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特開2023-168159日持ち向上剤およびそれを用いた加工食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168159
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】日持ち向上剤およびそれを用いた加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3508 20060101AFI20231116BHJP
   C12J 1/00 20060101ALI20231116BHJP
   A23L 19/10 20160101ALI20231116BHJP
   A23L 7/10 20160101ALN20231116BHJP
【FI】
A23L3/3508
C12J1/00 Z
A23L19/10
A23L7/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022079845
(22)【出願日】2022-05-13
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100150326
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 知久
(72)【発明者】
【氏名】川田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】市岡 法隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 克紀
【テーマコード(参考)】
4B016
4B021
4B023
4B128
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LC06
4B016LG06
4B016LK04
4B016LK07
4B016LK11
4B016LK20
4B016LP06
4B016LP10
4B016LP11
4B021LA07
4B021LA42
4B021LW02
4B021LW09
4B021MC01
4B021MK02
4B021MK05
4B021MK08
4B021MK20
4B021MP01
4B023LC02
4B023LC08
4B023LE11
4B023LG01
4B023LK01
4B023LK04
4B023LK06
4B023LK12
4B023LP10
4B128BC06
4B128BL03
4B128BL09
4B128BL12
4B128BL18
4B128BL26
4B128BL30
4B128BL35
4B128BP23
(57)【要約】
【課題】 アルカリ化成品や動物性ミネラル源の使用に頼ることなく、醸造酢の酸味酸臭を効果的に低減することができ、かつ優れた日持ち効果を奏することのできる、日持ち向上剤およびそれを用いた加工食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】
本発明の日持ち向上剤は、醸造酢とアルカリ性食品素材との反応物を有効成分として含有する。ここで、アルカリ性食品素材は石灰藻を含む。本発明によれば、アルカリ性化成品や動物性ミネラル源を用いることなく、酸味酸臭の低減と所望の日持ち効果との両立を図ることができる。これにより、グリーンラベル、健康面からの減塩、および環境負荷の低減の三方からの要請に応えることができ、かつ消費者に対して一層訴求力のある安全な加工食品を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
醸造酢とアルカリ性食品素材との反応物を有効成分として含有する、日持ち向上剤であって、アルカリ性食品素材が石灰藻を含む、日持ち向上剤。
【請求項2】
前記石灰藻が紅藻である、請求項1に記載の日持ち向上剤。
【請求項3】
水溶液の形態を有する、請求項1に記載の日持ち向上剤。
【請求項4】
pHが3.5~5.5である、請求項3に記載の日持ち向上剤。
【請求項5】
酸度が全体を酢酸に換算して5%~10%である、請求項3に記載の日持ち向上剤。
【請求項6】
ナトリウムイオン濃度が0.5モル/L以下である、請求項3に記載の日持ち向上剤。
【請求項7】
アルカリ性化成品を含まない、請求項1に記載の日持ち向上剤。
【請求項8】
加工食品の製造方法であって、食品素材と請求項1から8のいずれかに記載の日持ち向上剤とを合わせる工程を包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、日持ち向上剤およびそれを用いた加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
醸造酢は酸味や旨味を付与する調味料に加え、食品の保存性を向上させるための成分としても幅広く使用されている。しかし、醸造酢は、それ単独ではpHが低く、強い酸味酸臭を有している。このため、低濃度でも食品に使用すると、強い酸味酸臭が付与され、得られる加工食品の味質や芳香に悪影響を及ぼしたり、食感に悪影響を及ぼすことがある。よって、酸味酸臭を与えず、保存性を向上させる新たな醸造酢が求められているが、未だ満足し得るものは得られていない
【0003】
一方、醸造酢を炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ性化成品(いずれも食品添加物)などで中和した調味酢が提案されている(例えば、特許文献1および2を参照)。
【0004】
しかし、これらのアルカリ性化成品はいずれも食品添加物に該当する。近年では、クリーンラベル、食品添加物不使用といったニーズが高まっており、これら消費者ニーズに応える食品素材由来の日持ち向上剤が求められている。また、健康面からは塩分摂取量の低減が行政からも示され、ナトリウム塩をなるべく含まない食品の提供が求められている。例えば、特許文献3は、貝殻、魚骨、サンゴ殻等の動物性ミネラル源を焼成して得た酸化カルシウムを醸造酢に溶解してミネラル抗菌剤を得ることを提案している。
【0005】
しかし、動物性ミネラル源の利用は、環境負荷を高めるという点で新たな課題を抱えている。さらに一緒に使用する醸造酢の酸味酸臭を低減しつつ、かつ得られる加工食品に対して満足すべき日持ち向上効果が未だ得られていない点が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-062003号公報
【特許文献2】特開2020-130087号公報
【特許文献3】特開2003-325152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、
アルカリ化成品や動物性ミネラル源の使用に頼ることなく、醸造酢の酸味酸臭を効果的に低減することができ、かつ優れた日持ち効果を奏することのできる、日持ち向上剤およびそれを用いた加工食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、醸造酢とアルカリ性食品素材との反応物を有効成分として含有する、日持ち向上剤であって、アルカリ性食品素材が石灰藻を含む、日持ち向上剤である。
【0009】
1つの実施形態では、上記石灰藻は紅藻である。
【0010】
1つの実施形態では、本発明の日持ち向上剤は水溶液の形態を有する。
【0011】
さらなる実施形態では、本発明の日持ち向上剤におけるpHは3.5~5.5である。
【0012】
さらなる実施形態では、本発明の日持ち向上剤における酸度は全体を酢酸に換算して5%~10%である。
【0013】
さらなる実施形態では、本発明の日持ち向上剤におけるナトリウムイオン濃度は0.5モル/L以下である。
【0014】
1つの実施形態では、本発明の日持ち向上剤はアルカリ性化成品を含まない。
【0015】
本発明はまた、加工食品の製造方法であって、食品素材と上記日持ち向上剤とを合わせる工程を包含する、方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルカリ性化成品や動物性ミネラル源を用いることなく、酸味酸臭の低減と所望の日持ち効果との両立を図ることができる。これにより、例えば、グリーンラベル、健康面からの減塩、および環境負荷の低減の三方からの要請に応えることができ、消費者に対して一層訴求力のある安全な加工食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述する。
【0018】
(日持ち向上剤)
本発明の日持ち向上剤は醸造酢とアルカリ性食品素材との反応物を有効成分として含有する。
【0019】
ここで、本明細書に用いられる用語について定義する。
【0020】
本明細書中に用いられる用語「日持ち向上剤」は、加工食品の保存性を高める効果を有する組成物全般を意味し、いわゆる食品添加物に該当する「日持向上剤製剤」に加え、当該食品添加物以外で当該効果を奏するものも包含する。
【0021】
本明細書中に用いられる用語「醸造酢」とは、醸造酢の日本農林規格(昭和五十四年六月八日農林水産省告第八百一号)に規定される醸造酢である。醸造酢の具体的な例としては、穀物酢、果実酢、米酢、米黒酢、リンゴ酢、およびブドウ酢が挙げられる。
【0022】
このような醸造酢は、例えば、植物性材料単独、あるいは当該植物性材料とアルコールおよび/または糖類との組み合わせから構成される醸造酢原料を用いて得られたものである。
【0023】
植物性材料の例としては、穀類(例えば米;麦;酒粕などの加工品;等)、果実(例えば、ブドウ;リンゴ;これらの搾汁;等)、野菜(例えば、ニンジン;イモ;これらの搾汁;等)、その他の農作物(例えば、サトウキビおよびその搾汁等)、ハチミツ、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0024】
醸造酢原料が、植物性材料単独で構成される場合、植物性材料は必要に応じて麹菌により糖化された後、酵母によりアルコール発酵したもろみの状態で使用されてもよい。醸造酢原料が植物性材料とアルコールおよび/または糖類との組み合わせから構成される場合、醸造酢原料として使用されるアルコールはエタノールであり、醸造酢原料として使用される糖類はグルコースおよび/または砂糖である。
【0025】
醸造酢は、それ自体が所定の酸度を有していることが好ましい。ここで、本明細書中に用いられる用語「酸度」とは、対象物に含まれる酸の濃度、具体的には酢酸の濃度または酢酸に換算した濃度を指して言う。酸度は、醸造酢の日本農林規格(JAS規格;最終改正平成28年2月24日農林水産省告示第489号)にしたがって測定される。醸造酢の酸度は必ずしも限定されないが、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上である。醸造酢の酸度が5%を下回ると、十分な日持ち効果を有する日持ち向上剤を得ることが困難となる場合がある。
【0026】
アルカリ性食品素材は、それ自体を例えば水中に添加するとアルカリ性の水溶液を調製し得る材料であって、それ自体が加工食品等の食品素材となり得るものをいう。
【0027】
本発明において、アルカリ性食品素材は石灰藻を含む。
【0028】
石灰藻は、塩水からミネラルを吸収し、そのミネラルを炭酸塩として濃縮し得る藻類であり、明瞭な1分類群に存在するのではなく、いくつかの植物門の中に散在するものである。海藻類における石灰藻は、海藻全体の5~6%を占め、緑藻、褐藻、紅藻にまたがる100属以上が該当する。このような石灰藻は、カルシウムを含むミネラル類を多量に含有しているため、例えばミネラル補給の目的で食品原料に使用されている。本発明においては、入手が容易であることより、石灰藻のうち紅藻がさらに好ましい。
【0029】
紅藻(Lithothamniom calcareum)は、紅色植物門真正紅藻網サンゴモ目サンゴモ科イシモ属に属し、食品原料として入手が容易である。本発明において、紅藻は、醸造酢に対して段階的な(すなわち、複数回に分けた)添加が容易になるという理由から、予め乾燥かつ所定の粒度に粉砕したパウダーの形態のものを使用することが好ましい。紅藻パウダーもまた一般に食品原料として使用されている。
【0030】
醸造酢に対する石灰藻の使用割合は特に限定されないが、例えば、醸造酢100質量部に対して石灰藻の乾燥体(紅藻パウダー等を包含する)の質量は、好ましくは1質量部~10質量部、より好ましくは3質量部~6質量部である。醸造酢100質量部に対して石灰藻の乾燥体の質量が1質量部を下回ると、醸造酢の酸味酸臭を十分に低減された日持ち向上剤を得ることが困難となる場合がある。醸造酢100質量部に対して石灰藻の乾燥体の質量が10質量部を上回ると、味覚への影響が大きく喫食に適さなくなるだけでなく、醸造酢自体が有する日持ち効果を喪失させ、所望の日持ち効果を有する日持ち向上剤を得ることが困難となる場合がある。
【0031】
本発明において、アルカリ性食品素材は、石灰藻以外に他のアルカリ性食品素材を含んでいてもよい。このような他のアルカリ性食品素材の例としては、木灰汁およびドロマイト、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
木灰汁は、藁灰や木灰を水に浸して得られる上澄みから構成されるアルカリ性の液であり、主成分として炭酸カリウムを含有する。木灰汁は、例えば、植物性食品や動物性商品のアク抜き、あくまきと呼ばれるちまきの原料、かん水の代わりとして沖縄そばに使用されるものである。
【0033】
ドロマイトは、苦灰石、白雲石とも呼ばれ.カルシウムとマグネシウムとの複炭酸塩CaMg(COを主成分として含有する。一般に生体のカルシウムの吸収にはマグネシウムが不可欠とされており、ドロマイトは当該吸収に適したカルシウムおよびマグネシウム含量を有する。この点で機能性食品素材等にも使用されている材料である。
【0034】
アルカリ性食品素材における上記他のアルカリ性食品素材の含有量は、特に限定されないが、アルカリ性食品素材の必須成分として含まれる上記石灰藻自体の効果を阻害しない範囲の含有量が当業者によって選択され得る。
【0035】
アルカリ性食品素材は、上記酢酸酢に含まれる酢酸を適度に(または部分的に)中和し、その後の調製液のpHが著しく低下することを防止できる。これにより、最終的に得られる日持ち向上剤の酸味酸臭を抑え、かつ加工食品の保存性向上のために幅広く利用可能となる。
【0036】
上記醸造酢とアルカリ性食品素材とは、例えば水などの媒体の存在下で少なくともその一部が反応した反応物となって存在し得る。ここで、本発明の日持ち向上剤は、醸造酢とアルカリ性食品素材との反応物を含有し、例えば水溶液の形態において、醸造酢とアルカリ性食品素材と、それらの反応物とが所定の平衡状態を保った濃度で存在する。
【0037】
上記水溶液を構成する水は、例えば、醸造酢自体に予め含まれている水分、および必要に応じて別途添加されてもよい純水、イオン交換水、蒸留水、RO水、水道水、および地下水、ならびにそれらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0038】
本発明の日持ち向上剤が水溶液の形態を有する場合、そのpHは好ましくは3.5~5.5、より好ましくは4~5である。当該水溶液のpHが3.5を下回ると、所望でない酸味酸臭が残り食味に影響を及ぼす場合がある。当該水溶液のpHが5.5を上回ると、所望の日持ち向上効果が得られない場合がある。
【0039】
あるいは、本発明の日持ち向上剤が水溶液の形態を有する場合、その酸度(すなわち、水溶液全体の酸度)は、酢酸に換算して好ましくは5%~10%である。当該水溶液の酸度が5%を下回ると、適当な添加量での日持ち効果が得られない場合がある。当該水溶液の酸度が10%を上回ると、所望でない酸味酸臭が残り食味に影響を及ぼす場合がある。
【0040】
本発明の日持ち向上剤には、必要に応じて他の成分が含有されていてもよい。他の成分の例としては、糖類および調味料、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
糖類の例としては、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、デキストリン、シクロデキストリン、およびオリゴ糖、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
調味料の例としては、アミノ酸類、核酸類および有機酸類(酢酸、酢酸ナトリウムを除く)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
醸造酢に含まれる上記他の成分の含有量は特に限定されず、適切な含有量が当業者によって適宜選択され得る。
【0044】
本発明の日持ち向上剤は、必要に応じてアルカリ性化成品を含有していてもよいが、食品添加物を不使用にするという食品分野および消費者のニーズに応えることを考慮すれば、当該アルカリ性化成品を含まないことが好ましい。アルカリ性化成品は、食品工業において従来より使用される化成品であって、それ自体が水中に溶解することによりアルカリ性水溶液を調製し得るものである。アルカリ性化成品の例としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムおよび水酸化ナトリウムならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0045】
また、本発明の日持ち向上剤は、例えば、それを用いて得られる後述の加工食品が、健康面を配慮した減塩食品であることを強調して消費者の購買意欲に訴求することが有効である等の理由から、当該日持ち向上剤自体のナトリウム含量が低く抑えられていることが好ましい。このため、例えば、本発明の日持ち向上剤が水溶液の形態を有する場合、そのナトリウムイオン濃度は好ましくは0.5モル/L以下となるように設定されている。
【0046】
本発明の日持ち向上剤は、例えば、上記醸造酢に、必要に応じて他の添加剤等を先に投入し、その後アルカリ性食品素材(石灰藻と必要に応じて他のアルカリ性食品素材)を添加して製造される。
【0047】
アルカリ性食品素材の添加の際には、反応液中で炭酸ガスが発生するため、激しい泡立ちを防止するために、当該アルカリ性食品素材は徐々にまたは段階的に分けて添加することが好ましい。
【0048】
さらに、本発明においては上記未溶解のアルカリ性食品素材を除去して得られる溶液には、その後も所望でない炭酸ガスが残存または発生することがある。このような炭酸ガスは、本発明の日持ち向上剤を所定の容器に充填して保管または流通させる際に当該容器の膨張を引き起こし、品質に対する不安を与えることが懸念される。
【0049】
このため、本発明においては、反応系内の炭酸ガスのさらなる発生や残存を防止するために、所定温度かつ時間をかけて当該反応系をさらに加熱することが好ましい。その際に設定される温度は、例えば75℃~85℃であり、加熱時間が例えば20分間~30分間である。
【0050】
その後、反応液は所定の温度まで冷却(例えば放冷)され、必要に応じて遠心分離、ろ過などの方法によって未溶解のアルカリ性食品素材が除去されて得る。
【0051】
このようにして、本発明の日持ち向上剤を製造することができる。
【0052】
本発明の日持ち向上剤は、様々な加工食品の製造の際に添加して使用される。
【0053】
(加工食品の製造方法)
本発明の加工食品の製造方法では、食品素材と上記日持ち向上剤とが合される。
【0054】
具体的には、例えば食品素材に上記日持ち向上剤が添加される。この添加のタイミングについては、当業者によって食品製造における任意の段階、加工食品の調理中および/または調理後などが選択され得る。日持ち向上剤の添加は、このような任意の段階で、例えば、溶解させる、混和させる、練り込む、まぶす、水溶液に調製したものを噴霧する等によって行われる。なお、食品素材に対する日持ち向上剤の使用量は特に限定されず、製造される加工食品の種類等によって適切な量が当業者によって選択され得る。
【0055】
本発明によって製造され得る加工食品としては、必ずしも限定されないが、例えば、米飯(例えば白飯)、惣菜類(例えば、ハンバーグ、サラダ、卵焼き、鶏唐揚げ、鶏照焼き、フライ食品、和え物、煮物)、水産練製品(例えば、蒲鉾、竹輪)、畜肉製品(例えば、ハム、ソーセージ、ウインナー)、パン・ケーキ類、菓子類(例えば、和菓子、洋菓子)、麺類(例えば、生麺、茹麺、乾麺)、調味料類(例えば、ソース、醤油、マヨネーズ、ケチャップ)が挙げられる。
【0056】
食品素材は、上記加工食品を得るための調理前の原料、および調理または加工後の中間製品(例えば、惣菜半製品)の両方を包含する。
【0057】
加工食品の製造のために採用され得る調理方法等は、製造する加工食品の種類、使用する食品素材の種類および/または量等によって適切な方法等が当業者によって適宜選択され得る。
【0058】
このようにして、加工食品を製造することができる。
【0059】
本発明により製造された加工食品は、上記日持ち向上剤によって適切な日持ち効果が発揮され、その一方で日持ち向上剤を得るために使用した醸造酢に起因する酸味酸臭が低減されている。このため、食品素材から得られる風味を損なうことなく、より長期間に亘って品質が保持された加工食品を提供することができる。
【実施例0060】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1:日持ち向上剤(E1)の作製)
タンクに水11.5質量部を仕込み、さらに酸度15%を有する醸造酢(キューピー醸造株式会社製高酸度原料用ビネガー(HDV))80.0質量部を添加してプロペラ撹拌機による撹拌を行った。次いで、このタンクに水飴4.5質量部を添加した。その後、このタンクに紅藻パウダー(セティ株式会社製アルガリット)4.0質量部を、発生する炭酸ガスの激しい泡立ちによってタンク内の液面が上昇するため、内容物がタンクから溢れないように注意しながら、徐々に添加した。
【0062】
上記紅藻パウダーをすべて添加した後、タンク内の内容物から発生した炭酸ガスの泡立ちがなくなっていることを確認した後、タンクを品温が80℃になるまで加熱し、その後20分間保持した。次いで、約60℃まで冷却した後、タンク内の内容物を遠心分離機にかけて、未溶解の紅藻パウダーと上清とに分離し、上清のみを取り出して、平均孔径1μmのカートリッジフィルターに通し、所定量毎に容器に充填した。
【0063】
これにより容器に充填された日持ち向上剤(E1)を得た。
【0064】
得られた日持ち向上剤(E1)を水で1質量%の濃度にまで希釈して、1質量%水溶液を得た。この1質量%水溶液のpHは4.4であり、酸度は酢酸に換算して8.8%であった。
【0065】
(実施例2:日持ち向上剤(E2)の作製)
タンクに紅藻パウダー(セティ株式会社製アルガリット)4.0質量部を仕込み、水飴4.5質量部を添加した。その後、酸度15%を有する醸造酢(キューピー醸造株式会社製甲酸度原料用ビネガー(HDV))80.0質量部を、発生する炭酸ガスの激しい泡立ちによってタンク内の液面が上昇するため、内容物がタンクから溢れないように注意しながら、徐々に添加し、液面がタンク内に予め設けたプロペラ撹拌機より上方に到達してから撹拌を開始した。その後、水11.5質量部を添加し、タンク内の内容物から発生した炭酸ガスの泡立ちがなくなっていることを確認した後、タンクを品温が80℃になるまで加熱し、その後20分間保持した。次いで、約60℃まで冷却した後、タンク内の内容物を遠心分離機にかけて、未溶解の紅藻パウダーと上清とに分離し、上清のみを取り出して、平均孔径1μmのカートリッジフィルターに通し、所定量毎に容器に充填した。
【0066】
これにより容器に充填された日持ち向上剤(E2)を得た。
【0067】
(実施例3:里芋煮物(SE1)の作製)
ダシ100質量部、薄口醤油10質量部、みりん10質量部、料理酒10質量部および砂糖4.5質量部を混合し、そしてこれに実施例1で作製した日持ち向上剤(E1)を全体質量に対して0.3質量%の濃度となるように添加して、調味液を作製した。
【0068】
一方、冷凍里芋を半解凍し、適当な大きさにカットし、そしてカットした里芋と上記調味液とを質量比に換算して1:1となるように合わせて真空パック容器に入れて密封し、90℃で60分間加熱した。その後、室温まで冷却し、かつ容器を開封して液切りを行うことにより里芋煮物(SE1)を得た。
【0069】
(実施例4および5:里芋煮物(SE2)および(SE3)の作製)
実施例1で作製した日持ち向上剤(E1)を全体質量に対して0.5質量%または1質量%の濃度となるように添加して調味液を作製し、これらの調味液を使用したこと以外は、実施例3と同様にして里芋煮物(SE2)および(SE3)を得た。
【0070】
(比較例1~3:里芋煮物(SC1)~(SC3)の作製)
実施例1で作製した日持ち向上剤(E1)の代わりに、酸度15%を有する醸造酢(キューピー醸造株式会社製高酸度原料用ビネガー(HDV))を用いて酸度12%に調整した醸造酢を用い、その濃度を全体質量に対して0.3質量%、0.5質量%または1質量%となるように添加して調味液を作製し、これらの調味液を使用したこと以外は、実施例3と同様にして里芋煮物(SC1)~(SC3)を得た。
【0071】
(比較例4:里芋煮物(SC4)の作製)
実施例1で作製した日持ち向上剤(E1)を添加することなく調味液を作製し、この調味液を使用したこと以外は、実施例3と同様にして里芋煮物(SC4)(無添加区)を得た。
【0072】
(里芋煮物の一般生菌数の変化)
実施例3~5および比較例1~4で得られた里芋煮物(SE1)~(SE3)および(SC1)~(SC4)のそれぞれにパエニバシラス・ポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)を植菌し、15℃にて96時間保存した。保存期間中、各容器を密封し、保存開始から0時間、72時間および96時間における容器内の一般生菌数(CFU/g)を測定した。なお、保存開始から0時間の里芋の一部を取り出し、これに10倍量(質量基準)の生理食塩水を添加し、ストマッカーで懸濁液を調製した。この懸濁液のpH(10%pH)を市販のpHメーターで測定した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、実施例3~5で作製された里芋煮物(SE1)~(SE3)はいずれも、無添加区の比較例4の里芋煮物(SE4)と比較して、保存開始後72時間および96時間の一般生菌数が低く抑えられており、里芋煮物(SE1)~(SE3)に使用した実施例1の日持ち向上剤(E1)が優れた日持ち効果を発揮していた。また、その効果は、比較例1~3の里芋煮物(SC1)~(SC3)において日持ち向上剤としてそのまま使用した醸造酢と同等またはそれ以上であったこともわかる
【0075】
(里芋煮物の試食による官能評価(酸味))
実施例3~5および比較例1~4で得られた里芋煮物(SE1)~(SE3)および(SC1)~(SC4)のそれぞれを、訓練された7名のパネリストが試食し、その際の酸味の程度を合議により以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
A・・・ほとんど酸味を感じなかった。
B・・・若干酸味を感じた。
C・・・酸味が強いと感じた。
D・・・酸味が非常に強いと感じた。
【0076】
【表2】
【0077】
表2に示すように、実施例3~5で作製された里芋煮物(SE1)~(SE3)は、無添加区の比較例4の里芋煮物(SC4)と、同様にほとんど酸味を感じないか、若干酸味を感じたに過ぎなかった。これに対し、日持ち向上剤として醸造酢をそのまま使用した比較例1~3の里芋煮物(SC1)~(SC3)には酸味が強く残る傾向があり、実際の喫食には適するとは言い難いものであった。
【0078】
さらに表1および表2から明らかなように、実施例3~5で作製された里芋煮物(SE1)~(SE3)で使用した実施例1の日持ち向上剤(E1)は、里芋煮物に対して醸造酢と同等またはそれ以上の日持ち効果を発揮するものの(表1)、当該醸造酢ほどの酸味を里芋煮物に与えることなく、大変使い勝手のよい製剤であることがわかる。
【0079】
(各種細菌の最小発育阻止濃度)
実施例1で得られた日持ち向上剤(E1)が0.1%の濃度ずつ変化する標準寒天培地を作成し、これに表3に示す菌種を含む菌液(10~10CFU/g)0.01mL滴下し、35℃で48時間静置し、その後培地上の各種細菌のコロニーの発生有無を目視で観察することにより最小発育阻止濃度(MIC)を確認した。結果を表3に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
表3に示すように、実施例1で得られた日持ち向上剤(E1)は、様々な菌種に対して比較的低濃度で抗菌活性を有していることがわかる。
【0082】
(実施例6:日持ち向上剤(E1)を用いた白飯炊飯試験)
実施例1で得られた日持ち向上剤(E1)を水で1質量%の濃度にまで希釈して、1質量%水溶液を得た。この1質量%水溶液のpH、上記日持ち向上剤(E1)の作製時の泡立ちの様子、ろ過前の色調、および得られた日持ち向上剤(E1)自体の味覚を測定または評価した。結果を表4に示す。
【0083】
次いで、洗米済の生米100質量部および水140質量部を混合し、これに上記日持ち向上剤(E1)1質量部を添加して白飯の炊飯を行った。放冷後、得られた白飯を訓練された7名のパネリストが試食し、酸味の程度および食感を合議により評価した。結果を表4に示す。
【0084】
(比較例4:日持ち向上剤(C4)の作製およびそれを用いた白飯炊飯試験)
タンクに水11.5質量部を仕込み、さらに酸度15%を有する醸造酢(キューピー醸造株式会社製高酸度原料用ビネガー(HDV))80.0質量部を添加してプロペラ撹拌機による撹拌を行った。次いで、水飴4.5部質量を添加し、これに未焼成サンゴカルシウム(マリーンバイオ株式会社製コーラルカルシウムパウダー(CCP)44)4.0質量部を徐々に添加したこと以外は実施例1と同様にして、日持ち向上剤(C4)を得た。その後、得られた日持ち向上剤(C4)を水で1質量%の濃度にまで希釈して、1質量%水溶液を得た。この1質量%水溶液のpH、上記日持ち向上剤(C4)の作製時の泡立ちの様子、ろ過前の色調、および得られた日持ち向上剤(C4)自体の味覚を測定または評価した。結果を表4に示す。
【0085】
この日持ち向上剤(C4)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして白飯を炊飯し、パネラーの合議による官能評価を行った。結果を表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
表4に示すように、紅藻パウダーを使用して作製した実施例6の日持ち向上剤(E6)については酸味がマイルドであり、日持ち向上剤自体に粉っぽさを感じることがなかった。これに対し、紅藻パウダーの代わりに未焼成サンゴカルシウムを使用して作製した比較例4の日持ち向上剤(C4)については酸味がマイルドであったものの、日持ち向上剤自体に粉っぽさを感じた。
【0088】
また、これらの日持ち向上剤を用いて炊き上げた白飯について、実施例6の日持ち向上剤(E6)を用いた場合では、得られた白飯に粉っぽさやベチャツキがなく良好であった。これに対し、比較例4の日持ち向上剤(C4)を用いた場合では、得られた白飯に粉っぽさやベチャツキがあり、芳しいものではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、例えば加工食品の製造分野において有用である。