(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167972
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】ステンレスの黒色クロムめっき方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/26 20060101AFI20231116BHJP
C25D 5/36 20060101ALI20231116BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20231116BHJP
C25D 5/14 20060101ALI20231116BHJP
C25D 3/06 20060101ALI20231116BHJP
C25D 3/08 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C25D5/26 Q
C25D5/36
C25D5/48
C25D5/14
C25D3/06
C25D3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079544
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】392032085
【氏名又は名称】睦技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 睦
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA02
4K023AA11
4K023BA02
4K023BA04
4K023BA06
4K023CA09
4K023CB03
4K023DA07
4K023DA08
4K024AA02
4K024AB02
4K024AB13
4K024BA04
4K024CA01
4K024CA04
4K024CA06
4K024DA02
4K024DA03
4K024DA04
4K024DA05
4K024DB06
(57)【要約】
【課題】ステンレスの表面の鏡面を光沢と艶のある黒色としながら、優れた耐腐食性と耐熱性をも実現する。
【解決手段】黒色クロムめっき方法は、ステンレス表面を鏡面研磨する研磨工程と、特定条件でアルカリ脱脂する前処理工程と、特定の条件で薄膜の下地クロムメッキ層を付着する下地クロムメッキ工程と、特定の条件で黒色クロムメッキ層を設ける黒色クロムメッキ工程と、黒色クロムメッキ層の表面にガラスコーティング層を設けるコーティング工程とで、ステンレスの表面を光沢と艶のある黒色とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキする母材金属をステンレスとし、
前記母材金属の表面を鏡面研磨する研磨工程と、
鏡面研磨された前記母材金属をアルカリ脱脂液に浸漬する前処理工程と、
前処理された前記母材金属の鏡面に薄膜の下地クロムメッキ層を設ける下地クロムメッキ工程と、
前記下地クロムメッキ層の上に黒色クロムメッキ層を設ける黒色クロムメッキ工程と、
前記黒色クロムメッキ層の表面をガラスコーティングするガラスコーティング工程とを含み、
前記下地クロムメッキ工程は、
200g/Lないし300g/Lの無水クロム酸と、
2g/Lないし3g/Lの硫酸を含むメッキ浴を使用し、
電流密度を10A/dm2ないし20A/dm2、
溶液温度を常温として、
膜厚を1μm以下とする前記下地クロムメッキ層を設け、
前記黒色クロムメッキ工程は、
350g/Lないし450g/Lの無水クロム酸と、
5g/Lないし13g/Lの炭酸バリウムと、
0.1g/Lないし0.2g/Lのケイ弗化マグネシウムと、
2g/Lないし5g/Lの硝酸ナトリウムと、
10g/Lないし20g/Lの蓚酸と、
1g/Lないし5g/Lの3価クロムと、
濃度を85wt%とする6mL/Lないし12mL/Lのリン酸の水溶液とを添加してなるメッキ浴を使用し、
電流密度を25A/dm2ないし35A/dm2、
溶液温度を10℃ないし30℃として、
膜厚を2μm以上であって5μm以下とする前記黒色クロムメッキ層を設け、
前記ガラスコーティング工程は、
ガラスコーティング剤を付着し、
重合反応で非晶質のガラス被膜を形成して膜厚0.1μm以上であって2μm以下のガラスコーティング層を設ける、ステンレスの黒色クロムめっき方法。
【請求項2】
請求項1に記載されるステンレスの黒色クロムめっき方法であって、
前記前処理工程が、
ステンレスをアルカリ脱脂液に浸漬するアルカリ脱脂工程と、
アルカリ脱脂工程の後、水洗する水洗工程と、
前記水洗工程の後、アルカリ脱脂液に浸漬して通電する電解脱脂工程とを含むステンレスの黒色クロムめっき方法。
【請求項3】
請求項1に記載されるステンレスの黒色クロムめっき方法であって、
前記下地クロムメッキ工程の前処理工程が、
ステンレスをアルカリ脱脂液に浸漬する第1のアルカリ脱脂工程と、
前記第1のアルカリ脱脂工程で処理したステンレスを水洗する水洗工程と、
前記水洗工程で水洗したステンレスを、アルカリ脱脂液に浸漬する第2のアルカリ脱脂工程と、
前記第2のアルカリ脱脂工程の後、酸性液に浸漬して、表面に付着するアルカリ脱脂液を中和する中和工程とを含み、
前記第2のアルカリ脱脂工程のアルカリ脱脂液の濃度を、前記第1のアルカリ脱脂工程のアルカリ脱脂液の1/50以下とするステンレスの黒色クロムめっき方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載されるステンレスの黒色クロムめっき方法であって、
メッキする前記母材金属が、曲げ加工用のステンレス板であって、板厚が1mm以下であることを特徴とするステンレスの黒色クロムめっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレスの表面に黒色クロムメッキ層を設けるステンレスの黒色クロムめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムメッキは、ステンレスの表面に被覆して、ステンレスでは実現できない耐腐食性、審美性、耐摩耗性等を向上できることから、ステンレスの黒色クロムめっき方法が開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステンレスは、表面にできる強固な不動態被膜がクロムメッキの密着性を阻害するのでクロムメッキの密着不良の抑制が難しく、さらにメッキされた状態で曲げ加工すると剥離しやすい欠点がある。不動態被膜による密着不良を抑制するために、特許文献1に開示される方法は、ステンレス表面にニッケルメッキを設けている。しかしながら、ニッケルメッキは皮膜がもろいことから、曲げ加工等の衝撃で剥離しないように、ステンレス表面に直接にクロムメッキを設ける技術が切望されている。
【0005】
本発明は、以上の弊害を解消することを目的に開発されたもので、本発明の一目的は、下地メッキとして、ステンレスと異種金属のニッケルメッキに代わって、黒色クロムメッキとの密着性に優れたクロムメッキを使用しながら、強固な不動態被膜の弊害を防止しながら、ステンレスの表面を光沢と艶のある鏡面の黒色とする黒色クロムめっき方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、優れた耐腐食性を実現し、厳しい使用環境においても腐食することなく長期間にわたって綺麗な黒色を維持し、さらに高温で変色しない耐熱性も実現するステンレスの黒色クロムめっき方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係るステンレスの黒色クロムめっき方法は、メッキする母材金属をステンレスとし、母材金属の表面を鏡面研磨する研磨工程と、鏡面研磨された母材金属をアルカリ脱脂液に浸漬する前処理工程と、前処理された母材金属の鏡面に薄膜の下地クロムメッキ層を設ける下地クロムメッキ工程と、下地クロムメッキ層の上に黒色クロムメッキ層を設ける黒色クロムメッキ工程と、黒色クロムメッキ層の表面をガラスコーティングするコーティング工程とを含んでいる。下地クロムメッキ工程は、200g/Lないし300g/Lの無水クロム酸と、2g/Lないし3g/Lの硫酸を含むメッキ浴を使用し、電流密度を10A/dm2ないし20A/dm2、溶液温度を常温として、膜厚を1μm以下とする下地クロムメッキ層を設ける。黒色クロムメッキ工程は、350g/Lないし450g/Lの無水クロム酸と、5g/Lないし13g/Lの炭酸バリウムと、0.1g/Lないし0.2g/Lのケイ弗化マグネシウムと、2g/Lないし5g/Lの硝酸ナトリウムと、10g/Lないし20g/Lの蓚酸と、1g/Lないし5g/Lの3価クロムと、濃度を85wt%とする6mL/Lないし12mL/Lのリン酸の水溶液とを添加してなるメッキ浴を使用し、電流密度を25A/dm2ないし35A/dm2、溶液温度を10℃ないし30℃として、膜厚を2μm以上であって5μm以下とする黒色クロムメッキ層を設ける。ガラスコーティング工程は、ガラスコーティング剤を付着し、重合反応で非晶質のガラス被膜を形成して膜厚0.1μm以上であって2μm以下のガラスコーティング層を付着して設ける。本明細書において、常温とは加熱も冷却もしない温度を示す。
【発明の効果】
【0007】
以上のステンレスの黒色クロムめっき方法は、下地メッキに、ニッケルメッキに代わってクロムメッキを使用しながら、強固な不動態被膜の弊害を防止して黒色クロムメッキを付着でき、さらにステンレス表面を独特の光沢と艶のある黒色としながら、優れた耐腐食性を実現し、厳しい使用環境においても腐食することなく長期間にわたって綺麗な黒色を維持し、さらに600℃もの高温で変色しない耐熱性も実現する特長がある。
【0008】
以上の特長は、母材金属であるステンレスの表面に、独特の工程で下地クロムメッキ層を設けて、下地クロムメッキ層の上に黒色クロムメッキ層を付着し、さらに黒色クロムメッキ層の表面をガラスコーティングすることで実現する。とくに、下地クロムメッキ工程は、メッキ浴の温度を低コストで管理の容易な常温としながら、電流密度を10A/dm2ないし20A/dm2と低くし、さらにメッキ浴には3g/Lないし5g/Lの硫酸を添加して酸性として電流を流すことで、ステンレス表面に水素ガスを発生させて、酸化皮膜の不動態被膜を除去しながら、全面に均一に斑なく、薄膜の下地クロムメッキ層を設ける。この下地クロムメッキ層の表面に、黒色クロムメッキ層を被膜することで、下地クロムメッキ層と黒色クロムメッキ層からなる、相補性に優れた同種金属からなる2層のクロムメッキ層を付着し、2層のクロムメッキ層の表面をガラスコーティングすることで以上の優れた特長を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るステンレスの黒色クロムめっき方法でクロムメッキしたステンレスの表面状態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0011】
本発明の一実施態様に係るステンレスの黒色クロムめっき方法は、メッキする母材金属をステンレスとし、母材金属の表面を鏡面研磨する研磨工程と、鏡面研磨された母材金属をアルカリ脱脂液に浸漬する前処理工程と、前処理された母材金属の鏡面に薄膜の下地クロムメッキ層を設ける下地クロムメッキ工程と、下地クロムメッキ層の上に黒色クロムメッキ層を設ける黒色クロムメッキ工程と、黒色クロムメッキ層の表面をガラスコーティングするコーティング工程とを含み、下地クロムメッキ工程は、200g/Lないし300g/Lの無水クロム酸と、2g/Lないし3g/Lの硫酸を含むメッキ浴を使用し、電流密度を10A/dm2ないし20A/dm2、溶液温度を常温として、膜厚を1μm以下とする下地クロムメッキ層を設け、黒色クロムメッキ工程は、350g/Lないし450g/Lの無水クロム酸と、5g/Lないし13g/Lの炭酸バリウムと、0.1g/Lないし0.2g/Lのケイ弗化マグネシウムと、2g/Lないし5g/Lの硝酸ナトリウムと、10g/Lないし20g/Lの蓚酸と、1g/Lないし5g/Lの3価クロムと、濃度を85wt%とする6mL/Lないし12mL/Lのリン酸の水溶液とを添加してなるメッキ浴を使用し、電流密度を25A/dm2ないし35A/dm2、溶液温度を10℃ないし30℃として、膜厚を2μm以上であって5μm以下とする黒色クロムメッキ層を設け、ガラスコーティング工程は、ガラスコーティング剤を付着し、重合反応で非晶質のガラス被膜を形成して膜厚0.1μm以上であって2μm以下のガラスコーティング層を付着して設ける。
【0012】
以上の黒色クロムめっき方法は、従来の黒色クロムメッキでは実現できない、光沢と艶のある鏡面の黒色としながら、クロムメッキに特有の点錆の発生を防止して、長期間にわたって優れた耐腐食性も実現し、厳しい使用環境においても長期間にわたって艶のある黒色を維持し、さらに高温環境においても変色しない耐熱性も実現できる。
【0013】
本発明の他の実施態様に係るステンレスの黒色クロムめっき方法は、前処理工程が、ステンレスをアルカリ脱脂液に浸漬するアルカリ脱脂工程と、アルカリ脱脂工程の後、水洗する水洗工程と、水洗工程の後、アルカリ脱脂液に浸漬して通電する電解脱脂工程とを含むことができる。
【0014】
以上の黒色クロムめっき方法は、母材金属のステンレスを水酸化ナトリウムなどのアルカリ脱脂液に浸漬して脱脂し、さらに、電解脱脂工程においては、水素ガスと酸素ガスを発生させることで、不動態被膜による弊害を防止してステンレスの鏡面にクロムメッキを密着できる。
【0015】
本発明の他の実施態様に係るステンレスの黒色クロムめっき方法は、下地クロムメッキ工程の前処理工程が、ステンレスをアルカリ脱脂液に浸漬する第1のアルカリ脱脂工程と、第1のアルカリ脱脂工程で処理したステンレスを水洗する水洗工程と、水洗工程で水洗したステンレスを、アルカリ脱脂液に浸漬する第2のアルカリ脱脂工程と、第2のアルカリ脱脂工程の後、酸性液に浸漬して、表面に付着するアルカリ脱脂液を中和する中和工程とを含み、第2のアルカリ脱脂工程のアルカリ脱脂液の濃度を、第1のアルカリ脱脂工程のアルカリ脱脂液の1/50以下とすることができる。
【0016】
以上の黒色クロムめっき方法は、第1のアルカリ脱脂工程においては母材金属のステンレスを高濃度のアルカリ脱脂液に浸漬して効果的脱脂し、その後水洗工程でアルカリ脱脂液を除去した後、濃度を1/50以下とする低濃度のアルカリ脱脂液に浸漬してさらに脱脂した後、次の中和工程で表面に付着するアルカリ脱脂液を中和して完全に除去した状態で、下地クロムメッキ層を付着するので、ステンレスの鏡面を下地クロムメッキ層の付着に最適な鏡面として下地クロムメッキ層の強い密着力で付着できる。
【0017】
本発明の他の実施態様に係るステンレスの黒色クロムめっき方法は、メッキする母材金属が、曲げ加工用のステンレス板であって、板厚が1mm以下にできる。
【0018】
以上の黒色クロムめっき方法は、例えば、板厚を0.5mmとするステンレス板の表面に、下地クロムメッキ層と黒色クロムメッキ層とガラスコーティングの3層を積層する状態でプレス加工して、曲率半径を5mmとする曲げ加工をして、メッキ層とガラスコーティングの剥離や亀裂は確認されず、プレスして曲げ加工する衝撃においてもメッキ層とガラスコーティング層の両方が損傷しない極めて優れた特性を示す。
【0019】
表面をクロムメッキした従来のステンレス板は、メッキの前工程しで曲げ加工し、その後表面をメッキする必要があり、ステンレス板を平面状でメッキできない欠点があるが、以上の黒色クロムめっき方法は、曲げ加工で黒色クロムメッキ層が剥離しないので、ステンレス板を平面状として能率よく黒色クロムメッキできる。このことは、黒色クロムメッキしたステンレス板を曲げ加工して製作される部品の製造コストを低減できることに有効である。また、ステンレス板を平面状で黒色クロムメッキできるので、全面に均一に黒色クロムメッキ層を付着できる特長もある。
【0020】
図1の拡大断面図は、以上の工程でステンレス1表面に積層された、下地クロムメッキ層2と、黒色クロムメッキ層3と、ガラスコーティング層4の3層の積層構造を示している。下地クロムメッキ層2は、極めて特定されたメッキ条件で不動態被膜のあるステンレス1の表面全体に均一に薄膜で付着される。下地クロムメッキ層2は、メッキ浴の温度を低コストで管理の容易な常温としながら、電流密度を低くすることで金属イオンがステンレス表面に局所的に電着される弊害を防止して、均一な薄膜として付着され、さらにメッキ浴に硫酸を混合することで、ステンレス表面では硫酸から電離した水素イオンを水素ガスとして、水素ガスの還元作用で酸化皮膜の不動態被膜を除去しながら、全面に均一に付着される。ステンレス表面に均一に付着された下地クロムメッキ層2の上に、黒色クロムメッキ層3を付着することで、黒色クロムメッキ層3は、ステンレス表面の不動態被膜による弊害を防止して密着される。
【0021】
黒色クロムメッキ層3は、膜厚が厚くなるにしたがって、内部応力でクロム分子が相互に引き合う力でクラック5が発生して、クラック5が黒色クロムメッキ層3の耐腐食性を低下する原因となるが、黒色クロムメッキ層3の表面に積層されたガラスコーティング層4は、黒色クロムメッキ層3のクラック5に侵入するアンカー効果で黒色クロムメッキ層3に強く密着し、さらに黒色クロムメッキ層3の表面を、艶のある光沢とし、さらに優れた耐腐食性と退色性と耐熱性とを実現して、600℃において変色しない優れた物性を実現する。
【0022】
以上のステンレス板は、840時間の耐食試験において全く発鯖が認められない優れた耐腐食性を実現し、さらに塩水の加速試験においては、5wt%の塩水を直接に噴霧する塩水の加速試験においても、250時間後におけるレイティングナンバーが9.8(錆発生率0.02%以下)、300時間後におけるレイティングナンバーが9.7とほとんど変化せず、極めて優れた耐腐食性を示す。
【0023】
耐食試験は温度/湿度を49℃/95%として、24時間、48時間、72時間、96時間、168時間、336時間、504時間、700、840時間後における錆の発生状態を検査し、塩水の加速度試験は、35℃の温度環境において、5wt%の塩水を試験片に直接に噴霧して、試験片の表面に塩水が付着する状態として、250時間後おける表面の錆の状態を検査した。
【0024】
さらに、以上の方法は、ステンレスを厚さを0.5mmとするステンレス板とし、下地クロムメッキ層の膜厚を0.3~1μm、黒色クロムメッキ層の膜厚を2~3μm、ガラスコーティング層の膜厚を0.1~1μmとして、プレス加工で曲率半径を3mmとする曲げ加工をして、ガラスコーティングとメッキ層の剥離や亀裂は全く確認されず、プレス加工の衝撃においても極めて優れた特性を示した。曲げ加工できるステンレス板は、平面状のステンレス板をメッキし、ガラスコーティングした後、曲げ加工することで、金属板を高効率に能率よくメッキとガラスコーティングした後、曲げ加工できるので、表面が黒色クロムメッキ層とガラスコーティングで被覆されて曲げ加工されたステンレス板の製造コストを低減できる特長がある。
【0025】
さらに、以上のステンレスの黒色クロムめっき方法は、表面の黒色クロムメッキ層が優れた密着性を示すが、この試験は、黒色クロムメッキ層の表面に、粘着層のある布テープを貼り付けて10秒間強く押圧し、その後、布テープを瞬間的に引き剥がして、布テープの表面にメッキ膜が付着する状態を目視で観察し、さらに布テープが引き剥がされたステンレス表面におけるメッキ膜の剥離と膨れを目視した。
【0026】
本発明のステンレスの黒色クロムめっき方法は、この密着性の試験において、引き剥がした布テープ表面にメッキ膜が付着せず、また、布テープの引き剥がし部分においてメッキ膜の剥離も膨れも全く発生しなかった。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施形態にかかる黒色クロムめっき方法でクロムメッキしたステンレスの表面状態を示す拡大断面図である。本発明の黒色クロムめっき方法は、メッキする母材金属をステンレス1として、母材金属であるステンレス1の表面を鏡面研磨する研磨工程と、鏡面研磨された母材金属をアルカリ脱脂液に浸漬する前処理工程と、前処理された母材金属の鏡面に薄膜の下地クロムメッキ層2を設ける下地クロムメッキ工程と、下地クロムメッキ層2の上に黒色クロムメッキ層3を設ける黒色クロムメッキ工程と、黒色クロムメッキ層3の表面にガラスコーティング層4を設けるガラスコーティング工程とでステンレス1の表面を、光沢と艶のある鏡面とする。
【0028】
(研磨工程)
この工程は、母材金属であるステンレスの表面を鏡面に研磨する。鏡面研磨はステンレス表面を平滑面に荒研磨した後、600番以上、好ましくは800番の鏡面用バフで研磨して鏡面に仕上げる。
【0029】
(前処理工程)
前処理工程は、ステンレスの表面に付着する油成分を、水酸化ナトリウムなどのアルカリ脱脂液に浸漬した後、水洗してアルカリ脱脂液を除去する一般的な処理が使用できる。アルカリ脱脂工程において、アルカリ脱脂液の温度を40℃ないし70℃、浸漬時間を5分ないし30分とする。また、アルカリ脱脂液は、水酸化ナトリウムなどに加えて、海面活性剤を添加することもできる。
【0030】
さらに、前処理工程は、たとえば、ステンレスをアルカリ脱脂液に浸漬するアルカリ脱脂工程の後、水洗工程を経過して、アルカリ電解脱脂工程して前処理することができる。アルカリ電解脱脂工程は、ステンレスを1ないし5分、温度を40℃ないし60℃とするアルカリ脱脂液に浸漬して、通電し、発生する水素ガスと酸素ガスで脱脂する。
【0031】
さらに、前処理工程は、ステンレスをアルカリ脱脂液に浸漬する第1のアルカリ脱脂工程と、第1のアルカリ脱脂工程で処理したステンレスを水洗する水洗工程と、水洗工程で水洗したステンレスを、アルカリ脱脂液の濃度を第1のアルカリ脱脂工程の1/50以下とするアルカリ脱脂液に浸漬する第2のアルカリ脱脂工程と、第2のアルカリ脱脂工程の後、塩酸や硫酸を含む酸性液に1ないし3分浸漬して、ステンレス表面に付着するアルカリ脱脂液を中和する中和工程とで脱脂することもできる。
【0032】
(下地クロムメッキ工程)
前処理した母材金属の表面に電着する下地クロムメッキ工程は、メッキ浴に、200g/Lないし300g/Lの無水クロム酸に加えて、2g/Lないし3g/Lの硫酸を添加して酸性とすることで、通電してステンレス表面に発生する水素ガスで、ステンレス表面の酸化皮膜を除去しながら、全面に均一に斑なく、薄膜の下地クロムメッキ層を設けることができる。メッキ浴は、加熱することなく、また冷却することなく常温としてランニングコストを低減できる。電流密度は、10A/dm2ないし20A/dm2と低くする。電流密度は、大きくして析出速度を早くできるが、電流密度が高いと、エッジ部などの電界強度が強くなって、膜厚の均一性に影響を与えて鏡面の平滑度が低下するので、好ましくは15A/dm2とする。膜厚は1μm以下、好ましくは0.3~1μmとして、薄膜の下地クロムメッキ層をステンレスの鏡面に均一に付着させる。
【0033】
(黒色クロムメッキ工程)
黒色クロムメッキ工程は、以下の工程で下地クロムメッキ層の上に黒色クロムメッキ層を付着する。黒色クロムメッキ層は、無水クロム酸を酸化反応させて黒色とするメッキである。黒色クロムメッキ層は、耐腐食性、耐摩耗性、耐熱性に優れるので、表面に設けてステンレスを保護する。黒色クロムメッキ工程におけるメッキ浴は、
350g/Lないし450g/Lの無水クロム酸と、
5g/Lないし13g/Lの炭酸バリウムと、
0.1g/Lないし0.2g/Lのケイ弗化マグネシウムと、
2g/Lないし5g/Lの硝酸ナトリウムと、
10g/Lないし20g/Lの蓚酸と、
1g/Lないし5g/Lの3価クロムと、
濃度を85wt%とする6mL/Lないし12mL/Lのリン酸の水溶液とを添加する。
【0034】
この工程は、電流密度を25A/dm2ないし35A/dm2、溶液温度を10℃ないし30℃として、膜厚を2μm以上であって5μm以下、好ましくは2~3μmとする黒色クロムメッキ層を設ける。
【0035】
炭酸バリウムの添加量は、少なすぎると、残存する硫酸根によって好ましい黒色クロムメッキ層を生成できなくなり、反対に多すぎると黒色クロムメッキ層の安定性が低下するので、より好ましくは、8g/Lないし10g/Lとする。
【0036】
ケイ弗化マグネシウムの添加量は、黒色クロムメッキ層の色相に影響を与えるので、以上の範囲に設定して黒色の黒色クロムメッキ層を生成する。メッキ浴は、無水クロム酸と炭酸バリウムに加えて、ケイ弗化マグネシウムと硝酸ナトリウムとリン酸を添加して、微細なクラックの発生を抑制して安定に黒色クロムメッキ層を生成することができる。メッキ浴に添加される硝酸ナトリウムの添加量は、好ましくは3.5g/Lないし4.0g/Lと極めて制限された範囲に特定することができる。
【0037】
さらに、メッキ浴は、10g/Lないし20g/Lの蓚酸と、1g/Lないし5g/Lの3価クロムを添加することで、より安定して黒色クロムメッキ層を設けることができる。
【0038】
電流密度は、好ましくは25A/dm2ないし35A/dm2とする。電流密度は小さすぎても大きすぎても好ましい黒色クロムメッキ層を電着するのが難しい。電流密度も、ステンレスの形状や用途に最適な真黒色とするように、以上の範囲で最適値に調整されるが、より好ましくは、28A/dm2ないし32A/dm2とする。メッキする鏡面が平面状でなく、円筒などのように湾曲面であると電流密度が不均等になりやすいので、電流密度は、メッキする鏡面の形状を考慮して、黒色クロムメッキ層の膜厚を最適化するために電流密度を調整する。
【0039】
メッキ浴の温度は、10℃ないし30℃とする。メッキ浴の温度を一定温度に管理する。このメッキ浴は、加熱することなく、また冷却することなく常温としてランニングコストを低減して黒色クロムメッキ層を付着できる。メッキ時間は、黒色クロムメッキ層の膜厚を2μm以上であって5μm以下とする時間とすることができる。
【0040】
黒色クロムメッキ層の膜厚は、用途に最適な厚さに設定されるが、好ましくは1μm以上であって5μm未満とする。黒色クロムメッキ層は、膜厚を厚くするとクラックが発生しやすくなるが、表面に付着されるガラスコーティング層はクラックに侵入して、アンカー効果で強固に結合するので、黒色クロムメッキ層は、たとえば数μmとしてクラックが発生する膜厚として、表面に結合されるガラスコーティング層によって、クラックの弊害、たとえば耐腐食性が低下する等の弊害を防止できる。
【0041】
(ガラスコーティング工程)
この工程は、黒色クロムメッキ層の表面に、ガラスコーティング剤をスプレーし、スプレーしたガラスコーティング剤をガラス状被膜に硬化させて黒色クロムメッキ層の表面をガラスコーティング層で被覆する。ガラスコーティング層は、ガラスコーティング剤が重合して高分子化して非晶質のガラス被膜に硬化する。ガラスコーティング膜は、厚すぎるとクラックが発生し易く、曲げ加工時の割れ等の原因となるので、膜厚が0.1μm以上であって2μm以下、好ましくは0.1~1μmの薄膜とする。ガラスコーティングの膜厚は、ガラスコーティング剤をスプレーする量で調整でき、また、複数のガラスコーティングを積層して、膜厚を調整できる。ガラスコーティングは、ステンレス板の鏡面を、特に美しい光沢と艶の黒色にできる。とくに、黒色クロムメッキ層の表面を鏡面とし、鏡面の黒色クロムメッキ層をガラスコーティングすることで、ガラスコーティング層でもって、黒色クロムメッキ層の表面をより美しい光沢と艶のある黒色とすることができる。
【0042】
ガラスコーティングは、従来のガラスコーティング方法が使用でき、例えば、高分子シラン原料と低分子シラン原料を使用できる。高分子シランのガラスコーティング剤には、ペルヒドロポリシラザンとオルガノポリシロキサンが使用でき、ベルヒドロポリシラザンのガラスコーティングは、クロロシランが脱アンモニア架橋して非晶質な(アモルファス)ガラス被膜を形成し、オルガノポリシロキサンのガラスコーティングは、クロロシランが脱アルコール架橋して非晶質なガラス被膜を形成する。
【0043】
低分子シランのガラスコーティングは、クロロシランを原料として、複数の有機官能基と加水分解性のアルコキシ基を分子内に含み、脱水架橋して非晶質な(アモルファス)ガラス被膜を形成する。このガラスコーティングは、光沢と艶のある平滑面にできるので、鏡面研磨されたステンレス表面に付着された黒色クロムメッキ層の表面のガラスコーティングに適している。また、このガラスコーティング層は、優れたアンカー効果で黒色クロムメッキ層の表面に強く密着する。
[実施例1]
【0044】
(前処理工程)
母材金属に、板厚を1mmとするステンレス板を使用する。ステンレス板は、表面を鏡面研磨した後、アルカリ脱脂工程において50℃に加温したアルカリ脱脂液に15分浸してアルカリ脱脂し、その後2回水洗した後、電解脱脂する。電解脱脂の工程は、50℃に加温しているアルカリ脱脂液にステンレス板を浸漬し、電流密度を40A/dm2として、3分間電解脱脂する。その後2回水洗した後、中和工程において、10%の塩酸水溶液に浸漬してアルカリを中和させる。アルカリ脱脂工程に使用するアルカリ脱脂液は、例えば1Lの水に適量の苛性ソーダを溶解して調整する。アルカリ脱脂液は、アルカリ濃度と温度を高くして、脱脂効果は高くできる。アルカリ脱脂液は、例えば、温度を40℃ないし70℃、アルカリ濃度を60g/Lないし120g/Lとして脱脂を調整する。
【0045】
(下地クロムメッキ工程)
この工程は、前処理したステンレスを、60℃に加温したメッキ浴に速やかに浸漬して下地クロムメッキ層をステンレスの鏡面に均一に付着する。メッキ浴は、250g/Lの無水クロム酸と、2.5g/Lの硫酸を含む溶液で、電流密度を15A/dm2、として膜厚を0.3μmとする下地クロムメッキ層を電着する。
【0046】
(黒色クロムメッキ工程)
この工程は、下地クロムメッキ層の表面に膜厚を3μmとする黒色クロムメッキ層を設ける。
メッキ浴は、400g/Lの無水クロム酸と、9g/Lの炭酸バリウムと、0.15g/Lのケイ弗化マグネシウムと、3.5g/Lの硝酸ナトリウムと、15g/Lの蓚酸と、3g/Lの3価クロムと、濃度を85wt%とする9mL/Lのリン酸の水溶液とを添加してなるメッキ浴を使用し、電流密度を30A/dm2、溶液温度を10℃ないし30℃の常温として、膜厚を2μmとする黒色クロムメッキ層を設ける。
【0047】
(ガラスコーティング)
この工程は、高分子シランであるペルヒドロポリシラザンのガラスコーティング剤を黒色クロムメッキ層の表面に均一にスプレーし、脱アンモニア架橋して非晶質なガラス被膜を形成して、膜厚を0.1μmとするガラスコーティング層を形成する。
【0048】
以上の方法で、表面に下地クロムメッキ層と、黒色クロムメッキ層と、ガラスコーティング層の3層を積層したステンレスは、鏡面研磨された表面が、光沢と艶のある濡れ色の黒色となり、約840時間の耐食試験において全く発錆が認められない優れた耐腐食性を実現し、さらに600℃以上の高温に加熱して変色しない耐熱性も実現し、さらにプレス加工して曲率半径を3mmとする曲げ加工をして、ガラスコーティングとメッキ層の剥離や亀裂は全く確認されず、プレス加工の衝撃においても極めて優れた特性を示した。
[実施例2]
【0049】
下地クロムメッキ層の膜厚を1μm、黒色クロムメッキ層の膜厚を3μm、ガラスコーティングの膜厚を1μmとする以外、実施例1と同様にしてステンレス板の鏡面に、下地クロムメッキ層と黒色クロムメッキ層とガラスコーティング層とを設けて、実施例1と同等の優れた特長を実現した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、鏡面研磨したステンレスの表面を光沢と艶のある黒色クロムメッキ層とする用途に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1…ステンレス
2…下地クロムメッキ層
3…黒色クロムメッキ層
4…ガラスコーティング層
5…クラック