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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168023
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20231116BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02M7/48 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079625
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】服部 圭佑
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA12
5H770CA08
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770HA02W
5H770HA03W
5H770HA03Z
5H770JA04X
5H770KA03Z
5H770KA05X
5H770LB03
(57)【要約】
【課題】転流インダクタンスの値が想定された値と異なる場合にも、フィードフォワード式の定余裕角制御によって、基準値に応じた値に余裕角をより適切に制御することができる電力変換装置を提供する。
【解決手段】ブリッジ接続された複数のスイッチ部を有し、前記複数のスイッチ部のオン状態及びオフ状態の切り替えにより、交流電力から直流電力への変換及び直流電力から交流電力への変換の少なくとも一方を行う他励式電力変換器と、前記他励式電力変換器による電力の変換を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記他励式電力変換器の実システムにおける転流インダクタンスを計算し、前記転流インダクタンスを基に前記複数のスイッチ部の余裕角を余裕角基準値と一致させる制御角を計算し、前記制御角に基づいて前記複数のスイッチ部のオンタイミングを制御する電力変換装置が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブリッジ接続された複数のスイッチ部を有し、前記複数のスイッチ部のオン状態及びオフ状態の切り替えにより、交流電力から直流電力への変換及び直流電力から交流電力への変換の少なくとも一方を行う他励式電力変換器と、
前記他励式電力変換器による電力の変換を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記他励式電力変換器の実システムにおける転流インダクタンスを計算し、前記転流インダクタンスを基に前記複数のスイッチ部の余裕角を余裕角基準値と一致させる制御角を計算し、前記制御角に基づいて前記複数のスイッチ部のオンタイミングを制御する電力変換装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記他励式電力変換器の交流電圧、前記他励式電力変換器の直流電流、前記他励式電力変換器の直流電圧、及び運転中の制御角を基に、前記転流インダクタンスを計算する請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御装置は、計算された前記転流インダクタンスの変化を遅らせる処理を行う遅延回路を有し、前記遅延回路によって処理された後の前記転流インダクタンスを基に前記制御角を計算する請求項2記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御装置は、計算された前記転流インダクタンスを上限値及び下限値の範囲内に制限する処理を行うリミッタを有し、前記リミッタによって処理された後の前記転流インダクタンスを基に前記制御角を計算する請求項2又は3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記他励式電力変換器の交流電圧、前記他励式電力変換器の直流電流、前記他励式電力変換器の直流電圧、及び補正前の転流インダクタンスを基に、制御角を計算し、計算された前記制御角と運転中の制御角との偏差を演算し、前記偏差を小さくするための前記転流インダクタンスの補正値を演算し、補正前の前記転流インダクタンスに前記補正値を加算し、前記転流インダクタンスXを補正することにより、前記他励式電力変換器の実システムにおける前記転流インダクタンスを計算する請求項2記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記補正値の変化を遅らせる処理を行う遅延回路を有し、前記遅延回路によって処理された後の前記補正値を基に前記転流インダクタンスを補正する請求項5記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記補正値を上限値及び下限値の範囲内に制限する処理を行うリミッタを有し、前記リミッタによって処理された後の前記補正値を基に前記転流インダクタンスを補正する請求項5又は6に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サイリスタなどの他励式のスイッチング素子を用いた他励式電力変換器と、他励式電力変換器の動作を制御する制御装置と、を備えた電力変換装置がある。他励式電力変換器は、例えば、サイリスタバルブによって構成されたサイリスタブリッジである。電力変換装置は、例えば、交流電力を直流電力に変換し、直流電力を交流電力に戻す電力変換システムに用いられている。
【0003】
電力変換システムは、例えば、直流電力によって送電を行う直流送電(HVDC:High Voltage Direct Current)、周波数の変換を行う周波数変換器(FC:Frequency Converter)、あるいは周波数の変換を行うことなく2つの交流電力系統を連系させるBTB(Back-To-Back)などに用いられている。
【0004】
制御装置は、他励式電力変換器の順変換器(REC)運転を行う場合、定電流制御(ACR:Automatic Current Regulator)にて他励式電力変換器の動作を制御する。制御装置は、他励式電力変換器の逆変換器(INV)運転を行う場合、定電圧制御(AVR:Automatic Voltage Regulator)又は定余裕角制御(AγR:Automatic γ Regulator)にて他励式電力変換器の動作を制御する。
【0005】
INV運転時においては、AVRとAγRの出力の最小値選択が行われる。例えば、定常時にはAVRが選択されるが、交流電圧が低下するなどして余裕角γが小さくなった場合などには、AγR制御が選択される。
【0006】
AγR制御には、フィードバック式の制御と、フィードフォワード式の制御と、がある。フィードバック式の制御は、余裕角を測定し、測定された余裕角が事前に定めた余裕角基準値よりも大きくなるように制御する方式である。余裕角は、換言すれば、サイリスタバルブ各相の逆圧期間である。フィードバック式の制御では、例えば、サイリスタバルブ各相の逆圧期間を測定する測定回路が用いられる。
【0007】
一方、フィードフォワード式の制御は、直流電流、交流電圧、転流インダクタンスから、余裕角が基準値と一致するような制御角αで制御する方式である。フィードフォワード式の制御では、例えば、余裕角が基準値と一致する制御角αを逆算する方式が適用される。
【0008】
フィードバック式の制御では、実際にサイリスタバルブに印加される逆圧期間を余裕角基準値以上に制御できる点で、転流失敗を抑制する効果が大きくなる。一方で、逆圧期間の測定回路が必要となるため、部品点数が増加し、装置構成が複雑になってしまう。例えば、製造コストの増加を招いてしまう。
【0009】
フィードフォワード式の制御では、追加の測定を必要としないことから、部品点数の増加を抑制し、フィードバック式の制御と比べて装置構成を簡単にすることができる。反面、転流インダクタンスの値が想定された値と異なる場合には、基準値通りに余裕角を制御できない場合がある。この場合には、例えば、転流失敗に至る可能性や、AVR制御ではなくAγR制御が無用に選択され、定格の直流電圧を出力できなくなってしまう可能性などが生じてしまう。
【0010】
また、転流インピーダンスには、例えば、変換器用変圧器の漏れインダクタンス、サイリスタバルブのアノードリアクトル、交流フィルタのインダクタンスなどの様々な要素が含まれる。これらの各要素のインダクタンスの製作誤差が積み重なることや、交流フィルタの投入状態が運用によって異なる場合があることなどから、実システムでの運転を行う前に、高精度に転流インダクタンスを求めることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7-109745号公報
【特許文献2】特開平8-237868号公報
【特許文献3】特開平8-315880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
実施形態は、転流インダクタンスの値が想定された値と異なる場合にも、フィードフォワード式の定余裕角制御によって、基準値に応じた値に余裕角をより適切に制御することができる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態によれば、ブリッジ接続された複数のスイッチ部を有し、前記複数のスイッチ部のオン状態及びオフ状態の切り替えにより、交流電力から直流電力への変換及び直流電力から交流電力への変換の少なくとも一方を行う他励式電力変換器と、前記他励式電力変換器による電力の変換を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記他励式電力変換器の実システムにおける転流インダクタンスを計算し、前記転流インダクタンスを基に前記複数のスイッチ部の余裕角を余裕角基準値と一致させる制御角を計算し、前記制御角に基づいて前記複数のスイッチ部のオンタイミングを制御する電力変換装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本実施形態では、転流インダクタンスの値が想定された値と異なる場合にも、フィードフォワード式の定余裕角制御によって、基準値に応じた値に余裕角をより適切に制御することができる電力変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係る電力変換システムを模式的に表すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る定余裕角制御部を模式的に表すブロック図である。
図3】第2の実施形態に係る定余裕角制御部を模式的に表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る電力変換システムを模式的に表すブロック図である。
図1に表したように、電力変換システム10は、第1電力変換装置11と、第2電力変換装置12(電力変換装置)と、直流回路14と、を備える。第1電力変換装置11は、第1他励式電力変換器21と、第1制御装置31と、を備える。第2電力変換装置12は、第2他励式電力変換器22(他励式電力変換器)と、第2制御装置32(制御装置)と、を備える。
【0018】
直流回路14は、第1電力変換装置11と第2電力変換装置12との間に設けられる。直流回路14は、より詳しくは、第1他励式電力変換器21と第2他励式電力変換器22との間に設けられる。直流回路14は、第1他励式電力変換器21と第2他励式電力変換器22とを接続する。
【0019】
直流回路14は、正側直流母線14pと、負側直流母線14nと、を有する。電力変換システム10は、例えば、直流送電に用いられる。この場合、正側直流母線14pは、例えば、海底ケーブルなどの直流ケーブルである。負側直流母線14nは、ケーブル帰路でもよいし、大地帰路や海水帰路などでもよい。すなわち、負側直流母線14nは、必要に応じて設けられ、省略可能である。
【0020】
電力変換システム10は、送電ケーブルなどを介することなく、第1他励式電力変換器21の直流側と第2他励式電力変換器22の直流側とを直接的に接続する周波数変換器やBTBなどでもよい。この場合には、例えば、第1他励式電力変換器21の直流側と第2他励式電力変換器22の直流側とを接続するブスバーなどの配線部材を直流回路14とすればよい。
【0021】
第1他励式電力変換器21は、第1交流電力系統と直流回路14とに接続されている。第2他励式電力変換器22は、第2交流電力系統と直流回路14とに接続されている。第1他励式電力変換器21は、変圧器2aを介して第1交流電力系統と接続される。第2他励式電力変換器22は、変圧器2bを介して第2交流電力系統と接続される。第1他励式電力変換器21及び第2他励式電力変換器22は、直流回路14を介して互いに接続されている。
【0022】
第1他励式電力変換器21は、第1交流電力系統から供給された交流電力を直流電力に変換し、直流電力を直流回路14に供給する。第2他励式電力変換器22は、直流回路14から供給された直流電力を交流電力に変換し、交流電力を第2交流電力系統に供給する。
【0023】
変圧器2bの一次側(第2交流電力系統側)には、例えば、交流フィルタ4が設けられる。交流フィルタ4は、第2他励式電力変換器22の電力変換にともなうノイズなどを抑制し、第2他励式電力変換器22から第2交流電力系統に供給される交流電力を正弦波に近付ける。
【0024】
第1交流電力系統及び第2交流電力系統の交流電力は、例えば、三相交流電力である。例えば、第1他励式電力変換器21は、三相交流電力から直流電力への変換を行い、第2他励式電力変換器22は、直流電力から三相交流電力への変換を行う。第1交流電力系統及び第2交流電力系統の交流電力は、単相交流電力などでもよい。
【0025】
このように、電力変換システム10では、第1交流電力系統の交流電力を直流電力に変換し、再び交流電力に戻して第2交流電力系統に供給する。電力変換システム10では、第1電力変換装置11が順変換器(REC)運転を行い、第2電力変換装置12が逆変換器(INV)運転を行う。これとは反対に、第1電力変換装置11が逆変換器運転を行い、第2電力変換装置12が順変換器運転を行ってもよい。
【0026】
また、第1電力変換装置11及び第2電力変換装置12の順変換器運転及び逆変換器運転を任意に切り替えられるようにしてもよい。換言すれば、第1交流電力系統側から第2交流電力系統側への電力供給と第2交流電力系統側から第1交流電力系統側への電力供給とを任意に切り替えられるようにしてもよい。
【0027】
以下では、第1電力変換装置11が順変換器運転を行い、第2電力変換装置12が逆変換器運転を行うものとして説明を行う。順変換器運転及び逆変換器運転を任意に切り替えられるようにする場合には、第1電力変換装置11及び第2電力変換装置12のそれぞれに順変換器運転の機能と逆変換器運転の機能とを設ければよい。
【0028】
第1他励式電力変換器21は、三相ブリッジ接続された6つのスイッチ部41u、41v、41w、41x、41y、41zを有する。以下では、便宜的に、各スイッチ部41u、41v、41w、41x、41y、41zをまとめて称す場合に、「スイッチ部41」と称す。
【0029】
同様に、第2他励式電力変換器22は、三相ブリッジ接続された6つのスイッチ部42u、42v、42w、42x、42y、42zを有する。以下では、便宜的に、各スイッチ部42u、42v、42w、42x、42y、42zをまとめて称す場合に、「スイッチ部42」と称す。
【0030】
各スイッチ部42は、例えば、他励式のスイッチング素子42aと、スイッチング素子42aに並列に接続されたスナバ回路42bと、スイッチング素子42aの高電位側の端子に接続されたリアクトル42cと、を有する。スイッチング素子42aには、例えば、サイリスタなどが用いられる。スイッチ部42は、例えば、直列に接続された複数のスイッチング素子42aを有する。また、この場合、スイッチ部42は、例えば、複数のスイッチング素子42aのそれぞれに対して並列に接続された複数のスナバ回路42bを有する。各スイッチ部42は、例えば、サイリスタバルブである。リアクトル42cは、例えば、アノードリアクトルである。リアクトル42cは、例えば、複数のスイッチング素子42aの直列接続体の高電位側の一端(アノード)に設けられる。
【0031】
各スイッチ部41の構成は、各スイッチ部42の構成と同様とすることができる。各スイッチ部41、42は、例えば、一対の主端子と制御端子とを有する。各スイッチ部41、42は、一対の主端子間を導通させるオン状態と、一対の主端子間を非導通とするオフ状態と、を有する。オン状態は、換言すれば、一対の主端子間に電流が流れるようにする状態であり、オフ状態は、換言すれば、一対の主端子間に電流が実質的に流れないようにする状態である。オフ状態は、第1他励式電力変換器21及び第2他励式電力変換器22の動作に影響が無い程度の微弱な電流が流れる状態でもよい。
【0032】
各スイッチ部41、42は、例えば、一対の主端子間に順方向の電圧が印加された状態で、制御端子に駆動パルスが入力されることにより、オフ状態からオン状態に切り替わる。各スイッチ部41、42は、例えば、オン状態に切り替わった後、一対の主端子間の電圧が所定以下となることにより、オン状態からオフ状態に切り替わる。各スイッチ部41、42の、オフ状態からオン状態への切り替わりは、例えば、ターンオン、あるいは点弧などと呼ばれる。各スイッチ部41、42の、オン状態からオフ状態への切り替わりは、例えば、ターンオフ、あるいは消弧などと呼ばれる。
【0033】
第1他励式電力変換器21は、各スイッチ部41のオン状態及びオフ状態の切り替えにより、電力の変換を行う。同様に、第2他励式電力変換器22は、各スイッチ部42のオン状態及びオフ状態の切り替えにより、電力の変換を行う。
【0034】
この例において、第1他励式電力変換器21及び第2他励式電力変換器22は、6相サイリスタブリッジである。但し、第1他励式電力変換器21及び第2他励式電力変換器22は、これに限ることなく、例えば、12相サイリスタブリッジなどでもよい。第1他励式電力変換器21及び第2他励式電力変換器22の構成は、他励式のスイッチ部のスイッチングにより、交流電力から直流電力への変換及び直流電力から交流電力への変換の少なくとも一方を行うことができる任意の構成でよい。
【0035】
第1制御装置31は、信号線を介して第1他励式電力変換器21と接続されている。第1制御装置31は、第1他励式電力変換器21による電力の変換を制御する。第1制御装置31は、例えば、信号線を介して第1他励式電力変換器21の各スイッチ部41と接続され、各スイッチ部41に駆動パルスを入力することにより、各スイッチ部41のオンタイミング(オフ状態からオン状態への切り替えのタイミング)を制御する。より具体的には、各スイッチ部41に設けられたスイッチング素子のオンタイミングを制御する。このように、第1制御装置31は、第1他励式電力変換器21の各スイッチ部41のオンタイミングを制御することにより、第1他励式電力変換器21による電力の変換を制御する。
【0036】
信号線は、例えば、光ファイバケーブルである。これにより、第1他励式電力変換器21と第1制御装置31とを電気的に絶縁することができる。第1制御装置31の生成する駆動パルスは、例えば、光信号である。
【0037】
第2制御装置32は、信号線を介して第2他励式電力変換器22と接続されている。第2制御装置32は、第1制御装置31と同様に、第2他励式電力変換器22の各スイッチ部42のオンタイミングを制御することにより、第2他励式電力変換器22による電力の変換を制御する。
【0038】
電力変換システム10において、順変換器運転を行う第1電力変換装置11の第1制御装置31は、定電流制御(ACR)で第1他励式電力変換器21の動作を制御する。逆変換器運転を行う第2電力変換装置12の第2制御装置32は、定電圧制御(AVR)又は定余裕角制御(AγR)で第2他励式電力変換器22の動作を制御する。
【0039】
第1電力変換装置11は、電流測定器51を有する。電流測定器51は、直流回路14に流れる直流電流Idを測定する。換言すれば、電流測定器51は、第1他励式電力変換器21から出力される直流電流Idを測定する。電流測定器51は、直流電流Idの測定値を第1制御装置31に入力する。
【0040】
第1制御装置31は、定電流制御部61を有する。定電流制御部61は、電流測定器51によって測定された直流電流Idの測定値を基に、直流回路14に流れる直流電流Idを電流基準値に応じた一定の電流に制御するための各スイッチ部41の制御角αを演算する。第1制御装置31は、定電流制御部61で演算された制御角αに基づいて、直流回路14に電流基準値に応じた実質的に一定の電流が流れるように、各スイッチ部41のオンタイミングを制御する。
【0041】
なお、直流電流Idの測定値は、電流測定器51から第1制御装置31に直接的に入力する構成に限ることなく、例えば、上位のコントローラなどから第1制御装置31に入力する構成などとしてもよい。
【0042】
第2電力変換装置12は、電流測定器52と、電圧測定器53、54と、を有する。電流測定器52は、直流回路14に流れる直流電流Idを測定する。換言すれば、電流測定器52は、第2他励式電力変換器22に入力される直流電流Idを測定する。電流測定器52は、直流電流Idの測定値を第2制御装置32に入力する。
【0043】
電圧測定器53は、直流回路14の直流電圧Vdを測定する。換言すれば、電圧測定器53は、第2他励式電力変換器22に入力される直流電圧Vdを測定する。電圧測定器53は、直流電圧Vdの測定値を第2制御装置32に入力する。
【0044】
電圧測定器54は、第2交流電力系統の交流電圧Vac1を測定する。換言すれば、電圧測定器54は、変圧器2bの一次側の交流電圧Vac1を測定する。交流電圧Vac1は、より詳しくは、第2交流電力系統の各相の線間電圧である。電圧測定器54は、交流電圧Vac1の測定値を第2制御装置32に入力する。
【0045】
第2制御装置32は、定電圧制御部62と、定余裕角制御部63と、最小値選択回路64と、を有する。
【0046】
定電圧制御部62は、電圧測定器53によって測定された直流電圧Vdの測定値を基に、直流回路14の直流電圧Vdを電圧基準値に応じた一定の電圧に制御するための各スイッチ部42の制御角αを演算する。
【0047】
定余裕角制御部63は、電流測定器52によって測定された直流電流Idの測定値、電圧測定器53によって測定された直流電圧Vdの測定値、及び電圧測定器54によって測定された交流電圧Vac1の測定値を基に、各スイッチ部42の余裕角を余裕角基準値に応じた一定の余裕角に制御するための各スイッチ部42の制御角αを演算する。
【0048】
最小値選択回路64は、定電圧制御部62によって演算された制御角α及び定余裕角制御部63によって演算された制御角αのうちの最小値を選択する。
【0049】
第2制御装置32は、最小値選択回路64で選択された制御角αに基づいて、各スイッチ部42のオンタイミングを制御する。第2制御装置32は、定電圧制御部62の制御角αが選択された場合には、直流回路14の電圧が電圧基準値に応じた実質的に一定の電圧となるように、各スイッチ部42のオンタイミングを制御する。第2制御装置32は、定余裕角制御部63の制御角αが選択された場合には、各スイッチ部42の余裕角が余裕角基準値に応じた実質的に一定の余裕角となるように、各スイッチ部42のオンタイミングを制御する。
【0050】
なお、直流電流Idの測定値、直流電圧Vdの測定値、及び交流電圧Vac1の測定値は、電流測定器52、電圧測定器53、54から第2制御装置32に直接的に入力する構成に限ることなく、例えば、上位のコントローラなどから第2制御装置32に入力する構成などとしてもよい。
【0051】
図2は、第1の実施形態に係る定余裕角制御部を模式的に表すブロック図である。
図2に表したように、定余裕角制御部63は、転流インダクタンス計算回路70と、遅延回路71と、リミッタ72と、制御角計算回路73と、を有する。
【0052】
定余裕角制御部63は、電圧測定器54によって測定された変圧器2bの一次側の交流電圧Vac1に対して変圧器2bの変圧比を乗算することにより、変圧器2bの一次側の交流電圧Vac1の測定値を変圧器2bの二次側の交流電圧Vac2の測定値に変換する。変圧器2bの二次側の交流電圧Vac2は、換言すれば、第2他励式電力変換器22から出力される交流電圧の各相の線間電圧である。
【0053】
定余裕角制御部63は、変換後の第2他励式電力変換器22の交流電圧Vac2、直流回路14の直流電流Id、直流回路14の直流電圧Vd、及び運転中の制御角αを転流インダクタンス計算回路70に入力する。運転中の制御角αは、換言すれば、最小値選択回路64で選択されている現在の制御角αである。
【0054】
なお、電圧測定器54は、変圧器2bの二次側の交流電圧Vac2を直接的に測定してもよい。換言すれば、電圧測定器54は、第2他励式電力変換器22から出力される交流電圧を測定してもよい。但し、上記のように、変圧器2bの一次側の交流電圧Vac1を測定し、一次側の交流電圧Vac1に変圧比を乗算して二次側の交流電圧Vac2を演算することにより、例えば、各スイッチ部42が転流するときの電圧変動による影響などを抑制し、二次側の交流電圧Vac2をより適切に取得することができる。
【0055】
転流インダクタンス計算回路70は、入力された第2他励式電力変換器22の交流電圧Vac2、直流回路14(第2他励式電力変換器22)の直流電流Id、直流回路14(第2他励式電力変換器22)の直流電圧Vd、及び運転中の制御角αを基に、転流インダクタンスXを計算する。転流インダクタンスXは、例えば、第2他励式電力変換器22の一次側のインダクタンス成分である。転流インダクタンスXは、例えば、変圧器2b(変換器用変圧器)の漏れインダクタンス、スイッチ部42のリアクトル42c、交流フィルタ4のインダクタンスなどの複数の要素を含む。
【0056】
転流インダクタンス計算回路70は、第2他励式電力変換器22の実システムにおける転流インダクタンスXを計算する。換言すれば、転流インダクタンス計算回路70は、第2他励式電力変換器22の現在の転流インダクタンスXを計算する。
【0057】
第2他励式電力変換器22の出力する直流電圧Vdは、次の(1)式で求めることができる。
【数1】


なお、(1)式において、Xは、転流インダクタンス(PU:Per Unit)、Vac2は、第2他励式電力変換器22の交流電圧(PU)、Vacbは、第2他励式電力変換器22の交流定格電圧(kV)、Idは、直流回路14の直流電流(PU)、Vdは、直流回路14の直流電圧(kV)、αは、制御角(deg)である。Vac2は、換言すれば、第2他励式電力変換器22の二次側線間電圧である。Vacbは、換言すれば、第2他励式電力変換器22の二次側定格線間電圧である。
【0058】
転流インダクタンス計算回路70は、上記の(1)式を用いて、次の(2)式により、転流インダクタンスXを計算する。
【数2】

【0059】
遅延回路71及びリミッタ72は、転流インダクタンス計算回路70と制御角計算回路73との間に設けられる。遅延回路71は、転流インダクタンス計算回路70によって計算された転流インダクタンスXの変化を遅らせる処理を行う。遅延回路71は、例えば、一次遅れの処理により、転流インダクタンスXの変化を遅らせる。遅延回路71は、換言すれば、ローパスフィルタである。遅延回路71は、例えば、Vacが電力系統の擾乱によって変動し、転流インダクタンスXの計算値が急峻に変化した場合の高い周波数成分の変化を抑制する。
【0060】
リミッタ72は、転流インダクタンス計算回路70によって計算された転流インダクタンスXに対して上限値及び下限値を設定し、転流インダクタンスXを上限値及び下限値の範囲内に制限する処理を行う。より詳しくは、リミッタ72は、入力された転流インダクタンスXの値が上限値と下限値との間の値である場合には、入力された転流インダクタンスXをそのまま出力し、入力された転流インダクタンスXの値が上限値以上である場合には、転流インダクタンスXを上限値に制限して出力し、入力された転流インダクタンスXの値が下限値以下である場合には、転流インダクタンスXを下限値に制限して出力する。換言すれば、リミッタ72は、転流インダクタンスXの値が上限値以上である場合には、上限値を出力し、転流インダクタンスXの値が下限値以下である場合には、下限値を出力する。
【0061】
この例では、リミッタ72が、遅延回路71と制御角計算回路73との間に設けられている。リミッタ72は、遅延回路71によって処理された後の転流インダクタンスXを上限値及び下限値の範囲内に制限する処理を行う。これとは反対に、リミッタ72と制御角計算回路73との間に遅延回路71を設けてもよい。遅延回路71は、リミッタ72による制限の処理の後の転流インダクタンスXに対して変化を遅らせる処理を行ってもよい。遅延回路71及びリミッタ72は、例えば、実質的に一体に構成されていてもよい。転流インダクタンスXの変化を遅らせる処理、及び転流インダクタンスXを上限値及び下限値の範囲内に制限する処理は、実質的に同時に行ってもよい。
【0062】
また、遅延回路71及びリミッタ72は、必要に応じて設けられ、省略可能である。定余裕角制御部63は、遅延回路71のみを有してもよいし、リミッタ72のみを有してもよい。遅延回路71のみを有する場合には、遅延回路71による処理後の転流インダクタンスXが、制御角計算回路73に入力される。リミッタ72のみを有する場合には、リミッタ72による処理後の転流インダクタンスXが、制御角計算回路73に入力される。遅延回路71及びリミッタ72のいずれも有しない場合には、転流インダクタンス計算回路70によって計算された転流インダクタンスXが、そのまま制御角計算回路73に入力される。
【0063】
制御角計算回路73には、転流インダクタンス計算回路70によって計算され、遅延回路71及びリミッタ72で処理が行われた転流インダクタンスXが入力されるとともに、第2他励式電力変換器22の交流電圧Vac2、直流回路14の直流電流Id、及び余裕角基準値γが入力される。
【0064】
制御角計算回路73は、入力された転流インダクタンスX、第2他励式電力変換器22の交流電圧Vac2、直流回路14の直流電流Id、及び余裕角基準値γを基に、各スイッチ部42の余裕角γを余裕角基準値γと一致させる制御角αを計算する。制御角計算回路73は、フィードフォワード式の定余裕角制御を行うための制御角α(AγR-α)を計算する。
【0065】
余裕角γと制御角αは、次の(3)式にて表すことができる。
【数3】


制御角計算回路73は、上記の(3)式を基に、次の(4)式を用いることにより、余裕角γを余裕角基準値γと一致させる制御角αを計算する。
【数4】

【0066】
定余裕角制御部63は、制御角計算回路73によって計算された制御角αを最小値選択回路64に入力する。これにより、前述のように、定電圧制御部62の制御角αが選択された場合には、直流回路14の電圧が電圧基準値に応じた実質的に一定の電圧となるように、各スイッチ部42のオンタイミングを制御し、定余裕角制御部63の制御角αが選択された場合には、各スイッチ部42の余裕角が余裕角基準値に応じた実質的に一定の余裕角となるように、各スイッチ部42のオンタイミングを制御することができる。
【0067】
以上、説明したように、本実施形態に係る電力変換システム10の第2電力変換装置12では、転流インダクタンス計算回路70が、第2他励式電力変換器22の実システムにおける転流インダクタンスXを計算し、制御角計算回路73が、転流インダクタンス計算回路70によって計算された実システムの転流インダクタンスXを基に、定余裕角制御を行うための制御角αを計算する。
【0068】
これにより、第2電力変換装置12では、実システムにおける転流インダクタンスXを反映した定余裕角制御を行うことができる。転流インダクタンスXの値が想定された値と異なる場合にも、フィードフォワード式の定余裕角制御によって、余裕角基準値γに応じた値に余裕角γをより適切に制御することができる第2電力変換装置12を提供することができる。
【0069】
また、第2電力変換装置12では、各スイッチ部42(サイリスタバルブ)の逆圧期間を測定する測定回路などを設ける必要が無く、フィードバック式の定余裕角制御を行う場合と比べて、装置構成を簡単にすることができる。
【0070】
転流インダクタンスXを構成する複数の要素のうち、支配的な要素は、変圧器2bの漏れインダクタンスである。変圧器2bに負荷時タップ切替機能が実装されている場合、タップ切替により漏れインダクタンスが変化することはあるが、タップ切替は、一般的に秒オーダーの制御・動作である。このことから、転流インダクタンスXの変化速度は、秒オーダーで十分であり、むしろ過敏な転流インダクタンスXの変化は、予期せぬ転流失敗を引き起こす場合も考えられる。
【0071】
このため、第2電力変換装置12では、定余裕角制御部63が遅延回路71を有する。これにより、転流インダクタンスXの過敏な変化を抑制することができる。例えば、転流インダクタンスXの過敏な変化に起因する予期せぬ転流失敗を抑制することができる。第2電力変換装置12の動作をより安定させることができる。
【0072】
また、例えば、転流が正常に行われない場合や、電流測定器52、電圧測定器53、54に異常が発生した場合などには、転流インダクタンスXを適切に計算することができなくなってしまう。このため、第2電力変換装置12では、定余裕角制御部63がリミッタ72を有する。これにより、転流が正常に行われない場合や、電流測定器52、電圧測定器53、54に異常が発生した場合などにおいても、転流インダクタンスXの値が異常な値となってしまうことを抑制することができる。第2電力変換装置12の動作をより安定させることができる。
【0073】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係る定余裕角制御部を模式的に表すブロック図である。
第2の実施形態においては、上記第1の実施形態の第2電力変換装置12の定余裕角制御部63が、定余裕角制御部63aに置き換えられる。なお、第1の実施形態と機能・構成上実質的に同じものについては、同符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0074】
図3に表したように、定余裕角制御部63aは、第1制御角計算回路80と、減算器81と、補正値演算器82と、遅延回路83と、リミッタ84と、加算器85と、第2制御角計算回路86と、を有する。
【0075】
第1制御角計算回路80には、第2他励式電力変換器22の交流電圧Vac2、直流回路14の直流電流Id、直流回路14の直流電圧Vd、及び補正前の転流インダクタンスXが入力される。補正前の転流インダクタンスXは、例えば、計算などに基づいて事前に設定された転流インダクタンスである。
【0076】
制御角αは、上記の(1)式より、次の(5)式でも求めることができる。
【数5】


第1制御角計算回路80は、入力された第2他励式電力変換器22の交流電圧Vac2、直流回路14の直流電流Id、直流回路14の直流電圧Vd、及び補正前の転流インダクタンスXを基に、上記の(5)式により、制御角αを計算する。第1制御角計算回路80は、計算した制御角αを減算器81に入力する。
【0077】
減算器81には、第1制御角計算回路80によって計算された制御角αが入力されるとともに、運転中の制御角αが入力される。減算器81は、第1制御角計算回路80によって計算された制御角αと運転中の制御角αとの偏差を演算する。
【0078】
補正値演算器82は、減算器81から入力された偏差を基に、第1制御角計算回路80によって計算された制御角αと運転中の制御角αとの偏差を小さくするための転流インダクタンスXの補正値を演算する。
【0079】
補正値演算器82は、例えば、偏差に所定の係数を乗算することによって、転流インダクタンスXの補正値を演算する。補正値演算器82は、例えば、PID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)やPI制御などによって転流インダクタンスXの補正値を演算してもよい。補正値演算器82による転流インダクタンスXの補正値の演算方法は、転流インダクタンスXの補正値を適切に演算可能な任意の方法でよい。
【0080】
遅延回路83は、補正値演算器82によって演算された転流インダクタンスXの補正値の変化を遅らせる処理を行う。遅延回路83は、例えば、一次遅れの処理により、転流インダクタンスXの補正値の変化を遅らせる。遅延回路83には、上記第1の実施形態に関して説明した遅延回路71と同様のものを用いることができる。
【0081】
リミッタ84は、補正値演算器82によって演算された転流インダクタンスXの補正値に対して上限値及び下限値を設定し、転流インダクタンスXの補正値を上限値及び下限値の範囲内に制限する処理を行う。より詳しくは、リミッタ84は、入力された転流インダクタンスXの補正値が上限値と下限値との間の値である場合には、入力された転流インダクタンスXの補正値をそのまま出力し、入力された転流インダクタンスXの補正値が上限値以上である場合には、転流インダクタンスXの補正値を上限値に制限して出力し、入力された転流インダクタンスXの補正値が下限値以下である場合には、転流インダクタンスXの補正値を下限値に制限して出力する。換言すれば、リミッタ84は、転流インダクタンスXの補正値が上限値以上である場合には、上限値を出力し、転流インダクタンスXの補正値が下限値以下である場合には、下限値を出力する。
【0082】
遅延回路83及びリミッタ84は、上記第1の実施形態に関して説明した遅延回路71及びリミッタ72と同様に、順序を入れ替えて配置してもよいし、実質的に一体に構成してもよい。遅延回路83及びリミッタ84は、上記第1の実施形態に関して説明した遅延回路71及びリミッタ72と同様に、必要に応じて設けられ、省略可能である。
【0083】
加算器85には、補正前の転流インダクタンスXと、転流インダクタンスXの補正値と、が入力される。加算器85は、補正前の転流インダクタンスXに、転流インダクタンスXの補正値を加算することにより、転流インダクタンスXを補正する。換言すれば、加算器85は、補正値を加算し、転流インダクタンスXを補正することにより、第2他励式電力変換器22の実システムにおける転流インダクタンスXを計算する。加算器85は、第2他励式電力変換器22の現在の転流インダクタンスXを計算する。加算器85は、補正後の転流インダクタンスXを第2制御角計算回路86に入力する。
【0084】
第2制御角計算回路86には、補正後の転流インダクタンスXが入力されるとともに、第2他励式電力変換器22の交流電圧Vac2、直流回路14の直流電流Id、及び余裕角基準値γが入力される。
【0085】
第2制御角計算回路86は、上記第1の実施形態の制御角計算回路73と同様に、上記の(4)式を用いることにより、余裕角γを余裕角基準値γと一致させる制御角αを計算する。
【0086】
定余裕角制御部63aは、第2制御角計算回路86によって計算された制御角αを最小値選択回路64に入力する。これにより、上記第1の実施形態と同様に、定電圧制御部62の制御角αが選択された場合には、直流回路14の電圧が電圧基準値に応じた実質的に一定の電圧となるように、各スイッチ部42のオンタイミングを制御し、定余裕角制御部63aの制御角αが選択された場合には、各スイッチ部42の余裕角が余裕角基準値に応じた実質的に一定の余裕角となるように、各スイッチ部42のオンタイミングを制御することができる。
【0087】
事前に設定された転流インダクタンスXと実システムの転流インダクタンスXとに差がある場合には、第1制御角計算回路80によって計算された制御角αと現在運転中の制御角αとに偏差が生じる。このため、定余裕角制御部63aは、第1制御角計算回路80によって計算された制御角αと現在運転中の制御角αとの偏差を演算し、この偏差が小さくなるように転流インダクタンスXを補正し、補正後の転流インダクタンスXに基づいて定余裕角制御の制御角αを計算する。
【0088】
これにより、上記第1の実施形態と同様に、実システムにおける転流インダクタンスXを反映した定余裕角制御を行うことができる。転流インダクタンスXの値が想定された値と異なる場合にも、フィードフォワード式の定余裕角制御によって、余裕角基準値γに応じた値に余裕角γをより適切に制御することができる第2電力変換装置12を提供することができる。
【0089】
また、定余裕角制御部63aは、遅延回路83を有する。これにより、転流インダクタンスXの過敏な変化を抑制することができる。例えば、転流インダクタンスXの過敏な変化に起因する予期せぬ転流失敗を抑制することができる。第2電力変換装置12の動作をより安定させることができる。
【0090】
定余裕角制御部63aは、リミッタ84をさらに有する。これにより、転流が正常に行われない場合や、電流測定器52、電圧測定器53、54に異常が発生した場合などにおいても、転流インダクタンスXの値が異常な値となってしまうことを抑制することができる。第2電力変換装置12の動作をより安定させることができる。
【0091】
なお、定余裕角制御部63aによる定余裕角制御の制御角αの計算を繰り返し行う場合、第1制御角計算回路80に入力される補正前の転流インダクタンスXは、事前に設定された転流インダクタンスXでもよいし、前回の制御角αの計算において加算器85で計算された補正後の転流インダクタンスXでもよい。
【0092】
上記各実施形態では、直流送電などの電力変換システム10に用いられる電力変換装置を表している。電力変換装置は、これに限ることなく、交流電力から直流電力への変換及び直流電力から交流電力への変換の少なくとも一方を行う任意の電力変換装置でよい。制御装置は、必ずしも定電圧制御部62と最小値選択回路64とを有しなくてもよい。制御装置は、定余裕角制御部63、63aによって計算された制御角αを基に、各スイッチ部のオンタイミングを制御してもよい。
【0093】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0094】
2a、2b 変圧器、 4 交流フィルタ、 10電力変換システム、 11第1電力変換装置、 12 第2電力変換装置、 14 直流回路、 14n 負側直流母線、 14p 正側直流母線、 21 第1他励式電力変換器、 22 第2他励式電力変換器、 31第1制御装置、 32 第2制御装置、 41、42 スイッチ部、 51 電流測定器、 52 電流測定器、 53、54 電圧測定器、 61 定電流制御部、 62 定電圧制御部、 63、63a 定余裕角制御部、 64 最小値選択回路、 70 転流インダクタンス計算回路、 71 遅延回路、 72 リミッタ、 73 制御角計算回路、 80 第1制御角計算回路、 81 減算器、 82 補正値演算器、 83 遅延回路、 84 リミッタ、 85 加算器、 86 第2制御角計算回路
図1
図2
図3