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特開2023-168145イソプレン合成酵素、及びそれを用いたイソプレンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168145
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】イソプレン合成酵素、及びそれを用いたイソプレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/88 20060101AFI20231116BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20231116BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20231116BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20231116BHJP
【FI】
C12N9/88 ZNA
C12P5/02
C12N15/29
C12N15/60
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079815
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
(72)【発明者】
【氏名】川出 洋
(72)【発明者】
【氏名】門脇 幸奈
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC04
4B050DD13
4B050KK03
4B050KK10
4B050LL05
4B064AB04
4B064CA21
4B064CC24
4B064DA16
(57)【要約】
【課題】イソプレン合成活性に優れたイソプレン合成酵素、及びそれを用いたイソプレンの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを合成する酵素であって、野生型のアミノ酸配列のN末端から10番目と11番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、N末端から11番目のαヘリックスに最も近いアラニンをアスパラギン又はアスパラギン酸に置換した、イソプレン合成酵素とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを合成する酵素であって、
野生型のアミノ酸配列のN末端から10番目と11番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、N末端から11番目のαヘリックスに最も近いアラニンをアスパラギン又はアスパラギン酸に置換した、イソプレン合成酵素。
【請求項2】
さらに、前記アミノ酸配列のC末端から1番目と2番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、C末端から1番目のαヘリックスに最も近いアラニンをアスパラギン又はアスパラギン酸に置換した、請求項1に記載のイソプレン合成酵素。
【請求項3】
以下の(1)~(3)のいずれか1つの特徴を有するアミノ酸配列からなるイソプレン合成酵素、
(1)配列番号37~46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号37~46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ前記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列、及び
(3)配列番号37~46のいずれか1つのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列。
【請求項4】
メバロン酸に、メバロン酸リン酸転移酵素(MVK)、ホスホメバロン酸リン酸転移酵素(PMVK)、ジホスホメバロン酸脱炭酸酵素(DMDC)、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(IPI)、及び、請求項1~3のいずれか1項に記載のイソプレン合成酵素を作用させる、イソプレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレン合成酵素、及びそれを用いたイソプレンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤや、手袋、パッキンなど様々な用途でゴムが利用されている。ゴムには、天然ゴムと合成ゴムがあり、天然ゴムはパラゴムノキを原料としているため、ゴムの収量が天候や生産国の情勢などに左右されるという問題がある。また、合成ゴムはブタジエンやイソプレンを原料としている。ブタジエンやイソプレンは、石油を蒸留することで得られるナフサを分解することで得ているため、石油の安定供給の問題や、石油による地球温暖化への影響が問題視されている。
【0003】
そこで、イソプレンを合成する方法が求められている。イソプレンを合成する方法として、メバロン酸経路又は非メバロン酸経路から得たジメチルアリル二リン酸(DMAPP)からイソプレン合成酵素(ISPS)によりリン酸を取り除く方法が知られている。特許文献1ではイソプレン合成酵素(ISPS)のアミノ酸を置換することで、イソプレンの生産量が増えることが記載されている。
【0004】
非特許文献1には、ポプラ由来のイソプレン合成酵素(ISPS)のループ構造を構成する570位のアラニンをアスパラギン酸などの極性アミノ酸に変異することで、イソプレン合成活性が改善することが記載されている。
【0005】
しかしながら、イソプレン合成活性についてさらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2014-502148号公報
【特許文献2】特開2007-104970号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zhen Yao et al.ACS Synth.Biol.2018,7,2308-2316
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、イソプレン合成活性に優れたイソプレン合成酵素、及びそれを用いたイソプレンの製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
なお、特許文献2には、メバロン酸に、メバロン酸リン酸転移酵素(MVK)、ホスホメバロン酸リン酸転移酵素(PMVK)、ジホスホメバロン酸脱炭酸酵素(DMDC)、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(IPI)、及び、ファルネシル二リン酸合成酵素(FPS)を無細胞系で作用させてファルネシル二リン酸を製造する方法が記載されているが、イソプレンを製造するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るイソプレン合成酵素は、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを合成する酵素であって、野生型のアミノ酸配列のN末端から10番目と11番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、N末端から11番目のαヘリックスに最も近いアラニンをアスパラギン又はアスパラギン酸に置換したものとする。
【0011】
さらに、上記アミノ酸配列のC末端から1番目と2番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、C末端から1番目のαヘリックスに最も近いアラニンをアスパラギン又はアスパラギン酸に置換したものであってもよい。
【0012】
本発明に係るイソプレン合成酵素は、以下の(1)~(3)のいずれか1つの特徴を有するアミノ酸配列からなるイソプレン合成酵素とする。
(1)配列番号37~46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号37~46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列、及び
(3)配列番号37~46のいずれか1つのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ上記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列。
【0013】
本発明に係るイソプレンの製造方法は、メバロン酸に、メバロン酸リン酸転移酵素(MVK)、ホスホメバロン酸リン酸転移酵素(PMVK)、ジホスホメバロン酸脱炭酸酵素(DMDC)、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(IPI)、及び、上記イソプレン合成酵素を作用させるものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のイソプレン合成酵素によれば、野生型と比較して、イソプレンの生産量が増加する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例で使用したベクターpET-21a(+)を示す図。
図2】サツマイモ由来のイソプレン合成酵素のアミノ酸配列(配列番号:32)において、αヘリックスを構成するアミノ酸残基と、ループ構造を構成するアミノ酸残基と、βシートを構成するアミノ酸残基を示す図。なお、αヘリックスを構成するアミノ酸残基の下には「H」を付与し、ループ構造を構成するアミノ酸残基の下には「―」を付与し、βシートを構成するアミノ酸残基の下には「E」を付与した。さらに、N末端から順に、αヘリックスに番号を付与した(「Helix-01」~「Helix-23」)。
図3】ギンドロ由来のイソプレン合成酵素のアミノ酸配列(配列番号:35)において、αヘリックスを構成するアミノ酸残基と、ループ構造を構成するアミノ酸残基と、βシートを構成するアミノ酸残基を示す図。なお、αヘリックスを構成するアミノ酸残基の下には「H」を付与し、ループ構造を構成するアミノ酸残基の下には「―」を付与し、βシートを構成するアミノ酸残基の下には「E」を付与した。さらに、N末端から順に、αヘリックスに番号を付与した(「Helix-01」~「Helix-23」)。
図4】シマホルトノキ由来のイソプレン合成酵素のアミノ酸配列(配列番号:36)において、αヘリックスを構成するアミノ酸残基と、ループ構造を構成するアミノ酸残基と、βシートを構成するアミノ酸残基を示す図。なお、αヘリックスを構成するアミノ酸残基の下には「H」を付与し、ループ構造を構成するアミノ酸残基の下には「―」を付与し、βシートを構成するアミノ酸残基の下には「E」を付与した。さらに、N末端から順に、αヘリックスに番号を付与した(「Helix-01」~「Helix-24」)。
図5】比較例1~3と実施例1~4のイソプレン合成酵素活性を示すグラフ。なお、グラフに示す値は、3回測定した結果の平均値であり、エラーバーは標準偏差を表す。
図6】比較例4と実施例5~7のイソプレン合成酵素活性を示すグラフ。なお、グラフに示す値は、3回測定した結果の平均値であり、エラーバーは標準偏差を表す。
図7】比較例5と実施例8~10のイソプレン合成酵素活性を示すグラフ。なお、グラフに示す値は、3回測定した結果の平均値であり、エラーバーは標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態に係るイソプレン合成酵素は、ジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを合成する酵素であって、野生型のアミノ酸配列のN末端から10番目と11番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、N末端から11番目のαヘリックスに最も近いアラニンをアスパラギン又はアスパラギン酸に置換したものとする。ここで、アミノ酸配列において、アミノ酸残基がαヘリックスを構成しているか、ループ構造を構成しているかは、フリーソフト「Jpred4(http://www.compbio.dundee.ac.uk/jpred4/index.html)」を用いて特定するものとする。
【0018】
イソプレン合成酵素は、N末端側に葉緑体標的シグナルを有する場合がある。葉緑体標的シグナルは、植物において葉緑体に輸送するためものであり、葉緑体内へと輸送された後、プロテアーゼにより切除除去される。本明細書において、「野生型のアミノ酸配列」を持つイソプレン合成酵素とは、葉緑体標的シグナルを欠損させたものを指すものとする。イソプレン合成酵素の葉緑体標的シグナルを欠損させることにより、イソプレン合成活性が向上する傾向にある。
【0019】
本実施形態に係るイソプレン合成酵素は、配列番号37~46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1個から複数個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列であるか、あるいは、配列番号37~46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ上記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列であってもよい。
【0020】
本明細書においては、「1~複数個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加されている」とは、例えば1~50個、好ましくは1~40個、より好ましくは1~30個、さらに好ましくは1~20個、特に好ましくは1~10個の任意の数のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加されていることを意味する。
【0021】
配列番号37~46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列との配列同一性は、90%以上であればよいが、95%以上の配列同一性を有するものであることが好ましく、98%以上の配列同一性を有するものであることがさらに好ましく、99%以上の配列同一性を有するものであることが特に好ましい。
【0022】
ここで、本明細書において、配列同一性の特定は、BLAST2検索アルゴリズムを用いて、EMBOSS(https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)のプログラムで決定することができる。
【0023】
「アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有する」とは、その活性程度が、野生型のイソプレン合成酵素と比較して高いことが好ましく、例えば、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上の活性を例示することができる。
【0024】
本実施形態に係るイソプレン合成酵素は、野生型のアミノ酸配列のN末端から10番目と11番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、N末端から11番目のαヘリックスに最も近いアラニンをアスパラギン又はアスパラギン酸に置換をすることで、野生型のイソプレン合成酵素を用いた場合と比較し、イソプレンの生産量が増加する。このメカニズムは定かではないが、このアラニンは、基質ポケットに近い位置にあり、アラニンをより大きな側鎖を持つアスパラギンやアスパラギン酸に置換することで、基質ポケットの剛性を高め、基質であるジメチルアリル二リン酸(DMAPP)との親和性が高まることにより、イソプレン合成活性が向上したものと推測できる。
【0025】
本実施形態に係るイソプレン合成酵素は、さらに、野生型のアミノ酸配列のC末端から1番目と2番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、1番目のαヘリックスに最も近いアラニンをアスパラギン又はアスパラギン酸に置換をするものであってもよい。
【0026】
例えば、サツマイモ(Ipomoea batatas)由来のイソプレン合成酵素(IbISPS)の場合、図2に示すように、野生型のアミノ酸配列(配列番号:32)における263位のアラニンが、野生型のアミノ酸配列のN末端から10番目と11番目のαヘリックスをつなぐループ構造における、N末端から11番目のαヘリックスに最も近いアラニンに相当する。なお、配列番号:32のアミノ酸配列は、葉緑体標的シグナル欠損後に、開始コドンに対応するメチオニンを付与している。
【0027】
また、野生型のアミノ酸配列(配列番号:32)における527位のアラニンが、野生型のアミノ酸配列のC末端から1番目と2番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、C末端から1番目のαヘリックスに最も近いアラニンに相当する。
【0028】
ギンドロ(Populus alba)由来のイソプレン合成酵素(PaISPS)の場合、図3に示すように、野生型のアミノ酸配列(配列番号:35)における271位のアラニンが、野生型のアミノ酸配列のN末端から10番目と11番目のαヘリックスをつなぐループ構造における、N末端から11番目のαヘリックスに最も近いアラニンに相当する。なお、配列番号:35のアミノ酸配列は、葉緑体標的シグナル欠損後に、開始コドンに対応するメチオニンを付与している。
【0029】
また、野生型のアミノ酸配列(配列番号:35)における534位のアラニンが、野生型のアミノ酸配列のC末端から1番目と2番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、C末端から1番目のαヘリックスに最も近いアラニンに相当する。
【0030】
シマホルトノキ(Elaeocarpus photiniifolius)由来のイソプレン合成酵素(EpISPS)の場合、図4に示すように、野生型のアミノ酸配列(配列番号:36)における256位のアラニンが、野生型のアミノ酸配列のN末端から10番目と11番目のαヘリックスをつなぐループ構造における、N末端から11番目のαヘリックスに最も近いアラニンに相当する。なお、配列番号:36のアミノ酸配列は、葉緑体標的シグナル欠損後に、開始コドンに対応するメチオニンを付与している。
【0031】
また、野生型のアミノ酸配列(配列番号:36)における519位のアラニンが、野生型のアミノ酸配列のC末端から1番目と2番目のαヘリックスをつなぐループ構造において、C末端から1番目のαヘリックスに最も近いアラニンに相当する。
【0032】
本実施形態に係るイソプレン合成酵素の製造方法は、特に限定されないが、例えば、次の(1)~(8)の工程により、生産することができる。(1)National Center for Biotechnology Information(NCBI)のデータベースからサツマイモ(Ipomoea batatas)やギンドロ(Populus alba)、シマホルトノキ(Elaeocarpus photiniifolius)、ポプラ(Populus)、ユーカリ(Eucalyptus)、クズ(Pueraria montana)などの植物のイソプレン合成酵素遺伝子情報を取得する。(2)次に、イソプレン合成酵素遺伝子のクローニングに使用する宿主生物(例えば、大腸菌(Escherichia coli))のコドン使用頻度表にあわせてコドン最適化を行う。この変換の際には遺伝子配列の中に制限酵素 BamH I(GGATCC)とHindIII(AAGCTT)の配列を含まないようにする。(3)上記植物から得られるイソプレン合成酵素がN末端にChloroplast targeting signal(葉緑体標的シグナル)を有している場合は、イソプレン合成酵素遺伝子の5’末端から葉緑体標的シグナルに相当する塩基配列を削除する。(4)野生型のアミノ酸配列のN末端から10番目と11番目のαヘリックスをつなぐループ構造を特定し、N末端から11番目のαヘリックスに最も近いアラニンをアスパラギン又はアスパラギン酸に置換する。(5)設計した遺伝子配列に従い、イソプレン合成酵素遺伝子を全合成し、PCR法により、イソプレン合成酵素遺伝子を増幅する。(6)得られたイソプレン合成酵素遺伝子とプラスミドベクターについて制限酵素処理を行い、DNAフラグメントとプラスミドを連結し、イソプレン合成酵素遺伝子を含むプラスミドベクターを得る(ライゲーション)。(7)得られたプラスミドベクターを、宿主生物(例えば、大腸菌(Escherichia coli))に形質転換する。(8)形質転換した宿主生物を培養し、培養液からタンパク質を回収することで、イソプレン合成酵素を得ることができる。
【0033】
ここで、本明細書において、「コドン最適化」とは、元のアミノ酸配列を維持しつつ、元の塩基配列の少なくとも1つのコドンを、対象の生物種においてより頻繁に使用されるコドンで置き換えることを指す。コドン使用頻度表は、例えば、公益財団法人かずさDNA研究所が提供する「Codon Usage Database」(www.kazusa.or.JP/codon/)において容易に入手可能であり、これらの表を用いて、コドンを最適化することができる。特定の動物種における発現のために特定の配列をコドン最適化するためのコンピューターアルゴリズムについても、例えば、Gene Forge(Aptagen社;Jacobus、PA)等において入手可能である。
【0034】
本発明で使用する宿主細胞は、特に限定されないが、大腸菌、枯草菌、放線菌、パン酵母、アカパンカビ等取り扱いが容易な菌株が好ましい。例えば、大腸菌の菌株としては、JM109株、DH5α株、XL1-blue株、HB101株などのK-12株由来やBL21などのB株由来の大腸菌を用いることができる。さらに宿主細胞として、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞などを用いてもよい。
【0035】
形質転換に用いる発現ベクターとしては、上記宿主である大腸菌、パン酵母等において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能であり、かつ外来蛋白質の発現効率の高いものであることが好ましい。上記DNAを発現させるための発現ベクターは該微生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、上記DNAおよび転写終結配列より構成された組換えベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれるものであってもよい。
【0036】
発現ベクターとしては、具体的には、pET-21a(+)(Merck社製)、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233-2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX-1(Promega社製)、pQE-8(QIAGEN社製)、pQE-30(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58-110600)、pKYP200〔Agricultural Biological Chemistry,48, 669 (1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol. Chem., 53, 277 (1989)〕、pGEL1〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 4306 (1985)〕、pBluescriptII SK+、pBluescriptII SK(-)(Stratagene社製)、pTrS30(FERMBP-5407)、pTrS32(FERM BP-5408)、pGEX(Pharmacia社製)、pET-3(Novagen社製)、pTerm2(US4686191、US4939094、US5160735)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pUC18〔gene, 33, 103 (1985)〕、pUC19〔Gene, 33, 103 (1985)〕、pSTV28(Takara社製)、pSTV29(Takara社製)、pUC118(Takara社製)、pPA1(特開昭63-233798号公報)、pEG400〔J. Bacteriol., 172, 2392(1990)〕、pQE-30(QIAGEN社製)等が挙げられる。
【0037】
プロモーターとしては、宿主である大腸菌、パン酵母等の細胞中で発現できるものであればよい。例えば、trpプロモーター(P trp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PS Eプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等が挙げられる。またP trpを2つ直列させたプロモーター(P trpx2)、tacプロモーター、letIプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等を用いることもできる。
【0038】
リボソーム結合配列としては、宿主である放線菌細胞中で発現できるものであれば特に限定されないが、シャイン-ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6~18塩基)に調節したプラスミドを用いることが好ましい。
【0039】
組換えベクターの導入方法としては、上記宿主である大腸菌、パン酵母等の細胞へDNAを導入する方法であれば特に限定されないが、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63-2483942号公報)、またはGene, 17, 107 (1982)やMolecular & General Genetics, 168, 111 (1979)に記載の方法等が挙げられる。
【0040】
発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培養することによって、各酵素を取得することができる。例えば、宿主細胞として大腸菌を用いる場合、通常用いられるL培地、YT培地、M9-CA培地などで培養すればよい。発現ベクターが薬剤耐性遺伝子を持っている場合、それに対応する薬剤を適当な濃度になるように添加することが望ましい。酵素をコードする遺伝子を発現させる場合には、その上流のプロモーターを適当な方法で働かせて発現誘導を行えばよい。例えば、IPTGやインドールアクリル酸(IAA)などを添加して、発現を誘導することができる。
【0041】
培養によって得られた、菌体から目的の酵素を取得するためには、慣用の技術、例えば、細胞のリゾチーム処理、超音波破砕、遠心分離、各種クロマトグラフィーなどを用いることができる。目的の酵素が可溶性画分に得られた場合は、そのまま酵素液として使用してもよい。またその可溶性画分を各種クロマトグラフィー、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィーなどで精製して使用することができる。目的の酵素が、不溶性顆粒を形成し不溶性となった場合は、グアニジンや尿素で可溶化し、そのまま又は各種クロマトグラフィーで精製し、リフォールディングさせて、酵素液として使用することができる。
【0042】
本実施形態に係るイソプレンの製造方法は、メバロン酸に、メバロン酸リン酸転移酵素(MVK)、ホスホメバロン酸リン酸転移酵素(PMVK)、ジホスホメバロン酸脱炭酸酵素(DMDC)、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(IPI)、及び、上記イソプレン合成酵素を作用させるものとする。この反応は、細胞内で行われるものではなく、細胞の存在しない系で行われることが好ましい。ただし、実質的に目的の生成物の生産に影響を与えない程度の細胞が混入していることを排除するものではない。
【0043】
酵素はメバロン酸リン酸転移酵素(MVK)、ホスホメバロン酸リン酸転移酵素(PMVK)、ジホスホメバロン酸脱炭酸酵素(DPMVC)、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(IPPI)及びイソプレン合成酵素(ISPS)の順に順次添加し作用させてもよいが、全ての酵素を混合し、酵素カクテルとして作用させてもよい。反応容量は、特に限定されるものではなく、少量で作用させることも可能であるし、工業用に大量に反応を行わせることもできる。
【0044】
ここで、本明細書において、「酵素カクテル」とは、基質から目的の生成物を生産させる酵素の混合物を意味する。この酵素の混合物には、基質から目的の化合物を合成するために必要な酵素が含まれていればよい。また酵素反応の補助因子(Mg2+、Mn2+、ATPなど)が含まれてもよい。さらに酵素反応に影響を与えない不純物が含まれても構わない。
【0045】
基質であるメバロン酸は、常法に従い得ることができ、例えば、発酵法や化学合成法により得ることができる。
【0046】
基質濃度は、酵素が作用できる濃度であれば特に限定されないが、好ましくは0.01~500mg/mLであり、より好ましくは0.02~200mg/mLである。イソプレン合成に用いるメバロン酸リン酸転移酵素(MVK)、ホスホメバロン酸リン酸転移酵素(PMVK)、ジホスホメバロン酸脱炭酸酵素(DPMVC)、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(IPPI)及びイソプレン合成酵素(ISPS)それぞれの酵素濃度も、酵素が作用できる濃度であれば特に限定されないが、好ましくは0.01~50mg/mLであり、より好ましくは0.1~5mg/mLである。反応温度は、酵素が作用できる温度であれば特に限定されるものではないが、好ましくは10~80℃であり、より好ましくは20~60℃であり、さらに好ましくは30~50℃である。
【0047】
本発明で使用するメバロン酸リン酸転移酵素、ホスホメバロン酸リン酸転移酵素、ジホスホメバロン酸脱炭酸酵素、及びイソペンテニル二リン酸異性化酵素は、例えば、天然に存在する酵素あるいは、メバロン酸リン酸転移酵素、ホスホメバロン酸リン酸転移酵素、ジホスホメバロン酸脱炭酸酵素、及びイソペンテニル二リン酸異性化酵素をコードする遺伝子を用いて遺伝子工学的に得られる組換え体であることができる。
【実施例0048】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<比較例1>
(A)遺伝子の取得
サツマイモ(Ipomoea batatas)由来のイソプレン合成酵素遺伝子を設計した。まず、NationalCenter for Biotechnology Information(NCBI)データベースに登録されているIpbalsr mRNA 配列(配列番号:1、アクセッション番号:JP105673)を取得した。そして、文献(Ilmen et al. 2015)の記載を参考に3’末端側から227bpを削除し、先頭に開始コドンATGを付与して合計1767bp(589aa)の塩基配列とした。そして、この塩基配列について、大腸菌 Escherichia coliのコドン使用頻度表(表1)に合わせてコドン最適化変換を行った。変換の際には目的遺伝子配列の中に制限酵素 BamH I(GGATCC)とHind III(AAGCTT)の配列を含まないようにした。設計した塩基配列(配列番号:2)の全合成を、IDT(Integrated DNA technology)社に依頼した。なお、表1における各セルの値は、左から順に、塩基配列、塩基配列に対応するアミノ酸、コドン頻度を表す。
【0050】
【表1】
【0051】
(B)全合成遺伝子断片の調整
IDT社の操作プロトコルに従い、合成した1000ng分の遺伝子断片の乾燥粉末に10mM TE buffer(pH8.0、Sigma-Aldrich社製)を100μL添加し、10ng/μLとなるように濃度を調整した。次に、50℃のヒートブロックで20分間インキュベートし、ボルテックスで10秒間懸濁した。その後、Wizard(R)Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega社製)を用いてDNAを精製し50μLのDNA溶液Aを得た。
【0052】
(C)プライマー設計とPCR反応
IDT社より取得した全合成遺伝子配列情報を参考に、制限酵素サイトを付加したFwプライマー(配列番号:8、制限酵素サイト:BamH I)とRvプライマー(配列番号:9、制限酵素サイト:Kpn I)を作製し、下記に示したPCR反応組成液を調製した。PCR装置(GeneAmp PCR system 2700,Applied Biosystems社製)を用いて、下記の温度条件でPCR反応を行った。
<PCR反応組成液 合計50μL>
ポリメラーゼバッファー(New England Biolab社製 Q5 Reaction Buffer(5×)) 10μL
10mM dNTPs(New England Biolab社製) 1μL
Fwプライマー(10pmol/μL) 2.5μL
Rvプライマー(10pmol/μL) 2.5μL
DNA溶液A 25μL
PCR酵素(New England Biolab社製 Q5 High Fidelity DNApolymerase) 0.5μL
ヌクレアーゼフリー水 8.5μL
<温度条件>
98℃で30秒間処理した後、98℃で10秒間、50℃で30秒間、72℃で1分間の処理を30サイクル行い、最後に72℃で2分間の処理をし、4℃で冷却した。
【0053】
(D)制限酵素処理
上記で得られたPCR産物について制限酵素処理を行った。PCR産物10μL(200ng分)に、制限酵素BamH I(Takara社製)とHind III(Takara社製)をそれぞれ15U添加した。反応条件は、BamH I(Takara社製)が30℃で18時間、Hind III(Takara社製)が37℃で18時間で行った。図1に示すpET-21a発現ベクター(Merck社製)についても同様に制限酵素処理を行った。
【0054】
(E)ライゲーション
得られた制限酵素処理済み遺伝子断片6.5μLと、同様に制限酵素処理を行ったpET-21a発現ベクター(Merck社製)1μL、Ligation High ver.2(Toyobo社製)7.5μLを混合し、14℃で17時間インキュベートした。インキュベート溶液8μLを大腸菌(JM109 株)コンピテントセル100μLと混合し、氷上で10分間静置した後、42℃で60秒間加熱した。すぐに氷上で2分間静置し、200μLのSOC培地を加え、38℃で45分間インキュベートした。遠心分離により凝縮した菌体液20μLを、LB/amp寒天培地(BD Biosciences社製)に植菌し、38℃で17時間培養した。続いて形成した形質転換株のコロニーPCRを行い、目的遺伝子と同じ長さのDNAが増幅されたコロニーを選別した。選抜した形質転換株のコロニーを2mLのLB/amp寒天培地(BD Biosciences製)の入った試験管に入れ、38℃で17時間、振盪培養した。その培養液から Wizard(R) Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega社製)を用いてプラスミドを抽出した。
【0055】
(F)葉緑体標的シグナルの除去
上記で抽出したプラスミドを含む溶液をDNA溶液Bとした。IDT社より取得した全合成遺伝子配列情報を参考に、制限酵素サイトを付加したFwプライマー(配列番号:10、制限酵素サイト:BamH I)とRvプライマー(配列番号:11、制限酵素サイト:BamH I)を作製した。次に、下記に示したPhusion PCR反応組成液を調整し、PCR装置(GeneAmp PCR system 2700, Applied Biosystems社製)を用いて、下記の温度条件で、Phusion PCRを行った。
<Phusion PCR反応組成液 合計50μL>
ポリメラーゼバッファー(Thermo Fisher Scientific社製 Phusion HF Buffer(5×)) 10μL
10mM dNTPs(Thermo Fisher Scientific社製) 1μL
Fwプライマー(10pmol/μL) 2.5μL
Rvプライマー(10pmol/μL) 2.5μL
DNA溶液B 4μL
PCR酵素(Thermo Fisher Scientific社製Phusion DNApolymerase) 0.5μL
ヌクレアーゼフリー水 29.5μL
<温度条件>
98℃で30秒間処理した後、98℃で10秒間、55℃で30秒間、72℃で3分間の処理を30サイクル行い、最後に72℃で5分間の処理をし、4℃で冷却した。
【0056】
上記で得られたPCR産物に制限酵素 BamH1を15U添加し、37℃で、6時間処理した。制限酵素処理した遺伝子断片7.5μLとLigation High ver.2(Toyobo社製)7.5μLを混合し、16℃で17時間インキュベートすることで、Self-Ligationを行った。これにより、イソプレン合成酵素遺伝子(配列番号:2)の5’末端の4塩基目から123bp(41aa)を削除し、1644bp(548aa)の目的遺伝子(配列番号:3)を含むプラスミドが得られた。
【0057】
(G)イソプレン合成酵素の生産
得られたプラスミドを大腸菌 BL21(DE3)Star株(Thermo Fisher Scientific社製)へ形質転換した。形質転換した株を2mLのLB/amp培地(BD Biosciences社製)で17時間培養し、この全量を100mLのLB/amp培地へ入れ、37℃、180rpmでOD600が1.1前後になるまで振盪培養した。培養液を氷上で30分間冷やした後、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を終濃度1mMになるように加え、18℃、120rpmで17時間振盪培養した。
【0058】
培養液を遠心分離(4000rpm、15分間、4℃)し、上清を除去した後、菌体を5.0mLのタンパク質回収バッファー(100mM Tris-HCl buffer(pH7.5, Sigma-Aldrich社製)、10% glycerol(v/v)(関東化学社製)、0.5mM EDTA(同仁化学社製)を混合し、純水でメスアップ)で洗い、再度遠心分離(4000rpm、15分間、4℃)した。上清を除去した後、菌体重量1gに対して4mLのB-PERTM Bacterial Protein Extraction Reagent(Thermoscientific社製)を添加し、懸濁させた。その後、室温で15分間静置し、遠心分離(9000rpm、15分間、4℃)した後、上清の可溶性画分と、ペレットの不溶性画分を回収した。
【0059】
得られたタンパク質可溶性画分を2mLエッペンチューブに1.5mLずつ分注し、Ni-NTA樹脂(QIAGEN社製)を200μL、5M NaCl(終濃度300mM)、imidazole(終濃度10mM)を添加し混合した。これを4℃、800rpmで、3分間遠心分離し、上清を除去した。Wash buffer(50 mM Tris-HCl buffer(pH 8.0, Sigma-Aldrich社)、300 mM NaCl(関東化学社製)、20mM imidazole(関東化学社製)を混合し、純水でメスアップ)を500μL添加し混合した後、4℃、800rpmで、3分間遠心分離を3回繰り返し、樹脂の洗浄を行った。Elutionbuffer(50 mM Tris-HCl buffer(pH8.0, Sigma-Aldrich社製)、300 mM NaCl(関東化学社製)、250 mM imidazole(関東化学社製)、15% glycerol(v/v)(関東化学社製)を混合し、純水でメスアップ)を200μL添加し混合した後、4℃、800rpmで、3分間遠心分離して目的タンパク質を溶出した。得られた上清を酵素液とし、Bradford法によりタンパク質濃度を測定したところ、0.627μg/μLであった。得られた酵素液は25%グリセロールで-20℃で保存した。
【0060】
得られたタンパク質について、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行った。その結果、目的のイソプレン合成酵素(配列番号:32)のアミノ酸配列から推定される分子量63.1KDaのバンドを可溶性画分で確認できた。
【0061】
(H)IbISPSの活性確認
まず、イソプレン(和光純薬(株)製)を、酵素反応用バッファー(Sigma-Aldrich社製 Tris-HCl buffer(pH 7.5))に100μg/mL、50μg/mL、10μg/mL、2μg/mLとなるように溶解させて試料とした。ブランクとしては、酵素反応用バッファーを用いた。
【0062】
上記で調製した溶液を40℃で10分間インキュベートした後、固相マイクロ抽出(Supelco社製)を用いて以下の条件でヘッドスペース抽出を行った。
<抽出条件>
抽出ファイバー:Supelco社製 SPME fiber assembly Carbon /Polydimethylsiloxane (CAR /PDMS), df 75 mum, needle size 23 ga
平衡化:40℃で8分間
【0063】
得られた試料について、以下の条件でGC-MS分析を行った。
[分析条件]
GC部:HP 6890 Series GC System(AgilentTechnologies社製)
MS部:5969C VL MSD(Agilent Technologies 社製)
カラム:Agilent J&W DB-WAX(Agilent社製 30m×0.25mm I.D. 0.25μm film 厚)
イオン化法:EI法(70eV)
キャリヤーガス:ヘリウム
流量:1.2mL/min
インレットライナー:Inlet Liner, Direct(SPME)Type, straight Design(Supelco社製)
GC注入口温度:150℃
GCインターフェース温度:250℃
イオンチャンバー温度:230℃
昇温条件:40℃で4分間保持
【0064】
分析の結果、Rt1.59付近に特異的なピークトップが確認できた。m/z68で検出されたRt1.59のピーク面積をもとに、検量線を作成した。
【0065】
次に以下に示す配合に従い、酵素カクテルを調製し、38℃で18時間インキュベートした。なお、MVK、PMVK、MVD、IPIは、それぞれ配列番号47~50に示すアミノ酸配列を持つものを使用した。
<酵素カクテル 合計500μL>
メバロン酸(MVA、11.7mg/mL) 10μL
MVK 22.5μg
PMVK 40μg
MVD 22.5μg
IPI 27.5μg
上記で得られたイソプレン合成酵素 10.5μg
1M MgCl 10μL
ATP 16μL
酵素反応用バッファー(Sigma-Aldrich社製 Tris-HCl buffer(pH 7.5)) 339μL
【0066】
得られた試料について、上記と同様に、ヘッドスペース抽出を行い、GC-MS分析を行った。得られたピーク面積から検量線を用いてイソプレン濃度を計算し、イソプレンの生産量を求め、3回測定した平均値を表2に示した。
【0067】
<比較例2>
527位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:33)を作製した。具体的には、比較例1の(F)葉緑体標的シグナルの除去で得られたプラスミドを形質転換した大腸菌株の培養液から Wizard(R) Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega社製)を用いてプラスミドを抽出してDNA溶液Cを調製した。そして、目的の変異箇所が中央部に来るようにFwプライマー(配列番号:12)とRvプライマー(配列番号:13)を設計した。次に、下記に示したKOD PCR反応組成液を調製し、PCR装置(GeneAmp PCR system 2700, Applied Biosystems社製)を用いて、下記の温度条件で、PCR反応を行った。
<温度条件>
条件は94℃で2分間間処理した後、98℃で10秒間、58℃で30秒間、68℃で3分30秒間の処理を25サイクル行い、4℃で冷却した。
<KOD PCR反応組成液 合計50μL>
ポリメラーゼバッファー(Takara社製 PCR Buffer for KOD-Plus-Neo(5×)) 5μL
2mM dNTPs(Thermo Fisher Scientific社製) 5μL
25mM MgSO 3μL
Fwプライマー(10pmol/μL) 1.5μL
Rvプライマー(10pmol/μL) 1.5μL
DNA溶液C 1μL
PCR酵素(Takara社製 KOD-Plus-Neo(1.0U/μL)) 1μL
ヌクレアーゼフリー水 32μL
【0068】
PCR反応後、PCR反応組成液に制限酵素Dpn Iを15U添加し、37℃で、2時間処理した。Dpn I処理後のPCR反応組成液20μLと大腸菌コンピテントセル(JM109 株)を混合し、形質転換を行った。得られた大腸菌コロニーからプラスミド抽出を行い、変異を有するイソプレン合成酵素遺伝子が導入されたプラスミドを得た。
【0069】
酵素カクテルを調製して、38℃で96時間インキュベートした以外は、比較例1と同様に、イソプレンの生産を行い、GC-MS分析により、イソプレンの生産量を求めた。結果は表2に示した。
【0070】
<比較例3>
497位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:34)を作製した。具体的には、プライマーとして配列番号14,15に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:34)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0071】
<実施例1>
263位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:37)を作製した。具体的には、プライマーとして配列番号16,17に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:37)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0072】
<実施例2>
263位のアラニン(A)をアスパラギン酸(D)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:38)を作製した。具体的には、プライマーとして配列番号18,19に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:38)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0073】
<実施例3>
263位のアラニン(A)をアスパラギン酸(D)に変異させ、527位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:39)を作製した。具体的には、プライマーとして配列番号12,13,18,19に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:39)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0074】
<実施例4>
263位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させ、527位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:40)を作製した。具体的には、プライマーとして配列番号12,13,16,17に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:40)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0075】
<比較例4>
ギンドロ(Populus alba)由来のイソプレン合成酵素遺伝子を設計した。まず、NationalCenter for Biotechnology Information (NCBI) データベースに登録されているmRNA 配列(配列番号:4、アクセッション番号:AB198180.1)を取得した。そして、文献(Ilmen et al. 2015)の記載を参考に5’末端側の111bpを削除し、先頭に開始コドンATGを付与して合計1677bp(559aa)の塩基配列とした。そして、GeneScript社に委託して大腸菌 Escherichia coli のコドン使用頻度表(表1)に合わせてコドン最適化変換を行い、pET-21aベクターへの挿入を行った。変換の際には目的遺伝子配列の中に制限酵素BamH I (GGATCC) と Hind III (AAGCTT) の配列を含まないようにした。得られた遺伝子配列(配列番号:5)の全合成とプラスミド作製は同社に依頼した。
【0076】
GeneScript社が合成した4μg分のプラスミドの乾燥粉末を、同社の操作プロトコルに従い、乾燥粉末に純水を100μL添加し、ボルテックスで10秒間懸濁した。それ以降の操作は比較例1と同様にイソプレン合成酵素を生産した。得られたイソプレン合成酵素について、SDS-PAGEを行った結果、目的のイソプレン合成酵素(PaISPS)のアミノ酸配列(配列番号:35)から推定される分子量64.2KDaのバンドを可溶性画分で確認できた。
【0077】
得られたイソプレン合成酵素を用いて、比較例1と同様にイソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0078】
<実施例5>
271位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:41)を作製した。具体的には、比較例4で得たプラスミドと、プライマーとして配列番号20,21に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:41)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0079】
<実施例6>
271位のアラニン(A)をアスパラギン酸(D)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:42)を作製した。具体的には、比較例4で得たプラスミドと、プライマーとして配列番号22,23に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:42)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0080】
<実施例7>
271位のアラニン(A)をアスパラギン酸(D)に変異させ、534位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:43)を作製した。具体的には、比較例4で得たプラスミドと、プライマーとして配列番号22,23,24,25に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:43)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0081】
<比較例5>
シマホルトノキ(Elaeocarpus photiniifolius)由来のイソプレン合成酵素遺伝子を設計した。まず、National Center for Biotechnology Information (NCBI) データベースに登録されているmRNA 配列(配列番号:6、アクセッション番号:FX134022.1)を取得した。そして、文献(Ilmen et al. 2015)の記載を参考に5’末端側の120bpと3’末端側の138bpを削除し、先頭に開始コドンATGを付与して合計1620bp(540aa)の塩基配列とした。そして、GeneScript社に委託して大腸菌 Escherichia coli のコドン使用頻度表(表1)に合わせてコドン最適化変換を行い、pET-21aベクターへの挿入を行った。変換の際には目的遺伝子配列の中に制限酵素BamH I (GGATCC) と Hind III (AAGCTT) の配列を含まないようにした。得られた遺伝子配列(配列番号:7)の全合成とプラスミド作製は同社に依頼した。
【0082】
GeneScript社が合成した4μg分のプラスミドの乾燥粉末を、同社の操作プロトコルに従い、乾燥粉末に純水を100μL添加し、ボルテックスで10秒間懸濁した。それ以降の操作は比較例1と同様にイソプレン合成酵素を生産した。得られたイソプレン合成酵素について、SDS-PAGEを行った結果、目的のイソプレン合成酵素(EpISPS)のアミノ酸配列(配列番号:36)から推定される分子量62.4KDaのバンドを可溶性画分で確認できた。
【0083】
得られたイソプレン合成酵素を用いて、比較例1と同様にイソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0084】
<実施例8>
256位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:44)を作製した。具体的には、比較例5で得たプラスミドと、プライマーとして配列番号26,27に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:44)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0085】
<実施例9>
256位のアラニン(A)をアスパラギン酸(D)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:45)を作製した。具体的には、比較例5で得たプラスミドと、プライマーとして配列番号28,29に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:45)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0086】
<実施例10>
256位のアラニン(A)をアスパラギン酸(D)に変異させ、519位のアラニン(A)をアスパラギン(N)に変異させたイソプレン合成酵素(配列番号:46)を作製した。具体的には、比較例5で得たプラスミドと、プライマーとして配列番号28,29,30,31に記載のものを使用した以外は、比較例2と同様にしてイソプレン合成酵素(配列番号:46)を生産し、イソプレン合成酵素の活性を求めた。
【0087】
【表2】
【表3】
【表4】
【0088】
結果は表2~4と図5~7に示すとおりであり、A527Nの変異を有するイソプレン合成酵素を用いた比較例2は、野生型のイソプレン合成酵素を用いた比較例1と比較し、イソプレンの生産量が少なかった。A497Nの変異を有するイソプレン合成酵素を用いた比較例3は、野生型のイソプレン合成酵素を用いた比較例1と比較し、イソプレンの生産量が少なかった。
【0089】
一方、実施例1~4は、比較例1と比較し、イソプレンの生産量が多かった。
【0090】
実施例5~7は、比較例4と比較し、イソプレンの生産量が多かった。
【0091】
実施例8~10は、比較例5と比較し、イソプレンの生産量が多かった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明のイソプレン合成酵素は、イソプレンゴムなどの原料となるイソプレンの合成に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2023168145000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(3)のいずれか1つの特徴を有するアミノ酸配列からなるイソプレン合成酵素、
(1)配列番号39、配列番号43、又は配列番号46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号39、配列番号43、又は配列番号46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ前記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列、及び
(3)配列番号39、配列番号43、又は配列番号46のいずれか1つのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列。
【請求項2】
メバロン酸に、メバロン酸リン酸転移酵素(MVK)、ホスホメバロン酸リン酸転移酵素(PMVK)、ジホスホメバロン酸脱炭酸酵素(DMDC)、イソペンテニル二リン酸異性化酵素(IPI)、及び、請求項に記載のイソプレン合成酵素を作用させる、イソプレンの製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
本発明に係るイソプレン合成酵素は、以下の(1)~(3)のいずれか1つの特徴を有するアミノ酸配列からなるイソプレン合成酵素とする。
(1)配列番号39、配列番号43、又は配列番号46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号39、配列番号43、又は配列番号46のいずれか1つに記載のアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ上記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列、及び
(3)配列番号39、配列番号43、又は配列番号46のいずれか1つのアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ上記アミノ酸配列からなるポリペプチドがジメチルアリル二リン酸(DMAPP)を基質としてイソプレンを生成する活性を有するアミノ酸配列。