(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023167973
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合装置及び接合品質の判定方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20231116BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
B23K20/12 340
B23K31/00 K
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079547
(22)【出願日】2022-05-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(71)【出願人】
【識別番号】592015271
【氏名又は名称】テクノエイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石黒 幸一
(72)【発明者】
【氏名】篠原 俊
(72)【発明者】
【氏名】宮部 昇三
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 巖
(72)【発明者】
【氏名】小林 義章
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167BG06
4E167BG08
4E167BG12
(57)【要約】
【課題】
被接合部材を摩擦攪拌接合した直後に接合ビード部の深さ情報と幅情報、及びバリ高さ情報に基づいて接合品質の適合または不適合を判定可能な摩擦攪拌接合装置を提供する。
【解決手段】
主軸に取り付けられた接合ツールを目標回転速度で回転させながら被接合部材に目標深度まで挿入し、前記被接合部材の挿入部及びその近傍を軟化させて摩擦攪拌接合始端部から摩擦攪拌接合終端部まで前記接合ツールを進行させて前記被接合部材を線形に摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、前記接合ツールを進行する過程で、前記被接合部材を摩擦攪拌接合した直後に、第一の被接合部材と第二の被接合部材との突合せ部である前記被接合部材の接合線において摩擦攪拌接合した部位を示す接合ビード部の接合状態の適合または不適合を示す接合品質の判定を行うことを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に取り付けられた接合ツールを目標回転速度で回転させながら被接合部材に目標深度まで挿入し、前記被接合部材の挿入部及びその近傍を軟化させて摩擦攪拌接合始端部から摩擦攪拌接合終端部まで前記接合ツールを進行させて前記被接合部材を線形に摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、
前記接合ツールを進行する過程で、前記被接合部材を摩擦攪拌接合した直後に、第1の被接合部材と第2の被接合部材との突合せ部である前記被接合部材の接合線において摩擦攪拌接合した部位を示す接合ビード部の接合状態の適合または不適合を示す接合品質の判定を行うことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記接合品質を不適合と判定した場合に、接合品質不適合を示す信号を出力することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項3】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記接合ツールの進行方向の反対側となる前記主軸の後ろ側に計測装置を備え、
前記計測装置により、摩擦攪拌接合した直後の前記接合ビード部の状態情報を取得する状態情報取得処理を行い、前記接合ビード部の状態情報を取得することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項4】
請求項3に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記状態情報から前記接合ビード部の幅情報と前記接合ビード部の深さ情報を取得し、
前記状態情報取得処理の後に判定処理を行うことにより、前記幅情報が所定の幅要件を満たし、かつ、前記深さ情報が所定の深さ要件を満たしている場合には接合強度は適合と判定し、
前記幅情報が前記所定の幅要件を満たしていない場合、または、前記深さ情報が前記所定の深さ要件を満たしていない場合には接合強度は不適合と判定することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項5】
請求項4に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記判定処理において、前記接合ビード部の深さ情報が前記所定の深さ要件を満たし、かつ、前記接合ビード部の幅情報が前記所定の幅要件を満たしている場合、前記状態情報から前記接合ビード部のバリの高さを示すバリ高さ情報を取得し、
前記バリ高さ情報が所定のバリ要件を満たしている場合にはバリ高さは適合と判定し、前記バリ高さ情報が前記所定のバリ要件を満たしていない場合にはバリ高さは不適合と判定することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
予め定めた時間間隔または距離間隔で、前記状態情報取得処理と前記判定処理を繰り返し行うことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項7】
請求項5に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記被接合部材を摩擦攪拌接合する前段階において、前記被接合部材の摩擦攪拌接合後の用途に応じて前記幅要件と前記深さ要件と前記バリ要件を設定することを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項8】
請求項3に記載の摩擦攪拌接合装置であって、
前記計測装置は、レーザ変位計または撮像装置であることを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項9】
摩擦攪拌接合装置における接合品質の判定方法であって、
(a)第1の被接合部材と第2の被接合部材との突合せ部である被接合部材の接合線において摩擦攪拌接合した直後の接合ビード部の状態情報を取得するステップと、
(b)前記(a)ステップで取得した前記状態情報から前記接合ビード部の幅情報と深さ情報とバリ高さ情報とを取得するステップと、
(c)前記(b)ステップで取得した前記幅情報および前記深さ情報が、それぞれ所定の要件を満たしているか否かを判定するステップと、
を有することを特徴とする接合品質の判定方法。
【請求項10】
請求項9に記載の接合品質の判定方法であって、
前記(c)ステップの後、(d)前記(b)ステップで取得した前記バリ高さ情報が、所定の要件を満たしているか否かを判定するステップを有することを特徴とする接合品質の判定方法。
【請求項11】
請求項10に記載の接合品質の判定方法であって、
前記被接合部材を摩擦攪拌接合する前段階において、前記被接合部材の摩擦攪拌接合後の用途に応じて幅要件と深さ要件とバリ要件を設定することを特徴とする接合品質の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部材同士を摩擦攪拌接合により接合する摩擦攪拌接合装置の構成とその制御に係り、特に、高品質(高精度)な接合が要求される被接合部材の接合に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱状の接合ツールを回転させて発生する摩擦熱で被接合材料を軟化させ、その部分を攪拌することで被接合材料同士を接合する摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、材料以外の素材を用いないため、疲労強度が高く、材料も溶融しないことから溶接変形(ひずみ)の少ない接合が可能であり、航空機や自動車のボディなど、幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、「被接合物の表面を回転工具により部分的に攪拌することによって、被接合物を接合し、その後に、接合部に生じている凹み量を、少なくとも接合部の接合強度の指標として用いる摩擦攪拌点接合における接合状態の評価方法」が開示されている。(特許文献1の請求項1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の方法では、被接合部材を点接合した接合部の凹み量(接合ビード部の深さ情報に相当)によって、接合強度(接合品質に相当)を評価する。
【0006】
特許文献1のような摩擦攪拌点接合においては、接合ツールを接合線に沿って、被接合部材を攪拌接合しながら進行させることがないため、接合ビード部の深さ情報のみを接合品質を判定するときの対象とすればよい。
【0007】
しかしながら、被接合部材を線形に摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置においては、接合ツールを被接合部材に挿入して回転させ、摩擦攪拌接合しながら接合線に沿って進行する必要がある。このような場合は、接合ビード部の深さ情報だけでは接合品質を十分に評価することができない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、被接合部材を摩擦攪拌接合した直後に接合ビード部の深さ情報と幅情報、及びバリ高さ情報に基づいて接合品質の適合または不適合を判定可能な摩擦攪拌接合装置及び接合品質の判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、主軸に取り付けられた接合ツールを目標回転速度で回転させながら被接合部材に目標深度まで挿入し、前記被接合部材の挿入部及びその近傍を軟化させて摩擦攪拌接合始端部から摩擦攪拌接合終端部まで前記接合ツールを進行させて前記被接合部材を線形に摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置であって、前記接合ツールを進行する過程で、前記被接合部材を摩擦攪拌接合した直後に、第一の被接合部材と第二の被接合部材との突合せ部である前記被接合部材の接合線において摩擦攪拌接合した部位を示す接合ビード部の接合状態の適合または不適合を示す接合品質の判定を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、摩擦攪拌接合装置における接合品質の判定方法であって、(a)第1の被接合部材と第2の被接合部材との突合せ部である被接合部材の接合線において摩擦攪拌接合した直後の接合ビード部の状態情報を取得するステップと、(b)前記(a)ステップで取得した前記状態情報から前記接合ビード部の幅情報と深さ情報とバリ高さ情報とを取得するステップと、(c)前記(b)ステップで取得した前記幅情報および前記深さ情報が、それぞれ所定の要件を満たしているか否かを判定するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被接合部材を摩擦攪拌接合した直後に接合ビード部の深さ情報と幅情報、及びバリ高さ情報に基づいて接合品質の適合または不適合を判定可能な摩擦攪拌接合装置及び接合品質の判定方法を実現することができる。
【0012】
これにより、被接合部材を摩擦攪拌接合した直後に接合不適合品を摘出することが可能となり、接合強度の弱い製品を確実に排除し、生産性向上及び品質向上に寄与できる。
【0013】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例1に係る摩擦攪拌接合装置の全体概要を示す図である。
【
図2A】ビード形状による接合品質の判定例(適合)を示す図である。
【
図2B】ビード形状による接合品質の判定例(不適合)を示す図である。
【
図2C】ビード形状による接合品質の判定例(不適合)を示す図である。
【
図2D】ビード形状による接合品質の判定例(不適合)を示す図である。
【
図2E】ビード形状による接合品質の判定例(不適合)を示す図である。
【
図3A】バリ形状による接合品質の判定例(適合)を示す図である。
【
図3B】バリ形状による接合品質の判定例(不適合)を示す図である。
【
図3C】バリ形状による接合品質の判定例(不適合)を示す図である。
【
図4】
図1の計測装置の具体例を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る接合品質の判定方法を示すフローチャートである。
【
図6】主軸モータ負荷率と接合ツール挿入動作の関係を概念的に示す図である。
【
図7】本発明の実施例2に係る摩擦攪拌接合装置の計測装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例0016】
図1から
図6を参照して、本発明の実施例1に係る摩擦攪拌接合装置及び接合品質の判定方法について説明する。
【0017】
図1は、本実施例の摩擦攪拌接合装置1の全体概要を示す図である。
【0018】
本実施例の摩擦攪拌接合装置1は、
図1に示すように、主要な構成として、装置本体2と、Z軸上下動駆動機構部3を介して装置本体2に接続される主軸支持部4と、主軸支持部4により保持される主軸15と、主軸15により保持されるツールホルダ(接合ヘッド)5と、ツールホルダ(接合ヘッド)5により保持される接合ツール6とを備えて構成されている。
【0019】
Z軸上下動駆動機構部3には、
図1に例示するように、例えばボールスクリュー、リニアガイドなどが用いられ、Z軸上下動駆モータ16により装置本体2に対して主軸支持部4をZ軸方向(上下方向)に駆動させる。
【0020】
接合ツール6はショルダ部7およびプローブ部(接合ピン)8で構成され、主軸モータ14に連結(
図1では直結)されている。主軸モータ14は、接合ツール6を所定方向に回転させる。
【0021】
装置本体2は、Z軸上下動駆動機構部3を介して主軸支持部4を支持し、装置本体2に搭載(付属)された制御部(制御装置)11から主軸モータ14に駆動信号を付与して接合ツール6を回転させながら接合線に沿って進行させる。つまり、装置本体2は、主軸支持部4と、主軸15と、ツールホルダ(接合ヘッド)5を保持し、接合ツール6を回転させると共に、接合ツール6を
図1のX軸方向およびZ軸方向に移動させる。
【0022】
接合ツール6を所定の回転数で回転させながら、載置台10上に載置された被接合部材9(9a,9b)表面の接合線上にショルダ部7とプローブ部8とを押し付けることにより摩擦熱を発生させて被接合部材9を軟化させ、ショルダ部7とプローブ部8とを被接合部材9に必要量挿入し、当該回転数を保持することで塑性流動が生じ、挿入部が攪拌される。接合ツール6を引き抜く、又は移動することで攪拌部(接合部)が冷却され、被接合部材9は接合される。
【0023】
なお、
図1では、ツールホルダ(接合ヘッド)5及び接合ツール6が、主軸15及び主軸支持部4、Z軸上下動駆動機構部3を介して装置本体2に接続(保持)される構成を示しているが、これに限定されるものではなく、例えば、Z軸上下動駆動機構部3のみを介して装置本体2に接続(保持)される構成や、他の可動手段を介して装置本体2に接続(保持)される構成、ツールホルダ(接合ヘッド)5及び接合ツール6が直接装置本体2に接続(保持)される構成、或いは、
図1の構成に、さらにツールホルダ(接合ヘッド)5と装置本体2の間にC型フレームを設ける構成、多軸ロボットアームを有する装置本体2に接続(保持)される構成なども本実施例の範囲に含むものとする。
【0024】
また、ショルダ部7とプローブ部(接合ピン)8とが同一である接合ツール(つまりプローブを有さず、ショルダのみ)であっても良く、また、ショルダ部7が回転しない構造であっても良い。
【0025】
装置本体2には、摩擦攪拌接合装置1の動作を制御する制御部(制御装置)11が設置(付属)されている。制御部(制御装置)11は、接合ツール6による接合条件を決定する接合条件信号やZ軸上下動駆動機構部3による接合ツール6の鉛直方向(Z方向)の保持位置(接合ピン8の挿入量)を決定する保持位置決定信号などの接合パラメータ(FSW接合条件)を記憶する記憶部(図示せず)を備えている。なお、制御部11は、制御装置として装置本体2とは別に構成してもよい。
【0026】
また、装置本体2には、X軸方向に駆動可能なX軸前後駆動機構部12が設けられており、X軸前後駆動モータ13により装置本体2の上部をX軸方向に設けられたリニアガイドのレールに沿って移動させることで、ツールホルダ(接合ヘッド)5及び接合ツール6をX軸方向(接合方向)へ移動させることができる。
【0027】
ここで、本実施例の摩擦攪拌接合装置1には、
図1に示すように、接合ツール6の進行方向の反対側となる主軸15の後ろ側に計測装置17が設置されている。
【0028】
計測装置17は、被接合部材9(9a,9b)の接合部に対してレーザ光18を照射することで、被接合部材9(9a,9b)を摩擦攪拌接合した直後の接合品質情報を取得する。計測装置17により取得した接合品質情報は、制御部(制御装置)11に入力され、摩擦攪拌接合装置1の制御にフィードバックされる。
【0029】
図4に、計測装置17の具体例を示す。本実施例では、
図4に示すように、計測装置17として、レーザ変位計を使用する。摩擦攪拌接合した部位を示す接合ビード部20に対して、計測装置17からレーザ光18を照射することで、接合ビード部20の深さ情報と幅情報とバリ情報を一度の計測で取得することができる。
【0030】
なお、
図4では、被接合部材9をX軸方向に移動可能な載置台移動機構部10aを備える載置台10の構成例を示しているが、載置台移動機構部は被接合部材9をY軸方向に移動可能に構成されていても良い。
【0031】
次に、
図6を用いて、摩擦攪拌接合装置1の運用例を説明する。
図6は、主軸モータ負荷率と接合ツール挿入動作の関係を概念的に示す図である。
【0032】
本実施例の摩擦攪拌接合装置1のように、被接合部材を線形に摩擦攪拌接合する摩擦攪拌接合装置においては、一般的に、
図6に示すような運用を行う。
【0033】
摩擦攪拌接合始端部において、接合ツール6を所定の回転速度を示す目標回転速度で回転しながら被接合部材9(被接合部材9a及び被接合部材9bを突き合わせたもの)に目標とする深度を示す目標深度まで挿入する。
【0034】
プローブ部(接合ピン)8を被接合部材9に接触させて接合ツール6の挿入を開始すると、接合ツール位置が深くなるに従い主軸モータ14の負荷率は上昇する。
【0035】
接合ツール6の挿入中にショルダ部7が被接合部材9に接触すると、主軸モータ14の負荷率の上昇率は一時的に低下するが、接合ツール6の挿入がさらに進むと、主軸モータ14の負荷率の上昇率は再び上昇する。
【0036】
目標深度、すなわち接合ツール6の挿入時の目標負荷率または目標接合ツール位置に到達した時点で、接合ツール6の挿入処理を終了する。接合ツール位置を固定した状態で、その位置において、接合ツール6近傍の被接合部材9の温度を示す接合温度が所望の値に上昇するまで入熱処理を行う。
【0037】
その後、接合線19(被接合部材9a及び被接合部材9bの突き合わせ部)上を所定の進行速度を示す目標進行速度で接合ツール6を摩擦攪拌接合終端部まで進行させて被接合部材9を摩擦攪拌接合する。摩擦攪拌接合処理の間は、主軸モータ負荷率と接合ツール位置をともに一定の値(目標値)を保持するように、主軸モータ14及びZ軸上下動駆動モータ16の駆動を制御する。
【0038】
摩擦攪拌接合処理が終了した時点で、接合ツール6の引き抜きを開始すると、接合ツール位置が浅くなるに従い主軸モータ14の負荷率は低下する。
【0039】
摩擦攪拌接合においては、摩擦攪拌接合した部位を示す接合ビード部20の接合状態を示す接合品質の適合または不適合の判定が重要であり、不適合であれば要求される強度を達成できず、次の工程に影響することとなる。したがって、接合品質の適合または不適合をできるだけ早く判定することが必要となる。
【0040】
そこで、本実施例の摩擦攪拌接合装置1においては、次のように実現する。
【0041】
線形に摩擦攪拌接合する被接合部材では、接合後にパネルとして完成品を構成するには、要求される強度を満足する必要がある。本実施例では、強度に関しては、摩擦攪拌接合した部位を示す接合ビード部の深さの値を示す深さ情報と、接合ビード部の幅の値を示す幅情報に基づいて判定する。
【0042】
また、摩擦攪拌接合した後の作業工程において、摩擦攪拌した際に発生するバリの高さを示すバリ高さ情報も影響する。バリ高さ情報が大きいと、バリ削除に時間を要し、生産性に影響することになる。
【0043】
したがって、本実施例では、接合品質を接合ビード部の深さ情報と幅情報、及びバリ高さ情報により適合または不適合を判定する。
【0044】
先ず、摩擦攪拌接合した被接合部材9の使用目的により、接合強度としての接合ビード部の深さ情報と幅情報の要求値を、深さ要件および幅要件として設定する。
【0045】
それぞれの要件は基準値を設定し、(基準値±Δ)として、若干の幅を持たせる。つまり、接合ビード部の深さ情報、幅情報の計測値が、(基準値-Δ≦計測値≦基準値+Δ)を満たすことで適合とする。
【0046】
当然、Δの値を小さくするほど要求仕様は厳しくなり、接合品質は高精度となる。また、Δの値は、深さ情報と幅情報とで同じ場合も異なる場合もある。用途に応じて設定すれば良い。
【0047】
実際の接合品質の判定においては、接合ビード部の深さ情報と幅情報を取得し、これらの値がそれぞれの要件を満たしているかを判定する。接合ビード部の深さ情報に関して、(基準値(深さ要件)-Δ≦深さ情報≦基準値(深さ要件)+Δ)が成立すること、さらに、接合ビード部の幅情報に関して、(基準値(幅要件)-Δ≦幅情報≦基準値(幅要件)+Δ)が成立することをANDで満たすことで接合品質(強度)が適合となり、何れかを満たしていないときには接合品質(強度)が不適合となる。
【0048】
図2Aから
図2Eを用いて、具体例を説明する。
図2Aから
図2Eは、ビード形状による接合品質(強度)の判定例を示す図である。
【0049】
図2Aは、接合品質(強度)適合の例である。接合ビード部の深さ情報、接合ビード部の幅情報が、ともに要件を満たしている。
【0050】
図2Bは、接合品質(強度)不適合の例である。深さ情報は適正であるが、幅情報が不適合(小)である。
【0051】
図2Cは、接合品質(強度)不適合の例である。幅情報は適正であるが、深さ情報が不適合(浅い)である。
【0052】
図2Dは、接合品質(強度)不適合の例である。幅情報は適正であるが、深さ情報が不適合(深い)である。
【0053】
図2Eは、接合品質(強度)不適合の例である。深さ情報及び幅情報ともに不適合(幅:小,深さ:浅い)である。
【0054】
接合品質(強度)が不適合となった被接合部材は、要求された仕様(強度)を満たさないことから、完成品を構成する部品としては使用できないこととなる。
【0055】
次に、摩擦攪拌接合工程の次工程(例えばプレス成形工程やバリ削除工程)において要求されるバリ要件を設定する。すなわち、(基準値(バリ要件)+Δ)を設定する。当然、Δの値を小さくするほど要求仕様は厳しくなり、接合品質は高精度となるが、用途に応じて設定すれば良い。
【0056】
実際の接合品質の判定においては、接合ビード部のバリ高さ情報を取得し、設定した要件を満たしているかを判定する。(バリ高さ情報≦基準値(バリ要件)+Δ)が成立することで接合品質(バリ)が適合となり、満たしていないときは接合品質(バリ)が不適合となる。
【0057】
なお、接合品質(バリ)が適合と判定するには、接合ツールの進行方向のAS側(アドバンシングサイド)及びRS側(リトリーティングサイド)の両側においてバリ要件を満たす必要がある。AS側またはRS側の何れかだけがバリ要件を満たしても接合品質(バリ)適合とならない。
【0058】
接合品質(バリ)不適合となった被接合部材は、次工程でバリ削除作業に必要以上の時間を要することとなり、全体の生産性に影響を与える。
【0059】
【0060】
図3Aは、接合品質(バリ)適合の例である。AS側のバリ高さ情報、RS側のバリ高さ情報が、ともに要件を満たしている。
【0061】
図3Bは、接合品質(バリ)不適合の例である。AS側のバリ高さ情報及びRS側のバリ高さ情報ともに要件を満たしていない。
【0062】
図3Cは、接合品質(バリ)不適合の例である。AS側のバリ高さ情報は要件を満たしているが、RS側のバリ高さ情報は要件を満たしていない。
【0063】
なお、接合品質の判定では、先ず、接合ビード部の深さ情報及び幅情報による強度の判定を行い、その結果が適合である場合にバリ発生量の判定を行う。これは、作業時間を短縮するためである。強度の判定において不適合と判定した場合には、バリ発生量の判定を行う必要がない。
【0064】
図5のフローチャートを用いて、本実施例の接合品質の判定方法について詳述する。
【0065】
先ず、ステップS1において、被接合部材9の材質と厚みに基づいて、接合ツール6の目標回転速度と目標進行速度、目標深度を設定する。
【0066】
ステップS1と並行して、ステップS2において、摩擦攪拌接合する被接合部材9の用途により要求される接合品質を確保できる要件として、接合ビード部20の深さ要件と幅要件、及びバリ要件を設定し、接合品質の判定を行う間隔を設定する。間隔は、時間で設定しても良いし、接合ツール6の進む距離で設定しても良い。
【0067】
次に、ステップS3において、接合ツール6を被接合部材9の摩擦攪拌始端部にセットし、目標回転速度で接合ツール6を回転させながら被接合部材9に目標深度まで挿入する。その位置において、挿入部の温度が所望の温度になるまで入熱処理を行い、その後、目標進行速度で接合ツール6を接合線に沿って進行する。
【0068】
続いて、ステップS4において、接合ツール6の進行方向後ろ側に設置した計測装置17により接合ビード部20の状態情報(深さ情報・幅情報・バリ情報)を取得する。
【0069】
次に、ステップS5において、接合ビード部20の深さ情報が深さ要件を満たしているか、かつ、接合ビード部20の幅情報が幅要件を満たしいているかを判定する。両要件を満たしているときに接合品質(強度)適合と判定し、ステップS6に進む。一方、何れかの要件を満たしていないとき、または両方の要件を満たしていないときは、接合品質(強度)不適合として、不適合信号を出力する。
【0070】
続いて、ステップS6において、バリ情報がバリ要件を満たしているかを判定する。バリ要件を満たしているときは接合品質(バリ)適合と判定し、ステップS7に進む。一方、バリ要件を満たしていないときは接合品質(バリ)不適合として、不適合信号を出力する。
【0071】
次に、ステップS7において、接合ツール6の移動量または経過時間が所定の値(位置・時間)に達したか否かを判定する。所定の値に達したと判定した場合(Yes)、ステップS8に進み、被接合部材9の接合部から接合ツール6を引き抜いて、摩擦攪拌接合処理を終了する。
【0072】
一方、接合ツール6の移動量または経過時間が所定の値(位置・時間)に達していないと判定した場合(No)には、ステップS4に戻り、ステップS4以降の処理を繰り返す。
【0073】
上記のステップS4からステップS6の処理を定間隔で、被接合部材9を摩擦攪拌接合した直後に行いながら、摩擦攪拌接合終端部まで接合ツール6を進行させることにより、接合品質不適合を速やかに検出することが可能となる。
接合ツール6(ショルダ部7及びプローブ部8)の進行方向の反対側となる主軸15の後ろ側に設置した撮像装置21により接合ビード部20を撮像することで、撮像した画像情報22から接合ビード部20の深さ情報と幅情報とバリ情報を一度の撮像で取得することができる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。