(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168069
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】量子演算ユニット、量子演算器
(51)【国際特許分類】
G02F 3/00 20060101AFI20231116BHJP
G06E 3/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G02F3/00 501
G06E3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079702
(22)【出願日】2022-05-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)「超低損失ナノファイバー共振器の開発と光学的量子計算の要素技術実証」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】青木 隆朗
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA09
2K102AA37
2K102BA18
2K102BA31
2K102BA33
2K102BB02
2K102BB10
2K102BC01
2K102BD03
2K102DA06
2K102DA11
2K102DB01
2K102EB12
2K102EB16
2K102EB20
2K102EB22
(57)【要約】
【課題】量子演算と、当該量子演算に用いた光子と異なる波長を有する光子への量子系とのエンタングルメントの付与機能と、の双方の機能を備えた量子演算ユニットを実現する。
【解決手段】量子演算ユニットは、ナノ光ファイバ(20)と、該ナノ光ファイバ上に配置された量子系(22)と、を備える。量子系は、基底準位と、第1励起準位と、第2励起準位と、第2励起準位と異なるエネルギーを有する第3励起準位とを有し、基底準位と第1励起準位との準位差に相当する第1共鳴波長(λ
1)と、第2励起準位と第3励起準位との準位差に相当する第2共鳴波長(λ
2)と、が互いに異なる。また、量子系は、第1共鳴波長を有する第1光子と相互作用し、さらに、量子系とエンタングルメントを有し、かつ、第2共鳴波長を有する第2光子をナノ光ファイバに生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光子を伝搬する光ファイバとテーパー部を介して接続するナノ光ファイバと、
前記ナノ光ファイバ上に配置された量子系と、を備え、
前記量子系は、基底準位と、第1励起準位と、第2励起準位と、前記第2励起準位と異なるエネルギーを有する第3励起準位とを有し、
前記基底準位と前記第1励起準位との準位差に相当する第1共鳴波長と前記第2励起準位と前記第3励起準位との準位差に相当する第2共鳴波長とが互いに異なり、
前記量子系は前記第1共鳴波長を有する第1光子と相互作用し、前記量子系とエンタングルメントを有し、かつ、前記第2共鳴波長を有する第2光子を前記ナノ光ファイバに生成する量子演算ユニット。
【請求項2】
前記第1共鳴波長よりも前記第2共鳴波長が長い請求項1に記載の量子演算ユニット。
【請求項3】
前記第1共鳴波長が1.0μm未満であり、前記第2共鳴波長が1.0μm以上1.8μm以下である請求項2に記載の量子演算ユニット。
【請求項4】
前記第2共鳴波長が1.3μm以上1.6μm以下である請求項3に記載の量子演算ユニット。
【請求項5】
前記ナノ光ファイバの内部または前記光ファイバの内部の少なくとも一方に形成された、前記第1共鳴波長を共振波長に有する第1共振器および前記第2共鳴波長を共振波長に有する第2共振器をさらに備え、
前記量子系は前記第1共振器中の前記第1光子と相互作用し、前記第2共振器に前記第2光子を生成する請求項1から4の何れか1項に記載の量子演算ユニット。
【請求項6】
前記第1共振器は前記第1共鳴波長を反射帯域に含む一対の第1ファイバブラッグ格子を有し、前記第2共振器は前記第2共鳴波長を反射帯域に含む一対の第2ファイバブラッグ格子を有する請求項5に記載の量子演算ユニット。
【請求項7】
前記第1共鳴波長を有する第1レーザ光を前記量子系に照射するレーザ光源をさらに備えた請求項1から4の何れか1項に記載の量子演算ユニット。
【請求項8】
前記量子系は、前記第2励起準位とは異なるエネルギーを有する第4励起準位をさらに有し、
前記レーザ光源は、さらに、前記基底準位と前記第4励起準位との間の遷移に共鳴する第2レーザ光と、前記第4励起準位と前記第2励起準位との間の遷移に共鳴する第3レーザ光と、前記第3励起準位と前記基底準位との間の遷移に共鳴する第4レーザ光とを、前記量子系に照射する請求項7に記載の量子演算ユニット。
【請求項9】
前記レーザ光源は、さらに、前記第3励起準位と前記基底準位との間の遷移に共鳴する第4レーザ光と、2倍波が前記基底準位と前記第2励起準位との間の遷移に共鳴する第5レーザ光とを、前記量子系に照射する請求項7に記載の量子演算ユニット。
【請求項10】
複数の請求項1から4の何れか1項に記載の量子演算ユニットと、
前記第1共鳴波長を有する単一光子を生成し、各前記量子演算ユニットに入力する複数の単一光子源と、
各前記量子演算ユニットから出力された前記第1共鳴波長を有する単一光子が入射する複数の偏光ビームスプリッタと、
各前記偏光ビームスプリッタから出射する単一光子を検出する複数の第1単一光子検出器と、
2つの前記量子演算ユニットのそれぞれから出力された前記第2共鳴波長を有する単一光子を互いに干渉させる少なくとも一つのハーフビームスプリッタと、
前記ハーフビームスプリッタから出射する単一光子を検出する少なくとも一つの第2単一光子検出器と、
を備えた量子演算器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は量子演算ユニット、および当該量子演算ユニットを備えた量子演算器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原子、イオン、ダイヤモンドNV中心、半導体量子ドット等を量子系として含む量子演算ユニットを備えた量子演算器が考案されている。例えば、当該量子演算器の複数の量子演算ユニットを量子チャネルにて接続することにより、当該量子演算ユニットは、長距離量子通信のための量子中継器、または、分散型量子演算器の量子演算ユニットとして利用することができる。
【0003】
ここで、量子演算ユニットを用いた量子演算は、例えば、量子系における量子情報の保持と、量子系に対する量子状態操作とを利用して実行される。ここで、上記量子演算を行うためには、量子系の準位のうち、ある程度長いコヒーレンス時間を有する準位を利用する必要がある。したがって、量子演算ユニットを用いた量子演算は、通常、量子系の基底準位と励起準位との間の遷移が利用され、当該遷移と共鳴する光の波長は、多くは1.0μm未満である。
【0004】
一方、量子演算ユニット同士を接続する量子チャネルには光ファイバが用いられることが多い。この場合、光ファイバにおける量子情報の損失を十分に低減するために、光ファイバ中を伝搬する光子の波長は、一般に通信波長帯とも呼称される、1.3μm~1.6μmの波長帯に含まれることが求められる。
【0005】
したがって、量子演算ユニットを用いた量子演算と、量子演算ユニット同士の間における低損失の量子通信とを両立するためには、量子演算ユニットから出力される光子の波長を通信波長帯に変換する、量子波長変換が必要であった。非特許文献1~3は、光子の波長を変換する量子波長変換器を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R. Ikuta et al., "Wide-band quantum interface for visible-to-telecommunication wavelength conversion", Nature Communications 2, 537 (2011)
【非特許文献2】S. Zaske et al., “Visible-to-Telecom Quantum Frequency Conversion of Light from a Single Quantum Emitter”, Phys. Rev. Lett. 109, 147404 (2012)
【非特許文献3】K. De Greve et al., “Quantum-dot spin-photon entanglement via frequency downconversion to telecom wavelength”, Nature 491, 421 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1~3に記載された量子波長変換器を量子演算器に導入すると、量子演算器の構造が複雑となる。また、非特許文献1~3に記載された量子波長変換器による量子波長変換を行う際には、ノイズの混入、または光子の損失等が生じる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る量子演算ユニットは、光子を伝搬する光ファイバとテーパー部を介して接続するナノ光ファイバと、前記ナノ光ファイバ上に配置された量子系とを備え、前記量子系は、基底準位と、第1励起準位と、第2励起準位と、前記第2励起準位と異なるエネルギーを有する第3励起準位とを有し、前記基底準位と前記第1励起準位との準位差に相当する第1共鳴波長と前記第2励起準位と前記第3励起準位との準位差に相当する第2共鳴波長とが互いに異なり、前記量子系は前記第1共鳴波長を有する第1光子と相互作用し、前記量子系とエンタングルメントを有し、かつ、前記第2共鳴波長を有する第2光子を前記ナノ光ファイバに生成する。
【発明の効果】
【0009】
量子演算と当該量子演算に用いた第1光子と異なる波長を有する第2光子への量子系とのエンタングルメントの付与機能との双方の機能を備えた量子演算ユニットを、量子波長変換器を用いずに実現できる。当該量子演算ユニットにより、量子波長変換器を不要としつつ、異なる波長を有する光子間にエンタングルメントを付与できる量子演算器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る量子演算ユニットの共振器QED系の近傍を拡大した概略図、および、当該量子系の各準位を示すエネルギーダイヤグラムである。
【
図2】本開示の実施形態に係る量子演算器の概略図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る単一光子源の拡大概略図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る量子演算器の第1の運用形態を示す概略図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る量子演算器の第1の運用形態における、量子演算ユニットの量子系における遷移過程を示すエネルギーダイヤグラムである。
【
図6】本開示の実施形態に係る量子演算器の第2の運用形態を示す概略図である。
【
図7】本開示の実施形態に係る量子演算器の第2の運用形態における、量子演算ユニットの量子系における遷移過程を示すエネルギーダイヤグラムである。
【
図8】本開示の実施形態に係る量子演算器の第2の運用形態における、量子演算ユニットの量子系における遷移過程の他の例を示すエネルギーダイヤグラムである。
【
図9】本開示の実施形態に係る量子演算器の第2の運用形態における、量子演算ユニットの量子系における遷移過程の他の例を示すエネルギーダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施形態〕
<量子演算器>
本実施形態に係る量子演算器2について、
図2を参照し説明する。
図2は本実施形態に係る量子演算器2を示す概略図である。
図2に示すように、量子演算器2は、複数の量子演算ユニット4、単一光子源6、偏光ビームスプリッタ8、および第1単一光子検出器10と、少なくとも一つのハーフビームスプリッタ12、および第2単一光子検出器14とを備える。また、量子演算器2は、上述の各部材間において単一光子を伝搬させる単一モードの光ファイバFを備える。
【0012】
本実施形態に係る量子演算ユニット4は、共振器QED(量子電気力学:quantum electrodynamics)系16と、レーザ光源18とを含む。共振器QED系16は、量子系を含み、当該量子系を用いた量子演算を実現するためのユニットである。レーザ光源18は、共振器QED系16を用いた量子演算のために、共振器QED系16の量子系にレーザ光を照射するための光源である。レーザ光源18の詳細については後述する。
【0013】
<共振器QED系>
共振器QED系16について、
図1を参照しより詳細に説明する。
図1は、共振器QED系16の近傍を拡大して示す概略図、および、当該共振器QED系16が含む量子系の各準位を示すエネルギーダイヤグラムD1である。
【0014】
図1に示すように、共振器QED系16は、ナノ光ファイバ20と少なくとも一つの量子系22とを含む。ナノ光ファイバ20は、両端に位置するテーパー部24を介して単一モードの光ファイバFと接続する。このため、単一モードの光ファイバFを伝搬する光子はテーパー部24を介してナノ光ファイバ20中を伝搬する。
【0015】
なお、光ファイバFは、
図1に示すように、コア部FAと、該コア部FAの周囲のクラッド部FBとを含み、コア部FAにおいて光子を伝搬させてもよい。また、ナノ光ファイバ20は、光ファイバFの一部分をセラミックヒータ、または酸素水炎等を含む種々の加熱方法により加熱しつつ、加熱部分を両端から引張することにより、当該加熱部分に形成されてもよい。この場合、ナノ光ファイバ20についても、光子を伝搬させるコア部と、コア部周囲のクラッド部とを含んでいてもよい。
【0016】
量子系22は、ナノ光ファイバ20上に配置されている。量子系22は、例えば、複数の準位を有する。例えば、量子系22は、
図1のエネルギーダイヤグラムD1に示すように、基底準位としての第1基底準位gおよび第2基底準位uと、励起準位としての第1励起準位e
1、第2励起準位e
2、および第3励起準位e
3を有する。第1励起準位e
1、第2励起準位e
2、および第3励起準位e
3は、第1基底準位gおよび第2基底準位uよりも高いエネルギーを有する。
【0017】
ここで、少なくとも第2励起準位e
2と第3励起準位e
3とは互いに異なるエネルギーを有する。特に、
図1のエネルギーダイヤグラムD1に示すように、第2励起準位e
2は第1励起準位e
1および第3励起準位e
3よりも高いエネルギーを有していてもよい。ただし、第1励起準位e
1は、第2励起準位e
2および第3励起準位e
3の何れかと縮退していてもよく、あるいは、第2励起準位e
2および第3励起準位e
3の何れかと同一の準位であってもよい。また、量子系22が含む各準位は磁気副準位を有していてもよい。
【0018】
本明細書において、第1基底準位gおよび第2基底準位uのそれぞれに対応する量子系22の状態を、それぞれ、状態|g>および状態|u>とする。また、第1励起準位e1、第2励起準位e2、および第3励起準位e3のそれぞれに対応する量子系22の状態を、それぞれ、状態|e1>、状態|e2>、および状態|e3>とする。
【0019】
ここで、一般に、状態|g>および状態|u>は、状態|e1>、状態|e2>、および状態|e3>と比較して安定であり、コヒーレンス時間が長い。このため、第1基底準位gおよび第2基底準位uは、量子状態を比較的長時間保持する量子メモリとして機能させることができる。
【0020】
図1のエネルギーダイヤグラムD1に示すように、状態|g>から状態|e
1>への遷移に共鳴する波長を第1共鳴波長λ
1とし、状態|e
2>と状態|e
3>との遷移に共鳴する波長を第2共鳴波長λ
2とする。なお、本明細書において、ある準位間の遷移に共鳴する波長とは、当該準位間のエネルギー差に対応するエネルギーを有する光子の波長を指し、換言すれば、当該準位間の準位差に相当する波長である。換言すれば、第1基底準位gと第1励起準位e
1とのエネルギー差に相当する波長を第1共鳴波長λ
1とし、第2励起準位e
2と第3励起準位e
3とのエネルギー差に相当する波長を第2共鳴波長λ
2とする。
【0021】
ここで、第1基底準位gと第1励起準位e1とのエネルギー差と、第2励起準位e2と第3励起準位e3とのエネルギー差とは、互いに異なっている。このため、第1共鳴波長λ1と第2共鳴波長λ2とは互いに異なる。特に、第1基底準位gと第1励起準位e1とのエネルギー差は、第2励起準位e2と第3励起準位e3とのエネルギー差よりも大きくともよい。この場合、第2共鳴波長λ2は第1共鳴波長λ1よりも長くなる。例えば、第1共鳴波長λ1は、1.0μm未満であり、第2共鳴波長λ2は、1.3μm以上1.6μm以下である。
【0022】
なお、本実施形態において、状態|e1>から状態|e2>への遷移に共鳴する波長を第3共鳴波長λ3とし、状態|g>から状態|e3>への遷移に共鳴する波長を第4共鳴波長λ4とする。さらに、状態|g>から状態|e2>への遷移に共鳴する波長を第5共鳴波長λ5とする。
【0023】
本実施形態において、量子系22は、例えば、セシウム原子であってもよい。この場合、本実施形態において、状態|g>には62S1/2,F=4状態、状態|u>には62S1/2,F=3状態を充てることができる。また、本実施形態において、状態|e1>には62P3/2,F=3状態、状態|e2>には72S1/2,F=4状態、状態|e3>には62P1/2,F=3状態を充てることができる。
【0024】
量子系22の各準位が、
図1のエネルギーダイヤグラムD1に示す状態をとる場合、第1基底準位gと第1励起準位e
1とのエネルギー差に対応する第1共鳴波長λ
1は、852nmである。また、第2励起準位e
2と第3励起準位e
3とのエネルギー差に対応する第2共鳴波長λ
2は、1470nmであり、第1基底準位gと第3励起準位e
3とのエネルギー差に対応する第4共鳴波長λ
4は、894nmである。
【0025】
量子系22は、ナノ光ファイバ20を伝搬する、第1共鳴波長λ1を有する第1光子と相互作用する。より具体的には、量子系22は、ナノ光ファイバ20を伝搬する第1光子との相互作用により状態遷移が生じる。量子系22とナノ光ファイバ20を伝搬する第1光子との相互作用は、ナノ光ファイバ20を第1光子が伝搬することによりナノ光ファイバ20から染み出すエバネッセント波が量子系22と相互作用することにより生じてもよい。
【0026】
ここで、本明細書において、『量子系22がナノ光ファイバ20に配置される』とは、量子系22がナノ光ファイバ20と接触していることのみを指さない。例えば、本実施形態において、量子系22とナノ光ファイバ20を伝搬する第1光子との相互作用が可能な程度に、量子系22はナノ光ファイバ20と間隔を空けて配置されていてもよい。
【0027】
また、量子系22は、第2共鳴波長λ2を有する第2光子をナノ光ファイバ20中に生成する。特に、量子系22から生成された第2光子は、量子系22の状態と相関を有し、換言すれば、量子系22とエンタングルメントを有する。量子系22からの第2光子の詳細な生成方法については後述する。
【0028】
なお、本実施形態においては、量子系22が上述した準位を有するセシウム原子である例を記載するが、これに限られない。例えば、量子系22は、基底準位、第1励起準位、第2励起準位、および第2励起準位と異なるエネルギーを有する第3励起準位を有する限り、量子演算に用いられる種々の量子系を含んでいてもよい。例えば、量子系22は、原子の他、イオン、窒素欠陥を有するダイヤモンド粒子、または量子ドット等を含んでいてもよい。
【0029】
<共振器>
図1の共振器QED系16の参照に戻ると、共振器QED系16は、さらに、ナノ光ファイバ20の内部または光ファイバFの内部に位置する第1共振器26と第2共振器28とを含む。第1共振器26と第2共振器28とは、それぞれの共振光路の少なくとも一部がナノ光ファイバ20を含むように構成される。第1共振器26は第1共鳴波長λ
1を共振波長に有し、第2共振器28は第2共鳴波長λ
2を共振波長に有する。したがって、量子系22は、第1共振器26中を伝搬する第1光子と相互作用し、また、量子系22は、第2共振器28中に第2光子を生成する。
【0030】
第1共振器26および第2共振器28のそれぞれは、例えば、ナノ光ファイバ20と接続する2つの光ファイバFのそれぞれに形成された、一対の第1ファイバブラッグ格子30、および第2ファイバブラッグ格子32を含む。第1ファイバブラッグ格子30および第2ファイバブラッグ格子32は、それぞれ、反射帯域に第1共鳴波長λ1および第2共鳴波長λ2を含む。一対の第1ファイバブラッグ格子30および第2ファイバブラッグ格子32は、それぞれ、伝搬する第1光子および第2光子が一往復する光路長が、各光子の波長の整数倍となるように配置される。
【0031】
なお、第1ファイバブラッグ格子30と第2ファイバブラッグ格子32との少なくとも一方は、光ファイバFではなくナノ光ファイバ20中に形成されていてもよい。ナノ光ファイバ20中に形成された第1ファイバブラッグ格子30または第2ファイバブラッグ格子32は、ナノ光ファイバ20の一部に周期的な欠陥を形成する等の方法により形成されたフォトニック結晶を有していてもよい。
【0032】
<量子ビット>
本実施形態において、状態|g>から状態|e1>への遷移に共鳴する第1共鳴波長λ1を共鳴波長として有するために、第1共振器26は、状態|g>から状態|e1>への遷移と結合する。一方、第1共振器26は、状態|u>から状態|e1>への遷移とは結合していない。また、本実施形態において、状態|e2>から状態|e3>への遷移に共鳴する第2共鳴波長λ2を共鳴波長として有するために、第2共振器28は、状態|e2>から状態|e3>への遷移と結合する。
【0033】
ただし、例えば、状態|g>および状態|u>から状態|e1>へのそれぞれの遷移に共鳴するコントロール光を量子系22に照射することにより、量子系22において2光子誘導ラマン過程を発生させることができる。あるいは、状態|g>から状態|u>への遷移に共鳴する電磁波を量子系22に照射してもよい。このように、量子系22にある特定振幅のレーザ光源18からのコントロール光を照射することにより、状態|u>から状態|e1>への遷移も制御することができる。ここで、レーザ光源18から量子系22に照射されるコントロール光は、状態|g>から状態|e1>への遷移に対応する波長を有するレーザ光と、状態|u>から状態|e1>への遷移に対応する波長を有するレーザ光とを含んでいてもよい。
【0034】
このため、量子系22と第1光子との相互作用と、量子系22に対するレーザ光源18からのコントロール光の照射とを制御することにより、量子系22の系全体の状態を制御することができる。したがって、量子系22は、例えば、比較的安定な状態|g>および状態|u>を基底とする、任意の重ね合わせ状態ρg|g>+ρu|u>をとる。なお、ρgおよびρuは、|ρg
2|+|ρu
2|=1を満たす複素数の係数である。
【0035】
これにより、共振器QED系16において、量子系22は、量子ビット|Ψ>=ρg|g>+ρu|u>を構成する。この場合、量子系22を用いた1量子ビットゲートは、例えば、状態|g>および状態|u>から状態|e1>へのそれぞれの遷移に共鳴するコントロール光を量子系22に照射することにより実現する。
【0036】
<単一光子源>
次に、単一光子源6について、
図3を参照しより詳細に説明する。
図3は、単一光子源6の近傍を拡大して示す概略図である。本実施形態に係る単一光子源6のそれぞれは、第1共鳴波長λ
1を有する単一の第1光子を生成し、各量子演算ユニット4に入力する単一光子源である。単一光子源6は、例えば、
図3に示すように、共振器QED系16と比較して、量子系22が単一である点、第2共振器28を有していない点を除き、同一の構成を備えていてもよい。換言すれば、単一光子源6は、両端がテーパー部24を介して光ファイバFと接続するナノ光ファイバ20と、ナノ光ファイバ20上に配置された量子系22と、第1光子と共鳴する第1共振器26とを含んでいる。
【0037】
単一光子源6は、例えば、量子系22と第1共振器26との結合により、状態|g>から状態|e1>への遷移に伴う単一の第1光子の自然放出が強調されるパーセル効果に基づき、単一の第1光子を第1共振器26中に生成してもよい。換言すれば、図示しないレーザ光源からのコントロール光により量子系22の状態を励起させ、再び基底状態に戻る際に単一の光子が生じることを利用し、単一光子源6は単一の第1光子を生成してもよい。
【0038】
あるいは、単一光子源6は、振幅が0から次第に上昇するコントロール光を量子系22が照射させることにより単一の第1光子を第1共振器26に生成してもよい。この場合、コントロール光の振幅の時間変化を制御することにより、第1光子の波形を制御できる。このほか、単一光子源6は単一の第1光子を生成する従来公知の単一光子源を採用してもよく、例えば、伝令付きの単一光子源であってもよい。
【0039】
本実施形態において、単一光子源6が単一の量子系22を有する例について説明したが、これに限られない。例えば、単一光子源6が有する量子系22は、共振器QED系16が含む量子系22と同じく複数であってもよい。この場合、例えば、単一光子源6が有する複数の量子系22は、何れも第1共振器26と結合しておらず、何れか一つの量子系22に光シフトビーム等を照射することにより、当該量子系22と第1共振器26とが結合するように構成されていてもよい。上記構成により、単一光子源6は、第1共振器26と結合する量子系22のみによって第1光子を生成することができる。
【0040】
<単一光子検出器>
図2の参照に戻ると、偏光ビームスプリッタ8は、入射した光子の有する偏光によって当該光子を反射させるか透過させるかが切り替わるビームスプリッタである。本実施形態において、偏光ビームスプリッタ8は、V偏光を有する光子を反射し、H偏光を有する光子を透過する。各偏光ビームスプリッタ8には、例えば、各共振器QED系16において後述する手法により生成された光子が各共振器QED系16から伝搬される。なお、
図2に示すように量子演算器2は半波長板34を備えていてもよく、各偏光ビームスプリッタ8に入射する光子は半波長板34を透過してもよい。
【0041】
第1単一光子検出器10は、偏光ビームスプリッタ8によって反射されたV偏光を有する光子を検出する第1光子検出素子36と、および偏光ビームスプリッタ8を透過したH偏光を有する光子を検出する第2光子検出素子38とを含む。このため、第1単一光子検出器10は、偏光ビームスプリッタ8を反射または透過して単一光子を検出する。
【0042】
ハーフビームスプリッタ12は、入射した光子の略50%の確率にて反射し、略50%の確率にて透過させる。ハーフビームスプリッタ12には、後述する方法により2つの共振器QED系16から出力された単一光子がそれぞれ入射する。ここで、ハーフビームスプリッタ12は、同時に入射した2つの単一光子が同一の波長を有している場合に当該2つの単一光子が干渉するように配置される。
【0043】
第2単一光子検出器14は、第3光子検出素子40と第4光子検出素子42とを含む。第3光子検出素子40は、一方の共振器QED系16において生成されハーフビームスプリッタ12を透過する単一光子と、他方の共振器QED系16において生成されハーフビームスプリッタ12を反射する単一光子とを検出する。一方、第4光子検出素子42は、一方の共振器QED系16において生成されハーフビームスプリッタ12を反射する単一光子と、他方の共振器QED系16において生成されハーフビームスプリッタ12を透過する単一光子とを検出する。したがって、ハーフビームスプリッタ12は、一方の共振器QED系16において生成された第2光子のモード(波束)と、他方の共振器QED系16において生成された第2光子のモード(波束)と、を干渉させる。
【0044】
光ファイバFは、量子演算器2が備える上述した各部の間において光子を伝搬させる。ここで、量子演算器2は、光サーキュレータ44をさらに備える。光サーキュレータ44は、各単一光子源6から入射した光子を各共振器QED系16に伝搬させ、各共振器QED系16から入射した光子を各偏光ビームスプリッタ8側の光ファイバFに伝搬させる。光サーキュレータ44は、例えば、各単一光子源6から各共振器QED系16への光路に、半波長板46を含んでいてもよく、各単一光子源6から各共振器QED系16のナノ光ファイバ20に入射する光子は半波長板46を透過してもよい。また、量子演算器2は、光スイッチ48をさらに備える。光スイッチ48は、各共振器QED系16から生成された光子を、各偏光ビームスプリッタ8とハーフビームスプリッタ12との何れに伝搬させるのかを切り替える。
【0045】
なお、量子演算器2は、光スイッチ48に代えて、入射した光子の波長に応じて、当該光子を各偏光ビームスプリッタ8とハーフビームスプリッタ12との何れに伝搬するかを振り分ける素子を有していてもよい。例えば、量子演算器2は、WDMフィルタまたはダイクロイックミラーを光スイッチ48に代えて備えていてもよい。
【0046】
なお、量子演算器2は、
図2に示す他にも、さらに多くの量子演算ユニット4、単一光子源6、偏光ビームスプリッタ8、第1単一光子検出器10、ハーフビームスプリッタ12、および第2単一光子検出器14を備えていてもよい。この場合、量子演算器2は、各共振器QED系16から生成された光子を、何れのハーフビームスプリッタ12に伝搬させるのかを切り替える光スイッチ50を備えていてもよい。また、量子演算器2は、各単一光子源6に対し、複数の量子演算ユニット4を備えていてもよい。
【0047】
量子演算器2は、備える各部を動作させるための不図示の制御部を備えていてもよい。制御部は、不図示のメモリ等に記録されたプログラムに基づいて、量子演算器2の各部を制御してもよい。
【0048】
<第1の運用形態>
本実施形態に係る量子演算器2の第1の運用形態について、
図4および
図5を参照し説明する。
図4は、本実施形態に係る量子演算器2の第1の運用形態における、量子演算器2の各部の動作を説明するための、量子演算器2の概略図である。
図5は、本実施形態に係る量子演算器2の第1の運用形態における、量子系22の状態遷移を表すエネルギーダイヤグラムD2を示す図である。
【0049】
本実施形態に係る量子演算器2の第1の運用形態においては、はじめに、単一の量子演算ユニット4内の量子系22間の量子ゲート操作について説明する。本実施形態に係る量子演算器2の第1の運用形態において、はじめに、量子演算器2は、各単一光子源6から、上述した手法等により、第1共鳴波長λ1を有する単一の第1光子SF1を生成させる。ここで、当該第1光子SF1は、例えば、横偏光|h>等の特定の状態を有する。
【0050】
次いで量子演算器2は、第1光子SF1を、光サーキュレータ44を透過させ、量子演算ユニット4の共振器QED系16に入射させる。これにより、単一光子源6から光サーキュレータ44に入射した第1光子SF1は、共振器QED系16まで伝搬する。なお、単一の量子演算ユニット4内の量子系22間の量子ゲート操作においては、半波長板46の光学軸の角度を横偏光|h>と平行にすることにより、第1光子SF1の偏光が変化しないようにしてもよい。共振器QED系16に入射した第1光子SF1は、第1共鳴波長λ1を共鳴波長に有する第1共振器26にて共振する。ここで、量子演算ユニット4は、レーザ光源18から特定の量子系22へのコントロール光L1の照射を制御する。
【0051】
レーザ光源18から特定の量子系22へのコントロール光L1の照射がない場合、当該量子系22の、状態|g>から状態|e1>への遷移は、第1共振器26と結合している。一方、上記場合において、当該量子系22の、状態|u>から状態|e1>への遷移は第1共振器26と結合していない。このため、量子系22が状態|g>にある場合と状態|u>にある場合とにおいて、第1光子SF1が共振器QED系16において反射する際に共振器QED系16が第1光子SF1に与える位相シフトは異なる。
【0052】
量子演算ユニット4は、レーザ光源18から特定の量子系22へコントロール光L1を照射させることにより、当該量子系22の、状態|g>から状態|e1>への遷移に共鳴する波長を変化させる。これにより、量子演算ユニット4は、当該遷移と第1共振器26との結合を実効的に解除することができる。この場合、量子系22が状態|g>にある場合と状態|u>にある場合とにおいて、共振器QED系16が第1光子SF1に与える位相シフトは略同一となる。以上により、量子演算ユニット4は、特定の量子系22へのコントロール光L1の照射を通じて、量子系22が状態|g>と状態|u>とのそれぞれにある場合における、共振器QED系16が第1光子SF1に与える位相シフトの差の有無を制御できる。
【0053】
なお、本実施形態において、量子系22へのコントロール光L1の照射によって、量子系22の状態|g>から状態|e1>への遷移と第1共振器26との結合を実効的に解除する例について説明したが、これに限られない。例えば、本実施形態においては、量子系22へのコントロール光L1の照射がない状態において、量子系22の状態|g>から状態|e1>への遷移と第1共振器26とが結合していなくともよい。この場合、量子系22へのコントロール光L1を照射することにより、量子系22の状態|g>から状態|e1>への遷移と第1共振器26とを結合させてもよい。
【0054】
共振器QED系16への第1光子SF1の入射に次いで、共振器QED系16からは、当該共振器QED系16において反射した第1光子SF1である第1光子SF1’が出射する。ここで、上述の通り、特定の量子系22の状態に応じて、第1光子SF1が共振器QED系16において反射する際に共振器QED系16が第1光子SF1に与える位相シフトに差異があるかないかは、コントロール光L1の照射の有無によって変化する。このため、量子演算ユニット4は、特定の量子系22へのコントロール光L1の照射を通じて、量子系22が状態|g>と状態|u>とのそれぞれにある場合における、第1光子SF1と第1光子SF1’との位相シフトの差の有無を制御できる。
【0055】
なお、量子演算ユニット4は、特定の量子系22へのコントロール光L1の照射を制御することにより、例えば、当該特定の量子系22における状態|e1>から状態|g>への状態遷移である遷移T1’を生じさせてもよい。当該状態遷移により、当該量子系22の重ね合わせ状態ρg|g>+ρu|u>とエンタングルメントを有する第1光子SF1’が第1共振器26に生成されてもよい。なお、状態|e1>から状態|g>への遷移と第1共振器26とが結合しているため、上記遷移T1’よる第1光子SF1の生成は第1共振器26により促進される。
【0056】
図4の参照に戻ると、本実施形態に係る量子演算器2の第1の運用形態において、共振器QED系16からの第1光子SF1’の出射に次いで、量子演算器2は、第1光子SF1’を偏光ビームスプリッタ8へ伝搬させる。例えば、量子演算器2は、光サーキュレータ44および光スイッチ48を透過した第1光子SF1’が偏光ビームスプリッタ8まで伝搬するように光スイッチ48を制御する。ここで、単一の量子演算ユニット4内の量子系22間の量子ゲート操作においては、半波長板34においても第1光子SF1’の偏光が変化しないようにしてもよい。
【0057】
これにより、量子演算器2は、量子演算ユニット4からの第1光子SF1’を偏光ビームスプリッタ8に入射させる。ただし、第1光子SF1’の偏光は横偏光|h>から変化していない。このため、第1単一光子検出器10の2つの光子検出素子の検出結果の和を取ることにより、実効的には、単一の光子検出器にて第1光子SF1’を測定したとみなせる。
【0058】
ここで、例えば、共振器QED系16が含む2つの量子系22の状態が双方|u>であれば、当該量子系22における光学応答は、量子系22が存在しない場合と等しいため、第1光子SF1はほとんど損失することなく反射し、その位相がπシフトする。一方、共振器QED系16が含む2つの量子系22の状態の何れか一方でも|u>ではない場合、当該量子系22における光学応答は、|g>と|e>との間の遷移に相当するため、入射した第1光子SF1は位相がシフトすることなく反射する。
【0059】
したがって、第1光子SF1と相互作用した2つの量子系22の状態は、第1光子SF1と相互作用する前の状態に対し、CPFゲートを作用させたものに相当する。また、第1光子SF1と相互作用する量子系の個数を3以上の整数であるN個とすると、第1光子SF1と相互作用したN個の量子系22の状態は、第1光子SF1と相互作用する前の状態に対し、Nビット制御位相ゲートを作用させたものに相当する。以上により、第1の運用方法においては、複数の量子系22間におけるゲートが実現する。
【0060】
以上により、量子演算ユニット4は、第1光子SF1と任意の量子系22との相互作用を用いた量子ゲート操作を実行できる。したがって、量子演算器2の第1の運用形態において、量子演算器2は、各量子演算ユニット4における、第1光子SF1と任意の量子系22との相互作用を用いた量子演算を実行できる。
【0061】
なお、上述したように、単一の量子演算ユニット4における量子系22間の量子ゲート操作を量子演算器2にて実行する場合、量子演算器2は上述した構成に限定されない。例えば、量子演算器2は、上記量子ゲート操作を実行する場合、偏光ビームスプリッタ8、半波長板34、および半波長板46を備えていなくともよく、また、第1単一光子検出器10が、単一の光子検出素子のみを有していてもよい。
【0062】
次いで、本実施形態に係る量子演算器2の第1の運用形態における、複数の量子演算ユニット4間における量子系22間の量子ゲート操作について説明する。この場合、量子演算器2は、各単一光子源6に対し、複数の量子演算ユニット4を備えている。
【0063】
複数の量子演算ユニット4間における量子系22間の量子ゲート操作においては、はじめに、各単一光子源6から、上述した手法と同一の手法により、第1共鳴波長λ1を有し、横偏光|h>等の特定の状態を有する第1光子SF1を生成する。次いで量子演算器2は、第1光子SF1を、何れかの量子演算ユニット4の共振器QED系16に入射させる。
【0064】
ここで、量子演算器2は、光サーキュレータ44に代えて、何れの量子演算ユニット4の共振器QED系16に第1光子SF1を入射させるかを決定する光スイッチを、量子演算ユニット4ごとに備えていてもよい。また、量子演算器2は、各単一光子源6からの第1光子SF1の偏光状態を半波長板46によって変化させてもよい。
【0065】
これにより、単一光子源6から光サーキュレータ44に入射した第1光子SF1は、共振器QED系16まで伝搬する。これにより、上述した第1光子SF1は共振器QED系16において反射され、共振器QED系16からは第1光子SF1’が出射する。ここで、量子演算器2は、当該共振器QED系16から出射した第1光子SF1’を、他の異なる共振器QED系16に入射するように第1光子SF1’を伝搬させる。これにより、量子演算器2は、第1光子SF1を複数の共振器QED系16に入射させ、また、第1光子SF1’をそれぞれの共振器QED系16において反射させる。なお、各共振器QED系16における第1光子SF1’の位相シフトは、上述した通り、各共振器QED系16の量子系22の状態の制御を通じて制御される。
【0066】
次いで、量子演算器2は、第1光子SF1’を偏光ビームスプリッタ8へ伝搬させる。量子演算器2は、各共振器QED系16からの第1光子SF1’の偏光状態を半波長板34によって変化させてもよい。
【0067】
偏光ビームスプリッタ8は、入射した第1光子SF1’の偏光状態に応じて、第1光子SF1’を反射または透過させる。その後、偏光ビームスプリッタ8から出射した第1光子SF1’を第1単一光子検出器10が検出することにより、量子演算器2は第1光子SF1’の偏光状態を測定する。
【0068】
ここで、第1光子SF1’は反射した複数の共振器QED系16のそれぞれの量子系22とエンタングルメントを有する。このため、当該複数の共振器QED系16のそれぞれの量子系22の状態と第1光子SF1’の偏光状態とは相関を有する。
【0069】
次いで、量子演算ユニット4は、測定された第1光子SF1’の偏光状態に応じて、他の量子演算ユニット4が有する量子系22に対する操作を行う。量子演算器2が2つの共振器QED系16を有する場合、例えば、第1光子SF1’の偏光状態が、第1光子SF1が生成された際における当該第1光子SF1状態である横偏光|h>であるとき、他の量子演算ユニット4が有する量子系22に対しZゲート操作を行う。特定の量子系22に対するZゲート操作は、例えば、量子演算ユニット4が、当該量子系22へのコントロール光L1の照射を制御することにより実現する。一方、第1光子SF1’の偏光状態が、横偏光|V>等、横偏光|h>でないとき、当該特定の量子系22に対し操作を行わない。換言すれば、半波長板46および半波長板34による光子の偏光回転と、第1単一光子検出器10における第1光子SF1’の偏光の測定結果と、に応じて、上記特定の量子系22に回転操作を行う。
【0070】
上記操作により、量子演算器2は、第1光子SF1’および各共振器QED系16の量子系22の間のエンタングルメントから、第1光子SF1’を切り離すことができる。換言すれば、量子演算器2は、上記操作により、複数の共振器QED系16の量子系22間のエンタングルのみを残すことができる。以上により、量子演算器2は、複数の共振器QED系16の量子系22の状態を、特定のエンタングル状態に射影することができる。ここでは、量子演算器2が2つの共振器QED系16を有する場合を例に説明したが、量子演算器2が3つ以上の共振器QED系16を有する場合においても、第1光子SF1’を切り離す操作は可能である。
【0071】
以上により、量子演算器2は、第1光子SF1と複数の量子演算ユニット4のそれぞれにおける任意の量子系22との相互作用を用いた量子ゲート操作を実行できる。したがって、量子演算器2の第1の運用形態において、量子演算器2は、複数の量子演算ユニット4の間における、第1光子SF1と任意の量子系22との相互作用を用いた量子演算を実行できる。
【0072】
なお、上述した量子演算ユニット4における量子ゲート操作は一例であり、本実施形態において、量子演算器2は、量子演算ユニット4に、量子系22を用いた従来公知の種々のゲート操作を用いた量子演算を実行させてもよい。例えば、量子演算器2の第1の運用形態においては、各量子演算ユニット4において、コントロール光L1を複数の量子系22に照射し、複数の量子系22を用いた量子演算を行ってもよい。また、量子演算器2は、第1光子SF1を複数の共振器QED系16に入射させ、反射した第1光子SF1’を検出した後、特定の共振器QED系16のみに第1光子SF1’を入射させ、反射した第1光子SF1’を検出してもよい。
【0073】
<第2の運用形態>
本実施形態に係る量子演算器2の第2の運用形態について、
図6および
図7を参照し説明する。
図6は、本実施形態に係る量子演算器2の第2の運用形態における、量子演算器2の各部の動作を説明するための、量子演算器2の概略図である。
図7は、本実施形態に係る量子演算器2の第2の運用形態における、量子系22の状態遷移を表すエネルギーダイヤグラムD3を示す図である。
【0074】
本実施形態に係る量子演算器2の第2の運用形態において、はじめに、各量子演算ユニット4において、レーザ光源18からポンプ光L2を任意の量子系22に照射する。ここで、ポンプ光L2は、例えば、第1共鳴波長λ1を有する第1レーザ光と、第3共鳴波長λ3を有する第3レーザ光と、第4共鳴波長λ4を有する第4レーザ光とを含む。
【0075】
ここで、第1レーザ光、第3レーザ光、および第4レーザ光のそれぞれの周波数を、第1共鳴周波数ω
1、第3共鳴周波数ω
3、および第4共鳴周波数ω
4とする。また、第2共鳴波長λ
2を有する光子の周波数を第2共鳴周波数ω
2とする。ここで、第1共鳴波長λ
1を有する第1レーザ光により、
図7のエネルギーダイヤグラムD3に示す通り、状態|g>から状態|e
1>への遷移T
1が生じる。また、第3共鳴波長λ
3を有する第3レーザ光により、状態|e
1>から状態|e
2>への遷移T
2が生じ、さらに、第4共鳴波長λ
4を有する第4レーザ光により、状態|e
3>から状態|g>への遷移T
3が生じる。
【0076】
これにより、量子系22にポンプ光L2を照射することにより、量子系22において非縮退四光波混合過程が生じる。例えば、本実施形態においては、遷移T1、遷移T2、および遷移T3を介し、状態|e2>から状態|e3>への遷移に共鳴する第2共鳴波長λ2を有する、単一の第2光子SF2が、量子系22から生成される。なお、量子系22は第2光子SF2を第2共振器28に生成する。状態|e2>から状態|e3>への遷移と第2共振器28とが結合しているため、上記非縮退四光波混合過程による第2光子SF2の生成は第2共振器28により促進される。
【0077】
本実施形態においては、第2光子SF2の生成に、量子系22における非縮退四光波混合過程が用いられる場合、換言すれば、第1励起準位e1と第3励起準位e3とのエネルギーが異なる場合について説明したが、これに限られない。例えば、第1励起準位e1と第3励起準位e3とのエネルギーは同一であってもよい。
【0078】
ここで、はじめに量子系22から第2光子SF2が生成された時点において、量子系22が初期状態である任意の重ね合わせ状態ρg|g>+ρu|u>であるとする。この場合、本実施形態に係る量子演算器2の第2の運用形態において、量子演算ユニット4は、例えば、上記第2光子SF2の生成に次いで、前述した2光子誘導ラマン過程等の方法により、量子系22に対する反転操作を実施する。これにより、量子系22の状態は、ρg|g>+ρu|u>からρu|g>+ρg|u>に反転する。量子系22に対する反転操作に次いで、量子演算ユニット4は、再度量子系22へのポンプ光L2の照射を制御することにより、量子系22において、非縮退四光波混合過程を再度生じさせる。
【0079】
非縮退四光波混合過程により量子系22から生成された第2光子SF2は、量子系22とエンタングルメントを有する。このため、上記反転操作の前後に生成された第2光子SF2は、任意の重ね合わせ状態ρg|u>|pE>+ρu|g>|pL>をとる。ここで、状態|pE>および状態|pL>は、それぞれ、反転操作前および反転操作後において生成された第2光子SF2の状態である。したがって、第2光子SF2は、量子系22とエンタングルメントを有し、状態|pE>および状態|pL>を基底とするタイムビン量子ビットを構成する。
【0080】
図6の参照に戻ると、本実施形態に係る量子演算器2の第2の運用形態において、第2共振器28への第2光子SF2の生成に次いで、量子演算器2は、第2光子SF2をハーフビームスプリッタ12へ伝搬させる。例えば、量子演算器2は、量子演算ユニット4の共振器QED系16から、第2共振器28中の第2光子SF2を共振器QED系16の外部に出射させる。ここで、量子演算器2は、光サーキュレータ44および光スイッチ48を透過した第2光子SF2がハーフビームスプリッタ12まで伝搬するように光スイッチ48を制御する。
【0081】
これにより、量子演算器2は、量子演算ユニット4からの第2光子SF2をハーフビームスプリッタ12に入射させる。ここで、量子演算器2は、2つの量子演算ユニット4それぞれからの第2光子SF2を同一のハーフビームスプリッタ12に入射させる。特に量子演算器2は、複数の第2光子SF2が同一のハーフビームスプリッタ12に略同時に入射するように、2つの量子演算ユニット4に第2光子SF2を出射させる。
【0082】
このため、本実施形態において、同一のハーフビームスプリッタ12に略同時に入射した2つの第2光子SF2に応じて、当該ハーフビームスプリッタ12においては、2つの第2光子SF2のモード(波束)の干渉が発生する。
【0083】
したがって、上記操作により、量子演算器2は、互いに異なる2つの量子演算ユニット4の共振器QED系16のそれぞれが有する特定の量子系22にエンタングルメントを付与する。換言すれば、上記操作により、量子演算器2は、特定の量子演算ユニット4が含む量子系22の状態を、他の量子演算ユニット4が含む量子系22の状態に移すことができる。ゆえに、量子演算器2は、第1の運用形態と第2の運用形態とを組み合わせることにより、特定の量子演算ユニット4における量子演算の結果を、他の量子演算ユニット4の量子演算に利用することができる。なお、量子演算器2は、上記に限られず、特定の量子演算ユニット4が含む量子系22の状態を、他の量子演算ユニット4が含む量子系22の状態に移すことなく、量子演算ユニット4において生成されたエンタングルメントをそのままその後の量子計算に利用してもよい。
【0084】
<まとめ>
本実施形態に係る量子演算ユニット4は、共振器QED系16に入射した第1光子SF1と共振器QED系16が含む量子系22との相互作用により、量子系22を用いた量子演算を実行する。また、本実施形態に係る量子演算ユニット4は、当該量子系22へのポンプ光L2の照射を通じて、量子系22とエンタングルメントを有する第2光子SF2を生成する。
【0085】
ここで、第1光子SF1は第1共鳴波長λ1を有し、第2光子SF2は第1共鳴波長λ1とは異なる第2共鳴波長λ2を有する。このため、量子演算ユニット4は、量子系22を用いた量子演算と、当該量子演算に用いた第1光子SF1と異なる波長を有する第2光子SF2への量子系22とのエンタングルメントの付与機能と、の双方の機能を、量子波長変換器を用いずに達成する。
【0086】
ここで、一般に、量子系を用いた量子演算には、当該量子系に量子情報をある程度長時間保持する必要があるため、比較的コヒーレンス時間が長い基底準位とその直上の励起準位との間の遷移が使用される。例えば、セシウム原子を用いた量子演算は、上述した通り、基底状態である62S1/2,F=3状態と、その直上の励起状態である62P3/2,F=3状態との間の状態遷移が用いられる。この場合、一般に、量子系の基底準位とその直上の励起準位との間のエネルギー差に相当する波長は1.0μm未満であることが多い。したがって、光子の波長を1.0μm未満とすることにより、量子系と光子との相互作用を用いた量子演算を効率的に実行できる。
【0087】
また、一般に、単一モードの光ファイバを伝搬する光子の損失は、伝搬距離が長い程大きくなる。ここで、当該光子の損失は、光子の波長が1.0μm未満である場合には大きいものの、光子の波長が、一般に通信波長帯と称される波長帯を含む、1.0μm以上1.8μm以下である場合には比較的小さくなる。より好ましくは、光子の波長帯が、1.3μm以上1.6μm以下である場合には、光ファイバを伝搬する当該光子の損失はより小さくなる。換言すれば、光子の波長が1.0μm以上1.8μm以下、より好ましくは1.3μm以上1.6μm以下である場合、当該光子の損失を低減しつつ、光子を長距離伝搬させることが可能である。
【0088】
本実施形態において、第1光子SF1の波長である第1共鳴波長λ1は、第2光子SF2の波長である第2共鳴波長λ2よりも短い。特に、第1共鳴波長λ1は1.0μm未満であり、第2共鳴波長λ2は1.3μm以上1.6μm以下である。したがって、本実施形態に係る量子演算ユニット4は、第1光子SF1と量子系22との相互作用を用いた量子演算を効率的に実行できる。また、量子演算ユニット4は、当該量子系22とエンタングルメントを有し、かつ、比較的長距離伝搬しても損失の小さい第2光子SF2を生成できる。
【0089】
各単一光子源6と各量子演算ユニット4との間、および、各量子演算ユニット4と各偏光ビームスプリッタ8との間における光ファイバFの長さは、第1光子SF1の損失が十分に小さくなる程度に短くともよい。これにより、量子演算器2は、第1光子SF1の損失を低減しつつ、各量子演算ユニット4における第1光子SF1を用いた量子演算を効率的に実行できる。
【0090】
また、各量子演算ユニット4と各ハーフビームスプリッタ12との間における光ファイバFの長さは、各量子演算ユニット4と各偏光ビームスプリッタ8との間における光ファイバFの長さ等と比較して長くともよい。これにより、量子演算器2は、光ファイバFを長距離伝搬しても損失の比較的小さい第2光子SF2を用いて、特定の量子演算ユニット4の演算結果を比較的長距離伝搬させることができる。したがって、量子演算器2は、2つの量子演算ユニット4の間の距離をより長くすることができる。
【0091】
ゆえに、量子演算器2は、各量子演算ユニット4における第1光子SF1を用いた量子演算を効率的に行いつつ、特定の量子演算ユニット4における量子演算の結果を、離れた他の量子演算ユニット4に効率的に伝搬させることができる。
【0092】
<量子演算器の具体的な運用方法>
量子演算器2のより具体的な運用方法として、例えば、量子演算器2は、上述の第1の運用形態により、第1の量子演算ユニット4において第1光子SF1および量子系22を用いた量子演算を行う。次いで、量子演算器2は、上述の第2の運用形態により、当該量子系22とエンタングルメントを有する第2光子SF2を用いて、第1の量子演算ユニット4と異なる第2の量子演算ユニット4の量子系22に上記量子演算の結果を伝搬させる。
【0093】
ここで、量子演算器2の第2の運用形態による、第2光子SF2を用いた量子演算の結果の伝搬においては、第2光子SF2の光ファイバF中における損失は低減しているものの、一部の第2光子SF2が損失する場合がある。
【0094】
この場合、量子演算器2は、上述の第1の運用形態により、量子演算の結果を伝搬させた量子系22を有する第2の量子演算ユニット4を用いた量子演算を実行できる。これにより、量子演算器2は、第2の量子演算ユニット4を用いて、第2光子SF2の損失に伴い生じる量子誤りの訂正を行ってもよい。また、量子演算器2は、上述の第2の運用形態により、第2光子SF2を用いて、訂正した量子情報をさらなる他の量子演算ユニット4の量子系22に伝搬させてもよい。
【0095】
なお、エンタングルメントの生成が成功するまで、繰り返し第2光子SF2の生成および伝搬を試行することにより、先に遠方の量子演算ユニット4間のエンタングルメントを生成し、その後量子演算を実行してもよい。これにより、初回の試行において第2光子SF2が損失した場合においても、複数回の試行を行うことにより、より確実に量子演算ユニット4間のエンタングルメントを生成することができる。
【0096】
これにより、量子演算器2は、ある特定の量子演算ユニット4における量子演算により得られた結果を、その量子情報を復元しつつ、遠方の量子演算ユニット4に効率的に伝搬させることができる。したがって、量子演算器2は、特定の量子演算ユニット4における量子演算により得られた結果を、より低い損失にて長距離伝搬させる量子通信器を達成する。この場合、各量子演算ユニット4は、上記量子通信器の量子中継器として機能する。
【0097】
他の具体的な運用方法として、例えば、量子演算器2は、上述の第1および第2の運用形態により、第1の量子演算ユニット4における量子演算の結果を、第1の量子演算ユニット4と異なる第2の量子演算ユニット4の量子系22に伝搬させる。次いで、量子演算器2は、上述の第1の運用形態により、量子演算の結果を伝搬させた量子系22を有する第2の量子演算ユニット4を用いて、当該量子系22を用いた量子演算を実行する。
【0098】
この場合、量子演算器2は、特定の量子演算ユニット4における量子演算により得られた結果を用いて、さらなる他の量子演算ユニット4における量子演算を行うことができる。したがって、量子演算器2は、互いに離れた複数の量子演算ユニット4のそれぞれにおいて量子演算を行うことにより、全体として量子演算に利用可能な量子系22の個数を増大させることが可能な、分散型の量子演算器を達成する。この場合、各量子演算ユニット4は、分散型の量子演算器の量子演算ユニットとして機能する。
【0099】
当該運用方法において、第1の運用形態による複数の量子演算ユニット4における量子演算は並行して実行してもよい。また、当該運用方法において、第2の運用形態による複数の量子演算ユニット4間における量子状態の伝搬またはエンタングルメントの共有は、上述した第1の運用形態による量子演算の間に複数回実行されてもよい。
【0100】
<補記>
本実施形態において、各共振器QED系16は、第1共鳴波長λ1を共鳴波長に有する第1共振器26と、第2共鳴波長λ2を共鳴波長に有する第2共振器28とを含む。また、各量子演算ユニット4においては、第1共振器26中の第1光子SF1が量子系22と相互作用し、第2共振器28中に当該量子系22とエンタングルメントを有する第2光子SF2が生成される。
【0101】
量子演算ユニット4は、量子系22の、量子演算に用いられる遷移と結合した第1共振器26中の第1光子SF1を、量子系22と相互作用させる。このため、量子演算ユニット4は、量子系22と第1光子との相互作用がより効率的に生じ、量子系22を用いた量子演算をより効率的に実行する。
【0102】
また、量子演算ユニット4は、量子系22における非縮退四光波混合過程を用いて生成された第2光子SF2の波長である第2共鳴波長λ2に対応する遷移と結合した第2共振器28中に、当該第2光子SF2を生成する。このため、量子演算ユニット4においては、量子系22における非縮退四光波混合過程を用いた第2光子SF2の生成がより効率的に発生する。
【0103】
第1共振器26および第2共振器28は、それぞれ、光ファイバFまたはナノ光ファイバ20中に形成された第1ファイバブラッグ格子30および第2ファイバブラッグ格子32を含む。このため、第1共振器26および第2共振器28は、光ファイバFまたはナノ光ファイバ20に対するレーザ光の照射による第1ファイバブラッグ格子30および第2ファイバブラッグ格子32の形成等、比較的簡素な手法により形成できる。また、量子演算ユニット4は、リング共振器等を含む場合と比較して、簡素な構造により第1共振器26および第2共振器28を構成できる。
【0104】
なお、本実施形態においては、量子系22を用いた量子計算と、当該量子系22とエンタングルメントを有する第2光子SF2の生成とにおいて、共に状態|g>から状態|e1>への遷移T1を用いたが、これに限られない。例えば、量子系22は、さらに、第2励起準位e2とは異なるエネルギーを有する第4励起準位e4を有していてもよく、第4励起準位e4に対応する状態|e4>が規定されていてもよい。第4励起準位e4は、例えば、第1励起準位e1の磁気副準位であってもよい。
【0105】
この場合、量子系22を用いた量子計算には上記遷移T1が用いられ、第2光子SF2の生成には、遷移T1に代えて状態|g>から状態|e4>への遷移T4が用いられてもよい。この場合、上述した遷移T2は、状態|e4>から状態|e2>への遷移に読み替えられる。換言すれば、量子演算ユニット4は、量子系22における、状態|g>から状態|e4>への遷移T4、状態|e4>から状態|e2>への遷移T2、および状態|e3>から状態|g>への遷移T3を用いた四光波混合過程により、第2光子SF2を生成してもよい。
【0106】
上記四光波混合過程において、量子系22に照射されるレーザ光源18からのポンプ光L2には、第1レーザ光に代えて、第1基底準位gと第4励起準位e4との間の遷移に共鳴する第2レーザ光が含まれていてもよい。また、ポンプ光L2に含まれる第3レーザ光は、第4励起準位e4と第2励起準位e2との間の遷移に共鳴するレーザ光であってもよい。
【0107】
〔変形例1〕
<第2光子の生成方法の他の例1>
本実施形態に係る第2の運用形態における、量子系22とエンタングルメントを有する第2光子SF2の生成方法の他の例について、
図8を参照し、変形例1として説明する。
図8は、本変形例に係る量子演算器2の第2の運用形態における、量子系22の状態遷移の他の例を表すエネルギーダイヤグラムD4を示す図である。
【0108】
本変形例に係る量子演算器2は、本実施形態に係る量子演算器2と同一であり、第2の運用形態における第2光子SF2の生成の際に、量子系22に照射するポンプ光L2、および当該ポンプ光L2を照射された量子系22における状態遷移のみが異なる。本変形例に係る第2の運用形態において、例えば、第2光子SF2の生成の際に量子系22に照射するポンプ光L2は、上述した第4レーザ光と、2倍波が第1基底準位gと第2励起準位e2との間の遷移に共鳴する第5レーザ光とを含んでいてもよい。
【0109】
例えば、第5レーザ光は周波数ω’を有するレーザ光であり、ここで、周波数ω’は、ω’=(ω1+ω3)/2を満たす。このため、第5レーザ光は、第1基底準位gと第2励起準位e2とのエネルギー差の略半分のエネルギーを有する。したがって、第5レーザ光の2倍波は、状態|g>から状態|e2>への遷移に共鳴する。
【0110】
上述した第4レーザ光および第5レーザ光を量子系22に照射した場合、
図8のエネルギーダイヤグラムD4に示すように、状態|e
3>から状態|g>への遷移T
3、および、遷移T
4および遷移T
5を介した状態|g>から状態|e
2>への遷移が生じる。ここで、遷移T
4および遷移T
5は第5レーザ光により連続して発生する。具体的には、第5レーザ光により、状態|g>から、第1基底準位gと第2励起準位e
2との略中間のエネルギーまで励起された状態への遷移T
4が生じる。さらに、第5レーザ光により、第1基底準位gと第2励起準位e
2との略中間のエネルギーまで励起された状態から、状態|e
2>への遷移T
5が遷移T
4と連続して発生する。これにより、本変形例においては、ポンプ光L2を照射された量子系22における、3準位型の四光波混合過程が発生し、上述した第2光子SF2が生成される。
【0111】
本変形例においても、第2光子SF2は第2共鳴波長λ2を有し、量子系22とエンタングルメントを有する。このため、本変形例においても、量子演算ユニット4は、第1光子と量子系22との相互作用を用いた量子演算と、第2光子SF2への量子系22とのエンタングルメントの付与機能と、の双方の機能を、量子波長変換器を用いずに達成する。
【0112】
〔変形例2〕
<第2光子の生成方法の他の例2>
本実施形態に係る第2の運用形態における、量子系22とエンタングルメントを有する第2光子SF2の生成方法の他の例について、
図9を参照し、変形例2として説明する。
図9は、本変形例に係る量子演算器2の第2の運用形態における、量子系22の状態遷移の他の例を表すエネルギーダイヤグラムD5を示す図である。
【0113】
本変形例に係る量子演算器2は、本実施形態に係る量子演算器2と同一であり、第2の運用形態における第2光子SF2の生成の際に、量子系22に照射するポンプ光L2、および当該ポンプ光L2を照射された量子系22における状態遷移のみが異なる。本変形例に係る第2の運用形態において、例えば、第2光子SF2の生成の際に量子系22に照射するポンプ光L2は、上述した第4レーザ光と、第1基底準位gと第2励起準位e2との間の遷移に共鳴する第6レーザ光とを含んでいてもよい。
【0114】
例えば、第6レーザ光は周波数ω5を有するレーザ光であり、ここで、周波数ω5は、ω5=ω1+ω3を満たす。このため、第6レーザ光は、第1基底準位gと第2励起準位e2とのエネルギー差に相当するエネルギーを有する。したがって、第6レーザ光は、状態|g>から状態|e2>への遷移に共鳴する。
【0115】
上述した第4レーザ光および第6レーザ光を量子系22に照射した場合、
図9のエネルギーダイヤグラムD5に示すように、状態|e
3>から状態|g>への遷移T
3、および、遷移T
6を介した状態|g>から状態|e
2>への遷移が生じる。ここで、遷移T
6は第6レーザ光により発生する。具体的には、第6レーザ光により、状態|g>から状態|e
2>への遷移T
6が、他の励起準位を介することなく発生する。
これにより、本変形例においては、ポンプ光L2を照射された量子系22における、3準位型のパラメトリック下方変換が発生し、上述した第2光子SF2が生成される。本変形例においても、第2光子SF2は第2共鳴波長λ
2を有し、量子系22とエンタングルメントを有する。このため、本変形例においても、量子演算ユニット4は、第1光子と量子系22との相互作用を用いた量子演算と、第2光子SF2への量子系22とのエンタングルメントの付与機能と、の双方の機能を、量子波長変換器を用いずに達成する。
【0116】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0117】
2 量子演算器
4 量子演算ユニット
6 単一光子源
8 偏光ビームスプリッタ
10 第1単一光子検出器
12 ハーフビームスプリッタ
14 第2単一光子検出器
16 共振器QED系
18 レーザ光源
20 ナノ光ファイバ
22 量子系
24 テーパー部
26 第1共振器
28 第2共振器
30 第1ファイバブラッグ格子
32 第2ファイバブラッグ格子
SF1 第1光子
SF2 第2光子