(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168201
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】紫外線透過ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/118 20060101AFI20231116BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
C03C3/118
C03C15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167700
(22)【出願日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2022079187
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】橋本 幸市
(72)【発明者】
【氏名】高尾 英佑
(72)【発明者】
【氏名】藤田 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】小谷 修
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA11
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4G062NN34
(57)【要約】
【課題】深紫外域、特に、波長200~250nmの紫外光の透過率が高い紫外線透過ガラスを提供する。
【解決手段】本発明の紫外線透過ガラスは、ガラス表面から15μm深さのFの含有量をx(質量%)、ガラス表面から1μm深さのFの含有量をy(質量%)とした場合、y/xが0.8以上であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス表面から15μm深さのFの含有量をx(質量%)、ガラス表面から1μm深さのFの含有量をy(質量%)とした場合、y/xが0.8以上であることを特徴とする紫外線透過ガラス。
【請求項2】
厚み0.5mm、波長200nmにおける透過率(%)をT200とした場合、T200≧69であることを特徴とする請求項1に記載の紫外線透過ガラス。
【請求項3】
厚みが0.2~2.0mmであり、管状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外線透過ガラス。
【請求項4】
ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~75%、Al2O3 1~10%、B2O3 10~30%、CaO 0~5 %、 BaO 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 1~15%、TiO2 0~0.001%、Fe2O3 0~0.001%、F 0.5~7%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外線透過ガラス。
【請求項5】
炎センサ用であることを特徴とする請求項1又は2に記載の紫外線透過ガラス。
【請求項6】
ガラスを管状に成形した後、酸溶液中に管状ガラスを浸漬してエッチングすることを特徴とする紫外線透過ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線透過ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
炎が発生する185~260nmの波長の紫外線を検出する炎センサが開発され、その炎センサを用いて、火災や燃焼装置の炎を検知する方法が提案されている。このような炎センサを収容する容器や窓材には、深紫外域の透過率が高い紫外線透過ガラス(例えば、特許文献1)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2017/057375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炎センサでは、紫外線透過ガラスを外筒として用いることによって、高い検出感度が持続して得られる。しかし、従来の紫外線透過ガラスでは、その透過率、特に、波長200~250nmの深紫外域の透過率が低く、課題となっていた。
【0005】
以上に鑑み、本発明は、深紫外域において従来品よりも高い透過率を有するガラスを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、Fが軽元素である為に製造プロセスで表面付近の含有量が低くなり易く、ガラス表面近傍のFの含有量が少ないと、ガラス表面近傍に含まれるFe3+が還元され難く、深紫外域の透過率の低下を来たしていることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の紫外線透過ガラスは、ガラス表面から15μm深さのFの含有量をx(質量%)、ガラス表面から1μm深さのFの含有量をy(質量%)とした場合、y/xが0.8以上であることを特徴とする。ここで、「Fの含有量」は、市販の電子線マイクロアナライザ(例えば、島津製作所製EPMA-1720H)で測定可能である。
【0008】
本発明の紫外線透過ガラスは、厚み0.5mm、波長200nmにおける透過率(%)をT200とした場合、T200≧69であることが好ましい。ここで、「波長200nmにおける透過率」は、市販の分光光度計(例えば、島津製作所製UV―3100PC)で測定可能である。
【0009】
本発明の紫外線透過ガラスは、厚みが0.2~2mmであり、管状であることが好ましい。
【0010】
本発明の紫外線透過ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~75%、Al2O3 1~10%、B2O3 10~30%、CaO 0~5 %、 BaO 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 1~15%、TiO2 0~0.001%、Fe2O3 0~0.001%、F 0.5~7%を含有することが好ましい。なお、「A+B+C」とは、成分A、成分B及び成分Cの合量を指す。例えば、「Li2O+Na2O+K2O」は、Li2O、Na2O及びK2Oの合量を指す。
【0011】
本発明の紫外線透過ガラスは、炎センサ用であることが好ましい。
【0012】
本発明の紫外線透過ガラスの製造方法は、ガラスを管状に成形した後、酸溶液中に管状ガラスを浸漬してエッチングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、深紫外域において従来品よりも高い透過率を有するガラスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の紫外線透過ガラスにおいて、ガラス表面から15μm深さのFの含有量をx(質量%)、ガラス表面から1μm深さのFの含有量をy(質量%)とした場合、y/xが0.8以上であり、0.85以上、特に0.9以上であることが好ましい。y/xが小さ過ぎると、ガラス表面近傍に含まれるFe3+が還元され難く、深紫外域の透過率が低下し易くなる。なお、y/xの上限値は特に限定されないが、現実的には1.2以下である。また、y/xの具体的な数値は下記の通りである。
【0015】
xは0.5~7%、0.6~5%、特に0.7~3%であることが好ましい。xが小さ過ぎると、ガラス内部のFの含有量が少なくなり、ガラス内部に含まれるFe3+が還元され難く、深紫外域の透過率が低下し易くなる。一方、xが大き過ぎると、ガラス化し難くなる。
【0016】
yは0.4~8.4%、0.45~6%、0.5~5%、特に0.6~3%であることが好ましい。yが小さ過ぎると、ガラス表面近傍のFの含有量が少なくなり、ガラス表面近傍に含まれるFe3+が還元され難く、深紫外域の透過率が低下し易くなる。一方、yが大き過ぎると、ガラス化し難くなる。
【0017】
本発明の紫外線透過ガラスにおいて、厚み0.5mm、波長200nmにおける透過率(%)をT200とした場合、T200≧69、特にT200≧70であることが好ましい。厚み0.5mm、波長200nmにおける透過率が低過ぎると、紫外光が透過し難くなり、搭載される光源やデバイスの性能が低下し易くなる。
【0018】
本発明の紫外線透過ガラスにおいて、厚み0.5mm、波長220nmにおける透過率(%)をT220とした場合、T220≧79、特にT220≧80であることが好ましい。厚み0.5mm、波長220nmにおける透過率が低過ぎると、紫外光が透過し難くなり、搭載される光源やデバイスの性能が低下し易くなる。
【0019】
本発明の紫外線透過ガラスにおいて、厚み0.5mm、波長250nmにおける透過率(%)をT250とした場合、T250≧87、特にT250≧88であることが好ましい。厚み0.5mm、波長250nmにおける透過率が低過ぎると、紫外光が透過し難くなり、搭載される光源やデバイスの性能が低下し易くなる。
【0020】
本発明の紫外線透過ガラスの歪点は、400℃以上、410℃以上、特に415℃以上であることが好ましい。紫外線透過ガラスの歪点が低過ぎる場合、例えば、表面に機能性膜を成膜する際に、高温の成膜工程においてガラスに意図しない変形が生じ易くなる。なお、歪点の上限は特に限定されないが、現実的には600℃以下である。
【0021】
本発明の紫外線透過ガラスの軟化点は、850℃以下、800℃以下、750℃以下、特に700℃以下であることが好ましい。軟化点が高過ぎると、ガラスの再熱加工がし難くなる。なお、軟化点の下限は特に限定されないが、現実的には600℃以上である。
【0022】
本発明の紫外線透過ガラスの粘度102.5dPa・sにおける温度は、1540℃以下、1520℃以下、1500℃以下、特に1480℃以下であることが好ましい。102.5dPa・sにおける温度が高過ぎると、ガラス溶融窯への負荷が大きくなるとともに、溶融性が低下して、ガラスの製造コストが高騰し易くなる。ここで、「102.5dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定可能である。なお、102.5dPa・sにおける温度の下限は特に限定されないが、現実的には1300℃以上である。
【0023】
本発明の紫外線透過ガラスの30~380℃の温度範囲における平均線熱膨張係数は、30×10-7/℃以上、特に35×10-7/℃以上であることが好ましく、また95×10-7/℃以下、特に80×10-7/℃以下であることが好ましい。平均線熱膨張係数が低過ぎると、センサ端子等の各種部材の熱膨張係数に整合させ難くなる。一方、平均線熱膨張係数が高過ぎると、熱衝撃により、ガラスが破損し易くなる。
【0024】
本発明の紫外線透過ガラスの液相温度は、1120℃以下、1100℃以下、1080℃以下、1050℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、特に850℃以下であることが好ましい。液相温度における粘度は、104.0dPa・s以上、104.3dPa・s以上、104.5dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.1dPa・s以上、105.3dPa・s以上、特に105.5dPa・s以上であることが好ましい。このようにすれば、耐失透性が向上し、ダウンドロー法、特にオーバーフローダウンドロー法で成形し易くなるため、所望の形状のガラスを作製し易くなる。
【0025】
本発明の紫外線透過ガラスのヤング率は、40GPa以上、特に45GPa以上であることが好ましい。ヤング率が低過ぎると、デバイスの製造工程における搬送ラインでガラスが剛性を維持し難くなり、ガラスの変形、反り、破損が発生し易くなる。
【0026】
本発明の紫外線透過ガラスは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 55~75%、Al2O3 1~10%、B2O3 10~30%、CaO 0~5%、 BaO 0~5%、Li2O+Na2O+K2O 1~15%、TiO2 0~0.001%、Fe2O3 0~0.001%、F 0.5~7%を含有することが好ましい。
【0027】
上記のように各成分の含有量を限定した理由を以下に示す。なお、各成分の含有量の説明において、%表示は、特に断りがある場合を除き、質量%を表す。
【0028】
SiO2は、ガラスの骨格を形成する主成分である。SiO2の含有量は、55~75%、58~70%、特に65~69%であることが好ましい。SiO2の含有量が少な過ぎると、ヤング率、耐酸性が低下し易くなる。一方、SiO2の含有量が多過ぎると、高温粘度が高くなり、溶融性が低下し易くなることに加えて、クリストバライト等の失透結晶が析出し易くなって、液相温度が上昇し易くなる。
【0029】
Al2O3は、ヤング率を高める成分であると共に、分相、失透を抑制する成分である。Al2O3の含有量は、1~10%、2~9%、特に3~8%であることが好ましい。Al2O3の含有量が少な過ぎると、ヤング率が低下し易くなり、またガラスが分相、失透し易くなる。一方、Al2O3の含有量が多過ぎると、高温粘度が高くなり、溶融性が低下し易くなる。
【0030】
B2O3は、溶融性、耐失透性を高める成分であり、また傷の付き易さを改善して、強度を高める成分である。B2O3の含有量は、10~30%、13~28%、特に15~25%であることが好ましい。B2O3の含有量が少な過ぎると、溶融性、耐失透性が低下し易くなり、またフッ酸系の薬液に対する耐性が低下し易くなる。一方、B2O3の含有量が多過ぎると、ヤング率、耐酸性が低下し易くなる。
【0031】
CaOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。またアルカリ土類金属酸化物の中では、導入原料が比較的安価であるため、原料コストを低廉化する成分である。CaOの含有量は、0~5%、0.01~1%、特に0.1~0.8%であることが好ましい。CaOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなる。
【0032】
BaOは、耐失透性を高める成分である。BaOの含有量は、0~5%、0.1~3%、特に0.5~1.5%であることが好ましい。BaOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなる。
【0033】
Li2O、Na2O及びK2Oは、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高めると共に、ガラス原料の初期の溶融に寄与するアルカリ金属酸化物成分である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量は、1~15%、2~10%、特に3~6%であることが好ましい。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下し易くなる。一方、Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に高くなる虞がある。
【0034】
Li2Oは、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高めると共に、ガラス原料の初期の溶融に寄与する成分である。Li2Oの含有量は、0~5%、0~3%、特に0.1~1.2%であることが好ましい。Li2Oの含有量が多過ぎると、ガラスが分相し易くなる。
【0035】
Na2Oは、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高めると共に、ガラス原料の初期の溶融に寄与する成分である。また熱膨張係数を調整するための成分である。Na2Oの含有量は、0~10%、0~8%、1~5%、特に1~3%であることが好ましい。Na2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に高くなる虞がある。
【0036】
K2Oは、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高めると共に、ガラス原料の初期の溶融に寄与する成分である。また熱膨張係数を調整するための成分である。K2Oの含有量は、0~10%、0.1~5%、特に0.5~3%であることが好ましい。K2Oの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が不当に高くなる虞がある。
【0037】
TiO2は、深紫外域での透過率を低下させる成分である。TiO2の含有量は、0.001%以下、0.0008%以下、特に0.0001~0.0006%であることが好ましい。TiO2の含有量が多過ぎると、ガラスが着色して、深紫外域での透過率が低下し易くなる。
【0038】
Fe2O3は、深紫外域での透過率を低下させる成分である。Fe2O3の含有量は、0.001%以下、0.0001~0.0009%、特に0.00001~0.0008%であることが好ましい。Fe2O3の含有量が多過ぎると、ガラスが着色して、深紫外域での透過率が低下し易くなる。
【0039】
酸化鉄中のFeイオンは、Fe2+又はFe3+の状態で存在する。Fe2+の割合が少な過ぎると、深紫外線での透過率が低下し易くなる。よって、本発明の紫外線透過ガラスに含まれる酸化鉄中のFe2+/(Fe2++Fe3+)の質量割合は、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、特に0.5以上であることが好ましい。
【0040】
Fは、ガラスに含まれるFe3+を還元し、深紫外域の透過率を向上させる成分である。また、粘性を下げて溶融性を高める成分である。Fの含有量は、0.5~7%、0.6~5%、特に0.7~3%であることが好ましい。Fの含有量が少な過ぎると、上記効果を得難くなる。一方、Fの含有量が多過ぎると、逆にガラス化し難くなる。
【0041】
上記成分以外にも、以下の成分を導入してもよい。
【0042】
SrOは、耐失透性を高める成分である。SrOの含有量は、0~7%、0~5%、0~3%、特に0~1%であることが好ましい。SrOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなる。
【0043】
ZrO2は、耐酸性を高める成分であるが、ガラス組成中に多量に含有させると、ガラスが失透し易くなる。よって、ZrO2の含有量は、0.1%以下、0.001~0.02%、特に0.0001~0.01%であることが好ましい。
【0044】
MoO3は、生産時に炉内からの不純物として含有する成分であるが、ガラス組成中に多量に含有すると、深紫外域の透過率を低下させる虞がある。よって、MoO3の含有量は0.05%以下、0.005~0.001%、特に0.0001~0.0005%であることが好ましい。
【0045】
本発明の紫外線透過ガラスの形状は任意に設定可能である。本発明の紫外線透過ガラスの形状は、例えば、平板状、曲板状、直管状、曲管状、棒状、球状、容器状、ブロック状とすることができる。
【0046】
炎センサ用途に好適に用いるためには、紫外線透過ガラスの厚みは、0.2~2mm、特に0.25~1.9mmであることが好ましく、直管状、曲管状等の管状であることが好ましい。なお、一般的に紫外線透過率はガラスの厚みが厚いほど低下するが、本発明の紫外線透過ガラスは250nm以下の波長領域において高い透過率を有するために、従来品に比べ厚みを増加させても同波長域において高い透過率を維持可能である。
【0047】
本発明の紫外線透過ガラスの表面の表面粗さRaは、10nm以下、9nm以下、8nm以下、7nm以下、6nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2nm以下、特に1nm以下であることが好ましい。表面の表面粗さRaが大き過ぎると、深紫外線での透過率が減少する傾向がある。
【0048】
本発明の紫外線透過ガラスは、例えば、各種ガラス原料を調合して、ガラスバッチを得た上で、このガラスバッチを溶融し、得られた溶融ガラスを清澄、均質化し、所定形状に成形することで作製することができる。
【0049】
本発明の紫外線透過ガラスの製造方法において、ガラス原料の一部として、還元剤を用いることが好ましい。このようにすれば、ガラス中に含まれるFe3+が還元されて、深紫外線での透過率が向上する。還元剤として、木粉、カーボン粉末、金属アルミニウム、金属シリコン、フッ化アルミニウム等の材料が使用可能であるが、その中でも金属シリコン、フッ化アルミニウムが好ましい。
【0050】
本発明の紫外線透過ガラスの製造方法において、ガラス原料の一部として、金属シリコンを用いることが好ましく、その添加量は、ガラスバッチの全質量に対して0.001~3質量%、0.005~2質量%、0.01~1質量%、特に0.05~0.75質量%であることが好ましい。金属シリコンの添加量が少な過ぎると、ガラス中に含まれるFe3+が還元されず、深紫外線での透過率が低下し易くなる。一方、金属シリコンの添加量が多過ぎると、ガラスが茶色に着色する傾向がある。
【0051】
また、ガラス原料の一部として、フッ化アルミニウム(AlF3)を用いることも好ましく、その添加量は、ガラスバッチの全質量に対して、F換算で0.01~2質量%、0.05~1.5質量%、特に0.3~1.5質量%であることが好ましい。フッ化アルミニウムの添加量が少な過ぎると、ガラス中に含まれるFe3+が還元されず、深紫外線での透過率が低下し易くなる。一方、フッ化アルミニウムの添加量が多過ぎると、Fガスがガラス中に泡として残存する虞がある。
【0052】
本発明の紫外線透過ガラスの製造方法において、紫外線透過ガラスを平板形状に成形する場合は、ダウンドロー法や、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法は、耐熱性の樋状構造物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下頂端で合流させながら、下方に延伸成形してガラス板を成形する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、薄型のガラス板を作製し易くなると共に、表面を研磨しなくても、板厚ばらつきを低減することができる。結果として、ガラス板の製造コストを低廉化することができる。なお、樋状構造物の構造や材質は、所望の寸法や表面精度を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行う際に、力を印加する方法も特に限定されない。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラスに接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラスの端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。
【0053】
本発明の紫外線透過ガラスの製造方法において、紫外線透過ガラスを管状に成形する場合は、ダウンドロー法や、ベロー法、ダンナー法等を用いて成形することが好ましい。ダンナー法は、傾斜配置された耐熱性のスリーブ状構造物の上方端側に溶融ガラスを流下して巻き付け、下方端側へ流下した溶融ガラスを延伸成形してガラス管を成形する方法である。
【0054】
成形方法として、上記以外にも、例えば、スロットダウン法、リドロー法、フロート法等を採用することもできる。
【0055】
紫外線透過ガラスの製造プロセスでは、ガラス表層部のFの含有量が減少し易くなる場合がある。その際は、ガラスを成形した後に、酸溶液中にガラスを浸漬してエッチングし、Fの含有量が減少した表層部を取り除くことにより、ガラス表面近傍のFの含有量を多くすることが可能である。なお、エッチング処理に用いる酸としては、3~50質量%の硝酸、弗酸、硫酸、塩酸、あるいは酸濃度が3~50質量%で少なくとも前述した酸の2種類からなる混酸などが使用可能である。浸漬時間は1分以上、3分以上、特に5分以上であることが好ましい。浸漬時間が短すぎると、エッチングが不十分となり、ガラス表面近傍のFの含有量が多くならない虞がある。浸漬時間の上限は特に限定されないが、現実的には20分以下である。酸の温度は20℃以上、25℃以上、特に30℃以上であることが好ましい。酸の温度が低すぎると、エッチングが不十分となり、ガラス表面近傍のFの含有量が多くならない虞がある。酸の温度の上限は特に限定されないが、現実的には95℃以下である。なお、物理研磨等により、Fの含有量が減少した表層部を取り除くことも可能である。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0057】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~5)及び比較例(試料No.6)を示している。
【0058】
【0059】
まず、表中のガラス組成となるように、表に示すガラス原料を調合したガラスバッチを白金坩堝に入れ、1600℃で6時間溶融した。
【0060】
得られた溶融ガラスについて、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、平板形状に成形した後、徐冷点より20℃程度高い温度から室温まで3℃/分の速度で徐冷した後、表に示す条件にてエッチングを行った。
【0061】
得られた各試料について透過率を測定した。透過率は、ダブルビーム型分光光度計(島津製作所製UV―3100PC)を用いて、厚み方向の分光透過率を測定した値である。測定試料としては、表1に記載の厚みで両面を光学研磨面(鏡面)に研磨したものを使用した。なお、AFMにより、これらの測定試料の表面の表面粗さRaを測定したところ、測定領域10μm×10μmで0.5~1.0nmであった。
【0062】
また、得られた各試料について、ガラス表面から15μm深さのFの含有量x(質量%)、ガラス表面から1μm深さのFの含有量y(質量%)は、試料の断面を電子線マイクロアナライザ(島津製作所製EPMA-1720H)を用いてライン分析を行うことにより測定した。
【0063】
表から分かるように、y/xが0.81以上である試料No.1~5は、波長200~250nmの紫外光の透過率が高かった。一方、y/xが0.71と小さい試料No.6は、波長200~250nmの紫外光の透過率が低かった。また、y/xが大きい程、波長200~250nmの紫外光の透過率が高くなることが分かった。
【0064】
なお、上記実施例では、溶融ガラスを流し出して平板形状に成形したが、工業的規模で生産する場合には、オーバーフローダウンドロー法等で平板形状に成形し、両表面が未研磨の状態で使用に供することが好ましい。また、管状に形成する場合は、ダウンドロー法やダンナー法等で管状に成形することが好ましい。