(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168132
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品、キット、および、成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20231116BHJP
C08K 5/3447 20060101ALI20231116BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231116BHJP
C08K 5/3417 20060101ALI20231116BHJP
C08K 3/16 20060101ALI20231116BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/3447
C08K3/013
C08K5/3417
C08K3/16
C08G69/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079793
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】523168917
【氏名又は名称】グローバルポリアセタール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】岡元 章人
(72)【発明者】
【氏名】土岐 大雅
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001DB02
4J001DB04
4J001DC14
4J001DD07
4J001DD13
4J001EB09
4J001EC47
4J001EC48
4J001EE06E
4J001EE18E
4J001EE67E
4J001FA01
4J001FB03
4J001FC05
4J001FD01
4J001GA13
4J001GB02
4J001GB03
4J001JA01
4J001JA02
4J001JA07
4J001JB01
4J001JB21
4J001JB42
4J001JB45
4J002CL031
4J002DA016
4J002DA026
4J002DD089
4J002DJ006
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002DL006
4J002EU117
4J002FA046
4J002FA086
4J002FB006
4J002FD016
4J002FD020
4J002FD030
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4J002FD097
4J002FD098
4J002FD100
4J002FD130
4J002FD170
4J002FD180
4J002GM00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】 光線透過率が高く、レーザー溶着強度に優れ、かつ、外観(黒味)に優れた成形品が提供可能な樹脂組成物、ならびに、成形品、キット、成形品の製造方法、車載カメラ部品、および、車載カメラの提供。
【解決手段】 ポリアミド樹脂100質量部に対し、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、および、緑色顔料を合計で0.1~5.0質量部含み、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物と緑色顔料の質量比率が、1:0.1~5.0である、樹脂組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部に対し、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、および、緑色顔料を合計で0.1~5.0質量部含み、
前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物と緑色顔料の質量比率が、1:0.1~5.0である、
樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラーを10~250質量部含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物は、下記骨格を有する化合物の混合物である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【化1】
【請求項4】
前記緑色顔料がフタロシアニン顔料を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、ヨウ化銅、ヨウ化カリウムおよび酸化セリウムの少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラーを10~250質量部含み、
前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物は、下記骨格を有する化合物の混合物であり、
前記緑色顔料がフタロシアニン顔料を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【化2】
【請求項7】
レーザー溶着用である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂組成物を1.5mmの厚さの試験片に成形したときの、波長940nmにおける光線透過率が12%以上である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項10】
請求項1または2に記載の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物とを有するキット。
【請求項11】
請求項1または2に記載の樹脂組成物から形成された成形品と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物から形成された成形品を、レーザー溶着させることを含む、成形品の製造方法。
【請求項12】
請求項1または2に記載の樹脂組成物から形成された車載カメラ部品。
【請求項13】
請求項12に記載の車載カメラ部品を含む、車載カメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形品、キット、および、成形品の製造方法に関する。本発明の樹脂組成物は、主に、レーザー溶着用の光を透過する側の樹脂組成物(光透過性樹脂組成物)として用いられる。
【背景技術】
【0002】
代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリアミド樹脂は、加工が容易であり、さらに、機械的物性、電気特性、耐熱性、その他の物理的・化学的特性に優れている。このため、車両部品、電気・電子機器部品、その他の精密機器部品等に幅広く使用されている。最近では形状の複雑な部品もポリアミド樹脂で製造されるようになって来ており、例えば、インテークマニホールドのような中空部を有する部品などの接着には、各種溶着技術、例えば、接着剤溶着、振動溶着、超音波溶着、熱板溶着、射出溶着、レーザー溶着技術などが使用されている。
【0003】
しかしながら、接着剤による溶着は、硬化するまでの時間的ロスに加え、周囲の汚染などの環境負荷の問題がある。超音波溶着、熱板溶着などは、振動、熱による製品へのダメージや、摩耗粉やバリの発生により後処理が必要になるなどの問題が指摘されている。また、射出溶着は、特殊な金型や成形機が必要である場合が多く、さらに、材料の流動性が良くないと使用できないなどの問題がある。
【0004】
一方、レーザー溶着は、レーザー光に対して透過性(非吸収性、弱吸収性とも言う)を有する樹脂部材(以下、「透過樹脂部材」ということがある)と、レーザー光に対して吸収性を有する樹脂部材(以下、「吸収樹脂部材」と言うことがある)とを接触し溶着して、両樹脂部材を接合させる方法である。具体的には、透過樹脂部材側からレーザー光を接合面に照射して、接合面を形成する吸収樹脂部材をレーザー光のエネルギーで溶融させ接合する方法である。レーザー溶着は、摩耗粉やバリの発生が無く、製品へのダメージも少なく、さらに、ポリアミド樹脂自体、レーザー透過率が比較的高い材料であることから、ポリアミド樹脂製品のレーザー溶着技術による加工が、最近注目されている。
【0005】
上記透過樹脂部材は、通常、光透過性樹脂組成物から成形される。このような光透過性樹脂組成物として、特許文献1には、半芳香族ポリアミド樹脂25~50質量%と、臭素系難燃剤3~20質量%と、錫酸亜鉛1.5~10質量%と、光透過性色素を含む、ポリアミド樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、ポリアミド樹脂に黒色染料を配合した光透過性樹脂組成物が検討されている。しかしながら、このような光透過性樹脂組成物は、相手部材や隣接部材の素材などによっては、配合している黒色染料の移染(マイグレーション、色移り、とも称される)が起こる。この問題を解決するために、染料に代えて、顔料を配合して、光透過性樹脂組成物とすることが考えられる。
しかしながら、ポリアミド樹脂に顔料を配合すると、光線透過率が低くなり、レーザー溶着の際の溶着強度が劣る場合があることが分かった。また、比較的、光線透過率が高い顔料を選択すると、得られる成形品が黒みに欠ける場合があることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、光線透過率が高く、レーザー溶着強度に優れ、かつ、外観(黒味)に優れた成形品が提供可能な樹脂組成物、ならびに、成形品、キット、成形品の製造方法、車載カメラ部品、および、車載カメラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリアミド樹脂に、顔料として、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物と緑色顔料を用い、その配合量と配合比率を精密に調整することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂100質量部に対し、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、および、緑色顔料を合計で0.1~5.0質量部含み、前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物と緑色顔料の質量比率が、1:0.1~5.0である、樹脂組成物。
<2>さらに、ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラーを10~250質量部含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物は、下記骨格を有する化合物の混合物である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
【化1】
<4>前記緑色顔料がフタロシアニン顔料を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>さらに、ヨウ化銅、ヨウ化カリウムおよび酸化セリウムの少なくとも1種を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>さらに、ポリアミド樹脂100質量部に対し、強化フィラーを10~250質量部含み、前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物は、下記骨格を有する化合物の混合物であり、前記緑色顔料がフタロシアニン顔料を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
【化2】
<7>レーザー溶着用である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8>前記樹脂組成物を1.5mmの厚さの試験片に成形したときの、波長940nmにおける光線透過率が12%以上である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<9><1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<10><1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物とを有するキット。
<11><1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物から形成された成形品を、レーザー溶着させることを含む、成形品の製造方法。
<12><1>~<8>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された車載カメラ部品。
<13><12>に記載の車載カメラ部品を含む、車載カメラ。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、光線透過率が高く、レーザー溶着強度に優れ、かつ、外観(黒味)に優れた成形品が提供可能な樹脂組成物、ならびに、成形品、キット、成形品の製造方法、車載カメラ部品、および、車載カメラを提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、数平均分子量は、特開2018-165298号公報の段落0047の記載に従って測定することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
本明細書において、融点(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)に従い、ISO11357に準拠して、測定した値とする。具体的には、国際公開第2016/084475号の段落0036の記載に従って測定することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
本明細書で示す規格で説明される測定方法等が年度によって異なる場合、特に述べない限り、2022年1月1日時点における規格に基づくものとする。
【0011】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、および、緑色顔料を合計で0.1~5.0質量部含み、前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物と緑色顔料の質量比率が、1:0.1~5.0であることを特徴とする。このような構成とすることにより、光線透過率が高く、レーザー溶着強度に優れ、かつ、外観(黒味)に優れた成形品が提供可能な樹脂組成物が得られる。
本発明者が検討したところ、ポリアミド樹脂に顔料として1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物を配合すると、類似するナフタレンベンズイミダゾペリレンを用いる場合と比べて高い透過率を達成できることが分かった。しかしながら、本発明者がさらに詳細に検討を行ったところ、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物を配合した成形品は黒味に欠けることが分かった。一方、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物の配合量を多くすると、光線透過率が低くなり、レーザー溶着の際の溶着強度が劣る傾向にあることが分かった。本発明では、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物に加え、緑色顔料を配合し、これらの比率を精密に調整することにより、上記課題を解決することに成功したものである。特に、ダイオードレーザー波長940nm条件下において、高い接着強度での溶着が可能であることを見出した点で価値が高い。
さらに、本実施形態の樹脂組成物から形成された成形品は、表面のヒケも効果的に抑制することができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
<ポリアミド樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を含む。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は特に定めるものではなく、公知のポリアミド樹脂を用いることができる。ポリアミド樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂であっても、半芳香族ポリアミド樹脂であってもよい。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド4、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド666、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド12等が例示される。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。ここで、半芳香族ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の30~70モル%が芳香環を含む構成単位であることをいい、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の40~60モル%が芳香環を含む構成単位であることが好ましい。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる樹脂成形品の機械的強度を高くすることができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、テレフタル酸系ポリアミド樹脂(ポリアミド6T、ポリアミド9T)、後述するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂などが例示される。
【0013】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、少なくとも1種が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂(以下、「キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」ということがある)が好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上、特に一層好ましくは99モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはパラキシリレンジアミンおよび/またはメタキシリレンジアミン)に由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上、特に一層好ましくは99モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
キシリレンジアミンは、パラキシリレンジアミンおよびメタキシリレンジアミンが好ましい。キシリレンジアミンにおけるメタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンのモル比率は、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの合計を100モルとしたときに、メタキシリレンジアミン/パラキシリレンジアミンが、10~100/90~0であることが好ましく、30~100/70~0であることがより好ましく、50~100/50~0であることがさらに好ましく、50~90/50~10であることが一層好ましく、60~80/40~20であることがより一層好ましい。
【0014】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0015】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸がより好ましく、セバシン酸がさらに好ましい。
本実施形態におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の好ましい一実施形態としてジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がセバシン酸に由来するものが例示される。
【0016】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0017】
なお、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本実施形態では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましく、99質量%以上を占めることが一層好ましい。
【0018】
ポリアミド樹脂の融点は、150~350℃であることが好ましく、180~330℃であることがより好ましく、200~330℃であることがさらに好ましく、200~320℃であることが一層好ましい。
融点は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0019】
ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)の下限が、6,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、また、35,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、25,000以下がさらに好ましく、20,000以下が一層好ましい。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0020】
本実施形態の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物中、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが一層好ましく、55質量%以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、ガラス繊維等のフィラー配合率が高くなり、剛性や強度面で高い物性値が得られやすい傾向にある。また、本実施形態の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の含有量は、樹脂組成物中、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましく、80質量%以下であることが一層好ましく、75質量%以下であることがより一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、フィラー配合率をある程度抑えることで流動性バランスを整えやすい傾向にある。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と強化フィラーの合計が樹脂組成物の95質量%以上を占めることが好ましく、96質量%以上を占めることがより好ましく、97質量%以上を占めることがさらに好ましく、98質量%以上を占めることが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物の一実施形態として、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂を実質的に含まない態様が挙げられる。実質的に含まないとは、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が本実施形態の樹脂組成物の5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが一層好ましい。
【0021】
<1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物>
本実施形態の樹脂組成物は、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物を含む。1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物を含むことにより、顔料を用いながら、レーザー溶着のための光を透過可能な成形品が得られる。
1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物とは、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン骨格を有する化合物を意味し、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲で置換基を有していてもよい。本実施形態においては、前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物は、下記骨格を有する化合物の混合物であることが好ましい。
【化3】
前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物は、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレンであることが好ましく、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物のシス体とトランス体の混合物であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態の樹脂組成物における1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物の含有量は、樹脂組成物の0.01質量%以上であることが好ましく、また、0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることが好ましい。このように少量の1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物を配合することによって、得られる成形品の光線透過率の低下を抑制しつつ、外観(黒味)を高めることができる点で、本発明は極めて有益である。
本実施形態の樹脂組成物は、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0023】
<緑色顔料>
本実施形態の樹脂組成物は、緑色顔料を含む。緑色顔料を含むことにより、得られる成形品の外観(黒味)を良好なものとすることができる。
緑色顔料は、その種類等特に定めるものではないが、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料が例示され、フタロシアニン顔料が好ましく、銅フタロシアニン顔料がより好ましい。
【0024】
本実施形態の樹脂組成物における緑色顔料の含有量は、樹脂組成物の0.01質量%以上であることが好ましく、また、0.3質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以下であることが好ましい。このように少量の緑色顔料を配合することによって、得られる成形品の光線透過率を高めつつ、外観(黒味)を高めることができる点で、本発明は極めて有益である。
本実施形態の樹脂組成物は、緑色顔料を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0025】
<顔料の含有量>
次に、本実施形態の樹脂組成物における顔料の含有量について述べる。
本実施形態においては、ポリアミド樹脂100質量部に対し、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、および、緑色顔料を合計で0.1~5.0質量部含む。
前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、および、緑色顔料の合計量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.15質量部以上であることが好ましい。前記下限値以上とすることにより、より外観(黒味)に優れた成形品が得られる傾向にある。また、前記1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、および、緑色顔料の合計量の上限値は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、4.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましく、1.0質量部以下であることが一層好ましく、0.8質量部以下であることがより一層好ましく、0.6質量部以下であることがさらに一層好ましく、0.4質量部以下であることが特に一層好ましく、0.3質量部以下であることがより特に一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、得られる成形品の光線透過率がより高くなる傾向にある。
【0026】
本実施形態の樹脂組成物において、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物と緑色顔料の質量比率は、1:0.1~5.0である。1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物1に対し、緑色顔料を0.1以上とすることにより、ダイオードレーザー波長940~980nmにおいての透過率がより向上する傾向にある。また、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物1に対し、緑色顔料を5.0以下とすることにより、目視上、黒色に近い色相が得られる傾向にある。
前記質量比率は、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物1に対し、0.2以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましく、1.1以上であることが一層好ましく、2.0以上であることがより一層好ましく、また、4.5以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.5以下であることがさらに好ましく、3.0以下であることが一層好ましい。
【0027】
<強化フィラー>
本実施形態の樹脂組成物は、強化フィラーをポリアミド樹脂100質量部に対し、10~250質量部の割合で含むことが好ましい。強化フィラーを前記割合で含むことにより、得られる成形品について高い機械的強度を達成できる。尚、本実施形態における強化フィラーには後述する酸化セリウム、核剤に相当するものは含まないものとする。
本実施形態の樹脂組成物で用いる含有され得る強化フィラーとしては、樹脂に配合することにより得られる樹脂組成物の機械的性質を向上させる効果を有するものであり、常用のプラスチック用強化材を用いることができる。強化フィラーは、有機物であっても、無機物であってもよいが、無機物が好ましい。強化フィラーは、好ましくはガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維等の繊維状の強化フィラーを用いることができる。また、炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレー、有機化クレー、ガラスビーズ等の粒状または無定形の充填剤等の充填剤;ガラスフレーク、マイカ、グラファイト等の鱗片状の強化材を用いることもできる。中でも、機械的強度、剛性および耐熱性の点から、繊維状の充填剤、特にはガラス繊維を用いるのが好ましい。ガラス繊維としては、丸型断面形状または異型断面形状のいずれをも用いることができる。
強化フィラーは、カップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いることがより好ましい。表面処理剤が付着したガラス繊維は、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒートショック性に優れるので好ましい。
【0028】
ガラス繊維は、Aガラス、Cガラス、Eガラス、Sガラス、Rガラス、Mガラス、Dガラスなどのガラス組成からなり、特に、Eガラス(無アルカリガラス)が好ましい。
【0029】
本実施形態の樹脂組成物に用いるガラス繊維は、単繊維または単繊維を複数本撚り合わせたものであってもよい。
ガラス繊維の形態は、単繊維や単繊維を複数本撚り合わせたものを連続的に巻き取った「ガラスロービング」、長さ1~10mmに切りそろえた「チョップドストランド」、長さ10~500μmに粉砕した「ミルドファイバー」などのいずれであってもよい。かかるガラス繊維としては、旭ファイバーグラス社より、「グラスロンチョップドストランド」や「グラスロンミルドファイバー」の、日本電気硝子社製より、「Eガラスファイバーチョップドストランド」の商品名で市販されており、容易に入手可能である。ガラス繊維は、形態が異なるものを併用することもできる。
【0030】
また、本実施形態で用いるガラス繊維は、断面が円形であっても、非円形であってもよい。断面が非円形であるガラス繊維を用いることにより、得られる成形品の反りをより効果的に抑制することができる。また、本実施形態では、断面が円形であるガラス繊維を用いても、金型温度が低くても結晶化が十分に進行するポリアミド樹脂を用いることで反りを効果的に抑制することができる。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物における強化フィラーの含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、10質量部以上であることが好ましく、25質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることがさらに好ましい。上限値については、ポリアミド樹脂100質量部に対し、250質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物における強化フィラーの含有量は、樹脂組成物の20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。上限値については、75質量%以下が好ましく、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下であってもよい。
本実施形態の樹脂組成物は、強化フィラーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となる。なお、本実施形態における強化フィラーの含有量には、集束剤および表面処理剤の量を含める趣旨である。
【0032】
<ヨウ化銅、ヨウ化カリウムおよび酸化セリウム>
本実施形態の樹脂組成物は、ヨウ化銅、ヨウ化カリウムおよび酸化セリウムの少なくとも1種を含むことが好ましい。ヨウ化銅を含むことにより、得られる成形品の耐熱性がより向上する傾向にある。また、ヨウ化カリウムを含むことにより、ポリアミド樹脂中で錯体を形成しやすくなり、樹脂の分解をより効果的に抑制できる傾向にある。さらに、酸化セリウムを含むことにより、酸化による色相変化を効果的に抑制でき、湿熱試験や温水試験後の移染を効果的に抑制することができる。すなわち、これらの成分を配合することにより、用途に応じた性能を付与することが可能になる。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物におけるヨウ化銅の割合は、樹脂組成物中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、また、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、ヨウ化銅を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物におけるヨウ化カリウムの割合は、樹脂組成物中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、また、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物における酸化セリウムの割合は、樹脂組成物中、樹脂組成物中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、また、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることが一層好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、酸化セリウムを、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0034】
<離型剤>
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を含んでいてもよい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15,000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル、ケトンワックス、脂肪酸アミドなどが挙げられ、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸の塩、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、脂肪酸アミドが好ましく、脂肪族カルボン酸の塩および脂肪酸アミドがより好ましい。
離型剤の詳細は、特開2018-095706号公報の段落0055~0061の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
本実施形態の樹脂組成物が離型剤を含む場合、その含有量は、樹脂組成物中、0.05~3質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがより好ましく、0.2~0.8質量%であることがさらに好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0035】
<核剤>
本実施形態の樹脂組成物は、核剤を含んでいてもよい。
核剤は、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となり得るものであれば、特に限定されないが、中でもタルクおよび炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。
核剤の数平均粒子径は、下限値が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがより好ましい。核剤の数平均粒子径は、上限値が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、28μm以下であることが一層好ましく、15μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることがさらに一層好ましい。
【0036】
本実施形態の樹脂組成物における核剤の割合は、0.01~1質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、0.5質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、核剤を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0037】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような添加剤としては、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、難燃剤などが挙げられる。また、本実施形態の樹脂組成物は、ヨウ化銅以外の銅化合物、ヨウ化カリウム以外のハロゲン化アルカリ金属等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本実施形態の樹脂組成物は、各成分の合計が100質量%となるように、ポリアミド樹脂、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、緑色顔料、強化フィラー、ヨウ化銅、ヨウ化カリウムおよび酸化セリウムの少なくとも1種、さらには、他の添加剤の含有量等が調整される。本実施形態では、ポリアミド樹脂、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、緑色顔料、強化フィラー、ヨウ化銅、ヨウ化カリウム、離型剤の合計が樹脂組成物の99質量%以上を占める態様が例示される。
【0038】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、波長940nmにおける光線透過率が高いことが好ましい。例えば、本実施形態の樹脂組成物を1.5mmの厚さの試験片に成形したときの、波長940nmにおける光線透過率が12%以上であることが好ましく、15%以上であることがさらに好ましく、18%以上であることが一層好ましく、20%以上であることがより一層好ましい。前記1.5mmの厚さの試験片の波長940nmにおける光線透過率の上限は、例えば、90%以下であり、70%以下であってもよい。このような高い光線透過率は、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物、および、緑色顔料を配合することによって達成される。
また、本実施形態の樹脂組成物は、L*値が高いことが好ましい。具体的には、1.5mmの厚さの試験片に成形したときのL*値が10以上であることが好ましく、11以上であることがより好ましく、12以上であることがさらに好ましい。前記L*値の上限は特に定めるものではないが、例えば、20以下であることが挙げられる。
前記光線透過率およびL*値は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0039】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する単軸または2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。上記ポリアミド樹脂、顔料、および、必要に応じて配合される他の添加剤を、混練機に一括して供給してもよいし、ポリアミド樹脂成分を供給した後、他の配合成分を順次供給してもよい。強化フィラーは、混練時に破砕するのを抑制するため、押出機の途中から供給することが好ましい。また、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合、混練しておいてもよい。
本実施形態では、顔料は、ポリアミド樹脂等で、マスターバッチ化したものをあらかじめ調製した後、他の成分と混練して、本実施形態における樹脂組成物を得てもよい。
【0040】
本実施形態の樹脂組成物を用いた成形品の製造方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形方法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの成形方法を適用することができる。この場合、特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形である。射出成形に当たっては、樹脂温度を250~300℃にコントロールするのが好ましい。
【0041】
<キット>
本実施形態の樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物とは、レーザー溶着による成形品の製造のためのキットとして好ましく用いられる。
すなわち、キットに含まれる本実施形態の樹脂組成物は、光透過性樹脂組成物としての役割を果たし、かかる光透過性樹脂組成物から形成された成形品は、レーザー溶着の際のレーザー光に対する透過樹脂部材となる。一方、光吸収性樹脂組成物から形成された成形品は、レーザー溶着の際のレーザー光に対する吸収樹脂部材となる。
【0042】
<<光吸収性樹脂組成物>>
本実施形態で用いる光吸収性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む。さらに、強化フィラー等の他の成分を含んでいてもよい。
熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂等が例示され、光透過性樹脂組成物(本実施形態の樹脂組成物)との相溶性が良好な点から、特に、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂がさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
光吸収性樹脂組成物に用いるポリアミド樹脂としては、その種類等を定めるものではないが、上述のキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が好ましい。
強化フィラーは、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ、アルミナ、カーボンブラックおよびレーザーを吸収する材料をコートした無機粉末等のレーザー光を吸収しうるフィラーが例示され、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維は、上記本実施形態の樹脂組成物に配合してもよいガラス繊維と同義である。強化フィラーの含有量は、好ましくは20~70質量%であり、より好ましくは25~60質量%であり、さらに好ましくは30~55質量%である。
光吸収性色素としては、照射するレーザー光波長の範囲、例えば、本実施形態では、波長900nm~1100nmの範囲に吸収波長を持つ色素が含まれる。また、光吸収性色素には、例えば、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し、0.3質量部配合し、後述する実施例に記載の測定方法で光線透過率を測定したときに、透過率が30%未満、さらには、10%以下となる色素が含まれる。
光吸収性色素の具体例としては、無機顔料(カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)などの黒色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、酸化チタンなどの白色顔料)、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料など)などが挙げられる。なかでも、無機顔料は一般に隠ぺい力が強く好ましく、黒色顔料がさらに好ましい。これらの光吸収性色素は2種以上組み合わせて使用してもよい。光吸収性色素の含有量は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂100質量部に対し0.01~30質量部であることが好ましい。
【0043】
上記キットは、樹脂組成物中の光透過性色素および強化フィラーを除く成分と、光吸収性樹脂組成物中の光吸収性色素および強化フィラーを除く成分について、80質量%以上が共通することが好ましく、90質量%以上が共通することがより好ましく、95~100質量%が共通することが一層好ましい。
【0044】
<<レーザー溶着方法>>
次に、レーザー溶着方法について説明する。本実施形態では、本実施形態の樹脂組成物から形成された成形品(透過樹脂部材)と、上記光吸収性樹脂組成物を成形してなる成形品(吸収樹脂部材)を、レーザー溶着させて成形品(レーザー溶着体)を製造することができる。レーザー溶着することによって透過樹脂部材と吸収樹脂部材を、接着剤を用いずに、強固に溶着することができる。
部材の形状は特に制限されないが、部材同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触箇所(平面、曲面)を有する形状である。レーザー溶着では、透過樹脂部材を透過したレーザー光が、吸収樹脂部材に吸収されて、溶融し、両部材が溶着される。本実施形態の樹脂組成物から形成される成形品は、レーザー光に対する透過性が高いので、透過樹脂部材として好ましく用いることができる。ここで、レーザー光が透過する部材の厚み(レーザー光が透過する部分におけるレーザー透過方向の厚み)は、用途、樹脂組成物の組成その他を勘案して、適宜定めることができるが、例えば5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。
【0045】
レーザー溶着に用いるレーザー光源としては、光透過性色素の光の透過波長に応じて定めることができ、波長900~1100nmの範囲のレーザーが好ましく、波長900~1000nmの範囲のレーザーがより好ましく、波長920~970nmの範囲のレーザーがさらに好ましい。このようなレーザーとしては、例えば、半導体レーザーまたはファイバーレーザーが利用できる。
【0046】
より具体的には、例えば、透過樹脂部材と吸収樹脂部材を溶着する場合、まず、両者の溶着する箇所同士を相互に接触させる。この時、両者の溶着箇所は面接触が望ましく、平面同士、曲面同士、または平面と曲面の組み合わせであってもよい。次いで、透過樹脂部材側からレーザー光を照射する。この時、必要によりレンズを利用して両者の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは、透過樹脂部材中を透過し、吸収樹脂部材の表面近傍で吸収されて発熱し溶融する。次にその熱は熱伝導によって透過樹脂部材にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールを形成し、冷却後、両者が接合する。
このようにして透過樹脂部材と吸収樹脂部材を溶着された成形品は、高い溶着強度を有する。なお、本実施形態における成形品とは、完成品や部品の他、これらの一部分を成す部材も含む趣旨である。
【0047】
本実施形態でレーザー溶着して得られた成形品は、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、カメラ筐体など)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品などに好適に用いることができる。特に、本実施形態の樹脂組成物またはキットから形成された車載カメラ部品は、車載カメラに適している。
【実施例0048】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0049】
<ポリアミド樹脂>
MP10:M/Pモル比=7:3、下記合成例に従って合成した。
<<MP10の合成例(M/Pモル比=7:3)>>
セバシン酸を窒素雰囲気下の反応缶内で加熱溶解した後、内容物を撹拌しながら、パラキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とメタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)のモル比が3:7の混合ジアミンを、加圧(0.35MPa)下でジアミンとセバシン酸とのモル比が約1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を235℃まで上昇させた。滴下終了後、60分間反応を継続し、分子量1,000以下の成分量を調整した。反応終了後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化し、ポリアミド樹脂(MP10)を得た。
【0050】
<タルク>
#5000S:林化成社製、ミクロンホワイト
<ヨウカダイイチドウ(CuI)>
日本化学産業社製、ヨウ化第一銅
<ヨウ化カリウム>
富士フイルム和光純薬社製
<離型剤>
(1)ステアリン酸亜鉛(II):富士フイルム和光純薬社製
(2)WH255:ライトアマイドWH-255:共栄社化学社製、高級脂肪酸アミド
【0051】
<強化フィラー>
ECS03T-756H:日本電気硝子(株)製、ガラス繊維
【0052】
<顔料>
Spectrasence Black K0087:製造元:カラー&エフェクトジャパン株式会社、ペリレン顔料、下記化合物の混合物
【化4】
Heliogen Green K8730(緑色):製造元:カラー&エフェクトジャパン株式会社、銅フタロシアニン顔料
Spectrasence Black K0088:製造元:カラー&エフェクトジャパン株式会社、ペリレン顔料、1,8-ナフチレンベンズイミダゾペリレン、シストランス混合物
【0053】
実施例1~3、比較例1、2
<コンパウンド>
後述する下記表1に示す組成となるように(表1の各成分は質量部表記である)、ガラス繊維以外の成分をそれぞれ秤量し、ドライブレンドした後、二軸押出機(芝浦機械社製、TEM26SS)のスクリュー根元から2軸スクリュー式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-W-1-MP)を用いて投入した。また、ガラス繊維については振動式カセットウェイングフィーダ(クボタ社製、CE-V-1B-MP)を用いて押出機のサイドから上述の二軸押出機に投入し、樹脂成分等と溶融混練し、樹脂組成物ペレットを得た。押出機の温度設定は、ポリアミド樹脂としてMP10を用いた場合は280℃とした。
【0054】
<光線透過率>
上記で得られた樹脂組成物ペレットを、120℃で4時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製、J-50ADS)を用いて、光線透過率測定用の試験片(ASTM D638規格4号ダンベル片、1.5mm厚)を作製した。シリンダー温度は260℃、金型表面温度は110℃とした。
光線透過率は、上記試験片の反ゲート側について、可視・紫外分光光度計を用いて測定し、波長940nmにおける光線透過率(単位:%)を測定した。
可視・紫外分光光度計は、島津製作所社製、UV-3100PCを用いた。
【0055】
<表面のヒケの有無>
上記で得られた樹脂組成物ペレットを、120℃で4時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製、J-50ADS)を用いて、ASTM D638規格1.5mm厚4号ダンベル片(透過樹脂部材)を作製した。シリンダー温度は260℃、金型表面温度は110℃とした。
また、吸収樹脂部材は、各実施例または比較例の樹脂組成物から顔料(Spectrasence K0087、Heliogen Green K8730、Spectrasence K0088)を除き、代わりに、カーボンブラックマスターバッチをカーボンブラックの量が樹脂組成物に対し0.6質量%となるように配合し、他は同様に行って、ASTM D638規格1.5mm厚4号ダンベル片(光吸収樹脂部材)を作製した。
上記で得られた吸収樹脂部材と透過樹脂部材の反ゲート側を重ね合わせ、ファインデバイス製ダイオードレーザー溶着加工機で溶着を行った。溶着条件は、レーザー出力:30W スキャン回数:5回 送り速度:70(mm/s) 総エネルギー投入量:34.3(J)とした。この条件で溶着した透過樹脂部材の表面のヒケの有無を確認した。
【0056】
<引張溶着強さ>
インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製インストロン5544(ロードセル2kN)を用いて、<表面のヒケの有無>で作製した溶着接合片の引張溶着強さを測定した。
引張試験速度は5mm/minとした。
単位は、Nで示した。
【0057】
<L*値>
<表面のヒケの有無>と同様に作製したASTM D638規格1.5mm厚4号ダンベル片(透過樹脂部材)の反ゲート側測定日本電色工業社製分光色差系SE6000を用いて測定した。測定は反射法で行い、白板を使用した。
【0058】
【0059】
上記結果から明らかなとおり、1,2-フェニレンベンズイミダゾペリレン化合物と緑色顔料を所定の割合で含む場合、光線透過率が高く、レーザー溶着強度に優れ、かつ、外観(黒味)に優れた成形品が提供可能な樹脂組成物が得られた(実施例1~3)。
一方、ペリレン顔料を用いても、1,8-ナフチレンベンズイミダゾペリレンを用いた場合(比較例1、2)、緑色顔料を配合しても配合しなくても、光線透過率が低く、レーザー溶着強度も劣っていた。さらに、外観(黒味)も劣っていた。また、ペリレン顔料として1,8-ナフチレンベンズイミダゾペリレンを用いた場合、得られる成形品の表面にヒケも生じてしまった。これは、光線透過率が低いため、表面で焦げてしまったことによる。