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特開2023-167968異常予兆検知システムおよび異常予兆検知モデル生成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167968
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】異常予兆検知システムおよび異常予兆検知モデル生成方法
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20231116BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20231116BHJP
   G06N 3/08 20230101ALN20231116BHJP
【FI】
G06N20/00
G05B23/02 302R
G05B23/02 R
G05B23/02 302V
G06N3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079540
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺門 優介
(72)【発明者】
【氏名】富永 真哉
(72)【発明者】
【氏名】高戸 直之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 亮太
(72)【発明者】
【氏名】青木 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】宮本 千賀司
(72)【発明者】
【氏名】中田 康太
(72)【発明者】
【氏名】内藤 晋
(72)【発明者】
【氏名】田口 安則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 佑一
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA02
3C223EB01
3C223FF03
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH02
(57)【要約】
【課題】疑似相関に起因する誤検知を抑制することができる異常予兆検知技術を提供する。
【解決手段】異常予兆検知システム1は、監視対象となる対象施設の異常または異常の予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルMの機械学習を行う1つ以上のコンピュータ5を備え、コンピュータ5は、対象施設2で発生する複数のプロセス量Pを取得し、それぞれのプロセス量Pを、複数のプロセス量間の相関を学習させる相関データと複数のプロセス量間の相関を学習させない非相関データとに分類し、この分類に応じて、それぞれのプロセス量Pが、相関データまたは非相関データとして紐づけされた学習用入力データを生成し、学習用入力データを異常予兆検知モデルMに入力して機械学習を行う、ように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象となる対象施設の異常または前記異常の予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルの機械学習を行う1つ以上のコンピュータを備え、
前記コンピュータは、
前記対象施設で発生する複数のプロセス量を取得し、
それぞれの前記プロセス量を、複数の前記プロセス量間の相関を学習させる相関データと複数の前記プロセス量間の相関を学習させない非相関データとに分類し、
この分類に応じて、それぞれの前記プロセス量が、前記相関データまたは前記非相関データとして紐づけされた学習用入力データを生成し、
前記学習用入力データを前記異常予兆検知モデルに入力して前記機械学習を行う、
ように構成されている、
異常予兆検知システム。
【請求項2】
前記学習用入力データに含まれる複数の前記プロセス量は、複数のグループに分けられており、
前記相関データとして紐づけされた少なくとも1つの前記プロセス量は、同一の前記グループ内の他の前記プロセス量が変化した場合に、これに応じて変化するものであり、
前記非相関データとして紐づけされた少なくとも1つの前記プロセス量は、同一の前記グループ内の他の前記プロセス量が変化した場合に、これに応じて変化しないものである、
請求項1に記載の異常予兆検知システム。
【請求項3】
前記コンピュータは、
複数の前記プロセス量を判定用入力データとして学習済みの前記異常予兆検知モデルに入力し、
前記判定用入力データの入力に応じて前記異常予兆検知モデルから出力され、複数の前記プロセス量の正常な状態が復元された判定用出力データを取得し、
前記判定用入力データと前記判定用出力データとの差分に基づいて、前記対象施設の前記異常または前記異常の予兆の少なくとも一方の有無を判定する、
ように構成されている、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項4】
前記コンピュータは、
外部情報に基づいて、それぞれの前記プロセス量を、前記相関データまたは前記非相関データに分類するプロセス量分類フラグを設定する、
ように構成されている、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項5】
少なくとも1つの前記プロセス量が固定値で運用されるものである場合には、この少なくとも1つの前記プロセス量を前記非相関データとして分類する、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項6】
前記対象施設の運転条件が切り替わったときに、少なくとも1つの前記プロセス量と他の前記プロセス量との相関が変化しない場合には、この少なくとも1つの前記プロセス量を前記非相関データとして分類する、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項7】
少なくとも1つの前記プロセス量が前記対象施設の一部が間欠的な運転を行うことで変化する場合には、この少なくとも1つの前記プロセス量を前記非相関データとして分類する、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項8】
少なくとも1つの前記プロセス量が前記対象施設の外部環境を要因として変化するものである場合には、この少なくとも1つの前記プロセス量を前記非相関データとして分類する、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項9】
少なくとも1つの前記プロセス量が突発的な変化を起こすものである場合には、この少なくとも1つの前記プロセス量を前記非相関データとして分類する、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項10】
監視対象となる対象施設の異常または前記異常の予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルの機械学習を行う1つ以上のコンピュータを用いて行う方法であり、
前記対象施設で発生する複数のプロセス量を取得し、
それぞれの前記プロセス量を、複数の前記プロセス量間の相関を学習させる相関データと複数の前記プロセス量間の相関を学習させない非相関データとに分類し、
この分類に応じて、それぞれの前記プロセス量が、前記相関データまたは前記非相関データとして紐づけされた学習用入力データを生成し、
前記学習用入力データを前記異常予兆検知モデルに入力して前記機械学習を行う、
処理を前記コンピュータが実行する、
異常予兆検知モデル生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、異常予兆検知技術に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントおよび火力発電プラントなどの大規模プラントでは、プラントを構成する様々な系統および機器の健全性を監視する目的で、多数のプロセス信号が監視されている。近年、プラント監視を支援する技術として、機械学習により実現される人工知能(AI:Artificial Intelligence)を活用した異常予兆検知の実用化が進んでいる。この異常変化の検知では、近年急速に発達した機械学習技術を用いることで、異常が顕在化する前の予兆を検知する試みが進められている。例えば、数百~数千からなるプロセス量グループの相関、および正常時のプロセス量の動きを教師データとして学習させた機械学習モデルによる予測により、故障の予知を行う技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-33705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
教師データによる学習時において、複数のプロセス量間において互いに物理的に相関が無いにも関わらず、時系列での変化の傾向が偶然似ることが生じる。これを疑似相関という。AIがこの疑似相関を学習してしまうことで、或るプロセス量が変化した際に、物理的な影響を受けることのない他のプロセス量の予測値も同時に変化してしまう現象が起きてしまう。これが誤検知の原因となる。その対策として、物理的相関の無い複数のプロセス量を異なるグループに分類する。具体的には、或るプロセス量の変化が他のプロセス量に物理的な影響を及ぼす可能性が小さい場合に、その或るプロセス量を事前に別モデル、例えば、プロセス量間の相関を学習しないプロセス量を単独監視し、異常予兆を監視するモデルに分離する。この分離した状態で学習を行うことで疑似相関の学習を回避し、プラントの異常予兆を高精度で行う必要がある。
【0005】
また、プロセス量間の相関を学習しないモデルへの分け方については明確な基準がなく、ユーザの裁量に委ねられた状態になる。このような分類基準が明確でないことにより分類判断で膨大な作業が発生する。さらに、分類を行うユーザのスキルに依存するため、分類の精度にばらつきが生じ、適切な仕分けができない。このため、機械学習モデルを設けた異常予兆検知装置の性能が意図した通りに向上しないおそれがある。なお、これはプロセス量間の疑似相関に起因することから、前述の技術だけでなく、プロセス量間の相関を学習する全てアルゴリズムに同様の課題がある。
【0006】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、疑似相関に起因する誤検知を抑制することができる異常予兆検知技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る異常予兆検知システムは、監視対象となる対象施設の異常または前記異常の予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルの機械学習を行う1つ以上のコンピュータを備え、前記コンピュータは、前記対象施設で発生する複数のプロセス量を取得し、それぞれの前記プロセス量を、複数の前記プロセス量間の相関を学習させる相関データと複数の前記プロセス量間の相関を学習させない非相関データとに分類し、この分類に応じて、それぞれの前記プロセス量が、前記相関データまたは前記非相関データとして紐づけされた学習用入力データを生成し、前記学習用入力データを前記異常予兆検知モデルに入力して前記機械学習を行う、ように構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、疑似相関に起因する誤検知を抑制することができる異常予兆検知技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】異常予兆検知システムのハードウェア構成を示すブロック図。
図2】異常予兆検知システムの処理の流れを示す機能ブロック図。
図3】データ分類部の処理の流れを示す機能ブロック図。
図4】固定値で運用する機器を示す構成図。
図5】(A)は第1系統配管の流量調整弁開度信号を示すグラフ、(B)は第2系統配管の流量を示すグラフ。
図6】冗長化された機器を有する系統を示す構成図。
図7】(A)は第1ポンプの吐出圧力を示すグラフ、(B)は第2ポンプの吐出圧力を示すグラフ、(C)は配管の流量を示すグラフ。
図8】間欠的な運転を行う機器を有する系統を示す構成図。
図9】(A)は第1ポンプの吐出圧力を示すグラフ、(B)は第2ポンプの吐出圧力を示すグラフ、(C)はタンクの水位を示すグラフ。
図10】外部環境の影響を受けて変動する機器を示す構成図。
図11】(A)は建屋内外差圧を示すグラフ、(B)は室内差圧を示すグラフ。
図12】突発的な変動を起こす機器を示す構成図。
図13】(A)は第1系統の流量を示すグラフ、(B)は第2系統の流量を示すグラフ。
図14】変形例の異常予兆検知システムの処理の流れを示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、異常予兆検知システムおよび異常予兆検知モデル生成方法の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1の符号1は、本実施形態の異常予兆検知システムである。この異常予兆検知システム1は、対象施設から得られるデータを入力データとして、対象施設の異常または異常の予兆を検知するものである。監視対象となる対象施設は、例えば、原子力発電プラント、火力発電プラント、工場設備、または生産設備などである。本実施形態の対象施設としては、このようなプラント2を例示する。
【0012】
また、プラント2には、多数のセンサ3が設けられている。これらのセンサ3は、例えば、配管、ポンプ、弁などの所定の機器に取り付けられている所定の計測器である。また、センサ3は、これらの機器の状態を示す情報を含む測定値(実測値)を取得する。これらセンサ3から得られる多数の測定値をプロセス値V(図2)と称する。なお、機器を制御する制御装置から出力される制御信号もプロセス値Vに含まれる。また、弁の開度などもプロセス値Vに含まれる。
【0013】
異常予兆検知技術では、プロセス値Vの僅かな変化を検知することで、異常またはその予兆が検知される。このためには、プラント2の正常状態を高精度で判定することが必要である。誤った判定は、誤検知を起こし、運転員の不要な作業を発生させる。また、プロセス値Vの僅かな変化を検知するためには、プロセス値Vから取り除くことが難しい微小な電気ノイズ信号も含めて高精度に判定することが必要となる。
【0014】
また、プラント2で取得されるプロセス値Vは膨大な量になる。そこで、本実施形態では、この膨大な量のプロセス値Vから異常またはその予兆を判定するために、機械学習により実現される人工知能(AI)を用いる。
【0015】
例えば、ニューラルネットワークによる機械学習により生成された学習モデル、その他の機械学習により生成された学習モデル、深層学習アルゴリズム、回帰分析などの数学的アルゴリズムを用いることができる。また、機械学習の形態には、クラスタリング、深層学習などの形態が含まれる。
【0016】
例えば、この異常予兆検知システム1は、ニューラルネットワークを備える1台のコンピュータで構成されても良いし、ニューラルネットワークを備える複数台のコンピュータで構成されても良い。
【0017】
ここで、ニューラルネットワークとは、脳機能の特性をコンピュータによるシミュレーションによって表現した数学モデルである。例えば、シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようになるモデルを示す。さらに、ニューラルネットワークは、深層学習(Deep Learning)により問題解決能力を取得する。
【0018】
例えば、ニューラルネットワークには、複数層のレイヤーを有する中間層が設けられる。この中間層の各レイヤーは、複数個のユニットで構成されている。また、多層のニューラルネットワークに学習用データ(教師データ)を用いて予め学ばせておくことで、回路またはシステムの状態の変化のパターンの中に或る特徴量を自動で抽出することができる。なお、多層のニューラルネットワークは、ユーザインターフェース上で、任意の中間層数、任意のユニット数、任意の学習率、任意の学習回数、任意の活性化関数を設定することができる。
【0019】
本実施形態では、オートエンコーダ(エンコーダ・デコーダ・ネットワーク)を用いた異常予兆検知技術について説明する。本実施形態の学習モデルは、このオートエンコーダにより実現される。なお、オートエンコーダ以外のその他のアルゴリズムが本実施形態の機械学習に適用されても良い。
【0020】
また、機械学習時において、複数のプロセス量間において互いに物理的に相関が無いにも関わらず、時系列での変化の傾向が偶然似る疑似相関が生じる。AIがこの疑似相関を学習してしまうことで、誤検知の原因となるが、本実施形態では、疑似相関の学習を回避し、プラント2の異常予兆を高精度で行うようにする。
【0021】
図1に示すように、異常予兆検知システム1は、データ入力用コンピュータ4と学習用コンピュータ5と検知用コンピュータ6とを備える。これらは、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の異常予兆検知モデル生成方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0022】
データ入力用コンピュータ4は、プラント2に設けられたセンサ3で取得したプロセス値Vを収集する。このデータ入力用コンピュータ4は、例えば、プラント情報を保存するためのサーバなどである。ここで、収集されたプロセス値Vは、学習用コンピュータ5または検知用コンピュータ6に送られる。
【0023】
学習用コンピュータ5は、プラント2の異常またはその予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルM(図2)を生成する。生成された異常予兆検知モデルMは、検知用コンピュータ6に送られる。
【0024】
検知用コンピュータ6は、異常予兆検知モデルMを用いてプラント2の異常またはその予兆の少なくとも一方を検知する。
【0025】
なお、異常予兆検知システム1の各構成が、それぞれ個別のコンピュータに搭載されているが、これらの構成は、必ずしも複数のコンピュータで実現される必要はない。例えば、1つのコンピュータで異常予兆検知システム1の各構成を実現しても良い。
【0026】
学習用コンピュータ5は、入力部7と出力部8と通信部9と記憶部10と処理回路11とを備える。
【0027】
入力部7には、学習用コンピュータ5を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部7には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部7に入力される。
【0028】
出力部8は、所定の情報の出力を行う。例えば、学習用コンピュータ5には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部8は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体でも良いし、一体でも良い。
【0029】
通信部9は、所定の通信回線を介してデータ入力用コンピュータ4または検知用コンピュータ6と通信を行う。なお、本実施形態では、データ入力用コンピュータ4と学習用コンピュータ5と検知用コンピュータ6がLAN(Local Area Network)を介して互いに接続されている。
【0030】
記憶部10は、異常予兆検知モデルMの生成を行うときに必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部10は、データ入力用コンピュータ4から送られたプロセス値V(図2)を記憶する。
【0031】
処理回路11は、データ分類部12と分類結果処理部13と学習モデル生成部14とを含む。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0032】
次に、図2を参照して、異常予兆検知システム1の処理の流れを説明する。
【0033】
なお、図2中の矢印は、処理の流れを示す一例であり、矢印以外の処理の流れがあっても良い。また、必ずしも、それぞれの処理の前後関係が固定されるものではなく、一部の処理の前後関係が入れ替わっても良い。また、一部の処理が他の処理と並列に実行されても良い。さらに、異常予兆検知システム1には、図2に示す構成以外のものが含まれても良いし、図2に示す一部の構成が省略されても良い。
【0034】
まず、プラント2に設けられたそれぞれのセンサ3が、このプラント2で発生するそれぞれのプロセス値Vを取得する。そして、これらセンサ3で取得されたプロセス値Vが、データ入力用コンピュータ4に集められる。
【0035】
データ入力用コンピュータ4は、取得したプロセス値Vのそれぞれに対し、センサ管理番号およびセンサ名称などを紐づけし、プロセス量Pとして出力する。つまり、プラント2に関する複数のプロセス値Vのそれぞれが、異常予兆検知モデルMの機械学習に用いられる形式である複数のプロセス量Pに変換される。これら複数のプロセス量Pが学習用コンピュータ5に送られる。
【0036】
学習用コンピュータ5は、ニューラルネットワークに入力する学習用入力データ(入力用信号)の前処理を行う。例えば、学習用コンピュータ5は、データ入力用コンピュータ4から送られる複数のプロセス量Pを取得する。そして、プロセス量Pのそれぞれがデータ分類部12に入力される。
【0037】
データ分類部12は、少なくとも1つの条件により、それぞれのプロセス量Pを、これらプロセス量間の相関を学習させる相関データとプロセス量間の相関を学習させない非相関データとに分類する。ここで、データ分類部12は、プロセス量Pが相関データとして分類される場合に物理相関信号判定フラグF1を出力し、プロセス量Pが非相関データとして分類される場合に単独監視信号判定フラグF2を出力する。ここで、物理相関信号判定フラグF1と単独監視信号判定フラグF2は、分類結果処理部13に入力される。
【0038】
なお、物理相関信号は、疑似相関による誤連動を誘発する可能性がないプロセス量Pである。一方、単独監視信号は、疑似相関による誤連動を誘発する可能性があるプロセス量Pである。
【0039】
分類結果処理部13は、相関データとして分類されたプロセス量Pに物理相関信号判定フラグF1を紐づけるとともに、非相関データとして分類されたプロセス量Pに単独監視信号判定フラグF2を紐づける。分類結果処理部13から出力された物理相関分類フラグ付のプロセス量Pと単独監視分類フラグ付のプロセス量Pは、学習モデル生成部14に入力される。つまり、分類結果処理部13は、データ分類部12の分類に応じて、それぞれのプロセス量Pが、相関データまたは非相関データとして紐づけされた学習用入力データを生成する。この学習用入力データが、学習モデル生成部14に入力される。
【0040】
なお、学習用入力データに用いられる複数のプロセス量Pは、複数のグループに分けられる。例えば、給水系統、復水系統、配電系統、制御系統などのプラント2の系統グループごとに分けられて機械学習が行われる。ここで、相関データとして紐づけされた少なくとも1つのプロセス量Pは、同一のグループ内の他のプロセス量Pが変化した場合に、これに応じて変化するものである。一方、非相関データとして紐づけされた少なくとも1つのプロセス量Pは、同一のグループ内の他のプロセス量Pが変化した場合に、これに応じて変化しないものである。このようにすれば、相関データと非相関データのそれぞれに紐づけされた複数のプロセス量Pが同一のグループに属している場合でも、適切な機械学習を行うことができる。
【0041】
学習モデル生成部14は、学習用入力データを異常予兆検知モデルMに入力して機械学習を行う。ここで、物理相関分類フラグ付のプロセス量Pは、物理相関信号として、他のプロセス量Pとの相関関係を考慮したプロセス量Pとして機械学習が行われる。一方、単独監視分類フラグ付のプロセス量Pは、単独監視信号として、他のプロセス量Pとの相関関係を考慮しない、単独したプロセス量Pとして機械学習が行われる。学習モデル生成部14で生成された異常予兆検知モデルMは、検知用コンピュータ6にセットされる。
【0042】
検知用コンピュータ6は、オートエンコーダを用いて異常予兆検知を行う。例えば、検知用コンピュータ6は、データ入力用コンピュータ4から送られる複数のプロセス量Pを取得する。検知用コンピュータ6は、これらプロセス量Pを判定用入力データとして学習済みの異常予兆検知モデルMの入力層に入力する。そして、検知用コンピュータ6は、判定用入力データの入力に応じて異常予兆検知モデルMの出力層から出力され、複数のプロセス量Pの正常な状態が復元された判定用出力データを取得する。検知用コンピュータ6は、判定用入力データと判定用出力データとの差分に基づいて、プラント2の異常または異常の予兆の少なくとも一方の有無を判定する。本実施形態では、オートエンコーダを用いて異常予兆検知を行う場合でも、誤検知を抑制して精度を向上させることができる。
【0043】
この異常予兆検知モデルMは、入力層と中間層と出力層とを備える。入力層には、学習用入力データまたは判定用入力データが入力される。出力層は、判定用入力データの入力に応じて判定用出力データを出力する。中間層は、学習用入力データによってそのパラメータが機械学習されている。そして、異常予兆検知モデルMは、判定用入力データと判定用出力データとの差分に基づいて、プラント2の異常または異常の予兆の少なくとも一方の有無を判定するように、検知用コンピュータ6を機能させるものである。
【0044】
次に、図3を参照して、データ分類部12の分類の態様について説明する。
【0045】
図3に示すように、データ分類部12は、データ入力用コンピュータ4から入力されたプロセス量Pを、複数の分類条件により分類する。例えば、第1から第5までの分類条件が予め設定されている。これら分類結果に応じて、物理相関信号判定フラグF1または単独監視信号判定フラグF2が、分類結果処理部13に入力される。
【0046】
例えば、第1から第5までの分類条件のいずれか1つに当てはまる場合(いずれか1つのステップでYESの場合)は、単独監視信号判定フラグF2が、分類結果処理部13に入力される。一方、第1から第5までの分類条件の全てに当てはまらない場合(全てのステップでNOの場合)は、物理相関信号判定フラグF1が、分類結果処理部13に入力される。
【0047】
次に、図4から図13を参照して、第1から第5までの分類条件について説明する。
【0048】
なお、以下に説明するグラフ(図5図7図9図11図13)において、学習期間に得られたプロセス量Pが学習用入力データとなり、監視期間に得られたプロセス量Pが判定用入力データとなる。また、グラフにおいて、実線が実測値であり、破線が異常予兆検知モデルMにより生成される予測値である。ここで、学習期間の実測値(実線)が学習用入力データとなる。さらに、監視期間の実測値(実線)が判定用入力データとなり、監視期間の予測値(破線)が判定用出力データとなる。
【0049】
まず、第1の分類条件について説明する。第1の分類条件は、運用上、固定された値に成ると想定されるプロセス量P(図3)を単独監視信号として仕分けるものである。これにより、固定された値に成ると想定されるプロセス量間での疑似相関による誤連動が抑制される。
【0050】
図4に示すように、例えば、第1系統配管21と第2系統配管22があるとする。第1系統配管21には、流量調整弁23が設けられている。第2系統配管22には、その流量を測定する流量計24が設けられている。ここで、流量調整弁23の開度信号(プロセス量P)に基づき、図5(A)のグラフが得られる。流量計24の測定値(プロセス量P)に基づき、図5(B)のグラフが得られる。
【0051】
ここで、プロセス量P(図3)が得られる機器が、流量調整弁23などの固定値で運用されると想定される場合において、流量調整弁23の開閉状態を示す開度信号と、第2系統配管22の流量との間には、物理的な相関関係が無い。しかし、学習期間における傾向が似ている場合には、プロセス量間の相関(疑似相関)が有るものとして学習されてしまう。
【0052】
例えば、学習期間の或る部分25において、流量調整弁23の開度信号と第2系統配管22の流量とが、偶然に、一定値に成るなどの同じ傾向を示している場合に、互いに相関が有るものとして学習されてしまう。
【0053】
その結果、第2系統配管22の流量の予測値が誤連動を起こす。例えば、監視期間の或る部分26において、流量調整弁23の開度信号がノイズの影響を受けて揺らいでしまう場合がある。この場合において、流量調整弁23が単独の要因で変動を起こしたにも関わらず、これと相関が学習された第2系統配管22の流量の予測値が同時に変動してしまうことがある。
【0054】
つまり、第2系統配管22の流量の予測値(判定用出力データ)が、実測値(判定用入力データ)と異なるようになる。これにより、実際の第2系統配管22の流量には、異常が無いにも関わらず、異常があるものと誤判定されてしまう。
【0055】
このため、流量調整弁23の開度信号のような、運用上、固定値をとるプロセス量Pに、単独監視信号判定フラグF2(図3)が付与され、相関を学習しないプロセス量Pとして分類される。
【0056】
本実施形態のデータ分類部12(図3)は、少なくとも1つのプロセス量Pが固定値で運用されるものである場合には、この少なくとも1つのプロセス量Pを非相関データとして分類する。このようにすれば、固定値であるか否かを基準として、プロセス量Pの分類が行われるため、適切な分類を行うことができる。
【0057】
次に、第2の分類条件について説明する。第2の分類条件は、冗長化された機器を有する系統における、運転条件の切り替えによる相関性の変化による誤連動を起こすプロセス量P(図3)を単独監視信号として仕分けるものである。これにより、冗長化された機器の運転条件の切り替えによる誤連動が抑制される。
【0058】
図6に示すように、例えば、第1配管31と第2配管32が途中で合流し、第3配管33となっている系統があるとする。第1配管31には、第1ポンプ34とその吐出圧力を測定する第1圧力計35が設けられている。第2配管32には、第2ポンプ36とその吐出圧力を測定する第2圧力計37が設けられている。第3配管33には、その流量を測定する流量計38が設けられている。ここで、第1圧力計35で得られる吐出圧力(プロセス量P)に基づき、図7(A)のグラフが得られる。第2圧力計37で得られる吐出圧力(プロセス量P)に基づき、図7(B)のグラフが得られる。流量計38で得られる配管の流量(プロセス量P)に基づき、図7(C)のグラフが得られる。
【0059】
第1ポンプ34と第2ポンプ36とにより、系統の冗長化が図られているものとする。第1ポンプ34と第2ポンプ36は、運転員により冗長運転の条件が選択される。例えば、学習期間において、常時、片側の第1ポンプ34のみが運転される。また、その学習期間において、他方の第2ポンプ36は、停止し続けた状態となっている。
【0060】
学習期間において、第1ポンプ34のみが運転されていた場合、運転状態を示す第1ポンプ34の吐出圧力と、系統全体の動きを示す第3配管33の流量との間の相関が学習される。一方、学習期間において、停止していた第2ポンプ36の吐出圧力は変動が無いため、第1ポンプ34の吐出圧力および第3配管33の流量との相関が学習されないことになる。
【0061】
ここで、例えば、監視期間で冗長運転の条件が運転員の選択により変化し、第1ポンプ34が停止され、第2ポンプ36のみが運転する状態となる場合がある。この場合において、第2ポンプ36の吐出圧力と連動する第3配管33の流量により、これと相関が学習された第1ポンプ34の吐出圧力の予測値が誤連動を起こす。また、第3配管33の流量の予測値も影響されるようになり、誤連動を起こす。
【0062】
つまり、第1ポンプ34の吐出圧力および第3配管33の流量の予測値(判定用出力データ)が、実測値(判定用入力データ)と異なるようになる。これにより、実際の第1ポンプ34の吐出圧力および第3配管33の流量には、異常が無いにも関わらず、異常があるものと誤判定されてしまう。
【0063】
このため、運転条件の切り替えにより相関関係が変化するような、第1ポンプ34および第2ポンプ36の吐出圧力のプロセス量Pに、単独監視信号判定フラグF2(図3)を付与し、相関を学習しないプロセス量Pとして分類する。
【0064】
本実施形態のデータ分類部12(図3)は、プラント2の一部の運転条件が切り替わったときに、少なくとも1つのプロセス量Pと他のプロセス量Pとの相関が変化しない場合には、この少なくとも1つのプロセス量Pを非相関データとして分類する。このようにすれば、プラント2の一部の運転条件が切り替わったときの変化の有無を基準として、プロセス量Pの分類が行われるため、適切な分類を行うことができる。
【0065】
次に、第3の分類条件について説明する。第3の分類条件は、運転員の操作により間欠的な運転をする機器を有する系統において、疑似相関による誤連動を起こすプロセス量P(図3)を単独監視信号として仕分けるものである。これにより、間欠的な運転を行う機器間の疑似相関による誤連動が抑制される。
【0066】
図8に示すように、例えば、第1系統配管41と第2系統配管42があるとする。第1系統配管41には、第1ポンプ43と第1圧力計44が設けられている。第2系統配管42には、第2ポンプ45と第2圧力計46とタンク47と水位計48が設けられている。ここで、第1圧力計44で得られる吐出圧力(プロセス量P)に基づき、図9(A)のグラフが得られる。第2圧力計46で得られる吐出圧力(プロセス量P)に基づき、図9(B)のグラフが得られる。水位計48で得られるタンク47の水位(プロセス量P)に基づき、図9(C)のグラフが得られる。
【0067】
例えば、定期的な運転員の操作により機器の健全性が確認されるものとする。ここで、第2系統配管42に設けられている第2ポンプ45の吐出圧力とタンク47の水位には、物理的な相関が有る。一方、第1系統配管41に設けられている第1ポンプ43の吐出圧力と第2系統配管42に設けられているタンク47の水位には、物理的な相関が無い。しかし、第1ポンプ43の吐出圧力とタンク47の水位は、学習期間において、或る一定値に成る期間が長く一致することから、相関(疑似相関)が有るものとして学習されてしまう。
【0068】
例えば、学習期間の或る部分49において、第2ポンプ45が運転されたとする。この運転時に、第2ポンプ45の運転状態を示す吐出圧力とタンク47の水位が連動して変動する。このとき、第2ポンプ45の運転によりタンク47の水位が変動しているタイミングで、偶然に、第1ポンプ43が運転された場合には、第1ポンプ43の運転状態を示す吐出圧力とタンク47の水位との変動が、相関が有るものとして、誤って学習されてしまう。
【0069】
その結果、監視期間の或る部分50において、第1ポンプ43が運転された場合に、相関が有るものとして誤って学習されたタンク47の水位の予測値が、第1ポンプ43の吐出圧力と連動して変動する誤連動を起こす。
【0070】
つまり、タンク47の水位の予測値(判定用出力データ)が、実測値(判定用入力データ)と異なるようになる。これにより、実際のタンク47の水位には、異常が無いにも関わらず、異常があるものと誤判定されてしまう。
【0071】
また、このような事例の場合、第2ポンプ45の吐出圧力も、物理的な相関が無い他の間欠的に動くプロセス量Pの変動と、相関が有るものとして、誤って学習されてしまうことがあり得る。
【0072】
このため、第1ポンプ43の吐出圧力または第2ポンプ45の吐出圧力などの、間欠的な運転を行うプロセス量Pに、単独監視信号判定フラグF2(図3)が付与され、相関を学習しないプロセス量Pとして分類される。
【0073】
本実施形態のデータ分類部12(図3)は、少なくとも1つのプロセス量Pがプラント2(図2)の一部が間欠的な運転を行うことで変化する場合には、この少なくとも1つのプロセス量Pを非相関データとして分類する。このようにすれば、間欠的な運転を行うことが想定されるか否かを基準として、プロセス量Pの分類が行われるため、適切な分類を行うことができる。
【0074】
次に、第4の分類条件について説明する。第4の分類条件は、気候などの外部要因に影響を受け、誤連動を起こすプロセス量P(図3)を単独監視信号として仕分けるものである。これにより、外部要因に影響を受け変動する機器での疑似相関による誤連動が抑制される。
【0075】
図10に示すように、所定の建屋51があるとする。この建屋51の内部にある第1機器52と、建屋51の外部にある第2機器53との差圧を測定する第1圧力計54が設けられている。さらに、この建屋51の内部にある第3機器55と第4機器56との差圧を測定する第2圧力計57が設けられている。なお、第4機器56は、第3機器55と異なる部屋58に設けられている。ここで、第1圧力計54で得られる、建屋51の内部と外部の差圧である、建屋内外差圧(プロセス量P)に基づき、図11(A)のグラフが得られる。第2圧力計57で得られる、建屋51の内部同士の差圧である、室内差圧(プロセス量P)に基づき、図11(B)のグラフが得られる。なお、第2機器53は、建屋51の外部に設けられているため、気圧の変化などの外部環境による影響を受け易くなっている。
【0076】
例えば、学習期間において、気圧の変動により、第1圧力計54と第2圧力計57の測定値が変動してしまう。ここで、互いに物理的な相関が無い第1圧力計54と第2圧力計57とで似たような変動と成った場合、学習期間における傾向が似ているため、プロセス量間の相関(疑似相関)が有るものとして学習されてしまう。
【0077】
その結果、予測値が誤連動を起こす場合がある。例えば、監視期間の或る部分59において、第1圧力計54の建屋内外差圧(プロセス量P)が、天候または風などの外部環境を要因とする変動を起こした場合がある。この場合において、相関が有るものして学習された第2圧力計57の室内差圧(プロセス量P)の予測値が誤連動を起こす。
【0078】
つまり、第2圧力計57の室内差圧の予測値(判定用出力データ)が、実測値(判定用入力データ)と異なるようになる。これにより、実際の室内差圧には、異常が無いにも関わらず、異常があるものと誤判定されてしまう。
【0079】
このような外部環境に起因する変動のパターンは、無数に存在することから、全てが網羅された学習は、一般的に困難となることが多い。このため、建屋内外差圧のような外部環境による影響を受けて変動するプロセス量Pに、単独監視信号判定フラグF2(図3)が付与され、相関を学習しないプロセス量Pとして分類される。
【0080】
本実施形態のデータ分類部12(図3)は、少なくとも1つのプロセス量Pがプラント2(図2)の外部環境を要因として変化するものである場合には、この少なくとも1つのプロセス量Pを非相関データとして分類する。このようにすれば、プラント2の外部環境を要因として変化するか否かを基準として、プロセス量Pの分類が行われるため、適切な分類を行うことができる。
【0081】
次に、第5の分類条件について説明する。第5の分類条件は、学習期間で変動を網羅しきれない、急激な変動(突変)を含むプロセス量P(図3)を単独監視信号として仕分けるものである。これにより、急激な変動を起こすプロセス量間での疑似相関による誤連動が抑制される。
【0082】
ここで、突変とは、突発的または急激な変化のことであり、少なくとも1つのプロセス量Pが予め定められた閾値と比較して変化を起こすものである。
【0083】
例えば、突変の定義を、プロセス量Pのサンプリング周期より短い周期で発生する変動とする。サンプリング周期より短い周期で変動する場合は、サンプリングのタイミングが少しずれることにより、その値が無数に変わってしまう。このような変動は、全てのパターンを学習することができない。
【0084】
図12に示すように、例えば、第1系統配管61と第2系統配管62があるとする。第1系統配管61には、第1ポンプ63と第1流量調整弁64と第1流量計65が設けられている。第2系統配管62には、第2ポンプ66と第2流量調整弁67と第2流量計68が設けられている。ここで、第1流量計65の測定値である第1系統配管61の流量(プロセス量P)に基づき、図13(A)のグラフが得られる。第2流量計68の測定値である第2系統配管62の流量(プロセス量P)に基づき、図13(B)のグラフが得られる。
【0085】
ここで、学習期間において、第1ポンプ63と第2ポンプ66の運転条件、または、第1流量調整弁64と第2流量調整弁67の駆動条件などにより、第1系統配管61と第2系統配管62のそれぞれの流量の突変を含む変動傾向が似る場合がある。この場合において、プロセス量間の相関(疑似相関)が有るものとして学習されてしまう。
【0086】
その結果、監視期間の或る部分69において、第1系統配管61の流量が、学習期間に無かった大きさの突変を起こした場合、相関が有るものとして学習された第2系統配管62の流量の予測値が誤連動を起こす。
【0087】
つまり、第2系統配管62の流量の予測値(判定用出力データ)が、実測値(判定用入力データ)と異なるようになる。これにより、実際の第2系統配管62の流量には、異常が無いにも関わらず、異常があるものと誤判定されてしまう。
【0088】
このため、突変を起こすプロセス量Pに、単独監視信号判定フラグF2(図3)が付与され、相関を学習しないプロセス量Pとして分類される。
【0089】
本実施形態のデータ分類部12(図3)は、少なくとも1つのプロセス量Pが突発的な変化を起こすものである場合には、この少なくとも1つのプロセス量Pを非相関データとして分類する。このようにすれば、突発的な変化を起こすものであることを基準として、プロセス量Pの分類が行われるため、適切な分類を行うことができる。
【0090】
以上述べたように、少なくとも1つ以上の分類条件によりプロセス量Pを分類する。そして、プロセス量間の相関を学習する物理相関信号と、疑似相関による誤連動を誘発する可能性があるプロセス量Pを単独監視信号として分類し、学習用入力データを生成することが可能となる。このようにすれば、多数のセンサ3を取り扱い、誤連動に起因した誤検知を誘発する可能性がある機械学習を用いた学習モデルの生成時において、その検知性能の向上に寄与できる。
【0091】
次に、変形例の異常予兆検知システム1について図14を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。この変形例において適用される構成が、前述の実施形態に適用されても良いし、適宜組み合わされても良い。
【0092】
前述の実施形態では、学習用コンピュータ5のデータ分類部12でプロセス量Pを自動的に分類している。一方、この変形例では、プロセス量分類フラグ設定部15を追加することで、学習用コンピュータ5の外部でプロセス量分類用フラグF3を出力するようにしている。
【0093】
例えば、プロセス量分類用フラグF3は、プロセス量分類フラグ設定部15からデータ入力用コンピュータ4に入力される。このプロセス量分類用フラグF3の入力処理は、ユーザの操作に基づいて行われても良いし、プロセス量分類フラグ設定部15が自動的に行っても良い。
【0094】
データ入力用コンピュータ4は、プロセス量分類用フラグF3をプロセス量Pと紐づけて出力する。学習用コンピュータ5のデータ分類部12は、プロセス量分類用フラグF3を読み取ることで、プロセス量Pに対し、物理相関信号判定フラグF1または単独監視信号判定フラグF2を設定する。
【0095】
例えば、前述の第1の分類条件のように、固有値で運用するプロセス量Pと分類されるべきプロセス量Pに対し、ノイズが乗るなどの条件で固有値であることがデータ上は判別し難い場合がある。この場合でも、設計情報など外部情報の基づき、プロセス量分類用フラグF3が設定されることで、適切に単独監視信号に分類される。
【0096】
また、前述の第2の分類条件のように、運転条件の切り替えによる相関性の変化に対しても、データ欠損または異常データが含まれるなどの理由により、切り替え条件が網羅できない場合がある。また、学習用のデータしか得られなかった場合は、自動的に分類することは困難となる。このような場合でも、設計情報などの外部情報に基づき、プロセス量分類用フラグF3が設定されることで、適切に単独監視信号に分類される。
【0097】
また、前述の第3の分類条件のように、間欠的な運転を行う機器に対しても、データ欠損または異常データが含まれるなどの理由により、間欠的な運転が行われない期間の学習用データしか得られない場合がある。この場合に、プロセス量Pを自動的に分類することが困難となるが、設計情報などの外部情報に基づき、プロセス量分類用フラグF3が設定されることで、適切に単独監視信号に分類される。
【0098】
また、前述の第4の分類条件のように、プロセス量Pに外部要因に影響を受けるものがある。ここで、プロセス量Pに、排除したい外部要因を特定するもの、例えば、建屋51(図10)の外部の気圧が含まれない場合は、自動的に分類することは困難となる。この場合でも、設計情報などの外部情報に基づき、プロセス量分類用フラグF3が設定されることで、適切に単独監視信号に分類される。
【0099】
また、前述の第5の分類条件のように、プロセス量Pに急激な変動を起こすものがある。ここで、急激な変動が、サンプリング周期よりも短い周期での変動か否かが判別しづらい場合がある。例えば、インターロック条件などにより一時的に設定値が増減する場合は、突変に分類されないことがある。この場合でも、設計情報などの外部情報に基づき、プロセス量分類用フラグF3が設定されることで、適切に単独監視信号に分類される。
【0100】
このように、プロセス量Pには、含まれない設計情報などの外部情報に基づき、疑似相関による誤連動を誘発する可能性があるプロセス量Pを単独監視信号として分類することができる。そして、機械学習に用いる学習用入力データ(入力情報)として提供することが可能となる。
【0101】
変形例の学習用コンピュータ5は、外部情報に基づいて、それぞれのプロセス量Pを、相関データまたは非相関データに分類するプロセス量分類用フラグF3を設定する。ここで、外部情報は、設計情報などのプラント2から発生するプロセス量Pから想定されない情報、または、プラント2から発生するプロセス量Pに含まれていない情報である。このようにすれば、設計情報などの外部情報を基準として、プロセス量Pの分類が行われるため、適切な分類を行うことができる。
【0102】
前述の実施形態の異常予兆検知システム1は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)および専用のチップなどのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)およびSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスおよびキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。この異常予兆検知システム1は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0103】
なお、前述の実施形態の異常予兆検知システム1で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。追加的または代替的に、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶されて提供される。
【0104】
また、この異常予兆検知システム1で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータに格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、この異常予兆検知システム1は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用回線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0105】
以上説明した実施形態によれば、それぞれのプロセス量Pを、複数のプロセス量間の相関を学習させる相関データと複数のプロセス量間の相関を学習させない非相関データとに分類することにより、疑似相関に起因する誤検知を抑制することができる。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0107】
1…異常予兆検知システム、2…プラント、3…センサ、4…データ入力用コンピュータ、5…学習用コンピュータ、6…検知用コンピュータ、7…入力部、8…出力部、9…通信部、10…記憶部、11…処理回路、12…データ分類部、13…分類結果処理部、14…学習モデル生成部、15…プロセス量分類フラグ設定部、21…第1系統配管、22…第2系統配管、23…流量調整弁、24…流量計、25…学習期間の或る部分、26…監視期間の或る部分、31…第1配管、32…第2配管、33…第3配管、34…第1ポンプ、35…第1圧力計、36…第2ポンプ、37…第2圧力計、38…流量計、41…第1系統配管、42…第2系統配管、43…第1ポンプ、44…第1圧力計、45…第2ポンプ、46…第2圧力計、47…タンク、48…水位計、49…学習期間の或る部分、50…監視期間の或る部分、51…建屋、52…第1機器、53…第2機器、54…第1圧力計、55…第3機器、56…第4機器、57…第2圧力計、58…部屋、59…監視期間の或る部分、61…第1系統配管、62…第2系統配管、63…第1ポンプ、64…第1流量調整弁、65…第1流量計、66…第2ポンプ、67…第2流量調整弁、68…第2流量計、69…監視期間の或る部分、F1…物理相関信号判定フラグ、F2…単独監視信号判定フラグ、F3…プロセス量分類用フラグ、M…異常予兆検知モデル、P…プロセス量、V…プロセス値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14