること。
【解決手段】溶接電圧Vwを出力する溶接電源PSと、溶接ワイヤ1を送給する送給機WFと、シールドガス4の流出を制御するガス制御部GCと、溶接トーチATと、溶接トーチATに装着されたトーチスイッチONと、を備え、トーチスイッチONがオン状態になるとアーク溶接を行う送給制御溶接装置において、溶接モード及びインチングモードを設定するモード設定部MRを備え、送給機WFは、溶接モードであるときはトーチスイッチONがオン状態になると溶接ワイヤ1を前進送給し、インチングモードであるときはトーチスイッチONがオン状態になると溶接ワイヤ1を後退送給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電圧を出力する溶接電源と、
溶接ワイヤを送給する送給機と、
シールドガスの流出を制御するガス制御部と、
前記溶接電圧、前記溶接ワイヤ及び前記シールドガスをアーク発生部に供給する溶接トーチと、
前記溶接トーチに装着されたトーチスイッチと、を備え、
前記トーチスイッチがオン状態になると、前記溶接電源は前記溶接電圧を出力し、前記送給機は前記溶接ワイを前進送給し、前記ガス制御部は前記シールドガスを流出してアーク溶接を行う送給制御溶接装置において、
溶接モード及びインチングモードを設定するモード設定部を備え、
前記送給機は、前記溶接モードであるときは前記トーチスイッチがオン状態になると前記溶接ワイヤを前進送給し、前記インチングモードであるときは前記トーチスイッチがオン状態になると前記溶接ワイヤを後退送給する、
ことを特徴とする送給制御溶接装置。
【請求項2】
前記モード設定部は、前記溶接モードであるときに前記トーチスイッチがオフ状態になり溶接が終了した時点から所定期間中は前記インチングモードとなり、前記所定期間が経過すると前記溶接モードに戻る、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御溶接装置。
【請求項3】
前記モード設定部は、前記溶接モードであるときに前記トーチスイッチがオフ状態になり溶接が終了し、その後に前記トーチスイッチが再びオン状態である期間中は前記インチングモードになり、その後に前記トーチスイッチが再びオフ状態になると前記溶接モードに戻る、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御溶接装置。
【請求項4】
前記モード設定部は、前記溶接モードであるときに前記トーチスイッチがクリック操作されると前記インチングモードに切り換えられ、前記インチングモードであるときに前記トーチスイッチが前記クリック操作されると前記溶接モードに切り換えられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御溶接装置。
【請求項5】
前記溶接電源は前記インチングモードであるときは前記溶接電圧の出力を禁止し、
前記ガス制御部は前記インチングモードであるときは前記シールドガスの流出を禁止する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤを送給してアーク溶接を行う送給制御溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接電圧を出力する溶接電源と、溶接ワイヤを送給する送給機と、シールドガスの流出を制御するガス制御部と、溶接電圧、溶接ワイヤ及びシールドガスをアーク発生部に供給する溶接トーチと、溶接トーチに装着されたトーチスイッチと、を備え、トーチスイッチがオン状態になると、溶接電源は溶接電圧を出力し、送給機は溶接ワイヤを前進送給し、ガス制御部はシールドガスを流出してアーク溶接を行う送給制御溶接装置が広く使用されている。
【0003】
溶接を開始するときに、前回の溶接終了時のワイヤ突き出し長が長い場合、溶接開始作業がしにくいために、ワイヤ突き出し長さが短くなるように切断する必要がある。
【0004】
特許文献1の発明では、溶接が終了すると溶接ワイヤをワイヤ先端粒が給電チップの先端部に当たって移動できなくなるまで後退送給し、その後に所定距離だけ前進送給することによってワイヤ突き出し長さを適正長さに調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
手動溶接において、溶接開始時のワイヤ突き出し長さを調整するために、従来技術を使用すると、ワイヤ突き出し長さは適正長さに調整されるが、この調整のために時間がかかり、作業効率が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、消耗電極アーク溶接による手動溶接において、溶接開始時のワイヤ突き出し長さを効率良く適正長さに調整することができる送給制御溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接電圧を出力する溶接電源と、
溶接ワイヤを送給する送給機と、
シールドガスの流出を制御するガス制御部と、
前記溶接電圧、前記溶接ワイヤ及び前記シールドガスをアーク発生部に供給する溶接トーチと、
前記溶接トーチに装着されたトーチスイッチと、を備え、
前記トーチスイッチがオン状態になると、前記溶接電源は前記溶接電圧を出力し、前記送給機は前記溶接ワイヤを前進送給し、前記ガス制御部は前記シールドガスを流出してアーク溶接を行う送給制御溶接装置において、
溶接モード及びインチングモードを設定するモード設定部を備え、
前記送給機は、前記溶接モードであるときは前記トーチスイッチがオン状態になると前記溶接ワイヤを前進送給し、前記インチングモードであるときは前記トーチスイッチがオン状態になると前記溶接ワイヤを後退送給する、
ことを特徴とする送給制御溶接装置である。
【0009】
請求項2の発明は、
前記モード設定部は、前記溶接モードであるときに前記トーチスイッチがオフ状態になり溶接が終了した時点から所定期間中は前記インチングモードとなり、前記所定期間が経過すると前記溶接モードに戻る、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御溶接装置である。
【0010】
請求項3の発明は、
前記モード設定部は、前記溶接モードであるときに前記トーチスイッチがオフ状態になり溶接が終了し、その後に前記トーチスイッチが再びオン状態である期間中は前記インチングモードになり、その後に前記トーチスイッチが再びオフ状態になると前記溶接モードに戻る、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御溶接装置である。
【0011】
請求項4の発明は、
前記モード設定部は、前記溶接モードであるときに前記トーチスイッチがクリック操作されると前記インチングモードに切り換えられ、前記インチングモードであるときに前記トーチスイッチが前記クリック操作されると前記溶接モードに切り換えられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の送給制御溶接装置である。
【0012】
請求項5の発明は、
前記溶接電源は前記インチングモードであるときは前記溶接電圧の出力を禁止し、
前記ガス制御部は前記インチングモードであるときは前記シールドガスの流出を禁止する、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の溶接装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る送給制御溶接装置によれば、消耗電極アーク溶接による手動溶接において、溶接開始時のワイヤ突き出し長さを効率良く適正長さに調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る送給制御溶接装置のブロック図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る
図1の送給制御溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【
図3】本発明の実施の形態2に係る
図1の送給制御溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【
図4】本発明の実施の形態3に係る
図1の送給制御溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係る送給制御溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0017】
トーチスイッチONは、後述する溶接トーチATに装着されており、溶接作業者によってオン状態になるとHighレベルとなり、オフ状態になるとLowレベルとなるトーチスイッチ信号Onを出力する。
【0018】
モード設定回路MRは、上記のトーチスイッチ信号Onを入力として、以下の処理1)~3)のいずれか一つを行い、溶接モードのときはLowレベルとなり、インチングモードのときはHighレベルとなるモード設定信号Mrを出力する。
処理1)モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときに、トーチスイッチ信号OnがLowレベルになり予め定めたアフターフロー期間が経過して溶接が終了した時点から所定期間中はモード設定信号MrをHighレベル(インチングモード)とし、所定期間が経過するとモード設定信号MrをLowレベル(溶接モード)に戻す。所定期間は、例えば3秒に設定される。
処理2)モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときに、トーチスイッチ信号OnがLowレベルになり予め定めたアフターフロー期間が経過して溶接が終了し、その後にトーチスイッチ信号Onが再びHighレベルである期間中はモード設定信号MrをHighレベル(インチングモード)とし、その後にトーチスイッチ信号Onが再びLowレベルになるとモード設定信号MrをLowレベル(溶接モード)に戻す。
処理3)モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときに、トーチスイッチ信号Onがクリック操作された信号であると判別するとモード設定信号MrをHighレベル(インチングモード)に切り換え、モード設定信号MrがHighレベル(インチングモード)であるときに、トーチスイッチ信号Onがクリック操作された信号であると判別するとモード設定信号MrをLowレベル(溶接モード)に切り換える。上記のクリック操作された信号とは、予め定めた判定時間内に1回以上Highレベル・Lowレベルが繰り返される状態である。すなわち、溶接作業者が判定時間内にトーチスイッチONを1回以上オン・オフ操作する状態である。判定時間は、例えば1秒に設定される。
【0019】
送給速度設定回路FRは、上記のモード設定信号Mrを入力として、モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときは予め定めた正の値の溶接送給速度となり、モード設定信号MrがHighレベル(インチングモード)であるときは予め定めた負の値のインチング送給速度となる送給速度設定信号Frを出力する。したがって、モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときは溶接ワイヤ1は溶接送給速度で前進送給され、モード設定信号MrがHighレベル(インチングモード)であるときは溶接ワイヤ1はインチング送給速度で後退送給される。
【0020】
溶接電源PSは、上記のトーチスイッチ信号On及び上記のモード設定信号Mrを入力として、
モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときに、トーチスイッチ信号Onが判定時間以上のHighレベル(オン状態)になると、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを出力し、
モード設定信号MrがHighレベル(インチングモード)であるときは溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの出力を禁止する。
【0021】
送給機WFは、上記のトーチスイッチ信号On及び上記の送給速度設定信号Frを入力として、トーチスイッチ信号Onが判定時間以上のHighレベル(オン状態)になると、ワイヤリールに巻かれた溶接ワイヤ1を送給速度設定信号Frによって設定された送給速度Fwで送給する。
【0022】
ガス制御回路GCは、上記のトーチスイッチ信号On及び上記のモード設定信号Mrを入力として、
モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときに、トーチスイッチ信号Onが判定時間以上のHighレベル(オン状態)になると、ガスボンベ5からのシールドガス4をガス流量Gwで流出させ、トーチスイッチ信号OnがLowレベル(オフ状態)になるとその時点から予め定めたアフターフロー期間だけ遅延してシールドガス4の流出を停止し、
モード設定信号MrがHighレベル(インチングモード)であるときはシールドガス4の流出を禁止する。
【0023】
溶接トーチATは、上記の溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを溶接ワイヤ1に給電し、シールドガス4をアーク3の発生部に噴出してアーク溶接を行う。
【0024】
図2は、本発明の実施の形態1に係る
図1の送給制御溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はトーチスイッチ信号Onの時間変化を示し、同図(B)はモード設定信号Mrの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)はシールドガスのガス流量Gwの時間変化を示し、同図(E)は送給速度Fwの時間変化を示す。同図は、溶接が終了し、インチングモードでワイヤ突き出し長さの調整送給を行い、次の溶接を開始するときのタイミングチャートである。以下、同図を参照して各信号の動作について説明する。
【0025】
同図は、
図1のモード設定回路MRが、以下の処理1によって溶接モードとインチングモードとを切り換える場合である。
処理1)モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときに、トーチスイッチ信号OnがLowレベルになり予め定めたアフターフロー期間が経過して溶接が終了した時点から所定期間中はモード設定信号MrをHighレベル(インチングモード)とし、所定期間が経過するとモード設定信号MrをLowレベル(溶接モード)に戻す。所定期間は、例えば3秒に設定される。
【0026】
時刻t1以前の期間中は、溶接モードで溶接が行われている。したがって、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはHighレベルとなっている。同図(B)に示すように、モード設定信号MrはLowレベル(溶接モード)となっている。同図(C)に示すように、溶接電圧Vwが出力されているのでHighレベルとなっている。同図(D)に示すように、ガス流量Gwはシールドガスが流出しているのでHighレベルとなっている。同図(E)に示すように、送給速度Fwは予め定めた正の値の溶接送給速度となっている。
【0027】
時刻t1において、溶接作業者がトーチスイッチONをオン状態からオフ状態にすると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはLowレベルに変化する。これに応動して、時刻t1から0.5秒ほどのアンチスティック期間だけ遅延して、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwは出力を停止するのでLowレベルとなる。ここで、アンチスティック期間は溶接ワイヤ1が溶融池に溶着するのを防止するための期間である。同様に、時刻t1からアンチスティック期間だけ遅延して、同図(E)に示すように、送給速度Fwは前進送給を停止するので0となる。また、時刻t1から1秒ほどのアフターフロー期間だけ遅延した時刻t2において、同図(D)に示すように、ガス流量Gwはシールドガスの流出を停止するのでLowレベルとなる。この結果、時刻t2において、溶接が終了する。
【0028】
時刻t2において、溶接が終了すると、同図(B)に示すように、モード設定信号Mrは、時刻t2~t3の所定期間中はHighレベル(インチングモード)になる。時刻t21において、溶接作業者がトーチスイッチONをオン状態にすると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはHighレベルとなる。時刻t21から予め定めた判定時間が経過すると、同図(E)に示すように、送給速度Fwは、負の値のインチング送給速度となり、溶接ワイヤ1は後退送給される。時刻t22において、溶接作業者がトーチスイッチONをオフ状態にすると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはLowレベルとなる。これに応動して、同図(E)に示すように、送給速度Fwは、後退送給を停止するので0となる。時刻t21~t22の後退送給によって、ワイヤ突き出し長さが適正長さになるように調整することができる。時刻t2~t3のインチングモードの期間中は、溶接電圧Vwの出力及びシールドガスの流出は禁止されているので、同図(C)の溶接電圧Vw及び同図(D)のガス流量GwはLowレベルのままである。
【0029】
時刻t3において、溶接終了から所定期間が経過すると、同図(B)に示すように、モード設定信号MrはLowレベル(溶接モード)に戻る。時刻t31において、溶接作業者がトーチスイッチONをオン状態にすると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはHighレベルとなる。時刻t31から判定時間が経過すると、同図(C)に示すように、溶接電圧Vwが出力されるのでHighレベルとなる。同様に、同図(D)に示すように、ガス流量Gwは、シールドガスが流出するのでHighレベルとなる。同図(E)に示すように、送給速度Fwは正の値の溶接送給速度となり、溶接ワイヤ1は前進送給される。このようにして、次の溶接が開始される。
【0030】
上述した実施の形態1によれば、溶接モード及びインチングモードを設定するモード設定部を備え、送給機は、溶接モードであるときはトーチスイッチがオン状態になると溶接ワイヤを前進送給し、インチングモードであるときはトーチスイッチがオン状態になると溶接ワイヤを後退送給する。モード設定部は、溶接モードであるときにトーチスイッチがオフ状態になり溶接が終了した時点から所定期間中はインチングモードとなり、所定期間が経過すると溶接モードに戻る。このようにすると、インチングモード時の後退送給によって、ワイヤ突き出し長さが次の溶接を開始するのに長い場合でも、簡単にワイヤ突き出し長さを適正長さに調整することができる。この結果、本実施の形態では、消耗電極アーク溶接による手動溶接において、溶接開始時のワイヤ突き出し長さを効率良く適正長さに調整することができる。
【0031】
[実施の形態2]
図3は、本発明の実施の形態2に係る
図1の送給制御溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はトーチスイッチ信号Onの時間変化を示し、同図(B)はモード設定信号Mrの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)はシールドガスのガス流量Gwの時間変化を示し、同図(E)は送給速度Fwの時間変化を示す。同図は、溶接が終了し、インチングモードでワイヤ突き出し長さの調整送給を行い、次の溶接を開始するときのタイミングチャートである。同図において、
図2と同一の事項についての説明は繰り返さない。以下、同図を参照して、
図2とは異なる点について説明する。
【0032】
同図は、
図1のモード設定回路MRが、以下の処理2によって溶接モードとインチングモードとを切り換える場合である。
処理2)モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときに、トーチスイッチ信号OnがLowレベルになり予め定めたアフターフロー期間が経過して溶接が終了し、その後にトーチスイッチ信号Onが再びHighレベルである期間中はモード設定信号MrをHighレベル(インチングモード)とし、その後にトーチスイッチ信号Onが再びLowレベルになるとモード設定信号MrをLowレベル(溶接モード)に戻す。
【0033】
時刻t2において、溶接が終了するまでの動作は
図2と同一であるので、説明は繰り返さない。
【0034】
時刻t21において、溶接作業者がトーチスイッチONをオン状態にすると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはHighレベルとなる。時刻t21から判定時間が経過した時刻t22において、同図(B)に示すように、モード設定信号MrはHighレベル(インチングモード)に変化する。同時に、同図(E)に示すように、送給速度Fwは、負の値のインチング送給速度となり、溶接ワイヤ1は後退送給される。時刻t3において、溶接作業者がトーチスイッチONをオフ状態にすると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはLowレベルとなる。これに応動して、同図(E)に示すように、送給速度Fwは、後退送給を停止するので0となる。同時に、同図(B)に示すように、モード設定信号MrはLowレベル(溶接モード)に戻る。時刻t22~t3の後退送給によって、ワイヤ突き出し長さが適正長さになるように調整することができる。時刻t22~t3のインチングモードの期間中は、溶接電圧Vwの出力及びシールドガスの流出は禁止されているので、同図(C)の溶接電圧Vw及び同図(D)のガス流量GwはLowレベルのままである。
【0035】
時刻t31以降の動作については、
図2と同一であるので説明は繰り返さない。
【0036】
上述した実施の形態2によれば、モード設定部は、溶接モードであるときにトーチスイッチがオフ状態になり溶接が終了し、その後にトーチスイッチが再びオン状態である期間中はインチングモードになり、その後にトーチスイッチが再びオフ状態になると溶接モードに戻る。このようにすると、インチングモード時の後退送給によって、ワイヤ突き出し長さが次の溶接を開始するのに長い場合でも、簡単にワイヤ突き出し長さを適正長さに調整することができる。この結果、本実施の形態では、消耗電極アーク溶接による手動溶接において、溶接開始時のワイヤ突き出し長さを効率良く適正長さに調整することができる。
【0037】
[実施の形態3]
図4は、本発明の実施の形態3に係る
図1の送給制御溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)はトーチスイッチ信号Onの時間変化を示し、同図(B)はモード設定信号Mrの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(D)はシールドガスのガス流量Gwの時間変化を示し、同図(E)は送給速度Fwの時間変化を示す。同図は、溶接が終了し、インチングモードでワイヤ突き出し長さの調整送給を行い、次の溶接を開始するときのタイミングチャートである。同図において、
図2と同一の事項についての説明は繰り返さない。以下、同図を参照して、
図2とは異なる点について説明する。
【0038】
同図は、
図1のモード設定回路MRが、以下の処理3によって溶接モードとインチングモードとを切り換える場合である。
処理3)モード設定信号MrがLowレベル(溶接モード)であるときに、トーチスイッチ信号Onがクリック操作された信号であると判別するとモード設定信号MrをHighレベル(インチングモード)に切り換え、モード設定信号MrがHighレベル(インチングモード)であるときに、トーチスイッチ信号Onがクリック操作された信号であると判別するとモード設定信号MrをLowレベル(溶接モード)に切り換える。上記のクリック操作された信号とは、予め定めた判定時間内に1回以上Highレベル・Lowレベルが繰り返される状態である。すなわち、溶接作業者が判定時間内にトーチスイッチONを1回以上オン・オフ操作する状態である。判定時間は、例えば1秒に設定される。
【0039】
時刻t2において、溶接が終了するまでの動作は
図2と同一であるので、説明は繰り返さない。
【0040】
時刻t21~t22の判定時間の期間中において、溶接作業者がトーチスイッチONをクリック操作すると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはHighレベルの後にLowレベルとなる。これに応動して時刻t22において、同図(B)に示すように、モード設定信号MrはHighレベル(インチングモード)に変化する。時刻t23において、溶接作業者がトーチスイッチONをオン状態にすると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはHighレベルとなる。時刻t23から判定時間が経過すると、同図(E)に示すように、送給速度Fwは、負の値のインチング送給速度となり、溶接ワイヤ1は後退送給される。時刻t24において、溶接作業者がトーチスイッチONをオフ状態にすると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはLowレベルとなる。これに応動して、同図(E)に示すように、送給速度Fwは、後退送給を停止するので0となる。時刻t23~t24の後退送給によって、ワイヤ突き出し長さが適正長さになるように調整することができる。時刻t25~t3の判定時間の期間中に、溶接作業者がトーチスイッチONを再びクリック操作すると、同図(A)に示すように、トーチスイッチ信号OnはHighレベルの後にLowレベルとなる。これに応動して時刻t3において、同図(B)に示すように、モード設定信号MrはLowレベル(溶接モード)に戻る。時刻t22~t3のインチングモードの期間中は、溶接電圧Vwの出力及びシールドガスの流出は禁止されているので、同図(C)の溶接電圧Vw及び同図(D)のガス流量GwはLowレベルのままである。
【0041】
時刻t31以降の動作については、
図2と同一であるので説明は繰り返さない。
【0042】
上述した実施の形態3によれば、モード設定部は、溶接モードであるときにトーチスイッチがクリック操作されるとインチングモードに切り換えられ、インチングモードであるときにトーチスイッチがクリック操作されると溶接モードに切り換えられる。このようにすると、インチングモード時の後退送給によって、ワイヤ突き出し長さが次の溶接を開始するのに長い場合でも、簡単にワイヤ突き出し長さを適正長さに調整することができる。この結果、本実施の形態では、消耗電極アーク溶接による手動溶接において、溶接開始時のワイヤ突き出し長さを効率良く適正長さに調整することができる。
【0043】
上述した実施の形態1~3において、好ましくは、溶接電源はインチングモードであるときは溶接電圧の出力を禁止し、ガス制御部はインチングモードであるときはシールドガスの流出を禁止する。このようにすると、インチングモードにおいて、後退送給によってワイヤ突き出し長さを調整しているときに、溶接ワイヤに溶接電圧が印加されないので感電を防止することができる。さらに、シールドガスの流出も禁止されるので、シールドガスを無駄にすることもない。
【符号の説明】
【0044】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 シールドガス
5 ガスボンベ
AT 溶接トーチ
FR 送給速度設定回路
Fr 送給速度設定信号
Fw 送給速度
GC ガス制御回路
Gw シールドガスの流量
Iw 溶接電流
MR モード設定回路
Mr モード設定信号
ON トーチスイッチ
On トーチスイッチ信号
PS 溶接電源
Vw 溶接電圧
WF 送給機