(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168174
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】VOCの測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/22 20060101AFI20231116BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231116BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01N1/22 A
G01N27/62 V
G01N1/00 101R
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022089210
(22)【出願日】2022-05-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】521341282
【氏名又は名称】株式会社堀井工業
(72)【発明者】
【氏名】島田 幸治郎
【テーマコード(参考)】
2G041
2G052
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041FA06
2G052AB11
2G052AD02
2G052AD42
2G052CA14
2G052CA38
2G052DA13
2G052GA24
2G052HC17
2G052HC25
2G052JA11
(57)【要約】
【課題】本発明の目的はより簡単、より実際の使用環境に近い条件において、試料から発生するVOC量を精度高く測定できる装置及び測定方法を提供することにある。
【解決手段】送気用ポンプ、気圧調整器、試料容器となるチャンバー、VOC測定器を接続管により連結した一連の装置であって、
容器部と着脱自在に装着できる蓋部とからなり、送気用通気口を除いて密閉でき、該容器部と蓋部との間に試料に光を当てるための透過部を有することを特徴とする、略円形のチャンバーと、チャンバー内の送気を層流化するために送気用ポンプとチャンバーとの間に気圧調整器とを備えた、VOCの測定装置および測定方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を格納するチャンバーの上流側に送気用ポンプ、下流側にVOC測定器を配置し、該チャンバー内の試料に対する光照射手段を備え、該試料から発生するVOCの種類および量を測定できるVOC測定装置。
【請求項2】
前記チャンバーは略円筒形であり、気密性を有し、内部に格納した試料に光照射を行うため一部に透過部を有する、請求項1に記載のVOC測定装置。
【請求項3】
前記送気用ポンプと、前記チャンバーとの間に気圧調整器を有する、請求項1または2に記載のVOC測定装置。
【請求項4】
光照射手段より前記チャンバー内部の試料に光照射し、上流側の前記送気用ポンプから空気を送り込み、該チャンバー内で試料から揮発したVOC混合空気を下流側の前記VOC測定器で測定する、VOC測定方法。
【請求項5】
前記送気用ポンプと、前記チャンバーとの間で、気圧調整を行う、請求項4に記載のVOC測定方法。
【請求項6】
光照射手段は、太陽光のスペクトル分布を疑似したソーラーシミュレーターを用いる、請求項4に記載のVOC測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC測定装置及びVOC測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでの大気化学において、例えば建材など外気に晒される測定対象物から揮発するVOC(揮発性有機化合物)に含まれる化学物質は、測定対象物付近のVOCを含む大気を袋などに直接採取し、直接質量分析計などの測定機器に注入することで分析を行っており、分析結果からVOCの排出量などを推定している。しかし、この方法では、測定対象物の周囲の一部の大気を瞬間的に採取しているに過ぎないため、同大気が測定対象物のみを起源とする揮発VOCを含むものであるかどうかが不明確であり、瞬間的に採取した大気が測定対象物から一定期間に発せられるVOCのどれほどの割合を示しているか、を表すことができず、測定対象物から発するVOCの一定期間の全体量が推定できないなどの問題があった。
【0003】
一方、例えばシックハウス症候群に関わるような建材から発生するVOCの検査においては、所定の温度に加熱した建材を測定用の箱内部に一定時間格納し、箱内部の気体を採取して有害なVOCを直接検査する方法が取られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの大気化学における、VOCを含む大気を試料の周囲で直接採取し質量分析計などの測定機器に注入する測定方法では、測定されたVOCの発生起源が不明確であり、また測定された物質の量が全体量とは言えない点から、精度が高いとは言えなかった。
【0005】
一方、試料となる大気を測定機器に注入する方法では、測定段階で大気が攪拌され意図しない化学反応を生じてしまうことがあり、正確な測定結果を得にくい問題点があった。つまり測定環境を流れる大気が乱流であると、化学物質の撹拌率が層流に比べて高いため、VOC同士が化学反応を引き起こし、通常の条件下では生成されないVOCが生じてしまうおそれがある。
【0006】
そこで、大気を直接測定機器に注入するのではなく、大気成分が吸着しているアスファルトなどの試料を容器内に格納し、外気から遮断しつつ自然を模した模擬環境を形成し、熱分解や光分解によって試料から放出されるVOCの放出速度を調べることで、試料のみから一定時間に発生するVOCの種類及び量を測定し、同測定結果から長期間に発生する同試料由来のVOCの全体量の測定や同試料の劣化速度の推定ができるのではないかと考えた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)VOCの測定装置
本発明は、試料を格納するチャンバーの上流側に送気用ポンプ、下流側にVOC測定器を配置し、該チャンバー内の試料に対する光照射手段を備え、試料から放出されるVOCの種類および量を測定できるVOC測定装置である。
本発明により、外部大気の混入など外部環境の要素に影響を受けることなく、自然光と同様の模擬的条件下で、試料のみから放出されるVOCを捕捉し、測定できる。
また本発明は、チャンバーは略円筒形であり、気密性を有し、内部に格納した試料に光照射を行うため一部に透過部を有する、VOC測定装置である。
本発明により、測定装置外部の影響を受けることなく、自然光と同様の模擬的条件下で、チャンバー内に格納した試料からVOCを放出させ、同VOCの気流が下流側のVOC測定器に到達するまでの間に変質することを防止できる。
さらに本発明は、送気用ポンプと、チャンバーとの間に気圧調整器を有する、VOC測定装置である。
本発明により、送気用ポンプの脈動により、試料から放出されるVOCの気流が下流側のVOC測定器に到達するまでの間に乱され、意図しない化学反応を生じVOCが変質することを防止できる。
(2)VOCの分析方法
本発明は、光照射手段よりチャンバー内部の試料に光照射し、上流側の送気用ポンプから空気を送り込み、チャンバー内で試料から揮発したVOC混合空気を下流側のVOC測定器で測定する、VOC測定方法である。
本発明により、外部環境の要素に影響を受けることなく、自然光と同様の模擬的条件下で、試料のみから光分解により放出されるVOCを捕捉し、測定できる。
また本発明は、送気用ポンプと、チャンバーとの間で、気圧調整を行い測定精度を高めた、請求項4に記載のVOC測定方法である。
本発明により、送気用ポンプの脈動により、試料から放出されるVOCの気流が下流側のVOC測定器に到達するまでの間に乱され、意図しない化学反応を生じVOCが変質することを防止できる。
さらに本発明は、光照射手段は太陽光のスペクトル分布を疑似したソーラーシミュレーターを用いる、請求項4に記載のVOC測定方法である。
本発明により、自然光と同様の模擬的条件下で、試料のみから放出されるVOCを捕捉し、測定できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のVOC測定装置及び測定方法によれば、外気などの影響を受けることなく、光分解によって試料より放出されるVOCの種類及び量を正確に測定することができる。またVOCの測定段階で意図しない化学反応を生じることなしに、実際の大気下の環境に近い条件でVOCの種類及び量を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】チャンバー内の気体のシミュレーションモデルを表す図である。
【
図4】VOC測定装置による測定例を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明のVOC測定装置の配置図である。このVOC測定装置1は、送気用ポンプ11と気圧調整器12と、送気用の通気口6~7と、接続管8~10と、チャンバー3とからなる。
【0011】
図1において、送気用ポンプ11は、接続管10を通じ清浄空気17を送り出し、気圧調整器12及び接続管8を通じ、チャンバー3内へ空気を送り込む役割を果たす。気圧調整器12は、送気用ポンプ11とチャンバー3との間に配置され、送気用ポンプ11の脈動が測定へ及ぼす影響を取り除くため設置されている。一般に送気用ポンプから空気を送り出す脈動は、下流側のチャンバーやVOC測定器内の気体に負荷をかけ、下流方向の気流を乱す傾向がある。そのため、送気用ポンプ11から送り出した清浄空気17を、下流側の出口が2つある気圧調整器12を通過させることで、VOC測定器2へ空気を負荷をかけて送り込むことを防ぎ、VOC測定器2に内蔵されている空気を取り込む吸入用ポンプの流量に合わせて、空気を送り出すことができ、チャンバー3内の空気を一定流量に保つ役割を果たす。
【0012】
図1において、VOC測定器2はPTR-Tof-MSなど、分子のプロトン付加によってイオン化させ、そのプロトン化したイオンを検出するというソフトイオン化法を用いた質量分析計であり、チャンバー3内を通過したVOC混合空気18を測定する装置である。可能な限り多くのVOCの種類を一括で分析できる条件を備えた機器を採用することが望ましい。
【0013】
チャンバー3は略円形とし、
図2に示すよう、略円形のステンレス等素材で成型された金属容器であり、内部に試料を格納できる空洞を有している。チャンバー3内を流れる気体を層流の状態とするためには、略四角形の形状では気体を層流状態に保つことは難しいから、形状は略円形であることが望ましい。またステンレス等素材に付着している油分からの汚染を防ぐためにチャンバー3内側にテフロンコーティングを施してある。さらにチャンバー3は着脱自在な蓋部4を有する。一方、チャンバー3内部の試料14に光照射するために、蓋部4に石英ガラスからなる透過部15を設けた構造とし、チャンバー3外部から光照射手段の光を取り入れる。透過部15の材質は紫外部の波長の光を透過するため、石英ガラスが望ましいが、他に紫外線の波長を透過する窓材としてフッ化カルシウム、フッ化バリウム窓などを使用することもできる。
この他、チャンバー3内部の試料14に光照射する方法として、チャンバー3内部に光照射手段を設けることもできる。チャンバー3の通気口6、通気口7への接続部位はガスのリーク防止のためNPTネジ19を使用している。
チャンバー3内の試料14へ光照射手段16から光が照射されると、試料14から揮発したVOC13は接続管8からチャンバー3内へ流れ込む清浄空気17と混合されVOC混合空気18となって、接続管9を通じ、VOC測定器2へ達する。
【0014】
図1において、接続管8、接続管9、接続管10は、ガス等に含まれる油分からの汚染を防ぐためにテフロン素材で成型されたパイプとする。
【0015】
図1において、光照射手段16は、試料へ光を照射し試料の光分解を促す手段である。
光照射手段16は特定の単一波長ではなく、太陽光のスペクトル分布を疑似したソーラーシミュレーターを用いることで、より実際の大気環境に近い条件でエアロゾルの光化学酸化反応および光分解を再現することができる。また光照射手段16としては、透過部15を設けたチャンバー3の外部から光照射手段16によりチャンバー3内部を照らす方法であっても、チャンバー3内部に光照射手段16を設ける方法でも構わない。
【0016】
図1に基づき、実際に試料のVOC測定を行う際の手順を説明する。
(1)サンプルの試料14をチャンバー3内の容器部に格納する。
(2)チャンバー3の蓋部4と容器部5とを合わせボルトネジ19で密閉する。
(3)送気用ポンプ11と気圧調整器12と、送気用の通気口6~7と、接続管8~10と、チャンバー3と、VOC測定器2とを配置、接続する。
(4)送気用ポンプ11より、標準ガスを流し、チャンバー3内のVOC濃度が安定するまで待つ。
(5)VOC濃度の上昇が収まったら、ソーラシュミレーターからなる光照射手段16より、波長300~1,100W/m2を基準としてチャンバー3の透過部15へ向け光を照射し、試料14へ光を照射する。
(6)3時間程度光を照射したら、光照射手段16をオフにする。
(7)再度、VOC濃度が安定するまで待つ。
(8)VOC測定器2にてVOC量を測定する。
【実施例0017】
沿道から採取したアスファルト試料を用いて、本発明に係る測定装置及び測定方法による実験を行った。この実験では、容器部5にアスファルト試料を入れ、石英ガラスのガラスプレートを一部に含む蓋部をして密閉したステンレス製のチャンバー3に対し、光照射手段16として疑似太陽光ライトを照射し、試料から光分解により生成されたVOCをVOC測定器2により測定した。
試料表面の光化学反応によるVOCの生成状況を確認するために、実験では
図4左上グラフに示すように、4つの段階に分けてイオンの質量分布(マススペクトル)の違いを調べた。
安定時1:チャンバー3へ試料を格納した後、送気用ポンプ11から送気を開始しVOC測定器2(PTR-Tof-MS)による測定を開始し、VOC濃度が安定するまで送気を継続した段階
加熱時:光反応と試料表面温度の上昇によるVOCの揮発を区別するため、予め赤外線ライトを用いて試料を60-70℃程度まで加熱した段階
光照射時:光照射手段16(疑似太陽光ライト)を点灯し、光化学反応を起こした段階
安定時2:光反応によるVOC濃度上昇速度が遅くなってきたら疑似太陽光ライトを消灯し、VOC濃度が下がり安定するまで待った段階
【0018】
図4左上グラフでは、各段階のホルムアルデヒドの体積濃度(Concentration(ppbv))を表している。一方で、VOCの“種類”の増減がわかるよう、各段階のm/s強度比(intensity)を算出し、
図4の
図4-1~
図4-3グラフに表した。なお
図4の
図4-1~
図4-3グラフの図中にあるスペクトルを示した各図は拡大図であり、アスファルト試料について、(加熱時)/(安定時1)比と(光照射時)/(加熱時)比をとることで、表面温度上昇によって揮発で放出されたVOCと光反応によって放出されたVOCの質量電荷比(m/z値)の分布とその増加比を示している。加熱時は安定時に比べて、m/z値が30以下や500以上のVOCが大幅に増加していたが、m/z値が40~300のVOCの強度比(intensity)は平均して1~3倍程度の増加にとどまった(
図4-2)。一方、光照射時の加熱時に対するマススペクトルの変化はm/z値の40~300のVOCの強度比(intensity)は最大25倍と顕著な濃度上昇を示した(
図4-3)。このことから、本発明の装置にて実施するVOCの測定方法により、常温ないし加熱時の条件下で試料から揮発するVOCを測定する方法に比べ、光化学反応による多種の低分子から高分子量までのVOCを測定できることが示されている。
【0019】
また、数学モデリングソフトウェアCOMSOL Multiphysicsを用いて、本装置のチャンバー内を流れる気体のシミュレーションを行った結果を
図3に示す。気流が渦を巻いている様子などが見られないことから、実験中のチャンバー内では、ガスが層流状態にあることが分かる。