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特開2023-168205エアロゾル感染リスクの評価方法、エアロゾル感染リスクの評価プログラム、エアロゾル感染リスクの評価装置、空気清浄システム、粉塵被害リスクの評価方法、粉塵被害リスクの評価プログラム及び粉塵被害リスクの評価装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168205
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】エアロゾル感染リスクの評価方法、エアロゾル感染リスクの評価プログラム、エアロゾル感染リスクの評価装置、空気清浄システム、粉塵被害リスクの評価方法、粉塵被害リスクの評価プログラム及び粉塵被害リスクの評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 9/00 20060101AFI20231116BHJP
   F24F 7/007 20060101ALI20231116BHJP
   F24F 11/49 20180101ALI20231116BHJP
   F24F 8/80 20210101ALI20231116BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20231116BHJP
   G01N 15/06 20060101ALI20231116BHJP
【FI】
G01M9/00
F24F7/007 Z
F24F11/49
F24F8/80 300
F24F8/80 400
F24F11/74
G01N15/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176795
(22)【出願日】2022-11-02
(62)【分割の表示】P 2022077949の分割
【原出願日】2022-05-11
(71)【出願人】
【識別番号】521504810
【氏名又は名称】水野 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100177231
【弁理士】
【氏名又は名称】鴨志田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】水野 哲也
【テーマコード(参考)】
2G023
3L260
【Fターム(参考)】
2G023AB21
2G023AC03
3L260AB15
3L260AB18
3L260BA09
3L260BA13
3L260CA35
3L260CB67
3L260EA07
3L260FC02
3L260FC04
3L260GA17
(57)【要約】
【課題】本発明は、定められた体積を有する空間内でのエアロゾル感染リスクがあるかを容易に評価する方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明のエアロゾル感染リスクの評価方法は、定められた体積を有する空間に複数個の微粒子を放出する放出工程S10と、放出工程S10の後に、前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、放出工程S10の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定工程S20と、前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等未満の場合、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価する評価工程S30、S34と、を含む。
【選択図】図31

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定められた体積を有する空間に複数個の微粒子を放出する放出工程と、
前記放出工程の後に、前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記放出工程の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定工程と、
前記低減能力が前記空間に要求される基準低減能力と同等未満の場合、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価する評価工程と、
を含むエアロゾル感染リスクの評価方法。
【請求項2】
前記評価工程において、前記低減能力が前記基準低減能力と同等以上の場合、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する、
請求項1に記載のエアロゾル感染リスクの評価方法。
【請求項3】
前記基準低減能力は、前記空間の体積に要求される必要換気能力又は前記空間を利用する少なくとも1人以上のユーザーの利用態様に基づいて前記必要換気能力を修正した修正必要換気能力である、
請求項1又は2に記載のエアロゾル感染リスクの評価方法。
【請求項4】
前記特定工程において特定される前記低減能力を含むレポートを作成する作成工程と、
を更に含む、請求項3に記載のエアロゾル感染リスクの評価方法。
【請求項5】
前記作成工程は、前記レポートに、前記関係の2次元スペクトルに関する情報を更に含んで作成する、
請求項4に記載のエアロゾル感染リスクの評価方法。
【請求項6】
前記作成工程は、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価するとき、前記レポートに、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価するために必要とされる前記低減能力の不足の能力に関する情報を更に含んで作成する、
請求項4に記載のエアロゾル感染リスクの評価方法。
【請求項7】
前記作成工程は、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価するとき、前記レポートに、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価するために必要とされる前記低減能力の余分の能力に関する情報を更に含んで作成する、
請求項4に記載のエアロゾル感染リスクの評価方法。
【請求項8】
コンピュータに、
定められた体積を有する空間に複数個の微粒子を放出する放出機能と、
前記複数個の微粒子の放出の終了後に、前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定機能と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等未満の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価し、前記低減能力が前記低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する評価機能と、
を実行させる、エアロゾル感染リスクの評価プログラム。
【請求項9】
定められた体積を有する空間内で前記空間に放出された複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定部と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等未満の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価し、前記低減能力が前記低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する評価部と、
請求項8に記載のエアロゾル感染リスクの評価プログラムに基づいて、前記特定部及び前記評価部を制御する制御部と、
を備える、エアロゾル感染リスクの評価装置。
【請求項10】
定められた体積を有する空間に配置され、前記空間に複数個の微粒子を放出する放出部と、
前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記放出部による前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定部と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する評価部と、
請求項7に記載のエアロゾル感染リスクの評価プログラムに基づいて、前記放出部、前記特定部及び前記評価部を制御する制御部と、
を備える、エアロゾル感染リスクの評価装置。
【請求項11】
前記評価部が評価した評価結果及び当該評価結果に付随する情報をレポートとして作成する作成部、
を更に備える、請求項9に記載のエアロゾル感染リスクの評価装置。
【請求項12】
請求項10に記載のエアロゾル感染リスクの評価装置と、
吸気口及び排気口が形成されている筐体、前記吸気口に空気を吸気させかつ前記排気口から空気を排気させる送風源、並びに、空気とともに前記吸気口から吸気された複数個の微粒子を捕らえる捕え部を有し、前記制御部に制御されて前記吸気口から吸気された空気を清浄して前記排気口から洗浄された空気を排気させる空気清浄装置と、
を備え、
前記送風源は、空気の送風量を調整可能であり、
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、前記制御部は前記送風源を制御して前記送風源に空気の送風量を多く送風させる、
空気清浄システム。
【請求項13】
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、その旨をユーザーに報知する報知部、
を更に備える、請求項12に記載の空気清浄システム。
【請求項14】
請求項10に記載のエアロゾル感染リスクの評価装置と、
吸気口及び排気口が形成されている筐体、前記吸気口に空気を吸気させかつ前記排気口から空気を排気させる送風源、並びに、空気とともに前記吸気口から吸気された複数個の微粒子を捕らえる捕え部を有し、前記制御部に制御されて前記吸気口から吸気された空気を清浄して前記排気口から洗浄された空気を排気させる空気清浄装置と、
を備え、
前記捕え部は、複数個の微粒子を捕らえる量を調整可能であり、
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、前記制御部は前記捕え部を制御して前記捕え部に複数個の微粒子を多く捕えさせる、
空気清浄システム。
【請求項15】
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、その旨をユーザーに報知する報知部、
を更に備える、請求項14に記載の空気清浄システム。
【請求項16】
前記空気清浄装置は、前記吸気口から吸気されて前記排気口から排気される空気を加湿及び温度調整の少なくとも一方又は両方が可能である、
請求項12に記載の空気清浄システム。
【請求項17】
前記空気清浄装置は、前記吸気口から吸気されて前記排気口から排気される空気を加湿及び温度調整の少なくとも一方又は両方が可能である、
請求項14に記載の空気清浄システム。
【請求項18】
請求項10に記載のエアロゾル感染リスクの評価装置と、
前記空間内の空気を外部に排気する排気部と、
を備え、
前記排気部は、空気の排気量を調整可能であり、
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、前記制御部は前記排気部を制御して前記排気部に空気の排気量を多く排気させる、
空気清浄システム。
【請求項19】
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、その旨をユーザーに報知する報知部、
を更に備える、請求項18に記載の空気清浄システム。
【請求項20】
定められた体積を有する空間に複数個の微粒子を放出する放出工程と、
前記放出工程の後に、前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記放出工程の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定工程と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等未満の場合、前記空間内での粉塵被害リスクがあると評価する評価工程と、
を含む、粉塵被害リスクの評価方法。
【請求項21】
コンピュータに、
定められた体積を有する空間に複数個の微粒子を放出する放出機能と、
前記複数個の微粒子の放出の終了後に、前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定機能と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内での粉塵被害リスクがないと評価する評価機能と、
を実行させる、粉塵被害リスクの評価プログラム。
【請求項22】
定められた体積を有する空間内で前記空間に放出された複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定部と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内での粉塵被害リスクがないと評価する評価部と、
請求項21に記載の粉塵被害リスクの評価プログラムに基づいて、前記特定部及び前記評価部を制御する制御部と、
を備える、粉塵被害リスクの評価装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアロゾル感染リスクの評価方法、エアロゾル感染リスクの評価プログラム、エアロゾル感染リスクの評価装置、空気清浄システム、粉塵被害リスクの評価方法、粉塵被害リスクの評価プログラム及び粉塵被害リスクの評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界各地で猛威を奮っている。新型コロナウイルス感染症の主たる感染原因の1つに空気感染がある。そのため、いわゆる三密(密閉・密集・密接)を避けることで、空気感染、クラスター発生等のリスクを低減することができる。すなわち、三密を避けることは、新型コロナウイルス感染症の感染防止対策として有効であると考えられている。
【0003】
政府、関係省庁、地方自治体等は、三密を避けるという観点から、飲食店、商業施設、娯楽施設等の人間が集まる施設に出入りしないことを推奨している。特に、飲食店は狭い空間で、長時間に亘り、マスクを外した状態で飲食や会話が行われる可能性が高く、空気感染のリスクが高い。そのため、飲食店は営業時間の短縮や休業を迫られ、来店者数も激減し、厳しい経営を迫られている。しかし、飲食店が十分な三密対策を行い、安心安全に飲食店を利用可能であることを客観的に証明することができれば、このような状況(営業時間の短縮や休業)を改善するための一つの方法となり得る。
【0004】
三密対策の1つとしては、店舗内の換気を十分に行い、店舗内からウイルスを除去することが挙げられる。ここで、従来、特定の店舗における店舗内からウイルスを除去する能力については、店舗の換気能力を目安として判断されていた。
【0005】
店舗等の密閉空間の換気能力を測定する方法としては、例えば、以下の4つの方法が知られている。
(1)測定対象となる空間に通ずる換気システムの排気口に風力計等を設置し、その排気口における風量を測定し、当該空間の換気量を算出する方法
(2)測定対象となる空間を換気状態とし、人間が排出するCOガスの濃度をセンサー等で検出し、当該空間の換気量を算出する方法
(3)測定対象となる空間にトレーサーガスを充満させた後、当該空間の換気を行い、当該空間に設置した吸着材にトレーサーガスを吸着させ、吸着されたトレーサーガスの数量を定量分析し、そのトレーサーガスの数量から当該空間の換気量を算出する方法(特許文献1及び2参照)
(4)測定対象となる空間にミスト粒子を充満させた後、当該空間の換気を行い、当該空間に設置した撮影手段により撮影した画像データから当該空間の換気量を算出する方法(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-42491
【特許文献2】特開2007-10363
【特許文献3】特開2006-250779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、換気は、店舗内のウイルスで汚染された空気を店舗外に排出し、新しい空気を取り込むという方法であり、感染リスクを低減する方法の1つにすぎない。例えば、サーキュレータやエアコンにより店舗内の空気を循環させる、空気清浄機を使用する等の方法によってもウイルスの濃度を低減し、店舗における感染リスクを抑制することができる。しかし、これらの方法では、空気循環や空気清浄機の効果を適切に評価することができない。
【0008】
具体的には、(1)風力計やファンネルを用いる方法には、店舗の換気システム自体の能力を評価するには適しているものの、以下の課題があった。
(1A)窓開けによる換気能力やサーキュレータ、エアコン、空気清浄機等による浄化能力については評価することができないこと
(1B)個々の排気口に風力計やファンネルを設置する手間が煩瑣であること
(1C)換気システムの能力を評価しても、いわゆる「ショートサーキット」による換気効率の低下を評価することができないこと
ここで、「ショートサーキット」とは、給気口と排気口の位置が近接していることにより、吸気したフレッシュな空気が室内に行き渡らないまま排気されたり、逆に排気したはずの汚染された空気が給気口から再度取り込まれたりすることで、換気効率が低下する現象のことである。「ショートサーキット」が形成されると、風力計やファンネルで評価した値ほどの換気効率は得られておらず、ウイルス濃度が想定より低減しないことになる。
【0009】
また、例えば、(2)COガスの濃度をセンサー等で検出する方法及びトレーサーガスを用いる方法には、以下の課題があった。
(2A)気体であるCOガスやトレーサーガスの拡散挙動がエアロゾル状のウイルスの拡散挙動とは異なり、エアロゾル感染のリスクを評価するのには適していないこと
(2B)空気清浄機等の吸着・集塵による浄化能力については評価することができないこと
(2C)特に、COガスの濃度を検出する方法は、客席でカセットコンロを使用する等、人間の呼吸以外のCOガスが発生する環境では正確な測定ができないこと
(2D)人間が排出するCOガスの濃度を実測するため、顧客が不在の閉店状態では感染リスクを評価することができず、また、本来の収容人数より少ない顧客が利用している状態ではその空間の感染リスクを低く評価してしまう虞があること
【0010】
また、例えば、(3)ミスト粒子を撮影する方法には、以下の課題があった。
(3A)相当量のミスト粒子を発生させなければミスト粒子を画像として撮影することができず、簡便な方法とはいえないこと
(3B)例えば居酒屋等の間仕切りのある空間では間仕切りによって視野が遮られてしまい、ミスト粒子を撮影することができないこと
(3C)ミスト粒子を使用すると、火災報知器(例えば、光電式スポット型感知器等)が反応する虞があり、警報音が鳴る、防火シャッターや防火扉が閉まる等の誤動作の原因となること
【0011】
以上のとおり、従来技術のような店舗の換気能力を目安に感染リスクを評価する方法では、店舗における感染リスクについて客観的に評価することができなかった。
【0012】
本発明は、定められた体積を有する空間内でのエアロゾル感染リスクがあるかを容易に評価する方法の提供を目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、
定められた体積を有する空間に複数個の微粒子を放出する放出工程と、
前記放出工程の後に、前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記放出工程の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定工程と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等未満の場合、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価する評価工程と、
を含む。
【0014】
第2態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、
第1態様のエアロゾル感染リスクの評価方法において、
前記評価工程において、前記低減基準能力と同等以上の場合、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する。
【0015】
第3態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、
第1態様又は第2態様のエアロゾル感染リスクの評価方法において、
前記基準低減能力は、前記空間の体積に要求される必要換気能力又は前記空間を利用する少なくとも1人以上のユーザーの利用態様に基づいて前記必要換気能力を修正した修正必要換気能力である。
【0016】
第4態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、
第3態様のエアロゾル感染リスクの評価方法において、
前記特定工程において特定される前記低減能力を含むレポートを作成する作成工程と、
を更に含む。
【0017】
第5態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、
第4態様のエアロゾル感染リスクの評価方法において、
前記作成工程は、前記レポートに、前記関係の2次元スペクトルに関する情報を更に含んで作成する。
【0018】
第6態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、
第4態様のエアロゾル感染リスクの評価方法において、
前記作成工程は、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価するとき、前記レポートに、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価するために必要とされる前記低減能力の不足の能力に関する情報を更に含んで作成する。
【0019】
第7態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、
第4態様のエアロゾル感染リスクの評価方法において、
前記作成工程は、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価するとき、前記レポートに、前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価するために必要とされる前記低減能力の余分の能力に関する情報を更に含んで作成する。
【0020】
一態様のエアロゾル感染リスクの評価プログラムは、
コンピュータに、
定められた体積を有する空間に複数個の微粒子を放出する放出機能と、
前記複数個の微粒子の放出の終了後に、前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定機能と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等未満の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価し、前記低減能力が前記低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する評価機能と、
を実行させる。
【0021】
第1態様のエアロゾル感染リスクの評価装置は、
定められた体積を有する空間内で前記空間に放出された複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定部と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等未満の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価し、前記低減能力が前記低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する評価部と、
前記一態様のエアロゾル感染リスクの評価プログラムに基づいて、前記特定部及び前記評価部を制御する制御部と、
を備える。
【0022】
第2態様のエアロゾル感染リスクの評価装置は、
定められた体積を有する空間に配置され、前記空間に複数個の微粒子を放出する放出部と、
前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記放出部による前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定部と、
前記低減能力が前記空間に低減基準能力と同等未満の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価し、前記低減能力が前記低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する評価部と、
前記一態様のエアロゾル感染リスクの評価プログラムに基づいて、前記放出部、前記特定部及び前記評価部を制御する制御部と、
を備える。
【0023】
第3態様のエアロゾル感染リスクの評価装置は、
第1態様又は第2態様のエアロゾル感染リスクの評価装置において、
前記評価部が評価した評価結果及び当該評価結果に付随する情報をレポートとして作成する作成部、
を更に備える。
【0024】
第1態様の空気清浄システムは、
第2態様のエアロゾル感染リスクの評価装置と、
吸気口及び排気口が形成されている筐体、前記吸気口に空気を吸気させかつ前記排気口から空気を排気させる送風源、並びに、空気とともに前記吸気口から吸気された複数個の微粒子を捕らえる捕え部を有し、前記制御部に制御されて前記吸気口から吸気された空気を清浄して前記排気口から清浄された空気を排気させる空気清浄装置と、
を備え、
前記送風源は、空気の送風量を調整可能であり、
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、前記制御部又は前記空気清浄装置は前記送風源を制御して前記送風源に空気の送風量を多く送風させる。
【0025】
第2態様の空気清浄システムは、
第1態様の空気清浄システムにおいて、
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、その旨をユーザーに報知する報知部、
を更に備える。
【0026】
第3態様の空気清浄システムは、
第2態様のエアロゾル感染リスクの評価装置と、
吸気口及び排気口が形成されている筐体、前記吸気口に空気を吸気させかつ前記排気口から空気を排気させる送風源、並びに、空気とともに前記吸気口から吸気された複数個の微粒子を捕らえる捕え部を有し、前記制御部に制御されて前記吸気口から吸気された空気を清浄して前記排気口から清浄された空気を排気させる空気清浄装置と、
を備え、
前記捕え部は、複数個の微粒子を捕らえる量を調整可能であり、
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、前記制御部又は前記空気清浄装置は前記捕え部を制御して前記捕え部に複数個の微粒子を多く捕えさせる。
【0027】
第4態様の空気清浄システムは、
第3態様の空気清浄システムにおいて、
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、その旨をユーザーに報知する報知部、
を更に備える。
【0028】
第5態様の空気清浄システムは、
第1態様~第4態様のいずれか一態様の空気清浄システムにおいて、
前記空気清浄装置は、前記吸気口から吸気されて前記排気口から排気される空気を加湿及び温度調整の少なくとも一方又は両方が可能である。
【0029】
第6態様の空気清浄システムは、
第2態様のエアロゾル感染リスクの評価装置と、
前記空間内の空気を外部に排気する排気部と、
を備え、
前記排気部は、空気の排気量を調整可能であり、
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、前記制御部は前記排気部を制御して前記排気部に空気の排気量を多く排気させる。
【0030】
第7態様の空気清浄システムは、
第6態様の空気清浄システムにおいて、
前記評価部が前記空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価したとき、その旨をユーザーに報知する報知部、
を更に備える。
【0031】
一態様の粉塵被害リスクの評価方法は、
定められた体積を有する空間に複数個の微粒子を放出する放出工程と、
前記放出工程の後に、前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記放出工程の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定工程と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等未満の場合、前記空間内での粉塵被害リスクがあると評価する評価工程と、
を含む。
【0032】
一態様の粉塵被害リスクの評価プログラムは、
コンピュータに、
定められた体積を有する空間に複数個の微粒子を放出する放出機能と、
前記複数個の微粒子の放出の終了後に、前記空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定機能と、
前記低減能力が前記空間に要求される低減基準能力と同等未満の場合に前記空間内での粉塵被害リスクがあると評価し、前記低減能力が前記低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内での粉塵被害リスクがないと評価する評価機能と、
を実行させる。
【0033】
一態様の粉塵被害リスクの評価装置は、
定められた体積を有する空間内で前記空間に放出された複数個の微粒子の数量を複数回計測し、前記複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する特定部と、
前記低減能力が前記低減基準能力と同等未満の場合に前記空間内での粉塵被害リスクがあると評価し、前記低減能力が前記低減基準能力と同等以上の場合に前記空間内での粉塵被害リスクがないと評価する評価部と、
前記一態様の粉塵被害リスクの評価プログラムに基づいて、前記特定部及び前記評価部を制御する制御部と、
を備える。
【発明の効果】
【0034】
第1態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、定められた体積を有する空間内でのエアロゾル感染リスクがあるかを容易に評価することができる。
【0035】
第2態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、定められた体積を有する空間内でのエアロゾル感染リスクがあるか否かを容易に評価することができる。
【0036】
第3態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、作成されるレポートにより低減能力を知らせることができる。
【0037】
第4態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、作成されるレポートにより、複数個の微粒子の放出工程の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係を可視化させて知らせることができる。
【0038】
第5態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価する場合に、当該空間における低減能力の不足の能力を知らせることができる。
【0039】
第6態様のエアロゾル感染リスクの評価方法は、空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する場合に、当該空間における低減能力の余分の能力を知らせることができる。
【0040】
一態様のエアロゾル感染リスクの評価プログラムは、コンピュータに、定められた体積を有する空間内でのエアロゾル感染リスクがあるか否かを容易に評価させることができる。
【0041】
第1態様及び第2態様のエアロゾル感染リスクの評価装置は、定められた体積を有する空間内でのエアロゾル感染リスクがあるか否かを容易に評価することができる。
【0042】
第3態様のエアロゾル感染リスクの評価装置は、定められた体積を有する空間内でのエアロゾル感染リスクがあるか否かを含むレポートを作成することができる。
【0043】
第1態様、第3態様及び第6態様の空気清浄システムは、空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価した場合に、自動的にエアロゾル感染リスクを低減することができる。
【0044】
第2態様、第4態様及び第7態様の空気清浄システムは、空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価した場合に、その旨をユーザーに知らせることができる。
【0045】
第5態様の空気清浄システムは、エアロゾル感染リスクを低減させる空気清浄機能とともに、加湿機能及び温度調整機能の一方又は両方の機能を発揮することができる。
【0046】
一態様の粉塵被害リスクの評価方法は、定められた体積を有する空間内での粉塵被害リスクがあるかを容易に評価することができる。
【0047】
一態様の粉塵被害リスクの評価プログラムは、コンピュータに、定められた体積を有する空間内での粉塵被害リスクがあるか否かを容易に評価させることができる。
【0048】
一態様の粉塵被害リスクの評価装置は、定められた体積を有する空間内での粉塵被害リスクがあるか否かを容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】実施例1~27で使用した実験室の平面図である。
図2図1の実験室の側面図である。
図3】実施例1~6の評価実験の結果を示すグラフである。
図4】実施例7~12の評価実験の結果を示すグラフである。
図5】実施例13~22の評価実験の結果を示すグラフである。
図6】実施例23~25の評価実験の結果を示すグラフである。
図7】実施例26及び27の結果を示すグラフである。
図8】実施例28~32で使用したホールの平面図である。
図9図8のホールの別の平面図である。
図10】実施例28~32の評価実験の結果を示すグラフである。
図11】実施例33~34で使用した半個室の平面図である。
図12図11の半個室の壁の正面図である。
図13図11の半個室の別の壁の正面図である。
図14図11の半個室の更に別の壁の正面図である。
図15】実施例33~37の評価実験の結果を示すグラフである。
図16】実施例35~37で使用した半個室の平面図である。
図17図16に示す半個室の平面図である。
図18図16に示す半個室の壁の正面図である。
図19図11及び図16に示す半個室を含む店舗の平面図である。
図20】実施例の表1である。
図21】実施例の表2である。
図22】実施例の表3である。
図23】実施例の表4である。
図24】実施例の表5である。
図25】実施例の表6である。
図26】実施例の表7である。
図27】実施例の表8である。
図28】実施例の表9である。
図29】実施例の表10である。
図30】本実施形態の評価装置のブロック図である。
図31】本実施形態の評価装置を用いて行われる、エアロゾル感染リスクの評価方法のフローチャートである。
図32】変形例の評価装置を用いて行われる、HACCP型エアロゾル感染リスクの評価方法のフローチャートである。
図33】本実施形態の空気清浄システムのブロック図である。
図34】本実施形態の空気清浄装置の概略図である。
図35】本実施形態の空気清浄システムを用いて行われる、エアロゾル感染リスクの評価方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態という。)について、以下の記載順で説明する。
==================================
1.エアロゾル感染リスクの評価方法
2.エアロゾル感染リスクの低減方法
3.実施例
4.1~3の総括及び補足
5.エアロゾル感染リスクの評価装置及び評価プログラム
6.HACCP型エアロゾル感染リスクの評価装置及び評価プログラム
7.空気清浄システム
8.変形例
==================================

ここで、本明細書は、2回に分けて作成されている。具体的には、上記の1.~3.が第1期に作成され、4.~8.は第1期の後となる第2期に作成されている。第2期に作成された記載内容は、第1期に作成された内容をレビューしたうえで、具体的なハードウェアを追加したものである。
【0051】
≪1.エアロゾル感染リスクの評価方法≫
まず、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法(以下、本実施形態の評価方法という。)について、図面を参照しながら説明する。本実施形態の評価方法は、前述の課題を解決しようとした本願の発明者の鋭意検討により創作されたものである。
【0052】
<本実施形態の評価方法の概要>
本実施形態の評価方法は、以下の(1)~(3)を含む。
(1)複数個の微粒子を用いること
(2)前記複数個の微粒子の数量が十分減少するまでに要した時間である回復時間t1(特定経過時間の一例)に基づいて、集合スペース(定められた体積を有する空間の一例)の微粒子除去能力(又は「複数個の微粒子の低減能力」という。)を評価すること
(3)前記微粒子除去能力と、前記集合スペースの必要換気能力とを対比すること
【0053】
本実施形態の評価方法によれば、微粒子の挙動によりエアロゾル中の飛沫核の挙動を模擬することができ、施設の換気能力のみでは評価し難い、当該顧客スペースの実質的な飛沫核除去能力を簡易的に評価することができる。また、トレーサーガスを使用する方法と比較して、飛沫核を模した微粒子を目視することができ、実際の飛沫核の流動・拡散の状況を容易に把握することができる。
【0054】
<本実施形態の評価方法の詳細>
次に、本実施形態の評価方法について図面を参照しながら具体的に説明する。
【0055】
本実施形態の評価方法は、一例として施設屋内の集合スペースにおける感染症の感染リスクを評価するものである。
【0056】
〔定義等〕
以下、本明細書において使用する複数の用語の定義の一例について説明する。
【0057】
「感染リスク」とは、文字のとおり、感染症に感染するリスクを意味する。本実施形態では、病原体を含むエアロゾルに起因するエアロゾル感染のリスクを意味する。
【0058】
「感染症」とは、病原体が体内に侵入することで引き起こされる疾患を意味し、「病原体」とは、病原性の(感染症の原因となる)微生物を意味する。「病原体」の一例は、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫等である。
【0059】
「エアロゾル」とは、分散媒である空気に複数個の微粒子が分散されているゾルを意味する。また、「エアロゾル感染」とは、一例として病原体を含む粒子径10μm以下の飛沫核(マイクロ飛沫)を媒介とした感染を意味する。
【0060】
「エアロゾル感染」は「飛沫感染」とは異なる概念である。「飛沫感染」は感染者や保菌者が咳やくしゃみをすることによって病原体と水分とを含む飛沫粒子を放出した結果、その飛沫粒子を媒介として起こる感染である。飛沫粒子は粒子径が比較的大きく(粒子径10μm超)、かつ、重い粒子であるため、病原体は概ね1m~2m程度の範囲にしか飛散しないといわれている。
【0061】
これに対して、「エアロゾル感染」は飛沫粒子から水分が蒸発して生ずる飛沫核を媒介として起こる感染である。飛沫核は粒子径が比較的小さく、かつ、軽い粒子であるため、長時間に渡って空気中を漂い、飛沫粒子の場合に比べて広い範囲に拡散し、クラスターが発生する原因になるといわれている。
【0062】
本実施形態の評価方法は、感染リスクが、新型コロナウイルスを含むエアロゾルに起因するエアロゾル感染のリスクであり、集合スペースにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のエアロゾル感染リスクを評価する方法として好適に用いられる。
【0063】
本実施形態の評価方法は、一例として、(1)集合スペースへの複数個の液体微粒子の放出工程、(2)複数個の液体微粒子の数量の追跡工程、(3)集合スペースの微粒子除去能力の評価工程、及び、(4)集合スペースのエアロゾル感染リスクの評価工程を含む。以下、(1)~(4)の各工程についてこれらの記載順で説明する。
【0064】
〔(1)集合スペースへの複数個の液体微粒子の放出工程〕
本工程では、放出源(図示省略)を用いて集合スペースに複数個の液体微粒子を放出する。放出源から放出される複数個の液体微粒子の平均粒子径は、一例として10μm以下とすることが好ましい。エアロゾル感染を媒介する飛沫核(マイクロ飛沫)と同程度の平均粒子径を有する液体微粒子を用いることにより、飛沫核の挙動を把握するためである。なお、本明細書における「平均粒子径」とは、一例としてレーザ光散乱方式で測定された平均粒子径である。
【0065】
複数個の液体微粒子を構成する各液体微粒子の成分は特に限定されない。各液体微粒子の成分は、例えば、エチレングリコールと水とを含んでいてもよい。各液体微粒子の原液となる薬液には、例えば、商品名「FLG5 ヘビータイプ」(ANTARI社製)等がある。
【0066】
複数個の液体微粒子の放出源も特に限定されない。放出源は、例えば、複数個の液体微粒子の原液となる薬液をヒーターで加熱して当該薬液を気化させる機構を有するものであってもよい。放出源の一例としては、市販のスモークマシン(舞台演出用のスモークマシン等)がある。スモークマシンの種類も特に限定されない。例えば、商品名「Z800II フォグマシン」(ANTARI社製)等がある。
【0067】
放出源が複数個の液体微粒子を評価対象の空間に放出する際の放出量は、一例として、50mg/m以上放出することが好ましい。これにより、放出対象の空間内(集合スペース内)に通常存在する他の複数個の微粒子の数量の影響を低減させて、当該空間内に放出源から放出された複数個の液体微粒子の計測(後述する微粒子計測器による計測)時のS/N比を向上させることができる。
【0068】
〔(2)複数個の液体微粒子の数量の追跡工程〕
(1)集合スペースへの複数個の液体微粒子の放出工程の後、本工程では、集合スペース内に放出された複数個の液体微粒子の数量を経時的に計測する。ここで、複数個の液体微粒子の数量の計時的な計測手段は特に限定されない。計測手段は、例えば、重量法(フィルター秤量法)に基づき微粒子濃度を計測する濃度計、レーザ光散乱方式により算出した相対濃度から複数個の微粒子の数量を計測する微粒子計測器(パーティクルカウンター)等の測定機器である。
【0069】
微粒子計測器による計測方法は、濃度計による計測方法に比べて、平均粒子径の影響を受けずに複数個の液体微粒子の数量を計測することができる。そのため、微粒子計測器による計測方法は、濃度計による計測方法に比べて、空気中で変化する複数個の液体微粒子の数量の計時的な計測が正確である。微粒子計測器には、例えば、商品名「DT-9880」(CEM社製)等がある。
【0070】
複数個の液体微粒子の数量を計時的に計測する際には、一例として、平均粒子径が0.3μm以上10μm以下の液体微粒子の数量を計測することが好ましい。その理由は、エアロゾル感染を媒介する飛沫核(マイクロ飛沫)と同程度の平均粒子径を有する液体微粒子の挙動を追跡し、飛沫核の挙動を把握するためである。
【0071】
なお、複数個の液体微粒子の数量を計時的に計測する際には、計測対象の空間内(集合スペース内)に通常存在する他の複数個の微粒子の数量の影響を排除するべく、放出工程の前に集合スペース内に存在する複数個の微粒子の数量を計測し、その数量との差を複数個の液体微粒子の数量とすることが好ましい。
【0072】
〔(3)集合スペースの微粒子除去能力の評価工程〕
本工程では、(2)複数個の液体微粒子の数量の追跡工程の中で又は後に、複数個の液体微粒子の数量が十分に減少するまでに要した時間である回復時間t1に基づいて、集合スペースの微粒子除去能力を評価する。
【0073】
「微粒子除去能力」とは、評価対象となる集合スペースの空気中から複数個の液体微粒子を取り除く能力を意味する。「微粒子除去能力」は「換気能力」とは異なる概念である。「換気能力」は、例えば、集合スペースの壁に設けられた換気扇等の換気システムを通じて集合スペース内から外部へ複数の液体微粒子を排出する能力を意味する。
【0074】
これに対し、「微粒子除去能力」は、例えば、換気システムによる排出に基づく除去のほかに、窓等の集合スペースに設けられた開口部分からの排出二に基づく除去、空気清浄機、エアコンディショナー等による空気撹拌、複数個の液体微粒子の分解、吸着に基づく除去等の能力を含む。つまり、本明細書では、「評価対象の一例である集合スペースの微粒子除去能力」とは、集合スペースの構成に基づいて複数個の液体微粒子を除去する能力を意味する。なお、「微粒子除去能力」とは、後述する複数個の液体微粒子の低減能力と同じ意味である。そして、これらの能力は、回復時間t1が小さいほど大きく評価される。
【0075】
「十分に減少」とは、評価対象の集合スペースの空気中に放出された複数個の液体微粒子の数量が空気中から減少した結果、複数個の液体微粒子の数量が評価対象の集合スペースの空気中に存在する複数個の微粒子の数量、すなわち、放出工程の前の複数個の微粒子の数量と同程度の数量になることを意味する。
【0076】
「十分に減少するまでに要した時間」は、一例として、放出工程の後に集合スペースの空気中に存在する複数個の液体微粒子の数量の最大値として計測される数量が100分の1の数量に減少するまでの経過時間に相当する。
【0077】
回復時間t1の特定する場合に100分の1の数量にすることについては、空気中に放出されたウイルスの数量が最大値の100分の1以下まで希釈されれば感染の虞がなくなるとする論説がある(京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 ウイルス共進化分野 准教授 宮沢孝幸氏が提唱)。仮にウイルスが存在したとしても一定数量以上のウイルスが体内に取り込まれなければその人間には感染が起こらないとされている。
【0078】
仮に、回復時間t1の特定する場合に10分の1の数量にすると、複数個の液体微粒子の平均粒子径等によっては回復時間t1がばらつく虞がある。この理由から、微粒子除去能力を正確に特定するためには、放出工程の後に集合スペースの空気中に存在する複数個の液体微粒子の数量の最大値を基準にその100分の1の数量に減少するまでの経過時間により特定とすることが好ましい。
【0079】
〔(4)集合スペースのエアロゾル感染リスクの評価工程〕
本工程では、一例として、(3)集合スペースの微粒子除去能力の評価工程の中で又は後に行われる工程であって、微粒子除去能力と、集合スペースの必要換気能力とを対比し、微粒子除去能力が必要換気能力と同等以上である場合に、集合スペースのエアロゾル感染リスクが低い(又はエアロゾル感染リスクがない)と評価する。
ここで、本工程における評価の具体的な方法としては、一例として、以下のとおりである。
【0080】
〈(4A)第1の感染リスク評価方法〉
第1の感染リスク評価方法は、微粒子除去量Q1と、人必要換気量Q2とを対比し、微粒子除去量Q1が人必要換気量Q2と同等以上である場合に集合スペースのエアロゾル感染リスクが低い(又はエアロゾル感染リスクがない)と評価し、微粒子除去量Q1が人必要換気量Q2未満である場合に集合スペースのエアロゾル感染リスクが高い(又はエアロゾル感染リスクがある)と評価するものである。
【0081】
第1の感染リスク評価方法では、微粒子除去能力を下記の式(1)から算出する。微粒子除去量Q1は、評価対象となる集合スペースにおいて60[分]で除去される1[m]あたりの複数個の液体微粒子の数量である。回復時間t1は、集合スペース内に放出されて集合スペース内に充満したすべての液体微粒子を除去するまでに要する時間とみなすことができることから、微粒子除去量Q1は、集合スペースの容積Vと回復時間t1とから算出することができる。

式(1):微粒子除去量Q1[m/時]=集合スペースの容積V[m]×60[分]/回復時間t1[分]
【0082】
また、第1の感染リスク評価方法では、必要換気量を下記の式(2)で算出される人必要換気量Q2により規定する。人必要換気量Q2は、測定対象となる集合スペースがその収容定員数に応じて必要とされる換気量であり、顧客1人あたりの必要換気量と集合スペースの収容定員数nとから算出することができる。

式(2):人必要換気量Q2[m/時]=顧客1人あたりの必要換気量[m/時
/人]×集合スペースの収容定員数n[人]
【0083】
第1の感染リスク評価方法によれば、一例として、集合スペースの容積、その収容定員数等を考慮し、より正確に感染リスクを評価することができる。換気等によっては十分な微粒子除去量を確保できず、収容定員数nを減ずるという施策が行われる場合があるが、第1の感染リスク評価方法によれば、例えば収容定員数n等の影響も考慮した評価を行われる。
【0084】
顧客1人あたりの必要換気量としては、日本においてはその関係法令により定められた必要換気量の値の中から適宜採用することができる。例えば、20[m/時](建築基準法施行令第二十条の二に基づく値)、30[m/時](建築物における衛生的環境の確保に関する法律の環境衛生基準に基づいて、厚生労働省がコロナ対策の観点から必要と示している値)等を挙げることができる。これらの法令に基づく基準は環境衛生の専門家が感染症予防の観点から検討し、定めた値であり信用に足る値である。
【0085】
以下、参考までに、法令(建築基準法施行令第二十条の二)に基づく算出方法の例を示す。

有効換気量(本明細書における「必要換気量」に相当)は、次の式によって算出した数値以上とすること。
(式):V=20Af/N
この式において、V、Af及びNは、それぞれ次の数値を表すものとする。
V :有効換気量[個/時/m
Af:居室の床面積[m](特殊建築物の居室以外の居室が換気上有効な窓その他の開口部を有する場合においては、当該開口部の換気上有効な面積に20を乗じて得た面積を当該居室の床面積から減じた面積)
N :実況に応じた1人当たりの占有面積[m](特殊建築物の居室にあっては3を超えるときは3と、その他の居室にあっては10を超えるときは10とする。)
【0086】
〈(4B)第2の感染リスク評価方法〉
第2の感染リスク評価方法は、微粒子除去回数N1と必要換気回数N2とを対比し、微粒子除去回数N1が必要換気回数N2と同等以上である場合に集合スペースのエアロゾル感染リスクが低い(又はエアロゾル感染リスクがない)と評価し、微粒子除去回数N1が必要換気回数N2未満である場合に集合スペースのエアロゾル感染リスクが高い(又はエアロゾル感染リスクがある)と評価するものである。
【0087】
第2の感染リスク評価方法では、微粒子除去能力を下記の式(3)で算出される微粒子除去回数N1により評価する。微粒子除去回数N1は、評価対象となる集合スペースに放出されて充満したすべての液体微粒子を1時間あたりに何回除去することができるかを示したものである。回復時間t1は、集合スペース内に放出されて集合スペース内に充満したすべての液体微粒子を除去するまでに要する時間とみなすことができることから、微粒子除去回数N1は、回復時間t1から算出することができる。

式(3):微粒子除去回数N1[回/時]=60[分]/回復時間t1[分]
【0088】
また、第2の感染リスク評価方法では、必要換気量を衛生試験所指針に準拠して定められる集合スペースの必要換気回数N2により規定する。必要換気回数N2は、評価対象となる集合スペースの業種業態や利用目的に応じて定められる換気回数であり、集合スペースを満たす空気を1時間あたりに何回換気(入れ替え)すべきかを規定したものである。例えば、食堂やレストランの場合、必要換気回数は6[回/時]と規定されている。
【0089】
第2の感染リスク評価方法は、集合スペースの容積や収容定員数等が不明確であっても、業種業態や利用目的さえ分かれば簡易的に感染リスクを評価することができる点で有効である。ただし、衛生試験所指針は業種業態や利用目的に基づく平均的な在室密度を基準にしているため、より正確な評価を行いたい場合は第1の感染リスク評価方法で評価を行うことが好ましい。
【0090】
〈(4C)第3の感染リスク評価方法〉
第3の感染リスク評価方法は、回復時間t1と必要換気時間t2とを対比し、回復時間t1が必要換気時間t2と同等以上である場合に集合スペースのエアロゾル感染リスクが低い(又はエアロゾル感染リスクがない)と評価し、回復時間t1が必要換気時間t2未満である場合に集合スペースのエアロゾル感染リスクが高い(又はエアロゾル感染リスクがある)と評価するものである。
【0091】
第3の感染リスク評価方法では、微粒子除去能力を回復時間t1より特定する。また、第3の感染リスク評価方法では、必要換気量を下記の式(4)で算出される必要換気時間t2により特定する。必要換気時間t2は、評価対象となる集合スペースを満たす空気を除去するのに要する最大限の時間を規定したものである。必要換気時間t2は必要換気回数N2から換算することができる。

式(4):必要換気時間t2[分]=60[分]/必要換気回数N2[回/時]
【0092】
第3の感染リスク評価方法は、第2の感染リスク評価方法と同様に、集合スペースの容積や収容定員数等が不明確であっても、業種業態や利用目的さえ分かれば簡易的に感染リスクを評価することができる点で有効である。ただし、衛生試験所指針は業種業態や利用目的に基づく平均的な在室密度を基準にしているため、より正確な評価を行いたい場合は第1の感染リスク評価方法で評価を行うことが好ましい。
【0093】
〈(4D)第4の感染リスク評価方法〉
第4の感染リスク評価方法は、微粒子除去量Q1と、面積必要換気量Q3とを対比し、微粒子除去量Q1が面積必要換気量Q3と同等以上である場合に集合スペースのエアロゾル感染リスクが低い(又はエアロゾル感染リスクがない)と評価し、微粒子除去量Q1が面積必要換気量Q3未満である場合に集合スペースのエアロゾル感染リスクが高い(又はエアロゾル感染リスクがある)と評価するものである。
【0094】
第4の感染リスク評価方法では、微粒子除去能力を第1の感染リスク評価方法の式(1)から算出する。また、第4の感染リスク評価方法では、必要換気量を下記の式(5)から算出される面積必要換気量Q3により規定する。第1の感染リスク評価方法で使用した人必要換気量Q2が集合スペースの容積Vに基づいて定められる換気量であったのに対し、面積必要換気量Q3は集合スペースの床面積に基づいて定められる換気量である。

式(5):面積必要換気量Q3[m/時]=床面積あたりの必要換気量[m3//時]×集合スペースの床面積[m
【0095】
面積必要換気量Q3は、床面積あたりの必要換気量と集合スペースの床面積とから算出することができる。ここで、床面積必要換気量は、空調・衛生工学会規格(HASS 102 1972)に定められた値である。床面積必要換気量は、評価対象となる集合スペースの業種業態や利用目的に応じて定められる。例えば、食堂やレストランの場合、床面積必要換気量は「レストラン・喫茶(普通)」で30[m/m/時]、「レストラン・喫茶(高級)」で17.7[m/m/時]と規定されている。
【0096】
第4の感染リスク評価方法は、集合スペースの容積や収容定員数等が不明確であっても、業種業態や利用目的とスペースの床面積さえ分かれば簡易的に感染リスクを評価することができる点で有効である。床面積は、例えば、飲食業の営業許可書等に記載されており、事業主が把握している可能性も高い。ただし、衛生試験所指針は業種業態や利用目的に基づく平均的な在室密度を基準にしているため、より正確な評価を行いたい場合は第1の感染リスク評価方法で評価を行うことが好ましい。
【0097】
≪2.エアロゾル感染リスクの低減方法≫
本実施形態の感染リスクの低減方法は、集合スペースにおける感染症の感染リスクを低減するものである。具体的には、本実施形態の感染リスクの評価方法を行った結果、評価対象の集合スペースにエアロゾル感染リスクが高いと評価した場合に、集合スペースにエアロゾル感染リスクが低いとなるレベルまで(例えば、微粒子除去能力が必要換気能力と同等以上となるまで)下記のような改善措置を行うものである。
【0098】
改善措置の具体例としては、換気扇等の換気システムの能力向上のほかに、窓、扉又は通気口の開放による換気、エアコンディショナー、サーキュレータ又は空気清浄機の運転、遮蔽板又は隔壁の設置、収容定員の削減からなる群より選択された少なくとも1つの措置を施すものが挙げられる。これらの改善措置は、何らかの事情により換気システムの増強を行えない施設における感染リスクの低減に好適に用いることができる。
【0099】
ところで、日本においてこれまで実施されてきた新型コロナウイルス感染症の感染防止対策では、新型コロナウイルス感染症の感染者をPCR検査又は抗原検査で発見し、感染者の行動履歴から施設を特定し(積極的疫学調査)、クラスターが発生した施設に規模、構造等の特徴の点で類似する施設の利用を規制することで行われてきた。しかし、この類似する施設の利用を規制する科学的根拠は乏しく、効果の有無が不明確である。前述の感染防止対策は、日本の社会を混乱させ、日本の経済活動を過度に萎縮させてしまう要因にもなっている。
【0100】
これに対して、本実施形態の感染リスクの評価方法は、実際の感染の有無を問わず、特定のスペースの環境を評価し、当該スペースが感染防止対策をできているか否かを客観的に評価し、施設利用者の安心感を与えることができる点で有効である。また、本実施形態の感染リスクの低減方法は、本実施形態の感染リスクの評価方法の結果に基づいて行われるため、適切な感染リスクの低減を実施できる点で有効である。
【0101】
≪3.実施例≫
以下、本実施形態の感染リスクの評価方法及び感染リスクの低減方法の実施例について説明する。
【0102】
実施例1-27の評価は図1及び図2に示す実験室1にて行った。実験室1は飲食店を想定した。実験室1は、縦(図1上下方向)2.6m×横(図1左右方向)3.0m×高さ2.4mで、床面積が7.8m、容積Vが18.5mの部屋である。
【0103】
実験室1の収容定員数nは6人、顧客1人あたりの必要換気量は30[m/時]とした。これらの値と式(2)より、人必要換気量Q2[m/時]は180[m/時]と算出される。また、実験室1は想定衛生試験所指針において「食堂、レストラン、すし屋」に該当し、必要換気回数N2は6回である。この値と式(4)より、必要換気時間t2[分]は10[分]と算出される。
【0104】
さらに、実験室1は空調・衛生工学会規格(HASS 102 1972)において「レストラン・喫茶(高級)」に該当し、床面積あたり必要換気量は17.7[m/m/時]、床面積は7.8mである。これらの値と式(5)より、面積必要換気量Q3[m/時]は138[m/時]と算出される。
【0105】
前記条件における実験室1の人必要換気量Q2、必要換気回数N2、必要換気時間t2、面積必要換気量Q3は、図20の表1のとおりである。これらの値と測定値を対比し、微粒子除去量Q1≧人必要換気量Q2(又は面積必要換気量Q3)、微粒子除去回数N1≧必要換気回数N2、回復時間t1≧必要換気時間t2の関係を満たした場合には感染リスクが低い、満たさない場合には感染リスクが高いと評価する。
【0106】
感染リスクの評価は、図1及び図2に示す実験室1において、スモークマシン2から液体微粒子4を放出し、微粒子計測器6により液体微粒子4の数量の減少を追跡し、前記液体微粒子の数量が十分減少するまでに要した時間(回復時間)に基づいて微粒子除去能力を評価することにより行った。
【0107】
なお、図1及び図2中、符号8は換気扇、符号10はエアコン、符号12,14は窓、符号16はドア、符号18は設置台を示す。
【0108】
実施例において、スモークマシンとしては商品名「Z800II フォグマシン」(A NTARI社製)を、液体微粒子の原液となる薬液としては、商品名「FLG5 ヘビータイプ」(ANTARI社製)を、微粒子計測器としては、商品名「DT-9880」( CEM社製)を用いた。
【0109】
[液体微粒子の粒子径の影響]
(実施例1)
図1及び図2に示す実験室1において、スモークマシン2から液体微粒子4を300mg/m放出し、微粒子計測器6により粒子径0.3μmの液体微粒子4の数量の減少を追跡した。十分な換気量が確保された集合空間を模擬するため、換気扇8の換気量を10 00m/時に設定した。評価結果を図21の表2及び図3に示す。なお、図3に示すグラフは液体微粒子の数量の減少を追跡したグラフである。このグラフでは測定時の液体微粒子の粒子数を、液体微粒子を放出した後の最大粒子数に対する百分率で示し、プロットしてある(以後の図面に示すグラフも同様)。
【0110】
(実施例2-6)
検出する液体微粒子の粒子径を表2に記載の値に変更したことを除いては、実施例1と同様に液体微粒子の数量の減少を追跡した。その結果を図21の表2及び図3に示す。
【0111】
(実施例7-12)
換気が不十分な集合空間を模擬するため、図1及び図2に示す換気扇8の換気量を4 00m3/時に設定したことを除いては、実施例1-6と同様に液体微粒子の数量の減少を追跡した。その結果を図22の表3及び図4に示す。
【0112】
実施例1-6の換気量が十分な条件においては、いずれの粒子径の液体微粒子を追跡した場合でも感染リスクが低いと評価された。また、実施例7-12の換気量が不十分な条件においても、いずれの粒子径の液体微粒子を追跡した場合でも感染リスクが高いと評価された。すなわち、いずれの粒子径の液体微粒子を追跡した場合でも、同様の評価結果を得ることができた。
【0113】
ただし、実施例1-12のデータ見る限り、粒子径が大きくなると回復時間t1が短くなる傾向にある。これは液体微粒子の粒子径が大きくなると、液体微粒子が沈降し、空間から除去されることが原因と考えられる。このため、粒子径を小さくした方が正確な評価をすることができると言える。その点においては、粒子径0.3μm以上2.5μm以下の液体微粒子を追跡することが好ましいと言え、粒子径0.3μm以上0.5μm以下の液体微粒子を追跡することがより好ましいといえる。
【0114】
[液体微粒子の放出量の影響]
(実施例13)
図1及び図2に示す実験室1において、スモークマシン2から液体微粒子4を517g/m放出し、微粒子計測器6により粒子径0.3μmの液体微粒子4の数量の減少を追跡した。なお、換気扇8の換気量は600m/時に設定した。評価結果を図23の表4及び図5に示す。
【0115】
(実施例14-22)
液体微粒子の放出量を表4に記載の値に変更したことを除いては、実施例13と同様に液体微粒子の数量の減少を追跡した。その結果を図23の表4及び図5に示す。
【0116】
実施例13-19においては液体微粒子の放出量に拘らず、感染リスクが高いと評価された。すなわち、液体微粒子の放出量が50-517mg/mの範囲においては同様の評価結果を得ることができた。
【0117】
ただし、実施例20-22においては、感染リスクが低いと評価され、実施例13-19とは異なる傾向を示した。これは液体微粒子の放出量が少なくなると、自然環境中に存在する微粒子数の影響を受けやすくなり、測定条件によっては正確な評価をすることができなくなる可能性を示していると言える。すなわち、自然環境中に存在する微粒子数の影響を無視することができる程度に十分な数量、具体的には50mg/m以上の液体微粒子を放出することが好ましいと言える。
【0118】
[空気清浄機及び扇風機による感染リスクの改善効果]
(実施例23)
図1及び図2に示す実験室1において、スモークマシン2から液体微粒子4を300g/m放出し、空気清浄機と扇風機を運転させた状態で、微粒子計測器6により粒子径0.3μmの液体微粒子4の数量の減少を追跡した。
【0119】
なお、換気扇8の換気量は400m/時に設定した。空気清浄機としては、加湿空気清浄機(商品名:KC-G40-W、シャープ製)を用い、1時間あたり240mの空気を清浄化する条件で運転した。扇風機としては、リビング扇風機(商品名:AMT-KC30、山善製)を用い、風量最大で運転した。評価結果を表5及び図6に示す。
【0120】
(実施例24,25)
空気清浄機及び扇風機の運転状況を図24の表5に記載のとおりに変更したことを除いては、実施例23と同様に液体微粒子の数量の減少を追跡した。その結果を図24の表5及び図6に示す。
【0121】
空気清浄機、扇風機とも停止させた実施例25、空気清浄機のみを運転させた実施例24、空気清浄機、扇風機とも運転させた実施例23の順に回復時間t1は短くなっている。すなわち、空気清浄機や扇風機を運転することによる感染リスクの改善効果が認められた。ただし、実施例24、実施例23についても「感染リスクが低い」という評価にまでは至っておらず、追加の改善措置が必要と認められた。
【0122】
[エアコンによる感染リスクの改善効果]
(実施例26)
図1及び図2に示す実験室1において、スモークマシン2から液体微粒子4を300g/m放出し、エアコンを運転させた状態で、微粒子計測器6により粒子径0.3μmの液体微粒子4の数量の減少を追跡した。
【0123】
なお、換気扇8の換気量は400m/時に設定した。エアコンとしては、商品名:CSH-B2220R、コロナ製を用い、冷房・風量最大で運転した。評価結果を図25の表6及び図7に示す。
【0124】
(実施例27)
エアコンを停止したことを除いては、実施例26と同様に液体微粒子の数量の減少を追跡した。その結果を図25の表6及び図7に示す。
【0125】
エアコンを停止させた実施例27と比較して、エアコンを運転した実施例26は回復時間t1が短くなった。すなわち、エアコンを運転することによる感染リスクの改善効果が認められた。ただし、実施例26についても「感染リスクが低い」という評価にまでは至っておらず、追加の改善措置が必要と認められた。
【0126】
[実店舗における感染リスクの改善事例1]
実施例28-32の評価は図8及び図9に示す居酒屋のホール101にて行った。ホール101は、縦(図8上下方向)4.9m×横(図8左右方向)4.85m×高さ2.69mで、床面積が23.8m、容積Vが63.9mの部屋である。
【0127】
ホール101の収容定員数nは14人、顧客一人あたりの必要換気量は30[m/時]とした。これらの値と式(2)より、人必要換気量Q2[m/時]は420[m/時]と算出される。また、ホール101は想定衛生試験所指針において「食堂、レストラン、すし屋」に該当し、必要換気回数N2は6回である。この値と式(4)より、必要換気時間t2[分]は10[分]と算出される。
【0128】
さらに、ホール101は空調・衛生工学会規格(HASS 102 1972)において「レストラン・喫茶(高級)」に該当し、床面積あたり必要換気量は17.7[m/m/時]、床面積は23.8mである。これらの値と式(5)より、面積必要換気量Q3[m/時]は420[m/時]と算出される。
【0129】
前記条件における実験室1の人必要換気量Q2、必要換気回数N2、必要換気時間t2、面積必要換気量Q3を図26の表7に示した。これらの値と測定値を対比し、微粒子除去量Q1≧人必要換気量Q2(または面積必要換気量Q3)、微粒子除去回数N1≧必要換気回数N2、回復時間t1≦必要換気時間t2の関係を満たした場合には感染リスクが低い、満たさない場合には感染リスクが高いと評価する。
【0130】
(実施例28)
図8及び図9に示すホール101において、スモークマシンから液体微粒子を300g/m3放出し、空気清浄機110(2台)、エアコン114(2基)及び全熱交換器112を運転させた状態で、微粒子計測器106により粒子径0.3μmの液体微粒子の数量の減少を追跡した。
【0131】
なお、換気扇108(2基)の換気量はいずれも170m/時に、換気扇109の換気量は78m/時に設定した。空気清浄機110としては、加湿ストリーマ空気清浄機(商品名:ACK55X、ダイキン工業製)を用い、1時間あたり330mの空気を清浄化する条件で運転した。エアコン114としては、据え付けの業務用エアコン(機種不明)を用い、冷房・風量最大で運転した。全熱交換器112としては、全熱交換器ユニット(商品名:VAH500GB、ダイキン工業製)を用い、換気量は500m3/時に設定した。評価結果を図27の表8及び図10に示す。
【0132】
(実施例29-32)
空気清浄機、エアコン及び全熱交換器の運転状況を図27の表8に記載のとおりに変更したことを除いては、実施例28と同様に液体微粒子の数量の減少を追跡した。その結果を図27の表8及び図10に示す。
【0133】
空気清浄機、エアコン及び全熱交換器を全て停止させた実施例32、エアコンのみを運転させた実施例31、エアコン及び全熱交換器を運転させた実施例30、空気清浄機1台、エアコン及び全熱交換器を運転させた実施例29、空気清浄機2台、エアコン及び全熱交換器を運転させた実施例28の順に回復時間t1は短くなっている。すなわち、空気清浄機、エアコンまたは全熱交換器を運転することによる感染リスクの改善効果が認められた。また、実施例28については、これらの改善措置により図27図8及び図9に示すホール101を「感染リスクが低い」という評価にまで改善することができ、特に良好な改善効果を得られた。
【0134】
[実店舗における感染リスクの改善事例2]
実施例33-34の評価は図11に示す居酒屋の半個室201にて行った。半個室201は、縦(図11上下方向)2.3m×横(図11左右方向)3m×高さ2.7mで、床面積が6.9m2、容積Vが18.6mの部屋である。半個室201にはエアコン、換気扇は設置されていない。また、図13に示すように、半個室201を仕切る四方の壁のうち一方の壁222には外部と連通する窓224が2つ形成されており、図12及び図14に示すように、残り三方の壁220,226,228の上部には欄間220A,226A、228Aが形成されている。さらに、図12に示すように、引き戸216の上下部には桟216Aが組み込まれ、複数の隙間が形成されている。前記壁の欄間部分と前記ドアの桟部分は半個室外と連通しており、通気(換気)が可能な構造となっている。
【0135】
図19に、図11に示す居酒屋の半個室201及び後述する図16に示す半個室301を含む店舗の空調機器を示す。換気扇408、空気清浄機410、全熱交換器412、エアコン414、引き戸416、窓424は半個室201及び半個室301の外部に設置されている。表8及び表10において、窓の「開放」は窓224のみならず、窓424も開放した状態を、窓の「閉鎖」は窓224及び窓424の閉鎖を指す。また、エアコンの「運転」はエアコン314のみならず、エアコン414も運転した状態を、エアコンの「停止」はエアコン314及びエアコン414の停止を指す。さらに、空気清浄機の「運転」「停止」は空気清浄機410の運転・停止を、全熱交換器の「運転」「停止」は全熱交換器412の運転・停止を指す。
【0136】
半個室201の収容定員数nは8人、顧客一人あたりの必要換気量は30[m/時]とした。これらの値と式(2)より、人必要換気量Q2[m/時]は240[m/時]と算出される。また、半個室201は想定衛生試験所指針において「食堂、レストラン、すし屋」に該当し、必要換気回数N2は6回である。この値と式(4)より、必要換気時間t2[分]は10[分]と算出される。
【0137】
さらに、半個室201は空調・衛生工学会規格(HASS 102 1972)において「レストラン・喫茶(普通)」に該当し、床面積あたり必要換気量は30[m/m/時]、床面積は6.9mである。これらの値と式(5)より、面積必要換気量Q3[m/時]は207[m/時]と算出される。
【0138】
前記条件における半個室201の人必要換気量Q2、必要換気回数N2、必要換気時間t2、面積必要換気量Q3を図28の表9に示した。これらの値と測定値を対比し、微粒子除去量Q1≧人必要換気量Q2(又は面積必要換気量Q3)、微粒子除去回数N1≧必要換気回数N2、回復時間t1≦必要換気時間t2の関係を満たした場合には感染リスクが低い、満たさない場合には感染リスクが高いと評価する。
【0139】
(実施例33)
図11及び図19に示す半個室201において、スモークマシンから液体微粒子を300g/m放出し、窓224、424は閉鎖、換気扇408、空気清浄機410及び全熱交換器412を運転させた状態で、微粒子計測器206により粒子径0.3μmの液体微粒子の数量の減少を追跡した。
【0140】
なお、空気清浄機410及び全熱交換器412については実施例28で使用したのと同じ機種のものを用い、実施例28と同じ運転条件で運転した。評価結果を表10及び図15に示す。
【0141】
(実施例34)
窓224、424の開閉状況、空気清浄機410及び全熱交換器412の運転状況を図29の表10に記載のとおりに変更したことを除いては、実施例33と同様に液体微粒子の数量の減少を追跡した。その結果を図29の表10及び図15に示す。
【0142】
窓224、424を閉鎖し、空気清浄機410及び全熱交換器412を運転させた実施例33より、窓224,424を開放し、空気清浄機410及び全熱交換器412を運転させた実施例34の方が回復時間t1は大幅に短くなっている。すなわち、窓224,424を開放することによる感染リスクの改善効果が認められた。また、実施例34については、これらの改善措置により図5及び図6に示す半個室201を「感染リスクが低い」という評価にまで改善することができ、特に良好な改善効果を得られた。
【0143】
[実店舗における感染リスクの改善事例3]
実施例35-37の評価は図16及び図19に示す居酒屋の半個室301にて行った。半個室301は、縦(図16上下方向)1.8m×横(図16左右方向)3.3m×高さ2.7mで、床面積が5.9m、容積Vが16mの部屋である。半個室301は窓を有しないことを除いては、図11に示す半個室201と同様の構造を有する。具体的には、引き戸316を有する壁は図12に示す壁220と同様に構成されており、引き戸316を有する壁に隣接する2つの壁は図14に示す壁226、228と同様に構成されており、引き戸316を有する壁と対向する壁322は図18に示すように、壁322の上部に欄間322Aが形成されている。すなわち、半個室301を仕切る四方の壁の上部には欄間が形成されており、引き戸316の上下は桟が組み込まれ、複数の隙間が形成されている。前記壁の欄間部分と前記ドアの桟部分は半個室外と連通しており、通気(換気)が可能な構造となっている。
【0144】
半個室301の収容定員数nは8人、顧客1人あたりの必要換気量は30[m/時]とした。これらの値と式(2)より、人必要換気量Q2[m/時]は240[m/時]と算出される。また、半個室301は想定衛生試験所指針において「食堂、レストラン、すし屋」に該当し、必要換気回数N2は6回である。この値と式(4)より、必要換気時間t2[分]は10[分]と算出される。
【0145】
さらに、半個室301は空調・衛生工学会規格(HASS 102 1972)において「レストラン・喫茶(普通)」に該当し、床面積あたり必要換気量は30[m/m/時]、床面積は5.9mである。これらの値と式(5)より、面積必要換気量Q3[m/時]は177[m/時]と算出される。
【0146】
前記条件における半個室301の人必要換気量Q2、必要換気回数N2、必要換気時間t2、面積必要換気量Q3を図30の表11に示した。これらの値と測定値を対比し、微粒子除去量Q1≧人必要換気量Q2(又は面積必要換気量Q3)、微粒子除去回数N1≧必要換気回数N2、回復時間t1≦必要換気時間t2の関係を満たした場合には感染リスクが低い、満たさない場合には感染リスクが高いと評価する。
【0147】
(実施例35)
図16及び図19に示す半個室301において、スモークマシンから液体微粒子を300g/m放出し、窓224,424は閉鎖、換気扇408、空気清浄機410及び全熱交換器412を運転させ、エアコン314、414を停止させた状態で、微粒子計測器306により粒子径0.3μmの液体微粒子の数量の減少を追跡した。
【0148】
図17及び図19にエアコン314と全熱交換器412の配置を示した。なお、空気清浄機410及び全熱交換器412については実施例28で使用したのと同じ機種のものを用い、実施例28と同じ運転条件で運転した。エアコン314、414としては、天井埋込み型のエアコン(商品名:FHCP160EC、ダイキン工業製)を用い、冷房・風量最大で運転した。評価結果を図29の表10及び図15に示す。
【0149】
(実施例36,37)
空気清浄機410、エアコン314,414及び全熱交換器412の運転状況を表1 0に記載のとおりに変更したことを除いては、実施例35と同様に液体微粒子の数量の減少を追跡した。その結果を図29の表10及び図15に示す。
【0150】
窓224、424を閉鎖し、エアコン314、414を停止し、空気清浄機410及び全熱交換器412を運転させた実施例35、窓224、424を閉鎖し、空気清浄機410、エアコン314、414及び全熱交換器412を運転させた実施例36、窓224、424を開放し、空気清浄機410、エアコン314、414及び全熱交換器412の全てを運転させた実施例37の順で回復時間t1は短くなっている。すなわち、窓を開放し、空気清浄機、エアコン及び全熱交換器を運転することによる感染リスクの改善効果が認められた。ただし、実施例35-37のいずれも「感染リスクが低い」という評価にまでは至っておらず、追加の改善措置が必要と認められた。
【0151】
なお、実施例37と同様の条件であっても、空気清浄機や全熱交換器を追加設置したり、或いは半個室301の収容定員を削減したりすることで、半個室301を「感染リスクが低い」という評価に改善することはできる。
【0152】
例えば、実施例37では微粒子除去量Q1が139[m/時]であり、人必要換気量Q2の240[m/時]を下回っているため、感染リスクが高いと評価されている。しかし、半個室301の収容定員nを8人から4人に削減すると人必要換気量Q2は120[m/時]まで下がる。すなわち、半個室301の収容定員nを4人とすれば、微粒子除去量Q1(139[m/時])が人必要換気量Q2の120[m/時]を上回り、感染リスクは低いと評価することができる。
【0153】
≪4.1~3の総括及び補足≫
以下、第1期に作成された1~3の総括及び補足について説明する。
【0154】
<総括>
1~3及び参照した複数の図面の記載には、以下の複数の発明が含まれている。ここでは、複数の発明を、それぞれ、付記1~13として記載する。

〔付記1〕
施設屋内の集合スペースにおける感染症の感染リスクを評価する感染リスク評価方法であって、
前記感染リスクが、病原体を含むエアロゾルに起因するエアロゾル感染のリスクであり、
前記集合スペースに液体微粒子を放出し、
前記液体微粒子を放出した後、前記液体微粒子の量の減少を経時的に追跡し、
前記液体微粒子の量が十分に減少するまでに要した時間である回復時間t1に基づいて、
前記集合スペースの微粒子除去能力を評価し、
前記微粒子除去能力と、前記集合スペースの必要換気能力と、を対比し、前記微粒子除去能力が、前記必要換気能力と同等以上である場合に、前記集合スペースのエアロゾル感染リスクが低いと評価するもの。
〔付記2〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記液体微粒子のうち、粒子径0.3μm以上10μm以下の液体微粒子の量の減少を経時的に追跡するもの。
〔付記3〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記液体微粒子の量の減少を微粒子計測器により追跡するもの。
〔付記4〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記微粒子除去能力を下記式(1)で算出される微粒子除去量Q1により評価し、
必要換気量を下記式(2)で算出される人必要換気量Q2により規定し、
前記微粒子除去量Q1と、前記人必要換気量Q2と、を対比し、前記微粒子除去量Q1が、前記人必要換気量Q2と同等以上である場合に、前記集合スペースのエアロゾル感染リスクが低いと評価するもの。
式(1): 微粒子除去量Q1[m/時]=集合スペースの容積V[m]×60[分]/回復時間t1[分]
式(2): 人必要換気量Q2[m/時]=顧客一人あたりの必要換気量[m/時/人]×集合スペースの収容定員数n[人]
〔付記5〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記微粒子除去能力を下記式(3)で算出される微粒子除去回数N1または回復時間t1により評価し、
必要換気量を衛生試験所指針に準拠して定められる前記集合スペースの必要換気回数N2または下記式(4)で算出される必要換気時間t2により規定し、
前記微粒子除去回数N1と前記必要換気回数N2とを、または前記回復時間t1と前記必要換気時間t2とを対比し、前記微粒子除去回数N1が前記必要換気回数N2と同等以上である場合、または前記回復時間t1が前記必要換気時間t2と同等以上である場合に、前記集合スペースのエアロゾル感染リスクが低いと評価するもの。
式(3): 微粒子除去回数N1[回/時]=60[分]/回復時間t1[分]
式(4): 必要換気時間t2[分]=60[分]/必要換気回数N2[回/時]
〔付記6〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記微粒子除去能力を下記式(1)で算出される微粒子除去量Q1により評価し、
必要換気量を下記式(5)で算出される面積必要換気量Q3により規定し、
前記微粒子除去量Q1と、前記面積必要換気量Q3と、を対比し、前記微粒子除去量Q1が、前記面積必要換気量Q3と同等以上である場合に、前記集合スペースのエアロゾル感染リスクが低いと評価するもの。
式(1): 微粒子除去量Q1[m/時]=集合スペースの容積V[m]×60[分]/回復時間t1[分]
式(5): 面積必要換気量Q3[m/時]=床面積あたり必要換気量[m/m/時]×集合スペースの床面積[m
(但し、床面積あたり必要換気量は空調・衛生工学会規格(HASS 102 1972)に定められた値とする。)
〔付記7〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記集合スペースに、エチレングリコールと水を含有する液体微粒子を放出するもの。
〔付記8〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記集合スペースに、前記液体微粒子を少なくとも50mg/m以上放出するもの。
〔付記9〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記集合スペースに前記液体微粒子を放出した後、前記液体微粒子の粒子数の最大値を基準にその100分の1の数に減少するまでの時間または60分のいずれか短い方の時間内で前記液体微粒子の数を経時的に追跡するもの。
〔付記10〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記感染リスクが、新型コロナウイルスを含むエアロゾルに起因するエアロゾル感染のリスクであり、
前記集合スペースにおける新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のエアロゾル感染リスクを評価するもの。
〔付記11〕
付記1に記載の感染リスク評価方法であって、
前記集合スペースが、専ら従業員が利用するスペースではなく、顧客または顧客と従業員が立ち入り可能である顧客利用スペースであるもの。
〔付記12〕
施設屋内の集合スペースにおける感染症の感染リスクを低減する感染リスク低減方法であって、
付記1~11に記載の感染リスク評価方法により前記集合スペースのエアロゾル感染リスクを評価し、
前記集合スペースのエアロゾル感染リスクが高いと評価された場合に、前記微粒子除去能力が前記必要換気能力と同等以上となるまで改善措置を施すもの。
〔付記13〕
付記12に記載の感染リスク低減方法であって、
前記改善措置として、窓、扉または通気口の開放による換気;換気扇、全熱交換器、エアコンディショナー、サーキュレータまたは空気清浄機の運転;遮蔽板または隔壁の設置
;収容定員の削減;からなる群より選択された少なくとも1つの措置を施すもの。
【0155】
<補足>
・付記1~13における液体微粒子は、液体以外の微粒子でもよい。また、液体微粒子と固体微粒子との混合体でもよい。すなわち、付記1~13における液体微粒子を固体微粒子と置き換えてもよく、単に総括的な表現として微粒子としてもよい。
【0156】
≪5.エアロゾル感染リスクの評価装置及び評価プログラム≫
次に、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価装置50(以下、単に評価装置50という。)について図面を参照しながら、評価装置50の構成及び機能、動作並びに効果の順で説明する。
【0157】
<本実施形態の評価装置の構成及び機能>
図30は、本実施形態の評価装置50のブロック図である。評価装置50は、放出源60(放出部の一例)と、パーティクルカウンター70(特定部の一例)と、制御装置80(制御部及び評価部の一例)と、レポート作成部90(作成部の一例)とを備えている。
【0158】
〔放出源及びパーティクルカウンター〕
放出源60は、定められた体積を有する空間(一例として、前述の集合スペース)に配置され、この空間に複数個の微粒子を放出する機能を有する。放出源60は、一例として、市販のスモークマシン等の、複数個の微粒子を放出する機械であればよい。また、放出源60から放出される微粒子の種類は、液体微粒子であっても、固体微粒子であっても、更に、これらの混合体であってもよい。
【0159】
パーティクルカウンター70は、この空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、放出源60による複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する機能を有する。
ここで、「予め定められた数量」とは、前述した「放出工程の後に集合スペースの空気中に存在する複数個の液体微粒子の数量の最大値として計測される数量が100分の1の数量」を意味する。これに伴い、「特定経過時間」とは、回復時間t1に相当する時間を意味する。
【0160】
〔制御装置〕
制御装置80は、図30に示されるように、演算部82(制御部の他の一例、評価部の一例)と、入力部84と、記憶部86と、出力部88とを有する。
入力部84は、外部装置からの入力信号を受け取る機能を有する。本実施形態では、一例として、放出源60及びパーティクルカウンター70が外部装置に相当する。出力部88は、制御装置80に入力されたデータに演算部82が演算処理を適用した結果を外部に出力する機能を有する。本実施形態では、一例として、レポート作成部90が外部装置に相当し、当該結果は演算部82が後述するプログラムPを用いて入力部84に入力されたデータに対して演算処理を適用して出力されたデータに相当する。
演算部82は、後述するプログラムP(エアロゾル感染リスクの評価プログラム)に基づいて演算処理を行う機能と、制御装置80における演算部82以外の構成要素並びに放出源60、パーティクルカウンター70及びレポート作成部90を制御する機能を有する。
記憶部86は、プログラムP及び演算部82が演算した結果を記憶する機能を有する。
なお、プログラムPのアルゴリズム及び演算部82の演算処理の内容については、後述する評価装置50の動作の説明の中で説明する。
【0161】
〔レポート作成部〕
レポート作成部90は、制御装置80が評価した評価結果及び当該評価結果に付随する情報をレポートとして作成する機能を有する。レポートの内容については、後述する評価装置50の動作の説明の中で説明する。
なお、本実施形態の評価装置50は、一例としてレポート作成部90を備えているとしているが、後述する効果のとおり、仮にレポート作成部90がなくても、エアロゾル感染リスクの評価を実現することができる。このような観点から、レポート作成部90はなくてもよい。
【0162】
<本実施形態の評価装置の動作(エアロゾル感染リスクの評価方法)>
次に、本実施形態の評価装置50の動作(本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法S100)について図30及び図31を参照しながら説明する。
図31は、本実施形態の評価装置50を用いて行われる、エアロゾル感染リスクの評価方法のフローチャートである。本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法は、以下の複数の工程を含んで構成されている。

=====================================
・放出工程S10
・特定工程S20
・低減能力が必要換気能力以上であるかを判断する工程S30(判断工程S30)
・感染リスクがないと評価する評価工程S32(肯定評価工程S32)
・感染リスクがあると評価する評価工程S34(否定評価工程S34)
・レポート作成工程S40
=====================================

以下、上記の各工程の内容について説明するが、各工程は、記憶部86に記憶されているプログラムPに基づき演算処理を行う演算部82が評価装置50における演算部82以外の構成要素を制御することにより実現される。
【0163】
〔放出工程S10〕
本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法は、放出工程S10から開始される。放出工程S10とは、定められた体積を有する空間に配置された放出源60が、前記空間に複数個の微粒子を放出する工程である。具体的には、制御装置80の演算部82が放出源60を作動させることで、評価対象の空間内に配置された放出源60が定められた期間、当該空間内に複数の微粒子を放出する。本工程は、当該空間内に複数の微粒子が含まれた状態が形成されて終了となる。
なお、当該空間内に放出される複数の微粒子の数量は、前述の複数の実施例の場合に準じる。
【0164】
〔特定工程S20〕
特定工程S20は、放出工程S10の終了後に行われる工程である。特定工程S20とは、放出工程S10により複数の微粒子が放出された空間内で複数個の微粒子の数量を複数回計測し、放出源60による複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係から複数個の微粒子の数量が予め定められた数量に減少するまでの特定経過時間を導出し、前記特定経過時間から前記空間内の複数個の微粒子の低減能力を特定する工程である。本工程は、演算部82により制御されるパーティクルカウンター70により行われる。ここで、予め定められた数量とは、一例として、放出工程S10の後に空間の空気中に存在する複数個の液体微粒子の数量の最大値として計測される数量の100分の1の数量である。また、特定経過時間とは、一例として、放出工程S10の後に空間の空気中に存在する複数個の液体微粒子の数量の最大値として計測される数量が100分の1の数量に減少するまでの経過時間(すなわち、前述の回復時間t1)に相当する。空間内の複数個の微粒子の低減能力とは、特定経過時間から特定される値である。低減能力は回復時間t1が長いほど低い値である。
本工程は、パーティクルカウンター70が低減能力を特定した後、入力部84を介して、低減能力のデータが記憶部86に記憶されて終了となる。
【0165】
〔判断工程S30、肯定評価工程S32及び否定評価工程S34〕
判断工程S30は、特定工程S20の後に行われる工程であって、低減能力が必要換気能力以上であるかを判断する工程である。肯定評価工程S32及び否定評価工程S34は、それぞれ、判断工程S30の後に行われる工程である。肯定評価工程S32は、判断工程S30で肯定判断がなされた場合、すなわち、低減能力が必要換気能力以上であると判断された場合、肯定評価(エアロゾル感染のリスクがない(又は低い))と評価する工程である。これに対して、否定評価工程S34は、判断工程S30で否定判断がなされた場合、すなわち、低減能力が必要換気能力未満であると判断された場合、否定評価(エアロゾル感染のリスクがある(又は高い))と評価する工程である。
本工程は、演算部82が、記憶部86に記憶されている、低減能力のデータ及び必要換気能力のデータを用いて比較して、肯定評価か否定評価かを判断して終了となる。
【0166】
〔レポート作成工程S40〕
レポート作成工程S40は、肯定評価工程S32又は否定評価工程S34の後に行われる工程である。レポート作成工程S40では、レポート作成部90が制御装置80(演算部82)により評価された評価結果及び当該評価結果に付随する情報をレポートとして作成する工程である。ここで、評価結果に付随する情報をレポートには、一例として、以下の内容のいずれかが含まれる。

========================================
・特定工程S20において特定される低減能力
・特定工程S20において計測される、放出源60による複数個の微粒子の放出の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係に関する情報(一例として、表、グラフ(2次元スペクトル)等)
・判断工程S30で否定判断をする場合、評価対象の空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価するために必要とされる低減能力の不足の能力に関する情報
・判断工程S30で肯定判断をする場合、評価対象の空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価するために必要とされる低減能力の余分の能力に関する情報
========================================

レポート作成部90は、一例として、ディスプレイ等の表示装置、プリンター等の印刷装置、ネットワーク等を介してユーザーが使用する情報端末にレポートを送信する送信装置その他の装置である。
本工程は、レポート作成部90がレポートを作成すると終了となる。また、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法S100は、レポート作成工程の終了とともに終了となる。
【0167】
〔プロフラムPのアルゴリズム〕
プログラムPのアルゴリズムは、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法S100を実行するための一例である、図31のフローチャートに基づく動作を実現するためのアルゴリズムである。
【0168】
<本実施形態の評価装置の効果>
次に、本実施形態の評価装置50、評価方法及びプログラムPの効果について記載する。
本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法S100は、複数の微粒子の低減速度から得られる低減能力を特定することにより、定められた体積を有する空間内でのエアロゾル感染リスクがあるかを容易に評価することができる。
また、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法S100は、レポート作成部90を用いて作成されるレポートにより低減能力をユーザーに知らせることができる。
また、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法S100は、作成されるレポートにより、複数個の微粒子の放出工程の終了時からの経過時間と計測される複数個の微粒子の数量との関係を可視化させてユーザーに知らせることができる。
また、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法S100は、レポート作成部90のレポート作成機能により、空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価する場合に、当該空間における低減能力の不足の能力をユーザーに知らせることができる。
また、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価方法S100は、レポート作成部90のレポート作成機能により、空間内でのエアロゾル感染リスクがないと評価する場合に、当該空間における低減能力の余分の能力をユーザーに知らせることができる。
また、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価プログラム(プログラムP)は、コンピュータ(一例として評価装置50)に、定められた体積を有する空間内でのエアロゾル感染リスクがあるか否かを容易に評価させることができる。
【0169】
≪6.HACCP型エアロゾル感染リスクの評価装置及び評価プログラム≫
次に、本実施形態のエアロゾル感染リスクの評価装置50の変形例である、HACCP型エアロゾル感染リスクの評価装置(以下、HACCP型評価装置という。)について図32を参照しながら、HACCP型評価装置を創作した趣旨、HACCP型評価装置構成及び機能、動作並びに効果の順で説明する。以下の説明では、前述の評価装置50と異なる点についてのみ説明する。また、以下の説明では、前述の本実施形態の構成要件等と同じ機能を有するものには、同じ符号を用いて説明する点に留意されたい。
【0170】
<HACCP型評価装置を創作した趣旨>
HACCPとは、Hazard Analysis and Critical Control Pointの略語であり、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握したうえで、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法である。つまり、HACCPは、食品等の分野における衛生管理の手法である。
これまで説明した必要換気能力は、単に空間の体積を考慮して定められた基準に基づくが、本来、その空間の利用方法等によって、同じ体積の空間であっても必要とされる換気能力が異なってよいと考えられる。例えば、同じ体積の集合スペースにおいて1000人の人間が集合した状態で音楽会(コンサート)を行う場合であっても、ハードロック等のコンサートのときと、クラシック音楽のコンサートのときとでは、その集合スペースに生じる飛沫の量に大きな差が生じ得ることは明らかである。
そこで、本願の発明者である、水野 哲也は、HACCPの考え方を環境分野における衛生管理に取り入れることこそが、真の環境衛生管理の手法になると考え、以下に説明するHACCP型評価装置及びHACCP型評価プログラムを創作した。
【0171】
<HACCP型評価装置の機能、構成及び動作>
本変形例において、前述の実施形態と異なる部分は、以下のとおりである。すなわち、図32の評価フロー(HACCP型エアロゾル感染リスクの評価方法S100A)評価対象の空間における、1人以上のユーザーの利用態様により、必要換気能力を補正した修正必要換気能力(図32の修正工程S5参照)を、前述の評価のフロー(図31参照)の判断工程S30で置き換えている(判断工程S30A参照)。
これにより、例えば、評価対象の必要換気能力がQという値の場合、例えば、その集合スペースがハードロック等のコンサートのときは、過去の評価結果等に基づき5×Qという値となり、クラシック音楽のコンサートのときは、過去の測定結果等に基づき0.3×Qという値となるようなことがある。ここで、それぞれの「5×」、「0.3×」の部分は、集合スペースの利用態様により定まる重み係数であるが、これらについては評価試験を行うことで定め、予め、制御装置80の記憶部86に記憶させておけばよい。また、重み係数は、集合スペースを利用するユーザーのマスクの使用状態、各ユーザーが発声強度(どの程度の大きさの声で話をするか)等にも起因する。そのため、これらを測定した結果により変動させるようにしてもよい。
【0172】
<HACCP型評価装置等の効果>
本変形例によれば、より適切なエアロゾル感染リスクの評価を行うことができる。
【0173】
≪7.空気清浄システム≫
次に、前述の本実施形態の評価装置50(ただし、レポート作成部90はなくてもよい。)を構成要件とする空気清浄システム55について説明する。つまり、ここでは、複数種の空気清浄システムについて説明する。
【0174】
<本実施形態の空気清浄システム>
以下、本実施形態の空気清浄システム55について、図33図35を参照しながら説明する。
【0175】
〔本実施形態の空気清浄システムの機能及び構成並びに動作〕
図33は、本実施形態の空気清浄システム55のブロック図である。また、図34は、本実施形態の空気清浄装置95の概略図である。本実施形態の空気清浄システム55は、本実施形態の評価装置50(ただし、レポート作成部90はなくてもよい)と、空気清浄装置95と、報知装置AD(報知部の一例)とを備えている。空気清浄装置95及び報知装置ADは、図32に示されるように、評価装置50と通信可能に接続されている。そして、空気清浄システム55は、評価装置50によるエアロゾル感染リスクの評価機能と、空気清浄装置95による空間内の空気を清浄する機能とを有する。さらに、空気清浄システム55は、評価装置50によるエアロゾル感染リスクの評価結果に基づいて、空間内におけるエアロゾル感染リスクがない状態を維持しようとする機能を有する。
【0176】
〈空気清浄装置〉
図35は、空気清浄システム55を用いて行われる、エアロゾル感染リスクの評価方法S100Bのフローチャートである。
空気清浄装置95は、図34に示されるように、ファン95A(送風源の一例)と、フィルター95B(捕え部の一例)と、筐体95Cとを有している。筐体95Cには、吸気口95D及び排気口95Eが形成されている。
ファン95Aは、吸気口95Dに空気を吸気させかつ排気口95Eから空気を排気させる機能を有する。つまり、ファン95Aは、空間内の空気を吸気口95Dから筐体95C内に吸引させて排気口95Eから空間内に排気させる機能を有する。さらに、空気清浄装置95が評価装置50と通信可能に接続されていることから、ファン95Aは、制御装置80が判断工程S30で否定判断をして否定評価工程S34に進んだ場合、演算部82又は空気清浄装置95の制御装置(図示省略)に制御されて、回転数が増加されより多くの空気を送風させる機能を有する。また、ファン95Aは、制御装置80が判断工程S30で肯定判断をして肯定評価工程S32に進んだ場合、演算部82又は空気清浄装置95の制御装置(図示省略)に制御されて、回転数が減少されより少ない空気を送風させる機能を有する。このように、ファン95Aの回転数を増減させる制御により、本実施形態の空気清浄システム55は、空間内におけるエアロゾル感染リスクがない状態を維持しようとすることができる。
【0177】
〈報知装置〉
報知装置ADは、制御装置80(演算部82)が空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価した場合、すなわち、制御装置80が判断工程S30で否定判断をして否定評価工程S34に進んだ場合、報告工程S45においてその旨をユーザーに報知する機能を有する。報知装置ADは、一例として、発光装置、スピーカー、モニター等であってもよく、また、ネットワーク等を介してユーザーが使用する情報端末に情報を送信する送信装置その他の装置であってもよい。報知装置ADは、結果としてユーザーに、空間内でのエアロゾル感染リスクがあることを伝達できればよい。
【0178】
〈補足〉
ここで、本実施形態の空気清浄システム55がエアロゾル感染リスクの評価方法S100B(図35参照)を行うタイミングは、例えば、制御装置80内にタイマー(図示省略)を持たせて、定期的に行うようにしてもよい。また、ユーザーがユーザーインターフェイス(図示省略)を介した指示を送ることで行うようにしてもよい。
また、空気清浄装置95に、加湿機能及び温度調整機能の一方又は両方を持たせてもよい。特に、空気清浄装置95に加湿機能を持たせた場合、その加湿された空気とともに空間に放出される蒸気に複数の微粒子を混入させて評価を行うようにしてもよい。
【0179】
〔本実施形態の空気清浄システムの効果〕
次に、本実施形態の空気清浄システム55の効果について記載する。
本実施形態の空気清浄システム55は、空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価した場合に、自動的にエアロゾル感染リスクを低減することができる。
また、本実施形態の空気清浄システム55は、空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価した場合に、その旨をユーザーに知らせることができる。
また、本実施形態の空気清浄システム55は、エアロゾル感染リスクを低減させる空気清浄機能とともに、加湿機能及び温度調整機能の一方又は両方の機能を発揮することができる。特に、空気清浄装置95に加湿機能を持たせた場合は、空気清浄装置95に放出源60の機能を持たせることができる。すなわち、放出源60が不要となる点で有効である。
【0180】
≪8.変形例≫
以上のとおり、複数の実施形態及び実施例を用いて本発明について説明したが、本発明は、これらの実施形態等に限定されるものではない。例えば、本発明の技術的範囲には、以下の形態も含まれる。
【0181】
例えば、前述の評価装置50は、判断工程S30において、低減能力が必要換気能力以上であるかを判断するとしたが(図30及び図31参照)、例えば、判断工程S30では、前述の第2の感染リスク評価方法~第4の感染リスク評価方法のいずれかに行うようにしてもよい。また、これらのうちの2つ以上の評価を行い、そのうちの1つの評価結果が肯定判断であれば感染リスクがないと評価するようにしてもよい。また、例えば、これらのうちの2つ以上の評価を行い、そのうちのすべての評価結果が肯定判断であれば感染リスクがないと評価するようにしてもよい。この場合は、評価基準が厳しくすることができる。例えば、将来新たに発生するウイルスに対して評価基準が明確でない場合には、後者の評価を行うことで安全リスクが確保しやすくなる。
【0182】
また、例えば、前述の空気清浄システム55は、ファン95Aにより送風量を調整するとしたが(図33及び図34参照)、空気清浄装置95を以下のようにしてもよい。具体的には、フィルター95Bを、例えば、プラズマクラスター型の集塵機構(図示省略、捕え部の一例)とし、制御装置80が空間内でのエアロゾル感染リスクがあると評価した場合に、制御装置80又は空気清浄機がプラズマクラスター型の集塵機構を制御してプラズマクラスター型の集塵機構に複数個の微粒子を多く捕えさせるようにしてもよい。
【0183】
また、例えば、本実施形態の説明では評価対象をエアロゾル感染リスクとしたが、本実施形態はエアロゾル感染リスク以外のリスクの評価にも手寄与可能である。例えば、粉塵被害リスクについても粉塵被害リスクの評価方法、評価装置、評価プログラムとして利用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本実施形態の感染リスク評価方法は、例えば食堂、レストラン、居酒屋、カフェ等の飲食店、クラブ、バー、カラオケボックス、コンサート会場等の空間における感染症の感染リスクの評価や感染リスクの低減、粉塵被害リスクが生じ得る作業スペース等に利用することができる。
【0185】
現状、クラスターが発生した施設と類似の施設、関連する業種については、仮に十分な感染対策を施していたとしても個々の施設を評価することなく一律に時短要請・休業要請が行われている。このような対策手法は風評被害や経済的損失を生み、社会全体が疲弊する要因になっている。本発明の感染リスク評価方法や感染リスク低減方法によれば、特定の施設が感染防止対策をできているか否かを簡便かつ客観的に評価することができるため、基準を満たした施設は時短要請や休業要請を解く等の合理的な判断・施策を行うことも可能となり、感染防止対策と経済の両立を図ることができる点で極めて有益である。
【0186】
前述の必要換気能力及び修正必要換気能力は、それぞれ特定工程で特定した低減能力から感染リスクがあるか否かを定めるための基準である。そこで、本願の特許請求の範囲では、必要換気能力及び修正必要換気能力を、低減基準能力という包括的な名称で特定している点に留意されたい。
【符号の説明】
【0187】
1 実験室
2 スモークマシン
4 複数個の液体微粒子
6 微粒子計測器
8 換気扇
10 エアコン
12 窓
14 窓
16 ドア
18 設置台
50 評価装置
55 空気清浄システム
60 放出源
70 パーティクルカウンター
80 制御装置
82 演算部
84 入力部
86 記憶部
88 出力部
90 レポート作成部
95 空気清浄装置
95A ファン
95B フィルター
95C 筐体
95D 吸気口
95E 排気口
101 ホール
102 テーブル
104 椅子
106 微粒子計測器
108 換気扇
109 換気扇
110 空気清浄機
112 全熱交換器
114 エアコン
116 入口
201 半個室
202 テーブル
204 椅子
206 微粒子計測器
216 引き戸
216A 桟
220 壁
222 壁
226 壁
228 壁
224 窓
220A 欄間
226A 欄間
228A 欄間
301 半個室
302 テーブル
304 椅子
306 微粒子計測器
314 エアコン
316 引き戸
322 壁
322A 欄間
408 換気扇
410 空気清浄機
412 全熱交換器
414 エアコン
416 引き戸
424 窓
S100 評価方法
S100A 評価方法
S100B 評価方法
S10 放出工程
S20 特定工程
S30 判断工程
S30A 判断工程
S32 肯定評価工程
S34 否定評価工程
S40 レポート作成工程
S45 報告工程
AD 報知装置
P 評価プログラム

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35