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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167964
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】信号処理装置及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/24 20060101AFI20231116BHJP
【FI】
G01M3/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079534
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 義徳
(72)【発明者】
【氏名】中島 駿
【テーマコード(参考)】
2G067
【Fターム(参考)】
2G067AA13
2G067CC02
2G067DD13
2G067EE02
(57)【要約】
【課題】微小信号を精度良く検出することができる信号処理装置を提供する。
【解決手段】信号処理装置100は、信号増幅部1と複数の閾値応答部Hmと信号生成部51と閾値算出部52と閾値設定部7とを備える。信号増幅部1は、ノイズ成分n(t)及び信号成分s(t)を含む入力信号SG1を増幅し、増幅信号SGAを出力する。閾値応答部Hmの各々は、増幅信号SGAと閾値信号Vt[m]との比較結果を示す応答信号B[m]を出力する。信号生成部51は、複数の閾値Vt[m]及び複数の応答信号B[m]に基づいて信号成分s(t)に対応する信号値sgaを生成する。閾値算出部52は、新たな複数の閾値Vt#[m#]を閾値関数F(m#)に基づいて算出する。閾値設定部7は複数の閾値Vt[m]を新たな複数の閾値Vt#[m#]に更新する。閾値関数F(m#)は、信号成分s(t)に対応する信号値sgaに基づいて定められる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズ成分及び信号成分を含む入力信号を増幅し、増幅信号を出力する信号増幅部と、
前記増幅信号が入力されるとともに、複数の異なる閾値信号がそれぞれ入力され、各々が前記増幅信号と前記閾値信号との比較結果を示す応答信号を出力する複数の閾値応答部と、
前記複数の閾値信号にそれぞれ設定されている複数の閾値、及び、複数の前記応答信号に基づいて、前記信号成分に対応する信号値を生成する信号生成部と、
前記複数の閾値信号に対してそれぞれ設定する新たな複数の閾値を、閾値関数に基づいて算出する閾値算出部と、
前記信号成分に対応する前記信号値を生成する際に利用した前記複数の閾値を、前記新たな複数の閾値に更新する閾値設定部と
を備え、
前記閾値関数は、前記信号成分に対応する前記信号値に基づいて定められ、前記閾値信号に対して設定することの可能な閾値と、前記閾値信号を識別するための識別値との関係を示す、信号処理装置。
【請求項2】
前記ノイズ成分の出現が正規分布で示され、
前記閾値関数は、前記正規分布の特性に対応する関数である、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記閾値関数は、第1関数と、第2関数とを含み、
前記第1関数は、前記閾値信号に設定することの可能な最小閾値と、前記信号成分に対応する前記信号値に基づいて定められ、
前記第2関数は、前記閾値信号に設定することの可能な最大閾値と、前記信号成分に対応する前記信号値とに基づいて定められる、請求項1又は請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記第1関数は、前記信号成分に対応する前記信号値を最大値とする二次関数であり、前記最小閾値から前記最大値までの単調増加区間によって示され、
前記第2関数は、前記信号成分に対応する前記信号値を最小値とする二次関数であり、前記最小値から前記最大閾値までの単調増加区間によって示される、請求項3に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記複数の応答信号の各々は、前記比較結果を、第1レベル及び第2レベルのいずれかのレベルで示し、
前記信号生成部は、時間軸上に並ぶ所定期間ごとに、前記複数の応答信号の各々において、前記所定期間における前記第1レベルの割合を算出し、前記複数の応答信号の各々における前記第1レベルの割合と前記複数の閾値信号との関係を近似する近似関数に基づいて、前記所定期間ごとに前記信号成分に対応する前記信号値を生成し、
前記閾値算出部は、前記所定期間ごとに、前記閾値関数を更新して、更新後の前記閾値関数に基づいて前記新たな複数の閾値を算出し、
前記閾値設定部は、前記信号成分に対応する前記信号値を生成する際に利用した前記複数の閾値を、前記所定期間ごとに、前記新たな複数の閾値に更新する、請求項1又は請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項6】
ノイズ成分及び信号成分を含む入力信号を増幅し、増幅信号を出力するステップと、
複数の異なる閾値信号の各々と前記増幅信号とを比較し、複数の比較結果をそれぞれ示す複数の応答信号を出力するステップと、
前記複数の閾値信号に対してそれぞれ設定されている複数の閾値、及び、前記複数の応答信号に基づいて、前記信号成分に対応する信号値を生成するステップと、
前記複数の閾値信号に対してそれぞれ設定する新たな複数の閾値を、閾値関数に基づいて算出するステップと、
前記信号成分に対応する前記信号値を生成する際に利用した前記複数の閾値を、前記新たな複数の閾値に更新するステップと
を含み、
前記閾値関数は、前記信号成分に対応する前記信号値に基づいて定められ、前記閾値信号に対して設定することの可能な閾値と、前記閾値信号を識別するための識別値との関係を示す、信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された微小信号検出装置(漏水検出装置)は、漏水音集音板と、第1ピックアップセンサと、第2ピックアップセンサと、差動増幅アンプと、フィルタ回路と、プリメインアンプとを備える。第1ピックアップセンサは、漏水音を検出して微小音検出信号を出力する。第2ピックアップセンサは、第1ピックアップセンサの近傍に配置される。第2ピックアップセンサは、第1ピックアップセンサと異なる感度で漏水音を検出して微小音検出信号を出力する。差動増幅アンプは、第1ピックアップセンサが出力した微小音検出信号と、第2ピックアップセンサが出力した微小音検出信号とを差動増幅する。その結果、ノイズを大幅に低減することができる。フィルタ回路は、差動増幅アンプからの微小音検出信号について、特定周波数成分(ノイズ成分)をカットする。そして、フィルタ回路は、特定周波数成分をカットした微小音検出信号をプリメインアンプに出力する。フィルタ回路は、バンドパスフィルタである。プリメインアンプは、フィルタ回路からの微小音検出信号を、所定レベルまで増幅する。そして、プリメインアンプは、増幅した微小音検出信号を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-99740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された微小信号検出装置では、例えば、フィルタ回路として用いられるバンドパスフィルタの周波数選択性に幅があること、及び、差動増幅アンプとフィルタ回路との双方がランダムノイズ発生源となることの理由により、ノイズを十分低減することが困難である。従って、微小信号を精度良く検出することが困難である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、微小信号を精度良く検出することができる信号処理装置及び信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面によれば、信号処理装置は、信号増幅部と、複数の閾値応答部と、信号生成部と、閾値算出部と、閾値設定部とを備える。信号増幅部は、ノイズ成分及び信号成分を含む入力信号を増幅し、増幅信号を出力する。複数の閾値応答部には、前記増幅信号が入力されるとともに、複数の異なる閾値信号がそれぞれ入力される。閾値応答部の各々は、前記増幅信号と前記閾値信号との比較結果を示す応答信号を出力する。信号生成部は、前記複数の閾値信号にそれぞれ設定されている複数の閾値、及び、複数の前記応答信号に基づいて、前記信号成分に対応する信号値を生成する。閾値算出部は、前記複数の閾値信号に対してそれぞれ設定する新たな複数の閾値を、閾値関数に基づいて算出する。閾値設定部は、前記信号成分に対応する前記信号値を生成する際に利用した前記複数の閾値を、前記新たな複数の閾値に更新する。前記閾値関数は、前記信号成分に対応する前記信号値に基づいて定められ、前記閾値信号に対して設定することの可能な閾値と、前記閾値信号を識別するための識別値との関係を示す。
【0007】
本発明の一態様においては、前記ノイズ成分の出現が正規分布で示されることが好ましい。前記閾値関数は、前記正規分布の特性に対応する関数であることが好ましい。
【0008】
本発明の一態様においては、前記閾値関数は、第1関数と、第2関数とを含むことが好ましい。前記第1関数は、前記閾値信号に設定することの可能な最小閾値と、前記信号成分に対応する前記信号値に基づいて定められることが好ましい。前記第2関数は、前記閾値信号に設定することの可能な最大閾値と、前記信号成分に対応する前記信号値とに基づいて定められることが好ましい。
【0009】
本発明の一態様においては、前記第1関数は、前記信号成分に対応する前記信号値を最大値とする二次関数であり、前記最小閾値から前記最大値までの単調増加区間によって示されることが好ましい。前記第2関数は、前記信号成分に対応する前記信号値を最小値とする二次関数であり、前記最小値から前記最大閾値までの単調増加区間によって示されることが好ましい。
【0010】
本発明の一態様においては、前記複数の応答信号の各々は、前記比較結果を、第1レベル及び第2レベルのいずれかのレベルで示すことが好ましい。前記信号生成部は、時間軸上に並ぶ所定期間ごとに、前記複数の応答信号の各々において、前記所定期間における前記第1レベルの割合を算出し、前記複数の応答信号の各々における前記第1レベルの割合と前記複数の閾値信号との関係を近似する近似関数に基づいて、前記所定期間ごとに前記信号成分に対応する前記信号値を生成することが好ましい。前記閾値算出部は、前記所定期間ごとに、前記閾値関数を更新して、更新後の前記閾値関数に基づいて前記新たな複数の閾値を算出することが好ましい。前記閾値設定部は、前記信号成分に対応する前記信号値を生成する際に利用した前記複数の閾値を、前記所定期間ごとに、前記新たな複数の閾値に更新することが好ましい。
【0011】
本発明の他の局面によれば、信号処理方法は、ノイズ成分及び信号成分を含む入力信号を増幅し、増幅信号を出力するステップと、複数の異なる閾値信号の各々と前記増幅信号とを比較し、複数の比較結果をそれぞれ示す複数の応答信号を出力するステップと、前記複数の閾値信号に対してそれぞれ設定されている複数の閾値、及び、前記複数の応答信号に基づいて、前記信号成分に対応する信号値を生成するステップと、前記複数の閾値信号に対してそれぞれ設定する新たな複数の閾値を、閾値関数に基づいて算出するステップと、前記信号成分に対応する前記信号値を生成する際に利用した前記複数の閾値を、前記新たな複数の閾値に更新するステップとを含む。前記閾値関数は、前記信号成分に対応する前記信号値に基づいて定められ、前記閾値信号に対して設定することの可能な閾値と、前記閾値信号を識別するための識別値との関係を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、微小信号を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る信号処理装置を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係る増幅信号、閾値、及び、応答信号を示す図である。
図3】本実施形態に係るON信号の割合と閾値信号の識別値との関係の概形を示す図である。
図4】本実施形態に係る近似関数を示すグラフである。
図5】本実施形態に係る閾値関数を示すグラフである。
図6】本実施形態に係る別の閾値関数を示すグラフである。
図7】本実施形態に係る信号処理方法を示すフローチャートである。
図8】本実施形態に係る「出力信号を生成する処理」を示すフローチャートである。
図9】本実施形態に係る「新たな複数の閾値を算出する処理」を示すフローチャートである。
図10】本実施形態の信号処理装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一または相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0015】
図1図6を参照して、本発明の実施形態に係る信号処理装置100を説明する。図1は、本実施形態に係る信号処理装置100を示すブロック図である。図1に示すように、信号処理装置100は、入力信号SG1(t)を処理し、出力信号SG2(t)を出力する。以下、記載を簡略にするために、入力信号SG1(t)及び出力信号SG2(t)を、それぞれ、入力信号SG1及び出力信号SG2と記載する。「t」は時間を示す。入力信号SG1は、信号成分s(t)及びノイズ成分n(t)を含む。ノイズ成分n(t)は、白色正規雑音(Gaussian white noise)である。つまり、ノイズ成分n(t)の出現が正規分布で示される。
【0016】
具体的には、信号処理装置100は、信号増幅部1と、閾値処理部3と、デジタル処理部5と、閾値設定部7とを備える。
【0017】
信号増幅部1は、入力信号SG1を増幅して、増幅信号SGAを閾値処理部3に出力する。具体的には、信号増幅部1は、増幅率Aを有し、入力信号SG1をA倍に増幅する。従って、増幅信号SGAは、信号成分A・s(t)及びノイズ成分A・s(t)を含む。信号増幅部1は、例えば、オペアンプ等を含む増幅回路である。
【0018】
閾値設定部7は、複数の異なる閾値信号Vt[0]~Vt[M]を閾値処理部3に出力する。本実施形態において、「M」は1以上の整数を示す。以下、閾値信号Vt[0]~Vt[M]を区別して説明する必要がない場合には、閾値信号Vt[0]~Vt[M]を総称して「閾値信号Vt[m]」と記載する。「m」は、閾値信号Vt[m]を識別するための識別値である。本実施形態において、「m」は、0以上M以下の整数である。なお、閾値信号Vt[m]を閾値信号Vtと記載する場合がある。閾値設定部7は、例えば、D/Aコンバータ(デジタル-アナログ変換回路)、又は、電源及び抵抗分圧回路を含む。
【0019】
閾値処理部3には、増幅信号SGAと閾値信号Vt[m]とが入力される。閾値信号Vt[m]には、閾値Vt[m]が設定される。本実施形態では、理解を容易にするために、閾値信号と、閾値信号に設定された閾値とに対して、同じ参照符号「Vt[m]」を付する。「m」は、閾値Vt[m]を識別するための識別値でもある。閾値Vt[m]は電圧値である。具体的には、閾値処理部3には、複数の異なる閾値信号Vt[0]~Vt[M]が入力される。複数の異なる閾値信号Vt[0]~Vt[M]には、それぞれ、複数の閾値Vt[0]~Vt[M]が設定されている。識別値mは、閾値Vt[0]~Vt[M]の大小関係を示している。本実施形態では、閾値Vt[m]は、識別値mが大きいほど大きい(Vt[0]<Vt[1]<…<Vt[M])。なお、閾値Vt[m]を閾値Vtと記載する場合がある。
【0020】
閾値処理部3は、増幅信号SGAと、複数の閾値信号Vt[0]~Vt[M]とを比較することにより、複数の応答信号B[0]~B[M]を生成する。そして、閾値処理部3は、複数の応答信号B[0]~B[M]をデジタル処理部5に出力する。以下、応答信号B[0]~B[M]を区別して説明する必要がない場合には、応答信号B[0]~B[M]を総称して「応答信号B[m]」と記載する。
【0021】
具体的には、閾値処理部3は、複数の閾値応答部H0~HMを備える。複数の閾値応答部H0~HMには、それぞれ、閾値設定部7から複数の異なる閾値信号Vt[0]~Vt[M]が入力される。また、複数の閾値応答部H0~HMの各々には、信号増幅部1から増幅信号SGAが入力される。以下、閾値応答部H0~HMを区別して説明する必要がない場合には、閾値応答部H0~HMを総称して「閾値応答部Hm」と記載する。
【0022】
閾値応答部Hmは、増幅信号SGAと閾値信号Vt[m]とを比較して、増幅信号SGAと閾値信号Vt[m]との比較結果を示す応答信号B[m]をデジタル処理部5に出力する。閾値応答部Hmは、例えば、コンパレータ等の閾値応答素子である。具体的には、応答信号B[m]は、増幅信号SGAと閾値信号Vt[m]との比較結果を、第1レベルLH及び第2レベルLLのいずれかのレベルで示す。第1レベルLHと第2レベルLLとは異なる。従って、応答信号B[m]は2値信号である。
【0023】
本実施形態では、応答信号B[m]は、第1レベルLHのON信号及び第2レベルLLのOFF信号を含む。この場合、第1レベルLHは「ハイレベル」であり、第2レベルLLは「ローレベル」である。
【0024】
具体的には、閾値応答部Hmは、増幅信号SGAの電圧値が(レベル)閾値信号Vt[m]に設定された閾値Vt[m]よりも大きい場合に、応答信号B[m]としてON信号を出力する。一方、閾値応答部Hmは、増幅信号SGAの電圧値(レベル)が閾値Vt[m]以下の場合に、応答信号B[m]としてOFF信号を出力する。このように、閾値応答部Hmの応答信号B[m]は閾値Vt[m]に依存する。また、ノイズ成分n(t)が信号成分s(t)に重畳することで、閾値応答部Hmに入力される増幅信号SGAが閾値Vt[m]よりも大きくなる確率が高くなる。つまり、閾値応答部Hmは、確率共鳴を利用して応答信号B[m]を生成する。確率共鳴とは、微小信号に対する非線形系の応答がノイズ成分n(t)によって増強される現象のことである。ここで、ノイズ成分n(t)は所定期間Tにおいてランダムに変化するため、ノイズ成分n(t)の変化に応じて、応答信号B[m]がON信号又はOFF信号に変化する。所定期間Tは、信号成分s(t)が略一定であるとみなせる微小な期間(例えば、ミリ秒オーダーの期間)である。
【0025】
デジタル処理部5は、応答信号B[0]~B[M]及び閾値Vt[1]~Vt[M]に基づいて出力信号SG2を生成するとともに、後述する閾値関数F(m#)に基づいて新たな閾値Vt[1]~Vt[M]を算出する。デジタル処理部5は、例えば、マイクロコンピュータ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又は、CPU(Central Processing Unit)を含む。
【0026】
具体的には、デジタル処理部5は、信号生成部51と、閾値算出部52と、記憶部53とを備える。記憶部53は、デジタル処理部5による信号処理の対象情報及び結果情報を記憶する。記憶部53は、例えば、半導体メモリである。
【0027】
信号生成部51は、複数の閾値信号Vt[1]~Vt[M]にそれぞれ設定されている複数の閾値Vt[1]~Vt[M]、及び、複数の応答信号B[0]~B[M]に基づいて、入力信号SG1の信号成分s(t)に対応する信号値sgaを生成する。本実施形態では、信号値sgaは、増幅信号SGAに含まれる信号成分A・s(t)を示す値である。そして、信号生成部51は、信号値sgaを増幅率Aで除算することで、除算結果である信号値sgbを取得する。信号値sgbは、入力信号SG1に含まれる信号成分s(t)を示す値である。そして、信号生成部51は、信号値sgbを示す出力信号SG2を出力する。出力信号SG2は、好ましくは、デジタル信号である。なお、信号値sga、sgbは電圧値である。
【0028】
詳細には、まず、信号生成部51は、複数の応答信号B[0]~B[M]の各々において、所定期間TにおけるON信号の割合r[0]~r[M]を算出する。ON信号の割合r[0]~r[M]は、「第1レベルLHの割合r[0]~r[M]」と読み替えることもできる。以下、割合r[0]~r[M]を区別して説明する必要がない場合には、割合r[0]~r[M]を総称して割合r[m]と記載する。なお、割合r[m]を割合rと記載する場合がある。割合r[m]について、M=9の場合を例に挙げて図2を参照して説明する。
【0029】
図2は、所定期間Tよりも更に微小な期間Δt(<<T)における増幅信号SGAの経時変化と、増幅信号SGAに対する応答信号B[0]~B[9]の一例とを示す図である。図2における各グラフの横軸は、時間tであり、共通である。一方、図2における各グラフの縦軸は、各信号の電圧値である。具体的には、図2の1段目(最上段)には、増幅信号SGAの一例と、10個の閾値Vt[0]~Vt[9]とが示されている。また、図2の2段目~11段目には、それぞれ、図2の1段目の増幅信号SGAと、各閾値Vt[0]~Vt[9]とを比較して出力された10個の応答信号B[0]~B[9]が示されている。
【0030】
図2に示すように、応答信号B[m]は、増幅信号SGAが閾値Vt[m]よりも大きい時間tにおいてON信号となり、増幅信号SGAが閾値Vt[m]以下となる時間tにおいてOFF信号となる。従って、閾値Vt[m]が小さいほど、ON信号の割合r[m]が大きくなる。図2の例では、最も小さな閾値Vt[0]と比較した応答信号B[0]におけるON信号の割合r[0]は、他の閾値Vt[1]~Vt[9]と比較した応答信号B[1]~B[9]におけるON信号の割合r[1]~r[9]よりも大きい。そして、応答信号B[1]から順に、応答信号B[2]、応答信号B[3]、応答信号B[4]、応答信号B[5]、応答信号B[6]、応答信号B[7]、応答信号B[8]、及び、応答信号B[9]の順にON信号の割合r[m]が小さくなる。
【0031】
図1に戻って、次に、信号生成部51は、所定期間Tにおいて複数の応答信号B[m]の各々におけるON信号の割合r[m]と、複数の閾値信号Vt[m]との関係を近似する近似関数に基づいて、入力信号SG1の信号成分s(t)に対応する信号値sgaを生成する。本実施形態では、信号生成部51は、複数のON信号の割合r[m]と、複数の閾値信号Vt[m]の識別値mとの関係を近似する近似関数に基づいて、信号成分s(t)に対応する信号値sgaを生成する。近似関数を、図3及び図4を参照して説明する。なお、近似関数をフィッティング関数と記載することもできる。
【0032】
図3は、ON信号の割合r[m]と閾値信号Vt[m]の識別値mとの関係を示す図である。横軸は識別値mを示す。図3の例では、識別値mは、等間隔(線形)の離散値である。縦軸は、ON信号の割合r[m]を示す。ON信号の割合r[m]は、「Rm/T」によって表される。「Rm」は、所定期間Tにおいて、閾値信号Vt[m]に基づく応答信号B[m]におけるON期間の累計時間である。ON期間は、所定期間Tにおいて、応答信号B[m]がON信号を示している期間(第1レベルLHを示している期間)である。
【0033】
図3に示すように、ON信号の割合r[m]と閾値信号Vt[m]の識別値mとの関係は、概形として曲線Cによって表される。具体的には、入力信号SG1のノイズ成分n(t)は正規分布で現れる。従って、増幅信号SGAのノイズ成分A・n(t)もまた、正規分布で現れる。その結果、曲線Cは、正規分布を示す確率密度関数に対する累積分布関数を1から減算した関数(以下、「反転累積分布関数」と記載)によって示される。つまり、ON信号の割合r[m]は、反転累積分布関数に沿って現れる。よって、識別値mを連続値と仮定した場合に、曲線Cによって示される反転累積分布関数において、ON信号の割合r[m](確率)が0.5であるときの識別値K(確率変数)によって示される閾値Vt[K]が、増幅信号SGAに含まれる信号成分A・s(t)の信号値sgaに相当する。
【0034】
そこで、反転累積分布関数を、応答信号B[m]におけるON信号の割合r[m]と、閾値信号Vt[m]の識別値mとの関係を近似する近似関数として利用する。具体的には、次の通りである。
【0035】
まず、閾値信号Vt#[m#]の識別値m#及び近似関数D(m#)を説明する。識別値m#は、識別値mを連続値として扱ったときの変数である。従って、識別値m#は識別値mを含む。閾値信号Vt#[m#]は、識別値m#によって示される閾値信号Vt[m]である。
【0036】
図4は、近似関数D(m#)を示すグラフである。図4に示すように、近似関数D(m#)は、所定期間TにおけるON信号の割合r#[m#]を示し、識別値m#を変数とする関数である。具体的には、近似関数D(m#)は、反転累積分布関数である。割合r#[m#]は、識別値m#によって示される割合r[m]である。なお、割合r#[m#]を割合r#と記載し、閾値信号Vt#[m#]を閾値信号Vt#と記載する場合がある。
【0037】
次に、図1図4及び図5を参照して、信号生成部51による出力信号SG2の信号値sgbの算出方法を説明する。図1に示す信号生成部51は、所定期間Tにおいて各応答信号B[m]におけるON信号の割合r[m]を算出する。そして、信号生成部51は、複数の割合r[m]と複数の識別値mとの関係に対してフィッティングを実行し、近似関数D(m#)を導出する。具体的には、図4に示すように、割合r[m]を「m#-r#」平面に配置して、フィッティングを実行することで、近似関数D(m#)を導出する。そして、信号生成部51は、近似関数D(m#)から、ON信号の割合r#が0.5であるときの識別値K#を算出する。
【0038】
次に、信号生成部51は、識別値K#及び閾値関数E(m#)に基づいて出力信号SG2の信号値sgbを算出する。図5は、本実施形態に係る閾値関数E(m#)を示すグラフである。横軸は閾値信号Vt#[m#]の識別値m#(連続値)を示す。縦軸は、閾値Vt#[m#]を示す。
【0039】
図5に示すように、閾値関数E(m#)は、閾値Vt#[m#]を示し、識別値m#を変数とする関数である。具体的には、閾値関数E(m#)は、閾値信号Vt(m)(図1)に対して設定することの可能な閾値Vt#[m#]と、連続値である識別値m#との関係を示す。図5の例では、閾値関数E(m#)は、一次関数である。
【0040】
信号生成部51は、閾値関数E(m#)から、識別値m#が「K#」であるときの閾値Vt#[K#]を算出する。この場合、閾値Vt#[K#]は、増幅信号SGAに含まれる信号成分A・s(t)を示す。つまり、ON信号の割合r#が0.5であるときの識別値K#(図4)によって示される閾値Vt#[K#]が、増幅信号SGAに含まれる信号成分A・s(t)を示す。なぜなら、ノイズ成分n(t)が正規分布で出現するため、図4の近似関数D(m#)が反転累積分布関数になるからである。
【0041】
そして、信号生成部51は、閾値Vt#[K#]を増幅率Aで除算し、入力信号SG1に含まれる信号成分s(t)を示す信号値sgbを取得する。信号生成部51は、信号値sgbを示す出力信号SG2を出力する。
【0042】
以上、図4及び図5を参照して説明したように、信号生成部51は、近似関数D(m#)及び閾値関数E(m#)を利用することで、閾値応答部Hmの数を増加させなくても測定の分解能を向上させることができる。ただし、閾値応答部Hmの数が多いほうが、近似関数D(m#)及び閾値関数E(m#)の精度が向上する。
【0043】
ここで、図4を参照して説明したように、ON信号の割合r#が0.5であるときの識別値K#を近似関数D(m#)から算出する。従って、閾値信号Vt[m](図1)に設定する閾値Vt[m]の選び方が、近似計算が必要な識別値K#の算出精度に影響を及ぼす。そこで、識別値mの最大値である「M」を大きくして、多数の閾値Vt[m](多数の閾値応答部Hm)を設けるとともに、閾値Vt[m]を細かく設定することで、識別値K#の算出精度を向上できる。しかしながら、信号処理装置100の要求仕様によっては、多数の閾値Vt[m]を設けて閾値Vt[m]を細かく設定することが、回路実装面積及びコストの観点から好ましくない場合がある。そこで、信号処理装置100の要求仕様に応じた識別値mの数及び範囲で回路を用意し、入力信号SG1に応じて閾値Vt[m]の刻み方を適切に設定することで、識別値K#を算出する際の高精度化を図ることができる。
【0044】
具体的には、本実施形態のより好ましい例として、図1に示すデジタル処理部5は、閾値関数F(m#)に基づいて、閾値信号Vt[m]に対して設定する閾値Vt[m]を動的に制御する。
【0045】
具体的には、閾値算出部52は、複数の閾値信号Vt[m]に対してそれぞれ設定する新たな複数の閾値Vt#[m#]を、閾値関数F(m#)に基づいて算出する。そして、閾値設定部7は、入力信号SG1に含まれる信号成分s(t)に対応する信号値sgaを生成する際に利用した複数の閾値Vt[m]を、新たな複数の閾値Vt#[m#]に更新する。つまり、閾値設定部7は、前回利用した複数の閾値Vt[m]を、新たな複数の閾値Vt#[m#]に更新する。
【0046】
特に、新たな閾値Vt#[m#]を算出する際に使用する閾値関数F(m#)は、入力信号SG1の信号成分s(t)に対応する信号値sgaに基づいて定められている。従って、本実施形態によれば、前回検出した入力信号SG1の信号成分s(t)の近傍に位置する新たな複数の閾値Vt#[m#]を、複数の閾値信号Vt[m]に設定できる。つまり、複数の閾値Vt[m]を、前回検出した入力信号SG1の信号成分s(t)の近傍に配置できる。その結果、閾値応答部Hmの個数の増加を抑制しつつも、微小信号である信号成分s(t)を精度良く検出することができる。「前回検出した入力信号SG1の信号成分s(t)の近傍」は、具体的には、「前回検出した増幅信号SGAの信号成分A・s(t)の近傍」のことである。なぜなら、信号値sgaは増幅信号SGAの信号成分A・s(t)を示すからである。また、本実施形態では、フィルタ回路を使用せずに、確率共鳴現象を利用して入力信号SG1の信号成分s(t)を検出する。従って、フィルタ回路を起因とするノイズの影響を回避できる。その結果、微小信号である信号成分s(t)を更に精度良く検出することができる。
【0047】
以下、閾値関数F(m#)、閾値算出部52、及び、閾値設定部7の詳細を説明する。
【0048】
まず、閾値関数F(m#)の詳細を説明する。閾値関数F(m#)は、閾値Vt#[m#]と、識別値m#との関係を示す。具体的には、閾値関数F(m#)は、閾値信号Vt[m](図1)に対して設定することの可能な閾値Vt#[m#]と、閾値信号Vt[m]を識別するための識別値mを連続値として扱ったときの識別値m#との関係を示す。識別値m(離散値)は識別値m#(連続値)に含まれるため、閾値関数F(m#)は、閾値信号Vt[m]に対して設定することの可能な閾値Vt#[m#]と、閾値信号Vt[m]を識別するための識別値mとの関係を示す関数であると捉えることもできる。
【0049】
なお、閾値Vt[m]及び閾値信号Vt[m]の参照符号「Vt[m]」の末尾、及び、閾値Vt#[m#]及び閾値信号Vt#[m#]の参照符号「Vt#[m#]」の末尾に対して、時間tを示すためのブラケット[ ]を付する場合がある。
【0050】
また、閾値関数F(m#)は、入力信号SG1に含まれる信号成分s(t)に対応する信号値sgaに基づいて定められる。従って、閾値関数F(m#)の導出前に、信号値sgaを取得する必要がある。そこで、閾値設定部7は、閾値信号Vt[m](図1)に対して初期値Vt[m][0]を設定する。例えば、初期値Vt[1][0]~Vt[M][0]は、等間隔の値(線形の値)である。そして、図4及び図5を参照して説明した手法と同様に、信号生成部51は、初期値である閾値Vt[0][0]~Vt[M][0]及び応答信号B[0]~B[M]に基づいて、ON信号の割合r[0]~r[M]を算出し、近似関数D(m#)を導出する。そして、信号生成部51は、近似関数D(m#)によって識別値K#を算出する。更に、信号生成部51は、初期値である閾値Vt[0][0]~Vt[M][0]に基づいて閾値関数E(m#)を導出する。更に、信号生成部51は、識別値K#を引数として、閾値関数E(m#)から、信号値sgaを示す閾値Vt#[m#]を取得する。信号値sgaは、増幅信号SGAに含まれる信号成分A・s(t)を示している。
【0051】
更に、閾値関数F(m#)を導出するために、記憶部53は、閾値Vt[m][t]がとり得る最小の値Vt_mn及び最大の値Vt_mxを記憶する。以下、最小の値Vt_mnを最小閾値Vt_mnと記載し、最大の値Vt_mxを最大閾値Vt_mxと記載する。最小閾値Vt_mnは例えば0Vであり、最大閾値Vt_mxは例えば5Vである。
【0052】
図6は、閾値関数F(m#)を示すグラフである。図6において、左側の縦軸は時間tにおける閾値Vt#[m#][t]を示し、右側の縦軸は時間t+Tにおける閾値Vt#[m#][t+T]を示す。横軸は識別値m#を示す。以下、例えば、t=0である。
【0053】
図6に示すように、閾値関数F(m#)は、第1関数F1(m#)と、第2関数F2(m#)を含む。
【0054】
閾値関数F(m#)を導出するために、まず、閾値算出部52は、「m#-Vt#」平面において、第1関数F1(m#)及び第2関数F2(m#)を導出する。
【0055】
第1関数F1(m#)は、「m#-Vt#」平面において、(m#、Vt#)=(K#、A・s(t))を頂点とし、(m#、Vt#)=(0、Vt_mn)を通る上に凸の二次関数である。第1関数F1(m#)は、式(1)によって表される。
【数1】
【0056】
第2関数F2(m#)は、「m#-Vt#」平面において、(m#、Vt#)=(K#、A・s(t))を頂点とし、(m#、Vt#)=(M、Vt_mx)を通る下に凸の二次関数である。第2関数F2(m#)は、式(2)によって表される。
【数2】
【0057】
そして、閾値算出部52は、式(3)に示すように、第1関数F1(m#)及び第2関数F2(m#)によって、閾値関数F(m#)を定義する。
【数3】
【0058】
閾値関数F(m#)において、第1関数F1(m#)は、閾値信号Vt[m]に設定することの可能な最小閾値Vt_mnと、入力信号SG1に含まれる信号成分s(t)に対応する信号値sga(信号成分A・s(t))に基づいて定められる。なお、図6の例では、閾値Vt#[0][t]が最小閾値Vt_mnに設定されている。
【0059】
具体的には、閾値関数F(m#)において、第1関数F1(m#)は、信号成分s(t)に対応する信号値sga(信号成分A・s(t))を最大値mxとする二次関数である。また、第1関数F1(m#)は、式(3)に示すように、最小閾値Vt_mnから最大値mxまでの単調増加区間(0≦m#<K#)によって示される。
【0060】
一方、閾値関数F(m#)において、第2関数F2(m#)は、閾値信号Vt[m]に設定することの可能な最大閾値Vt_mxと、入力信号SG1に含まれる信号成分s(t)に対応する信号値sga(信号成分A・s(t))に基づいて定められる。なお、図6の例では、閾値Vt#[M][t]が最大閾値Vt_mxに設定されている。
【0061】
具体的には、第2関数F2(m#)は、信号成分s(t)に対応する信号値sga(信号成分A・s(t))を最小値mnとする二次関数である。また、第2関数F2(m#)は、式(3)に示すように、最小値mnから最大閾値Vt_mxまでの単調増加区間(K#≦m#≦M)によって示される。
【0062】
閾値算出部52は、閾値関数F(m#)を導出すると、第1関数F1(m#)に、識別値0~Mのうち単調増加区間(0≦m#<K#)内の識別値0~pを代入して、新たな閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[p][t+T]を算出する。「p」は、K#よりも小さく0よりも大きい整数である。更に、閾値算出部52は、第2関数F2(m#)に、識別値0~Mのうち単調増加区間(K#≦m#≦M)内の識別値K#~Mを代入して、新たな閾値Vt#[K#][t+T]~Vt#[M][t+T]を算出する。
【0063】
以上の結果、閾値算出部52は、新たな複数の閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]を取得する。この場合、「t+T」は、閾値Vt#[K#][t]によって示される信号成分A・s(t)に基づく閾値関数F(m#)から、新たな閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]が取得されたことを示す。つまり、「t+T」は、時間tに続く所定期間TにおけるON信号の割合r[m]に基づいて算出した信号成分A・s(t)に基づく閾値関数F(m#)から、新たな閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]が取得されたことを示す。
【0064】
閾値算出部52は、閾値設定部7に対して閾値情報TSを出力する。閾値情報TSはデジタル信号である。閾値情報TSは、新たな閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]を示す情報である。従って、閾値設定部7は、閾値情報TSに基づいて、閾値信号Vt[0]~Vt[M]に対してそれぞれ新たな閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]を設定する。具体的には、閾値設定部7は、デジタル信号である閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]をアナログ信号に変換し、閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]をアナログ信号として閾値応答部H0~HMに出力する。
【0065】
更に、閾値算出部52は、t+2T、t+3T、…、についても同様にして、新たな複数の閾値Vt#[0][t+2T]~Vt#[M][t+2T]、新たな複数の閾値Vt#[0][t+3T]~Vt#[M][t+3T]、…、を取得する。
【0066】
すなわち、閾値算出部52は、所定期間Tごとに、閾値関数F(m#)を更新して、更新後の閾値関数F(m#)に基づいて新たな複数の閾値Vt#[m#]を算出する。このようなアルゴリズムで新たな閾値Vt#[m#]を算出することで、信号成分A・s(t)の近傍に複数の閾値Vt[m]を配置でき、分解能を向上させることができる。また、信号成分A・s(t)が変化した場合にも容易に対応することが可能である。
【0067】
そして、閾値設定部7は、入力信号SG1に含まれる信号成分s(t)に対応する信号値sgaを生成する際に利用した複数の閾値Vt[m]を、所定期間Tごとに、新たな複数の閾値Vt#[m#]に更新する。従って、本実施形態によれば、ON信号の割合r[m]を算出するための所定期間Tごとに、複数の閾値Vt[m]が更新される。その結果、微小信号である信号成分s(t)を継続的に精度良く検出することができる。
【0068】
なお、信号生成部51は、時間軸上に並ぶ所定期間Tごとに、複数の応答信号B[m]の各々において、所定期間TにおけるON信号の割合r[m]を算出する。そして、信号生成部51は、複数の応答信号B[m]の各々におけるON信号の割合r[m]と複数の閾値信号Vt[m]との関係を近似する近似関数D(m#)に基づいて、所定期間Tごとに信号成分s(t)に対応する信号値sgaを生成する。そして、信号生成部51は、所定期間Tごとに、信号成分A・s(t)を示す信号値sgaを、増幅率Aで除算することで、信号成分s(t)を示す信号値sgbを算出して、出力信号SG2として出力する。
【0069】
以上、図1を参照して説明したように、入力信号SG1に含まれるノイズ成分n(t)の出現が正規分布で示される。そして、図6に示すように、閾値関数F(m#)は、正規分布の特性に対応する関数である。従って、本実施形態によれば、ノイズ成分n(t)の出現確率に応じて、新たな閾値信号Vt#[m#]を適切に算出できる。
【0070】
具体的には、ON信号の割合r#[m#]が0.5であるときの識別値K#によって示される閾値Vt#[K#][t](=A・s(t))の近傍では、閾値関数F(m#)は、略一定に近い状態である。このことは、閾値Vt#[K#][t]の近傍では、信号成分A・s(t)(信号成分s(t))の出現確率が最も多いことを示し、閾値関数F(m#)は正規分布の特性に対応している。従って、閾値関数F(m#)を利用することで、閾値Vt#[K#](=A・s(t))の近傍に多くの新たな閾値Vt#[m#][t+T]を配置できる。
【0071】
また、識別値m#が小さくなると、閾値関数F(m#)はm#=0の側に収束するとともに、識別値m#が大きくなると、閾値関数F(m#)はm#=Mの側に収束している。このことは、信号成分A・s(t)(信号成分s(t))の出現確率が、m#=0の側、及び、m#=Mの側で小さいことを示している。よって、閾値関数F(m#)が正規分布の特性に対応している。
【0072】
更に、本実施形態では、閾値関数F(m#)は、第1関数F1(m#)と第2関数F2(m#)との組み合わせで構成される。従って、閾値関数F(m#)を、正規分布の特性により対応させることができる。その結果、ノイズ成分n(t)の分布をより反映した新たな複数の閾値Vt#[m#][t+T]を算出できる。
【0073】
更に、本実施形態では、第1関数F1(m#)及び第2関数F2(m#)は二次関数である。従って、閾値関数F(m#)がシンプルになるため、閾値関数F(m#)の導出を高速化できる。
【0074】
次に、図1及び図7図9を参照して、本実施形態に係る信号処理方法を説明する。信号処理方法は信号処理装置100によって実行される。図7は、本実施形態に係る信号処理方法を示すフローチャートである。図7に示すように、信号処理方法は、ステップS1~S6を含む。
【0075】
まず、図1及び図7に示すように、ステップS1において、閾値設定部7は初期設定を実行する。具体的には、閾値設定部7は、閾値信号Vt[m]に対して初期値Vt[m][0]を設定する。初期値Vt[m][0]は、Vt[0][0]~Vt[M][0]である。また、記憶部53は、閾値Vt[m]がとり得る最小閾値Vt_mn及び最大閾値Vt_mxを記憶する。
【0076】
次に、ステップS2において、信号増幅部1は、増幅率Aで入力信号SG1の増幅を開始する。つまり、信号増幅部1は、入力信号SG1を増幅し、増幅信号SGAを信号生成部51に出力する。
【0077】
次に、ステップS3において、複数の閾値応答部H0~HMは、増幅信号SGA及び複数の閾値信号Vt[0][0]~Vt[M][0]に基づいて、複数の応答信号B[0]~B[M]を出力する。換言すれば、閾値応答部Hmは、増幅信号SGAの電圧値と閾値Vt[m][0]とを比較し、比較結果を示す応答信号B[m]を出力する。更に換言すると、閾値処理部3は、複数の異なる閾値信号Vt[0][0]~Vt[M][0]の各々と増幅信号SGAとを比較し、複数の比較結果をそれぞれ示す複数の応答信号B[0]~B[M]を出力する。
【0078】
次に、ステップS4において、信号生成部51は、複数の閾値Vt[0][0]~Vt[M][0]、及び、複数の応答信号B[0]~B[M]に基づいて、出力信号SG2を生成する。
【0079】
次に、ステップS5において、閾値算出部52は、閾値関数F(m#)に基づいて新たな閾値Vt#[0][T]~Vt#[M][T]を算出する。そして、閾値算出部52は、閾値信号Vt[0][0]~Vt[M][0]に対して、新たな閾値Vt#[0][T]~Vt#[M][T]を設定するように、閾値設定部7を制御する。
【0080】
次に、ステップS6において、閾値設定部7は、ステップS3、S4で利用した閾値Vt[0][0]~Vt[M][0]を、ステップS5で算出した新たな閾値Vt#[0][T]~Vt#[M][T]に更新する。
【0081】
次に、処理はステップS6からステップS3に進む。そして、ステップS3では、閾値応答部H0~HMは、増幅信号SGA及び新たな閾値Vt#[0][T]~Vt#[M][T]に基づいて応答信号B[0]~B[M]を出力する。次に、ステップS4では、信号生成部51は、新たな閾値Vt#[0][T]~Vt#[M][T]、及び、応答信号B[0]~B[M]に基づいて、出力信号SG2を生成する。次に、ステップS5では、閾値算出部52は、更に新たに閾値Vt#[0][2T]~Vt#[M][2T]を算出する。次に、ステップS6では、閾値設定部7は、ステップS3、S4で利用した閾値Vt#[0][T]~Vt#[M][T]を、ステップS5で算出した新たな閾値Vt#[0][2T]~Vt#[M][2T]に更新する。
【0082】
次に、処理はステップS6からステップS3に進む。以上のように、ステップS3~S6が繰り返され、閾値Vt[m]が所定期間Tごとに動的に更新される。
【0083】
次に、図8を参照して、図7のステップS4の詳細を説明する。図8は、図7のステップS4の「出力信号SG2を生成する処理」を示すフローチャートである。図8に示すように、「出力信号SG2を生成する処理」は、ステップS41~S47を含む。
【0084】
図1及び図8に示すように、まず、ステップS41において、信号生成部51は、閾値Vt[0]~Vt[M]及び応答信号B[0]~[M]に基づいてON信号の割合r[0]~r[M]を算出する。
【0085】
次に、ステップS42において、信号生成部51は、ON信号の割合r[0]~r[M]と、閾値信号Vt[0]~Vt[M]の識別値0~Mとの関係を示す近似関数D[m#]を導出する。
【0086】
次に、ステップS43において、信号生成部51は、近似関数D[m#]において、ON信号の割合r#が0.5になるときの識別値K#を算出する。
【0087】
次に、ステップS44において、1回目のルーチンでは、信号生成部51は、ON信号の割合r#が0.5になるときの識別値K#に対応する閾値Vt#[K#]を閾値関数E[m#](図5)に基づいて算出する。また、2回目以降のルーチンでは、信号生成部51は、ON信号の割合r#が0.5になるときの識別値K#に対応する閾値Vt#[K#]を閾値関数F[m#](図6)に基づいて算出する。閾値Vt#[K#]は、増幅信号SGAに含まれる信号成分A・s(t)を示す信号値sgaである。
【0088】
次に、ステップS45において、信号生成部51は、閾値Vt#[K#]、つまり、信号成分A・s(t)を示す信号値sgaを増幅率Aで除算する。その結果、入力信号SG1に含まれる信号成分s(t)を示す信号値sgbが、除算結果として得られる。
【0089】
次に、ステップS46において、信号生成部51は、除算結果である信号値sgbを出力信号SG2に設定する。
【0090】
次に、ステップS46において、信号生成部51は、出力信号SG2を出力する。そして、処理は図7のステップS5に進む。
【0091】
次に、図9を参照して、図7のステップS5の詳細を説明する。図9は、図7のステップS5の「新たな複数の閾値Vt#[m#]を算出する処理」を示すフローチャートである。図9に示すように、「新たな複数の閾値Vt#[m#]を算出する処理」は、ステップS51~S53を含む。
【0092】
図1及び図9に示すように、まず、ステップS51において、閾値算出部52は、ステップS44で算出した閾値Vt#[K#]、つまり、増幅信号SGAに含まれる信号成分A・s(t)を示す信号値sgaに基づいて閾値関数F(m#)を導出する。閾値Vt#[K#]は、ON信号の割合r#が0.5になるときの識別値K#に対応する閾値である。
【0093】
次に、ステップS52において、閾値算出部52は、識別値0~Mを引数として、閾値関数F(m#)から、新たな閾値Vt#[0]~Vt#[M]を取得する。
【0094】
次に、ステップS53において、閾値算出部52は、閾値信号Vt[0]~Vt[M]に対して新たな閾値Vt#[0]~Vt#[M]を設定するように、閾値設定部7を制御する。そして、処理は図7のステップS6に進む。
【0095】
次に、図7及び図10を参照して、信号処理装置100の一例を説明する。図10は、信号処理装置100の一例を示す図である。図10に示すように、信号処理装置100において、信号増幅部1は、少なくとも1つの反転増幅回路11を含む。本実施形態では、信号増幅部1は、複数の反転増幅回路11を含む。複数の反転増幅回路11は直列に接続される。反転増幅回路11は、トランスインピーダンス増幅回路である。複数の反転増幅回路11は入力信号SG1を増幅し、最後段の反転増幅回路11が増幅信号SGAを出力する。
【0096】
閾値応答部H0~HMの各々は、ヒステリシスコンパレータHCを含む。複数の閾値応答部H0~HMにおける複数のヒステリシスコンパレータHCは、最後段の反転増幅回路11の出力端子に対して並列に接続される。そして、最後段の反転増幅回路11は、閾値応答部H0~HMの各々のヒステリシスコンパレータHCの第1入力端子に増幅信号SGAを出力する。
【0097】
閾値設定部7は、D/Aコンバータ70を含む。D/Aコンバータ70は、閾値算出部52が出力したデジタルの閾値信号Vt#[0]~Vt#[M]を、アナログの閾値信号Vt#[0]~Vt#[M]に変換する。
【0098】
信号処理装置100は、ラインL0~LMを備える。以下、ラインL0~LMを区別して説明する必要がない場合には、ラインL0~LMを総称して「ラインLm」と記載する。ラインL0~LMの一端はD/Aコンバータ70に接続され、ラインL0~LMの他端は、それぞれ、閾値応答部H0~HMのヒステリシスコンパレータHCの第2入力端子に接続される。従って、D/Aコンバータ70は、ラインL0~LMを通して、閾値応答部H0~HMのヒステリシスコンパレータHCの第2入力端子に対して、アナログの閾値信号Vt[0]~Vt[M]を入力する。
【0099】
ヒステリシスコンパレータHCは、増幅信号SGAと閾値信号Vt[m]とを比較して、比較結果を示す応答信号B[m]を出力する。具体的には、ヒステリシスコンパレータHCは、図7のステップS3の処理を実行する。
【0100】
デジタル処理部5は、FPGA50を含む。FPGA50は、信号生成部51、閾値算出部52、及び、記憶部53を含む。信号生成部51は、複数のシフトレジスタG1~GMと、信号処理部510とを含む。以下、シフトレジスタG1~GMを区別して説明する必要がない場合には、シフトレジスタG1~GMを総称して「シフトレジスタGm」と記載する。
【0101】
シフトレジスタGmは、FPGA50の内部クロックに同期して応答信号B[m]を記憶する。内部クロックの周波数は、例えば、100MHzである。シフトレジスタGmは、所定期間Tに相当する応答信号B[m]を記憶する。所定期間Tは、例えば、ミリ秒オーダーである。シフトレジスタGmは、内部クロックに同期して、新たな応答信号B[m]を記憶するとともに、最も古い応答信号B[m]を破棄する。
【0102】
信号処理部510は、所定期間Tにおいて応答信号B[m]がON信号を示している回数をカウントすることで、ON信号の割合r[m]を算出する(図8のステップS41)。そして、信号処理部510は、図8のステップS42~S47の処理を実行することで、入力信号SG1の信号成分s(t)を示す信号値sgbが設定された出力信号SG2を出力する。
【0103】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について説明した。ただし、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施できる。また、上記の実施形態に開示される複数の構成要素は適宜改変可能である。例えば、ある実施形態に示される全構成要素のうちのある構成要素を別の実施形態の構成要素に追加してもよく、または、ある実施形態に示される全構成要素のうちのいくつかの構成要素を実施形態から削除してもよい。
【0104】
また、図面は、発明の理解を容易にするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚さ、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の構成は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【0105】
(1)図1及び図6を参照して説明したように、閾値算出部52は、閾値設定部7に対して、新たな閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]を示す情報を閾値情報TSとして出力した。ただし、例えば、閾値設定部7が電源及び抵抗分圧回路によって、閾値信号Vt[0]~Vt[M]を閾値応答部H0~HMに出力する場合は、次のような変形も可能である。すなわち、この場合、閾値設定部7は、抵抗分圧回路に対して電源から設定電圧を印加する。従って、設定電圧を制御することで、所望の電圧値を示す閾値信号Vt[0]~Vt[M]を、抵抗分圧回路から出力できる。よって、この場合は、閾値算出部52は、抵抗分圧回路から閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]がそれぞれ閾値応答部H0~HMに出力されるように、設定電圧の情報を閾値情報TSとして閾値設定部7に出力する。なお、閾値算出部52は、閾値Vt#[0][t+T]~Vt#[M][t+T]に基づいて、設定電圧を示す閾値情報TSを算出する。
【0106】
(2)図6を参照して説明したように、閾値関数F(m#)は、式(3)で示された。ただし、閾値関数F(m#)が正規分布の特性に対応している限りにおいて、閾値関数F(m#)の次数は特に限定されないし、他の非線形関数であってもよい。
【0107】
(3)信号処理装置100は、例えば、DNAシーケンサーの微小電流検出回路として採用できる。また、例えば、信号処理装置100は、細胞電位の計測回路における微小信号検出回路として採用できる。その他、例えば、信号処理装置100は、微弱な生体信号の検出回路として採用できる。ただし、信号処理装置100の用途は、特に限定されず、例えば、微細構造を有する半導体回路等における微小信号検出回路として採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、信号処理装置及び信号処理方法に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0109】
1 信号増幅部
7 閾値設定部
51 信号生成部
52 閾値算出部
100 信号処理装置
Hm、H0~HM 閾値応答部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10