(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168016
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】車両の駆動力制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/19 20160101AFI20231116BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20231116BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20231116BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20231116BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20231116BHJP
F02P 5/145 20060101ALI20231116BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20231116BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20231116BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20231116BHJP
【FI】
B60W20/19
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/08 900
B60W10/06 900
F02P5/145 B
F02D29/06 H
F02D45/00 362
F02D45/00 364A
F02D45/00 366
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079611
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 真二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 健史
【テーマコード(参考)】
3D202
3G022
3G093
3G384
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB00
3D202BB02
3D202BB08
3D202BB11
3D202CC22
3D202DD05
3D202DD16
3D202DD18
3D202FF07
3D202FF13
3G022CA09
3G022DA02
3G022GA05
3G022GA08
3G022GA19
3G093AA01
3G093BA15
3G093DA01
3G093DA05
3G093DA06
3G093EA02
3G093EA13
3G093EC02
3G384AA01
3G384BA02
3G384BA24
3G384DA05
3G384EB04
3G384FA06Z
3G384FA08Z
3G384FA28Z
3G384FA54Z
3G384FA56Z
3G384FA79Z
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125CA02
5H125EE09
5H125EE31
5H125EE42
(57)【要約】
【課題】運転者のアクセル操作に対するトルク変化の応答遅れを抑制しながら、実際のトルクと目標トルクとの乖離を改善する。
【解決手段】車両の駆動力制御装置は、モータ5と、エンジン4と、コントローラ20と、を備え、コントローラは、車両の目標トルクから目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配しかつ、エンジンへ、目標エンジントルクに対応する制御信号を出力し、コントローラは、目標エンジントルクに基づいて、現時点よりも未来における前記気筒への吸入空気量を予測すると共に、予測した吸入空気量に基づいて、現時点から設定時間後におけるエンジンのトルクを予測し、コントローラは、予測した設定時間後のエンジンのトルクに基づいて、車両の目標トルクが達成されるよう設定時間後の目標モータトルクを設定しかつ、モータへ目標モータトルクに対応する制御信号を出力し、エンジンのトルク応答とモータのトルク応答とを同期させる。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力が供給されて車両走行用のトルクを発生させるモータと、
気筒内において燃料を燃焼させて車両走行用のトルクを発生させるエンジンと、
アクセル操作信号を受けると共に、アクセル操作に対応する制御信号を、前記モータ及び前記エンジンへ出力するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記アクセル操作に対応する前記車両の目標トルクを設定すると共に、当該車両の目標トルクから目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配しかつ、前記エンジンへ、前記目標エンジントルクに対応する制御信号を出力し、
前記コントローラは、前記目標エンジントルクに基づいて、現時点よりも未来における前記気筒への吸入空気量を予測すると共に、予測した吸入空気量に基づいて、現時点から設定時間後における前記エンジンのトルクを予測し、
前記コントローラは、予測した設定時間後の前記エンジンのトルクに基づいて、前記車両の目標トルクが達成されるよう前記設定時間後の目標モータトルクを設定しかつ、前記モータへ、前記目標モータトルクに対応する制御信号を出力し、前記エンジンのトルク応答と前記モータのトルク応答とを同期させる、車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記コントローラは、前記エンジンのトルクの予測において、前記エンジンの回転数が低い場合は、高い場合よりも、予測した吸入空気量の変化に対する、前記エンジンのトルク変化を遅らせる、車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記コントローラは、前記エンジンの回転数が高いほどトルク変化に係る遅延時間を短くすると共に、前記エンジンの回転数が基準回転数よりも高い場合は、前記遅延時間をゼロにする、車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記コントローラは、予測した前記エンジンのトルクと、前記目標エンジントルクとの差分を補完するよう、前記目標モータトルクを設定する、車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記コントローラは、予測した吸入空気量と、前記エンジンの運転状態から定まる最適点火タイミングとに基づいて、現時点から設定時間後における前記エンジンのトルクを予測する、車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記コントローラは、前記目標モータトルクを、前記モータが発生できる最小トルク以上に設定し、
前記コントローラは、前記目標モータトルクが前記最小トルクによって制限される場合、前記エンジンのトルクが低下するよう、前記エンジンの点火タイミングを、前記最適点火タイミングよりも遅角させる、車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記コントローラは、
前記目標エンジントルクに基づいて、アクセル操作後の前記エンジンのスロットル弁の開度の変化を予測し、
予測した前記スロットル弁の開度の変化と、前記エンジンのインテークマニホールドの圧力とから、前記スロットル弁を通過する空気量を予測し、
予測した前記スロットル弁を通過する空気量から、前記インテークマニホールド内の空気量を予測し、
予測した前記インテークマニホールド内の空気量から、前記気筒への吸入空気量を予測する、車両の駆動力制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両の駆動力制御装置において、
前記コントローラは、
前記目標エンジントルクに基づいて、アクセル操作後の前記エンジンの吸気弁の開閉時期の変化を予測し、
予測した前記吸気弁の開閉時期から、充填効率を予測し、
予測した充填効率と、予測した前記インテークマニホールド内の空気量とから、前記気筒への吸入空気量を予測する、車両の駆動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンとモータとが搭載されたハイブリッド車両が開示されている。エンジン及びモータは、運転者のアクセル操作に応じた要求トルクを分担して出力する。このハイブリッド車両のコントローラは、エンジン及びモータの両方にトルク増大を要求する場合に、エンジンの応答遅れを模擬した所定時間だけ、モータに対するトルク要求を遅延させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン及びモータが搭載されたハイブリッド車両は、エネルギ効率が最適になるよう、車両の目標トルクをエンジン及びモータに配分する。エンジン及びモータへのトルク配分は、例えばSOC(State of Charge)、及び/又は、温度といったバッテリ状態、及び/又は、エンジン水温を含む様々なエンジン状態に応じて、逐次変化する。
【0005】
一般的に、エンジンのトルク応答は、モータのトルク応答よりも遅い。そのため、目標トルクが変化した過渡時には、モータのトルク変化に対して、エンジンのトルク変化が遅れる場合がある。エンジンのトルク変化の遅れは、車両のトルク変動を招く。また、エンジンのトルク変化の遅れは、エンジン及びモータが実際に発生させた合計トルクと、目標トルクとの乖離を招く場合がある。
【0006】
従来のハイブリッド車両は、モータのトルク増大のタイミングを、エンジンのトルク増大のタイミングに一致するよう遅らせている。従来のハイブリッド車両は、エンジンのトルク増大とモータのトルク増大とが同期するため、トルク変動が生じにくい。
【0007】
しかしながら、従来のハイブリッド車両では、モータのトルク増大のタイミングを遅らせるため、運転者のアクセル操作に対する、自動車のトルク増大が遅れる。従来のハイブリッド車両は、ドライバビリティが悪い。また、残念ながら従来のハイブリッド車両は、エンジンのトルク増大とモータのトルク増大とを同期させるだけであるので、実際のトルクと目標トルクとの乖離を、改善することができない。
【0008】
ここに開示する技術は、運転者のアクセル操作に対するトルク変化の応答遅れを抑制しながら、実際のトルクと目標トルクとの乖離を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
エンジン及びモータが搭載されたハイブリッド車両では、モータにエンジンの応答遅れを補完させることにより、応答遅れの抑制と、トルク乖離の改善との両方を実現することが考えられる。すなわち、運転者のアクセル操作に応じて目標エンジントルクを変更する場合に、コントローラが、実際のエンジントルクと目標エンジントルクとの差分を求めると共に、エンジントルクの差分がモータトルクによって補完されるよう、目標のモータトルクを補正することが考えられる。高応答のモータは、エンジンの応答遅れに起因するエンジントルクの差分を補完できる。モータによる補完は、アクセル操作に対するトルク応答の遅れを抑制できると共に、実際のトルクと目標トルクとの乖離も改善できる。
【0010】
ところが、エンジントルクの検出、トルク差分の算出、及び/又は、モータトルクの補正量の設定には時間を要する。前述した制御プロセスにおいて、エンジンのトルクを検出してからモータの補正量を設定している間にも、実際のエンジントルクは刻々と変化する。モータトルクの補正は、実際のエンジントルクの変化に対して後追いとなる。実際のトルクと目標トルクとの乖離は無くならない。
【0011】
本願発明者らは、エンジントルクの変化を先読みすることによって、現時点よりも未来におけるエンジントルクを予測し、予測したエンジントルクに基づいて、現時点から設定時間後における目標モータトルクを設定する技術思想を着想した。本願発明者らは、その技術思想を実現する制御の構築を進め、ここに開示する技術を完成させるに至った。
【0012】
具体的に、ここに開示する技術は、車両の駆動力制御装置に係る。この車両の駆動力制御装置は、
電力が供給されて車両走行用のトルクを発生させるモータと、
気筒内において燃料を燃焼させて車両走行用のトルクを発生させるエンジンと、
アクセル操作信号を受けると共に、アクセル操作に対応する制御信号を、前記モータ及び前記エンジンへ出力するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記アクセル操作に対応する前記車両の目標トルクを設定すると共に、当該車両の目標トルクから目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配しかつ、前記エンジンへ、前記目標エンジントルクに対応する制御信号を出力し、
前記コントローラは、前記目標エンジントルクに基づいて、現時点よりも未来における前記気筒への吸入空気量を予測すると共に、予測した吸入空気量に基づいて、現時点から設定時間後における前記エンジンのトルクを予測し、
前記コントローラは、予測した設定時間後の前記エンジンのトルクに基づいて、前記車両の目標トルクが達成されるよう前記設定時間後の目標モータトルクを設定しかつ、前記モータへ、前記目標モータトルクに対応する制御信号を出力し、前記エンジンのトルク応答と前記モータのトルク応答とを同期させる。
【0013】
この構成の車両は、モータ及びエンジンを備えている車両であり、いわゆるハイブリッド車両である。コントローラは、アクセル操作に対応する車両の目標トルクが達成されるよう、車両の目標トルクを、目標エンジントルク及び目標モータトルクに分配する。エンジンが目標エンジントルクを出力し、モータが目標モータトルクを出力する。エンジン及びモータが、車両の目標トルクを実現する。
【0014】
コントローラは、目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配する。分配ルールは、例えばバッテリのSOCに基づくルールである。バッテリは、モータへ電力を供給するために車両に搭載される。コントローラは、SOCが高い場合は、バッテリの放電を優先するため、目標エンジントルクが小さくかつ、目標モータトルクが大きくなるようにし、SOCが低い場合は、バッテリの充電を優先するため、目標エンジントルクが大きくかつ、目標モータトルクが小さくなるようにしてもよい。コントローラは、エンジンへ、目標エンジントルクに対応する制御信号を出力する。エンジンは、目標エンジントルクを出力するよう運転する。
【0015】
運転者がアクセル操作を行うと、コントローラは、アクセル操作の変化に対応するよう、車両の目標トルクを変える。車両の目標トルクの変更に伴い、コントローラは、目標エンジントルクを変える。目標エンジントルクが変わると、エンジンは、例えばスロットル弁の開度を変更させ、それによって、気筒への吸入空気量が変わる。気筒への吸入空気量が変わるとエンジントルクが変わる。目標トルクの変更から、スロットル弁の開度変更及び吸入空気量の変更を経て、エンジントルクが実際に変わるまでには、タイムラグが生じる。
【0016】
目標エンジントルクの変更に対する、スロットル弁の開度変化は、例えばスロットル弁の特性(例えば機械的な特性を含む)を予め特定しておくことによって予測できる。現時点よりも未来におけるスロットル弁の開度変化が予測できれば、未来における吸入空気量が予測でき、吸入空気量が予測できれば、未来におけるエンジンのトルクが予測できる。コントローラは、目標エンジントルクに基づいて、未来におけるエンジンのトルクを予測する。より詳細にコントローラは、現時点から設定時間後におけるエンジンのトルクを予測する。
【0017】
コントローラはまた、現時点から設定時間後におけるエンジンのトルクを予測すれば、車両の目標トルクが達成されるよう、設定時間後における目標モータトルクを設定する。予測されるエンジンのトルクが、目標エンジントルクに対して下回る場合、目標モータトルクは、エンジントルクの不足分を補うよう、大に設定される。予測されるエンジンのトルクが、目標エンジントルクを上回る場合、目標モータトルクは、エンジントルクの余剰分を考慮して小に設定される。設定される目標モータトルクは、エンジンのトルク応答の遅れを補完する。
【0018】
コントローラは、モータへ、目標モータトルクに対応する制御信号を出力する。モータのトルク応答は一般的に早いため、モータは、設定時間後における目標モータトルクに対応するトルクを出力できる。エンジンのトルク応答とモータのトルク応答とが同期する。その結果、車両のトルク変動が抑制される。また、車両の目標トルクが達成される。
【0019】
高応答のモータがエンジンの応答遅れを補完するため、前記の駆動力制御装置では、アクセル操作に対するトルク変化の応答遅れが抑制される。
【0020】
また、実際のエンジントルクではなく、未来におけるエンジントルクを予測し、予測した未来におけるエンジントルクに基づいて、目標モータトルクが設定される。設定される目標モータトルクは、実際のエンジントルクの変化に対する後追いではない。前記の駆動力制御装置では、エンジンのトルク応答とモータのトルク応答とが同期することによって、実際のトルクと目標トルクとの乖離を無くす、又は、実質的に無くすことができる。
【0021】
その結果、前記の車両の駆動力制御装置は、運転者のドライバビリティを向上させる。
【0022】
前記コントローラは、前記エンジンのトルクの予測において、前記エンジンの回転数が低い場合は、高い場合よりも、予測した吸入空気量の変化に対する、前記エンジンのトルク変化を遅らせる、としてもよい。
【0023】
エンジンの回転数が高い場合、エンジンが有する複数の気筒についての燃焼間隔(つまり時間間隔)が短い。エンジンの回転数が低い場合、複数の気筒についての燃焼間隔(つまり時間間隔)が長い。気筒への吸入空気量が変化してから、エンジンのトルクが実際に変化するまでの時間は、エンジンの回転数に応じて変わる。エンジンの回転数が高い場合、気筒への吸入空気量が変化してから、エンジンのトルクが変化するまでの時間が短い。エンジンの回転数が低い場合、気筒への吸入空気量が変化してから、エンジンのトルクが変化するまでの時間が長い。
【0024】
コントローラは、エンジンの回転数が低い場合は、高い場合よりも、予測した吸入空気量の変化に対する、前記エンジンのトルク変化を遅らせる。コントローラは、現時間よりも未来におけるエンジンのトルクの変化を、精度良く予測できる。高精度に予測した設定時間後のエンジンのトルクに基づいて目標モータトルクが設定されることにより、エンジン及びモータのトルク応答が同期して車両のトルクが目標トルクに精度良く一致する。駆動力制御装置は、アクセル操作に対するトルク変化の応答遅れを抑制しながら、実際のトルクと目標トルクとの乖離を無くす、又は、実質的に無くすことができる。
【0025】
前記コントローラは、前記エンジンの回転数が高いほどトルク変化に係る遅延時間を短くすると共に、前記エンジンの回転数が基準回転数よりも高い場合は、前記遅延時間をゼロにする、としてもよい。
【0026】
エンジンの回転数が高いほど、気筒への吸入空気量が変化してから、エンジンのトルクが変化するまでの遅れ時間が短い。エンジンの回転数が高いほどトルク変化に係る遅延時間を短くすることは、現時点よりも未来における、エンジンのトルクの予測精度を高める。
【0027】
エンジンの回転数が十分に高い場合、トルク変化に係る遅延時間が極めて短くなるため、敢えて遅延時間を設定する必要性が低下する。エンジンの回転数が基準回転数よりも高い場合に、遅延時間をゼロにしても、コントローラは、エンジンのトルクを精度良く予測できる。
【0028】
尚、エンジンの回転数が高くなれば、エンジンのトルク変化の応答性が高まる結果、エンジンのトルク変化の応答性が、モータのトルク変化の応答性と同等になる、又は、エンジンのトルク変化の応答性の方が、モータのトルク変化の応答性よりも高くなる。エンジンの回転数が高い場合に、エンジンのトルク応答とモータのトルク応答とを同期させる目的でモータのトルク応答を早めることが考えられる。しかし、エンジン及びモータの一回転に要する時間が短いため、モータのトルク応答を早めなくても、エンジンのトルク応答とモータのトルク応答とは、実質的に同期する。
【0029】
前記コントローラは、予測した前記エンジンのトルクと、前記目標エンジントルクとの差分を補完するよう、前記目標モータトルクを設定する、としてもよい。
【0030】
モータは、エンジンの応答遅れを補完できる。
【0031】
前記コントローラは、予測した吸入空気量と、前記エンジンの運転状態から定まる最適点火タイミングとに基づいて、現時点から設定時間後における前記エンジンのトルクを予測する、としてもよい。
【0032】
ここで、最適点火タイミングは、例えばMBT(Minimum advance for the Best Torque)としてもよい。コントローラが目標エンジントルクをMBTに基づいて設定すれば、エンジンは、最良の効率で運転する。モータは、最良の効率で運転しているエンジンをアシストできる。
【0033】
また、例えばエンジンの触媒装置が未活性であって、エンジンがAWS(Accelerated Warm-up System)モードで運転している場合、最適点火タイミングは、MBTよりも遅角したタイミングである。最適点火タイミングは、MBTとは限らない。この場合、エンジンは触媒装置の早期活性化を図ることができる。触媒装置の早期活性化が図られながら、モータは、エンジンをアシストできる。
【0034】
前記コントローラは、前記目標モータトルクを、前記モータが発生できる最小トルク以上に設定し、
前記コントローラは、前記目標モータトルクが前記最小トルクによって制限される場合、前記エンジンのトルクが低下するよう、前記エンジンの点火タイミングを、前記最適点火タイミングよりも遅角させる、としてもよい。
【0035】
モータは、一般的に温度状態に応じて発生可能な最小トルクが定まる。また、バッテリのSOCが高いとモータは回生運転ができないため、モータの最小トルクは下がる。また、モータの性能によっても、発生可能な最小トルクが定まる。コントローラは、目標モータトルクを、モータが発生できる最小トルク以上に設定しなければならない。目標モータトルクが最小トルクによって制限される場合、設定される目標モータトルクは相対的に大きい。モータトルクとエンジントルクとが合わさったトルク、つまり車両の実際のトルクが、目標トルクを超えてしまう恐れがある。
【0036】
目標モータトルクが最小トルクによって制限される場合、コントローラは、エンジンの点火タイミングを、最適点火タイミングよりも遅角させる。点火タイミングの遅角は、エンジンのトルクを低下させるから、車両のトルクが目標トルクを超過することが避けられる。
【0037】
前記コントローラは、
前記目標エンジントルクに基づいて、アクセル操作後の前記エンジンのスロットル弁の開度の変化を予測し、
予測した前記スロットル弁の開度と、前記エンジンのインテークマニホールドの圧力とから、前記スロットル弁を通過する空気量を予測し、
予測した前記スロットル弁を通過する空気量から、前記インテークマニホールド内の空気量を予測し、
予測した前記インテークマニホールド内の空気量から、前記気筒への吸入空気量を予測する、としてもよい。
【0038】
アクセル操作後のスロットル弁の開度の変化は、例えばスロットル弁の機械特性を予め特定しておくことによって予測できる。現時点よりも未来におけるスロットル開度が予測できれば、スロットル弁よりも下流のインテークマニホールドの圧力とスロットル弁よりも上流の吸気圧力とから、例えばベルヌーイの式を用いて、現時点よりも未来において、スロットル弁を通過する空気量が予測できる。尚、インテークマニホールドの圧力は、後述するインテークマニホールド内の空気量を、圧力に換算してもよい。また、例えば圧力センサが、スロットル弁よりも上流の吸気圧力を計測してもよい。
【0039】
スロットル弁を通過する空気量が予測できれば、インテークマニホールド内の空気量が予測でき、インテークマニホールド内の空気量が予測できれば、気筒への吸入空気量が予測できる。コントローラは、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を予測できる。
【0040】
前記コントローラは、
前記目標エンジントルクに基づいて、アクセル操作後の前記エンジンの吸気弁の開閉時期の変化を予測し、
予測した前記吸気弁の開閉時期から、充填効率を予測し、
予測した充填効率と、予測した前記インテークマニホールド内の空気量とから、前記気筒への吸入空気量を予測する、としてもよい。
【0041】
アクセル操作後の吸気弁の開閉時期の変化は、吸気弁の開閉時期を変更する動弁機構の特性(例えば機械特性を含む)を予め特定しておくことによって予測できる。また、当該エンジンについて、吸気弁の開閉時期とエンジンの運転状態と充填効率との関係を、予め特定しておくことにより、予測した開閉時期に基づいて、コントローラは、充填効率を予測できる。
【0042】
充填効率が予測できれば、前述したインテークマニホールド内の空気量と、充填効率とから、気筒への吸入空気量が、より高精度に予測できる。コントローラは、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を、精度良く予測できる。
【発明の効果】
【0043】
前述した車両の駆動力制御装置は、運転者のアクセル操作に対するトルク変化の応答遅れを抑制しながら、実際のトルクと目標トルクとの乖離を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図2】
図2は、駆動力制御装置のブロック図である。
【
図3】
図3は、ハイブリッド自動車のモードに係るマップを示している。
【
図4】
図4は、コントローラの機能ブロックを示している。
【
図5】
図5は、トルク分配部の機能ブロックを示している。
【
図6】
図6は、エンジン制御部の機能ブロックを示している。
【
図7】
図7は、エンジン回転数と遅延時間との関係を示している。
【
図8】
図8は、駆動力制御のタイムチャートを示している。
【
図9】
図9は、トルク分配部の変形例を示している。
【
図10】
図10は、駆動力制御装置の制御に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、車両の駆動力制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する駆動力制御装置は例示である。
【0046】
(ハイブリッド自動車)
図1に、開示する技術を適用した自動車1(車両の一例)を示す。この自動車1は、電力を利用した走行が可能なハイブリッド自動車である。自動車1は、前輪2F及び後輪2Rの合計4つの車輪を有している。
【0047】
自動車1には、駆動源として、エンジン4及びモータ5が搭載されている。これらが協働して、後輪2Rを駆動する。それにより、自動車1は走行する。自動車1は後輪駆動車両である。モータ5はまた、駆動源としてだけでなく、回生時には発電機としても利用される。
【0048】
この自動車1は、高電圧バッテリ9を搭載している。高電圧バッテリ9からの電力供給により、モータ5は、自動車1の走行用のトルクを発生させる。高電圧バッテリ9には、給電口3を介して外部電源31が接続される。高電圧バッテリ9は、外部電源31によって充電される。自動車1は、いわゆるプラグインハイブリッド車である。尚、自動車1は、給電口3を省略したハイブリッド車であってもよい。
【0049】
この自動車1の場合、エンジン4は車体の前側に配置されており、駆動輪は車体の後側に配置されている。すなわち、この自動車1は、いわゆるFR車である。
【0050】
自動車1には、エンジン4、モータ5の他、駆動系の装置として、K0クラッチ6、インバータ7、自動変速機8が備えられている。自動車1にはまた、制御系の装置として、コントローラ20が備えられている。
【0051】
(駆動系の装置)
エンジン4は、例えば化石燃料を燃焼させる内燃機関である。エンジン4はまた、吸気、圧縮、膨張、排気の各サイクルを繰り返すことで回転動力を発生させる、いわゆる4サイクルエンジンである。
【0052】
エンジン4は、火花点火式エンジンである。尚、エンジン4は、圧縮着火式エンジンであってもよい。エンジン4は、複数の気筒を有している。尚、エンジン4の気筒数は、特定の数に制限されない。
【0053】
この自動車1では、エンジン4は、回転動力を出力するクランクシャフト4aを、車体の前後方向に向けた状態で、車幅方向の略中央部に配置されている。自動車1には、吸気システム、排気システム、燃料供給システム、点火システムなど、エンジン4に付随した様々な装置や機構が設置されている。エンジン4については、後で説明する。
【0054】
モータ5は、三相の交流によって駆動する永久磁石型の同期モータである。モータ5は、K0クラッチ6を介してエンジン4の後方に直列に配置されている。モータ5はまた、自動変速機8の前方に直列に配置されている。
【0055】
K0クラッチ6は、モータ5のシャフト5aの前端部と、エンジン4のクランクシャフト4aとの間に介在するように設置されている。K0クラッチ6は、クランクシャフト4aとシャフト5aとが連結された状態(接続状態)と、クランクシャフト4aとシャフト5aとが分離した状態(分離状態)とに切り替わる。
【0056】
モータ5のシャフト5aの後端部は自動変速機8の入力軸8aに連結されている。従って、エンジン4は、K0クラッチ6及びシャフト5aを介して、自動変速機8と連結されている。K0クラッチ6を分離状態にすることで、エンジン4は自動変速機8から切り離される。
【0057】
自動車1の走行中、K0クラッチ6は、接続状態と分離状態との間で切り替えられる。例えば、自動車1の減速時には、K0クラッチ6を分離状態にし、エンジン4を切り離した状態での回生が行われる場合がある。
【0058】
モータ5は、インバータ7及び高電圧ケーブル40を介して、駆動電源として車載されている高電圧バッテリ9と接続されている。高電圧ケーブル40には、コンタクタ90が介設している。
【0059】
高電圧バッテリ9は、インバータ7に高電圧の直流電力を供給する。インバータ7は、その直流電力を3相の交流に変換してモータ5に通電する。それにより、モータ5が回転駆動する。また、モータ5は、回生エネルギを、高電圧バッテリ9へ供給する。
【0060】
高電圧バッテリ9は、高電圧ケーブル40を介してDCDCコンバータ10とも接続されている。DCDCコンバータ10は、高電圧の直流電力を12Vの低電圧の直流電力に変換して出力する。DCDCコンバータ10(その出力側)は、低電圧ケーブル45を介して低電圧バッテリ11(いわゆる鉛蓄電池)と接続されている。
【0061】
低電圧バッテリ11は、低電圧ケーブル45を介して様々な電装品と接続されている。DCDCコンバータ10はまた、低電圧ケーブル45を介してCAN12(Controller Area Network)とも接続されている。それにより、DCDCコンバータ10はCAN12に低電圧の直流電力を供給する。
【0062】
自動変速機8は、多段式自動変速機(いわゆるAT)である。自動変速機8はその前端部に入力軸8aを有し、その入力軸8aが、上述したようにモータ5のシャフト5aと連結されている。自動変速機8はその後端部に、入力軸8aから独立した状態で回転する出力軸8bを有している。
【0063】
入力軸8aと出力軸8bとの間には、複数の遊星歯車機構、及び複数の摩擦締結要素などからなる変速機構が組み込まれている。各摩擦締結要素は、油圧によって締結状態と非締結状態とに切り替わる。自動変速機8は、油圧制御により、複数の摩擦締結要素を選択的に締結する。自動変速機8の変速段は、1速から8速までの前進用の変速段、及び、後退用の変速段(後退速)のいずれかに切り替わる。
【0064】
尚、各変速段において締結されるべき要素が締結されないと、入力軸8aと出力軸8bとの間が切り離された状態になる(いわゆるニュートラル)。自動変速機8に駆動源から回転動力が入力されても、その回転動力は自動変速機8から出力されない。
【0065】
図1に示すように、自動変速機8の出力軸8bは、車体の前後方向に延びるプロペラシャフト15を介してデファレンシャルギア16に連結されている。デファレンシャルギア16には、車幅方向に延びて、左右の後輪2R,2Rに連結された一対の駆動シャフト17,17が連結されている。プロペラシャフト15を通じて出力される回転動力は、デファレンシャルギア16で振り分けられた後、これら一対の駆動シャフト17,17を通じて各後輪2Rに伝達される。
【0066】
(エンジン)
エンジン4は、
図2に示すように、点火プラグ41、インジェクタ42、スロットル弁43、及び、吸気S-VT(Sequential-Valve Timing)44を有している。
【0067】
点火プラグ41は、エンジン4に取り付けられる。点火プラグ41は、コントローラ20からの制御信号を受けて、気筒内の混合気に、強制的に点火をする。
【0068】
インジェクタ42は、エンジン4に取り付けられる。インジェクタ42は、コントローラ20からの制御信号を受けて、燃料を、例えば気筒内へ噴射する。燃料と、気筒内へ吸入された空気とは、混合気を形成する。
【0069】
スロットル弁43は、エンジン4の吸気通路に取り付けられるバタフライ弁である。スロットル弁43は、コントローラ20からの制御信号を受けて開度を変える。スロットル弁43の開度が変わると、気筒内へ吸入される空気量が変わる。スロットル弁43の開度が大きくなると、吸入空気量が増える。スロットル弁43の開度が小さくなると、吸入空気量が減る。
【0070】
吸気S-VT44は、吸気弁の開閉時期を、例えば連続的に変更する。吸気S-VT44は、油圧駆動式又は電動式である。吸気S-VT44は、コントローラ20からの制御信号を受けて、吸気弁の開閉時期を、進角方向又は遅角方向へ変える。吸気S-VT44が吸気弁の開閉時期を変えると、充填効率が変わる。スロットル弁43の開度変化と、吸気弁の開閉時期の変化とが組み合わさって、気筒内への吸入空気量が変わる。
【0071】
(駆動力制御装置)
図2は、駆動力制御装置のブロック図である。自動車1には、運転者の操作に応じて、エンジン4、モータ5、K0クラッチ6、自動変速機8などを制御し、自動車1の走行をコントロールするために、上述したコントローラ20が設置されている。コントローラ20は、プロセッサ、メモリ、インターフェースなどのハードウエアと、データベースや制御プログラムなどのソフトウエアとで構成されている。尚、
図2の駆動力制御装置には、一つのコントローラ20が示されているが、駆動力制御装置のコントローラは、駆動源(エンジン4及びモータ5)の作動を主に制御するユニット(PCM)と、K0クラッチ6及び自動変速機8の作動を主に制御するユニット(TCM)とに分かれていてもよい。PCM及びTCMは、CAN12によって接続されていて、互いに電気通信可能に構成される。
【0072】
駆動力制御装置は、車両の走行に関係する各種のパラメータを計測するセンサを備えている。具体的に、駆動力制御装置は、アクセルポジションセンサ51、吸気圧力センサ52、水温センサ53、エンジン回転数センサ54、モータ回転数センサ55、車速センサ56、及び、SOCセンサ57を備えている。
【0073】
アクセルポジションセンサ51は、運転者が操作をするアクセルペダル19(
図1参照)の操作に対応する信号を出力する。
【0074】
吸気圧力センサ52は、エンジン4の吸気通路においてスロットル弁43の上流部分の圧力に対応する信号を出力する。水温センサ53は、エンジン4の冷却水の温度に対応する信号を出力する。
【0075】
エンジン回転数センサ54は、エンジン4の回転数に対応する信号を出力する。モータ回転数センサ55は、モータ5の回転数に対応する信号を出力する。尚、自動車1において、K0クラッチ6が接続状態となって、エンジン4及びモータ5のそれぞれがトルクを出力している場合、エンジン4の回転数とモータ5の回転数とは一致する。
【0076】
車速センサ56は、自動車1の車速に対応する信号を出力する。SOCセンサ57は、高電圧バッテリ9のSOCに対応する信号を出力する。
【0077】
コントローラ20は、これらのセンサが出力した信号を、CAN12を介して受ける。コントローラ20は、CAN12を通じて、エンジン4、インバータ7、K0クラッチ6、及び、自動変速機8へ制御信号を出力する。これにより、コントローラ20は、エンジン4、モータ5、K0クラッチ6、及び、自動変速機8を制御する。
【0078】
(駆動力制御の詳細)
図3は、自動車1のモードに係るマップ91を示している。自動車1は、EVモードと、HEVモードとを有している。EVモードは、Electric Vehicleモードであって、モータ5のみが自動車1の走行用のトルクを出力するモードである。HEVモードは、Hybrid Electric Vehicleモードであって、エンジン4及びモータ5の両方が自動車1の走行用のトルクを出力するモードである。エンジン水温が比較的高くかつ、高電圧バッテリ9のSOCが比較的高い場合、自動車1は、EVモードである。高電圧バッテリ9の電力を用いることによって燃費性能が向上する。エンジン水温が低い場合、自動車1は、HEVモードである。エンジン1の運転によって温度が高まったエンジンの冷却水を利用して、車室内の暖房を行う。自動車1のエネルギ効率が向上する。高電圧バッテリ9のSOCが比較的低い場合、自動車1は、HEVモードである。エンジン1の運転は、高電圧バッテリ9の電力消費を抑制しながら高電圧バッテリ9を充電させる。高電圧バッテリ9のSOCが回復する。
【0079】
コントローラ20は、マップ91を記憶している。コントローラ20は、自動車1の目標トルクを目標エンジントルクと目標モータトルクとの両方に分配するか(つまり、HEVモード)、又は、自動車1の目標トルクを目標モータトルクのみに分配するか(つまり、EVモード)を、マップ91に従って切り替える。
【0080】
ここで、この自動車1において、HEVモード時のエンジン4の点火タイミングは、基本的にMBTである。エンジン4は、最良の効率で運転する。モータ5は、最良の効率で運転しているエンジン4をアシストする。
【0081】
尚、エンジン4の触媒装置が未活性であって、エンジン4がAWSモードで運転している場合、点火タイミングは、MBTよりも遅角する。これにより、排気損失が増大する。AWSモードの場合、エンジン4は、排気損失を使って触媒装置の早期活性化を図ることができる。モータ5は、触媒装置を活性化させているエンジン4をアシストする。
【0082】
次に、
図4-7を参照しながら、HEVモードにおける、エンジン4及びモータ5へのトルクの分配を説明する。
図4は、コントローラ20の機能ブロックを示している。コントローラ20は、機能ブロックとして、トルク変換部21、トルク調停部22、トルク分配部23、エンジン制御部24、及び、モータ制御部25を有している。
【0083】
トルク変換部21は、アクセルポジションセンサ51の信号を受けて、アクセルポジションから自動車1の目標トルクを設定する。より詳細に、トルク変換部21は、運転者のアクセル操作から自動車1の目標加速度を設定すると共に、自動車1の車速及び自動変速機8の変速段に基づいて、設定した目標加速度を目標トルク(つまり、自動車1の目標トルク)に変換する。
【0084】
トルク調停部22は、トルク変換部21が設定したアクセルポジションに基づく目標トルクを受けると共に、アクセルポジション以外のトルク要求信号を受けて、最終的な目標トルクを設定する。アクセルポジション以外のトルク要求信号には、例えば自動車1の挙動を安定化させるためのトルク要求信号が含まれる。
【0085】
トルク分配部23は、トルク調停部22が設定した自動車1の目標トルクであって、最終的な目標トルクを受けて、当該目標トルクを、目標エンジントルクと目標モータトルクとに分配する。尚、自動車1がEVモードの場合、目標エンジントルクはゼロであって、目標モータトルクは、自動車1の目標トルクと一致する。トルク分配部23については、後で詳細に説明する。
【0086】
エンジン制御部24は、トルク分配部23によって設定された目標エンジントルクに対応する制御信号を、エンジン4、より詳細には、点火プラグ41、インジェクタ42、スロットル弁43及び吸気S-VT44へ出力する。エンジン4は、目標エンジントルクが実現するように運転する。
【0087】
モータ制御部25は、トルク分配部23によって設定された目標モータトルクに対応する制御信号を、インバータ7へ出力する。インバータ7を通じて、モータ5が制御される。モータ5は、目標モータトルクが実現するように運転する。エンジン4がトルクを出力しかつ、モータ5がトルクを出力することによって、自動車1の目標トルクが達成される。
【0088】
図5は、トルク分配部23の機能ブロックを示している。トルク分配部23は、機能ブロックとして、SOC管理部231、第1加減算器232、エンジントルク演算部233、位相調整部234、第2加減算器235、制限部236、第3加減算器237、及び、加算器238を有している。
【0089】
SOC管理部231は、トルク調停部22が設定した最終的な自動車1の目標トルクを受ける。SOC管理部231はまた、高電圧バッテリ9の情報を受ける。高電圧バッテリ9の情報には、SOCセンサ57の計測信号に基づく高電圧バッテリ9のSOC、及び、高電圧バッテリ9の温度が少なくとも含まれる。SOC管理部231は、自動車1の目標トルクとバッテリ情報とに基づいて、モータ5の目標トルクを仮設定する。SOC管理部231は、例えばSOCが高い場合、目標モータトルクを高くして、モータ5によるエンジン4のアシスト量を増やす。SOC管理部231は、例えばSOCが低い場合、高電圧バッテリ9の充電を優先するため、目標モータトルクを低くする。ここで設定される目標モータトルクは、定常分の目標モータトルクに相当する。
【0090】
第1加減算器232は、自動車1の目標トルクから、SOC管理部231が設定した目標モータトルクを減算する。第1加減算器232の出力は、第1目標エンジントルクである。第1目標エンジントルクは、定常分の目標エンジントルクに相当する。第1目標エンジントルクは、気筒内への空気量を調整することにより達成されるトルクと言い換えることができる。トルク分配部23は、第1目標エンジントルクを、エンジン制御部24へ出力する。
【0091】
運転者がアクセルペダル19の操作を行うと、自動車の目標トルクが変更される。自動車1の目標トルクが変更されると、目標エンジントルク及び目標モータトルクが変更される。目標エンジントルクが変更されると、気筒内への吸入空気量を変更させるために、目標スロットル開度及び吸気弁の目標開閉時期が変更される。スロットル弁43の開度変更、及び/又は、吸気S-VT44による吸気弁の開閉時期の変更には時間を要し、スロットル弁43の開度変更及び吸気弁の開閉時期の変更後、気筒内の吸入空気量が実際に変更されるまでにも時間を要する。さらに、気筒内の吸入空気量が実際に変更された後、エンジン4のトルクが実際に変更されるまでにも時間を要する。運転者がアクセルペダル19の操作を行った後、エンジン4のトルクが目標エンジントルクへ変更されるまでにはタイムラグが生じる。
【0092】
トルク分配部23は、エンジン4の遅いトルク応答が補完されるよう、目標モータトルクを設定する。より詳細に、トルク分配部23は、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を予測すると共に、予測した吸入空気量に基づいて、未来におけるエンジン4のトルクを予測する。トルク分配部23は、予測したエンジン4のトルクに基づいて、未来において自動車1の目標トルクが達成されるよう目標モータトルクを設定する。
【0093】
目標トルクが変化した過渡時において、トルク分配部23の、SOC管理部231及び第1加減算器232は、定常分の目標エンジントルク、つまり、第1目標エンジントルクの設定に関係する。エンジントルク演算部233、位相調整部234、第2加減算器235、制限部236、第3加減算器237及び加算器238は、過渡分の目標エンジントルク(後述する第2目標エンジントルク)、及び、目標モータトルクの設定に関係する。
【0094】
エンジントルク演算部233は、現時点よりも未来における気筒内への吸入空気量の予測値を読み込む。吸入空気量の予測は、後述するように、エンジン制御部24が行う。エンジン制御部24は、現時点に対して予め定めた基準時間後の、吸入空気量の予測値を出力する。エンジントルク演算部233は、吸入空気量の予測値に基づいて、現時点よりも未来におけるエンジン4のトルクを予測する。より詳細に、エンジントルク演算部233は、吸入空気量の予測値に基づいて、エンジン4の運転状態から定まる最適点火タイミングで、点火プラグ41が点火を行った場合の、エンジン4のトルクを予測する。
【0095】
ここで、最適点火タイミングの一例は、前述したMBTである。つまり、エンジントルク演算部233は、吸入空気量の予測値に基づいて、点火プラグ41がMBTにおいて点火を行った場合の、エンジン4のトルクを予測する。また、エンジンがAWSモードで運転している場合、最適点火タイミングは、MBTよりも遅角したタイミングである。つまり、エンジントルク演算部233は、吸入空気量の予測値に基づいて、点火プラグ41がMBTよりも遅角したタイミングで点火を行った場合の、エンジン4のトルクを予測する場合がある。
【0096】
位相調整部234は、例えばコントローラ20の通信遅れ、モータ5の応答遅れ、エンジン4の応答遅れ等を考慮して、エンジン4のトルク変化とモータ5のトルク変化との同期を図る。一般的に、モータ5のトルク応答よりも、エンジン4のトルク応答は遅い。位相調整部234は、モータ5とエンジン4とのトルク応答差を考慮して、エンジン4のトルク予測値の位相を調整する。
【0097】
ここで、エンジン4のトルク応答は、エンジン4の回転数に応じて変化する。つまり、エンジン4の回転数が高い場合、エンジン4が有する複数の気筒についての燃焼間隔(つまり時間間隔)が短い。エンジン4の回転数が低い場合、複数の気筒についての燃焼間隔(つまり時間間隔)が長い。気筒への吸入空気量が変化してから、エンジン4のトルクが変化するまでの時間は、エンジン4の回転数に応じて変わる。エンジン4の回転数が高い場合、気筒への吸入空気量が変化してから、エンジン4のトルクが変化するまでの時間が短い。エンジン4の回転数が低い場合、気筒への吸入空気量が変化してから、エンジン4のトルクが変化するまでの時間が長い。
【0098】
エンジン制御部24は、現時点に対して基準時間(つまり、一定時間)後の、吸入空気量を予測する。基準時間後の吸入空気量がエンジン4のトルクに反映される時期は、エンジン4の回転数に応じて変化する。
【0099】
図7は、エンジン回転数と、遅延時間との関係を示している。遅延時間は、吸入空気量の変化から、エンジン4のトルク変化までの遅れに相当する。エンジン回転数が低い場合、吸入空気量の変化がエンジン4のトルク変化に反映されるまでの時間が長い。エンジン回転数が低い場合、遅延時間が長い。エンジン回転数が高い場合、遅延時間が短い。
図7では、エンジン回転数が高いほど、遅延時間が短くなるよう、エンジン回転数と遅延時間との関係が直線に設定されている。コントローラ20は、
図7に示される関係式を記憶している。尚、エンジン回転数と遅延時間との関係は、図例に限定されない。エンジン回転数と遅延時間との関係は、直線に限らず、曲線であってもよい。また、エンジン回転数と遅延時間との関係は、階段状であってもよい。
【0100】
位相調整部234は、エンジン回転数に基づいて遅延時間を設定する。予測された吸入空気量は、遅延時間後のエンジン4のトルクに反映される。コントローラ20は、現時点から設定時間後におけるエンジン4のトルクを予測することになる。トルク予測に係る設定時間は、吸入空気量の予測に係る基準時間以降の時間であれば、任意の時間に設定できる。
【0101】
エンジン4の回転数が基準回転数r0を超えると、遅延時間はゼロである。エンジン4の回転数が基準回転数r0よりも高くなれば、アクセル操作に対するエンジン4のトルク変化の応答性が十分に高いため、遅延時間を設ける必要がない。エンジン4の回転数が基準回転数よりも高い場合に、遅延時間をゼロにしても、コントローラ20は、エンジン4のトルクを精度良く予測できる。
【0102】
尚、エンジン4の回転数が基準回転数よりも高くなれば、エンジン4のトルク応答がモータ5のトルク応答と同等になる、又は、エンジン4のトルク応答よりもモータ5のトルク応答が遅くなる。そこで、エンジン4の回転数が高い場合に、エンジン4のトルク応答とモータ5のトルク応答とを同期させる目的でモータ5のトルク応答を早めることが考えられる。しかし、エンジン4の回転数が高くなればエンジン4及びモータ5の一回転に要する時間が短いため、モータ5のトルク応答を早めなくても、エンジン4のトルク応答とモータ5のトルク応答とは、実質的に同期する。
【0103】
現時点から設定時間後のエンジン4のトルクが予測されれば、第2加減算器235は、現時点から設定時間後のエンジン4のトルクを、自動車1の目標トルクから減算する。予測された設定時間後のエンジン4のトルクには、エンジン4のトルク応答の遅れが含まれている。第2加減算器235の出力を、現時点から設定時間後の目標モータトルクとすれば、予測されたエンジン4のトルクに、モータトルクが足し合わされることによって、自動車1の目標トルクが達成される。つまり、目標モータトルクは、エンジン4のトルク応答の遅れを補完する。
【0104】
制限部236は、第2加減算器235が出力した目標モータトルクと、モータ5の最大トルクと、最小トルクとに基づいて、最終的な目標モータトルクを出力する。ここで、最大モータトルク及び最小モータトルクは、モータ5の性能、モータ5の温度、及び/又は、高電圧バッテリ9のSOCに応じて設定される。例えばSOCが高いと、モータ5が回生運転できないため、最小モータトルクが小に設定される。SOCが低いと、高電圧バッテリ9を充電しなければならないため、最大モータトルクが小に設定される。第2加減算器235が出力した目標モータトルクが、最大モータトルクを超える場合、制限部236は、目標モータトルクを最大モータトルクに設定する。第2加減算器235が出力した目標モータトルクが、最小モータトルクを下回る場合、制限部236は、目標モータトルクを最小モータトルクに設定する。第2加減算器235が出力した目標モータトルクが、最大モータトルク以下でかつ、最小モータトルク以上である場合、制限部236は、第2加減算器235が出力した目標モータトルクを、最終的な目標モータトルクに設定する。
【0105】
モータ制御部25は、制限部236が出力した目標モータトルクに基づいて、インバータ7を通じてモータ5を制御する。モータ5は、前述の通り、現時点から設定時間後の、自動車1の目標トルクが達成されるよう、エンジン4を補完して、トルクを出力する。運転者のアクセルペダル19の操作に対するトルク変化の応答遅れを抑制しながら、エンジン4のトルク変化とモータ5のトルク変化とが同期して、実際のトルクと目標トルクとの乖離が抑制される。
【0106】
ここで、制限部236において、目標モータトルクが最小モータトルクによって制限される場合、制限部236が出力する目標モータトルクは、第2加減算器235が出力した目標モータトルクよりも大きい。このままモータ5が目標モータトルク(つまり、最小モータトルク)を出力しかつ、エンジン4が目標エンジントルクを出力すると、現時点から設定時間後の自動車1のトルクが、目標トルクを超えてしまう。
【0107】
第3加減算器237は、第2加減算器235が出力した目標モータトルクと、制限部236が出力した目標モータトルクとの差分を演算する。差分がゼロの場合、制限部236は、目標モータトルクを、最大モータトルク又は最小モータトルクによって制限していないことになる。差分がゼロでない場合、制限部236は、目標モータトルクを、最大モータトルク又は最小モータトルクによって制限していることになる。
【0108】
加算器238は、第3加減算器237の出力と、エンジントルク演算部233の出力とに足し合わせることによって、第2目標エンジントルクを設定する。加算器238は、エンジン制御部24へ、第2目標エンジントルクを出力する。第3加減算器237の出力は、前述した差分であり、エンジントルク演算部233の出力は、吸入空気量の予測値から予測したエンジン4のトルクである。第2目標エンジントルクは、点火タイミングの調整に関係する。具体的に、目標モータトルクが最小モータトルクによって制限される場合、エンジン4のトルクが下がるように、点火タイミングを、最適点火タイミング(つまり、MBT、又は、AWS時の点火タイミング)よりも遅角させる。第2目標エンジントルクは、点火タイミングを調整することにより達成されるトルクであり、過渡分の目標エンジントルクに相当する。
【0109】
エンジン制御部24は、第1目標エンジントルクと第2目標エンジントルクとに基づいて、エンジン4の吸入空気量、及び、点火タイミングを制御する。第2目標エンジントルクによって点火タイミングが遅角すれば、エンジン4のトルクが下がる。モータトルクが大きくなる分が、エンジン4のトルク低下によって相殺される。エンジン4のトルクとモータ5のトルクとによって、自動車1のトルクが、目標トルクに一致、又は、実質的に一致する。
【0110】
尚、目標モータトルクが最大モータトルクによって制限される場合は、モータ5のトルクが相対的に下がる。エンジン4のトルクを高めないと、自動車1の目標トルクが実現しない。しかし、最適点火タイミングで運転中のエンジン4において、トルクをさらに高めることは難しい。制限部236において目標モータトルクが最大モータトルクによって制限される場合、点火タイミングの調整は行われない。
【0111】
(エンジンの吸入空気量の予測)
図6は、エンジン制御部24の、吸入空気量の予測に関係する機能ブロックを示している。エンジン制御部24は、スロットル開度予測部241、スロットル通過空気量予測部242、第4加減算器243、インテークマニホールド内空気量予測部244、圧力換算部245、S-VT変化予測部246、充填効率予測部247、及び、乗算部248を有している。エンジン制御部24は、現時点に対して基準時間後の吸入空気量を予測する。基準時間は、一定時間であって、予め設定されている。基準時間は、例えば10~数十msecの間で、任意に設定できる。
【0112】
スロットル開度予測部241は、トルク分配部23が設定した第1目標エンジントルクに基づいて、スロットル弁43の開度の時間経過に対する変化を予測する。スロットル開度予測部241は、スロットル弁43の目標開度とスロットル弁43の特性情報に基づいて、現時点から基準時間後のスロットル弁43の開度を予測する。目標エンジントルクとスロットル弁43の目標開度との関係は、コントローラ20に記憶されている。また、スロットル弁43の特性情報も、コントローラ20に記憶されている。スロットル弁43の特性は、例えば実機試験を行うことによって特定してもよい。
図6に例示されるように、スロットル弁43の開度は、アクセルペダル19の操作に対し遅れて変化する。
【0113】
スロットル通過空気量予測部242は、現時点から基準時間後において、スロットル弁43を通過する空気量を予測する。スロットル通過空気量予測部242は、具体的には、スロットル開度予測部241が予測したスロットル弁43の開度と、スロットル弁43よりも下流のインテークマニホールドの圧力と、スロットル弁43よりも上流の吸気圧力とから、ベルヌーイの式を用いて、スロットル弁43を通過する空気量を予測する。インテークマニホールドの圧力は、後述する、現時点から基準時間後におけるインテークマニホールド内の空気量から、圧力換算部245が圧力に換算した値が用いられる。スロットル弁43よりも上流の吸気圧力は、例えば吸気圧力センサ52の計測信号から取得できる。
【0114】
第4加減算器243は、スロットル通過空気量予測部242が予測した、現時点から基準時間後におけるスロットル弁43を通過する空気量から、後述する、気筒内への吸入空気量を減算する。
【0115】
インテークマニホールド内空気量予測部244は、第4加減算器243の出力に基づいて、現時点から基準時間後におけるインテークマニホールド内の空気量を予測する。
【0116】
圧力換算部245は、前述したように、インテークマニホールド内空気量予測部244が予測した、現時点から基準時間後におけるインテークマニホールド内の空気量を、インテークマニホールド内の圧力に換算し、スロットル通過空気量予測部242へ出力する。
【0117】
S-VT変化予測部246は、スロットル開度予測部241と同様に、第1目標エンジントルクに基づいて、吸気S-VT44による、吸気弁の開閉時期の、時間経過に対する変化を予測する。S-VT変化予測部246は、吸気弁の目標開閉時期と吸気S-VT44の特性情報に基づいて、現時点から基準時間後における、吸気弁の開閉時期を予測する。目標エンジントルクと吸気弁の目標開閉時期との関係は、コントローラ20に記憶されている。また、吸気S-VT44の特性情報も、コントローラ20に記憶されている。吸気S-VT44の特性は、例えば実機試験を行うことによって特定してもよい。
図6に例示されるように、吸気弁の開閉時期は、アクセルペダル19の操作に対し遅れて変化する。
【0118】
充填効率予測部247は、S-VT変化予測部246が予測した、現時点から基準時間後における吸気弁の開閉時期に基づいて、現時点から基準時間後における充填効率を予測する。コントローラ20は、吸気弁の開閉時期と、エンジン4の運転状態と、充填効率との関係を示すマップを予め記憶している。充填効率予測部247は、コントローラ20が記憶しているマップに基づいて、現時点から基準時間後における充填効率を予測する。
【0119】
乗算部248は、インテークマニホールド内空気量予測部244が予測した、現時点から基準時間後におけるインテークマニホールド内の空気量と、充填効率予測部247が予測した、現時点から基準時間後における充填効率とを乗算することにより、現時点から基準時間後における、気筒内への吸入空気量を予測する。予測吸入空気量は、エンジン4の制御に利用される他、前述の通り、トルク分配部23のエンジントルク演算部233へ出力される。
【0120】
(制御例)
図8は、車両の駆動力制御装置による制御例を示している。
図8のタイムチャートには、アクセルペダル19の操作、自動車1の目標トルクの変化、目標吸入空気量の変化、予測吸入空気量の変化、エンジントルク予測値の変化、目標モータトルクの変化、及び、点火タイミングの変化が含まれている。この制御例は、自動車1がHEVモードで走行している場合に、運転者がアクセルペダル19を踏むことによって、自動車1が加速する場合に相当する。
【0121】
先ず、時刻t1に運転者がアクセルペダル19を踏む。このアクセルペダル19の操作に対応するよう、トルク変換部21及びトルク調停部22は、自動車1の目標トルクを設定する。この目標トルクは、エンジン4のトルク及びモータ5のトルクによって実現するトルクである。
図8の制御例において、目標トルクは、時刻t1においてステップ状に高まる。
【0122】
トルク分配部23は、目標トルクの変化に対応するよう、目標エンジントルクを設定する。目標エンジントルクは、目標トルクと同様に、ステップ状に高まる。目標エンジントルクに対応するよう、エンジン4の目標吸入空気量が設定される。目標吸入空気量も、時刻t1においてステップ状に高まる。目標吸入空気量が実現されるよう、スロットル弁43の開度が変わる。前述したように、スロットル弁43の開度変化は、アクセルペダル19の操作に対して遅れるため、
図8に一点鎖線で例示するよう、スロットル開度は、時間経過に対して徐々に変化する。
【0123】
前述したように、エンジン制御部24は、スロットル開度の変化を予測し、それに基づいて、現時点に対して基準時間後における、吸入空気量を予測する。予測吸入空気量は、スロットル開度の変化に対応するよう、時刻t1から遅れた時刻t2から、時間の経過と共に次第に増える。
【0124】
トルク分配部23のエンジントルク演算部233は、予測された吸入空気量からエンジントルクを演算する。エンジントルク演算部233は、例えば点火プラグ41がMBTにおいて点火を行った場合の、エンジン4のトルクを予測する。位相調整部234は、エンジン4のトルクの位相を調整する。
図8の制御例では、エンジン4の回転数が比較的低いため、遅延時間が設定されている。予測されたエンジントルクは、時刻t1から遅れた時刻t3から、時間の経過と共に次第に増える。吸入空気量が増えることに対応して、時刻t3以降において、点火タイミングが変化する。尚、点火タイミングは、時刻t3以降においても、MBTであるとする。
【0125】
トルク分配部23は、目標トルクと、エンジントルク予測値とから、目標モータトルクを設定する。目標モータトルクは、エンジン4のトルク変化の遅れが補完されるように、設定される。時刻t1からt3の間は、エンジン4のトルクが変化しない(つまり、トルクが上昇しない)。そのため、目標モータトルクが、時刻t1においてステップ状に高まることにより、目標トルクを実現する。アクセルペダル19の操作に対する、自動車1のトルク変化の応答遅れが抑制される。
【0126】
時刻t3以降において、エンジン4のトルクが次第に高まることに対応して、目標モータトルクが次第に下がる。エンジン4のトルク変化とモータ5のトルク変化が同期する。これにより、自動車1の実際のトルクと目標トルクとの乖離が抑制される。時刻t3以降も、目標トルクが達成される。
【0127】
尚、
図8とは異なり、運転者が踏んでいたアクセルペダル19を戻して、自動車1が減速する場合も、この駆動力制御装置は、モータ5が、エンジン4のトルク低下の遅れを補完する。アクセルペダル19の操作に対する、自動車1のトルク変化の応答遅れが抑制されると共に、自動車1の実際のトルクと目標トルクとの乖離が抑制される。尚、エンジン4のトルクを低下させる場合に、モータ5が補完するから、エンジン4は、点火タイミングをリタードさせずにMBTを維持しながら、吸入空気量を減少させることによりトルクを低下できる。自動車1の燃費性能が向上する。
【0128】
(変形例)
図9は、トルク分配部230の変形例を示している。
図9は、トルク分配部230の一部の機能ブロックを示している。トルク分配部230は、SOC管理部231と、第1加減算器232(
図9では省略)と、エンジントルク演算部233と、位相調整部234と、第2加減算器235と、制限部236と、第3加減算器237と、加算器238と、第2加算器239と、を有している。
【0129】
エンジントルク演算部233は、前述の通り、エンジン制御部24が予測した吸入空気量に基づいて、未来におけるエンジン4のトルクを予測する。位相調整部234は、エンジン4のトルクの位相を、エンジン4の回転数に応じて調整する。
【0130】
第2加減算器235は、
図5のトルク分配部23の第2加減算器235とは異なり、予測したエンジントルクと第1目標エンジントルクとの差分を演算する。第2加減算器235は、エンジン4のトルク応答の遅れ分を演算する。この差分は、モータ5が補完すべきトルクに相当する。
【0131】
第2加算器239は、第2加減算器235の出力と、SOC管理部231の出力とを加算する。第2加減算器235の出力は、予測したエンジントルクと第1目標エンジントルクとの差分である。SOC管理部231の出力は、前述したように、自動車1の目標トルクとバッテリ情報とに基づいて設定された目標モータトルクである。第2加算器239は、言い換えると、SOC管理部231が設定した目標モータトルクを、エンジン4のトルク応答の遅れ分が補完されるように、補正している。
【0132】
尚、第2加減算器235において差分がゼロであれば、SOC管理部231が設定した目標モータトルクは、補正されない。
【0133】
制限部236は、第2加算器239によって補正された目標モータトルクと、最大モータトルクと、最小モータトルクとに基づいて、前記と同様に、最終的な目標モータトルクを設定する。第3加減算器237及び加算器238は、前述したように、目標モータトルクが最小モータトルクによって制限された場合に、エンジン4のトルクが下がるよう、第2目標エンジントルクを設定する。
【0134】
変形例においても、目標モータトルクは、エンジン4のトルク応答の遅れを補完するように設定されるため、アクセルペダル19の操作に対する、自動車1のトルク変化の応答遅れが抑制される。また、現時点よりも未来におけるエンジン4のトルク予測に基づくため、実際のトルクと目標トルクとの乖離を無くす、又は、実質的に無くすことができる。
【0135】
図10は、
図9のトルク分配部230を有する駆動力制御装置の、基本的な制御フローを示している。尚、この制御フローにおいて、
図9のトルク分配部230の一部の機能ブロックに関係するステップは省略されている。
【0136】
先ずステップS11において、コントローラ20は、アクセルポジションセンサ51の計測信号に基づいて、運転者のアクセル操作を読み込む。続くステップS12において、トルク変換部21及びトルク調停部22は、自動車1の目標トルクを設定する。
【0137】
ステップS13において、SOC管理部231は、目標モータトルクを設定する。
【0138】
一方、ステップS14において、第1加減算器232は、自動車1の目標トルクと目標モータトルクとから、目標エンジントルクを設定する。ステップS15において、エンジン制御部24は、スロットル弁43、インジェクタ42、点火プラグ41及び吸気S-VT44の制御目標値を設定する。続くステップS16において、エンジン制御部24は、ステップS15において設定した各制御目標値に基づいて、スロットル弁43、インジェクタ42、点火プラグ41及び吸気S-VT44のそれぞれへ制御信号を出力する。コントローラ20によって、エンジン4が制御される。
【0139】
この制御フローのプロセスに対し並列に、エンジントルク演算部233及び位相調整部234は、目標エンジントルクに基づいて、現時点よりも未来におけるエンジントルクを予測している。ステップS17において、予測されたエンジントルクが読み込まれる。続くステップS18において、予測されたエンジントルクと第1目標エンジントルクとの差分が、第2加減算器235によって演算されることにより、コントローラ20は、予測されたエンジントルクと第1目標エンジントルクとが一致しないか否かを判断する。ステップS18の判断がNoの場合、プロセスはステップS19へ進む。ステップS18の判断がYesの場合、プロセスはステップS20へ進む。
【0140】
ステップS20において、コントローラ20は、現時点に対して設定時間後における目標モータトルクを補正する。つまり、第2加算器239が、予測されたエンジントルクと第1目標エンジントルクとの差分を、目標モータトルクに足し合わせる。
【0141】
ステップS21において、コントローラ20は、エンジン4のトルク予測に係る設定時間に至ったか否かを判断する。ステップS21の判断がNoの場合、プロセスはステップS21を繰り返し、ステップS21の判断がYesの場合、プロセスはステップS22へ進む。
【0142】
ステップS22において、モータ制御部25は、補正された目標モータトルクに係る制御信号を、インバータ7へ出力する。これにより、モータ5のトルク変化とエンジン4のトルク変化とが同期する。アクセルペダル19の操作に対するトルク変化の応答遅れが抑制されかつ、自動車1の目標トルクと実際のトルクとの乖離が抑制される。自動車1の目標トルクが達成される。
【0143】
目標モータトルクが補正されない場合、モータ制御部25は、ステップS19において、ステップS13で設定された目標モータトルクに係る制御信号を、インバータ7へ出力する。インバータ7を通じてモータ5が制御されて、目標モータトルク、ひいては自動車1の目標トルクが達成される。
【0144】
(まとめ)
従って、車両の駆動力制御装置は、
電力が供給されて車両走行用のトルクを発生させるモータ5と、
気筒内において燃料を燃焼させて車両走行用のトルクを発生させるエンジン4と、
アクセル操作信号を受けると共に、アクセル操作に対応する制御信号を、前記モータ5及び前記エンジン4へ出力するコントローラ20と、を備え、
前記コントローラ20は、前記アクセル操作に対応する前記車両の目標トルクを設定する(トルク変換部21、トルク調停部22)と共に、当該車両の目標トルクから目標エンジントルクを、予め定めた分配ルールに従い分配し(トルク分配部23、230)かつ、前記エンジン4へ、前記目標エンジントルクに対応する制御信号を出力し(エンジン制御部24)、
前記コントローラ20は、前記目標エンジントルクに基づいて、現時点よりも未来における前記気筒への吸入空気量を予測する(エンジン制御部24、
図6)と共に、予測した吸入空気量に基づいて、現時点から設定時間後における前記エンジン4のトルクを予測し(エンジントルク演算部233、位相調整部234)、
前記コントローラ20は、予測した設定時間後の前記エンジン4のトルクに基づいて、前記車両の目標トルクが達成されるよう前記設定時間後の目標モータトルクを設定し(第2加減算器235、制限部236、第2加算器239)かつ、前記モータ5へ、前記目標モータトルクに対応する制御信号を出力し(モータ制御部25)、前記エンジン4のトルク応答と前記モータ5のトルク応答とを同期させる。
【0145】
高応答のモータ5がエンジン4の応答遅れを補完するため、この駆動力制御装置では、アクセル操作に対するトルク変化の応答遅れが抑制される。
【0146】
また、予測した未来におけるエンジントルクに基づいて、目標モータトルクが設定されるから、この駆動力制御装置では、エンジンのトルク応答とモータのトルク応答とが同期する。この駆動力制御装置では、実際のトルクと目標トルクとの乖離を無くす、又は、実質的に無くすことができる。
【0147】
前記コントローラ20は、前記エンジン4のトルクの予測において、前記エンジン4の回転数が低い場合は、高い場合よりも、予測した吸入空気量の変化に対する、前記エンジン4のトルク変化を遅らせる(位相調整部234、
図7)。
【0148】
コントローラ20は、現時間よりも未来におけるエンジン4のトルクの変化を、精度良く予測できる。
【0149】
前記コントローラ20は、前記エンジン4の回転数が高いほどトルク変化に係る遅延時間を短くすると共に、前記エンジン4の回転数が基準回転数r0よりも高い場合は、前記遅延時間をゼロにする(位相調整部234、
図7)。
【0150】
現時点よりも未来における、エンジン4のトルクの予測精度が高まる。また、エンジン4の回転数が高いため、遅延時間をゼロにしても、コントローラ20は、エンジン4のトルクを精度良く予測できる。
【0151】
前記コントローラ20は、予測した前記エンジン4のトルクと、前記目標エンジントルクとの差分を補完するよう、前記目標モータトルクを設定する(第2加減算器235、第2加算器239、
図9)。
【0152】
モータ5は、エンジン4の応答遅れを補完できる。
【0153】
前記コントローラ20は、予測した吸入空気量と、前記エンジン4の運転状態から定まる最適点火タイミングとに基づいて、現時点から設定時間後における前記エンジン4のトルクを予測する(エンジントルク演算部233、位相調整部234)。
【0154】
モータ5は、エンジン4を適切にアシストできる。
【0155】
前記コントローラ20は、前記目標モータトルクを、前記モータ5が発生できる最小トルク以上に設定し(制限部236)、
前記コントローラ20は、前記目標モータトルクが前記最小トルクによって制限される場合、前記エンジン4のトルクが低下するよう、前記エンジン4の点火タイミングを、前記最適点火タイミングよりも遅角させる(第3加減算器237、加算器238)。
【0156】
これにより、車両のトルクが目標トルクを超過することが避けられる。
【0157】
前記コントローラ20は、
前記目標エンジントルクに基づいて、アクセル操作後の前記エンジン4のスロットル弁43の開度の変化を予測し(スロットル開度予測部241)、
予測した前記スロットル弁43の開度と、前記エンジン4のインテークマニホールドの圧力とから、前記スロットル弁43を通過する空気量を予測し(スロットル通過空気量予測部242)、
予測した前記スロットル弁43を通過する空気量から、前記インテークマニホールド内の空気量を予測し(インテークマニホールド内空気量予測部244)、
予測した前記インテークマニホールド内の空気量から、前記気筒への吸入空気量を予測する(乗算部248)。
【0158】
コントローラ20は、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を予測できる。
【0159】
前記コントローラ20は、
前記目標エンジントルクに基づいて、アクセル操作後の前記エンジン4の吸気弁の開閉時期の変化を予測し(S-VT変化予測部246)、
予測した前記吸気弁の開閉時期から、充填効率を予測し(充填効率予測部247)、
予測した充填効率と、予測した前記インテークマニホールド内の空気量とから、前記気筒への吸入空気量を予測する(乗算部248)。
【0160】
コントローラ20は、現時点よりも未来における気筒への吸入空気量を、精度良く予測できる。
【符号の説明】
【0161】
4 エンジン
5 モータ
20 コントローラ
43 スロットル弁