IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社明電舎の特許一覧

特開2023-168210回転機の劣化診断装置および劣化診断方法
<>
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図1
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図2
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図3
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図4
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図5
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図6
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図7
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図8
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図9
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図10
  • 特開-回転機の劣化診断装置および劣化診断方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023168210
(43)【公開日】2023-11-24
(54)【発明の名称】回転機の劣化診断装置および劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20231116BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20231116BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20231116BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01M99/00 A
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022186113
(22)【出願日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2022079141
(32)【優先日】2022-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 廣則
(72)【発明者】
【氏名】外田 脩
【テーマコード(参考)】
2G024
2G116
5H501
【Fターム(参考)】
2G024AD03
2G024AD25
2G024BA27
2G024CA18
2G024DA09
2G116BA01
2G116BA03
2G116BB02
2G116BC05
2G116BD01
2G116BD06
2G116BD07
5H501BB08
5H501BB09
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501JJ12
5H501LL22
5H501LL53
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】低サンプリング速度、低速CPUによって回転機の劣化を診断することができる回転機の劣化診断装置を提供する。
【解決手段】3相交流電源によって駆動される回転機の3相電流のうち、2相電流を計測する計測部101と、前記2相電流から正常データを学習する学習部102と、前記計測された2相電流を比較データとし、該比較データと前記学習した正常データを、正規化し、正規化したデータについて、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成し、前記正常データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルと、前記比較データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルとの類似度を求め、求められた類似度に基づいて前記回転機の劣化を診断する診断部103と、前記求められた類似度を記録する記録部104とを備えた。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相交流電源によって駆動される回転機に流れる3相電流のうち、2相電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部により計測された2相電流から正常データを学習する学習部と、
前記電流計測部により計測された2相電流を比較データとし、該比較データと前記学習部で学習した正常データを、最小値~最大値を0~1の範囲に各々正規化し、前記正規化した正常データおよび比較データ各々について、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成し、前記正常データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルと、前記比較データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルとの類似度を求め、求められた類似度に基づいて前記回転機の劣化を診断する診断部と、を備えたことを特徴とする回転機の劣化診断装置。
【請求項2】
3相交流電源によって駆動される回転機に流れる3相電流のうち、2相電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部により計測された2相電流から正常データを学習する学習部であって、前記計測された2相電流における、前記計測し設定した学習データと計測された比較データの類似度を算出し、前記算出した類似度が設定した類似度閾値以上となる回数が、設定した回数閾値以上であるときの学習データを正常データとする学習部と、
前記学習部で学習された正常データと、前記電流計測部により計測された2相電流の比較データとの類似度に基づいて前記回転機の劣化を診断する診断部と、
前記電流計測部により計測された2相電流を比較データとし、該比較データと、前記計測された2相電流における、計測し設定した学習データか、又は前記学習部で学習された正常データとを、最小値~最大値を0~1の範囲に各々正規化し、前記正規化した学習データ、正常データおよび比較データ各々について、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成し、前記学習データ又は正常データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルと、前記比較データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルとの類似度を求める類似度算出部と、を備えたことを特徴とする回転機の劣化診断装置。
【請求項3】
前記診断部において正規化する比較データおよび正常データは、2相電流のうち1相の電流が0以上である時刻における2相電流を各々用いることを特徴とする請求項1に記載の回転機の劣化診断装置。
【請求項4】
前記類似度算出部において正規化する比較データ、学習データ、正常データは、2相電流のうち1相の電流が0以上である時刻における2相電流を各々用いることを特徴とする請求項2に記載の回転機の劣化診断装置。
【請求項5】
前記電流計測部は、前記回転機の起動後設定時間以上経過し、且つ設定電流以上の連続した電流データを設定周期計測し、記録することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の回転機の劣化診断装置。
【請求項6】
前記診断部は、前記類似度が、今回診断時から過去に設定回遡って連続して閾値を下回っている場合に回転機の劣化であると診断することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の回転機の劣化診断装置。
【請求項7】
前記診断部の診断結果を記録する記録部を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の回転機の劣化診断装置。
【請求項8】
電流計測部が、3相交流電源によって駆動される回転機に流れる3相電流のうち、2相電流を計測する電流計測ステップと、
学習部が、前記電流計測部により計測された2相電流から正常データを学習する学習ステップと、
診断部が、前記電流計測部により計測された2相電流を比較データとし、該比較データと前記学習部で学習した正常データを、最小値~最大値を0~1の範囲に各々正規化し、前記正規化した正常データおよび比較データ各々について、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成し、前記正常データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルと、前記比較データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルとの類似度を求め、求められた類似度に基づいて前記回転機の劣化を診断する診断ステップと、を備えたことを特徴とする回転機の劣化診断方法。
【請求項9】
電流計測部が、3相交流電源によって駆動される回転機に流れる3相電流のうち、2相電流を計測する電流計測ステップと、
学習部が、前記電流計測部により計測された2相電流から正常データを学習するステップであって、前記計測された2相電流における、前記計測し設定した学習データと計測された比較データの類似度を算出し、前記算出した類似度が設定した類似度閾値以上となる回数が、設定した回数閾値以上であるときの学習データを正常データとする学習ステップと、
診断部が、前記学習部で学習された正常データと、前記電流計測部により計測された2相電流の比較データとの類似度に基づいて前記回転機の劣化を診断する診断ステップと、
類似度算出部が、前記電流計測部により計測された2相電流を比較データとし、該比較データと、前記計測された2相電流における、計測し設定した学習データか、又は前記学習部で学習された正常データとを、最小値~最大値を0~1の範囲に各々正規化し、前記正規化した学習データ、正常データおよび比較データ各々について、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成し、前記学習データ又は正常データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルと、前記比較データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルとの類似度を求める類似度算出ステップと、を備えたことを特徴とする回転機の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機(モータや発電機など)の劣化診断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機に故障が発生すると、どのような電流、電圧波形が観測されるかは、誘導電動機電流兆候解析(MCSA:Motor Current Signature Analysis)で明確になっている。
【0003】
尚、回転機に流れる電流を計測した電流データから得たリサジュー図形の分布と、予め正常状態として設定したリサジュー図形の分布を比較して、回転機又は電力変換装置の状態を診断する技術は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2018/158910
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転機の劣化診断にMCSAを活用しようとすると、回転機や回転機が使用しているベアリングの仕様を入手する必要があり、またFFT(高速フーリエ変換:Fast Fourier Transform)を利用するため高速サンプリングや高価なCPUを用いる必要がある。
【0006】
また、特許文献1には、本発明の類似度算出に関する技術は具体的に開示されていない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、回転機の詳細な仕様や、ベアリングの仕様等必要なく、低サンプリング、安価なCPUで回転機の劣化診断を可能とする回転機の劣化診断装置および劣化診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に記載の回転機の劣化診断装置は、
3相交流電源によって駆動される回転機に流れる3相電流のうち、2相電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部により計測された2相電流から正常データを学習する学習部と、
前記電流計測部により計測された2相電流を比較データとし、該比較データと前記学習部で学習した正常データを、最小値~最大値を0~1の範囲に各々正規化し、前記正規化した正常データおよび比較データ各々について、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成し、前記正常データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルと、前記比較データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルとの類似度を求め、求められた類似度に基づいて前記回転機の劣化を診断する診断部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の回転機の劣化診断装置は、
3相交流電源によって駆動される回転機に流れる3相電流のうち、2相電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部により計測された2相電流から正常データを学習する学習部であって、前記計測された2相電流における、前記計測し設定した学習データと計測された比較データの類似度を算出し、前記算出した類似度が設定した類似度閾値以上となる回数が、設定した回数閾値以上であるときの学習データを正常データとする学習部と、
前記学習部で学習された正常データと、前記電流計測部により計測された2相電流の比較データとの類似度に基づいて前記回転機の劣化を診断する診断部と、
前記電流計測部により計測された2相電流を比較データとし、該比較データと、前記計測された2相電流における、計測し設定した学習データか、又は前記学習部で学習された正常データとを、最小値~最大値を0~1の範囲に各々正規化し、前記正規化した学習データ、正常データおよび比較データ各々について、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成し、前記学習データ又は正常データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルと、前記比較データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルとの類似度を求める類似度算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の回転機の劣化診断装置は、請求項1において、
前記診断部において正規化する比較データおよび正常データは、2相電流のうち1相の電流が0以上である時刻における2相電流を各々用いることを特徴としている。
請求項4に記載の回転機の劣化診断装置は、請求項2において、
前記類似度算出部において正規化する比較データ、学習データ、正常データは、2相電流のうち1相の電流が0以上である時刻における2相電流を各々用いることを特徴としている。
請求項5に記載の回転機の劣化診断装置は、請求項1から4のいずれか1項において、
前記電流計測部は、前記回転機の起動後設定時間以上経過し、且つ設定電流以上の連続した電流データを設定周期計測し、記録することを特徴としている。
請求項6に記載の回転機の劣化診断装置は、請求項1から4のいずれか1項において、
前記診断部は、前記類似度が、今回診断時から過去に設定回遡って連続して閾値を下回っている場合に回転機の劣化であると診断することを特徴としている。
請求項7に記載の回転機の劣化診断装置は、請求項1から4のいずれか1項において、
前記診断部の診断結果を記録する記録部を備えたことを特徴としている。
請求項8に記載の回転機の劣化診断方法は、
電流計測部が、3相交流電源によって駆動される回転機に流れる3相電流のうち、2相電流を計測する電流計測ステップと、
学習部が、前記電流計測部により計測された2相電流から正常データを学習する学習ステップと、
診断部が、前記電流計測部により計測された2相電流を比較データとし、該比較データと前記学習部で学習した正常データを、最小値~最大値を0~1の範囲に各々正規化し、前記正規化した正常データおよび比較データ各々について、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成し、前記正常データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルと、前記比較データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルとの類似度を求め、求められた類似度に基づいて前記回転機の劣化を診断する診断ステップと、を備えたことを特徴とする。
請求項9に記載の回転機の劣化診断方法は、
電流計測部が、3相交流電源によって駆動される回転機に流れる3相電流のうち、2相電流を計測する電流計測ステップと、
学習部が、前記電流計測部により計測された2相電流から正常データを学習するステップであって、前記計測された2相電流における、前記計測し設定した学習データと計測された比較データの類似度を算出し、前記算出した類似度が設定した類似度閾値以上となる回数が、設定した回数閾値以上であるときの学習データを正常データとする学習ステップと、
診断部が、前記学習部で学習された正常データと、前記電流計測部により計測された2相電流の比較データとの類似度に基づいて前記回転機の劣化を診断する診断ステップと、
類似度算出部が、前記電流計測部により計測された2相電流を比較データとし、該比較データと、前記計測された2相電流における、計測し設定した学習データか、又は前記学習部で学習された正常データとを、最小値~最大値を0~1の範囲に各々正規化し、前記正規化した学習データ、正常データおよび比較データ各々について、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成し、前記学習データ又は正常データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルと、前記比較データについて生成した2値画像の2値情報を1次元方向に並べたベクトルとの類似度を求める類似度算出ステップと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
(1)請求項1、2、8、9に記載の発明によれば、高速サンプリングや高価なCPUを用いることなく、低サンプリング速度、低速CPUにより回転機の劣化を診断することができる。
【0012】
また、比較データと、学習データ又は正常データを正規化しているので、計測時点での電流の大きさが異なる場合でも診断を行うことができる。
【0013】
また、正規化した比較データ、学習データ、正常データについて、リサジュー図形を作成し、リサジュー図形の散布点の有無から2値画像を生成しているので、2値画像のパターンマッチングとして学習データ又は正常データと、比較データとの類似度を求めることができる。
(2)請求項2、9に記載の発明によれば、正常データの学習中に、類似度を算出して一定回数連続して正常であることを条件としていることにより、異常なデータが正常データとして採用されることを防ぐことができる。
(3)請求項3、4に記載の発明によれば、診断に用いるデータ量が削減され、少ないメモリ空間でも診断が可能となる。
(4)請求項5に記載の発明によれば、回転機の通常運転領域での電流データを取得できるので、高精度な診断が行える。
(5)請求項6に記載の発明によれば、一時的な類似度の落ち込みなどによる誤診断を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1による診断装置の構成図。
図2】本発明の実施形態例における計測部とモータ等の関係を示す構成図。
図3】本発明の実施形態例による診断装置の各部の波形を表し、(a)は計測部で計測された電流波形図、(b)は(a)の一部の波形拡大図、(c)は学習部で学習された学習波形図、(d)は診断部において学習波形と比較される比較波形図。
図4】本発明の実施例1における診断部が行う診断処理のフローチャート。
図5】本発明の実施形態例における診断処理時の画像データを示し、(a)は学習データのリサジュー図形の散布図、(b)は比較データのリサジュー図形の散布図。
図6】本発明の実施例2による診断装置の構成図。
図7】本発明の実施例2における類似度算出部が行う類似度算出処理のフローチャート。
図8】本発明の実施例2における学習部が行う学習データの計測処理のフローチャート。
図9】本発明の実施例2における診断部が行う診断処理のフローチャート。
図10】学習データとして相応しくない画像データの一例を示し、サンプリング点が整数倍になることで線状になっていないリサジュー図形の散布図。
図11】学習データとして相応しくない画像データの他の例を示し、位相ずれによりノイズのようになったリサジュー図形の散布図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【実施例0016】
図1は本実施例1による回転機の診断装置100の構成を示し、101は、3相交流電源によって駆動される回転機、例えばモータに流れる3相電流のうち、2相電流を計測する計測部(電流計測部)である。
【0017】
この計測部101は、計測部とモータ等の関係を示す図2のように、3相交流電源200から3相給電線201R,201S,201Tを介してモータ202に供給される3相電流のうち、例えば電流検出器203R,203Tによって検出した2相(R相、T相)電流を入力とする。
【0018】
図3(a),(b)は計測部101が計測したR相、T相の電流波形を示しており、計測には、モータ202起動後C1秒(C1は設定値)以上経過し、かつ定格電流のC2%(C2は設定値)以上の連続した電流データ(図3(b)の太枠内の電流波形データ)をC3周期(C3は設定値)計測し記録する。これによって、モータ202の通常運転領域での電流データを取得することができる。
【0019】
102は、計測部101により計測された2相電流から、劣化診断のために元となる正常データを学習する学習部である。学習部102は、計測部101で計測した例えば図3(b)の電流データを、図3(c)のように記録することで学習を行う。
【0020】
図3(c)の学習波形において、点は計測値であり、線は点と点の間を線形補間したものである。尚、図3(d)は、後述する診断部103において、図3(c)の学習波形と比較される、計測部101により新たに計測された2相の電流データ(比較波形)である。この図3(d)の比較波形も、図3(c)と同様に、点は計測値であり、線は点と点の間を線形補間したものである。
【0021】
103は、学習部102で記録した正常データ(図3(c)の学習波形)と計測部101で新たに計測した電流データ(図3(d)の比較波形)を、図4の診断処理により比較してモータ202の劣化を診断する診断部である。
【0022】
本実施形態例では、2相の電流を仮にR相、T相とし、正常の電流データをR1、T1、比較の電流データをR2、T2とする。
【0023】
図4のステップS301では、R1≧0である時刻におけるR1およびT1の値をr1、t1(正常データ)として取り出す。同様にR2≧0である時刻におけるR2およびT2の値をr2、t2(比較データ)として取り出す。
【0024】
次にステップS302では、r1、t1、r2、t2をそれぞれ0.0~1.0の範囲へ正規化し、r1、t1、r2、t2へ上書きする。
【0025】
次にステップS303では、正常データ[r1、t1]と比較データ[r2、t2]それぞれでリサジュー図形の散布図を図5(a),(b)のように作成し、0.0~1.0の区間を縦横軸それぞれC4区間(C4は設定値)に分割する。
【0026】
図5(a),(b)の、各々の横軸(x軸)にはR相、T相のうちいずれか一方の波形が入力され、各々の縦軸(y軸)にはR相、T相のうちいずれか他方の波形が入力され、図5(a)は図3(c)の学習波形の点と点の関係をリサジュー図形にプロットした図であり、図5(b)は図3(d)の比較波形の点と点の関係をリサジュー図形にプロットした図である。したがって図5(a),(b)の太実線は、点の集合で構成されている。
【0027】
そして分割された区間内に散布点の有り/無しで1/0のビットをたて2値画像を生成する。
【0028】
次にステップS304では、正常データの1/0情報を1次元方向に並べたベクトルをf=(f,f,…fc4)とし、比較データの1/0情報を1次元方向に並べたベクトルをg=(g,g,…gc4)とし、ベクトル同士の類似度Rを次の(1)式にて算出する。
【0029】
【数1】
【0030】
尚(1)式中のC4は、図5の0.0~1.0の区間を縦横軸それぞれ分割する分割区間数である。
【0031】
次にステップS305では、前記類似度が今回の診断から過去にC5回(C5は設定値)遡って連続して閾値C6(C6は設定した値)を下回っている場合に劣化と判断する。
【0032】
図1の104は、診断部103の前記ステップS304の処理で算出された類似度(診断部103の診断結果)を記録する記録部である。
【0033】
尚診断装置100は、例えば低速CPUによって構成されている。
【0034】
以上のように本実施例1によれば、高速サンプリングや高価なCPUを用いることなく、低サンプリング速度、低速CPUにより回転機の劣化を診断することができる。
【0035】
また、計測部101は、モータ202起動後C1秒(C1は設定値)以上経過し、かつ定格電流のC2%(C2は設定値)以上の連続した電流データをC3周期(C3は設定値)計測し記録するので、モータの通常運転領域での電流データを取得でき、高精度な診断が可能となる。
【0036】
また、診断部103において、正規化する比較データおよび学習データは、2相電流のうち1相の電流が0以上である時刻における2相電流を各々用いているので、診断に用いるデータ量を削減し、少ないメモリ空間でも診断が可能となる。
【0037】
また、図4のステップS302において電流値を正規化することにより、正常データと比較データの計測時点での電流の大きさが異なる場合でも、リサジュー図形の散布図の形に変形がみられなければ正常と判断することができる。
【0038】
また、図4のステップS303,S304の処理を行うことで、リサジュー図形の散布図を2値画像のパターンマッチングとして、類似度を算出することができる。
【0039】
また、図4のステップS305において、過去に遡って、類似度が連続して閾値を下回っていることをチェックすることで、一時的な類似度の落ち込みなどによる誤検知を少なくすることができる。
【実施例0040】
一般的に計測データのサンプリング点にはぶれがあるため、図4のステップS303においてリサジュー図形を作成したとき、図5のように線状の図形となる。しかしながら、サンプリング点がきれいに整数倍になることでリサジュー図形が図10のように線状にならない場合や、位相ずれによりリサジュー図形が図11のようにノイズのようになる場合など、不適切なものが学習データとして採用される場合がある。
【0041】
そこで本実施例2では、学習データに相応しくないデータが学習データとして採用されることを防ぐために、正常データを学習する際に、類似度を算出して一定回数連続して正常であることを条件に、正常データとして確定するように構成した。
図6は本実施例2による回転機の診断装置400の構成を示し、401は、図1図2の計測部101と同様に、例えばモータ202に流れる3相電流のうち、2相電流を計測する計測部(電流計測部)であり、3相交流電源200から3相給電線201R,201S,201Tを介してモータ202に供給される3相電流のうち、例えば電流検出器203R,203Tによって検出した2相(R相、T相)電流を入力とする。
【0042】
計測部401が計測したR相、T相の電流波形は、例えば図3(a),(b)であり、計測には、モータ202起動後C1秒(C1は設定値)以上経過し、かつ定格電流のC2%(C2は設定値)以上の連続した電流データ(図3(b)の太枠内の電流波形データ)をC3周期(C3は設定値)計測し記録する。これによって、モータ202の通常運転領域での電流データを取得することができる。
【0043】
402は、前記計測部401により計測された2相電流から正常データを学習する学習部であって、後述する学習データの計測処理時に、前記計測された2相電流における、前記計測し設定した学習データと計測された比較データの類似度を、後述の類似度算出部403を用いて算出し、前記算出した類似度が設定した類似度閾値以上となる回数が、設定した回数閾値以上であるときの学習データを正常データとする。
【0044】
404は、学習部402で学習された正常データと、計測部401により新たに計測された2相電流の比較データとの類似度を、後述する診断処理時に類似度算出部403を用いて算出し、その類似度に基づいて回転機(モータ202)の劣化を診断する診断部である。
【0045】
405は、診断部404の診断結果を記録する記録部である。
【0046】
次に、診断装置400の各部の動作を説明する。まず最初に、「学習データの計測処理時」と「診断処理時」に類似度算出部403で実行される類似度算出処理を図7のフローチャートとともに述べる。
【0047】
ステップS501では、R1≧0である時刻におけるR1およびT1(正常の電流データ)の値をr1、t1(正常データ)として取り出す。同様にR2≧0である時刻におけるR2およびT2(比較の電流データ)の値をr2、t2(比較データ)として取り出す。
【0048】
次にステップS502では、r1、t1、r2、t2をそれぞれ0.0~1.0の範囲へ正規化し、r1、t1、r2、t2へ上書きする。
【0049】
次にステップS503では、正常データ[r1、t1]と比較データ[r2、t2]それぞれでリサジュー図形の散布図を図5(a),(b)のように作成し、0.0~1.0の区間を縦横軸それぞれC4区間(C4は設定値)に分割する。
【0050】
そして分割された区間内に散布点の有り/無しで1/0のビットをたて2値画像を生成する。
【0051】
次にステップS504では、正常データの1/0情報を1次元方向に並べたベクトルをf=(f,f,…fc4)とし、比較データの1/0情報を1次元方向に並べたベクトルをg=(g,g,…gc4)とし、ベクトル同士の類似度Rを次の(1)式にて算出する。
【0052】
【数1】
【0053】
尚(1)式中のC4は、図5の0.0~1.0の区間を縦横軸それぞれ分割する分割区間数である。
(1) 計測部401は、診断に必要な2相の電流値を計測する。計測には回転機(モータ202)起動後C1秒以上経過し、かつ定格電流のC2%以上の連続した電流データ(図3(b)の太枠内の電流波形データ)をC3周期計測し記録する。
(2) 学習部402は劣化診断のために元となる正常データを学習する。この学習は図8に示す学習データの計測処理の手順で行われる。すなわち、計測部401で計測したデータのうち、サンプリング点がきれいに整数倍になったような場合(図10)や、位相ずれが発生した場合(図11)のように、学習データとして適さないデータが学習データとして採用されるのを防ぐため、計測部401で計測した比較データと学習データの類似度を類似度算出部403で算出し、類似度が閾値C7(C7は設定した類似度閾値)未満であれば比較データを新たに学習データとし、連続して類似度が閾値C7以上である回数をカウントし、カウンタ(カウント値)が閾値C8(C8は設定した回数閾値)以上であれば現在の学習データを正常データとして確定する。
【0054】
図8において、ステップS601ではカウンタを0にする。
次にステップS602では、データ(2相の電流値)を計測しそれを学習データとする。
次にステップS603では、カウンタが閾値C8以上であるか否か(連続して類似度がC7以上となる回数が回数閾値C8以上であるか否か)を判定する。
ステップS603の判定結果が「no」の場合は、ステップS604においてデータ(2相の電流値)を計測しそれを比較データとする。
【0055】
次にステップS605では、前記学習データと比較データの類似度を、図7の類似度算出処理(ステップS501~S504)を実行することにより算出する。
【0056】
次にステップS606では、前記算出された類似度が類似度閾値C7以上であるか否かを判定する。
【0057】
ステップS606の判定結果が「no」である(類似度がC7未満である)場合は、ステップS607において上記の比較データを新たに学習データとし(学習データを計測データで上書きし)た後、ステップS608においてカウンタを0にする。
【0058】
ステップS606の判定結果が「yes」である(類似度がC7以上である)場合は、ステップS609においてカウンタを1進める。
【0059】
前記ステップS608の処理後と、ステップS609の処理後は、ステップS610のマージノード(合流)を経た後ステップS603の判定処理を再度実行する。
【0060】
そしてステップS603の判定結果が「no」である期間は、ステップS604~ステップS610の処理が繰り返し実行される。
【0061】
ステップS603の判定結果が「yes」である場合は、ステップS611において現在の学習データを正常データとして確定した後、図8の処理を終了する。
(3) 診断部404は、機器の正常/異常状態を、図9に示す診断処理の手順で決定する。すなわち、計測部401で計測した比較データと学習部402で学習し確定した正常データの類似度を、類似度算出部403を用いて算出し、類似度が閾値C6未満である回数をカウントし、回数が閾値C5を超えれば異常と判断し、前記カウント中に一度でも類似度が閾値C6以上であれば正常と判断する。
【0062】
図9においてステップS701では、状態を正常と決定し、isLoop=Trueとし(ループ継続を「する」に設定し)、カウンタを0とする。
【0063】
次にステップS702では、isLoop=Trueであるか否かを判定し、その判定結果がyesである場合は、ステップS703においてデータ(2相の電流値)を計測しそれを比較データとする。
【0064】
次にステップS704では、学習部402により学習し確定された正常データ(図8のステップS611で確定された正常データ)と前記ステップS703で計測された比較データの類似度を、図7の類似度算出処理(ステップS501~S504)を実行することにより算出する。
【0065】
次にステップS705では、前記算出された類似度が類似度閾値C6以上であるか否かを判定する。
【0066】
ステップS705の判定結果が「no」である(類似度がC6未満である)場合はステップS706においてカウンタを1進める。
【0067】
次にステップS707では、カウンタ値が回数閾値C5以上であるか(類似度がC6未満である回数が回数閾値C5以上であるか)否かを判定する。
【0068】
ステップS707の判定結果が「yes」である場合は、ステップS708において状態を異常と決定し、isLoop=Falseとする(ループ継続を「しない」に設定する)。
【0069】
ステップS707の判定結果が「no」である(類似度がC6未満である回数が回数閾値C5未満である)場合とステップS708の処理後はステップS709のマージノードで合流される。
【0070】
前記ステップS705の判定結果が「yes」である(類似度がC6以上である)場合は、ステップS710においてisLoop=Falseとする(ループ継続を「しない」に設定する)。
【0071】
ステップS709のマージノード(合流)を経た後と、ステップS710の処理後は、ステップS711のマージノード(合流)を経た後ステップS702の判定処理を再度実行する。
そしてステップS702の判定結果が「yes」である期間は、ステップS703~ステップS711の処理が繰り返し実行される。
ステップS702の判定結果が「no」である場合(ループ継続を「する」に設定されていない場合)は図9の処理を終了する。
(4) 記録部405は、診断部404の診断結果(類似度を含む)を記録する。
【0072】
以上のように本実施例2によれば、実施例1と同様の効果が得られ、さらに、正常データの学習中に、類似度を算出して一定回数連続して正常であることを条件としていることにより、異常なデータが正常データとして採用されることを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0073】
100、400…診断装置
101、401…計測部
102、402…学習部
103、404…診断部
104、405…記録部
200…3相交流電源
201R,201S,201T…3相給電線
202…モータ
203R,203T…電流検出器
403…類似度算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11